(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】鉄鋼とセメントクリンカーを組み合わせて製造する方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/52 20060101AFI20240705BHJP
C04B 7/02 20060101ALI20240705BHJP
C04B 7/38 20060101ALI20240705BHJP
C04B 7/44 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C21C5/52
C04B7/02
C04B7/38
C04B7/44
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502148
(86)(22)【出願日】2022-07-15
(85)【翻訳文提出日】2024-03-15
(86)【国際出願番号】 EP2022069912
(87)【国際公開番号】W WO2023285678
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501484851
【氏名又は名称】ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE ENTERPRISE LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シリル・デュナン
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・エム・オールウッド
(72)【発明者】
【氏名】フィリッパ・ホートン
【テーマコード(参考)】
4G112
4K014
【Fターム(参考)】
4G112KA08
4K014CB01
4K014CC07
4K014CE01
(57)【要約】
鉄鋼とセメントクリンカーを組み合わせて製造する方法が開示される。溶鋼を形成するための電気アーク炉に鉄鋼スクラップを装入する。建設及び解体廃材に由来するセメントペーストを電気アーク炉に装入し、鉄鋼のフラックスとして作用させ、溶鋼からの不純物の除去と電気アーク炉スラグの形成を補助する。溶鋼の熱により、電気アーク炉スラグのクリンカー化が促進され、電気アーク炉クリンカー化スラグが形成する。電気アーク炉クリンカー化スラグは、電気アーク炉から取り除かれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼とセメントクリンカーを組み合わせて製造するための方法であって、以下の工程:
電気アーク炉を用意する工程;
鉄鋼スクラップを用意する工程;
建設及び解体廃材に由来するセメントペーストを用意する工程;
溶鋼を形成するための前記電気アーク炉に前記鉄鋼スクラップを装入する工程;
前記セメントペーストを前記電気アーク炉に装入して、前記鉄鋼のフラックスとして作用させ、前記溶鋼からの不純物の除去と電気アーク炉スラグの形成を補助し、前記溶鋼の熱が前記電気アーク炉スラグのクリンカー化を促進して、電気アーク炉クリンカー化スラグを形成させる工程;及び
前記電気アーク炉クリンカー化スラグを前記電気アーク炉から取り除く工程
を含む方法。
【請求項2】
前記電気アーク炉において前記電気アーク炉クリンカー化スラグが受ける最高の操作温度が少なくとも1500℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電気アーク炉クリンカー化スラグが、前記電気アーク炉から取り除かれる際に、前記電気アーク炉の操作温度から冷却され、前記電気アーク炉クリンカー化スラグの冷却速度は、前記電気アーク炉クリンカー化スラグの温度が、20分以下の時間内で、前記電気アーク炉の前記操作温度から950℃以下まで冷却するような速度である、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記電気アーク炉に添加された前記セメントペーストが、前記電気アーク炉に添加される前にペレット化される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記セメントペーストが、前記鉄鋼のフラックス処理を補助するため、1つ以上の追加材料と組み合わされる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記追加材料がCaOであるか、又はCaOを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
セメントペーストの追加材料に対する比が、一方の限度のセメントペースト75wt%:追加材料25wt%から、他方の限度のセメントペースト99wt%:追加材料1wt%までによって定義される範囲にある、請求項5又は請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記電気アーク炉クリンカー化スラグが、ポルトランドセメントクリンカーである、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記電気アーク炉クリンカー化スラグが、少なくとも3分の2の質量のケイ酸カルシウムからなる水硬性材料であり、CaOのSiO
2に対する比が2.0以上であり、酸化マグネシウム含有量が5.0質量%を超えない、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ケイ酸カルシウムが、エーライト、ビーライト、又はエーライトとビーライトの組み合わせである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法によって得られた、又はそれによって取得可能なセメントクリンカー。
【請求項12】
請求項11のセメントクリンカーを粉砕し、石膏を添加して得られた、又はそれによって取得可能なセメント。
【請求項13】
CEM Iセメントである請求項12に記載のセメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリンカーの製造方法に関する。このようなクリンカーは、その後、粉砕してセメントを製造することができる。目的のこのようなセメントの1つは、ポルトランドセメントであるが、本発明を使用して他のセメントを製造することができる。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは建設材料として周知されている。簡単に言えば、コンクリートは、典型的にはペーストと骨材の混合物からなる。適切な骨材は、粗粒子と細粒子(例えば、砂、砂利、砕石)である。ポルトランドセメントは、一般にペーストとして使用される。ポルトランドセメントに水を加えると、水和反応が起こり、水和したポルトランドセメントに強度と硬度を与えるインターロック結晶(interlocking crystal)の形成がもたらされる。
