(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)遺伝子阻害及び処置
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7088 20060101AFI20240705BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20240705BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240705BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240705BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20240705BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
A61K31/7088
C12N15/113 Z ZNA
A61P35/00
A61P35/02
A61P25/02
A61P21/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502210
(86)(22)【出願日】2022-07-13
(85)【翻訳文提出日】2024-02-20
(86)【国際出願番号】 US2022073668
(87)【国際公開番号】W WO2023288240
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】313006588
【氏名又は名称】バンダ・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】VANDA PHARMACEUTICALS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プルズィホドゼン、バルトロミエイ
(72)【発明者】
【氏名】スミースゼク、サンドラ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC71
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA21
4C086ZA94
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC54
(57)【要約】
本発明の実施形態は一般にアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)に関し、より詳細には、ASOを使用してタンパク質合成を調節するための組成物及び方法に関する。ある実施形態では、本発明は、骨髄異形成症候群(MDS)と診断された患者を処置する方法であって、かかる疾患を処置するのに有効な量のJAK2(ASO-T-JAK2)化合物をコードする核酸分子を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を患者に投与することを含む方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨髄異形成症候群(MDS)と診断された患者を処置する方法であって、前記患者に、MDS疾患を処置するのに有効な量のASO-T-JAK2化合物を投与することを含む方法。
【請求項2】
前記ASO-T-JAK2化合物が、配列番号2、配列番号3、又はその両方を標的とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ASO-T-JAK2化合物が、配列番号4又は配列番号5を含むヌクレオチド配列を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ASO-T-JAK2化合物の前記量が、前記患者におけるJAK2の発現を阻害するのに十分な量である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
真性赤血球増加症(PV)と診断された患者を処置する方法であって、PV疾患を処置するのに有効な量のASO-T-JAK2化合物を前記患者に投与することを含む方法。
【請求項6】
前記ASO-T-JAK2化合物が、配列番号2、配列番号3、又はその両方を標的とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ASO-T-JAK2化合物が、配列番号4又は配列番号5を含むヌクレオチド配列を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ASO-T-JAK2化合物の前記量が、前記患者におけるJAK2の発現を阻害するのに十分な量である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
