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特表2024-525813無抽出病原体検査のためのデバイスおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】無抽出病原体検査のためのデバイスおよび方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6844 20180101AFI20240705BHJP
   C12Q 1/6888 20180101ALI20240705BHJP
   C12Q 1/689 20180101ALI20240705BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z
C12Q1/6888 Z
C12Q1/689 Z
C12Q1/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502103
(86)(22)【出願日】2022-07-13
(85)【翻訳文提出日】2024-02-16
(86)【国際出願番号】 US2022036993
(87)【国際公開番号】W WO2023287901
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】63/221,448
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/226,531
(32)【優先日】2021-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524016714
【氏名又は名称】サミット バイオラブズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ブロムクイスト, ロバート イー.
(72)【発明者】
【氏名】ルー, シ-ロン
(72)【発明者】
【氏名】ハリー, ブライアン エル.
(72)【発明者】
【氏名】ヤオ, シン
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ10
4B063QS25
(57)【要約】
本発明は、ヌクレアーゼフリー水と抗真菌剤と抗生物質とリボヌクレアーゼインヒビターとを含む緩衝液組成物中で、組み合わせた生体サンプル(例えば、唾液サンプルおよび呼吸粘膜サンプル)を使用して、無抽出の直接的PCR技術による感染性疾患(インフルエンザウイルスおよびSARS-CoV-2などの、ウイルスが挙げられる)の迅速な診断を可能にする、組成物、デバイス、方法およびキットを提供する。本発明は、一般的には診断方法に関連し、より詳細には、無抽出で病原体の検査および検出を実施するための組成物および方法に関連する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸の無抽出分析のための方法であって、
組み合わせた唾液サンプルおよび呼吸粘膜サンプルを、ヌクレアーゼフリー水と抗真菌剤と抗生物質とリボヌクレアーゼインヒビターとを含む緩衝液組成物中で混合する工程;
標的核酸に特異的なプライマーで該緩衝液中の該サンプルから核酸を、該核酸の事前抽出を行うことなく直接増幅する工程;ならびに
病原体の存在を検出するために、該増幅する工程において生成されたアンプリコンを分析する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記核酸が病原体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記病原体がウイルスまたは細菌である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ウイルスがコロナウイルスまたはインフルエンザウイルスを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記コロナウイルスが重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
1種または複数種の標的SARS-CoV-2変異株の存在を検出するために、前記アンプリコンを分析する工程をさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
野生型SARS-CoV-2核酸の増幅を含まない、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記核酸特異的プライマーが、前記ウイルスのN遺伝子、ORF1ab遺伝子、およびE遺伝子のうちの1つまたは複数を標的とする、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
混合する工程の前に、
容器中に前記唾液サンプルを取得し、前記呼吸粘膜サンプルを含む鼻腔スワブを該容器中の該唾液サンプル中に配置する工程
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記サンプル容器中で前記鼻腔スワブを圧搾および/または撹拌して、前記唾液サンプルおよび呼吸粘膜サンプルを混合する工程
をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記鼻腔スワブが、鼻腔中の1つまたは複数の位置に由来する呼吸粘膜サンプルを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記1つまたは複数の位置が、外鼻孔、中鼻甲介、および/または鼻咽頭を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記呼吸粘膜サンプルが外鼻孔から取得される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記核酸がRNAまたはDNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記分析する工程が、前記アンプリコンを配列決定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記緩衝液組成物が還元剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記緩衝液組成物が、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩溶液である還元剤を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記抗真菌剤がアムホテリシンBを含み、前記抗生物質がペニシリン-ストレプトマイシンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
連続的時点で患者から取得された複数の組み合わせた唾液サンプルおよび呼吸粘膜サンプル中の核酸量を比較し、経時的な該核酸量の増加または減少に基づいて疾患の進行を決定する工程
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記核酸量に基づいて疾患の転帰を予測する工程
をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
核酸の無抽出分析のための方法であって、
バイアルを提供する工程;
唾液サンプルを対象から該バイアル中に取得する工程;
該対象から呼吸粘膜スワブサンプルを取得する工程;
該バイアル中の該唾液サンプルおよび呼吸粘膜スワブサンプルを、ヌクレアーゼフリー水と抗真菌剤と抗生物質とリボヌクレアーゼインヒビターとを含む緩衝液組成物と混合する工程;
標的核酸に特異的なプライマーで該緩衝液中の該サンプルから核酸を、該核酸の事前抽出を行うことなく直接増幅する工程;ならびに
該増幅する工程において生成されたアンプリコンを分析して、病原体の存在を検出する工程
を含む、方法。
【請求項22】
唾液収集補助器具(SCA)または漏斗を使用して、前記唾液サンプルが前記対象から取得される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記緩衝液組成物を含むSCAを使用して前記唾液サンプルが取得され、該緩衝液組成物が前記バイアル中に放出される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記SCAまたは漏斗が蓋を備える、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記蓋が前記緩衝液組成物を含み、該緩衝液組成物は該蓋が閉じられた際に前記バイアル中に放出される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記SCAまたは漏斗が前記バイアルと一体化されている、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記前記対象の外鼻孔からスワブ採取することによって、前記呼吸粘膜スワブサンプルが取得される、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記呼吸粘膜サンプルを取得するために使用されるスワブが、前記バイアルを密封するために使用されるキャップに取り付けられている、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記バイアルを前記キャップで密封することが、前記スワブを前記唾液サンプル中に配置させる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記バイアル;
唾液収集補助器具または漏斗;
前記緩衝液組成物;
前記標的核酸に特異的な前記プライマー;および
使用指示書
を備える、請求項21に記載の方法を実施するためのキット。
【請求項31】
ウイルスサンプルを安定化するための方法であって、
ウイルスを含むと疑われる体液サンプルを取得する工程;
該体液サンプルに、ヌクレアーゼフリー水と抗真菌剤と抗生物質とリボヌクレアーゼインヒビターとを含む緩衝液を添加し、それによって該ウイルスを安定化する工程;および
該サンプルを検査場所に輸送する工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明は、一般的には診断方法に関連し、より詳細には、無抽出で病原体の検査および検出を実施するための組成物および方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
伝染病の急速な世界的蔓延は、大きな医療上の課題を提示する。例えば、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の急速な蔓延は、世界的パンデミックをもたらし、迅速で早期の検出の重要性を強調している。
【0003】
多くの感染性疾患についての現在の検出技術は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の使用を含む。PCRは、目的のDNA(DNA標的)の特定領域を選択的に増幅するために使用される技術である。例えば、SARS-CoV-2 RNAを検出するための種々のリアルタイムPCRアッセイ(定量PCR(qPCR)とも呼ばれる)が世界規模で開発されており、種々のウイルス遺伝子またはウイルス領域を標的としている。
【0004】
現在のPCR方法は感染性疾患の検出および診断を可能にするが、それらの方法は欠点に悩まされている。1つの顕著な欠点は、現在のアプローチが、ウイルス検査プロトコルの一部として、核酸を臨床サンプルから分離および精製する初期工程に依存することである。
