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特表2024-525822相同二量体化ペプチド及びそれを含む抗体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】相同二量体化ペプチド及びそれを含む抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/00 20060101AFI20240705BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20240705BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240705BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240705BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240705BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240705BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240705BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240705BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240705BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240705BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240705BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240705BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240705BHJP
   C40B 40/10 20060101ALI20240705BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20240705BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240705BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240705BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240705BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 51/10 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240705BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C07K14/00 ZNA
C07K16/00
C07K16/46
C07K19/00
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12P21/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C40B40/10
C12N1/02
A61P35/00
A61P37/02
A61P25/28
A61P37/06
A61K51/10 200
A61K39/395 C
A61K39/395 L
A61K39/395 M
A61K38/17
A61K47/68
G01N33/574 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502130
(86)(22)【出願日】2022-07-13
(85)【翻訳文提出日】2024-03-12
(86)【国際出願番号】 CA2022051093
(87)【国際公開番号】W WO2023283736
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】63/221,686
(32)【優先日】2021-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524017630
【氏名又は名称】ピーエックスラディア マブ テクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モーガン、アルトン シー.
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA02
4B064CA05
4B064CA06
4B064CA08
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BD14
4B065BD50
4B065CA44
4B065CA46
4C076AA06
4C076AA09
4C076AA12
4C076AA17
4C076AA22
4C076AA95
4C076BB01
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB21
4C076BB31
4C076CC01
4C076CC07
4C076CC27
4C076EE41
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA19
4C084BA23
4C084BA41
4C084DC50
4C084MA13
4C084MA17
4C084MA22
4C084MA23
4C084MA28
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZB07
4C084ZB08
4C084ZB26
4C085AA21
4C085AA22
4C085BB31
4C085BB36
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG06
4C085GG08
4C085GG10
4C085KA03
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
自己結合が改善された相同二量体化(HD)ペプチドが記載されている。HDペプチドは、対応する天然に存在するHDペプチドと比較して逆の配置を有するアミノ酸配列を含み得るか、又は1つ若しくは複数の親水性置換を有する天然に存在するHDペプチドのアミノ酸配列を含み得る。更に、HDペプチドの二量体も記載されている。前記HDペプチド又はHD二量体を含む抗体、並びに前記抗体の製造方法及び使用もまた開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対応する天然に存在する相同二量体化(HD)ペプチド又はその保存的変異体と比較して、逆の配置の(reverse configuration)アミノ酸配列を含む、HDペプチド。
【請求項2】
前記対応する天然に存在するHDペプチドが、T15 HDペプチド又はR24 HDペプチドである、請求項1に記載のHDペプチド。
【請求項3】
配列番号4、配列番号6又は配列番号18と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1又は請求項2に記載のHDペプチド。
【請求項4】
1つ又は複数のアミノ酸置換を有し、前記1つ又は複数の置換は、前記HDペプチドのハイドロパシーを増加させる、請求項1から3のいずれか一項に記載のHDペプチド。
【請求項5】
1つ又は複数のアミノ酸置換を含み、前記1つ又は複数の置換は、相同二量体化(HD)ペプチドのハイドロパシーを増加させる、HDペプチド。
【請求項6】
配列番号1のアミノ酸配列であって、位置4、7及び18に1つ又は複数のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、請求項5に記載のHDペプチド。
【請求項7】
位置4における前記1つ又は複数のアミノ酸置換が、Kへの置換又はKの保存されたアミノ酸への置換であり、位置7における前記1つ又は複数のアミノ酸置換が、Rへの置換又はRの保存されたアミノ酸への置換であり、位置18における前記1つ又は複数のアミノ酸置換が、Hへの置換又はHの保存されたアミノ酸への置換である、請求項6に記載のHDペプチド。
【請求項8】
配列番号8、9又は10と80%~100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項6又は7に記載のHDペプチド。
【請求項9】
第1のHDペプチド及び第2のHDペプチドを含む相同二量体化(HD)ペプチド二量体であって、前記第1及び第2のHDペプチドは、天然に存在するHDペプチドに由来するか、又は前記第1及び第2のHDペプチドは、天然に存在するHDペプチドの逆配列(reverse sequence)に由来する、相同二量体化(HD)ペプチド二量体。
【請求項10】
前記第1及び/又は第2のHDが、請求項1から8のいずれか一項に記載のHDペプチドを含む、請求項9に記載の相同二量体化(HD)ペプチド二量体。
【請求項11】
前記二量体の前記第1及び第2のHDペプチドが、リンカーによって連結されている、請求項9又は10に記載のHDペプチド二量体。
【請求項12】
前記リンカーが、gly-glyである、請求項11に記載のHDペプチド二量体。
【請求項13】
配列番号5、7、11、12、13、14、15、17又は19と80~100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項9に記載の相同二量体化(HD)ペプチド二量体。
【請求項14】
請求項1から8のいずれか一項に記載のHDペプチド又は請求項9から13のいずれか一項に記載のHDペプチド二量体を含む、抗体又は抗原結合断片。
【請求項15】
ヒト化IgGである、請求項14に記載の抗体又は抗原結合断片。
【請求項16】
ヒト化IgG1、ヒト化IgG4又はヒト化IgG3である、請求項16に記載の抗体又は抗原結合断片。
【請求項17】
前記HDペプチド又はHDペプチド二量体が、前記抗体又は抗原結合断片のヌクレオチド親和性部位(nucleotide affinity site)に融合されている、請求項14から16のいずれか一項に記載の抗体又は抗原結合断片。
【請求項18】
前記HDペプチド又はHDペプチド二量体が、リジン、システイン又は炭水化物を介して融合されている、請求項17に記載の抗体又は抗原結合断片。
【請求項19】
前記HDペプチド又はHDペプチド二量体が、前記抗体の重鎖又は軽鎖のCDR3の直後に位置する、請求項14から18のいずれか一項に記載の抗体又は抗原結合断片。
【請求項20】
前記HDペプチド又はHDペプチド二量体が、前記抗体の重鎖定常領域又は軽鎖定常領域のC末端の直後に位置する、請求項14から18のいずれか一項に記載の抗体又は抗原結合断片。
【請求項21】
前記HDペプチド又はHDペプチド二量体が、前記抗体の重鎖可変領域の直後に位置する、請求項14から18のいずれか一項に記載の抗体又は抗原結合断片。
【請求項22】
前記HDペプチド又はHDペプチド二量体が、前記抗体のFc領域のC末端の直後に位置する、請求項14から18のいずれか一項に記載の抗体又は抗原結合断片。
【請求項23】
前記HDペプチド又はHDペプチド二量体が、前記抗体にコンジュゲートされている、請求項14から22のいずれか一項に記載の抗体又は抗原結合断片。
【請求項24】
前記抗体が、キメラ組換え抗体である、請求項14から23のいずれか一項に記載の抗体又は抗原結合断片。
【請求項25】
前記HDペプチド又はHDペプチド二量体の前にスペーサーが先行する、請求項14から24のいずれか一項に記載の抗体又は抗原結合断片。
【請求項26】
前記スペーサーが、gly-glyである、請求項25に記載の抗体又は抗原結合断片。
【請求項27】
前記抗体が、一本鎖抗体(scFv)、二重特異性抗体(BsAb)又は抗体様ペプチドである、請求項14から26のいずれか一項に記載の抗体又は抗原結合断片。
【請求項28】
前記抗体が、ヒト化モノクローナル抗体である、請求項14から27のいずれか一項に記載の抗体又は抗原結合断片。
【請求項29】
前記抗体が、Her-2neu抗体(ハーセプチン等)、CD-20抗体(リツキシン等)、血管内皮成長因子抗体(アバスチン等)であるか、又はチェックポイント阻害剤抗体(PD-L1等)である、請求項14から28のいずれか一項に記載の抗体又は抗原結合断片。
【請求項30】
請求項14から29のいずれか一項に記載の1つ以上の抗体又は抗原結合断片と、薬学的に許容される担体とを含む組成物。
【請求項31】
請求項1から8のいずれか一項に記載のHDペプチド又は請求項9から13のいずれか一項に記載のHDペプチド二量体をコードする第1の核酸配列を含む、発現ベクター。
【請求項32】
抗体又は抗原結合断片をコードする第2の核酸配列を更に含み、それにより、前記第1及び第2の核酸配列が発現される場合、前記HDペプチド及び前記抗体又は抗原結合断片が融合タンパク質として発現される、請求項31に記載の発現ベクター。
【請求項33】
請求項32に記載の発現ベクターを宿主細胞において発現させるステップを含む、相同二量体化(HD)抗体を生成する方法。
【請求項34】
請求項31又は32に記載の発現ベクターで形質転換された単離宿主細胞。
【請求項35】
抗体の結合及び/又は効力を増強する方法であって、
請求項1から8のいずれか一項に記載のHDペプチド若しくは請求項9から13のいずれか一項に記載のHD二量体を前記抗体にコンジュゲートするステップ;又は
前記HDペプチドを含むキメラ抗体を組換え発現させるステップ
を含む方法。
【請求項36】
疾患又は状態に罹患している患者を処置する方法であって、請求項14から29のいずれか一項に記載の抗体又は抗原結合断片を投与するステップを含む方法。
【請求項37】
前記疾患又は状態が、がん、自己免疫障害、炎症性障害、神経変性疾患、心血管疾患、移植片又は移植拒絶からなるリストから選択されるものである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
試料中の分析物を検出する方法であって、
前記分析物を、前記分析物に対する抗体又は抗原結合断片と接触させるステップであって、前記抗体又は抗原結合断片は、請求項1から8のいずれか一項に記載のHDペプチド又は請求項9から13のいずれか一項に記載のHDペプチド二量体に融合されている、ステップと;
前記分析物及び前記HDペプチドに融合した前記抗体によって形成された複合体を検出するステップと
を含む方法。
【請求項39】
試料中の分析物を検出するためのキットであって、
前記分析物に対する抗体又は抗原結合断片であって、請求項1から8のいずれか一項に記載のHDペプチド又は請求項9から13のいずれか一項に記載のHDペプチド二量体に融合した抗体又は抗原結合断片と;
前記分析物の検出に使用するための説明書と
を備えるキット。
【請求項40】
請求項1から8のいずれか一項に記載のHDペプチド又は請求項9から13のいずれか一項に記載のHDペプチド二量体に連結された抗体又は抗原結合断片を含む、ファージディスプレイライブラリー。
【請求項41】
治療における請求項14から29のいずれか一項に記載の抗体の使用。
【請求項42】
治療に使用するための、請求項14から29のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項43】
診断試験における請求項14から29のいずれか一項に記載の抗体の使用。
【請求項44】