個人(individual)におけるJAK2遺伝子の発現を阻害する方法であって、前記個人におけるJAK2発現を阻害するのに有効な量のASO-T-JAK2化合物を前記個人に投与する工程を含む、方法。
【請求項10】
前記ASO-T-JAK2化合物が、配列番号2、配列番号3、又はその両方を標的とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ASO-T-JAK2化合物が、配列番号4又は配列番号5を含むヌクレオチド配列を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
JAK2をコードする核酸分子を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)。
【請求項13】
前記ASOが、配列番号2、配列番号3、又はその両方を標的とする、請求項12に記載のASO。
【請求項14】
前記ASOが、配列番号4及び配列番号5からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項13に記載のASO。
【請求項15】
請求項12に記載のASO;及び
医薬的に許容される希釈剤、担体、アジュバント、又はそれらの組み合わせ
を含む医薬組成物。
【請求項16】
滅菌非経口剤形をさらに含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
シャルコー・マリー・トゥース病2型(CMT2)と診断された患者を処置する方法であって、CMT2疾患を処置するのに有効な量のASO-T-IGHMBP2化合物を前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項18】
前記患者がシャルコー・マリー・トゥース病2型S(CMT2S)と診断されている、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ASO-T-IGHMBP2化合物が配列番号7を標的とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ASO-T-IGHMBP2化合物が、配列番号9を含むヌクレオチド配列を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ASO-T-IGHMBP2化合物が、配列番号8を含むヌクレオチド配列を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ASO-T-IGHMBP2化合物が、配列番号10、配列番号11、及び配列番号12からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記ASO-T-IGHMBP2化合物が、配列番号15内の13~35ヌクレオチド長のヌクレオチド配列を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
IGHMBP2遺伝子のC31401A変異を有する個人(individual)における前記の変異したIGHMBP2遺伝子の発現を阻害する方法であって、前記個人における変異体IGHMBP2遺伝子の発現を阻害するのに有効な量のASO-T-IGHMBP2化合物を前記個人に投与する工程を含む、方法。
【請求項25】
前記ASO-T-IGHMBP2化合物が配列番号7を標的とする、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ASO-T-IGHMBP2化合物が、配列番号9を含むヌクレオチド配列を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記ASO-T-IGHMBP2化合物が、配列番号8を含むヌクレオチド配列を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ASO-T-IGHMBP2化合物が、配列番号10、配列番号11、及び配列番号12からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記ASO-T-IGHMBP2化合物が、配列番号15中の13~35ヌクレオチド長のヌクレオチド配列を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
変異IGHMBP2遺伝子をコードする核酸分子を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)。
【請求項31】
前記ASOが配列番号7を標的とする、請求項30に記載のASO。
【請求項32】
配列番号9を含むヌクレオチド配列を含む、請求項31に記載のASO。
【請求項33】
配列番号8を含むヌクレオチド配列を含む、請求項32に記載のASO。
【請求項34】
