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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】抗CLL-1抗体及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20240705BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240705BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240705BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240705BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240705BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240705BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240705BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240705BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K47/68
A61P35/00
A61P35/02
A61K39/395 T
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503724
(86)(22)【出願日】2022-07-20
(85)【翻訳文提出日】2024-03-18
(86)【国際出願番号】 IB2022056676
(87)【国際公開番号】W WO2023002390
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】10-2021-0095142
(32)【優先日】2021-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0176638
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524025587
【氏名又は名称】エイビーエル バイオ インク.
【氏名又は名称原語表記】ABL BIO INC.
【住所又は居所原語表記】16, Daewangpangyo-ro 712beon-gil Bundang-gu Seongnam-si Gyeonggi-do 13488 (KR)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ウンシル
(72)【発明者】
【氏名】クォン、ジョンア
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヨンクァン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジュヒ
(72)【発明者】
【氏名】パク、キョンジン
(72)【発明者】
【氏名】パク、スミョン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ビョンジェ
(72)【発明者】
【氏名】ユ、ビョンミン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ボラ
(72)【発明者】
【氏名】イ、スヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ、シネ
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヤンスン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ウンヒ
(72)【発明者】
【氏名】イム、ヤンミ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、ジェヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、ジンウォン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA21
4C085AA26
4C085BB01
4C085BB11
4C085BB36
4C085BB41
4C085BB43
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG04
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA72
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
抗CLL-1抗体及びその用途が提供され、一態様の抗CLL-1抗体によれば、これはCLL-1に高い結合親和性で結合することができ、T細胞の活性化を誘導することができるので、CLL-1を発現する癌を予防または治療するのに効果的に用いられることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記を含む、単離された抗CLL-1抗体(anti-CLL-1 antibody)またはその抗原結合フラグメント:
(a)配列番号1、2及び3からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むVH CDR1;
(b)配列番号4、5及び6からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むVH CDR2;
(c)配列番号7、8、9、10及び11からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むVH CDR3;
(d)配列番号12、13、14及び15からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むVLCDR1;
(e)配列番号16、17及び18からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むVLCDR2;及び
(f)配列番号19、20、21及び22からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むVLCDR3。
【請求項2】
前記抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号23及び24からなる群から選択されたアミノ酸配列を含む重鎖定常領域を含む請求項1に記載の抗CLL-1抗体。
【請求項3】
前記抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号55からなるアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域を含む請求項1または2に記載の抗CLL-1抗体。
【請求項4】
前記抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35及び74からなる群から選択されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む請求項1~3のいずれか一項に記載の抗CLL-1抗体。
【請求項5】
前記抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号36、37、38、39、40、41、42、43、44及び75からなる群から選択されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む請求項1~4のいずれか一項に記載の抗CLL-1抗体。
【請求項6】
前記抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号45からなるアミノ酸配列を含む重鎖を含む請求項1~5のいずれか一項に記載の抗CLL-1抗体。
【請求項7】
前記抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号46からなるアミノ酸配列を含む軽鎖を含む請求項1~6のいずれか一項に記載の抗CLL-1抗体。
【請求項8】
前記抗CLL-1抗体またはその断片は、重鎖可変領域のCDRH1、CDRH2及びCDRH3、及び軽鎖可変領域のCDRL1、CDRL2及びCDRL3の配列を含み、
(a)CDRH1、CDRH2及びCDRH3は、それぞれ配列番号1、4及び7であり、CDRL1、CDRL2及びCDRL3は、それぞれ配列番号12、16及び19であるか;
(b)CDRH1、CDRH2及びCDRH3は、それぞれ配列番号2、5及び8であり、CDRL1、CDRL2及びCDRL3は、それぞれ配列番号13、17及び20であるか;
(c)CDRH1、CDRH2及びCDRH3は、それぞれ配列番号3、6及び9であり、CDRL1、CDRL2及びCDRL3は、それぞれ配列番号14、18及び21であるか;
(d)CDRH1、CDRH2及びCDRH3は、それぞれ配列番号1、4及び10であり、CDRL1、CDRL2及びCDRL3はそれぞれ配列番号15、16及び22であるか;または
(e)CDRH1、CDRH2及びCDRH3は、それぞれ配列番号2、5及び11であり、CDRL1、CDRL2及びCDRL3は、それぞれ配列番号13、17及び20である請求項1~7のいずれか一項に記載の抗CLL-1抗体。
【請求項9】
前記抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントは、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、または完全ヒト抗体である請求項1~8のいずれか一項に記載の抗CLL-1抗体。
【請求項10】
前記抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントは、全体IgG、Fab、Fab'、F(ab')、xFab、scFab、dsFv、Fv、scFv、scFv-Fc、scFab-Fc、ダイアボディ(diabody)、ミニボディ(minibody)、scAb、dAb、半IgG及びその組み合わせからなる群から選択される請求項1~9のいずれか一項に記載の抗CLL-1抗体。
【請求項11】
IgG1の形態である請求項1~10のいずれか一項に記載の抗CLL-1抗体。
【請求項12】
前記抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントは、Fab分子である請求項1~11のいずれか一項に記載の抗CLL-1抗体。
【請求項13】
前記抗CLL-1抗体または抗原結合フラグメントは、下記特徴中の一つ以上を持つ請求項1~12のいずれか一項に記載の抗CLL-1抗体:
(a)ヒト(human)CLL-1への結合;
(b)カニクイザル(cynomolgus monkey)CLL-1への結合;
(c)ヒト末梢血単核細胞(peripheral blood mononucleocyte cell:PBMC)表面上のCLL-1への;
(d)カニクイザルPBMC表面上のCLL-1への結合;及び
(e)癌細胞表面上のCLL-1への結合。
【請求項14】
細胞傷害剤(cytotoxic agent)が前記抗CLL-1抗体または抗原結合フラグメントの少なくとも一部に接合される請求項1~13のいずれか一項に記載の抗CLL-1抗体。
【請求項15】
前記細胞傷害剤が前記抗CLL-1抗体または抗原結合フラグメントにリンカーを介して付着する請求項14に記載の抗CLL-1抗体。
【請求項16】
前記リンカーは、プロテアーゼ(protease)によって切断可能なものである請求項15に記載の抗CLL-1抗体。
【請求項17】
薬剤(medicament)として使用するためのものである請求項1~16のいずれか一項に記載の抗CLL-1抗体。
【請求項18】
癌を治療または予防するのに使用するためのものである請求項1~17のいずれか一項に記載の抗CLL-1抗体。
【請求項19】
式Ab-(L-D)pを含むイムノコンジュゲート(immunoconjugate)であって、(a)Abは、請求項1~16のいずれか一項に記載の抗CLL-1抗体であり、(b)Lはリンカーであり、(c)Dは細胞傷害剤であり、(d)pは1~8の範囲であるイムノコンジュゲート。
【請求項20】
請求項1~16のいずれか一項に記載の抗CLL-1抗体をコードする単離された核酸。
【請求項21】
請求項20に記載の単離された核酸を含むベクター。
【請求項22】
請求項21に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項23】
請求項1~16のいずれか一項に記載の抗CLL-1抗体を含む医薬組成物。
【請求項24】
癌を治療または予防するための請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記癌はCLL-1を発現する癌であるものである請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記癌は、白血病、直腸癌、子宮内膜癌、腎芽腫(nephroblastoma)、基底細胞癌、上咽頭癌、骨腫瘍、食道癌、リンパ腫、ホジキンリンパ腫(Hodgkin's lymphoma)、非ホジキンリンパ腫(non-Hodgkin's lymphoma)、甲状腺濾胞癌(follicular thyroid cancer)、肝細胞癌、口腔癌、腎細胞癌、多発性骨髄腫、中皮腫、骨肉腫、骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome)、間葉系腫瘍、軟部肉腫、脂肪肉腫、消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor)、悪性末梢神経鞘腫瘍(malignant peripheral nerve sheath tumor:MPNST)、ユーイング肉腫(ewing sarcoma)、平滑筋肉腫、間葉系軟骨肉腫、リンパ肉腫、線維肉腫、横紋筋肉腫、奇形腫、神経芽腫、髄芽腫、神経膠腫、良性皮膚腫瘍、バーキットリンパ腫(Burkitt's lymphoma)、マントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphoma)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B cell lymphoma:DLBCL)、濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma)、辺縁帯リンパ腫(marginal zone lymphoma)、神経外胚葉性腫瘍、上皮腫瘍、皮膚T細胞リンパ腫(cutaneous T-cell lymphoma:CTCL)、末梢性T細胞リンパ腫(peripheral T cell lymphoma:PTCL)、末梢性T細胞リンパ腫、膵臓癌、造血器悪性腫瘍(haematological malignancies)、腎臓癌、腫瘍血管系(tumor vasculature)、乳癌、腎臓癌、卵巣癌、上皮性卵巣癌、胃癌、肝臓癌、肺癌、大腸癌、膵臓癌、皮膚癌、膀胱癌、精巣腫瘍、子宮癌、前立腺癌、小細胞肺癌(small cell lung cancer:SCLC)、非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer:NSCLC)、神経芽細胞腫、脳癌、結腸癌、扁平上皮癌、黒色腫、骨髄腫、子宮頸癌、甲状腺癌、頭頸部癌、副腎癌からなる群から選択される請求項24または25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
前記白血病は、急性リンパ芽球性白血病(acute lymphoblastic leukemia:ALL)、慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia:CLL)、有毛細胞白血病(hairy-cell leukemia)、骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)、慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia:CML)および急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)からなる群から選択される請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項28】
請求項1~16のいずれか一項に記載の抗CLL-1抗体の有効量を患者に投与する段階を含む、これを要する患者における癌を治療または予防する方法。
【請求項29】
癌を治療または予防するための薬剤の製造において、請求項1~16のいずれか一項に記載の抗CLL-1抗体の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願に対する相互参照>
本願は、韓国特許庁に2021年7月20日付けで出願された韓国特許仮出願第10-2021-0095142号、及び2021年12月10日付けで出願された韓国特許仮出願第10-2021-0176638号を基礎として、優先権を主張して、これらの開示内容はその全文が本願に参照により組み込まれる。
【0002】
抗CLL-1抗体(anti-CLL-1 antibodies)及びその用途を提供する。
【背景技術】
【0003】
急性骨髓性白血病(Acute Myeloid leukemia:AML)は、成人患者において最もありふれており、かつ致命的な血液悪性腫瘍であって、大部分の患者は予後が良くない。AMLは、疾病の異質性、特定の標的抗原の不足、及び既存治療後の再発を媒介する白血病幹細胞(leukemic stem cell:LSC)の存在によって依然として治療しにくい。
【0004】
CLEC12A(C-type lectin domain family 12 member A;そしてCLL-1(C-type lectin-like molecule-1)、CD371、DCAL2(dendritic cell-associated lectin 2)、MICL(myeloid inhibitory C-type lectin-like receptor)及びKLRL1(killer cell lectin-like receptor-1)として知られている)は、新たに診断されたAML及び再発されたAMLの90%以下で発現される骨髓性分化抗原(myeloid differentiation antigen)である。これは細胞外C末端レクチンドメイン、膜貫通領域及びN末端細胞質テールを含むII型膜貫通糖タンパク質である。
【0005】
モノクローナル抗体(mAb)をベースにした療法は、癌に対する重要な治療方式になった。白血病は、このような接近法に非常に好適であり、これは血液、骨髓、脾臓、およびリンパ節に存在する悪性細胞に対して接近可能であり、抗原標的を識別することができる多様な系統と造血分化段階の免疫表現型(immunophenotypes)がよく定義されているからである。急性骨髓性白血病(AML)に対する大部分の研究は、CD33に重点を置いていた。しかし、非コンジュゲート抗CD33mAbリンツズマブ(lintuzumab)に対する反応は、AMLに対して単剤で適度の活性を示し、既存の化学療法と併用した2件のランダム化臨床試験(randomized trials)で患者の予後を改善することができなかった。
【0006】
CLL-1関連疾患(CLL-1-associated conditions)、例えば癌の診断及び治療のためにCLL-1を含むAMLを標的とする安全でかつ効果的な薬剤に対する必要性が当該技術分野で求められている。本発明はこのような要求を満たすとともにまた他の利点を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示内容の一態様は、単離された抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0008】
本開示内容の他の態様は、抗CLL-1抗体をコードする単離された核酸(nucleic acid)を提供する。
【0009】
本開示内容の他の態様は、単離された核酸を含むベクター(vector)を提供する。
【0010】
本開示内容の他の態様は、ベクターを含む宿主細胞(host cell)を提供する。
【0011】
本開示内容の他の態様は、抗CLL-1抗体を含む医薬組成物(pharmaceutical composition)を提供する。
【0012】
本開示内容の他の態様は、患者に有効量の抗CLL-1抗体を投与する段階を含む、これを必要とする患者の癌を治療または予防する方法を提供する。
【0013】
本開示内容の他の態様は、癌を治療または予防するための薬剤(medicament)の製造における抗CLL-1抗体の用途を提供する。
【0014】
本開示内容の他の態様は、癌を治療または予防するための抗CLL-1抗体の用途を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示内容の一態様は、下記を含む、単離された抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する:(a)配列番号1、2及び3からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むVH CDR1;(b)配列番号4、5及び6からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むVH CDR2;(c)配列番号7、8、9、10及び11からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むVH CDR3;(d)配列番号12、13、14及び15からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むVL CDR1;(e)配列番号16、17及び18からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むVL CDR2;及び(f)配列番号19、20、21及び22からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むVL CDR3。
【0016】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号23及び24からなる群から選択されたアミノ酸配列を含む重鎖定常領域を含むことができる。
【0017】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号55からなるアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域を含むことができる。
【0018】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号23及び24からなる群から選択されたアミノ酸配列を含む重鎖定常領域と、配列番号55からなるアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域とを含むことができる。
【0019】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35及び74からなる群から選択されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含むことができる。
【0020】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号36、37、38、39、40、41、42、43、44及び75からなる群から選択されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むことができる。
【0021】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35及び74からなる群から選択されたアミノ酸配列を含む重鎖定常領域と、配列番号36、37、38、39、40、41、42、43、44及び75からなる群から選択されたアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域とを含むことができる。
【0022】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号45からなるアミノ酸配列を含む重鎖を含むことができる。
【0023】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号46からなるアミノ酸配列を含む軽鎖を含むことができる。