診断試験に使用するための、請求項14から29のいずれか一項に記載の抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相同二量体化ペプチド、前記相同二量体化ペプチドを含む抗体、並びにその方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は、疾患と戦うための「特効薬」として評価されており、がん及び自己免疫障害等の慢性疾患を処置するための主要な治療ツールとして浮上している。注目すべき成功事例には、乳がんの処置におけるハーセプチン(Herceptin)(登録商標)及び非ホジキンリンパ腫の処置におけるリツキサン(Rituxan)(登録商標)が含まれる。疾患の処置における抗体の重要な利点は、健康な組織及び身体の正常な産物を節約しながら、疾患を引き起こす細胞又は分子を標的化する能力にある。
【0003】
現在、FDAが承認したモノクローナル抗体は16種類あり、年間売上高は620億ドルである。これは、2025年までに年間売上高1200億ドルを生み出す70の承認済み製品まで成長すると予想される。更に、ここ10年の最も新しく最も成功しているがん療法である、PD-L1等のがん細胞の表面上のサプレッサー分子に向けられたモノクローナル抗体(mAb)は、がん患者の免疫系に対するブレーキを解除することができることが証明されており、従来の化学療法では十分に処置されていなかったがんにおいて高い治療活性をもたらす。この目標だけでも、2025年までに350億ドルの年間売上高が見込まれている。
【0004】
しかしながら、実験室研究において所望の特異性を示す抗体は、非効率的な標的化、低い生物学的活性、低い治療有効性、及び/又は許容できない副作用のために、前臨床及び臨床評価において失敗することが多い。これは、一部には、抗体が免疫防御の一方のアームのみを表し、T細胞が免疫防御において他の戦略を提供するという事実に起因する。
【0005】
抗体は、標的化及び送達デバイスのための理想的なプラットフォームである。抗体は、毒素、薬物及びサイトカイン等のいくつかの生物学的に活性な分子のための送達デバイス(ADC)として使用されてきた。いくつかの場合において、抗体の断片、抗原結合断片(Fab)又は一本鎖可変断片(scFv)が、より良好な組織浸透性のために好ましい。現在いくつかの承認済みADCがあるという事実にもかかわらず、それらの開発は非常に費用がかかり、長い承認時間を必要としている。
【0006】
好ましい治療用mAb形態は、ヒト(又はヒト化)IgG1であり、mAb治療活性は、その結合機能(アゴニスト、拮抗薬)又はエフェクター機能[補体媒介性細胞傷害(C’MC)、抗体依存性細胞媒介性毒性(ADCC)又はアポトーシスの誘発]によって付与される。mAbは、血液中での長期生存に既に適合しており、血管及び組織の浸透を助ける部位を有し、自然免疫のいくつかの防御機構と機能的に関連している。
【0007】
治療用抗体がそれらの標的細胞に対して有効である主な機構は、細胞死、すなわち抗体誘導アポトーシスを誘導することによることが知られている。そのような誘導アポトーシスは、典型的には、細胞のアポトーシスシグナル経路の一部である受容体を架橋することによって引き起こされる。例えば、抗体によるB細胞抗原受容体の架橋は、B細胞腫瘍においてアポトーシスを誘導する(Ghetie M.,et al.,1997)。細胞受容体の架橋はまた、その標的抗原に対する抗体の結合アビディティを増加させ、したがって、補体媒介性殺傷及び補体依存性オプソニン化と食作用、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、並びに細胞受容体を標的とする抗体を使用する場合、細胞受容体への結合の増加及び細胞受容体の遮断を介した細胞増殖の阻害又は細胞内の代謝経路の変化の増強等の全ての細胞表面依存性治療機構を増加させる可能性が高い。
【0008】
抗体の治療特性は、ネイティブ抗体を「進化」させることを目的としたFabライブラリーを使用することによって、その標的抗原に対する親和性に関して強化することができる。これは、時折、100倍~1000倍もの親和性の増加をもたらし得る。しかしながら、これはモノクローナル抗体の結合の基本的性質を克服しない。タンパク質エピトープに関して、モノクローナル抗体は、典型的には、1つのアームで単一のエピトープに結合し、mAbがその標的から解離すると、次の標的は、典型的にはmAbが再結合するには遠すぎる。そのような障害は、mAbがエピトープ間の距離に及ぶことができる標的系を使用することによって克服することができ、これは、典型的には、膜上にクラスター化した非常に高い抗原密度を必要とする。一例は、B細胞上の細胞表面免疫グロブリンである。残念ながら、この性質の治療標的はほとんどない。
【0009】
mAbがその標的を架橋する機会を増加させ、隣接する標的抗原上にエピトープを同時に係合させることによって、抗原結合を増強することができる。多くの標的で、この架橋はアポトーシスを引き起こす強力な手段である。架橋の可能性は、五量体IgM抗体等の抗体の結合価を増加させることによって高めることができる。これはまた、IgGから多量体免疫グロブリン分子を作製する組換え手段によって行うことができる(Xiao-Yun Liu,Laurentiu M.Pop,Lydia Tsai,Iliodora V.Pop and Ellen S.Vitetta,Int.J.Cancer 129,497-506(2011))。しかしながら、ほとんどの治療標的では、免疫グロブリン分子の結合価及びサイズを増加させても架橋を達成することができない。
【0010】
結合価及びアビディティは、Nature(Kang,C.Y.,Cheng,H.L.,Rudikoff,S.and Kohler,H.J.Exp.Med.165:1332,(1987);Xiyun,A.N.,Evans,S.V.,Kaminki,M.J.,Fillies,S.F.D.,Reisfeld,R.A.,Noughton,A.N.and Chapman,P.B.J.Immunol.157:1582-1588(1996))において特定されている、「自己親和性抗体」又は「オートボディ」として様々に知られている自己結合性又は同種親和性抗体の希少なクラスにおいて増加する。これは、(抗原結合に対する)二次相互作用の結果として生じ、複数のIgGを組み込み、標的間の細胞表面上の任意の距離に及ぶことができる。それらは、自己との非共有結合相互作用によって二量体及び/又はポリマーを形成することができる。自己親和性抗体の一例はTEPC-15(T15)であり、これはアポトーシス細胞及びアテローム硬化性病変上のホスホリルコリンの通常は潜在性の決定基を標的とする(Binder,J.,et al.,2003;Kang,C-Y,et al.,1988)。二量体化又は多量体化は、修飾された抗体がその細胞表面標的に付着した後、すなわち、「示差オリゴマー化」後にのみ誘導され得る。溶液中では、自己親和性抗体は、そのモノマー形態と二量体形態との間で平衡状態にあり得る(Kaveri S.,et al.,1990)。残念ながら、Natureは、これらの種類の抗体のごくわずかしか作製しておらず、それらは限られた数の標的に対するものである。
【0011】
TEPC-15(T15)抗体の重鎖領域のペプチドは、自己結合性であり、抗体により高い治療活性を付与すると特定された(Kang,C.Y.Brunck,T.K.,Kieber-Emmons,T.,Blalock,J.E.and Kohler,H.,Science,240:1034-1036,1988)。そのようなペプチドは、「自己親和性ペプチド」又は「相同二量体化(HD)ペプチド」として知られている。抗体の自己会合を誘導する同様の能力を有するこのペプチド配列及び他のペプチド配列の解明は、異なる抗原を標的とする他の抗体に自己会合の同じ特性を付与する機会を提供した。より最近では、自己結合の性質が調査され、二次的及び三次的特徴を形成するペプチドの合成形態の優先性が推定された(Bost KL,Blalock JE.Viral Immunol.2(4),229-238(1989);Kohler,H,Immunotherapy(2013)5(3),235-246)。
【0012】
既知の抗体の抗原検出及び/又は治療有効性を増強するための努力において、2つの異なる共有結合ドメインを含むハイブリッド分子が提案されている。例えば、米国特許出願公開第2003/0103984号(Kohler)及び米国特許出願公開第2004/0185039号(Kohler)は、抗体ドメインとペプチドドメインとを含む融合タンパク質であって、ペプチドドメインが自己親和性活性を有することができる融合タンパク質を開示している。WO2009/002939は、自己親和性ペプチドに融合したCD-20抗原に対する結合親和性を有する免疫グロブリン成分を開示している。WO2009/108803は、自己親和性ペプチドにコンジュゲートされた抗体を使用して試料中の分析物を検出するための方法及びキットを開示している。
【0013】
しかしながら、疾患の検出、予防及び/又は処置のための抗体の感度及び有効性を改善することが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、自己会合又は相同二量体化の改善された生物学的活性を有する相同二量体化(HD)ペプチドに関する。本発明はまた、前記HDペプチドを含む融合タンパク質(例えば、化学的にコンジュゲートされた抗体又は組換え抗体)に関する。免疫グロブリン成分又は抗体及びHDペプチドを含む融合タンパク質は組換えであってもよく、又は、HDペプチドは、抗原結合を妨害せず、HDペプチド配列における好ましい立体配座変化を可能にし、それにより二量体化活性を付与する様式でそれにコンジュゲートされてもよい。本明細書に開示されるHDペプチドは、治療用抗体の効力を増強するために、又は診断等の他の用途のための結合感受性及び/若しくはアビディティを増大させるために使用され得る。
【0015】
一態様において、対応する天然に存在する相同二量体化(HD)ペプチド又はその保存的変異体と比較して、逆の配置(reversed configulation)のアミノ酸配列を含む、HDペプチドが提供される。いくつかの実施形態において、対応する天然に存在するHDペプチドは、T15 HDペプチド又はR24 HDペプチドであってもよい。
【0016】
いくつかの実施形態では、HDペプチドは、RSVIFRGKVSASYETTYDNAKNRSA(配列番号4)又はAYNISSGGSSIYAY(配列番号6)と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列、すなわちT15及びR24HDペプチドの逆アミノ酸配列を含み得る。
【0017】
更なる態様において、改善された自己結合特性を付与する1つ又は複数の置換を含む相同二量体化(HD)ペプチド、又はその保存的変異体が提供される。1つ又は複数の置換は、親水性置換であってもよい。したがって、本明細書に記載のHDペプチドは、1つ又は複数のアミノ酸置換を含んでもよく、1つ又は複数の置換は、HDペプチドのハイドロパシーを増加させる。
【0018】
いくつかの実施形態において、相同二量体化(HD)ペプチドは、ヌクレオチド位置4、7、及び18に1つ又は複数の置換を有するアミノ酸配列ASRNKANDYTTEYSASVKGRFIVSR(配列番号1)を含み得る。位置4位における1つ又は複数のアミノ酸置換は、Kへの置換又はKの保存されたアミノ酸への置換であってもよく、位置7における1つ又は複数のアミノ酸置換は、Rへの置換又はRの保存されたアミノ酸への置換であってもよく、位置18における1つ又は複数のアミノ酸置換は、Hへの置換又はHの保存されたアミノ酸への置換であってもよい。
【0019】
いくつかの実施形態において、1つ又は複数の置換は、N4K、N7R及び/又はK18Hであってもよい。
【0020】
いくつかの実施形態において、HDペプチドは、配列番号8、9又は10と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。
【0021】
更に別の態様において、上述のHDペプチドを含む相同二量体化(HD)ペプチド二量体が提供される。二量体のHDペプチドは、リンカーによって連結され得る。いくつかの実施形態において、リンカーは、gly-glyであってもよい。
【0022】
更に、第1のHDペプチド及び第2のHDペプチドを含む相同二量体化(HD)ペプチド二量体が提供され、第1及び第2のHDペプチドは、天然に存在するHDペプチドに由来するか、又は第1及び第2のHDペプチドは、天然に存在するHDペプチドの逆配列に由来する。
【0023】
いくつかの実施形態において、HDペプチド二量体は、配列番号5又は7と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列、すなわち、gly-glyリンカーによって連結されたT15又はR24HDペプチドの二量体を含み得る。
【0024】
別の実施形態において、HDペプチド二量体は、配列番号11、12、13、14又は15と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。一実施形態において、HDペプチド二量体は、配列番号5、7、11、12、13、14、15、17又は19と80~100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0025】
本発明は更に、それに融合した本明細書に記載のHDペプチド又はHDペプチド二量体を含む抗体又は抗原結合断片を提供する。本明細書に記載のHDペプチド又はHDペプチド二量体を有する抗体は、改善された結合特性及び治療特性を付与することが見出されている。
【0026】
いくつかの態様において、抗体又は抗原結合断片は、ヒト化IgGである。例えば、抗体又は抗原結合断片は、ヒト化IgG1、ヒト化IgG4又はヒト化IgG3であってもよい。
【0027】
HDペプチド又はHDペプチド二量体は、抗体中の適切な部位に位置し得る。いくつかの実施形態において、HDペプチド又はHDペプチド二量体は、抗体又は抗原結合断片のヌクレオチド親和性部位に融合していてもよい。例えば、HDペプチド又はHDペプチド二量体は、リジン、システイン又は炭水化物を介して融合していてもよい。
【0028】
いくつかの実施形態において、HDペプチド又はHDペプチド二量体は、抗体の重鎖又は軽鎖のCDR3の直後に位置する。代替の実施形態において、HDペプチド又はHDペプチド二量体は、抗体の重鎖定常領域又は軽鎖定常領域のC末端の直後に位置する。代替の実施形態において、HDペプチド又はHDペプチド二量体は、抗体の重鎖可変領域の直後に位置する。代替の実施形態において、HDペプチド又はHDペプチド二量体は、抗体のFc領域のC末端に直接配置される。
【0029】
本明細書に記載の抗体は、HDペプチド又はHDペプチド二量体をそれにコンジュゲート化することによって形成され得る。或いは、抗体は、組換え法によって作製され得る。本発明はまた、形成格子を自己会合し、それらの標的抗原を架橋する能力を有する組換え抗体及びペプチドを作製するための方法に関する。次いで、そのような架橋は、細胞シグナル伝達の増強、受容体遮断の増強、抗原/抗体複合体の内在化、及びアポトーシスの誘導さえももたらし得る。
【0030】
いくつかの実施形態において、HDペプチド又はHDペプチド二量体の抗体への結合位置の前に、gly-gly等のスペーサーが先行してもよい。
【0031】
抗体又は抗原結合断片(Fab)は、一本鎖抗体(scFv)、二重特異性抗体(BsAb)又は抗体様ペプチドであってもよい。
【0032】
いくつかの実施形態において、抗体は、ヒト化モノクローナル抗体である。抗体は、ハーセプチン等のHer-2 neu抗体であってもよい。抗体は、リツキシン等のCD-20抗体であってもよい。抗体は、血管内皮増殖因子抗体、例えばアバスチンであってもよい。抗体は、チェックポイント阻害剤抗体、例えばPD-L1であってもよい。
【0033】
更に、本明細書に記載の1つ又は複数の抗体又は抗原結合断片と、薬学的に許容される担体とを含む組成物が提供される。
【0034】
