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特表2024-525799新規なβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ変異体及びそれを用いたレチノイド生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】新規なβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ変異体及びそれを用いたレチノイド生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/53 20060101AFI20240705BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240705BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20240705BHJP
   C12P 7/04 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C12N15/53
C12N1/19 ZNA
C12N9/02
C12P7/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502041
(86)(22)【出願日】2022-07-15
(85)【翻訳文提出日】2024-01-25
(86)【国際出願番号】 KR2022010385
(87)【国際公開番号】W WO2023287256
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】10-2021-0093034
(32)【優先日】2021-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513178894
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】パク, ヘ ミン
(72)【発明者】
【氏名】イ, ペドゥロ
(72)【発明者】
【氏名】イ, ドン ピル
(72)【発明者】
【氏名】キム, チェ ウン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AH01
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AB01
4B065BD50
4B065CA60
(57)【要約】
本出願は、新規なβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ変異体、前記変異体を含む微生物、前記微生物を用いたレチノイド生産方法、レチノイド生産用組成物、及び前記変異体又は微生物のレチノイド生産への使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列のN末端から43番目の位置に相当するアミノ酸であるアラニン、58番目の位置に相当するアミノ酸であるロイシン、及び74番目の位置に相当するアミノ酸であるイソロイシンが他のアミノ酸に置換されたβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ変異体。
【請求項2】
前記変異体は、配列番号1のアミノ酸配列のN末端から43番目の位置に相当するアミノ酸のアラニン以外のアミノ酸への置換と、58番目の位置に相当するアミノ酸のロイシン以外のアミノ酸への置換と、74番目の位置に相当するアミノ酸のイソロイシン以外のアミノ酸への置換とを含む、請求項1に記載のβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ変異体。
【請求項3】
前記43番目の位置に相当するアミノ酸の他のアミノ酸への置換は非極性アミノ酸への置換であり、前記58番目の位置に相当するアミノ酸の他のアミノ酸への置換は極性アミノ酸への置換であり、かつ74番目の位置に相当するアミノ酸の他のアミノ酸への置換は非極性アミノ酸への置換である、請求項1に記載のβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ変異体。
【請求項4】
前記他のアミノ酸は、バリン又はグルタミンである、請求項1に記載のβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ変異体。
【請求項5】
請求項1に記載の変異体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項1に記載の変異体及び前記変異体をコードするポリヌクレオチドの少なくとも1つを含む微生物。
【請求項7】
前記微生物は、レチノイド生産能を有するものである、請求項6に記載の微生物。
【請求項8】
前記レチノイドは、レチナール、レチノール、レチニルエステル及びレチノイン酸からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項7に記載の微生物。
【請求項9】
前記微生物はヤロウィア属(Yarrowia sp.)である、請求項6に記載の微生物。
【請求項10】
前記微生物はヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)である、請求項6に記載の微生物。
【請求項11】
請求項1に記載の変異体又は前記変異体をコードするポリヌクレオチドを含む微生物を培地で培養するステップを含むレチノイド生産方法。
【請求項12】
前記方法は、前記培地又は微生物からレチノイドを回収するステップをさらに含む、請求項11に記載のレチノイド生産方法。
【請求項13】
前記微生物はヤロウィア属(Yarrowia sp.)である、請求項11に記載のレチノイド生産方法。
【請求項14】
前記レチノイドは、レチナール、レチノール、レチニルエステル及びレチノイン酸からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項11に記載のレチノイド生産方法。
【請求項15】
請求項1に記載の変異体、請求項8に記載の微生物、又は前記微生物の培養物を含むレチノイド生産用組成物。
【請求項16】
配列番号1のアミノ酸配列のN末端から43番目の位置に相当するアミノ酸であるアラニン、58番目の位置に相当するアミノ酸であるロイシン、及び74番目の位置に相当するアミノ酸であるイソロイシンが他のアミノ酸に置換されたβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ変異体、並びに前記変異体をコードするポリヌクレオチドの少なくとも1つを含む微生物のレチノイド生産への使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、新規なβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ変異体、前記変異体を含む微生物、前記微生物を用いたレチノイド生産方法、レチノイド生産用組成物、及び前記変異体又は微生物のレチノイド生産への使用に関する。
【背景技術】
【0002】
脂溶性ビタミンの一つとして必須の栄養素であるビタミンA及びそれが含まれる概念であるレチノイドは、現在化学合成法で生産及び販売されているが、原資材の入手困難などの理由から、微生物発酵ベースのレチノイド生産についての研究、すなわち高効率生産微生物及び発酵工程の技術開発のための様々な研究が行われている。例えば、レチノイド生合成に関与する酵素をコードする遺伝子の発現の増加や、生合成に不要な遺伝子の除去などの標的物質に特異的なアプローチが挙げられる。前記レチノイド生合成に関与する酵素としては、一例として、β-カロテン15,15’-オキシゲナーゼなどが挙げられる(特許文献1)。
【0003】
しかし、β-カロテン15,15’-オキシゲナーゼに関する研究は僅かであり、ビタミンAの需要増加に応じた効果的なビタミンA生産能向上のための研究が依然として必要な現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2020/0277644号明細書
【特許文献2】韓国公開特許第10-2020-0136813号公報
【特許文献3】米国特許第7662943号明細書
【特許文献4】米国特許第10584338号明細書
【特許文献5】米国特許第10273491号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Pearson et al(1988) [Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【非特許文献2】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277
【非特許文献3】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【非特許文献4】Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387(1984)
【非特許文献5】Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990)
【非特許文献6】Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994
【非特許文献7】[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073
【非特許文献8】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math(1981) 2:482
【非特許文献9】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)
【非特許文献10】Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745
【非特許文献11】J. Sambrook et al.,Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989
【非特許文献12】F.M. Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York, 9.50-9.51, 11.7-11.8
【非特許文献13】Sitnicka et al. Functional Analysis of Genes. Advances in Cell Biology. 2010, Vol. 2. 1-16
【非特許文献14】Sambrook et al. Molecular Cloning 2012