【0003】
典型的には、ポルトランドセメントは、セメントキルンを使用して製造される。出発原料は、石灰石、頁岩、クレイ及び鉄鉱石でありうる。セメントキルン内の温度(典型的な温度は、1450~1500℃)により、CO2等のガスの排出、焼成、クリンカー化(clinkerisation)がもたらされる。キルンからのセメントクリンカーは、大きさの異なる塊又はノジュールの形状をとる。セメントクリンカーは、典型的には、クリンカー化中に形成された好ましい相組成を保持するために、キルン温度から比較的急速に冷却される。セメントクリンカーは、微粉末に粉砕され、通常、石膏(初期凝結遅延剤として作用する)と混合される。この組み合わせにより、ポルトランドセメントが形成される。
【0004】
世界中の多くの国々では、温室効果ガスの排出を削減する計画を実施している。一例として、英国は、2050年までにゼロエミッションを公約しているが、現在の技術では、すべてのセメント製造プラントを閉鎖することが必要となる。しかし、ゼロエミッション経済のインフラを構築することは、セメントなしでは不可能である。30年間、炭素回収及び貯留(CCS)は、セメントを含む「削減が困難な」セクターの排出残余分に対する解決策と考えられてきたが、その展開は非常に一時的なものであるため、2050年までに現在の建設レベルのように可能にするのに十分な規模で操業される可能性は極めて低いと自信をもって言える。したがって、ゼロエミッション経済を実現するのに十分なレベルの複合建設を可能にし、かつそれ自体がゼロエミッションとなるような代替手段を見つけることが急務である。
【0005】
現在、セメントの製造は、石灰石の脱炭酸化と燃料の燃焼により、プロセス排出と製造排出の両方が引き起こされている。ゼロエミッション社会では、インフラの構築や維持管理、及び低炭素電源の建設に、依然として大量のセメントやコンクリートを必要とする[1]。したがって、これらの排出を削減し、最終的になくすことが重要であり、そのために多くの選択肢が提唱されている。排出を削減するために提案されている戦略のほとんどは、代替材料を使った脱炭酸化によって生じるプロセス排出に焦点を当てているが、排出をなくすには至っていない。更に、セメント製造の排出に対して提案されている解決策の多くは、マグネシウムセメントやアルカリ活性化バインダー等の比較的希少な材料や今後供給されない材料に依存しているため、必要な規模で展開することはできない。
【0006】
提案されている代替材料の多くはまた、温度面での要求が低いという利点があるが、その製造プロセスは、高温プロセスのままであるため、経済的に電化するのは難しい可能性がある。現在のところ、電化、バイオ燃料及び水素燃焼が、必要な熱と温度の両方を供給する唯一の現実的な選択肢であるが、いずれもスケーラビリティが低く、調達が困難であり、効率が非常に低いといった重大な欠点がある。
【0007】
可能性のある解決策は、適応した現在の技術におけるCCSの展開であるが、これは大部分が試験的なものであり、また2050年の正味ゼロエミッションの目標を達成する規模で利用できる可能性は低い。
【0008】
したがって、提案されているどの解決策も、2050年に炭素ゼロのコンクリートを提供することはできず、それらの併用展開の可能性も、排出なしという目標にははるかに及ばない。
【0009】
セメント製造の排出を削減するために提案されているルートについて、簡単なレビューを以下に示す。
【0010】
アルカリ活性化バインダーによるセメントの代替。アルカリ活性化バインダー[2, 3, 4]は、「ジオポリマー」とも呼ばれ、一次製鉄や石炭燃焼の副産物から作られる。したがって、CO2排出削減の目標を達成するために、このような活動を削減する必要がある限り、ジオポリマーの利用可能な原料供給量は、1桁か2桁不足しており、ゼロカーボン社会では、ジオポリマーを生産する炭素排出産業が衰退するにつれて、供給量はゼロに低下する可能性が高い。
【0011】
スルホアルミン酸マグネシウムセメント(MSA)[5,6,7]。この新しいバインダーは、主にマグネサイトMgCO3を比較的低温で焼成して製造される。プロセス排出は、ポルトランドセメントの製造と同じであるが、エネルギーと温度の要件は低い。ポルトランドセメントに匹敵する特性を持つが、地球上で利用可能な鉱床は比較的少なく、主なものは中国と米国にある。英国(及び生産地域以外の世界の大部分)では、合理的な代替手段とはなっていない。
【0012】
ウォラストン/ランキンナイトセメント(Solidia社)。このバインダーは、石灰石を1200℃で焼成して作られる[8]。ポルトランドセメントとの主な違いは、CO2雰囲気下、60℃で硬化させて、焼成中に排出されるCO2の大部分を再回収する。このバインダーは、一般にセメントの代替としては使用できないが、低炭素の非強化プレキャスト部材を製造する可能性がある。
【0013】
スルホアルミン酸カルシウムセメント(CSA)[5, 6, 7]。この新しいバインダーは、主にボーキサイトを比較的低温で焼成して製造される。CSAは、ポルトランドセメントよりも速く硬化するという有益な特性がある。しかし、依然としてキルンで焼成する必要があり(燃料の燃焼によって等)、一般的な代替セメント様材料と混和することができず、ボーキサイトは、英国のようにどこでも入手できるわけではない。したがって、この手法は、焼成からの排出を部分的に軽減するのに役立つだけであり、スケーリングの問題に悩まされる。現在のセメント市場のおそらく20%を占めるプレキャスト用途に限定される可能性が高い。
【0014】
直接焼成(CCS)。LEILACプロジェクト[9]は、石灰石をか焼炉の燃焼ガスから分離し、ほぼ純粋なCO2フローを効果的に回収することを可能にする。この技術は、プロセス排出には対応するが、依然として焼成温度に到達するまで燃料を燃焼させる必要がある(したがって、燃料燃焼によるCO2を回収するためのCCSプロセスを追加する必要がある)。すべての炭素回収ベースの技術と同様に、この技術は、CO2を貯蔵又は利用する今後の開発に大きく左右される。
【0015】
代替建設技術と材料。建設物、主により小さな構造物には、例えば、練り土、レンガ及び石灰モルタル等の他に多くの既存の選択肢がある。これらはすべて、将来の炭素ゼロの世界において重要な役割を果たすが、セメントの多くの用途すべてを大規模に代替することはできない。例外となる可能性があるのは木材であり、高層の建造物にも使用される可能性がある。しかし、適切な木製部材を製造するための排出は、乾燥にキルンを必要とし、かなりの量の接着剤が使用されるため、無視できるものではない。更に、森林が永続的に維持され、生態系や生物多様性に対するその他の懸念が、人類によるバイオマスの利用を拡大することによって緩和する場合のみ、木材が排出を回収する。
【0016】