配列番号10、配列番号611及び配列番号12からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項32に記載のASO。
【請求項35】
配列番号15中の13~35ヌクレオチド長のヌクレオチド配列を含む、請求項32に記載のASO。
【請求項36】
請求項30に記載のASO;及び
医薬的に許容される希釈剤、担体、アジュバント、又はそれらの組み合わせ
を含む医薬組成物。
【請求項37】
滅菌非経口剤形をさらに含む、請求項36に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は2021年7月15日に出願された同時係属中の米国仮特許出願第63/222,336号及び2021年7月21日に出願された米国仮特許出願第63/224,362号の優先権を主張し、その各々は、完全に記載されているのと同様に本明細書に組み込まれる。
配列表
2022年6月19日に作成され63kbを含む電子ファイル「\txt_VAND-224-PCT.xml」に含まれる配列表は、本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
本発明は特定の新規なアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)に関し、より詳細には、その医薬組成物、及びASOを使用してタンパク質合成を調節することが治療的価値を有しうる特定の疾患又は状態を処置するための方法に関する。より詳細には、本発明の態様は、真性赤血球増加症(PV)及び骨髄異形成症候群(MDS)、ならびにシャルコー・マリー・トゥース病2型(CMT2)疾患などの公知の障害の処置に関する。
【0003】
PVは、赤血球過形成、骨髄性白血球増加症、血小板増加症、及び脾腫を特徴とする骨髄増殖性疾患である。PVと診断された個人(individual)のほとんどは、JAK2遺伝子の617位にバリンからフェニルアラニンへの変異(V617F)を有する。
【0004】
MDSは、しばしば貧血をもたらす、無効造血(ineffective hematopoiesis)を特徴とするクローン性血液幹細胞障害の一群である。MDSのいくつかの症例は、同じJAK2遺伝子のV617F突然変異、特に血小板数の増加に関連している。
【0005】
JAK2遺伝子は、細胞増殖、発生、分化、及びヒストン修飾、ならびにサイトカイン及び増殖因子のシグナル伝達に関与する非受容体チロシンキナーゼをコードする。
【0006】
遺伝性の運動神経及び感覚神経の障害としても知られるシャルコー・マリー・トゥース病(CMT)は、末梢神経及び筋肉制御に関与する神経に損傷を引き起こす。症状は進行性であり、しばしば足及び下肢から始まり、次いで指、手、及び腕に進む。
【0007】
CMTのほぼ全ての症例は遺伝する。40個を超える遺伝子がCMTと関連している。いくつかの遺伝子は2つ以上の形態のCMTと関連し、いくつかの形態のCMTは、2個以上の遺伝子と関連する。したがって、1人の個人は、2つ以上の遺伝性突然変異の結果として、2つ以上の形態のCMTに罹患しうる。全CMT症例のうち半数超は、第17染色体上のPMP22遺伝子の重複によって引き起こされる。その他の形態のCMTは、X連鎖変異によって引き起こされる。
【0008】
CMT2型(CMT2)は、神経軸索に影響を及ぼすCMTのあまり一般的ではないサブタイプである。CMT2のほとんどの形態は常染色体優性パターンで遺伝するが、CMT2S型(CMT2S)を含むいくつかの形態は常染色体劣性パターンで遺伝する。したがって、CMT2Sに付随する症状は、典型的にはCMT2の常染色体優性型よりも重症度が低い。CMT2Sに関連する変異は第11染色体上のIGHMBP2(免疫グロブリンμDNA結合タンパク質2)遺伝子の変異であり、異常なRNAプロセシング及び軸索ニューロパシーをもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」又は「ASO」は、mRNA分子を不活性化することを含む、遺伝子発現が阻害され得るような様式で、標的RNA配列にハイブリダイズする、合成マルチヌクレオチドRNA化合物を指す。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、MDSと診断された患者を処置する方法であって、MDSを処置するのに有効な量のASO-T-JAK2化合物を前記患者に投与することを含む方法を提供する。本発明によれば、ASO-T-JAK2化合物は、JAK2をコードする核酸分子を標的とする任意のアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を指す。さらに、MDSを処置するのに有効なASO-T-JAK2化合物の量は、患者におけるJAK2タンパク質発現を阻害するのに有効な量の化合物の投与を必要とする。
【0011】