【非特許文献15】Jang et al. Microbial Cell Factories 2011, 10:59
【非特許文献16】Choi et al. antioxidants. 2020
【非特許文献17】D.-C. Chen et al., Appl Microbiol Biotechnol, 1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願は、β-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ変異体及びそれを用いたレチノイド生産方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願は、β-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ変異体を提供することを目的とする。
【0008】
また、本出願は、本出願の変異体をコードするポリヌクレオチドを提供することを目的とする。
【0009】
さらに、本出願は、本出願の変異体又は前記変異体をコードするポリヌクレオチドを含む微生物を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本出願は、本出願の変異体又は前記変異体をコードするポリヌクレオチドを含む微生物を培地で培養するステップを含むレチノイド生産方法を提供することを目的とする。
【0011】
さらに、本出願は、本出願の変異体、前記変異体をコードするポリヌクレオチドを含む微生物、又はその培養物を含むレチノイド生産用組成物を提供することを目的とする。
【0012】
さらに、本出願は、本出願の変異体、前記変異体をコードするポリヌクレオチド、又はそれを含む微生物の少なくとも1つのレチノイド生産への使用を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0013】
本出願のβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ変異体を含む微生物を培養すると、従来の非改変ポリペプチドを有する微生物に比べて、高収率でレチノイドを生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本出願で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本出願で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本出願に含まれる。また、以下の具体的な記述に本出願が限定されるものではない。さらに、本明細書全体にわたって多くの論文及び特許文献が参照されており、その引用が示されている。引用された論文及び特許文献の開示内容はその全体が本明細書に参照として組み込まれており、それにより本発明の属する技術分野の水準及び本発明の内容がより明確に説明される。
【0015】
本出願の一態様は、配列番号1のアミノ酸配列のN末端から43番目の位置に相当するアミノ酸であるアラニン、58番目の位置に相当するアミノ酸であるロイシン、及び74番目の位置に相当するアミノ酸であるイソロイシンの少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ変異体を提供する。
【0016】
前記β-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ変異体は、β-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ活性を有するポリペプチド、又はβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼにおいて、配列番号1のN末端から43番目、58番目及び74番目の位置に相当するアミノ酸の少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換された変異体であってもよい。具体的には、前記43番目、58番目及び74番目の位置の1つ以上、2つ以上又は3つ以上の位置のアミノ酸が置換されたものであるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
前記変異体の母体となるβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ活性を有するポリペプチド、又はβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼにおいて、配列番号1のアミノ酸配列のN末端から43番目の位置に相当するアミノ酸はアラニンであり、58番目の位置に相当するアミノ酸はロイシンであり、かつ/又は74番目の位置に相当するアミノ酸はイソロイシンであるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
一実施例として、前記変異体は、配列番号1のアミノ酸配列のN末端から43番目の位置に相当するアミノ酸のアラニン以外のアミノ酸への置換、58番目の位置に相当するアミノ酸のロイシン以外のアミノ酸への置換、74番目の位置に相当するアミノ酸のイソロイシン以外のアミノ酸への置換の少なくとも1つの置換を含むものであるが、これに限定されるものではない。
【0019】
前記「他のアミノ酸」は、置換前のアミノ酸とは異なるアミノ酸であればいかなるものでもよい。なお、本出願における「特定アミノ酸が置換された」とは、他のアミノ酸に置換されたと表記していなくても、置換前のアミノ酸とは異なるアミノ酸に置換されたことを意味することは言うまでもない。
【0020】
前記他のアミノ酸への置換は、非極性(nonpolar)アミノ酸、極性(polar)アミノ酸、又は正に荷電した(塩基性)アミノ酸への置換であってもよい。具体的には、前記非極性(nonpolar)アミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン及びプロリンからなる群から選択されるものであるが、これらに限定されるものではない。前記極性(polar)アミノ酸は、親水性(hydrophilic)アミノ酸と混用されるものであって、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるものであり、前記正に荷電した(塩基性)アミノ酸は、アルギニン、リシン及びヒスチジンからなる群から選択されるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
本出願の変異体は、参照(reference)タンパク質である配列番号1のアミノ酸配列の43番目、58番目及び74番目の位置に相当するアミノ酸の少なくとも1つのアミノ酸が非極性アミノ酸、極性アミノ酸又は正に荷電した(塩基性)アミノ酸のうち、置換前のアミノ酸とは異なるアミノ酸に置換された変異体であるが、これに限定されるものではない。
【0022】
一実施例として、前記43番目の位置に相当するアミノ酸の他のアミノ酸への置換は非極性アミノ酸への置換であり、前記58番目の位置に相当するアミノ酸の他のアミノ酸への置換は極性アミノ酸への置換であり、かつ74番目の位置に相当するアミノ酸の他のアミノ酸への置換は非極性アミノ酸への置換であるが、これに限定されるものではない。
【0023】
前記非極性アミノ酸はバリンであり、前記極性アミノ酸はグルタミンであるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
前記他のアミノ酸はバリン又はグルタミンであるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
一実施例として、本出願の変異体は、配列番号1のアミノ酸配列の43番目の位置に相当するアミノ酸のバリンへの置換、58番目の位置に相当するアミノ酸のグルタミンへの置換、74番目の位置に相当するアミノ酸のバリンへの置換、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される置換が行われたものであるが、これに限定されるものではない。
【0026】
一実施例として、本出願の変異体は、配列番号1のアミノ酸配列のN末端からi)43番目の位置に相当するアミノ酸であるアラニンがバリンに置換されたものであるか、ii)58番目の位置に相当するアミノ酸であるロイシンがグルタミンに置換されたものであるか、iii)74番目の位置に相当するアミノ酸であるイソロイシンがバリンに置換されたものであるか、iv)43番目の位置に相当するアミノ酸であるアラニンがバリンに置換され、かつ58番目の位置に相当するアミノ酸であるロイシンがグルタミンに置換されたものであるか、v)58番目の位置に相当するアミノ酸であるロイシンがグルタミンに置換され、かつ74番目の位置に相当するアミノ酸であるイソロイシンがバリンに置換されたものであるか、vi)43番目の位置に相当するアミノ酸であるアラニンがバリンに置換され、かつ74番目の位置に相当するアミノ酸であるイソロイシンがバリンに置換されたものであるか、又はvii)43番目の位置に相当するアミノ酸であるアラニンがバリンに置換され、58番目の位置に相当するアミノ酸であるロイシンがグルタミンに置換され、かつ74番目の位置に相当するアミノ酸であるイソロイシンがバリンに置換されたものであるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
一実施例として、本出願の変異体は、配列番号1のアミノ酸配列の43番目の位置に相当するアミノ酸であるアラニンがバリンに置換され、58番目の位置に相当するアミノ酸であるロイシンがグルタミンに置換され、かつ74番目の位置に相当するアミノ酸であるイソロイシンがバリンに置換された、配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドであるが、これに限定されるものではない。
【0028】
本出願の変異体は、配列番号3で表されるアミノ酸配列を有するものであってもよく、前記アミノ酸配列を含むものであってもよく、前記アミノ酸配列からなるものであってもよく、前記アミノ酸配列から実質的に構成される(essentially consisting of)ものであってもよい。
【0029】
また、本出願の変異体は、配列番号3で表されるアミノ酸配列において、配列番号1のアミノ酸配列に対して、43番目の位置に相当するアミノ酸はバリンに固定され、58番目の位置に相当するアミノ酸はグルタミンに固定され、かつ74番目の位置に相当するアミノ酸はバリンに固定され、配列番号3で表されるアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.7%又は99.9%以上の相同性又は同一性を有するアミノ酸配列を含むものであってもよい。さらに、そのような各配列の固定された位置以外に前記相同性又は同一性を有し、本出願の変異体に相当する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換、保存的置換又は付加されたアミノ酸配列を有する変異体も本出願に含まれることは言うまでもない。