セメント代替としての焼成したクレイ(LC3)。焼成したクレイは、ポルトランドセメントの50%まで置き換えることができ、更に15%は、粉砕石灰石で置き換えることができる。クレイに含まれるメタカオリンは、ポゾランとして働くだけでなく、この反応の生成物が、石灰石の溶解生成物と水和物を形成し、非常に高い代替率を可能にする[10]。ポルトランドよりも低い温度で焼成され、広く入手可能なこれらの材料は、セメントの製造に関連する排出の大部分を削減する経済的な方法である。可能な代替量の限界は、使用するポルトランドセメントの反応性である。反応性の高いセメントであれば、80%まで代替できる可能性がある。
【0017】
建設及び解体廃材を新しいセメント製造のための調合原料として利用する(CDW)。骨材とペーストが部分的に分離されている流れを使用する実証プラントが存在し、現在進行中のプロジェクトでは、分離技術の改良が検討されている[11, 12]。現在の手法は、骨材と、砂及び水和セメントペーストの細かく混合した粉末を処理及び分離した後、依然としてキルンで焼成を行うと、燃料の燃焼により排出物が生じる。
【0018】
構造設計の改善。現在、建造物には30~40%もの多量の包含されたCO2を含むが、これは主に、最適化が不十
分な設計とフレームタイプの選択の誤りによるものである[13, 14]。したがって、まだ開発が不十分な既知の設計技術を用いることで、建設材料の全体的な必要量を大幅に削減することができる。これによって、排出をなくすことは決してできないが、代替案や削減戦略が成功した場合の影響を大きくすることができる。
【0019】
セメントの製造と使用における排出を削減するために提案されているすべてのルートには、2050年までに排出ゼロという英国の目標を達成するために果たすべき役割がありうる。しかし、炭素回収及び貯留の対応策が、経済的に実行可能であるとしても、その展開スピードによっては大きなギャップが残り、これは現時点では立証されていない。
【0020】
本発明は、以上の考察を鑑みて創案されたものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明者らは、セメント製造に関連する排出を削減する代替ルートを開発した。セメント製造の脱炭酸化とは対照的に、建設に欠かせないもう1つの材料である鉄鋼は、十分に確立された技術を使用したゼロカーボンへの道が開かれている。電気アーク炉(EAF)での鉄スクラップのリサイクルはすでに広く展開されており、EAFのエネルギー源が非排出であれば、リサイクルプロセスも非排出である。
【0022】
本発明は、セメントペーストを、電気アーク炉で鉄鋼スクラップをリサイクルする際のフラックスとして使用して、スラグを形成できるという本発明者らの洞察に基づいている。本発明者らの調査により、このようなプロセスからのスラグは、セメントクリンカーとして有用な特性を有しうることを明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
したがって、第1の態様において、本発明は、鉄鋼とセメントクリンカーを組み合わせて製造するための方法であって:
電気アーク炉を用意する工程;
鉄鋼スクラップを用意する工程;
建設及び解体廃材に由来するセメントペーストを用意する工程;
溶鋼を形成するための電気アーク炉に鉄鋼スクラップを装入する工程;
セメントペーストを電気アーク炉に装入して、鉄鋼用のフラックスとして作用させ、溶鋼からの不純物の除去と電気アーク炉スラグの形成を補助し、溶鋼の熱が電気アーク炉スラグのクリンカー化を促進して、電気アーク炉クリンカー化スラグを形成させる工程;及び
電気アーク炉クリンカー化スラグを電気アーク炉から取り除く工程
を含む方法を提供する。
【0024】
第2の態様において、本発明は、第1の態様による方法によって得られた、又は第1の態様による方法によって取得可能なセメントクリンカーを提供する。
【0025】
第3の態様では、本発明は、第2の態様のセメントクリンカーを粉砕することによって得られた、又は第2の態様のセメントクリンカーを粉砕することによって取得可能なセメントを提供する。これには、石膏等の凝結遅延剤の添加を含むことができる。
【0026】
従来のセメントキルンにおける典型的な温度は、最高1450℃に達しうる。一方で、典型的な鉄鋼組成物の液相線温度を考慮すると、EAFの典型的な最高の操作温度は、著しく高く、例えば、少なくとも1500℃、より典型的には少なくとも1550℃、少なくとも1600℃、少なくとも1650℃又は少なくとも1700℃である。工業用EAFは、典型的な最高の操作温度が、最高1800℃となる場合がある。研究目的のEAFは、もちろん著しく高い温度に達することがある。したがって、EAFの最高の操作温度は、例えば、最高1900℃、最高2000℃、最高2100℃、最高2200℃、又は最高2300℃となる場合がある。したがって、第1の態様の方法を行うための適切な最高温度は、これらの下限値のいずれか1つとこれらの上限値のいずれか1つとの選択によって形成される範囲内、例えば、1500℃から2300℃であってもよい。
【0027】
電気アーク炉クリンカー化スラグは、電気アーク炉から取り除かれる際に、電気アーク炉の操作温度から冷却される。電気アーク炉クリンカー化スラグの冷却速度は、電気アーク炉クリンカー化スラグが、20分以下の時間内で、電気アーク炉の操作温度から950℃以下まで冷却するような速度であることができる。この時間は、より好ましくは15分以下、更により好ましくは10分以下、5分以下、4分以下、3分以下、2分以下、又は1分以下である。炉温から室温への冷却は、好適には40分以下、より好ましくは20分以下で行われうる。
【0028】
電気アーク炉に添加されるセメントペーストは、電気アーク炉に添加される前にペレット化してもよい。これは、少なくとも工業的規模では、セメントペーストを電気アーク炉に添加することに対する取り扱いを容易にするために考慮される。
【0029】
建設及び解体廃材に由来するセメントペーストは、建設及び解体廃材中の砂及び/又は骨材に由来する一部の粒子を含んでもよい。具体的には、セメントペーストは、砂及び/又は骨材からのケイ酸塩を50質量%まで含むことができる。これらは、建設及び解体廃材のコンクリート成分に由来する。
【0030】
電気アーク炉ではさまざまな冶金操作が行われうる。行われる冶金操作(例えば、溶解のみ、微細合金化等)に応じて、EAFスラグ及び/又は取鍋スラグが形成されうる。本発明は、EAFスラグ及び取鍋スラグに有用であると考えられる。一部の実施形態では、本発明は、EAFスラグに特に有用である。当技術分野では、EAFスラグは、黒色スラグと呼ばれることがあり、取鍋スラグは、白色スラグと呼ばれることがあることに留意されたい。
【0031】