更に、本明細書に記載のHDペプチド又はHDペプチド二量体をコードする第1の核酸配列を含む発現ベクターが提供される。いくつかの実施形態において、発現ベクターは、抗体又は抗原結合断片をコードする第2の核酸配列を更に含み、それにより、第1及び第2の核酸配列が発現される場合、HDペプチド又はHDペプチド二量体及び抗体又は抗原結合断片は融合タンパク質として発現される。
【0035】
本明細書中に記載される発現ベクターを宿主細胞において発現させることを含む、相同二量体化(HD)抗体を生成する方法が提供される。例えば、宿主細胞は、動物細胞、酵母細胞又は植物細胞であってもよい。
【0036】
本明細書に記載の発現ベクターで形質転換された単離宿主細胞が提供される。
【0037】
抗体の結合及び/又は効力を増強する方法であって、本明細書に記載のHDペプチド若しくはHDペプチド二量体を抗体にコンジュゲート化するステップ、又は抗体をHDペプチド若しくはHDペプチド二量体と組換え発現させるステップを含む方法が提供される。
【0038】
疾患又は状態に罹患している患者を処置する方法であって、本明細書に記載の抗体又は抗原結合断片を投与するステップを含む方法が提供される。疾患又は状態は、がん、自己免疫障害、炎症性障害、神経変性疾患、心血管疾患、移植片又は移植拒絶からなるリストから選択されるものであってもよい。
【0039】
試料中の分析物を検出する方法であって、分析物を、分析物に対する抗体又は抗原結合断片と接触させるステップであって、抗体又は抗原結合断片は、本明細書に記載のHDペプチド又はHDペプチド二量体に融合されている、ステップと、分析物及びHDペプチド又はHDペプチド二量体に融合した抗体によって形成された複合体を検出するステップとを含む方法が提供される。
【0040】
試料中の分析物を検出するためのキットであって、分析物に対する抗体又は抗原結合断片であって、本明細書に記載のHDペプチド又はHDペプチド二量体に融合した抗体又は抗原結合断片と、分析物の検出に使用するための説明書とを備えるキットが提供される。
【0041】
本明細書に記載のHDペプチド又はHDペプチド二量体に連結された抗体又は抗原結合断片を含むファージディスプレイライブラリーが提供される。
【0042】
本明細書に記載の抗体は、治療、例えば、疾患の予防及び/又は処置において使用され得る。本明細書に記載の抗体はまた、診断において、例えば、インビトロ診断アッセイにおいて使用され得る。
【0043】
本発明のこの概要は、必ずしも本発明の全ての特徴を説明するものではない。
【0044】
本発明のこれら及び他の特徴は、添付の図面を参照する以下の説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1A】(左から右へ)CDR2及びフレームワーク3を示す、T15抗体中の同種親和性ドメインのアミノ酸配列(aa50~70)を示す図である。
図1B】MPC 603 Fab構造のフォールド内のT15配列aa50~70の炭素バックグラウンドトレースを示す図である。
図1C】T15 aa50~70 MPC603構造のボール表示を示す図である。
図1D】ハイドロパシー相互作用を示すT15ペプチドのアラインメントを示す図である。
【0046】
図2】Kyte-Doolittleアルゴリズムを7残基のウィンドウで使用した、T15 HDペプチド(T15)及びその逆配列(rs-T15)のハイドロパシープロファイルを示す図である。
【0047】
図3図2でプロファイリングされたT15ペプチド及びその逆配列(rs-T15)のハイドロパシーアラインメントを示す図である。
【0048】
図4】HD活性を全く有さないか、ほとんど有さないか、又は高いHD活性を有するMopc抗体の重鎖CDR2/フレームワーク3から引き出された3つの生殖系列配列におけるT15ペプチドのアミノ酸によるハイドロパシー分析を示す。上のペプチド:自己結合に寄与するアミノ酸を有するT15ペプチドをグレースケールで示す。上記又は下記に示される個々のアミノ酸のハイドロパシースコア。中央のペプチド:HD結合が低い、T15由来のアミノ酸置換をグレースケールで示す。下のペプチド:HD結合なし(Mpc 167)、T15由来のアミノ酸置換をグレースケールで示す。
【0049】
図5】非生理学的条件下での4℃及び37℃でのG11、S107及びG9抗体の温度依存性自己会合を示す図である(Bryan,J.A.and Kohler,同種親和性治療用抗体の物理的及び生物学的特性(H.Physical and Biological Properties of Homophilic therapeutic Antibodies),Cancer Immunology Immunotherapy,60:507,2010を参照されたい)。上下から水平移動後にメニスカスが平衡に達するのに必要な時間を測定した。エラーバーは、2回の実行のパーセント変動を表す。
【0050】
図6】リツキシン及びHD-リツキシンの結合がフローサイトメトリーによって検出されたヒトリンパ腫細胞を示す図である。リツキシンは、がん細胞の2つの一次集団を特定し、1つは低い抗原密度を有し(第2の矢印)、2つ目はより高い密度を有する(第3の矢印)。
【0051】
図7】リツキシン及びHD-リツキシンの補体依存性細胞傷害性を示す図である。リツキシンは、異なる抗原密度を有する3つの異なる細胞株(Raji、Ramon及びJOK1)に対してC’MCを媒介することができる(薄いバー)。HD-リツキシンによるC’MCは有意に増強され、より低い抗体濃度でより高いレベルの殺傷を実証している(濃いバー)。抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)もHD抗体で増強される(HD-ハーセプチンで同様の結果が得られたが、データは示さず)。
【0052】
図8】腫瘍注射から7日後の低抗原発現乳がん(MCF-7)のヌードマウスモデルにおけるハーセプチン及びHD-ハーセプチンの有効性を示す図である。
【0053】
図9】抗体R24由来のHDペプチド配列を示す図である。自己結合をもたらすヘアピンループ内のアミノ酸の相互作用も示されている。
【0054】
図10】Kyte-Doolittleアルゴリズムを使用したR24 HDペプチド(R24)のハイドロパシープロファイルを示す図である。
【0055】
図11】電気化学発光(例えば診断用)を用いたPSA抗体の検出を示す図である。グラフは、HD技術によって修飾された抗PSA抗体と非修飾抗体とで生成されたシグナルを示す。
【0056】
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下の説明は、好ましい実施形態の説明である。
【0058】
本開示は、相同二量体化(HD)ペプチドに関する。より具体的には、本開示は、人工又は合成の相同二量体化(HD)ペプチドに関する。本開示のHDペプチドは、自己会合又は相同二量体化の改善された生物学的活性を有する。
【0059】
一態様において、HDペプチドは、天然に存在するHDペプチド又はその保存的変異体に由来する人工又は合成HDペプチドであってもよい。例えば、HDペプチドは、対応する天然に存在するHDペプチド又はその保存的変異体と比較して、逆の配置のアミノ酸配列を含み得る。一実施形態において、人工又は合成HDペプチドは、T15 HDペプチド又はR24 HDペプチドの配列と逆のアミノ酸配列を含み得る。
【0060】
更なる態様において、改善された自己結合特性を付与する1つ又は複数の置換を含む相同二量体化(HD)ペプチド、又はその保存的変異体が提供される。1つ又は複数の置換は、親水性置換であってもよい。相同二量体化(HD)ペプチドは、1つ又は複数のアミノ酸置換を含み、1つ又は複数の置換は、HDペプチドのハイドロパシーを増加させる。
【0061】
いくつかの実施形態において、相同二量体化(HD)ペプチドは、ヌクレオチド位置4、7、及び18に1つ又は複数の置換を有するアミノ酸配列ASRNKANDYTTEYSASVKGRFIVSR(配列番号1)を含み得る。位置4における1つ又は複数のアミノ酸置換は、Kへの置換又はKの保存されたアミノ酸への置換であってもよく、位置7における1つ又は複数のアミノ酸置換は、Rへの置換又はRの保存されたアミノ酸への置換であってもよく、位置18における1つ又は複数のアミノ酸置換は、Hへの置換又はHの保存されたアミノ酸への置換であってもよい。HDペプチドは、配列番号8、9又は10と80%~100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。
【0062】
天然に存在するHDペプチドの二量体、天然に存在するHDペプチドの逆配列の二量体又はその保存的変異体を含み得る、人工又は合成HDペプチド二量体もまた提供される。相同二量体化(HD)ペプチド二量体は、第1のHDペプチド及び第2のHDペプチドを含んでもよく、第1及び第2のHDペプチドは、天然に存在するHDペプチドに由来するか、又は第1及び第2のHDペプチドは、天然に存在するHDペプチドの逆配列に由来する。二量体の第1及び第2のHDペプチドは、リンカーによって連結され得る。二量体中のHDペプチドは、本明細書に記載の1つ又は複数の置換を更に含んでもよい。相同二量体化(HD)ペプチド二量体は、配列番号5、7、11、12、13、14、15、17又は19と80~100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。
【0063】
したがって、人工又は合成HD二量体は、第1のHDペプチド及び第2のHDペプチドを含んでもよく、第1、第2又は第1及び第2のHDペプチドは、天然に存在するHDペプチド又はその保存的変異体に由来する。更に、人工又は合成HDはHD二量体であってもよく、第1のHDペプチド及び第2のHDペプチドを含んでもよく、第1、第2又は第1及び第2のHDペプチドは、天然に存在するHDペプチドの逆配列又はその保存的変異体に由来する。例えば、第1及び第2のHDペプチドは、T15 HDペプチド、R24 HDペプチド、逆T15 HDペプチド、逆R24 HDペプチド又はそれらの保存された変異体に由来してもよい。例えば、二量体の第1及び第2のHDペプチドは、配列番号5、7、11、12又は13と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。
【0064】
二量体内のHDペプチドは、リンカーによって連結され得る。いくつかの実施形態において、リンカーは、gly-glyであってもよい。
【0065】
本開示は更に、本明細書に記載のHDペプチド及び/又はHD二量体を含む融合タンパク質(例えば、化学的にコンジュゲートされた抗体又は組換え抗体)を提供する。融合タンパク質は免疫グロブリン成分又は抗体を含んでもよく、HDペプチド若しくはHDペプチド二量体は組換え体であってもよく、又は、HDペプチド若しくはHDペプチド二量体は、抗原結合を妨害せず、HDペプチド配列における好ましい立体配座変化を可能にし、それにより二量体化活性を付与する様式でそれにコンジュゲートされてもよい本明細書に開示されるHDペプチド及びHDペプチド二量体は、治療用抗体の効力を増強するために、又は診断等の他の用途のための結合感受性及び/若しくはアビディティを増大させるために使用され得る。
【0066】
「相同二量体化」という用語は、「自己親和性」とも呼ばれ、自己会合する実体を表す。例えば、「ホモ二量体化抗体」又は「自己親和性抗体」は、自己結合する抗体である。「相同二量体化(HD)ペプチド」又は「自己親和性ペプチド」という用語は、例えば抗体又は他の免疫グロブリンの自己会合又は自己結合を可能にするペプチドである。
【0067】
「天然に存在するHDペプチド」又は「天然HDペプチド」という用語は、自然界で見出されるHDペプチドを指す。例えば、「T15」は抗ホスホリルコリン抗体を指し、T15 HDペプチドはアミノ酸配列SRNKANDYTTEYSASVKGRFIVSR(配列番号1)を有するT15抗体に見出されるHDペプチドを指す。「R24」は、ジシアロガングリオシドGD3(J.Biol.Chem 374:5597-55604,1999)を認識する抗体を指し、R24 HDペプチドは、アミノ酸配列VAYISSGGSSINYA(配列番号3)を有するR24抗体に見出されるHDペプチドを指す。
【0068】
HDペプチド配列に関する「逆配置」又は「逆配列」という用語は、天然に存在するHDペプチドのアミノ酸配列が逆の順序であること、すなわちN末端がC末端になり、C末端がN末端になることを意味する。逆配列は、ペプチド又はタンパク質配列を逆方向に読み取ることによって得ることができる。逆方向に読み取られた配列(レトロ配列)は、新たなペプチド(レトロペプチド)又はタンパク質配列(レトロタンパク質)である。
【0069】
「抗体」という用語は、一般に、抗原結合部位、例えば抗原結合断片(Fab)を含む重鎖若しくは軽鎖免疫グロブリン分子又はその任意の機能的組み合わせ若しくは断片を指す。抗体は、好ましくは、細胞受容体、タンパク質、糖タンパク質、多糖又は炭水化物等の膜構造、及び正常細胞又は腫瘍細胞に特異的である。抗体は、完全長免疫グロブリン分子、又は抗体の可変ドメイン断片であり得る。「抗体」という用語は、ナノボディ、二重特異性抗体及びダイアボディ、Fv及びFab、F(ab)、ラクダ科動物及び他の抗原結合足場を包含する。
【0070】
「キメラ」という用語は、異なる遺伝源又は種に由来する成分の組み合わせを指す。例えば、本開示によるキメラ抗体は、1つの抗体由来の免疫グロブリン部分と、本明細書に記載のHDペプチドとを含み得る。キメラ抗体はまた、2つ以上の供給源又は種に由来する免疫グロブリン部分と、HDペプチドとを含み得る。
【0071】
アミノ酸配列に関する「保存的変異体」は、1つ以上の保存的置換を有するアミノ酸配列の変異体を指す。
【0072】
本明細書で使用される場合、用語「保存された置換」又は「保存的置換」及びその文法的変形は、記載された置換又は記載された残基(すなわち、非極性残基を置換する非極性残基、芳香族残基を置換する芳香族残基、極性非荷電残基を置換する極性非荷電残基、荷電残基を置換する荷電残基)とは異なるが、同じクラスのアミノ酸であるHDペプチドの配列中のアミノ酸残基の存在を指す。更に、保存的置換は、野生型残基を置換している残基と同じ符号及び一般に同様の大きさの界面ハイドロパシー値を有する残基を包含し得る。
【0073】
本明細書で使用される場合、「非極性残基」という用語は、グリシン(G、Gly)、アラニン(A、Ala)、バリン(V、Val)、ロイシン(L、Leu)、イソロイシン(I、Ile)、及びプロリン(P、Pro)を指し、「芳香族残基」という用語は、フェニルアラニン(F、Phe)、チロシン(Y、Tyr)、及びトリプトファン(W、Trp)を指し、「極性非荷電残基」という用語は、セリン(S、Ser)、トレオニン(T、Thr)、システイン(C、Cys)、メチオニン(M、Met)、アスパラギン(N、Asn)及びグルタミン(Q、Gln)を指し、「荷電残基」という用語は、負に荷電したアミノ酸アスパラギン酸(D、Asp)及びグルタミン酸(E、Glu)、並びに正に荷電したアミノ酸リジン(K、Lys)、アルギニン(R、Arg)及びヒスチジン(H、His)を指す。アミノ酸の他の分類は以下の通りであり得る。
疎水性側鎖を有するアミノ酸(脂肪族):アラニン(A、Ala)、イソロイシン(I、Ile)、ロイシン(L、Leu)、メチオニン(M、Met)及びバリン(V、Val);
疎水性側鎖を有するアミノ酸(芳香族):フェニルアラニン(F、Phe)、トリプトファン(W、Trp)、チロシン(Y、Tyr);
極性中性側鎖を有するアミノ酸:アスパラギン(N、Asn)、システイン(C、Cys)、グルタミン(Q、Gln)、セリン(S、Ser)及びトレオニン(T、Thr);
荷電側鎖を有するアミノ酸(酸性):アスパラギン酸(D、Asp)、グルタミン酸(E、Glu);
荷電側鎖を有するアミノ酸(塩基性):アルギニン(R、Arg);ヒスチジン(H、His);リジン(K、Lys)、グリシン(G、Gly)及びプロリン(P、Pro)。
【0074】
