(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】複数の機能的な眼のパラメーターを決定するためのコンピュータープログラム、方法、及び装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20240705BHJP
A61B 3/11 20060101ALI20240705BHJP
A61B 3/113 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
A61B3/10
A61B3/11
A61B3/113
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502092
(86)(22)【出願日】2022-07-13
(85)【翻訳文提出日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 EP2022069622
(87)【国際公開番号】W WO2023285541
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510239897
【氏名又は名称】ウニベルジテート ベルン
(71)【出願人】
【識別番号】524016585
【氏名又は名称】マシンエムディー アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【氏名又は名称】森本 敏明
(74)【代理人】
【識別番号】100181906
【氏名又は名称】河村 一乃
(72)【発明者】
【氏名】ブルッガー,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】セン,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】アベッグ,マティアス
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA16
4C316AA18
4C316AA21
4C316AA28
4C316FA01
4C316FA04
4C316FA19
4C316FB07
4C316FB11
4C316FB12
4C316FC04
4C316FY08
(57)【要約】
本発明は、コンピュータープログラムがコンピューター上で実行される場合にシステムに、複数の機能的な眼のパラメーターを決定するための方法、特にコンピューターに実装された方法を実行させるコンピュータープログラムに関し、前記システムは、被検者の左眼と右眼に独立して視覚刺激を投影するように構成される表示システム(4)を備えた光学システム(3)と、前記左眼及び右眼の注視方向(100)及び瞳孔のサイズ(102)を記録するように構成される視標追跡システム(5)と、前記光学システム(3)を制御し、かつ前記視標追跡システム(5)から記録されたデータを受信するように構成される前記コンピュータ(2)とを備え、求心性瞳孔欠損(APD)、特に相対求心性瞳孔欠損(RAPD)が、前記表示システム(4)を用いて被検者眼の左眼及び右眼に提示される第1の種類の刺激の配列からなる第1の試行セッションから決定され、かつ視野(400)が、前記表示システム(4)を用いて被検者の左眼及び右眼に提示される第2の種類の刺激の配列からなる第2の試行セッションから決定され、前記第1及び/又は第2の試行セッションから、1つ又は複数の斜視角度を決定することによって、斜視もまた決定される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータープログラムがコンピューター上で実行される場合に複数の機能的な眼のパラメーターを決定するための方法をシステムに実行させるコンピュータープログラムであって、前記システムは、被検者の左眼及び右眼に独立して視覚刺激を投影するように構成される表示システム(4)を備えた光学システム(3)と、左眼並びに右眼の注視方向(100)及び瞳孔のサイズ(102)を記録するように構成される視標追跡システム(5)と、光学システム(3)を制御し、かつ視標追跡システム(5)から記録されたデータを受信するように構成される前記コンピュータ(2)とを備え、
求心性瞳孔欠損(afferent pupillary defect:APD)、特に相対性求心性瞳孔欠損(relative afferent pupillary defect:RAPD)は、表示システム(4)により被検者の左眼及び右眼に提示される第1の種類の刺激の配列からなる第1の試行セッションから決定され、かつ
視野(400)は、表示システム(4)により被検者の左眼及び右眼に提示される第2の種類の刺激の配列からなる第2の試行セッションから決定され、前記第1の試行セッション及び/又は前記第2の試行セッションから、1つ又は複数の斜視角度を決定することによって、斜視もまた決定される、
前記コンピュータープログラム。
【請求項2】
前記第1の試行セッションの実行は、以下の工程と:
- 前記第1の試行セッションの間の瞳孔のサイズ(102)及び注視方向(100)に関する情報を含むデータを記録する工程と;
- 前記第1の試行セッションの前記記録されたデータから、コンピュータ(2)により左眼及び右眼の瞳孔のサイズ(102)の時間的経過(103)を分析することにより、APDを決定する工程と;
- 前記第1の試行セッションの前記記録された注視方向(100)から、コンピュータ(2)によりサッカード眼球運動(101)の大きさ及び方向を分析することにより、1つ又は複数の斜視角度を決定する工程と、
を含む、請求項1に記載のコンピュータープログラム。
【請求項3】
前記第2の試行セッションの実行は、以下の工程:
- 被検者の注視方向(100)に関する情報を含むデータを記録する工程と;
- 前記第2の試行セッションの前記記録された注視方向(100)から、被検者のサッカード眼球運動をコンピュータ(2)により分析することにより、視野(400)及び前記1つ又は複数の斜視角度を決定する工程と、
を含む、請求項1又は2に記載のコンピュータープログラム。
【請求項4】
前記第1の種類の視覚刺激のそれぞれの視覚刺激は、表示システム(4)の表示位置にて表示システム(4)上に表示される固視物(11)を備え、固視物(11)は、固視物(11)への眼の固定を可能にする空間的に限定されたグラフィカルな物体である、請求項1~3のいずれか一項に記載のコンピュータープログラム。
【請求項5】
前記第1の種類の視覚刺激は、右眼及び左眼に対して交互に繰り返し表示され、瞳孔のサイズ(102)及び注視方向(100)は、両眼について記録され、特に少なくとも100Hzのフレームレートで記録される、請求項4に記載のコンピュータープログラム。
【請求項6】
前記第1の試行セッションは、複数の注視方向ブロックを備え、それぞれの注視方向ブロックにおいて前記第1の種類の視覚刺激は、右眼及び左眼に繰り返し交互に提示され、前記固視物は、異なる注視方向ブロックについて異なる表示位置に表示され、特にそれぞれの注視方向ブロックについてAPD及び/又はRAPDも決定される、請求項5に記載のコンピュータープログラム。
【請求項7】
固視物(11)は、同じ注視方向ブロックについて同じ表示位置に表示され、サッカード眼球運動(101)の大きさ及び方向は、前記第1の種類の刺激が左眼から右眼へ、又はその逆に切り替わる度に前記記録されたサッカード眼球運動から決定され、特に前記少なくとも1つの斜視角度が注視方向に関連して決定されるように、前記少なくとも1つの斜視角度がそれぞれの注視方向ブロックについて決定される、請求項6に記載のコンピュータープログラム。
【請求項8】
それぞれの提示される第1の種類の刺激について、及びそれぞれの眼についてのそれぞれの注視方向ブロックにおいて、サッカード眼球運動(101)の大きさ及び方向が決定され、ここで同じ注視方向ブロックの第1の種類の視覚刺激(11)の後続の提示において、前記注視方向ブロックの以前に提示された第1の種類の刺激から決定されるサッカード眼球運動(101)の大きさ及び方向を補償するように、前記固視物の表示位置が調整され、特に同じ注視方向ブロックにおいてサッカード眼球運動(101)が最小化されるまで調整され、特に前記少なくとも1つの斜視角度は前記調整された表示位置に対応し、特に前記斜視角度が注視方向に関連して決定されるように、前記少なくとも1つの斜視角度はそれぞれの注視方向ブロックについて決定される、請求項6に記載のコンピュータープログラム。
【請求項9】
前記第2の種類の視覚刺激のそれぞれの視覚刺激は、表示システム(4)上の相対位置において均一な背景上に表示される輝度物を備え、前記第2の試行セッションの間、第2の種類の視覚刺激の前記輝度物は、複数の選択される相対位置において順次的に表示され、前記第2の種類の視覚刺激は右眼と左眼とに交互又は順次的に表示され、特にそれぞれ他方の眼に前記輝度物を含まない前記第2の種類の刺激と同一の中立的な刺激が提示され、前記輝度物が選択される相対位置(402)に表示される度に被検者が選択される相対位置(402)において前記輝度物を検出したかどうかが決定され、被検者が前記輝度物を検出した場合、前記輝度物はその後に異なる選択される相対位置に表示され、前記輝度物は低減された輝度で後の試行において再び前記選択される相対位置に表示され、被検者が前記選択される相対位置において前記輝度物を検出しなかった場合に、被検者が前記輝度物を検出するまで前記輝度物は輝度を増加して前記選択される相対位置に繰り返し表示され、それにより、それぞれの選択される相対位置について、被検者のそれぞれの眼の輝度検出閾値が決定されるようにし、それにより、視野(400)が閾値ペリメトリック測定の形で決定されるようにする、請求項1~8のいずれか一項に記載のコンピュータープログラム。
【請求項10】
前記輝度物が表示されている第1の時間間隔内に前記表示された輝度物に向かうサッカード眼球運動が前記視標追跡システムによって記録される場合に、前記輝度物が被検者によって検出されたとみなされ、かつ前記第1の時間間隔よりも長い第2の時間間隔内に前記輝度物に向かうサッカード眼球運動が前記視標追跡システムによって記録されない場合に、前記輝度物の刺激が被検者によって検出されなかったとみなされる、請求項9に記載のコンピュータープログラム。
【請求項11】
前記第2の種類の刺激が左眼から右眼へ、又は右眼から左眼へ切り替わる場合、かつ前記輝度物が両眼によって検出されたとみなされる場合に、前記サッカード眼球運動から、及び特に前記サッカード眼球運動の振幅及び方向から、前記少なくとも1つの斜視角度が選択される相対位置(402)について決定され、又は左眼と右眼との前記注視方向を互いから減算することによって、前記少なくとも1つの斜視角度が前記選択される相対位置について決定される、請求項10に記載のコンピュータープログラム。
【請求項12】
注視方向のリセットルーチンが実行され、ここで前記ルーチンは以下の工程:
- 特に、前記選択された相対表示位置が前記視標追跡システムの物理的追跡限界又は前記表示システムの物理的表示限界の外側に位置しているかどうかを決定する工程と、及び「はい(Yes)」の場合:
- 眼の現在の注視方向で輝度検出閾値を超える閾値超の輝度を有する前記固視物又は前記輝度物などの閾値超の物体を提示する工程と、
- 前記閾値超の物体を、所定の水平方向及び垂直方向の速度で軌道に沿って新しい表示位置に移動させる工程と、
- 特に、前記閾値超の物体を隠す工程と;
- 特に、前記注視リセットルーチンが実行される前に、前記視標追跡の前記物理的追跡限界又は前記物理的表示限界の外側にあると決定された前記選択される相対位置にて前の実施形態の前記方法の工程を実行する工程と、
を含む、請求項4、9~11のいずれか一項に記載のコンピュータープログラム。
【請求項13】
前記注視リセットルーチンの間、前記閾値超の物体は、水平方向及び垂直方向に沿って所定の速度パターンで移動し、前記閾値超の物体を追従する前記検出された眼球運動の速度と前記閾値超の物体の速度パターンとの間の偏差が、それぞれの閾値超の物体の運動方向について決定され、前記偏差から、滑動性追跡眼球運動のゲインが前記注視リセットルーチンから決定される、請求項12に記載のコンピュータープログラム。
【請求項14】
決定される前記機能的な眼のパラメーターは:
- 被検者の融像幅;
をさらに含み、
前記融像幅を決定するために、前記方法は以下の工程:
- 第3の試行セッションを実行する工程であって、前記第3の試行セッションは、前記光学システムを用いて被検者の左眼と右眼とに同時に提示される第3の種類の視覚刺激を備える、前記工程と;
- 前記注視方向の情報を含む前記第3の試行セッションの間のデータを記録する工程と;
- 前記第3の試行セッションの前記記録された注視方向から、前記第3の試行セッションの前記提示された第3の種類の視覚刺激に応答する被検者の輻輳眼球運動を前記コンピューターで分析することにより、少なくとも融像幅を決定する工程と;
をさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載のコンピュータープログラム。
【請求項15】
決定される前記機能的な眼のパラメーターは:
- 被検者の視力;
をさらに含み、
前記視力を決定するために、前記方法は以下の工程:
- 第4の試行セッションを実行する工程であって、前記第4の試行セッションは、光学システム(4)を用いて被検者の左眼及び/又は右眼に提示される複数の第4の種類の視覚刺激(501)を備える、前記工程と;
- 前記注視方向に関する情報を含む前記第4の試行セッションの間のデータを記録する工程と;
- 前記第4の試行セッションの前記記録されたデータから、前記第4の試行セッションの前記提示された第4の種類の視覚刺激に応答する被検者の左眼及び右眼の運動をコンピュータ(2)で分析することにより、少なくとも視力を決定する工程と;
をさらに含む、請求項1~14のいずれか一項に記載のコンピュータープログラム。
【請求項16】
被検者の左眼と右眼とに独立して視覚刺激を投影するように構成される表示システム(4)を備える光学システム(2)と、左眼並びに右眼の注視方向及び瞳孔のサイズを記録するように構成される視標追跡システム(5)と、光学システム(2)を制御し、かつ視標追跡システム(5)から記録されたデータを受信するように構成されるコンピュータ(2)と、並びに請求項1~15のいずれか一項に記載の方法を実行するコンピュータ(2)に保存されたプログラムコードと、を備える神経検眼鏡(1)であって、特に、光学システム(2)及び視標追跡システム(5)はVRゴーグルなどのニアアイディスプレイ内に備えられ、前記ニアアイディスプレイは、被検者のそれぞれの眼の光学収差がレンズアセンブリ(6)によって補正され得るように調整可能なレンズアセンブリ(6)をそれぞれの眼についてさらに備える、前記神経検眼鏡(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピューター上で実行される場合に、複数の機能的な眼のパラメーターを決定するための方法、特にコンピューターに実装された方法をシステムに実行させるコンピュータープログラム、及び本発明による前記方法を実行するように構成される神経検眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
当技術分野では、斜視、相対性求心性瞳孔欠損(relative afferent pupillary defect)、及び視野などの機能的な眼のパラメーターを決定するための方法が知られている。
【0003】
通常、これらのパラメーターの評価は、必要な作業を行うための様々な機器及び専門の医療従事者が必要とされる。したがって、これらのパラメーターの推定に要する時間が長くなる。したがって、被検者からより多くのパラメーターを決定しようとすればするほど、被検者の順守の程度を高くする必要がある。
【0004】
さらに、RAPDの決定のための交互対光反応試験(swinging flashlight test)などのいくつかの方法は、試験の繰り返しによる試験結果のばらつきの程度が大きいという問題がある。
【0005】
そのため、被験者の順守及び試験の理解という点で、及び実務者による実行という点で、より複雑でない方法が求められている。
【0006】
仮想現実システムは、例えば米国公開特許(US)第2017/0290504号A1を参照するとおり、ユーザーの視覚に関するいくつかの問題に対処しているが、機能的な眼のパラメーターのコンピューター支援診断の方法は未だ欠如している。
【0007】
米国公開特許(US)第2017/0007119号A1は、人の様々な機能的な眼のパラメーターを決定するための光学システムを教示している。
【0008】
米国公開特許(US)第2011/0299034号A1は、様々な機能的な眼のパラメーターを決定するように構成されるOCT-システムと、視覚刺激に応答して眼から記録されたOCT-システムのB-スキャンの分析を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国公開特許第2017/0290504号A1
【特許文献2】米国公開特許第2017/0007119号A1
【特許文献3】米国公開特許第2011/0299034号A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、任意の数の機能的な眼のパラメーターを決定するには、特化した種類の刺激を使用した対応する数の試行セッションがユーザーによって実行される必要があり、かつシステムによって評価する必要があり、その結果、手順が患者の順守の限界に負荷をかける長時間の手順になる可能性がある。本発明は、この欠点を改善しようとするものである。この理由のため、及び当該技術分野で知られている方法に関連する問題を克服するために、本発明は、これらの問題を解決することを目的とするコンピューターに実装された方法及び神経検眼鏡を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
有利な実施形態は従属請求項に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、RAPDを決定するための、本発明による瞳孔径の測定を示す。
【
図2】
図2は、斜視を測定するための本発明の一実施形態を模式的に示す。
【
図3】
図3は、斜視を測定するための本発明の別の実施形態を模式的に示す。
【
図5】
図5は、人の視力を決定するための刺激及び評価を示す。
【
図6】
図6は、本発明によるシステムを模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第1の態様によれば、コンピュータープログラムがコンピューター上で実行される場合に、相対性求心性瞳孔欠損(relative afferent pupillary defect:RAPD)、1つ又は複数の斜視角度、視野及び/又は視力などの複数の求心性及び遠心性の機能的な眼のパラメーターを決定するための方法、特にコンピューターに実装された方法を実行するコンピュータープログラムが提供され、前記コンピュータープログラムは、表示システムを有する光学システムを備えるシステムを備え、特に前記表示システムが、第1及び第2のスクリーンなどの第1及び第2の表示システムを備える。前記表示システムは、被検者の左眼と右眼とに独立して視覚刺激を与えるように構成されている。このシステムはさらに、左眼並びに右眼の注視方向と瞳孔のサイズとを同時に、独立して、かつ時間分解方式で、特に20Hzより良好のサンプリング速度、すなわちフレームレート、特に50Hzより良好のサンプリング速度、より特に200Hzより良好のサンプリング速度で記録するように構成される視標追跡システム(eye-tracking system)を備える。さらに、このシステムは、光学システムを制御するように、例えば、表示システム上の視覚刺激の照明輝度及び継続時間を制御するように、かつ、視標追跡システムからデータを受信するように構成されるプロセッサーを備える前記コンピューターを備え、ここで、求心性瞳孔欠損(afferent pupillary defect:APD)、特に相対求心性瞳孔欠損(RAPD)が、表示システムを用いて被検者の眼の左眼及び右眼に自動化された様式で提示される第1の種類の刺激のみの配列(一連)からなる第1の試行セッションから決定され、及び/又は被検者の左眼及び右眼の視野が、表示システムを用いて被検者の左眼及び右眼に自動化された様式で提示される第2の種類の刺激のみの配列からなる第2の試行セッションから決定され、ここで斜視も第1の試行セッション及び/又は第2の試行セッションから同様に決定される。斜視は、水平斜視角度、垂直斜視角度及び/又はねじれ斜視角度などの1つ又は複数の斜視角度によって特徴付けられ得る。したがって、本発明は、これらの斜視角度の1つ、2つ、又は3つのすべてを決定することにより、斜視を決定することが可能である。特に、少なくとも水平方向の斜視角度が決定される。加えて、垂直斜視角度を決定することも可能である。被検者の斜視を決定する場合には、3つの斜視角度のいずれの組み合わせが決定され得ることに留意されたい。
【0014】
第1の態様による発明は、コンピューターに実装された方法として代替的に請求することが可能である。
【0015】
本発明は、同じシステムを使用して複数の機能的な眼のパラメーターの決定を可能にする一連の1つの種類の視覚刺激による様々な機能的な眼のパラメーターについての短縮かつ単純化された測定方法を提供するという課題を解決する。つまり、1回の試行セッションの間に、複数の機能的な眼のパラメーターが客観的様式で決定される。さらに、本発明は、被検者が言語的又は触覚的なフィードバックを提供する必要がなく、自動化された様式で機能的な眼のパラメーターの測定を可能にし、これにより検査の複雑さを軽減し、エラーの原因を排除する。さらに、完全に自動化された実行により、被検者と医療従事者とが様々な測定システムを切り替える必要がないため、様々な機能的な眼のパラメーターを評価するための測定時間を削減することができる。
【0016】
本明細書の文脈において、APDが同時に又は代替的に決定される場合にRAPDが同じデータセットから決定することが可能であるように、APDの決定は同様にRAPDの決定も含むことができることに留意されたい。このため、以下では、両方の種類ではなく、APDのみを言及する。
【0017】
求心性及び遠心性の眼のパラメーター、すなわち機能的な眼のパラメーターは、以下の群のうちの1つ又は複数を含むことが可能である:
- APD及び/又はRAPD;
- 斜視角度;
- サッカードピーク速度(saccadic peak velocity);
- 遠心性瞳孔機能(efferent pupillary function);
- サッカード精度(saccadic accuracy);
- 滑動性追跡(smooth pursuit);
- 視野、特に閾値ペリメトリーにより決定される視野;
- 視力;
- 融像幅(fusional amplitude)。
【0018】
光学システムは、被検者の眼に視覚刺激を表示するための表示システムを備える。この目的のため、表示システムは、左眼及び/又は右眼に視覚刺激を提示するように構成される2つのディスプレイ部又は2つのディスプレイを備えることができる。この提示は、選択した眼だけに視覚刺激を提示し、一方で同時に被検者のもう一方の眼には刺激を与えないか、あるいは中立的な刺激を与えることが可能であるように、眼ごとに独立して行うことができる。
【0019】
表示システムは、デスクトップのアプリケーションに使用される2つ以上の異なるコンピュータスクリーンを備える。あるいは、表示システムは、2つのディスプレイスクリーンのセクションに垂直線に沿って光学的に分離される1つのコンピュータスクリーンのみを備えてもよい。
【0020】
このシステムは、視標追跡システムに対する頭部の動きを低減するために、被検者用のあご乗せ台を備えていてもよい。あるいは、この表示システムは、眼の前に直接、例えば20cmより短い距離で配置される1つ又は複数のニアアイディスプレイ(near-eye display)又は同様の装置を備える。特にヘッドアップディスプレイ又はバーチャルリアリティゴーグル(VRゴーグル)の形態のニアアイディスプレイは、コンピュータープログラムひいては本方法の実行の間、被検者が装着することができる。これにより、より正確で制御された試験環境を実現することができ、特にこのようなシステムではあご乗せ台を省略することができる。さらに、ニアアイディスプレイを使用することで、両眼の注視位置を記録しながら被験者が頭を動かすことが要求される臨床試験をこのシステムを用いて行うことができる。さらに、このようなシステムはポータブルシステムとして設計することができ、フィールド調査での使用を可能にする。
【0021】
システムはさらに視標追跡システムを備える。視標追跡システムは特に、ミリ秒単位の時間分解能を持ち、これは数100Hzの範囲のフレームレートに相当し、これにより眼のサッカード(衝動性)運動を時間的に分解して記録することができる。通常、視標追跡システムは200Hz又はそれより良好のフレームレート又は時間分解能を持つ。
【0022】
視標追跡システムは、表示システムに配置することも、又はVRゴーグル又は類似の装置などのニアアイディスプレイに組み込むこともできる。
【0023】
視標追跡システムは、瞳孔のサイズと注視方向とのデータを、それぞれの眼について独立して記録するように構成されている。記録されたデータは、コンピューター又は視標追跡システムによって評価することができる。
【0024】
本明細書で使用される「第1」の試行セッションという用語は、該第1の試行セッションが試行セッションの配列(一連)の中で最初に実行される試行セッションでなければならないという指標として理解されるものではなく、単に、第2、第3又は第4の試行セッション(これらは第1の試行セッションの前又は後に実行されてもよい)などの異なる試行セッションに対する区別を与える目的で使用される。