従来の方法においてPCRを受ける前に必要とされるこの初期の核酸の分離および精製工程(すなわち、抽出工程)は、この診断プロセスにおける主要な障害を構成する。その理由は、これが、手作業で面倒でありかつ高価なままであり、偶発的な混入および人為的誤りの機会をさらに増加するからである。
【0005】
さらに、SARS-CoV-2を診断するためのPCRベースの検査の有効性は、分析されるサンプルの型(例えば、唾液または外鼻孔鼻腔スワブ)、感染症の経過に対するサンプル収集の時期、およびサンプル収集前の対象の行動にさえ基づいて、変動し得る。最近の分析は、SARS-CoV-2について、感染症の経過初期に、上気道サンプルが最高濃度のウイルス粒子を有し、これが症状の発現後に減少することを、示している。対照的に、下気道サンプルは、この疾患の経過において、より後期により高いウイルス負荷を有する。
【0006】
他のウイルス病原体および非ウイルス病原体(例えば、細菌、真菌など)もまた、PCRおよび関連プロセスによる検出を受けることができる。さらに、特定の病原体は代表的なサンプル(例えば、唾液)中で不安定であり、このことは、完全な病原体の検出を困難にする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(要旨)
本発明は、唾液および呼吸粘膜における核酸の迅速な無抽出での検出および分析のための組成物および方法を提供する。
【0008】
本発明の方法は、PCR増幅を受けることができる任意の病原体の検出に適用可能であり、その病原体としては、ウイルス(例えば、インフルエンザウイルスおよびSARS-CoV-2)、ならびに細菌および他の病原体が挙げられる。一局面において、本発明は、単一のアッセイにおける2種の異なるサンプル型の組合せを可能にし、それにより、感染症の経過全体における、より正確な結果を可能にする。例えば、SARS-CoV-2もしくは他の呼吸器ウイルスの存在量もしくは除去は、個体間で、またはその感染症の経過中の種々の時点で、鼻腔と唾液とを比較して変化し得るという証拠が、出現した。したがって、本発明の方法とは異なり、単一の検体型に依存する検査は、陽性の症例を見逃し得る。
【0009】
さらに、唾液ベースの検査について、検査対象の行動は、その検査が病原体を陽性検出する能力を妨害し得ることが、最近発見された。例えば、対象が目覚めてから十分に後になって収集された唾液サンプル、または摂食後、飲み物を飲んだ後、もしくは歯を磨いた後に収集された唾液サンプルは、SARS-CoV-2について、より低い陽性検出率を提示した。2種の独特なサンプル型を採用することによって、本発明の方法は、検査対象の行動が検査の正確性に対して有し得る影響を軽減する。さらに、呼吸器感染症について、組み合わせた唾液および呼吸粘膜サンプルを用いることにより、本発明は、最小侵襲的サンプル収集を使用するウイルスの首尾良い検出を可能にする。
【0010】
別の局面において、本発明は、サンプル中の病原体を保存する安定化緩衝液を提供する。その下記に記載の緩衝液は、病原体核酸の検出前の輸送のために、ウイルスおよび細菌の両方を安定化する。好ましい局面において、本明細書において記載される輸送緩衝液は、病原体を含むと疑われる液体サンプルに添加される。その後、そのサンプルは、抽出および検査のために実験室に輸送される。本明細書において開示される緩衝液組成物はウイルス病原体および細菌病原体の両方を保存するので、複数の病原体検出アッセイが単一のサンプルにおいて実行され得、かつ/または複数のサンプル型が多重病原体分析のために組み合わされ得る。本発明は、任意のサンプル型の使用を企図するが、好ましくは、液体サンプル(例えば、血液、喀痰、唾液、鼻粘膜、脳脊髄液、尿、膿、乳頭吸引液、腹水、リンパ液、汗および涙液)が、使用される。
【0011】
第一の局面において、本発明は、組み合わせた唾液および呼吸粘膜サンプルを処理し、後の増幅および/または検出のために利用可能な核酸を(例えば次世代シーケンシング技術を使用して)提供し、同時に初期核酸抽出工程の必要性を排除するための、組成物を提供する。本発明の組成物は、PCRを典型的には阻害する、病原体輸送媒体の必要性を排除する。本発明の組成物は、例えば、目的のサンプルと混合された場合に、初期核酸抽出(すなわち、核酸の分離および精製)を必要とすることなく、直接的な核酸の増幅および分析のために適切な核酸をそのサンプルから調製可能である、サンプルの輸送および調製のための独特な緩衝液を含む。
【0012】
一局面において、本発明は、病原体検出のための従来のアプローチを回避し、その従来のアプローチは、例えば、産業的RNA抽出のキットおよび技術を使用するRNA抽出工程を含み得る。その代わりに、本発明の方法を使用するサンプル検査は、直接的であり、その抽出工程を回避する。その組み合わせたサンプルが独特な緩衝液組成物中に提供された後、その後、核酸サンプルが、qPCR、rtPCR、またはNGSをベースとする下流の診断検査のために使用され得る。本発明は、標的核酸の検出のために必要とされるような、DNAまたはRNAの検出のために有用である。
【0013】
特定の局面において、本発明は、組み合わせたサンプル(これは、好ましくは、唾液および粘膜サンプルであり得る)を取得するために必要なすべての成分を備えるキットを含む。これは、患者にキットを提供することを含み得る。その対象は、そのキットの簡単に使える成分を自宅の快適な状況で使用して、サンプルを提供し得る。本明細書において開示されるこの知的所有権のある緩衝液組成物を使用して、そのサンプルは、分析のための実験室に郵送され得るように十分に保存および確保され得る。
【0014】
本発明の目的のために、その標的核酸は、ヒトゲノム配列、ヒト転写物配列、病原体配列または寄生生物配列であり得る。
【0015】
好ましい局面において、本発明の組成物および方法は、組み合わせた唾液および呼吸粘膜サンプルを使用し、同時にサンプルの調製および検査のために必要とされる工程の数を減少することによって、従来の検査および検出のアプローチを改善する。その結果、検査のために必要とされる時間が大いに減少され、より速い所要時間および結果の送達をもたらす。さらに、本発明の方法は組み合わせたサンプルを単一のアッセイを使用して検査するので、本発明は、人件費および消耗品を減少すると同時にさらにサンプルの相互混入ならびにそのサンプルから作業担当者への感染を減少する。
【0016】
一局面において、本発明は、ウイルス感染症を検出するための方法を提供する。一部の特定の方法において、そのウイルス感染症は、コロナウイルス(例えば、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(例えば、SARS-CoV-2))である。しかし、本発明の方法は他のウイルス感染症の検出のために有用であることが、留意されるべきである。
【0017】
方法は、組み合わせた唾液および呼吸粘膜サンプルを患者から取得する工程を含む。特定の局面において、その組み合わせたサンプルを取得する工程は、唾液を対象から収集すること(例えば、患者に適切な収集容器中に唾を吐かせることによる)および呼吸粘膜(鼻咽頭スワブまたは咽頭スワブによって収集される)を含む。
【0018】
好ましい方法は、その組み合わせたサンプルを、核酸増幅のために適切な生体サンプルから核酸をその核酸の初期抽出を行うことなく調製可能な発明の緩衝液組成物と混合する工程をさらに含む。換言すれば、その生体サンプルをその緩衝液と混合すると、その緩衝液内にある特定の成分は、そのサンプルに由来する核酸が、典型的な抽出(分離および精製)工程を必要とすることなく、後の核酸分析(すなわち、PCRによる増幅)のために十分に調製されることを可能にする。
【0019】
本発明の方法において使用される緩衝液組成物は、一般的には、ヌクレアーゼフリー水、抗真菌剤溶液、抗生物質溶液、リボヌクレアーゼインヒビター、還元剤溶液および/またはトリス-ホウ酸-EDTA緩衝液溶液を含む。特定の局面において、その緩衝液組成物は輸送媒体としても機能し、その中では、その組み合わせたサンプル(任意のサンプル収集スワブを含む)が、その緩衝液組成物を含む適切な収集容器内に直接配置されている。
【0020】
方法は、調製された核酸に対して1つまたは複数のPCRアッセイを実施して、ウイルス核酸を検出する工程をさらに含む。そのウイルス核酸を検出した場合、患者は、ウイルスに感染していると診断され得る。
【0021】
そのPCRアッセイを実施する工程は、ウイルス核酸特異的プライマー-プローブセットを使用することを含む。特定の局面において、そのウイルス核酸特異的プライマー-プローブセットは、そのウイルスのN遺伝子、ORF1ab遺伝子、およびE遺伝子のうちの1つまたは複数を標的とする。一部の実施形態において、そのPCRアッセイを実施する工程は、リボヌクレアーゼP(RNP)に特異的なプライマー-プローブセットを使用することを含む。本明細書において開示される抽出方法はまた、核酸の供給源に依存しないので、ヒトゲノム配列またはヒトRNA配列を検出するために有用である。
【0022】
特定の局面において、本発明の方法は、そのウイルス核酸を定量化する工程をさらに含む。例えば、その1つまたは複数のPCRアッセイを実施する工程は、定量PCR(qPCR)およびデジタルPCR(dPCR)(これには、ドロップレット(droplet)デジタルPCR(ddPCR)が挙げられ得る)の少なくとも1つを実施することを含む。その患者を、そのウイルスに感染しているかまたはそのウイルスに感染していないかのいずれかとして診断することに加えて、その方法は、そのウイルス核酸量に基づいてそのウイルス感染症の重症度を決定する工程をさらに含み得る。一部の実施形態において、方法は、連続的時点でその患者から取得された複数の生体サンプル中のウイルス核酸量を比較し、経時的なそのウイルス核酸量の増加または減少に基づいて疾患の進行を決定する工程をさらに含み得る。本発明の方法は、ウイルス核酸の同一性または量に基づいて疾患の転帰を予測する工程をさらに含み得る。本発明の方法はまた、一連の処置または診断を特徴付けるために使用され得る。例えば、結果は、適切な治療手順または臨床手順を決定するために使用され得る。
【0023】
別の局面において、本発明は、検出用の細菌のDNAおよび/またはRNAを保存するために無抽出緩衝液を使用する、細菌の検出を提供する。同じ緩衝液は、ウイルスおよび細菌の両方の保存のために有用であり、これにより、同じサンプル中またはサンプルの組合せ中のウイルス病原体および細菌病原体の検出を可能にする。したがって、一局面において、本発明は、例えば、PCRによる無抽出検査のために、生体サンプル中の細菌および/またはウイルスを安定化する方法を提供する。したがって、本発明は、ウイルスサンプルと細菌サンプルとの同時検出を可能にする。これは、ウイルス性性感染症(STI)および細菌性性感染症(STI)(例えば、Chlamydia trachomatisおよびNeisseria gonorrhea)についての「オールインワン」検査を可能にする。さらに、本明細書において開示される緩衝液はインフルエンザウイルスならびにSARSウイルスを安定化するので、単一の検査が、インフルエンザおよび、例えば、SARS-CoV-2を検出するために使用される。
【0024】
本発明はまた、核酸の無抽出分析のための方法も提供する。例示的な方法は、バイアルを提供する工程および唾液サンプルを対象からそのバイアル中に取得する工程を含む。その方法は、その対象から呼吸粘膜スワブサンプルを取得する工程をさらに含む。その方法は、その唾液サンプルおよび呼吸粘膜スワブサンプルをそのバイアル中で混合する工程を含む。好ましくは、その組み合わせたサンプルは、そのバイアル中で、保存緩衝液組成物(これは、例えば、緩衝液ヌクレアーゼフリー水と抗真菌剤と抗生物質とリボヌクレアーゼインヒビターとを含む)と混合される。したがって、方法は、標的核酸に特異的なプライマーでその緩衝液中の核酸を直接増幅する工程を含む。直接増幅は、事前核酸抽出工程を行うことなく行われる。増幅後、その方法は、その増幅する工程において生成されたアンプリコンを分析して、1種または複数種の病原体の存在を検出する工程を含む。
