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特表2024-525779GLP-1類似体を含有する経口投与剤形組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】GLP-1類似体を含有する経口投与剤形組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/22 20060101AFI20240705BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20240705BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240705BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240705BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 47/16 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240705BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240705BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20240705BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
A61K38/22
A61K47/42
A61K47/14
A61K47/20
A61K47/28
A61K47/24
A61K47/18
A61K47/12
A61K47/16
A61K47/26
A61K47/10
A61K47/34
A61K47/36
A61K47/44
A61P3/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501975
(86)(22)【出願日】2022-07-08
(85)【翻訳文提出日】2024-01-12
(86)【国際出願番号】 KR2022009915
(87)【国際公開番号】W WO2023287117
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】10-2021-0091200
(32)【優先日】2021-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515022445
【氏名又は名称】ハンミ ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ゴウン
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ヒョクチュン
(72)【発明者】
【氏名】イム,ホテク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨンイル
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA14
4C076BB01
4C076CC21
4C076CC30
4C076DD09
4C076DD37
4C076DD38
4C076DD41
4C076DD42
4C076DD43
4C076DD45
4C076DD46
4C076DD49
4C076DD51
4C076DD55
4C076DD57
4C076DD63
4C076DD68
4C076DD70
4C076DD70N
4C076EE23
4C076EE30
4C076EE51
4C076FF36
4C076FF63
4C076FF68
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA44
4C084CA43
4C084CA59
4C084DB35
4C084MA17
4C084MA52
4C084NA03
4C084NA10
4C084ZC032
4C084ZC352
(57)【要約】
本発明は、GLP-1類似体を含有する経口投与剤形組成物に関するものであって、具体的には、GLP-1類似体の疎水性イオン対(ion-pair)および油相(oil phase)を含む、経口投与用薬学的組成物、および該組成物の製造方法に関するものである。本発明における経口投与用薬学的組成物は、水相に晒される場合、疎水性イオン対を取り囲むエマルジョンが形成されることによって、消化酵素により分解されずに安定して吸収され、薬理効果を発揮し得るため、経口投与用薬学的組成物として非常に有用に使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)GLP-1類似体とカウンターイオン(counter ion)が結合されて形成された疎水性イオン対(ion-pair)、および
(b)油または界面活性剤を含む油相(oil phase)を含む、経口投与用薬学的組成物。
【請求項2】
前記GLP-1類似体は、エクセンディン-4(exendin-4)、CA-エクセンディン-4(Imidazoacetyl-exendin-4)、DA-エクセンディン-4(Desamino-histidyl-exendin-4)、HY-エクセンディン-4(beta-hydroxy imidazopropionyl-exendin-4)、CX-エクセンディン-4(beta-carboxyimidazopropionyl-exendin-4)、DM-エクセンディン-4(Dimethyl-histidyl-exendin-4)、リキシセナチド(lixisenatide)、リラグルチド(liraglutide)、セマグルチド(semaglutide)、デュラグルチド(dulaglutide)およびアルビグルチド(albiglutide)からなる群より選択されたいずれか一つ以上である、請求項1に記載の経口投与用薬学的組成物。
【請求項3】