セメントペーストを1種以上の追加材料と組み合わせて、鉄鋼のフラックス処理を補助し、及び/又は、エーライト(ケイ酸三カルシウム)の生成を促進し、好ましくは最適化してもよい。例えば、CaOはそのような追加材料の1種でありうる。好ましくは、セメントペーストの追加材料に対する比は、一方の限度のセメントペースト75wt%:追加材料25wt%から、他方の限度のセメントペースト99wt%:追加材料1wt%までによって定義される範囲にある。この範囲の上限は、代わりに:
セメントペースト80wt%:追加材料20wt%
セメントペースト85wt%:追加材料15wt%
セメントペースト90wt%:追加材料10wt%
セメントペースト95wt%:追加材料5wt%
とすることができる。追加材料は、完全にCaOであってもよい。或いは、CaOを含まなくてもよい。或いは、1種以上の更なる材料を含むCaOであってもよい。
【0032】
電気アーク炉クリンカー化スラグは、ポルトランドセメントクリンカーであってもよい。例えば、EN197-1に準拠したポルトランドセメントクリンカーであってもよい。
【0033】
ポルトランドセメントクリンカーから製造されるセメントは、CEM Iセメントであってもよい。これは、通常のポルトランドセメント(OPC)と呼ばれることもある。
【0034】
したがって、このプロセスによる電気アーク炉クリンカー化スラグは、水硬性材料でありうる。このスラグは、少なくとも3分の2の質量のケイ酸カルシウムからなる。ケイ酸カルシウムは、3CaO.SiO2、2CaO.SiO2、又は3CaO.SiO2及び2CaO.SiO2の組み合わせである。別の言い方をすれば、ケイ酸カルシウムは、エーライト、ビーライト、又はエーライトとビーライトの組み合わせであってもよい。CaOのSiO2に対する比は、2.0以上であることができる。酸化マグネシウム含有量(MgO)は、5.0質量%を超えることはできない。
【0035】
電気アーク炉クリンカー化スラグのケイ酸カルシウム含有量を考慮すると、エーライトの割合は、少なくとも1wt%、少なくとも2wt%、少なくとも3wt%、少なくとも4wt%、少なくとも5wt%、少なくとも10wt%、少なくとも15wt%、少なくとも20wt%、少なくとも25wt%、少なくとも30wt%、少なくとも35wt%、少なくとも40wt%、少なくとも45wt%、少なくとも50wt%、少なくとも55wt%、少なくとも60wt%、少なくとも65wt%、少なくとも70wt%、少なくとも75wt%、少なくとも80wt%、少なくとも85wt%、少なくとも90wt%、少なくとも95wt%、又は約100wt%とすることができる。残りのケイ酸カルシウムは、ビーライトであってもよい。
【0036】
本発明は、そのような組み合わせが明らかに許容されないか、又は明示的に回避される場合を除き、記載された態様及び必要に応じた特徴の組み合わせを含む。
【0037】
ここで、本発明の原理を示す実施形態及び実験について、以下の添付図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】現在のコンクリートの工業生産と、現在の鉄鋼の工業リサイクルの概略フロー図である。
【
図2】本発明の実施形態が、鉄鋼の工業リサイクルにどのように統合されるかについての概略フロー図である。
【
図3】CaO-SiO
2-Al
2O
3系の概略的な三元相図を、セメントペースト及びEAF塩基性フラックスの典型的な組成領域と重ねて示す図である。
【
図4】
図3と同じCaO-SiO
2-Al
2O
3系の概略的な三元相図であるが、セメント相C
3S、C
2S、C
3Aの組成と、ポルトランドセメント及びEAFスラグの典型的な組成領域とを重ねて示す図である。
【
図5】実験1で生成したw/c 0.4サンプルの粉末XRD分析及びピーク同定の結果を示す図である。
【
図6】実験1で生成したw/c 0.6サンプルの粉末XRD分析及びピーク同定の結果を示す図である。
【
図7】実験2で生成したw/c 0.4サンプルの粉末XRD分析及びピーク同定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
ここで、本発明の態様及び実施形態について、添付図面を参照して説明する。更なる態様及び実施形態は、当業者には明らかであろう。本文中で言及したすべての文書は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0040】
本開示において、本発明者らは、鉄鋼とセメントを電気的に共生産するため、高温を利用する電気アーク炉プラントを用いることで建設及び解体廃材(CDW)を新しい高品質のポルトランドセメントにリサイクルすることが可能であることを実証した。これは、ゼロカーボンセメントを大規模に生産できる可能性を秘めている。
【0041】
従来のセメントキルンにおける典型的な温度は、最高1450℃に達しうる。一方、典型的な鉄鋼組成物の液相線温度を考慮すると、EAF中の典型的な最高の操作温度は、著しく高く、例えば、少なくとも1500℃、より典型的には少なくとも1550℃、少なくとも1600℃、少なくとも1650℃又は少なくとも1700℃である。工業用EAFの典型的な最高操作温度は、最高1800℃となる場合がある。研究目的のEAFは、もちろん著しく高い温度に達することがある。したがって、EAFの最高の操作温度は、例えば、最高1900℃又は最高2000℃となる場合がある。したがって、クリンカー化プロセスを行うのに適した温度は、これらの下限値のいずれか1つとこれらの上限値のいずれか1つとの選択によって形成される範囲内、例えば1500℃から2000℃とすることができる。
【0042】
更に本発明者らは、電気アーク炉の高温(従来のセメントキルンで利用できる温度と比べて)を利用して、超反応性セメントを製造することが可能であることを認識した。これにより、より高いレベルの代替物が可能になり、特定の用途に必要なポルトランドセメントの量を低減することができる。
【0043】
Table 1(表1)で要約したように、セメントの代替となるほとんどの選択肢(上述)は、原料が入手できないために極めて将来性のないジオポリマーを除き、焼成による排出は低いとしても同程度である。「+」、「-」及び「=」マークは、排出量、大規模な展開に対する経済的ケース、全面的な代替となる可能性、及び予想されるサプライチェーンの混乱について、ポルトランドと比較した場合の向上/低下/同等(それぞれ)を示す。本発明は、CDW+EAFとして示される概念、すなわち、鉄鋼の電気アーク炉リサイクルと、建設及び解体廃材に由来するセメントペーストをEAFのフラックスとして使用することとの組み合わせに焦点を当てる。
【0044】
【0045】