保存的アミノ酸置換は、得られたHAタンパク質変異体又は修飾HAタンパク質の活性に対して、元の置換又は修飾と同様の効果を有する可能性が高い。保存的置換に関する更なる情報は、例えば、Ben Bassat et al.(J.Bacteriol,169:751-757,1987)、O’Regan et al.(Gene,77:237-251,1989)、Sahin-Toth et al.(Protein ScL,3:240-247,1994)、Hochuli et al(Bio/Technology,6:1321-1325,1988)並びに広く使用されている遺伝学及び分子生物学の教科書に見出すことができる。
【0075】
Blosumマトリクスは、ポリペプチド配列の関連性を決定するために一般的に使用される。Blosumマトリクスは、信頼されたアラインメントの大規模なデータベース(BLOCKSデータベース)を使用して作成され、このデータベースでは、いくつかの閾値パーセント同一性未満だけ関連するペアワイズ配列アラインメントがカウントされた(Henikoff et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:10915-10919,1992)。BLOSUM90マトリクスの高度に保存された標的頻度に対しては、90%同一性の閾値を使用した。BLOSUM65マトリクスに対しては、65%同一性の閾値を使用した。Blosumマトリクスの0以上のスコアは、選択された同一性パーセントで「保存的置換」と見なされる。以下の表は、例示的な保存的アミノ酸置換を示す:表1。
【0076】
【表1】
【0077】
理論に拘束されることを望まないが、ハイドロパシー(個々のアミノ酸に対するハイドロパシー指標を使用することによって)増加させることによって、結合のレベルが増加し得るが、一方ハイドロパシーの低下は自己結合を減少させ得ると考えられる。
【0078】
いくつかの実施形態において、HDペプチド配列は、本明細書に記載のHD抗体の架橋能を高めるために修飾され得る。一実施形態において、そのような機能的に増強されたペプチドは、テンプレート配列内の各アミノ酸位置に置換を有する一連の合成ペプチドを生成し、次いで、このペプチドのライブラリーを、自己親和性結合又は元のペプチド配列への結合について試験することによって決定される。次いで、元の配列よりも優れた結合を有するそれらのペプチドを免疫グロブリンにコンジュゲートし、得られたコンジュゲートを、効力、特異性、及び凝集を誘導する望ましくない能力について試験する。1つの特定の実施形態において、T15ペプチド配列は変更され、修飾された配列は、機能を増強するために選択される。本発明の別の実施形態において、ペプチドの自己結合能は、米国特許第4,863,857号(Blalockらに発行)に記載されているように、配列の相補性を増加させることによって高めることができる。ペプチドの自己結合能及び/又は寛容はまた、非ヒト動物に由来する自己結合性ペプチド配列をヒト化することによって増強され得る。ペプチド配列をヒト化することは、ヒトにおける発現又は機能性のために配列を最適化することを含む。ペプチド及びタンパク質をヒト化する例及び方法は、他の場所で説明されている(Roque-Navarro et al.,2003;Caldas et al.,2003;Leger et al.,1997;Isaacs and Waldmann,1994;Miles et al.1989;Veeraraghavan et al.,2004;Dean et al.,2004;Hakenberg et al.,2003;Gonzales et al.,2004;及びH.Schellekens,2002)。
【0079】
「発現構築物」という用語は、発現されるペプチド又はタンパク質をコードする核酸配列を含む組換え核酸配列を指す。発現されるペプチド又はタンパク質をコードする核酸は、発現されるペプチド又はタンパク質の発現を促進する1つ以上の調節核酸配列に作動可能に連結される。核酸配列は、それらが機能的関係にある場合に作動可能に連結される。調節核酸配列は、例示的には、プロモーター、エンハンサー、DNA及び/若しくはRNAポリメラーゼ結合部位、リボソーム結合部位、ポリアデニル化シグナル、転写開始部位、転写終結部位又は内部リボソーム進入部位(IRES)である。発現構築物は、発現ベクター及び/又はクローニングベクター等のベクターに組み込むことができる。「ベクター」という用語は、核酸を移入するための組換え核酸ビヒクルを指す。例示的なベクターは、プラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージである。特定のベクターは当技術分野で公知であり、当業者は、特定の目的のための適切なベクターを認識するであろう。
【0080】
相同二量体化(HD)ペプチド
【0081】
本出願は、改善された自己結合を有する相同二量体化(HD)ペプチドを記載し、T15及びR24 HDペプチドで例示される(実施例1を参照されたい)。T15ペプチド及び他のHDペプチドの自己結合性及びハイドロパシー特性の分析は、改善された自己結合をもたらし得るアミノ酸置換を予測するのに有用なモチーフをもたらした。
【0082】
本明細書に記載の例示的な相同二量体化ペプチドを、以下の表2に要約する。
【0083】
【表2】
【0084】
免疫グロブリン成分の実質的に同一のアミノ酸配列は、本発明の特定の実施形態において本明細書に開示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、80%、85%、90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、99%又はそれを超える%同一のアミノ酸配列を有し、ここで、実質的に同一のタンパク質は、それが実質的に同一である参照タンパク質と比較して実質的に同様の又はより良好な機能を保持する。当業者によって理解されるように、遺伝暗号の縮重は、2つ以上の核酸が特定の免疫グロブリン成分をコードするようなものであり、これらの代替配列は本発明の範囲内であると考えられる。
【0085】
配列番号4及び8~10の25量体と実質的に同一のアミノ酸配列は、特定された自己親和性アミノ酸配列の20個以上の連続アミノ酸と少なくとも70%、80%、85%、90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一のアミノ酸配列を有する、少なくとも20個の連続アミノ酸、より好ましくは少なくとも22個の連続アミノ酸を有する。配列番号3及び6の14量体と実質的に同一のアミノ酸配列は、特定された自己親和性アミノ酸配列の10個以上の連続アミノ酸と少なくとも70%、80%、85%、90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一のアミノ酸配列を有する、少なくとも10個の連続アミノ酸、より好ましくは少なくとも8個の連続アミノ酸を有する。同じことがHD二量体における各アミノ酸配列、例えば配列番号5、7、11、12及び13に当てはまる。リンカーは必ずしもgly-glyである必要はなく、任意の他の適切なリンカーであってもよい。
【0086】
配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19の配列と少なくとも70%、80%、85%、90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%のアミノ酸配列又はそれらの間の任意の量の同一性又は類似性を有するアミノ酸配列。
【0087】
実質的に同一のアミノ酸配列は、1つ以上の保存的置換を含んでもよく、保存的変異体と称され得る。本明細書に記載のHDペプチドと実質的に同一であるペプチドは、実質的に同一である参照の自己親和性ペプチドと比較して、実質的に同様の又はより良好な自己親和性機能を保持する。
【0088】
ホモ二量体化抗体(自己親和性自己結合抗体又はHD抗体とも呼ばれる)
【0089】
本開示は、対応する抗原に対する抗体特異性を変化させることなく、抗体の生物学的及び免疫学的活性を増強する抗体-ペプチド融合タンパク質の生成を記載する。具体的には、本開示は、T15由来の完全若しくは部分的な自己親和性24merペプチド又はR24由来の17merペプチドを含む抗体融合タンパク質の生成を提供する。HDペプチドは、逆配置で、二量体として、又は親水性置換を伴って提供され得る。
【0090】
任意の抗体由来のCDRが、本明細書に記載のペプチド/抗体複合体において使用され得る。好ましい抗体は、免疫調節又はチェックポイント阻害剤に結合するものである。例えば、CDR配列は、PD-1/PD-1L又はCTLA-4に特異的であり、T細胞活性化のための活性を発現する抗体をコードし得る。ペプチド長に対する任意の制限は、ペプチド合成に関連する実際的な制限であり、本開示の方法の実施に関連する制限ではない。他の好ましいCDR配列は、リツキシン、ハーセプチン及び/又はアバスチン等のFDA承認抗体に由来する。
【0091】
組換えモノクローナル抗体は、免疫原性を低下させるという主な目的のためにヒト抗体フレームワークに挿入された非ヒト種(典型的にはマウス)のCDR(抗原結合配列)の遺伝子を用いて作製されている。これらの組換え抗体はエフェクター細胞及びヒト補体と相互作用する能力を有するが、治療活性は、もしあれば、抗原/抗体相互作用の性質のために元のCDR配列から通常付与される。
【0092】
抗体に結合したHDペプチドは、標的に結合した抗体及び他の標的に結合した抗体との自己結合相互作用のみによって結合した抗体の両方を組み込んだ細胞表面の格子の形成を可能にする。これは、細胞表面抗原の格子形成及び架橋を可能にするだけでなく、抗原エピトープに結合した抗体の典型的な1:1比よりも高い比も可能にする。フローサイトメトリー分析に基づくと、この比は、少なくともいくつかの抗原抗体系では、50~100倍にもなり得る。実際に、HD修飾抗体の結合のこの大幅な増加は、HD抗体の特質であり、組換え抗体及び化学的にコンジュゲートされた抗体の評価のための初期アッセイとして使用される。
【0093】
抗体が自己会合し、格子を形成し、標的抗原を架橋することを可能にする相同二量体化配列(HD)の発見は、抗原結合CDR配列とは無関係であり、したがって多くの抗原/抗体系に適用可能な組換えモノクローナル抗体に治療活性を付与する機会を提供する。そのようなペプチド配列は、ヌクレオチド結合部位を介して抗体に以前に化学的にコンジュゲートされ、融合タンパク質のFc領域のC末端に挿入されている。前者の方法論は、部位特異的な様式でHDペプチドを抗体に挿入することを可能にするが、拡張可能な製造プロセスではない。対照的に、後者の手法は拡張可能であるが、最適な活動を可能にしない。抗体における最適なHD活性のために、ペプチドは、隣接する抗体上のHDペプチドと複数のアミノ酸位置で相互作用する必要がある。この自己結合は、HDペプチドのc末端付近にヘアピン構造を形成するペプチドの傾向によって低減され得る。予想外にも、HDペプチド配列は、ペプチドの位置に関する慎重な選択によって、例えばHDペプチド中のアミノ酸の順序を逆にすることによって、抗原結合の喪失又はエフェクター機能の低下なしに、組換え抗体に、又は部位特異的コンジュゲーションによって挿入され得ることが見出された。以前の組換え抗体アプローチであるFc領域のC末端への挿入時のHD活性の喪失の問題は、HDペプチドのC末端がその好ましいヘアピン構造を形成することを可能にしない通常の配列順序(N末端からc末端)を逆転させることによって克服された。同様の結果は、HDペプチドを順配置又は逆配置のいずれかで二量体化し、2つのHDペプチドをgly-gly等のリンカーで連結することによっても達成され得る。
【0094】
原型的なヒト抗体形態又はヒト化IgG1抗体形態以外の他の抗体形態にHD技術を組み込むことにより、結合が大幅に増強されるため、それらの治療活性又は診断活性が改善されるであろう。そのような抗体形態には、ナノボディ、二重特異性抗体及びダイアボディ、Fv及びFab、F(ab)2、ラクダ科動物及び他の抗原結合足場(Hoglan Yu,Abhiskek Saxena,Sachdev S.Sidhu,Donghui Wu,Frontiers of Immunology 8:Article 38,2017でレビューされている)が含まれるが、これらに限定されない。
【0095】
血清半減期、抗体依存性細胞傷害、補体結合又は補体媒介性死滅を増加又は減少させるためにFc領域内で修飾された組換え抗体形態の群はまた、HD技術による抗原結合の増加が治療活性又は診断活性を増強し得る抗体形態を表す(Abhishek Saxena&Donghui Wu,Frontiers in Immunology,7:Article 580,2016でレビューされている)。本発明の組換え抗体形態は、これらの参照形態によって限定されない。
【0096】
本発明による抗体は、それらの標的抗原に最初に結合した後に初めて自己に自発的に結合することができる。本発明のホモ二量体化抗体は、好ましくは、それらの標的抗原、通常は細胞表面膜貫通受容体に結合した場合、他のそのようなコンジュゲート抗体と非共有結合的にする。
【0097】
本発明のホモ二量体化抗体は、典型的には、HDペプチド配列を有する1つ以上のペプチドとコンジュゲートした抗体を含む。本発明のホモ二量体化抗体は、実質的に任意の免疫グロブリンを含むことができる。いくつかの実施形態において、抗体は、疾患又は障害に関与する標的に結合し、標的の結合は、疾患又は障害に対する治療効果を有する。標的抗原は、膜貫通受容体を含む細胞表面抗原を含むことができる。特定の実施形態において、抗体のIg成分は、モノクローナル抗体を含むことができる。
【0098】
本発明は、稀な天然に存在する自己親和性抗体の自己結合特性を模倣する自己結合特性を有する抗体を提供する。それにより、本発明は、共有結合二量体化及び抗体の治療可能性を高めることを目的とした他の工学的アプローチに対する単純で魅力的な代替法を提供する。
【0099】
発現系
【0100】
本発明は、抗原結合ドメイン及びHDペプチドを有する免疫グロブリン重鎖をコードする発現ベクターで形質転換された単離宿主細胞を提供する。特定の実施形態において、単離宿主細胞はまた、抗原結合ドメインを有する免疫グロブリン軽鎖をコードする発現ベクターで形質転換され、免疫グロブリン重鎖の抗原結合ドメイン及び免疫グロブリン軽鎖の抗原結合ドメインは、共に抗原結合部位を形成する。本発明の組換え自己親和性抗体を産生するための単離宿主細胞は、インビトロであってもよい。HD抗体発現のための発現系には、例示的に、哺乳動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、酵母細胞及び両生類細胞等の真核細胞、並びに細菌等の原核生物発現系が含まれる。当業者は、組換えHD抗体の産生に使用するための特定の発現系を選択することができる。
【0101】
HDペプチドの位置
【0102】
米国特許出願公開第20030103984号に見られるように、これまでは、HDペプチド配列をFc領域のc末端に挿入することのみが実用的であると考えられていた。これは、mAbの他の領域へのHDペプチドの挿入が、抗原結合又は潜在的な治療活性、例えばADCC又は補体結合等を低減又は妨害し得るという懸念によるものであった。実際に、公開されたデータは、T15抗体に由来する24merのHD配列が、合成及びアッセイされた場合三次元立体配座を発現することを示し、それを抗体にコード化することは、ペプチドの3D構造を打ち消すだけでなく、近くのCDRの抗原結合を損なう可能性がある。Fc末端構築物における自己会合活性(Kohler,H,Rector,K&Amick J.,Hybridoma 2012(6):395-402)が、ヌクレオチド親和性部位化学コンジュゲートと比較して説明されたが、活性は低下した(データは示さず)。
【0103】
本発明の好ましい実施形態では、HDペプチドは、抗体内の3つの位置のうちの1つ、例えばIgGに局在する。
【0104】