前記カウンターイオンは、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(xinafoic acid)、2-ナフタレンスルホン酸(NSA)、ブリリアントブルーFCF、カルボキシメチルポリエチレングリコール(CM-PEG)、コレステリルヘミスクシネート、コリック酸、ナトリウムコレート、デカン酸、ナトリウムデカノエート、ナトリウムカプレート、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジオレオイルホスファチジン酸(DOPA)、ドコサヘキサエン酸、ヘキサデシルホスフェート、リノール酸、N,N-ジパルミトイル-L-リジン、オレイン酸、ナトリウムオレエート、パモ酸、ジナトリウムパモエート、ナトリウムアセテート、ナトリウムコレステリルサルフェート、ナトリウムデカンスルホネート(SDES)、ナトリウムデオキシコレート、ナトリウムドキュセート、ナトリウムドデシルベンゼンスルホネート(SDBS)、ナトリウムドデシルサルフェート、ナトリウムラウレート、ナトリウムn-オクタデシルサルフェート、ナトリウムステアレート、ナトリウムステアロイルグルタメート(SSG)、ナトリウムタウロデオキシコレート(STDC)、ナトリウムテトラデシルサルフェート、ナトリウムトリポリホスフェート、タウロコリック酸、ナトリウムタウロコレート、およびビタミンEスクシネートからなる群より選択されたいずれか一つ以上のアニオンである、請求項1に記載の経口投与用薬学的組成物。
【請求項4】
前記カウンターイオンは、アルギニン-ヘキサデカノイルエステル(AHE)、アルギニン-ノニルエステル(ANE)、N-ベンジル-2-フェニルエタンアミン、キトサン、ドデシルアミン、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、マプロチリン、Nα-デオキシコリル-L-リシル-メチルエステル、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、N,N-ジメチルドデシルアミン、N,N-ジメチルヘキシルアミン、N,N-ジメチルオクタデシルアミン、ステアリルアミン、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)、テトラヘプチルアンモニウムブロミド(THA)、テトラヘキシルアンモニウムブロミド、テトラオクチルアンモニウムブロミド(TOAB)、テトラペンチルアンモニウムブロミド(TPA)、およびトリエチルアミン(TEA)からなる群より選択されたいずれか一つ以上のカチオンである、請求項1に記載の経口投与用薬学的組成物。
【請求項5】
前記油または界面活性剤を含む油相は、
(a)オキシエチレンユニットの平均個数が38以下であるポリオキシルヒマシ油、お
よび
(b)オレオイルマクロゴールグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、モノ-ジ-グリセリド、カプリロカプロイルポリオキシルグリセリドおよびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選択されたいずれか一つ以上を含む、請求項1に記載の経口投与用薬学的組成物。
【請求項6】
前記油相は、GLP-1類似体の吸収促進剤をさらに含む、請求項5に記載の経口投与用薬学的組成物。
【請求項7】
前記吸収促進剤は、EDTA、クエン酸、サリシレート、SDS、ナトリウムデオキシコレート、ナトリウムタウロコレート、オレイン酸、アシルカルニチン、ナトリウムカプレート、ナトリウムカプリレート、サルカプロザート(SNAC)、5-CNAC、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)およびホスホリピッドからなる群より選択されたいずれか一つ以上である、請求項6に記載の経口投与用薬学的組成物。
【請求項8】
前記薬学的組成物は、糖尿病の予防または治療用である、請求項1~7のいずれか一項に記載の経口投与用薬学的組成物。
【請求項9】
(a)GLP-1類似体をカウンターイオン(counter ion)と混合し、疎水性イオン対(ion-pair)を製造する段階;および
(b)前記疎水性イオン対を油相(oil phase)に混合する段階を含む、経口投与用薬学的組成物の製造方法。
【請求項10】
前記段階(a)は、
(a-1)GLP-1類似体とカウンターアニオンをそれぞれpH4.0水溶液に溶解させる段階;
(a-2)前記カウンターアニオンの溶液をGLP-1類似体溶液に点滴する段階;および
(a-3)前記段階(a-2)の混合物からイオン対を回収する段階を含む、請求項9に記載の経口投与用薬学的組成物の製造方法。
【請求項11】
前記段階(a)は、
(a-4)GLP-1類似体をpH8.0水溶液に溶解させ、カウンターカチオンをメタノール水溶液に溶解させる段階;
(a-5)前記カウンターカチオンの溶液をGLP-1類似体溶液に点滴する段階;および
(a-6)前記段階(a-5)の混合物からイオン対を回収する段階を含む、請求項9に記載の経口投与用薬学的組成物の製造方法。
【請求項12】
前記GLP-1類似体は、エクセンディン-4(exendin-4)、CA-エクセンディン-4(Imidazoacetyl-exendin-4)、DA-エクセンディン-4(Desamino-histidyl-exendin-4)、HY-エクセンディン-4(beta-hydroxy imidazopropionyl-exendin-4)、CX-エクセンディン-4(beta-carboxyimidazopropionyl-exendin-4)、DM-エクセンディン-4(Dimethyl-histidyl-exendin-4)、リキシセナチド(lixisenatide)、リラグルチド(liraglutide)、セマグルチド(semaglutide)、デュラグルチド(dulaglutide)およびアルビグルチド(albi
glutide)からなる群より選択されたいずれか一つ以上である、請求項9に記載の経口投与用薬学的組成物の製造方法。
【請求項13】