もちろん、温室効果ガス排出ゼロを達成するためには、多くの技術が開発され、工業戦略に組み合わされるだろう。したがって、ここで検討した基本技術の多くは、大規模な工業用実証機の段階ですでに存在している。コンクリートのペースト流と骨材流への分離、又は焼成されたクレイ石灰石ミックスの製造がこれに当てはまる。これらの統合により、セメント製造における排出を大幅に削減することができるが、焼成による排出の問題は解決されない。本発明者らは、鉄鋼リサイクルとクリンカー化の統合により、重要なステップが提供されると考える。鉄がかなり過剰である環境下でのクリンカー化プロセスは、詳細に研究されておらず、ポルトランドセメントの強度開発の多くの側面は、十分に理解されていないばかりか[15]、高い代替レベルの混合物となるとなおさらであると考えられる。
【0046】
図1は、現在のコンクリートの工業製造と現在の鉄鋼の工業リサイクルの概略フロー図を示す。まず、セメントの製造について説明すると、セメントは、すでに述べたように、セメントキルンを使用して形成される。従来のセメント製造の主原料のひとつは石灰石である。石灰石の焼成は、セメントのプロセス排出の原因となる。石灰石は、非常に広く入手可能であり、価格が低く、採石が容易なため使用される。石灰石の焼成による石灰は、EAFの鉄鋼リサイクルのためのフラックスとしても使用することができる。EAFからのスラグは、通常、商業的価値があるとは考えられておらず、例えば、埋め立て処分されることがある。コンクリート構造物も耐用年数が過ぎて解体された後、通常は埋め立て処分される。
【0047】
図1は、本発明の一実施形態が鉄鋼の工業リサイクルとどのように統合されるかについての概略フロー図を示す
図2と対比することができる。
図2において、CDWに由来する破砕コンクリートは、使用済みのセメントペーストと骨材(砂と石)とを分離するために分離プロセスにかけられる。マイクロ波分離が有用と考えられるが、使用済みセメントペーストを提供するために他の分離プロセスを使用してもよい。以下により詳しく説明するように、使用済みセメントペーストは、EAFでフラックスとして使用するためにEAFに装入することができ(必要に応じて、追加成分とともに)、EAFで鉄鋼スクラップを溶融処理するEAFの操作を補助する。得られたスラグは、セメントクリンカーを形成し、粉砕処理されてセメントを形成され得、その後、新しいコンクリートを形成するのに使用することができる。必要に応じて、分離プロセスからの骨材を新しいコンクリートに再利用することができる。また、必要に応じて、EAFから製造された鉄鋼は、例えば、鉄筋コンクリートの鉄筋として建設に使用することができる。
【0048】
図1に示すプロセスとの比較において、石灰石の焼成によるセメントキルンCO
2排出は、回避される。更に、石灰石の焼成(EAF用CaOフラックスを製造するため)による石灰キルンCO
2排出も回避される。
【0049】
したがって、一般論として、本発明の実施形態は、経済的、工業的規模のゼロカーボンセメント製造へのルートを提供する。これは、解体廃材に由来するセメントペーストをクリンカー化し、低炭素(例えば再生可能)エネルギーから動力供給されたEAFで必要なカルシウムを供給することにより達成される。
【0050】
CDWからのコンクリートは、炭素を含まないカルシウムの比較的豊富な供給源であるが、解体廃材からだけでは必要量に達しない可能性がある。英国では、年間約3千万トンのコンクリートが解体物から回収されており、40%の効率で約1.5百万トンのセメントペーストが回収可能であることを示唆している。
図2は、回収されたセメントペーストと分離された骨材が、その後、本発明の実施形態の文脈でどのように使用できるかを示す。
図2は、温室効果ガスを排出しない(又は、温室効果ガスを著しく排出しない)鉄鋼及びセメントを組み合わせた製造が相利共生的に可能であることを示している。
【0051】
CDWリサイクルコンクリート中の骨材からのセメントペーストの分離は、実験室規模で試験されている[11]。適切な方法の1つは、破砕コンクリートをマイクロ波照射して、ペーストと骨材を分離することである。これは、ペーストと骨材が剥離することでコンクリートが剥落する火災において発生するプロセスを模倣したものである。マイクロ波を照射すると、ペーストと骨材は密着性を失うが、そのメカニズムは現在のところ完全には理解されていない。このプロセスは、おそらくコンクリートという粘弾性媒体中の緻密なひび割れに基づいて理解することができる[17, 18, 19]。
【0052】
次に、密着性が失われたペーストあと骨材のかけらは、骨材流とペースト流に分離される。これについての主要な選択肢は複数ある:(i)比密度の違いを利用して遠心分離で部材を分離する、(ii)ふるい分けでより小さなペースト片を分離する、(iii)ボルテックスセパレーターを使用して粉末を分離する。
【0053】
上記のように得られたセメントペーストの特性評価が可能である。硫酸塩耐性、アルカリシリカ反応膨張[20,21]、及び塩化物浸入に関する標準プロトコルを使用して耐久性試験を行うことができる。原料の関係から、製造されたセメントは、共粉砕した砂粒がフィラー又はポゾラナのいずれかのような挙動を示す混和に類似している可能性がより高く、これは、それらの耐久性特性に対して好ましいと考えられる。
【0054】
また、リサイクルしたセメント混合物の粘弾性特性を検討することも可能である。若材齢クリープは、若材齢ひび割れや収縮の重要な決定要因であり、長時間クリープは、ポストテンション構造物の設計において重要な要素である。このことは、建設業界がより最適化された建設技術、特にプレキャスト部材に移行する必要があるため、特に重要である。
【0055】
図3は、CaO-SiO
2-Al
2O
3系の概略的な三元相図を、セメントペースト及びEAF塩基性フラックスの典型的な組成領域と重ねて示す。
図4は、
図3と同じCaO-SiO
2-Al
2O
3系の概略的な三元相図であるが、セメント相C
3S、C
2S及びC
3Aの組成と、ポルトランドセメント及びEAFスラグの典型的な組成領域とを重ねて示す。これらの図は、参照文献22、23、24及び25から作成した。
図3及び
図4を掲載した目的は、EAF塩基性フラックスとセメントペーストとの間の組成の類似性を示すためである。
図3に示すように、これらの組成は、CaO-SiO
2-Al
2O
3組成スペースで重なっている。「塩基性」フラックスとは、EAFを内張りする耐火レンガをフラックス/スラグが腐食するのを回避するため、EAFで使用されるフラックスが塩基性である傾向を指す。
【0056】
図4の黒い点は、主なセメント相C
3S、C
2S及びC
3Aを示す。典型的なポルトランドセメントでは、これらの相が組み合わさって、
図4のスペースAで示す平均組成がもたらされる。一方、典型的なEAFフラックスは、
図4のスペースBで示される平均組成を有するEAFスラグを形成する。この例示的な図では、AとBが重なっていることがわかる。
図3及び
図4はともに、セメントペーストをEAFフラックスとして使用することや、EAFスラグをフラックスで形成することが可能であり得、及び組成的に、ポルトランドセメントクリンカーに必要な相をスラグ中で形成することが可能でありうることを示す。
