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特表2024-525910多能性幹細胞から免疫細胞の集団を作製する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】多能性幹細胞から免疫細胞の集団を作製する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0783 20100101AFI20240705BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240705BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20240705BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20240705BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20240705BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240705BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C12N5/0783 ZNA
C12N5/10
C12N5/0735
A61K35/15
A61K35/17
A61P35/00
A61P35/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503691
(86)(22)【出願日】2022-07-19
(85)【翻訳文提出日】2024-02-26
(86)【国際出願番号】 EP2022070224
(87)【国際公開番号】W WO2023001833
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】21186400.4
(32)【優先日】2021-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524024694
【氏名又は名称】リペアロン イミュノ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】バカール ミエン
(72)【発明者】
【氏名】ジャーメロス ローター
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BB02
4B065BB13
4B065BB19
4B065BB32
4B065BC46
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB64
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
本発明は、免疫細胞の集団を作製する方法、本発明の方法によって入手可能な、または入手された免疫細胞の集団、本発明の方法によって入手可能な、または入手された非免疫原性T細胞、本発明の免疫細胞または非免疫原性T細胞を含む薬学的組成物に関し、処置の方法において使用するための、または細胞療法において使用するための、免疫細胞の集団、非免疫原性T細胞、または薬学的組成物にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞(PSC)から免疫細胞の集団を作製する方法であって、
(i)(a)間葉系分化を経たPSCを、無血清培地において、3D細胞凝集物の形成に適した固体支持体上で、Notchリガンドデルタ様リガンド4(DLL4)シグナル伝達活性の存在下にて、適当な条件下で培養し、それによって、3D細胞凝集物の形成を可能にすること;
(b)該3D細胞凝集物を収集し、約3~6日間、無血清培地における懸濁培養で、適当な条件下で培養すること;ならびに
(c)無血清培地において、さらに約4~7日間、適当な条件下で、該3D細胞凝集物を培養すること
によって、3D細胞凝集物形成および造血系分化を誘導する工程;
(ii)無血清培地において、適当な時間、懸濁培養で、適当な条件下で、(i)の3D細胞凝集物を培養することによって、免疫細胞分化を誘導する工程
を含み、それによって、免疫細胞の集団を提供する、方法。
【請求項2】
(0i)(a)無血清培地において、適当な条件下で、PSCを播種すること;および
(b)約2~4日間、無血清培地において、適当な条件下で、PSCを培養すること、および
(c)無血清培地に細胞を再懸濁させること
によって、中胚葉分化を誘導する工程
を含むさらなる工程(0i)が、工程(i)の前に実施される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
無血清培地が、
工程(0i)において、
(a)各々、約10~50ng/mLの濃度の、アクチビンA、骨形成タンパク質4(BMP4)、血管内皮増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、およびアポトーシス阻害剤、好ましくは、ROCK阻害剤、
(b)各々、約5~15ng/mLの濃度の、BMP4、VEGF、およびFGF;
(c)アポトーシス阻害剤、好ましくは、ROCK阻害剤
を含み;
工程(i)において、
(a)各々、約5~15μMの濃度の、ALK受容体の阻害剤およびROCK阻害剤、
(b)約5~15ng/mLのALK受容体の阻害剤、
(c)約5~15ng/mLのALK受容体の阻害剤、約40~60ng/mL 幹細胞因子(SCF)、約5~15ng/mL FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(Flt-3l)、および約5~15ng/mL トロンボポエチン(TPO)
を含み;
工程(ii)において、
約1~3% B27サプリメント、約5~15ng/mL SCF、約5~15ng/mL Flt-3l、約5~15ng/mL IL-7、および約15~45mM L-アスコルビン酸2-リン酸セスキマグネシウム塩水和物
を含む、
請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
ROCK阻害剤がY-27632二塩酸塩であり、ALK受容体の阻害剤がSB43152である、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
工程(i)および(ii)における懸濁培養が、動的懸濁培養であり、好ましくは、約60~80rpmの回転で、シェーカー、例えば、オービタルシェーカーにおいて培養することによる、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
工程(ii)が、約21~50日間、実施される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
PSCが、ヒト人工多能性幹(iPS)細胞、好ましくは、ヒトiPS細胞株TC-1133である、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
PSCが、
多能性幹細胞の細胞表面に提示される内在性MHCクラスI分子を欠いており、その表面に免疫調節タンパク質を含む、多能性幹細胞
である、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
免疫調節タンパク質が、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
一本鎖融合HLAクラスIタンパク質が、
HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、およびHLA-Gからなる群より選択されるHLAクラスIα鎖の少なくとも一部分に共有結合で連結されたB2Mの少なくとも一部分
を含む、請求項8または9記載の方法。
【請求項11】
多能性幹細胞が、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質によって多能性細胞表面に提示される標的ペプチド抗原をさらに発現する、請求項8~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
標的ペプチド抗原が、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質に共有結合で連結されている、請求項11記載の方法。
【請求項13】
標的ペプチド抗原が、配列VMARTLFL(SEQ ID NO:1)を含む、請求項11または12記載の方法。
【請求項14】
多能性幹細胞において、βミクログロブリン2遺伝子の本質的に全てのコピーが破壊されている、請求項8~13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
多能性幹細胞が、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、および単為生殖幹細胞からなる群より選択される、請求項8~14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
多能性幹細胞が、霊長類由来の多能性幹細胞、好ましくは、ヒト多能性幹細胞である、請求項8~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
多能性幹細胞が、臍帯血から単離されたCD34陽性細胞から生成されたものである、請求項8~16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
多能性幹細胞が、NINDS Human Cell and Data RepositoryのND-50039である、請求項8~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
PSCが、内在性MHCクラスIIを欠いている多能性幹細胞である、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
PSCが、C2TA遺伝子-MHCクラスIIトランスアクチベーターの破壊によって、内在性MHCクラスIIを欠いている、請求項19記載の方法。
【請求項21】
工程(i)において、Notchリガンドデルタ様リガンド4(DLL4)シグナル伝達活性が、DLL4を発現する間質細胞とPSCを共培養することによって、またはDLL4でコーティングされたビーズと共にPSCをインキュベートすることによって、提供される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
PSCと間質細胞との比率が、約1:5~1:40の範囲内にある、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
工程(i)において、間質細胞が骨髄由来マウス間質細胞株MS5である、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
工程(i)において、間質細胞が、DLL4を発現するPSCから分化した間質細胞である、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
PSCが、工程(0i)における中胚葉分化の誘導の期間中、少なくとも1種の細胞外マトリックスタンパク質を含む細胞培養容器において培養される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
容器が、前記少なくとも1種の細胞外マトリックスタンパク質でコーティングされている、請求項25記載の方法。
【請求項27】
少なくとも1種の細胞外マトリックスタンパク質が、ビトロネクチン、ラミニン、コラーゲン、フィブロネクチン、エラスチン、マトリゲル、アミノ酸配列RGDを含有しているペプチド、アミノ酸配列RGDを含有しているタンパク質、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項25または請求項26記載の方法。
【請求項28】
工程(i)(a)において、固体支持体が1つまたは複数のウェルを含み、各ウェルがV字型または円錐形のキャビティを含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