上記のように、「ASO-T-JAK2」という用語は、遺伝子JAK2をコードする核酸分子を標的とするASOを指す。「核酸分子」という用語は、ポリヌクレオチド化合物、すなわちRNAへの言及である。「アンチセンスオリゴヌクレオチド」又は「ASO」は、mRNA化合物を不活性化することを含む、遺伝子発現が阻害され得るような様式で、標的RNAにハイブリダイズする、合成マルチヌクレオチドDNA化合物を指す。例示的なASO-T-JAK2化合物を本明細書に開示する(配列番号2及び配列番号3をそれぞれ標的とする配列番号4及び配列番号5)。さらなるASO-T-JAK2化合物は、標的RNA配列に特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを開発するための当技術分野で公知の方法によって、同定及び調製することができる。
【0012】
「ASO-T-IGHMBP2」という用語は、IGHMBP2遺伝子をコードする核酸分子を標的とするASOを指す。「核酸分子」という用語は、ポリヌクレオチド化合物、すなわちRNAへの言及である。例示的なASO-T-IGHMBP2化合物を開示し、以下に詳細に記載する。さらなるASO-T-IGHMBP2化合物は、標的RNA配列に特異的なASOを開発するための当技術分野で公知の方法によって、同定及び調製することができる。
【0013】
上記で言及した「患者」は、疾患又は障害、特にPV又はMDS又はCMT2Sと診断された、それに罹患している、又はそれを発症するリスクがある、又はそれに罹患している、又はそれに罹患している個人を指す。
【0014】
別の実施形態では、本発明は、PVを処置するのに有効な量のASO-T-JAK2化合物を、PVと診断された患者に投与することを含む、前記患者を処置する方法を提供する。PVを処置するのに有効なASO-T-JAK2化合物の量は、患者におけるJAK2タンパク質発現を阻害するのに有効な量である。
【0015】
さらに別の実施形態では、本発明は、個人におけるJAK2遺伝子の発現を阻害する方法であって、かかる阻害を達成するのに有効な量のASO-T-JAK2化合物を個人に投与することを含む方法を提供する。
【0016】
さらに別の実施形態において、本発明は、新規なASO-T-JAK2化合物を提供する。上記のように、かかる化合物には配列番号4及び配列番号5のオリゴヌクレオチドが含まれるが、これらに限定されない。いったんヌクレオチド塩基配列が決定されればASOを調製する方法が、当技術分野に多数存在する。ASOがRNA結合でタンパク質発現を阻害する遺伝子の遺伝子配列を同定するためにも同様に、ASO-T-JAK2化合物に係る適切な塩基配列の決定が、当技術分野で公知の戦略によって達成される。
【0017】
ASO-T-JAK2の投与による個々の患者の処置では、用量及び投与計画を容易に決定することができる。ASOの承認された投与例は、ヌシネルセン(Spinrazaとして販売される)、ミポメルセン(Kynamroとして販売される)、ホミビルセン(Vitraveneとして販売される)など、当業界では数多く知られている。特定の状況においては、バイオアベイラビリティ、作用期間、又は他の治療効果を最適化するために、誘導体化された又は修飾された形態のASO-T-JAK2を投与することが有利であり得る。このような修飾/誘導体化のための方法は、当技術分野で公知である。一般に、Drug Delivery Trends in Clinical Trails and Translational Medicine: challenges and opportunities in delivery of nucleic acid-based therapeutics、J Pharm Sci. (2011 1月; 100(1): 38-52を参照されたい。本発明の目的のためには、ASOは静脈内投与されるが、経口投与を含む他の投与経路も可能である。かかる代替投与経路は、本明細書に記載のASOに適用可能である。
【0018】
したがって、本発明のさらなる態様は、処置対象の患者にASO-T-JAK2化合物を投与するために使用される医薬組成物である。これらには、薬剤の静脈内投与のために従来使用されているタイプの無菌非経口剤形が含まれる。かかる医薬組成物は、必要とされ得るエクシピエント(excipients)を含有する。これらは、完成剤形の製造のための当技術分野において公知であるように、1つ以上の希釈剤、担体、アジュバント、又はそれらの組み合わせを含みうる。
【0019】
一実施形態では、本発明は、シャルコー・マリー・トゥース病2型(CMT2)と診断された患者を処置する方法であって、前記患者に、かかる疾患を処置するのに有効な量のASO-T-IGHMBP2化合物を投与することを含む方法を提供する。
【0020】
別の実施形態では、本発明は、IGHMBP2遺伝子のC31401A変異を保有する個人における変異IGHMBP2遺伝子の発現を阻害する方法であって、個人における変異IGHMBP2遺伝子の発現を阻害するのに有効な量のASO-T-IGHMBP2化合物を個人に投与することを含む方法を提供する。
