(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】新生児の治療におけるラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)菌株の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 35/747 20150101AFI20240705BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
A61K35/747
A61P1/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502018
(86)(22)【出願日】2022-07-15
(85)【翻訳文提出日】2024-03-12
(86)【国際出願番号】 IB2022056538
(87)【国際公開番号】W WO2023286027
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】102021000018740
(32)【優先日】2021-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】317013544
【氏名又は名称】アルファシグマ ソシエタ ペル アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】ビッフィ, アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】フィオーレ, ウォルター
【テーマコード(参考)】
4C087
【Fターム(参考)】
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087CA09
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA66
4C087ZC51
(57)【要約】
本発明は、炎症性及び/又は機能性の消化管障害、病原微生物の胃腸感染、寄生生物の胃腸感染、アレルギー、免疫介在性又は自己免疫性障害の治療、予防及び/又は治癒において、並びに被験体の成長のサポートにおいて、新生児及び/又は1か月から12か月以内の被験体に使用するための、ラクトバチルス・パラカゼイ種に属する少なくとも1つの菌株、好ましくは、ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572及び/又はラクトバチルス・パラカゼイLPC-01 DSM 26760、並びにその組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性及び/又は機能性の消化管障害を有する被験体の治療、予防及び/又は治癒方法に使用するための菌株であって、前記障害が、新生児仙痛、腸仙痛、慢性腸炎又は早産新生児の慢性腸炎、壊死性腸炎、敗血症、過敏性腸症候群(IBS)、主に便秘(prevalent constipation)を伴う又は便秘型腸(constipated bowel)のIBS、主に下痢(prevalent diarrhoea)を伴う又は下痢型腸(diarrhoeic bowel)のIBS、交代型腸(alternating bowel)のIBS、未分類のIBS、慢性炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性直腸結腸炎、喘息、肥満、1型糖尿病、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、癌、自閉症、アレルギー、免疫介在性・自己免疫性障害を含むか、あるいはそれらからなる群より選択され、前記免疫介在性・自己免疫性障害が、セリアック病、グレーブス病、関節リウマチ、橋本甲状腺炎、1型糖尿病、全身性エリテマトーデス(狼瘡)、脈管炎、アジソン病、多発性筋炎、シェーグレン症候群、進行性全身性硬化症、糸球体腎炎(腎臓の炎症)、不妊及び前記被験体の体重増加のサポートから選択され、
・前記菌株が、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)種に属し、ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572、ラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760及びそれらの混合物を含むか、あるいはそれらからなる群より選択され、
・前記被験体が、生後4週間以内の新生児被験体である、
菌株。
【請求項2】
前記被験体の月齢が、1か月から12か月以下である、請求項1記載の使用のための菌株。
【請求項3】
前記株が、生存可能な菌株(viable strain of bacteria)又は前記菌株の誘導体であり、後者が、間欠滅菌した(tyndallized)菌株、超音波処理した菌株、放射線、好ましくは、ガンマ放射線による不活性化菌株、溶解した菌株又は細菌ホモジネート、前記菌株抽出物又は壁画分を含むか、あるいはそれらからなる群より選択され、好ましくは、間欠滅菌した菌株である、請求項1又は2記載の使用のための菌株。
【請求項4】
前記障害が、新生児仙痛、腸仙痛、慢性腸炎又は早産新生児の慢性腸炎、壊死性腸炎、敗血症、過敏性腸症候群(IBS)、主に便秘を伴う又は便秘型腸のIBS、主に下痢を伴う又は下痢型腸のIBS、交代型腸のIBS、未分類のIBS、慢性炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性直腸結腸炎を含むか、あるいはそれらからなる群より選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための菌株。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための混合物Mであって、
ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572、ラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760及びそれらの混合物を含むか、あるいはそれらからなる群より選択されるラクトバチルス・パラカゼイ種に属する菌株、並びに
食品グレード又は医薬品グレードの少なくとも1つの添加物及び/又は賦形剤
を含むか、あるいはそれらからなる、混合物M。
【請求項6】
請求項5記載の使用のための混合物Mであって、
ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572、ラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760及びそれらの混合物を含むか、あるいはそれらからなる群より選択されるラクトバチルス・パラカゼイ種に属する菌株、並びに
・ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)BbIBS01 DSM 33231、
・ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS02 DSM 33232、
・ビフィドバクテリウム・アニマリス・亜種・ラクティス(Bifidobacterium animalis subsp. lactis)BlIBS01 DSM 33233、
・ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)LpIBS01 DSM 33234、
・ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)BbfIBS01 DSM 32708、及び
それらの混合物
を含むか、あるいはそれらからなる群より選択される少なくとも1つのさらなる菌株
を含むか、あるいはそれらからなる、混合物M。
【請求項7】
請求項5又は6のいずれか一項に記載の使用のための混合物Mであって、
・ビタミンA群、B群、C群、D群、E群及び/又はK群から少なくとも1つのビタミン、好ましくは、ビタミンB群及び/又はビタミンD群、
・グルタチオン、レスベラトロール及びtrans-レスベラトロールなどのポリフェノール、コエンザイムQ10、アスタキサンチン、リコペンを含むか、あるいはそれらからなる群より選択される1又は複数の抗酸化物質、
・ボタニカル(植物粗加工物、botanicals)又はその抽出物を含むか、あるいはそれらからなる群より選択される、好ましくは、バレリアン、パッションフラワー、レモンバーム、セイヨウサンザシ及びカモミールから選択される、腸弛緩作用を有する1又は複数の植物物質、
・ミネラル又はその塩、例えば、亜鉛、セレン、マグネシウム、カリウム、
・オメガ9を含むか、あるいはそれらからなる群より選択される1又は複数の一不飽和脂肪酸、並びに/あるいは多不飽和脂肪酸、オメガ3及びオメガ6、
・1又は複数の免疫賦活物質、下痢止め物質及び/又は栄養素、
・好ましくは、イヌリン、フラクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖(GOS)、キシロオリゴ糖(xylitol-oligosaccharide)(XOS)、グアーガム、ラクトフェリン及びそれらの混合物からなる群(II)より選択される少なくとも1つのプレバイオティック、より好ましくは、イヌリン、
並びにそれらの混合物
を含むか、あるいはそれらからなる群より選択される少なくとも1つのさらなる活性成分をさらに含む、混合物M。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性及び/又は機能性の消化管(胃腸管)障害、好ましくは、新生児仙痛又は早産新生児の慢性腸炎(例えば、壊死性腸炎)の治療(treatment)、予防(preventive)及び/又は治癒(curative)において、病原微生物(例えば、ウイルス又は細菌)の胃腸感染、寄生生物の胃腸感染、アレルギー、免疫介在性又は自己免疫性障害の治療、予防及び/又は治癒において、並びに被験体の成長のサポート治療(支持治療、supportive treatment)において、生後4週間以内の新生児被験体に使用するための、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)種に属する少なくとも1つの菌株、好ましくは、ラクトバチルス・パラカゼイDG(Lactobacillus paracasei DG)(登録商標)CNCM I-1572及び/又はラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760、並びにそれらの組成物に関する。
【0002】
新生児の腸への微生物定着は、出生(誕生)直後から始まり、粘膜バリア機能の発達、腸の恒常性、及び免疫系の成熟に不可欠なものである。
【0003】
本発明の文脈において、用語「新生児(newborn)」又は「新生児被験体(newborn subject)」は、出生(誕生)の瞬間から生後4週間(28日)までの期間における哺乳動物(ヒト又は動物被験体)を指す。
【0004】
赤ん坊(baby)の生後数日においては、多数の因子が腸内微生物叢(gut microbiota)の組成に影響を及ぼす:母親の膣及び/又は皮膚の微生物叢、経膣分娩又は帝王切開、母乳(授乳)又は人工乳の授乳、並びに抗生物質及び/又は他の薬物の投与。特に、帝王切開、人工乳、早産及び抗生物質の使用は、微生物叢中の有益な細菌(善玉菌)種の存在量(abundance)及び多様性を低減させ、ディスバイオシスの状態を促進する。これは、結果として、腸仙痛、早産新生児の壊死性腸炎の発病のリスク、及び晩年の免疫介在性疾患(アレルギー又は炎症性若しくは機能性腸疾患、及び/又は関連する症状など)の発症を増大させるおそれがある。
【0005】
現在、体重1,500g未満の早産新生児の約12%が壊死性腸炎を患い、約1/3が敗血症又は他の合併症で死亡している。
【0006】
生後数週間では、内臓の成熟が完全ではなく、その結果として内臓機能が子供又は成人(衰弱していたり、病気であったりする子供又は成人であっても)の機能に匹敵しないため、新生児は、生理学的に、「虚弱な(fragile)」成人にも、幼い子供にさえも匹敵しない。
【0007】
「腸内微生物叢」は、胃腸(gastro-enteric又はgastro-intestinal)環境に存在するすべての微生物(すべての細菌、古細菌、真核生物及びウイルス)を指す。
【0008】
微生物叢は、宿主生物に対して多くの有用な活動を行う。実際に、微生物叢を構成する微生物は、多糖類を分解して消化機能を補助し、ビタミンを合成し、病原性種の定着(colonisation)を阻害し、腸の発達に必要なシグナルを提供し、炎症及び免疫反応(応答)の調節に寄与する。多くの胃腸障害の病因は、他の器官系(systems)に影響を及ぼす障害と同様に、腸内微生物に対する異常な免疫学的反応(応答)であると考えられている。また、腸内微生物叢は、微生物叢が産生する代謝物及び腸細胞とともに障壁(バリア)を構成し、その機能不全は、病原微生物の感染のみならず多くの免疫介在性障害の病態生理に関与している。
【0009】
良好な健康状態を維持するためには、免疫系と腸内に存在する微生物とのバランスが保たれていることが必要である。したがって、このバランスの状態は、腸内微生物叢の組成に依存することも示されている。微生物叢がアンバランスであることは、用語「ディスバイオシス」として知られ、免疫系障害をもたらす可能性があり、腸内及び他の器官系内の両方に有害な影響を引き起こす。
【0010】
したがって、プロバイオティック菌株(プロバイオティック細菌株、probiotic bacterial strains)(すなわち、適切な量で投与されると健康上の利益をもたらす生きた微生物)の有益な効果は、主に、腸管バリアの透過性を正常化し、腸内微生物叢(intestinal microbiota)を整え(regularising)、そして微生物叢と免疫学的反応とのバランスを回復させることに起因する。
【0011】
本発明が取り組み解決する技術的課題は、新生児被験体及び/又は生後数か月以内(1か月から12か月以内;1か月は28日又は29日又は30日又は31日であってもよい。)の哺乳動物被験体において、炎症性又は機能性の胃腸疾患又は症状(例えば、腸仙痛、慢性腸炎など)及び病原微生物の胃腸感染又は寄生生物の胃腸感染の治療(処置)のための有効な解決策を提供することにある。