1つ目は、重鎖又は軽鎖のCDR3の直後である。この形態では、Ig分子は、gly-gly又は同様のスペーサーが先行する最もc末端の部分に本明細書に記載の最適化された配置のいずれかでコードされたHDペプチドを有する一本鎖Fvとして発現され得る。抗体の抗原結合部分に近接しているにもかかわらず、この位置は、抗原結合の低減なしに最大の自己会合を付与することができる。この位置での抗原結合の保持は全く予想外であった。というのも、我々、すなわち当初の技術の発明者らは、これが全くあり得ないと考えたため、我々は、実際には以前に、自己会合から抗原結合を分離することができる最も遠い部分である全IgGのFc領域のc末端に配列を連結した。
【0105】
第2の部位は、gly-glyスペーサーが先行する重鎖定常領域又は軽鎖定常領域のすぐc末端にある。これは、Fabと表され得る。この形態では、Fabはまた、標的抗原への結合についてアッセイされたナイーブ又は免疫化ファージ発現ライブラリーの一部であり得る。HDペプチドを使用すると、更に低親和性抗体の結合の増強及び特定が可能になる。
【0106】
第3の部位は、HD配列が、gly-gly又は他のスペーサーが先行するFc領域のc末端にクローニングされる部位である。HDペプチドがHDペプチドの二量体である実施形態では、通常の配置又は逆配置において、gly-gly又は代替スペーサーによる2つのHDペプチドの分離は、立体阻害を克服するための抗体のc末端構築物に特に関連する。最初の試験では、この形態のHDペプチドは、より高い相互作用アビディティを有する。
【0107】
ホモ二量体化(自己親和性)抗体を生成する方法
【0108】
様々な部位特異的化学的コンジュゲーション法によって作製されたHDペプチド修飾抗体を使用して、完全に活性な自己結合抗体を作製することもできる。HDペプチドを抗体分子に付着させるための多数の方法が当業者に知られているであろう。1つの方法は、米国特許出願公開第20040185039号に記載されている親和性架橋法等の化学架橋の使用である。そのような方法は当初、Fabの重鎖の末端に局在する抗体のヌクレオチド結合部位にペプチドを連結することができることから採用された。この親和性部位は、結合の親和性を低下させることなくペプチドの挿入を可能にし、ペプチドの自己会合活性を保持する。HD-ペプチドの炭水化物へのコンジュゲーションと比較した場合、炭水化物を介したコンジュゲーションが抗体に結合したペプチドをより多くもたらしたとしても、抗原結合領域付近のそのような部位特異的コンジュゲートはより活性であった(J.Immunol Methods:(2005)304:100-106,トリプトファン含有ペプチドを用いた抗体の光活性化親和性部位架橋(Photo-activated affinity-site cross-linking of antibodies using tryptophan containing peptides),Mike Russ,Dingyuan Lou,Heinz Kohler)。しかしながら、方法論の要素、すなわち光活性化ステップのために、この方法のための結合のための製造プロセスは、拡張可能ではなく、少量のコンジュゲートを生成するためにのみ有用である。
【0109】
部位特異的コンジュゲーションの第2の方法、すなわちスマートタグ技術が、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)と共に使用するために開発された(Wu,P.,et al.,遺伝子的にコードされたアルデヒドタグのための使用による、哺乳動物細胞において産生された組換えタンパク質の部位特異的化学修飾(Site-specific chemical modification of recombinant proteins produced in mammalian cells by using for genetically encoded aldehyde tag),Proc Natl Acad Sci U S A,2009.106(9):p.3000-5)。そのような技術又は同様の部位特異的技術をHDペプチドと共に使用することにより、拡張性の問題を克服することができる。
【0110】
或いは、組換え法が使用されてもよい。例えば、抗体をコードする核酸配列とペプチドをコードする核酸配列とを含む融合遺伝子が調製されてもよく、ペプチドをコードする核酸配列は、融合が発現される場合、それによって形成される融合タンパク質が抗体とペプチドとを含む部位で抗体をコードする核酸配列の内側に位置し、ペプチドは、抗体の抗原結合を妨害しない部位で抗体に結合し、融合遺伝子を発現して融合タンパク質を形成する。特に、融合タンパク質は、抗体をコードする遺伝子を提供することによって形成され得、遺伝子は、制限部位を含有するように変異されており、制限部位は、抗体のCDR3のすぐC末端に、又は抗体の重鎖可変領域のすぐc末端に、又は抗体のc末端上に位置する。マウス又は他のヒト又は非ヒト供給源の、HDペプチドをコードするヒトIgGフレームワークとのCDR交換によって生成されたヒト化抗体は、融合遺伝子によって発現され得る。
【0111】
融合タンパク質を作製する方法は、例えば、以下の米国特許に記載されている:Mascarenhasらへの米国特許第5,563,046号;Fell,Jr.への米国特許第5,645,835号;Murphyへの米国特許第5,668,225号;Nemazeeへの米国特許第5,698,679号;Whitlowらへの米国特許第5,763,733号;Quertermousらへの米国特許第5,811,265号;Changらへの米国特許第5,908,626号;Bonaらへの米国特許第5,969,109号;Epsteinらへの米国特許第6,008,319号;Seedへの米国特許第6,117,656号;Whitlowらへの米国特許第6,121,424号;Ledbetterらへの米国特許第6,132,992号;Hustonらへの米国特許第6,207,804号;及びSegalへの米国特許第6,224,870号。Ig融合タンパク質を作製する方法は、例えば、Antibody Engineering,2nd Edition.ed.:Carl A.K.Borrebaeck,Oxford University Press 1995、及びMolecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Ed.,Cold Spring Harbor Press,1989に記載されている。
【0112】
特定の実施形態において、本明細書に記載のHDペプチド又は実質的に同一のHDペプチドをコードするDNA配列は、免疫グロブリン重鎖及び/又は免疫グロブリン軽鎖をコードするDNA配列とインフレームで挿入される。DNA配列から発現される融合タンパク質(又はHD抗体)は、前記HDペプチドを有する免疫グロブリン重鎖及び/又は免疫グロブリン軽鎖を含む。
【0113】
免疫グロブリン重鎖又は免疫グロブリン軽鎖をコードする核酸は周知であり、免疫グロブリン重鎖又は免疫グロブリン軽鎖をコードする様々な核酸のいずれかを使用して、本発明の組換えキメラHD抗体を産生することができる。ヒト定常重鎖及び/又はヒト定常軽鎖、特にヒトガンマ定常重鎖及びヒトカッパ定常軽鎖をコードする特定の核酸が本明細書に記載される。ヒトガンマ定常重鎖及び/又はヒトカッパ定常軽鎖をコードする核酸は、Progen Biotechnik GmbHから入手可能なベクターpAc-k-CH3等の商業的供給源から得ることができる。ヒトガンマ定常重鎖及び/又はヒトカッパ定常軽鎖を含む、本明細書に記載のタンパク質及び/又はペプチドをコードする核酸は、クローニング又は合成等の組換え技術を使用して生成することができる。特定の免疫グロブリン定常重鎖及び/又は免疫グロブリンカッパ定常軽鎖は、例えば、米国特許第5,736,137号及び第6,194,551号に記載されている。
【0114】
IgG融合タンパク質
【0115】
Ig融合タンパク質は、特異性及び/又は抗体エフェクター機能を固有の特性に寄与する分子と組み合わせた抗体を結合するという利点を有する。このタンパク質ファミリーを生成する能力は、c-mycが抗体分子のFcに置換されたときに最初に実証された(Neuberger M S,Williams G T and Fox R O.Nature 125:604,1984)が、現在は多くの例が存在する。Ab融合タンパク質は、いくつかの異なる方法で達成することができる。1つのアプローチでは、非Ig配列が可変領域のために置換され、V領域を置換する分子は、エフェクター機能及び改善された薬物動態等の特性に寄与する抗体による標的化の特異性を提供する。例としては、IL-2及びCD4が挙げられる。或いは、非Ig配列は、定常領域に置換又は結合され得る。得られた分子は、元の抗体の結合特異性を保持するが、結合したタンパク質から特徴を得る。置換の位置に応じて、異なる抗体関連エフェクター機能及び生物学的特性が保持される。
【0116】
IgG融合タンパク質の構築のためのベクター
【0117】
抗体分子内の異なる位置でのタンパク質の融合を可能にし、それによって異なる特性を有する融合タンパク質の構築を容易にする一連のベクターが生成されている。これらのベクターを使用して、異なる分子量、価数の分子を有し、抗体分子の機能的特性の異なるサブセットを有する融合タンパク質のファミリーを生成することが可能である。
【0118】
融合遺伝子の構築を促進する方法の具体例として、部位特異的突然変異誘発を使用して、ヒトIgG3重鎖遺伝子に固有の制限酵素部位を生成した。この特定の例では、CH1エクソンの3’末端、CH2エクソンの5’末端のヒンジの直後、及びCH3エクソンの3’末端に制限部位が生成された。このようにして生成された制限部位は、TtgGTgをTacGTaで置き換えることによってCH1の末端にあるSnaBI、CAcCTGをCAgCTGで置き換えることによってCH2の初めにあるPvu II、及びAATgagをAATattで置き換えるCH3の終わりにあるSspIであった。これらの操作は、これらの位置に固有の平滑末端クローニング部位を提供した。全ての場合において、切断後にIgがコドンの最初の塩基に寄与するように制限部位が配置された。62アミノ酸の拡張ヒンジ領域を有するヒトIgG3が免疫グロブリンとして使用するために選択され、存在する場合、このヒンジは間隔及び柔軟性を提供し、それによって抗原と受容体の同時結合を容易にするはずである。EcoR I部位もまたIgG 3遺伝子の3’に導入され、3’クローニング部位及びポリA付加シグナルが提供された。これらの制限部位は、成長因子との使用のために最初に設計されたが、任意の新規な配列を抗体の所定の位置に配置するために使用され得る。また、これらのクローニングカセットを用いることにより、可変領域を容易に変更することができる。同様の技術を使用して、他の抗体遺伝子に適切な制限部位を生成することができる。
【0119】
融合遺伝子の生成
【0120】
融合タンパク質の生成における第1のステップとして、平滑末端制限部位を、融合される遺伝子の5’末端の所望の位置に導入しなければならない。正しいリーディングフレームを維持するために、部位は、切断後にコドンに2塩基を寄与するように配置されなければならない。完全分子との融合タンパク質を作製することが目的である場合、制限部位は、通常、リーダー配列の後等の任意の翻訳後プロセシングの位置に導入される。或いは、タンパク質の一部のみを使用することが目的である場合、平滑末端部位は、遺伝子内の任意の位置に導入することができるが、正しいリーディングフレームを維持することに常に注意を払わなければならない。更に、融合タンパク質のカルボキシル末端翻訳後プロセシングがある場合、このプロセシング部位に停止コドンを導入することがしばしば望ましい。
【0121】
融合タンパク質を生成する際の主な懸念は、全ての成分の生物学的活性を維持することである。抗体との融合タンパク質の生成は、抗体のドメイン構造によって促進され、クローニング部位は全て、インタクトなドメインの直後に配置されている。この配置では、免疫グロブリンの正しい折り畳みが保証されるべきである。結合したタンパク質の折り畳みは、その構造及び融合される場所に依存する。構造情報が利用可能であるときはいつでも、結合したタンパク質の構造的完全性を維持する位置で融合を生成することが望ましい。
【0122】
機能分析に十分な量のタンパク質を生成するために、タンパク質を培地に分泌させることが望ましい。これまでに報告された例では、組み立てられた融合タンパク質が組み立てられ分泌されているが、これは依然として、追加の融合タンパク質を設計する際の懸念事項である。
【0123】
重鎖又は軽鎖遺伝子の一部として生物学的活性ペプチドを含む融合遺伝子を設計する方法は、確立された抗体工学プロトコル(Antibody Engineering,2nd Edition.ed.:Carl A.K.Borrebaeck,Oxford University Press 1995.Chapter 9,pages 267-293)を使用することができる。ペプチドは、H鎖又はL鎖のN末端残基又はC末端残基のいずれかに融合され得る。そのような融合遺伝子の発現は、典型的には哺乳動物細胞株で行われるが、例えば細菌又は酵母発現系等の他の発現系が使用されてもよい。
【0124】
医薬組成物
【0125】
本発明はまた、本発明のホモ二量体化抗体と、薬学的に許容される担体とを含む組成物に関する。
【0126】
本発明の抗体は、適切な量の活性成分を含有する、単位剤形、滅菌溶液又は懸濁液、滅菌非経口溶液又は懸濁液、経口溶液又は懸濁液、水中油又は油中水エマルジョン等のヒト及び動物への全身投与のための医薬組成物において有用である。局所適用は、軟膏、クリーム、ローション、ゼリー、スプレー、洗浄器等の形態であり得る。組成物は、約1~20%、好ましくは約5~15%の組成物中の担体又はビヒクルを含む活性成分の医薬組成物(重量%)に有用である。
【0127】
上記の非経口溶液又は懸濁液は、経皮的に投与されてもよく、所望される場合、より濃縮された徐放形態が投与されてもよい。本発明の融合タンパク質は、静脈内、筋肉内、腹腔内又は局所投与され得る。したがって、活性化合物の徐放性マトリクスへの組み込みが、経皮投与のために実践され得る。本発明の目的のために許容される医薬担体は、薬物、宿主、又は薬物送達デバイスを含む材料に悪影響を及ぼさない当技術分野で公知の担体である。担体はまた、本発明の浸透促進剤と共に、保存剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤等を含有してもよい。哺乳動物に対する有効投薬量は、処置される対象の年齢、体重活性レベル又は状態等の因子に起因して変動し得る。典型的には、本発明による化合物の有効投薬量は、溶液中で少なくとも1日1回投与される場合、約10~500mgである。投与は、適切な間隔で繰り返されてもよい。
【0128】
コンジュゲート自己親和性抗体は、それらの標的抗原に結合した場合、他の自己親和性抗体と非共有結合的に結合することができる。しかしながら、抗体の二量体又は多量体の早すぎる形成は、精製及び濃縮中等の製造における困難性、並びに副作用をもたらし得る投与における欠点をもたらし得る。したがって、本発明の親油性抗体-ペプチドコンジュゲートを含有する組成物は、溶液中及び投与前に、この二量体化能を低減し、単量体特性を最大化するように製剤化される。例えば、溶液二量体化は、高張性組成物を使用することによって低減又は緩和され得ることが見出されている。いくつかの実施形態では、0.5M以上の塩濃度、低レベルのSDS若しくはアニオン性のもの等の他の様々な界面活性剤(参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,151,266号を参照されたい)、又は例えば無水コハク酸の使用によるその等電点を減少させるための抗体の修飾(参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,322,678号を参照されたい)が、組成物の製剤化に使用され得る。
【0129】
イムノアッセイ
【0130】
本発明によれば、生物学的試料又は環境試料中の分析物を、自己親和性ペプチドにコンジュゲートさせた抗体と接触させることを含むイムノアッセイが提供される。次いで、分析物と自己親和性ペプチドにコンジュゲートされた抗体とによって形成された複合体が検出される。