【0030】
例えば、アミノ酸配列のN末端、C末端及び/又は内部に、本出願の変異体の機能を変更しない配列の付加もしくは欠失、自然に発生し得る突然変異、非表現突然変異(silent mutation)又は保存的置換を有するものが挙げられる。
【0031】
前記「保存的置換(conservative substitution)」とは、あるアミノ酸が類似した構造的及び/又は化学的性質を有する他のアミノ酸に置換されることを意味する。このようなアミノ酸置換は、一般に残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性及び/又は両親媒性(amphipathic nature)における類似性に基づいて発生し得る。通常、保存的置換は、タンパク質又はポリペプチドの活性にほとんど又は全く影響を及ぼさない。
【0032】
本出願における「変異体(variant)」とは、少なくとも1つのアミノ酸の保存的置換(conservative substitution)及び/又は改変(modification)により前記変異体の変異前のアミノ酸配列とは異なるが、機能(functions)又は特性(properties)が維持されるポリペプチドを意味する。このような変異体は、一般に前記ポリペプチドのアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸を改変し、その改変したポリペプチドの特性を評価することにより同定(identify)することができる。すなわち、変異体の能力は、変異前のポリペプチドより向上するか、変わらないか又は低下する。また、一部の変異体には、N末端リーダー配列や膜貫通ドメイン(transmembrane domain)などの少なくとも1つの部分が除去された変異体も含まれる。他の変異体には、成熟タンパク質(mature protein)のN及び/又はC末端から一部分が除去された変異体も含まれる。前記「変異体」は、変異型、改変、変異型ポリペプチド、変異したタンパク質、変異など(英語表現では、modification、modified polypeptide、modified protein、mutant、mutein、divergentなど)と混用されるが、変異を意味する用語であればいかなるものでもよい。
【0033】
また、変異体は、ポリペプチドの特性と二次構造に最小限の影響を及ぼすアミノ酸の欠失又は付加を含んでもよい。例えば、変異体のN末端には、翻訳と同時に(co-translationally)又は翻訳後に(post-translationally)タンパク質の移動(translocation)に関与するシグナル(又はリーダー)配列が結合されてもよい。また、前記変異体は、確認、精製又は合成できるように、他の配列又はリンカーに結合されてもよい。
【0034】
本出願における「相同性(homology)」又は「同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列又は塩基配列が類似する程度を意味し、百分率で表される。相同性及び同一性は、しばしば互換的に用いられる。
【0035】
保存されている(conserved)ポリヌクレオチド又はポリペプチドの配列相同性又は同一性は標準配列アルゴリズムにより決定され、用いられるプログラムにより確立されたデフォルトギャップペナルティが共に用いられてもよい。実質的には、相同性を有するか(homologous)又は同じ(identical)配列は、中程度又は高いストリンジェントな条件(stringent conditions)下において、一般に配列全部又は一部分とハイブリダイズする。ハイブリダイゼーションには、ポリヌクレオチドにおいて一般のコドン又はコドン縮退を考慮したコドンを有するポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションも含まれることは言うまでもない。
【0036】
任意の2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、例えば非特許文献1のようなデフォルトパラメーターと「FASTA」プログラムなどの公知のコンピュータアルゴリズムを用いて決定することができる。あるいは、EMBOSSパッケージのニードルプログラム(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite,非特許文献2)(バージョン5.0.0又はそれ以降のバージョン)で行われるように、ニードルマン=ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(非特許文献3)を用いて決定することができる(GCGプログラムパッケージ(非特許文献4)、BLASTP、BLASTN、FASTA(非特許文献5、6及び7)を含む)。例えば、国立生物工学情報センターのBLAST又はClustal Wを用いて相同性、類似性又は同一性を決定することができる。
【0037】
ポリヌクレオチド又はポリペプチドの相同性、類似性又は同一性は、例えば非特許文献8に開示されているように、非特許文献3などのGAPコンピュータプログラムを用いて、配列情報を比較することにより決定することができる。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列のうち短いものにおける記号の総数で、類似する配列記号(すなわち、ヌクレオチド又はアミノ酸)の数を割った値と定義している。GAPプログラムのためのデフォルトパラメーターは、(1)二進法比較マトリックス(同一性は1、非同一性は0の値をとる)及び非特許文献9に開示されているように、非特許文献10の加重比較マトリックス(又はEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス)と、(2)各ギャップに3.0のペナルティ、及び各ギャップの各記号に追加の0.10ペナルティ(又はギャップオープンペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5)と、(3)末端ギャップに無ペナルティとを含む。
【0038】
本出願の一例として、本出願の変異体は、β-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ酵素活性を有するものであってもよい。また、本出願の変異体は、β-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ活性を有する野生型ポリペプチドに比べてレチノイド(retinoid)生産能を向上させる活性を有するものであってもよい。
【0039】
本出願における「β-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ(beta-carotene 15, 15’-oxygenase)」とは、1分子のβ-カロテン(beta-carotene)を切断して2分子のレチナール(retinal)に変換する作用を触媒する機能を有するものを意味する。
【0040】
本出願のβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼは、本出願において提供するβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ変異体を製造するために変形が加えられるβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ、又はβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ活性を有するポリペプチドであってもよい。具体的には、自然に発生するポリペプチド又は野生型ポリペプチドであってもよく、その成熟ポリペプチドであってもよく、その変異体又は機能的フラグメントを含むものであってもよく、本出願のβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ変異体の母体(parent)となるものであればいかなるものでもよい。
【0041】
本出願における前記β-カロテン15,15’-オキシゲナーゼは、これに限定されるものではないが、配列番号1のポリペプチドである。また、配列番号1のポリペプチドと約80%。85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の配列同一性を有するポリペプチドであってもよく、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同一又は相当する活性を有するものであれば、いかなるものでもβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼの範囲に含まれる。
【0042】
具体的には、本出願のβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼは、BCO又はBlhと混用される。本出願における前記β-カロテン15,15’-オキシゲナーゼは、公知のデータベースであるNCBIのGenBankからその配列が得られる。具体的には、blhによりコードされるβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ活性を有するポリペプチドであるが、これに限定されるものではない。
【0043】
本出願における「相当する(corresponding to)」とは、ポリペプチドにおいて列挙される位置のアミノ酸残基であるか、又はポリペプチドにおいて列挙される残基に類似、同一もしくは相当するアミノ酸残基であることを意味する。相当する位置のアミノ酸を確認することは、特定配列を参照する配列の特定アミノ酸を決定することになる。本出願における「相当領域」とは、一般に関連タンパク質又は参照(reference)タンパク質における類似又は対応する位置を意味する。
【0044】
例えば、任意のアミノ酸配列を配列番号1とアラインメント(align)すると、それに基づいて、前記アミノ酸配列の各アミノ酸残基は、配列番号1のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基の数、位置を参照してナンバリングすることができる。例えば、本出願における配列アラインメントアルゴリズムは、クエリー配列(「参照配列」ともいう)と比較すると、アミノ酸の位置、又は置換、挿入、欠失などの改変が生じる位置を確認することができる。
【0045】