【0012】
さらに、本発明は、治療(処置)した被験体の晩年において、胃腸系に関連するアレルギー及び/又は免疫介在性若しくは自己免疫性障害(例えば、セリアック病)の発病を予防的に治療(処置)するという技術的課題に取り組み解決する。最後に、本発明の目的は、新生児及び/又は生後数か月以内の哺乳動物被験体の身体成長をサポート(支持)するための有効な解決策を提供することにある。
【0013】
本出願人は、研究開発活動に続いて、新生児及び/又は生後数か月以内の被験体において適切でラクトバチルス(特に、ラクトバチルス・パラカゼイ)に富む腸内微生物叢の発達に効果的にかつ効率的に寄与する、ラクトバチルス・パラカゼイ種に属する少なくとも1つの菌株(ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572及び/又はラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760など)、並びにそれらの組成物(要するに、本発明の組成物)を提供することにより、上述の技術的課題に取り組み解決する。
【0014】
ラクトバチルス属(genus Lactobacillus)の菌株(細菌株、strains of bacteria)のうち、ラクトバチルス・パラカゼイ種[ラクトバチルス・パラカゼイ株DG(Lactobacillus paracasei strain DG)(登録商標)CNCM I-1572及び/又はラクトバチルス・パラカゼイ株LPC-S01 DSM 26760など]は、プロバイオティック菌株として一般的に使用される種に属する。特に、L.パラカゼイ株DG(L. paracasei strain DG)(登録商標)CNCM I-1572は、その有益な特性に関して広く研究されている。しかし、新生児被験体及び/又は1か月から12か月以内の被験体に対するL.パラカゼイDG(L. paracasei DG)(登録商標)CNCM I-1572の効果は、現在まで研究されていなかった。
【0015】
留意すべきことは、Zhengらによって科学雑誌Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 70(4):2782-2858, 2020に発表されたラクトバチルス属の再分類を受けて、菌株L.カゼイDG(L. casei DG)(登録商標)(CNCM I-1572)又はL.パラカゼイDG(登録商標)(CNCM I-1572)が、2022年2月2日にラクチカゼイバチルス・パラカゼイDG(Lacticaseibacillus paracasei DG)I-1572 DSM 34154として再寄託されたことである。上述の2つの名称は、常に同じ菌株(細菌株)を指すため、互いに交換可能である。
【0016】
新生児時期(生後4週間)以内の被験体に投与される本発明によるL.パラカゼイ株DG(登録商標)CNCM I-1572及びL.パラカゼイ株LPC-S01 DSM 26760、それらの混合物及び組成物は、投与期間中及び/又は生後数か月の間、効果的にかつ効率的に腸管に定着できるようであり、腸内微生物叢と免疫系とのバランスを宿主にとって有益なものとし、かつ腸管バリアの透過性を強化する。
【0017】
最後に、本発明の菌株、それらの混合物及び組成物は、忍容性が良好であり、関連する副作用がなく、容易に調製され、かつ費用対効果が高い。
【0018】
これらの目的などは、以下の詳細な説明から明らかになり、添付の特許請求の範囲に係る技術的特徴により、本発明の組成物及び混合物によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1:臨床試験(clinical study)のスキーム。
【
図2】
図2A~2E:群(アーム、arm)1(分析対象の組成物;Tx)及び群2(プラセボ)において、V1~V5の予定来院(control visits)中に収集した糞便サンプル中のL.カゼイDG(登録商標)の定量化。
【
図3】
図3A~3D:V1~V5の予定来院の時点でのラクトバチルス種(Lactobacillus spp.)の相対存在量のヒストグラム。
【
図4】
図4:ブタン酸及びプロパン酸を含む、同定した代謝物を示す部分的最小二乗判別分析(PLS-DA)のメタボロームの優位性(metabolomic predominance)。
【
図5】
図5.試験デザインのフローチャート。60名の参加者を治験(clinical trial)に登録し、1:1の比で投与群の1つにランダム化(無作為化)した。プラセボ群のうち20名及び治療群のうち26名が試験を完了した。プラセボ群のうち20名の被験体及び治療群のうち26名の被験体が試験を完了した。
【
図6A】
図6.L.カゼイDG(LCDG)は、最初の投与の10日後から腸内で検出され、最終来院(last visit)(84日)まで持続したままであった。(A)箱ひげ図は、プラセボ群と治療群とを区別した、各経過観察(フォローアップ)時点のLCDG濃度を示す。
【
図6B】
図6.L.カゼイDG(LCDG)は、最初の投与の10日後から腸内で検出され、最終来院(last visit)(84日)まで持続したままであった。(B)データを被験体の出生体重に応じて層別化した:VLW(極低体重)、LW(低体重)、NW(正常体重)。L.カゼイDG濃度(CFU/mL)の中央値、25パーセンタイル、75パーセンタイル、最小値及び最大値を、各群について示した。上部のバーは、統計的に有意な比較を表す(p値<0.05)。
【
図8A】
図8.LCDG治療は、腸内マイクロバイオーム(gut microbiome)の異種性(heterogeneity)を維持することができた。(A)10日目、28日目、56日目及び84日目(それぞれ、V2、V3、V4及びV5)でのプラセボ群と治療群との間のα多様性分析(解析)。
【
図8B】
図8.LCDG治療は、腸内マイクロバイオームの異種性を維持することができた。(B)β多様性分析(解析)。多様性マトリックスを、プラセボ群と治療群との間の様々な時点でのPCoAとして表されるUnweighted UniFracアルゴリズムを用いて得た。
【
図8C】
図8.LCDG治療は、腸内マイクロバイオームの異種性を維持することができた。(C)様々な時点での比較に適用した門(phylum)レベルでのOTU分布及びクラスカル・ウォリス検定のヒストグラム。
【
図8D】
図8.LCDG治療は、腸内マイクロバイオームの異種性を維持することができた。(D)すべての時点でのラクトバチルス種の相対存在量を示すヒストグラム。
【
図9A】
図9.LCDGの投与は短鎖脂肪酸(SCFA)の濃度を増大させた。代謝物分析を、各時点でのプラセボ群と治療群とを比較する部分的最小二乗判別分析(PLS-DA;左:スコアグラフ;右:VIPスコア)として示す。(A)V1。
【
図9B】
図9.LCDGの投与は短鎖脂肪酸(SCFA)の濃度を増大させた。代謝物分析を、各時点でのプラセボ群と治療群とを比較する部分的最小二乗判別分析(PLS-DA;左:スコアグラフ;右:VIPスコア)として示す。(B)V2。
【
図9C】
図9.LCDGの投与は短鎖脂肪酸(SCFA)の濃度を増大させた。代謝物分析を、各時点でのプラセボ群と治療群とを比較する部分的最小二乗判別分析(PLS-DA;左:スコアグラフ;右:VIPスコア)として示す。(C)V3。
【
図9D】
図9.LCDGの投与は短鎖脂肪酸(SCFA)の濃度を増大させた。代謝物分析を、各時点でのプラセボ群と治療群とを比較する部分的最小二乗判別分析(PLS-DA;左:スコアグラフ;右:VIPスコア)として示す。(D)V4。
【
図9E】
図9.LCDGの投与は短鎖脂肪酸(SCFA)の濃度を増大させた。代謝物分析を、各時点でのプラセボ群と治療群とを比較する部分的最小二乗判別分析(PLS-DA;左:スコアグラフ;右:VIPスコア)として示す。(E)V5。
【
図10A】
図10.LCDGの投与は、微生物叢の生態(ecology)及び機能の両方に影響を与え、腸内に存在する細菌の生態的地位(ecological niches)及び対応する機能的プロファイル(functional profile)を変化させた。ラクトバチルス・パラカゼイと、代謝物と、OTUとの間の28日での相関分析(V3;治療の終了)。(A)代謝物とラクトバチルス・パラカゼイ(CFU/mL)との間の相関のヒートマップ。
【
図10B】
図10.LCDGの投与は、微生物叢の生態及び機能の両方に影響を与え、腸内に存在する細菌の生態的地位及び対応する機能的プロファイルを変化させた。ラクトバチルス・パラカゼイと、代謝物と、OTUとの間の28日での相関分析(V3;治療の終了)。(B)OTUとL.パラカゼイ(CFU/mL)との間の相関のヒートマップ。
【
図10C】
図10.LCDGの投与は、微生物叢の生態及び機能の両方に影響を与え、腸内に存在する細菌の生態的地位及び対応する機能的プロファイルを変化させた。ラクトバチルス・パラカゼイと、代謝物と、OTUとの間の28日での相関分析(V3;治療の終了)。(C)OTUと代謝物との間の相関のヒートマップ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
本発明の目的は、新生児仙痛又は腸仙痛、慢性腸炎又は早産新生児の慢性腸炎、壊死性腸炎、敗血症、過敏性腸症候群(略してIBS)、主に便秘(prevalent constipation)を伴う又は便秘型腸(constipated bowel)のIBS、主に下痢(prevalent diarrhoea)を伴う又は下痢型腸(diarrhoeic bowel)のIBS、交代型腸(alternating bowel)のIBS、未分類のIBS、又は慢性炎症性腸疾患(IBD)(クローン病など)、潰瘍性直腸結腸炎、喘息、肥満、1型糖尿病、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、癌及び自閉症などの炎症性及び/又は機能性の消化管障害の治療(処置)、予防及び/又は治癒において、新生児被験体(生後4週間)及び/又は1か月から12か月以内の被験体に使用するための、ラクトバチルス・パラカゼイ種に属する少なくとも1つの菌株、好ましくは、ラクトバチルス・パラカゼイ株DG(登録商標)CNCM I-1572及び/又はラクトバチルス・パラカゼイ株LPC-S01 DSM 26760、本発明の以下に示されるそれらの混合物又は組成物(要するに、本発明の混合物又は組成物)である。
【0021】
好ましくは、本発明の株、それらの混合物又は組成物は、新生児仙痛又は早産新生児の慢性腸炎又は壊死性腸炎の治療、予防及び/又は治癒において、新生児被験体及び/又は1か月から12か月以内の被験体に使用するためのものである。
【0022】
本発明の目的は、病原微生物[例えば、ウイルス(ロタウイルス、アデノウイルス・エンテリカス(Adenovirus entericus)、カリシウイルス、アストロウイルス、インフルエンザウイルスなど)又は細菌(サルモネラ、赤痢菌、ブドウ球菌、カンピロバクター、大腸菌など)]の胃腸感染、寄生生物の[好ましくは、蠕虫又は回虫(例えば、蟯虫(Ossiuri)、ジアルジアなど)によって生じる]胃腸感染、アレルギー、免疫介在性又は自己免疫性障害[例えば、セリアック病、グレーブス病、関節リウマチ、橋本甲状腺炎、1型糖尿病、全身性エリテマトーデス(狼瘡)、脈管炎、アジソン病、多発性筋炎、シェーグレン症候群、進行性全身性硬化症、糸球体腎炎(腎臓の炎症)、不妊、喘息、肥満、1型糖尿病、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、癌及び自閉症]の治療、予防及び/又は治癒において、新生児被験体(生後4週間)及び/又は1か月から12か月以内の被験体に使用するための、ラクトバチルス・パラカゼイ種に属する少なくとも1つの菌株、好ましくは、ラクトバチルス・パラカゼイ株DG(登録商標)CNCM I-1572及び/又はラクトバチルス・パラカゼイ株LPC-S01 DSM 26760、本発明の以下に示されるそれらの混合物又は組成物(要するに、本発明の混合物又は組成物)にある。
【0023】
本発明の目的は、被験体の成長のサポート(補助)治療において、新生児被験体(生後4週間)及び/又は1か月から12か月以内の被験体に使用するための、ラクトバチルス・パラカゼイ種に属する少なくとも1つの菌株、好ましくは、ラクトバチルス・パラカゼイ株DG(登録商標)CNCM I-1572及び/又はラクトバチルス・パラカゼイ株LPC-S01 DSM 26760、本発明の以下に示されるそれらの混合物又は組成物(要するに、本発明の混合物又は組成物)であり、被験体の成長は、投与された被験体の体重の増加として理解され、g/週として評価される。
【0024】
ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)(イタリア国ソファー・エッセ・ピ・ア(SOFAR S.p.A.)の登録商標)として同定された菌株は、パリにあるパスツール研究所の国立微生物寄託機関(the National Collection of Cultures of Microorganisms of the Institut Pasteur)に、ソファー・エッセ・ピ・アによって1995年5月5日に受託番号(accession number)CNCM I-1572で、ソファー・エッセ・ピ・アにより寄託された(要するに、DG(登録商標)又はL.パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572)。当初、この株は、ラクトバチルス・カゼイDG(登録商標)サブ・カゼイ(Lactobacillus casei DG(R) sub. casei)という名前であり、後に、ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572として再分類された。ラクトバチルス・カゼイDG(登録商標)又はラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)の名称にかかわらず、常に唯一の同じ菌株であることは明らかである。
【0025】
ラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01(あるいはラクトバチルス・パラカゼイS01と命名される)として同定された菌株は、ドイツ微生物細胞培養コレクション(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)(DSMZ)に、ソファー・エッセ・ピ・アによって2012年11月20日に受託番号DSM 26760で寄託された(要するに、LPC-S01又はL.パラカゼイLPC-S01 DSM 26760)。本出願人によって採用されたラクトバチルス・パラカゼイS01 DSM 26760又はラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760の名称にかかわらず、常に唯一の同じ菌株であることは明らかである。
【0026】
本発明の方法又は治療に使用するための本発明の前記組成物は、(i)ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572及び/又はラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760を含むか、あるいはそれらからなる、本発明の混合物M、並びに必要に応じて(ii)食品グレード(food grade)又は医薬品グレード(pharmaceutical grade)の少なくとも1つの添加物(添加剤)及び/又は賦形剤を含む。
【0027】
本発明の一態様によると、本発明の組成物に含まれる前記混合物Mは、
・ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572及び/又はラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760、並びに
・以下からなる群(I)より選択される少なくとも1つのさらなる菌株:
(a)ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)BbIBS01 DSM 33231、
(b)ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS02 DSM 33232、
(c)ビフィドバクテリウム・アニマリス・亜種・ラクティス(Bifidobacterium animalis subsp. lactis)BlIBS01 DSM 33233、
(d)ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)LpIBS01 DSM 33234、
(e)ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)BbfIBS01 DSM 32708、及び
それらの混合物
を含むか、又はこれらからなっていてもよい。
【0028】
ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS01として同定されたビフィドバクテリウム・ブレーベ種に属する菌株は、ドイツ微生物細胞培養コレクション(DSMZ)に、ソファー・エッセ・ピ・アによって2019年7月31日に寄託番号(deposit number)DSM 33231で寄託された(要するに、BbIBS01又はB.ブレーベ(B. breve)BbIBS01 DSM 33231)。
【0029】
ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS02として同定されたビフィドバクテリウム・ブレーベ種に属する菌株は、ドイツ微生物細胞培養コレクション(DSMZ)に、ソファー・エッセ・ピ・アによって2019年7月31日に寄託番号DSM 33232で寄託された(要するに、BbIBS02又はB.ブレーベBbIBS01 DSM 33232)。
【0030】
ビフィドバクテリウム・アニマリス・亜種・ラクティスBlIBS01として同定されたビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)種に属する菌株は、ドイツ微生物細胞培養コレクション(DSMZ)に、ソファー・エッセ・ピ・アによって2019年7月31日に寄託番号DSM 33233で寄託された(要するに、BlIBS01又はB.アニマリス・亜種・ラクティス(B. animalis subsp. lactis)BlIBS01 DSM 33233)。
【0031】
ラクトバチルス・プランタルムLpIBS01として同定されたラクトバチルス・プランタルム種に属する菌株は、ドイツ微生物細胞培養コレクション(DSMZ)に、ソファー・エッセ・ピ・アによって2019年7月31日に寄託番号DSM 33234で寄託された(要するに、LpIBS01又はL.プランタルム(L. plantarum)LpIBS01)。
【0032】
ビフィドバクテリウム・ビフィダムMIMBb23sg = BbfIBS01として同定されたビフィドバクテリウム・ビフィダム種に属する菌株又はその誘導体(derivative)。前記菌株は、ドイツ微生物細胞培養コレクション(DSMZ)に、ソファー・エッセ・ピ・アによって2017年12月4日に寄託番号DSM 32708で寄託された(要するに、BbfIBS01又はビフィドバクテリウム・ビフィダムBbfIBS01 DSM 32708)。本出願人によって採用されたビフィドバクテリウム・ビフィダムBbfIBS01 DSM 32708又はビフィドバクテリウム・ビフィダムMIMBb23sg DSM 32708の名称にかかわらず、常に唯一の同じ菌株であることは明らかである。
【0033】
本発明に記載の菌株(すなわち、DG(登録商標)、LPC-S01、BbIBS01、BbIBS02、BlIBS01、LpIBS01及びBbfIBS01)はすべて、ブダペスト条約の規定に従って寄託された。本特許出願に記載の及び/又は本特許出願に係る菌株の寄託者、並びに本特許出願の所有者は、ここに、本特許の存続期間中、このようなすべての株を利用可能にすることに同意を表明する。
【0034】
有利には、本発明の組成物に含まれる前記菌株(すなわち、DG(登録商標)、LPC-S01、BbIBS01、BbIBS02、BlIBS01、LpIBS01及びBbfIBS01)は、生存可能な菌株(viable bacterial strains)(プロバイオティクス)である。あるいは、本発明の前記菌株は、本発明に定義されるような生存可能な株の誘導体であってもよい。
【0035】
本発明の文脈において、菌株の用語「誘導体」(又は生存可能な菌株の「誘導体」)は、例えば、間欠滅菌した(tyndallized)菌株、超音波処理した菌株、放射線(好ましくは、ガンマ放射線)による不活性化菌株、菌株のライセート(溶解産物、溶解物、崩壊産物又は崩壊物)又はホモジネート(破砕物)、菌株抽出物又は壁画分(wall fraction)、菌株によって生成された代謝物又は代謝性バイオ産物(metabolic bioproducts)又は菌体外多糖(EPS)及び/又は当業者に公知の任意の他の菌株の誘導体産物(derivative product)などのポストバイオティック(postbiotic)又はパラバイオティック(parabiotic)を意味すると理解される。前記誘導体は、当業者に公知の方法論に従って得られる。好ましくは、菌株の用語「誘導体」は、間欠滅菌した株、超音波処理した株、放射線(好ましくは、ガンマ放射線)による不活性化株、菌株のライセート又はホモジネート、菌株抽出物又は壁画分(parietal fraction)を意味し、より好ましくは、間欠滅菌した株を意味する。
【0036】
混合物Mに含まれる菌株(En)と、必要に応じて群(II)から選択される少なくとも1つのプロバイオティック(probiotic)及び/又は群(III)から選択されるさらなる活性成分とを含む混合物の例(ここで、前記混合物Mは本発明の組成物に含まれる。)としては、以下のものが挙げられる:
E1:DG(登録商標)及びLPC-S01、
E2:DG(登録商標)及び群(I)から選択される少なくとも1つの株、
E3:LPC-S01及び群(I)から選択される少なくとも1つの株、
E4:DG(登録商標)及び/又はLPC-S01、並びにBbfIBS01、並びに群(I)から選択される少なくとも1つの株、
E5:DG(登録商標)及び/又はLPC-S01、並びにBbIBS01、BbIBS02、BlIBS01及びLpIBS01の混合物、
E6:DG(登録商標)及び/又はLPC-S01、BbfIBS01、並びにBbIBS01、BbIBS02、BlIBS01及びLpIBS01の混合物。
【0037】
本発明の組成物に含まれる混合物Mは、株L.パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572及び/又はL.パラカゼイLPC-S01 DSM 26760、並びに必要に応じて群(I)から選択される少なくとも1つの又は複数の菌株及び/又は以下に記載の群(III)から選択される少なくとも1つのさらなる活性成分に加えて、少なくとも1つのプレバイオティック(prebiotic)をさらに含んでいてもよく、前記プレバイオティックは、好ましくは、イヌリン、フラクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖(GOS)、キシロオリゴ糖(xylitol-oligosaccharide)(XOS)、グアーガム、ラクトフェリン及びそれらの混合物からなる群(II)より選択され、好ましくは、イヌリンである。
【0038】
有利には、本発明の組成物に含まれる混合物Mは、L.パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572及び/又はL.パラカゼイLPC-S01 DSM 26760並びにイヌリンを含むか、あるいはそれらからなり、好ましくは、L.パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572及びイヌリンを含むか、あるいはそれらからなる。
【0039】
本発明の組成物に含まれる混合物Mは、L.パラカゼイ株DG(登録商標)CNCM I-1572及び/又はL.パラカゼイLPC-S01 DSM 26760、並びに必要に応じて群(I)から選択される少なくとも1つの又は複数の菌株及び/又は群(II)から選択される少なくとも1つのプレバイオティクスに加えて、
・ビタミンA群、B群、C群、D群、E群及び/又はK群、好ましくは、ビタミンB群及び/又はビタミンD群、
・グルタチオン、レスベラトロール及びtrans-レスベラトロールなどのポリフェノール、コエンザイムQ10、アスタキサンチン、リコペンなどの抗酸化物質、
・バレリアン、パッションフラワー、レモンバーム、セイヨウサンザシ(ホーソン)、カモミールなどの腸弛緩作用を有する植物物質(ボタニカル、botanicals)又はその抽出物、
・ミネラル又はその塩、例えば、亜鉛、セレン、マグネシウム、カリウム、
・オメガ9などの一不飽和脂肪酸(一価不飽和脂肪酸)、並びに/又はオメガ3及びオメガ6などの多不飽和脂肪酸(多価不飽和脂肪酸)、
・免疫賦活物質、下痢止め物質及び/又は栄養素、並びに
それらの混合物。
からなる群(III)より選択される少なくとも1つのさらなる活性成分をさらに含んでいてもよい。
【0040】
有利には、本発明の組成物に含まれる混合物Mは、L.パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572及び/又はL.パラカゼイLPC-S01 DSM 26760、並びにビタミンB群及びビタミンD群を含むか、あるいはそれらからなり、好ましくは、L.パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572及びビタミンB群及びビタミンD群を含むか、あるいはそれらからなる。
【0041】
本発明の文脈において、前記菌株とともに、本発明の組成物に必要に応じて含まれる食品グレード又は医薬品グレードの許容可能な「添加物(additive)及び/又は賦形剤(excipient)」は、固形状、半固形状又は液状の組成物を調製するための当業者に公知のすべての補助物質を含み、補助物質としては、例えば、担体、希釈剤、溶媒、可溶化剤、酸性化剤、増粘剤、甘味料、香料、着色料、甘味料、滑沢剤、界面活性剤、防腐剤(保存剤)、安定化剤、pH安定化緩衝剤及びそれらの混合物などが挙げられる。例えば、新生児又は1~12か月の被験体に経口投与するための液滴(ドロップ)状(drops form)組成物の場合、種子油を希釈剤として用いてもよい。
【0042】
本発明の前記混合物M又は組成物は、記載された実施形態のいずれか1つによれば、医薬組成物(又は腸内細菌製剤(Live Biotherapeutic Products))、医療機器(medical device)用組成物、フードサプリメント(food supplement)用組成物、食品(又は新規食品又は特殊医療用食品(FSMP))、フードサプリメント又は食品用組成物であってもよい。
【0043】
本発明の菌株、それらの混合物及び組成物は、記載された実施形態のいずれか1つによれば、経口又は経鼻投与用に製剤化されてもよく、好ましくは、経口用途用に、固形状に、あるいは液状に、例えば、水性又は油性(例えば、様々な種子油又はヒマワリ種子油)ベースの液滴状に製剤化されてもよい。
【0044】
有利には、前記少なくとも1つの菌株又は各菌株は、本発明のM混合物又は組成物の1日用量(daily dose)に関して、10×106CFU~10×1012CFU、好ましくは、10×108CFU~10×1010CFUの範囲の濃度で、より好ましくは、約10×108CFU又は10×109CFU(CFU:コロニー形成単位(Colony Forming Unit))の濃度で、本発明の混合物M中又は組成物中に存在する。
【0045】
例えば、本発明の混合物又は組成物(例えば、経口投与用液滴)の1日用量は、L.パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572の生菌(live bacteria)1×109個以上、及び種子油を含む。
【0046】
上記1日投与量(daily dosages)は、それを必要としている被験体に、個々の用量(単回用量)で又は反復用量で、例えば、1日2回、3回若しくは4回の用量で投与されてもよい。例えば、1日2回の15~5滴(油ベース)、好ましくは、12~8滴、例えば、約9~10滴の本発明の組成物は、約20億個の菌株、好ましくは、L.パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572に相当する。
【0047】
本発明の組成物又は混合物M中の生菌株(live bacterial strains)の数を評価するために、これらの組成物又は混合物Mをプレートカウント法(plate count method)によって分析して、CFU値を測定できる。