【0021】
さらに別の実施形態では、本発明は、変異IGHMBP2遺伝子をコードする核酸分子を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を提供する。かかるASOは、医薬的に許容される希釈剤、担体、アジュバント、又はそれらの組み合わせと組み合わせて、医薬組成物中に含まれ得る。
【0022】
いったんASOのヌクレオチド塩基配列が決定されればそれを調製するための多くの方法が、当技術分野に存在する。ASOがRNA結合でタンパク質発現を阻害する遺伝子の遺伝子配列を同定するためにも同様に、ASO-T-IGHMBP2化合物に係る適切な塩基配列の決定が、当技術分野で公知の戦略によって達成される。
【0023】
ASO-TIGHMBP2の投与による個々の患者の処置では、用量及び投与計画を容易に決定することができる。ASOの承認された投与の例は、ヌシネルセン(Spinrazaとして販売される)、ミポメルセン(Kynamroとして販売される)、ホミビルセン(Vitraveneとして販売される)など、当業界では数多く知られている。特定の状況においては、バイオアベイラビリティ、作用期間、又は他の治療効果を最適化するために、誘導体化又は修飾形態でASO-TIGHMBP2を投与することが有利であり得る。このような修飾/誘導体化のための方法は、当技術分野で公知である。一般に、Drug Delivery Trends in Clinical Trails and Translational Medicine: challenges and opportunities in delivery of nucleic acid-based therapeutics、J Pharm Sci. (2011 1月; 100(1): 38-52を参照されたい。本発明の目的のためには、ASOは静脈内投与されるが、経口投与を含む他の投与経路も可能である。かかる代替投与経路は、本明細書に記載のASOに適用可能である。
【0024】
したがって、本発明のさらなる態様は、処置対象の患者にASO-TIGHMBP2化合物を投与するために使用される医薬組成物である。これらには、薬剤の静脈内投与のために従来使用されているタイプの無菌非経口剤形が含まれる。かかる医薬組成物は、必要とされ得るエクシピエントを含有する。これらは、完成剤形の製造のための当技術分野において公知であるように、1つ以上の希釈剤、担体、アジュバント、又はそれらの組み合わせを含みうる。
【0025】
本発明のこれら及び他の特徴は、本発明の様々な実施形態を示す添付図面と併せて、本発明の様々な態様の以下の詳細な説明からより容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、ASO処理がJAK2発現を阻害し細胞生存率を減少させる、生物発光アッセイの結果を示す。
【
図2A】
図2Aは、本発明の実施形態によるASOで処理されたSET-2細胞の蛍光画像を示す。
【
図2B】
図2Bは、本発明の実施形態によるASOで処理されたSET-2細胞の明視野画像を示す。
【
図3A】
図3Aは、本発明の実施形態によるASOで処理されたHEL細胞の蛍光画像を示す。
【
図3B】
図3Bは、本発明の実施形態によるASOで処理されたHEL細胞の明視野画像を示す。
【
図4A】
図4Aは、本発明の実施形態によるASOで処理されたSET-2細胞の蛍光画像を示す。
【
図4B】
図4Bは、本発明の実施形態によるASOで処理されたSET-2細胞の明視野画像を示す。
【
図5A】
図5Aは、本発明の実施形態によるASOで処理されたHEL細胞の蛍光画像を示す。
【
図5B】
図5Bは、本発明の実施形態によるASOで処理されたHEL細胞の明視野画像を示す。 本発明の図面は正確な縮尺ではないことに留意されたい。図面は本発明の典型的な態様のみを示すことを意図しており、したがって、本発明の範囲を限定するものと見なされるべきではない。図面において、類似の番号は、図面間で類似の要素を表す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、合成ASOによる結合を受けやすいJAK2プレmRNA(pre-mRNA)中の標的配列を提供する。そのように結合すると、JAK2遺伝子の発現が阻害される。MDS及びPVと診断された患者において、JAK2発現のかかる阻害は、障害の有効な処置方法を提供する。
【0028】
上記のように、MDS及びPVは両方とも、JAK2タンパク質のV617F変異と関連している。野生型JAK2タンパク質配列は、617位のアミノ酸がバリンである配列番号1に示される。
【0029】
本発明の一態様では、JAK2プレmRNA分子内の標的領域がASOと結合した場合、JAK2タンパク質の合成を阻害することができることが同定される。この領域は19bp配列
【0030】
【0031】