このようなアラインメントには、例えばNeedleman-Wunschアルゴリズム(非特許文献3)、EMBOSSパッケージのNeedleプログラム(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite,非特許文献2)などを用いることができるが、これらに限定されるものではなく、当該技術分野で公知の配列アラインメントプログラム、ペアワイズ配列(pairwise sequence)比較アルゴリズムなどを適宜用いることができる。
【0046】
本出願の他の態様は、本出願の変異体をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0047】
本出願における「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチド単量体(monomer)が共有結合により長く鎖状につながったヌクレオチドの重合体(polymer)であって、所定の長さより長いDNA又はRNA鎖を意味し、より具体的には前記変異体をコードするポリヌクレオチド断片を意味する。
【0048】
本出願の変異体をコードするポリヌクレオチドは、一例として配列番号3で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むものであってもよい。本出願の一例として、本出願のポリヌクレオチドは、配列番号4の配列を有するものであってもよく、配列番号4の配列を含むものであってもよい。また、本出願のポリヌクレオチドは、配列番号4の配列からなるものであってもよく、配列番号4の配列から実質的に構成されるものであってもよい。
【0049】
本出願のポリヌクレオチドは、コドンの縮退(degeneracy)により、又は本出願の変異体を発現させようとする生物において好まれるコドンを考慮して、本出願の変異体のアミノ酸配列が変化しない範囲でコード領域に様々な改変を行うことができる。具体的には、本出願のポリヌクレオチドは、配列番号4と相同性もしくは同一性が70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、及び100%未満である塩基配列を有するものであるか、前記塩基配列を含むものであるか、又は配列番号4の配列と相同性もしくは同一性が70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、及び100%未満である塩基配列からなるものであるか、前記塩基配列から実質的に構成されるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
ここで、前記相同性もしくは同一性を有する配列において、配列番号3の43番目の位置に相当するアミノ酸をコードするコドンは、バリンをコードするコドンの1つであってもよく、58番目の位置に相当するアミノ酸をコードするコドンは、グルタミンをコードするコドンの1つであってもよく、74番目の位置に相当するアミノ酸をコードするコドンは、バリンをコードするコドンの1つであってもよい。
【0051】
また、本出願のポリヌクレオチドは、公知の遺伝子配列から調製されるプローブ、例えば本出願のポリヌクレオチド配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列であればいかなるものでもよい。前記「ストリンジェントな条件(stringent condition)」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は、文献(非特許文献11、12参照)に具体的に記載されている。例えば、相同性もしくは同一性の高いポリヌクレオチド同士、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上もしくは99%以上の相同性もしくは同一性を有するポリヌクレオチド同士をハイブリダイズし、それより相同性もしくは同一性の低いポリヌクレオチド同士をハイブリダイズしない条件、又は通常のサザンハイブリダイゼーション(southern hybridization)の洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、具体的には60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度において、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件が挙げられる。
【0052】
ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つの核酸が相補的配列を有することが求められる。「相補的」とは、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を表すために用いられるものである。例えば、DNAにおいて、アデニンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。よって、本出願のポリヌクレオチドには、実質的に類似する核酸配列だけでなく、全配列に相補的な単離された核酸フラグメントが含まれてもよい。
【0053】
具体的には、本出願のポリヌクレオチドと相同性又は同一性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値でハイブリダイゼーションステップが含まれるハイブリダイゼーション条件と前述した条件を用いて検出することができる。また、前記Tm値は、60℃、63℃又は65℃であってもよいが、これらに限定されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節される。
【0054】
前記ポリヌクレオチドをハイブリダイズする適切なストリンジェンシーはポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当該技術分野で公知である(例えば、非特許文献11)。
【0055】
本出願のさらに他の態様は、本出願のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。前記ベクターは、前記ポリヌクレオチドを宿主細胞において発現させるための発現ベクターであるが、これに限定されるものではない。
【0056】
本出願のベクターには、好適な宿主内で標的ポリペプチドを発現させることができるように、好適な発現調節領域(又は発現調節配列)に作動可能に連結された前記標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含むDNA産物が含まれる。前記発現調節領域には、転写を開始するプロモーター、その転写を調節するための任意のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び翻訳の終結を調節する配列が含まれる。ベクターは、好適な宿主細胞内に形質転換されると、宿主ゲノムに関係なく複製及び機能することができ、ゲノム自体に組み込まれる。
【0057】
本出願に用いられるベクターは、特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知の任意のベクターが用いられる。通常用いられるベクターの例としては、天然状態又は組換え状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージが挙げられる。例えば、ファージベクター又はコスミドベクターとしては、pWE15、M13、MBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、Charon4A、Charon21Aなどを用いることができ、プラスミドベクターとしては、pDZ系、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系、pET系などを用いることができる。具体的には、pDZ、pDC、pDCM2(特許文献2)、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BAC、pIMR53ベクターなどを用いることができる。
【0058】
例えば、細胞内染色体導入用ベクターにより、標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを染色体内に挿入することができる。前記ポリヌクレオチドの染色体への挿入は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば相同組換え(homologous recombination)により行うことができるが、これに限定されるものではない。前記染色体に挿入されたか否かを確認するための選択マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。前記選択マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選択するためのもの、すなわち標的核酸分子が挿入されたか否かを確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性、表面ポリペプチドの発現などの選択可能表現型を付与するマーカーが用いられる。選択剤(selective agent)で処理した環境においては、選択マーカーを発現する細胞のみ生存するか、異なる表現形質を示すので、形質転換された細胞を選択することができる。
【0059】
本出願における「形質転換」とは、標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞又は微生物内に導入することにより、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするポリペプチドを発現させることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現するものであれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、いかなるものでもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、標的ポリペプチドをコードするDNA及び/又はRNAを含むものである。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現するものであれば、いかなる形態で導入されるものでもよい。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自ら発現する上で必要なあらゆる要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されるものでもよい。通常、前記発現カセットは、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位及び翻訳終結シグナルを含む。前記発現カセットは、自己複製可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞において発現に必要な配列と作動可能に連結されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0060】