【0057】
したがって、鉄鋼リサイクルEAFをキルンとして使用し、そこで、クリンカー化プロセスを溶鋼の上で行うことで、ゼロカーボンセメントの製造が可能となりうる。EAFで到達する温度は、ポルトランドの主な相であるC3S(エーライト)の安定下限温度である1250℃、又は市販のキルンで使用される1450℃を大幅に上回る1800℃を超えることがある。このようなより高い温度は、反応性の高いセメントを製造する可能性を開く。
【0058】
したがって、工業的な観点から、セメントと鉄鋼とを組み合わせた製造をEAFプラントで行うことが可能である。これは、セメントを作る目的ために燃料を燃焼させることなく、EAFが到達する高温を利用するものである。回収されたCDWペーストの形で溶融物にカルシウム源を添加することで生成されるスラグは、
図3及び
図4に示すように、市販のポルトランドセメントに近い組成である。更なる恩恵としては、これによって鉄鋼が脱硫化される。
【0059】
さまざまなスラグ(高炉スラグ、塩基性酸素炉スラグ、EAFスラグ及び取鍋炉スラグ等)を建設材料の状況において異なる目的で使用することが公知であることに留意すべきである。これらのスラグは、コンクリート中のバインダー、細骨材又は粗骨材の代替として、少なくとも実験室規模で研究されている。しかし、本発明者らは、これまでの研究では、例えば、ポルトランドクリンカーを提供するために必要となるエーライト及びビーライトの形成並びに相の急冷の重要性については十分に検討されていないと考えている。
【0060】
後述するように、本発明の実施形態では、必要なポルトランドセメント相で急冷するために、EAFスラグはEAFから比較的素早く冷却されるべきであると考えられる。この冷却は、ポルトランドセメントクリンカーと水との反応性を考慮すると、明らかに水を使用して行うべきではない。したがって、ガス(例えば空気)による急冷、又はヒートシンクによる急冷、又はこれらの組み合わせが使用されうる。
【0061】
初期の試みでは、鉄含有量が非常に多いスラグが生成され、XRDで測定したウスタイト(FeO)は80%に迫り、SEM-EDSで測定したFeOは70%に迫った。これは、鉄鋼由来の酸化鉄がセメントスラグに混入したものと推定される。スラグ中のFeO含有量を減らすため、溶融方法を変更した。これには、鉄よりも優先して酸化させるために溶融したスクラップに炭素を添加すること、セメントペーストを添加する直前にチルプレートを使用して溶融したスクラップの上層を除去すること、フラックス処理後すぐにスラグを除去することが含まれる。この方法を用いることにより、その後のスラグサンプルのFeO含有率は、38~51%となることが判明した(SEM-EDS分析)。これは、典型的なEAFスラグのFeO含有量(典型的には、35%まで)に近いが、それよりも更に高いと考えられる。
【0062】
行ったすべての試みにおいて、溶融と完全なフラックス処理は成功した。
【0063】
セメントスラグのサンプルをSEM-EDSを使用して分析し、組成を示した。
【0064】
【0065】
Table 2(表2)は、ポルトランドセメントクリンカーに見出される典型的な相を示す。典型的なクリンカーのおおよそのバルク鉱物組成は、エーライト50~70%、ビーライト15~30%、アルミン酸塩5~10%、フェライト5~15%、遊離石灰2%、ペリクレース2%である。
【0066】
Bullard[29]は、セメントキルンから出る際のセメントクリンカーの冷却効果を調査した。Bullard[29]が報告した研究によると、キルン温度から950℃までの冷却速度は、クリンカー中の鉱物化を決定すると考えられ、950℃未満ではクリンカー内の鉱物は固定されると考えられる。Bullardは、1500℃から950℃の間の冷却速度を550℃/分から6.9℃/分の範囲で調査した。この研究に基づき、炉温から950℃までのクリンカーの冷却は、20分以下、より好ましくは15分以下、更により好ましくは10分以下、5分以下、4分以下、3分以下、2分以下、又は1分以下の時間にわたって行われるべきであると考えられる。炉温から室温への冷却は、好適には40分以下、より好ましくは20分以下で行われうる。
【0067】
Bogue計算
ポルトランドセメントクリンカー中の4つの主な鉱物のおおよその割合を計算するために、経験的にBogue計算が使われる。完全な詳細を提供するASTM C150を参照する。
【0068】
この計算は、4つの主なクリンカー鉱物である、エーライト、ビーライト、アルミン酸塩、フェライトが上記Table 2(表2)に示された組成を含む純粋な鉱物であると仮定する。
【0069】
クリンカーは典型的に、石灰とシリカとを組み合わせることによって作られ、及びアルミナを有する石灰と鉄とを組み合わせることによっても作られる。石灰の一部が組み合わさずに残っている場合、存在する4つの主なクリンカー鉱物の割合を最も良く見積もるために、計算を行う前に石灰の総含有量からこれを差し引く必要がある。このため、クリンカー分析では通常、組み合わされていない遊離石灰の数値が与えられる。
【0070】
計算は、以下のステップを踏む:
第1に、想定される鉱物組成によると、フェライトは鉄を含む唯一の鉱物である。したがって、クリンカーの鉄含有量が、フェライト含有量を決定する。
第2に、アルミン酸塩の含有量は、クリンカーのアルミナ総含有量からフェライト相中のアルミナを差し引いて決定される。ここで、これにより、フェライト相の量が計算されたので、計算できる。
第3に、すべてのシリカがビーライトとして存在すると仮定し、次の計算により、クリンカーのシリカ総含有量からビーライトを形成するのに必要な石灰量を決定する。余剰の石灰が存在する。
第4に、石灰の余剰分はビーライトに配分され、その一部がエーライトに変換される。
実際には、酸化物を配分する上記のプロセスは、酸化物がクリンカー中の酸化物の質量パーセントを表す以下の式に簡略化することができる。
【0071】
C3S = 4.0710CaO-7.6024SiO2-1.4297Fe2O3-6.7187Al2O3
[すなわち、C3S = 4.0710C-7.6024S-1.4297F-6.7187A]
【0072】
C2S = 8.6024SiO2+1.0785Fe2O3+5.0683Al2O3-3.0710CaO
[すなわち、C2S = 8.6024S+1.0785F+5.0683A-3.0710C]
【0073】
C3A = 2.6504Al2O3-1.6920Fe2O3
[すなわち、C3A = 2.6504A-1.6920F]
【0074】
C4AF = 3.0432Fe2O3
[すなわち、C4AF = 3.0432F]
【0075】
