(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】圧力容器用ドーム補強シェル
(51)【国際特許分類】
F17C 1/06 20060101AFI20240705BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20240705BHJP
B29C 65/56 20060101ALI20240705BHJP
B29C 70/10 20060101ALI20240705BHJP
B29C 70/68 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
F17C1/06
F16J12/00 A
B29C65/56
B29C70/10
B29C70/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502145
(86)(22)【出願日】2022-07-13
(85)【翻訳文提出日】2024-01-15
(86)【国際出願番号】 EP2022069614
(87)【国際公開番号】W WO2023285537
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521525527
【氏名又は名称】プラスチック・オムニウム・ニュー・エナジーズ・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ビョルン・クリエル
(72)【発明者】
【氏名】ヘールト・ナウエン
(72)【発明者】
【氏名】ドリース・デヴィスシェ
(72)【発明者】
【氏名】カン-フン・グエン
【テーマコード(参考)】
3E172
3J046
4F205
4F211
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172BA01
3E172BB12
3E172BB17
3E172BC04
3E172BD03
3E172DA36
3E172DA38
3J046AA02
3J046BA03
3J046BB02
3J046CA04
3J046DA05
3J046EA02
4F205AA11
4F205AA29
4F205AA32
4F205AA34
4F205AA36
4F205AD03
4F205AD16
4F205AG03
4F205AG07
4F205AH55
4F205HA02
4F205HA14
4F205HA23
4F205HA37
4F205HA46
4F205HB01
4F205HB11
4F205HC02
4F205HK04
4F205HK05
4F205HL14
4F205HT16
4F205HT22
4F211AA13
4F211AA28
4F211AA29
4F211AA31
4F211AA34
4F211AA39
4F211AA41
4F211AD03
4F211AD16
4F211AG03
4F211AG07
4F211AH17
4F211AH55
4F211AJ04
4F211AR07
4F211TA06
4F211TN78
(57)【要約】
本発明の圧力容器用のドーム補強シェル(16;16’)は、基部(24)及び中心軸(10)を有するドーム形状部分(22)を有する繊維強化複合材料テープの層の巻線からなり、この層は、
- 繊維強化複合材料の少なくとも1つの近位層であって、少なくとも1つの近位層は、この近位層の第1の端部において測定された中心軸(10)に対して始角α1を有し、α1は厳密に0°~90°である、少なくとも1つの近位層と、
- 繊維強化複合材料の少なくとも1つの遠位層であって、少なくとも1つの遠位層は、この遠位層の第1の端部において測定された中心軸(10)に対して始角α2を有し、α2は厳密に0°とα1との間である、少なくとも1つの遠位層、
を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部(24)及び中心軸(10)を有するドーム形状部分(22)を有する繊維強化複合材料テープの層の巻線からなる、圧力容器用のドーム補強シェル(16;16’)であって、前記層は、
- 繊維強化複合材料の少なくとも1つの近位層であって、該少なくとも1つの近位層は、該近位層の第1の端部において測定された中心軸(10)に対して始角α
1を有し、α
1は厳密に0°~90°である、少なくとも1つの近位層と、
- 繊維強化複合材料の少なくとも1つの遠位層であって、該少なくとも1つの遠位層は、該遠位層の第1の端部において測定された中心軸(10)に対して始角α
2を有し、α
2は厳密に0°とα
1との間である、少なくとも1つの遠位層と、
を含むドーム補強シェル。
【請求項2】
α
1が60°~75°であり、好ましくは70°~75°である、請求項1に記載のドーム補強シェル。
【請求項3】
α
2が10°~20°であり、好ましくは13°~17°である、請求項1または2に記載のドーム補強シェル。
【請求項4】
前記少なくとも1つの近位層と前記少なくとも1つの遠位層との間に敷設された繊維強化複合材料の少なくとも1組の中間層を含み、前記中間層の各組は、中心軸(10)に対して、厳密にα
1とα
2との間である始角α
iを有している、請求項1~3のいずれか一項に記載のドーム補強シェル。
【請求項5】
中心軸(10)に対する始角α
iが、前記少なくとも1つの近位層から前記少なくとも1つの遠位層まで徐々に減少する数組の中間層を含む、請求項4に記載のドーム補強シェル。
【請求項6】
前記ドーム形状部分(22)の前記基部(24)から軸方向に延在している、前記中心軸(10)の周りに回転する一体的な延長部分(25)を更に備えた、請求項1~5のいずれか一項に記載のドーム補強シェル。
【請求項7】
前記一体的な延長部分(25)は、内面及び外周面を有し、前記外周面は円筒面であり、前記内面は、円筒面、切頭円錐面、曲面、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される面である、請求項6に記載のドーム補強シェル。
【請求項8】
繊維強化複合材料の少なくとも1つの追加の層を更に含み、該少なくとも1つの追加の層は、前記中心軸(10)に対して始角α
0を有し、α
0は、厳密にα
1~90°の間であり、好ましくは82°~87°である、請求項1~7のいずれか一項に記載のドーム補強シェル。
【請求項9】
- 少なくとも1つの近位層は、中心軸(10)に対して終角β
1を有し、β
1は厳密に40°~90°であり、
- 少なくとも1つの遠位層は、中心軸(10)に対して終角β
