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特表2024-525862栄養素の生物学的利用能及び酸化安定性が改善された、微細藻類ベースの製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】栄養素の生物学的利用能及び酸化安定性が改善された、微細藻類ベースの製品
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20240705BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240705BHJP
   C12N 13/00 20060101ALN20240705BHJP
   C12P 7/6472 20220101ALN20240705BHJP
【FI】
C12N1/12 C
A23L33/10
C12N13/00
C12P7/6472
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502561
(86)(22)【出願日】2022-07-27
(85)【翻訳文提出日】2024-01-16
(86)【国際出願番号】 EP2022071103
(87)【国際公開番号】W WO2023006827
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】21188331.9
(32)【優先日】2021-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】カネッリ, グレタ
(72)【発明者】
【氏名】ディオニシ, ファビオラ
(72)【発明者】
【氏名】ボルテン, クリストフ ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】ムルシアーノ マルティネス, パトリシア
(72)【発明者】
【氏名】マティス, アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ブシュマン, レアンドロ
(72)【発明者】
【氏名】ジャケノッド, リュック
(72)【発明者】
【氏名】クスター, イザベル
【テーマコード(参考)】
4B018
4B033
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LE05
4B018MD10
4B018MD89
4B018ME02
4B018ME04
4B018MF07
4B018MF12
4B033NG04
4B033NH07
4B033NJ01
4B033NK02
4B064AD88
4B064CA08
4B064CA21
4B064CB01
4B064CC06
4B064CC10
4B064CC12
4B064CC15
4B064CD09
4B064CE02
4B064CE03
4B064CE08
4B064DA10
4B065AA83X
4B065AA84X
4B065BB15
4B065BC03
4B065BC09
4B065BC11
4B065BC26
4B065BD01
4B065BD15
4B065BD16
4B065BD44
4B065BD50
4B065CA13
4B065CA41
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、部分的に溶解した微細藻類を含む、ヒトが摂取するための製品を作製する方法であって、a)微細藻類の懸濁液を調製するステップであって、前記微細藻類は、緑藻植物門、オクロ植物門、及び不等毛植物門から選択される門に属する、ステップと、b)パルス電界を微細藻類の懸濁液に印加するステップであって、パルス電界は、懸濁液1kg当たり25~150kJ(kg sus-1)の比エネルギー入力を有する、ステップと、c)任意選択で、該微細藻類を酵素で処理するステップと、d)バイオマス懸濁液を300rpm、4~37℃で6~48時間インキュベートするステップと、e)部分的に溶解した微細藻類のバイオマスを形成するステップと、f)該部分的に溶解した微細藻類のバイオマスを、ヒトが摂取するための製品に添加するステップと、を含む、方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分的に溶解した微細藻類を含む、ヒトが摂取するための製品を作製する方法であって、
a.微細藻類の懸濁液を調製するステップであって、前記微細藻類は、緑藻植物門(Chlorophyta)、オクロ植物門(Ochrophyta)、及び不等毛植物門(Heterokonta)から選択される門に属する、ステップと、
b.パルス電界を前記微細藻類の懸濁液に印加するステップであって、前記パルス電界は、懸濁液1kg当たり25~150kJ(kgsus -1)の比エネルギー入力を有する、ステップと、
c.任意選択で、前記微細藻類の懸濁液に酵素を添加するステップと、
d.部分的に溶解した微細藻類のバイオマスを形成するステップと、
e.ヒトが摂取するための製品の材料として、前記部分的に溶解した微細藻類のバイオマスを添加するステップと、を含む、方法。
【請求項2】
前記微細藻類が、クロレラ種(Chlorella)又はオーキセノクロレラ種(Auxenochlorella)に属する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記微細藻類が、クロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris)、好ましくは、CCALA 256である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記酵素が、エンド-1,4-β-ガラクタナーゼ、ラムノガラクツロナン ラムノヒドロラーゼ及び/又はキチナーゼである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記パルス電界を印加する前の前記微細藻類の懸濁液の温度が、2~30℃である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記パルス電界が、25~100kJ kgsus -1の比エネルギー入力を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記パルス電界が、10kVcm cm-1~45kVcm cm-1、好ましくは10kV cm-1~35kV cm-1の電界強度を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記パルス電界が、5μs~25μsのパルス長を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記パルス電界が、印加される5~30のパルス数、好ましくは印加される10のパルス数を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記パルス電界が、双極性矩形波電気パルス、単極性電気パルス、又は指数関数的減衰電気パルス、好ましくは双極性矩形波電気パルスを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記微細藻類が、前記パルス電界を印加した後に回収され、緩衝液中に再懸濁され、前記緩衝液が、4℃~37℃の温度を有し、前記微細藻類が、6~72時間、好ましくは12~72時間、前記緩衝液中でインキュベートされる、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記緩衝液が、リン酸緩衝液、好ましくはpH6の0.05Mリン酸カリウム緩衝液である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記微細藻類が、前記パルス電界の印加及び/又は酵素処理後に3μm~6μmの平均粒子サイズを有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ヒトが摂取するための微細藻類の脂質のバイオアクセシビリティを改善する方法であって、
a.微細藻類の懸濁液を調製するステップであって、前記微細藻類は、緑藻植物門、オクロ植物門、及び不等毛植物門から選択される門に属する、ステップと、
b.パルス電界を前記微細藻類の懸濁液に印加するステップであって、前記パルス電界は、懸濁液1kg当たり25~150kJ(kgsus -1)の比エネルギー入力を有する、ステップと、
c.任意選択で、前記微細藻類の懸濁液に酵素を添加するステップと、を含み、
前記微細藻類の懸濁液が、ステップb)及び/又はステップc)の後に、4℃~37℃で6時間~48時間インキュベートされることを特徴とする、方法。
【請求項15】
ヒトが摂取するための微細藻類における脂質酸化安定性を維持する方法であって、
a.微細藻類の懸濁液を調製するステップであって、前記微細藻類は、緑藻植物門、オクロ植物門、及び不等毛植物門から選択される門に属する、ステップと、
b.パルス電界を前記微細藻類の懸濁液に印加するステップであって、前記パルス電界は、懸濁液1kg当たり25~150kJ(kgsus -1)の比エネルギー入力を有する、ステップと、
c.任意選択で、前記微細藻類の懸濁液に酵素を添加するステップと、を含む、方法。
【請求項16】
微細藻類のバイオマスを含む、ヒトが摂取するための製品であって、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法によって製造された、製品。
【請求項17】
前記製品がRTD飲料である、請求項14に記載の製品。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[序論]
微細藻類は、代替オメガ3-PUFA源としてますます注目されており、かかる高価値化合物の一次生産者である。現在、微細藻類のオメガ3-PUFAリッチな脂質は、主に抽出により利用される。一方、微細藻類バイオマスの主にクロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris)、及び一般にスピルリナとして知られているアルトロスピラ・プラテンシス(Arthospira platensis)の乾燥粉末(タンパク質及びオメガ3-PUFAに富む)は、すでに市場に見ることができる。しかしながら、全細胞を使用すると、脂質の生物学的利用能は制限されることになる。更にオメガ3-PUFAは、多くの二重結合を有するため非常に酸化されやすい。酸化は異臭の形成及び栄養価の低下をもたらす。
【0002】
微細藻類における全細胞構造の完全性が維持されると、収穫後の湿潤保管中にオメガ3-PUFAが酸化から保護されることが示されている。しかしながら、損傷のない(intact)細胞壁が存在すると、難消化性多糖によりオメガ3-PUFAの生物学的利用能が制限され得る。
【0003】
微細藻類をベースとする製品における栄養素の生物学的利用能及び酸化安定性を向上させることが、明らかに必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、従来技術を改善し、パルス電界と、細胞壁の酵素処理とを使用することによって、上述のニーズに対処する。
【0005】
本発明は、広義には、溶解した微細藻類、特に部分的に溶解した微細藻類を含む、ヒトが摂取するための製品を製造する方法に関する。
【0006】
より具体的には、本発明は、部分的に溶解した微細藻類を含む、ヒトが摂取するための製品を作製する方法であって、パルス電界を微細藻類の懸濁液に印加するステップと、部分的に溶解した微細藻類のバイオマスを形成するステップと、を含む、方法に関する。
【0007】
より具体的には、本発明は、部分的に溶解した微細藻類を含む、ヒトが摂取するための製品を作製する方法であって、a)微細藻類の懸濁液を調製するステップと、b)パルス電界を微細藻類の懸濁液に印加するステップと、c)部分的に溶解した微細藻類のバイオマスを形成するステップと、を含む、方法に関する。
【0008】
より具体的には、本発明は、部分的に溶解した微細藻類を含む、ヒトが摂取するための製品を作製する方法であって、a)微細藻類の懸濁液を調製するステップと、b)パルス電界を微細藻類の懸濁液に印加するステップと、c)部分的に溶解した微細藻類のバイオマスを形成するステップと、d)部分的に溶解した微細藻類のバイオマスを、ヒトが摂取するための製品の材料として添加するステップと、を含む、方法に関する。