【0131】
特定の実施形態において、本発明のアッセイは、天然に、又は抗体への自己親和性ペプチドのコンジュゲーションのいずれかにより自己親和性ペプチドを含有する抗体を使用して、細胞表面等に低レベルで発現される抗原を検出することを特徴とする。
【0132】
高特異性抗体の使用は、多くの診断用途において一般的である。前記抗体の結合は、いくつかの手段によって直接検出されてもよく、或いは、シグナル増強及び検出のために二次抗体が必要とされる。以前は、シグナル検出は、標的に一価又は二価のいずれかで結合した抗体の結合量に直接関連していた。本発明において、増強されたシグナル強度は、標的分析物に結合した自己親和性ペプチドコンジュゲート抗体の多価結合相互作用に起因する。
【0133】
直接的又は間接的に検出されるかどうかにかかわらず、自己親和性ペプチドコンジュゲート抗体は、格子形成及び標的を取り囲むより多くの抗体のためにシグナル検出を大きく増強する。したがって、天然に存在する自己親和性抗体及び天然に存在しない自己親和性ペプチド結合抗体は、イムノアッセイにおいて増強されたシグナルをもたらす検出可能な標識で直接標識され得る。同様に、二次抗体の標識等の間接的な標識は、二次抗体が一次自己親和性ペプチドコンジュゲート抗体に結合する数が増加するため、イムノアッセイにおいてシグナルの増加をもたらす。
【0134】
本発明のアッセイの実施形態において、ELISA等のアッセイにおいて、プラスチック等の基板上に固定化された抗原のシグナル検出を増強するために、天然に存在する自己親和性抗体又は相同二量体化(HD)ペプチドにコンジュゲートされた抗体が使用される。
【0135】
本発明のアッセイの実施形態において、ポリマーチップにコーティング又は結合され、表面プラズモン共鳴によって検出される抗原のアビディティを増強「オフレート」又は増加させるために、天然に存在する自己親和性抗体又は相同二量体化(HD)ペプチドにコンジュゲートされた抗体が使用される。
【0136】
本発明のアッセイの実施形態において、インビボで、例えば異種移植腫瘍動物モデルにおいて、蛍光又は他のシグナル検出方法によって標的に結合した抗体の結合及び局在化検出を増強するために、天然に存在する自己親和性抗体又は相同二量体化(HD)ペプチドにコンジュゲートさせた抗体が使用される。
【0137】
本発明の実施形態によるアッセイは、分析物の検出を増強するための1つ以上の相同二量体化(HD)ペプチドとコンジュゲートした実質的に任意の免疫グロブリンを含み得る。
【0138】
「分析物」という用語は、例示的に、タンパク質、ペプチド、ハプテン、炭水化物、脂質、ガングリオシド及びこれらの組み合わせを含む、自己親和性ペプチドにコンジュゲートされた抗体によって特異的に認識される任意の分子又は化合物を指す。特定の実施形態において、分析物は、例示的に、例えば哺乳動物の正常細胞又は異常細胞によって生成されたタンパク質、ペプチド、ハプテン、炭水化物、脂質、ガングリオシド又はそれらの組み合わせを含む哺乳動物分析物であってもよい。
【0139】
更なる特定の実施形態において、分析物は、細菌又はウイルス等の微生物によって生成される、タンパク質、ペプチド、ハプテン、炭水化物、脂質、ガングリオシド又はそれらの組み合わせ等の非哺乳動物分析物であってもよい。したがって、微生物及び/又は微生物の産物の検出のための本発明の特定のアッセイが提供される。例えば、ヒト又は非ヒト動物から得られた試料をアッセイして感染を検出するために、微生物及び/又は微生物の産物の検出のためのアッセイが使用される。更なる実施形態において、微生物及び/又は微生物の産物による汚染について試験される環境又は対象から得られた試料をアッセイするために、微生物及び/又は微生物の産物の検出のためのアッセイが使用される。
【0140】
本発明のアッセイの実施形態において、標的分析物は、B細胞受容体、CD20、Her2、ガングリオシドGM2、グリコール酸ガングリオシドGM3、GD3ガングリオシド、カスパーゼ、酸化低密度リポタンパク質、ホスホコリン、EGFR、CD32B、HLADR1、CD19、EpCAM、PSA及び細菌抗原、例えばブドウ球菌抗原である。
【0141】
本発明のいくつかの実施形態において、診断及び予後イムノアッセイが提供される。「診断イムノアッセイ」という用語は、動物又はヒト対象における疾患又は病理学的状態を示す分析物の存在又は量の決定を可能にするイムノアッセイを指す。「予後イムノアッセイ」という用語は、動物又はヒト対象における疾患又は病理学的状態の進行を示す分析物の存在又は量の決定を可能にするイムノアッセイを指す。
【0142】
キット
【0143】
本発明の実施形態において、抗体相同二量体化(HD)ペプチドコンジュゲートを使用してアッセイを行う際に使用するためのキットが提供される。特定の実施形態において、キットは、抗体相同二量体化(HD)ペプチドコンジュゲートと、試料中の分析物の検出に使用するための説明書とを含む。
【0144】
処置方法
【0145】
本発明の相同二量体化(HD)抗体又は相同二量体化(HD)抗体を含む組成物を使用する、アポトーシス、補体固定、エフェクター細胞媒介性の標的殺傷を増強する、又は疾患状態の発症若しくは増強を予防する方法もまた企図される。一実施形態において、本発明の自己親和性コンジュゲート又は本発明の自己親和性コンジュゲートを含有する組成物が対象に投与される。投与されると、抗体は標的細胞に結合し、アポトーシス、補体固定、標的のエフェクター細胞媒介性死滅を増強するか、又は標的抗原若しくは細胞が疾患状態の発生を刺激するか若しくは更に増強するのを防止する。更なる実施形態において、自己親和性コンジュゲートが標的細胞に結合し、アポトーシス、補体固定、標的のエフェクター細胞媒介性死滅を増強するか、又は標的抗原若しくは細胞が疾患状態を更に増強するのを防止し、自己親和性コンジュゲートが正常組織から除去される時間を考慮して、第2の抗自己親和性ペプチド抗体を投与することができる。
【0146】
いくつかの態様において、衰弱性又は潜在的に生命を脅かす疾患又は状態に罹患している患者に、疾患又は状態の症状を緩和するのに有効な量の少なくとも1つの主題の相同二量体化(HD)抗体が投与される。本発明の抗体による治療のために企図される疾患又は状態は、悪性腫瘍、新生物、がん、自己免疫障害、アルツハイマー病若しくは他の神経変性状態、又は移植片若しくは移植拒絶であり得る。
【0147】
いくつかの態様において、患者の標的細胞のアポトーシスを増強する方法は、第1の相同二量体化(HD)抗体-ペプチドコンジュゲート、及びコンジュゲートのペプチドドメインを認識する第2の抗体を投与するステップを含む。この実施形態において、抗体-ペプチドコンジュゲートは、標的細胞の膜貫通受容体の細胞外領域を認識する。そのホモ二量体化特性のために、抗体-ペプチドコンジュゲートは、自己結合ペプチドドメインを欠く対応する抗体よりも積極的に標的に結合し得る。更に、自己親和性抗体が2つ以上の受容体に結合する場合はいつでも、それらの受容体は抗体の自己結合特性により近接しているため、細胞内のアポトーシスシグナルが誘発され得る。コンジュゲートのペプチドドメインが露出したエピトープを提示する場合、自己親和性ペプチドに特異的な第2の抗体が投与され、修飾された抗体に結合し、架橋のプロセスを強化し、更には標的抗原の一時的なクリアランスを引き起こすことができる。標的抗原が受容体である場合、細胞表面からのクリアランス、エンドサイトーシス及び分解は、その後、新しい受容体タンパク質の合成を必要とし、これは、受容体の生物学的機能が、単純なブロッキング抗体又は小分子阻害剤のいずれかを使用するよりも長期間にわたってより効果的に阻害されることを意味する。或いは、第2の抗体は、放射性標識又は他の潜在的な治療物質を担持することができ、したがって、投与されると、標的細胞を攻撃することができる。この第2の抗体を使用する鍵は、その抗体の特異性である。相同二量体化(HD)ペプチドは、天然に存在するが、少数のマウス免疫グロブリン上にのみ存在する。したがって、このペプチドに特異的な抗体は、インビボで使用されるのに必要な選択性を有するであろう。
【0148】
疾患
【0149】
本発明の抗体による治療のために企図される疾患又は状態は、悪性腫瘍、新生物、がん、アテローム性動脈硬化症、自己免疫障害、アルツハイマー病若しくは他の神経変性状態、移植片若しくは移植拒絶、又は抗体療法に応答する任意の他の疾患若しくは状態であり得る。
【0150】
用量
【0151】
本明細書に記載の相同二量体化(HD)抗体は、非修飾抗体に対して実行可能なものと実質的に同一又はそれ未満の1つ以上の投薬量で投与され得る。
【表3】
【0152】
以下の例は、本発明のある特定の態様を説明するために提示され、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0153】
本発明を以下の例において更に説明する。
【0154】
【0155】
例1-最適化された自己結合の可能性を有するHDペプチド
【0156】
T15に由来する24merペプチド配列を分析し、個々のアミノ酸のハイドロパシースコア及び全体的なペプチドハイドロパシープロット(Kyte-Doolittle)(非免疫グロブリンタンパク質で通常使用されるタンパク質分析の方法)を使用して、HD活性が限られているか又は全くない同じ生殖系列配置の他の抗ホスホリルコリン抗体と比較した。
【0157】
図1に示されるように、T15ペプチドは、C末端にヘアピン構造を形成する優先性を有し、これは自己結合するその能力を損ない得る(図1B)。元のHD抗体(T15)では、HD配列をCDR3の終わりの部分及びCH1の第1の部分(二次立体配座を許容しない位置)に挿入した。我々は、抗体のc末端にHDペプチドが挿入された組換え形態の抗体では、HDペプチドが自由にヘアピン構造を形成し、自己結合、及び格子形成を介して抗体の治療活性を増強するその能力を低下させると仮定した。同様に、抗体に化学的にコンジュゲートされたT15ペプチドは、通常のN末端からC末端の配置では、自己結合が低減した二次立体配座を形成する能力も有するであろう。更に、小さいHDペプチド配列は、大きい抗体タンパク質との関連において、自己結合に対する立体的制限を有し得る。
【0158】
最初の比較は、正順又は逆順の既知のT15ペプチド配置のものであった(図2及び図3を参照されたい)。元のT15配列(図2の左パネル)の検査は、自己結合がペプチドの配列ハイドロパシープロットと相関することを示している。ペプチドの前半は抗体のCDR2に由来し、後半はCDR間のフレームワークに由来した。その場合、前半は、自己結合を付与し、生殖系列配列から変更されるアミノ酸を含有するであろう。重要なことに、後半のより多くのハイドロパシー残基は、前半のより少ないハイドロパシー残基に結合して自己結合プロセスを開始するのに役立つ。驚くべきことに、我々が逆配列の24merペプチド(図2の右パネル)を調べた場合、c末端にヘアピン構造が存在するにもかかわらず、必要な自己結合配置をとることもできた。次いで、これにより、ペプチドのより重要な前半部分を有する抗体への、前者のc末端(現在はn末端)を介したペプチドのテザリングが可能となり、これによって自己結合が決定され、抗体から更にテザリングされ、他のペプチド/抗体コンジュゲート中の対応する自己結合配列を探索することがより可能になる。
【0159】
最適化可能なモチーフを構築するための自己結合に対する個々のアミノ酸のハイドロパシー寄与の特定は、HD活性が全くないか、ほとんどないか、又は高いMopc抗体の重鎖CDR2/フレームワーク3から抽出された3つの生殖系列配列におけるアミノ酸の相違を比較することによって行った。アミノ酸の個々のアミノ酸ハイドロパシースコア(http://gcat.davidson.edu/DGPB/kd/aminoacidscores.htmで入手可能)を、自己結合に関与するアミノ酸の既知の位置(図4を参照されたい)にプロットした。示されるように、自己結合を可能にするT15ペプチドにおけるアミノ酸変化(高いHD活性)は、置換アミノ酸のハイドロパシースコアにおける特有の変化、すなわち、典型的にはより疎水性のフレームワーク領域への自己結合を可能にするより親水性の置換に関連する。これにより、T15ペプチドの前のCDR2領域への他のアミノ酸の置換が、個々のアミノ酸のハイドロパシー特性を保存する必要があることを予測することができる。また、T15ペプチドの前のCDR2領域内の更なる親水性置換は、ペプチドのより疎水性の高い前のフレームワーク部分との潜在的結合を増加させ得、逆もまた同様であることが明らかになった。より疎水性のアミノ酸をフレームワーク3部分に置換することにより、T15ペプチドのより親水性の部分へのより多くの自己結合が可能になるであろう。この疎水性-親水性相互作用は、自己結合プロセスを開始させる働きをし、これは次いで、自己結合に関与する特定のアミノ酸をもたらし、他の非共有結合相互作用を形成する。全プロセスは、自己結合プロセスの相対的親和性を付与する。いくつかの例示的な単一アミノ酸の保存的置換を表2に示す(例えば、T15-var1、T15-var2及びT15-var3)。
【0160】
理論に拘束されることを望まないが、HDペプチドのハイドロパシーを(例えばアミノ酸の置換によって)増大させることによって、HDペプチドの結合特性が調節され得る、例えば、HDペプチドの結合特性が増大され得ると考えられる。更に、自己結合に対する親和性は、抗体が標的に結合する前に抗体二量体の形成を回避するように最適化され得ると考えられる。したがって、HDペプチドの親和性は、天然に存在するHDペプチドと比較して増加し得るが、依然としてその標的に対する抗体の結合親和性よりも低い。例えば、HDペプチドの結合親和性は、10-4、10-5、10-6、10-7又は10-8であり得る。
【0161】
自己結合の潜在的増加は、単一アミノ酸変異体の合成ペプチド合成、水素原子のトリチウムによる標識、次いで固定化T15ペプチドへの結合の測定によって容易に測定することができる。単一アミノ酸置換ペプチドの陽性変化は、二重又は三重アミノ酸変化として組み込むことができる。最終結果は、より高い自己結合親和性を有するが、抗体の凝集を引き起こすほどではない自己結合ペプチドであることを指摘しなければならない。
【0162】
T15は、天然に存在する唯一のHD抗体及びHDペプチドの供給源ではない。よく研究されている例は、ジシアロガングリオシドGD3に対するR24の例である。T15と同様に、元のマウス抗体における効力の増加は、治療効果を増加させる細胞表面での格子の形成を可能にする自己結合ペプチドの存在に関連していた。図9に示されるように、格子形成を担うR24配列は、逆平行様式で自己結合する。T15と同様に、R24ペプチドは、T15よりも短いが、ペプチドの一方の末端が他方の末端よりもハイドロパシーである対応するハイドロパシープロットを示す(図10を参照されたい)。プロットは、基本的にT15の逆であり、ハイドロパシーは、高い状態から低い状態に変化する代わりに低い状態から高い状態に変化する。このように、配列の反転を介した自己結合の促進、二量体の形成、及びハイドロパシー特性が変化した単一の保存的アミノ酸置換の作製のための同じ原理が自己結合を増加させるのに役立つ。
【0163】
例2-自己親和性/相同二量体化(HD)活性を有する抗体の特定
【0164】
以下の方法は、HDペプチドを組み込んだ抗体の特異的な生物物理学的特性を使用して、抗体調製物又はscFv若しくはFabのファージライブラリーにおけるHD活性について試験する。この方法は、HD抗体のための品質保証(QA)放出アッセイとして使用することもできる。
【0165】
抗体粘度
【0166】
微量希釈チューブ(USA Scientific、Ocala、FL、PBS中1mg/mlのHPC G9又はHPC G11を含む)を標準的な顕微鏡スライドに取り付けた。それらを4℃、20℃及び37℃で平衡化し、密封し、次いで垂直に配置し、次いで水平に配置し、次いで各温度で写真撮影した。
【0167】
粘度平衡の経時測定
【0168】
PBS中の1mg/mlの抗体を含む微量希釈チューブを、4℃又は37℃のいずれかで平衡化した。チューブを3秒間垂直に配置し、次いで水平に配置し、撮影した。メニスカスが運動を停止するのに必要な時間を、ストップウォッチを使用して測定した。