出発原料の組成が既知であれば、それを使用してBogue計算を行うことができる。或いは、クリンカーの元素組成分析(例えば、SEM中で行われるEDSを使用して)に基づいて計算を行うことが可能である。しかし、その場合、典型的にどのくらいの量の遊離石灰を考慮すべきかについては不明であり、したがって、本明細書で論じられる実施形態に適用するBogue計算は、必要に応じて変更される。
【0076】
実験1
サンプル調製
建設及び解体廃材(CDW)に見出されるペーストに似たサンプルを調製するため、水とセメントの質量比(w/c)が0.4のペーストサンプルを調製した。これを室温で密閉したまま28日間水和させた後、粉砕して粉末にした。
【0077】
セメントの一種、CEM I(純ポルトランドセメント)を調査し、ここに報告する。
【0078】
サンプル処理
サンプルを500℃で30分間予熱し、次いで、溶融スクラップを含むEAFに5~15分間添加した。EAF内には、セメント質量の8倍もの多くの鋼鉄が存在した。得られたスラグを炉から取り出し、銅板の上で冷却し、<125μmに粉砕した。スラグが受けた冷却により、確実にスラグ温度が1分未満内で950℃未満になったと考えられる。
【0079】
w/c 0.4のサンプルでは、セメントペースト添加前の溶融温度は1600℃、スラグ除去時の溶融温度は1635℃、セメントペースト添加終了からスラグ除去までの時間は5分であった。
【0080】
w/c 0.6のサンプルでは、セメントペースト添加前の溶融温度は1556℃、スラグ除去時の溶融温度は1636℃、セメントペースト添加終了からスラグ除去までの時間は15分であった。
【0081】
スラグの特性評価
粉砕したスラグの元素組成に関する情報を得るため、SEM-EDSを用いて分析することができる。
【0082】
粉砕したスラグは、存在するすべての結晶相を定量的に同定することができる、リートフェルト分析と組み合わせたX線回折(XRD)を使用して分析した。
図5は、CEM I 0.4サンプルのXRD分析を示す。
図6は、CEM I 0.6サンプルのXRD分析を示す。
【0083】
結果
最初の試みでは、F(FeO)の量が異常に多かった。これは、溶融中の高酸化と炉の形状の組み合わせによるものであった。これらの問題は、2番目のバッチで改善された。2番目のバッチのFeO量は、EAFに対して典型的に予想される量より更に多かった。
【0084】
フラックス処理は正常であった。このことは、リサイクルCDWペーストがEAF操作のフラックスとして働きうることを示す。
【0085】
XRDで得られたEAFスラグの組成は、以下の通りであった。
【0086】
【0087】
これは、プロセスがビーライト(C2S)セメントを生成させることができることを示す。これは、最終的に生成させたいセメントの種類ではないが、実行可能なセメントであり、ポルトランドセメントの前駆体である。
【0088】
分析
エーライト(C3S)を生成させるためには、過剰のカルシウムが存在しなければならない。Bogueによって計算された石灰飽和係数(LSF)は、以下の通りである:
LSF = C/(2.8S+1.2A+0.65F)
以上の結果に基づき、以下を得た。
F = 27 + 72/(56*4+102+72)*37.8 = 33.8
A = 102/(56*4+102+72)*37.8 = 9.7
S = 60/(56*2+60)*35.2 = 12.3
C = 56*2/(56*2+60)*35.2 = 22.9
LSF = 0.33
【0089】
これは、典型的なセメントプラントのLSFに達するには、29%のCaOと71%のリサイクルしたペーストの混合物が必要であることを示す。この場合、C2Sの代わりにC3Sが生成される。Bogue計算は、経験的なものであり、キルンの通常の操作温度に基づいている。EAFで受けるより高い温度は、熱力学的にC3Sの形成に有利である。したがって、この計算されたCaO添加必要量は、上限になることが予想される。同様の計算に基づくと、混合物に25%のCaOを添加すると、大部分がC3Sとなる結果が得られると予想される。
【0090】
標準サイズのEAFでは、スラグと接触するFがはるかに少ない(おそらく半分)ため、条件は、非常により有利である。これは、実物大の工業プロセスでは、必要な石灰の量は、せいぜい10~15%であろう。これは、セメントとリサイクルされた鉄鋼の製造の両方に関連するプロセス排出において90~85%削減することを表す。
【0091】
分析では、粉砕されたEAFスラグ中にC3Sは存在しないことを示したが、出発原料の性質により、炉への何らかの投入があったはずであることに注目される。理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、30分間の500℃の前処理が、結果に影響した可能性があると考えている。
【0092】
また、0.4w/c及び0.6w/cのセメントペースト間において、異なる結果が得られたことに注目される。フラックスとして使用するために調製した際に、サンプル中に残ったC3Sの量が異なることを除いて、これらが異なる結果をもたらすべき特別な理由はない。
【0093】
したがって、実験1は、リサイクルしたセメントペーストがEAF操作のフラックスとして働きうることを教示するものと考えられる。少量の石灰の添加は、高エーライトの生成に寄与すると考えられる。
【0094】
実験2
実験2は、0.4の水とセメントの質量比(w/c)のみを使用し、石灰添加剤が含まれる以外は、実験1と同じである。
【0095】
調査したセメントは、CEM I(純ポルトランドセメント)である。添加剤として使用した石灰は、工業用グレード(純度98%)であった。
【0096】
サンプル処理
サンプルを500℃で30分間予熱し、次いで、セメントペースト75%及び石灰25%の比で溶融スクラップを含むEAFにフラックスとして5~15分間加えた。得られたスラグを炉から取り出し、銅板上で冷却して、<125μmに粉砕した。
【0097】
スラグの特性評価
粉砕したスラグをSEM-EDSを使用して分析した。
【0098】
粉砕したスラグは、存在するすべての結晶相を定量的に同定することができる、リートフェルト分析と組み合わせたX線回折(XRD)を使用して分析した。
【0099】
結果
SEM-EDS分析に基づくと、酸化物の組成は、以下である:
・F: 6.32
・A: 6.91
・S: 16.85
・C: 66.43
【0100】
存在する相を評価するために、Bogue計算法を使用する:
したがって、
C4AF = 3.043F = 19.2
C3A = 2.65A - 1.692F = 7.6
【0101】
遊離石灰の正確な量は、不明である。しかし、過剰に存在したことは確実に言うことができ、C2Sが0%未満になることはない。このことから、もしC2Sが生成されなければ、C3Sは64%であると推測される:
C3S = 4.071(C-遊離石灰) - 7.600S - 6.718A - 1.430 F = 64
遊離石灰= 6.43