【0024】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号45からなるアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号46からなるアミノ酸配列を含む軽鎖とを含むことができる。
【0025】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその断片は、重鎖可変領域のCDRH1、CDRH2及びCDRH3及び軽鎖可変領域のCDRL1、CDRL2及びCDRL3の配列を含むことができ、これは下記のいずれか一つである:(a)CDRH1、CDRH2及びCDRH3はそれぞれ配列番号1、4、及び7であり、CDRL1、CDRL2、及びCDRL3はそれぞれ配列番号12、16及び19である;(b)CDRH1、CDRH2及びCDRH3はそれぞれ配列番号2、5、及び8であり、CDRL1、CDRL2、及びCDRL3はそれぞれ配列番号13、17及び20である;(c)CDRH1、CDRH2及びCDRH3はそれぞれ配列番号3、6、及び9であり、CDRL1、CDRL2、及びCDRL3はそれぞれ配列番号14、18及び21である;(d)CDRH1、CDRH2及びCDRH3はそれぞれ配列番号1、4、及び10であり、CDRL1、CDRL2、及びCDRL3はそれぞれ配列番号15、16及び22である;及び(e)CDRH1、CDRH2及びCDRH3はそれぞれ配列番号2、5、及び11であり、CDRL1、CDRL2、及びCDRL3はそれぞれ配列番号13、17及び20である。
【0026】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントは、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、または完全ヒト抗体であることができる。
【0027】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントは、全IgG(whole IgG)、Fab、Fab'、F(ab')、xFab、scFab、dsFv、Fv、scFv、scFv-Fc、scFab-Fc、ダイアボディ(diabody)、ミニボディ(minibody)、scAb、dAb、半IgG及びその組み合わせからなる群から選択されることができる。
【0028】
一実施形態で、抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントは、IgG、望ましくはIgG1の形態であることができる。
【0029】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントは、Fab分子であることができる。
【0030】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントは、下記特性のいずれか一つ以上を有することができる:(a)ヒト(human)CLL-1への結合;(b)カニクイザル(cynomolgus monkey)CLL-1への結合;(c)ヒト末梢血単核細胞(peripheral blood mononucleocyte cell:PBMC)の表面上のCLL-1への結合;(d)カニクイザルPBMC表面上のCLL-1への結合;及び(e)癌細胞表面上のCLL-1への結合。
【0031】
一実施形態において、細胞傷害剤(cytotoxic agent)は、抗CLL-1抗体または抗原結合フラグメントの少なくとも一部に接合されることができる。
【0032】
一実施形態において、細胞傷害剤は、抗CLL-1抗体または抗原結合フラグメントにリンカー(linker)を介して付着できる。
【0033】
一実施形態において、リンカーは、プロテアーゼ(protease)によって切断できる。
【0034】
一実施形態において、抗CLL-1抗体は、薬剤として用いるためのものであってもよい。
【0035】
一実施形態において、抗CLL-1抗体は、癌の治療または予防に用いるためのものであってもよい。
【0036】
本開示内容の他の態様は、式Ab-(L-D)pを含むイムノコンジュゲート(immunoconjugate)を提供し、ここで、(a)Abは、上記の抗CLL-1抗体であり、(b)Lはリンカーであり、(c)Dは、細胞傷害剤であり、(d)pは、1~8の範囲である。
【0037】
本開示内容の他の態様は、抗CLL-1抗体をコードする単離された核酸を提供する。
【0038】
本開示内容の他の態様は、単離された核酸を含むベクターを提供する。
【0039】
本開示内容の他の態様は、ベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0040】
本開示内容の他の態様は、抗CLL-1抗体を含む医薬組成物を提供する。
【0041】
本開示内容の他の態様は、患者に有効量の抗CLL-1抗体を投与する段階を含む、これを要する患者の癌を治療または予防する方法を提供する。
【0042】
本開示内容の他の態様は、癌を治療または予防するための薬剤の製造における抗CLL-1抗体の用途を提供する。
【0043】
本開示内容の他の態様は、癌を治療または予防するための抗CLL-1抗体の用途を提供する。
【0044】
一実施形態で、医薬組成物は癌を治療または予防するためのものであってもよい。
【0045】
一実施形態で、癌は固形癌(solid cancer)または血液癌(blood cancer)であることができる。
【0046】
一実施形態において、癌は、白血病、直腸癌、子宮内膜癌、腎芽腫(nephroblastoma)、基底細胞癌、上咽頭癌、骨腫瘍、食道癌、リンパ腫、ホジキンリンパ腫(Hodgkin's lymphoma)、非ホジキンリンパ腫(non-Hodgkin's lymphoma)、甲状腺濾胞癌(follicular thyroid cancer)、肝細胞癌、口腔癌、腎細胞癌、多発性骨髄腫、中皮腫、骨肉腫、骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome)、間葉系腫瘍、軟部肉腫、脂肪肉腫、消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor)、悪性末梢神経鞘腫瘍(malignant peripheral nerve sheath tumor:MPNST)、ユーイング肉腫(ewing sarcoma)、平滑筋肉腫、間葉系軟骨肉腫、リンパ肉腫、線維肉腫、横紋筋肉腫、奇形腫、神経芽腫、髄芽腫、神経膠腫、良性皮膚腫瘍、バーキットリンパ腫(Burkitt's lymphoma)、マントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphoma)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B cell lymphoma:DLBCL)、濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma)、辺縁帯リンパ腫(marginal zone lymphoma)、神経外胚葉性腫瘍、上皮腫瘍、皮膚T細胞リンパ腫(cutaneous T-cell lymphoma:CTCL)、末梢性T細胞リンパ腫(peripheral T cell lymphoma:PTCL)、末梢性T細胞リンパ腫、膵臓癌、造血器悪性腫瘍(haematological malignancies)、腎臓癌、腫瘍血管系(tumor vasculature)、乳癌、腎臓癌、卵巣癌、上皮性卵巣癌、胃癌、肝臓癌、肺癌、大腸癌、膵臓癌、皮膚癌、膀胱癌、精巣腫瘍、子宮癌、前立腺癌、小細胞肺癌(small cell lung cancer:SCLC)、非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer:NSCLC)、神経芽細胞腫、脳癌、結腸癌、扁平上皮癌、黒色腫、骨髄腫、子宮頸癌、甲状腺癌、頭頸部癌、副腎癌からなる群から選択され得る。
【0047】
一実施形態において、白血病は、急性リンパ芽球性白血病(acute lymphoblastic leukemia:ALL)、慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia:CLL)、有毛細胞白血病(hairy-cell leukemia)、骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)、慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia:CML)および急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)からなる群から選択され得る。
【0048】
一実施形態で、癌はCLL-1を発現する癌であることができる。
【発明の効果】
【0049】
一態様の抗CLL-1抗体によれば、これはCLL-1に高い結合親和性で結合することができ、T細胞の活性化を誘導することができるので、CLL-1を発現する癌を予防または治療するのに効果的に用いられることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1図1は、huCLL1-Hisをリガンドとして用いる一実施形態による3つのキメラ抗体のリガンド結合活性を示すグラフである。
図2図2は、hFc-huCLL1をリガンドとして用いる一実施形態による3つのキメラ抗体のリガンド結合活性を示すグラフである。
図3図3は、hFc-カニクイザルCLL150ng/wellをリガンドとして用いる一実施形態による3つのキメラ抗体のリガンド結合活性を示すグラフである。
図4図4は、hFc-カニクイザルCLL1100ng/wellをリガンドとして用いる一実施形態による3つのキメラ抗体のリガンド結合活性を示すグラフである。
図5図5は、一実施形態によるキメラ抗体及びヒト化抗体hu16C6のリガンド結合活性を示すグラフである。
図6図6は、一実施形態によるキメラ抗体及びヒト化抗体hu33C2のリガンド結合活性を示すグラフである。
図7図7は、一実施形態による多様なヒト化抗体hu33C2のリガンド結合活性を示すグラフである。
図8図8は、CLL1陰性細胞及び多様なCLL1-発現癌細胞における一実施形態によるキメラ抗体の細胞結合活性を示すグラフである。
図9図9は、HL60における一実施形態によるキメラ抗体の細胞結合活性を示すグラフである。
図10図10は、U937における一実施形態によるキメラ抗体の細胞結合活性を示すグラフである。
図11図11は、カニクイザルCLL-1を過発現するHEK293Eにおける一実施形態によるキメラ抗体の細胞結合活性を示すグラフである。
図12図12は、一実施形態によるキメラ抗体及び多様なヒト化抗体hu33C2の細胞結合活性を示すグラフである。
図13図13は、一実施形態によるキメラ抗体及び多様なヒト化抗体hu16C6の細胞結合活性を示すグラフである。
図14図14は、一実施形態によるch84A2、hu16C6及びhu33C2のADCCを示すグラフである。
図15図15は、EOL-1における一実施形態によるADCの細胞増殖抑制活性を示すグラフである。
図16図16は、THP-1における一実施形態によるADCの細胞増殖抑制活性を示すグラフである。
図17図17は、CLL1発現癌細胞における一実施形態による二重特異性抗体の細胞結合活性を示すグラフである。
図18図18は、一実施形態による二重特異性抗体の細胞結合活性を示すグラフである。
図19図19は、一実施形態による二重特異性抗体のT細胞活性化を示すグラフである。
図20図20は、HL-60における一実施形態による二重特異性抗体のT細胞活性化及び細胞溶解活性を示すグラフである。
図21図21は、U937における一実施形態による二重特異性抗体のT細胞活性化及び細胞溶解活性を示すグラフである。
図22図22は、一実施形態による二重特異性抗体の抗原-依存的細胞溶解活性を示すグラフである。
図23図23は、U937異種移植モデル(U937 xenograft model)における一実施形態による二重特異性抗体のin vivo効果(in vivo efficacy)を示すグラフである。
図24図24は、HL60-Lu同所性AMLモデル(HL60-Lu orthotopic AML model)における一実施形態による二重特異性抗体投与でのBLI(Bioluminescence index)を示すイメージである。
図25図25は、HL60-Lu同所性AMLモデルにおける一実施形態による二重特異性抗体投与でのBLIの定量分析結果を示すグラフである(統計分析:Two-way ANOVA(Bonferroni's multiple comparisons test)、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
図26図26は、HL60-Lu同所性AMLモデルにおける一実施形態による二重特異性抗体投与でのBLI(Bioluminescence index)を示すイメージである。
図27図27は、HL60-Lu同所性AMLモデルで一実施形態による二重特異性抗体投与でのBLIの定量分析を示すグラフである(***=P<0.005)。
図28図28は、一実施形態による二重特異性抗体投与後に骨髓内腫瘍細胞をFACSで測定した結果を示すグラフである。
図29図29は、一実施形態による二重特異性抗体投与後に骨髓内腫瘍細胞をIHC染色で測定した結果を示すイメージである。
図30図30は、AML芽球(AML blasts)における一実施形態による二重特異性抗体の細胞溶解活性を示すグラフである。
図31図31は、AML芽球における一実施形態による二重特異性抗体のT細胞活性化の活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
<定義>
【0052】
別途定義しない限り、本願で使われた技術及び科学用語は、本発明の属する技術分野における一般に使われる意味と同じ意味を有する。本明細書を解釈する目的で、下記定義が適用されるはずであり、適切な場合、単数で使われた用語は複数をも含み、その反対の場合も同様である。
【0053】
本願における用語「抗体(antibody)」は、最も広い意味で使われ、目的する抗原結合活性を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単一特異性及び多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体断片を含むが、これらに限定されない多様な抗体構造を含む。
【0054】
本願で使われた用語「モノクローナル抗体(monoclonal antibody)」は、実質的に同種である抗体集団から得られた抗体を指し、すなわち当該集団を含む個別抗体は同一であり、及び/または同一のエピトープに結合し、ただし、可能な変異抗体は、自然発生的な突然変異を含むか、またはモノクローナル抗体製剤の生産中に発生することを含み、このような変異は一般的に少量で存在する。典型的に異なる決定基(エピトープ)に対する互いに異なる抗体を含むポリクローナル抗体製剤と異なり、モノクローナル抗体製剤の各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に対して作用する。
【0055】
本願で使われた用語「単一特異性(monospecific)」抗体は、一つ以上の結合部位を持つ抗体を意味し、これらの各々は同一の抗原の同一のエピトープに結合する。用語「二重特異性(bispecific)」は、抗体が少なくとも2つの区別される抗原決定基に特異的に結合することができることを意味し、例えば抗体重鎖可変ドメイン(VH)及び抗体軽鎖可変ドメイン(VL)の対によってそれぞれ形成された2つの結合部位が異なる抗原または同一の抗原上の異なるエピトープに結合する。このような二重特異性抗体は1+1形式である。他の二重特異性抗体形式は、2+1または1+2形式(第1の抗原またはエピトープに対する2つの結合部位及び第2の抗原またはエピトープに対する1つの結合部位を含む)、もしくは2+2形式(第1の抗原またはエピトープに対する2つの結合部位及び第2の抗原またはエピトープに対する2つの結合部位を含む)である。典型的に、二重特異性抗体は2つの抗原結合部位を含み、これらの各々は互いに異なる抗原決定基に対して特異的である。
【0056】
本願で使われる用語「価(valent)」とは、抗体または抗体断片における結合ドメインの特定の数の存在をいう。よって、用語「1価(monovalent)」、「2価(bivalent)」、「4価(tetravalent)」、及び「6価(hexavalent)」は、抗体におけるそれぞれ1つの結合ドメイン、2つの結合ドメイン、4つの結合ドメイン、及び6つの結合ドメインの存在を示す。本発明による二重特異性抗体は、少なくても「2価(bivalent)」であり、「3価(trivalent)」または「多価(multivalent)」(例えば、「4価(tetravalent)」または「6価(hexavalent)」)であることができる。特定の一態様において、本発明の抗体は2つ以上の結合部位を有し、二重特異性である。すなわち、抗体は2つ以上の結合部位が存在する場合(すなわち、抗体が3価または多価の場合)にも二重特異性であってもよい。
【0057】
用語「全長抗体(full length antibody)」、「インタクトな抗体(intact antibody)」及び「全抗体(whole antibody)」は、天然抗体構造と実質的に類似した構造を持つ抗体を称するために本願で相互交換的に用いられる。「天然抗体(native antibodies)」とは、多様な構造を持つ自然発生的な兔疫グロブリン分子をいう。例えば、天然IgG-クラス抗体は、2つの軽鎖及び2つの重鎖がジスルフィド結合された、約150,000ダルトン(daltons)のヘテロ四量体糖タンパク質(heterotetrameric glycoproteins)である。N末端からC末端まで、各重鎖は可変重鎖ドメインまたは重鎖可変ドメインと呼ばれる可変領域(variable region:VH)、次に重鎖定常領域と呼ばれる3つの定常ドメイン(CH1、CH2及びCH3)を持つ。同様に、N末端からC末端まで、各軽鎖は可変軽鎖ドメインまたは軽鎖可変ドメインと呼ばれる可変領域(VL)、次に軽鎖定常領域と呼ばれる軽鎖定常ドメイン(CL)を持つ。抗体の重鎖は、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)、またはμ(IgM)と呼ばれる5つのタイプの中で一つに指定されることができ、このうち一部はサブタイプ、例えばγ1(IgG1)、γ2(IgG2)、γ3(IgG3)、γ4(IgG4)、α1(IgA1)及びα2(IgA2)にさらに分類されることができる。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つのタイプのうちどちらか一つに指定されることができる。
【0058】
前述したように、可変領域は、抗体が抗原上のエピトープを選択的に認識し、それに特異的に結合するようにする。すなわち、抗体のVLドメイン及びVHドメイン、または相補性決定領域(CDR)のサブセットを組み合わせて3次元抗原結合部位を定義する可変領域を形成する。このような4次抗体構造は、Yの各アーム(arm)の末端に存在する抗原結合部位を形成する。より具体的に、抗原結合部位はそれぞれのVH及びVL鎖上の3つのCDRによって定義される(すなわち、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3)。一部の場合に、例えば所定の兔疫グロブリン分子は、ラクダ科種(camelid species)に由来するか、またはラクダ科(camelid)兔疫グロブリンに基づいて操作された場合、完全兔疫グロブリン分子は軽鎖なしに重鎖単独で構成されることができる。例えば、Hamers-Casterman et al., Nature 363:446-448(1993)を参照する。
【0059】
用語「CDR-H」、「HCDR」及び「CDRH」は、CDRのVH鎖を称するために本願で相互交換的に使用される(例えば、CDR-H1、HCDR1及びCDRH1はCDRのVH1をいう)。用語「CDR-L」、「LCDR」及び「CDRL」は、CDRのVL鎖を称するいうために本願で相互交換的に使用される(例えば、CDR-L1、LCDR1及びCDRL1は、CDRのVL1をいう)。
【0060】
自然発生的な抗体において、各抗原結合ドメインに存在する6つの「相補性決定領域(complementarity determining region)」または「CDR」は、抗体が水性環境で3次元立体配列を取るから抗原結合ドメインを形成するために特異的に位置する、短い非隣接したアミノ酸配列である。「フレームワーク(framework)」領域と呼ばれる、抗原結合ドメインにおいて、残りのアミノ酸は、より少ない分子間変動性を示す。フレームワーク領域は、主にβシートの立体配座(β-sheet conformation)を採択し、CDRは連結されるループを形成し、一部の場合にはβシート構造の一部を形成する。よって、フレームワーク領域は、鎖間、非共有相互作用によって正確な配向にCDRを位置させるスカフォールド(scaffold)を形成する作用をする。位置されたCDRによって形成された抗原結合ドメインは、免疫反応性抗原上のエピトープに相補的な表面を定義する。このような相補的な表面は同族エピトープに対する抗体の非共有結合を促進する。任意の当該重鎖または軽鎖可変領域に対してCDR及びフレームワーク領域をそれぞれ含むアミノ酸は、当業者によって容易に識別することができ、これらは正確に定義されているからである(www.bioinf.org.uk: Dr. Andrew C.R. Martin's Group; "Sequences of Proteins of Immunological Interest," Kabat, E., et al., U.S. Department of Health and Human Services, (1983); and Chothia and Lesk, J. MoI. Biol., 196: 901-917 (1987)参照)。
【0061】
当該技術分野で使われて及び/または許容される用語に対して2つ以上の定義が存在する場合に、本願で使われた用語の定義が明らかに反対に言及しない限り、これらのすべての意味を含むものを意図する。具体例としては、重鎖及び軽鎖ポリペプチドのすべての可変領域内で発見される非隣接抗原結合部位を述べるための用語「相補性決定領域」(「CDR」)を使う。これらの特定領域は、Kabat et al., U.S. Dept. of Health and Human Services, "Sequences of Proteins of Immunological Interest" (1983)およびChothia et al., J. MoI. Biol. 196: 901-917 (1987)に記載してあり、その全文は本願に参照により組み込まれる。Kabat及びChothiaによるCDRの定義は、互いに比較する場合、アミノ酸残基の重複またはサブセットを含む。それにもかかわらず、抗体またはその変異体のCDRを称するための定義の適用は、本願で定義されて使われる用語の範囲内に属するものを意図する。前記引用された各参照文献によって定義されたCDRを含む適切なアミノ酸残基は、比較として下記表(表1)に示す。特定のCDRを含む正確な残基数は、CDRの配列及び大きさに応じて可変される。当業者は、抗体の可変領域アミノ酸配列を考慮して残基が特定CDRを含むかどうかを日常的に決めることができる。
【0062】
【0063】
Kabatらは、また任意の抗体に適用し得る可変ドメイン配列に対する番号付けシステムを定義した。当業者は、配列それ自体を超えたいかなる実験データにも頼ることなく、「Kabat番号付け(Kabat numbering)」システムを任意の可変ドメイン配列に明白に割り当てることができる。本願で使われた、「Kabat番号付け(Kabat numbering)」とは、Kabat et al., U.S. Dept. of Health and Human Services, "Sequence of Proteins of Immunological Interest"(1983)に提示された番号付けシステムをいう。
【0064】
本願に開示の抗体は、鳥類(birds)及び哺乳動物(mammals)を含む任意の動物源に由来することができる。望ましくは、抗体はヒト、ネズミ(murine)、ろ馬、兎、山羊、モルモット、ラクダ、ラマ、馬またはニワトリの抗体である。
【0065】
本願で使われた、用語「重鎖定常領域(heavy chain constant region)」は、兔疫グロブリン重鎖に由来するアミノ酸配列を含む。前記開示のように、重鎖定常領域は修飾されて自然発生的な兔疫グロブリン分子からのアミノ酸配列が可変されることができるということを当業者は理解するはずである。
【0066】