前記カウンターイオンは、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(xinafoic acid)、2-ナフタレンスルホン酸(NSA)、ブリリアントブルーFCF、カルボキシメチルポリエチレングリコール(CM-PEG)、コレステリルヘミスクシネート、コリック酸、ナトリウムコレート、デカン酸、ナトリウムデカノエート、ナトリウムカプレート、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジオレオイルホスファチジン酸(DOPA)、ドコサヘキサエン酸、ヘキサデシルホスフェート、リノール酸、N,N-ジパルミトイル-L-リジン、オレイン酸、ナトリウムオレエート、パモ酸、ジナトリウムパモエート、ナトリウムアセテート、ナトリウムコレステリルサルフェート、ナトリウムデカンスルホネート(SDES)、ナトリウムデオキシコレート、ナトリウムドキュセート、ナトリウムドデシルベンゼンスルホネート(SDBS)、ナトリウムドデシルサルフェート、ナトリウムラウレート、ナトリウムn-オクタデシルサルフェート、ナトリウムステアレート、ナトリウムステアロイルグルタメート(SSG)、ナトリウムタウロデオキシコレート(STDC)、ナトリウムテトラデシルサルフェート、ナトリウムトリポリホスフェート、タウロコリック酸、ナトリウムタウロコレート、およびビタミンEスクシネートからなる群より選択されたいずれか一つ以上のアニオンである、請求項9に記載の経口投与用薬学的組成物の製造方法。
【請求項14】
前記カウンターイオンは、アルギニン-ヘキサデカノイルエステル(AHE)、アルギニン-ノニルエステル(ANE)、N-ベンジル-2-フェニルエタンアミン、キトサン、ドデシルアミン、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、マプロチリン、Nα-デオキシコリル-L-リシル-メチルエステル、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、N,N-ジメチルドデシルアミン、N,N-ジメチルヘキシルアミン、N,N-ジメチルオクタデシルアミン、ステアリルアミン、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)、テトラヘプチルアンモニウムブロミド(THA)、テトラヘキシルアンモニウムブロミド、テトラオクチルアンモニウムブロミド(TOAB)、テトラペンチルアンモニウムブロミド(TPA)、およびトリエチルアミン(TEA)からなる群より選択されたいずれか一つ以上のカチオンである、請求項9に記載の経口投与用薬学的組成物の製造方法。
【請求項15】
前記油または界面活性剤を含む油相は、
(a)オキシエチレンユニットの平均個数が38以下であるポリオキシルヒマシ油、および
(b)オレオイルマクロゴールグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、モノ-ジ-グリセリド、カプリロカプロイルポリオキシルグリセリドおよびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選択されたいずれか一つ以上を含む、請求項9に記載の経口投与用薬学的組成物の製造方法。
【請求項16】
前記油相は、GLP-1類似体の吸収促進剤をさらに含む、請求項15に記載の経口投与用薬学的組成物の製造方法。
【請求項17】
前記吸収促進剤は、EDTA、クエン酸、サリシレート、SDS、ナトリウムデオキシコレート、ナトリウムタウロコレート、オレイン酸、アシルカルニチン、ナトリウムカプレート、ナトリウムカプリレート、サルカプロザート(SNAC)、5-CNAC、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)およびホスホリピッドからなる群より選択されたいずれか一つ以上である、請求項16に記載の経口投与用薬学的組成物の製造方法。
【請求項18】
請求項9~17のいずれか一項に記載の製造方法により製造された、経口投与用薬学的組成物。
【請求項19】
(a)GLP-1類似体をカウンターイオン(counter ion)と混合し、疎水性イオン対(ion-pair)を製造する段階;
(b)前記疎水性イオン対を中鎖中性脂肪(Medium Chain Triglyceride)およびプロピレングリコールの混合物に添加する段階;および
(c)前記(b)段階にて製造された混合物にポリオキシル35ヒマシ油、ポリオキシル40水素化ヒマシ油、オレオイルマクロゴールグリセリドおよびプロピレングリコール脂肪酸エステルからなる群より選択されたいずれか一つ以上を添加して混合する段階を含む、経口投与用薬学的組成物の製造方法。
【請求項20】
(a)GLP-1類似体をカウンターイオン(counter ion)と混合し、疎水性イオン対(ion-pair)を製造する段階;
(b)前記疎水性イオン対をプロピレングリコール脂肪酸エステルおよびプロピレングリコールの混合物に添加する段階;および
(c)前記(b)段階にて製造された混合物に中鎖中性脂肪(Medium Chain Triglyceride)、ポリオキシル35ヒマシ油、ポリオキシル40水素化ヒマシ油およびオレオイルマクロゴールグリセリドからなる群より選択されたいずれか一つ以上を添加して混合する段階を含む、経口投与用薬学的組成物の製造方法。
【請求項21】
請求項19または20の製造方法により製造された、経口投与用薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GLP-1類似体を含有する経口投与剤形組成物に関するものであって、具体的には、GLP-1類似体の疎水性イオン対(ion-pair)および油相(oil
phase)を含む経口投与用薬学的組成物、および該組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GLP-1(glucagon-like peptide-1)は、30個のアミノ酸からなるホルモンであり、膵臓のベータ細胞においインスリン分泌を促進し、アルファ細胞においてグルカゴン分泌を抑制するなど、糖尿病に治療効能を示すことが知られている。しかし、GLP-1およびその活性ないし安定性を増進させるために開発されたGLP-1類似体は、主に静脈内または皮下注射などの非経口経路によって投与され、服用の利便性が著しく低下し、注射した部位に発疹および腫れなどが発生する問題がある。