【0009】
より詳細には、本発明は、部分的に溶解した微細藻類を含む、ヒトが摂取するための製品を作製する方法であって、a)微細藻類の懸濁液を調製するステップであって、微細藻類は、緑藻植物門(Chlorophyta)、オクロ植物門(Ochrophyta)、及び不等毛植物門(Heterokonta)から選択される門に属する、ステップと、b)パルス電界を微細藻類の懸濁液に印加するステップと、c)部分的に溶解した微細藻類のバイオマスを形成するステップと、d)部分的に溶解した微細藻類のバイオマスを、ヒトが摂取するための製品の材料として添加するステップと、を含む、方法に関する。
【0010】
より詳細には、本発明は、部分的に溶解した微細藻類を含む、ヒトが摂取するための製品を作製する方法であって、a)微細藻類の懸濁液を調製するステップであって、微細藻類は、緑藻植物門、オクロ植物門、及び不等毛植物門から選択される門に属する、ステップと、b)パルス電界を微細藻類の懸濁液に印加するステップであって、パルス電界は、懸濁液1kg当たり25~150kJの比エネルギー入力(kgsus -1)を有する、ステップと、c)部分的に溶解した微細藻類のバイオマスを形成するステップと、d)部分的に溶解した微細藻類のバイオマスを、ヒトが摂取するための製品の材料として添加するステップと、を含む、方法に関する。
【0011】
一実施形態では、本発明は、部分的に溶解した微細藻類を含む、ヒトが摂取するための製品を作製する方法であって、a)微細藻類の懸濁液を調製するステップであって、微細藻類は、緑藻植物門、オクロ植物門、及び不等毛植物門から選択される門に属する、ステップと、b)パルス電界を微細藻類の懸濁液に印加するステップであって、パルス電界は、懸濁液1kg当たり25~150kJの比エネルギー入力(kgsus -1)を有する、ステップと、c)任意選択で、微細藻類の懸濁液に酵素を添加するステップと、d)部分的に溶解した微細藻類のバイオマスを形成するステップと、e)部分的に溶解した微細藻類のバイオマスを、ヒトが摂取するための製品の材料として添加するステップと、を含む、方法に関する。
【0012】
一実施形態では、門は、緑藻植物門である。一実施形態では、門は、オクロ植物門である。一実施形態では、門は、不等毛植物門である。
【0013】
一実施形態では、微細藻類は、クロレラ種(Chlorella)に属する。一実施形態では、微細藻類は、オーキセノクロレラ種(Auxenochlorella)に属する。
【0014】
一実施形態では、微細藻類は、クロレラ・ブルガリス、好ましくはCCALA 256である。
【0015】
一実施形態では、酵素は、ガラクタナーゼ、例えばエンド-1,4-β-ガラクタナーゼである。
【0016】
一実施形態では、酵素は、ラムノヒドロラーゼ、例えばラムノガラクツロナン ラムノヒドロラーゼである。
【0017】
一実施形態では、酵素は、キチナーゼである。
【0018】
一実施形態では、酵素は、エンド-1,4-β-ガラクタナーゼ及びラムノガラクツロナン ラムノヒドロラーゼである。
【0019】
一実施形態では、酵素は、エンド-1,4-β-ガラクタナーゼ、ラムノガラクツロナン ラムノヒドロラーゼ及び/又はキチナーゼである。
【0020】
一実施形態では、パルス電界を印加する前の微細藻類懸濁液の温度は、2~30℃である。
【0021】
一実施形態では、パルス電界は、25~100kJ kgsus -1の比エネルギー入力を有する。
【0022】
一実施形態では、パルス電界は、30~35kJ kgsus -1、例えば約32kJ kgsus -1の比エネルギー入力を有する。
【0023】
一実施形態では、パルス電界は、10kV cm-1~45kV cm-1、好ましくは10kV cm-1~35kV cm-1、より好ましくは20kV cm-1~30kV cm-1の電界強度を有する。
【0024】
一実施形態では、パルス電界は、20~25kV cm-1の電界強度を有する。
【0025】
一実施形態では、パルス電界は、5μs~25μsのパルス長を有する。
【0026】
一実施形態では、パルス電界は、20~25kV cm-1の電界強度及び5μsのパルス長を有する。
【0027】
一実施形態では、パルス電界は、印加される5~30のパルス数を有し、好ましくは10のパルス数が印加される。
【0028】
一実施形態では、パルス電界は、双極性矩形波電気パルスを含む。一実施形態では、パルス電界は単極性電気パルスを含む。一実施形態では、パルス電界は、指数関数的減衰電気パルスを含む。好ましくは、パルス電界は、双極性矩形波電気パルスを含む。
【0029】
一実施形態では、微細藻類は、PEF処理後に、例えば約4℃、又は約25℃、又は約37℃でインキュベートされる。
【0030】
典型的なインキュベーション時間は、最大約72時間、例えば、1~72時間、又は6~72時間、又は12~72時間、又は18~72時間、又は24~72時間、又は48~72時間であり得る。典型的なインキュベーション時間は、約1時間、約6時間、約12時間、約18時間、約24時間、約48時間、又は約72時間であり得る。
【0031】
懸濁液は、例えば約300rpmで撹拌しながらインキュベートされ得る。
【0032】
一実施形態では、微細藻類は、PEF処理後に約4℃で少なくとも24時間、例えば約48時間インキュベートされる。
【0033】
一実施形態では、微細藻類は、PEF処理後に約25℃又は約37℃で少なくとも6時間、例えば約12時間インキュベートされる。
【0034】
一実施形態では、微細藻類は、好ましくは遠心分離によって回収され、パルス電界を印加した後に緩衝液中に再懸濁され、緩衝液は4℃~37℃の温度を有し、微細藻類は緩衝液中で6~72時間、好ましくは12~72時間インキュベートされる。
【0035】
一実施形態では、緩衝液は、リン酸緩衝液、好ましくはpH6の0.05Mリン酸カリウム緩衝液である。
【0036】
一実施形態では、微細藻類は、パルス電界の印加又は酵素処理後に3μm~6μmの平均粒子サイズを有する。
【0037】
一実施形態では、微細藻類は、パルス電界の印加及び酵素処理後に3μm~6μmの平均粒子サイズを有する。
【0038】