固体支持体が、マイクロウェル培養プレートである、請求項28記載の方法。
【請求項30】
マイクロウェル培養プレートが、(StemCell Technologiesから入手可能な)AggreWell(商標)プレート、(faCellitateから入手可能な)BIOFLOAT(商標)96穴プレート、または(ThermoFisherから入手可能な)Nunclon Sphera 3D培養である、請求項29記載の方法。
【請求項31】
3D細胞凝集物が、工程(ii)の後に、単細胞が提供されるよう分離される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
免疫細胞の集団が、T細胞様細胞およびNK細胞様細胞を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項33】
T細胞様細胞およびNK細胞様細胞を誘導すること、および好ましくはまた、選択的に増大させること、および活性化することを含むさらなる工程(iii)が、工程(ii)の後に実施される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項34】
工程(iii)において、T細胞様細胞が、適当な条件下で、誘導され、選択的に増大させられ、活性化される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
工程(iii)において、T細胞様細胞が、B27サプリメント、SCF、Flt-3l、IL-7、IL-2、IL-15、およびCD3刺激性結合分子を含む培地において、選択的に増大される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項36】
工程(iii)における培地が、約1~3% B27サプリメント、約5~15ng/mL SCF、約2~7ng/mL Flt-l3、約5~15ng/mL IL-7、約5~15ng/mL IL-2、約5~15ng/mL IL-15を含み、
CD3刺激性結合分子が、好ましくは、約250~750ng/mLの濃度の、抗CD3抗体、例えば、OKT-3抗体、およびOKT-3 Fab断片を保持する多量体化試薬より選択される、
請求項35記載の方法。
【請求項37】
B27サプリメントおよびIL-2を含む無血清培地において、適当な条件下で、免疫細胞を培養することによって、さらに増大させることを含むさらなる工程(iv)が、工程(iii)の後に実施される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項38】
工程(iv)の無血清培地が、1~3% B27サプリメントおよび30~70単位/mL IL-2を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項39】
免疫細胞の集団が、CD4、CD8、CD56、CD3、およびCD45の発現によって特徴決定される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項40】
工程(ii)、(iii)、および/または(iv)のうちの1つまたは全てにおいてバイオリアクタ条件を使用することによる、高い細胞数を有する免疫細胞の集団の作製に適している、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
請求項1~40のいずれか一項記載の方法によって入手可能な、免疫細胞の集団。
【請求項42】
請求項1~40のいずれか一項記載の方法によって入手された、免疫細胞の集団。
【請求項43】
請求項1~40のいずれか一項記載の方法によって入手可能な、非免疫原性T細胞。
【請求項44】
請求項1~40のいずれか一項記載の方法によって入手された、非免疫原性T細胞。
【請求項45】
T細胞の細胞表面に提示される内在性MHCクラスI分子を欠いており、その表面に免疫調節タンパク質を含む、請求項1~40のいずれか一項記載の方法によって入手可能な非免疫原性T細胞。
【請求項46】
その表面にキメラ抗原受容体(CAR)または外来性T細胞受容体(TCR)を発現する、請求項45記載の非免疫原性T細胞。
【請求項47】
βミクログロブリン2遺伝子の本質的に全てのコピーがT細胞において破壊されており、それによって、T細胞が細胞表面に内在性MHCクラスI分子を欠いている、請求項45または46記載の非免疫原性T細胞。
【請求項48】
免疫調節タンパク質が、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質である、請求項45~47のいずれか一項記載の非免疫原性T細胞。
【請求項49】
一本鎖融合HLAクラスIタンパク質が、
HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、およびHLA-Gからなる群より選択されるHLAクラスIα鎖の少なくとも一部分に共有結合で連結されたB2Mの少なくとも一部分
を含む、請求項48記載の非免疫原性T細胞。
【請求項50】
一本鎖融合HLAクラスIタンパク質が、B2Mの少なくとも一部分およびHLA-Aの少なくとも一部分を含む、請求項48または49記載の非免疫原性T細胞。
【請求項51】
一本鎖融合HLAクラスIタンパク質が、B2Mの少なくとも一部分およびHLA-A0201の少なくとも一部分を含む、請求項45~50のいずれか一項記載の非免疫原性T細胞。
【請求項52】
一本鎖融合HLAクラスIタンパク質が、B2Mの少なくとも一部分およびHLA-Eの少なくとも一部分を含む、請求項48または49記載の非免疫原性T細胞。
【請求項53】
一本鎖融合HLAクラスIタンパク質が、B2Mの少なくとも一部分およびHLA-Gの少なくとも一部分を含む、請求項48または49記載の非免疫原性T細胞。
【請求項54】
一本鎖融合HLAクラスIタンパク質が、B2Mの少なくとも一部分およびHLA-Bの少なくとも一部分を含む、請求項48または49記載の非免疫原性T細胞。
【請求項55】
一本鎖融合HLAクラスIタンパク質が、B2Mの少なくとも一部分およびHLA-Cの少なくとも一部分を含む、請求項48または49記載の非免疫原性T細胞。
【請求項56】
一本鎖融合HLAクラスIタンパク質が、B2Mの少なくとも一部分およびHLA-Fの少なくとも一部分を含む、請求項48または49記載の非免疫原性T細胞。
【請求項57】
一本鎖融合HLAクラスIタンパク質によって多能性細胞表面に提示される標的ペプチド抗原をさらに発現する、請求項45~56のいずれか一項記載の非免疫原性T細胞。
【請求項58】
標的ペプチド抗原が、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質に共有結合で連結されている、請求項57記載の非免疫原性T細胞。
【請求項59】
標的ペプチド抗原が、配列VMAPRTLFL(SEQ ID NO:1)を含む、請求項57または58記載の非免疫原性T細胞。
【請求項60】
免疫調節タンパク質の遺伝子が、T細胞ゲノムの(内在性)B2M遺伝子座に組み込まれている、請求項45~59のいずれか一項記載の非免疫原性T細胞。
【請求項61】
CARまたは外来性TCRが、内在性TCRα遺伝子に、内在性TCRβ遺伝子に、または内在性TCRα遺伝子および内在性TCRβ遺伝子の両方に、組み込まれている、請求項45~60のいずれか一項記載の非免疫原性T細胞。
【請求項62】
CARまたは外来性TCRが、標的細胞の表面に提示された抗原に結合する、請求項45~61のいずれか一項記載の非免疫原性T細胞。
【請求項63】
抗原が、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原、または細菌抗原、好ましくは、腫瘍関連抗原である、請求項62記載の非免疫原性T細胞。
【請求項64】
抗原が、CD19またはCMV由来抗原である、請求項62または63記載の非免疫原性T細胞。
【請求項65】
霊長類由来のT細胞、好ましくは、ヒトT細胞である、請求項45~64のいずれか一項記載の非免疫原性T細胞。
【請求項66】
請求項41もしくは42記載の免疫細胞の集団または請求項43~65のいずれか一項記載の非免疫原性T細胞を含む、薬学的組成物。
【請求項67】
処置の方法において使用するための、請求項41もしくは42記載の免疫細胞の集団、請求項43~65のいずれか一項記載の非免疫原性T細胞、または請求項66記載の薬学的組成物。
【請求項68】
細胞療法において使用するための、請求項41もしくは42記載の免疫細胞の集団、請求項43~65のいずれか一項記載の非免疫原性T細胞、または請求項66記載の薬学的組成物。
【請求項69】
処置または療法が、がんに対するものである、請求項67または68記載の使用のための免疫細胞の集団または非免疫原性T細胞。
【請求項70】
がんが、肺がん、前立腺がん、卵巣がん、精巣がん、脳がん、皮膚がん、黒色腫、結腸がん、直腸がん、胃がん、食道がん、気管がん、頭頸部がん、膵臓がん、肝臓がん、乳がん、卵巣がん、リンパ系がん、例えば、リンパ腫および多発性骨髄腫、白血病、骨または軟部組織の肉腫、子宮頸がん、ならびに外陰がんより選択される、請求項69記載の使用のための免疫細胞の集団または非免疫原性T細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、免疫細胞の集団を作製する方法、本発明の方法によって入手可能なまたは入手された免疫細胞の集団、本発明の方法によって入手可能なまたは入手された非免疫原性T細胞、本発明の免疫細胞または非免疫原性T細胞を含む薬学的組成物に関し、また、処置の方法において使用するためのまたは細胞療法において使用するための、免疫細胞の集団、非免疫原性T細胞、または薬学的組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
診断および治療において使用するための免疫細胞集団、具体的には、T細胞集団の開発は、現在の課題である。幹細胞は、そのような免疫細胞集団、例えば、分化T細胞集団の提供を可能にするための優れたソースである。幹細胞の重要な特徴は、無限に自己再生する能力、および複数の異なる種類の細胞または組織に分化する能力である。幹細胞の自己再生能は、原始未分化細胞のプールとしての特徴にとって重要である。さらに、幹細胞の高い「柔軟性」および「可塑性」の特徴は、その起源とは異なっていてもよい組織へとトランス分化(trans-differentiate)する能力に基づく。多能性幹細胞(PSC)は、T細胞の生成のためのソースとして注目されている。特に、多能性幹細胞に初期化された非胚細胞を表す人工多能性幹細胞(iPS)は、有用なソースである。現在、最も多く利用されている多能性細胞は、胚性幹細胞(ESC)または人工多能性幹細胞(iPSC)である。ヒトESC株は、Thomsonらによって最初に確立された(Thomson et al.(1998),Science 282:1145-1147(非特許文献1))。ヒトESC研究により、最近、体細胞をES様細胞に初期化する新しいテクノロジーの開発が可能になった。このテクノロジーは、2006年にYamanakaらによって開拓された(Takahashi & Yamanaka(2006),Cell,126:663-676(非特許文献2))。得られた人工多能性細胞(iPS細胞)は、ESCと極めてよく類似した挙動を示し、重要なことに、身体のあらゆる細胞に分化することもできる。さらに、単為生殖幹細胞も、マウスモデルにおいてEHM作製のために適していることが報告された(Didie et al.(2013),J Clin Invest.,123:1285-1298(非特許文献3))。遺伝子改変された同種異系ヒト人工多能性幹細胞からの低免疫原性T細胞の生成は、例えば、Wang et al.,Nature Biomedical Engineering,Vol.5,May 2021,429-440(非特許文献4)に記載されている。個々に改変されたT細胞は、定方向の免疫応答を必要とする疾患、例えば、がんの標的特異的治療において使用するための強力なツールである。T細胞は、養子細胞免疫療法またはがん治療において使用するため、インビトロで培養し、増殖できることが示されており、そのようなT細胞は、腫瘍を有する患者において抗腫瘍活性を保有することが立証されている。