【0169】
結果
【0170】
ホモ二量体の温度依存平衡:HPC G9/HPC G11はIgG抗ホスホコリン抗体のアイソフォームであり、HPC G11はTEPC-15のCDR2/FR3とイディオタイプ及び配列を共有する。したがって、HPC G11は同種親和性であり、HPC G9は同種親和性ではない。温度は抗体を含むタンパク質の物理的特性に影響を及ぼすことが知られているため、HPC G9及びHPC G11の挙動を、サイズ排除クロマトグラフィーを使用して4℃、20℃、及び37℃で比較した。排除体積内で溶出した抗体の量を、封入体積の量と比較した。
【0171】
異なる温度での除外/含有HPC G11の比率。4℃、20℃及び37℃でHPC G9を有する除外タンパク質の比率に有意な変化はなかった(データは示さず)が、HPC G11の比率は温度と共に増加した。これらの知見は、溶液中の同種親和性G11の二量体化の程度が非生理学的温度よりも生理学的温度でより高いという考えを裏付けている。
【0172】
粘度差
【0173】
HPC G9及びHPC G11の粘度も、異なる温度で比較した。500mlの体積の各抗体をラックに入れたチューブに入れ、4℃、20℃、及び37℃で30分間水平位置で平衡化させた。次いで、チューブを正立垂直位置に1秒間移動させ、次いで水平位置に戻し、写真撮影した。メニスカスの位置を測定し、これらの測定値の比率を、HPC G9又はHPC G11について計算した。4℃での比率は1.45、20℃での比率は0.92、37℃での比率は0.54であった。平衡化後のチューブの傾斜を逆にした(すなわち、チューブの底部を1秒間垂直に持ち上げ、次いで水平位置に戻し、写真撮影した)。HPC G11に対するHPC G9の比率は、4℃で1.5、20℃で1.41、37℃で2.06であった。
【0174】
G11の粘度が固有である可能性を排除するために、血友病性であることが知られているマウスモノクローナルIgA抗体であるS107を試験した。比較のために、別のマウス抗体G9を粘度分析に含めた。チューブを最初に3秒間倒立で配置し、次いで水平位置に戻した。メニスカスが運動を停止するのに必要な時間を、各抗体について測定した。これらの抗体のメニスカスが4℃及び37℃で運動を停止するまでの記録された秒数を、図5に示す。運動が停止するのに必要な時間が長いほど、溶液の粘度は高い。図5に示されるように、両方の温度で記録された時間差は、G9よりもG11及びS107の方が小さい。G11、S107、及び1F7の4℃での時間を37℃での時間で割った比率は同一であるが、G9の比率は2倍を超える。G11及びS107は、通性の同種親和性ポリマーであり、一方、1F7 IgMは、共有結合性の五量体である。同種親和性ポリマー及び共有結合性IgMポリマーは、モノマー性G9二価抗体と同様の粘度であるが異なる粘度を有することに注目することは興味深い。同種親和性抗体のこの固有の粘度は、Igクラスとは無関係であり、それらの優れた標的化に関与するそれらの固有の二量体化能の一部であり得る。
【0175】
例3-逆配置を有する組換え治療用HD抗体(リツキシマブ)の生成及び特性評価
【0176】
以下の例は、逆配列HD抗体の生成及び天然抗体と比較した抗体の組換えHD形態の治療特性の変化を例示する。HDペプチドの能力を試験するために、分子生物学的技術を使用して、重鎖の各可変領域のC末端にHDペプチド(rs-T15)を付加することを除いて、リツキシマブ抗体(chRituximab)のキメラバージョン、及びchRituximabと同一のキメラHD抗体を生成した。
【0177】
材料及び方法
【0178】
細胞株
【0179】
JOK-1細胞は、Affimed Inc.から譲渡された。JOK-1細胞を、10%FBS-Premium-HI(Aleken Biologicals)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)を補充したGlutamax(Gibco)を含むRPMI-1640中で増殖させた。Raji細胞及びRamos細胞は、それぞれ、American Type Culture Collection(ATCC)番号HB-9645、CCL-86、CRL-1596及びTIB-152から得た。Raji細胞及びRamos細胞を、10%FBS-Premium-HI(Aleken Biologicals)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)を補充したHEPESを含むRPMI-1640培地(ATCC)で維持した。リツキシマブ細胞を、10%FBS-low-IgG(Gibco)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)及び0.5%Glutamax(Gibco)を補充したHEPES含有RPMI-1640培地(ATCC)中で維持した。CHO-S細胞をInvitrogenから購入し、1%HTサプリメント(Gibco)、2%Glutamax(Gibco)及び100U/mlペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)を補充したCD CHO培地中で増殖させた。ベクターDNAの導入後、CHO-S細胞を、選択のために1.2mg/mlの418(Invivogen)を添加して上記のように増殖させた。全ての細胞を37℃及び5%CO2に維持した。
【0180】
キメラ抗体遺伝子の構築
【0181】
公開されているリツキシマブ配列から重鎖及び軽鎖可変領域を合成した。
リツキシマブ重鎖:
【数1】

リツキシマブ軽鎖:
【数2】
【0182】
リツキシマブ重鎖可変領域を、プライマーmodVHRituximabfwd及びmodVHRituximabrevを使用して、PCRによってcDNAプールから増幅した。全てのオリゴはOperonから購入した。リツキシマブ軽鎖可変領域を、プライマーmodVLRituximabfwd及びmodVLRituximabrevを使用して、PCRによってcDNAプールから増幅した。重鎖及び軽鎖PCR産物を、ベクターpAc-k-CH3(Progen Biotechnik GmbH)のXhoI-NheI及びSacI-HindIII部位にそれぞれクローニングして、pAc-k-RituximabH及びRituximabKを形成した。クローンを両方向の配列決定によって検証した。全ての制限酵素は、Takara又はNew England Biolabsから購入した。Taqポリメラーゼ(Promega)を全てのPCRに使用した。全ての酵素反応は、製造業者のプロトコルを使用して行った。
【0183】
抗体発現ベクターの構築
【0184】
Oligos LongT15fwd、LongT15rev及びPrimerBをネステッドPCRで使用して、T15ペプチドの逆配列をコードするDNA配列を構築した。得られたPCR産物をpIRES(Clontech)のMCSBのSalI-NotI部位にクローニングしてpHDを形成した。pAc-k-RituximabH及びpAc-k-RituximabKの完全な重鎖及び軽鎖を、それぞれプライマーmodVHXfwd及びmodVHXrev、又はVKXfwd及びVKXrevを使用してPCR増幅した。軽鎖をベクターpHDのMCSAのNheI-XhoI部位にクローニングし、重鎖を得られたベクターのSalI-NotI部位にクローニングして、pchRituximab-HDを形成した。クローンを両方向の配列決定によって検証した。pchRituximab(T15ペプチドを含まない抗CD20)を生成するために、pchRituximab-HD及びpIRESをNotI及びClaIで消化した。pchRituximab-HDから得られた約6Kb及びpIRESから得られた約2.2KbのDNA断片を、Qiaquickキット(Qiagen)を使用して1%アガロースゲルからそれぞれゲル精製し、互いに連結してリツキシマブを形成した。クローンを両方向の配列決定によって検証した。提供された熱ショックプロトコルを使用して、全てのベクター構築物を大腸菌(E.coli)(Stratagene製のXL-10細胞)に導入した。Qiagen mini-prepキットを使用して、3mlの一晩細菌培養物からプラスミドを精製した。ベクターpchRituximab及びpchRituximab-HDを、580V及び40μsに設定したEppendorf Multiporatorにおいて4mmギャップキュベットを使用してCHO-S細胞に電気穿孔した。選択開始前に2日間回復させた。
【0185】
組換え抗体の精製
【0186】
細胞培養上清を、細胞密度に応じて3~5日ごとに採取した。細胞懸濁液を低速(480~740×g)で7~10分間遠心分離し、上清を更なる処理の前に-20°Cに保持した。37℃で急速解凍した後、上清を真空濾過によって0.2μmフィルター(Corning)に通して細胞片を除去し、次いで、濾過した上清をHiTrap Protein G HPカラム(GE Healthcare)に通した。結合した抗体を0.1Mグリシン緩衝液pH2.7で溶出し、1mL画分に回収し、pHを50μLの1M Tris pH9で中和した。溶出プロファイルは、280でのUV吸光度を読み取ることによって決定した(データは示さず)。次いで、有意なタンパク質含有量を有する画分をプールし、製造業者の指示に従ってAmicon Ultra遠心濾過デバイス50,000MWカットオフ(Millipore)を使用して濃縮した。
【0187】
細胞表面結合
【0188】
Raji、Ramos、又はJOK-1細胞の3×10/ウェルを24ウェルプレートに播種し、37℃及び5%COで一晩インキュベートした。次いで、細胞を採取し、PBSで2回洗浄した。細胞を1mLのPBSに再懸濁し、漸増濃度(1μg、5μg、10μg、20μg/mL)でchRituximab又はHD chRituximabのいずれかとインキュベートし、4℃で30分間インキュベートした。細胞をPBSで2回洗浄することによって過剰な抗体を除去し、次いで、細胞をFITCコンジュゲートヤギ抗ヒト(Sigma、1:1000)の1mL溶液に再懸濁し、4℃で30分間インキュベートした。2回洗浄した後、細胞を200μLのPBSに再懸濁し、フローサイトメトリー(BD FACSCalibur Instrument、BD Bioscience)によって分析した。特異的平均蛍光強度を、式:特異的MFI=MFI(一次Ab+ヤギ抗ヒトFITC)-MFI(ヤギ抗ヒトFITC)を使用することによって決定した。
【0189】
アポトーシスアッセイ
【0190】
Raji、Ramos、又はJOK-1細胞の2×10/ウェルを24ウェルプレートに播種し、37℃及び5%COで一晩インキュベートした。次いで、細胞を37℃で20時間、漸増濃度のAbで処理した。細胞を回収し、PBSで1回洗浄し、アポトーシス及び細胞死をそれぞれ検出するために、3μLのアネキシンV Alexa Fluor 488コンジュゲート(Invitrogen)及び4μg/mLの最終濃度のヨウ化プロピジウム(Sigma)を含有する100μLの1×アネキシン結合緩衝液で再懸濁した。37℃で20分間インキュベートした後、細胞を150μLの1×アネキシン結合緩衝液で希釈し、フローサイトメトリー(BD FACSCalibur Instrument、BD Bioscience)によって分析した。アポトーシス細胞のパーセントを、未処理対照試料中の健常集団をゲーティングし、式:アポトーシス細胞パーセント=(1-(生処理標的細胞/生未処理標的細胞))*100を使用することによって決定した。
【0191】
CDC Assay
【0192】
2×10個の細胞を24ウェルプレートに播種し、37℃及び5%COで一晩インキュベートした。次いで、細胞を、5%ウサギHLA-ABC補体濃縮血清(Sigma)の存在下、37℃で2時間、漸増濃度のAbで処理した。細胞を採取し、PBSで1回洗浄し、50nMカルセイン-AM(Biochemica)及び4μg/mLヨウ化プロピジウム(Sigma)を含有する200μLのPBSに再懸濁した。37℃で20分間インキュベートした後、細胞生存率をフローサイトメトリー(BD FACSCalibur Instrument、BD Bioscience)によって分析した。死滅パーセントを、式:死細胞パーセント=(1-(生処理標的細胞/生未処理標的細胞))*100によって決定した。
【0193】
PBMC分離
【0194】
末梢血単核細胞(PBMC)を、Ficoll-Hypaque密度勾配遠心分離によって健常ドナーのバフィーコート(Kentucky Blood Center、Lexington KY)から調製した。PBMCをhRPMI(10%FBS、低IgG)培養培地中で6×106細胞/mLに希釈し、最大3日間維持した。PBMC生存率及び毎日の細胞集団変動を、実験前にフローサイトメトリー(BD FACSCalibur Instrument、BD Bioscience)によって分析した。
【0195】
ADCCアッセイ
【0196】
標的細胞(Raji、Ramos、又はJOK-1)をT75フラスコから回収し、製造業者の指示に従って使用した、400nMカルセイン-AM(Biochemica)及び8μLのTFL2色素(OncoImmunin)を含有する1mLの培地に再懸濁した。標的細胞を37℃で45分間標識し、培地で2回洗浄し、6×10細胞/mLの密度に再懸濁した。次いで、エフェクター細胞(PBMC)をT75フラスコから採取し、1.2×10細胞/mLの密度に再懸濁した。標的細胞及びエフェクター細胞を20:1のE:T比で混合し、次いで250μLの細胞混合物を個々の5mL丸底チューブに分注し、漸増濃度のAbと共に37℃で2時間インキュベートした。インキュベーション後、標的細胞生存率をフローサイトメトリー(BD FACSCalibur Instrument、BD Bioscience)によって分析した。死滅パーセントを、式:死細胞パーセント=(1-(生処理標的細胞/生未処理標的細胞))*100によって決定した。
【0197】
結果
【0198】
蛍光活性化細胞選別(FACS)
【0199】
組換えchRituximab及びchRituximab-HD抗体が機能的であることを検証するために、ヒトB細胞JOK-1株由来の細胞に結合するそれらの能力を、蛍光活性化細胞選別(FACS)を使用して試験した。図6において、下のパネルは、chRituximab-HD抗体による染色の平均蛍光強度(MFI)を示し、一方、上のパネルは、chRituximab、非HD抗体を使用した染色を表す。chRituximab-HD抗体の結合は、chRituximabの結合よりも約4倍高かった。
【0200】
アポトーシスの誘導は受容体架橋に依存する
【0201】
HD抗体の提案される機構の1つは、アポトーシスの受容体架橋誘導である。chRituximab及びHD抗体のアポトーシスの誘導を、3つの細胞株Raji、Ramos及びJOK-1において比較した。chRituximabの添加は、特に最高用量で、いくつかの細胞株の約30%の細胞においてアポトーシスを誘導する。HD抗体は、非修飾キメラよりも有意に多くのアポトーシスを誘導する。同様に、HD抗体は、Ramos細胞及び他のBリンパ腫細胞におけるアポトーシスのより強力な誘導物質である。表4は、ある濃度範囲にわたるリツキシマブの2つのバージョンのアポトーシス効果を示す。Absの濃度が低いほど、増強効果がはるかに顕著であることに注目することは興味深い。例えば、Raji細胞を5μg/mLのいずれかの抗体で処理した後、アポトーシス細胞のパーセントはHD処理後に2.5倍高いが、20μg/mLで処理した後はわずかに2倍未満高い。
【0202】
【表4】
【0203】
補体依存性細胞傷害(CDC)の比較
【0204】