本願に開示の抗体の重鎖定常領域は、異なる兔疫グロブリン分子に由来することができる。例えば、ポリペプチドの重鎖定常領域は、IgG1分子に由来するCH1ドメイン及びIgG3分子に由来するヒンジ領域(hinge region)を含むことができる。他の例として、重鎖定常領域はIgG1分子に一部由来し、IgG3分子に一部由来するヒンジ領域を含むことができる。他の例として、重鎖部分はIgG1分子に一部由来し、IgG4分子に一部由来するキメラヒンジ(chimeric hinge)を含むことができる。
【0067】
本願で使われた、用語「軽鎖定常領域(light chain constant region)」は、抗体軽鎖に由来するアミノ酸配列を含む。望ましくは、軽鎖定常領域は、定常カッパドメインまたは定常ラムダドメインの中で少なくとも一つを含む。
【0068】
「軽鎖-重鎖対(light chain-heavy chain pair)」とは、軽鎖のCLドメインと重鎖のCH1ドメインとの間のジスルフィド結合によって二量体を形成することができる軽鎖及び重鎖のコレクション(collection)をいう。
【0069】
「抗体断片(antibody fragment)」または「抗原結合フラグメント(antigen-binding fragment)」は、インタクトな抗体以外の分子をいい、これはインタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部を含む。免疫学的に機能性である兔疫グロブリンフラグメントには、Fab、Fab'、F(ab')、xFab、scFab、dsFv、Fv、scFv、scFv-Fc、scFab-Fc、ダイアボディ、ミニボディ、scAb、dAb、半IgGまたはその組み合わせを含むが、これらに限定されない。Fab、Fab'、F(ab')、xFab及びscFabで使われた用語「Fab」には、伝統的なFab断片及びPCT/CN2018/106766(Wuxibody)に記載されているキメラFab様ドメインを含むことができる。また、これはヒト、マウス、ラット、ラクダ科または兎を含むが、これに限定されない任意の哺乳動物に由来することができる。抗体の機能的部分、例えば本願に記載の一つ以上のCDRは、2次タンパク質または小分子化合物と共有結合によって連結されることができ、これによって、特定の標的に対する標的治療薬として用いられることができる。用語「抗体断片(antibody fragment)」は、アプタマー(aptamers)、シュピーゲルマー(spiegelmers)及びダイアボディ(diabodies)を含む。また、用語「抗体断片(antibody fragment)」は、特定の抗原に結合して複合体を形成することで抗体のように作用する任意の合成または遺伝子組換えタンパク質を含む。
【0070】
抗体断片は、本願に記載のように、インタクトな抗体のタンパク質分解消化(proteolytic digestion)だけでなく、組換え宿主細胞(例えば大膓菌(E.coli)またはファージ(phage))による生産を含むが、これに限定されない多様な技術によって製造されることができる。
【0071】
インタクトな抗体のパパイン消化(Papain digestion)は、2つの同一の抗原結合フラグメントを生成し、これは重鎖及び軽鎖可変ドメイン及び軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)を含む「Fab」断片と呼ばれる。よって、本願で使われた、用語「Fab断片(Fab fragment)」は、軽鎖のVLドメイン及び定常ドメイン(CL)を含む軽鎖断片、及び重鎖のVHドメイン及び第1の定常ドメイン(CH1)を含む抗体断片をいう。Fab'断片は、抗体ヒンジ領域から一つ以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に幾つかの残基を追加するという点で、Fab断片と異なる。Fab'-SHは、定常ドメインのシステイン残基(複数可)が遊離チオール基を有するFab'断片である。ペプシン処理は、2つの抗原結合部位(2つのFab断片)及びFc領域の一部を持つF(ab')断片を生成する。本願で、「F(ab')断片」は、前述のごとく、2つの軽鎖、及び可変領域、CH1及びCH1とCH2ドメインとの間の定常領域の一部を含む2つの重鎖を含み、これによって、2つの重鎖の間に鎖内ジスルフィド結合(intrachain disulfide bond)を形成する。したがって、F(ab')断片は、2つのFab'断片で構成され、2つのFab'断片は、これらの間のジスルフィド結合によって互いに結合する。
【0072】
用語「クロスFab断片(cross-Fab fragment)」または「xFab断片(xFab fragment)」または「クロスオーバーFab断片(crossover Fab fragment)」とは、重鎖及び軽鎖の可変領域または定常領域が交換されたFab断片をいう。クロスオーバーFab分子の2つの異なる鎖組成が可能であり、本発明の二重特異性抗体に含まれ、一方ではFab重鎖及び軽鎖の可変領域が交換され、すなわち交差Fab分子は軽鎖可変領域(VL)及び重鎖定常領域(CH1)で構成されたペプチド鎖、及び重鎖可変領域(VH)及び軽鎖定常領域(CL)で構成されたペプチド鎖を含む。また、このようなクロスFab分子はCrossFab(VLVH)と呼ぶ。一方、Fab重鎖及び軽鎖の定常領域が交換される場合、クロスオーバーFab分子は重鎖可変領域(VH)及び軽鎖定常領域(CL)で構成されたペプチド鎖、及び軽鎖可変領域(VL)及び重鎖定常領域(CH1)で構成されたペプチド鎖を含む。また、このようなクロスオーバーFab分子はCrossFab(CLCH1)と呼ぶ。
【0073】
「単鎖Fab断片(single chain Fab fragment)」または「scFab」は、抗体重鎖可変ドメイン(VH)、抗体定常ドメイン1(CH1)、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、抗体軽鎖定常ドメイン(CL)及びリンカーで構成されたポリペプチドであり、前記抗体ドメイン及び前記リンカーは、N末端においてC末端方向であり、下記順:a)VH-CH1-リンカー-VL-CL、b)VL-CL-リンカー-VH-CH1、c)VH-CL-リンカー-VL-CH1またはd)VL-CH1-リンカー-VH-CLの中のいずれか一つを有し、前記リンカーは、少なくとも30個のアミノ酸、望ましくは32~50個のアミノ酸を持つポリペプチドである。前記単鎖Fab断片は、CLドメインとCH1ドメインとの間の天然ジスルフィド結合により安定化される。また、これらの単鎖Fab分子は、システイン残基(例えば、Kabat番号付けによる可変重鎖における44位及び可変軽鎖における100位)の挿入による鎖間ジスルフィド結合の生成によってさらに安定化されることができる。
【0074】
「クロスオーバー単鎖Fab断片(crossover single chain Fab fragment)」または「x-scFab」とは、抗体重鎖可変ドメイン(VH)、抗体定常ドメイン1(CH1)、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、抗体軽鎖定常ドメイン(CL)及びリンカーで構成されたポリペプチドであり、前記抗体ドメイン及び前記リンカーは、N末端においてC末端方向に、下記順:a)VH-CL-リンカー-VL-CH1及びb)VL-CH1-リンカー-VH-CLの中のいずれか一つを有し、前記VH及びVLは、一緒に抗原に特異的に結合する抗原結合ドメインを形成し、前記リンカーは、少なくとも30個のアミノ酸を持つポリペプチドである。また、これらのx-scFab分子は、システイン残基(例えば、Kabat番号付けによる可変重鎖における44位及び可変軽鎖における100位)の挿入による鎖間ジスルフィド結合の生成によってさらに安定化されることができる。
【0075】
「Fv領域(Fv region)」は、重鎖及び軽鎖の各可変領域を含むが、定常領域は含まない抗体である。scFvは、Fvが可撓性リンカーによって連結されたものである。scFv-Fcは、FcがscFvに連結されたものである。ミニボディ(minibody)は、CH3がscFvに連結されたものである。ダイアボディ(diabody)は、scFvの2つの分子を含む。「単鎖可変断片(single-chain variable fragment)」または「scFv」は、兔疫グロブリンの重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の可変領域の融合タンパク質をいう。幾つかの態様において、前記領域は、10個~約25個のアミノ酸を持つ短いリンカーペプチドと連結される。リンカーは、可撓性のためにグリシンに富んでいてもよく、溶解度のためにセリンまたはスレオニンに富んでいてもよく、VHのN末端をVLのC末端と連結することができるか、またはその逆に連結することができる。このようなタンパク質は、定常領域の除去及びリンカーの導入にもかかわらず、元の兔疫グロブリンの特異性を維持する。ScFv分子は、当該技術分野によく知られており、例えば米国特許第5,892,019号に記載されている。
【0076】
「短鎖抗体(short-chain antibody:scAb)」は、重鎖及び軽鎖可変領域が可撓性リンカーによって連結された重鎖の一つの可変領域または軽鎖定常領域を含む単一ポリペプチド鎖である。短鎖抗体は、例えば米国特許第5,260,203号を参照することができ、これは本願に参照により開示される。
【0077】
「ドメイン抗体(domain antibody:dAb)」は、重鎖の可変領域または軽鎖の可変領域のみを含む免疫学的に機能性である兔疫グロブリン断片である。一実施形態において、2つ以上のVH領域はペプチドリンカーによって共有結合で連結され、2価ドメイン抗体を形成する。このような2価ドメイン抗体の2つのVH領域は、同一又は異なる抗原を標的とすることができる。
【0078】
本発明による用語「全長IgG(full length IgG)」は、本質的に完全なIgGを含むものと定義されるが、これはインタクトなIgGのすべての機能を持つ必要はない。疑心の余地を無くすため、全長IgGは2つの重鎖及び2つの軽鎖を含む。各鎖には定常(C)及び可変(V)領域を含み、これはCH1、CH2、CH3、VH、及びCL、VLに指定されたドメインに分けられる。IgG抗体は、Fab部分に含まれた可変領域ドメインを通じて抗原に結合し、結合後に定常ドメインを通じて、大部分Fc部分を通じて免疫系の細胞及び分子と相互作用することができる。用語「可変領域ドメイン(variable region domain)」、「可変領域(variable region)」、「可変ドメイン(variable domain)」、「VH/VL対(VH/VL pair)」、「VH/VL」、「Fab部分(Fab portion)」、「Fabアーム(Fab arm)」、「Fab」または「アーム(arm)」は、本願で相互交換的に使われる。本発明による全長抗体は、目的する特徴を提供する突然変異が存在することができるIgG分子を含む。このような突然変異は任意の領域の相当部分が欠失していてはならない。しかし、生成されたIgG分子の結合特性を本質的に変更させないで、一つ又は複数のアミノ酸残基が欠失しているIgG分子は用語「全長IgG」に含まれる。例えば、このようなIgG分子は、望ましくは、非CDR領域で1~10個のアミノ酸残基が一つ以上欠失していてもよく、ここでアミノ酸の欠失は、IgGの結合特異性に必須なものではない。
【0079】
全長IgG抗体は、その半減期が有利であり、免疫原性のために完全自己(ヒト)分子に最大限近く維持しなければならないから好まれる。本発明によれば、二重特異的IgG抗体が使われる。望ましい一実施様態で、二重特異的全長IgG1抗体が使われる。IgG1は、ヒトにおいてその循環半減期が長いことから好まれる。ヒトで任意の免疫原性を防止するために、本発明による二重特異的IgG抗体はヒトIgG1であることが望ましい。用語「二重特異的(bispecific)」(bs)は、抗体の一つのアームが第1の抗原に結合することに対し、第2アームは、第2の抗原に結合することを意味し、ここで前記第1の抗原及び第2の抗原は同じではない。本発明によれば、前記第1の抗原及び第2の抗原は、実際に2つの異なる細胞タイプに位置する2つの異なる分子である。用語「[抗体の]一つのアーム」は、望ましくは、全長IgG抗体の一つのFab部分を意味する。内因性免疫細胞を動員して活性化して細胞傷害を媒介する二重特異性抗体は、台頭している次世代抗体治療薬の部類である。これは標的細胞(すなわち、腫瘍細胞)及びエフェクター細胞(すなわち、T細胞、NK細胞及びマクロファージ)に対する抗原結合特異性を一つの分子で組み合わせることで達成されることができる(Cui et al. JBC 2012 (287) 28206-28214; Kontermann, MABS 2012 (4) 182-197; Chames and Baty, MABS 2009 (1) 539-547; Moore et al. Blood 2011 (117) 4542-4551; Loffler et al. 2000 Blood 95:2098; Zeidler et al. 1999 J. Immunol. 163:1246)。本発明によれば、一つのアームが異常(腫瘍)細胞上のCLL-1抗原に結合することに対し、第2アームは免疫エフェクター細胞上の抗原に結合する二重特異性抗体を提供する。
【0080】
本願で使われた、用語「抗原結合ドメイン(antigen binding domain)」または「抗原結合部位(antigen-binding site)」は、抗原決定基に特異的に結合する抗体または抗体断片の部分をいう。より具体的に、用語「抗原結合ドメイン」は、抗原の一部または全部に特異的に結合し、ここに相補的な領域を含む抗体の部分をいう。抗原が大きい場合に、抗体または抗体断片は抗原の特定部分にのみ結合することができ、このような部分をエピトープ(epitope)と呼ぶ。抗原結合ドメインは、例えば一つ以上の可変ドメイン(もしくは可変領域と呼ぶ)によって提供されることができる。望ましくは、抗原結合ドメインは、抗体軽鎖可変領域(VL)及び抗体重鎖可変領域(VH)を含む。一態様において、抗原結合ドメインは、その抗原に結合してその機能を遮断するか、または部分的に遮断することができる。CLL-1またはCD3に特異的に結合する抗原結合ドメインには、本願に追加で定義された抗体及びその断片を含む。また、抗原結合ドメインは、スキャフォールド抗原結合タンパク質、例えば設計されたリピートタンパク質または設計されたリピートドメインに基づく結合ドメインを含むことができる(例えばWO2002/020565参照)。
【0081】
本願で使われた、用語「抗原決定基(antigenic determinant)」は、「抗原(antigen)」及び「エピトープ(epitope)」と同義語であり、抗原結合部分が結合して抗原結合部分-抗原コンジュゲートを形成するポリペプチド巨大分子上の部位(例えば、アミノ酸の連続したストレッチ(contiguous stretch)または非連続的なアミノ酸の異なる領域で構成された立体形態的な構成)をいう。有用な抗原決定基は、例えば腫瘍細胞の表面、ウイルス感染された細胞の表面、その他罹患した細胞の表面、免疫細胞の表面、無血清血液において、及び/または細胞外マトリックス(extracellular matrix:ECM)で発見されることができる。本願で抗原として有用なタンパク質は、別途明示しない限り、哺乳動物、例えば霊長類(例えば、ヒト)及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)を含む任意の脊椎動物供給源由来の任意の天然型のタンパク質であってもよい。特定の一実施形態において、抗原はヒトタンパク質である。本願で特定のタンパク質を言及する場合、これらの用語は「全長」、未処理のタンパク質だけでなく、細胞で処理されて生成されるすべての形態のタンパク質を含む。また、これらの用語は、タンパク質の自然発生的な変異体、例えばスプライス変異体または対立遺伝子変異体を含む。
【0082】
「特異的結合(specific binding)」は、結合が抗原に対して選択的であり、所望しないか、または非特異的相互作用と区分し得ることを意味する。特定の抗原に結合する抗体または抗体断片の能力は、酵素結合免疫吸着測定法(enzyme-linked immunosorbent assay:ELISA)または当業者によく知られている他の技術、例えば表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance:SPR)技術(BIAcore機器で分析される)(Liljeblad et al., Glyco J 17, 323-329(2000))、及び伝統的な結合分析(Heeley, Endocr Res 28, 217-229(2002))によって測定することができる。
【0083】
「親和性(affinity)」または「結合親和性(binding affinity)」は、分子(例:抗体)及びその結合パートナー(例:抗原)の単一結合部位の間の非共有相互作用の総合の強度を意味する。別途明示しない限り、本願で使われた「結合親和性」とは、結合対のメンバー(例えば、抗体及び抗原)の間の1:1相互作用を反映する固有結合親和性をいう。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般に解離定数(K)で表示されることができ、これは解離速度定数及び結合速度定数(それぞれkoff及びkon)の比率である。よって、同等な親和性(equivalent affinities)は、速度定数の比率が等しく維持される限り、互いに異なる速度定数を含むことができる。親和性は、本願に記載の方法を含む、当該技術分野に知られた一般的な方法で測定することができる。親和性を測定する特定方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)である。
【0084】
本願で使われた、用語、抗体の「高親和性(high affinity)」とは、抗体が標的抗原に対してKを10-9M以下、より具体的に10-10M以下有することを意味する。用語、抗体の「低親和性(low affinity)」とは、抗体がKを10-8M以上有することを意味する。
【0085】
「親和性成熟(affinity matured)」抗体とは、抗体の抗原に対する親和性を改善する改変を含まない親抗体と比較して、一つ以上の超可変領域(HVR)でこのような改変を一つ以上持つ抗体をいう。
【0086】
用語「CLL-1及びCD3に特異的に結合する二重特異性抗体」、「CLL-1及びCD3に特異的な二重特異性抗体」または「抗CLL-1/抗CD3抗体」は、本願で相互交換的に使われ、CLL-1及びCD3を標的とする抗体が診断剤及び/または治療薬として有用である十分な親和性でCLL-1及びCD3に結合することができる二重特異性抗体をいう。
【0087】
用語「C型レクチン様分子-1(C-type lectin-like molecule-1:CLL-1)」は、MICLまたはCLEC12Aとしても知られており、II型膜貫通糖蛋白質及び免疫調節に関与するC型レクチン様受容体の大きいファミリーのメンバーである。CLL-1は、以前に骨髓由来細胞から確認された。CLL-1の細胞内ドメインには、免疫チロシンベース阻害モチーフ(immunotyrosine-based inhibition motif:ITIM)及びYXXMモチーフを含む。多様な細胞におけるITIM含有受容体のリン酸化は、タンパク質チロシンフォスファターゼSHP-1、SHP-2及びSHIPの動員による活性化経路の抑制をもたらす。YXXMモチーフは、PI-3キナーゼ、13のp85サブユニットに対する潜在的なSH2ドメイン結合部位を有し、これは細胞活性化経路に関連して、骨髓細胞に対する阻害及び活性化分子としてCLL-1の潜在的な二重役割を果たす。実際に、CLL-1のSHP-1及びSHP-2との結合は、形質移入された骨髓由来細胞株で実験的に立証された。
【0088】
造血細胞においてCLL-1の発現パターンは制限される。これは具体的に末梢血液及び骨髓に由来する骨髓細胞だけでなく、大部分のAML芽球で発見される。近年の研究によれば、CLL-1はまたAMLにおいて、CD34+/CD38-区画にある大部分の白血病幹細胞には存在するが、正常及び再生骨髓対照群でCD34+/CD38-細胞には不在し、これは正常細胞と白血病幹細胞とを区分するのに役立つことが示された。(例えば、Zhao et al., Haematologica 95:71-78(2010);Bakker et al., Cancer Res.64:8443-8450(2004)参照)。多くの種に対するCLL-1のヌクレオシド及びタンパク質配列が知られている。例えば、ヒト配列は、Genbank accession number AF247788.1及びUniprot accession number Q5QGZ9で見当たることができる。
【0089】
用語「CLL-1抗体」、「CLL-1に結合する抗体」及び「CLL-1に結合する抗原結合ドメインを含む抗体」とは、CLL-1を標的とする抗体が診断剤及び/または治療剤として有用である十分な親和性でCLL-1、特に細胞表面で発現されたCLL-1ポリペプチドに結合することができる抗体をいう。一態様で、抗CLL-1抗体の非関連の非CLL-1タンパク質への結合程度は、例えば放射性免疫分析(RIA)またはフローサイトメトリー(FACS)またはBiacoreシステムのようなバイオセンサーシステムを用いる表面プラズモン共鳴分析による測定時に、抗体のCLL-1に対する結合の約10%未満である。所定の態様で、ヒトCLL-1に結合する抗原結合タンパク質は、ヒトPD1への結合に対する結合親和性のK値が≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、または≦0.001nM(例えば、10-8M以下、例えば10-8M~10-13M、例えば10-9M~10-13M)である。また、用語「抗CLL-1抗体」は、CLL-1及び異なる抗原に結合することができる二重特異性抗体を含む。
【0090】
用語「CLL-1」及び「CLL1」は、本願で相互交換的に使われる。
【0091】
本願で使われた用語「免疫エフェクター細胞(immune effector cell)」または「エフェクター細胞(effector cell)」とは、哺乳動物免疫系細胞の自然的なレパートリー内にある細胞であって、活性化されれば標的細胞の生存力に影響を及ぼすことができる細胞をいう。免疫エフェクター細胞としては、リンパ系(lymphoid lineage)細胞、例えば自然殺害(NK)細胞、細胞傷害T細胞を含むT細胞、またはB細胞を含むだけでなく、骨髄系(myeloid lineage)細胞、例えば単球またはマクロファージ、樹状細胞及び好中性顆粒球が免疫エフェクター細胞として見なされることができる。したがって、前記エフェクター細胞は、望ましくは、NK細胞、T細胞、B細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞または好中性顆粒球である。本発明によれば、エフェクター細胞を異常細胞に動員するということは、免疫エフェクター細胞を異常標的細胞に近く位置させてエフェクター細胞が動員された異常細胞を直接死滅するか、または間接的に死滅を開始することができることを意味する。非特異的相互作用を避けるため、本発明の二重特異性抗体は、これらの免疫エフェクター細胞によって少なくとも過発現される免疫エフェクター細胞上の抗原を身体の他の細胞に比べて特異的に認識することが望ましい。免疫エフェクター細胞に存在する標的抗原は、CD3、CD16、CD25、CD28、CD64、CD89、NKG2D及びNKp46を含むことができる。望ましくは、免疫エフェクター細胞上の抗原は、T細胞で発現されるCD3、またはその機能的等価物(機能的等価物は、T細胞上に類似するように分布しており、類似した機能(種類に関連したものであり、量とは必ずしもに関連する必要はない)を持つCD3様分子であることができる)である。また、本願で使われた、用語「CD3」はCD3の機能的等価物を含む。免疫エフェクター細胞として最も望ましい抗原はCD3ε鎖である。この抗原は、T細胞を異常細胞に動員するのに非常に効果的なことが示された。よって、本発明による二重特異的IgG抗体は、望ましくはCD3εを特異的に認識する一つのアームを含む。
【0092】
用語「CD3」は、別途明示しない限り、哺乳動物、例えば霊長類(例えば、ヒト)、非ヒト霊長類(例えば、カニクイザル)及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)を含む、任意の脊椎動物供給源に由来する任意の天然CD3をいう。前記用語は、「全長」の未処理CD3だけでなく、細胞で処理によって発生するすべての形態のCD3を含む。また、前記用語は、CD3の自然発生的な変異体、例えばスプライス変異体または対立遺伝子変異体を含む。一実施形態で、CD3は、ヒトCD3、具体的に、ヒトCD3のエプシロンサブユニット(CD3ε)である。ヒトCD3ε医アミノ酸配列は、UniProt(www.uniprot.org)accession no.P07766(version 189)、またはNCBI(www.ncbi.nlm.nih.gov/)RefSeq NP_000724.1に示されている。カニクイザル[Macaca fascicularis]CD3εのアミノ酸配列は、NCBI GenBank no.BAB71849.1に示されている。