【0025】
特定の局面において、唾液サンプルは、唾液収集補助器具(saliva collection aid)(SCA)または漏斗を使用して、その対象から取得される。そのSCAはその緩衝液組成物を含み得、その緩衝液組成物は、そのバイアル中に放出される。例えば、そのSCAは、その緩衝液組成物を内部パウチもしくは内部区画中または蓋中に含み得、それらが、その緩衝液組成物をそのバイアル中に放出する。特定の局面において、そのSCAまたは漏斗は蓋を備える。その蓋はその緩衝液組成物を含み得、その緩衝液組成物は、その蓋が閉じられた際にそのバイアル中に放出される。特定の局面において、そのSCAまたは漏斗はそのバイアルと一体化されている。あるいは、そのSCAまたは漏斗は、唾液収集中にそのバイアルに連結する構成であり得る。特定の局面において、そのSCAまたは漏斗は、それがそのバイアルに可逆的に連結され得るような構成である。
【0026】
好ましくは、呼吸粘膜スワブサンプルが、対象の外鼻孔からスワブ採取することによって取得される。特定の局面において、その呼吸粘膜サンプルを取得するために使用されるスワブは、そのバイアルを密封するために使用されるキャップに取り付けられている。そのバイアルをそのキャップで密封することは、その唾液サンプルとそのスワブサンプルとが組み合わされるように、そのスワブをその唾液サンプル中に配置させ得る。
【0027】
本発明はまた、核酸(本明細書において開示されるウイルス核酸および/または細菌核酸が挙げられる)を定量化する方法を実施するためのキットを提供する。特定の局面において、本発明のキットは、1つまたは複数のバイアル、唾液収集補助器具および/または漏斗;緩衝液組成物(例えば、輸送(保存)緩衝液、1種または複数種の標的核酸を増幅するためのプライマー,ならびに使用指示書を備える。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本発明の独特な緩衝液組成物によって収集および処理された生体検体(唾サンプルまたはスワブサンプル)中のSARS-CoV-2に由来する核酸の定量的検出を目的とする無抽出のリアルタイムRT-qPCR検査の概略図を示す。
図2図2は、ウイルス感染症を有すると疑われる患者に由来するサンプル、およびそのウイルス感染症に関連するウイルス核酸が存在するか否かを決定するためにそのサンプルに対して1つまたは複数のアッセイを実施可能である機器へのそのサンプルのローディングを示す。
図3図3は、対にした、同じ患者から取得された唾液のみサンプルならびに組み合わせた唾液および鼻腔スワブサンプルに対して実施されたSARS-CoV-2 qPCR検出プロトコルの結果を示す。
図4図4は、本開示の方法において使用され、本発明の特定のキットにおいて提供される、選択した成分を示す。
図5図5は、組み合わせたサンプル中の標的核酸を検出するための本発明のキットの選択した成分を示す。
図6図6は、組み合わせたサンプル中の標的核酸を検出するための本発明のキットの選択した成分を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(詳細な説明)
本発明は、2つ以上の供給源から取得された組み合わせたサンプルを使用して、無抽出の直接的PCR技術によって感染性疾患の迅速な診断を可能にする、組成物、方法、およびキットを提供する。本発明はまた、病原体核酸の無抽出検査、特に、1つまたは複数の供給源に同時に由来する複数の病原体の無抽出検査を可能にする、安定化緩衝液を提供する。したがって、本発明の方法は、ウイルス検査、細菌検査、またはそれらの組合せのための方法を含む。さらに、本明細書において教示される緩衝液はSARSからインフルエンザから細菌に及ぶ範囲のサンプルを保存するので、サンプルは、その標的病原体を実質的に損失することなく輸送され得る。最後に、本発明の方法は、ある位置から別の位置へと病原体が移動する場合(例えば、鼻道から咽頭へと移動する、インフルエンザウイルスまたはSARSウイルス)の、感染症の時間経過の分析を可能にする。
【0030】
本発明の組成物、方法、およびキットは、組み合わせた生体サンプル(例えば、唾液および呼吸粘膜)を処理し、後のPCRアッセイのために利用可能なDNAを提供し、同時に初期RNA抽出工程の必要性を排除するために、使用され得る。本発明は、目的のサンプルと混合された場合に、初期核酸抽出(すなわち、核酸の分離および精製)を必要とすることなく、核酸の増幅および分析のために直接使用され得る核酸をそのサンプルから調製可能である、サンプルの輸送および調製のための独特な緩衝液組成物を含む。したがって、以前のアプローチ(これは、産業的RNA抽出のキットおよび技術を使用するRNA抽出工程を含む)とは異なり、本発明の組み合わせたサンプルの直接的検査は、その抽出工程を省略することによってこのプロセスを回避する。その代わりに、臨床サンプルがその独特な緩衝液組成物中で提供された後に、病原体は、加熱またはその緩衝液中での直接溶解のいずれかによって不活化され得る。その後、その不活化サンプルは、下流のqPCR診断検査のために使用され得る。
【0031】
結果として、本発明の組成物、方法、およびキットは、サンプルの調製および検査のために必要とされる工程の数を減少することによって、従来の病原体の検査および検出のアプローチを改善する。その結果、検査のために必要とされる時間が大いに減少され、より速い所要時間および結果の送達をもたらす。さらに、本発明は、人件費および消耗品を減少すると同時に、サンプルの相互混入ならびにそのサンプルから作業担当者への感染をさらに減少する。その効率性およびコスト節約は、本発明の方法にしたがって組み合わせたサンプルを使用することによって拡大される。組み合わせたサンプルを使用する検査は、結果を提供するために単一のアッセイしか必要としない。さらに、それらの検査は既存の検査と比較して感度が高く正確であるので、それらの検査は、曖昧な結果または誤った結果に起因する追跡検査を提供する必要性を減少する。
【0032】
本明細書において記載される方法は、種々の伝染病(微生物性およびウイルス性が挙げられる)を診断するために使用され得ることが、留意されるべきである。しかし、説明および例を簡単および容易にするために、以下は、無抽出の直接的PCRアプローチによりSARS-CoV-2を診断するための方法を記載する。
【0033】
SARS-CoV-2は、重篤な症状および死亡の患者が増加中である呼吸器疾患(コロナウイルス感染症2019(COVID-19)と呼ばれる)の大流行の原因として最近同定されたウイルスである。典型的には、ほとんどの呼吸器ウイルスに関して、人々は、その症状が最も大きい時に、最も伝染性が高いと考えられる。しかし、SARS-CoV-2に関して、感染した個体からの無症状性蔓延の報告が存在している。感染症の経過初期に上気道サンプルが最高濃度のウイルス粒子を有し、これは症状の発現後に減少すると、分析により示されたので、SARS-CoV-2検査の有効性はさらに複雑である。対照的に、下気道サンプルは、この疾患の経過において、より後期により高いウイルス負荷を有する。したがって、SARS-CoV-2の存在をモニターするため、およびその蔓延を防止するために、可能な限り早期かつ迅速に感染症を検出することが重要である。
【0034】
本発明の方法は、PCRアッセイに依存する従来のウイルス検出方法では典型的には必要とされるサンプル調製中の工程の数を減少することによって、ウイルス感染症(すなわち、患者中のそのウイルスの存在)の迅速な検出を提供する。さらに、組み合わせたサンプルを使用することによって、検査は、感染症の経過中の種々の時点で高濃度のウイルス粒子を保有する位置から取得されたサンプルに対して同時に実施され得る。
【0035】
一般に、そのワークフローは、組み合わせた生体サンプルを、感染していると疑われる個体から取得する工程を含む。そのサンプル収集の方法、ならびに収集されるサンプルの型は、検査される特定のウイルス疾患に依存し得る。例えば、本発明において使用される組み合わせたサンプルは、1種または複数種の体液を含み得、臨床的に許容可能な任意の様式で収集され得る。その体液サンプルは、ウイルス疾患の徴候もしくは症状を示す患者、またはその疾患について検査で陽性であった他者との交流が原因でそのウイルス疾患に罹患したと疑われる患者のいずれかから、一般的には収集される。
【0036】
体液は、例えば、ヒトまたは他の哺乳動物に由来する、液体物質であり得る。そのような体液としては、粘液、血液、血漿、血清、血清由来物質、胆汁、血液、母体血、痰、唾液、喀痰、汗、羊水、月経液、乳腺液、卵胞液、卵管液、腹水、尿、精液、および脳脊髄液(CSF)(例えば、腰椎CSまたは脳室CS)が挙げられるが、それらに限定はされない。組み合わせたサンプルはまた、細胞または生体物質を含む、媒体を含み得る。組み合わせたサンプルはまた、血餅(例えば、血清が除去された後に全血から取得された血餅)を含み得る。特定の局面において、その組み合わせたサンプルは、対象から収集された、唾液、呼吸粘膜、血液、または精液のうちの2種以上を含む。
【0037】
SARS-CoV-2について、組み合わせたサンプルは、鼻咽頭スワブもしくは咽頭スワブによって収集されたサンプルと組み合わされた唾液を一般的には含む。次に、その組み合わせたサンプルは後の分析のために調製される。その組み合わせたサンプルの調製は、上記サンプルを、核酸増幅のために適した核酸をその核酸の初期抽出を行うことなくその生体サンプルから調製可能な緩衝液組成物と混合する工程を含む。特定の局面において、唾液サンプルが収集され、スワブが、サンプル調製のためにそのサンプル中に配置される。そのスワブは、そのサンプルを抽出しそれをその組み合わせたサンプルの別の部分(例えば、唾液)と混合するために、圧搾または撹拌され得る。
【0038】
上記のとおり、現在のウイルス検査アプローチは、そのウイルス検査プロトコルの一部として、臨床サンプルから核酸を分離および精製する初期工程に依存する。例えば、目的のRNAの相対的定量化のためのqPCRの適用の前には、(1)そのサンプルからの全RNAの分離および精製;(2)その物質の溶出および可能な濃縮;ならびに(3)相補的DNA(cDNA)を生じる逆転写(RT)反応における精製RNAの使用(その後、この相補的DNA(cDNA)がこのqPCR反応のために利用される)が先行する。現在の方法においてPCRを受ける前に必要とされるこの初期の核酸の分離および精製の工程(すなわち、抽出工程)は、この診断プロセスにおける主要な障害を構成する。その理由は、これが、手作業で面倒でありかつ高価なままであり、偶発的な混入および人為的誤りの機会をさらに増加するからである。
【0039】
本発明は、組み合わせたサンプルを処理し、後のPCRアッセイのために利用可能なDNAを提供し、同時に初期RNA抽出工程の必要性を排除するための、組成物を提供する。例えば、独特な緩衝液組成物が、生体サンプルと混合された場合に、初期核酸抽出(すなわち、核酸の分離および精製)を必要とすることなく、核酸の増幅および分析のために直接使用され得る核酸をそのサンプルから調製可能であるように、その独特な緩衝液組成物はサンプル調製のために使用される。
【0040】