【0048】
明確にする目的で、本発明の目的を達成するために、本発明の混合物(M)に含まれる菌株(単数又は複数)、プレバイオティクス及び/又はさらなる(任意の)活性成分は、別々に(好ましくは、30分~60分の時間間隔で)かつ任意の順番で投与されてもよいが、好ましくは、被験体に同時に投与され、さらにより好ましくは、より迅速な効果を得るため、かつ投与を容易にするために、単一の組成物で投与される。前記株及び(任意の)活性成分が単一の組成物で投与される場合、前記単一の組成物は、本発明の組成物に相当する。
【0049】
特に断りのない限り、「x~yの範囲内」の量の成分を含む組成物又は混合物などの表現は、前記成分が、組成物などの中に、前記範囲にあるすべての量で存在してもよいことを意味し、明示的に記載されていないとしても、範囲の両端の値は含まれる。
【0050】
特に断りのない限り、組成物が1又は複数の成分又は物質を「含む(comprises)」という記載は、具体的に記載された成分又は物質(単数又は複数)に加えて他の成分又は物質が存在していてもよいことを意味する。
【0051】
本発明の文脈において、「治療方法(method of treatment)」は、それを必要としている被験体への介入(intervention)を意味し、本発明の菌株又は組成物を治療有効量で被験体へ投与することを含み、病状(pathology)又は疾患及び関連する症状又は障害の除去(elimination)、低減/縮小(reduction/decrease)、又は予防(prevention)をその目的とする。
【0052】
本発明の文脈において、用語「被験体(単数又は複数)」は、哺乳動物(動物及びヒト)、好ましくは、新生児時期(0~4週齢)及び/又は生後1か月から12か月以内(2か月目の始めから12か月目の終わりまで)のヒト被験体を指す。
【0053】
有利には、本発明の株又は混合物又は組成物で治療又は投与される被験体は、帝王切開及び/又は早産により生まれた新生児被験体又は生後1か月~12か月以内の被験体であってもよい。
【0054】
用語「治療有効量」は、組織、系統(器官)、哺乳動物又はヒトにおける生物学的又は医学的反応(応答)を誘発する活性化合物及び/又は菌株の量を指し、個人、研究員、獣医師、医師又は他の臨床医若しくは医療従事者によって求められかつ定義される。
【0055】
本発明の文脈において、用語「医療機器」は、1997年2月24日の政令第46号(Legislative Decree No. 46 of 24 February 1997)に基づくか又は新医療機器規則(EU)2017/745(MDR)(new Medical Device Regulation (EU) 2017/745 (MDR))に基づく意味で用いられる。
【0056】
本発明の文脈において、用語「新規食品」は、1997年のEC規則258(EC Regulation 258 of 1997)に基づく意味で用いられる。
【0057】
実施形態
本発明の好ましい実施形態FRnは、以下のとおりである。
【0058】
FR1.炎症性及び/又は機能性の消化管障害を有する被験体の治療、予防及び/又は治癒において、
新生児被験体、生後4週間以内の被験体、及び/又は1か月から12か月以内の被験体に使用するための菌株又は組成物であって、
このような障害が、新生児仙痛、腸仙痛、慢性腸炎又は早産新生児の慢性腸炎、壊死性腸炎、敗血症、過敏性腸症候群(IBS)、主に便秘を伴う又は便秘型腸のIBS、主に下痢を伴う又は下痢型腸のIBS、交代型腸のIBS、未分類のIBS、慢性炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性直腸結腸炎、喘息、肥満、1型糖尿病、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、癌、自閉症、アレルギー、免疫介在性・自己免疫性障害を含むか、あるいはそれらからなる群より選択され、前記免疫介在性・自己免疫性障害が、セリアック病、グレーブス病、関節リウマチ、橋本甲状腺炎、1型糖尿病、全身性エリテマトーデス(狼瘡)、脈管炎、アジソン病、多発性筋炎、シェーグレン症候群、進行性全身性硬化症、糸球体腎炎(腎臓の炎症)、不妊及び前記被験体の体重増加のサポートから選択され、
前記菌株が、ラクトバチルス・パラカゼイ種に属し、
前記組成物が、
(i)ラクトバチルス・パラカゼイ種に属する少なくとも1つの株を含むか、あるいはそれらからなる混合物M、並びに
(ii)食品グレード又は医薬品グレードの少なくとも1つの添加物及び/又は賦形剤
を含む、
菌株又は組成物。
【0059】
FR2.前記菌株が、ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572、ラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760及びそれらの混合物から選択され、
前記組成物が、
(i)ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572及び/又はラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760を含むか、あるいはそれらからなる混合物M、並びに
(ii)食品グレード又は医薬品グレードの少なくとも1つの添加物及び/又は賦形剤
を含む、
FR1に記載の使用のための株又は組成物。
【0060】
FR3.前記株又は組成物が、新生児仙痛若しくは腸仙痛、又は慢性腸炎若しくは早産新生児の慢性腸炎の治療、予防及び/又は治癒において、新生児被験体及び/又は1か月から12か月未満の被験体に使用される、FR1又はFR2に記載の使用のための株又は組成物。
【0061】
FR4.前記株又は組成物が、病原微生物の胃腸感染又は寄生生物の胃腸感染の治療、予防及び/又は治癒において、新生児被験体及び/又は1か月から12か月以内の被験体に使用される、FR1又はFR2に記載の使用のための株又は組成物。
【0062】
FR5.前記株又は組成物が、アレルギーの治療、予防及び/又は治癒において、新生児被験体及び/又は1か月から12か月以内の被験体に使用される、FR1又はFR2に記載の使用のための株又は組成物。
【0063】
FR6.前記株又は組成物が、セリアック病、グレーブス病、関節リウマチ、橋本甲状腺炎、1型糖尿病、全身性エリテマトーデス(狼瘡)、脈管炎、アジソン病、多発性筋炎、シェーグレン症候群、進行性全身性硬化症、糸球体腎炎(腎臓の炎症)及び不妊などの免疫介在性・自己免疫性障害の治療、予防及び/又は治癒において、新生児被験体及び/又は1か月から12か月以内の被験体に使用される、FR1又はFR2に記載の使用のための株又は組成物。
【0064】
FR7.前記株又は組成物が、被験体の体重増加をサポートする治療、予防及び/又は治癒において、新生児被験体及び/又は1か月から12か月以内の被験体に使用される、FR1又はFR2に記載の使用のための株又は組成物。
【0065】
FR8.前記(i)混合物Mが、
ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572及び/又はラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760、並びに
・ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS01 DSM 33231、
・ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS02 DSM 33232、
・ビフィドバクテリウム・アニマリス・亜種・ラクティスBlIBS01 DSM 33233、
・ラクトバチルス・プランタルムLpIBS01 DSM 33234、
・ビフィドバクテリウム・ビフィダムBbfIBS01 DSM 32708、及び
それらの混合物
からなる群より選択される少なくとも1つのさらなる菌株
を含むか、あるいはそれらからなる、FR1~7のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
【0066】
FR9.前記(i)混合物Mが、
・ビタミンA群、B群、C群、D群、E群及び/又はK群から選択される少なくとも1つのビタミン、好ましくは、ビタミンB群及び/又はビタミンD群、
・グルタチオン、レスベラトロール及びtrans-レスベラトロールなどのポリフェノール、コエンザイムQ10、アスタキサンチン、リコペンなどの抗酸化物質、
・腸弛緩作用を有する植物物質、ボタニカル(植物粗加工物又は植物由来物)又はそれらの抽出物、好ましくは、バレリアン、パッションフラワー、レモンバーム、セイヨウサンザシ及びカモミールから選択される植物物質、ボタニカル又はそれらの抽出物、
・ミネラル又はその塩、例えば、亜鉛、セレン、マグネシウム、カリウム、
・オメガ9などの一不飽和脂肪酸、並びに/又はオメガ3及びオメガ6などの多不飽和脂肪酸、
・免疫賦活物質、下痢止め物質及び/又は栄養素、
・少なくとも1つのプレバイオティック、好ましくは、イヌリン、フラクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖(GOS)、キシロオリゴ糖(XOS)、グアーガム、ラクトフェリン及びそれらの混合物からなる群(II)より選択される少なくとも1つのプレバイオティック、より好ましくは、イヌリン、
並びにそれらの混合物
から選択される少なくとも1つのさらなる活性成分をさらに含む、FR1~8のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
【0067】
FR10.前記株が、生存可能な菌株又は菌株の誘導体であり、前記菌株の誘導体が、間欠滅菌した菌株、超音波処理した菌株、放射線(好ましくは、ガンマ放射線)による不活性化菌株、ライセート又はホモジネートした菌株、菌株抽出物又は壁画分から選択され、好ましくは、間欠滅菌した菌株である、FR1~9のいずれか1つに記載の使用のための株又は組成物。
【0068】
実験(EXPERIMENTAL PART)
本出願人は、生後3か月以内の宿主の腸内微生物叢に対して、ラクトバチルス・パラカゼイDG株(登録商標)CNCM I-1572プロバイオティック(生存可能な細胞(viable cells))の投与の効果を評価するために、新生児における臨床試験(clinical study)を実施した。
【0069】
1.臨床試験の目的
試験の主要目的:
L.パラカゼイ株CNCM I-1572を含む、経口投与用の液滴状(油ベース)の本発明の組成物(要するに、分析対象の組成物)を28日間補給(supplementation)して、試験対象集団(study population)におけるラクトバチルス・パラカゼイCNCM I-1572の濃度換算で、糞便腸内微生物叢(faecal gut microbiota)の組成が変化するかどうかを評価すること。
【0070】
分析対象の組成物:
ヒマワリ種子油(Heliantus annuus L.)、DL-α-トコフェロール、ラクトバチルス・パラカゼイCNCM I-1572(8mlあたり140億個以上の生細胞)。
【0071】
試験の副次的目的:
分析対象の組成物を28日間摂取して、以下について評価すること:
・摂取の56日後及び84日後での微生物叢系(microbiota system)の生態予測による、糞便腸内微生物叢の組成(リアルタイムPCR)の変化、
・摂取の28日後、56日後及び84日後での微生物叢系の生態予測による、糞便腸内微生物叢の機能活性の変化(メタボロミクス)、
・便の量及び質(頻度及び硬さ(consistency))の変化、
・Rome IV基準に従って定義された新生児仙痛の発生、
・製品(product)の安全性及び忍容性、
・患者の成長。
【0072】
2.試験の構成
調査のタイミング(
図1)
・登録期間:24週、
・治療期間:4週、
・経過観察期間:8週、
・患者あたりの試験の期間:12週(84日)、
・総試験期間:36週。
【0073】
3.試験デザイン
ランダム化プラセボ対照二重盲検単一施設臨床試験。新生児を、出生体重によって3つの群に層別化した:
・正出生体重(>2500g、NBW)、
・低出生体重(1500~2500g LBW)、
・極低出生体重(1000~1500g、VLBW)。
【0074】
治験(trial)を、唯一の参加及び調整施設(participating and coordinating centre)として、ローマにあるカジリーノ総合病院新生児科のU.O.(the U.O. of Neonatology of the Policlinico Casilino)で実施した。
【0075】
3.1.試験対象集団
試験には、以下のように分けられた60名の早産及び正期産新生児を登録した:20名のNBW、20名のLBW、20名のVLBW。
【0076】
3.2 介入の種類
登録した60名の被験体を、3つの群のそれぞれにおいて、1:1の比で2つの群にランダム化した(無作為に割り当てた)。
【0077】
群1:
液滴状の試験組成物、1日2回9滴、L.パラカゼイDG(登録商標)(CNCM I-1572)の20億CFU(コロニー形成単位)に相等、4週間(28日)。
【0078】
群2:
対照:プラセボ、1日2回9滴、4週間(28日)。
【0079】
3.3 試験期間
12週の期間により、分析対象の組成物の摂取によって測定されたL.カゼイDG株(登録商標)(ラクトバチルス・パラカゼイCNCM I-1572)の持続性に基づいて腸内微生物叢の変化を評価することができる。この12週の期間を、4週の治療期間と8週の経過観察期間とに分ける。およそ24週の登録期間を含めて、試験の合計期間は36週になる。
【0080】
4.試験の被験体の選択
4.1 適格基準
・生後0~48時間、
・出生体重1000g以上の男女の新生児、
・帝王切開による新生児。
【0081】
4.2 除外基準(主要なもののみを含む)
・経膣分娩、
・超低出生体重(ELBW)(<1000g)、
・全身感染が確立しているか又はその疑いがある、
・治療を妨げるおそれがあると治験責任医師が判断した重度の病状、
・試験の開始以降に、新生児又は授乳中の母親による治験製品以外のプロバイオティクスの摂取、
・出生時から試験期間全体にわたる抗生物質を用いた全身療法又は予防法(NBWのみ)、
・出生前30日間及び試験期間全体にわたる、(NBW新生児の)授乳中の母親による抗生物質を用いた全身療法又は予防法。