【0093】
用語「抗CD3抗体」、「CD3に結合する抗体」及び「CD3に結合する抗原結合ドメインを含む抗体」は、CD3を標的とする抗体が診断薬及び/または治療薬として有用である十分な親和性でCD3に結合することができる抗体を意味する。一態様において、抗CD3抗体の非関連の非CD3タンパク質に対する結合程度は、例えば放射性免疫分析(RIA)による測定時に、抗体のCD3に対する結合の約10%未満である。所定の実施様態において、CD3に結合する抗体は、解離定数(K)が≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、または≦0.001nM(例えば、10-8M以下、例えば10-8M~10-13M、例えば10-9M~10-13M)である。所定の態様において、抗CD3抗体は、異なる種に由来するCD3の中で保存されたCD3のエピトープに結合する。さらに、用語「抗CD3抗体」は、CD3及び異なる抗原に結合することができる二重特異性抗体を含む。
【0094】
用語「マウス(mouse)」抗体は、フレームワーク及びCDR領域のいずれもマウス生殖細胞系列兔疫グロブリン配列に由来する可変領域を持つ抗体を含むことを意図する。さらに、抗体が定常領域を含む場合、定常領域もマウス生殖細胞系列兔疫グロブリン配列に由来する。本開示内容のマウス抗体は、マウス生殖細胞系列の兔疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、in vitroランダムまたは部位特異的突然変異の誘発によって、もしくはin vivo体細胞突然変異によって導入された突然変異)を含むことができる。
【0095】
用語「キメラ(chimeric)」抗体は、重鎖及び/または軽鎖の一部が特定の供給源または種に由来し、残りの重鎖及び/または軽鎖が異なる供給源または種に由来する抗体をいう。
【0096】
抗体の「クラス(class)」は、抗体の重鎖が保有する定常ドメインまたは定常領域のタイプをいう。抗体にはIgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMの5つの主なクラスがあり、これらの中で一部は、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2にさらに分類されることができる。兔疫グロブリンの多様なクラスにあたる重鎖定常ドメインをそれぞれα、δ、ε、γ及びμと呼ぶ。
【0097】
「ヒト化(humanized)」抗体は、非ヒトHVR由来のアミノ酸残基及びヒトFR由来のアミノ酸残基を含むキメラ抗体をいう。所定の実施様態において、ヒト化抗体は少なくとも1つ、通常2つの可変ドメインを実質的に全て含むはずであり、ここで、HVR(例えば、CDR)の全部または実質的に全部は、非ヒト抗体のHVRに該当し、FRの全部または実質的に全部は、ヒト抗体のFRに該当する。
【0098】
ヒト化抗体は、選択的にヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部を含むことができる。抗体、例えば非ヒト抗体の「ヒト化形態(humanized form)」は、ヒト化を行った抗体をいう。本発明に含まれる「ヒト化抗体(humanized antibodies)」の他の形態は、本発明による特性を生成するために、特にC1q結合及び/またはFc受容体(FcR)結合に関連して、定常領域が元の抗体の定常領域からさらに修飾または変更されたものである。
【0099】
「ヒト(human)」抗体は、ヒトまたはヒト細胞によって生産されるか、またはヒト抗体レパートリーまたは他のヒト抗体コード配列を活用する非ヒト供給源に由来する抗体のアミノ酸配列に該当するアミノ酸配列を保有する抗体である。ヒト抗体のこのような定義は、特に非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を除く。
【0100】
本願における用語「Fcドメイン」または「Fc領域」は、定常領域の少なくとも一部を含む兔疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するのに使われる。前記用語には、天然配列Fc領域及び変異体Fc領域を含む。IgG重鎖のFc領域の境界は、少し可変され得るが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、一般に、Cys226またはPro230から、重鎖のカルボキシ末端までその定義が拡張される。しかし、宿主細胞が生産した抗体は、重鎖のC末端から一つ以上、特に一つまたは2つのアミノ酸の翻訳後切断を行うことができる。したがって、宿主細胞が全長重鎖をコードする特定の核酸分子の発現によって生成する抗体は、全長重鎖を含むことができるか、または全長重鎖の切断された変異体(また、本願では「切断された変異体重鎖」と呼ばれる)を含むことができる。これは、重鎖の最後の2つのC末端アミノ酸がグリシン(G446)及びリジン(K447、Kabat EU indexに従う番号付け)の場合であってもよい。したがって、Fc領域のC末端リジン(Lys447)、またはC末端グリシン(Gly446)及びリジン(K447)が存在することができるか、または存在しないこともできる。Fcドメイン(または本願に定義されたFcドメインのサブユニット)を含む重鎖のアミノ酸配列は、別途明示しない限りC末端グリシン-リジンジペプチドなしに本願で表示される。本発明の一実施形態で、本発明による抗体または二重特異性抗体に含まれた、本願に開示のFcドメインのサブユニットを含む重鎖は、更なるC末端グリシン-リジンジペプチド(G446及びK447、Kabat EU indexに従う番号付け)を含む。本発明の一実施形態において、本発明による抗体または二重特異性抗体に含まれた、本願に開示のFcドメインのサブユニットを含む重鎖は、更なるC末端グリシン残基(G446、Kabat EU indexに従う番号付け)を含む。本発明の組成物、例えば本願に記載された医薬組成物は、本発明の抗体または二重特異性抗体の集団を含む。抗体または二重特異性抗体の集団は、全長重鎖を持つ分子及び切断された変異体重鎖を持つ分子を含むことができる。抗体または二重特異性抗体の集団は、全長重鎖を持つ分子及び切断された変異体重鎖を持つ分子の混合物で構成されることができ、ここで抗体または二重特異性抗体の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%は、切断された変異体重鎖を持つ。本発明の一実施形態において、本発明の抗体または二重特異性抗体の集団を含む組成物は、更なるC末端グリシン-リジンジペプチド(G446及びK447、Kabat EU indexに従う番号付け)と、本願に開示のFcドメインのサブユニットからなる重鎖を含む抗体または二重特異性抗体とを含む。本発明の一実施形態で、本発明の抗体または二重特異性抗体の集団を有する組成物は、更なるC末端グリシン残基(G446、Kabat EU indexに従う番号付け)と、本願に開示のFcドメインのサブユニットを有する重鎖からなる抗体または二重特異性抗体とを含む。本発明の一実施形態で、このような組成物は、本願に開示のFcドメインのサブユニットを有する重鎖からなる分子;更なるC末端グリシン残基(G446、Kabat EU indexに従う番号付け)と、本願に開示のFcドメインのサブユニットを有する重鎖からなる分子と、更なるC末端グリシン-リジンジペプチド(G446及びK447、Kabat EU indexに従う番号付け)と、本願に開示のFcドメインのサブユニットを有する重鎖からなる分子を含む抗体または二重特異性抗体の集団とを含む。本願で別途明示しない限り、Fc領域または定常領域におけるアミノ酸残基の番号付けは、EU番号付けシステム(またEU indexと呼ばれる)に従って、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed.Public Health Service、National Institutes of Health, Bethesda, Md.,1991に記載のものと同様である(また、前記参照)。本願で使われたFcドメインの「サブユニット(sub-unit)」とは、二量体Fcドメインを形成する2つのポリペプチド中の一つ、すなわち安定した自己結合が可能な兔疫グロブリン重鎖のC末端定常領域を有するポリペプチドをいう。例えば、IgGFcドメインのサブユニットは、IgGCH2及びIgGCH3定常ドメインを含む。
【0101】
「Fcドメインの第1及び第2サブユニットの結合を促進する修飾」とは、ペプチドバックボーンの操作またはFcドメインサブユニットの翻訳後修飾であって、これはFcドメインサブユニットを含むポリペプチドと同じポリペプチドが結合して同種二量体を形成することを減少または防止する。本願で使われた結合を促進する修飾は、特に結合しようとする2つのFcドメインサブユニット(すなわち、Fcドメインの第1及び第2サブユニット)のそれぞれに対する個々の修飾を含み、ここで修飾は互いに相補的であるから、2つのFcドメインサブユニットの結合を促進する。例えば、結合を促進する修飾は、Fcドメインサブユニット中のいずれか一つまたは二つともの構造または電荷を変更してそれぞれ立体的にまたは静電気的に有利な結合を作ることができる。よって、(異種)二量体は、第1Fcドメインサブユニットを含むポリペプチド及び第2Fcドメインサブユニットを含むポリペプチドの間で生じ、これは追加成分が各サブユニット(例えば、抗原結合部分)に融合されるという点で同一でなくてもよい。幾つかの実施形態において、結合を促進する修飾は、Fcドメインのアミノ酸突然変異、具体的にアミノ酸置換を含む。特定の一実施形態で、結合を促進する修飾は、Fcドメインの2個のサブユニットのそれぞれに別途のアミノ酸変異、具体的にアミノ酸置換を含む。
【0102】
用語「ペプチドリンカー(peptide linker)」とは、一つ以上のアミノ酸、通常約2~20個のアミノ酸を含むペプチドをいう。ペプチドリンカーは、当該技術分野によく知られているか、または本願に記載されている。好適な非免疫原性リンカーペプチドは、例えば(GS)、(SGまたはG(SGペプチドリンカーであり、ここで「n」は一般的に1~10、通常2~4の数、具体的に2であり、すなわち前記ペプチドはGGGGS(配列番号58)GGGGSGGGGS(配列番号59)、SGGGGSGGGG(配列番号60)及びGGGGSGGGGSGGGG(配列番号61)からなる群から選択され、かつ配列GSPGSSSSGS(配列番号62)、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号63)、GSGSGSGS(配列番号64)、GSGSGNGS(配列番号65)、GGSGSGSG(配列番号66)、GGSGSG(配列番号67)、GGSG(配列番号68)、GGSGNGSG(配列番号69)、GGNGSGSG(配列番号70)及びGGNGSG(配列番号71)を含む。
【0103】
用語「エフェクター機能(effector functions)」は、抗体アイソタイプによって可変される抗体のFc領域に起因する生物学的活性を意味する。抗体エフェクター機能の例としては、C1q結合及び補体依存性細胞傷害(complement dependentcy totoxicity:CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity:ADCC)、抗体依存性細胞食作用(antibody-dependent cellular phagocytosis:ADCP)、サイトカイン分泌、抗原提示細胞によるイムノコンジュゲート媒介性抗原取り込み、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)のダウンレギュレーション、及びB細胞活性化を含む。
【0104】
本願で使われた、用語「操作する、操作された、操作する」は、ペプチドバックボーンの任意の操作または自然発生または組換えポリペプチドまたはその断片の翻訳後修飾を含むものと見なされる。操作(engineering)には、アミノ酸配列、グリコシル化パターン、または個別アミノ酸の側鎖基の修飾だけではなく、このような接近法の組み合わせを含む。
【0105】
本願で使われた用語「アミノ酸変異(amino acid mutation)」は、アミノ酸の置換、欠失、挿入及び修飾を含むことを意味する。置換、欠失、挿入及び修飾の任意の組み合わせによって最終構造体に到逹することができ、ただし、最終構造体は目的する特性、例えばFc受容体に対する結合減少または他のペプチドとの結合増加を含まなければならない。アミノ酸配列の欠失及び挿入には、アミノ及び/またはカルボキシ末端の欠失及びアミノ酸の挿入を含む。特定のアミノ酸変異は、アミノ酸置換である。例えば、Fc領域の結合特性を変更しようとする目的で、非保存的アミノ酸置換、すなわち一つのアミノ酸を構造的及び/または化学的特性が異なる他のアミノ酸で代替するのが特に望ましい。アミノ酸置換には、非自然発生アミノ酸または20個の標準アミノ酸の自然発生アミノ酸誘導体(例:4-ヒドロキシプロリン、3-メチルヒスチジン、オルニチン、ホモセリン、5-ヒドロキシリジン)による代替を含む。アミノ酸変異は、当該技術分野によく知られている遺伝的または化学的方法を用いて生成されることができる。遺伝的方法には、部位指定突然変異誘発、PCR、遺伝子合成などを含むことができる。遺伝子組換え以外の方法、例えば化学修飾によってアミノ酸の側鎖基を変更する方法がまた有用であることができると考えられる。同一のアミノ酸変異を示すために多様な指定(designations)が本願で使われることができる。例えば、Fcドメインの329位でのプロリンからグリシンまでの置換は、329G、G329、G329、P329G、またはPro329Glyで表されることができる。
【0106】
参照ポリペプチド配列に対する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、配列を整列させ、必要な場合、最大配列同一性パーセントを達成するためにギャップ(gaps)を取り入れた後、配列同一性の一部として保存的置換を考慮しないで、候補配列でのアミノ酸残基が参照ポリペプチド配列でのアミノ酸残基と同一の比率で定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決めるための整列は、当該技術分野内に属する多様な方式で、例えば公に利用可能なコンピューターソフトウェア、例えば、BLAST、BLAST-2、Clustal W、Megalign(DNASTAR)ソフトウェアまたはFASTAプログラムパッケージを用いて達成し得る。当業者は、比較される配列の全長にかけて最大整列を達成するのに必要な任意のアルゴリズムを含めて、配列を整列するための適切なパラメーターを決めることができる。しかし、本願の目的のために、アミノ酸配列同一性(%)の値は、BLOSUM50比較マトリックスとともに、FASTAパッケージバージョン36.3.8cまたは以後のバージョンのggsearchプログラムを用いて生成される。FASTAプログラムパッケージは、W.W. R. Pearson and D. J. Lipman (1988), "Improved Tools for Biological Sequence Analysis"、PNAS 85:2444-2448; W. R. Pearson (1996) "Effective protein sequence comparison" Meth. Enzymol. 266:227-258;およびPearson et. al. (1997) Genomics 46:24-36に記載されており、http://fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/fasta_down。shtmlにて公に利用可能である。代案的に、http://fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/index.cgiでアクセス可能な公開サーバーを用いて配列を比較することができ、ローカル整列ではないグローバル整列が行われるようにggsearch(globalprotein:protein)プログラム及びデフォルトオプション(BLOSUM50;open:-10;ext:-2;Ktup=2)を用いることができる。アミノ酸同一性パーセント(%)は、アウトプット整列ヘッダー(output alignment header)に提供される。
【0107】
「イムノコンジュゲート(immunoconjugate)」は、細胞傷害剤を含むがこれに限定されない、一つ以上の異種分子(複数可)に接合された抗体である。
【0108】
本願で使われた、用語「ポリペプチド(polypeptide)」は、単数の「ポリペプチド」だけでなく複数の「ポリペプチド」を含むものと意図され、アミド結合(また、ペプチド結合と知られている)によって線形に連結された単量体(アミノ酸)を含む分子をいう。用語「ポリペプチド」は、2以上のアミノ酸の任意の鎖または複数の鎖をいい、特定の長さの生成物を指称するものではない。よって、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」、または2以上のアミノ酸の鎖または複数の鎖を指称するのに使われた任意の他の用語は、「ポリペプチド」の定義内に含まれ、用語「ポリペプチド」は、これらの用語のいずれか一つの代わりに、またはこれと相互交換的に使われることができる。また、用語「ポリペプチド」は、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、周知の保護基/ブロッキング基による誘導体化、タンパク質分解切断、または非自然発生アミノ酸による修飾を含むが、これらに限定されない、ポリペプチドの発現後修飾の生成物を指すことを意図する。ポリペプチドは、自然・生物資源に由来するか、または組換え技術によって生成されることができるが、必ず指定された核酸配列から翻訳されるものではない。これは化学合成を含む、任意の方式で生成されることができる。また用語「ポリペプチド」は、ポリペプチドの変異体及びポリペプチドの誘導体を含む。さらに、「ポリペプチド断片(polypeptide fragment)」は、全長のタンパク質と比較して、アミノ末端のアミノ酸配列の欠失、カルボキシ末端のアミノ酸配列の欠失及び/または内部欠失を持つポリペプチドを意味する。また、このような断片は、全長のタンパク質と比較して修飾されたアミノ酸を含むことができる。一実施形態において、前記断片は約5~900個のアミノ酸の長さ、例えば少なくとも5、6、8、10、14、20、50、70、100、110、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850個またはそれを超えるアミノ酸の長さであることができる。本発明の目的を考慮して、有用なポリペプチド断片は、抗原結合ドメインを含む抗体の免疫学的に機能性である断片を含む。CLL-1またはCD3結合抗体の場合、このような有用な断片は、1つ、2つまたは3つの重鎖若しくは軽鎖を含むCDR配列、または重鎖若しくは軽鎖の可変領域若しくは定常領域を含む抗体鎖の全部または一部を含むが、これに限定されない。
【0109】
本願で使われた、ポリペプチドの「変異体(variant)」、たとえば、抗原結合フラグメント、タンパク質または抗体は、一つ以上のアミノ酸残基が他のポリペプチド配列と比較して挿入、欠失、付加及び/または置換されたポリペプチドであり、融合ポリペプチドを含む。また、タンパク質変異体は、タンパク質酵素の切断、リン酸化または他の翻訳後修飾によって修飾されるが、本願に開示の抗体の生物学的活性、例えばCLL-1に対する特異的結合及び生物学的活性を維持することを含む。変異体は、本願に開示の抗体またはその抗原結合フラグメントの配列に対して、約99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、90%、89%、88%、87%、86%、85%、84%、83%、82%、81%、または80%同一であってもよい。
【0110】
本願で使われた、ポリペプチドの「誘導体(derivative)」という用語は、他の化学的部分との接合を通じて化学的に修飾されたポリペプチドを意味し、これは挿入、欠失、付加または置換された変異体とは異なっている。
【0111】
本願で使われた、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドに関連した用語「組換え体(recombinant)」は、天然に存在しないポリペプチドまたはポリヌクレオチドの形態を意味し、その非制限的な例は、通常一緒に存在しないポリヌクレオチドまたはポリペプチドを組み合わせることで形成されることができる。
【0112】
「相同性(homology)」または「同一性(identity)」または「類似性(similarity)」は、2つのペプチド同士間の、もしくは2つの核酸分子同士間の配列類似性をいう。相同性は、比較の目的で整列されることができる各配列での位置を比較することで決まることができる。比較された配列での位置が同一の塩基またはアミノ酸によって占有される場合、分子は当該位置で相同である。配列同士間の相同性の程度は、配列によって共有された位置が一致しているかまたは相同である数の関数である。「非関連性(unrelated)」または「非相同性(non-homologous)」配列は、本開示内容の配列のいずれか一つの配列と40%未満の同一性、望ましくは25%未満の同一性を共有する。
【0113】
ポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチド領域(またはポリペプチドまたはポリペプチド領域)が他の配列に対して所定の比率(例えば、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%または99%)の「配列同一性(sequence identity)」を有するということは2個の配列を比較するのにあたり、これらを整列する場合、塩基(またはアミノ酸)が当該パーセント分だけ同一であることを意味する。
【0114】
用語「ポリヌクレオチド」は、単離された核酸分子または構造体、例えばメッセンジャーRNA(mRNA)、ウイルス由来RNA、またはプラスミドDNA(pDNA)をいう。ポリヌクレオチドは、従来のホスホジエステル結合または非従来の結合(例えば、アミド結合、例えばペプチド核酸(PNA)で発見されるアミド結合)を含むことができる。用語「核酸分子(nucleic acid molecule)」は、ポリヌクレオチドに存在する任意の一つ以上の核酸セグメント、例えばDNAまたはRNA断片をいう。
【0115】
「単離された(isolated)」核酸分子またはポリヌクレオチドは、その自然環境から採取された核酸分子、DNAまたはRNAを意味する。例えば、ベクターに含有されたポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドは、本発明の目的のために単離されたものと見なされる。単離されたポリヌクレオチドの追加例としては、異種宿主細胞で維持される組換えポリヌクレオチドまたは溶液中で精製された(部分的にまたは実質的に)ポリヌクレオチドを含む。単離されたポリヌクレオチドは、通常ポリヌクレオチド分子を含む細胞に含有されたポリヌクレオチド分子を含むが、ポリヌクレオチド分子は、染色体外に(extrachromosomally)または天然染色体位置と異なる染色体位置に存在する。単離されたRNA分子には、本発明のin vivoまたはin vitroRNA転写体だけでなく、プラス鎖及びマイナス鎖の形態、及び二本鎖の形態を含む。本発明による単離されたポリヌクレオチドまたは核酸には、合成で生成された分子をさらに含む。また、ポリヌクレオチドまたは核酸は、調節エレメント、例えばプローモーター、リボソーム結合部位、または転写ターミネーターであってもよく、またはこれを含んでもよい。また本願で使われた用語「単離された」は、核酸またはペプチドに組換えDNA技術によって生成される場合、細胞物質、ウイルス物質または培養培地が実質的に存在しないか、または化学的に合成される場合、化学前駆体または他の化学物質が実質的に存在しないことをいう。また用語「単離された」は、細胞またはポリペプチドが、他の細胞タンパク質または組職から単離されることを指すために本願で使われる。単離されたポリペプチドは、精製されたポリペプチド及び組換えポリペプチドの両方ともを含むことを意味する。
【0116】
「[例えば、本発明の抗体または二重特異性抗体]をコードする単離されたポリヌクレオチド(または核酸)」は、単一ベクターまたは個別ベクター内のポリヌクレオチド分子(複数可)を含んで抗体重鎖及び軽鎖(またはその断片)をコードする一つ以上のポリヌクレオチド分子、及び宿主細胞における一つ以上の位置に存在するこのような核酸分子(複数可)をいう。