【0003】
PSC由来のT細胞の作製の方法は、当技術分野において公知である(Wang et al,2021(前記)を参照すること)。さらに、Montel-Hagenら(Montel-Hagen et al.,2019,Cell Stem Cell 24,376-389,March 7,2019(非特許文献5))が、多能性幹細胞からのT細胞の作製の方法を開示している。この発表によると、免疫細胞分化は、細胞凝集物を気液界面の状況で培養することによって達成される。したがって、Montel-Hagenに記載される方法は、PSCからのT細胞の作製のための複雑で時間のかかる細胞培養技術を含む。さらに、Iriguchiら(Iriguchi et al.,2021,Nature Communications,12:430 Jan 18;12(1):430.doi:10.1038/s41467-020-20658-3(非特許文献6))は、iPSCからのT細胞の作製の方法を開示している。Iriguchiらは、さらなる因子の添加による、DLL4でコーティングされたプレートにおけるT細胞分化を予見する方法を記載している。これは、ある程度の細胞培養容量を必要とし、したがって、より多数の分化T細胞を作製することは困難である。これらの方法は、非常に手間がかかり、高い対費用効果で免疫細胞を作製するのに適していないという欠点を有する。さらに、これらの従来技術の方法が可能なのは、T細胞の作製のみである。
【0004】
したがって、免疫細胞の集団、例えば、T細胞様細胞の作製を可能にし、理想的には、NK細胞様細胞の作製も可能にする方法の提供が、必要とされている。この方法は、所望の免疫細胞のより大きい収量を効率的に達成するため、大規模アプローチ、例えば、バイオリアクタにおいて実施されるのにも適しているはずである。
【0005】
したがって、該需要を満たすような、免疫細胞の集団を作製する方法を提供することが、本発明の目的である。この目的は、独立請求項の主題、具体的には、免疫細胞の集団を作製する方法、該方法によって入手可能なまたは入手された免疫細胞の集団、該方法によって入手可能なまたは入手されたT細胞、薬学的組成物、および処置の方法において使用するための免疫細胞の集団によって、解決される。本明細書に記載される免疫細胞の集団の提供は、所望の適用に応じて、免疫細胞の集団の別個の亜集団、具体的には、T細胞様細胞および/またはNK細胞様細胞を選択的に作製することが可能であるという追加の利点を有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Thomson et al.(1998),Science 282:1145-1147
【非特許文献2】Takahashi & Yamanaka(2006),Cell,126:663-676
【非特許文献3】Didie et al.(2013),J Clin Invest.,123:1285-1298
【非特許文献4】Wang et al.,Nature Biomedical Engineering,Vol.5,May 2021,429-440
【非特許文献5】Montel-Hagen et al.,2019,Cell Stem Cell 24,376-389,March 7,2019
【非特許文献6】Iriguchi et al.,2021,Nature Communications,12:430 Jan 18;12(1):430.doi:10.1038/s41467-020-20658-3
【発明の概要】
【0007】
本発明の第1の局面は、多能性幹細胞(PSC)から免疫細胞の集団を作製する方法であって、(i)(a)間葉系分化を経たPSCを、無血清培地において、3D細胞凝集物の形成に適した固体支持体上で、Notchリガンドデルタ様リガンド4(DLL4)シグナル伝達活性の存在下にて、適当な条件下で培養し、それによって、3D細胞凝集物の形成を可能にすること;(b)3D細胞凝集物を収集し、約3~6日間、無血清培地における懸濁培養で、適当な条件下で培養すること;ならびに(c)無血清培地において、さらに約4~7日間、適当な条件下で、3D細胞凝集物を培養することによって、3D細胞凝集物形成および造血系分化を誘導する工程;(ii)無血清培地において、適当な時間、懸濁培養で、適当な条件下で、(i)の3D細胞凝集物を培養することによって、免疫細胞分化を誘導する工程を含み、それによって、免疫細胞の集団を提供する、方法に関する。
【0008】
本発明の第2の局面は、本発明の方法によって入手可能な免疫細胞の集団に関する。
【0009】
本発明の第3の局面は、本発明の方法によって入手された免疫細胞の集団に関する。
【0010】
本発明の第4の局面は、本発明の方法によって入手可能な非免疫原性T細胞に関する。
【0011】
本発明の第5の局面は、本発明の方法によって入手された非免疫原性T細胞に関する。
【0012】
本発明の第6の局面は、T細胞の細胞表面に提示される内在性MHCクラスI分子を欠いており、その表面に免疫調節タンパク質を含む、本発明の方法によって入手可能な非免疫原性T細胞に関する。
【0013】
本発明の第7の局面は、本発明の免疫細胞の集団または本発明の非免疫原性T細胞を含む薬学的組成物に関する。
【0014】
本発明の第8の局面は、処置の方法において使用するための、本発明の免疫細胞の集団、本発明の非免疫原性T細胞、または本発明の薬学的組成物に関する。
【0015】
最後に、本発明の第9の局面は、細胞療法において使用するための、本発明の免疫細胞の集団、本発明の非免疫原性T細胞、または本発明の薬学的組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の方法の例示的な態様のタイムラインの概略を示す。
図2A】本明細書に記載される方法によって免疫細胞の集団に分化させられる前の、AggreWell(商標)800 6穴プレートに播種された細胞の、0日目(図2A)、3日目(図2B)の顕微鏡画像を示す。
図2B図2Aの説明を参照。
図3】本発明の方法によって作製されたT細胞様細胞およびNK細胞様細胞を含む免疫細胞の集団のフローサイトメトリー分析を示す。側方散乱および前方散乱に従って、単一の生リンパ球様細胞集団において、前駆細胞をプレゲーティングした。前駆細胞をフィーダーから分離するため、細胞をCD29/CD45特色に従ってゲーティングした。全てのCD29-CD45+細胞を、CD3+CD56-(T細胞系譜マーカー)、CD3-CD56+CD8+/-(NK細胞系譜マーカー)、およびCD19+(B細胞系譜マーカー)の表現型について特徴決定した。さらに、CD3+CD56-T細胞様細胞を、CD4マーカーおよびCD8マーカーの発現についてさらに特徴決定した。これらの細胞は、CD4-CD8-、CD4+CD8+、CD4-CD8+、およびCD4+CD8-の古典的な胸腺細胞プロファイルに類似した発現パターンを示した。
図4】抗ヒトCD3抗体による刺激後の、本明細書において入手された免疫細胞集団の細胞のフローサイトメトリー分析を示す。側方散乱および前方散乱に従って、単一の生リンパ球様細胞集団において、前駆細胞をプレゲーティングした。前駆細胞をフィーダーから分離するため、細胞をCD29/CD45特色に従ってゲーティングした。全てのCD29-CD45+細胞を、CD3+CD56-(T細胞系譜マーカー)またはCD3-CD56+(NK細胞系譜マーカー)の表現型について特徴決定した。
図5】2つの図が示されている。上の図は、本発明の(分化)方法を経て、さらに増大させたCD45+CD56+NK様細胞の、増大の0日目(増大の開始)および13日目における絶対細胞数を示す。下の図は、CD45+CD56+NK様細胞が、0日目から13日目までに19倍に増大したことを示す。
図6】分化免疫細胞の乳酸脱水素酵素(LDH)活性アッセイの結果を示す。図6の上部の図は、K562標的細胞および本発明の分化免疫細胞のトリプリケート培養物の平均値+/-SDを表す。図6の下部には、LDHアッセイにおいて使用されたK562細胞および本発明の分化免疫細胞の対照群および共培養群の顕微鏡分析が示される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
本発明の第1の局面は、多能性幹細胞(PSC)から免疫細胞の集団を作製する方法であって、(i)(a)間葉系分化を経たPSCを、無血清培地において、3D細胞凝集物の形成に適した固体支持体上で、Notchリガンドデルタ様リガンド4(DLL4)シグナル伝達活性の存在下にて、適当な条件下で培養し、それによって、3D細胞凝集物の形成を可能にすること;(b)3D細胞凝集物を収集し、約3~6日間、無血清培地における懸濁培養で、適当な条件下で培養すること;ならびに(c)無血清培地において、さらに約4~7日間、適当な条件下で、3D細胞凝集物を培養することによって、3D細胞凝集物形成および造血系分化を誘導する工程;(ii)無血清培地において、適当な時間、懸濁培養で、適当な条件下で、(i)の3D細胞凝集物を培養することによって、免疫細胞分化を誘導する工程を含み、それによって、免疫細胞の集団を提供する、方法に関する。これに関して、驚くべきことに、そのような方法は、Montel-Hagen et al.,2019(前記)またはIriguchi et al.,2021(前記)によって記載されたようなT細胞を提供するのみならず、得られる免疫細胞の使用目的に単純に応じて、免疫細胞の集団の別個の亜集団、具体的には、T細胞様細胞および/またはNK細胞様細胞を作製することも可能にすることが、本発明において見出されたことは、注目される。
【0018】
本明細書において使用されるように、「約」という用語は、間隔または期間に関して使用される時、所定の間隔の明確な値から外れる間隔も含まれるよう、理解されなければならない。例えば、約3~6日、即ち、72~144時間という間隔には、その所定の間隔から、1、2、3、4、5、または6時間外れる間隔も含まれ、したがって、その所定の間隔は、その間隔の始まりおよび/または終わりに関して、1、2、3、4、5、または6時間、短いか、または長くてもよい。
【0019】
本発明の1つの利点は、いわゆるフィーダーフリー系を使用することを可能にすることである。即ち、3D細胞凝集物および造血系分化の誘導が、間質細胞の使用/補助なしに実施され得る。したがって、好ましい態様において、Notchリガンドデルタ様リガンド4(DLL4)シグナル伝達活性は、細胞によって提供される代わりに、代替的な手段/構造によって提供される。そのような代替的な構造は、例えば、後により詳細に記載される、DLL4でコーティングされたビーズであり得る。DLL4シグナル伝達活性を提供するため、DLL4の可溶性バージョンを使用することも可能であり得る。本発明の方法のその後の工程を考慮すると、そのようなフィーダーフリーアプローチは、可能性のある細胞の混入を回避することができ、本発明の方法を実施する時に除去または選別する必要がないという利点を提供する。したがって、本発明のフィーダーフリー系は、付加的な精製工程が不要になるため、効率的でもある、純粋な系を表す。
【0020】
本発明のさらなる好ましい態様において、方法は、(0i)(a)無血清培地において、適当な条件下で、PSCを播種すること;および(b)約2~約4日間、無血清培地において、適当な条件下で、PSCを培養すること、および(c)無血清培地に細胞を再懸濁させることによって、中胚葉分化を誘導する工程を含むさらなる工程(0i)が、工程(i)の前に実施されることを含む。好ましくは、本発明の方法は、中胚葉分化の前に、付加的な物質または処理を必要としない。
【0021】
本発明の方法の1つの態様において、無血清培地は、好ましくは、工程(0i)において、(a)各々、約10~約50ng/mLの濃度の、アクチビンA、骨形成タンパク質4(BMP4)、血管内皮増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、およびアポトーシス阻害剤、好ましくは、ROCK阻害剤;(b)各々、約5~15ng/mLの濃度の、BMP4、VEGF、およびFGF;(c)アポトーシス阻害剤、好ましくは、ROCK阻害剤を含み;工程(i)において、(a)各々、約5~約15μMの濃度の、ALK受容体の阻害剤およびROCK阻害剤、(b)約5~約15ng/mLのALK受容体の阻害剤、(c)約5~約15ng/mLのALK受容体の阻害剤、約40~約60ng/mL 幹細胞因子(SCF)、約5~約15ng/mL FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(Flt-3l)、および約5~約15ng/mL トロンボポエチン(TPO)を含み;工程(ii)において、約1~約3% B27サプリメント、約5~約15ng/mL SCF、約5~約15ng/mL Flt-3l、約5~約15ng/mL IL-7、および約15~約45mM L-アスコルビン酸2-リン酸セスキマグネシウム塩水和物を含むことができる。