2を有し、β
2は厳密に40°とβ
1との間であり、及び/または
- 中間層の各組は、中心軸(10)に対して終角β
iを有し、β
iは厳密にβ
1とβ
2との間であり、及び/または
- 少なくとも1つの追加の層は、中心軸(10)に対して終角β
0を有し、β
0は厳密にβ
1と90°との間であり、好ましくは82°~87°である、請求項8に記載のドーム補強シェル。
【請求項10】
繊維強化複合材料の少なくとも1つの追加の層を更に含み、該少なくとも1つの追加の層は、前記長手方向軸(10)に対して角度α
0’を形成する輪状層であり、α
0’はほぼ90°に等しい、請求項6に記載のドーム補強シェル。
【請求項11】
前記繊維強化複合材料の少なくとも1つの追加の層は、前記少なくとも1つの近位層の下にある、請求項8または10に記載のドーム補強シェル。
【請求項12】
圧力容器(4;4’)であって、
- 流体貯蔵室を画定しているライナ(6;6’)と、
- 前記ライナ(6;6’)のドーム形状の長手方向端部(12)に嵌合された、請求項1~請求項11のいずれか一項に記載の少なくとも1つのドーム補強シェル(16;16’)と、
- ボス(14)と
- 前記ライナ(6;6’)及び前記少なくとも1つのドーム補強シェル(16;16’)を囲むまたは収容する外側複合構造(20)と、
を含む圧力容器。
【請求項13】
前記ライナ(6)は、前記少なくとも1つのドーム補強シェル(16)が前記ライナ(6)とフラッシュするように、前記少なくとも1つのドーム補強シェル(16)を収容するように寸法決めされた中間部分(18)を含む、請求項12に記載の圧力容器。
【請求項14】
請求項12または13に記載の圧力容器(16;16’)を備えた車両。
【請求項15】
圧力容器用の一対のドーム補強シェル(16;16’)を製造するための方法であって、以下の連続するステップ:
(a1)中心軸(10)を画定する2つの対称的なドーム形状部分を有するマンドレルを提供するステップと、
(b1)繊維強化複合材料の少なくとも1つの近位層をマンドレル上で敷設するステップであって、該少なくとも1つの近位層は、該近位層の第1の端部で測定された中心軸(10)に対して始角α
1を有し、α
1は厳密に0°~90°である、ステップと、
(c1)少なくとも1つの近位層の上で、マンドレル上で繊維強化複合材料の少なくとも1つの遠位層を敷設するステップであって、該少なくとも1つの遠位層は、該遠位層の第1の端部で測定された中心軸(10)に対して始角α
2を有し、α
2は厳密に0°とα
1との間である、ステップと、を含み、
これにより、一対のドーム補強シェル(16;16’)を得る、方法。
【請求項16】
前記マンドレルは、長手方向軸を中心とする回転の中央部分と、2つの長手方向端部とを更に含み、前記2つの対称的なドーム形状部分は、該2つの対称的なドーム形状部分の中心軸(10)が中央部分の長手方向軸と同軸になるように、中央部分の長手方向端部に配置されている、請求項15に記載の圧力容器用の一対のドーム補強シェルを製造するための方法。
【請求項17】
ステップ(c1)の後続のステップであって、
(d1)一対のドーム補強シェル(16;16’)を2つの対称的な部分に分割し、2つの別個のドーム補強シェルを得るステップ、
を更に含む、請求項15または16に記載の圧力容器用の一対のドーム補強シェルを製造するための方法。
【請求項18】
α
1が60°~75°であり、好ましくは70°~75°である、請求項15~17のいずれか一項に記載の圧力容器用の一対のドーム補強シェルを製造するための方法。
【請求項19】
前記α
2は、10°~20°であり、好ましくは13°~17°である、請求項15~18のいずれか一項に記載の圧力容器用の一対のドーム補強シェルを製造するための方法。
【請求項20】
ステップ(c1)に先立つステップであって、
(b2)前記少なくとも1つの近位層と前記少なくとも1つの遠位層との間のマンドレル上に、繊維強化複合材料の少なくとも1組の中間層を敷設するステップであって、前記中間層の各組は、中心軸(10)に対してα
1とα
2との間に厳密に含まれる始角α
iを有するステップ、
を更に含む、請求項15~19のいずれか一項に記載の圧力容器用の一対のドーム補強シェルを製造するための方法。
【請求項21】
ステップ(b2)は、中心軸(10)に対する始角α
iが少なくとも1つの近位層から少なくとも1つの遠位層まで徐々に減少する数組の中間層を敷設することからなる、請求項20に記載の圧力容器用の一対のドーム補強シェルを製造するための方法。
【請求項22】
ステップ(a1)に先立つステップであって、
(a0)少なくとも1つの近位層の下のマンドレル上で繊維強化複合材料の少なくとも1つの追加の層を敷設するステップであって、該少なくとも1つの追加の層は、中心軸(10)に対して始角α
0を有し、α
0は厳密にα
1~90°の間であり、好ましくは82°~87°である、請求項15~21のいずれか一項に記載の圧力容器用の一対のドーム補強シェルを製造するための方法。
【請求項23】
ステップ(a1)に先立つステップであって、
(a0’)前記少なくとも1つの近位層の下の前記マンドレル上で繊維強化複合材料の少なくとも1つの追加の層を敷設し、前記少なくとも1つの追加の層は、前記中心軸(10)に対して角度α
0’を形成する輪状層であり、α
0’はほぼ90°に等しい、請求項15~21のいずれか一項に記載の圧力容器用の一対のドーム補強シェルを製造するための方法。
【請求項24】
圧力容器(4;4’)の製造方法であって、以下のステップ:
- 流体貯蔵室を画定するライナ(6;6’)を提供するステップと、
- 流体貯蔵室への流体の充填及び流体貯蔵室からの流体の排出のために、ボス(14)をライナ(6;6’)のドーム形状の長手方向端部(12)に結合するステップと、
- 請求項15~23のいずれか一項に記載の少なくとも1つのドーム補強シェル(16;16’)を製造するステップと、
- 少なくとも1つのドーム補強シェル(16;16’)をマンドレルから取り外すステップと、
- 少なくとも1つのドーム補強シェル(16;16’)を、ライナ(6;6’)のドーム形状の長手方向端部(12)に取り付けるステップと、
- ライナ(6;6’)及び少なくとも1つのドーム補強シェル(16;16’)の上に外側複合構造(20)を敷設するステップと、
を含む、圧力容器を製造するための方法。
【請求項25】