【0117】
用語「発現カセット(expression cassette)」は、標的細胞において特定の核酸の転写を可能にする一連の明示された核酸要素を用いて、組換えまたは合成で生成されたポリヌクレオチドをいう。組換え発現カセットは、プラスミド、染色体、ミトコンドリアDNA、プラスミドDNA、ウイルス、または核酸断片に混入されることができる。通常、発現ベクターの組換え発現カセット部分は、特に転写される核酸配列及びプローモーターを含む。所定の実施様態において、前記発現カセットは、本発明の抗体または二重特異性抗体またはその断片をコードするポリヌクレオチド配列を含む。
【0118】
用語「ベクター(vector)」または「発現ベクター(expressionvector)」は、細胞で作動可能に結合された特定の遺伝子を取り入れて発現させるのに使われるDNA分子をいう。前記用語には自己複製核酸構造としてのベクターだけでなく、宿主細胞のゲノムに混入されて取り入れたベクターを含む。本発明の発現ベクターは、発現カセットを含む。発現ベクターは、多量の安定したmRNAの転写を可能にする。発現ベクターが細胞内部に存在する場合、遺伝子によってコードされるリボ核酸分子またはタンパク質が細胞転写及び/または翻訳機械によって生成される。一実施形態で、本発明の発現ベクターは、本発明の抗体または二重特異性抗体またはその断片をコードするポリヌクレオチド配列を含む発現カセットを含む。
【0119】
用語「宿主細胞(host cell)」、「宿主細胞株(host cell line)」及び「宿主細胞培養物(host cell culture)」は、相互交換的に使用され、外因性核酸が導入された細胞(該細胞の子孫を含む)をいう。宿主細胞には継代回数にかかわらず一次形質転換細胞及びそれに由来する子孫を含む「形質転換体(transformants)」及び「形質転換細胞(transformed cells)」を含む。子孫は、核酸含量が母細胞とまったく同一でなくてもよいが、突然変異を含むことができる。元の形質転換された細胞から選別または選択されたものと同一の機能または生物学的活性を有する突然変異の子孫が本願に含まれる。宿主細胞は、本発明の抗体または二重特異性抗体を生成するのに使われることができる任意のタイプの細胞システムである。宿主細胞には、培養細胞、例えば哺乳動物の培養細胞、例えばHEK細胞、CHO細胞、BHK細胞、NSO細胞、SP2/0細胞、YO骨髓腫細胞、P3X63マウス骨髓腫細胞、PER細胞、PER.C6細胞またはハイブリドーマ細胞、酵母細胞、昆虫細胞、及び植物細胞を含みと、遺伝子移植動物、遺伝子移植植物または培養植物または動物組職内に含まれた細胞を含む。「活性化Fc受容体(activating Fc receptor)」は、抗体のFcドメインと結合した後、受容体保有細胞がエフェクター機能を行うように刺激する信号伝逹イベントを誘導するFc受容体である。ヒト活性化Fc受容体には、FcγRIIIa(CD16a)、FcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32)、及びFcαRI(CD89)を含む。
【0120】
抗体依存性細胞介在性細胞傷害(Antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity:ADCC)は、免疫エフェクター細胞によって抗体コーティングされた標的細胞が溶解される免疫機序である。前記標的細胞は、Fc領域を含む抗体またはその誘導体が一般的にFc領域のN末端にあるタンパク質部分を介して特異的に結合する細胞である。本願で使われた、用語「ADCC減少」は、前記定義されたADCCの機序によって、標的細胞を取り囲んだ培地中に与えられた抗体濃度において、与えられた時間内に溶解される標的細胞数の減少、またはADCCの機序によって、与えられた時間内に与えられた数の標的細胞の溶解を果たすのに必要な標的細胞を取り囲んだ培地中における抗体濃度の増加と定義される。当該ADCCは、同一の標準生産、精製、製剤化及び保存方法(当業者によく知られている)を用いて同一のタイプの宿主細胞が生産した同一の抗体によって媒介されるADCCに比べて減少したが、操作されなかった。例えば、FcドメインにADCCを減少させるアミノ酸置換を含む抗体によって媒介されるADCCは、Fcドメインにこのようなアミノ酸置換がない同一の抗体によって媒介されるADCCに比べて減少した。ADCCの測定に適した分析は、当該技術分野によく知られている(例えば、PCT国際公開第WO2006/082515号またはPCT国際公開第WO2012/130831号参照)。
【0121】
薬剤の「有効量(effective amount)」とは、薬剤が投与された細胞または組職で生理学的変化をもたらすのに必要な量を意味する。
【0122】
薬剤、例えば医薬組成物の「治療的に有効な量(therapeutically effective amount)」は、目的する治療または予防結果を果たすのに必要な期間の間の投薬における効果的な量を意味する。例えば、薬剤の治療的に有効な量は、例えば疾病の有害効果を除去、減少、遅延、最小化または防止する。
【0123】
「個体(individual)」、「被験体(subject)」または「患者(patient)」は、哺乳動物である。哺乳動物には家畜(例えば、牛、量、猫、犬及び馬)、霊長類(例えば、ヒト及び非ヒト霊長類、例えば、猿)、兎及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)を含むがこれらに限定されない。特に、個体、被験体または患者はヒトである。
【0124】
用語「医薬組成物(pharmaceutical composition)」は、その中に含有された活性成分の生物学的活性が有効になる形態であり、前記組成物が投与された被験体に許容できない程度に毒性のある追加成分を含まない製剤をいう。
【0125】
「薬学的に許容可能な担体(pharmaceutically acceptable carrier)」は、医薬組成物における活性成分以外の成分であって、被験体における毒性のない成分をいう。薬学的に許容可能な担体には、緩衝剤、賦形剤、安定化剤または保存剤を含むが、これらに限定されない。
【0126】
本願で使われた、「治療(treatment)」(及びその文法的変形、例えば「治療する(treat)」または「治療している(treating)」)は、治療を受ける個体において、疾病の自然な過程を変更しようとする試みとしての臨床的仲裁を意味し、予防または臨床病理過程中に行うことができる。治療の好ましい効果としては、疾病の発生または再発の防止、症状の緩和、疾病の直接的または間接的病理学的結果の減少、転移の防止、疾病進行速度の減少、疾病状態の改善または緩和、及び予後の寛解または改善を含むが、これに限定されない。幾つかの実施様態において、本発明の抗体または二重特異性抗体は、疾病発病の遅延または疾病進行の遅滞に用いられる。
【0127】
用語「添付書類(package insert)」は、治療薬の商業的パッケージに慣例的に含まれるガイドラインであって、適応症、使い方、投与量、投与、併用療法、当該治療薬の使用に係わる禁止事項及び/または警告に対する情報を含む。
【0128】
<抗CLL-1抗体>
【0129】
抗CLL-1抗体は、CLL-1標的化部分であって、抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントを含むことができる。抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントは、CLL-1に対する力強い結合及び阻害活性を示すことができるし、治療及び診断用途に有用であることができる。
【0130】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその断片は、ヒトCLL-1タンパク質に対する特異性を有することができる。
【0131】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその断片は、(a)配列番号1、2及び3からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むVH CDR1;(b)配列番号4、5及び6からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むVH CDR2;(c)配列番号7、8、9、10及び11からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むVH CDR3;(d)配列番号12、13、14及び15からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むVLCDR1;(e)配列番号16、17及び18からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むVLCDR2;及び(f)配列番号19、20、21及び22からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むVLCDR3を含むことができる。
【0132】
本発明の一実施形態による抗体または抗原結合フラグメントの重鎖及び軽鎖可変領域に含まれる抗CLL-1のCDR配列は下記表2に示す。
【0133】
【0134】
一実施形態において、前記表(表2)に開示された軽鎖の各可変領域のCDR及び重鎖の各可変領域のCDRは自由に組み合わせられることができる。
幾つかの実施様態において、抗体またはその断片は、置換を1個以下、2個以下、または3個以下で含むことができる。
【0135】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号23及び24からなる群から選択されたアミノ酸配列を含む重鎖定常領域;または配列番号23及び24からなる群から選択されたアミノ酸配列に対して少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するペプチドを含むことができる。
【0136】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号55からなるアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域を含むことができる。
【0137】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号23及び24からなる群から選択されたアミノ酸配列を含む重鎖定常領域と、配列番号55からなるアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域とを含むことができる。
【0138】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35及び74からなる群から選択されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;または配列番号25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35及び74からなる群から選択されたアミノ酸配列に対して少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するペプチドを含むことができる。
【0139】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号36、37、38、39、40、41、42、43、44及び75からなる群から選択されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;または配列番号36、37、38、39、40、41、42、43、44及び75からなる群から選択されたアミノ酸配列に対して少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するペプチドを含むことができる。
【0140】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35及び74からなる群から選択されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び配列番号36、37、38、39、40、41、42、43、44及び75からなる群から選択されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むことができる。
【0141】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号45からなるアミノ酸配列を含む重鎖;または配列番号45からなるアミノ酸配列に対して少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するペプチドを含むことができる。
【0142】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号46からなるアミノ酸配列を含む軽鎖;または配列番号46からなるアミノ酸配列に対して少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するペプチドを含むことができる。
【0143】
一実施形態において、抗CLL-1抗体またはその断片は、配列番号45からなるアミノ酸配列を含む重鎖;及び配列番号46からなるアミノ酸配列を含む軽鎖を含むことができる。
【0144】
一実施形態で、抗体または抗原結合フラグメントの重鎖定常領域、重鎖及び軽鎖可変領域、重鎖及び軽鎖は下記表(表3)に例示されることができる。
【0145】
【0146】
他の実施様態において、前記表(表3)に開示された重鎖及び軽鎖の可変領域を自由に組み合わせて多様な形態の抗体を製造することができる。
【0147】
本願に開示の重鎖及び軽鎖可変領域は、それぞれ多様な標的化重鎖及び軽鎖定常領域に結合してインタクトな抗体の重鎖及び軽鎖をそれぞれ形成することができる。また、このような定常領域に結合された重鎖及び軽鎖配列がそれぞれまた組み合わせられてインタクトな抗体構造を形成することができる。
【0148】
抗体の重鎖及び軽鎖の任意の可変領域は定常領域の少なくとも一部に連結されることができる。定常領域は、抗体依存性細胞介在性細胞傷害、抗体依存性細胞食作用及び/または補体依存性細胞傷害などが必要であるか否かによって選択されることができる。例えば、ヒトアイソ型IgG1及びIgG3は、補体依存性細胞傷害を有し、ヒトアイソ型IgG2及びIgG4は、細胞傷害を有さない。また、ヒトIgG1及びIgG3は、ヒトIgG2及びIgG4よりも強い細胞媒介エフェクター機能を誘導する。例えば、重鎖可変領域は、IgG、例えばIgG1、IgG2、IgG2a、IgG2b、IgG3及びIgG4の定常領域に結合することができ、軽鎖可変領域はカッパまたはラムダ定常領域に結合することができる。定常領域の場合、必要に応じて適切なものが用いられることができ、例えばヒトまたはマウス由来のものが用いられることができる。一実施形態において、ヒト重鎖定常領域IgG1が用いられる。他の実施様態において、軽鎖定常領域として、ヒトラムダ領域が用いられることができる。
【0149】
本願に開示の任意の可変領域は、定常領域に結合され、これによって重鎖及び軽鎖配列を形成することができる。一実施形態で、本願に開示の重鎖可変領域は、ヒトIgG1定常領域に結合され、重鎖(全長)を形成することができる。他の実施様態で、本願に開示の軽鎖可変領域は、ヒトラムダ定常領域に結合され、軽鎖(全長)を形成することができる。軽鎖及び重鎖は、多様な組み合わせで組み合わせられ、これによって2個の軽鎖及び2個の重鎖で構成されたインタクトな抗体を形成することができる。
【0150】
他の実施様態において、抗体は重鎖及び軽鎖の組み合わせを含むか、またはこれに必須に構成されることができ、これは配列番号45及び配列番号46の配列で表される。
【0151】
しかし、本願に開示の可変領域と組み合わせられるこのような定常領域配列が例示され、当業者はIgG1重鎖定常領域、IgG3またはIgG4重鎖定常領域、任意のカッパまたはラムダ軽鎖定常領域、安定性、発現、製造可能性または他の標的化特性のために修飾された定常領域などを含む他の定常領域が用いられてもよいことが分かる。
【0152】
幾つかの実施様態において、抗CLL-1抗体の抗原結合フラグメントは、抗体の重鎖CDR及び/または軽鎖CDRを含む任意の断片であってもよく、例えばこれはFab、Fab'、F(ab')、xFab、Fd(重鎖可変領域及びCH1ドメインを含む)、Fv(重鎖可変領域及び/または軽鎖可変領域)、単鎖Fv(scFv;任意の手順の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域、並びに重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の間のペプチドリンカーを含むかまたはこれに必須に構成される)、単鎖抗体、ジスルフィド連結されたFv(sdFv)、scFab(単鎖Fab)、scFab-Fc(scFab及びFc領域を含む)、半IgG(1個の軽鎖及び1個の重鎖を含む)及び類似物からなる群から選択されることができるが、これに限定されない。
【0153】
本発明は、本願に開示の一つ以上のアミノ酸配列と実質的な配列同一性を有する一つ以上のアミノ酸配列を含むことができる。実質的な同一性(substantial identity)とは、配列変異が存在する場合でも本願に開示の効果を維持することを意味する。
【0154】
幾つかの実施様態において、抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントは、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、または完全ヒト抗体であることができる。
【0155】
一実施形態で、抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントは、ポリペプチド(複数可)と融合して融合タンパク質を形成することができる。ポリペプチド(複数可)は抗体または抗原であることができる。一実施形態で、融合タンパク質は多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)の形態であってもよい。
【0156】
一実施形態で、本開示内容は、(a)本願に記載の一つ以上の単一ドメイン抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、本願に記載の一つ以上のCDR)、及び(b)一つ以上の追加のポリペプチドを含む融合タンパク質を提供する。例えば、融合タンパク質は、本願に記載の一つ以上の単一ドメイン抗体及び本願に記載の定常領域またはFc領域を含むことができる。一実施形態において、本願に記載の一つ以上の単一ドメイン抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、本願に記載の一つ以上のCDR)は、抗体または抗原に非共有結合あるいは共有結合で接合、例えば融合されることができる。
【0157】
<抗CD3抗体>
【0158】
抗CD3抗体は、CD3標的化部分であって、抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントを含むことができる。抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントは、CD3に対する力強い結合及び阻害活性を示すことができ、治療及び診断用途に有用であることができる。
【0159】
一実施形態で、抗CD3抗体またはその断片は、ヒトCD3タンパク質、望ましくはヒトCD3Eポリペプチドに対する特異性を有することができる。
【0160】
一実施形態において、抗CD3抗体またはその断片は、(a)配列番号47からなるアミノ酸配列を含むVH CDR1と、(b)配列番号48からなるアミノ酸配列を含むVH CDR2と、(c)配列番号49からなるアミノ酸配列を含むVH CDR3と、(d)配列番号50からなるアミノ酸配列を含むVL CDR1と、(e)配列番号51からなるアミノ酸配列を含むVL CDR2と、(f)配列番号52からなるアミノ酸配列を含むVL CDR3とを含むことができる。
【0161】
一実施形態で、前記開示された軽鎖の各可変領域のCDR及び重鎖の各可変領域のCDRは、自由に組み合わせられることができる。
【0162】
幾つかの実施様態において、抗体またはその断片は、置換を1個以下、2個以下、または3個以下で含むことができる。
【0163】
一実施形態で、抗CD3抗体またはその断片は、配列番号53からなるアミノ酸配列を含む重鎖または配列番号53からなるアミノ酸配列に対して少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するペプチドと、配列番号54からなるアミノ酸配列を含む軽鎖または配列番号54からなるアミノ酸配列に対して少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するペプチドとを含むことができる。
【0164】
他の実施様態で、前記開示された重鎖及び軽鎖の可変領域を自由に組み合わせて多様な形態の抗体を製造することができる。
【0165】
本願に開示の重鎖及び軽鎖可変領域は、それぞれ多様な標的化重鎖及び軽鎖定常領域に結合してインタクトな抗体の重鎖及び軽鎖をそれぞれ形成することができる。また、このような定常領域に結合された重鎖及び軽鎖配列もそれぞれ組み合わせられてインタクトな抗体構造を形成することができる。
【0166】
抗体の重鎖及び軽鎖の任意の可変領域は、定常領域の少なくとも一部に連結されることができる。定常領域は抗体依存性細胞介在性細胞傷害、抗体依存性細胞食作用及び/または補体依存性細胞傷害などが必要かどうかによって選択されることができる。例えば、ヒトアイソタイプIgG1及びIgG3は、補体依存性細胞傷害を有し、ヒトアイソタイプIgG2及びIgG4は細胞傷害を有さない。また、ヒトIgG1及びIgG3は、ヒトIgG2及びIgG4よりも強い細胞媒介エフェクター機能を誘導する。例えば、重鎖可変領域はIgG、例えばIgG1、IgG2、IgG2a、IgG2b、IgG3及びIgG4の定常領域に結合することができ、軽鎖可変領域はカッパまたはラムダ定常領域に結合することができる。定常領域の場合、必要によって適切なものが用いられることができ、例えば、ヒトまたはマウス由来のものが用いられることができる。一実施形態において、ヒト重鎖定常領域IgG1が用いられる。他の実施様態で、軽鎖定常領域として、ヒトラムダ領域が用いられることができる。
【0167】
本願に開示の任意の可変領域は定常領域に結合され、これによって、重鎖及び軽鎖配列を形成することができる。一実施形態で、本願に開示の重鎖可変領域は、ヒトIgG1定常領域に結合され、重鎖(全長)を形成することができる。他の実施様態で、本願に開示の軽鎖可変領域はヒトラムダ定常領域に結合され、軽鎖(全長)を形成することができる。軽鎖及び重鎖は、多様な組み合わせで組み合わせられ、これによって、2つの軽鎖及び2つの重鎖で構成されたインタクトな抗体を形成することができる。
【0168】
他の実施様態で、抗体は重鎖及び軽鎖の組み合わせを含むか、またはこれに必須に構成されることができ、これは配列番号53及び配列番号54の配列で表される。
【0169】
しかし、本願に開示の可変領域と組み合わせられるこのような定常領域配列が例示され、当業者はIgG1重鎖定常領域、IgG3またはIgG4重鎖定常領域、任意のカッパまたはラムダ軽鎖定常領域、安定性、発現、製造可能性または他の標的化特性のために修飾された定常領域などを含む他の定常領域が用いられることができることが分かる。
【0170】
幾つかの実施様態において、抗CD3抗体の抗原結合フラグメントは、抗体の重鎖CDR及び/または軽鎖CDRを含む任意の断片であってもよく、例えばこれはFab、Fab'、F(ab')、xFab、Fd(重鎖可変領域及びCH1ドメインを含む)、Fv(重鎖可変領域及び/または軽鎖可変領域)、単鎖Fv(scFv;任意の手順の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域、及び重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の間のペプチドリンカーを含むか、またはこれに必須に構成される)、単鎖抗体、ジスルフィド連結されたFv(sdFv)、scFab(単鎖Fab)、scFab-Fc(scFab及びFc領域を含む)、半IgG(1つの軽鎖及び1つの重鎖を含む)及び類似物からなる群から選択されることができるが、これらに限定されない。
【0171】
本発明は、本願に開示の一つ以上のアミノ酸配列と実質的な配列同一性を有する一つ以上のアミノ酸配列を含む。実質的な同一性は、配列変異が存在する場合でも本願に開示の効果を維持することを意味する。