【0022】
本明細書において使用されるように、濃度または濃度の範囲の値に関する「約」という用語は、所定の濃度または濃度の範囲の明確な値から外れる濃度または濃度の範囲も含まれるよう、理解されなければならない。例えば、約50ng/mLという濃度には、40、41、42、43、44、45、46、47、48、もしくは49ng/mLというより低い濃度、または51、52、53、54、55、56、57、58、もしくは59ng/mLというより高い濃度も含まれる。
【0023】
本発明の好ましい態様において、ROCK阻害剤は、Y-27632二塩酸塩であってよく、ALK受容体の阻害剤は、SB43152であってよい。ROCK阻害剤の使用は、アポトーシスおよび脱分化が制限/回避されるという利点を提供する。したがって、ROCK阻害剤およびALK受容体の阻害剤の使用は、アポトーシスによる細胞の喪失を回避し、即ち、明確な量の細胞が本発明の方法によって提供される。さらに、細胞が所望の分化特徴を維持するため、分化の喪失が低下する。即ち、細胞の明確な質が、本発明の方法を使用して提供される。
【0024】
好ましくは、工程(i)および(ii)における懸濁培養は、動的懸濁培養、即ち、例えば、振とう装置において培養することによって、攪拌されている懸濁培養である。任意の適当な振とう装置/シェーカー、例えば、オービタルシェーカー、水平シェーカー、またはリニアシェーカーが使用され得る。培養物は、当業者によって実験的に決定され得る任意の適当な条件下で動かされ/攪拌され得る。例えば、シェーカー、例えば、オービタルシェーカーが、毎分約60~約80回転(rpm)の速度で運転され得る。接着細胞培養とは対照的に、本明細書において使用され得る懸濁細胞培養は、いくつかの利点を提供する。接着細胞培養は、より多くのスペースを必要とし、例えば、細胞の継代のため、より精緻な取り扱いを必要とする。懸濁培養は、より高い細胞数の提供のために有用であるスケーラブルな細胞培養プロセスを提供することを可能にする細胞培養フォーマットである。そのようなより高い細胞数は、具体的には、細胞生成物の臨床使用のために必要とされる。動的細胞培養の特色は、既に、バイオリアクタにおける培養の特色と極めてよく類似しているため、動的懸濁培養は、接着細胞培養、例えば、2D細胞培養または静的細胞培養と比較して、バイオリアクタ条件への移行がはるかに容易である。さらに、動的細胞培養では、培養培地中に存在する増殖因子が循環することができる。これは、全ての細胞がそのような増殖因子と密接に接触し得ることを可能にする。これは、培養プロセス、具体的には、細胞の分化プロセスに正の影響を与えることができ、より均質で、よりよく定義された細胞集団を達成するために役立つことができる。
【0025】
免疫細胞分化の誘導は、任意の適当な時間にわたって実施され得る。適当な時間は、例えば、ある特定の期間にわたって細胞試料を採取し、例えば、細胞表面マーカーの分析によって、細胞の性質/分化状態を決定することによって、実験的に決定され得る(細胞が、最初に、CD29/CD45マーカーについてスクリーニングされ、全てのCD29-CD45+細胞が、CD3+CD56-(T細胞系譜マーカー)、CD3-CD56+CD8+/-(NK細胞系譜)、およびCD19+(B細胞系譜)の表現型について特徴決定された実験セクションを参照すること)。そうすることによって、例えば、本発明の方法の生成物として入手されることが望まれるのがNK細胞様免疫細胞であるのかT細胞様免疫細胞であるのかにも応じて、分化のための適当な時間が決定され得る。本発明の好ましい態様において、懸濁培養で、適当な条件下で、(i)の3D細胞凝集物を培養することによって、免疫細胞分化を誘導する工程(ii)は、無血清培地において、約21~約50日間、実施される。
【0026】
「多能性幹細胞」(PSC)という用語は、本明細書において使用されるように、免疫細胞の集団に分化することができるような幹細胞型をさす。本発明に関して、これらの多能性幹細胞は、好ましくは、ヒトの生殖細胞系の遺伝的同一性を修飾することを含むプロセス、または産業的もしくは商業的な目的でのヒト胚の使用を含むプロセスを使用して作製されたものではない。好ましくは、多能性幹細胞は、霊長類、より好ましくは、ヒトに由来する。本発明のさらなる好ましい態様において、PSCは、ヒト人工多能性幹(iPS)細胞、好ましくは、ヒトiPS細胞株TC-1133である。細胞株TC-1133は、c-GMP条件で初期化されており、Lonzaから購入され得る。さらなる適当なPSC、例えば、誘導PSCは、ほんの少数の供給元を挙げるとすれば、例えば、NIH human embryonic stem cell registry、the European Bank of Induced Pluripotent Stem Cells(EBiSC)、Stem Cell Repository of the German Center for Cardiovascular Research(DZHK)、またはATCCから入手され得る。多能性幹細胞は、例えば、U.S.National Institute of Neurological Disorders and Stroke(NINDS)によって運営されており、ヒト細胞のリソースを学術研究者および産業研究者に広く配布しているNINDS Human Sequence and Cell Repository(https://stemcells.nindsgenetics.org)からも、商業的使用のために入手可能である。ヒトiPS細胞は、マトリゲルでコーティングされた容器、例えば、マトリゲルでコーティングされたTフラスコで培養されていてよい。iPS細胞は、好ましくは、iPS増大培地、例えば、Miltenyi StemMACS iPS-Brew XFにおいて培養される。本発明において使用され得るさらなる例示的なiPSC細胞株には、Gibco(商標)のヒトエピソームiPSC株(注文番号A18945、Thermo Fisher Scientific)、またはATTCから入手可能なiPSC細胞株ATCC ACS-1004、ATCC ACS-1021、ATCC ACS-1025、ATCC ACS-1027、もしくはATCC ACS-1030が含まれるが、これらに限定されるわけではない。あるいは、初期化の当業者であれば、公知のプロトコル、例えば、Okita et al,"A more efficient method to generate integration-free human iPS cells"Nature Methods,Vol.8 No.5,May 2011,pages 409-411またはLu et al"A defined xeno-free and feeder-free culture system for the derivation,expansion and direct differentiation of transgene-free patient-specific induced pluripotent stem cells",Biomaterials 35(2014)2816e2826によって記載されたものによって、適当なiPSC株を容易に生成することができる。本発明において使用される(人工)多能性幹細胞は、任意の適当な細胞型(例えば、幹細胞、例えば、間葉系幹細胞もしくは上皮幹細胞、または分化細胞、例えば、線維芽細胞)および任意の適当な起源(体液または組織)に由来し得る。そのような起源(体液または組織)の例には、ほんの少数を挙げるとすれば、臍帯血、皮膚、歯肉、尿、血液、骨髄、臍帯の任意の区画(例えば、臍帯の羊膜もしくはワルトン膠様質)、臍帯-胎盤接合部、胎盤、または脂肪組織が含まれる。1つの例示的な例において、臍帯血からのCD34陽性細胞の単離は、例えば、Chou et al.(2011)Cell Research,21:518-529に記載されるような、CD34に対して特異的な抗体を使用した磁気細胞選別およびそれに続く初期化による。Baghbaderani et al.(2015),Stem Cell Reports,5(4):647-659は、細胞株ND50039を生成するためのiPSC生成のプロセスが、適正製造基準(good manufacturing practice)の規範に準拠し得ることを示している。したがって、多能性幹細胞は、好ましくは、適正製造基準の要件を満たす。
【0027】
本発明において使用されるPSCは、多能性幹細胞の細胞表面に提示される内在性MHCクラスI分子を欠いており、その表面に免疫調節タンパク質を含む、多能性幹細胞であり得る。
【0028】
「細胞表面に提示される内在性MHCクラスI分子を欠いている」細胞または多能性幹細胞は、その表面、即ち、細胞または多能性幹細胞の表面に、機能性のMHCクラスI分子を提示しない。そのような欠損した細胞/多能性細胞は、その細胞膜内にも機能性のMHCクラスI分子を含まない。これに関して、「内在性」という用語は、細胞または多能性幹細胞に天然に含まれており、人工的に導入されたのではないMHCクラスタンパク質Iに関する。細胞表面のMHCクラスI分子の欠如は、免疫系によって「自己喪失(missing self)」シグナルとして解釈され得るため、内在性MHCクラスI分子を有することは、レシピエントの免疫系の拒絶反応のリスクを増加させる。したがって、細胞または多能性幹細胞が、その表面にMHCクラスI分子を欠いているという特色は、多能性幹細胞に導入され得る免疫調節タンパク質および/または組換え免疫調節タンパク質には当てはまらない。1つの態様において、細胞表面のMHCクラスI分子の欠損は、多能性幹細胞におけるβ2ミクログロブリン遺伝子の全てのコピーを破壊することによって達成され得る。MHC複合体は、αミクログロブリンとβ2ミクログロブリンとのヘテロ二量体である。したがって、β2ミクログロブリンが失われた場合、機能性のMHCクラスI複合体が組み立てられず、その結果、細胞膜および/または細胞表面にMHCクラスI分子が存在しなくなる。MHCクラスI分子を欠き、免疫調節タンパク質を含むよう、多能性幹細胞のゲノムを修飾するための多くの可能な様式が、当業者に公知である。MHCクラスI分子を欠いている本発明の多能性幹細胞は、たとえ、本明細書に記載されるMHCクラスI分子、例えば、HLA-Eであったとしても、免疫調節タンパク質を発現し得ることに注意すべきである。したがって、「MHCクラスI分子を欠いている」という用語は、内在性MHCクラスI分子に関するものであり得、(組換え)免疫調節タンパク質の存在を除外しない。
【0029】
本発明のさらなる好ましい態様において、免疫調節タンパク質は、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質である。
【0030】
好ましくは、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、およびHLA-Gからなる群より選択されるHLAクラスIα鎖の少なくとも一部分に共有結合で連結されたB2Mの少なくとも一部分を含み得る。
【0031】
本発明の好ましい態様において、多能性幹細胞は、多能性細胞表面に、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質によって提示される標的ペプチド抗原をさらに発現する。
【0032】
好ましくは、標的ペプチド抗原は、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質に共有結合で連結されている。
【0033】
好ましい態様において、標的ペプチド抗原は、配列VMAPRTLFL(SEQ ID NO:1)を含む。
【0034】