C2S = 2.867S - 0.7544C3S = 0
【0102】
ここで、これらの計算を支持する理論的根拠をより詳細に説明する。実験1及び実験2の両方において、遊離石灰の量は、ゼロと添加した石灰量との間の範囲にある。
【0103】
実験1では、エーライトを形成させるための十分な石灰がなく、LSFは、非常に低かった。実際、XRD分析では遊離石灰は見出されなかった。したがって、実験1では、実験1のXRDに基づき、LSFが1に達するための石灰が十分ではなかった。したがって、すべての相で正の量を与える遊離石灰の最低量が選択された。その量は6%である。原則として、遊離石灰の可能最大量は、17%である。これは、添加した石灰の割合(25%)と元素分析で測定したカルシウムの割合(約66%)に基づいて得られたものである。17%の遊離石灰では、予測されるエーライト及びビーライトは、それぞれ19.3%及び33.9%である。
【0104】
本発明者らの見解では、17%の遊離石灰は、53%のエーライトにビーライトを加えたワーストケースのシナリオを表す。しかし、本発明者らの見解では、このシナリオは、技術的に現実的ではない。なぜなら、石灰が飽和していないにもかかわらず遊離石灰が多く存在することを意味し、添加された石灰が全く反応しなかったと推測されるからである。これは、特にEAF内の温度と滞留時間に基づく熱力学的評価からは、非常に起こりそうもないことである。
【0105】
したがって、サンプルの質量を考慮すれば、可能な結果の全範囲を以下のように示すことができる:
64%から19.3%までの範囲のエーライトの割合
0%から33.9%までの範囲のビーライトの割合
【0106】
本発明者らの見解では、説明した理由について、サンプルの相組成は、上記の範囲の高い割合のエーライトの端に向かっている可能性が最も高いと考えられる。エーライト19.3%、ビーライト33.9%が存在する範囲のもう一方の端は、極めて可能性は低いと考えられる。
【0107】
更に、本発明者らは、十分な滞留時間では、64%のエーライトがこの混合物の結果であると考える。本発明者らはまた、Bogue計算は、エーライトの量を過小評価する(典型的には、絶対量3~4%)ことが公知であるとも述べている。
【0108】
したがって、本発明者らは、上の計算と説明に基づき、実験2のサンプルが高エーライトセメントであると確信している。
【0109】
図7は、実験2で生成したw/c 0.4サンプルの粉末XRD分析とピーク同定の結果を示す。
【0110】
XRDで得られたEAFスラグの組成は、以下の通りであった。
【0111】
【0112】
このサンプルは、大きなバックグラウンドの問題があり、定量は不確かであった。70%を超えるエーライト+ビーライトが形成されたが、この分析によるとエーライトよりもビーライトの方が多かった。フェロバスタマイトと仮に同定された相も確認された。
【0113】
分析
形式的に言えば、この試験は、本発明を用いてポルトランドクリンカーを生成することが可能であることを示している。EN197-1によると:
ポルトランドセメントクリンカーは、少なくとも3分の2の質量のケイ酸カルシウム(3CaO.SiO2及び2CaO.SiO2)からなり、残りは、クリンカー相を含むアルミニウム及び鉄並びにその他の化合物からならなければならない水硬性材料である。CaOのSiO2に対する比は、2.0未満であってはならない。酸化マグネシウム(MgO)含有量は、5.0質量%を超えてはならない。
【0114】
CaOの25%添加の使用が過剰であることは明らかである。添加されたCaOの量を減らすことにより、本発明を用いて生成したセメントクリンカーの品質が更に向上すると考えられる。
【0115】
したがって、実験2で生成したEAFスラグ中にかなりの割合のエーライトが形成したことを考慮すると、ポルトランドセメントクリンカーの形成要件が満たされていることが実証された。
【0116】
前述の説明、又は以下の特許請求の範囲、又は添付図面に開示された特徴は、それらの具体的な形態で、又は開示された機能を実行するための手段、又は開示された結果を得るための方法若しくはプロセスの観点から適宜表現され、別個に、又はそのような特徴の任意の組み合わせで、その多様な形態で本発明を実現するために利用することができる。
【0117】
本発明を上述した例示的な実施形態と併せて説明したが、本開示が与えられれば、多くの等価な修正及び変形が当業者には明らかであろう。したがって、上述した本発明の例示的な実施形態は、例示であって限定的なものではないと考慮される。本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、記載された実施形態にさまざまな変更を加えることができる。
【0118】
いかなる疑念も避けるために、本明細書で提供される理論的説明は、読者の理解を深める目的で提供される。本発明者らは、これらの理論的説明のいずれかによって拘束されることを望まない。
【0119】
本明細書で使用されるあらゆるセクションの見出しは、組織的な目的のためだけのものであり、記載される主題を限定するものとして解釈されるものではない。
【0120】
本明細書全体を通じて、後に続く特許請求の範囲を含め、文脈上別段の必要がない限り、単語「含む(comprise)」及び「含む(include)」、並びに「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、及び「含む(including)」等の変形は、記載された整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群を含むことを意味するが、任意の他の整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群を排除することを意味しないと理解される。
【0121】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈上明らかにそうでないことが指示されない限り、複数の指示物を含むことに留意しなければならない。本明細書において、範囲は、ある特定の値の「約」から、及び/又は別の特定の値の「約」までとして表現される場合がある。このような範囲が表現される場合、別の実施形態では、1つの特定の値から、及び/又は他の特定の値までが含まれる。同様に、値が近似値として表現される場合、先行詞「約」の使用により、特定の値が別の実施形態を形成することが理解される。数値に関する用語「約」は任意であり、例えば+/-10%を意味する。
【0122】
参考文献
本発明及び本発明が関係する最先端技術をより完全に説明し、開示するために、上で多くの刊行物を引用した。これらの参考文献の完全な引用を以下に示す。これらの各参考文献の全体は、本明細書に組み込まれる。
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【国際調査報告】