【0082】
新生児は、処方された治療の少なくとも80%及び120%を超えない場合に、治験実施計画書に適合した集団(Per Protocol population)に適格であるとみなされる。
【0083】
5.手順及び方法
可能であれば便サンプルの状況に応じた収集(contextual collection)を伴う、予定来院:
V1 1日目(生後0~48時間)、V2 10日目(±2日)、V3 28日目(±3日)、V4 56日目(±3日)、V5 84日目(±3日)(
図1)。
【0084】
さらに、試験中、親(両親)から受け取った糞便サンプルを、以下のスキームに従って提供した(各来院前24時間以内に収集した1サンプル):
【0085】
治療前:
・生後48時間以内の糞便、及び入手可能である場合は、胎便。
【0086】
治療期において:
・摂取開始から10日後の糞便、
・摂取開始から28日後の糞便、
経過観察期において:
・摂取開始から56日後の糞便、
・摂取開始から84日後の糞便、
【0087】
糞便サンプルの化学物理分析:
・L.カゼイ株DG(登録商標)(ラクトバチルス・パラカゼイCNCM I-1572)の細菌数を評価するためのリアルタイムPCR分析、
・プロバイオティックの投与前及び投与後の腸内微生物叢を特徴付けるためのメタゲノミクス及びメタボロミクス分析。
【0088】
具体的には、微生物叢を、細菌のリボソームサブユニット16S rRNAをコードする遺伝子の一部のヌクレオチド配列分析によって分析した。具体的には、以下の工程からなるメタゲノム戦略(metagenomic strategy)を採用する:
・糞便サンプルからのメタゲノムDNAの抽出、定量化及び正規化(normalisation)、
・16S rRNAをコードする細菌遺伝子のV3-V4超可変領域(hypervariable regions)のPCR増幅、
・PCR産物の定量化、
・Illumina MiSeq技術による配列決定、
・バイオインフォマティクス(bioinformatic)配列分析(微生物群集のキャラクタリゼーション、階層的クラスタリング(hierarchical clustering)、分類学的分析(taxonomic analysis)、ヒートマップによる系統樹解析(分析)(phylogenetic dendrograms)の構築)。
【0089】
メタボローム解析(分析)のために、揮発性有機化合物(VOC)として産生された微生物由来の代謝物を同定し、定量化した。これらの化合物を、GC-MS/SPME(固相マイクロ抽出によるガスクロマトグラフィー-質量分析法)システムを用いて抽出した。VOC抽出のために、カルボキシ-ポリジメチルシロキサン(CAR-PDMS)被覆繊維(85μm)を、SPMEプロセスにおいて使用した。3回ずつ分析した各サンプルから、平均100~500mgを10mlガラスバイアルに入れ、内部標準(IS)として4-メチル-2-ペンタノールを添加した。続いて、糞便サンプルを45℃で10分間平衡化した。5973C質量選択検出器に接続しかつSupelcowax 10キャピラリーカラムを備えたGC-MS(Hewlett Packard 6890 GC)に注入する前に、繊維を各サンプルに45分間曝露した。代謝物を、純粋化合物に対するその代謝物の保持時間(Rt)を用いて同定する。フラグメントパターンをNISTライブラリのフラグメントパターンと比較し、その後手動で目視検査することによって、クロマトグラムを統合及び同定する。定量的な代謝物データを、IS領域に対する相対領域を補間(interpolation)することによって得る。
【0090】
6.有効性(effectiveness)及び安全性の評価
6.1.有効性の評価
主要評価項目
・リアルタイムPCRによる28日目のL.カゼイDG(登録商標)の細菌ゲノム数。
【0091】
副次的評価項目
・28日目、56日目及び84日目の腸内微生物叢(α多様性及びβ多様性)のディスバイオシスの指標、
・56日目及び84日目のL.カゼイDG(登録商標)細菌ゲノム数、
・新生児用のアムステルダム便スケール(Amsterdam stool scale for newborns)を用いて、来院(1日目、10日目、28日目、56日目、84日目)前日の排便の回数、硬さ、量及び色、
・糞便(1日目、10日目、28日目、56日目、84日目)の化学物理分析、
・28日目、56日目、84日目の微生物叢の全体的な代謝プロファイルの変化を評価することによる、ボラチローム(volatilome)、すなわち、揮発性糞便中代謝物(化学物質カテゴリー:短鎖脂肪酸(SCFA)、アルコール、ケトン、アルデヒド、チオール、酸、エステル、ピラジン、ピリジン、フェノール、フラン、テルペン、アルカン、アルケンなど)、の定量的評価、
・「Rome IV」診断基準に基づく仙痛の存在の評価、
・有害事象の評価。
【0092】
7.統計分析
統計的手法
カテゴリーデータ(カテゴリカルデータ)を、カウント(数)及びパーセンテージとして表し、一方、連続データ(連続型データ)を、平均値及び標準偏差又は中央値及び範囲として表す。
【0093】
カテゴリーデータの比較を、適宜、カイ二乗検定又はフィッシャーの正確確率検定によって行う。連続データを、スチューデントのt検定(独立又は従属データについて)、分散分析(Anova)及び反復測定の分散分析(Anova for repeated measures)によって比較し、適切な統計的検定によってデータの正規性を決定する。データが正規分布していない場合は、順位和検定(マン・ホイットニーの順位和検定)又は符号順位和検定(ウィルコクソンの符号順位)、クラスカル・ウォリス検定又はフリードマン検定などのノンパラメトリック検定を用いる。必要であれば、応答変数に対するいくつかの独立変数の同時効果を評価するため又は時間データ(temporal data)の考えられる交絡因子及び/若しくは分析を同定するために、多変量回帰手法を用いる。結果は、P値<0.05で統計的に有意であるとみなされる。
【0094】
すべての分析を、Stata 15ソフトウェア(StatCorp)を用いて実行する。
【0095】
8.試験の微生物学的結果
8.1 主要評価項目:リアルタイムPCRによる28日目のL.カゼイDG(登録商標)の細菌ゲノム数
【0096】
V1~V5の予定来院の間に収集した糞便サンプルの結果を、
図2A~2Eに概略的に図示する。
【0097】
このような図(箱ひげ図)は、各経過観察時点について、プラセボ群及び分析対象の組成物を投与した「Tx」群のL.カゼイDG(登録商標)の濃度を示す。各群について、L.カゼイDG(登録商標)濃度(CFU/ml)の中央値、25パーセンタイル、75パーセンタイル、最小値及び最大値が示されている。
【0098】
プロバイオティックL.カゼイDG(登録商標)は、最初の投与の10日後から治療群の被験体の腸内に検出され始め、摂取後84日目まで持続したが、経過観察のV3時点(治療の56日目)からわずかに減少し始めた。
【0099】
8.2 メタゲノム解析(分析)
図3A~3Dは、予定来院のV2~V5の時点におけるラクトバチルス種の相対存在量のヒストグラムを示す。
【0100】
微生物叢の生態分析から、分析対象の組成物の投与(Tx群)により、投与開始の10日後(V2時点)までラクトバチルス属種の相対存在量が統計的に有意に増大すること(pFDR≦0.05)、及びこの増大はV4及びV5の時点においてp<0.05の傾向で継続していることが推測できる。
【0101】
8.3 メタボローム解析(分析)
図4は、PLS-DAメタボローム解析の結果を図示する。縦軸は、同定した代謝物を記載し、横軸は、変数重要度(variable importance in projection)(VIP)を示す。
【0102】
PLS-DA解析により、ブタン酸及びプロパン酸代謝物(SCFA)が、Txサンプル中の前記代謝物の濃度が増大することに伴って、プラセボ群とTx群との間のクラスタリングに主要な役割を果たすことを同定した。
【0103】
PLS-DAによってそれぞれの時点を個別に考慮すると、Txサンプル中のSCFAの濃度が増大するにつれ、サンプル間の最大の分離がV2時点とV4時点との間に起こることが分かる。
【0104】
このような傾向は、分析対象の組成物を投与されたTx群の被験体におけるラクトバチルス(lactobacilli)の相対存在量がより高いこと(8.2項)と一致している。
【0105】
8.4 得られたすべての微生物学的データの相関
前の段落で考察した3つの異なるアプローチ(リアルタイムPCR、メタゲノム解析、メタボローム解析)から得られた結果を、スピアマン相関によって互いに相関付けた。
【0106】
相関分析について、メタゲノム解析、メタボローム解析及びリアルタイムPCR解析が、プラセボ群と分析対象の組成物で治療したTx群との間で最も統計的に有意な差を示したので、分析対象の組成物の投与に対応するV2時点及びV3時点(V2:10日;V3:28日)を選択した。
【0107】
3つのアプローチから得られたデータを統合することにより、プロバイオテッィクL.カゼイDG(登録商標)の投与が微生物叢の生態及び機能の両方に影響を及ぼし、腸内に存在する細菌の生態的地位及び対応する機能的プロファイルを改変させる(modifying)ことが示される。
【0108】
特に、ブタン酸及びプロパン酸などのある特定の短鎖脂肪酸(SCFA)は、フィーカリバクテリウム属(Faecalibactarium)、オシロスピラ属(Oscillospira)、エガセラ属(Eggerthella)、バクテロイデス属(Bacteroides)及びビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)のある特定の有益な細菌と正の相関を示した。
【0109】
9.試験の臨床結果:便の回数、硬さ、量及び色
各試験来院時に観察した排泄の回数は、プラセボで治療した被験体よりも、分析対象の組成物で治療した被験体のほうが実質的に多かった。
【0110】
排泄量に関して、治療開始の10日後、56日後及び84日後に2つの試験群の間に統計的に有意な差はなかった(それぞれ、P=0.12、0.61及び0.25)。
【0111】
治療期間の終わり(28日目、V3)にのみ、排泄量について、分析対象の組成物で治療した被験体に有利な統計的に有意な差が観察された(P=0.03)。
【0112】
便の色及び硬さ(「アムステルダム乳児便スケール」(Amsterdam Infant stool scale)に従って評価したパラメーター)に関して、便の色については治療開始の10日後(P<0.0001)及び56日後(P=0.007)に、便の硬さについては10日後(P=0.0016)、56日後(P<0.0001)及び84日後(P=0.05)に、統計的に有意な差が、分析対象の組成物で治療した被験体に有利に観察された。
【0113】
10.試験の安全性の結果
安全性分析の結果を、以下の表1にまとめる。
【0114】
【0115】
合計37件の有害事象(AE)が記録されており、そのうち21件がプラセボ治療群、16件が分析対象の組成物(Tx)で治療した被験体群であった。
【0116】
登録してランダム化した59名の被験体のうち27名が、1又は複数の有害事象を示した(プラセボ群の被験体15名、Tx群の被験体12名)。
【0117】
2件の重篤な有害事象(壊死性大腸炎、及び敗血症の疑い)のみが、分析対象の組成物で治療した被験体1名において報告された。しかし、この重篤な有害事象はいずれも、分析対象の組成物の投与に関連しているようにはみえなかった。
【0118】
プラセボ群で観察された重篤な有害事象(入院を必要とする軽度の胃食道逆流症)についても、同様の判断をすることができる。
【0119】
分析対象の組成物で治療した患者で記録された死亡は、播種性血管内凝固症候群及び敗血症性ショックによって引き起こされ、治験責任医師によって、試験治療とは「おそらく関連なし」と分類された。
【0120】
残りのすべての重度な及び非重度な有害事象は、投与した試験治療(プラセボ又は分析対象の組成物)と関連なし(N=29)又はおそらく関連なし(N=3)のいずれかであるとみなされた。
【0121】
試験期間中、2つの群において湿疹又は皮膚疾患は記録されていない。
【0122】
11.結論
以上を踏まえ、以下のように結論付けられる:
・主要評価項目に関して、分析対象の組成物で治療したTx群では、プロバイオティックL.カゼイDG(登録商標)が、治療開始の10日後から腸内で検出され(V2;
図2B)、観察期間V5の終わりまで持続した(
図2E)。
・ラクトバチルス種の相対存在量に関連して、分析対象の組成物は、観察期間V5の終わりまでラクトバチルスの相対存在量に統計的に有意な増加をもたらすことを示した(
図3D)。
・PLS-DAメタボローム解析に関して、ブタン酸及びプロパン酸代謝物を同定し、Txサンプル中で濃度がより高いことを示した(
図4)。
・以前の微生物学的分析の相関から、ブタン酸及びプロパン酸の存在は、治療した被験体の微生物叢に有益な特定の細菌種と正の相関を示したと推測できる。
・分析対象の組成物で治療した被験体は、プラセボ治療群よりも、統計的に有意に排泄量が多く、新生児用のアムステルダム便スケールに従って評価された便の色及び硬さが良好であった。
・最後に、両方の試験群で記録した重度の有害事象の評価と同様に、上記で分析した安全性及び忍容性プロファイルに基づいて、分析対象の組成物は安全でありかつ忍容性が良好であり、プラセボと同等の安全性プロファイルを有することが証明された。
【0123】
得られた結果は自明とは程遠い。なぜなら、上述したように、哺乳動物、特にヒトは、生後数週間では内臓の成熟が完全ではないので、子供と同等に扱うことさえできないからである。したがって、本明細書に記載の株が得られた薬理学的反応(応答)を提供できたことも、新生児にも忍容性が良好であることも、決して予見できなかったので、これらの株の効力(efficacy)及び安全性を確かめるために上記の治験を実施する必要があった。
【0124】
実験
これまでのところ、(早産及び正期産新生児における)健康な新生児などの脆弱な集団に対するLCDGの効果を評価する研究は行われていない。
【0125】
本二重盲検プラセボ対照試験の目的は、投与期間中及び投与期間後に、LCDGの小児用処方物(又は製剤)が新生児(出生体重に応じて3つの群に層別化:正出生体重、低出生体重、極低出生体重)の消化管を生きたまま通過する能力を、微生物叢の組成にプラスの影響を与える能力を評価することによって確認することであった。製品の安全性(体重、身長及び頭囲パラメーターもモニタリング)、排便回数、便の硬さ及び仙痛の発生も評価した。