本発明はさらに、ヒトが摂取するための微細藻類の脂質のバイオアクセシビリティを改善するための方法であって、a)微細藻類の懸濁液を調製するステップであって、微細藻類は、緑藻植物門、オクロ植物門、及び不等毛植物門から選択される門に属する、ステップと、b)パルス電界を微細藻類の懸濁液に印加するステップであって、パルス電界は、懸濁液1kg当たり25~150kJの比エネルギー入力(kgsus -1)を有する、ステップと、c)任意選択で、微細藻類の懸濁液に酵素を添加するステップと、を含み、該微細藻類の懸濁液が、ステップb)及び/又はステップc)の後に、4℃~37℃で6時間~48時間インキュベートされることを特徴とする方法に関する。
【0039】
一実施形態では、微細藻類の懸濁液を、例えば300rpmで撹拌しながらインキュベートする。
【0040】
本発明はさらに、ヒトが摂取するための微細藻類における脂質の酸化安定性を維持する方法であって、a)微細藻類の懸濁液を調製するステップであって、微細藻類は、緑藻植物門、オクロ植物門、及び不等毛植物門から選択される門に属する、ステップと、b)懸濁液1kg当たり25~150kJの比エネルギー入力(kgsus -1)を有するパルス電界を微細藻類の懸濁液に印加するステップと、c)任意選択で、微細藻類の懸濁液に酵素を添加するステップと、を含む、方法に関する。
【0041】
本発明はさらに、微細藻類のバイオマスを含む、ヒトが摂取するための製品であって、本発明による方法によって作製された製品に関する。
【0042】
一実施形態では、製品は、例えばRTD飲料として、ヒトが摂取するためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1図1は、20kV cm-1及び様々なパルス幅(5~25μs)で処理されたC.ブルガリスのバイオマス、ならびに5μs及び様々な電界強度(20~30kV cm-1)で処理されたバイオマスの脂質抽出能(%)を示す。
図2図2では、電界強度の効果を、5μsの一定パルス幅で評価した(20~30kV cm-1)。
図3図3は、PEF処理(20kV cm-1で5μs)、その後4℃(●)、25℃()、及び37℃(▲)でインキュベートした後のC.ブルガリスのバイオマスの、脂質のバイオアクセシビリティ(%)を示す。インキュベーションなし及びインキュベーションありの未処理バイオマスの脂質のバイオアクセシビリティ(4℃、72時間)も示す(■)。
図4図4は、HPHによりもたらされた脂質のバイオアクセシビリティが最も高かったことを示す。
図5図5は、未処理(対照)、PEF処理、酵素処理(キチナーゼ+ラムノヒドロラーゼ+ガラクタナーゼ)、PEF+酵素処理、及び100MPaのHPH処理での、C.ブルガリス細胞の平均粒径を示す。
図6図6は、未処理のC.ブルガリスバイオマス(対照)()、PEF処理(◆)、酵素処理(ET、キチナーゼ+ラムノヒドロラーゼ+ガラクタナーゼ)(■)、PEF+酵素処理(▲)、及び100MPaでHPH処理(●)での、C.ブルガリスバイオマスについて、40℃で12週間保存している間の二次酸化生成物の、A)(Z)-3-ヘキセナール及びB)ヘキサナールの発生を示す。
図7図7は、未処理(対照、●)、酵素処理(キチナーゼ+ラムノヒドロラーゼ+ガラクタナーゼ、■)、PEF処理(×)、PEF+酵素処理(◆)、及び高圧ホモジナイゼーション処理(HPH、▲)での、C.ブルガリス細胞の体積密度として、粒子サイズ分布(q3、μm-1)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
微細藻類調製物
好ましくは、微細藻類は、Bold基本培地中で培養される。培地には、約20g/Lグルコースを添加することができる。微細藻類は、暗所で、例えば約25℃で増殖させてもよい。好ましくは、微細藻類は、増殖させながら、例えば振盪インキュベーター中で約150rpmで振盪する。微細藻類は、例えば、定常期に達したときに、典型的には培養開始から約4日後に収穫されてもよい。次いで、微細藻類を、典型的には、例えば約4℃で、約10000gで約10分間遠心分離する。得られたペレットをパルス電界処理に使用する。好ましくは、微細藻類は、C.ブルガリス、例えばCCALA256である。この微細藻類は、Culture Collection of Autotrophic Organisms(Trebon、チェコ共和国)から購入することができる。
【0045】
パルス電界
典型的には、微細藻類濃度は、PEF処理前に約70g/Lである。微細藻類ペレットは、典型的には、例えば約pH6のリン酸カリウム緩衝液に再懸濁される。導電率(σ)は、約2mS cm-1に調整することができる。微細藻類懸濁液のPEF処理では、平行平板(plate-plate)のエレクトロポレーションキュベットを使用してもよい。電極距離は約4mmとしてもよい。印加電圧を8kV~12kVの間で変更してもよい。得られる電界強度は、20kV cm-1~30kV cm-1であり得る。5μs~25μsのパルス幅が適用されてもよい。パルス回数10を適用してもよい。PEF処理の後、微細藻類は、異なる温度(例えば、約4℃、25℃、又は37℃)で異なる時間(0時間、1時間、6時間、12時間、18時間、24時間、48時間、72時間)、約300rpmでインキュベートすることができる。次いで、微細藻類バイオマスは液体窒素で瞬間凍結させてもよい。
【0046】
酵素の添加/酵素処理
酵素処理の前に、微細藻類は典型的にはリン酸カリウム緩衝液中に懸濁される。緩衝液濃度は、典型的には約50mMである。緩衝液は典型的には約pH6である。微細藻類濃度は約20g/Lにしてもよい。キチナーゼ、ラムノガラクツロナン ラムノヒドロラーゼ、及び/又はエンド-1,4-β-ガラクタナーゼを微細藻類懸濁液に添加してもよい。エンド-1,4-β-ガラクタナーゼは、約pH6のリン酸カリウム緩衝液中に存在させてもよい。次いで、懸濁液を37℃、約300rpmで約24時間インキュベートしてもよい。インキュベーション後、バイオマスを液体窒素で瞬間凍結させてもよい。
【0047】
酵素処理と組み合わせたPEF