また、前記「作動可能に連結」されたものとは、本出願の標的変異体をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するプロモーター配列と前記ポリヌクレオチド配列が機能的に連結されたものを意味する。
【0061】
本出願のさらに他の態様は、本出願の変異体、又は本出願のポリヌクレオチドを含む微生物を提供する。
【0062】
本出願の微生物は、本出願の変異体、前記変異体をコードするポリヌクレオチド、及び前記ポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含むものであってもよい。本出願の微生物は、本出願の変異型ポリペプチド、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は本出願のポリヌクレオチドを含むベクターを含むものであってもよい。
【0063】
本出願における「菌株」又は「微生物」は、野生型微生物や自然に又は人為的に遺伝的改変が行われた微生物が全て含まれるものであり、外部遺伝子が挿入されるか、内在性遺伝子の活性が強化又は不活性化されるなどの原因により、特定機序が弱化又は強化された微生物であって、目的とするポリペプチド、タンパク質又は産物の生産のために遺伝的改変(modification)が行われた微生物である。
【0064】
本出願の微生物は、本出願の変異体、本出願のポリヌクレオチド、及び本出願のポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含む微生物、本出願の変異体、もしくは本出願のポリヌクレオチドを発現するように改変された微生物、本出願の変異体、もしくは本出願のポリヌクレオチドを発現する微生物(例えば、組換え微生物)、又は本出願の変異体の活性を有する微生物(例えば、組換え微生物)であるが、これらに限定されるものではない。前記微生物は、リコペンシクラーゼ/フィトエンシンターゼ(lycopene cyclase/phytoene synthase, crtYB)及びフィトエンデサチュラーゼ(phytoene desaturase, crtI)タンパク質をコードするポリヌクレオチドを内在的に含む微生物であってもよく、前記タンパク質をコードするポリヌクレオチドをさらに含むように改変され、それらのタンパク質活性を示す微生物、又はそれらのタンパク質活性が強化された微生物であってもよい。また、前記微生物は、リコペンシクラーゼ/フィトエンシンターゼ(lycopene cyclase/phytoene synthase, crtYB)及びフィトエンデサチュラーゼ(phytoene desaturase, crtI)タンパク質の活性のない親株が前記タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むように改変され、それらのタンパク質活性を示す微生物であってもよい。前記リコペンシクラーゼ/フィトエンシンターゼ又はフィトエンデサチュラーゼは、キサントフィロマイセス・デンドロアス(Xanthophyllomyces dendrorhous)由来のタンパク質であるが、これに限定されるものではない。一具体例として、前記リコペンシクラーゼ/フィトエンシンターゼ又はフィトエンデサチュラーゼをコードするポリヌクレオチドは、それぞれ配列番号13又は配列番号14の配列を有するものであってもよく、前記配列を含むものであってもよい。前記ポリヌクレオチドは、コドンの縮退(degeneracy)により、又は本出願の変異体を発現させようとする微生物において好まれるコドンを考慮して、アミノ酸配列が変化しない範囲でコード領域に様々な改変を行うことができる。具体的には、前記ポリヌクレオチドは、配列番号13もしくは配列番号14の配列と相同性もしくは同一性が70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、及び100%未満である塩基配列を有するものであるか、前記塩基配列を含むものであるか、又は配列番号13もしくは配列番号14の配列と相同性もしくは同一性が70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、及び100%未満である塩基配列からなるものであるか、前記塩基配列から実質的に構成されるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
本出願の微生物は、レチノイド生産能を有するものであってもよく、レチノール生産能を有するものであってもよい。
【0066】
本出願における「レチノイド」とは、ビタミンAとして作用するか、それに関連する物質を意味する。具体的には、前記レチノイドは、レチノール(retinol)、レチナール(retinal)、レチニルエステル(retinyl ester)及びレチノイン酸(retinoic acid)からなる群から選択される少なくとも1つである。本出願の微生物は、レチナール及びレチノール生産能を有する微生物であってもよく、レチノイン酸は、レチノールから変換されて生産されるものであってもよい。
【0067】
本出願の微生物は、自然にβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ又はレチノイド生産能を有する微生物であるか、β-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ又はレチノイド生産能のない親株に、本出願の変異体もしくはそれをコードするポリヌクレオチド(もしくは前記ポリヌクレオチドを含むベクター)が導入され、かつ/又はレチノイド生産能が付与された微生物であるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
例えば、本出願の微生物は、本出願のポリヌクレオチド、又は本出願の変異体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換され、本出願の変異体を発現する細胞又は微生物であり、本出願の目的上、本出願の微生物は、本出願の変異体を含み、レチノイドを生産する微生物であればいかなるものでもよい。例えば、本出願の微生物は、天然の野生型微生物又はレチノイドを生産する微生物に本出願の変異体をコードするポリヌクレオチドを導入することにより、β-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ変異体が発現し、レチノイド生産能が向上した組換え微生物であってもよい。前記レチノイド生産能が向上した組換え微生物は、天然の野生型微生物又は二重機能性β-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ非改変微生物(すなわち、野生型β-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ(配列番号1)を発現する微生物、又は変異型(配列番号3又は前述したβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ変異体)タンパク質を発現しない微生物)に比べて、レチノイド生産能が向上した微生物であるが、これに限定されるものではない。例えば、前記レチノイド生産能が向上したか否かを比較する対象微生物であるβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ非改変微生物はCC08-1023菌株であるが、これに限定されるものではない。
【0069】
一例として、前記生産能が向上した組換え微生物は、変異前の親株又は非改変微生物のレチノイド生産能に比べて、約1%以上、具体的には約1%以上、約2.5%以上、約5%以上、約6%以上、約7%以上、約8%以上、約9%以上、約10%以上、約11%以上、約11.5%以上、約12%以上、約12.5%以上、約13%以上、約13.5%以上、約14%以上、約14.5%以上、約15%以上、約15.5%以上、約16%以上、約16.5%以上、約17%以上、約17.5%以上、約18%以上、約20%以上、約22%以上、約24%以上、約26%以上、約28%以上、約30%以上、約32%以上、約34%以上、約36%以上、約37%以上、約38%以上、約39%以上、約40%以上、約41%以上、約41.5%以上、約42%以上、約42.5%以上、約43%以上、約43.5%以上、約44%以上、約44.5%以上、約45%以上、約45.5%以上又は約46%以上(上限値に特に制限はなく、例えば約200%以下、約150%以下、約100%以下又は約50%以下である)向上したものであるが、変異前の親株もしくは非改変微生物の生産能に比べて、+値の増加量を有するものであればいかなるものでもよい。他の例として、前記生産能が向上した組換え微生物は、変異前の親株又は非改変微生物に比べて、レチノイド生産能が約1.01倍以上、約1.02倍以上、約1.03倍以上、約1.05倍以上、約1.06倍以上、約1.07倍以上、約1.08倍以上、約1.09倍以上、約1.10倍以上、約1.11倍以上、約1.12倍以上、約1.13倍以上、約1.14倍以上、約1.15倍以上、約1.16倍以上、約1.17倍以上、約1.18倍以上、約1.20倍以上、約1.22倍以上、約1.24倍以上、約1.26倍以上、約1.28倍以上、約1.30倍以上、約1.32倍以上、約1.34倍以上、約1.36倍以上、約1.38倍以上、約1.40倍以上、約1.41倍以上、約1.42倍以上、約1.43倍以上、約1.44倍以上、約1.45倍以上又は約1.46倍以上(上限値に特に制限はなく、例えば約10倍以下、約5倍以下、約3倍以下又は約2倍以下である)に向上したものであるが、これらに限定されるものではない。前記「約(about)」とは、±0.5、±0.4、±0.3、±0.2、±0.1などが全て含まれる範囲であり、約という用語の後に続く数値と同等又は同程度の範囲の数値であればいかなるものでもよいが、これらに限定されるものではない。
【0070】
本出願における「非改変微生物」とは、微生物に自然に発生し得る突然変異を含む菌株を除外するものではなく、野生型菌株もしくは天然菌株自体、又は自然要因もしくは人為的要因により遺伝的に変異して形質が変化する前の菌株を意味する。例えば、前記非改変微生物とは、本明細書に記載されたβ-カロテン15,15’-オキシゲナーゼ変異体が導入されていないか、導入される前の菌株を意味する。前記「非改変微生物」は、「改変前の菌株」、「改変前の微生物」、「非変異菌株」、「非改変菌株」、「非変異微生物」又は「基準微生物」と混用される。