【0003】
GLP-1類似体は、ペプチド薬物であって、経口投与時、胃腸管で酸および消化酵素によって分解され得、また体内への吸収性が劣る問題があるが、今なお投与後、体内で安定的でかつ優れたバイオアベイラビリティを有する経口投与用製剤は開発されていない。GLP-1またはGLP-1類似体の経口製剤として、大韓民国公開特許第2020-0076642号では、賦形剤としてポリオキシルグリセリド、アシルグリセロール複合体およびポリエチレングリコールを含む製剤が開示されており、大韓民国公開特許第2020-0081411号では、賦形剤としてケノデオキシコール酸ナトリウムおよび/または没食子酸プロピルを含む製剤が開示されており、大韓民国公開特許第2016-0002945号では、N-(8-2-ヒドロキシベンゾイル)アミノ)カプリル酸の塩(SNAC)を含む製剤が開示されているが、既存の注射剤と比較して競争力のある経口投与用製剤はまだ開発されていない。米国FDAの承認を受けて現在市販されているノボ・ノルディスク社の「リベルサス」の場合、既存のGLP-1注射剤の代替として期待が高まったが、既存の注射剤に比べて薬効が劣り、必ず飲食を摂る30分前に毎日服用しなければならず、薬を割ったり噛んだりすることも許容されないなどと服用法が不便という欠点があるため、また別の経口投与用製剤の開発が持続的に必要とされているのが実情である。
【0004】
このような背景の下、本発明者は、GLP-1類似体を含有する経口投与用組成物を開発するために鋭意努力した結果、GLP-1類似体とカウンターイオンを静電気的な引力によって結合し、疎水性イオン対を形成し、これを油または界面活性剤を含む油相に溶かした組成物を開発し、該組成物の経口投与時、胃腸管内でエマルジョンが形成され、GLP-1類似体の分解が防止されることが確認されたことによって本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】大韓民国公開特許第2020-0076642号
【特許文献2】大韓民国公開特許第2020-0081411号
【特許文献3】大韓民国公開特許第2016-0002945号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一目的は、(a)GLP-1類似体とカウンターイオン (counter ion)とが結合して形成された疎水性イオン対(ion-pair)、および(b)油または界面活性剤を含む油相(oil phase)を含む、経口投与用薬学的組成物を
提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、前記経口投与用薬学的組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これを具体的に説明すると、次のとおりである。なお、本発明において開示されたそれぞれの説明および実施形態は、それぞれ他の説明および実施形態にも適用され得る。換言すると、本発明に開示された多様な要素の全ての組み合わせが本発明の範囲に属する。また、以下に述べる具体的な叙述によって本発明の範疇が限定されるとはみることができない。
【0009】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、(a)GLP-1類似体とカウンターイオン(counter ion)とが結合して形成された疎水性イオン対(ion-pair)、および(b)油または界面活性剤を含む油相(oil phase)を含む、経口投与用薬学的組成物である。
【0010】
本発明の経口投与用薬学的組成物は、GLP-1類似体がカウンターイオンと結合して形成された疎水性イオン対が油相内に添加されており、前記組成物が水相に晒される場合、疎水性イオン対を取り囲むエマルジョンが形成されることによって、消化酵素により分解されずに安定して吸収され、薬理効果を発揮し得るため、経口投与用薬学的組成物として非常に有用に使用することができる。
【0011】
本発明において「GLP-1類似体」とは、GLP-1の受容体と結合し、GLP-1のような薬理活性を示すペプチドおよびそのバリアントをいう。一例として、本発明におけるGLP-1類似体は、エクセンディン-4(exendin-4)またはエクセンディン-4誘導体であってもよく、エクセンディン-4誘導体は、CA-エクセンディン-4(Imidazoacetyl-exendin-4)、DA-エクセンディン-4(Desamino-histidyl-exendin-4)、HY-エクセンディン-4(beta-hydroxy imidazopropionyl-exendin-4)、CX-エクセンディン-4(beta-carboxyimidazopropionyl-exendin-4)、DM-エクセンディン-4(Dimethyl-histidyl-exendin-4)、リキシセナチド(lixisenatide)、リラグルチド(liraglutide)、セマグルチド(semaglutide)、デュラグルチド(dulaglutide)および/またはアルビグルチド(albiglutide)であってもよいが、これらに制限されるものではない。
【0012】
前記エクセンディン-4は、ヘロデルマ・サスペクトゥム(Heloderma suspectum、アメリカドクトカゲ)の唾液分泌物に存在し、GLP-1配列と53%の高い配列相同性を示すペプチドである(配列番号1)。エクセンディン-4は、インスリン-分泌細胞のGLP-1受容体に作用することができ、DPP IVに対する抵抗性とともにGLP-1よりも高い生理活性を有し、体内半減期が2~4時間で、GLP-1に比べて長くなったことが報告されている(US5,424,686)。本発明において、エクセンディン-4は、天然型または人工的に合成されたものであることができる。
【0013】