微細藻類バイオマスは、典型的には、約5μsのパルス幅で処理される。電界強度は、約20kV cm-1であってもよい。10パルスを使用してもよい。リン酸カリウム緩衝液、例えばpH6の50mMリン酸カリウム緩衝液で懸濁液を約20g/Lに希釈する前に、酵素を添加してもよい。キチナーゼ、ラムノガラクツロナン ラムノヒドロラーゼ、及び/又はエンド-1,4-β-ガラクタナーゼを添加してもよい。混合後、典型的には、試料を37℃で約24時間、約300rpmでインキュベートする。インキュベーション後、バイオマスを直ちにスナップ凍結してもよい。
【0048】
定義
組成が重量%を単位として本明細書に記載される場合、別途記載のない限り、乾燥ベースでの材料混合物を意味する。
【0049】
本明細書で使用される場合、用語「約」は、数値範囲内、例えば、参照数字の-30%から+30%の範囲内、又は参照数字の-20%から+20%の範囲内、又は参照数字の-10%から+10%の範囲内、又は参照数字の-5%から+5%の範囲内、又は参照数字の-1%から+1%の範囲内の数を指すものと理解されたい。本明細書における全ての数値範囲は、その範囲内の全ての整数又は分数を含むと理解されるべきである。
【0050】
当業者は、本明細書に開示される本発明の全ての特徴を自由に組み合わせることができることを理解するであろう。特に、本発明の組成物について記載された特徴を本発明の方法又は使用と組み合わせてもよく、逆もまた同様である。更に、本発明の異なる実施形態について記載された特徴を組み合わせてもよい。既知の均等物が特定の特徴について存在する場合、このような均等物は、本明細書で具体的に言及されているかのごとく組み込まれる。
【0051】
本発明の更なる利点及び特徴は、図面及び非限定的な実施例から明らかである。
【実施例
【0052】
以下の実施例は、本発明の範囲内に同様に該当する幾つかの製品及び方法について例示的なものである。本発明の観点から、変更及び改変をなすことができる。当業者であれば、これらの例において、多様な用途に際し本発明の栄養素及び他の要素には合理的な調整がなされ、処方、材料、加工、及び混合物には多岐にわたる変形が存在することを認識されるであろう。
【0053】
実施例1
微細藻類の培養
C.ブルガリス(CCALA 256)は、Culture Collection of Autotrophic Organisms(Trebon、Czech Republic)から購入した。C.ブルガリスを、振盪インキュベーター(Multitron Pro、Infors AG、Bottmingen、スイス)内で、500mLエルレンマイヤーフラスコ(ワーキングボリューム250mL)中の、20g/Lグルコースを添加したボールド基本培地で、生物学的な三連試料(脂質抽出能実験については二連)として暗所、25℃及び150rpmで培養した。4日間の培養後、定常期に達したときにバイオマスを回収し、遠心分離した(10000g、10分、4℃)。上清を廃棄し、ペレット(新鮮なバイオマス)をさらなる実験に使用した。
【0054】
C.ブルガリスの増殖を、750nmでの光学密度(OD)測定(GENESYS(商標)10S、Thermo Fischer Scientific Inc.、Waltham、MA、米国)によってモニタリングした。ODと乾燥重量(DW)との間の相関係数は、式(R=0.9796)によって示される。
DW[gL-1]=0.5596・OD750nm+0.4179
【0055】
実施例2
パルス電界
細胞のエレクトロポレーションの前に、微細藻類培養物の濃度及び導電率を標準化した。全てのPEF実験について、微細藻類濃度を70g/Lに設定した。
【0056】
新鮮なバイオマスペレットを、pH6のリン酸カリウム緩衝液中に再懸濁し、2mS cm-1の導電率(σ)に調整した。導電率の調整により、その後のPEF処理に適合した負荷条件を確保した。微細藻類懸濁液の調製直後に導電率を測定したところ、1.7mS cm-1であった。ボルテックス処理後、微細藻類懸濁液の1mLアリコートを、PEF処理のために平行平板のエレクトロポレーションキュベット(VWR International bvba.、Leuven、ベルギー)に移した。試料を4mmの電極距離でバッチ処理した。実験装置は、RUP6-15CLパルス発生器(GBS-Elektronik、Radeberg、ドイツ)にキュベットホルダーを接続して構成した。Wave Surfer 10オシロスコープ(Teledyne LeCroy GmbH、Heidelberg、ドイツ)に接続したP6015A電圧プローブ(Tektronix Inc.、Beaverton OR、米国)を用いてパルス測定を行った。印加電圧を8kVと12kVの間で変化させ、それぞれ20kV cm-1及び30kV cm-1の電界強度を得た。5μs~25μsのパルス幅及び10のパルス数を適用した。様々な組み合わせを体系的に試験して、脂質抽出能に対する影響を調査した。PEF処理の後、いくつかのキュベットに由来するバイオマスを合わせ、異なる温度(4℃、25℃、37℃)で異なる時間(0時間、1時間、6時間、12時間、18時間、24時間、48時間、72時間)、300rpmでインキュベートした。インキュベーション後、バイオマスを液体窒素で直ちに急速凍結させ、さらなる分析まで-20℃で保存した。未処理試料(対照)を濃縮し、同じ導電率に標準化し、インキュベートし、次いで急速凍結させた。図1は、20kV cm-1及び様々なパルス幅(5~25μs)で処理されたC.ブルガリスのバイオマス、ならびに5μs及び様々な電界強度(20~30kV cm-1)で処理されたバイオマスの脂質抽出能(%)を示す。
【0057】
電界強度の効果を、5μsの一定パルス幅で評価した(20~30kV cm-1)(図2)。両方の実験において、バイオマス懸濁液をPEF処理後に25℃で1時間インキュベートした。脂質抽出能は、5μsでのPEF処理により未処理対照と比較して増強された。より高いパルス幅、したがってより高いエネルギー入力での処理は、脂質抽出能の改善をもたらさなかった。様々な電界強度及び5μsの一定パルス幅で脂質抽出能を評価した。バイオマスを20kV cm-1で処理した場合、脂質抽出能は対照よりも15.8%高かったが、25kV cm-1で処理した場合に最も高い増加に達した(+26.9%)。より高い電界強度(30kV cm-1)、すなわちより大きなエネルギー入力では、脂質抽出能が低下した。注目すべきことに、25kV cm-1以上で処理すると、システムの不安定性が生じた。20kV cm-1で5μsのパルスは、31.8kJ kgsus -1のエネルギー入力によるμsPEF処理を表す。