及び、より短い16bp配列
【0032】
【0033】
を含む。
【0034】
相補的なASO配列はそれぞれ
【0035】
【0036】
及び
【0037】
【0038】
である。
【0039】
これらの配列はそれぞれ、JAK2プレmRNAのイントロンとエクソンとを架橋する。これらの配列を含むASOがJAK2プレmRNAに結合すると、プレmRNAの成熟mRNAへのプロセシングが妨げられ、JAK2タンパク質の合成が同様に妨げられる。
【0040】
JAK2プレmRNAに結合してJAK2タンパク質合成を阻害する配列番号4及び/又は配列番号5を有するASOの有効性を試験するために、3つのヒト細胞株(SET-2、HEL、CMK)をこれらのASOのそれぞれとインキュベートし、シクロヘキシミドで処理する。48時間インキュベートした後、処理した細胞株を回収し、CellTiter-Glo(R)(CTG)分析及びRNA抽出に供する。細胞株及び培養培地に関するデータを以下の表1に示す。
【0041】
【0042】
細胞を増殖期間中に回収し、Cellometer K2を用いて計数する。100万個の細胞を、6ウェルプレートのそれぞれのウェルにおいて、上掲の培地中でインキュベートし、5%CO2を含む37℃の加湿インキュベーター中でインキュベートする。
【0043】
24時間後、培地を交換し、ASOを添加し、インキュベーションを同じ条件下でさらに24時間続ける。次いで、シクロヘキシミドを最終濃度0.1mg/mLになるように添加する。シクロヘキシミドの添加の24時間後、培地及び細胞を15mLのコニカルチューブ中で合わせ、50μLの一定分量の細胞を、CTGアッセイ用の96ウェルアッセイプレートに添加する。発光は、BioTek Synergy neo2 Multi-mode Readerを用いて記録する。残りの細胞を4℃で遠心して、トリゾール試薬によるRNA抽出のための細胞ペレットを収集する。
【0044】
図1は、SET-2細胞株についての上述のCTGアッセイの結果を示す。第1列は、ASOを含まないアッセイビヒクルの結果である。平均相対発光単位(RLU)は3,000,000を超える。RLUは、アッセイウェル中の生存細胞の数に比例する。
【0045】
第2列はオフターゲット対照ASO(すなわち、JAK2プレmRNA又はmRNAを標的としていないASO)が使用される場合のアッセイの結果を示す。平均RLUはビヒクルと比較して低減されるが、依然として2,500,000を超える。
【0046】
図1の第3列は、配列番号4又は配列番号5を含むASOを添加した場合のアッセイの結果を示す。ここで、平均RLUは2,000,000未満に減少し、いくつかのサンプルでは約1,500,000に減少する。これは、ビヒクルと比較しての、RLUの有意な減少、したがって細胞生存率の有意な減少を構成する。
【0047】
これらの結果は、JAK2遺伝子の発現を定量するための次世代シーケンシング(NGS)を使用するRNAシーケンシングによって確認される。
図2A及び
図2Bは、それぞれ、配列番号4又は配列番号5を含むASOで処理されたSET-2細胞のアッセイウェルの蛍光(GFP)画像及び明視野画像を示す。
図3A及び
図3Bは、同じASOで処理したHEL細胞の蛍光画像及び明視野画像をそれぞれ示す。それぞれの場合において、蛍光は、未処理細胞におけるものよりも低く、配列番号4又は配列番号5を含むASOと共にインキュベートされた試料中における成熟JAK2 mRNAの減少を実証している。
【0048】
したがって、本発明の実施形態はJAK2の発現を阻害するために、配列番号4、配列番号5、又はその両方を含むASOを個人に投与すること;MDS、PV、又はその両方の処置としてのかかる投与;配列番号2、配列番号3、又はその両方を標的とするASO;配列番号4又は配列番号5を含むヌクレオチド配列を有するASO;及び、医薬的に許容される希釈剤、担体、アジュバント、又はその組み合わせと組み合わせてかかるASOを含む組成物を含む。
【0049】
他の態様では、本発明は、合成ASOによる結合を受けやすい変異体IGHMBP2プレmRNA中の標的配列を提供する。そのように結合すると、変異体IGHMBP2遺伝子の発現が阻害される。突然変異についてヘテロ接合性であるCMT2Sと診断された患者において、かかる阻害は、IGHMBP2タンパク質の「レスキュー」又は正常な機能への復帰をもたらす可能性がある。
【0050】
野生型IGHMBP2遺伝子の完全な配列を、添付の配列表に配列番号6として示す。31401位のヌクレオチドはシトシンである。CMT2Sに関連する変異では、このヌクレオチドはアデニンである。
【0051】
本発明の一態様では、得られる変異体IGHMBP2プレmRNA分子内の標的領域が、ASOと結合した場合に、変異体IGHMBP2タンパク質の合成を阻害することができることが同定される。変異体IGHMBP2遺伝子内の当該領域は、C31401A変異を含む19bp配列
【0052】
【0053】