本発明の一実施形態として前記エクセンディン-4誘導体は、エクセンディン-4の最初のアミノ酸であるHisを化学的に変異させた誘導体であることができる。エクセンディン-4の誘導体が開示された大韓民国登録特許第10-1231431号に記載された事項は全部本発明に参照として組み込まれる。具体的にはエクセンディン-4誘導体は、最初のアミノ酸であるHisからアルファカーボンを除去したイミダゾアセチル-エクセンディン-4(CA-エクセンディン-4)、N-末端アミノグループ(group)を
除去したデスアミノ-ヒスチジル-エクセンディン-4(DA-エクセンディン-4)、ヒドロキシグループまたはカルボキシルグループで置換されたベータ-ヒドロキシイミダゾプロピオニル-エクセンディン-4(HY-エクセンディン-4)およびベータ-カルボキシイミダゾプロピル-エクセンディン-4(CX-エクセンディン-4)、または2個のメチル残基で修飾したジメチル-ヒスチジル-エクセンディン-4(DM-エクセンディン-4)であってもよいが、これらに制限されるものではない。前記エクセンディン-4誘導体は、エクセンディン-4とアミノ酸配列構造が同一であり、単に最初のアミノ酸であるHisにおいて、一部変形がなされたものに過ぎないものであるため、全て同等のペプチド構造と電気的特性を有する。本発明は、GLP-1類似体およびカウンターイオンの静電気的な引力によってイオン対を形成することに特徴があるため、本発明のGLP-1類似体と同等のペプチド構造と電気的特性を有するペプチドおよびその変異体を同様に全部本発明の範疇内に含まれる。
【0014】
本発明の他の実施態様として、前記GLP-1類似体は、エクセンディン-4から38番目のプロリンを除去し、6個のリジン残基を付加したリキシセナチド(lixisenatide)、ヒトGLP-1において27番目のリジンがアルギニンで置換され、残りのリジンにグルタミン酸スペーサーを介してヘキサデカノイルグループが付着したリラグルチド(liraglutide)、GLP-1において8番目のアラニンが2-アミノイソ酪酸(2-aminoisobutyric acid)で置換され、34番目のリジンがアルギニンで置換され、26番目のリジンがステアリックジアシッド(stearic diacid)でアシル化されたセマグルチド(semaglutide)、GLP-1(7-37)がヒトIgG4のFc断片に連結されたデュラグルチド(dulaglutide)またはヒトGLP-1の2番目のアラニンがグリシンで置換されたGLP-1変異体2コピーが1~30および31~60アミノ酸配列で構成され、さらにヒトアルブミンと結合したアルビグルチド(albiglutide)であってもよいが、これらに制限されるものではない。
【0015】
本発明において、「カウンターイオン(counter ion)」は、GLP-1類似体と静電気的な引力によって結合することによって、固体形態の疎水性イオン対を形成することができるイオンを指す。一例として、前記カウンターイオンは、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(xinafoic acid)、2-ナフタレンスルホン酸(NSA)、ブリリアントブルーFCF、カルボキシメチルポリエチレングリコール(CM-PEG)、コレステリルヘミスクシネート、コリック酸、ナトリウムコレート、デカン酸、ナトリウムデカノエート、ナトリウムカプレート、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジオレオイルホスファチジン酸(DOPA)、ドコサヘキサエン酸、ヘキサデシルホスフェート、リノール酸、N,N-ジパルミトイル-L-リジン、オレイン酸、ナトリウムオレエート、パモ酸、ジナトリウムパモエート、ナトリウムアセテート、ナトリウムコレステリルサルフェート、ナトリウムデカンスルホネート(SDES)、ナトリウムデオキシコレート、ナトリウムドキュセート、ナトリウムドデシルベンゼンスルホネート(SDBS)、ナトリウムドデシルサルフェート、ナトリウムラウレート、ナトリウムn-オクタデシルサルフェート、ナトリウムステアレート、ナトリウムステアロイルグルタメート(SSG)、ナトリウムタウロデオキシコレート(STDC)、ナトリウムテトラデシルサルフェート、ナトリウムトリポリホスフェート、タウロコリック酸、ナトリウムタウロコレート、および/またはビタミンEスクシネートのアニオンであってもよい。
【0016】
他の一例として、前記カウンターイオンは、アルギニン-ヘキサデカノイルエステル(AHE)、アルギニン-ノニルエステル(ANE)、N-ベンジル-2-フェニルエタンアミン、キトサン、ドデシルアミン、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、マプロチリン、Nα-デオキシコリル-L-リシル-メチルエステル、N,N
’-ジベンジルエチレンジアミン、N,N-ジメチルドデシルアミン、N,N-ジメチルヘキシルアミン、N,N-ジメチルオクタデシルアミン、ステアリルアミン、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)、テトラヘプチルアンモニウムブロミド(THA)、テトラヘキシルアンモニウムブロミド、テトラオクチルアンモニウムブロミド(TOAB)、テトラペンチルアンモニウムブロミド(TPA)、および/またはトリエチルアミン(TEA)のカチオンであってもよいが、これらに制限されるものではない。
【0017】
本発明のGLP-1類似体は、前記カウンターイオンと疎水性イオン対を形成した後、油相に添加されたことに特徴がある。具体的には前記油または界面活性剤を含む油相は、(a)オキシエチレンユニットの平均個数が38以下であるポリオキシルヒマシ油、および(b)オレオイルマクロゴールグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、モノ-ジ-グリセリド、カプリロカプロイルポリオキシルグリセリドおよびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選択されたいずれか一つ以上を含むものであることができるが、これらに制限されるものではない。
【0018】