前記ライナ(6)は、前記少なくとも1つのドーム補強シェル(16)が前記ライナ(6)と共にフラッシュするように、前記少なくとも1つのドーム補強シェル(16)を収容するように寸法決めされた中間部分(18)を含む、請求項24に記載の圧力容器を製造するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の圧力容器(pressure vessel)に関する。より正確には、本発明は、圧力容器用ドーム補強シェル、かかるドーム補強シェル(dome reinforcement shell)を備えた圧力容器、かかる圧力容器を備えた車両、及び圧力容器用ドーム補強シェルの製造方法、並びに圧力容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の高圧容器は、一般に、2つのドーム形状の長手方向端部を有する一般的な円筒形状を有し、軽量で安価に製造できるように選択されたプラスチック材料、または金属(例えば、アルミニウム)等の他の材料で作られた、ライナとも呼ばれる中空容器を含む。この容器は、動力源のような多様な機能のために圧力容器を装備した車両によって使用される圧力下のガス、例えば二水素を貯蔵することを意図している。加圧されたガスは、容器の内面に強い拘束を及ぼし、容器の完全性を損傷し、特に二水素のような可燃性ガスでは危険な漏洩を引き起こす場合がある。
【0003】
容器の機械的特性を改善するために、補強用繊維、例えば炭素繊維からなるフィラメントを容器の外面全体に巻き付けることが知られている。フィラメントは、巻きを容易にし、容器の外面の各部分が確実に覆われるようにするために、樹脂に埋め込まれている。
【0004】
容器のドーム形状の長手方向端部のために、容器とは独立してフィラメントの巻線を含むドーム補強部品またはドーム補強シェルを製造し、次のステップでドーム補強シェルを容器に取り付けることが知られている。特許文献1は、そのようなドーム補強シェルの例を提供している。しかし、いくつかの欠点がある。
【0005】
第1に、特許文献1におけるフィラメントの層が巻かれる方法及び順序は、後続の各層のポール開口部(pole opening)がドーム補強シェルの外側から見えるので、各層の端部に鋭いエッジ部が生じてしまう。これらの鋭いエッジ部は、事実上、圧力容器上で、ドーム補強シェルの局所的な弱点を形成する応力集中箇所を構成し、最終的に圧力容器の破損を引き起こす可能性がある。これは重大であり、何故なら圧力容器の長手方向端部は、その中央の円筒形部分よりも破損しやすいからである。
【0006】
更に、特許文献1による巻線の結合部分(tie-on part)、すなわち巻線作業の開始部分は、低角度の螺旋パターンに従うので、実施が複雑である。輪状パターン(hoop pattern)で巻線を開始し、次に低角度ヘリカルパターンに遷移する必要がある。しかし、輪状層はドーム補強シェルの機械的特性の改善に寄与しないので、それらはフィラメントの浪費とドーム補強シェルの重量の不必要な増加をもたらす。このような不都合は、圧力容器とそれを装備した車両の重量超過を避けるために防止すべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許出願公開第102017208492号明細書
【特許文献2】国際公開第1995/022030号
【特許文献3】国際公開第2018/210606号
【特許文献4】欧州特許出願公開第2418412号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2020/141538号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第0810081号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記を考慮すると、ドーム補強シェルの機械的特性を最適化し、ドーム補強シェルの重量を制限する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のために、本発明によれば、基部及び中心軸を有するドーム形状部分を有する繊維強化複合材料テープの層の巻線からなる、圧力容器用のドーム補強シェルが提供され、層は、
- 繊維強化複合材料の少なくとも1つの近位層であって、該少なくとも1つの近位層は、該近位層の第1の端部において測定された中心軸に対して始角(start angle)α1を有し、α1は厳密に0°~90°である、少なくとも1つの近位層と、
- 繊維強化複合材料の少なくとも1つの遠位層であって、該少なくとも1つの遠位層は、該遠位層の第1の端部において測定された中心軸に対して始角α2を有し、α2は厳密に0°とα1との間である、少なくとも1つの遠位層と、
を含む。
【0010】
各層における繊維の相対的な配向の順序は、繊維強化複合材料の「レイアップ(lay-up)」として知られている。
【0011】
少なくとも1つの遠位層に対する少なくとも1つの近位層の相対位置のおかげで、ドーム補強シェルの最も外側の層は、その下の層のポール開口部よりも小さなポール開口部を有している。そのため、ドーム補強シェルの外側には鋭いエッジ部が存在しないか、少なくとも鋭いエッジ部が少なく、これは、ドーム補強シェルが応力集中の弱いスポットを殆ど含まないことを意味している。これにより、前述した先行技術文献のものと比較して、ドーム補強シェルの機械的特性を改善することができる。
【0012】
更に、少なくとも1つの遠位層に対する少なくとも1つの近位層の相対位置のおかげで、巻線の結合部分は、もはや輪状パターン巻線で開始する必要が無い。この結果、巻線作業がより簡単になり、巻線に必要なフィラメントの量が減少し、ドーム補強シェルの質量及び製造コストが減少する。参考として、本発明は、先行技術文献と比較して一定の機械的特性で、容器の圧力の外側複合構造の質量を約10%~15%減少させることを可能にすることが測定された。
【0013】
始角α1は、中心軸と、中心軸を通る切断面上への近位層の繊維トウ(fiber tow)の直交投影の「スタート」接線(“start” tangent)との間に形成される角度である。
【0014】
近位層の投影された繊維トウは、2つの端部(extremity)を有する:一方の端部は、以下に提示される切断プロセスから生じる自由端部であり、他方の端部は、継続端部(continuation extremity)であり、これは、近位層の繊維トウが切断されず、他の平面においてその軌道を継続することを意味している。中心軸を通る切断面は、自由端部の中点が中心軸上に投影される面である。「スタート」接線は、継続端部での接線である。
【0015】