分析のためには不十分な量の核酸しか存在しない場合、その量を増加するために使用される一般的な技術は、その核酸を増幅することを含む。増幅とは、核酸配列の追加コピーの生成を指し、ポリメラーゼ連鎖反応または当該分野において周知の他の技術を使用して一般的には実行される(例えば、Dieffenbach、PCR Primer、a Laboratory Manual、1995、Cold Spring Harbor Press、Plainview、NY)。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)とは、クローニングも精製も行うことなくゲノムDNA混合物中の標的配列のセグメントの濃度を増加するためのK.B.Mullisによる方法(参照により本明細書に援用される、米国特許第4,683,195号および同第4,683,202号)を指す。プライマーは、種々の方法によって調製され得、その方法としては、当該分野において周知の方法を使用する適切な配列のクローニングおよび直接的化学合成(Narangら、Methods Enzymol.、68:90(1979);Brownら、Methods Enzymol.、68:109(1979))が挙げられるが、それらに限定はされない。プライマーはまた、商業的供給源(例えば、Operon Technologies、Amersham Pharmacia Biotech、Sigma、およびLife Technologies)から入手され得る。増幅用もしくは配列決定用のアダプターもしくはバーコード、またはそれらの組合せが、フラグメント化された核酸に結合される。そのような分子は、例えば、Integrated DNA Technologies(Coralville、IA)から商業的に入手され得る。特定の実施形態において、そのような配列は、酵素(例えば、リガーゼ)を用いてテンプレート核酸分子に結合される。適切なリガーゼとしては、T4 DNAリガーゼおよびT4 RNAリガーゼ(New England Biolabs(Ipswich、MA)から商業的に入手可能)が挙げられる。その連結は、平滑末端であってもよく、または相補的な突出末端の使用によってもよい。
【0041】
例えば、DNAは、生体サンプル内の目的のウイルス(存在する場合)と関連するウイルスDNAから逆転写によって合成されて、それにより相補的DNA(cDNA)を生成し得る。一般的に理解されるとおり、逆転写酵素(RT)は、RNAテンプレートと、そのRNAの3’末端と相補的な短いプライマーとを使用して第一鎖cDNAの合成を指令し、その第一鎖cDNAが(PCRによる)増幅のためのテンプレートとして直接使用され得る。この逆転写とPCRとの組合せ(RT-PCR)は、サンプル中の低存在量のRNAの検出、および対応するcDNAの生成を可能にし、それにより低コピー遺伝子のクローニングを容易にする。あるいは、その第一鎖cDNAは、DNAポリメラーゼIおよびDNAリガーゼを使用して二本鎖にされ得る。多くのRTは、商業的供給業者から入手可能である。操作されたRTの使用は、全長生成物形成の効率を改善し、そのmRNA転写物の5’末端のコピー形成が完全であること確実にし、RNA配列の忠実なDNAのコピーの増幅および特徴付けを可能にする。反応がより高温で実施される、より熱安定性が高いRTの使用は、大量の二次構造を含むRNAを処理する場合に非常に有用であり得る。
【0042】
デジタルポリメラーゼ連鎖反応(dPCR)は、核酸鎖(DNA、cDNA、またはRNAが挙げられる)を直接的に定量化およびクローン増幅するために使用され得る従来のポリメラーゼ連鎖反応方法の改良法である。dPCRにおいて、サンプルが多数の区画へと分離され、反応が各区画中で個別に実行され、それにより、標準的PCR技術において見出されるようなサンプル全体についての単一の値とは対照的に、各区画における蛍光分析による標的DNAの感度の高い定量化を可能にする。
【0043】
ドロップレット(droplet)デジタルPCR(ddPCR)は、上記の区画がナノリットルサイズの水-油エマルジョン液滴(droplet)からなるdPCRの方法であり、その区画において、PCR反応および蛍光検出が、例えば、液滴(droplet)フローサイトメトリーを使用して実施され得る。ddPCRのための液滴(droplet)を生成し読み取るための方法は、他の場所において詳細に記載されている(Zhongら、「Multiplex digital PCR:breaking the one target per color barrier of quantitative PCR」、Lab Chip、11:2167~2174、2011を参照のこと)が、本質的に、各液滴(droplet)は別個の反応ウェルのようであり、熱サイクリング後に、各個の液滴(droplet)の蛍光強度が、ピーク蛍光強度を記録したフローサイトメトリーなどのフォロースルー(flow-through)機器において読み取られた。
【0044】
本発明の組成物および方法は、任意のウイルスに特異的な核酸を検出するために使用され得るが、好ましい実施形態において、SARS-CoV-2がその検出標的である。SARS-CoV-2の検出のための例示的なプライマーおよびプローブが、Chinese CDC(N遺伝子およびORF1ab遺伝子を標的とする)ならびにWHO(E遺伝子を標的とする)によって開示されており、Tao Sら、2020およびDong Iら、2020において提供されている。組み合わせた唾液および鼻咽頭サンプルのddPCRを使用するCOVID-19感染症の検出のための本発明の組成物および方法は、本明細書において議論されているのと同じプライマーおよびプローブを使用することを企図する。さらに、一部の実施形態において、その1つまたは複数のPCRアッセイを実施する工程は、リボヌクレアーゼP(RNP)に特異的なプライマー-プローブセットを使用することを含む。
【0045】
そのウイルスに感染していると個体を診断する工程に加えて、発明の方法は、その組み合わせたサンプル中のそのウイルス核酸量に基づいて、そのウイルス感染症の重症度を決定する工程をさらに含み得る。例えば、本発明の方法は、ウイルス負荷を評価するために有用であり、そのウイルス負荷は、疾患の重症度および/または進行と直接的に相関関係があり得る。一部の実施形態において、方法は、連続的時点で患者から取得された複数の組み合わせた生体サンプル中のウイルス核酸量を比較し、経時的なそのウイルス核酸量の増加または減少に基づいて疾患の進行を決定する工程をさらに含み得る。本発明の方法はまた、そのウイルス核酸量に基づいて疾患の転帰および/または重症度を予測するために使用され得る。その疾患の転帰は、挿管、ICU入室、退院、挿管までの期間、退院までの期間、および死亡のうちの1つまたは複数から選択される。
【0046】
図1は、本発明の独特な緩衝液組成物によって収集および処理された組み合わせた生体検体(唾サンプルまたはスワブサンプル)中のSARS-CoV-2に由来する核酸の定量的検出を目的とする無抽出のリアルタイムRT-qPCR検査の概略図を示す。特定の局面において、唾液を収集するために、患者は許容可能な容器に単に唾を吐く。鼻咽頭スワブが呼吸粘膜の収集のために使用され、その後、その唾液を含むその容器内に配置される。そのスワブは、その粘膜サンプルを抽出しそれをその唾液と混合するために、圧搾または撹拌され得る。その容器が本発明の独特な緩衝液組成物を含み得るか、またはその本発明の独特な緩衝液組成物はその組み合わせたサンプルの後に添加され得る。特定の局面において、その緩衝液組成物は、サンプル調製および/または輸送媒体のために使用され得る。
【0047】
その組み合わせたサンプルを収集し、その組み合わせたサンプルにその独特な緩衝液組成物を供給した後に、ウイルス粒子は、加熱またはその緩衝液中での直接溶解のいずれかによって不活化され得る。その後、その不活化サンプルは、従来のアプローチが依存する追加的RNA抽出工程(分離および精製)を必要とすることなく、下流のqPCR診断検査のために使用され得る。
【0048】
それどころかむしろ、調製されたサンプルは、RTによるcDNA合成およびqPCRによる検出が行われ得る、PCRプレート(96ウェル/384ウェル)フォーマットに移され得る。したがって、産業的RNA抽出キットを使用するRNA抽出工程を含む広く使用されているアプローチとは異なり、直接的サンプル検査は、抽出を省略することによってこのプロセスを回避する。
【0049】
図4は、本発明の方法において使用される特定の構成要素を示す。特定の局面において、それらの構成要素のうちの1つまたは複数が、診断キットの一部として、使用指示書とともに提供され得る。示されるとおり、本発明の方法およびキットは、バイアル403を含み得る。特定の局面において、そのバイアルは、緩衝液組成物405を備えている。その緩衝液組成物は、例えば、本明細書において開示されるウイルス輸送緩衝液である。本発明の特定のキットおよび方法において、バイアル403は、緩衝液組成物405を予め充填されている。あるいは、その緩衝液組成物は、サンプル収集の前または後にそのバイアルに添加される。
【0050】
好ましくは、そのバイアルは、それが唾液サンプル、スワブサンプル、およびいくらかの緩衝液組成物を収容し得るように、少なくとも1.5mLである。例えば、サンプルは、遠心チューブ(例えば、スクリューキャップクライオバイアル)中に収集され得る。例示的なバイアルはバーコード407を備え、そのバーコードは、個々のバイアルおよび/または収集されたサンプルを追跡するために使用され得る。本明細書に開示される発明と組み合わせて有用であるバイアルとしては、ポリプロピレンクライオバイアル(例えば、NEST Scientific USA(NJ、USA)の1.9mL 2D Barcodedクライオバイアル)が挙げられる。
【0051】
特定の局面において、そのバイアルは、キャップ、蓋、漏斗、および/もしくは唾液収集補助器具を固定するための、ネジ山407または他の手段を備える。特定の局面において、ネジ山407または他の固定手段が、輸送および/または保管のためにサンプルを密封するために、キャップ409をそのバイアルに固定するために使用され得る。特定の局面において、そのキャップ409は、区画またはパウチ411を備える。そのキャップ409をそのバイアルに固定すると、その区画は穿孔または別の方法で緩衝液組成物をその区画またはパウチ411の内側からそのバイアル403の中へと放出する。
【0052】
特定の局面において、本発明の方法およびキットは、唾液サンプルを対象から収集するための手段を備える。一部の方法およびキットにおいて、その対象は、提供された滅菌バイアル403中にただ唾を吐く。あるいは、唾液収集補助器具(saliva collection aid)(SCA)413または漏斗415が、唾液収集を容易にするために提供される。例示的な唾液収集補助器具としては、例えば、Salimetrics,LLC(Carlsbad、CA)によって製造された唾液収集補助器具が挙げられる。例示的な漏斗としては、NEST Scientific USAのUSP VIポリプロピレン漏斗が挙げられる。唾液収集補助器具413または漏斗415は、唾液収集中にそのSCA/漏斗をそのバイアルに連結するための手段(例えば、ネジ山417)を備え得る。あるいは、その漏斗またはSCAは、そのバイアルと一体化されて単一ユニットを形成する。
【0053】
好ましくは、診断キットとして提供された場合、そのSCA/漏斗はそのバイアルに予め取り付けられている。そのSCA/漏斗は、組み合わせたサンプルを密封するための手段(例えば、蓋またはキャップ)を備え得る。あるいは、そのSCA/漏斗は、例えば、ネジ山およびネジ取付け手段によって、取り外され得る。いったん取り外されると、そのSCA/漏斗は、その組み合わせたサンプルをそのバイアル中に密封するためにキャップまたは蓋によって置き換えられ得る。
【0054】