【0126】
材料及び方法
実験製品(Experimental product)
ラクトバチルス・パラカゼイ(L.カゼイDG(登録商標)-CNCM I-1572;LCDG)は、ソファー・エッセ・ピ・アから供給された。
【0127】
10億コロニー形成単位(CFU)のLCDGに相当するラクトバチルス・パラカゼイ9滴を、1日2回、28日間投与した。この液滴は、舌に直接投与するか、又は冷たいか若しくはぬるい液体と混ぜて投与した。
【0128】
試験の被験体
この試験を、2018年9月から2021年3月まで実施した。試験に参加する患者を、イタリア国ローマにあるカジリーノ総合病院新生児科(Hospital Neonatology Unit, Policlinico Casilino)において、早産及び正期産の新生児の一群から選択した。試験の適格基準を、以下のように決定した:生後0~48時間、出生体重≧1000gの男女新生児、帝王切開により生まれかつ親/保護者から書面によるインフォームド・コンセントが得られた新生児。除外基準は、以下のとおりであった:経膣分娩、超低出生体重(ELBW)(<1000g)、全身性感染の確立又は疑い、既知の重度の神経学的疾患、既知の重度の代謝性疾患、既知の遺伝性疾患及び染色体障害、重度の奇形(例えば、短腸症候群;腸閉塞;無症状で治療が必要ない場合は動脈管開存症(ductus arteriosus patency)が含まれる場合がある。)、既知の重度の原発性又は続発性母体免疫不全症、既知の母体の食物アレルギー、母体の糖尿病(妊娠糖尿病を含む。)、最近のアルコール若しくは薬物乱用歴又はその疑いのある母親、治療を妨げる可能性があると治験責任医師が考える重度の状態、不十分な信頼性、又は患者によるプロトコルの不遵守(non-compliance)若しくは不順守(non-observance)を引き起こす可能性のある状態の存在。さらに、新生児には、試験の期間全体にわたり治験製品以外のプロバイオティクスの投与が禁止され、授乳中の母親には、試験期間全体にわたりいかなるプロバイオテッィクの投与も禁止された。正出生体重(NBW)の新生児の場合に限り、出生時から試験期間全体にわたる抗生物質を用いた全身治療又は予防法は許可されず、(NBW乳児の)授乳中の母親には、試験前30日間及び試験期間全体にわたり、抗生物質を用いた全身治療又は予防法は許可されなかった。
【0129】
新生児の各親/保護者は、試験に参加するためのインフォームド・コンセントに署名し、治験製品の使用条件が記載された説明シートを受領した。適格/除外基準に基づいて、60名の早産及び正期産の新生児を選択した。
【0130】
試験デザイン
この12週のランダム化二重盲検単一施設プラセボ対照治験の目的は、出産後最初の48時間以内の新生児へのLCDGの投与が、製品を28日間補給した後に、糞便腸内微生物叢の組成を変化させるか否かを評価することであった。12週の期間を、4週の治療期間と8週の経過観察期間とに分けた。
【0131】
子供たちは、5回の現場来院(on-site visits)に参加した:来院1(V1;生後0~48時間)、来院2(V2;10日±2日)、来院3(V3;28日±3日;製品摂取終了)、来院4(V4;56日±3日)及び来院5(V5;84日±3日;試験終了)。
【0132】
V1では、新生児を、出生体重に応じて3つの群に層別化する:正出生体重(>2500g、NBW)、低出生体重(1500~2500g LBW)、極低出生体重(1000~1500g、VLBW)。
【0133】
このように層別化した適格患者を、1:1の比で以下の群の1つにランダム化する:群1:治療群:生後48時間から開始して4週間(28日)、20億CFU(コロニー形成単位)に相当するLCDGを1日2回9滴;群2:プラセボ群:生後48時間から開始して4週間(28日)、プラセボ(試験製品と区別できない製品)を1日2回9滴。
【0134】
同じ来院中に、赤ん坊及び母親の人口統計学的データ(demographic data)並びに子供からの便サンプルを収集した。主要アウトカム評価項目は、リアルタイムPCRによる治療28日目(V3)のLCDGの細菌ゲノム数に関する糞便腸内微生物叢の組成であった。試験中に評価された副次的アウトカム評価項目は、以下のとおりであった:投与開始後28日目、56日目及び84日目(それぞれ、V3、V4及びV5)における微生物叢生態の予測による、糞便腸内微生物叢の機能活性の変化(modification)(メタボロミクス分析-α多様性及びβ多様性);投与開始から56日目及び84日目(それぞれV4及びV5)における微生物叢の生態予測による、糞便腸内微生物叢の組成の変化(リアルタイムPCR);便の質及び量の変化(頻度及び硬さ);Rome IV基準[Castelluzzo]に従って定義された新生児仙痛の発生;製品の安全性及び忍容性;患者の繁栄(prosperity)。
【0135】
倫理
この試験を、ヘルシンキ宣言に由来又は派生した倫理原則に従って、かつ医薬品の臨床試験の実施の基準ガイドライン(Good Clinical Practice Guidelines)に従って実施した。治験責任医師は、すべての試験書類を関連する倫理委員会に提出し、倫理委員会から受領した承認/肯定的見解(approval/favourable opinion)の写しを治験依頼者に転送した(ASL Roma 2:Prot.n°01220672/2018)。新生児のすべての親/保護者は、署名したインフォームド・コンセントを提供した。
【0136】
結果の評価
便サンプルを、各来院前24時間以内に収集した。
各新生児について、排便の回数を記録し、便サンプルの色及び硬さを、アムステルダム便スケールを用いて評価した(後述)。
【0137】
さらに、ステルコビリノーゲン、中性脂肪、脂肪酸、石鹸、アミド、肉及び野菜繊維、粘膜及びpHを含む糞便サンプルの物理化学分析を、カジリーノ病院の臨床病理学研究室(the Clinical Pathology Laboratory of the Casilino Hospital)によって各来院日に実施した。最適な保存条件を確保するために、便サンプルを、病院の冷凍庫に入れて-20℃で保存し、治験依頼者が負担する宅配便で、ドライアイスとともに、分子分析のためにバンビーノ・ジェズ小児科病院の寄生虫学/ヒトマイクロバイオーム研究室(the Laboratory of Parasitology/Human Microbiome of the Bambino Gesu Paediatric Hospital)(サン・パオロ・サイト(San Paolo site))へ毎月送られた。
【0138】
L.カゼイDG(登録商標)株の細菌量を評価するために、(既に検証され公開されている方法(Ferrario)に従って)リアルタイムPCR分析を行い、メタゲノム及びメタボローム解析を実施して、プロバイオティックの投与前後の腸内微生物叢を特徴付けた。特に、微生物叢を、細菌のリボソームサブユニット16S rRNAをコードする遺伝子の一部のヌクレオチド配列分析によって評価した。メタゲノムDNAを便サンプルから抽出し、定量化及び正規化した。16S rRNAをコードする細菌遺伝子のV3~V4超可変領域をPCRによって増幅し、PCR産物をIllumina MiSeq技術を用いて定量化及び配列決定した。微生物群集のキャラクタリゼーション、階層的クラスタリング、分類学的分析及びートマップによる系統樹解析の構築のために、バイオインフォマティクス配列分析を実施した。
【0139】
メタボローム解析のために、揮発性有機化合物(VOC-化学物質カテゴリー:短鎖脂肪酸、アルコール、ケトン、アルデヒド、チオール、酸、エステル、ピラジン、ピリジン、フェノール、フラン、テルペン、アルカン、アルケンなど)として産生された微生物由来の代謝物を同定し、定量化した。これらの化合物を、GC-MS/SPME(固相マイクロ抽出によるガスクロマトグラフィー-質量分析法)システムを用いて抽出した。VOC抽出のために、カルボキシル-ポリジメチルシロキサン(CAR-PDMS)被覆繊維(85μm)を、SPMEプロセスにおいて使用した。各サンプルを3回ずつ分析し、平均100~500mgを10mlガラス瓶に入れ、内部標準(IS)として4-メチル-2-ペンタノールを添加した。続いて、便サンプルを45℃で10分間平衡化した。5973C質量選択検出器に接続しかつSupelcowax 10キャピラリーカラムを備えたGC-MS(Hewlett Packard 6890 GC)に注入する前に、繊維を各サンプルに45分間曝露した。代謝物を、それらの特性に従って検出した。代謝物を、純粋化合物に対するそれらの保持時間(Rt)に従って検出した。クロマトグラムを、フラグメントパターンをNISTライブラリのフラグメントパターンと比較し、その後手動で目視検査することによって、統合及び同定した。定量的な代謝物データを、IS領域に対する相対領域を補間することによって得た。
【0140】
試験中に有害事象をモニターし、かつ1日目(V1)、10日目(V2)、28日目(V3)、56日目(V4)及び84日目(V5)における新生児の体重、身長及び頭囲を測定することによって、安全性を評価した。
【0141】
最後に、疝痛の発生の評価を、「Rome IV」診断基準(後述)に従って行い、V1で母親に渡された特定の日誌によって、毎日の便の頻度及び硬さをモニターした。
【0142】
アムステルダム便スケール
このスケールは、便の量を4つのクラスに分類する:1:塗抹(smear)、2:25%まで、3:25~50%、及び4:>50%。
【0143】
便の硬さを、以下のように分類する:A:水様便(watery)、B:軟便(soft)、C:有形便(formed)、及びD:固形便(hard)。
【0144】
最後に、便の色を、6つのクラス(I~VI)に分類する。
【0145】
乳児仙痛についての「Rome IV’」診断基準
臨床目的のために、乳児仙痛の診断は、以下のすべての基準の存在に基づかなければならない:症状の発現時及び解消時に子供が生後5か月未満であること;明白な原因もなく発生し、かつ親が予防したり解消したりすることができない、長期間にわたる啼泣(泣き、crying)、激越(agitation)又は過敏性(irritability)が反復的に起こること;根拠がない成長不足、発熱又は病気。用語「激越」は、断続的な発声を指し、「正確には泣いているわけでないが、目が覚めていて幸せな人の行動ではない(行動)」として定義される。子供たちは、啼泣と激越とを交互に繰り返すことが多く、2つの症状を区別することは困難である。
【0146】
研究目的のために、乳児仙痛の診断は、以前の基準とともに、以下の両方を含む必要がある:研究員又は医師との通話又は1対1の面接中に、親(両親)が、1日あたり少なくとも3時間、週に少なくとも3日にわたって、啼泣又は激越の期間が続いていることを報告する;選択された子供の群において24時間継続していると報告され、少なくとも3時間続いていることが確認された、啼泣及び激越の持続時間は、毎日の日誌を記入することで、前向きに(prospectively)定量化される。
【0147】
統計分析
この作業仮説では、L.カゼイDG(登録商標)(ラクトバチルス・パラカゼイCNCMI-1572;LCDG)が、同一の試験において28日後に[Putignaniら、投稿中]2.36Log10/200mgの便コピー(stool copies)の差異を示したL.サリバリス(L. salivaris)と同様の挙動を示すと仮定している(SD0.4で0.04~SD2.5で2.5)。各群(NBW、LBW、VLBW)において、治療群が20億CFU/日摂取することを考慮すると、各治療群の9名の患者のサンプルは、両側t検定及び各層の95%有意水準により、この試験に80%の検出力(power)を与える。
【0148】
留意すべきことは、Zhengらによって科学雑誌Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 70(4):2782-2858, 2020に発表されたラクトバチルス属の再分類を受けて、菌株L.カゼイDG(登録商標)(CNCM I-1572)又はL.パラカゼイDG(登録商標)(CNCM I-1572)が、2022年2月2日にラクチカゼイバチルス・パラカゼイDG I-1572 DSM 34154として再寄託されたことである。上述の2つの名称は、常に同じ菌株(細菌株)を指すため、互いに交換可能である。
【0149】
経過観察での潜在的な損失(10%の脱落)を見込んで、各体重層につき20名の新生児(そのうち10名が積極的な治療を受け、10名はプラセボを投与された。)、合計60名の新生児を登録した。
【0150】
カテゴリーデータを、カウント(数)及びパーセンテージとして表し、一方、連続データを、平均値及び標準偏差又は中央値及び範囲として表した。
【0151】
カテゴリーデータの比較を、適宜、カイ二乗検定又はフィッシャーの正確確率検定を用いて行った。連続データを、スチューデントのt検定(独立又は従属データについて)、分散分析検定(Anova’s test)及び反復測定の分散分析を用いて比較し、適切な統計的検定によってデータの正規性を決定した。正規分布していない場合は、マン・ホイットニーの順位和検定又はウィルコクソンの符号順位検定、クラスカル・ウォリス検定又はフリードマン検定などのノンパラメトリック検定を適用した。必要であれば、応答変数に対する一連の独立変数の同時効果を評価するため又は時間データの考えられる交絡因子及び/若しくは分析を同定するために、多変量回帰手法を用いた。得られた結果は、P値<0.05で統計的に有意であるとみなされた。すべての分析を、Stata 15ソフトウェア(StatCorp)を用いて実行した。
【0152】
結果
患者の手配及び基本的な特徴
60名の被験体を、カジリーノ総合病院新生児科(Neonatology Unit of the Policlinico Casilino Hospital)において、早産及び正期産新生児から選択し、1:1の比率で2つの治療群にランダム化した:30名にはLCDGで治療し、30名にはプラセボを投与した(
図5)。
【0153】
プラセボ群において、20名の被験体(66.7%)が試験を完了し、10名(33.3%)が試験を完了しなかった。2名(6.7%)の被験体が同意を撤回し、1名(3.3%)の患者が有害事象(AE)のために試験を早期に中止し、6名(20.0%)の被験体が経過観察(FUP)期間中に追跡不能となり(lost during follow-up)、1名(3.3%)の被験体が下咽頭の過誤腫の手術が必要であったために中止した。