【0172】
一実施形態で、本開示内容は、(i)本願に記載の一つ以上の単一ドメイン抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、本願に記載の一つ以上のCDR)、及び(b)一つ以上の追加ポリペプチドを含む融合タンパク質を提供する。例えば、融合タンパク質は、本願に記載の一つ以上の単一ドメイン抗体及び本願に記載の定常領域またはFc領域を含むことができる。一実施形態において、本願に記載の一つ以上の単一ドメイン抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、本願に記載の一つ以上のCDR)は、抗体または抗原に非共有結合または共有結合により接合、例えば融合されることができる。
【0173】
<抗CLL-1/抗CD3二重特異性抗体>
【0174】
抗CLL-1抗体/抗CD3二重特異性抗体は、抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントと、抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントとを含むことができる。抗CLL-1抗体/抗CD3二重特異性抗体は、治療及び診断用途に有用であることができる。
【0175】
一実施形態で、二重特異性抗体はCLL-1標的化部分及びCD3標的化部分を含む。
【0176】
一実施形態で、抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメント及び抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントは、直接またはペプチドリンカーを介して互いに融合されることができる。
【0177】
一実施形態で、抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメント及び抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントは、それぞれ独立にFab分子であることができる。
【0178】
一実施形態で、前記Fab分子は、ヒトFab分子またはTCR定常領域を含むキメラFab様ドメインであることができる。一実施形態で、前記Fab分子はキメラまたはヒト化されることができる。
【0179】
一実施形態で、(a)抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントは、抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントのFab重鎖のC末端で抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントのFab重鎖のN末端に融合されることができるか、または(b)抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントは、抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントのFab重鎖のC末端で抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントのFab重鎖のN末端に融合されることができる。
【0180】
一実施形態で、抗CLL-1/抗CD3二重特異性抗体は、第1サブユニット及び第2サブユニットを含むFcドメインを含むことができる。
【0181】
一実施形態で、Fcドメインは、追加の突然変異が存在するかまたは不在するヒトFcドメインであることができる。Fcドメインにおけるこのような追加の突然変異としては、ADCC活性が存在しないN297A突然変異または正確な抗体ペアリングを促進するKIH(knob-into-hole)突然変異を含むことができるが、これに限定されない。
【0182】
一実施形態で、抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメント及び抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントは、それぞれFab分子であることができ、(a)抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントは、抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントのFab重鎖のC末端でFcドメインの第1サブユニットのN末端に融合されることができ、(b)抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントは、抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントのFab重鎖のC末端でFcドメインの第2サブユニットのN末端に融合されることができる。
【0183】
一実施形態で、抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントは、第1の抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントであってもよく、第2の抗CLL-1抗体または、その抗原結合フラグメントをさらに含むことができる。
【0184】
一実施形態において、第1の抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメント、抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメント、及び存在する場合、第2の抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントはそれぞれFab分子であることができ;(a)抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントは、抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントのFab重鎖のC末端で第1の抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントのFab重鎖のN末端に融合されることができ、第1の抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントは、第1の抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントのFab重鎖のC末端でFcドメインの第1サブユニットのN末端に融合されることができるか、または(b)第1の抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントは、第1の抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントのFab重鎖のC末端で抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントのFab重鎖のN末端に融合されることができ、抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントは、抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントのFab重鎖のC末端でFcドメインの第1サブユニットのN末端に融合されることができ、第2の抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントが、存在する場合、第2の抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントのFab重鎖のC末端でFcドメインの第2サブユニットのN末端に融合されることができる。
【0185】
一実施形態で、第1の抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメント、抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメント及び第2の抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントは、それぞれFab分子であり、第1の抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントは、第1の抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントのFab重鎖のC末端で抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントのFab重鎖のN末端に融合され、抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントは、抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントのFab重鎖のC末端でFcドメインの第1サブユニットのN末端に融合され、第2の抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントが存在する場合、これは第2の抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントのFab重鎖のC末端でFcドメインの第2サブユニットのN末端に融合される。このような構造の遮蔽されたCD3結合部位によって、二重特異性抗体はT細胞活性化及びIFN-γ及びIL-2のサイトカイン発現を強く誘導することができるが、CRS-関連サイトカイン、例えばTNF-α及びIL-6を弱く誘導するので、オフ腫瘍毒性(off-tumor toxicity)が少ないことを示す。
【0186】
一実施形態で、第1の抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメント、及び第2の抗CLL-1抗体またはその抗原結合フラグメントは、互いに同一であってもよい。
【0187】
一実施形態で、二重特異性抗体は活性化T細胞抗原であるCLL-1及びCD3に同時に結合することができる。一実施形態において、二重特異性抗体は、CLL-1及びCD3に同時に結合することでT細胞及び標的細胞を架橋させることができる。一実施形態で、このような同時結合は、標的細胞、具体的にCLL-1発現腫瘍細胞の溶解をもたらす。一実施形態で、このような同時結合はT細胞の活性化をもたらす。他の実施様態で、このような同時結合はTリンパ球、具体的に細胞傷害Tリンパ球の細胞反応をもたらして、前記細胞反応は、増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害エフェクター分子放出、細胞傷害活性、及び活性化マーカーの発現の群から選択される。
【0188】
一実施形態で、二重特異性抗体はT細胞の細胞傷害活性を標的細胞に再指示(re-directing)できる。特定の実施形態において、前記再指示(re-direction)は標的細胞によるMHC媒介ペプチド抗原提示及び/またはT細胞の特異性と無関係である。具体的に、本発明の任意の実施様態によるT細胞は、細胞傷害T細胞(cytotoxicTcell)である。幾つかの実施形態において、T細胞はCD4またはCD8T細胞、具体的にCD8+T細胞である。
【0189】
一実施形態で、一実施形態による二重特異性抗体は、U937及びHL-60細胞株の存在下にサイトカインの発現、グランザイムB及び/またはパーフォリンを誘導することができる。
【0190】
<コンジュゲート>
【0191】
本発明は、本願に記載の抗CLL-1抗体または抗CLL-1/抗CD3二重特異性抗体が一つ以上の治療薬、例えば細胞傷害剤、化学療法剤、薬物、成長阻害剤、毒素(例:タンパク質毒素、バクテリア、真菌、植物または動物起源の酵素的に活性である毒素、またはその断片)または放射性同位元素に接合された(化学的に結合された)イムノコンジュゲート(immunoconjugates)を提供する。
【0192】
一実施形態で、イムノコンジュゲートは、抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC)であって、ここで抗体が前述した治療薬の一つ以上に接合される。抗体は、典型的に一つ以上の治療薬にリンカーを用いて連結される。治療薬及び薬物及びリンカーの例を含むADC技術の概要は、Pharmacol Review68:3-19(2016)に提示されている。
【0193】
他の実施様態において、イムノコンジュゲートは、ジフテリアA鎖(diphtheria A chain)、ジフテリア毒素の非結合活性断片、外毒素A鎖(緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来)、リシンA鎖(ricin A chain)、アブリンA鎖(abrin A chain)、モデシンA鎖(modeccin A chain)、αサルシン(alpha-sarcin)、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチン(dianthin)タンパク質、ヨウシュヤマゴボウ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、及びPAP-S)、ツルレイシ(momordica charantia)阻害剤、クルシン(curcin)、クロチン(crotin)、サポンソウ(sapaonaria officinalis)阻害剤、ゲロニン(gelonin)、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)、及びトリコセセンス(tricothecenes)を含むが、これらに限定されない酵素的に活性である毒素またはその断片に接合された本願に記載された抗体を含むことができる。
【0194】
他の実施様態で、イムノコンジュゲートは本願に記載の抗体が放射性原子に接合されて形成された放射性コンジュゲート(radioconjugate)を含むことができる。放射性コンジュゲートの生産には、多様な放射性同位元素が利用可能である。たとえば、At211、I131、I125、Y90、Re186Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212及びLuの放射性同位元素を含む。放射状コンジュゲートを検出に用いる場合、シンチグラフィー研究(scintigraphic studies)のための放射性原子炉、例えばtc99mまたはI123、核磁気共鳴(NMR)映像(また、磁気共鳴映像(magnetic resonance imaging)、MRIと知られている)のためのスピン標識で、例えばヨウ素-123、ヨウ素-131、インジウム-111、フッ素-19、炭素-13、窒素-15、酸素-17、ガドリニウム、マンガンまたは鉄を含むことができる。
【0195】
抗体及び細胞傷害剤のコンジュゲートは、多様な二官能性タンパク質カップリング剤、例えば3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸N-スクシンイミジル(SPDP)、4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボン酸N-スクシンイミジル(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えば、アジポイミド酸ジメチル塩酸塩)、活性エステル(例えば、ジスクシンイミジルスベリン酸塩)、アルデヒド(例えば、グルタルアルデヒド)、ビスアジド化合物(例えば、ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えばビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えば、トルエン2,6-ジイソシアネート)、及びビス-活性フッ素化合物(例えば1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)を用いて製造されることができる。例えば、リシン免疫毒素(ricin immunotoxin)は、Vitetta et al., Science 238:1098(1987)に記載されているように製造されることができる。炭素-14-標識された1-イソチオシアネートベンジル-3-メチルジエチレントリアミンペンタ酢酸(MX-DTPA)は、放射性ヌクレオチド(radionucleotide)を抗体に接合させるための例示されるキレート剤である。WO94/11026を参照する。リンカーは、細胞内で細胞傷害薬物の放出を促進する「切断可能なリンカー(cleavable linker)」であってもよい。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ過敏性リンカー、光不安定性リンカー、ジメチルリンカー又はジスルフィド含有リンカー(Chari et al., Cancer Res.52:127-131(1992);U.S.Pat.No.5,208,020)を用いることができる。
【0196】
本願のイムノコンジュゲート又はADCは、BMPS、EMCS、GMBS、HBVS、LC-SMCC、MBS、MPBH、SBAP、SIA、SIAB、SMCC、SMPB、SMPH、スルホ-EMCS、スルホ-GMBS、スルホ-KMUS、スルホ-MBS、スルホ-SIAB、スルホ-SMCC、及びスルホ-SMPB、及びSVSB(succinimidyl-(4-vinylsulfone)benzoate)(これは商業的に利用できる(例えば、Pierce Biotechnology,Inc., Rockford, Ill.、U.S.A))を含むが、これに限定されない架橋剤試薬として製造されたコンジュゲートが考えられるが、これに限定されない。
【0197】
また、接合可能な細胞傷害剤は、例えばピロロベンゾジアゼピン (PBD)、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、カムプトテシン、ドキソルビシン、シスプラチン、ベラパミル、フルオロウラシル、オキサリプラチン、ダウノルビシン、イリノテカン、トポテカン、パクリタキセル、カルボプラチン、ゲムシタビン、メトトレキサート、ドセタキセル、アシビシン、アクラルビシン、アコダゾール、アクロニシン、アドゼレシン、アラノシン、アルデスロイキン、アロプリノールナトリウム、アルトレタミン、アミノグルテチミド、アモナフィド、アンプリジェン、アムサクリン、アンドロゲン、アングイジン、アフィジコリングリシネート、アサリー、アスパラギナーゼ、5-アザシチジン、アザチオプリン、BCG(Bacillus Calmette-Guerin)、ベーカーズアンチフォール(Baker's Antifol)、β-2-デオキシチオグアノシン、ビサントレン塩酸塩、硫酸ブレオマイシン、ブスルファン、ブチオニンスルホキシイミン、BWA773U82、BW502U83/HCl、メシル酸BW7U85、カラセミド(Caracemide)、カルベチマー(Carbetimer)、カルボプラチン、カルムスチン(Carmustine)、クロラムブシル(Chlorambucil)、クロロキノキサリンスルホンアミド(chloroquinoxaline sulfonamide)、クロロゾトシン、クロモマイシンA3、シスプラチン、クラドリビン、コルチコステロイド、コリネバクテリウムパルブム、CPT-11、クリスナトール、シクロシチジン、シクロホスファミド、シタラビン、シテムベナ、ダビスマレアート、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン塩酸塩、デアザウリジン、デクスラゾキサン、ジアンヒドロガラクチトール、ジアジクオン、ジブロモズルシトール、ダイデムニンB、ジエチルジチオカルバミン酸、ジグリコアルデヒド、ジヒドロ-5-アザシチジン、エキノマイシン、エダトレキサート、エデルホシン、エフロルニチン、エリオット溶液(Elliott's solution)、エルサミトルシン、エソルビシン、エストラムスチンリン酸エステル、エストロゲン、エタニダゾール、エチオホス、エトポシド、ファドロゾール、ファザラビン、フェンレチニド、フィルグラスチム、フィナステリド、フラボン酢酸、フロクスウリジン、リン酸フルダラビン、5-フルオロウラシル、FluosolTM、フルタミド、硝酸ガリウム、ゲムシタビン、酢酸ゴセレリン、ヘプスルファム、ヘキサメチレンビスアセタミド、ホモハリントニン(homoharringtonine)、硫酸ヒドラジン、4-ヒドロキシアンドロステンジオン、ヒドロキシ尿素、イダルビシン塩酸塩、イホスファミド、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターロイキン-1α及びインターロイキン-1β、インターロイキン-3、インターロイキン-4、インターロイキン-6,4-イポメアノール、イプロプラチン、イソトレチノイン、ロイコボリンカルシウム、リュープロリド酢酸塩、レバミゾール、リポソームダウノルビシン、ダウノルビシン封入リポソーム、ロムスチン、ロニダミン、マイタンシン、塩酸メクロレタミン、メルファラン、メノガリル、メルバロン、6-メルカプトプリン、カルメット・ゲラン桿菌(Bacillus calmette-guerin)のメタノール抽出物、メトトレキサート、N-メチルホルムアミド、ミフェプリストン、ミトグアゾン、マイトマイシンC、ミトタン、ミトキサントロン塩酸塩、単球マクロファージコロニー刺激因子、ナビロン、ナフォキシジン、ネオカルチノスタチン、オクトレオチド酢酸塩、オルマプラチン、オキサリプラチン、パクリタキセル、N-(ホスホノアセチル)-L-アスパラギン酸(PALA)、ペントスタチン、ピペラジンジオン、ピポブロマン、ピラルビシン、ピリトレキシム、塩酸ピロキサントロン、PIXY-321、プリカマイシン、ポルフィマーナトリウム、プレドニムスチン、プロカルバジン、プロゲスチン、ピラゾフリン、ラゾキサン、サルグラモスチム、セムスチン、スピロゲルマニウム、スピロムスチン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、スロフェヌル、スラミンナトリウム、タモキシフェン、タキソテール、テガフール、テニポシド、テレフタルアミジン、テロキシロン、チオグアニン、チオテパ、チミジン注射、チアゾフリン、トポテカン、トレミフェン、トレチノイン、トリフロペラジン塩酸塩、トリフルリジン、トリメトレキサート、腫瘍壊死因子(TNF)、ウラシルマスタード、ビンブラスチン硫酸塩、ビンクリスチン硫酸塩、ビンデシン、ビノレルビン、ビンゾリジン、ヨシ864(Yoshi864)、ゾルビシン、これらの薬学的に許容可能な塩、及びこれらの混合物などを含む。
【0198】
<グリコシル化変異体>
【0199】
所定の実施様態で、本願に提供された抗体は、抗体がグリコシル化される程度を増加または減少させるために変更されることができる。抗体に対するグリコシル化部位の追加または欠失は、一つ以上のグリコシル化部位が形成または除去されるようにアミノ酸配列を変更することで簡易に達成可能である。
【0200】
抗体がFc領域を含む場合、これに付着したオリゴ糖は変更されることができる。哺乳動物の細胞によって生成された天然抗体は、典型的にFc領域のCH2ドメインのAsn297にN連結によって一般的に付着した分岐型の二分岐オリゴ糖(branched、biantennary oligosaccharide)を含む。例えば、Wright et al., TIBTECH 15:26-32(1997)を参照する。オリゴ糖は、多様な炭水化物、例えばマンノース、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース及びシアル酸だけでなく、二分岐オリゴ糖構造の「幹(stem)」においてGlcNAcに付着したフコースを含むことができる。幾つかの実施形態において、所定の改善された特性を有する抗体変異体を形成するために、本発明の抗体におけるオリゴ糖の修飾を行うことができる。
【0201】
一実施形態において、非フコシル化オリゴ糖、すなわちFc領域に(直接または間接的に)付着したフコースが欠失しているオリゴ糖構造を持つ抗体変異体が提供される。このような非フコシル化オリゴ糖(また「脱フコシル化(afucosylated)」オリゴ糖と呼ばれる)は、特に二分岐オリゴ糖構造の幹において第1GlcNAcに付着したフコース残基が欠失しているN連結オリゴ糖である。一実施形態において、天然または親抗体と比較して、Fc領域で非フコシル化オリゴ糖の比率が増加された抗体変異体が提供される。例えば、非フコシル化オリゴ糖の比率は、少なくとも約20%、少なくとも約40%、少なくとも約60%、少なくとも約80%、またはひいては約100%であってもよい(すなわち、フコシル化オリゴ糖が存在しない)。非フコシル化オリゴ糖の比率は、例えばWO2006/082515に記載されているように、MALDI-TOF質量分光分析法で測定時に、Asn297に付着したすべてのオリゴ糖(例えば、錯体、 混成物及びそのマンノース構造)の和に対する、フコース残基が欠失しているオリゴ糖の(平均)量である。Asn297は、Fc領域における約297位(Fc領域残基のEU番号付け)に位置したアスパラギン残基をいうが、しかし、Asn297はまた抗体における軽微な配列変化によって、297位の上流または下流の約±3個のアミノ酸、すなわち、294~300位の間に位置することができる。Fc領域における非フコシル化オリゴ糖の比率が増加されたこのような抗体は、FcγRIIIa受容体結合が改善され、及び/またはエフェクター機能、具体的にADCC機能が改善することができる。例えば、US2003/0157108;US2004/0093621を参照する。