SCA413または漏斗415は、本明細書において開示される緩衝液組成物(例えば、ウイルス輸送緩衝液)を含む、パウチまたは区画を備え得る。そのパウチまたは区画は、唾液収集中にその緩衝液を放出し得る。例えば、そのパウチまたは区画は、OME-505収集キット(DNA Genetek,Inc.、Ottawa、Canada)において用いられるものなどの、漏斗/SCA用の蓋またはキャップ内に一体化され得る。その蓋またはキャップを閉じると、区画は穿孔され、それによりその緩衝液を、唾液サンプルを含むそのバイアル中に放出する。
【0055】
本発明の方法およびキットはまた、呼吸粘膜サンプルを収集するためのスワブを含むかまたはそのスワブを使用する。特定の局面において、そのスワブ419はハンドル421を備え、そのハンドルは、サンプルが対象から取得されている間、持たれる。そのハンドル421は、ブレイクポイントを備え得る。そのサンプルが取得された後、そのハンドルはそのブレイクポイントで折られ、これにより、そのハンドルの長さを短くする。したがって、短くなったハンドルを備えるスワブ423は、そのバイアル403内に適合するのに十分に短い。示されるとおり、そのバイアル中の唾液および/または緩衝液のレベル425は、そのスワブを覆うのに十分である。しかし、その唾液/緩衝液のレベル425は、そのスワブを覆う必要はない。むしろ、その唾液/緩衝液が、スワブおよび唾液サンプルがそのバイアル中で混合され得る程度に十分な量であることだけが、必要である。
【0056】
あるいは、またはさらに、そのスワブ421はキャップ427に連結される。そのキャップ427は、輸送、保管、および/または処理のためにそのサンプルを密封するために、サンプル収集後にそのバイアル403に連結され得る。示されるとおり、そのキャップ427がそのバイアル403に固定された場合、そのスワブはそのバイアル中の唾液/緩衝液内に位置する。
【0057】
好ましい局面において、その緩衝液組成物は、予め充填されたバイアル中にか、またはそのキットの別の構成要素(例えば、本明細書において記載されるキャップ)の一部として、提供される。予め測定した体積のその緩衝液を、対象によってそのサンプルに容易に添加され得る様式で提供することによって、本発明の例示的なキットは、対象が自宅でサンプルを提供することを可能にする。予め測定した本発明の新規なウイルス輸送緩衝液組成物をその組み合わせたサンプルに添加することによって、その対象は、そのサンプルを自宅または他の任意の好都合な場所で提供し得、そのサンプルを分析のために実験室に郵便により送付し得る。
【0058】
図5は、サンプル中の標的核酸(例えば、ウイルス感染症の指標である標的核酸)を検出するために使用される本発明のキットの選択した構成要素の詳細を示す。そのキットは指示書を備え、その指示書は、組み合わせたサンプルを取得するために必要な工程を含む。その指示書は、バイアル503が唾液収集ツール(例えば、唾液収集補助器具505)と一緒に対象に提供されることを、概説する。示されるとおり、本発明の特定のキットにおいて、そのバイアル503は、本明細書において記載されるウイルス輸送緩衝液509が予め充填される。
【0059】
その例示的なキットにおいて、その対象は、提供された唾液収集補助器具505を使用して、唾液サンプルをそのバイアルに供給する。示されるとおり、その唾液収集補助器具505は、サンプル収集を容易にするためにバイアル503の開口部中に固定的に適合する形状である。
【0060】
そのキットはまたスワブ511も備え、そのスワブは、対象の外鼻孔からスワブ採取するために使用される。そのスワブのハンドルはブレイクポイント513を備える。サンプルを取得するためにそのスワブが使用された後、そのハンドルはそのブレイクポイントで折られる。その短くなったスワブは、その唾液サンプルおよび緩衝液を含むそのバイアル中に配置される。その後、そのバイアルは、保管または輸送のためにキャップで密封される。特定の局面において、そのキットは、その組み合わせたサンプルを対象が分析のために実験室に郵送するための物質を備える。
【0061】
特定の局面において、そのキットは1種または複数種のプライマーを備え、そのうちの少なくとも1種は、そのサンプル中の標的核酸の増幅および/または検出のために使用される。
【0062】
図6は、サンプル中の標的核酸(例えば、ウイルス感染症の指標である標的核酸)を検出するために使用される本発明のキットの選択した構成要素の詳細を示す。そのキットは指示書を備え、その指示書は、組み合わせたサンプルを取得するために必要な工程を含む。その指示書は、バイアル603が対象に提供されることを、概説する。そのキットは、そのバイアル603に固定的に連結され得る唾液収集補助器具605を伴う。好ましくは、そのキットは、そのバイアル603に予め連結された唾液収集補助器具605を伴う。その唾液収集補助器具605はキャップ607を備える。唾液サンプルがそのバイアル中に供給された場合、そのキャップ607がその唾液収集補助器具605の上で閉じられる。そのキャップ607を閉じると、キャップ中の区画が破裂してウイルス輸送緩衝液をそのバイアル603(これは、その唾液サンプルを含む)中に流す。
【0063】
そのキットはまたスワブ609を備え、このスワブはその対象の外鼻孔からスワブ採取するために使用される。示されるとおり、そのスワブは密封キャップ611に固定されている。そのスワブサンプルが取得された場合、スワブ609はそのバイアル中に配置され、そのキャップが、ネジ山を使用してバイアル603に固定される。密封キャップ611をバイアル603に固定することにより、そのスワブサンプルは、そのバイアル中に含まれる唾液および緩衝液の内部に位置する。
【0064】
図2は、ウイルス感染症を有すると疑われる患者から収集された組み合わせたサンプル102(例えば、唾液および呼吸粘膜)、およびそのウイルス感染症に関連するウイルス核酸が存在するか否かを決定するためにそのサンプルに対して1つまたは複数のアッセイを実施可能である機器200へのそのサンプルのローディングを示す。本明細書においてより詳細に記載されるとおり、ウイルス感染症を有すると疑われる(あるいはそのウイルス感染症を有するかまたはそのウイルス感染症を有すると疑われる1人もしくは複数人の患者と、密接に接触した)患者から取得(作業12)された組み合わせたサンプル102(唾液および呼吸粘膜)は、適切な容器104内に含まれ得る。
【0065】
例えば、組み合わせたサンプルは、それ自体の容器(例えば、遠心チューブ、例えば、スクリューキャップクライオバイアル)中に収集され保管され得る。好ましくは、1.9mlのスクリューキャップ付きクライオバイアルが、使用される。漏斗または唾液収集補助器具が、唾液収集を容易にするために使用され、近位ブレイクポイントを備える鼻腔スワブが使用され、これは、このスワブが使用後にこのチューブ中に挿入されることを可能にする。唾液および鼻腔スワブの両方のために同じチューブを使用することの利点は、例えば、デキャッパーを使用する、下流のサンプル受入れ自動化を容易にすることである。このスクリューキャップは、混入を防止するために重要である。クライオバイアルの標準的サイズは、追加的なサンプル移動を行うことなく直接的サンプル保管を可能にする。
【0066】
図2は、PCRプレート106への組み合わせたサンプル102のローディングをさらに示し、このPCRプレートにおいてサンプル調製(独特な緩衝液および/またはPCRミックスへのこのサンプルの導入)が行われ得、その時点で、その後、このプレート106は、サンプル102に対して1つまたは複数のPCRアッセイを実施可能な機器200に導入されて、そのウイルスに関連するウイルス核酸が存在するか否かを決定し得る。詳細には、この機器200は、方法の事前工程(ウイルスRNAの検出、cDNAを生成するためのRNAの逆転写、cDNAの増幅(作業16)、増幅工程からのデータの分析(作業18)、およびそのウイルス評価に関連する情報を提供するレポート300の作成(作業20)が挙げられるが、それらには限定されない)のうちのいずれか1つを提供する構成であり得る。
【0067】
したがって、その機器200は、概して、その標的核酸もしくは生じるフラグメントを検出、配列決定、および/または計数するための構成である。この場合、複数のフラグメントが存在するかまたは予期される場合、そのフラグメントは、例えば、qPCRによって定量化され得る。得られるレポート300は、そのアッセイに関連する特定のデータ(例えば、患者データ(すなわち、背景情報、属性および特徴、病歴、追跡情報など)、検査データ(そのサンプルが検査でそのウイルスについて陽性であったかまたは陰性であったか、陽性であった場合は、さらなる評価指標(疾患の進行および予測される疾患の転帰が挙げられる))が挙げられる)を含み得る。
【実施例
【0068】
(唾液および鼻腔スワブの実施例)
以下の実施例は、本発明の方法にしたがうウイルス核酸の検出のための例示的なプロトコルを提供する。対象の少なくとも2つの位置に由来するサンプルを含む、組み合わせた生体サンプル(例えば、組み合わせた唾液および呼吸粘膜サンプル)が取得される。以下の実施例は組み合わせた唾液および呼吸粘膜サンプルを強調するが、他の組み合わせたサンプルが本発明の範囲内に含まれる。
【0069】
例えば、本明細書において使用される組み合わせたサンプルは、1種または複数種の異なる体液の組合わせを含み得る。例示的な体液としては、粘液、血液、血漿、呼吸粘膜、血清、血清由来物質、胆汁、血液、母体血、痰、唾液、喀痰、汗、羊水、月経液、乳腺液、卵胞液、卵管液、腹水、尿、精液、および脳脊髄液(CSF)(例えば、腰椎CSまたは脳室CS)が挙げられるが、それらに限定はされない。組み合わせたサンプルはまた、細胞または生体物質を含む、媒体であるサンプルを含み得る。組み合わせたサンプルはまた、血餅(例えば、血清が除去された後に全血から取得された血餅)を含み得る。
【0070】
さらに、以下の実施例において示されるとおり、その組み合わせたサンプルの一部は、種々の技術を使用して(例えば、スワブの使用および/または直接的体液収集によって)取得され得る。多くの呼吸器感染症について、生体サンプルは、鼻腔スワブもしくは咽頭スワブによって一般的には収集され、または一部の場合には唾液である。他の例において、そのサンプルとしては、空気中で取得されたエアロゾルサンプルもしくは液滴、またはより好ましくは咳もしくはくしゃみによる液滴の排出により取得された液滴が挙げられ得る。
【0071】
(実施例1)
(オンサイト(on-site)での組み合わせた唾液および鼻腔スワブ(外鼻孔)サンプルの収集)
唾液サンプルを、例えば、提供した滅菌容器中に個体に唾を吐かせることによって、それらの個体から収集する。唾液収集デバイスとしては、例えば、10桁の一次元バーコードが側面に予め印刷され、DATAMATRIX二次元コードが底面にレーザーエッチングされた、スクリューキャップ(おねじ型)付きNest 1.9ml低温貯蔵バイアル(または「Nestチューブ」)が挙げられ、それを唾液サンプルの容器として使用する。唾液収集支援漏斗(Nest)を、そのNestバイアルと直列に使用し得る。
【0072】
鼻腔スワブ収集デバイスとしては、例えば、Nestにより供給される、患者の外鼻孔からスワブ採取するために使用する口腔/鼻孔スワブが挙げられる。呼吸粘膜サンプルが付いたスワブを、その患者の唾液サンプルを含むNestチューブの内側に、そのスワブのヘッドが下を向く状態で配置する。そのスワブのヘッドを撹拌または圧搾して、そのサンプルをそのスワブから遊離させ得、かつ/またはその唾液サンプルをそのスワブのサンプルと組み合わせ得る。
【0073】