好ましくは、βミクログロブリン2遺伝子の本質的に全てのコピーが、多能性幹細胞において破壊されている。本発明の多能性幹細胞において、B2M遺伝子は、破壊された遺伝子座から機能性の内在性B2Mタンパク質が産生されないよう、破壊されていてよい。ある特定の態様において、破壊は、切断、欠失、点変異、および挿入を含むが、これらに限定されるわけではない、非機能性B2Mタンパク質の発現をもたらす。他の態様において、破壊は、B2M遺伝子からのタンパク質発現をもたらさない。
【0035】
好ましい態様において、多能性幹細胞は、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、および単為生殖幹細胞からなる群より選択される。
【0036】
好ましくは、多能性幹細胞は、霊長類由来の多能性幹細胞、好ましくは、ヒト多能性幹細胞である。
【0037】
好ましい態様において、CD34陽性細胞から生成された多能性幹細胞は、臍帯血から単離されたものである。
【0038】
好ましくは、本発明において使用される多能性幹細胞は、NINDS Human Cell and Data RepositoryのND-50039である。
【0039】
好ましい態様において、PSC多能性幹細胞は、内在性MHCクラスIIを欠いている。
【0040】
好ましくは、PSCは、C2TA遺伝子-MHCクラスIIトランスアクチベーターの破壊によって、内在性MHCクラスIIを欠いている。
【0041】
本発明の方法の好ましい態様において、工程(i)において、Notchリガンドデルタ様リガンド4(DLL4)シグナル伝達活性は、DLL4を発現する間質細胞とPSCを共培養することによって、あるいはDLL4でコーティングされたビーズと共にPSCをインキュベートすることによって、提供される。
【0042】
DLL4でコーティングされたビーズと共にPSCをインキュベートすることは、付加的な細胞、例えば、間質細胞の必要なしに、DLL4シグナル伝達活性が提供されるという利点を提供する。したがって、いわゆるフィーダーフリー系が、本発明の方法によって提供され得る。したがって、これは、本発明の方法によって提供される免疫細胞の集団からDLL4発現細胞を選別または選択する工程を回避する。必要である場合、DLL4でコーティングされたビーズは、当業者に公知の標準的な方法、例えば、磁気分離手法またはフローサイトメトリー手法によって分離され得る。DLL4コーティングのために使用されるのに適した種々のビーズ、例えば、マイクロビーズ、またはより大きい直径を有するビーズ、例えば、ダイナビーズ(Thermo Fisher Scientific)は、当業者に公知である。
【0043】
間質細胞が使用される時、PSCと間質細胞との比率は、約1:5~約1:40の範囲にあり得る。そのような範囲は、Montel-Hagen et al.,2019(前記)のような従来技術の方法と比較して、より少数の間質細胞を使用することを可能にするため、有利である。したがって、より少数の間質細胞が使用される場合、これは、間質細胞によって分泌される増殖因子の組成および増殖因子の濃度に対して有益な影響を与え得る。例えば、より少数の間質細胞は、減少した量の増殖因子を産生し、培地中の増殖因子の濃度の低下をもたらす可能性が高い。増殖因子の濃度のそのような低下は、多能性幹細胞の分化に有利な影響を与えると想定される。さらに、より少数の間質細胞は、手法において後に、これらの間質細胞を除去するためのより少ない労力を必要とする。
【0044】
間質細胞からなる本発明の好ましい態様において、工程(i)において使用される間質細胞は、骨髄由来マウス間質細胞株MS5である。マウス間質細胞は、免疫細胞分化を支持することができるため、有利である。
【0045】
さらなる好ましい態様において、工程(i)において、間質細胞は、DLL4を発現するPSCから分化した間質細胞である。そのような間質細胞の使用は、本発明の方法が、手法において後に除去または選別されなければならないかもしれないマウス由来細胞を必要としないという利点を提供する。したがって、非ヒト細胞、例えば、マウス細胞を含まない免疫細胞の集団を提供することが可能である。
【0046】
好ましい態様において、PSCは、工程(0i)における中胚葉分化の誘導の期間中、少なくとも1つの細胞外マトリックスタンパク質を含む細胞培養培地/容器において培養される。好ましくは、約0.5~約2.0×106個の細胞が、それぞれの細胞培養容器、例えば、6穴プレートのウェルに播種される。PSCの細胞数をこの明確な範囲に調整することは、培地中の増殖因子比に影響を与え得、その後の分化にも影響を与え得る。上述の細胞数の範囲は、免疫細胞の所望の集団への細胞の有益な分化を可能にする(実験セクションを参照すること)。
【0047】
好ましくは、容器は、少なくとも1種の細胞外マトリックスタンパク質でコーティングされている。
【0048】
好ましい態様において、少なくとも1種の細胞外マトリックスタンパク質は、ビトロネクチン、ラミニン、コラーゲン、フィブロネクチン、エラスチン、マトリゲル、アミノ酸配列RGDを含有しているペプチド、アミノ酸配列RGDを含有しているタンパク質、およびそれらの組み合わせからなる群より選択され得る。したがって、PSCおよびその後の分化手法のために最適な構造的環境および生化学的環境を提供するため、当業者は、それぞれの最適な細胞外マトリックスタンパク質または細胞外マトリックスタンパク質の最適な組み合わせを経験的に選択することができる。したがって、2種、3種、4種、またはそれ以上の細胞外マトリックスタンパク質の組み合わせも、本発明の方法において使用され得る。
【0049】
好ましくは、本発明の方法の工程(i)(a)において、固体支持体は、1つまたは複数のウェルを含み、ここで、各ウェルは、V字型または円錐形のキャビティを含む。
【0050】
好ましい態様において、固体支持体は、マイクロウェル培養プレートである。任意の適当なマイクロウェル培養プレートが、所望の免疫細胞集団の生成を可能にする限り、使用され得る。適当なマイクロウェル培養プレートの例には、(StemCell Technologiesから入手可能な)AggreWell(商標)プレート、(faCellitateから入手可能な)BIOFLOAT(商標)96穴プレート、または(ThermoFisherから入手可能な)Nunclon Sphera 3D培養が含まれるが、これらに限定されるわけではない。そのような細胞培養プレートは、本明細書に記載される有益な動的懸濁細胞培養を可能にするため、有利である。例えば、AggreWell(商標)プレートが使用される場合、このプレートは、好ましくは、抗接着溶液で前処理される。そのような抗接着溶液は、表面張力を低下させることを可能にし、細胞接着を防止する。これは、3D細胞凝集物の形成を容易にする低接着表面を提供する。3D細胞凝集物の形成は、スケールアップも可能する極めて容易でロバストな様式で実施され得る。3D細胞凝集物形成は、スケールアップに適さない複雑で時間のかかる細胞培養技術を記載しているMontel-Hagen et al.,2019(前記)に記載されるような従来技術の方法と比較して、異なっている。さらに、Montel-Hagen et al.,2019(前記)の方法を使用して得られる3D細胞凝集物は、本発明の方法の3D細胞凝集物と比較して大きいようである。これは、そのようなより小さい3D細胞凝集物には、より大きい3D細胞凝集物と比較して、より容易に増殖因子が拡散し得るという本発明の追加の利点を提供する。したがって、3D細胞凝集物のより内側の場所の細胞に、増殖因子がより効率的に到達することができ、そのことは、3D細胞凝集物の全ての細胞の効率的でより均質な分化につながる。これに関しては、本願の実施例1を参照すること。
【0051】
好ましい態様において、工程(ii)後の3D細胞凝集物は、単細胞が提供されるよう、分離される。
【0052】
前述のように、本発明の方法において、免疫細胞の集団は、T細胞様細胞およびNK細胞様細胞の両方、即ち、異なる細胞型の混合物を含み得ることが、驚くべきことに見出された。
【0053】
したがって、「免疫細胞の集団」という用語は、本明細書において使用されるように、免疫細胞の集団に含まれる異なる免疫細胞の混合物を含む。したがって、「免疫細胞の集団」とは、免疫細胞の単一の均質な群、例えば、T細胞の純粋または均質な集団として理解されるべきではなく、ここで、均質性は、特定のマーカータンパク質を発現する細胞または特定のマーカータンパク質の発現を欠く細胞のパーセンテージによって査定され得る。「免疫細胞の集団」という用語は、当技術分野において公知の方法、例えば、フローサイトメトリー法によって、当業者によって、相互に区別され得、その後、相互に単離されてもよい、異なる免疫細胞または異なる種類の免疫細胞を意味する。したがって、特異的なマーカータンパク質の発現(パターン)によって特徴決定される特異的かつ均質な細胞集団の単離およびその後の増大は、実際、本発明の一部である(分化後にCD45+CD56+NK細胞様細胞を増大させた、本願の実施例4を参照すること)。「免疫細胞の集団」という用語は、任意の種類の免疫細胞が、本発明の方法によって得られる細胞の集団に含まれ得ることを意味する。免疫細胞には、好中球、好酸球(好酸性白血球)、好塩基球、リンパ球、および単球が含まれ、リンパ球の中でも、B細胞、T細胞、およびナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。さらに、本発明による免疫細胞の集団は、免疫細胞の(求められる)分化レベルまたは中間分化レベルを有する免疫細胞の集団としても見なされ得る。免疫細胞の集団には、T細胞もしくはT細胞様細胞の前駆細胞、またはNK細胞もしくはNK細胞様細胞の前駆細胞を表す細胞も含まれ得るし、成熟したT細胞もしくはT細胞様細胞、または成熟したNK細胞もしくはNK細胞様細胞を表す細胞も含まれ得る。具体的には、本発明による免疫細胞の集団は、T細胞様細胞およびNK細胞様細胞の表現型を有する免疫細胞を含む。
【0054】
免疫細胞の集団の提供は、得られたT細胞様細胞とNK細胞様細胞との間で選択をすることが可能であるという利点を有する。したがって、T細胞またはT細胞様細胞のみを提供し得る従来技術の方法とは対照的に、本発明の方法は、NK細胞様細胞と共にT細胞様細胞を提供することができる。したがって、所望の適用に応じて、T細胞様細胞かNK細胞様細胞かを選ぶことができる。これらのT細胞様細胞およびNK細胞様細胞の収量は、具体的には、フローサイトメトリー分析において示され得る(実施例2および図3を参照すること)。サイトメトリー分析は、本発明の方法によって提供された免疫細胞の集団が、明確なマーカーの発現によって、T細胞様細胞およびNK細胞様細胞として特徴決定され得る、別個の亜集団を含むことを示す。T細胞様細胞およびNK細胞様細胞の特徴決定は、以下に詳細に記述される。
【0055】
本発明の好ましい態様において、工程(ii)の後に、さらなる工程(iii)が実施される。この工程(iii)は、T細胞様細胞およびNK細胞様細胞を誘導すること、選択的に増大させること、および活性化することを含む。
【0056】
好ましくは、本方法の1つの態様において、工程(iii)において、T細胞様細胞が、適当な条件下で、誘導され、選択的に増大させられ、活性化される。T細胞様細胞のためのそのような適当な条件は、例えば、CD3活性化抗体、例えば、抗体OKT3抗体、および/またはインターロイキン2(IL-2)によって細胞を増大させることである。抗体OKT3およびIL-2が細胞を活性化し、細胞は、活性化された後、細胞培養での細胞の繁殖によって増大させられ得る。細胞の増大は、例えば、細胞内のまたは分泌されたIFN-g、TNF-a、および/またはIL-2のうちの1つまたは複数のレベルを決定することによってモニタリングされ得る。
【0057】
本発明の1つの好ましい態様において、工程(iii)において、T細胞様細胞は、B27サプリメント、SCF、Flt-3l、IL-7、IL-2、IL-15、およびCD3刺激性結合分子を含む培地において、誘導され、選択的に増大させられ、活性化される。
【0058】