【0058】
実施例3
酵素処理:
新鮮な微細藻類バイオマスを、pH6の50mMリン酸カリウム緩衝液に20g/Lで懸濁した。キチナーゼ溶液(700μL、微細藻類懸濁液中1mg/mL、Sigma-Aldrich、スイス)、ラムノガラクツロナン ラムノヒドロラーゼ(35μL、NZYTech、ポルトガル)、エンド-1,4-β-ガラクタナーゼ(1.75μL、リン酸カリウム緩衝液、pH6中750U/mL、Megazyme、アイルランド)を微細藻類懸濁液に添加した。混合後、試料を撹拌プレート上で37℃、300rpmで24時間インキュベートした。インキュベーション後、バイオマスを液体窒素で直ちに急速凍結し、さらなる分析まで-20℃で保存した。対照(未処理バイオマス)では、酵素溶液をリン酸カリウム緩衝液(pH6、50mM)で置き換えた。全てのチューブを300rpmの撹拌プレート上で37℃で24時間インキュベートした。インキュベーション後、試料を回収し、砕氷中で直ちに冷却した。
【0059】
実施例4
酵素処理と組み合わせたPEF
微細藻類バイオマスを、5μsのパルス幅、20kV cm-1の電界強度、10パルスで処理した。複数の電気穿孔キュベットからバイオマスを合わせ、次の酵素、すなわちキチナーゼ(700μL、リン酸カリウム緩衝液中1mg/mL、pH6)、ラムノガラクツロナン ラムノヒドロラーゼ(35μL、NZYTech、ポルトガル)、エンド-1,4-β-ガラクタナーゼ(1.75μL、リン酸カリウム緩衝液中750U/mL、pH6、Megazyme、アイルランド)、を添加した後、懸濁液をリン酸カリウム緩衝液50mM、pH6)で20g/Lに希釈した。混合後、試料を37℃で24時間、300rpmで撹拌プレート上でインキュベートした。インキュベーション後、バイオマスを液体窒素で直ちに急速凍結し、さらなる分析まで-20℃で保存した。
【0060】
実施例5
脂質抽出能
ヘキサン:イソプロパノール(HI)抽出効率を測定して脂質抽出能を評価した。HI抽出効率は、ヘキサン:イソプロパノール(3:2 v/v)によって抽出された遊離脂質を、直接エステル交換によって測定された総脂質と比較した比として表され、パーセンテージとして表される。HIは、損傷のない剛性微細藻類細胞には容易に浸透せず、より低い抽出収率をもたらす。
【0061】
ヘキサン:イソプロパノール(3:2 v/v、1.5mL)を10mgの凍結乾燥PEF処理微細藻類バイオマスに添加し、混合物を30秒間ボルテックスした。試料を遠心分離し(10分、750g、25℃)、抽出された脂質を含有する溶媒層を、秤量したフラスコに移した。これらの抽出ステップを合計4回行った。全ての溶媒層を合わせ、続いて溶媒を窒素気流下で蒸発により除去した。抽出された脂質及び乾燥バイオマス中の総脂質を、脂肪酸メチルエステル(FAME)へのエステル交換時にガスクロマトグラフィー(GC)によって定量した。簡単に説明すると、1.5Nメタノール性塩酸溶液を用いて脂肪酸を直接トランスエステル化し、スプリット注入ポート及び水素炎イオン化検出(FID)(7890A、Agilent Technologies、Basel、スイス)を備えた装置を使用してガスクロマトグラフィーにより分析した。次の温度-時間プログラム:50℃(0.2分)、50~180℃(120℃ min-1、180~220℃(6.7℃ min-1、及び220~250℃(30℃ min-1)を、10mの長さ、0.1mmの内径、及び0.2μmのフィルムを有する70%シアノプロピルポリシルフェニレン-シロキサンカラム(BPX70;SGE Analytical Science、Milton Keynes、英国)に用いた。ピークの同定は、保持時間をFAME標準(Nu-Chek Prep.Inc.、Elysian、米国)と比較することにより実施した。ピーク面積を、OpenLab CDS VLソフトウェア(Agilent Technologies、Basel、スイス)で定量化した。
【0062】
実施例6
脂質のバイオアクセシビリティ
標準化されたプロトコル(INFOGEST2.0)に従って、インビトロ消化モデルによって、脂質のバイオアクセシビリティを測定した。簡単に述べると、300rpmで撹拌しながら37℃で三連(n=3)で消化を行った。口腔相(2分、pH7)をシミュレートするために、次の溶液、すなわち水(1.13mL)、模擬唾液(SSF、0.96mL)、及びCaCl(6μL、0.3M)を凍結乾燥バイオマス(0.3g)と混合した。胃相を開始させるために、模擬胃液(SGF、1.92mL)及びCaCl(1.2μL、0.3M)を経口ボーラスに添加し、pHを3に設定した。ペプシン(0.12mL、80000U/mL、Sigma-Aldrich、Buchs、スイス)及び胃リパーゼ(0.12mL、2400U/mL、Lipolytech、Marseille、France)を添加し、最終容量を水で4.8mLにした。定期的にpHを3に調整した。2時間インキュベートした後、pHを7に設定し、模擬腸液(SIF、2.04mL)、CaCl(9.6μL、0.3M)、パンクレアチン(1.2mL、800U/mL、Sigma-Aldrich)、及び胆汁酸塩(0.6mL、0.16mM、Sigma-Aldrich)を添加した。水を添加して最終体積を9.6mLとした。2時間のインキュベーション後、完全消化物のアリコート(2mL)を液体窒素で凍結し、凍結乾燥した。残りの完全な消化物を遠心分離した(30分、10000g、4℃)。ミセル相(上清)及びペレットを別々に液体窒素で凍結し、凍結乾燥した。全体的なバイオアクセシビリティが予想される乳児用フォーミュラ(Aptamil 1、Milupa、Dublin、アイルランド)を陽性対照として使用し、インビトロ消化に供した。微細藻類バイオマスを含まない水(1.2mL)をブランクとして消化して、消化液及び酵素に由来する脂肪酸を定量した。
【0063】