【0025】
試行セッションは特に、少なくとも1つの試行の配列を含み、一試行は少なくとも1つの視覚刺激を含む。特に試行は、両眼に視覚刺激を順次又は同時のいずれかで提示することを含む。
【0026】
視覚刺激とは、被検者の眼に提示される刺激である。刺激が被検者に見える場合と見えない場合とがあり、後者は例えば、刺激が非刺激、暗刺激、又は中性刺激である場合に起こる。
【0027】
第1の種類の刺激の視覚刺激は、固視物(fixation object)、又は前記視物に眼を焦点調節させることができる任意の物体(object)を備えてもよいし、又はそれを備えなくてもよい。特に第1の種類の刺激は、第1の種類の刺激の提示時に瞳孔のサイズが収縮又は拡張するような所定の明るさを備える。
【0028】
このように、第1の種類の刺激は、少なくとも、第1の種類の刺激が提示される眼が、予め定義され、かつ調節可能な総計の明るさに曝されるように、所定の明るさの刺激を提供するように設計される。刺激に応答する瞳孔の収縮又は拡張を評価することにより、RAPDなどのいくつかの機能的な眼のパラメーターを決定できる。
【0029】
眼の瞳孔を収縮させることが期待される第1の種類の刺激は、本明細書の文脈では明刺激とも呼ばれ、眼の瞳孔を拡張させることが期待される第1の種類の刺激は、本明細書の文脈では暗刺激とも呼ばれる。
【0030】
特に、暗刺激/非刺激は、それぞれの表示システムの黒色、特に非照明表示状態によって表される。
【0031】
特に第1の種類の視覚刺激は、刺激画像からなる。
【0032】
第1の試行セッションの中央部分又は中間部分の間に、明刺激を一方の眼に提示することができ、同時に暗刺激を被検者のそれぞれ他方の眼に提示することができる。その後、明刺激がもう一方の眼に提示されるのと同時に、暗刺激が一方の眼に提示されることが可能であり、この手順が数回繰り返される。第1の種類の刺激は、第1の試行セッション中で被検者の左眼と右眼との間で切り替わる。
【0033】
特に、第1の試行セッションの初期部分及び/又は終了部分において、明刺激を両眼に同時に提示し、その後、暗刺激を両眼に同時に提示することができる。この初期部分及び/又は終了部分は、特に中央部分又は中間部分が実行される前の第1の試行セッションの開始時及び/又は中央部分又は中間部分が実行された後の第1の試行セッションの終了時に実行される。
【0034】
第1の試行セッションにおける初期部分及び/又は終了部分の実行は、両眼の収縮瞳孔のサイズ及び拡張瞳孔のサイズのベースライン値を確立及び/又は検証する目的で機能し得る。
【0035】
本発明の別の実施形態によれば、第1の試行セッションの初期部分及び/又は終了部分から、遠心性瞳孔機能又は遠心性瞳孔欠損が決定される。特に遠心性瞳孔機能は、明刺激から暗刺激に切り替わった後に瞳孔が拡張する速度から決定される。拡張速度が所定の閾値を下回る場合、被検者は遠心性瞳孔欠損、又は遠心性瞳孔機能障害、例えばホルネル病による障害、に罹患している可能性がある。
【0036】
第1の試行セッションの間、瞳孔のサイズ、例えば瞳孔径又は瞳孔半径は、両眼について、瞳孔のサイズの時間的経過が、時間的経過の任意の時間に提示された提示刺激に関連して決定することができるように、時間分解方式でそれぞれの試行について視標追跡システムによって記録されたデータから、コンピューター又は視標追跡システムによって自動的に決定される。
【0037】
第1の試行セッション中で瞳孔のサイズの変化を定量化することにより、ADP、及び特にRAPD(及び遠心性瞳孔機能)をそれぞれの眼について決定することができる。測定データからAPDを決定する方法の詳細は、実施例の項目で詳しく説明する。
【0038】
いずれの試行セッションも、類似の種類の視覚刺激に基づく試行を含む。
【0039】
特に、第1の試行セッションは、第1の種類の刺激のみからなる。
【0040】
表示位置は、当業者によく知られているように、中心注視方向又は主軸に対する表示に対する位置を記述する一対の角度で表すことができることに留意されたい。
【0041】
本発明の別の実施形態によれば、第1の試行セッションの実行は以下の工程を含む:
- 前記視標追跡システムでデータを記録する工程であって、前記データが、前記第1の試行セッション間の被検者の第1の眼及び第2の眼の瞳孔のサイズ及び注視方向に関する情報を含み、特に、前記瞳孔のサイズ及び注視方向のサンプリング速度が、100Hz超過、特に200Hz超過のサンプリング速度を有し、かつ特に、前記データが、少なくとも1秒間以上記録される、前記工程;
- 第1の試行セッションの前記記録されたデータから、特に提示された第1の種類の刺激に応答して左右の眼の瞳孔のサイズの時間的経過をコンピューターで分析することにより、APDを決定する工程;
- 第1の試行セッションの記録された注視方向から、前記提示された第1の種類の視覚刺激に特に応答するサッカード眼球運動の大きさと方向をコンピューターで分析することにより、少なくとも1つの斜視角度又は複数の斜視角度を決定する工程。
【0042】
本発明の別の実施形態によれば、第2の試行セッションの実行は以下の工程を含む:
- 視標追跡システムにより、第2の試行セッション間の被検者の第1の眼及び第2の眼の注視方向に関する情報を含むデータを記録する工程であって、特に注視方向検出のサンプリング速度が200Hzを超えるサンプリング速度を有し、かつ特に、前記データが少なくとも1秒間以上記録される、前記工程;
- 第2の試行セッションの記録された注視方向から、特に提示された第2の種類の刺激に応答する被検者のサッカード眼球運動をコンピューターで分析することにより、視野及び少なくとも1つの斜視角度又は複数の斜視角度を決定する工程。
【0043】
本実施形態では、第1の種類の刺激と比較して異なる種類の視覚刺激を有する第2の試行セッションを実行することにより、被験者の視野を決定すると同時に斜視を決定することができる。
【0044】
本発明の別の実施形態によれば、第1及び/又は第2の試行セッション中に記録されたデータから、及び第1又は第2の種類の刺激の配列から、以下の機能的な眼のパラメーター:
- サッカードピーク速度、
- サッカード精度、
のうちの1つ又は複数が第1及び/又は第2の試行セッションのデータから決定される。
【0045】
この実施形態では、1種類又は2種類の視覚刺激を有する1つ又は2つの試行セッションのみを使用するコンピュータープログラムにより、単一の測定システムのみを使用して複数の機能的な眼のパラメーターを同時に決定することができるため、本発明はさらに汎用性が高くなる。
【0046】
本発明の別の実施形態によれば、第1の試行セッションの記録された注視方向から、1つ又は複数の斜視角度が、コンピューターを用いて、サッカード眼球運動の大きさ及び方向、又は固視眼の注視方向からの非固視眼の注視方向の偏差を分析することによって決定される。
【0047】
特に、両眼の注視位置/方向の偏差、例えば差がコンピューターによって決定され、この偏差から斜視、特に1つ又は複数の斜視角度が決定される。
【0048】
本発明の別の実施形態によれば、両眼の注視位置/方向の偏差、特に注視方向/位置の間の差が、コンピューターによって決定され、この偏差から斜視、特に1つ又は複数の斜視角度が決定され、ここで、偏差は、試行セッションの間に、例えば、第1、第2(第3、第4、又は別の試行セッション)試行の間に少なくとも1回決定され、ここで一方の眼は刺激に対して眼を固定するように構成される視覚刺激に曝され、かつ他方の眼はそのような視覚刺激に曝されない。
【0049】
以下では、コンピュータープログラムがコンピューター又はシステム上で実行される際にコンピュータープログラムによって、同じ種類の刺激を用いて同じシステム上でさらに多くの機能的な眼のパラメーターを測定できるようにする、さらなる有利な実施形態が開示される。
【0050】
本発明の別の実施形態によれば、第1の試行セッション中に記録された第1の種類の視覚刺激の配列のデータから、両眼の遠心性瞳孔機能が決定される。
【0051】
本発明の別の実施形態によれば、第2の試行セッション中に記録された第2の種類の視覚刺激の配列のデータから、滑動性追跡のゲインが決定される。
【0052】
本発明の別の実施形態によれば、第1の試行セッションのみが実行される。
【0053】
この実施形態では、システム上で1回の試行を実行するだけで、被検者のAPD及び斜視角度という2つの重要な機能的な眼のパラメーターを決定するための測定セッションを迅速かつ確実に行うことができる。
【0054】
本発明の別の実施形態によれば、正確に2つの試行セッション、すなわち第1の試行セッションと第2の試行セッションとが実行され、第1の試行セッション及び第2の試行セッションの間に記録された第1の種類の視覚刺激及び第2の種類の視覚刺激の配列のデータから、被検者の少なくともAPD、斜視角度、及び視野が決定される。特に、斜視角度は、第1又は第2の試行セッションのみのいずれかの間に記録されたデータから決定される。
【0055】
本発明の別の実施形態によれば、第1の種類の視覚刺激のそれぞれの視覚刺激は、表示システムの表示位置において表示システム上に表示される固視物を含み、固視物は、固視物上、特に固視物の一部分における眼の固定(固視)を可能にする空間的に限定されたグラフィカルな物体である。
【0056】
コンパクトという用語は、特に空間的に限定された物体、又は大きな物体の認識可能な部分を指し、固視物を見るときの注視方向が0.1°以内の固視物の位置を示す程度に小さい。特に、固視物は1°より小さい。
【0057】
特に固視物は、刺激画像の背景(バックグラウンド)よりも暗いか、又は明るいことが可能な物体である。
【0058】
RAPDの決定では、固視物はさほど重要ではないが、斜視角度の決定には固視物が必要である。したがって、第1の試行セッションから斜視角度を決定する場合、第1の種類の刺激は固視物を備える。
【0059】
例えば、固視物を備える第1の種類の刺激を左眼から右眼に切り替えたとき、及び/又はその逆に切り替えたときに、サッカード振幅、及び特にサッカード運動の方向を評価することにより、測定データから斜視角度を決定し、特にコンピューターにより定量的に診断することができる。
【0060】
コンピューターが生成したAPD及び斜視の測定値は、訓練を受けた医療従事者にインターフェース上で提示することができる。
【0061】
本発明の別の実施形態によれば、第1の種類の視覚刺激が、右眼及び左眼に交互に、かつ2回以上繰り返し表示され、特に、それぞれの他方の眼に非刺激又は暗刺激が提示され、被検者の瞳孔のサイズ及び注視方向が、視標追跡システムによって両眼について記録され、特に、少なくとも100Hzのフレームレートで記録される。
【0062】
これにより、それぞれの眼のAPD及び斜視角度を決定することができる。
【0063】
本発明の別の実施形態によれば、第1の試行セッションは、複数の注視方向ブロックを含み、それぞれの注視方向ブロックにおいて、第1の種類の視覚刺激が、右眼と左眼とに繰り返し交互に提示され、固視物が異なる注視方向ブロックの異なる表示位置に表示され、特に、それぞれの注視方向ブロックについて、斜視角度とRAPDとが別々に決定される。
【0064】
表示位置は、表示位置のセットからランダムに選択することができる。しかしながら、第1の種類の視覚刺激が一方の眼から他方の眼に切り替わったときに、検出された眼の修正サッカード眼球運動に応じて、固視物の表示位置を選択することが可能である。
【0065】
特に、異なる注視方向ブロックの表示位置は、被検者の視野上に配置され、表示位置は特に3×3のマトリックスのセクターに配置され、特に、表示位置の1つ、特に中央の表示位置は、主注視方向、すなわち直進注視に対応し、それぞれの注視方向ブロックにおいて、そのようなセクターの1つのみが表示位置で対処される。このようにして、異なるセクターについてそれぞれの注視方向ブロックの間に斜視角度を測定することができる。このセクターは、垂直方向及び水平方向の一般的な注視方向の組み合わせとして、例えば、右下、上方向のみ、左のみ、左上方向などのように呼ばれることがある。主注視方向は、頭部に対して基本的に直進する注視方向と定義することができる。
【0066】
それぞれの注視方向ブロックの間に、APDを決定するための瞳孔のサイズに関するデータが記録される。
【0067】
先に詳述したように、それぞれの注視方向ブロックの間、第1の種類の視覚刺激が眼に繰り返し提示され、この実施形態によれば、検出されたサッカード運動及び瞳孔のサイズの平均化が可能となり、第1の試行セッションからの斜視角度及びADPに関してより正確な結果が得られる。
【0068】
斜視をより詳細に決定するために、以下の実施形態では、第1の試行セッションの有利な実行を教示する。
【0069】
本発明の別の実施形態によれば、固視物は、同じ注視方向ブロックの同じ表示位置に表示され、第1の種類の刺激が左眼から右眼へ、又は右眼から左眼へ切り替わる度に、記録されたサッカード眼球運動からサッカード眼球運動の振幅及び方向が決定され、特に、斜視角度が注視方向に関連して決定されるように、斜視角度が注視方向ブロックごとに決定される。