この態様において、工程(iii)における培地は、約1~約3% B27サプリメント、約5~約15ng/mL SCF、約2~約7ng/mL Flt-l3、約5~約15ng/mL IL-7、約5~約15ng/mL IL-2、約5~約15ng/mL IL-15を含み得る。CD3刺激性結合分子は、例えば、約250~約750ng/mLの濃度の、抗CD3抗体、例えば、抗体OKT-3、または抗体OKT-3の抗原断片、例えば、抗体OKT-3のFab断片を保持する多量体化試薬より選択され得る。そのような多量体化試薬は、以下のような多量体化試薬であるよう定義され得る。多量体化試薬には、一次活性化シグナルを細胞に提供する第1の薬剤が可逆的に固定化され(結合し)ており;多量体化試薬は、第1の薬剤の可逆的結合のための少なくとも1つの結合部位Z1を含み、第1の薬剤は、少なくとも1つの結合パートナーC1を含み、結合パートナーC1は、多量体化試薬の結合部位Z1に可逆的に結合することができ、第1の薬剤は、結合パートナーC1と結合部位Z1との間に形成される可逆的結合を介して多量体化試薬に結合しており、第1の薬剤は、細胞の表面の受容体分子に結合し、それによって、一次活性化シグナルを細胞に提供し、それによって、細胞を活性化する。そのような多量体化試薬全般も、CD3結合刺激性抗体、例えば、抗体OKT-3のFab断片が負荷された多量体化試薬も、国際特許出願WO2015/158868に詳細に記載されている。この多量体化試薬は、「エクスパマー(Expamer)」という用語でも公知である。本発明の1つの例示的な態様において、工程(iii)は、約2~約5日間、好ましくは、約3~約4日間、実施される。
【0059】
好ましい態様において、免疫細胞を、適当な条件下で培養することによって、さらに増大させることを含む、さらなる工程(iv)が、工程(iii)の後に実施される。例示的な例において、この増大は、B27サプリメントおよびIL-2を含む無血清培地において実施され得る。
【0060】
好ましくは、工程(iv)の無血清培地は、約1%~約3% B27サプリメント、および約30~約70単位/mL IL-2を含む。本発明の好ましい態様において、工程(iv)は、約2~10日間、好ましくは、約7日間、実施される。好ましくは、工程(iii)および工程(iv)は、DLL4でコーティングされたプレートでのインキュベーションを必要としない(本願の実施例2および3を参照すること)。
【0061】
本発明の方法の好ましい態様において、免疫細胞の集団は、表面タンパク質CD4、CD8、CD56、CD3、およびCD45の発現によって特徴決定される。そのような特徴決定は、免疫細胞の集団を、T細胞様細胞およびNK細胞様細胞の異なる亜集団に鑑別することを可能にする。例えば、そのような特徴決定を実施するため、免疫細胞の集団のフローサイトメトリー分析が実施され得る。当業者は、T細胞様細胞およびNK細胞様細胞の別個の亜集団を定義するため、マーカーCD4、CD8、CD56、CD3、およびCD45を使用することができる。したがって、本発明の方法によって入手可能なT細胞様細胞は、好ましくは、CD45、CD3、CD4またはCD8のいずれかの発現、およびCD56の発現の欠如によって特徴決定され、したがって、T細胞様細胞は、好ましくは、CD45+、CD3+、CD56-、かつCD4+;またはCD45+、CD3+、CD56-、かつCD8+である。本発明の方法によって入手可能なNK細胞様細胞は、好ましくは、CD45およびCD56の発現、ならびにCD3の発現の欠如によって特徴決定され、したがって、NK細胞様細胞は、好ましくは、CD45+、CD56+、かつCD3-である。そのような弁別を可能にする他の適当なマーカーおよび/または方法も、同様に使用され得る。マーカー発現プロファイルに基づくそのような細胞選択は、当業者によって容易に実施され得る。
【0062】
本発明の方法は、工程(ii)、(iii)、および/または(iv)のうちの1つまたは全てにおいて、バイオリアクタ条件を使用することによって、高い細胞数を有する免疫細胞の集団を作製するのに適している。バイオリアクタの使用は、大規模バイオリアクタフォーマットの使用によって、細胞のより高い収量が達成され得るという利点を提供する。バイオリアクタの使用は、異なる因子の濃度の最適化を可能にし、同時に、より高い細胞数の作製を可能にする。したがって、本発明の方法によって提供される免疫細胞集団の細胞の数は、バイオリアクタの使用によってスケールアップされ得る。そうすることによって、臨床適用に必要な免疫細胞集団の細胞の数を提供することが可能になる。さらに、そうすることによって、高度に標準化された対費用効果の高い方法の提供が可能になる。さらに、バイオリアクタの使用は、容易に実施され得る手間のかからない方法を提供するため、バイオリアクタの使用は、手法を単純化する。
【0063】
本発明の第2の局面は、本発明の方法によって入手可能な免疫細胞の集団に関する。
【0064】
本発明の第3の局面は、本発明の方法によって入手された免疫細胞の集団に関する。
【0065】
本発明の第4の局面は、本発明の方法によって入手可能な非免疫原性T細胞に関する。
【0066】
本発明の第5の局面は、本発明の方法によって入手された非免疫原性T細胞に関する。
【0067】
本発明の第6の局面は、T細胞の細胞表面に提示される内在性MHCクラスI分子を欠いており、その表面に免疫調節タンパク質を含む、本発明の方法によって入手可能な非免疫原性T細胞に関する。
【0068】
好ましくは、非免疫原性T細胞は、その表面にキメラ抗原受容体(CAR)または外来性T細胞受容体(TCR)を発現する。CARタンパク質は、細胞内共刺激ドメイン、例えば、CD28、OX40、およびCD137に、膜貫通ペプチドを介して連結された、特定の腫瘍関連抗原との結合能を有する抗体の一本鎖可変断片(scFv)を含み得る。これらのペプチドは、その後、腫瘍細胞上のエピトープに結合した場合にCAR T細胞を活性化するTCRζ鎖のシグナル伝達ドメインに融合している。その後のグランザイムおよびパーフォリンの放出は、腫瘍細胞溶解につながる(June CH,O'Connor RS,Kawalekar OU,Ghassemi S,Milone MC.CAR T cell immunotherapy for human cancer.Science(New York,N.Y.)2018;359:1361-65)。これらの合成受容体分子は、TCR複合体を介した一般的な反応とは異なるMHC非依存性のT細胞活性化を可能にする(Gideon Gross,Tova Waks,and Zelig Eshhar.Expression of immunoglobulin-T-cell receptor chimeric molecules as functional receptors with antibody-type specificity.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1989:10024-28;Kuwana Yea.Expression of chimeric receptor composed of immunoglobulin-derived V regions and T-cell receptor-derived C regions.Biochemical and biophysical research communications 1987:960-68)。MHC関連抗原提示の喪失は、悪性細胞による主要な免疫逃避戦略であるため、これは腫瘍細胞認識における重要な利点を表す(Garrido F,Aptsiauri N,Doorduijn EM,Garcia Lora AM,van Hall T.The urgent need to recover MHC class I in cancers for effective immunotherapy.Current opinion in immunology 2016;39:44-51)。
【0069】
本発明のさらなる好ましい態様において、βミクログロブリン2遺伝子の本質的に全てのコピーが、T細胞において破壊されており、したがって、T細胞は、細胞表面の内在性MHCクラスI分子を欠いている。本発明のT細胞において、B2M遺伝子は、破壊された遺伝子座から機能性の内在性B2Mタンパク質が産生されないよう、破壊されていてよい。ある特定の態様において、破壊は、短縮、欠失、点変異、および挿入を含むが、これらに限定されるわけではない、非機能性B2Mタンパク質の発現をもたらす。他の態様において、破壊は、B2M遺伝子からのタンパク質発現をもたらさない。
【0070】
好ましくは、免疫調節タンパク質は、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質である。
【0071】
さらに好ましい態様において、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、およびHLA-Gからなる群より選択されるHLAクラスIα鎖の少なくとも一部分に共有結合で連結されたB2Mの少なくとも一部分を含み得る。
【0072】
好ましくは、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質は、B2Mの少なくとも一部分およびHLA-Aの少なくとも一部分を含む。
【0073】
さらなる好ましい態様において、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質は、B2Mの少なくとも一部分およびHLA-A0201の少なくとも一部分を含む。
【0074】
好ましくは、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質は、B2Mの少なくとも一部分およびHLA-Eの少なくとも一部分を含む。
【0075】
好ましい態様において、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質は、B2Mの少なくとも一部分およびHLA-Gの少なくとも一部分を含む。
【0076】
好ましくは、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質は、B2Mの少なくとも一部分およびHLA-Bの少なくとも一部分を含む。
【0077】
好ましい態様において、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質は、B2Mの少なくとも一部分およびHLA-Cの少なくとも一部分を含む。
【0078】
好ましくは、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質は、B2Mの少なくとも一部分およびHLA-Fの少なくとも一部分を含む。
【0079】
好ましい態様において、非免疫原性T細胞は、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質によって多能性細胞表面に提示される標的ペプチド抗原をさらに発現する。
【0080】
好ましくは、標的ペプチド抗原は、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質に共有結合で連結されている。
【0081】
好ましい態様において、標的ペプチド抗原は、配列VMAPRTLFL(SEQ ID NO:1)を含む。
【0082】
好ましくは、免疫調節タンパク質の遺伝子は、T細胞ゲノムの(内在性)B2M遺伝子座に組み込まれている。
【0083】
好ましい態様において、CARまたは外来性TCRは、内在性TCRα遺伝子に、内在性TCRβ遺伝子に、または内在性TCRα遺伝子および内在性TCRβ遺伝子の両方に、組み込まれている。
【0084】
好ましくは、CARまたは外来性TCRは、標的細胞の表面に提示された抗原に結合する。
【0085】
好ましい態様において、抗原は、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原、または細菌抗原、好ましくは、腫瘍関連抗原である。
【0086】
好ましくは、抗原は、CD19またはCMV由来抗原である。
【0087】
好ましい態様において、T細胞は、霊長類由来のT細胞、好ましくは、ヒトT細胞である。
【0088】
本発明のさらなる局面は、本発明の方法の免疫細胞の集団または本発明の方法の非免疫原性T細胞を含む薬学的組成物に関する。
【0089】
本発明のさらなる局面は、処置の方法において使用するための、本発明の免疫細胞の集団、本発明の非免疫原性T細胞、または本発明の薬学的組成物に関する。
【0090】