を含む。
相補的ASO配列は
【0054】
【0055】
である。
【0056】
配列番号3を含むASOは変異体IGHMBP2プレmRNAのイントロン及びエクソンを架橋し、プレmRNAに結合すると、変異体IGHMBP2タンパク質の合成を妨げる。
【0057】
変異体IGHMBP2プレmRNAへの結合及び変異体IGHMBP2タンパク質合成の阻害における配列番号8を含むASOの有効性を試験するために、CMT2Sを有する患者の線維芽細胞株を、10%FBSを補充したRPMI1640培地中で、配列番号8を含むASOと共にインキュベートし、シクロヘキシミドで処理する。48時間のインキュベーション後、処理された細胞を回収し、RNA抽出及びウエスタンブロット分析についてIGHMBP2タンパク質発現を決定する。
【0058】
より具体的には、100万個の細胞を、5%二酸化炭素を含む37℃の加湿インキュベーターにおいて、上記のRPMI1640培地2mL中でインキュベートする。24時間後、培地を交換し、ASOを添加し、インキュベーションをさらに24時間続ける。次いで、シクロヘキシミドを最終濃度0.1mg/mLになるように添加する。シクロヘキシミド添加の24時間後、培地及び細胞を15mLのコニカルチューブ中で合わせ、回転させて、トリゾール試薬によるRNA抽出のための細胞ペレットを収集する。RNA抽出は例えば、QiagenのRNeasy Mini Kitを用いて行われる。次いで、ウエスタンブロット分析を実施して、試料中の野生型タンパク質及び変異体タンパク質の濃度を決定する。
【0059】
図4A及び
図4Bは、配列番号8を含むASOで処理した後のSET-2細胞の蛍光顕微鏡写真及び明視野顕微鏡写真をそれぞれ示しており、これらのASOが細胞膜に浸透する能力を実証する。
【0060】
図5A及び
図5Bは、配列番号8を含むASOで処理した後のHEL細胞の同様の蛍光顕微鏡写真及び明視野顕微鏡写真をそれぞれ示す。これらの結果もまた、かかるASOが細胞膜に浸透する能力を実証する。
【0061】
配列番号8を含むASO以外の又は配列番号8を含むASOに加えてのASOも、本発明を実施するのに有用であり得る。本出願人は、ASOの変異体IGHMBP2プレmRNAへの結合を識別することを可能にするのに十分な特異性を有する配列の基礎を提供する、配列番号8内の「コア」11ヌクレオチド配列を同定した。当業者が理解するように、本明細書に記載されるものなどの効率的かつ有効なASO療法は、ASOの標的配列への結合を確実に識別するのに十分な長さを有するASOの使用を必要とする。長さが13ヌクレオチド~35ヌクレオチドである配列を含み、配列番号9のコア配列を含むASOが、本発明の実施形態を実施する際に使用するのに十分な長さを有するものである。
【0062】
【0063】
したがって、配列番号4を含み、2~24個の隣接するヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を有するASOは、本発明の実施形態を実施するのに有用である。このようなヌクレオチド配列としては、例えば、配列番号10、11、及び配列番号12の13ヌクレオチド配列と同程度に短い配列が挙げられる。
【0064】
【0065】
このようなヌクレオチド配列には、例えば、35ヌクレオチド配列の長さのあるような配列番号13及び配列番号14の配列も含まれる。
【0066】
【0067】
より一般的には、13ヌクレオチド~35ヌクレオチド長のヌクレオチド配列を有するASOは配列番号9のコア配列を含み、15個もの上流ヌクレオチド及び/又は12個もの下流ヌクレオチドを有する。ASO「配列ウィンドウ」を配列番号15に示す。
【0068】
【0069】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明らかに即していない限り、複数形も含むことが意図される。用語「含む(comprises)」及び/又は「含んでいる(comprising)」は本明細書で使用される場合、述べられた特徴、整数、ステップ、動作、要素、及び/又は構成要素の存在を指定するが、1つ又は複数の他の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素、及び/又はそれらの群の存在又は追加を排除しないことはさらに理解されよう。
【0070】
本明細書は最良の形態を含む本発明を開示するための例を使用し、また、当業者が、任意のデバイス又はシステムを作製及び使用すること、ならびに任意の関連する又は組み込まれた方法を実行することを含む、本発明を実施することを可能にする。本発明の特許可能な範囲は、特許請求の範囲によって定義され、当業者に想起される他の例を含みうる。かかる他の例は、それらが特許請求の範囲の文言と異ならない構造要素を有する場合、又はそれらが特許請求の範囲の文言と実質的に相違しない均等の構造要素を含む場合、特許請求の範囲内にあることが意図される。
【配列表】
【国際調査報告】