【0070】
検出されたサッカード眼球運動は、特に両眼について第1の種類の視覚刺激が一方の眼から他方の眼に切り替えられたときに記録されるサッカード開始点と、刺激の切り替え後の固視物が提示される眼が固視物に焦点を合わせるのにかけた時間の後に、両眼について決定されるサッカード終了点とを決定することによって評価することができる。
【0071】
開始点から終了点を指すベクトルによって定義される方向は、斜視の方向の情報を提供し、前記ベクトルの長さは、サッカード眼球運動の振幅に対応し、斜視の大きさに関連付けられ得る。
【0072】
さらに、眼のねじれに関係するねじれ斜視を決定することも可能である。眼のねじれは、視標追跡システムによって記録され、視標追跡システムのデータから、特に、またサッカード眼球運動の開始点におけるねじれ状態とサッカード眼球運動の終了点におけるねじれ状態とからも、コンピューターによって評価され得る。このねじれは、サッカード運動の開始点と終了点とにおけるねじれの状態から導き出される。
【0073】
第1の種類の刺激の切り替えに応答するサッカード眼球運動は、特に、サッカード開始点からサッカード終了点を指す方向、サッカード開始点とサッカード終了点との間の距離を示す振幅、及びサッカード開始点とサッカード終了点との間のねじれ、によって特徴付けられ、特に少なくとも1つのサッカード眼球運動から、又は複数のサッカード眼球運動から、斜視角度が決定される。
【0074】
斜視角度は、注視方向ごとに水平角、垂直角、ねじれ角で表すことができる。
【0075】
第1及び第2の表示システムに関する「同じ(同一)」表示位置という用語は、理想的な眼のモデル(斜視なし)において同一の注視方向に対応するとみなされる、第1及び第2の表示システム上の対応する表示位置を指すことに留意されたい。
【0076】
本発明の別の実施形態によれば、サッカード眼球運動の大きさ及び方向は、第1の種類の刺激が左眼から右眼に、又は右眼から左眼に切り替わる度に、記録されたサッカード眼球運動から決定され、ここで同じ注視方向ブロックの同じ眼に対する第1の種類の視覚刺激の後続の提示において、注視方向ブロックの先に提示された第1の種類の刺激から決定されるとおり振幅及び方向においてサッカード眼球運動を補正するように、特に同じ注視方向ブロック内でサッカード運動が最小化されるまで補正するように、固視物の表示位置が調節され、特に斜視角度はこの調整された表示位置に対応し、特に斜視角度が一注視方向に関して決定されるように、斜視角度はそれぞれの注視方向ごとに決定される。
【0077】
この実施形態では、視標追跡からの正確な値にそれほど依存せず、眼の非移動のみを立証すればよいので、斜視角度をより強固に決定することができる。
【0078】
先の実施形態の用語と定義は、この代替的な実施形態にも適用される。
【0079】
この実施形態は、本質的に、シフト及び/又は回転様式で眼に固視物を提示することにより、修正サッカード眼球運動(corrective saccadic eye movement)を補正することを目的とする。このようにして、斜視の大きさ、方向、及び特にねじれを、固視物の位置及び回転の度合いから直接決定することができる。
【0080】
斜視角度は、特に、第1の種類の刺激の切り替えに応答するサッカード眼球運動の開始点から終了点を指すベクトル間の振幅と方向とを測定し、調整された表示位置に対する大きさと反対方向を斜視角度に割り当てることによって決定される。
【0081】
この実施形態によれば、両眼に提示される視覚刺激の視差を利用して斜視角度を算出する。特に、視差は、修正サッカード眼球運動を補正するために固視物に適用される調整の方向及び振幅として定義される。斜視角度は、注視方向ごとに水平角、垂直角、ねじれ角で表すことができる。
【0082】
本発明の別の実施形態によれば、第2の種類の視覚刺激のそれぞれの視覚刺激は、表示システム上の相対位置で均一な背景上に表示される輝度物を含み、第2の試行セッションの間、第2の種類の視覚刺激の輝度物は、複数の選択される相対位置で順次表示され、第2の種類の視覚刺激は、右眼と左眼とに交互に又は順次表示され、特に、それぞれ他方の眼には、輝度物なしの第2の種類の刺激と同一の中立刺激が提示され、輝度物が選択される相対位置に表示される度に、被検者が選択される相対位置で輝度物を検出したかどうかがコンピューターによって決定され、被検者が輝度物を検出した場合には輝度物は、その後、特に低減された輝度で、異なる選択される相対位置に表示され、ここで、輝度物は、(被検者がこの選択される相対位置で輝度物を検出した輝度と比較して)低減された輝度で、後の試行で再び選択される相対位置に表示され、ここで被検者が選択される相対位置で輝度物を検出していない場合、輝度物は、必ずしもその後でなくてもよいが、被検者が輝度物を検出するまで、選択される相対位置で、輝度を増加させながら、繰り返し表示され、それにより、それぞれの選択される相対位置について、被検者のそれぞれの眼の輝度検出閾値が決定され、それにより視野が閾値の周辺測定の形で決定されるようにする。
【0083】
相対位置は、被検者の現在の注視方向に依存する。したがって、相対位置は注視中心の座標系で提供される。現在の注視方向は、視標追跡システムによって決定することができる。
【0084】
相対位置は、視野の四分円に分布する複数の相対位置、特に20、50又はそれ以上の相対位置の中から選択することができる。
【0085】
輝度物は、輝度物を見るときの注視方向が0.1°以内の輝度物の位置を示すほど小さい、空間的に限定された物体である。特に、輝度物は0.1°より大きい。例えば、輝度物は、0.1~1.7°の範囲の直径、特に0.3~0.7°の範囲の直径を有し、均一な輝度の背景に配置される。
【0086】
輝度物は、眼に提示される第2の種類の刺激において、その相対位置及びその輝度及び/又は大きさの点で調整され得る。
【0087】
特に、輝度が調整される場合、輝度が2dB~10dB、より特に2、4、6、8、又は10dB減少又は増加される。輝度物の輝度は、コンピューターによって制御することができる。
【0088】
現在の注視方向に対して相対的に配置される輝度物による測定方式は、被検者が特定の方向を恒常的に注視する必要がなく、異なる種類の評価及び試験を実施することを可能にする。そのため、この試験状況では、試験セットアップ及び方法の実行に対する被検者の順守があまり要求されない。後述するように、視野の決定は完全に自動化されて実行され得る。被検者が輝度物を検出したかどうかのフィードバックは、ボタンを押したり、又は大声で話したりするような追加的な動作を実行する場合と比較して、被検者が輝度物を見ているだけで提供され得る。これにより、この方法はより直感的になり、ミスが少なくなる傾向にある。
【0089】
輝度物という用語は、特に物体の機能、すなわち第2の試行セッション中にその輝度を変化させることができることに関連している。
【0090】
したがって、第1の種類の視覚刺激と第2の種類の視覚刺激とは、少なくとも、試行セッション中に第1の種類の視覚刺激の輝度が調整されない点で異なる。
【0091】
輝度物は、連続的な背景輝度による均一な灰色又は黒色背景上の明るい物体として提示することができる。
【0092】
第2の試行セッションは、視野の閾値ペリメトリーを可能にする。この目的のため、相対位置は複数の相対位置からランダムに選択することができる。
【0093】
本発明の別の実施形態によれば、輝度物が表示されている間の第1の時間間隔内に、表示される輝度物に向かうサッカード眼球運動が視標追跡システムによって記録された場合、輝度物は、被検者によって検出されたとみなされ、ここで特に、第1の時間間隔が約500ミリ秒であり、かつ第1の時間間隔内に輝度物に向かうサッカード眼球運動が視標追跡システムによって記録されなかった場合、輝度物の刺激は、被検者によって検出されなかったとみなされる。第1の時間間隔の持続時間は、少なくとも可視刺激に対する平均応答時間の2標準偏差を含む長さ、特に平均応答時間の2倍の長さ、になるように選択することができる。
【0094】
特に、第2の種類の視覚刺激、すなわち輝度物は、輝度物が提示される眼の第1のサッカードが、輝度物の位置の相対位置の方へ2°より大きく、より特に3°より大きい場合にのみ、被検者によって検出されたとみなされる。
【0095】
より特に、それぞれの第2の種類の刺激に対して、輝度物の位置の周囲に広がる仮想のヒットボックスが定義され、このヒットボックスのサイズは輝度物の位置に依存し、ヒットボックスのサイズは、視野の中心領域に近い位置ではより密接し、視野の周辺領域ではより大きい。
【0096】
視覚刺激が検出されたかどうか、すなわち被検者により輝度物が検出されたかどうかの決定は、輝度物の提示時に相関するサッカードが存在するかどうか、及びこのサッカードが正しい方向、すなわち輝度物への方向に向かっているかどうか、及びまた輝度物に向かって正しい方向に十分に沿っているかどうかを決定することにより、偶発的なサッカードを除外することができるように、自動的かつ確実に実行される。
【0097】
眼が輝度物を検出する場合(すなわち、相対位置で眼の知覚閾値を超える場合)の輝度物の方への眼のサッカード運動により、被検者が表示時に輝度物を検出したかどうかを自動的に決定することができる。
【0098】
この実施形態では、被検者が音声による指示又はボタンを押すなどの非視覚的フィードバックを行うことなく、視野の自動測定を行うことができる。
【0099】
本発明の別の実施形態によれば、斜視角度は、第2の種類の刺激が左眼から右眼へ、又は右眼から左眼へ切り替わる場合、かつ輝度物が両眼によって検出されたとみなされる場合に、サッカード運動から、特にサッカード眼球運動の振幅及び方向から選択される相対位置に対して決定される。
【0100】
本発明の別の実施形態によれば、注視方向のリセットルーチンが実行され、前記ルーチンは以下の工程を含む:
- 特に、選択された相対表示位置が、視標追跡システムの物理的追跡限界又は表示システムの物理的表示限界の外側に位置しているかどうかを決定する工程、及び「はい(yes)」の場合:
- 眼の現在の注視方向で輝度検出閾値を超える閾値超輝度を有する固視物又は輝度物などの閾値超の物体を提示する工程、
- 閾値超の物体を、所定の水平方向及び垂直方向の速度で軌道に沿って新しい表示位置に移動させる工程、
- 特に、閾値超の物体を隠す工程;
- 特に、前記注視のリセットルーチンを実行する前に、視標追跡の物理的表示限界又は物理的追跡限界の外側にあると決定された選択される相対位置で、前の実施形態の方法の工程を実行する工程。
【0101】
この注視方向のリセットルーチンは、例えば、試行が行われる選択される相対位置が表示システムの表示限界、例えば物理的な横画面の限界の外側にある場合に実行され得る。
【0102】
さらに、注視リセットルーチンから、動く閾値超の物体に対する眼の動きを評価することによって、滑動性追跡のゲインを決定することができる。
【0103】
このように、注視リセットルーチンは、第1及び/又は第2の試行セッション中、あるいは任意の他の試行セッション中に実行することができる。
【0104】
また、注視リセットルーチンは、必要かつ有用になる可能性があり、例えば、ある相対位置で視野を評価する必要があり、かつ視野をプローブするための他の相対位置のほとんど又はすべてがすでに試験されている場合などである。その後に、試行が行われる相対位置が表示システムの物理的限界内又は視標追跡システムの物理的追跡限界内にあるように、被験者の注視方向がリセットされる。
【0105】
本発明の別の実施形態によれば、注視リセットルーチンの間、閾値超の物体は(被検者から見て)水平方向及び垂直方向に沿った、特に順次的様式の、所定の速度パターンを有し、ここで注視リセットルーチンから滑動性追跡を決定することができるように、閾値超の物体に追従する検出される眼球運動の速度と閾値超の物体の速度パターンとの間の偏差が、閾値超の物体の移動方向ごとに決定される。
【0106】
この実施形態によれば、例えば、第2の試行セッションにおいて、第2の種類の視覚刺激は、被検者の検出/知覚の閾値超過の輝度を有する輝度物で選択され、ここで前記輝度物は、現在の注視方向、すなわち、注視方向の「真正面」に提示されるように被検者に表示され、前記輝度物は、所定の速度パターンで移動する。この場合、閾値超の物体は輝度物に対応する。
【0107】
同様に、このルーチンは、固視物を用いた第1の試行セッション中に実行及び評価されてもよく、又は異なる物体を用いたさらに別の試行セッション中に実行及び評価されてもよい。
【0108】
閾値超の物体は、明るい背景に暗い物体であるか、又はその逆である可能性があることに留意されたい。
【0109】
この実施形態は、例えば、同じ第1又は第2の種類の視覚刺激を使用することにより、第1又は第2の試行セッションにおける滑動性追跡の決定を組み入れることを可能にする。
【0110】