鼻腔スワブ(外鼻孔)は、その収集場所を監督する機関によって指定された熟練の医療従事者の監督下で収集すべきである。その収集を監督する医療従事者は、アルコールベースの消毒剤または無香料石鹸と水とで手を清浄にし、適切なPPE(ガウン、手袋、フェイスマスク、および/またはフェイスシールド)を着るべきである。収集の前に、患者に指示書(例えば、FDAによって推奨されるこの指示書(https://tinyurl.com/nasalswabl-2))を提示する。その医療従事者は、すべての患者情報(名前、生年月日、および状態報告規則により必要とされる追加情報を含む)が収集前に適切に記入されていることを確実にする。その後、その医療従事者は、患者に、研究同意書を吟味して(Ovationによって提供される)研究への参加または不参加を決定するように依頼する。最後に、その医療従事者は、予め印刷されたバーコード表示をスキャンして、それを、すでに収集された患者情報に紐付け、その後、その患者により使用されるNestチューブにその表示を配置する。
【0074】
その医療従事者はそのNestチューブのキャップを外し、患者自身の外鼻孔から10回スワブ採取するよう患者に指示し、そのチューブの内部でそのスワブの近位ブレイクポイントを折る。その医療従事者はそのNestチューブのキャップを元に戻し、そのキャップをしっかり締めることを確実に行う。この収集プロセス中にいくらかサンプルがこぼれた場合は、その医療従事者はアルコールワイプまたは同等物を使用してそのチューブの外側を拭いて、混入を防ぐ。その後、そのサンプルを、実験室へ輸送する前に室温下で個別のバッグに配置する。
【0075】
そのスワブサンプル収集を監督する医療従事者は、各患者のサンプルを取り扱った後は、アルコールベースの手用消毒剤を使用すべきである。
【0076】
(実験室における組み合わせたサンプルの受領および受入れ)
その組み合わせたサンプルを実験室に輸送する。サンプルをバッグから取り出し、なんらかの漏出または損傷が無いかについての受領受付にいる受入れ監督者が視覚的に調べる。その監督者による事前スクリーニング段階を合格したサンプルを、受入れチームが使用する机上に移動する。その事前スクリーニング段階を合格しなかったサンプルは、さらなる調査のために取って置く。受入れ担当者は、そのNestチューブのバーコードをスキャンし、実験室情報管理システム(LIMS)によってコンピュータスクリーンに示される患者情報および同意ステータスを調べる。LIMSにおいて完全な患者情報を備え漏出が全くないチューブ(すなわち、適格なサンプル)を、バーコード付き48フォーマットラックに配置する。そのラック中のサンプルの位置は、LIMSにおいて割り当てられた位置と一致するべきである。不適格なサンプルは別のバーコード付き48フォーマットラックに配置し、受入れ監督者によるさらなる調査のために取って置く。その後、サンプル調製チームの臨床検査技師(MLS)がそのサンプルを取り出すまで、サンプルのラックを60rpmにて保持位置でプラットフォームロッカーに配置し得る。
【0077】
(反応緩衝液)
サンプル調製の一部として、組み合わせたサンプルを、その組み合わせた唾液および呼吸粘膜サンプルのために特別に調製した独特な緩衝液組成物(本明細書において、組み合わせた唾液/粘膜調製緩衝液と呼ぶ)と混合する。この唾液/粘膜調製緩衝液の調製は、少なくとも以下の装置の使用を含む:安全キャビネットまたはクリーンベンチ(無菌環境を維持可能な作業領域);滅菌済みの個別包装ピペット、ピペットチップ(例えば、10mLおよび25mL);ピペット・エイド;ピペッター(1mLまたは200μL)および対応するチップ;ならびに50mlの滅菌済みでヌクレアーゼフリーのFalconチューブ。例示的な唾液/粘膜調製緩衝液は、以下の試薬/成分を含む:
・0.5M Bond-Breaker TCEP溶液、(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩、中性pH)、滅菌済み、DNaseフリー・RNaseフリー・プロテアーゼフリーグレード、ThermoFisher Scientific、カタログ番号77720、5mL;
・RNaseインヒビター、ヒト胎盤、40,000単位/ml、滅菌済み、DNaseフリー・RNaseフリーグレード、New England Biolabs、カタログ番号M0307L、10,000単位、250μl/チューブ;
・アムホテリシンB溶液、脱イオン水中250μg/ml、滅菌済み、Sigma-Aldrich、カタログ番号A2942、100ml(または真菌の混入および増殖を防止するために適切な濃度の類似の抗真菌剤);
・ペニシリン-ストレプトマイシン溶液、100×、ペニシリン(10,000IU)とストレプトマイシン(10,000μg/ml)との100倍作業濃度の混合物、滅菌済み、Corning、カタログ番号30-002-CI(または細菌の混入および増殖を防止するために適切な濃度の類似の抗生物質);
・ヌクレアーゼフリー水、滅菌済み、Millipore/Sigma、W4502、DNaseフリー・RNaseフリー・プロテアーゼフリーグレード;ならびに
・消毒薬(例えば、70%エタノール)。
【0078】
その唾液/粘膜調製緩衝液の調製は、標準的な生物学および/または臨床上の実験室の実務および手順にしたがい、安全キャビネットまたはクリーンベンチにおいて実施する。
【0079】
それらの成分の調製は、少なくとも以下の工程を含む:適切な消毒薬で作業面を清浄にする;作業面に配置する前に試薬瓶を消毒する;滅菌済みの50mL Falconチューブにヌクレアーゼフリー水を40mL分注し、室温にて保管する;(滅菌済みの5mlコーニングチューブに)4ml/チューブのアムホテリシンBを分注し、-20℃にて保管する;(滅菌済みのEppendorfチューブに)1ml/チューブのペニシリン/ストレプトマイシンを分注し、-20℃にて保管する;実験室が管理するノートにロットの情報および調製を記録する。
【0080】
その唾液/粘膜調製緩衝液の調製は、少なくとも以下の工程を含む:
1.適切な消毒薬で作業面を清浄にする;
2.作業面に置く前に試薬瓶を消毒する(RNaseインヒビター以外を分注する)
3.例えば、(1000回の検査用に)5mLの緩衝液を調製するために、
3.1.滅菌済みの15mLファルコンチューブに4.3mLのヌクレアーゼフリー水を添加する;
3.2. 400μLのTCEPを添加する;
3.3.滅菌済みのピペットを使用して、50μlのRNaseインヒビターを添加する;
3.4.チューブ1本分のアムホテリシンおよびチューブ1本分のペニシリン/ストレプトマイシンを融解し、滅菌済みのピペットを使用して、200μLのアムホテリシンおよび50μLのペニシリン/ストレプトマイシンをその15mLファルコンチューブに無菌的に添加する;
4.実験室が管理するノートにロットの情報および調製を記録する;
5.実験室の適切なID(例えば、ロット番号)を割り当てる;
6.そのチューブのキャップをしっかり閉め、チューブを反転することによって完全に混合する;
7.品質管理(QC)サンプル用に100μlの媒体を抜き出す;
8.その瓶に
唾液/粘膜反応緩衝液
実験室ID:(実験室の適切なID(例えば、Summit緩衝液1としてSTB1)を挿入する)
DOM:(現在の製造日を挿入する)
有効期限:(製造日から1か月後の日付を挿入する)
2℃~8℃にて保管する
と表示を付ける;
9. 2℃~8℃にて保管し、FAST検査を実施する際に各検査につき5μlを30μLの組み合わせた唾液および呼吸粘膜サンプルならびに5μLのプロテイナーゼKと一緒に添加する;
10.無菌性確認を実施する。
【0081】
(実施例2)
(組み合わせた唾液/粘膜サンプルの調製)
サンプル調製チームの臨床検査技師(MLS)は、ロッカーにある受入れたサンプルのラックを取り出し、検査のためにそれらを調製するためにそのラックをサンプル調製室に持って来る。MLSは、10μL/ウェルのサンプル調製ミックス(SPM)を含む、調製済みの96ウェルサンプル調製プレート(SPP)を持って来る。このSPMは、唾液/粘膜調製緩衝液およびプロテアーゼ(プロテイナーゼK)を含む。具体的には、この96ウェルSPPは、マルチチャンネルイコライザーまたはViaflow(Integra)を使用して各ウェルに分配された、1ウェル当たり10μLのSPM(5μL唾液/粘膜調製緩衝液および5μLプロテイナーゼK(Promega))を含む。組み合わせたサンプルのキャップを、安全キャビネットの内部で半自動化6チャンネルデキャッパー(Brooks)または自動化48フォーマットデキャッパー(Brooks)を用いて開ける。この6チャンネルデキャッパーを使用する場合には、そのキャップキャリアラックにキャップを一時的に置く。E1-ClipTip電子マルチチャンネル(8チャンネル)イコライザーを使用し上手にピペッティングして、約30μLのその組合せを、その48ウェルラックのチューブから、10μLのSPMを含む96ウェルSPPに移す。48ウェルラック2個分のサンプルが、1個分の96ウェルSPPを満たす。サンプルに再びキャップを閉める(6チャンネルデキャッパーを使用する場合は一度に6個、または自動化48フォーマットデキャッパーを使用する場合は一度に48個)。デジタルマイクロプレートシェーカーに500RPMにて1分間そのプレートを配置することによって、その組み合わせた唾液/粘膜サンプルとSPMとを十分に混合する。そのプレートをminiAmp 96ウェルPCR機器に95℃にて5分間置き、4℃にて保持する。その後、サンプルのラック全体を一時的サンプル保管領域に運ぶ。反復検査を必要とするサンプルはどれでも、この一時的サンプル保管領域から特定する。反復検査は1回だけ可能である。失敗した場合は、新たなサンプルを要求する。余ったサンプルは、将来の使用のために-80℃にて保管する。
【0082】
(PCR試薬の調製およびプレートの構成(組み合わせた唾液/粘膜サンプル))
PCRマスターミックスを含むプレート(本明細書においてPCRマスターミックスプレート(PMMP)と呼ぶ)は、マルチチャンネルイコライザーまたはViaflow(Integra)を使用して96ウェルプレートまたは384ウェルプレートの各ウェルに分配された、12.5μLのPCRマスターミックスを含む。このPCRマスターミックスは、10μLのLuna Universal Probe One-Step Reaction Mix、1μLのLuna Warmstart RT酵素ミックス、および1.5μLのNl/RNPプライマー/プローブセットから構成される。この1.5μLのNl/RNPプライマー/プローブは、50.25μLの各100μMのプライマーおよびプローブストックを524μLのIDTE緩衝液(pH7.5)に添加することによって、N1プライマーの6.7μM作業ストックおよびRNPプライマーの6.7μM作業ストック、ならびに1.7μMのFAM標識N1およびATTO-647標識RNPプローブとして作製する。
【0083】
分子チームの臨床検査技師(MLS)は、96ウェルまたは384ウェルのPCRマスターミックスプレート(PMMP)を各自の個別のPCRワークステーションに配置し、上記の組み合わせた唾液/粘膜サンプルの調製工程から得た7.5μLの処理済みの組み合わせた唾液および呼吸粘膜サンプルを、そのPMMPの指定された各ウェルに添加する。その後、その処理済み唾液サンプルをピペッティングにより上記のPCRマスターミックスと混合し、泡を生じさせるのを回避するように注意を払う。その後、そのMLSは、SARS-CoV-2についての陽性コントロール(IDT合成2019-SARS-CoV-Nコントロール、4000コピー/μL)ならびに陰性コントロール(IDT Hs-RPP30コントロール、4000コピー/μL)、ならびにテンプレートなしのコントロール(NTC-水)を、それらのコントロールについて指定したPCRウェル(プレート1つ当たり1個の陽性コントロール、1個の陰性コントロール、およびNTC)に7.5μL添加し、ピペッティングにより混合して、泡を生じさせるのを回避する。その後、そのMLSは、そのPMMPの上に透明なプラスチックqPCRフィルムを置き、そのフィルムをプレートシーラーで密封し、プレート遠心機で短時間遠心分離して泡を除去する。
【0084】