全消化物及びミセル相の脂質含有量を分析した。脂質含有量は、測定された総脂肪酸として表した。脂質のバイオアクセシビリティは、ミセル相に含まれる脂質の量(酵素ブランクのミセル相中の脂質によって補正される)を全消化物中の脂質の量(それぞれ、酵素ブランクの全消化物中の脂質によって補正される)で割ったものとして定義し、パーセンテージ(%)として表した。
【0064】
PEF処理(20kV cm-1で5μs)したC.ブルガリスのバイオマスの、インビトロ消化モデルによる脂質のバイオアクセシビリティを分析した後、異なる温度(4℃、25℃、37℃)で72時間までのインキュベーション条件に供した(図3)。インキュベーション後、藻類懸濁液を液体窒素中で直ちに急速凍結し、次のインビトロ消化のために凍結乾燥した。パラメータのこの組合せは、本試験において以前に試験した実施可能なものの中から、最も高い脂質抽出能をもたらすものとして選択した。
【0065】
図3は、PEF処理(20kV cm-1で5μs)、その後4℃(●)、25℃()、及び37℃(▲)でインキュベートした後のC.ブルガリスのバイオマスの、脂質のバイオアクセシビリティ(%)を示す。インキュベーションなし及びインキュベーションありの未処理バイオマスの脂質のバイオアクセシビリティ(4℃、72時間)も示す(■)。エラーバーは、生物学的な三連試料(n=3)間の標準偏差を示す。
【0066】
PEF処理なしでのインキュベーション(4℃、72時間)では、脂質のバイオアクセシビリティは10.4±1.7%となり、この値は、PEF処理し、続いて25℃又は37℃で少なくとも6時間のインキュベーション及び4℃で少なくとも24時間のインキュベーションを行った試料で得られた値よりも低い。いずれのインキュベーション温度でも、PEF処理後のインキュベーション時間が長くなると、脂質のバイオアクセシビリティは増加した。図3は、18%~19%を最大とする、脂質のバイオアクセシビリティのプラトーを示す。この値には、25℃又は37℃のいずれかで維持されたバイオマスの12時間のインキュベーション後に到達した。脂質のバイオアクセシビリティを18.7±1.6%とするためには、4℃でより長時間のインキュベーション(48時間)が必要であった。理論に束縛されることを望むものではないが、さらなる増加が得られなかった理由は、PEF処理藻類の水性インキュベーションにより、消化酵素が反応することが難しい大きな独特のボディへの脂肪滴の融合がもたらされたためであり得る。
【0067】
より長時間のインキュベーションでの脂質のバイオアクセシビリティの増加は、PEFが自己消化酵素の放出を誘導した後、かかる自己消化酵素が細胞壁を分解し、脂質のバイオアクセシビリティの増加に有利に働くという理論と一致する。さらに、脂質のバイオアクセシビリティに関し反応速度のふるまいが温度に比例していることは、酵素活性が温度依存性である機序において内因性酵素が果たす役割をさらに示唆している。このような、酵素により促進されるプロセスは、実際に、非生理学的温度、すなわち4℃では減速され得る。
【0068】
図4は、HPHによりもたらされた脂質のバイオアクセシビリティが最も高かったことを示す。興味深いことに、この処理後のインキュベートは脂質のバイオアクセシビリティに対していかなる効果も有さなかった。インキュベートなしのHPHは55.4±2.4%であり、24時間インキュベーションしたHPHは56.5±2.2%であった。HPHによる藻類細胞の機械的破壊は激しくかつ迅速であり、細胞内化合物の水相へのほぼ瞬間的な拡散をもたらす。脂質画分は、追加のインキュベーションを必要とすることなく既に利用可能になっていた。
【0069】
PEF処理は、対照(4.0%±2.1%)と比較して脂質のバイオアクセシビリティの17%の増加を示したが、酵素処理は、脂質のバイオアクセシビリティ(4.3%±3.6%)に対していかなる関連効果も有さなかった。
【0070】
PEF処理と組み合わせて酵素をバイオマスに添加した場合、PEF処理バイオマス(20.9%±3.2%)と比較して明確な効果は示されなかった(24.4%±2.8%)。PEF処理の前に酵素を添加した場合には差が報告されなかったことを理由として(データ不掲載)、この実験では酵素をPEF処理の後に添加した。
【0071】
実施例7
粒子サイズ
処理した新鮮な微細藻類細胞の粒子サイズをLS 13 320レーザー回折粒径分析器(Beckman Coulter、Brea、Canada)で測定することによって、細胞の完全性を三連(n=3)で評価した。結果は、体積に基づく液滴サイズ分布の平均径(d43)として示した。
【0072】
図5は、未処理(対照)、PEF処理、酵素処理(キチナーゼ+ラムノヒドロラーゼ+ガラクタナーゼ)、PEF+酵素処理、及び100MPaのHPH処理での、C.ブルガリス細胞の平均粒径を示す。PEF(4.7±0.3μm)処理及び酵素(5.0±0.1μm)処理は、対照(5.1±0.1μm)と比較して粒径のわずかな減少のみをもたらした。PEF処理は細胞の完全性を維持して、外観上は損傷のない(visually intact)微細藻類細胞をもたらす。自己消化により完全な細胞破壊は伴わずに細胞壁分解が誘導される酵母において示されるように、PEF処理後に自己消化プロセスが生じた場合であっても、細胞の損傷のない状態(intactness)は維持される。対照的に、100MPaでのHPH処理は、平均粒径を2±0.1μmに減少させ、微細藻類細胞の顕著な崩壊を引き起こし、150MPaで5回通過させた後のC.ブルガリスの平均粒子サイズは2.22μmであった。PEFと酵素との組合せは、粒径を4.5±0.1μmに減少させた。したがって、PEF処理は、細胞壁多糖類に対する酵素の作用を促進し、酵素及びPEFの単独よりもわずかに進んだ細胞壁崩壊をもたらしたようである。
【0073】
図5は、未処理(対照)、PEF処理、酵素処理(キチナーゼ+ラムノヒドロラーゼ+ガラクタナーゼ)、PEF+酵素処理、及び100MPaのHPH処理での、C.ブルガリス細胞の体積基準液滴サイズ分布(d43)の平均径を示す。エラーバーは、三連(n=3)の標準偏差を表す。
【0074】
図7は、未処理(対照、●)、酵素処理(キチナーゼ+ラムノヒドロラーゼ+ガラクタナーゼ、■)、PEF処理(×)、PEF+酵素処理(◆)、及び高圧ホモジナイゼーション処理(HPH、▲)での、C.ブルガリス細胞の体積密度として、粒子サイズ分布(q3、μm-1)を示す。