本発明において、前記油相は、GLP-1類似体の体内への吸収を改善させるための目的で吸収促進剤をさらに含むことができる。吸収促進剤は、例えば、EDTA、クエン酸、サリシレート、SDS、ナトリウムデオキシコレート、ナトリウムタウロコレート、オレイン酸、アシルカルニチン、ナトリウムカプレート、ナトリウムカプリレート、サルカプロザート(SNAC)、5-CNAC、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)および/またはホスホリピッドであってもよいが、GLP-1類似体の体内への吸収を改善させる限り、全部本発明の範囲に含まれる。
【0019】
前記薬学的組成物は、例えば、糖尿病の予防または治療用途としても非常に有用に用いられることができる。エクセンディン-4のようなGLP-1類似体の糖尿病に対する治療効果およびその薬理機序は、当業界にすでによく知られている。
【0020】
また、本発明のまた他の様態は、前記薬学的組成物の治療学的に有効な量を、これを必要とする対象(subject)に投与する段階を含む、糖尿病を治療または予防する方法を提供する。前記対象(subject)は、ヒトを含む哺乳類であることができる。
【0021】
本発明にて使用される用語「治療学的に有効な量」は、糖尿病の治療または予防に有効な前記薬学的組成物の量を示す。具体的には、「治療学的に有効な量」とは、医学的治療に適用可能な合理的な受益/リスクの比率で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効容量レベルは、個体の種類および重症度、年齢、性別、疾病の種類、薬物の活性、薬物に対する感度、投与時間、投与経路および排出率、治療期間、同時に使用される薬物を含む要素およびその他の医学分野でよく知られている要素に基づいて決定されることができる。本発明の薬学的組成物は、個々の治療剤として投与したり、他の治療剤と併用して投与したりすることができ、市販される治療剤とは順次または同時に投与することができる。また、単一または多重投与することができる。前記要素を全部考慮して、副作用なく最小限の量で最大効果が得られる量を投与することが重要であり、当業者によって容易に決定され得る。本発明の薬学的組成物の投与用量は、患者の状態、年齢、性別および合併症などの多様な要因に基づいて専門家によって決定されることができる。本発明の薬学的組成物の有効成分は、安全性に優れているため、決定された投与用量以上でも使用され得る。
【0022】
また、本発明のまた他の様態は、本発明は、糖尿病の治療または予防に使用するための薬剤(medicament)の製造に使用するための、前記薬学的組成物の用途(use)を提供する。薬剤を製造するための前記薬学的組成物は、許容される補助剤、希釈剤
、担体などを混合することができ、その他の活性剤と一緒に複合製剤として製造され、活性成分の上昇作用を有することができる。
【0023】
本発明の用途、組成物、治療方法にて言及された事項は、互いに矛盾しない限り、同様に適用される。
【0024】
前記目的を達成するための本発明の他の様態は、(a)GLP-1類似体をカウンターイオン(counter ion)と混合し、疎水性イオン対(ion-pair)を製造する段階;および(b)前記疎水性イオン対を油相(oil phase)に混合する段階を含む、経口投与用薬学的組成物の製造方法である。
【0025】
GLP-1類似体、カウンターイオン、疎水性イオン対および油相については、前で説明したとおりである。
【0026】
本発明において、前記段階(a)は、GLP-1類似体を固体形態の疎水性イオン対として製造する段階であって、具体的には、(a-1)GLP-1類似体とカウンターアニオンをそれぞれpH4.0水溶液に溶解させる段階;(a-2)前記カウンターアニオンの溶液をGLP-1類似体溶液に点滴する段階;および(a-3)前記段階(a-2)の混合物からイオン対を回収する段階を含むことができる。または前記段階(a)は、具体的に(a-4)GLP-1類似体をpH8.0水溶液に溶解させ、カウンターカチオンをメタノール水溶液に溶解させる段階;(a-5)前記カウンターカチオンの溶液をGLP-1類似体溶液に点滴する段階;および(a-6)前記段階(a-5)の混合物からイオン対を回収する段階を含むことができるが、これらに限定されない。
【0027】
本発明のまた他の様態は、(a)GLP-1類似体をカウンターイオン(counter ion)と混合し、疎水性イオン対(ion-pair)を製造する段階;(b)前記疎水性イオン対を中鎖中性脂肪(Medium Chain Triglyceride、MCT)およびプロピレングリコールの混合物に添加する段階;および(c)前記(b)段階にて製造された混合物にポリオキシル35ヒマシ油、ポリオキシル40水素化ヒマシ油、オレオイルマクロゴールグリセリドおよびプロピレングリコール脂肪酸エステルからなる群より選択されたいずれか一つ以上を添加して混合する段階を含む、経口投与用薬学的組成物の製造方法である。
【0028】
本発明のまた他の様態は、(a)GLP-1類似体をカウンターイオン(counter ion)と混合し、疎水性イオン対(ion-pair)を製造する段階;
(b)前記疎水性イオン対をプロピレングリコール脂肪酸エステルおよびプロピレングリコールの混合物に添加する段階;および
(c)前記(b)段階にて製造された混合物に中鎖中性脂肪(Medium Chain Triglyceride)、ポリオキシル35ヒマシ油、ポリオキシル40水素化ヒマシ油およびオレオイルマクロゴールグリセリドからなる群より選択されたいずれか一つ以上を添加して混合する段階を含む、経口投与用薬学的組成物の製造方法である。
【0029】
本発明の経口投与用薬学的組成物を製造するにおいて、場合によっては油混合物に疎水性イオン対を単純に添加する場合に比べて、親水性共溶媒であるプロピレングリコールと中鎖中性脂肪またはプロピレングリコール脂肪酸エステルの混合物に先に疎水性イオン対を添加し、分散を最小化させた後、残りの油成分を混合することによって消化管酵素分解の安定性を増加させることができる。
【0030】
本発明のまた他の様態は、前記製造方法により製造された、経口投与用薬学的組成物である。
【0031】