始角α2は、中心軸と、中心軸を通る切断面上への遠位層の繊維トウの直交投影の「スタート」接線との間に形成される角度である。
【0016】
「フィラメント」という表現は、液体マトリックスで含浸させて複合材料を形成した連続繊維トウ、好ましくは炭素繊維、ガラス繊維若しくはアラミド繊維、または予め含浸させていないもの(すなわち、乾燥繊維)を意味している。複合材料には、使用するマトリックスの種類に応じて、2つの主要なファミリーがある。熱硬化性複合材料及び熱可塑性複合材料は、熱硬化性樹脂または熱可塑性ポリマーをマトリックスとして形成されている。
【0017】
熱硬化性樹脂は、2つ以上の反応性成分を混合して反応性熱硬化性前駆体(reactive thermoset precursor)を形成することによって形成される。反応性熱硬化性前駆体は、硬化条件(例えば、熱、紫外線若しくは他の放射線、または単にそれらを互いに接触させること等)に曝露されると反応して熱硬化性樹脂を形成している。熱硬化性マトリックスは、高性能複合材料を生成するために完全に硬化されなければならない。一旦硬化すると、熱硬化性樹脂は固体であり、樹脂はもはや流動することができないので、更に加工または再成形することはできない。熱硬化性樹脂の例としては、不飽和ポリエステル、エポキシ、ビニルエステル、ポリ尿素、イソシアヌレート、及びポリウレタン樹脂が挙げられる。反応性樹脂を含浸させた繊維からなる熱硬化性プリプレグ(thermoset prepreg)を製造することが可能であり、この反応性樹脂は、部分的にしか硬化されておらず、粘着性(tacky)であるが、依然として軟質である。プリプレグは貯蔵され、その後、樹脂を加熱または紫外線に曝露することによって加圧下で更に加工して、プリプレグを完全に硬化及び固化させることができる。
【0018】
熱可塑性ポリマーは、温度を上昇または低下させることによって、固体状態(または非流動状態)から液体状態(または流動可能状態)に、またはその逆にそれぞれ変化させることができる。半結晶性樹脂(semi-crystalline polymer)の場合、熱可塑性樹脂の温度を下げると、結晶の形成と熱可塑性樹脂の固化が促進される。逆に、半結晶性ポリマーをその融点以上に加熱すると、結晶が溶融し、熱可塑性物質が流動することができる。半結晶熱可塑性プラスチックの例としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルケトンケトンエーテルケトン(PEKKEK)等のポリエーテルケトン、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド10(PA10)、ポリアミド11(PA11)、ポリアミド12(PA12)等のポリアミド、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン等が挙げられる。非晶性熱可塑性樹脂は結晶を形成せず、溶融温度を有しない。非晶性熱可塑性樹脂は、材料温度がガラス転移温度を下回るか上回るかによって固化し、または流動可能となる。非晶性熱可塑性樹脂の例としては、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)等が挙げられる。従って、半結晶性及び非晶性熱可塑性樹脂はいずれも、融点またはガラス転移温度以上に加熱することによって再成形し、それに応じて温度を下げることによって新しい形状に固化させることができる。物理的観点から厳密には正しくないが、簡単にするために、液体状態の半結晶性及び非晶質熱可塑性物質の両方を、本明細書では「熱可塑性溶融物(thermoplastic melt)」と呼ぶ。
【0019】
有利には、繊維強化複合材料の層はテープ形状である。
【0020】
このフィラメントの形状は、ドーム補強シェルの形状を効率的に覆い、巻線の十分な結束性(cohesion)を達成するのに特に適している。
【0021】
有利には、α1は60°~75°であり、好ましくは70°~75°である。
【0022】
有利には、α2は10°~20°であり、好ましくは13°~17°である。
【0023】
これらの値はドーム補強シェルに適しており、ドーム補強シェルの製造において実施が容易である。
【0024】
有利には、ドーム補強シェルは、少なくとも1つの近位層と少なくとも1つの遠位層との間に敷設された繊維強化複合材料の少なくとも1組の中間層を更に含み、中間層の各組は、中心軸に対して、厳密にα1とα2との間である始角αiを有している。
【0025】
従って、ドーム補強シェルは、複数の種類のパターンに従って敷設された層を有することが可能であり、任意の設計の圧力容器に適応可能である。
【0026】
始角αiは、中心軸と、中心軸を通る切断面上への中間層の繊維トウの直交投影の「スタート」接線と、の間に形成される角度である。
【0027】
好ましくは、ドーム補強シェルは、中心軸に対する始角αiが少なくとも1つの近位層から少なくとも1つの遠位層まで徐々に減少する数組の中間層を含む。
【0028】
この中間層の並び(order)は、ドーム補強シェルにより良い機械的特性を提供している。
【0029】
有利なことに、ドーム補強シェルは、ドーム形状部分の基部から軸方向に延在している中心軸の周りに回転する一体的な延長部分を更に含む。
【0030】
一体的な延長部分は、内面と外周面とを有している。好ましくは、一体的な延長部分の外周面は円筒面であり、一体的な延長部分の内面は、円筒面、切頭円錐面(frustoconical)、曲面、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される面である。
【0031】
従って、この設計が好ましい場合には、ドーム補強シェルがライナの中間部分を覆うことが可能である。
【0032】
有利には、ドーム補強シェルは、繊維強化複合材料の少なくとも1つの追加の層を更に含み、少なくとも1つの追加の層は、中心軸に対して始角α0を有し、α0は、厳密にα1~90°の間であり、好ましくは82~87°である。
【0033】
繊維強化複合材料の少なくとも1つの追加の層は、レイアップ内の任意の場所に敷設されている。好ましくは、繊維強化複合材料の追加の層は、少なくとも1つの近位層の下にある。
【0034】
少なくとも1つの追加の層は、ドーム補強シェルに必要な構造的強度を提供することによって、ドーム補強シェルの機械的特性を更に改善することを可能にしている。この提供はまた、ドーム補強シェルが一体的な延長部分を含む場合に、外側複合構造の第1の層への負荷を低減することを可能にしている。実際、ドーム補強シェルの一体的な延長部分を取り囲む外側複合構造の第1層における繊維の方向におけるフィラメント応力の減少が観察されている。