【0071】
本出願の他の例として、本出願の微生物は、ヤロウィア(Yarrowia sp.)属微生物であり、具体的にはヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)であるが、これらに限定されるものではない。
【0072】
本出願におけるポリペプチド活性の「強化」とは、ポリペプチドの活性を内在性活性に比べて向上させることを意味する。前記強化は、活性化(activation)、上方調節(up-regulation)、過剰発現(overexpression)、向上(increase)などと混用される。ここで、活性化、強化、上方調節、過剰発現、向上には、本来なかった活性を示すようになることや、内在性活性又は改変前の活性に比べて活性が向上することが全て含まれる。前記「内在性活性」とは、自然要因又は人為的要因により遺伝的に変異して形質が変化する場合に、形質変化の前の親株又は非改変微生物が本来有していた特定ポリペプチドの活性を意味する。これは、「改変前の活性」と混用される。ポリペプチドの活性が内在性活性に比べて「強化」、「上方調節」、「過剰発現」又は「向上」するとは、形質変化の前の親株又は非改変微生物が本来有していた特定ポリペプチドの活性及び/又は濃度(発現量)に比べて向上することを意味する。
【0073】
前記強化は、外来ポリペプチドの導入により行われてもよく、内在性ポリペプチドの活性強化及び/又は濃度(発現量)増加により行われてもよい。前記ポリペプチドの活性が強化されたか否かは、当該ポリペプチドの活性の程度、発現量、又は当該ポリペプチドから生産される産物の量の増加により確認することができる。
【0074】
前記ポリペプチドの活性の強化には、当該分野で周知の様々な方法を適用することができ、標的ポリペプチドの活性を改変前の微生物より強化できるものであればいかなるものでもよい。具体的には、分子生物学における通常の方法であり、当該技術分野における通常の知識を有する者に周知の遺伝子工学及び/又はタンパク質工学を用いたものであるが、これらに限定されるものではない(例えば、非特許文献13、14など)。
【0075】
具体的には、本出願のポリペプチド活性の強化は、1)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの細胞内コピー数を増加させること、2)ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子発現調節領域を活性が強力な配列に置換すること、3)ポリペプチドをコードする遺伝子転写産物の開始コドンもしくは5’UTR領域をコードする塩基配列を改変すること、4)ポリペプチド活性が強化されるように前記ポリペプチドのアミノ酸配列を改変すること、5)ポリペプチド活性が強化されるように前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を改変すること(例えば、ポリペプチド活性が強化されるように改変されたポリペプチドをコードするように前記ポリペプチド遺伝子のポリヌクレオチド配列を改変すること)、6)ポリペプチドの活性を示す外来ポリペプチドもしくはそれをコードする外来ポリヌクレオチドを導入すること、7)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのコドンを最適化すること、8)ポリペプチドの三次構造を分析し、露出部分を選択して改変すること、もしくは化学的に修飾すること、又は9)前記1)~8)から選択される2つ以上の組み合わせにより行われるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0076】
より具体的には、前記1)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの細胞内コピー数を増加させることは、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主に関係なく複製されて機能するベクターを宿主細胞内に導入することにより行われてもよい。あるいは、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを宿主細胞内の染色体に1コピー又は2コピー以上導入することにより行われてもよい。前記染色体への導入は、宿主細胞内の染色体に前記ポリヌクレオチドを挿入することのできるベクターを宿主細胞に導入することにより行われるが、これに限定されるものではない。前記ベクターについては前述した通りである。
【0077】
前記2)ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子の発現調節領域(又は発現調節配列)を活性が強力な配列に置換することは、例えば前記発現調節領域の活性がさらに強化されるように、欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を発生させるか、より高い活性を有する配列に置換することにより行われる。前記発現調節領域には、特にこれらに限定されるものではないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、転写及び翻訳の終結を調節する配列などが含まれる。例えば、本来のプロモーターを強力なプロモーターに置換することにより行われるが、これに限定されるものではない。
【0078】
公知の強力なプロモーターの例としては、CJ1~CJ7プロモーター(特許文献3)、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージPRプロモーター、PLプロモーター、tetプロモーター、gapAプロモーター、SPL7プロモーター、SPL13(sm3)プロモーター(特許文献4)、O2プロモーター(特許文献5)、tktプロモーター、yccAプロモーター、TEFINtプロモーター、EXP1プロモーター、TEF1プロモーターなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0079】
前記3)ポリペプチドをコードする遺伝子転写産物の開始コドンもしくは5’UTR領域をコードする塩基配列を改変することは、例えば、内在性開始コドンに比べてポリペプチドの発現率が高い他の開始コドンをコードする塩基配列に置換することにより行われるが、これに限定されるものではない。
【0080】
前記4)及び5)のアミノ酸配列又はポリヌクレオチド配列を改変することは、ポリペプチドの活性が強化されるように、前記ポリペプチドのアミノ酸配列又は前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を発生させるか、より高い活性を有するように改良されたアミノ酸配列もしくはポリヌクレオチド配列、又は活性が向上するように改良されたアミノ酸配列もしくはポリヌクレオチド配列に置換することにより行われるが、これらに限定されるものではない。具体的には、前記置換は、相同組換えによりポリヌクレオチドを染色体に挿入することにより行われるが、これに限定されるものではない。ここで、用いられるベクターは、染色体に挿入されたか否かを確認するための選択マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。前記選択マーカーについては前述した通りである。
【0081】
前記6)ポリペプチドの活性を示す外来ポリヌクレオチドを導入することは、前記ポリペプチドと同一/類似の活性を示すポリペプチドをコードする外来ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入することにより行われてもよい。前記外来ポリヌクレオチドは、前記ポリペプチドと同一/類似の活性を示すものであれば、その由来や配列はいかなるものでもよい。前記導入は、公知の形質転換方法を当業者が適宜選択して行うことができ、宿主細胞内で前述したように導入したポリヌクレオチドが発現することにより、ポリペプチドが生成されてその活性が向上する。
【0082】
前記7)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのコドンを最適化することは、宿主細胞内で転写又は翻訳が増加するように、内在ポリヌクレオチドのコドンを最適化することにより行われてもよく、宿主細胞内で最適化された転写、翻訳が行われるように、外来ポリヌクレオチドのコドンを最適化することにより行われてもよい。
【0083】
前記8)ポリペプチドの三次構造を分析し、露出部分を選択して改変すること、もしくは化学的に修飾することは、例えば分析しようとするポリペプチドの配列情報を既知のタンパク質の配列情報が保存されているデータベースと比較し、配列の類似性の程度に応じて鋳型タンパク質の候補を決定し、それを基に構造を確認し、改変又は化学的に修飾する露出部分を選択して改変又は修飾することにより行われてもよい。
【0084】
このようなポリペプチド活性の強化は、対応するポリペプチドの活性又は濃度、発現量を野生型や改変前の微生物菌株で発現するポリペプチドの活性又は濃度に比べて向上させるか、当該ポリペプチドから生産される産物の量を増加させることにより行われるが、これらに限定されるものではない。
【0085】
本出願の微生物において、ポリヌクレオチドの一部又は全部の改変は、(a)微生物中の染色体導入用ベクターを用いた相同組換え、もしくは遺伝子はさみ(engineered nuclease, e.g., CRISPR-Cas9)を用いたゲノム編集、並びに/又は(b)紫外線や放射線などの光及び/もしくは化学物質処理により誘導することができるが、これらに限定されるものではない。前記遺伝子の一部又は全部の改変方法には、DNA組換え技術による方法が含まれる。例えば、標的遺伝子と相同性のあるヌクレオチド配列が含まれるヌクレオチド配列又はベクターを前記微生物に導入して相同組換え(homologous recombination)を起こすことにより遺伝子の一部又は全部の欠失が行われる。この導入されるヌクレオチド配列又はベクターは、優性選択マーカーを含むものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0086】
本出願の微生物における変異体、ポリヌクレオチド、レチノイドなどについては前述した通りである。
【0087】
本出願のさらに他の態様は、本出願の変異体、又は本出願のポリヌクレオチドを含む微生物を培地で培養するステップを含むレチノイド生産方法を提供する。
【0088】
本出願のレチノイド生産方法は、本出願の変異体、本出願のポリヌクレオチド、又は本出願のベクターを含む微生物を培地で培養するステップを含んでもよい。
【0089】