(PCR温度プロファイル(増幅領域)(組み合わせた唾液/粘膜の検査))
プレートをBio-Rad CFXまたはQuantStudio PCR装置に取り付け、マスターファイルの「ST-COV-PCRプロトコル」を開き、以下の熱サイクル条件を実行する:
1.工程1:55℃で10分間、1サイクル;
2.工程2:95℃で1分間、1サイクル;および
工程3:95℃で10秒間、60℃で30秒間(これに加えて、N1標的についてのFAMチャンネルおよびRNP標的についてのCy5チャンネルの両方でのプレート読取り)を40サイクル。
【0085】
(データの解釈(BioRad CFX opus 96ウェルフォーマット)(唾液/粘膜の検査))
Bio-Rad CFXはCq値を報告する。その際、このCq値ファイル(csvファイル)をPCR装置からOvDx LIMSへとエクスポートする。このCq値の解釈(検出(DETECTED)、非検出(NOT DETECTED)および無効(INVALID))を、以下の基準にしたがってOvDx LIMSへとエクスポートする:
【表1】
【0086】
N1が検出された場合、その結果は有効であり、RNPについての値に関わらず「検出(DETECTED)」を返す。N1が検出されずRNPが<35である場合、「非検出(NOT DETECTED)」という結果を返す。RNP Cq値>35かつNl>36である場合、そのサンプルを再検査のために救出する。再検査後に、そのRNPが依然として>35である場合、その提供者に接触して別のサンプルを収集しなければならない。NaN=非数である。
【0087】
(品質保証およびバッチリリース(唾液/粘膜の検査))
実験室監督者は、以下を含むコントロールを試験する:陽性コントロール(2019-nCoV_N_Control、IDT)(これは、Nl標的について陽性であるがRNP標的については陰性であるべきである);陰性コントロール(Hs_RPP30 Control)(これは、Nl標的について陰性であるがRNP標的については陽性であるべきである);およびNTCコントロール(これは、Nl標的およびRNP標的の両方について陰性であるべきである)。この実験室監督者はさらに、抽出検査を実行し、陽性結果対陰性結果の比を評価する。メディカルディレクターが、さらなる試験後にそのバッチを出庫(release)し、そのレポートを承認する。
【0088】
(PCR検査(唾液/粘膜の検査)後のサンプル配置)
無効(INVALID)の結果となったサンプルを上記の一時的サンプル保管領域(ドラフトチャンバー1)において特定する。反復検査をこれらのサンプルに対して実施し、工程III(組み合わせた唾液呼吸粘膜サンプルの調製)から開始する。検証された結果を有するサンプルを-80℃にて保管する。PCRプレートをバイオハザードとして廃棄領域(ドラフトチャンバー2)へと移動する。
【0089】
(オンサイト(on-site)での鼻腔スワブおよび中咽頭スワブサンプルの収集)
鼻腔スワブ収集デバイスは、スワブサンプルに特異的な独特な緩衝液組成物(本明細書で以後はスワブ輸送緩衝液と呼ぶ)1mlを充填した1.9ml Nestチューブ(これは鼻腔スワブサンプルの容器として使用する)を備える。Nestにより供給される口腔/鼻孔スワブを使用して患者の外鼻孔からスワブ採取し、その後、そのスワブ輸送緩衝液を充填したそのNestチューブの内部に配置する。
【0090】
中咽頭スワブ収集デバイスは、患者の中咽頭からスワブ採取するために使用する、Nestにより供給される口腔/鼻孔スワブを備える。中咽頭サンプルが付いたスワブを、その鼻腔スワブとスワブ輸送緩衝液とを含む上記のNestチューブ中に配置する。
【0091】
鼻腔スワブ(外鼻孔)および中咽頭スワブは、その収集場所を監督する機関によって指定された熟練の医療従事者の監督下で収集すべきである。その収集を監督する医療従事者は、アルコールベースの消毒剤または無香料石鹸と水とで手を清浄にし、適切なPPE(ガウン、手袋、フェイスマスク、および/またはフェイスシールド)を着るべきである。収集の前に、患者に指示書を提示する。その医療従事者は、すべての患者情報(名前、生年月日、および状態報告規則により必要とされる追加情報を含む)が収集前に適切に記入されていることを確実にする。その後、その医療従事者は、患者に、研究同意書を吟味して(Ovationによって提供される)研究への参加または不参加を決定するように依頼する。最後に、その医療従事者は、予め印刷されたバーコード表示をスキャンして、それを、すでに収集された患者情報に紐付け、その後、その患者により使用されるNestチューブにその表示を配置する。
【0092】
その医療従事者はそのNestチューブのキャップを外し、患者自身の外鼻孔から各鼻孔につき10回スワブ採取するよう患者に指示し、そのチューブの内部でそのスワブの近位ブレイクポイントを折る。その医療従事者は同様にして中咽頭スワブを取得する。その医療従事者は、両方のスワブを含むそのNestチューブのキャップを元に戻し、そのキャップをしっかり締めることを確実に行う。この収集プロセス中にいくらかサンプルがこぼれた場合は、その医療従事者はアルコールワイプまたは同等物を使用してそのチューブの外側を拭いて、混入を防ぐ。その後、そのサンプルを、実験室へ輸送する前に室温下で個別のバッグに配置する。
【0093】
そのスワブサンプル収集を監督する医療従事者は、各患者のサンプルを取り扱った後は、アルコールベースの手用消毒剤を使用すべきである。
【0094】
(実験室における組み合わせたスワブサンプの受領および受入れ)
組み合わせたスワブサンプルを実験室に輸送する。サンプルをバッグから取り出し、なんらかの漏出または損傷が無いかについての受領受付にいる受入れ監督者が視覚的に調べる。その監督者による事前スクリーニング段階を合格したサンプルを、受入れチームが使用する机上に移動する。その事前スクリーニング段階を合格しなかったサンプルは、さらなる調査のために取って置く。受入れ担当者は、そのNestチューブのバーコードをスキャンし、実験室情報管理システム(LIMS)によってコンピュータスクリーンに示される患者情報および同意ステータスを調べる。LIMSにおいて完全な患者情報を備え漏出が全くないチューブ(すなわち、適格なサンプル)を、ラックに配置する。そのラック中のサンプルの位置は、LIMSにおいて割り当てられた位置と一致するべきである。不適格なサンプルは別のラックに配置し、受入れ監督者によるさらなる調査のために取って置く。その後、サンプル調製チームの臨床検査技師(MLS)がそのサンプルを取り出すまで、サンプルのラックを600rpmにて保持位置でプラットフォームロッカーに配置し得る。
【0095】
(組み合わせたスワブ調製緩衝液)
サンプル調製の一部として、そのスワブサンプルを、スワブサンプルのために特別に調製した独特な緩衝液組成物(本明細書においてスワブ調製緩衝液と呼ぶ)と混合する。このワブ調製緩衝液の調製は、少なくとも以下の装置の使用を含む:安全キャビネットまたはクリーンベンチ(無菌環境を維持可能な作業領域);滅菌済みの個別包装ピペット、ピペットチップ(例えば、10mLおよび25mL);ピペット・エイド;ピペッター(1mLまたは200μL)および対応するチップ;50mlの滅菌済みでヌクレアーゼフリーのFalconチューブ;Eppendorfリピーター(50mL容量);1.9ml Cryovialチューブ(Nest);Nestチューブラック;ならびにスクリューキャップチューブデキャッパー装置(Brooks Life Sciences)。
【0096】
このスワブ輸送緩衝液の調製は、少なくとも以下の試薬/成分の使用をさらに含む:
・10×TBE緩衝液(トリス-ホウ酸-EDTA、pH8.2~8.4)、滅菌済み、DNaseフリー・RNaseフリー・プロテアーゼフリーグレード、Fisher BioReagents、カタログ番号BP133320、20L;
・RNaseインヒビター、ヒト胎盤、40,000単位/ml、滅菌済み、DNaseフリー・RNaseフリーグレード、New England Biolabs、カタログ番号M0307L、10,000単位、250μl/チューブ;
・アムホテリシンB溶液、脱イオン水中250μg/ml、滅菌済み、Sigma-Aldrich、カタログ番号A2942、100ml(または真菌の混入および増殖を防止するために適切な濃度の類似の抗真菌剤);
・ペニシリン-ストレプトマイシン溶液、100×、ペニシリン(10,000IU)とストレプトマイシン(10,000μg/ml)との100倍作業濃度の混合物、滅菌済み、Corning、カタログ番号30-002-CI(または細菌の混入および増殖を防止するために適切な濃度の類似の抗生物質);
・ヌクレアーゼフリー水、滅菌済み、Millipore/Sigma、W4502、DNaseフリー・RNaseフリー・プロテアーゼフリーグレード;ならびに
・消毒薬(例えば、70%エタノール)。
【0097】
それらの成分の調製は少なくとも以下の工程を含む:適切な消毒薬で作業面を清浄にする;作業面に配置する前に試薬瓶を消毒する;500ml/瓶の10×TBE緩衝液を滅菌済みの500ml Corning瓶に分注し、室温にて保管する;894.95ml/瓶のヌクレアーゼフリー水を滅菌済みの1L Corning瓶に分注し、室温にて保管する;(滅菌済みの5ml Corningチューブに)4ml/チューブのアムホテリシンB溶液を分注し、-20℃にて保管する;(滅菌済みEppendorfチューブに)1ml/チューブのペニシリン/ストレプトマイシンを分注し、-20℃にて保管する;実験室が管理するノートにロットの情報および調製を記録する。
【0098】
このスワブ調製緩衝液の調製は、少なくとも以下の工程を含む:
1.適切な消毒薬で作業面を清浄にする;
2.作業面に置く前に試薬瓶を消毒する(RNaseインヒビター以外を分注する)
3.例えば、1ILのウイルス輸送緩衝液を調製するために、
3.1.瓶1本分のヌクレアーゼフリー水(894.95ml/瓶)を持ってくる;
3.2.滅菌済みの50mlファルコンチューブを使用して、100mlの10×TBE緩衝液を添加する;
3.3.滅菌済みのピペットを使用して、50μlのRNaseインヒビターを添加する;
3.4.チューブ1本分のアムホテリシンB溶液およびチューブ1本分のペニシリン/ストレプトマイシンを融解し、滅菌済みのピペットを使用して、4mlのアムホテリシンおよび1mlのペニシリン/ストレプトマイシンをその瓶に無菌的に添加する。
4.実験室が管理するノートにロットの情報および調製を記録する;
5.実験室の適切なID(例えば、ロット番号)を割り当てる;
6.そのチューブのキャップをしっかり閉め、チューブを反転することによって完全に混合する;
7.品質管理(QC)サンプル用に100μlの媒体を抜き出す;
8.その瓶に
スワブ輸送緩衝液
実験室ID:(実験室の適切なID(例えば、Summit緩衝液2としてSTB2)を挿入する)
DOM:(現在の製造日を挿入する)
有効期限:(製造日から1か月後の日付を挿入する)
2℃~8℃にて保管する
と表示を付ける;
9.アリコートに分配するまで2℃~8℃にて保管する;
10.Eppendorfリピーター(50mL容量)およびBrooksデキャッパーを使用して、1mLの調製済みのスワブ調製緩衝液を個別の滅菌済みの1.9mlスクリューキャップ付きチューブ(Nest)に分注する;
11.無菌性確認を実施する;
12.チューブと、その瓶に残っているあらゆる緩衝液とを2℃~8℃にて保管する。
【0099】
(組み合わせたスワブサンプルの調製)