【0202】
フコシル化が減少された抗体を生産することができる細胞株の例として、タンパク質フコシル化が欠失しているLec13 CHO細胞(Ripka et al.Arch.Biochem.Biophys. 249:533-545(1986);US2003/0157108;及びWO2004/056312、特に実施例11)、及びノックアウト細胞株(knockout celllines)、例えばα-1,6-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、FUT8、ノックアウトCHO細胞(knockout CHO cells)(例えば、Yamane-Ohnuki et al.Biotech.Bioeng. 87:614-622(2004);Kanda, Y.et al., Biotechnol.Bioeng., 94(4):680-688(2006);及びWO2003/085107参照)、またはGDP-フコース合成または輸送体タンパク質の活性が減少または消失した細胞(例えば、US2004259150、US2005031613、US2004132140、US2004110282参照)を含む。
【0203】
追加の一実施形態で、二分されたオリゴ糖(bisected oligosaccharides)を持つ抗体変異体が提供され、例えば抗体のFc領域に付着した二分岐オリゴ糖は、GlcNAcによって二分される。このような抗体変異体は、前述のようにフコシル化が減少されて及び/またはADCC機能が改善されることができる。このような抗体変異体の例としては、例えばUmana et al., Nat Biotechno Biotechn Bioeng l17、176-180(1999);Ferrara et al.,Biotechn Bioeng 93、851-861(2006);WO99/54342;WO2004/065540、WO2003/011878に記載されている。
【0204】
Fc領域に付着したオリゴ糖に少なくとも一つのガラクトース残基を持つ抗体変異体がも提供される。このような抗体変異体は、CDC機能が改善できる。このような抗体変異体は、例えばWO1997/30087;WO1998/58964;及びWO1999/22764に記載されている。
【0205】
<Fcドメイン>
【0206】
特定の実施様態において、本発明の抗体または二重特異性抗体は、第1サブユニット及び第2サブユニットからなるFcドメインを含むことができる。抗体または二重特異性抗体に関連して本願に記載のFcドメインの特徴は、本発明の抗体に含まれたFcドメインにも同等に適用されることができるものと理解される。
【0207】
抗体または二重特異性抗体のFcドメインは、兔疫グロブリン分子の重鎖ドメインを含む一対のポリペプチド鎖で構成されることができる。例えば、兔疫グロブリンG(IgG)分子のFcドメインは、二量体であり、各サブユニットは、CH2及びCH3IgG重鎖定常ドメインを含む。Fcドメインの2つのサブユニットは、互いに安定に結合することができる。一実施形態で、本発明の抗体または二重特異性抗体は、1つ以下のFcドメインを含む。
【0208】
一実施形態で、抗体または二重特異性抗体のFcドメインは、IgGFcドメインであってもよい。追加の特定の一実施形態において、FcドメインはヒトFcドメインであってもよい。
【0209】
<ヘテロ二量体化を促進するFcドメイン修飾>
【0210】
本発明による抗体または二重特異性抗体は、多様な抗原結合部分を含むことができ、これはFcドメインの2つのサブユニットの一つまたはもう一つに融合されることができるので、Fcドメインの2つのサブユニットは、典型的に2つの非同一性のポリペプチド鎖に含まれる。このようなポリペプチドの組換え共発現及び後続する二量体化は、2つのポリペプチドの多くの可能な組み合わせを誘導する。組換え生産にあたり抗体または二重特異性抗体の収率及び純度を改善するために、抗体または二重特異性抗体のFcドメインに目的するポリペプチドの結合を促進する修飾を取り入れることが有利である。
【0211】
したがって、特定の実施様態において、本発明による抗体または二重特異性抗体のFcドメインは、Fcドメインの第1サブユニット及び第2サブユニットの結合を促進する修飾を含むことができる。ヒトIgGFcドメインの2つのサブユニットの間の最も広範囲のタンパク質-タンパク質の相互作用の部位は、FcドメインのCH3ドメインに存在する。よって、一実施形態で、前記修飾はFcドメインのCH3ドメインに存在することができる。
【0212】
ヘテロ二量体化を行うために、FcドメインのCH3ドメインでの修飾のための多くの接近法が存在し、これは例えば、WO96/27011、WO98/050431、EP1870459、WO2007/110205、WO2007/147901、WO2009/089004、WO2010/129304、WO2011/90754、WO2011/143545、WO2012058768、WO2013157954、WO2013096291によく記載されている。典型的に、このようなすべての接近法で、Fcドメインの第1サブユニットのCH3ドメイン及びFcドメインの第2サブユニットのCH3ドメインは、いずれも相補的な方式で操作されて各CH3ドメイン(またはこれを含む重鎖)は、もうそれ自体とホモ二量体化することができないが、相補的に操作された他のCH3ドメインとヘテロ二量体化を行う(したがって、第1及び第2のCH3ドメインは、ヘテロ二量体化され、それぞれ2つの第1または第2のCH3ドメインの間のホモ二量体は形成されない)。重鎖ヘテロ二量体化を改善するためのこのような多様な接近法が抗体または二重特異性抗体における重鎖/軽鎖ミスペアリング(heavy/light chain mispairing)及びBence Jones型副産物を減少させる重鎖-軽鎖修飾(例えば、一つの結合アームでVH及びVL交換/代替、及びCH1/CL界面で反対電荷に荷電されたアミノ酸の置換導入)と組み合わせられた多様な代案として考慮される。
【0213】
特定の一実施形態で、Fcドメインの第1及び第2サブユニットの結合を促進する前記修飾は、いわゆる「ノブ-イントゥ-ホール(knob-into-hole)」修飾であり、これはFcドメインの2つのサブユニットの一つに「ノブ(knob)」修飾と、Fcドメインの2個のサブユニットのもう一つに「ホール(hole)」修飾とを含む。
【0214】
前記ノブ-イントゥ-ホール技術(knob-into-hole technology)は、例えばU.S.Pat.Nos.5,731,168;7,695,936;Ridgway et al.,Prot Eng9,617-621(1996)およびCarter, J Immunol Meth 248,7-15(2001)に記載されている。一般に、前記方法は、第1ポリペプチドの界面に突起(「ノブ」)を導入し、第2ポリペプチドの界面には相応する空洞(「ホール」)を導入し、突起を空洞に位置させてヘテロ二量体の形成を促進するとともにホモ二量体の形成を妨害することを含む。突起は、第1ポリペプチドの界面から小さいアミノ酸側鎖をより大きい側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)に代替して製作する。第2ポリペプチドの界面で大きいアミノ酸側鎖をより小さい側鎖(例えば、アラニンまたはトレオニン)で代替することで突起と同一または類似の大きさを有する代償性空洞を形成する。
【0215】
<Fc受容体結合及び/またはエフェクター機能を減少させるFcドメインの修飾>
【0216】
Fcドメインは、好適な組職-血液分布の比率及び標的組職で優れた蓄積に寄与する長い血清半減期を含む好適な薬物動力学的特性(pharmacokinetic properties)を抗体または二重特異性抗体に付与する。しかし、同時に抗体または二重特異性抗体が望ましい抗原保有細胞よりはFc受容体を発現する細胞を標的化するという望ましくない結果をもたらすことができる。さらに、Fc受容体信号伝逹経路の共活性化は、サイトカイン放出を誘導することができ、これはT細胞活性化特性(例えば、第2の抗原結合部分が活性化T細胞抗原に結合する二重特異性抗体の実施様態における)及び抗体または二重特異性抗体の長い半減期と組み合わせて、全身投与時にサイトカイン受容体の過度な活性化及び深刻な副作用をもたらす恐れがある。T細胞以外の(Fc受容体保有)免疫細胞の活性化は、T細胞、例えばNK細胞による潜在的破壊によって二重特異性抗体(具体的に第2の抗原結合部分が活性化T細胞抗原に結合する二重特異性抗体)の効能を減少させることができる。
【0217】
したがって、特定の実施様態において、本発明による抗体または二重特異性抗体のFcドメインは、天然 IgGFcドメインと比較して、Fc受容体に対する結合親和性の減少及び/またはエフェクター機能の減少を示すことができる。このような一実施様態で、Fcドメイン(または前記Fcドメインを含む抗体または二重特異性抗体)は、天然IgGFcドメイン(または天然IgG1Fcドメインを含む抗体または二重特異性抗体)と比較してFc受容体に対する結合親和性の50%未満、望ましくは20%未満、より望ましくは10%未満、最も望ましくは5%未満、及び/または天然IgGFcドメイン(または天然IgGFcドメインを含む抗体または二重特異性抗体)と比較してエフェクター機能の50%未満、望ましくは20%未満、より望ましくは10%未満、最も望ましくは5%未満を示す。一実施形態において、Fcドメイン(または前記Fcドメインを含む抗体または二重特異性抗体)は、Fc受容体に実質的に結合せずに、及び/またはエフェクター機能を誘導しない。特定の一実施形態で、Fc受容体はFcγ受容体である。一実施形態で、Fc受容体はヒトFc受容体であってもよい。一実施形態で、Fc受容体は活性化Fc受容体であることができる。特定の一実施形態で、Fc受容体は活性化ヒトFcγ受容体、より具体的に、ヒトFcγRIIIa、FcγRIまたはFcγRIIa、最も具体的に、ヒトFcγRIIIaであってもよい。一実施様態で、エフェクター機能はCDC、ADCC、ADCP及びサイトカイン分泌の群から選択される一つ以上であってもよい。特定の一実施形態において、エフェクター機能はADCCであることができる。一実施様態で、Fcドメインは天然IgG1Fcドメインと比較して、新生児Fc受容体(FcRn)に対して実質的に類似の結合親和性を示すことができる。FcRnに対して実質的に類似した結合は、Fcドメイン(または前記Fcドメインを含む抗体または二重特異性抗体)がFcRnに対する天然IgG1Fcドメイン(または天然IgGFcドメインを含む抗体または二重特異性抗体)の結合親和性の約70%超、具体的に約80%超、より具体的に約90%超を示す場合に達成される。
【0218】
所定の実施様態で、Fcドメインは非操作されたFcドメインと比較して、Fc受容体に対する結合親和性が減少され、及び/またはエフェクター機能が減少されるように操作されることができる。特定の実施様態で、抗体または二重特異性抗体のFcドメインは、Fc受容体に対するFcドメインの結合親和性及び/またはエフェクター機能を減少させる一つ以上のアミノ酸変異を含むことができる。典型的に、同一の一つ以上のアミノ酸変異がFcドメインの2つのサブユニットそれぞれに存在する。一実施形態で、アミノ酸変異はFc受容体に対するFcドメインの結合親和性を減少させることができる。一実施形態で、アミノ酸変異はFc受容体に対するFcドメインの結合親和性を少なくとも2倍、少なくとも5倍、または少なくとも10倍位減少させることができる。Fc受容体に対するFcドメインの結合親和性を減少させる一つ超のアミノ酸変異が存在する実施様態において、これらの組み合わせは、Fc受容体に対するFcドメインの結合親和性を少なくとも10倍、少なくとも20倍、ひいては少なくとも50倍分だけ減少させることができる。一実施形態において、操作されたFcドメインを含む抗体または二重特異性抗体は、非操作されたFcドメインを含む抗体または二重特異性抗体と比較して、Fc受容体に対する結合親和性の20%未満、具体的に10%未満、より具体的に5%未満を示す。特定の一実施形態で、Fc受容体はFcγ受容体であることができる。幾つかの実施形態において、Fc受容体はヒトFc受容体であることができる。
【0219】
幾つかの実施形態において、Fc受容体は活性化Fc受容体であってもよい。特定の一実施形態で、Fc受容体は活性化ヒトFcγ受容体、より具体的に、ヒトFcγRIIIa、FcγRIまたはFcγRIIa、最も具体的に、ヒトFcγRIIIaであってもよい。望ましくは、これらの受容体のそれぞれに対する結合が減少される。幾つかの実施形態において、補体成分に対する結合親和性、特にC1qに対する結合親和性も減少される。一実施形態で、新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合親和性は減少されない。FcRnに対する実質的に類似した結合、すなわちFcドメインの前記受容体に対する結合親和性の保存は、Fcドメイン(または前記Fcドメインを含む抗体または二重特異性抗体)がFcRnに対するFcドメインの非操作された形態(またはFcドメインの非操作された形態を含む抗体または二重特異性抗体)の結合親和性の約70%超を示す場合に達成される。Fcドメイン、または前記Fcドメインを含む本発明の二重特異性抗体は、このような親和性の約80%超、ひいては約90%超を示すことができる。所定の実施様態で、二重特異性抗体のFcドメインは、非操作されたFcドメインと比較して、エフェクター機能が減少されるように操作されることができる。エフェクター機能の減少は、下記のいずれか一つ以上を含むことができるが、これに限定されない:補体依存的細胞傷害(CDC)の低減、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)の減少、抗体依存性細胞食作用(ADCP)の減少、サイトカイン分泌の減少、抗原提示細胞によるイムノコンジュゲート媒介抗原吸収の減少、NK細胞への結合の低減、マクロファージへの結合の低減、単核球への結合の低減、多形核細胞(polymorphonuclear cells)への結合の低減、アポトーシスを誘導する直接信号伝逹の減少、標的結合された抗体の架橋の低減、樹状細胞成熟の減少、またはT細胞プライミングの減少。一実施形態において、エフェクター機能の減少は、CDC減少、ADCC減少、ADCP減少、及びサイトカイン分泌減少の群から選択されるいずれか一つ以上であることができる。特定の一実施形態において、エフェクター機能の減少はADCC減少であってもよい。一実施形態で、ADCC減少は、非操作されたFcドメイン(または非操作されたFcドメインを含む二重特異性抗体)によって誘導されたADCCの20%未満であることができる。
【0220】
一実施形態において、Fc受容体に対するFcドメインの結合親和性及び/またはエフェクター機能を減少させるアミノ酸の変異はアミノ酸置換であることができる。一実施形態で、Fcドメインは、E233、L234、L235、N297、P331及びP329(Kabat EU indexに従う番号付け)の群から選択された位置にアミノ酸置換を含むことができる。より具体的な実施様態において、追加のアミノ酸置換は、E233P、L234A、L235A、L235E、N297A、N297DまたはP331S、望ましくはL234Aまたは/及びL235Aであることができる。
【0221】
<組成物、製剤及び投与経路>
【0222】
追加の一態様で、本発明は、例えば下記治療方法のいずれか一つに用いるための、任意の抗体または二重特異性抗体を含む医薬組成物を提供する。一実施形態で、医薬組成物は、本願に提供された任意の抗体または二重特異性抗体及び薬学的に許容可能な担体を含む。他の実施様態において、医薬組成物は、本願により提供された任意の抗体または二重特異性抗体及び、例えば下記記載のような少なくとも一つの追加の治療薬を含む。
【0223】
また、in vivo投与に適する形態で本発明の抗体または二重特異性抗体を生産する方法を提供し、前記方法は、(a)本発明による抗体または二重特異性抗体を得る段階と、(b)抗体または二重特異性抗体を少なくとも一つの薬学的に許容可能な担体と製剤化し、これによって、抗体または二重特異性抗体の製剤をin vivo投与のために製剤化する段階とを含む。
【0224】
本発明の医薬組成物は、薬学的に許容可能な担体に溶解されるか、または分散した抗体または二重特異性抗体を治療的に有効な量で含む。文言「薬学的にまたは薬理学的に許容可能な(pharmaceutical orpharmacologically acceptable)」は、使われた投与量及び濃度で受容者に通常無毒性である、すなわち動物、仮に、例えば好ましくは、ヒトに投与される場合、有害、アレルギーまたは他の不利な反応を起こさない分子実体(molecular entities)及び組成物をいう。抗体または二重特異性抗体及び選択的に追加活性成分を含む医薬組成物の製造は、本願に参照により組み込まれたRemington's Pharmaceutical Sciences、18th Ed. Mack Printing Company、1990に例示されているように、本開示内容に照らして当業者に知られている。さらに、動物(例えば、ヒト)に投与する場合、製剤はFDA Office of Biological Standardsまたは他の国の当該政府で要求する無菌性、発熱性、一般安全性及び純度標準を満たさなければならないということを理解できろう。望ましい組成物は、凍結乾燥製剤または水溶液である。本願で使われた、「薬学的に許容可能な担体」は、任意及びすべての溶媒、緩衝剤、分散媒質、コーティング剤、界面活性剤、抗酸化剤、保存剤(例:抗バックテリア剤、航真菌剤)、等張化剤、吸収遅延剤、塩、保存剤、抗酸化剤、タンパク質、薬物、薬物安定化剤、ポリマー、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、滑剤、甘味剤、風味剤、染料、例えば当業者に知られた物質及びその組み合わせ(例えば、本願に参照により組み込まれたRemington's Pharmaceutical Sciences、18th Ed. Mack Printing Company,1990,pp.1289-1329参照)を含む。任意の既存の担体が活性成分に不向きな場合を除き、治療または医薬組成物でその使用が考慮される。
【0225】
本発明の抗体または二重特異性抗体(及び任意の追加の治療薬)は、非経口、肺内及び鼻腔内を含む任意の適切な手段によって投与することができ、局所治療を目的とする場合には病巣内投与することができる。非経口注入としては、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内または皮下投与を含む。投薬(dosing)は、投与が短期または湾性であるかどうかに部分的に依存する、任意の適切な経路、例えば注射、例えば静脈内または皮下注射で行うことができる。
【0226】
非経口組成物には、注射、例えば皮下、皮内、病巣内、静脈内、動脈内、筋肉内、脊髄腔内または腹腔内注射による投与のために設計されたものを含む。注射の場合、本発明の抗体または二重特異性抗体は、水溶液、望ましくは、生理学的に適合な緩衝剤、例えばHanks溶液、Ringer溶液、または生理食塩水緩衝液で製剤化することができる。溶液は、製剤化剤(formulatory agents)、例えば懸濁化剤、安定化剤及び/または分散化剤を含むことができる。代案的に、抗体または二重特異性抗体は、使用前に、好適なビヒクル、例えば無発熱原性の滅菌水で構成するための粉末形態であることができる。滅菌注射用溶液は、必要に応じて下記に挙げられた多様な他の成分と一緒に適切な溶媒中に本発明の抗体または二重特異性抗体を必要な量で混入させて製造する。滅菌は、例えば滅菌ろ過膜によるろ過によって容易に達成できる。一般に、分散液は、多様な滅菌活性成分を塩基性分散媒質及び/または他の成分を含む滅菌ビヒクルに混入して製造する。滅菌注射用溶液、懸濁液またはエマルジョンの製造のための滅菌粉末の場合、望ましい製造方法としては、真空乾燥または凍結乾燥技術で、既に滅菌ろ過済みの液体媒質からの任意の更なる目的する成分と活性成分の粉末を得る。液体媒質は、必要な場合適宜緩衝させて、液体希釈剤は、まず十分な食塩水またはグルコースで等張性にした後に注射しなければならない。組成物は、製造及び保管条件の下に安定していなければならなく、微生物、例えばバクテリア及び真菌の汚染作用に対して保存しなければならない。エンドトキシン汚染は、安全な水準、例えばタンパク質を0.5ng/mg未満で、最小限に維持しなければならないということを理解できろう。好適な薬学的に許容可能な担体には、緩衝剤、例えばリン酸、クエン酸、及び他の有機酸;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;保存剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えばメチルまたはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10個未満の残基)ポリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチン、または兔疫グロブリン;親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジン;グルコース、マンノースまたはデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;キレート剤、例えばEDTA;糖、例えばスクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトール;塩形成カウンターイオン、例えばナトリウム;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);及び/または非イオン性界面活性剤、例えばポリエチレングリコール(PEG)を含むが、これに限定されない。水性注射懸濁液は、懸濁液の粘度を増加させる化合物、例えばカルボキシルメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、デキストランなどを含むことができる。また、任意に、懸濁液は、適合な安定化剤または高濃縮溶液を製造できるように化合物の溶解度を増加させる活性剤を含むことができる。さらに、活性化合物の懸濁液は、適切な油性注射懸濁液として製造することができる。好適な親油性溶媒またはビヒクルには、脂肪油(fatty oils)、例えば胡麻油、または合成脂肪酸エステル、例えばエチルクリート(ethyl cleats)またはトリグリセリド、またはリポソームを含む。本発明の抗体または二重特異性抗体を含む医薬組成物は、従来の混合、溶解、乳化、カプセル化、捕獲または凍結乾燥工程によって製造することができる。医薬組成物は、タンパク質を薬学的に使用可能な製剤に加工することを促進する一つ以上の生理学的に許容可能な担体、希釈剤、賦形剤または助剤を用いてっ従来の方式で製剤化できる。適切な製剤は、選択した投与経路によって変わる。
【0227】
<治療方法及び組成物>
【0228】
本願に提供された任意の抗体または二重特異性抗体を治療方法に用いることができる。本発明の抗体または二重特異性抗体は、例えば癌治療において兔疫療法剤として用いることができる。
【0229】
治療方法に用いる場合、本発明の抗体または二重特異性抗体は、優れた医療行為と一致する方式で製剤化、投薬、投与される。このような脈絡で考慮すべき要因には、治療すべき特定の障害、治療すべき特定の哺乳動物、個別患者の臨床病態、障害原因、薬剤の伝達部位、投与方法、投与日程、及び医者に知られたその他の要因を含む。
【0230】
一態様で、薬剤(medicament)として用いるための本発明の抗体または二重特異性抗体を提供する。追加の態様において、疾病治療に用いるための本発明の抗体または二重特異性抗体を提供する。所定の実施様態で、治療方法に用いるための本発明の抗体または二重特異性抗体を提供する。
【0231】