本発明の別の実施形態によれば、決定される機能的な眼のパラメーターは:
- 被検者の融像幅;
をさらに含み、
ここで、融像幅を決定するために、本方法は、以下の工程:
- 第3の試行セッションを実行する工程であって、ここで第3の試行セッションは、光学システムを用いて被検者の左眼と右眼とに同時に提示される第3の種類の視覚刺激を含む、前記工程;
- 注視方向の情報を含む第3の試行セッション中のデータを記録する工程;
- 前記第3の試行セッションの記録された注視方向から、第3の試行セッションの提示された第3の種類の視覚刺激に応答する被検者の左眼と右眼との輻輳(vergence)をコンピューターで分析することにより、少なくとも融像幅を決定する工程、
をさらに含む。
【0111】
本発明の別の実施形態によれば、第3の種類の視覚刺激は、局所的な空間構造(それぞれの構造に複数の異なる空間周波数を有する構造)を有する画像を含み、第3の試行セッションの開始時に、左眼用及び右眼用の画像は、ゼロ輻輳(zero vergence)を必要とするゼロ画像視差に配置され、その後、画像は、特に視差を連続的に増加又は減少させて左眼及び右眼に提示され、特に、視差は、水平視差、垂直視差又はねじれ視差であり得る。
【0112】
この実施形態は、被検者が依然として輻輳眼球運動により画像の視差/表示された第3種の刺激の視差を補正することができる、眼の水平方向及び/又は垂直方向の最大輻輳角を決定することによって、融像幅を決定することを可能にする。この点での画像視差の増加により融合が破壊され、輻輳は定常状態(理想的には0度)まで減衰する。
【0113】
本発明の別の実施形態によれば、決定される機能的な眼のパラメーターは:
- 被検者の視力;
をさらに含み、
視力を決定するために、コンピュータープログラムにより、本方法に以下の工程:
- 第4の試行セッションを実行する工程であって、ここで前記第4の試行セッションは、左眼に及び/又は右眼に光学システム(4)により同時の複数の第4の種類の視覚刺激を含み、及び/又は被験者の左眼に及び/又は右眼に光学システムによって提示される、前記工程;
- 注視方向に関する情報を含む第4の試行セッションの間のデータを記録する工程;
- 第4の試行セッションの提示された第4の種類の視覚刺激に応答する被検者の左眼と右眼との動き、特にその動きの相関、をコンピューターで分析することによって、第4の試行セッションの記録されたデータから少なくとも視力を決定する工程、
をさらに実行させる。
【0114】
視力を決定するための第4の種類の視覚刺激は、背景上に配置された複数のパッチを備えることができ、前記パッチは、背景に対して等輝度であり、前記パッチは、空間周波数、特に1つの空間周波数のみ、で周期的に変化する輝度分布を示すことを特徴とすることができ、ここでそれぞれのパッチは、背景の一部のみをカバーする有界集合である。
【0115】
本発明の別の実施形態によれば、第4の種類の視覚刺激は、表示システムの領域内に配置された複数のパッチ、特にガボールパッチを含み、特に前記パッチ、特にガボールパッチは、表示システムの領域にわたって不規則に配置され、特に前記パッチ、特にガボールパッチは、互いに同一であり、すなわち、パッチが同じサイズ及び形状を有する。
【0116】
本発明の別の実施形態によれば、少なくともいくつかの、特にすべてのパッチはガボールパッチである。
【0117】
本発明の別の実施形態によれば、第4の試行セッションの間、パッチは、同じ速度、かつ所定の軌道に沿って往復移動し、ここで視標追跡システムは、移動するパッチ、特にガボールパッチに応答する眼球(両眼も可)の眼球運動を記録する。
【0118】
第4の試行セッションの間、単眼視力を測定可能にするために、片眼のみにパッチを提示し、その後もう片方の眼にも提示することができる。
【0119】
ここで、第4の試行セッションの間、パッチのサイズは、特に、パッチが所定の軌道に沿って少なくとも1回移動した後に、連続的に縮小又は増大する。第4の試行セッションの試行には、第4の試行セッション中に選択される1つのサイズのパッチの移動を含む。
【0120】
本発明の別の実施形態によれば、記録された眼球運動とパッチの運動との相関から、被検者の視力が決定される。視力は特に、眼球運動がパッチの運動から所定の値だけ逸脱するパッチサイズ又は空間周波数から決定される。この偏差は、パッチの運動に対する眼球運動の最小二乗偏差の形で測定することができる。
【0121】
本発明の別の実施形態によれば、第4の視覚刺激は、領域上にパッチが不規則又はランダムに配置される色及び輝度が均一な領域から特になる。つまり、パッチは均一な背景上で移動する。
【0122】
特に、パッチは互いに一定の距離を維持し、つまり、パッチが移動しても、パッチが互いに対して配置されるパターンは変化しない。
【0123】
本発明の別の実施形態によれば、ガボールパッチは、分散、特に等方性分散を有するガウスカーネル関数(Gaussian kernel function)によって定義され、前記ガウスカーネル関数は、所定の方向及び所定の周期を有する正弦平面波(sinusoidal plane wave)によって調整される。
【0124】
本発明の別の実施形態によれば、正弦平面波の周期は分散及び三重分散(triple variance)の範囲にある。
【0125】
特に、正弦平面波は、ガウスカーネル関数の平均値の位置の最大振幅によりセンタリングされる。
【0126】
本発明の別の実施形態によれば、ガボールパッチのガウスカーネルの分散と正弦平面波の周期との比は一定であり、特にガボールパッチのサイズに依存しない。
【0127】
本発明の別の実施形態によれば、パッチは、方向、特に水平方向又は垂直方向、に沿って移動し、ここでパッチの速度は、パッチが周期的、特に正弦波状に、前記方向に沿って往復移動するように、周期的、特に正弦波状に変化する。
【0128】
本発明の別の実施形態によれば、周期的速度は0.02Hz~2Hz、より特に0.05Hz~0.5Hzの周波数を有する。
【0129】
本発明の別の実施形態によれば、パッチは均一な背景上で10~20のコントラストを有する。
【0130】
本発明の別の実施形態によれば、左眼及び右眼の注視方向は、試行セッションのいずれかの間に視標追跡システムによって記録され、ここで斜視角度は、記録された左眼と右眼との注視方向を減算することによって決定され、特に、眼の注視方向は、第1、第2、第3又は第4の種類の刺激の提示中に記録される。
【0131】
試行セッションのいずれかは、システム上で互いに独立して実行されてもよいことに留意されたい。
【0132】
したがって、特に第4の試行セッションに関する実施形態に関しては、いずれの先の実施形態とは独立して本発明を説明する独立項目のセットを次のとおり記載することができる:
【0133】
項目1)被検者の左眼及び右眼に独立して視覚刺激を投影するように構成される表示システムを備える光学システムと、前記左眼及び前記右眼の注視方向を記録するように構成される視標追跡システムと、前記光学システムを制御し、かつ前記視標追跡システムからの記録されたデータを受信するように構成されるコンピューターとを備えるシステムを用いて視力を決定するための、方法、特にコンピューターに実装された方法であって、前記方法は、少なくとも以下の工程:
- 試行セッションを実行する工程であって、前記試行セッションは、被検者の左眼及び/又は右眼に光学システムを用いて提示される複数の視覚刺激を備え、特に同時に提示される複数の視覚刺激を備える、前記工程と;
- 前記注視方向に関する情報を含む、前記試行セッションの間のデータを記録する工程と;
- 前記第4の試行セッションの提示される第4の種類の視覚刺激に応答する被検者の左眼及び右眼の運動、特にその運動の相関をコンピューターで分析することにより、前記試行セッションの記録されたデータから少なくとも視力を決定する工程と、
を含む、前記方法。
【0134】
本明細書による定義及び用語は、本独立実施形態にも適用される。
【0135】
項目2)前記第4の種類の視覚刺激は、前記表示システムの領域に配置される複数のガボールパッチを備え、特に、前記ガボールパッチは、前記表示システムの領域にわたって不規則に配置され、特に前記ガボールパッチは互いに同一であり、すなわち、前記ガボールパッチは同一のサイズ及び形状を有する、項目1に記載の方法。
【0136】
項目3)前記第4の試行セッションの間に、前記ガボールパッチは、同じ速度で、かつ所定の軌道に沿って往復移動し、前記視標追跡システムは、移動するガボールパッチに応答する眼の眼球運動を記録する、項目1又は2に記載の方法。
【0137】
項目4)前記第4の試行セッションの間に、単眼視力が決定され得るように、前記ガボールパッチが、一方の眼にのみ提示され、次いでその後に他方の眼に提示され得る、項目1~3のいずれか一項に記載の方法。
【0138】
項目5)前記第4の試行セッションの間に、前記ガボールパッチのサイズは、特にガボールパッチが所定の軌道に沿って少なくとも1回移動した後に、連続的に減少又は増大する、項目1~4のいずれか一項に記載の方法。第4の試行セッションの試行は、第4の試行セッションの間に選択される1つのサイズのガボールパッチの運動を含む。
【0139】
項目6)記録された眼球運動とガボールパッチの運動との相関から、被検者の視力が決定される、項目1~5のいずれか一項に記載の方法。視力は特に、眼球運動がガボールパッチの運動から所定の値だけ逸脱するガボールパッチのサイズから決定される。この偏差は、ガボールパッチの運動に対する眼球運動の最小二乗偏差の形で測定することができる。
【0140】
項目7)前記第4の視覚刺激は、ガボールパッチがランダムに配置される、均一な色及び輝度の領域を含み、特にその領域からなる、項目1~6のいずれか一項に記載の方法。つまり、ガボールパッチは均一な背景上を移動する。
【0141】
特に、ガボールパッチは互いの距離を一定に保ち、つまりガボールパッチが移動しても互いの配置パターンは変化しない。
【0142】
項目8)前記ガボールパッチは、分散、特に等方性分散を有するガウスカーネル関数によって定義され、前記ガウスカーネル関数は、所定の方向及び所定の周期を有する正弦平面波によって調節される、項目1~7のいずれか一項に記載の方法。
【0143】
項目9)前記正弦平面波の周期は、分散及び三重分散の範囲内にある、項目1~8のいずれか一項に記載の方法。
【0144】
特に、正弦平面波は、ガウスカーネル関数の平均値の位置の最大振幅によりセンタリングされる。
【0145】
項目9)ガボールパッチの正弦平面波の周期とガウスカーネルの分散との比は、一定であり、特にガボールパッチのサイズに依存せず一定である、項目1~8のいずれか一項に記載の方法。
【0146】
項目10)前記ガボールパッチは、方向、特に水平方向又は垂直方向に沿って移動し、ここで、前記ガボールパッチの速度が、前記ガボールパッチが前記方向に沿って正弦波状に往復移動するように、正弦波状に変化する、項目1~9のいずれか一項に記載の方法。
【0147】
項目11)前記正弦波の速度は、0.02Hz~2Hzの周波数を有し、より特に0.05Hz~0.5Hzの周波数を有する、項目1~10のいずれか一項に記載の方法。
【0148】
項目12)前記ガボールパッチは、前記均一な背景上で10~20のコントラストを有する、項目1~11のいずれか一項に記載の方法。
【0149】
本発明の第3の態様によれば、神経検眼鏡(neuro-ophthalmoscope)は、前記システムの特徴と、並びに本発明による方法を実行するためにコンピューターに保存されたプログラムコードとを備える。
【0150】
さらに、光学システム及び視標追跡システムは、VRゴーグルなどのニアアイディスプレイに備えられ、又は光学システムはデスクトップスクリーン及びコンピュータスクリーンに配置された別個の視標追跡システムを備え、神経検眼鏡がVRゴーグルを備える場合、前記ゴーグルは、被検者のそれぞれの眼の光学収差がレンズアセンブリによって補正され得るように調整可能なレンズアセンブリをそれぞれの眼に対してさらに備える。
【0151】
「コンピュータープログラム」という用語は、本方法を実行するためにコンピューターに保存されたプログラムコードを特に指す。このプログラムはコンピューター可読であるコードである。
【0152】
特に、コンピュータープログラムは、コンピューターによって備えられ得る非一過性の記憶媒体に保存される。
【0153】
さらに、本発明の一態様によれば、コンピュータープログラムが実行されるとコンピューター及び/又はシステムに本明細書に記載の方法を実行させるコンピュータープログラムのコンピュータープログラムコードを含む、非一過性の記憶媒体に保存されたコンピュータープログラム製品が開示される。
【0154】
特に、例示的な実施形態を図と併せて以下に説明する。図は特許請求の範囲に添付され、示された実施形態の個々の特徴及び本発明の態様を説明するテキストが付されている。図に示され、及び/又は図の前記テキストに記載された個々の特徴は、本発明による装置に関する請求項に(分離された態様でも)組み込むことができる。