chRituximab及びchRituximab-HDのCDC活性を比較した(図7A~Cを参照されたい)。CDCは、補体成分が抗体のFc領域に結合した後に誘導され、HD構築物のアイソタイプであるIgG1アイソタイプにおいて強力である。増強効果は、全ての細胞株で観察された。図7Aに見られるように、例えば、5μg/mLでは、キメラを有するRaji細胞において事実上CDC活性はなかったが、細胞の35%がHD mAbで死滅した。これは、アポトーシスにおける有効性の最も高い改善と相関する。HD抗体の効力がRamos細胞において5μg/mlでプラトーに達することに注目することは興味深い(図7B)。chRituximabは10μg/mlでプラトーに達するように見えるが、試験したいずれのレベルでもHD Abの効力に到達せず、より高用量でも5μg/mlのHD Abの死滅能力に到達しないことを示唆している。
【0205】
ADCCの比較
【0206】
キメラ抗体を、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘導するその能力において試験した。HD抗体は、1μg/ml及び3μg/mlでRaji細胞及びRamos細胞においてchRituximabよりも有意に多くのADCCを誘導する。
【0207】
インビトロでのリンパ腫増殖の阻害
【0208】
腫瘍細胞に対するこれらの抗CD20抗体のインビボ死滅能を概算するために、chRituximab及びchRituximab-HDの抗増殖効果を、Raji及びRamos細胞株において試験した。アッセイは、核酸に結合する蛍光色素のレベルを測定する(方法及び材料を参照されたい)。HD抗体は、試験した全ての濃度で両方の細胞株において増殖をより大きく阻害した。
【0209】
例4-逆配置を有するHD抗Her-2抗体(トラスツズマブ)のインビボ特性評価
【0210】
例3に記載したように、ハーセプチンのHD形態(トラスツズマブ)を生成した。CDR配列を重鎖可変領域及び軽鎖可変領域から抽出した。
ハーセプチン軽鎖(1及び2)
【数3】

ハーセプチン重鎖(1及び2)
【数4】
【0211】
関連するヒト腫瘍モデルにおける有効性についてHD抗体を評価するために、腫瘍注射の7日後に、低抗原発現乳がん(MCF-7)のヌードマウスモデルにおいて治療を開始した。
【0212】
図8に示されるように、ハーセプチンは治療効果を示さず、腫瘍測定値は対照と同じであった(上の線)。対照的に、HD-ハーセプチンは腫瘍増殖を劇的に抑制した(下の線)。このモデルにおけるハーセプチンの活性の欠如は、低抗原発現乳がんを認識しないためと予想された。HD-Herceptinで処置された腫瘍の組織学的検査では、生存がん細胞はほとんど見られなかったが、炎症細胞は豊富であった。
【0213】
ヒト用量に外挿した場合、HD-ハーセプチンの最大有効用量は10μgであり、一方、ハーセプチンは100μg/用量まで効果を示さないことが見出された(75kgのヒト対象の仮定に基づく)。
【0214】
例5-逆配置を有するHD抗Vegf(アバスチン)抗体の特性評価
【0215】
バイオ後続品ベバシズマブ抗体を、可変重鎖配列及び可変軽鎖配列から抽出されたCDRを利用して、例3に記載されるようにその組換えHD形態に変換した。
ベバシズマブ軽鎖
【数5】

ベバシズマブ重鎖
【数6】
【0216】
VEGFは、健康な細胞及び新生物細胞によって産生される。その活性は、2つの受容体チロシンキナーゼによって媒介される。VEGFシグナル伝達は、生理学的及び病理学的血管新生における律速段階であることが多い。ベバシズマブは、ステージIII及びIV結腸がんを有する患者において、単剤として、及び化学療法と組み合わせて抗血管新生がん治療薬として研究されてきた。
【0217】
HDベバシズマブのインビボ腫瘍モデル評価のまとめ:
a)(腎細胞がん及び前立腺がんにおいて)腫瘍成長を阻害する;
b)(結腸がんにおいて)腫瘍を制御する;
c)腫瘍再発防止;
d)(腎転移及び結腸転移の両方において)転移を低減/防止する;
e)A498ヒト腎がん細胞の増殖を低減する。
【0218】
インビボ評価は、他の種類のがんをHD抗Vegfで処置することができ、増殖を阻害するだけでなくがんを退行させることを示している。
【0219】
例6-T15二量体配置を有するHD抗PD-L1抗体の特性評価
【0220】
アテゾリズマブ(抗PD-L1 mAb)の以下の可変重鎖及び軽鎖配列からのCDRを使用して、抗体のFc末端上にT15二量体の逆配置(表2を参照されたい)を組み込んだヒト化IgG1(例3に記載の通り)を構築した。
重鎖:
【数7】

軽鎖:
【数8】
【0221】
HD-アテゾリズマブを、PD-L1抗原を有するメラノーマ細胞に対する親抗体に対して試験した。ヒトPD-L1の発現をフローサイトメトリーによって評価した。簡単に説明すると、メラノーマ細胞懸濁液を調製し、2%ウシ胎児血清を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS;pH7.2)からなる蛍光活性化セルソーター緩衝液で洗浄した。細胞を抗PD-L1抗体(2μg/mL)又はマウスIgG1アイソタイプ対照(2μg/mL)と共に4℃で60分間インキュベートし、3回洗浄し、FITC標識二次抗体(BD PharMingen、San Jose、CA)と共に4℃で30分間インキュベートした。次いで、細胞をPBSで更に3回洗浄し、2%ホルマリンで固定し、蛍光について評価した(FACScaliburフローサイトメータ;BD Bioscience、San Diego、CA)。
【0222】
結果を、平均蛍光指数(MFI)又は結合の倍数増加(バックグラウンドを差し引いた)として表した-以下の表5を参照されたい。
【0223】
【表5】
【0224】
結果は、HD形態の抗体による細胞表面PD-L1への結合の100倍超の増加を実証している。これは必然的に、腫瘍細胞媒介性T細胞抑制を遮断する能力の増加をもたらす。
【0225】
例7-インビトロ診断用途のためのHD技術
【0226】
PSAに対するモノクローナル抗体を組換え技術によってHD修飾し、次いで電気化学発光検出のために標識し、抗原検出アッセイに利用した(Anal.Sci.2009,May 25(5):587-97)。非修飾抗体を、T15ペプチドが抗体の軽鎖の末端に連結されたHD修飾抗体と比較した。
【0227】
HD修飾抗体は、非修飾抗体よりもはるかに高いシグナル対ノイズ比を提供し、特により低い抗原濃度でアッセイをより高感度にした(図11を参照されたい)。
【0228】
結果は、HD修飾抗体を任意の配置(直接又は間接検出)で、より標準的なELISAを含む任意の検出方法で使用できることを実証している。より高いシグナル生成により、HD修飾抗体を使用してシグナルを増強し、アッセイの読み出しまでの時間を短縮することができる。
【0229】
「含む(comprising)」という用語と組み合わせて本明細書で使用される場合の「a」又は「an」という単語の使用は、「1つ」を意味し得るが、「1つ以上」、「少なくとも1つ」及び「1つ又は複数」の意味とも一致する。単数形で表現される任意の要素は、その複数形も包含する。複数形で表現される任意の要素は、その単数形も包含する。本明細書で使用される「複数」という用語は、1つを超える、例えば2つ以上、3つ以上、4つ以上等を意味する。
【0230】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、「含有する(containing)」という用語、及びそれらの文法的変形は、包括的又はオープンエンドであり、列挙されていない追加の要素及び/又は方法工程を排除しない。「から本質的になる」という用語は、組成物、使用又は方法に関連して本明細書で使用される場合、追加の要素、方法ステップ又は追加の要素及び方法ステップの両方が存在し得るが、これらの追加は、列挙された組成物、方法又は使用機能の様式に実質的に影響しないことを示す。「からなる(consisting of)」という用語は、組成物、使用又は方法に関連して本明細書で使用される場合、追加の要素及び/又は方法工程の存在を除外する。本明細書で使用される場合、「約」という用語は、列挙された値を説明するために使用される際には、列挙された値の10%以内を意味する。
【0231】
全ての引用は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0232】
本発明は、1つ以上の実施形態に関して説明されている。しかしながら、特許請求の範囲に定義される本発明の範囲から逸脱することなく、多くの変形及び修正を行うことができることは当業者には明らかであろう。特許請求の範囲は、例に記載された好ましい実施形態によって限定されるべきではなく、全体として説明と一致する最も広い解釈が与えられるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
2024525822000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-03-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対応する天然に存在する相同二量体化(HD)ペプチド又はそれと少なくとも90%の配列同一性を有する保存的変異体と比較して、逆の配置の(reverse configuration)アミノ酸配列を含む、HDペプチド。
【請求項2】
前記対応する天然に存在するHDペプチドが、T15 HDペプチド又はR24 HDペプチドであり、場合により、前記HDペプチドは、配列番号4、配列番号6又は配列番号18と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のHDペプチド。
【請求項3】
1つ又は複数のアミノ酸置換を有し、前記1つ又は複数の置換は、前記HDペプチドのハイドロパシーを増加させる、請求項1又は2に記載のHDペプチド。
【請求項4】
天然に存在する相同二量体化(HD)ペプチドのアミノ酸配列であって、1つ又は複数のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなり、前記1つ又は複数の置換は、前記相同二量体化(HD)ペプチドのハイドロパシーを増加させる、相同二量体化(HD)ペプチド
【請求項5】
配列番号1のアミノ酸配列であって、位置4、7及び18に1つ又は複数のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含み、場合により、位置4における前記1つ又は複数のアミノ酸置換が、Kへの置換又はKの保存されたアミノ酸への置換であり、位置7における前記1つ又は複数のアミノ酸置換が、Rへの置換又はRの保存されたアミノ酸への置換であり、位置18における前記1つ又は複数のアミノ酸置換が、Hへの置換又はHの保存されたアミノ酸への置換であり、場合により、配列番号8、9又は10と80%~100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項4に記載のHDペプチド。
【請求項6】
第1のHDペプチド及び第2のHDペプチドを含む相同二量体化(HD)ペプチド二量体であって、前記第1及び/又は第2のHDペプチドは、請求項1から5のいずれか一項に記載のHDペプチドを含む、相同二量体化(HD)ペプチド二量体。
【請求項7】
前記二量体の前記第1及び第2のHDペプチドが、gly-glyなどのリンカーによって連結されている、請求項に記載のHDペプチド二量体。
【請求項8】
配列番号5、7、11、12、13、14、15、17又は19と80~100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項に記載の相同二量体化(HD)ペプチド二量体。
【請求項9】
請求項1からのいずれか一項に記載のHDペプチド又は請求項からのいずれか一項に記載のHDペプチド二量体を含む、抗体又は抗原結合断片であって、場合により、ヒト化IgG1、ヒト化IgG4又はヒト化IgG3などのヒト化IgGである、抗体又は抗原結合断片
【請求項10】
前記HDペプチド又はHDペプチド二量体が、前記抗体又は抗原結合断片のヌクレオチド親和性部位(nucleotide affinity site)に融合されており場合により、前記HDペプチド又はHDペプチド二量体は、リジン、システイン又は炭水化物を介して融合されている、請求項9に記載の抗体又は抗原結合断片。
【請求項11】
前記HDペプチド又はHDペプチド二量体が、
前記抗体の重鎖又は軽鎖のCDR3の直後に位置する
前記抗体の重鎖定常領域又は軽鎖定常領域のC末端の直後に位置する、
前記抗体の重鎖可変領域の直後に位置する、または
前記抗体のFc領域のC末端の直後に位置する、
請求項9または10に記載の抗体又は抗原結合断片。
【請求項12】
前記HDペプチド又はHDペプチド二量体が、前記抗体にコンジュゲートされており、前記抗体は、キメラ組換え抗体であってもよい、請求項9から11のいずれか一項に記載の抗体又は抗原結合断片。
【請求項13】
前記HDペプチド又はHDペプチド二量体の前に、gly-glyなどのスペーサーが先行する、請求項9から12のいずれか一項に記載の抗体又は抗原結合断片。
【請求項14】
前記抗体は、一本鎖抗体(scFv)、二重特異性抗体(BsAb)又は抗体様ペプチドであり、場合により、前記抗体は、ヒト化モノクローナル抗体であり、場合により、前記抗体は、Her-2neu抗体(ハーセプチン等)、CD-20抗体(リツキシン等)、血管内皮成長因子抗体(アバスチン等)であるか、又はチェックポイント阻害剤抗体(PD-L1等)である、請求項9から13のいずれか一項に記載の抗体又は抗原結合断片。
【請求項15】
請求項9から14のいずれか一項に記載の1つ以上の抗体又は抗原結合断片と、薬学的に許容される担体とを含む組成物。
【請求項16】
請求項1から5のいずれか一項に記載のHDペプチド又は請求項6から8のいずれか一項に記載のHDペプチド二量体をコードする第1の核酸配列を含み、場合により、抗体又は抗原結合断片をコードする第2の核酸配列を更に含み、それにより、前記第1及び第2の核酸配列が発現される場合、前記HDペプチド及び前記抗体又は抗原結合断片が融合タンパク質として発現される、発現ベクター。
【請求項17】
請求項16に記載の発現ベクターを宿主細胞において発現させるステップを含む、相同二量体化(HD)抗体を生成する方法。
【請求項18】
請求項16に記載の発現ベクターで形質転換された単離宿主細胞。
【請求項19】
抗体の結合及び/又は効力を増強する方法であって、
請求項1から5のいずれか一項に記載のHDペプチド若しくは請求項6から8のいずれか一項に記載のHD二量体を前記抗体にコンジュゲートするステップ;又は
前記HDペプチドを含むキメラ抗体を組換え発現させるステップ
を含む方法。
【請求項20】
疾患又は状態に罹患している患者を処置するための、請求項9から14のいずれか一項に記載の抗体又は抗原結合断片を含む、医薬組成物であって、場合により、前記疾患又は状態は、がん、自己免疫障害、炎症性障害、神経変性疾患、心血管疾患、移植片又は移植拒絶からなるリストから選択されるものである、医薬組成物
【請求項21】
試料中の分析物を検出する方法であって、
前記分析物を、前記分析物に対する抗体又は抗原結合断片と接触させるステップであって、前記抗体又は抗原結合断片は、請求項1から5のいずれか一項に記載のHDペプチド又は請求項6から8のいずれか一項に記載のHDペプチド二量体に融合されている、ステップと;
前記分析物及び前記HDペプチドに融合した前記抗体によって形成された複合体を検出するステップと
を含む方法。
【請求項22】
試料中の分析物を検出するためのキットであって、
前記分析物に対する抗体又は抗原結合断片であって、請求項1から5のいずれか一項に記載のHDペプチド又は請求項6から8のいずれか一項に記載のHDペプチド二量体に融合した抗体又は抗原結合断片と;
前記分析物の検出に使用するための説明書と
含む、キット。
【請求項23】
請求項1から5のいずれか一項に記載のHDペプチド又は請求項6から8のいずれか一項に記載のHDペプチド二量体に連結された抗体又は抗原結合断片を含む、ファージディスプレイライブラリー。
【請求項24】
治療における請求項9から14のいずれか一項に記載の抗体を含む、治療用または診断用組成物
【国際調査報告】