本発明の実施形態は、多様な異なる形態で変形することができ、本発明の 範囲が以下に説明する実施形態で限定されるものではない。また、本発明の 実施形態は、当該技術分野で平均的な知識を有する者にとって本発明をより完全に説明するために提供されるものである。さらに、明細書全体において、ある構成要素を「含む」とは、特に相反する記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
【発明の効果】
【0032】
本発明の経口投与用薬学的組成物は、水相に晒される場合、疎水性イオン対を取り囲むエマルジョンが形成されることによって、消化酵素により分解されずに安定して吸収され、薬理効果を発揮し得るため、経口投与用薬学的組成物として非常に有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】実施例1~2、および比較例1~3の組成物の安定性を模擬胃液で試験した結果を示すものである。
図2】実施例1~2、および比較例1~3の組成物の安定性を模擬腸液で試験した結果を示すものである。
図3】実施例3~4、および比較例4~6の組成物の安定性を模擬胃液で試験した結果を示すものである。
図4】実施例3~4、および比較例4~6の組成物の安定性を模擬腸液で試験した結果を示すものである。
図5】実施例5~7の組成物の安定性を模擬胃液で試験した結果を示すものである。
図6】比較例7~9の組成物の安定性を模擬胃液で試験した結果を示すものである。
図7】実施例5~7の組成物の安定性を模擬腸液で試験した結果を示すものである。
図8】比較例7~9の組成物の安定性を模擬腸液で試験した結果を示すものである。
図9】比較例10~11の組成物の安定性を模擬胃液で試験した結果を示すものである。
図10】比較例10~11の組成物の安定性を模擬腸液で試験した結果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、実施例により本発明の構成および効果をより詳しく説明する。これらの実施例は、単に本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲がこれらの実施例により制限されるものではない。
【0035】
実施例1~2:CA-エクセンディン-4(CA-Exendin-4)含有経口投与用組成物の製造
実施例1~2として、GLP-1類似体であるCA-エクセンディン-4を含有する経口投与用組成物を製造した。
【0036】
CA-エクセンディン-4とカウンターイオンの静電気的な引力によって形成された疎水性イオン対の固体組成物を製造するために、CA-エクセンディン-4およびナトリウムドキュセート(sodium docusate)をそれぞれpH4.0溶液に溶解し、カチオンとアニオンを帯びさせた。溶解されたナトリウムドキュセート溶液をCA-エ
クセンディン-4溶液に点滴し、疎水性の固体組成物を得た。
【0037】
前記固体組成物を表1に明示された油相(oil phase;油または界面活性剤の混合物)に溶解させて最終薬剤学的組成物を得た。
【0038】
【表1】
【0039】
実施例3~7:エクセンディン-4含有経口投与組成物の製造
実施例3~4として、GLP-1類似体であるエクセンディン-4を含有する経口投与用組成物を製造した。
【0040】
エクセンディン-4とカウンターイオンの静電気的な引力によって形成された疎水性イオン対の固体組成物を製造するために、エクセンディン-4およびテトラヘプチルアンモニウムブロミド(tetraheptylammonium bromide)をそれぞれpH8.0溶液および50%メタノール溶液に溶解させて、アニオンとカチオンを帯びさせた。溶解されたテトラヘプチルアンモニウムブロミド溶液をエクセンディン-4溶液に点滴し、疎水性の固体組成物を得た。
【0041】
前記固体組成物を表2に明示された油相(oil phase;油または界面活性剤の混合物)に溶解させて最終薬剤学的組成物を得た。
【0042】
【表2】
【0043】
実施例5~7として、GLP-1類似体であるエクセンディン-4を含有する経口投与用組成物を製造した。
【0044】
エクセンディン-4とカウンターイオンの静電気的な引力によって形成された疎水性イオン対の固体組成物を製造するために、エクセンディン-4およびテトラヘプチルアンモニウムブロミド(tetraheptylammonium bromide)をそれぞれpH8.0溶液および50%メタノール溶液に溶解させて、アニオンとカチオンを帯びさせた。溶解されたテトラヘプチルアンモニウムブロミド溶液をエクセンディン-4溶液に点滴し、疎水性の固体組成物を得た。
【0045】
前記固体組成物を中鎖中性脂肪(MCT)またはプロピレングリコール脂肪酸エステルと親水性共溶媒であるプロピレングリコールの混合物に先に投入した後、表3に明示された残りの油を投入し、最終薬剤学的組成物を得た。
【0046】
【表3】
【0047】
比較例1
比較例1としてCA-エクセンディン-4の水溶液(30μg/mL)を用いた。
【0048】
比較例2:イオン対が形成されないCA-エクセンディン-4含有組成物の製造
比較例2として疎水性イオン対の形成過程を経ずに、CA-エクセンディン-4を直ちに油相に混合したものを用いた。
【0049】
【表4】
【0050】
比較例3:油相を含まないCA-エクセンディン-4のイオン対含有組成物の製造
比較例3として疎水性イオン対の静電気的な引力によって製造したCA-エクセンディン-4のイオン対の固体組成物を製造した。
【0051】
【表5】
【0052】
比較例4
比較例4としてエクセンディン-4の水溶液(30μg/mL)が用いられた。
【0053】
比較例5:イオン対が形成されないエクセンディン-4含有組成物の製造
比較例5として疎水性イオン対の形成過程を経ずに、エクセンディン-4を直ちに油相に混合したものを用いた。
【0054】
【表6】
【0055】
比較例6:油相を含まないエクセンディン-4のイオン対含有組成物の製造
比較例6として疎水性イオン対の静電気的な引力によって製造したエクセンディン-4のイオン対固体組成物を製造した。
【0056】
【表7】
【0057】
比較例7~11:エクセンディン-4含有経口投与組成物の製造