【0154】
LCDG群において、26名の被験体(86.7%)が試験を完了し、4名(13.3%)が試験を完了しなかった。このうち、3名(10.0%)がFUP期間中に追跡不能となり、1名(3.3%)が「播種性血管内凝固症候群」及び「敗血症性ショック」により死亡した。
【0155】
人口統計学的特徴及び基本的特徴に関して、母親の平均年齢は、プラセボ群で35歳±6歳、LCDG(治療)群で35歳±5歳であり(P=0.94)、この2つの治療群の間に、母親の民族、授乳の種類、母親の体重及び身長、食事の種類、喫煙状況、身体活動、ペットの有無、並びに教育レベルに関して統計的に有意な差はなかった。
【0156】
新生児の特徴に関して、試験では、新生児を、出生体重に応じて3つの群に分類した:正出生体重(NBW)、低出生体重(LBW)及び極低出生体重(VLBW)。試験中に、12組の双子(合計24名の新生児)が生まれ、具体的には、14名(46.7%)の被験体がLCDG群に含まれ、10名(34.5%)の被験体がプラセボ群に含まれた(P=0.34)。プラセボ群において18名(62.1%)の新生児、LCDG群において17名(56.7%)の新生児が女性であり(P=0.67)、新生児の平均出生体重は、プラセボ群において2050g±784g、LCDG群において2005g±768gであった(P=0.82)。APGARスコア、妊娠(在胎)期間及びPN/EG比(AGA及びSGA)に関しても、2つの治療群の間に統計的に有意な差はなかった。
【0157】
L.カゼイDG(LCDG)は、最初の投与の10日後から腸内で検出され、最終来院(84日)まで持続した。
【0158】
本発明者らは、VLW(n=20)、LW(n=20)及びNW(n=19)に層別化した59名の被験体から出生時に収集した251の便サンプルを分析した。LCDG株は、最初の投与の10日後(V2)から便サンプル中に検出され、最終来院(84日;試験終了時の来院)まで持続し、最初の経過観察時点(試験56日目;製品の最終投与から28日)からわずかに減少した(
図6A)。治療期間(10日及び28日)及び経過観察(56日及び84日)の両方の来院時に収集したサンプルにおいて、LCDGの存在は、対照群よりも治療群で有意に高かった。この根拠は、出生体重に応じた各群(NW、LW及びVLW)からのサンプルを層別化することによっても確認された。特に、プラセボ群における3つの体重クラス間の比較(群内分析)では、V2(最初の投与の10日後)でのLCDG濃度において統計的な差を示した(p値=0.01)が、一方、治療群では、3つの体重クラス間のLCDG濃度の統計的な差(p値=0.01)は、V3(製品の最終投与の28日後)でみられた。評価した他の時点では、体重クラス間で統計的に有意な差は観察されなかった(
図6B)。さらに、56日目では、治療群とプラセボ群との間のLCDG濃度の差は、NW及びVLWの赤ん坊について、統計的に有意であった(
図6B)。
【0159】
ウィルコクソンの符号順位検定を実施して、各群について異なる時点でのLCDG濃度を比較した。プラセボ群では、V1とV2との比較(p値=0.012)、V1とV3との比較(p値=0.016)及びV1とV4との比較(p値=0.012)は、統計的に有意であった。治療群については、V1とV2との比較(p値=1.5×10-12)、V1とV3との比較(p値=5.8×10-9)、V1とV4との比較(p値=1.8×10-8)、V1とV5との比較(p値=2.0×10-6)、V2とV4との比較(p値=1.6×10-3)及びV2とV5との比較(p値=9.7×10-3)は、統計的に有意であった(
図7)。
【0160】
LCDGによる治療は、腸内マイクロバイオームの異種性を維持することができた。
【0161】
LCDG治療が腸内マイクロバイオームの異種性を維持できるか否かを検証するために、16S-rNA.sを標的とするメタゲノム手法を用いて、便サンプルに対してα及びβ多様性分析を実施した。
【0162】
プラセボ群及び治療群に分けられた被験体の各時点でのα多様性の分析により、V2(10日)及びV3(28日)の時点では、プラセボ群の微生物叢が、治療群よりも微生物種の豊富さにおいて優れているように見えた(p≧0.05)。V4時点では、α多様性指数は同等であるようであり(p≧0.05)、一方、V5時点では、治療群が、プラセボ群よりも豊富さにおいて優れている(p≧0.05)(
図8A)。しかし、様々な時点で、プラセボ群と治療群との間の比較は統計的に有意でない(p≧0.05)。
【0163】
β多様性分析に関して、Unweighted UniFracアルゴリズムを用いて得られた多様性マトリックスは、プラセボ群と治療群との間の様々な時点でのPCoAとして表され、様々な時点においてこれらの2つの群の間の比較は統計的に有意でないことを示した(p≧0.05)。この結果を、PERMANOVA統計分析によって確認し、unweighted Unifracアルゴリズムを用いて計算した距離行列に適用した(
図8B)。
【0164】
様々な時点での比較に適用した門レベルでの操作的分類単位(OTU)の分布の分析及びクラスカル・ウォリス検定を実施したところ、プラセボ/治療の比較のいずれにおいても統計的に有意な差を示さなかった(p≧0.05)(
図8C)。
【0165】
属レベルでは、プラセボ群と治療群との間の比較で、V2時点で唯一統計的に有意であった(p<0.05)。特に、ラクトバチルス属は、治療群でより高かった(
図8D)。
【0166】
LCDGの投与は、短鎖脂肪酸(SCFA)の濃度を増大させる。
【0167】
メタボローム解析を、すべての経過観察時点(V1~V5)で収集が完了した被験体から収集した便サンプル(n=85)について実施した。便サンプルを、固相マイクロ抽出システムによるガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC-MS-SPME)によって分析した。
【0168】
492個の代謝物を同定し、定量化し、15の化学物質クラスに分類した:酸、アルコール、アルデヒド、アルカン、アルケン、アミン、芳香族炭化水素、エステル、フラン、フラノン、インドール、ケトン、フェノール、ピラジン及びテルペン。予想された通り、各サンプルの代謝プロファイルは、被験体間でかなりのばらつきを示した。分析に可能な限り頑健性をもたせるために、生データマトリックスを、サンプルセット全体の少なくとも10%に存在する代謝物を含む98個の代謝物のマトリックスに凝縮した。データ分析全体を、この凝縮したマトリックスに基づいて展開した。多変量解析を、各時点について、教師付きアプローチ(supervised approach)、すなわち、部分的最小二乗判別分析(PLS-DA)を用いて実行した。治療(プラセボ/治療)に応じたサンプルの最大のクラスタリングは、V2時点(10日)とV4時点(56日)との間に発生し、治療サンプル中のSCFA濃度が増大した(
図9)。
【0169】
さらに、各試験来院時に、便の物理化学評価を行って、中性脂肪、酸性脂肪、石鹸、デンプン、肉及び野菜繊維、粘液及びpH値の存在を評価した。カイ二乗検定を適用して、2つの治療群間の差を比較したが、いずれのパラメーターにも有意な差(P>0.05)は見られなかった。
【0170】
LCDGの投与は、微生物叢の生態及び機能の両方に影響を与え、腸内に存在する細菌の生態的地位及び対応する機能的プロファイルを改変させた(modifying)。
【0171】
リアルタイムPCR、メタゲノム及びメタボロームの3つの異なるアプローチで得られた結果を、スピアマン相関によって互いに相関付けた。V2時点及びV3時点は、それぞれ10日及び28日でのプロバイオティックの投与に一致し、これらの時点を相関分析のために選択した。なぜなら、これらの時点で、メタゲノム解析、メタボローム解析及びリアルタイム解析が、プラセボ群と治療群との間で最も統計的に有意な差を示したからである。
【0172】
特に、V2時点では、ラクトバチルス・パラカゼイ(CFU/mL)は、代謝物のシクロヘキサノン、n-デカン酸及び3,4-ジメチルヘプタンと、及びOTUのラクトバチルス属(Lactobacillus)、グラニュリカテラ属(Granulicatella)と正の相関を示した(p≦0.05)。さらに、OTUと代謝物との間にいくつかの統計的に有意な正の相関が認められる。プロバイオティック摂取後に最も興味深いものは、ブタン酸を含むSCFAであり、ブタン酸は、ルミノコッカス属(Ruminococcus)、プレボテラ属(Prevotella)、コリンセラ属(Collinsella)、フィーカリバクテリウム属及びオシロスピラ属と有意な相関を示す(p≦0.05)。ペンタン酸は、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、グラニュリカテラ属及びエンテロコッカス属(Enterococcus)と有意な相関を示し(p≦0.05)、一方、プロピオン酸は、エガセラ属、バクテロイデス属及びビフィドバクテリウム属と有意な相関を有する(p≦0.05)。
【0173】
V3時点では、ラクトバチルス・パラカゼイ(CFU/mL)は、2,3-ジメチルペンタナール、1-ヘキサノール、デカナール及びドデカン酸と正の相関と示した(p≦0.05)(
図10A)が、ラクトバチルス・パラカゼイ(CFU/mL)と様々なOTUとの間には有意な相関が見られなかった(
図10B)。最後に、OTUと代謝物との間にはいくつかの統計的に有意な正の相関(p≦0.05)が認められ、特に、ブタン酸及びプロパン酸は、コリンセラ属と有意な相関を示し(p≦0.05)、一方、ペンタン酸は、プロピオニバクテリウム属(Propionibacterium)、フィーカリバクテリウム属、プレボテラ属及びコプロコッカス属(Coprococcus)と正の相関を有する(
図10C)。
【0174】
LCDGの投与では仙痛の数は減少しなかった。
【0175】
「Rome IV」診断基準に従って、治験責任医師は、1日あたり少なくとも3時間の激越状態とともに、啼泣が週に少なくとも3日、3時間を超えた場合に、仙痛のエピソード(発現)を記録した。試験中、母親は、乳児の啼泣が3時間を超えた場合に、その啼泣を記録する日誌を記入する必要があった。関与したすべての試験来院(ランダム化の10日後、28日後、56日後及び84日後)において、2つの試験群(プラセボ及びEnterolactis Baby)の間に統計的に有意な差は見られなかった。実際、各試験群において1日あたり3時間を超えて啼泣した患者の数及び平均啼泣時間は、各試験来院でほぼ同様であり、試験中に合計8回の仙痛が発生した(プラセボ群で4回、及びLCDG群で4回)。
【0176】
便の硬さ、量及び色
治験中、便の硬さ、量及び色を、アムステルダム便スケールを用いて評価した。色及び硬さは、10日目(V2)及び56日目(V4)で、プラセボ群と治療群との間で有意に異なっていた。
【0177】
V2では、p値は、排泄物の色についてはP<0.0001であり、排泄物の硬さについてはP=0.0016であった。具体的には、プラセボ群及び治療群に属するPTについて記録されたそれぞれ合計143個及び221個の排泄物のうち、色IIに分類された排泄物は、プラセボ群で37個(25.9%)及び治療群で18個(8.1%)であり、色IVに分類された排泄物は、プラセボ群で7個(4.9%)及び治療群で0個であった。硬さに関して、硬さBに分類された排泄物は、プラセボ群で80個(55.9%)及び治療群で152個(68.8%)であり、硬さC/D及びDに分類された排泄物は、プラセボ群で0個、並びに治療群でそれぞれ6個(2.7%)及び2個(0.9%)であった。
【0178】
来院4では、プラセボ群及び治療群のPTについてそれぞれ119個の排泄物及び183個の排泄物が生じ、治療群間で色及び硬さにおいて統計的に有意な差を有した(アムステルダムスケールを用いて、排泄物の色についてP=0.007及び排泄物の硬さについてP<0.0001)。
【0179】
量に関しては、28日目(V3)に収集したサンプルで唯一有意であり、プラセボ群及び治療群について記録された総排泄数は、それぞれ、122回及び219回であった。
【0180】
セキュリティ評価
登録した新生児の成長をモニターするために、体重、身長及び頭囲パラメーターを、各試験来院時に評価した。治療群とプラセボ群とを比較すると、試験中に統計的に有意な差は見られなかった。最後に、バイタルサインに差は見られなかった(治療群よりもプラセボ群において高かったRRを除く)。
【0181】
有害事象(AE)に関して、試験中に、プラセボ群で合計21件のAE及びLCDG群で合計16件のAEを記録した。これらの有害事象のうち、プラセボ群で10件のSAE及び治療群で6件のSAEを記録し、プラセボ群で2件の重度AE及び治療群で4件の重度AEを記録した。
【0182】
プラセボ群では、10件(47.6%)のAEが軽度、9件(42.9%)のAEが中等度の重症度(moderate severity)、及び2件(9.5%)のAEが重度の重症度(severe severity)であるとみなされたが、LCDG群では、8件(50.0%)のAEが軽度、4件(25.0%)のAEが中等度の重症度、及び4件(25.0%)のAEが重度の重症度であるとみなされた。
【0183】
プラセボ群に属するPTで発生したAEのうち、3件(14.3%)のAEは、おそらく治療に関連ないとみなされ(1件は「新生児呼吸窮迫症候群」、2件は「腹痛」)、1件(4.8%)のAEは、おそらく治療に関連するとみなされた(「胃食道逆流症」)。LCDG群に属するPTにおいて、2件(12.5%)のAEは、おそらく治療に関連ないとみなされ(来院2の9日後にPTの死亡を引き起こした「播種性血管内凝固症候群」及び「敗血症性ショック」)、2件(12.5%)のAEは、おそらく治療に関連するとみなされた(「壊死性大腸炎」及び「敗血症」)。
【0184】
考察
ある特定の新生児治験では、腸仙痛の治療におけるプロバイオティクスの作用が研究されており、プラセボと比較して、啼泣エピソード及び仙痛症状の期間を短縮する効力があることが明らかとなっている[Lundelin]。
【0185】
新生児期間のプロバイオティック治療の長期経過観察研究では、プロバイオティック治療群の被験体は、プラセボ群に割り当てられた被験体よりもアレルギー発症率が低いことが明らかとなった[Denkel]。
【0186】
さらに、プロバイオティックの投与は、早産新生児において壊死性腸炎の発生の低下及び死亡率の低下と相関していた[Lundelin、Strunk、Shane、Costeloe]。