本出願における「培養」とは、本出願の微生物を適宜調節した環境条件で生育させることを意味する。本出願の培養過程は、当該技術分野で公知の好適な培地と培養条件で行うことができる。このような培養過程は、当業者であれば選択される菌株に応じて容易に調整して用いることができる。具体的には、前記培養は、回分、連続及び/又は流加培養であるが、これらに限定されるものではない。
【0090】
本出願における「培地」とは、本出願の微生物を培養するために必要な栄養物質を主成分として混合した物質を意味し、生存及び発育に不可欠な水をはじめとする栄養物質や発育因子などを供給するものである。具体的には、本出願の微生物の培養に用いられる培地及び他の培養条件は、通常の微生物の培養に用いられる培地であればいかなるものでもよく、好適な炭素源、窒素源、リン源、無機化合物、アミノ酸及び/又はビタミンなどを含有する通常の培地中で好気性条件下にて温度、pHなどを調節して本出願の微生物を培養することができる。
【0091】
本出願における前記炭素源としては、グルコース、サッカロース、ラクトース、フルクトース、スクロース、マルトースなどの炭水化物、マンニトール、ソルビトールなどの糖アルコール、ピルビン酸、乳酸、クエン酸などの有機酸、グルタミン酸、メチオニン、リシンなどのアミノ酸などが挙げられる。また、デンプン加水分解物、糖蜜、ブラックストラップ糖蜜、米糠、キャッサバ、バガス、トウモロコシ浸漬液などの天然の有機栄養源を用いることができ、具体的には、グルコースや殺菌した前処理糖蜜(すなわち、還元糖に変換した糖蜜)などの炭水化物を用いることができ、その他適量の炭素源であればいかなるものでも用いることができる。これらの炭素源は、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0092】
前記窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機窒素源と、グルタミン酸、メチオニン、グルタミンなどのアミノ酸、ペプトン、NZ-アミン、肉類抽出物、酵母抽出物、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、カゼイン加水分解物、魚類又はその分解生成物、脱脂大豆ケーキ又はその分解生成物などの有機窒素源とを用いることができる。これらの窒素源は、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0093】
前記リン源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム又はそれらに相当するナトリウム含有塩などが挙げられる。無機化合物としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化鉄、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン、炭酸カルシウムなどを用いることができ、それ以外に、アミノ酸、ビタミン及び/又は好適な前駆体などを用いることができる。これらの構成成分又は前駆体は、培地に回分式又は連続式で添加することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0094】
また、本出願の微生物の培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸、硫酸などの化合物を培地に好適な方法で添加し、培地のpHを調整してもよい。さらに、培養中に脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を用いて気泡生成を抑制してもよい。さらに、培地の好気状態を維持するために、培地中に酸素又は酸素含有気体を注入してもよく、嫌気及び微好気状態を維持するために、気体を注入しなくてもよく、窒素、水素又は二酸化炭素ガスを注入してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0095】
本出願の培養において、培養温度は20~45℃、具体的には25~40℃、20~35℃、又は25~35℃に維持し、約10~160時間培養するが、これらに限定されるものではない。
【0096】
本出願の培養により生産されたレチノイドは、培地中に分泌されるか、細胞内に残留する。
【0097】
本出願のレチノイド生産方法は、本出願の微生物を準備するステップ、前記微生物を培養するための培地を準備するステップ、又はそれらの組み合わせ(任意の順序,in any order)を、例えば前記培養するステップの前にさらに含んでもよい。
【0098】
本出願のレチノイド生産方法は、前記培養に用いた培地(培養が行われた培地)又は本出願の微生物からレチノイドを回収するステップをさらに含んでもよい。前記回収するステップは、前記培養するステップの後にさらに含んでもよい。
【0099】
前記回収は、本出願の微生物の培養方法、例えば回分、連続、流加培養方法などに応じて、当該技術分野で公知の好適な方法を用いて目的とするレチノイドを回収(collect)するものであってもよい。例えば、遠心分離、濾過、結晶化、タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、抽出、細胞破砕、超音波破砕、限外濾過、透析法、分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィー、HPLC又はそれらの組み合わせが用いられ、当該分野で公知の好適な方法を用いて培地又は微生物から目的とするレチノイドを回収することができる。
【0100】
また、本出願のレチノイド生産方法は、精製ステップをさらに含んでもよい。前記精製は、当該技術分野で公知の好適な方法により行うことができる。例えば、本出願のレチノイド生産方法が回収ステップと精製ステップの両方を含む場合、前記回収ステップと前記精製ステップは、順序に関係なく連続的又は非連続的に行ってもよく、同時に又は1つのステップとして統合して行ってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0101】
本出願のレチノイドの一種であるレチノール誘導体の生産方法において、前記培養するステップは、レチノールをレチノール誘導体に変換するステップをさらに含んでもよい。本出願のレチノール誘導体の生産方法において、前記培養するステップ又は前記回収するステップの後に、前記変換するステップをさらに含んでもよい。前記変換するステップは、当該技術分野で公知の好適な方法により行うことができる(非特許文献15,16)。
【0102】
本出願の方法における変異体、ポリヌクレオチド、ベクター、微生物などについては前述した通りである。
【0103】
本出願のさらに他の態様は、本出願の変異体、前記変異体をコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、もしくは本出願のポリヌクレオチドを含む微生物を含むか、それを培養した培地を含むか、又はそれらの2つ以上の組み合わせを含むレチノイド生産用組成物を提供する。
【0104】
本出願の組成物は、レチノイド生産用組成物に通常用いられる任意の好適な賦形剤をさらに含んでもよい。このような賦形剤としては、例えば保存剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0105】
本出願の組成物における変異体、ポリヌクレオチド、ベクター、微生物、培地、レチノイドなどについては前述した通りである。
【0106】
本出願のさらに他の態様は、本出願の変異体、ポリヌクレオチド、ベクター及び微生物の少なくとも1つのレチノイド生産への使用を提供する。
【0107】
前記変異体、ポリヌクレオチド、ベクター、微生物、レチノイドなどについては前述した通りである。
【実施例
【0108】
以下、実施例を挙げて本出願をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本出願を例示する好ましい実施形態にすぎず、本出願がこれらに限定されるものではない。なお、本明細書に記載されていない技術的事項は、本出願の技術分野又は類似技術分野における熟練した技術者が十分に理解し、容易に実施することのできるものである。
(実施例1)
【0109】
BCO変異ベクターライブラリーの構築
海洋細菌66A03(Uncultured marine bacterium 66A03)由来のBCO遺伝子を増幅するために、UniProtKB(UniProt Knowledgebase)に登録されているアミノ酸配列(Q4PNI0)に基づいて、配列番号1のアミノ酸配列及び配列番号2のポリヌクレオチド配列を確保した。Error-prone PCRによりrandom変異を誘導するために、diversify PCR random mutagenesis kit(Takara社)を用いた。PCR条件及び方法は、最適化によりuser manualのbuffer条件1及び2でそれぞれ行った。具体的なError-prone PCR条件を表1に示す。
【0110】
マクロジェン社に合成を依頼した海洋細菌66A03由来の野生型BCO遺伝子(配列番号1)を鋳型とし、配列番号5と配列番号6のプライマーを用いてPCRを行った。PCR条件は、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、68℃で1分間の重合反応を25サイクル行うものとした。PCRにより増幅した2つの条件のBCO PCR productsを混合し、pIMR53-TEFINtp-CYC1tベクターベースのBCO変異のベクターライブラリーを作製した。
【0111】
【表1】
【0112】
pIMR53-TEFINtp-CYC1tベクターは、次の方法で作製した。
【0113】
TEFINtpを増幅するために、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)PO1fのゲノムDNAを鋳型とし、配列番号7と配列番号8のプライマーを用いてPCRを行い、CYC1ターミネーターを増幅するために、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号9と配列番号10のプライマーを用いてPCRを行った。PCR条件は、95℃で1分間の変性、55℃で1分間のアニーリング、68℃で1分間の重合反応を32サイクル行うものとした。さらに、pIMR53ベクターを鋳型とし、配列番号11と配列番号12のプライマーを用いてPCRを行った。PCR条件は、95℃で1分間の変性、55℃で1分間のアニーリング、68℃で5分間の重合反応を32サイクル行うものとした。
【0114】
その結果、6,774bpのlinearized pIMR53、531bpのTEFINtp、及び248bpのCYC1tが得られた。PCRにより増幅した前記TEFINtp及びCYC1tのDNA断片は、Infusionクローニングキット(Invitrogen)を用いてpIMR53ベクターにライゲーションし、その後大腸菌DH5αに形質転換し、30mg/Lのアンピシリンを含有するLB固体培地に塗抹した。