本明細書において使用されるように、「処置する」、「処置すること」、または「処置」という用語は、それぞれの疾患に関連する症状の進行を低下(減速(軽減))させ、安定化し、もしくは阻害し、または少なくとも部分的に緩和し、もしくは消失させることを意味する。したがって、それは、該免疫系の細胞の、好ましくは、医薬または薬学的組成物の形態での、本明細書の他の箇所で定義される対象への投与を含む。処置を必要とする者には、疾患、ここでは、がんに既に罹患している者が含まれる。好ましくは、処置は、疾患もしくは病理学的状態の存在に関連する症状の進行および/または疾患もしくは病理学的状態の進行を低下(減速(軽減))させ、安定化し、もしくは阻害し、または少なくとも部分的に緩和し、もしくは消失させる。したがって、「処置する」、「処置すること」、または「処置」とは、治療的処置をさす。具体的には、本発明に関して、処置すること、または処置とは、本明細書の他の箇所で定義されるような、がんに関連する症状の改善をさす。「対象」という用語には、本明細書において使用される時、哺乳動物対象が含まれる。好ましくは、本発明の対象は、哺乳動物、例えば、ヒトである。いくつかの態様において、哺乳動物は、マウスである。対象には、ヒト患者および動物患者も含まれる。対象が、本明細書に記載される疾患または状態の処置を受容し得る生存しているヒトである場合、それは「患者」とも呼ばれる。処置を必要とする者には、疾患に既に罹患している者が含まれる。
【0091】
本発明のさらなる局面は、細胞(ベースの)療法において使用するための、本発明の免疫細胞の集団、例えば、本発明の(非免疫原性)T細胞集団もしくはNK細胞集団、または本発明の薬学的組成物に関する。この医学的使用は、本発明の免疫細胞の集団または本発明の免疫細胞の集団に由来する細胞集団を、それを必要とする対象へ投与することを含む。対象は、典型的には、哺乳動物、例えば、ヒト、サル、ネコ、げっ歯類(マウス、ラット)、イヌ、またはその他の動物、例えば、ウマもしくはウシである。
【0092】
典型的には、本発明は、本発明による使用のための、免疫細胞の集団、または非免疫原性T細胞集団、またはNK細胞集団に関し、ここで、処置または療法は、がんに対するものである。即ち、免疫細胞の集団は、典型的には、がんの処置または免疫療法のための対象に対するものである。本発明の免疫細胞集団、例えば、T細胞またはNK細胞は、養子T細胞移植または類似の治療アプローチにおいて使用され得る。種々の免疫細胞療法、例えば、T細胞免疫療法の中でも、養子細胞療法は、ここ数年、相当の注目および関心を集めている。養子細胞療法は、患者自身の免疫細胞を患者から取り出し、インビトロで大量に増大させ、腫瘍を排除するため、患者に再注入する、個別化療法である。養子細胞療法の開発の概要は、Guedan et al.,Rev Immunol.2019 April 26;37:145-171.doi:10.1146/annurev-immunol-042718-041407に与えられている。
【0093】
免疫細胞の集団、例えば、(非免疫原性)T細胞集団は、本質的に全てのがんの処置のために使用され得る。本発明によって得られる細胞集団で処置され得るがんの例は、肺がん、前立腺がん、卵巣がん、精巣がん、脳がん、皮膚がん、黒色腫、結腸がん、直腸がん、胃がん、食道がん、気管がん、頭頸部がん、膵臓がん、肝臓がん、乳がん、卵巣がん、リンパ系がん、例えば、リンパ腫および多発性骨髄腫、白血病、骨もしくは軟部組織の肉腫、子宮頸がん、または外陰がんである。
【0094】
他に記されない限り、本書、例えば、説明および特許請求の範囲において使用される以下の用語は、以下に与えられる定義を有する。
【0095】
当業者は、本明細書に記載される本発明の具体的な態様の多くの等価物を、ルーチンの実験法のみを使用して、認識するであろう、または確認することができるであろう。そのような等価物は、本発明に包含されるものとする。
【0096】
本明細書において使用されるように、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、前後関係が明白に他のことを示さない限り、複数形の対象を含むことに注意するべきである。したがって、例えば、「試薬」との言及は、そのような種々の試薬のうちの1つまたは複数を含み、「方法」との言及は、本明細書に記載される方法のために修飾または置換され得る、当業者に公知の等価な工程および方法への言及を含む。
【0097】
他に示されない限り、一連の要素に先行する「少なくとも」という用語は、一連の全ての要素をさすと理解されるべきである。当業者は、本明細書に記載される本発明の具体的な態様の多くの等価物を、ルーチンの実験法のみを使用して、認識するであろう、または確認することができるであろう。そのような等価物は、本発明に包含されるものとする。
【0098】
「および/または」という用語は、本明細書において使用される時、「および」、「または」、および「該用語によって接続された要素の全てまたはその他の任意の組み合わせ」の意味を含む。
【0099】
「約」または「およそ」という用語は、当業者によって決定される、特定の値についての許容される誤差範囲内を意味し、それは、その値が測定または決定される方法、即ち、測定系の限界に一部依存するであろう。例えば、「約」は、当技術分野における慣行に従って、1標準偏差内またはそれ以上を意味することができる。あるいは、「約」は、所定の値の20%まで、好ましくは、10%まで、より好ましくは、5%まで、さらに好ましくは、1%までの範囲を意味することができる。あるいは、「約」は、本明細書において使用されるように、所定の値または範囲の20%以内、好ましくは、10%以内、より好ましくは、5%以内を意味する。しかしながら、それは、具体的な数も含み、例えば、約20は20を含む。あるいは、特に、生物学的な系または過程に関して、その用語は、ある値の1桁以内、好ましくは、5倍以内、より好ましくは、2倍以内を意味することができる。本願および特許請求の範囲において特定の値が記載される場合、他に記されない限り、「約」という用語は、その特定の値についての許容される誤差範囲内を意味することが想定されるべきである。
【0100】
本明細書およびそれに続く特許請求の範囲の全体を通して、前後関係が他のことを要求しない限り、「含む(comprise)」という語、ならびに変化形、例えば、「含む(comprises)」および「含む(comprising)」は、記された整数もしくは工程または整数もしくは工程の群の内含を意味し、他の整数もしくは工程または整数もしくは工程の群の除外を意味しないことが理解されるであろう。本明細書において使用される時、「含む(comprising)」という用語は、「含有する(containing)」もしくは「含む(including)」という用語に置換されてもよく、または、時に、本明細書において使用される時、「有する」という用語に置換されてもよい。
【0101】
本明細書において使用される時、「からなる」は、特許請求の範囲の要素において特定されていない要素、工程、または成分を除外する。本明細書において使用される時、「から本質的になる」は、特許請求の範囲の基本的かつ新規の特徴に実質的に影響しない材料または工程を除外しない。
【0102】
本明細書中の各場合において、「含む」、「から本質的になる」、および「からなる」という用語のうちの任意のものが、他の2つの用語のいずれかに交換されてもよい。
【0103】
本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコル、材料、試薬、および物質等に限定されず、したがって、変動し得ることが理解されるべきである。本明細書において使用される用語法は、特定の態様を説明するためのものに過ぎず、特許請求の範囲によってのみ定義される本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0104】
本明細書の本文全体を通して引用された全ての刊行物(例えば、全ての特許、特許出願、科学刊行物、製造業者の仕様書、説明書等)は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。本発明が、先行発明のため、そのような開示に先行する権利を有しないことの承認として解釈されるべきものは、本明細書中に存在しない。参照によって組み入れられた材料が、本明細書と矛盾するか、または一致しない場合には、本明細書が、そのような材料より優先される。
【実施例
【0105】
発明の実施例
以下の実施例は、本発明を例示する。これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。実施例は、例示の目的のために含まれており、本発明は、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0106】
実施例1:多能性幹細胞(PSC)からの免疫細胞の集団の作製
c-GMP条件で初期化されたヒト人工多能性幹(iPS細胞)細胞株TC-1133は、Lonzaから購入された。ヒトiPS細胞は、マトリゲルでコーティングされたTフラスコにおいて、iPS増大培地(Miltenyi StemMACS iPS-Brew XF)において維持された。マウス間質細胞は、免疫細胞分化を支持することが示されている。分化プロトコルにおいて使用するため、本発明者らは、Notchリガンドデルタ様リガンド4(DLL4)を発現するマウス間質細胞株を生成した。骨髄由来マウス間質細胞株(MS5)を、German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbHから購入した。左右のpiggybacトランスポザーゼ特異的配列アームの間に、CAGプロモーター、全長ヒトDLL4、およびピューロマイシン耐性遺伝子、およびウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル配列を保持するプラスミドを構築した。piggybacトランスポザーゼおよびDLL4を保持するプラスミドによって、細胞をトランスフェクトした。成功したトランスフェクタントを、ピューロマイシン含有培地において選択し、増大させた。MS5-DLL4細胞は、DMEM(Gibco 42430025)、10% FBS、1% ペニシリン/ストレプトマイシン、1×Glutamax(Gibco 35050061)、および1mMピルビン酸ナトリウム(Gibco 11360039)から構成された培地において維持された。
【0107】
中胚葉誘導(分化-18日目から-14日目まで、これに関しては図1も参照すること)。以下の工程を実施した:
1. ヒトiPS細胞を5mLのダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS;Gibco 14190136)で洗浄する。
2. 3mLのアキュターゼ(Gibco A1110501)を添加し、37℃のインキュベーターにおいて4分間、細胞をインキュベートする。
3. フラスコを叩くことによって細胞を剥離させ、その後、5mLのDPBSで細胞を洗い出す。
4. 細胞をファルコンに移し、300gで4分間、遠心分離する。
5. 上清を廃棄し、細胞を1mLのStemPro34-SFM培地(Gibco 10639011)に再懸濁させ、計数する。
6. マトリゲルでコーティングされた6穴プレートに、1ウェル当たり1.0×106個の細胞を、アクチビンA(10ng/mL)、BMP4(10ng/mL)、VEGF(10ng/mL)、FGF(10ng/mL)、およびROCK阻害剤Y-27632二塩酸塩(10μM)が補足されたStemPro34-SFM培地から構成された中胚葉誘導培地に播種する。
7. 1日目、2日目、および3日目に毎日、BMP4(10ng/mL)、VEGF(10ng/mL)、FGF(10ng/mL)が補足されたStemPro34-SFM培地で、培地を交換する。
8. 4日目に、DPBSで3回、細胞を洗浄する。
9. 1mLのアキュターゼを細胞に添加し、37℃のインキュベーターにおいて10分間、インキュベートする。
10. 上下にピペッティングすることによって細胞をプレートから穏やかに剥離させ、ファルコンチューブに移す。
11. 300gで4分間、遠心分離工程を実施する。
12. 細胞を、Y-27632が補足されたStemPro34-SFM培地に再懸濁させ、計数する。
【0108】