サンプル調製チームの臨床検査技師(MLS)は、ロッカーにある受入れたサンプルのラックを取り出し、検査のためにそれらを調製するためにそのラックをサンプル調製室に持って来る。MLSは、5μL/ウェルのプロテアーゼ(プロテイナーゼK)を含む、調製済みの96ウェルサンプル調製プレート(SPP)を持ってくる。具体的には、この96ウェルSPPは、マルチチャンネルイコライザーまたはViaflow(Integra)を使用して各ウェルに分配された、1ウェル当たり5μLのプロテイナーゼK(Promega))を含む。サンプルのキャップを、安全キャビネットの内部で半自動化6チャンネルデキャッパー(Brooks)または自動化48フォーマットデキャッパー(Brooks)を用いて開ける。この6チャンネルデキャッパーを使用する場合には、そのキャップキャリアラックにキャップを一時的に置く。E1-ClipTip電子マルチチャンネル(8チャンネル)イコライザーを使用し上手にピペッティングして、約35μLのスワブサンプルを、その48ウェルラックのチューブから、5μLのプロテイナーゼKを含む96ウェルSPPに移す。48ウェルラック2個分のサンプルが、1個分の96ウェルSPPを満たす。サンプルに再びキャップを閉める(6チャンネルデキャッパーを使用する場合は一度に6個、または自動化48フォーマットデキャッパーを使用する場合は一度に48個)。デジタルマイクロプレートシェーカーに500RPMにて1分間そのプレートを配置することによって、そのスワブサンプルとプロテイナーゼKとを十分に混合する。そのプレートをminiAmp 96ウェルPCR機器に95℃にて5分間置き、4℃にて保持する。その後、サンプルのラック全体を一時的サンプル保管領域に運ぶ。反復検査を必要とするサンプルはどれでも、この一時的サンプル保管領域から特定する。反復検査は1回だけ可能である。失敗した場合は、新たなサンプルを要求する。余ったサンプルは、将来の使用のために-80℃にて保管する。
【0100】
(PCR試薬の調製およびプレートの構成(組み合わせたスワブの検査))
PCRマスターミックスを含むプレート(本明細書においてPCRマスターミックスプレート(PMMP)と呼ぶ)は、マルチチャンネルイコライザーまたはViaflow(Integra)を使用して96ウェルプレートまたは384ウェルプレートの各ウェルに分配された、12.5μLのPCRマスターミックスを含む。このPCRマスターミックスは、10μLのLuna Universal Probe One-Step Reaction Mix、1μLのLuna Warmstart RT酵素ミックス、および1.5μLのNl/RNPプライマー/プローブから構成される。この1.5μLのNl/RNPプライマー/プローブは、50.25μLの各100μMのプライマーおよびプローブストックを524μLのIDTE緩衝液(pH7.5)に添加することによって、N1プライマーの6.7μM作業ストックおよびRNPプライマーの6.7μM作業ストック、ならびに1.7μMのFAM標識N1プローブおよびATTO-647標識RNPプローブとして作製する。
【0101】
分子チームの臨床検査技師(MLS)は、96ウェルまたは384ウェルのPCRマスターミックスプレート(PMMP)を各自の個別のPCRワークステーションに配置し、上記のスワブサンプルの調製工程から得た7.5μLの処理済みの組み合わせたスワブサンプルを、そのPMMPの指定された各ウェルに添加する。その後、その処理済みの組み合わせたスワブサンプルをピペッティングにより上記のPCRマスターミックスと混合し、泡を生じさせるのを回避するように注意を払う。その後、そのMLSは、SARS-CoV-2についての陽性コントロール(IDT合成2019-SARS-CoV-Nコントロール、4000コピー/μL)ならびに陰性コントロール(IDT Hs-RPP30コントロール、4000コピー/μL)、ならびにテンプレートなしのコントロール(NTC-水)を、それらのコントロールについて指定したPCRウェル(プレート1つ当たり1個の陽性コントロール、1個の陰性コントロール、およびNTC)に7.5μL添加し、ピペッティングにより混合して、泡を生じさせるのを回避する。その後、そのMLSは、そのPMMPの上に透明なプラスチックqPCRフィルムを置き、そのフィルムをプレートシーラーで密封し、プレート遠心機で短時間遠心分離して泡を除去する。
【0102】
(PCR温度プロファイル(増幅領域)(組み合わせたスワブの検査))
プレートをBio-Rad CFXまたはQuantStudio PCR装置に取り付け、マスターファイルの「ST-COV-PCRプロトコル」を開き、以下の熱サイクル条件を実行する:
1.工程1:55℃で10分間、1サイクル;
2.工程2:95℃で1分間、1サイクル;および
工程3:95℃で10秒間、60℃で30秒間(これに加えて、N1標的についてのFAMチャンネルおよびRNP標的についてのCy5チャンネルの両方でのプレート読取り)を40サイクル。
【0103】
(データの解釈(BioRad CFX opus 96ウェルフォーマット)(組み合わせたスワブの検査))
Bio-Rad CFXはCq値を報告する。その際、このCq値ファイル(csvファイル)をPCR装置からOvDx LIMSへとエクスポートする。このCq値の解釈(検出(DETECTED)、非検出(NOT DETECTED)および無効(INVALID))を、以下の基準にしたがってOvDx LIMSへとエクスポートする:
【表2】
【0104】
N1が検出された場合、その結果は有効であり、RNPについての値に関わらず「検出(DETECTED)」を返す。N1が検出されずRNPが<35である場合、「非検出(NOT DETECTED)」という結果を返す。RNP Cq値>35かつNl>36である場合、そのサンプルを再検査のために救出する。再検査後に、そのRNPが依然として>35である場合、その提供者に接触して別のサンプルを収集しなければならない。NaN=非数である。
【0105】
(品質保証およびバッチリリース(組み合わせたスワブの検査))
実験室監督者は、以下を含むコントロールを試験する:陽性コントロール(2019-nCoV_N_Control、IDT)(これは、Nl標的について陽性であるがRNP標的については陰性であるべきである);陰性コントロール(Hs_RPP30 Control)(これは、Nl標的について陰性であるがRNP標的については陽性であるべきである);およびNTCコントロール(これは、Nl標的およびRNP標的の両方について陰性であるべきである)。この実験室監督者はさらに、抽出検査を実行し、陽性結果対陰性結果の比を評価する。メディカルディレクターが、さらなる試験後にそのバッチを出庫(release)し、そのレポートを承認する。
【0106】
(PCR検査(スワブ検査)後のサンプル配置)
無効(INVALID)の結果となったサンプルを上記の一時的サンプル保管領域(ドラフトチャンバー1)において特定する。反復検査をこれらのサンプルに対して実施し、工程III(唾液サンプルの調製)から開始する。検証された結果を有するサンプルを-80℃にて保管する。PCRプレートをバイオハザードとして廃棄領域(ドラフトチャンバー2)へと移動する。
【0107】
(実施例3)
この実施例において、外鼻孔(anterior nasal)スワブ(ANS)サンプルおよび唾液サンプルの相対的有効性を、SARS-CoV-2ウイルスの検出について比較した。簡単に述べると、ANSサンプルをDNA GenotekのOR-100デバイス(SwabClear(商標))で収集し、唾液サンプルはDNA GenotekのOM-505デバイス(SalivaClear(商標))を使用して同じ患者から収集した。サンプルは、製造業者の指示にしたがってSARS-CoV-2ウイルスを検出するために十分であった。
【0108】
ほとんどの対にしたサンプルはANSサンプルと唾液サンプルとの間で一致する結果(両方で検出、または両方で非検出)を示したが、それらの2種類の検体間で一致しない結果が、一部の対にしたサンプルで観察された(すなわち、一方の検体ではSARS-CoV2検出だが、もう一方の検体では非検出)。これらの臨床的知見に基づいて、SARS-CoV-2もしくは他の呼吸器ウイルスの存在量もしくは除去は、個体間で、またはその感染症もしくは疾患の経過中の種々の時点で、鼻腔と唾液とを比較して変化し得ると仮定した。したがって、1箇所の検体部位のみに依存する検査は、一部のSARS-CoV-2陽性症例を見逃すことを意味し得る。
【0109】
結果的に、鼻腔スワブ検体と唾液検体とを組み合わせる試験は、多様な集団において、およびその感染症もしくは疾患の経過中の種々の時点において、SARS-CoV-2または他の呼吸器ウイルスの検出機会を最大化する。
【0110】
(実施例4)
この実施例は、対となった唾液のみのサンプルと比較して、組み合わせた唾液および外鼻孔鼻腔スワブサンプルにおいて検出された濃縮されたウイルス存在量の改善を示す実験結果を提供する。
【0111】
16人のヒト参加者が、唾液サンプルを50mlファルコンチューブ中に吐いた。フロック鼻咽頭スワブを使用して、同じ参加者から外鼻孔スワブ(ANS)サンプルを収集した。各患者に由来する1つの唾液サンプルを、実施例1~実施例2にしたがうRNA無抽出qPCRプロトコルにおいて使用して、SARS-CoV-2感染症を検出した。その鼻腔スワブを、各参加者に由来する第2の唾液サンプルを保持するファルコンチューブ中にスワブを下にして配置した。そのスワブを圧搾してそのANSサンプルを抽出し、それをその唾液と混合した。その組み合わせた唾液およびANSサンプルに、上記の唾液サンプルと同じRNA無抽出qPCRプロトコルを行った。
【0112】
図3はqPCR結果をサイクル閾値(Ct)値として提示し、これは、どのくらい多くのSARS-CoV-2ウイルスがそのサンプルにおいて検出されたかを示す。その対となった結果は、唾液のみのサンプルについて「SalivaFast」として提示され、組み合わせたサンプルについて「Spit-N-Dip」として提示されている。
【0113】
このデータは、同じ検査プロトコルを使用して唾液のみを使用した検査と比較した場合に、その混合型のANS-唾液検体における濃縮されたウイルス存在量の顕著な改善(より低いCt値として示される)を示す。
【0114】
したがって、組み合わせたサンプルは、単一の供給源から取得されたサンプルと比較した場合に、より感度の高い結果を明らかに提供する。
したがって、他の型の鼻腔スワブ(例えば、鼻咽頭および中鼻甲介)を組み合わせること、ならびにそのような検体を唾液と混合することは、別々の検体位置における検出目的のために種々のウイルス負荷レベルを有する可能性がある個体間で同様の改善された結果を生じると、予期される。同様に、混合型検体として鼻腔スワブと中咽頭スワブとを組み合わせることもまた、可能である。したがって、この実施例において提供した検査は、SARS-CoV-2および他の呼吸器ウイルスの検査のための検体として、ANSと唾液とを組み合わせることに集中しているが、ヒトの身体中の別々の位置に由来する検体を混合するこの一般的な方法は、初期検査コストを低下すると同時にウイルス検出の機会を最大化する。この方法はまた、同じ人の別々の身体位置に由来する検体を組み合わせる「プール化」技術とも見なされ得る。
【0115】
(参照による援用)
他の文献(例えば、特許、特許出願、特許公開物、雑誌、書籍、論文、ウェブコンテンツ)の参照および引用が、本開示の全体にわたって行われた。すべてのそのような文献は、すべての目的のためにその全体が参照によって本明細書により本明細書中に援用される。
【0116】
(等価物)
本発明およびその多くのさらなる実施形態の種々の改変が、本明細書において示され記載されたものの他にも、本明細書の全内容(本明細書中に引用される科学文献および特許文献の参照を含む)から当業者に明らかになる。本明細書中の主題は、本発明の種々の実施形態およびその等価物において本発明の実施に適合され得る重要な情報、例証および指針を含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】