【0115】
PCRにより目的とするTEFINtプロモーターとCYC1ターミネーターが挿入されたプラスミドで形質転換されたコロニーを選択し、その後周知のプラスミド抽出法を用いてプラスミドを得た。そのプラスミドをpIMR53-TEFINtp-CYC1tと命名した。
(実施例2)
【0116】
レチノイド生産用Yarrowia lipolyticaプラットフォーム菌株の作製
実施例2-1.X.dendrorhous由来のcrtYB-crtI挿入株の作製
レチノイド生産のためのプラットフォーム菌株の作製のために、高脂肪酵母であるYarrowia lipolytica CC08-0125(寄託番号KCCM12972P)菌株のゲノムにXanthophyllomyces dendrorhous由来のlycopene cyclase/phytoene synthase(crtYB)及びphytoene desaturase(crtI)遺伝子を挿入した。crtYBはNCBI(National Center for Biotechnology Information Search database)に登録されている塩基配列(GenBank: AY177204.1)に基づいて配列番号13のポリヌクレオチドを確保し、crtIはNCBIに登録されている塩基配列(GenBank: AY177424.1)に基づいて配列番号14のポリヌクレオチドを確保した。crtYBとcrtIのポリヌクレオチド配列は、マクロジェン社に依頼してTEFINtp-crtYB-CYC1t(配列番号15)、TEFINtp-crtI-CYC1t(配列番号16)の形態に遺伝子を合成した。選択マーカーとしてY.lipolyticaのURA3遺伝子(配列番号17)を用いて、MHY1(YALI0B21582g)遺伝子位置に挿入するカセットをデザインした。合成したcrtYB、crtI遺伝子及びKCCM12972PのゲノムDNAを鋳型とし、配列番号18及び配列番号19、配列番号20及び配列番号21、配列番号22及び配列番号23、配列番号24及び配列番号25、配列番号26及び配列番号27、並びに配列番号28及び配列番号29のプライマーを用いて各PCRを行った。PCR条件は、95℃で1分間の変性、55℃で1分間のアニーリング、72℃で3分30秒間の重合反応を35サイクル行うものとした。結果として得られた5つのDNA断片をoverlap extension PCRにより1つのカセットに作製した。
【0117】
このように作製したカセットを熱ショック法(非特許文献17)によりKCCM12972P菌株に導入し、その後uracil不含固体培地(YLMM1)で形成されたコロニーを得た。配列番号30及び配列番号31のプライマーを用いて、ゲノムへのカセット挿入が確認されたコロニーを5-FOA固体培地にspottingして30℃で3日間培養し、5-FOA固体培地で生育したコロニーを得ることにより、URA3マーカーを回収した。
【0118】
実施例2-2.HMGR強化株の作製
前述したように実施例2-1で作製したcrtYB及びcrtI遺伝子を挿入した菌株のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ(3-hydroxy-3-methylglutaryl-CoA reductase, HMGR)遺伝子のnativeプロモーター(配列番号32)部位をTEFINtプロモーターに置換するためのカセットをデザインし、KCCM12972PのゲノムDNAを鋳型とし、配列番号33及び配列番号34、配列番号35及び配列番号36、配列番号37及び配列番号38、配列番号39及び配列番号40、並びに配列番号41及び配列番号42のプライマーを用いて各PCRを行った。PCR条件は、95℃で1分間の変性、55℃で1分間のアニーリング、72℃で1分30秒間の重合反応を35サイクル行うものとした。結果として得られた5つのDNA断片をoverlap extension PCRにより1つのカセットに作製した。
【0119】
このように作製したカセットを熱ショック法により実施例2-1で作製した菌株に導入し、その後uracil不含固体培地(YLMM1)で形成されたコロニーを得た。配列番号43及び配列番号44のプライマーを用いて、カセット挿入が確認されたコロニーを5-FOA固体培地にspottingして30℃で3日間培養し、5-FOA固体培地で生育したコロニーを得ることにより、URA3マーカーを回収した。最終的に作製されたレチノイド生産プラットフォーム菌株をCC08-1023と命名した。
<Yarrowia lipolytica minimal media 1(YLMM1)>
グルコース20g/L,アミノ酸不含酵母ニトロゲンベース(Yeast nitrogen base without amino acids)6.7g/L,ウラシル不含酵母合成ドロップアウト培地用添加物(Yeast Synthetic Drop-out Medium Supplements without uracil)2g/L,寒天(agar)15g/L
<5-Fluoroorotic Acid(5-FOA)>
グルコース20g/L,アミノ酸不含酵母ニトロゲンベース(Yeast nitrogen base without amino acids)6.7g/L,ウラシル不含酵母合成ドロップアウト培地用添加物(Yeast Synthetic Drop-out Medium Supplements without uracil)2g/L,ウラシル(Uracil)50μg/mL,5-フルオロオロチン酸(5-Fluoroorotic acid; 5-FOA)1g/L,寒天(agar)15g/L
(実施例3)
【0120】
BCO活性強化株の1次選択
活性が強化されたBCOを選択するために、レチノイド生産プラットフォーム菌株であるCC08-1023菌株に、pIMR53(negative control, NC)ベクター、pIMR53-TEFINtp-BCO(野生型,配列番号2)-CYC1tベクター(positive control, PC)及び実施例1で構築したBCO random変異体発現ベクターライブラリーを熱ショック法(heat-shock)により形質転換した。その後、uracil不含固体培地で形成されたコロニーを得た。
【0121】
96 deep-well plate 31枚にウラシル不含YLMM2(Yarrowia lipolytica minimal media 2)液体培地を350μlずつ分注し、得られたコロニーを接種して30℃で48時間培養した。その後、ウラシル不含YLMM1固体培地にspottingして30℃で3日間培養した。培養終了後に、培養した全3,000コロニーから、positive control(CC08-1023/pIMR53-TEFINtp-BCO-CYC1t)に比べて色が薄い菌株17種を1次選択した。前記YLMM2の製造方法及び組成は次の通りである。
<YLMM2(pH7.0)>
グルコース40g/L、アミノ酸及び硫酸アンモニウム不含酵母ニトロゲンベース(Yeast nitrogen base without amino acids and ammonium sulfate)1.7g/L、ウラシル(Uracil)0.5g/L、硫酸アンモニウム(Ammonium sulfate)2.5g/Lを0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(sodium phosphate buffer)(pH7.0)に溶解させたもの
(実施例4)
【0122】
BCO活性強化株の2次選択
実施例3で1次選択した17種に対するフラスコ評価を行った。
【0123】
ウラシル不含YLMM2(Yarrowia lipolytica minimal media 2)50mlを入れた250mlのコーナーバッフルフラスコに、前記17種の菌株及びPC(positive control)ベクターで形質転換された菌株を初期ODが1になるように接種し、30℃、250rpmで48時間振盪培養した。培養終了後に、培養液1mlを遠心分離して上清を除去した。次に、DMSO(Dimethyl sulfoxide, sigma社)0.5mlを添加し、55℃、2,000rpmで10分間振盪してセルを破砕した。さらに、アセトン(sigma社)0.5mlを添加し、45℃、2,000rpmで15分間振盪してレチノール及びレチナールを抽出し、HPLC設備で濃度を分析した。分析したOD、レチノール及びレチナール濃度の結果を表2に示す。
【0124】
【表2】
【0125】
その後、評価試料から抽出したレチノール濃度を2次選択の基準として用いた。評価菌株のうち5種(number 1, 4, 5, 12, 16)において、PC(positive control)に比べてレチノール濃度(Retinol(%))が増加することが確認された。特に1番菌株においては、PC(positive control)に比べてレチノール濃度が約46%増加することが確認された。よって、レチノール濃度の上昇幅が最も大きい1番菌株から形質転換されたプラスミドを抽出し、BCO ORFに位置するrandom変異を確認するための配列分析を行った。Zymoprep yeast plasmid miniprep kit 2(Zymo research社)を用いて、選択した菌株から形質転換されたBCOプラスミドを抽出し、配列分析の信頼性を高めるために、配列番号45と配列番号46を用いて、両方向の配列分析を行った。その結果、BCO ORFにおける突然変異の数は3であることが確認された。確認された突然変異を表3に示す。
【0126】
【表3】
【0127】
これらの結果から、本出願のBCO変異体を導入すると、レチノイド生産量が増加することが確認された。
【0128】
以上の説明から、本出願の属する技術分野の当業者であれば、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本出願には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれる変更又は変形された形態が全て含まれるものと解釈すべきである。
【0129】
配列目録
本出願の配列を表4~表6に示す。
【0130】
【表4-1】

【表4-2】

【表4-3】

【表4-4】

【表4-5】

【表4-6】

【表4-7】

【表4-8】

【表4-9】

【表4-10】

【表4-11】

【表4-12】

【表4-13】

【表4-14】

【表4-15】

【表4-16】
【0131】
【表5-1】
【表5-2】
【0132】
【表6】
【0133】
【表7】
【配列表】
2024525799000001.xml
【国際調査報告】