3D凝集物形成および造血系誘導(分化-14日目から0日目まで、再び、図1を参照すること)。以下の工程を実施した:
1. AggreWell(商標)800 6穴プレート(Stemcell Technologies、34821)を、1ウェル当たり2mLの抗接着濯ぎ溶液(Stemcell Technologies、07010)で前処理する。
2. 抗接着濯ぎ溶液をウェルから吸引する。
3. 各ウェルを温DPBSで濯ぎ、使用するまで室温で維持する。
4. MS5-DLL4細胞を、トリプシン処理(TrypL Express、Gibco 12604013)によって採集し、StemPro34-SFM培地(Lonza CC-4176)に再懸濁させ、計数する。
5. 5.0×106個のMS5-DLL4細胞を、中胚葉誘導期の終わりに入手された0.5×106個の中胚葉細胞と共に(1ウェル当たり1:10比)、10μm SB431542および10μm Y-27632が補足されたStemPro34-SFM培地から構成された5mLの造血系誘導培地に再懸濁させる。均質な分布を達成するため、細胞を穏やかに上下にピペッティングする。
6. AggreWell(商標)800 6穴プレートのウェルからDPBSを吸引する。
7. 泡形成を注意深く回避しながら、細胞をウェルに播種する。
8. マイクロウェル内に細胞を捕捉するため、100gで3分間、プレートを遠心分離する(図2Aを参照すること)。
9. 37℃、5% CO2、湿度95%のインキュベーターにおいて3日間、プレートをインキュベートする。
10. 3日目に、凝集物形成が顕微鏡で観察され得る(図2B)。
11. 3D凝集物をプレートから収集するため、プレートを穏やかに叩き、凝集物を外す。旋回させることによって、凝集物をウェルの中央に収集する。セロロジカルピペットを使用して、凝集物をプレートから収集し、ファルコンチューブに移す。
12. 全ての凝集物がファルコンの底に沈殿/沈下した後、凝集物を妨害することなく注意深く培地を廃棄する。
13. 10umのSB431542が補足されたStemPro34-SFM培地から構成された2.5mLの造血系誘導培地に凝集物を再懸濁させ、超低接着懸濁培養プレートに移す。
14. プレートをオービタルシェーカーに置き、シェーカーを80rpmで回転させることによって、動的懸濁培養で凝集物を維持する。
15. 分化-13日目から分化-7日目まで、2~3日毎に、10μm SB431542が補足された新鮮なStemPro34-SFM培地に培地を交換する。
16. 分化-7日目から0日目まで、2~3日毎に、培地を新しくすることによって、10μm SB431542、50ng/mL SCF、5ng/ml Flt-3l、5ng/mL TPOが補足されたStemPro34-SFM培地において凝集物を維持する。
【0109】
免疫細胞分化(分化0日目から50日目まで)。以下の工程を実施した:分化0日目から分化50日目まで、RPMI 1640(Gibco 618736)、2% B27(Gibco、17504044)、10ng/mL SCF、5ng/mL Flt-3l、5ng/mL IL-7、30mM L-アスコルビン酸2-リン酸セスキマグネシウム塩水和物、および1% ペニシリン/ストレプトマイシンから構成された免疫細胞分化培地における動的懸濁培養で、凝集物を維持する。
【0110】
実施例2:分化細胞の活性化およびフローサイトメトリー分析
以下の工程を実施した:
1. 分化50日目に、凝集物を培養プレートから収集し、DPBSで1回洗浄する。
2. 1mg/mLコラゲナーゼ型、1mg/mLコラゲナーゼ/ディスパーゼ、および5000単位/mLから構成された解離溶液において、37℃で1時間、凝集物を単細胞へと解離させる。
3. 解離した細胞を遠心分離し、RPMI 1640(Gibco 618736)、2% B27(Gibco、17504044)、および50単位/mL IL-2から構成された活性化培地に再懸濁させる。
4. 細胞を細胞培養フラスコに播種し、37℃、5% CO2、湿度95%のインキュベーターにおいて1週間、培養する。
5. 1週間後、細胞を細胞培養フラスコから収集し、100μm無菌フィルターに通す。
6. 単細胞化された細胞を、遠心分離によってペレット化し、PBSで1回洗浄し、PBSおよび0.5% ヒト血清アルブミンから構成された染色緩衝液に再懸濁させる。
7. Fcブロックの存在下で、4℃で20分間、抗マウス抗CD29、ならびに抗ヒト抗CD45、抗CD3、抗CD4、抗CD8、抗CD19、および抗CD56で、細胞を染色する。
8. 細胞をPBSで洗浄し、生死判定色素(PI)を含有している染色緩衝液に再懸濁させる。
9. 製造業者の説明に従って、Cytoflex LXフローサイトメーターにおいて、細胞を分析する。
【0111】
この実験の結果は、図3に示される。以下のゲーティング戦略を適用した。前駆細胞を、側方散乱および前方散乱に従って、単一の生リンパ球様細胞集団においてプレゲーティングした。前駆細胞をフィーダーから分離するため、細胞をCD29/CD45特色に従ってゲーティングした。全てのCD29-CD45+細胞を、CD3+CD56-(T細胞系譜マーカー)、CD3-CD56+CD8+/-(NK細胞系譜)、およびCD19+(B細胞系譜)の表現型について特徴決定した。さらに、CD3+CD56-T細胞様細胞を、CD4マーカーおよびCD8マーカーの発現についてさらに特徴決定した。これらの細胞は、CD4-CD8-、CD4+CD8+、CD4-CD8+、およびCD4+CD8-の古典的な胸腺細胞プロファイルに類似した発現パターンを示した。
【0112】
実施例3:抗CD3抗体刺激による免疫細胞集団の細胞の早期成熟
免疫細胞集団の細胞の早期成熟を達成するため、以下の工程を実施した:
1. (免疫細胞分化期の)分化3週目に、凝集物を培養プレートから回収し、DPBSで1回洗浄する。
2. 1mg/mlのコラゲナーゼII型から構成された解離溶液で、凝集物を単細胞へと解離させる。
3. 解離した細胞を遠心分離し、RPMI 1640(Gibco 618736)、2% B27(Gibco、17504044)、10ng/mL SCF、5ng/mL Flt-3l、および10ng/mL IL-7、10ng/mL IL-2、10ng/mL IL-15、および500ng/ml モノクローナル抗ヒト抗CD3抗体(Biolegend 317347)から構成された成熟培地に再懸濁させる。
4. 細胞を細胞培養フラスコに播種し、5% CO2および湿度95%のインキュベーターにおいて37℃で1週間、培養する。
5. 1週間後、細胞を細胞培養フラスコから収集し、100μm無菌フィルターに通す。
6. 単細胞化された細胞を、遠心分離によってペレット化し、PBSで1回洗浄し、PBSおよび0.5% ヒト血清アルブミンから構成された染色緩衝液に再懸濁させる。
7. Fcブロックの存在下で、4℃で20分間、抗マウス抗CD29、ならびに抗ヒト抗CD45、抗CD3、および抗CD56で細胞を染色する。
8. 細胞をPBSで洗浄し、生死判定色素(PI)を含有している染色緩衝液に再懸濁させる。
9. 製造業者の説明に従って、Cytoflex LXフローサイトメーターにおいて、細胞を分析する。
【0113】
結果は図4に示される。ゲーティング戦略は、以下の通りであった。前駆細胞を、側方散乱および前方散乱に従って、単一の生リンパ球様細胞集団においてプレゲーティングした。前駆細胞をフィーダーから分離するため、細胞をCD29/CD45特色に従ってゲーティングした。全てのCD29-CD45+細胞を、CD3+CD56-(T細胞系譜マーカー)、CD3-CD56+(NK細胞系譜)の表現型について特徴決定した。
【0114】
実施例4:NK様細胞への分化
以下の工程を実施した:
1. 分化50日目に、凝集物を培養プレートから収集し、DPBSで1回洗浄する。
2. 1mg/mLのコラゲナーゼ型、1mg/mLのコラゲナーゼ/ディスパーゼ、および5000単位/mLから構成された解離溶液で、37℃で1時間、凝集物を単細胞へと解離させる。
3. 解離した細胞を分析し、CD45+CD56+NK細胞様細胞を選択する。
4. これらのCD45+CD56+NK細胞様細胞を遠心分離し、RPMI 1640(Gibco 618736)、2% B27(Gibco、17504044)、ならびに50単位/mL IL-2およびIL-15から構成された培地に再懸濁させる。
5. 細胞を細胞培養フラスコに播種し、37℃、5% CO2、および湿度95%のインキュベーターにおいて13日間、培養する。
【0115】
結果は図5に示される。CD45+CD56+NK細胞様細胞は、13日間のIL-2およびIL-15によるサイトカイン刺激の後に、19倍にさらに増大したことが見出された。
【0116】
実施例5:分化免疫細胞の細胞傷害活性の測定
分化免疫細胞の細胞傷害活性を、乳酸脱水素酵素(LDH)活性アッセイを使用して、以下のLDHアッセイにおいて測定した。乳酸脱水素酵素(LDH)は、ピルビン酸と乳酸との相互変換を触媒する酸化還元酵素である。細胞は、組織損傷後に、LDHを放出する。LDHは非常に安定的な酵素であるため、組織および細胞の傷害および毒性の存在を評価するために有用である。以下に記載されるLDHアッセイにおいて、アッセイ内の標的細胞であるK562細胞を、本発明の分化免疫細胞と共に、1:1、1:2、1:4、および1:8の標的エフェクター比で共培養した。
【0117】
以下の工程を実施した:
1. LDHアッセイを実施する前に3日間、IL-2を含む免疫細胞分化培地において、分化免疫細胞を培養する。該培地は、以下のものを含む:
イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)(thermo fischer sciカタログ番号31980030)、
15% BIT 9500血清代替物(stem cell techカタログ番号09500)、
1% ペニシリン・ストレプトマイシン、
L-アスコルビン酸2-リン酸セスキマグネシウム塩水和物(30mM)(範囲は15mM~50mMであり得る)、
SCF(10ng/mL)(範囲は5ng/ml~50ng/mLであり得る)、
TPO(10ng/mL)(範囲は5ng/ml~50ng/mLであり得る)、
Flt3l(10ng/mL)(範囲は5ng/ml~50ng/mLであり得る)、
IL-7(10ng/mL)(範囲は5ng/ml~50ng/mLであり得る)、
IL-15(10ng/mL)(範囲は5ng/ml~50ng/mLであり得る)、
IL-2(10ng/mL)(範囲は5ng/ml~20ng/mLであり得る)。
2. 1ウェル当たり3000個の細胞が添加されるよう、K562細胞を細胞培養ウェルプレートに播種することによって、K562細胞を準備した。対照として、K562細胞のみを含むウェルを同様に準備した。したがって、該対照ウェルは、分化免疫細胞との共培養のためのものではない。
3. 分化免疫細胞を、1:1、1:2、1:4、および1:8のそれぞれの比率で添加した。さらなる対照として、別個のウェルは、分化免疫細胞のみを含み、K562細胞と共培養されず、その分化免疫細胞の数は、1:8比のウェルと等しかった。
4. 共培養物および対照を、37℃、5% CO2で、24時間、IL-2を含む免疫細胞分化培地において培養した。
5. 24時間後、培地を収集し、製造業者のプロトコル(Sigma Aldrich、カタログ番号MAK066-1KT)に従って、LDHアッセイを実施し、測定した。LDHの特異的放出のパーセンテージを計算した。データは図6に示される。そこに示されたデータは、トリプリケート培養物の平均値+/-SDを表す。LDHアッセイの結果は、LDH活性によって測定された細胞傷害性が、共培養試料の1:4比および1:8比の群において、対照群と比較して有意に高かったことを示すことができた。さらに、図6に示される顕微鏡分析も実施した。顕微鏡分析によると、K562細胞は、1:4および1:8の混合共培養で、極めて低いか、または存在しないことが観察された。
【0118】
要約すると、本発明の分化免疫細胞について、細胞傷害活性を観察することができた。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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【国際調査報告】