【0035】
始角α0は、中心軸と、中心軸を通る切断面上への開始層の繊維トウの直交投影の「スタート」接線との間に形成される角度である。
【0036】
圧力容器は、ライナに流体を充填し、ライナから流体を排出するためのボスを含む。ボス付近の「ブリッジング(bridging)」を防止するために、追加の低角度ヘリカル層をレイアップに追加することができる。「ブリッジング」とは、新たに配置された繊維トウが以前に配置された繊維トウと接触していない場合に、ドーム補強シェルに空洞が出現することである。
【0037】
代替として、「ブリッジング」は、低角度ヘリカル層の巻き付け中にボス付近の層の厚さを増加させることによって制限することができる。
【0038】
その目的は、ドーム補強シェルにできるだけ小さな空洞を設けることである。なぜなら、空洞はドーム補強シェル、ひいては圧力容器の早期破断につながる可能性があるからである。
【0039】
好ましくは、ドーム補強シェルは次のようなものである:
- 少なくとも1つの近位層は、中心軸に対して終角(end angle)β1を有し、β1は厳密に40°~90°であり、
- 少なくとも1つの遠位層は、中心軸に対して終角β2を有し、β2は厳密に40°とβ1との間であり、及び/または
- 中間層の各組は、中心軸に対して終角βiを有し、βiは厳密にβ1とβ2との間であり、及び/または
- 少なくとも1つの追加の層は、中心軸に対して終角β0を有し、β0は厳密にβ1と90°との間であり、好ましくは82°~87°である。
【0040】
これらの値はドーム補強シェルに適しており、ドーム補強シェルの製造において実施が容易である。
【0041】
終角β1は、中心軸と、中心軸を通る切断面上への近位層の繊維トウの直交投影の「エンド」接線(“end” tangent)との間に形成される角度である。
【0042】
近位層の投影された繊維トウは、2つの端部を有する:一方の端部は、以下に提示される切断プロセスから生じる自由端部であり、他方の端部は、継続端部であり、これは、近位層の繊維トウが切断されず、他の平面においてその軌道を継続することを意味している。中心軸を通る切断面は、自由端部の中点が中心軸上に投影される面である。「エンド」接線は、自由な端点での接線である。
【0043】
終角β2は、中心軸と、中心軸を通る切断面上への遠位層の繊維トウの直交投影の「エンド」接線との間に形成される角度である。
【0044】
終角βiは、中心軸と、中心軸を通る切断面上への中間層の繊維トウの直交投影の「エンド」接線との間に形成される角度である。
【0045】
終角β0は、中心軸と、中心軸を通る切断面上への開始層の繊維トウの直交投影の「エンド」接線との間に形成される角度である。
【0046】
好ましくは、ドーム補強シェルは、繊維強化複合材料の少なくとも1つの追加の層を更に含み、少なくとも1つの追加の層は、長手方向軸に対して角度α0’を形成する輪状層であり、α0’はほぼ90°に等しい。
【0047】
繊維強化複合材料の少なくとも1つの追加の層は、レイアップ内の任意の場所に敷設されている。好ましくは、繊維強化複合材料の追加の層は、少なくとも1つの近位層の下にある。
【0048】
輪状パターンを有する少なくとも1つの追加の層は、ドーム補強シェルが一体的な延長部分を含む場合に、ドーム補強シェルの機械的特性を容易に改善し、外側複合構造の第1の層への負荷を低減することを可能にしている。実際、ドーム補強シェルの一体的な延長部分を取り囲む外側複合構造の第1層における繊維の方向におけるフィラメント応力の減少が観察されている。
【0049】
また、本発明によれば、圧力容器は、
- 流体貯蔵室(fluid storage chamber)を画定しているライナと、
- ライナのドーム形状の長手方向端部に嵌合された、少なくとも1つの上記のドーム補強シェルと、
- ボスと、
- ライナ及び少なくとも1つのドーム補強シェルを囲むまたは収容する外側複合構造と、
を含む。
【0050】
有利には、圧力容器は、ライナの2つのドーム形状の長手方向端部に嵌合された、上述した2つのドーム補強シェルを含む。
【0051】
有利には、ライナは、少なくとも1つのドーム補強シェルがライナと共にフラッシュする(flush)ように、少なくとも1つのドーム補強シェルを収容するように寸法決めされた中間部分を含む。
【0052】
「少なくとも1つのドーム補強シェルがライナと共にフラッシュする」という表現は、ライナの外面が、少なくとも1つのドーム補強シェルの外面と幾何学的に融和(blend)されることを意味している。
【0053】
中間部分は、ライナの中央円筒部分とライナのドーム形状の長手方向端部との間に位置し、これらを接続している。中間部分は、円筒面、切頭円錐面、曲面、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される外周面を有している。中間部分の外周面が円筒面である場合、ライナは、中央円筒部分とドーム形状の長手方向端部との間に正方形の外側肩部を含む段付きライナとして見ることができる。
【0054】
このように、少なくとも1つのドーム補強シェルを含むライナの外面は、特に滑らかである。これは、外側複合材構造の適用を改善し、圧力容器内の応力レベルを低減する。
【0055】
また、本発明によれば、上述のような圧力容器を備えた車両も提供される。
【0056】
また、本発明によれば、圧力容器用の一対のドーム補強シェルを製造するための方法であって、以下の連続するステップを含む方法が提供される:
(a1)中心軸を画定する2つの対称的なドーム形状部分を有するマンドレルを提供するステップと、
(b1)繊維強化複合材料の少なくとも1つの近位層をマンドレル上で敷設するステップであって、該少なくとも1つの近位層は、該近位層の第1の端部で測定された中心軸に対して始角α1を有し、α1は厳密に0°~90°である、ステップと、
(c1)少なくとも1つの近位層上で、マンドレル上で繊維強化複合材料の少なくとも1つの遠位層を敷設するステップであって、少なくとも1つの遠位層は、遠位層の第1の端部で測定された中心軸に対して始角α2を有し、α2は厳密に0°とα1との間である、ステップと、を含み、
これにより一対のドーム補強シェルを得る。
【0057】
有利には、マンドレルは、長手方向軸を中心とする回転の中央部分と、2つの長手方向端部とを更に含み、2つの対称的なドーム形状部分は、2つの対称的なドーム形状部分の中心軸が中央部分の長手方向軸と同軸になるように、中央部分の長手方向端部に配置されている。