【実施例】
【0155】
以下に、本発明による例示的なシステムを開示する。しかしながら、本発明による方法を同じ様式で実行できる別のシステムを使用することも可能であることに留意されたい。
【0156】
本システムは、被検者の眼の前に配置される2つのディスプレイを含む表示システムを備える。該表示システムは、視覚刺激を眼に独立して表示するように構成される2つのディスプレイを備え、該ディスプレイの第1のディスプレイは、視覚刺激を右眼に提示するように配置され、該ディスプレイの第2のディスプレイは、視覚刺激を左眼に提示するように配置される。
【0157】
さらに、これらのディスプレイは、視覚刺激が片眼だけに提示することができるように、眼が1つのディスプレイだけを知覚できるように配置される。これらのディスプレイ間のクロストークは0.2cd/m2未満でなければならない。
【0158】
これらのディスプレイは、視覚刺激又は物体が表示され得る表示位置又は表示場所を記述する関連座標系を有することができる。座標系はどちらのディスプレイでも本質的に同じであり、同一の座標は、正常な機能的な眼のパラメーターを持つ眼のモデル、すなわち斜視角度0度に関して同一の注視方向に対応する。
【0159】
さらに、このシステムは、眼の注視方向及び瞳孔のサイズを記録するように構成される視標追跡システムを備える。さらに、視標追跡システムは、眼の回転及びその他の関連するパラメーターもまた決定することができるように装備され得る。
【0160】
この視標追跡システムは200Hz超過のフレームレートを有し、眼のサッカードを一連の画像に分解することができる。
【0161】
視標追跡システムは、表示システムに統合されていてもよいし、又は表示システムの近傍に配置されていてもよい。これにより、被験者の眼は、試行セッションの間に、常に視標追跡システムに対して可視化されることが保証される。
【0162】
視標追跡システムは、被検者の眼の画像の形でデータを記録することができる。視標追跡システムは、眼の位置、瞳孔位置、瞳孔のサイズ、及び/又は注視方向など、いくつかの眼のパラメーターを決定するためのモジュールを備えることができる。
【0163】
前記モジュールは、眼のパラメーターをコンピューターに転送し、又はこのデータを視標追跡システムにより記録された画像データに含めることができる。
【0164】
瞳孔のサイズを決定する精度は0.01mmより良好である必要があり、一方で精度は0.05mmより良好であり得る。
【0165】
さらに、注視方向を十分に正確に決定するために、視標追跡システムは1°より良好である精度を持つように構成される必要がある。
【0166】
視標追跡システムは、コンピューターと視標追跡システムとの間でデータを交換することができるように、システムのコンピューターに接続される。
【0167】
コンピューターは、視標追跡システム及び表示システムを制御し、したがって、そこに保存されたコンピュータープログラムによって、本発明による方法、特に本発明のコンピューターに実装された方法の工程を実行するように構成される。本方法は、視覚刺激の記録と表示とがコンピューターによって連係されるように、コンピュータープログラムがコンピューターにシステムの表示システムと視標追跡システムとを制御させるコンピュータープログラムの形態でコンピューター上で実行することができる。
【0168】
さらに、コンピューターは、視標追跡システムからの記録データを分析するように構成され、かつ特に、コンピューターは、視標追跡システムの記録データと提示される視覚刺激とを時間相関させることができる。
【0169】
表示システムは、被検者の近視用に調整されるように構成されるレンズアセンブリを備えてもよい。
【0170】
表示システムと視標追跡システムとは、例えばバーチャルリアリティゴーグル(VRゴーグル)のような形態で、人のヘッドセットとして装着される単一の装置、すなわちニアアイディスプレイに備えることができる。VRゴーグルはレンズアセンブリを備えてもよい。
【0171】
次いで、本発明によるシステムは、複数の機能的な眼のパラメーターを決定するために、本方法の実行に使用することができる。
【0172】
視覚刺激の一般的な設計
眼の検査を行う際には、調節(accommodation)、輻輳、想定される明るさ、想定される物体の大きさ、覚醒状態、精神的負荷など、様々な異なる要因が眼の状態及び反応に影響を与える。
【0173】
参加者が両眼視装置を覗き込む必要がある検査を実施する際の主な問題の1つは、調節及び調節性輻輳(accommodative vergence)が制御できないことである。この問題は、試行セッションの間又は試行セッションの一部で単眼刺激のみを使用している場合に特に顕著である。このような状況では、両眼融合のメカニズムはもはや存在しないため、輻輳眼球運動はほとんど調節性輻輳によって決定される。
【0174】
この問題を解決するために、本システムは、試行セッションの間に視覚刺激に含まれる両眼の視差が正しい3次元的に見える情景を提示するように構成される。刺激は、既知の大きさの物体を提示できるような様式で構成され、それによって、調節及び輻輳を誘導する視覚的合図を提供する。
【0175】
例えば、瞳孔のサイズの変化を誘発するように設計された試行では、以下のような視覚刺激の設計が試験された:
【0176】
最大の明るさ(明刺激)及び/又は暗さ(暗刺激)を、片眼又は両眼に交互に、あるいは同期的に、複数回繰り返す。
【0177】
第1の種類の視覚刺激の中央に存在することができる固視物により、被験者は第1の試行セッションの間に安定した注視位置を持つことができる。第1の試行セッションの明るい/暗い交互刺激の間の固視物の設計が重要である。赤い点などの単色の固視物を試験した。しかしながら、このような刺激は、周囲によって被験者の色知覚を大きく変化させ、その後に二重に見えるようになった。十字カーソル、牛の目の的(bullseye target)も同様に試験したが、いずれの固視物も信頼できる融像(融合)が得られなかった。被検者の他の視覚認識を歪めることなく、最も良好な結果を示す固視物は、複数のカラーパッチを備える固視物であり、例えば、複数のカラーパッチを示す風船である。
【0178】
着色された風船状の固視物は、RAPDの決定に使用することができる。
【0179】
瞳孔のサイズからのAPD、RAPDの決定及び第1の試行セッション
以下に、いくつかの機能的な眼のパラメーターについて、それぞれのパラメーターがどのように決定されるかを詳細に示す1つ又は複数の例を示す。
【0180】
従来、求心性瞳孔欠損(APD)は、いわゆる交互対光反応試験(swinging flashlight test)によって決定されるが、この試験は、試験を実施及び評価する人の専門知識並びに被検者の順守に左右される傾向にある。
【0181】
本発明によれば、自動化された客観的な様式で、試験を繰り返し確実に実行することができる。
【0182】
APDの決定の自動的な実行には、本明細書の文脈に記載されるようなシステムが必要である。
【0183】
APDを決定するために、第1の試行セッションが被検者により行われる。第1の試行セッションは、複数の試行からなる。1つの試行は、被験者の少なくとも片方の眼に提示される少なくとも1つの第1の種類の視覚刺激から順次なる。試行セッションの間に、視標追跡システムは両眼の瞳孔のサイズ及び注視方向を連続的に記録する。
【0184】
この例で第1の試行セッションに使用される視覚刺激は、APDの決定に関する試験の特定の目的には固視物は必要ないにもかかわらず、固視物を備える第1の種類の刺激である。
【0185】
第1の種類の刺激は、健康な人、つまり特にAPDを患っていない人の瞳孔が収縮すると予想されるほど、明るい、つまり輝度の高い刺激である。この明るさは約30cd/m2であるが、最大50cd/m2であり得る。
【0186】
任意に、第1の試行セッションの開始時又は終了時に、被検者の瞳孔を少なくとも数秒間又は数分間(T0-1、T0-2)拡張することができる暗刺激又は非刺激を両眼に同時に提示してもよい(
図2、
図3)。この測定から、瞳孔のサイズのベースラインは、記録されたそれぞれの眼の瞳孔のサイズの時間的経過から独立して計算することができる。その後、両眼の瞳孔の収縮のうち最小の瞳孔のサイズが、記録された両眼の瞳孔のサイズの時間的経過から独立して決定されるように、被検者の両眼に第1の種類の刺激を数秒間同時に与える。
【0187】
この任意の初期の配列の後、それぞれの眼について、最小及び最大の瞳孔のサイズがわかる。
【0188】
次に、被験者に試行の配列が提示され、この試行の配列の間、第1の種類の刺激、すなわち明刺激が交互に眼に提示され、それぞれのもう一方の眼には暗刺激が提示される。つまり、例えば左眼から始めて、明刺激が例えば3秒間左眼に提示され、かつ暗刺激が同じ時間右眼に提示される。次に、同じ時間、明刺激を右眼に提示し、暗刺激を左眼に提示する。固視物の表示位置は、APDを決定するための二次的な性質にすぎない。
【0189】
この配列は少なくとも1回繰り返される。記録されたデータを評価するためには、60Hzの視標追跡システムのフレームレートは十分であり得る。
【0190】
第1の試行セッションから、記録された瞳孔のサイズの時間的経過が得られ、該時間的経過は数百から数千のデータポイントを有する。
【0191】
時間的経過から、明刺激の切り替え前の最大瞳孔のサイズ及び切り替え直後の最小瞳孔のサイズがプロセッサーによって決定され、特に、それぞれの眼の時間的経過が平滑化アルゴリズムで異常値に対して平滑化される。このように、両眼の時間的経過から、プロセッサーによって、第1の種類の刺激に曝されたときの変化の関連する振幅が計算され得る。こうして、それぞれの眼について、収縮した瞳孔と拡張した瞳孔との間の振幅が計算される。瞳孔の応答の差、すなわち左右の眼の間の振幅は、相対性求心性瞳孔欠損(RAPD)の大きさを示す。健康な被験者の正常なデータと比較した絶対振幅は、求心性瞳孔欠損(APD)を示す。これはそれぞれの眼ごとに決定される。
【0192】
任意に、左眼と右眼との瞳孔のサイズを平均する。この平均化したトレースに対して、明刺激の開始から0ミリ秒から80ミリ秒までの平均瞳孔サイズが決定される。この値から、全試行で明刺激の開始後に到達した最小の瞳孔のサイズを差し引く。この計算によって瞳孔振幅が得られる。左眼と右眼の瞳孔振幅を比較する。その差はRAPDの大きさを示す。
【0193】
第2のアプローチは、それぞれの試行の開始時と終了時との平均瞳孔サイズを差し引くことからなる。この値は、左眼に対する明刺激の値から右眼に対する明刺激を差し引くことで決定される。得られた値の符号と大きさは、どの眼がどの程度、RAPDの影響を受けているかを示す。
【0194】
図1には、第1の試行セッションによる時間的経過と、関連して記録された時間的瞳孔サイズが示されている。この例では、右眼から左眼への明刺激の変化の振幅が、左眼から右眼への明刺激の変化による瞳孔のサイズの振幅よりも大きいため、右眼のRAPDが検出される。
【0195】
本方法の利点のひとつは、同じ種類の視覚刺激を用いて1回の試行セッション内で斜視角度もまた決定できることである。
【0196】
遠心性瞳孔機能の決定
第1の試行セッションの開始時又は終了時に、収縮瞳孔のサイズ及び拡張瞳孔のサイズのベースラインを確立するために詳細に説明したとおり、第1の試行セッションの初期部分及び終了部分を実施することができる。この目的のために、明刺激を両眼に同時に提示した後に、暗刺激を両眼に同時に提示してもよいし、その逆でもよい。
【0197】
第1の試行セッションの初期部分及び/又は終了部分から、遠心性瞳孔機能又は遠心性瞳孔欠損が決定される。特に、眼の瞳孔のサイズの記録された時間的経過から、遠心性瞳孔機能がプロセッサーによって決定される。遠心性瞳孔機能は、明刺激から暗刺激に切り替わった後に瞳孔が拡張する速度又は時間間隔から決定される。拡張速度が所定の閾値速度を下回る場合、又は時間間隔が所定の時間間隔より長い場合、被検者は遠心性瞳孔欠損又は遠心性瞳孔機能障害(例えばホルネル病による障害)に罹患している可能性がある。
【0198】
拡張の速度は、時間的経過の勾配から決定するか、又は刺激が明から暗に切り替わった後に瞳孔が拡張するのに必要な時間間隔を決定することによって決定することができる。
【0199】
第1の試行セッションからの斜視角度の決定
図2及び
図3を参照すると、RAPDに加えて第1の試行セッションから斜視角度を決定するために、第1の種類の刺激は固視物を備える。固視物は、固視物に視線を固定することができる空間的に限定された物体であり得る。例えば、物体の直径が1°オーダーの明るい点又は風景中に表示される物体であってもよい。
【0200】
第1の試行セッションでは、T1、T2、T3、T4と異なる試行で、前項で説明したとおり、第1の種類の刺激が左眼と右眼とに交互に繰り返し提示される。
【0201】
視標追跡システムからの眼と瞳孔との記録は、データセットから瞬き事象が取り除かれるようにフィルタリングされる。眼球運動速度が600°/秒より速いデータはデータセットから削除される。