【0187】
これらの知見によると、プロバイオティクスは、優れた安全性プロファイルを特徴とする。プロバイオティクスに含まれる菌株によって引き起こされる菌血症の症例が記録されているが、それらの症例は極めてまれであり、重度の免疫不全の存在によって決定される[Lundelin、Salminen、Thomas]。
【0188】
しかし、新生児におけるプロバイオティック補給の安全性及び潜在的な効果については、さらなる証拠が必要である。
【0189】
プロバイオティック混合物においてラクトバチルスの使用が増加していることを考慮すると、糞便中のLCDG細胞を正確に同定してカウント(計数)することにより、ヒトの腸内微生物叢におけるこれらのプロバイオティクスの実際の安定性及び持続性の研究が改善されるであろう[Arioli]。
【0190】
本件試験(the present study)では、初めて、LCDGの安全性及びLCDGが微生物叢の組成にプラスの影響を与える能力を、NMW乳児のみならずLW及びVLW被験体を含む特別な集団において試験した。
【0191】
LCDGは、最初の投与の10日後から腸内で検出され、最終来院(84日;試験の終了)まで持続したが、最初の経過観察時点(試験の56日目;製品の最終投与から28日)からわずかに減少した。LCDGの存在は、NW及びVLWの赤ん坊について、V3(28日目;治療の最終日)では対照群よりも治療群で有意に多かった。
【0192】
便サンプル中のプロバイオティック株の分析において、α及びβ多様性分析を考慮すると、微生物叢全体のプロファイルの変化は、時間依存性であり、治療によって影響を受けないようであった(治療が腸内マイクロバイオームの異種性を持続できることが実証された)が、属レベルでは、一時解析によると、プロバイオティックの投与により、投与開始から10日後にラクトバチルス属の種が統計的に有意に増大する。この増大は後の時点でも検出されるが、統計的に有意ではなくなる。
【0193】
メタボローム解析に関しては、予想どおり、各サンプルの代謝プロファイルは、被験体間でかなりのばらつきを示した。PLS-DA解析により、ブタン酸(酪酸)及びプロパン酸(短鎖脂肪酸(SCFA))代謝物が、プラセボ群と治療群との間のクラスタリングの主因であることが明らかにされ、治療群から収集したサンプル中のそれらの濃度が増大している。
【0194】
これらのすべての結果は、腸内微生物叢の異種性を維持しながら胃腸通過を生き延びるLCDGの能力を強調し、確認した。これらの結果は、健康な小児(3~12歳)[Radicioni]又は成人集団[Drago]で実施された試験の結果と一致している。
【0195】
さらに、3つの異なるアプローチ(リアルタイムPCR、メタゲノミクス及びメタボロミクス)で得られた結果を、スピアマン相関によって互いに相関付けた。
【0196】
これらのアプローチから得られたデータを統合すると、プロバイオティックLCDGの投与が微生物叢の生態及び機能の両方に影響を与え、腸内に存在する細菌の生態的地位及び対応する機能的プロファイルを変化させることが示される。特に、ブタン酸及びプロピオン酸などのいくつかのSCFAは、フィーカリバクテリウム属、オシロスピラ属、エガセラ属、バクテロイデス属及びビフィドバクテリウム属などのある特定の有益な細菌と正の相関を示した。これらの分子は、栄養素の吸着に影響を与える能力を示した[Heimann]。さらに、試験28日目に、ラクトバチルス・パラカゼイ(CFU/mL)と、シクロヘキサノン、n-デカン酸及び3,4-ジメチルヘプタンとの間に正の相関(p≦0.05)が見られた。
【0197】
治験中に、便の硬さ、量及び色も記録した。量は、28日目に収集したサンプルにおいてのみ有意であったが、色及び硬さは、10日目及び56日目(投与終了の4週後)で有意に異なっていた。
【0198】
一方、「Rome IV」診断基準に基づく疝痛の発生には差は観察されなかったが、これらの結果は、このパラメーターの改善を確認するには治療及び総試験期間の両方が不十分である可能性を考慮して分析される必要があるかもしれない。例えば、Parttyら[Partty]は、最長1年間の経過観察期間を設けてプロバイオティックの補給を最長2か月間(この試験の期間の2倍)延長して、早産新生児において啼泣及び激越に伴う症状を軽減できることを実証した。
【0199】
安全性に関しては、前述したように、バイタルサインに差は見られなかった(治療群よりもプラセボ群において高かったRRを除く)。
【0200】
試験中、登録した新生児の成長をモニターするために、体重、身長及び頭囲パラメーターも、各試験来院時に評価した。治療群とプラセボ群とを比較すると、試験中に統計的に有意な差は見られなかった。以前の文献では、プロバイオティクスとプレバイオティクスとの組み合わせを含む市販の共生(シンバイオティック)液(symbiotic solution)が早産新生児の体重及び頭囲を改善できることが示されていた[Guney]が、他の研究では、本発明者らの結果(すなわち、治療群とプラセボ群との間に差がない)と一致するデータ[Vlieger]、特に、体重パラメーターについてのデータ[Indrio、Underwood]が示されている。新生児の体重増加は、多くの併存する病状、並びに完全腸外補給(total parental supplementation)及び/又は母乳強化のアベイラビリティ(availability)の影響を受けており[Moni]、これが、その研究の両群の体重傾向に影響を与えた可能性がある。
【0201】
近年、Matinら[Matin]は、プロバイオティクス(1.5×109CFU/gのラクチカゼイバチルス・パラカゼイ・亜種・パラカゼイ(Lacticaseibacillus paracasei subsp. paracasei))を授乳中の母親又はその母親の極低出生体重(VLBW)新生児に経口投与して、新生児の血清総ビリルビン(TSB)レベル及び体重増加の変化を調べた試験の結果を発表した。選択したプロバイオティクスの投与は、新生児のTSBレベルを低下させたが、介入の最初の週以降の体重増加には有意な影響はなかった。
【0202】
さらに、両方の試験群において記録された重度のAEの評価のみならず、分析された安全性及び忍容性プロファイルに基づいて、試験製品は、この試験においてプラセボと同様に安全でありかつ忍容性が良好であることが示された。
【0203】
制限及び今後の計画
全体として、この試験の結果により、NBW、LBW及びVLBW新生児などの脆弱な集団に対してさえ、この製品の高い安全性プロファイルが確認された。LDCGは、消化管内で生き延びて腸内微生物叢及びSCFA組成に影響を与える能力が確認されたが、栄養素の吸収及びその結果としての新生児の成長における腸内微生物叢の重量な役割を考慮すると、将来的には、少なくとも1年の経過観察を検討することによってこの製品の長期的効果を分析することが有用であろう。
【0204】
この治験では十分に強調されていないもう1つの興味深い側面は、さまざまな栄養条件下におけるマイクロバイオーム及び血清メタボロームに対するこの製品の潜在的な影響である。実際、幼児期の栄養が、腸内微生物叢の発達を決定する。母乳(授乳)とは異なり、人工乳の授乳は、腸内微生物叢及び血清メタボロームがより好ましくない状態に向かうほうに影響を与えることが示されている。近年、別のラクトバチルス・パラカゼイ株が、人工乳の授乳の影響を打ち消すわけではないものの、マイクロバイオーム及び血清メタボロームに影響を与え、人工乳の授乳による代謝への何らかの好ましくない影響を軽減する可能性があることが示されている[Lee]。
【手続補正書】
【提出日】2022-11-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性及び/又は機能性の消化管障害を有する被験体の治療、予防及び/又は治癒方法に使用するための菌株であって、前記障害が、新生児仙痛、腸仙痛、慢性腸炎又は早産新生児の慢性腸炎、壊死性腸炎、敗血症、過敏性腸症候群(IBS)、主に便秘(prevalent constipation)を伴う又は便秘型腸(constipated bowel)のIBS、主に下痢(prevalent diarrhoea)を伴う又は下痢型腸(diarrhoeic bowel)のIBS、交代型腸(alternating bowel)のIBS、未分類のIBS、慢性炎症性腸疾患(IBD)、クローン病
及び潰瘍性直腸結腸
炎を含むか、あるいはそれらからなる群より選択され
、
・前記菌株が、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)種に属し、ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572、ラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760及びそれらの混合物を含むか、あるいはそれらからなる群より選択され、
・前記被験体が、生後4週間以内の新生児被験体である、
菌株。
【請求項2】
前記被験体の月齢が、1か月から12か月以下である、請求項1記載の使用のための菌株。
【請求項3】
前記株が、生存可能な菌株(viable strain of bacteria)又は前記菌株の誘導体であり、後者が、間欠滅菌した(tyndallized)菌株、超音波処理した菌株、放射線、好ましくは、ガンマ放射線による不活性化菌株、溶解した菌株又は細菌ホモジネート、前記菌株抽出物又は壁画分を含むか、あるいはそれらからなる群より選択され、好ましくは、間欠滅菌した菌株である、請求項1又は2記載の使用のための菌株。
【請求項4】
前記障害が、新生児仙痛、腸仙痛、慢性腸炎又は早産新生児の慢性腸炎、壊死性腸炎、敗血症、過敏性腸症候群(IBS)、主に便秘を伴う又は便秘型腸のIBS、主に下痢を伴う又は下痢型腸のIBS、交代型腸のIBS、未分類のIBS、慢性炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性直腸結腸炎を含むか、あるいはそれらからなる群より選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための菌株。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための混合物Mであって、
ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572、ラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760及びそれらの混合物を含むか、あるいはそれらからなる群より選択されるラクトバチルス・パラカゼイ種に属する菌株、並びに
食品グレード又は医薬品グレードの少なくとも1つの添加物及び/又は賦形剤
を含むか、あるいはそれらからなる、混合物M。
【請求項6】
請求項5記載の使用のための混合物Mであって、
ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572、ラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760及びそれらの混合物を含むか、あるいはそれらからなる群より選択されるラクトバチルス・パラカゼイ種に属する菌株、並びに
・ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)BbIBS01 DSM 33231、
・ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS02 DSM 33232、
・ビフィドバクテリウム・アニマリス・亜種・ラクティス(Bifidobacterium animalis subsp. lactis)BlIBS01 DSM 33233、
・ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)LpIBS01 DSM 33234、
・ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)BbfIBS01 DSM 32708、及び
それらの混合物
を含むか、あるいはそれらからなる群より選択される少なくとも1つのさらなる菌株
を含むか、あるいはそれらからなる、混合物M。
【請求項7】
請求項5又は6のいずれか一項に記載の使用のための混合物Mであって、
・ビタミンA群、B群、C群、D群、E群及び/又はK群から少なくとも1つのビタミン、好ましくは、ビタミンB群及び/又はビタミンD群、
・グルタチオン、レスベラトロール及びtrans-レスベラトロールなどのポリフェノール、コエンザイムQ10、アスタキサンチン、リコペンを含むか、あるいはそれらからなる群より選択される1又は複数の抗酸化物質、
・ボタニカル(植物粗加工物、botanicals)又はその抽出物を含むか、あるいはそれらからなる群より選択される、好ましくは、バレリアン、パッションフラワー、レモンバーム、セイヨウサンザシ及びカモミールから選択される、腸弛緩作用を有する1又は複数の植物物質、
・ミネラル又はその塩、例えば、亜鉛、セレン、マグネシウム、カリウム、
・オメガ9を含むか、あるいはそれらからなる群より選択される1又は複数の一不飽和脂肪酸、並びに/あるいは多不飽和脂肪酸、オメガ3及びオメガ6、
・1又は複数の免疫賦活物質、下痢止め物質及び/又は栄養素、
・好ましくは、イヌリン、フラクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖(GOS)、キシロオリゴ糖(xylitol-oligosaccharide)(XOS)、グアーガム、ラクトフェリン及びそれらの混合物からなる群(II)より選択される少なくとも1つのプレバイオティック、より好ましくは、イヌリン、
並びにそれらの混合物
を含むか、あるいはそれらからなる群より選択される少なくとも1つのさらなる活性成分をさらに含む、混合物M。
【請求項8】
前記障害が、新生児仙痛、腸仙痛、慢性腸炎又は早産新生児の慢性腸炎、壊死性腸炎を含むか、あるいはそれらからなる群より選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための菌株。
【請求項9】
前記障害が、新生児仙痛、腸仙痛、慢性腸炎又は早産新生児の慢性腸炎、壊死性腸炎を含むか、あるいはそれらからなる群より選択される、請求項5~7のいずれか一項に記載の使用のための混合物M。
【国際調査報告】