【0058】
有利には、圧力容器のための一対のドーム補強シェルを製造するための方法は、ステップ(c1)の後続のステップであって、
(d1)一対のドーム補強シェルを2つの対称的な部分に分割し、2つの別個のドーム補強シェルを得るステップ、を更に含む。
【0059】
好ましくは、ステップ(d1)の分割は、一対のドーム補強シェルを2つの対称的な部分に切断することによって、好ましくは一対のドーム補強シェルを2つの対称的な部分に円周方向に切断することによって行われる。
【0060】
有利には、α1は、60°~75°であり、好ましくは70°~75°である。
【0061】
有利には、α2は10°~20°であり、好ましくは13°~17°である。
【0062】
有利には、圧力容器用の一対のドーム補強シェルを製造するための方法は、ステップ(c1)に先立つステップであって、
(b2)前記少なくとも1つの近位層と前記少なくとも1つの遠位層との間のマンドレル上で、繊維強化複合材料の少なくとも1組の中間層を敷設するステップであって、前記中間層の各組は、中心軸に対して、厳密にα1とα2との間に含まれる始角αiを有している、ステップを更に含む。
【0063】
好ましくは、ステップ(b2)は、中心軸に対する始角αiが少なくとも1つの近位層から少なくとも1つの遠位層まで徐々に減少する数組の中間層を敷設することからなる。
【0064】
有利な実施形態によれば、圧力容器用の一対のドーム補強シェルを製造するための方法は、ステップ(a1)に先立つステップであって、
(a0)少なくとも1つの近位層の下のマンドレル上で繊維強化複合材料の少なくとも1つの追加の層を敷設するステップであって、少なくとも1つの追加の層は、中心軸に対して始角α0を有し、α0は厳密にα1~90°の間であり、好ましくは82°~87°であるステップ、または
(a0’)前記少なくとも1つの近位層の下の前記マンドレル上で繊維強化複合材料の少なくとも1つの追加の層を敷設し、前記少なくとも1つの追加の層は、前記中心軸に対して角度α0’を形成する輪状層であり、α0’はほぼ90°に等しい。
【0065】
従って、この方法は、ドーム補強シェルが一体的な延長部分を含むか否かに応じて適応させることができる。
【0066】
また、本発明によれば、以下のステップを含む圧力容器の製造方法が提供される:
- 流体貯蔵室を画定するライナを提供するステップと、
- 流体貯蔵室への流体の充填及び流体貯蔵室からの流体の排出のために、ボスをライナのドーム形状の長手方向端部に結合するステップと、
- 上記に提示された少なくとも1つのドーム補強シェルを製造するステップと、
- 少なくとも1つのドーム補強シェルをマンドレルから取り外すステップと、
- 少なくとも1つのドーム補強シェルをライナのドーム形状の長手方向端部に取り付けるステップと、
- ライナ及び少なくとも1つのドーム補強シェルの上に外側複合構造を敷設するステップと、
を含む。
【0067】
有利なことに、圧力容器を製造する方法は、上述したような2つのドーム補強シェルを製造するステップと、マンドレルから2つのドーム補強シェルを除去するステップと、2つのドーム補強シェルをライナのドーム形状の長手方向端部に嵌合させるステップと、ライナ及び2つのドーム補強シェルの上に外側複合構造を敷設するステップとを含む。
【0068】
有利には、ライナは、少なくとも1つのドーム補強シェルがライナと共にフラッシュするように、少なくとも1つのドーム補強シェルを収容するように寸法決めされた中間部分を含む。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図2】本発明の第1の実施形態によるドーム補強シェルを備えた圧力容器の断面図である。
【
図3a】本発明によるドーム補強シェル及び従来技術のドーム補強シェルにおける異なる内部応力の配分(repartition)を比較するシミュレーション図である。
【
図3b】本発明によるドーム補強シェル及び従来技術のドーム補強シェルにおける異なる内部応力の配分を比較するシミュレーション図である。
【
図3c】本発明によるドーム補強シェル及び従来技術のドーム補強シェルにおける異なる内部応力の配分を比較するシミュレーション図である。
【
図3d】本発明によるドーム補強シェル及び従来技術のドーム補強シェルにおける異なる内部応力の配分を比較するシミュレーション図である。
【
図4】
図2と同様の図であるが、ドーム補強シェルの上に外側複合構造が嵌合された圧力容器の断面図である。
【
図5】本発明によるドーム補強シェルが追加の層を含むか否かに応じて、外側複合構造の第1の層における内部応力を比較するシミュレーション図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態によるドーム補強シェルを備えた圧力容器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0070】
他の特徴及び利点は、例示的且つ非限定的な例として与えられた以下の説明を、添付の図面と共に読むことによって明らかになるであろう。
【0071】
本発明は、特定の実施形態に関して、特定の図面を参照して説明されるが、本発明は、それに限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。記載される図面は、概略的なものに過ぎず、限定的なものではない。図面において、いくつかの要素のサイズは、説明のために誇張されており、縮尺通りには描かれていない。寸法及び相対的な寸法は、本発明の実施の実際の縮尺に対応していない。
【0072】
特許請求の範囲で使用される「含む」という用語は、その後に列挙される手段に限定されると解釈されるべきではなく、他の要素またはステップを排除しないことに留意されたい。従って、それは、言及されたような記載された特徴、整数、ステップまたは構成要素の存在を特定するものとして解釈されるべきであるが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップまたは構成要素、またはそれらの群の存在または追加を排除するものではない。従って、「手段A及びBを含むデバイス」という表現の範囲は、構成要素A及びBのみからなるデバイスに限定されるべきではない。これは、本発明に関して、デバイスの関連する明白な構成要素がA及びBであることを意味している。
【0073】