比較例7~11としてGLP-1類似体であるエクセンディン-4を含有する経口投与
用組成物を製造した。
【0058】
エクセンディン-4とカウンターイオンの静電気的な引力によって形成された疎水性イオン対の固体組成物を製造するために、エクセンディン-4およびテトラヘプチルアンモニウムブロミド(tetraheptylammonium bromide)をそれぞれpH8.0溶液および50%メタノール溶液に溶解させて、アニオンとカチオンを帯びさせた。溶解されたテトラヘプチルアンモニウムブロミド溶液をエクセンディン-4溶液に点滴し、疎水性の固体組成物を得た。
【0059】
前記固体組成物を表8に明示された油相および親水性共溶媒混合物または表9に明示された油相に投入し、最終薬剤学的組成物を得た。
【0060】
【表8】
【0061】
【表9】
【0062】
試験例1:試験管内の酵素分解の評価
前記実施例1~4、および比較例1~6から得られた薬剤学的組成物について、以下の
表10および11の条件で試験を実施し、それぞれのGLP-1類似体の消化酵素による分解を防止されるか否かを評価した。
【0063】
【表10】
【0064】
【表11】
【0065】
実験の結果、実施例1および2における、疎水性イオン対と結合したGLP-1類似体CA-エクセンディン-4を含有する油相の組成物は、消化酵素(模擬胃液および模擬腸液)により分解されずに安定していることが確認できた(図1および図2)。イオン対との結合により、CA-エクセンディン-4の疎水性が増加し、油または界面活性剤を含む疎水性媒質に溶け易く、このようにイオン対形態のCA-エクセンディン-4が油相に溶けた組成物は、水相の消化液に晒されたとき、エマルジョンが形成され、その形態が維持され、消化酵素がCA-エクセンディン-4に接近することを遮断するため、上記のような結果が現れ得る。
【0066】
これとは異なり、比較例1では、CA-エクセンディン-4が水相に溶け、酵素によって容易に分解されることが確認された。また、比較例2では、CA-エクセンディン-4が油を含む疎水性媒質に分散され、エマルジョンが形成されても、エマルジョン内部にC
A-エクセンディン-4が封入されることができないので、結果的に模擬胃液または模擬腸液により容易に分解されることを確認することができた。比較例3の場合にも、図CA-エクセンディン-4を含む疎水性イオン対が消化酵素液中、分散されて模擬胃液または模擬腸液により容易に分解されることを確認することができた(図1および図2)。
【0067】
次に、他のGLP-1類似体としてエクセンディン-4に対する実験の結果、実施例3および4の疎水性イオン対と結合したエクセンディン-4を含有する油相の組成物も同様に消化酵素により分解されずに安定していることを確認することができた(図3および図4)。このような結果は、実施例1および2と同様にイオン対の結合により、エクセンディン-4の疎水性が増加し、油または界面活性剤を含む疎水性媒質に溶け易く、水相の消化液においてエマルジョン形態が維持され、消化酵素がエクセンディン-4に接近することを遮断したからである。
【0068】
なお、比較例4では、エクセンディン-4が水相に溶け、酵素により容易に分解されることが確認された。また、比較例5では、エクセンディン-4が油を含む疎水性媒質に分散され、エマルジョンが形成されてもエマルジョン内部にエクセンディン-4が封入されることができず、模擬胃液または模擬腸液により容易に分解されることを確認することができた。比較例6の場合にもエクセンディン-4を含む疎水性イオン対が消化酵素液中、分散され、模擬胃液または模擬腸液により容易に分解されることを確認することができた(図3および図4)。
【0069】
上記の結果を総合してみると、本発明におけるGLP-1類似体を含む組成物は、GLP-1類似体とカウンターイオンを用いて疎水性イオン対を形成し、これを油相に含ませることによって、GLP-1類似体単独、疎水性イオン対、またはイオン対を形成することなく、油相に含ませた場合と異なり、水相に晒されたとき、GLP-1類似体を取り囲んでエマルジョンが形成されることができ、これによって消化酵素により分解されずに安定的に薬物の伝達が可能である。したがって、本発明の組成物は、GLP-1類似体の経口投与用途として極めて有用に使用され得る。
【0070】
試験例2:製造方法による試験管内の酵素分解の評価
実施例5~7および比較例7~11にて得られた経口投与用薬剤学的組成物について、以下の表12および表13の条件で試験を実施し、イオン対と結合したGLP-1類似体の消化酵素による分解が防止されるか否かを評価した。
【0071】
【表12】
【0072】
【表13】
【0073】
その結果、実施例5~7は、模擬胃液および模擬腸液において、それぞれ30分および15分以上の安定性を示すことが確認されたが(図5および図7)、相対的に疎水性イオン対が分散されている比較例7~11は、0分でも ほとんど分解が起こり、分解速度が
実施例5~7に比べて非常に速いことが確認された(図6および図8図10)。
【0074】
これはイオン対の分散程度によって発生する効果の差に起因するものと理解されるが、疎水性イオン対が含まれた油が水相と接触し、エマルジョン形成時、エマルジョン内部に疎水性イオン対がロードされ、酵素の接近が遮断されるが、疎水性イオン対が分散されている場合、消化酵素に晒されて、迅速な分解が起こる。
【0075】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者は、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施できることが理解されるであろう。これに関連し、上述した実施例はあらゆる点で例示的なものであり、限定的なものではないことを理解する必要がある。本発明の範囲は、上記の詳細な説明よりは後述する特許請求の範囲の意味および範囲、およびその等価概念から導出されるすべての変更または変形形態が本発明の範囲に含まれると解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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【国際調査報告】