【0202】
斜視角度の決定の第1の実施形態では、以下の工程が実行される:
【0203】
第1の試行セッションは、注視方向ブロックに細分化され、ここでそれぞれの注視方向ブロックの間では、試行T1、T2、T3、T4の間に、固視物は同じ表示位置に表示され、異なる注視方向ブロックでは、固視物は異なる選択された表示位置に表示される。一般に、9つの表示位置が、主注視方向(つまり、中心の真正面、0,0)にセンタリングされる3×3のマトリックスから選択される。それぞれの選択される表示位置は、αが10~25°の範囲にある間のタプル[-α,0°,+α]から選択される3つの水平注視方向のうちの1つと、βが10°~25°の範囲にある間のタプル[-β,0°,+β]から選択される3つの垂直注視方向のうちの1つとの組み合わせである。
【0204】
したがって、第1の試行セッションの間に9つの注視方向ブロックが実行され、その間、APDの決定について記載したとおり、第1の種類の刺激が右眼と左眼の間で交互に繰り返され、かつ一方でそれぞれの注視方向ブロックについて、選択された表示位置の1つに固視物が表示される。
【0205】
記録された注視方向100及び瞳孔のサイズのデータは、前述のようにAPDに関して評価され、かつ斜視角度に関して評価される。斜視角度については、第1の種類の刺激11が左眼から右眼に切り替わる度に、またその逆も同様に、眼の修正サッカード101が記録される。被検者が斜視を患っていない場合、修正サッカードはない可能性がある。被検者が斜視を患っている場合、修正サッカードが顕著になる。修正サッカードの方向及び振幅によって、斜視角度を定量化することができる。さらに、斜視角度は、固視物の表示位置の選択により、その垂直、水平、又はねじれの大きさに関連して決定され得る。したがって、水平、垂直及び/又はねじれ斜視角度は、第1の試行セッションについて決定され得る。
【0206】
特に、左眼の水平方向の注視位置/方向は、視線が9つの表示位置のうち1つに向けられている場合、右眼の水平方向の注視位置/方向から差し引かれる。これにより、9つの表示位置のそれぞれについて、表示位置、すなわち注視方向、に対する水平方向の相対偏差、すなわち水平方向の斜視角度、についての1つの値が得られる。
【0207】
同様の様式において、9つの表示位置のそれぞれについて、垂直方向の斜視角度及びねじれ斜視角度を算出することができる。
【0208】
つまり、この修正サッカード眼球運動の方向、振幅、及びねじれは、それぞれの眼の水平、垂直、及びねじれ斜視角度を示す。
【0209】
この実施形態では、1つの種類の視覚刺激による1回の試行を用いて、APDと斜視角度とを決定することができるため、2つの異なる試験を1つの試験シリーズに効果的に統合することができる。これにより、2つの機能的な眼のパラメーターを確立するのに必要な時間が短縮される。
【0210】
別の実施形態では、斜視角度は以下の工程で決定される:
【0211】
この別の実施形態による第1の試行セッションは、注視方向ブロックに細分化され、異なる注視方向ブロックでは、異なる選択された表示位置に固視物が表示される。
【0212】
第1の注視方向ブロックでは、前項の記載のとおり、第1の種類の物体が左眼と右眼とに交互に繰り返し表示される。この刺激は、表示位置にて固視物を備える。
【0213】
しかしながら、修正サッカードは、第1の視覚刺激が片方の眼(例えば左眼)からもう片方の眼(例えば右眼)に切り替わった後に評価される。ここで、評価された修正サッカードに従って、固視物の表示位置は、視覚刺激が一方の眼、例えば左眼から、他方の眼、例えば右眼に再び切り替えられる次の試行において、表示位置が予想される修正サッカードを補正するように調整される。第1の注視方向ブロックの間に、どちらかの切り替えの方向に修正サッカードが補正されるように左右の眼の固視物の表示位置を調整することが目標である。この固視物の表示位置の調整は、その後の注視方向ブロックでも同じ様式で繰り返される。
【0214】
一般に、9つの表示位置が、主注視方向(つまり、中心の真正面、0,0)を中心とする3×3のマトリックスから選択される。それぞれの選択された表示位置は、αが10~25°の範囲にある間のタプル[-α,0°,+α]から選択される3つの水平注視方向のうちの1つと、βが10°~25°の範囲にある間のタプル[-β,0°,+β]から選択される3つの垂直注視方向のうちの1つとの組み合わせである。
【0215】
別の実施形態によれば、上述したように、評価された修正サッカードに応じて、右眼に表示される固視物の表示位置が調整され、一方で左眼に表示される固視物の表示位置は変更されない。右眼の修正サッカードの補正が達成されると、左眼の表示位置が調整され、一方で右側に表示される固視物の表示位置は固定されたままである。
【0216】
調整されていない表示位置に対する調整された表示位置の方向と振幅(すなわち視差)により、斜視角度を定量化することができる。さらに、斜視角度は、固視物の調節された表示位置の選択により、その垂直、水平、又はねじれの大きさに関連して決定され得る。
【0217】
この実施形態では、1つの種類の視覚刺激による1回の試行セッションを用いて、(R)APDと斜視角度とを決定することができるため、2つの異なる試験を1つの試験シリーズに統合することができる。これにより、2つの機能的な眼のパラメーターを確立するのに必要な時間が短縮される。
【0218】
斜視角度を決定するための両方の実施形態は、それぞれの表示位置、すなわち注視方向、における斜位(phoria)の合計角度(すなわち斜視角度)を決定する点で共通している。9つの表示位置の各々について、斜視角度、特に水平斜視角度及び垂直斜視角度、が算出され、ここで斜視角度は、右眼が固視物を固視する状況に対し、左眼について斜視角度が決定され、逆も同様であり、すなわち、左眼が固視物を固視する状況に対して、左眼について斜視角度が決定される。
【0219】
したがって、第1の試行セッションの間に、9つの注視方向ブロックが実行され、その間に、APDの決定について記載したとおり、第1の種類の刺激が右眼と左眼の間で交互に繰り返され、かつ一方でそれぞれの注視方向ブロックにおいて、固視物が、斜視角度が決定されるように、選択され、かつ特に調整される表示位置のうちの1つに表示される。
【0220】
視野の決定
図4については、本発明によれば、本方法により、斜視角度の決定と同時に被検者の視野400(
図4A参照)を決定することができる。
【0221】
この目的のために、第2の試行セッションでは、被検者に第2の種類の視覚刺激を与える。第2の試行セッションは、第1の試行セッションの前又は後、あるいは第1の試行セッションの代わりに実行されてもよいことに留意されたい。
【0222】
第2の種類の刺激は、輝度物を備え、輝度物は表示システム上に表示され得るコンパクトな、すなわち空間的に限定され、かつ局所的な物体である。
【0223】
第2の種類の刺激は、均一な背景からなり、特に黒色の背景からなり、その上に輝度物が表示されるものである。
【0224】
第2の種類の刺激は、輝度物及びその表示システム上の輝度の観点から調整可能である。さらに、輝度物が被検者の視野内の選択される位置に表示されるように、輝度物の相対位置(本明細書の文脈では相対表示位置とも呼ばれる)を調整することができる。したがって、輝度物が表示システムに表示される位置は、被検者の注視方向に依存する。前記相対位置とは、眼の現在の注視方向に対して相対的に与えられる位置である。したがって、相対表示位置は、現在の注視方向403が表示位置の原点を決定するために注視中心表示とも呼ばれる。
【0225】
このように、特定の相対位置で輝度を表示するためには、その相対位置が被検者に知覚可能であるための2つの基準を満たす必要がある:
a)輝度物の相対位置の表示位置は、表示システムの制限内でなければならず、そうでなければ輝度物を表示することはできない。
b)輝度物の相対位置の表示位置は、視標追跡システムの範囲内でなければならず、そうでなければ、眼の位置又は瞳孔のサイズを決定することはできない。
【0226】
被検者の視野400を評価するために、被検者の視野のマップが生成され、このマップは、閾値に関する空間的に分解された情報(視野マップにおける知覚閾値を示すグレーの値の形の
図4A参照;暗いほど知覚閾値が低い)を含んでおり、この閾値未満では、試験が行われた相対位置において輝度物の輝度が前記閾値未満である場合、被検者は輝度物を知覚していない。このアプローチは閾値ペリメトリーとも呼ばれる。こうして、閾値ペリメトリー法を用いて被検者の視野が決定され、視野マップ401が得られる。
【0227】
前記マップ401を生成するために、閾値は、視野上に分布する複数の異なる相対位置402について決定される(
図4A及び
図4B参照)。
【0228】
視野を決定するための試行は、複数の相対位置のうち選択される相対位置に表示される輝度物を有する第2の種類の刺激403の開始により開始され、輝度物の方向への眼球運動が行われた後約500ミリ秒に終了する。このような試行は、被験者によって「視認」と分類され、又は検出されたとみなされる。約1000ミリ秒以内に刺激の方向に眼球運動が行われなかった場合、その試行は被検者によって「未視認」と分類され、又は検出されなかったものとみなされる。それぞれの試行では、複数の相対位置のうち1つが試験される。
【0229】
輝度物は、例えば、10cd/m2の均一な背景上に表示された直径約0.5°の明るい点からなる。第2の種類の視覚刺激は200m秒の期間表示される。
【0230】
輝度物の輝度は、輝度物の相対位置に応じて変化し、及び第2の試行セッションの先行する試行において刺激がその特定の位置で検出されたとみなされたか否かに応じて変化する。最初に、輝度物の初期輝度は、その相対位置の年齢補正された正常値より2dB高く選択される。試行後に刺激が検出されたとみなされた場合、輝度物の輝度は後に2dB低減されるが、特にその後の試行では低減されない。検出された刺激の後に、次の試行では輝度物の相対位置が変更される。刺激が認識されない、すなわち検出されないと判断された場合、輝度物の輝度は適応的に増加され、例えば2dBから10dB、特に2、4、6、8、又は10dB増加される。この手順を、閾値を一度超えるまで繰り返す。あるいは、輝度物の輝度は、固定された量ではなく、適応的に増減させることもできる。
【0231】
視野を決定するために、例えば、眼の中心視野の54の相対位置を選択的に検査することができる。輝度物は相対位置に表示されるため、鼻側階段(nasal step)付近、垂直子午線沿い、及び中心視野内、の表示位置が過大になる。相対位置は直径120°の視野をカバーする。
【0232】
例えば表示システム又は視標追跡システムの制限などにより、選択される相対位置に輝度物を表示できない場合、8つの相対位置のうち別の相対位置が選択される。すでに試験された相対位置だけが残っている場合、注視リセットの手順が実行されてもよく、その間に閾値超刺激が出現し、被験者はそれを追う必要がある。
【0233】
この目的のために、閾値超刺激が現在の注視方向/位置に現れる。この刺激は、閾値超過の輝度を有する輝度物の形態とすることができ、例えば、最初に新しい横位置まで毎秒8°で水平方向に移動し、続いて新しい垂直位置まで毎秒8°で垂直方向に移動し得る。
【0234】
次に、それまで範囲外であった相対位置に、(より低い輝度を有することができる)輝度物が表示される。
【0235】
それぞれの相対位置について、閾値とも呼ばれる知覚的閾値が決定される。知覚感度は、検出されたとみなされた最小の明るさの刺激及び検出されなかったとみなされた最大の明るさの刺激の平均を用いて、それぞれの相対位置について計算される。
【0236】
被検者が視線を前記固視物に固定することができるように、固視物、特に第2の試行セッションの間の固視物、を表示することが有利であり得る。輝度物が表示されると、輝度物に向かう注視位置の変化が(眼球運動の所定の最小の速度及び所定の最小の方向精度により)記録され、これにより輝度物が被検者に検出されたことが示される。
【0237】
注視リセット手順からの滑動性追跡の決定:
注視リセット手順から、動く閾値超の物体に応答する眼の動きを評価することにより、滑動性追跡もまた決定することができる。この目的のために、記録された眼のサッカードは、滑動性追跡分析から除かれる。右、左、及び縦の眼球運動が分離される。眼球運動の速度と閾値超の物体の運動の速度との平均の差をパーセントで表したものをゲインと定義することができる。ゲイン100%とは、眼球運動が閾値超の物体の速度にて完全に追従していることを意味する。
【0238】
固視、注視保持、矩形波眼球運動(square wave jerk)、眼振
固視は、いずれの試行セッション間に決定することができる。この分析では、注視リセット中の滑動性追跡眼球運動と、3°超過の振幅のすべてのサッカードは除外される。特に、新しく提示される刺激の後のサッカード反応は除外される。
【0239】