図1は、高圧下のガスを収容するように構成された圧力容器4;4’を備えた車両2を示す。例えば、圧力容器4;4’は、車両の燃料電池に電力を供給するための二水素を含んでも良い。「圧力容器」という表現は、700バールまでの内圧に耐えることができる圧力下でガスを貯蔵することを意図した容器を意味している。例えば、圧力容器は、国連が発行した「車輪付き車両、車輪付き車両への取り付け及び/または使用が可能な装置及び部品に関する統一技術規定の採択並びにこれらの規定に基づいて付与された認可の相互承認の条件に関する協定」の補足133-規則No.134に適合していても良い。
【0074】
図2は、本発明の第1の実施形態による圧力容器4の横断面の半分を表す。圧力容器4は、圧力容器4の流体貯蔵室を画定するライナ6を含む。ライナ6は、長手方向軸10を画定する中央円筒部8と、2つのドーム形状の長手方向端部12とを有している。ライナ6は、長手方向軸10に垂直であり、ライナ6の体積中心を通る対称面を有している。
【0075】
圧力容器4は、ライナ6への流体の充填及びライナ6からの流体の排出のためのボス14を含む。ボス14は、ライナ6のドーム状の長手方向端部12の一方に位置する開口部に嵌合されている。
【0076】
圧力容器4は、ライナ6のドーム形状の長手方向端部12の1つに嵌合された少なくとも1つのドーム補強シェル16を含む。この実施形態では、圧力容器4は、ライナ6のドーム形状の長手方向端部12の各々に嵌合された1つのドーム補強シェル16を備え、2つのドーム補強シェル16は、前述の対称面に関して互いに対称である。以下では、1つのドーム補強シェル16のみを説明するが、他のドーム補強シェルは、対称面に関して対称であると推論することができる。
【0077】
図2及び
図4に示すように、ライナ6は、ドーム補強シェル16がライナ6とフラッシュするようにドーム補強シェル16を収容するような寸法にされた肩部すなわち中間部18を含む。
【0078】
圧力容器4は、ライナ6及びドーム補強シェル16を包囲又は収容する外側複合構造20を含む。このような外側複合構造20は、圧力容器の製造において周知であるので、以下の説明では更に説明しない。
【0079】
ドーム補強シェル16は、繊維強化複合材料テープの層の巻線からなる。繊維強化複合材料は、敷設後に予め含浸させて硬化させても良いし、予め含浸させずに、例えば、樹脂注入プロセスまたは一般にRTMプロセスと呼ばれる樹脂トランスファー成形プロセスによって含浸させても良い。このようなプロセスの間、複合材料の硬化は、複合材料が樹脂注入ツールまたは樹脂トランスファーモールド内に残っている間に行われる。RTMプロセスによって、ドーム補強シェル16の非常に滑らかな外面を、低い内部応力で得ることが可能になることに留意されたい。ドーム補強シェル16は、基部24と、ライナ6の長手方向軸10と同軸の中心軸とを有するドーム形状部分22を有している。(複数の)層には次のものがある:
- 繊維強化複合材料の少なくとも1つの近位層であって、該少なくとも1つの近位層は、該近位層の第1の端部において測定された中心軸に対して始角α
1を有し、α
1は厳密に0°~90°である、少なくとも1つの近位層と、
- 繊維強化複合材料の少なくとも1つの遠位層であって、該少なくとも1つの遠位層は、該遠位層の第1の端部において測定された中心軸に対して、
図2に示される始角α
2を有し、α
2は厳密に0°とα
1との間である、少なくとも1つの遠位層と、
を含む。
【0080】
始角α1は、中心軸10と、中心軸を通る切断面上への近位層の繊維トウの直交投影の「スタート」接線との間に形成される角度である。
【0081】
始角α2は、中心軸10と、中心軸を通る切断面上への遠位層の繊維トウの直交投影の「スタート」接線との間に形成される角度である。
【0082】
ここで、α1は60°~75°であり、好ましくは70°~75°である。またα2は10°~20°であり、好ましくは13°~17°である。
【0083】
この実施形態では、層は更に、少なくとも1つの近位層と少なくとも1つの遠位層との間に敷設された繊維強化複合材料の数組の中間層を含み、中間層の各組は、厳密にα1とα2との間である中心軸10に対して始角αiを有する。中間層の組は、中心軸10に対するそれぞれの始角αiが、少なくとも1つの近位層から少なくとも1つの遠位層に向かって徐々に減少するようになっている。
【0084】
始角αiは、中心軸10と、中心軸10を通る切断面上への中間層の繊維トウの直交投影の「スタート」接線との間に形成される角度である。
【0085】
この実施形態では、層は、少なくとも1つの近位層の下に置かれた繊維強化複合材料の少なくとも1つの追加の層を更に含み、少なくとも1つの追加の層は、中心軸10に対して始角α0を有し、α0は厳密にα1~90°であり、好ましくは82~87°の範囲である。
【0086】
始角α0は、中心軸10と、中心軸を通る切断面上への開始層の繊維トウの直交投影の「スタート」接線との間に形成される角度である。
【0087】
この実施形態では、層は以下のように配置されている:
- 少なくとも1つの近位層は、中心軸10に対して終角β
1を有し、β
1は厳密に40°~90°であり、
- 少なくとも1つの遠位層は、中心軸10に対して
図2に示される終角β
2を有し、β
2は厳密に40°とβ
1であり、及び/または
- 中間層の各組は、中心軸10に対して終角β
iを有し、β
iは厳密にβ
1とβ
2との間であり、及び/または
- 少なくとも1つの追加の層は、中心軸10に対して終角β
0を有し、β
0は厳密にβ
1と90°との間であり、好ましくは82°~87°である。
【0088】
終角β1は、中心軸10と、中心軸10を通る切断面上への近位層の繊維トウの直交投影の「エンド」接線との間に形成される角度である。
【0089】
終角β2は、中心軸10と、中心軸10を通る切断面上への遠位層の繊維トウの直交投影の「エンド」接線との間に形成される角度である。
【0090】
終角βiは、中心軸10と、中心軸10を通る切断面上への中間層の繊維トウの直交投影の「エンド」接線との間に形成される角度である。
【0091】
終角β0は、中心軸10と、中心軸10を通る切断面上への開始層の繊維トウの直交投影の「エンド」接線との間に形成される角度である。
【0092】
図3a~
図3dは、ドーム補強シェル16及び前述の特許文献1によって提案されたドーム補強シェルにおける異なる応力を比較するソフトウェアABAQUSにおけるシミュレーションを示している。
【0093】
図3aは、ドーム補強シェル16の4つの位置26c、26d、26e、及び26fを示しており、これらは、前述の視認可能な鋭いエッジ部の位置に対応している。