【0075】
実施例8
微生物の増殖
PEF処理したバイオマス(4℃で48時間インキュベートした)の微生物の増殖(総生菌数)を生物学的な三連試料で測定した。バイオマスをDifco(商標)マキシマムリカバリー希釈液で二連で希釈し(10-1、10-2、10-3)、25μLを汎用増殖培地に播種し、続いて低温(4℃)及び中温(30℃)条件下でインキュベートした。コロニー形成単位(CFU)を24時間後及び48時間後に計数し、CFU数が20~200であるプレートを関連性があるとみなした。
【0076】
表1において、微生物増殖は、バイオマス1mL当たりのコロニー形成単位(CFU/mL)で示す。増殖は、スイス連邦内務省により満足のいくものとみなされる下限(minimum limit)値(≦100CFU/g)をはるかに下回った。参照されるガイドラインは、例示的な病原性中温性細菌の大腸菌(Escherichia coli)についてのものであり、したがって比較によく適している。
【0077】
表1は、PEF処理及びインキュベート(48時間、4℃)したC.ブルガリス懸濁液をプレーティングし、4℃及び30℃で最大48時間インキュベートした場合の微生物増殖を示す。データは、生物学的な三連試料及び技術的な二連試料(n=6)の平均値である。
【0078】
【表1】
【0079】
処理及びインキュベートした藻類において微生物の増殖がないことで、懸濁液中に存在し得る外部細菌に由来する酵素活性の可能性が排除された。この結果はさらに、酵素による細胞壁分解活性がもともと(intrinsically)C.ブルガリス細胞に存在しており、PEFによって誘導される、という本発明者らの仮説を裏付けるものである。さらに、これらのデータは、食品安全性の観点から、本明細書に提示されたプロセス(PEF、続いて4℃でのインキュベーション)の関連性を示唆した。
【0080】
実施例9
脂質の酸化安定性
二次脂質酸化生成物を測定することによって脂質酸化を調べた。簡単に説明すると、処理したバイオマスを凍結乾燥し、アンバーバイアル(60mg)中に保持し、40℃で0週間、2週間、4週間、6週間、8週間、及び12週間保存した。二次酸化を三連で評価した(n=3)。バイオマス(60mg)を1.5mLのクロロホルム/メタノール(1/2、v/v)中に分散させた。試料を、マルチチューブボルテックスミキサー(DVX-2500、VWR、スイス)中で混合した(2500rpm、10分)。試料上清(100μL)を、100μLの7-(ジエチルアミノ)-2-オキソクロメン-3-カルボヒドラジド(CHH)及び5μLの内部標準(ISTD、ヘキサナール-d12、アセトニトリル中10μg/mL)と混合した。サーモミキサー(Comfort、Eppendorf、Schonenbuch、スイス)を使用して、1400rpm及び37℃で1.5時間インキュベートした後、試料をアセトニトリル(100μL)で希釈し、遠心分離した(2500×g、20℃)。上清を、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)(Dionex UltiMate 3000)-QExactive Plus(Thermo Scientific、Basel、スイス)システムに注入した。(Z)-3-ヘキセナール及びヘキサナールを、それぞれω-3及びω-6の脂肪酸分解経路に由来する揮発性物質として脂質酸化の指標に選択した。応答係数は、内部標準ヘキサナール-d12の面積に対する揮発性物質の面積の比として表した。
【0081】
さらに、保存した乾燥試料にコードを付し、無作為化し、4名のパネルが臭いを嗅ぐことによって評価した。4名のパネルは、試料の順位をつけ、知覚された風味ノートを説明することによって匂いを評価した。
【0082】
未処理バイオマス(対照)、PEF処理、酵素処理(キチナーゼ+ラムノヒドロラーゼ+ガラクタナーゼ)、PEF+酵素処理、及びHPH処理における揮発性物質の産生を調べた。C.ブルガリスにおいて最も豊富な脂肪酸である、リノール酸(C18:2、n6)及びα-リノレン酸(C18:3、n3)に関する対象分解産物として、それぞれヘキサナール及び(Z)-3-ヘキセナールの値を図6に示す。
【0083】
図6は、未処理のC.ブルガリスバイオマス(対照)()、PEF処理(◆)、酵素処理(ET、キチナーゼ+ラムノヒドロラーゼ+ガラクタナーゼ)(■)、PEF+酵素処理(▲)、及び100MPaでHPH処理(●)での、C.ブルガリスバイオマスについて、40℃で12週間保存している間の二次酸化生成物の、A)(Z)-3-ヘキセナール及びB)ヘキサナールの発生を示す。シグナルは、対象化合物の面積を内部標準(ISTD)ヘキサナール-d12の面積で割ったものとして表す。エラーバーは、三連(n=3)の標準偏差を表す。
【0084】
未処理、PEF処理、ET処理及びPEF+ET処理バイオマスにおける(Z)-3-ヘキセナール及びヘキサナールのシグナルは、12週間の保存にわたって増加を示さず、顕著な酸化安定性を示した。これらの結果は、PEF及びETのいずれもが、脂質画分の品質を保存する穏やかなプロセスであることを示す。ヘキサナール及び(Z)-3-ヘキセナールのHPH処理バイオマスにおけるシグナル強度は、それぞれ、12週間後に対照よりも4.1倍及び7.3倍高く、HPHがバイオマス酸化安定性に対して過酷な効果を有することを示した。ヘキサン及び(Z)-3-ヘキセナールのシグナルは、いずれも0週目から4週目まで減少したが、この減少は、保存より前に、破壊処理によって既に広範囲の酸化が生じていることを示している可能性がある。生成されたアルデヒドのいくつかは、今回の分析では検出されなかったアルコール及び有機酸に変化した可能性がある。
【0085】
官能試験の結果は分析データと一致した。HPH処理バイオマスは時間0で既に酸敗臭を呈したのに対して、未処理ならびに酵素及びPEFで処理したバイオマスは、全保存期間にわたって臭いはわずかであった。この結果は、PEF処置の有望性を実証する。この技術を用いることにより、C.ブルガリス(C.vulgaris)のバイオマスにおける脂質のバイオアクセシビリティを改善し、かつその酸化安定性を維持することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】