このような固視イベントは、眼中心の視界における5つの異なる相対位置、つまり右注視、左注視、上注視、下注視、及び主注視について個別に分析される。
【0240】
固視安定性は、閾値超の物体が画面上に連続的に存在する間の、眼の固定の変化の回数に対応する。この数値は、閾値超刺激の3°以内で費やされる時間及び1分あたりの固視消失を示している(目標に対する%(割合))。
【0241】
さらに又はあるいは、矩形波眼球運動の周波数が、第1及び/又は第2の試行セッションの間に決定されてもよい。矩形波眼球運動は、200m秒~400m秒の時間間隔を隔てた、5°±1°未満の同じ振幅の2つの水平サッカード(往路サッカードと復路サッカード)によって定義される。このような1分間あたりのイベントの数は、固視、輝度、又は閾値超の物体の存在とは無関係にカウントされる。
【0242】
他の(矩形波眼球運動以外の)サッカーディック・イントルージョン(saccadic intrusion)の有無:連続したサッカード、つまり固視イベントが間にない2つのサッカードを伴うすべてのイベントは、サッカーディック・イントルージョンとして分類される。矩形波眼球運動と同様に、二重のサッカード型パルス、水平眼振、マクロサッカード型振動、マイクロサッカード型振動、及びオプソクローヌスが特定される。
【0243】
眼振の有無:眼の位置のドリフトが1秒間に1°を超え、一定の方向が5秒超過続く場合は、眼振と定義される。緩徐相の平均速度が眼振の大きさとして使用される。これは、5つの患者中心の注視位置/方向、すなわち相対位置のそれぞれで決定される。
【0244】
注視保持機能:これについては、右注視、左注視、上注視、下注視のデータだけが含まれる。眼振検出と同様に、注視位置/方向とは逆方向の眼球運動ドリフト(例えば、上注視中に瞳孔が下方向にドリフトする、左注視中に右方向にドリフトする等)が出現するか否かを決定する。ドリフトが現れた場合、注視保持は異常と判断される。ドリフトは眼振と同じアルゴリズムで定量化される。
【0245】
これらのパラメーターはすべて1回の試行セッションの間に評価できるため、測定時間が劇的に短縮されることが指摘される。
【0246】
サッカード精度の決定
さらに、いずれのセッションからも、被検者の斜視角度及び視野に対し同時にサッカード精度を第2の種類の刺激の配列から決定することができる。サッカード精度を決定するために、検出されたとみなされ、異なる相対位置に表示された後続の第2の種類の刺激のみが、コンピューターによる分析のために選択される。この選択はコンピューターが自動的に行うことも可能である。
【0247】
輝度物が表示されている相対位置の方向(±20°)において3°超過の第1のサッカードを分析に使用する。後続の第2の刺激の相対位置間の距離と第1のサッカードの大きさとの差(パーセント)が計算される。この差は、サッカード精度に相当する。
【0248】
サッカード精度は、右方向サッカード、左方向サッカード、及び垂直サッカードについて別々に決定される。
【0249】
3種類のサッカードのそれぞれについて、誤差の中央値(目標振幅の割合(%))を計算し、測定過大サッカードの数(パーセント)を算出することができる。後者は、目標振幅の10%を超える振幅を持つサッカードと定義される。
【0250】
サッカード精度決定の変動において、大きなサッカードは生理学的に測定過小であるため、上記の数が目標振幅に対して補正される。それぞれの試行から、振幅に依存する平均年齢相関測定過小が差し引かれる。
【0251】
ピーク速度の決定
ピーク速度を決定するために、特に第2の試行セッション中に記録されたデータから、サッカード眼球運動が分析され、サッカード中の眼球運動のピーク速度が決定される。サッカードが1秒より短くても、ピーク速度は度/秒で表すことができる。さらなる、又は別の実施形態では、第1、第3、又は第4の試行セッション中に記録されたサッカードが、同じ様式でピーク速度について分析される。
【0252】
融像幅の決定
融像幅を決定するために、本システム上で第3の試行セッションを実行する必要があり、ここで第3の試行セッションは、光学システムにより被検者の左眼と右眼とに同時に提示される第3の種類の視覚刺激を備える。
【0253】
したがって、第1と第2の試行に加えて、第3の種類の刺激を被検者に提示する必要がある。
【0254】
融像幅は、第3の試行セッションの間で記録された両眼の注視方向から決定される。
【0255】
第3の種類の刺激は、画像又は任意の構造物体を備え、焦点を合わせることができる。
【0256】
視標追跡システムが両眼の注視方向を記録している間、この画像は視差を増加させながら、特に連続的に視差を増加させながら被検者に表示される。画像の視差を補正可能にするために、眼は輻輳運動を行うことが期待される。
【0257】
画像の視差は、被検者が眼の輻輳運動をもはや実行できなくなり、かつ眼の注視方向が本質的に真っすぐ又は自然な注視方向に切り替わって戻るまで増加する。
【0258】
融像幅は、被検者が視差を補正するために必要な輻輳で眼の注視方向を調節することが未だ可能である、被検者に提示された画像の最大視差に相当する。
【0259】
融像幅は、水平方向、垂直方向、及び/又はその他の方向に沿って決定することができる。融像幅は、眼の間の最大輻輳角として与えることができる。
【0260】
視力の決定
視力を決定するために、第4の試行セッションの例示的な実施形態によって以下に示される第4の試行セッションが実行されてもよい。
【0261】
しかしながら、先に指摘したように、視力は、第1、第2及び/又は第3の試行セッションとは無関係に決定することができる。また、第4の試行を行うために第3の試行を実施する必要はない。試行セッションの番号付けは、本発明に従って実行され得る様々な試行セッションを区別するための手段としてのみ提供される。決して、これらの試行セッションを実行する順序を意味するものではない。
【0262】
したがって、第4の試行セッションは、第1、第2、又は第3の試行セッションのいずれかの前又は後に実行することができる。
【0263】
第4の試行セッションは、光学システムを用いて被験者の左眼と右眼に異なる試行中に提示される複数の第4の種類の視覚刺激を含む。好ましくは、ガボールパッチ501は、それぞれの眼について視力が別々に決定されるように、左右に個別に提示される。
【0264】
それぞれの第4の種類の刺激は、複数のガボールパッチ501を含み、被検者に対して表示システム上に好ましくは不規則なパターンで表示される。平均して、これらのガボールパッチは表示システムの表示領域の約10%~30%をカバーし、同時に最小距離はガボールパッチの直径の2倍である必要がある。
【0265】
これらのガボールパッチは、均一な、特に灰色の背景上に表示されてもよく、これらのガボールパッチ501は、前記背景上のより明るい領域とより暗い領域とによって表示される。
【0266】
複数のガボールパッチは、それぞれの第4の種類の刺激において同時に提示される。それぞれの試行において、これらのガボールパッチ501は表示システム上の位置を除いて同一の特性を持つ。
【0267】
ガボールパッチはそのサイズと形状によって特徴付けられ得る。これらのガボールパッチは、ガボールパッチが円形物体として見えるような分散、特に等方性分散を有するガウスカーネル関数によって定義され、前記ガウスカーネル関数は、所定の方向及び所定の周期/空間周波数を有する正弦平面波によって調節される。
【0268】
例えば、正弦平面波の周期は単一分散及び三重分散の範囲にある。しかし、他の周波数を選択することもできる。
【0269】
さらに、正弦平面波は、ガウスカーネル関数の平均値位置の最大振幅によりセンタリングされてもよい。
【0270】
ガウスカーネルの分散とガボールパッチの正弦平面波の周期の比は一定であり得る。これにより、異なる試行中に異なるサイズのガボールパッチを表示することができ、ガボールパッチの外観は基本的に同じまま、拡大又は縮小することができる。
【0271】
視力を決定するために、初期サイズのガボールパッチは、所定の軌道(502)に沿って表示システム上で往復移動し、ここで視標追跡システムは、ガボールパッチが表示される眼の眼球運動(503)を記録する。
【0272】
所定の軌道は、表示されたすべてのガボールパッチについて同じである正弦波状の速度プロファイル(502)を有する直線的な、すなわち一方向に沿った動きであってもよい。例えば、軌道は、例えばより小さいか、又はより大きいガボールパッチによって、新しい試行が実行されるまで、2~3周期の正弦波運動を含むことができる。正弦波運動中の最高速度は20°/秒を超えないものとし、特に10°/秒を超えないものとする。
【0273】
ガボールパッチ501が知覚される限り、眼はこの軌道を追従することが期待される。
【0274】
評価工程では、眼球運動が任意のサッカード運動に対してフィルタリングされ、サッカードではない眼の動き(503)のみが視力について分析される。フィルタリングされた眼球運動とガボールパッチの運動とは、相関と遅れの観点から比較される。被検者がガボールパッチを知覚している場合、両方の動きはほぼ同じになるはずだが、例えばガボールパッチのサイズが小さすぎるなどの理由で、被検者がガボールパッチを知覚していない場合、眼球運動はガボールパッチの運動に対して十分に相関しないか、又は有意に遅れる。
図5Bでは、眼球運動503に対するガボールパッチの運動502を比較することからわかるとおり、被検者はガボールパッチを追うことができる。
【0275】
通常、視力は視力表(例えば「ランドルトC」)によって推定されるが、この実施形態では、移動するガボールパッチによって視力を代替的に決定することができる。ガボールパッチは本質的に縞模様の小さなパッチであるため、モアレ効果又は干渉の影響も受ける。しかしながら、ガボールパッチは比較的に小さいため、ディスプレイへの干渉の影響も小さい。これとは対照的に、画面全体を覆うような縞模様のものが選択される場合、画面の個別のピクセルによって表示される意図した縞模様がそのような効果を引き起こす可能性があるため、表示される縞模様は意図したものよりはるかに大きく見える可能性がある。ガボールパッチではこのようなことは起こらないであろう。
【0276】
図6では、本発明によるシステム1の例示的な一実施形態の概略図を示す。システム1は、表示システム4、視標追跡システム5、レンズアセンブリ6を備える光学システム3と接続された外部コンピューター2、光学システム3を被検者の頭部8に取り付けるための固定機構7を含む。別の実施形態では、光学システムは、固定機構が必要なように、被検者の眼の前に配置されるように配置及び構成された装置に含まれてもよい。
【0277】
さらに、光学システムは、記録されたデータを外部のコンピューターに無線送信するための送信装置8を備える。送信装置8はまた、外部コンピューター2が光学システム3を制御できるように、外部コンピューター2からの指示を受信するように構成されている。光学システム3は、コンピュータープログラム命令及び記録されたデータを記憶するための非一過性のメモリストレージ(図示せず)を備えることができる。さらに、光学システム3は、メモリストレージに保存されたコンピュータープログラムを実行するように構成されるプロセッサー(図示せず)をさらに備えることができる。プロセッサーはさらに、外部コンピューター2によって制御されるように、すなわち、外部コンピューター2から指示を受信し、確認を送信し、表示システム4並びに光学システム3の視標追跡システム5を制御するように構成されている。これにより、本発明による方法のいずれの試行セッションを完全に自動化することができる。
【0278】
光学システム:
光学システム3は、被験者の眼と表示システム4との間に光を通さない密閉容積部を形成することができ、かつ光学システム3の構成要素を収容するハウジングを備える。
【0279】
さらに、光学システム3は、屈折力を調整し、かつ被検者の光学的収差を補正するためのレンズアセンブリ6を備える。レンズアセンブリ6は、その屈折力と、表示される刺激又は画像の仮想距離補正との点で調整可能である。この目的のために、レンズアセンブリ6は、球面レンズ及び円筒レンズを備えることができる。視標追跡システム5は2台のカメラからなり得、それぞれのカメラは被検者の片眼を記録するように構成及び配置されている。これらのカメラは例えば赤外線カメラである。表示システム4は、それぞれの眼に1つの、2つのディスプレイ又はディスプレイ部分を備える。
【0280】
視標追跡システム5によって記録されたデータは、人の眼に提示される刺激に時間的に関連付けることができるように、光学システム3のメモリに保存される。
【0281】
外部コンピューター:
外部コンピューター2は、ユーザー入力を受け、コンピューター2のディスプレイにデータを表示するように構成される従来のコンピューターであり得る。コンピューター2は、無線方式で情報を送受信するための送信装置もまた備えている。送信装置を介して外部コンピューター2を光学システム3に接続することができる。
【国際調査報告】