図3bは、シミュレーションにおける出力UVARM8に対応する、フィラメントにおける繊維方向のラミナ応力(lamina stress)を示している。
図3cは、シミュレーションにおける出力UVARM10に対応する、フィラメントにおける繊維方向に垂直な方向のラミナ応力を示している。
図3dは、シミュレーションにおける出力UVARM13に対応する、フィラメントにおける面内剪断応力(in-plane shear stress)を示す。これらの3つの図において、点線28は、本発明によるドーム補強シェル16における応力の発生(evolution)に対応し、実線30は、従来技術のドーム補強シェルにおける応力の発生に対応している。
【0094】
図3b、
図3c及び
図3dは、本発明による2つの改良点を示す。第1に、本発明は、ドーム補強シェルに沿った異なる応力の発生を平滑化することを可能にし、従って、圧力容器の潜在的な破損につながり得る応力集中のゾーンを排除している。このような破損は、典型的には、例えば20バールから700バールまでの連続的な圧力サイクルの後に発生する。第2に、本発明によるドーム補強シェルでは、ドーム補強シェルの全体応力がわずかに低下し、従来技術のものよりも信頼性が向上している。
【0095】
図4に示す本実施形態の変形例によれば、ドーム補強シェル16の基部24は、ドーム補強シェル16の一体的な延長部分25を形成する中空シリンダによって延長されている。一体的な延長部分25は、ドーム補強シェル16の先端部27に対応する自由端部を有している。先端部27は、ドーム補強シェル16がライナ6とフラッシュするときにドーム補強シェル16を収容するためにライナ6の肩部18と協働している。この場合、少なくとも1つの近位層の下に敷設される繊維強化複合材料の少なくとも1つの追加の層は、中心軸10に対して角度α
0’を形成する輪状層であり、α
0’はほぼ90°に等しい。
【0096】
次に、ドーム補強層の製造方法について説明する。
【0097】
第1に、中心軸を画定する2つの対称的なドーム形状部分を有するマンドレルが提供される。次に、上記のような層の巻き付けがマンドレル上で行われ、追加の層、近位層、中間層及び遠位層がこの順序で、マンドレル上で巻き付けられる。このような巻線の実現例として、異なる層の角度は、5つの中間層で、α0=85°、α1=71.3°、αi={63.6°、56.2°、44.9°、33.4°、25.3°}、α2=15°とすることができる。各層の層厚は、0.5~1mmであり、より好ましくは0.7~0.85mmである。
【0098】
上述した実施形態の変形例の場合、少なくとも1つの追加の層は、輪状パターンに従ってマンドレル上で巻き付けられる。言い換えると、角度α0を有する層は、角度α0’が90°に等しい層に置換されている。
【0099】
巻回後、層は、2つの別個のドーム補強シェル16を得るために、2つの対称的な部分に分割される。分割作業は、一対のドーム補強シェル16を円周方向に2つの対称的な部分に切断することによって行われる。2つのドーム補強シェル16は、フィラメントが予め含浸されていない場合には含浸され、硬化された後、最終的にマンドレルから取り外される。
【0100】
このようにして2つのドーム補強シェル16を製造することにより、圧力容器4の製造方法を実施することができる。ライナ6が設けられ、ボス14は、ライナ6のドーム形状の長手方向端部の一方に結合されている。ドーム補強シェル16の少なくとも1つ、好ましくはその両方が、ドーム補強シェル16がライナ6と共にフラッシュするように、ライナのドーム形状の長手方向端部を覆って肩部に嵌合されている。最後に、外側複合構造20は、ライナ6及び少なくとも1つのドーム補強シェル16を包囲又は収容するように、ライナ6及び少なくとも1つのドーム補強シェル16の上に敷設される。
【0101】
図5は、ライナ6及び一体的な延長部分25を含むドーム補強シェル16の両方を包囲又は収容する外側複合構造20における異なる応力を比較する、ソフトウェアABAQUSにおけるシミュレーションを示す。応力比較は、ドーム補強シェル16の中心軸10に沿った基部24の軸方向位置及び先端部27の軸方向位置にそれぞれ対応する、容器の長手方向軸10に沿った第1の軸方向位置24’と第2の軸方向位置27’との間で、一体的な延長部分25を取り囲む外側複合構造20の部分の第1の輪状層において行われる。
【0102】
この図において、点線29は、ドーム補強シェル16が追加の層を含まない場合の外側複合構造20の第1の輪状層における内部応力の発生に対応し、実線31は、ドーム補強シェル16が追加の層を含む場合の外側複合構造20の第1の輪状層における内部応力の発生に対応している。このシミュレーションでは、外側複合構造20の第1の輪状層における内部応力は、外側複合構造20の第1の輪状層のフィラメントにおける繊維方向のラミナ応力である。
【0103】
図5は、本発明による第3の改良点を示す。実際、ドーム補強シェルが追加の層を含む場合、ドーム補強が追加の層を含まない場合と比較して、外側複合構造の第1の輪状層における内部応力は、外側複合構造においてわずかに低下している。これにより、ドーム補強シェルの一体的な延長部分を取り囲む外側複合構造の第1の輪状層にかかる負荷を低減することができる。
【0104】
図6は、本発明の第2の実施形態による圧力容器4’の半分を表す。本発明の第1の実施形態の圧力容器と異なる点は、肩部を含まないライナ6’を含むことである。その代わりに、ドーム補強シェル16’の形状は、図示のように、ライナ6’上に置かれたときに表面不連続性を生じないように適合される。
【0105】
上記の実施形態は例示的なものであり、限定的な実施形態ではない。明らかに、本発明の多くの修正及び変形は、その発明的概念から逸脱すること無く、上記の教示に照らして可能である。従って、本発明は、具体的に記載されたような他の方法で実施することができることを理解されたい。
【符号の説明】
【0106】
2 車両
4、4’ 圧力容器
6、6’ ライナ
8 中央円筒部
10 長手方向軸/中心軸
12 ドーム状の長手方向端部
14 ボス
16、16’ ドーム補強シェル
18 肩部
20 外側複合構造
22 ドーム形状部分
24 ドーム形状部分の基部
24’ 第1の軸方向位置
25 一体的な延長部分
26c、26d、26e、26f ドーム補強シェルの位置
27 ドーム補強シェルの先端部
27’ 第2の軸方向位置
28、29 点線
30、31 実線
【国際調査報告】