一実施形態で、本発明は疾病の治療が必要な個体で疾病治療に用いるための本願に記載の抗体または二重特異性抗体を提供する。所定の実施様態で、本発明は、治療的に有効な量の抗体または二重特異性抗体を個体に投与する段階を含む、疾病を有する個体を治療する方法に用いるための抗体または二重特異性抗体を提供する。一実施形態で、疾病は癌であってもよい。所定の実施様態において、前記方法は、治療的に有効な量の少なくとも一つの追加の治療薬、例えば治療する疾病が癌の場合に抗癌剤を個体に投与する段階をさらに含む。追加の実施様態において、本発明は標的細胞、具体的に腫瘍細胞の溶解を誘導するのに用いるための本願に記載の抗体または二重特異性抗体を提供する。所定の実施様態で、本発明は個体に有効量の抗体または二重特異性抗体を投与して標的細胞の溶解を誘導する段階を含む、個体で標的細胞、具体的に腫瘍細胞の溶解を誘導する方法に用いるための抗体または二重特異性抗体を提供する。任意の前記実施様態による「個体(individual)」は、哺乳動物、望ましくはヒトである。
【0232】
一実施形態で、治療すべき疾病は癌であることができる。
【0233】
一実施形態で、癌は固形癌または血液癌であることができる。
【0234】
一実施形態で、癌は、白血病、直腸癌、子宮内膜癌、腎芽腫、基底細胞癌、上咽頭癌、骨腫瘍、食道癌、リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、甲状腺濾胞癌、肝細胞癌、口腔癌、腎細胞癌、多発性骨髄腫、中皮腫、骨肉腫、骨髄異形成症候群、間葉系腫瘍、軟部肉腫、脂肪肉腫、消化管間質腫瘍、悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)、ユーイング肉腫、平滑筋肉腫、間葉系軟骨肉腫、リンパ肉腫、線維肉腫、横紋筋肉腫、奇形腫、神経芽腫、髄芽腫、神経膠腫、良性皮膚腫瘍、バーキットリンパ腫、マントル細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫、辺縁帯リンパ腫、神経外胚葉性腫瘍、上皮腫瘍、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)、末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)、膵臓癌、造血器悪性腫瘍、腎臓癌、腫瘍血管系、乳癌、腎臓癌、卵巣癌、上皮性卵巣癌、胃癌、肝臓癌、肺癌、大腸癌、膵臓癌、皮膚癌、膀胱癌、精巣腫瘍、子宮癌、前立腺癌、小細胞肺癌(SCLC)、非小細胞肺癌(NSCLC)、神経芽細胞腫、脳癌、結腸癌、扁平上皮癌、黒色腫、骨髄腫、子宮頸癌、甲状腺癌、頭頸部癌、副腎癌からなる群から選択され得る。
【0235】
一実施形態で、白血病は、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、有毛細胞白血病、骨髄異形成症候群(MDS)、慢性骨髄性白血病(CML)および急性骨髄性白血病(AML)からなる群から選択され、好ましくは、AMLであることができる。
【0236】
一実施形態で、癌はCLL-1を発現する癌であることができる。
【0237】
当業者は、多くの場合に抗体または二重特異性抗体が治癒を提供しないが、単に部分的な有益のみを提供することができるということを容易に認識する。幾つかの実施形態において、一部の有益を持つ生理的変化も治療的に有益なものと見なされる。よって、幾つかの実施形態において、生理学的変化を提供する抗体または二重特異性抗体の量は「有効量」または「治療的に有効な量」と見なされる。治療が必要な被験体、患者または個体は典型的に哺乳動物、より具体的にヒトである。
【0238】
幾つかの実施形態において、本発明の抗体または二重特異性抗体の有効量を細胞に投与する。他の実施様態で、本発明の抗体または二重特異性抗体の治療的に有効な量を疾病治療のために個体に投与する。
【0239】
疾病の予防または治療のために、本発明の抗体または二重特異性抗体の適切な投与量(単独で用いられるか、または一つ以上の他の更なる治療薬と併用される場合)は、治療すべき疾病のタイプ、投与経路、患者の体重、抗体または二重特異性抗体のタイプ、疾病の重症度及び経過、抗体または二重特異性抗体が予防または治療の目的で投与されるかどうか、以前または同時治療介入、患者の臨床病歴、及び抗体または二重特異性抗体に対する反応、及び主治医の裁量に依存する。投与を担当する医師は、如何なる場合でも個別被験体に対する組成物内の活性成分(複数可)の濃度及び適切な用量(複数可)を決める。単一または多様な時点にかけた多重投与、ボーラス投与(bolus administration)、及びパルス注入(pulse infusion)を含むが、これらに限定されない多様な投薬日程が本願で考慮される。
【0240】
抗体または二重特異性抗体は、患者に一回または一連の治療にかけて適宜投与される。疾病のタイプ及び重症度によって、約1ng/kg~100mg/kgの抗体または二重特異性抗体を患者に投与することができる。
【0241】
以下、本開示内容を、実施例により詳しく説明する。
【0242】
下記実施例は、単に本開示内容を例示するためのものであり、本開示内容を限定するものと解釈されてはならない。
【0243】
<実施例1:抗CLL-1抗体の製造>
【0244】
<1.1.マウス免疫化によるモノクローナル抗体スクリーニング>
【0245】
抗CLL-1抗体を製造するために、マウス免疫化を行うことでモノクローナル抗体をスクリーニングした。
【0246】
簡略に、2つのマウス群(SJL及びBalb/cマウス、Charles River Laboratories社、Hollister、CA)をヒト及びカニクイザルCLL1とN末端ヒトIgG1Fc融合タンパク質を混合して免疫化した(マウスは自体生産したし、抗原のアミノ酸配列は表4に示した)。
ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)スクリーニング及びFACS(fluorescence-activated cell sorting)分析を通じて、3つのハイブリドーマクローンをヒト及びカニクイザルCLL1交差反応性クローンでスクリーニングした。3つのクローンは免疫化されたBalb/cマウス群由来の16C6、33C2及び84A2であった。また、すべてのクローンは、CLL1発現細胞株(U937、HL60)及びCLL-1を過発現する細胞株(カニクイザルCLL1及びヒトCLL1がHEK293E細胞で過発現される)に陽性に結合した。
【0247】
【0248】
<1.2.ハイブリドーマ細胞からのモノクローナル抗体の配列分析及び抗体のキメラ化>
【0249】
実施例1.1.で免疫化されたBalb/cマウス群から16C6、33C2及び84A2を配列分析するために、ハイブリドーマ細胞からモノクローナル抗体を配列分析した。
【0250】
簡略に、ネズミ科(murine)の16C6、33C2及び84A2の全RNAをTrizol試薬(Ambion社製、Cat.No.:15596-026)の技術マニュアルに従ってハイブリドーマ細胞から単離した。それからアイソタイプの特異的アンチセンスプライマーまたは汎用プライマーを用いてRT-PCRを通じて全RNAをcDNAに逆転写させた。VH(可変重鎖)及びVL(可変軽鎖)の抗体断片をcDNA末端の迅速増幅(rapid amplification of cDNA ends:RACE)法を用いて増幅させた。増幅された抗体断片をクローニングベクター(cloning vectors)でクローニングした後、配列分析を行った。3つのCLL1陽性クローンの可変領域及びCDRを表5、表6及び表7に示す。表において、HCDRは重鎖のCDRであり、LCDRは軽鎖のCDRである。
【0251】
【0252】
【0253】
【0254】
キメラ抗体を生成するために、ネズミ科抗体のVH及びVLをヒトIgG1重鎖定常領域及びヒトカッパ軽鎖定常領域とそれぞれ組み合わせて、発現ベクターにクローニングした。キメラ抗体の定常領域は、ヒトIgG1に一つを超える突然変異または変更(例えばADCC活性が存在しないN297A(また「NA」という))を導入して修飾した。その後、部位特異的突然変異誘発を用いてN-グリコシル化残基または翻訳後修飾(posttranslational modification:PTM)を除去するために3つクローンの3つの修飾されたキメラ抗体をさらに修飾した。前述の16C6、33C2及び84A2の修飾された配列を表8、表9及び表10に示す。以下、ch16C6は、N297A突然変異体を有する重鎖を含む16C6または16C6(NA)のキメラ抗体を意味し、ch33C2は、N297A突然変異体を有する重鎖を含む33C2または33C2(NA)のキメラ抗体を意味し、ch84C2は、N297A突然変異体を有する重鎖及びN12S突然変異体を有する軽鎖を含む84C2またはch84A2(NA/N12S)のキメラ抗体を意味する。
【0255】
【0256】
【0257】
【0258】
<1.3.抗体ヒト化>
【0259】
実施例1.2.のキメラ抗体をヒト化するため、相同性モデリング(homologymodeling)を行った。
【0260】
簡略に、相同性モデリングを通じて、ネズミ科抗体のモデリングされた構造が得られ、逆突然変異(back mutation)に必要な残基を分析した。マウスカウンターパートと最大配列同一性を有するVH及びVLに対するヒト受容体フレームワークを選択した。その次に、ネズミ科抗体の相補性決定領域(CDR)をヒト受容体フレームワークに移植した。次に、移植された抗体の合理的な逆突然弁の設計を行った。設計されたヒト化抗体を生産し、これらの結合特性を評価した。マウス及びキメラ化クローンの中で、16C6及び33C2をリード候補抗体として選択した。特に、キメラ抗体のCDRを持つヒト化抗体(すなわち、更なる修飾によってPTMまたはN-グリコシル化残基が除去される)を16C6(M14)及び33C2(M12)と命名する。16C6、16C6(M14)、33C2及び33C2(M12)のヒト化重鎖及び軽鎖の配列を表11~14に示す。以下、hu16C6及びhu16C6(M14)は、それぞれ16C6及び16C6(M14)のヒト化抗体を意味し、hu33C2及び33C2(M12)は、それぞれ33C2及び33C2(M12)のヒト化抗体を意味する。
【0261】
【0262】
【0263】
【0264】
【0265】
<実施例2.抗CLL-1単一特異性抗体の活性評価>
【0266】
<2.1.リガンド結合活性試験(ELISA)>
【0267】
実施例1.2.の抗体候補物質は、huCLL1-His及びhFc-huCLL1をリガンドとして用いてELISAでリガンド結合活性を比較する分析を行った。
【0268】
簡略に、抗原(リガンド)を4℃で一晩コーティングした。抗原がコーティングされたプレートをPBSに溶解された1%BSAで4℃で2時間の間遮断し、抗体と4℃で2時間の間培養した。各抗体のEC50(nM)を調べるため、抗体溶液を4倍連続希釈で50nM~0.2pMの濃度で製造し、希釈された抗体を各ウェルに対して処理して、前記プレートを1XPBSTで洗浄した。それからHRP(horseradish peroxidase)(Thermo社製、31414)と接合された塩素抗ヒトIgGF(ab')交差吸着された2次抗体を各ウェルに添加し、4℃で1時間の間培養した。洗浄後に、TMB(3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン)基質(Sigma社製、T0440)を各ウェルに添加して、450nmでODをELISAプレートリーダー(ELISA plate reader)で測定した。その結果は図1及び図2に示す。
【0269】
図1は、huCLL1-Hisをリガンドとして用いる一実施形態による3つのキメラ抗体のリガンド結合活性を示すグラフである。
【0270】
図2は、hFc-huCLL1をリガンドとして用いる一実施形態による3つのキメラ抗体のリガンド結合活性を示すグラフである。
【0271】
図1及び図2に示したように、一実施形態による3つのキメラ抗体のいずれもヒトCLL1-His及びhFc-ヒトCLL1抗原のいずれも強く結合したことを確認した。
【0272】
続いて、実施例1.2.の抗体候補物質は、前述した方式と同様な方式でhFc-カニクイザルCLL150ng/well及び100ng/wellをリガンドとして用いてELISAでリガンド結合活性を比較する分析を行った。Genentech社製の抗CLL-1抗体6E7を参照として用いた。その結果は図3及び図4に示す。
【0273】
図3は、hFc-カニクイザルCLL150ng/wellをリガンドとして用いる一実施形態による3つのキメラ抗体のリガンド結合活性を示すグラフである。
【0274】
図4は、hFc-カニクイザルCLL1100ng/wellをリガンドとして用いる一実施形態による3つのキメラ抗体のリガンド結合活性を示すグラフである。
【0275】
図3及び図4に示したように、一実施形態による3つのキメラ抗体皆は抗原濃度に関係なくhFc-カニクイザルCLL1に強く結合したことを確認した。また、一実施形態による3つのキメラ抗体のいずれもGenentech社製の抗体6E7よりも強いリガンド結合活性を有することを確認した。
【0276】
実施例1.2.のキメラ抗体及び実施例1.3.のヒト化抗体のリガンド結合活性を前述したものと同様な方式で比較した。その結果は、図5、6及び7に示す。
【0277】
図5は、一実施形態によるキメラ抗体及びヒト化抗体hu16C6のリガンド結合活性を示すグラフである。
【0278】
図6は、一実施形態によるキメラ抗体及びヒト化抗体hu33C2のリガンド結合活性を示すグラフである。
【0279】
図7は、一実施形態による多様なヒト化抗体hu33C2のリガンド結合活性を示すグラフである。
【0280】
図5図7に示したように、一実施形態によるヒト化抗体は、一実施形態によるキメラ抗体の結合親和性と同等な結合親和性を示す。ネズミ科またはキメラ抗体のヒト化は、通常結合親和性を減少させるか、または結合親和性さえも損失するから、このような結果は一実施形態によるヒト化抗体が有利であるということを立証した。
【0281】
<2.2.細胞結合活性テスト(FACS)>
【0282】
細胞結合特性を評価するために、実施例1.2.のキメラ抗体候補物質を、FACSを用いてCLL1陰性細胞(HEK293E及びJurkat)及び多様なCLL1発現癌細胞で分析した。
【0283】
簡略に、細胞を抗体と4℃で1時間の間培養した。まず、細胞を分析緩衝液(PBSの中で1%BSA)で洗浄した。次に、FITC(Fluorescein isothiocyanate)(Sigma社製、F9512)と接合された抗ヒトIgGFcを各ウェルに添加し、4℃で1時間の間培養した。洗浄後、FITCのMFI(Median Fluorescence Intensity)をBD FACS Calibur(BD Biosciences社製)で測定した。その結果は表15及び図8に示す。
【0284】
【0285】
図8は、CLL1陰性細胞及び多様なCLL1発現癌細胞における一実施形態によるキメラ抗体の細胞結合活性を示すグラフである。
表15及び図8に示したように、一実施形態による全てのキメラ抗体は、多様なCLL1発現細胞株で結合力(binding potency)を有することを確認した。
【0286】
続いて、実施例1.2.の3つのキメラ抗体の細胞結合特性をCLL1発現腫瘍細胞株であるHL60及びU937で、前述したものと同様な方式でFACSを用いて評価した。その結果は図9及び10に示す。
【0287】
図9は、HL60で一実施形態によるキメラ抗体の細胞結合活性を示すグラフである。
【0288】
図10は、U937で一実施形態によるキメラ抗体の細胞結合活性を示すグラフである。
【0289】
図9及び図10に示したように、一実施形態による全てのキメラ抗体は白血病細胞株で結合能を有し、特にch16C6及びch33C2クローンが優れた結合能を有することを確認した。
【0290】
続いて、実施例1.2.の3つのキメラ抗体の細胞結合特性を前述したものと同様な方式でFACSを用いてCynoCLL1_HEK293Eで評価した。Genentech社製の抗CLL-1抗体6E7を参照として用いた。その結果は図11に示す。
【0291】
図11は、カニクイザルCLL-1を過発現するHEK293Eにおける一実施形態によるキメラ抗体の細胞結合活性を示すグラフである。
【0292】
図11に示したように、一実施形態による全てのキメラ抗体は、カニクイザルCLL-1を過発現するHEK293Eで6E7よりも高い結合能を有することを確認した。また、一実施形態による3つのキメラ抗体は、いずれもGenentech社製の抗体である6E7よりも高い細胞結合活性を有することを確認した。
【0293】
実施例1.2.のキメラ抗体及び実施例1.3.のヒト化候補物質の抗原結合特性を比較するために、抗体を前述したものと同様な方式でPL21細胞株を用いて分析した。その結果は図12及び図13に示す。
【0294】
図12は、一実施形態によるキメラ抗体及び多様なヒト化抗体hu33C2の細胞結合活性を示すグラフである。
【0295】
図13は、一実施形態によるキメラ抗体及び多様なヒト化抗体hu16C6の細胞結合活性を示すグラフである。
【0296】
図12及び図13に示したように、一実施形態によるヒト化抗体は、一実施形態によるキメラ抗体の細胞結合活性と同等な細胞結合活性を示した。
【0297】
<2.3.抗体依存性細胞傷害(ADCC)の評価>
【0298】
エフェクター媒介免疫による腫瘍細胞死滅における一実施形態による抗CLL-1抗体のin vitro活性を評価するために、ADCCリポーター生物分析キット(ADCC reporter bioassay kit)(Promega社製、G7102)を用いた。
【0299】
簡略に、標的細胞(HEK293-huCLL-1、HEK293、これは外因性ヒトCLL-1を発現する細胞株である)を実験当日に分析緩衝液(0.5%低いIgGFBSを含むRPMI1640)中に96ウェル平面白色ボトムプレートにプレーティングした。その後、抗体の一連の希釈物を前記プレートに添加した。ADCCエフェクター細胞を各ウェルに添加し、プレートをCO2インキュベーターで37℃で6時間の間培養した。培養後に、プレートを室温で約10分間静置させた後に、Bio-Gloルシフェラーゼ分析試薬(Promega社製、G7940)を各ウェルに添加した。ADCC誘導程度を分析するためにPHERAster FS BMG LABTECHで発光程度を測定した。用量-反応曲線(dose-responsecurve)は、GraphPad Prism 8を用いて4-パラメーターモデルでフィッティングした。その結果は図14に示す。
【0300】
図14は、一実施形態によるch84A2、hu16C6及びhu33C2のADCCを示すグラフである。
【0301】
図14に示したように、一実施形態による抗体hu16C6(VH1/VL1(M14))、hu33C2(VH3/VL6(M12))、ch84A2(N12S)はエフェクター細胞によってADCCを誘導することを確認した。また、hu16C6(VH1/VL1(M14))、hu33C2(VH3/VL6(M12))、ch84A2(N12S)のEC50は、それぞれ130.1pM、140.5pM、及び416.5pMであった。
【0302】
<2.4.ADC(Antibody Drug Conjugation)の細胞傷害活性の評価>
【0303】
実施例1.2.のキメラ抗体を含むADCの細胞傷害を評価するために、前記キメラ抗体を用いて多様なADCを製造し、その細胞増殖抑制活性を分析した。
【0304】
簡略に、既存の抗体軽鎖の205位でのバリン(V)(Kabat番号付けに従い、かつ、これは下記にも適用される)をシステイン(C)に突然変異させ、還元剤、例えばジチオトレイトール(DTT)と反応させて抗体軽鎖V205C上にチオール基を生成し(V205CT)、チオール基と薬物との間に生成されたチオエーテル結合によって抗体を薬物と接合させた。以下、各キメラ抗体に対して製造された3つのADSを、「ch16C6(V205C)-T-AB009」、「ch33C2(V205C)-T-AB009」、「ch84A2(V205C)-T-AB009」と指称した。また、Genentech社製の抗CLL-1抗体6E7を参照として用い、同様な方式で6E7のADCを製造した(以下、「6E7(N54A/V205C)-T-AB009」と呼ぶ)。
【0305】
その後、前記製造されたADCの癌細胞増殖抑制活性を商業的に利用可能な癌細胞株(EOL-1、THP-1細胞株(ATCC))を用いて測定した。96-ウェルプレートで、各ウェルに各癌細胞株5000個の細胞を分取した。24時間の間培養した後、これらを表16に示したように5~100000pM濃度(3倍連続希釈)のADCで処理した。6日後に、WST-8(Dojindo Molecular Technology Inc.社製)染料を用いて生きている細胞の数を測定した。その結果は表17、図15及び図16に示す。
【0306】
【0307】
【0308】
図15は、EOL-1における一実施形態によるADCの細胞増殖抑制活性を示すグラフである。
【0309】
図16は、THP-1における一実施形態によるADCの細胞増殖抑制活性を示すグラフである。
【0310】
表17、図15及び図16に示したように、抗CLL-1モノクローナル抗体である16C6、33C2及び84A2は、EOL-1及びTHP-1細胞株において、6E7よりも癌細胞を死滅する能力が改善されたことを確認した。
【0311】
<実施例3.抗CLL-1/抗CD3二重特異性抗体の製造>
【0312】
実施例1.3.で製造された抗CLL-1クローンhu33C2(VH3/VL6(M12))、及びPCT/CN2018/106618に開示されたCD3クローンを選択し、抗CLL-1/抗CD3二重特異性抗体を製造した。二重特異性抗体は、PCT/CN2018/106766に開示されたWuXiBody生成方法(WuXiBody generation method)によって生産した。
【0313】
簡略に、VLA-CLのDNA断片をCMVプローモーター及びヒト軽鎖信号ペプチドを含む線形化されたベクターに挿入した。VHB-CH1(33C2)-(GS)-VHA-CH1(CD3)またはVHB-CH1(33C2)-(GS)-VHA-CH1(CD3)のDNA断片をノブ突然変異(knob mutations)のあるヒトIgG1定常領域CH2-CH3を含む線形化されたベクターに挿入した。VHB-CH1のDNA断片を空洞及びN297A突然変異のあるヒトIgG1定常領域CH2-CH3を含む線形化されたベクターに挿入した。全てのベクターはCMVプローモーター及びヒト抗体重鎖信号ペプチドを含有している。VHB-CLのDNA断片をCMVプローモーター及びヒト軽鎖信号ペプチドを含有する線形化されたベクターに挿入した。ここで、VLA-CLは、抗CD3抗体の軽鎖可変ドメイン(VLA)-抗CD3抗体の軽鎖定常ドメイン(CL)であり、VHB-CH1は、抗CLL-1抗体の重鎖可変ドメイン(VHB)-抗CLL-1抗体の重鎖の第1定常ドメイン(CH1)であり、GSは、GGGGSのアミノ酸配列で構成されたペプチドリンカーであり、VHA-CH1は抗CD3抗体の重鎖可変ドメイン(VHB)-抗CD3抗体の重鎖の第1定常ドメイン(CH1)であり、VHB-CLは、抗CLL-1抗体の重鎖可変ドメイン(VHB)-抗CLL-1抗体の軽鎖定常ドメイン(CL)である。
【0314】
抗CD3部分の軽鎖:抗CD3部分の重鎖:抗CLL1部分の重鎖:抗CLL1部分の軽鎖の発現のためのDNA比率は、4:1:1:2であった。生存率が95%超であるExpi293F細胞2.94×10/mLを細胞培養培地300mLで製造した。プラスミドDNA及びExpiFectamineTM293試薬を混合した後に、細胞培養培地に添加した。細胞培養物をプラットホームシェーカー(platform shaker)で回転速度150rpmで培養した。温度を37℃に維持し、CO水準を8%に維持した。6日間培養後、細胞を4000rpmで25℃で10分間原審分離してペレット化した。精製及びゲル電気泳動のために上清液を収集した。上清液をNuPAGETM 4%~12%のビストリスタンパク質ゲル(Bis-Tris Protein Gels、ThermoFisher社製)の指針に従い、SDS-PAGEゲルにローディングして、PageRulerTM Unstained Protein Ladder(ThermoFisher社製)を抗体サンプルとともに用いて抗体の分子量を決めた。各変異体の残りの上清液を後続する精製に用いた。タンパク質Aカラムに1mLのMabSelect Sure樹脂をあらかじめパッキングした。細胞培養培地をローディングする前に前記カラムをpH7.0の0.1M Trisで平衡化した。引き続き、ローディング後に、pH7.0の0.1M Trisでカラムを洗浄し、pH3.5の0.1Mクエン酸で溶出させた。しかるのち、pH9.0の0.1M Trisを添加して溶出された溶液を中和させた。その後、サンプルをPBS緩衝液(Sangon Biotech社製、B548117-0500)で透析した。最後に、抗体を0.2μmフィルターを通じてろ過し、1.5mLチューブに0.2mLまたは0.5mLの分取量で無菌で分割した。抗体を凍結させて、-80℃で保管し、ABLにより輸送し、WuXi Biologicsでin vitroで分析を行った。
【0315】
結論的に、リンカーのタイプ((G4S)2または(G4S)3)だけが異なる二重特異性抗体の2種を製造した。(G4S)2リンカーを持つ二重特異性抗体は、R2で表示し、(G4S)3を持つ二重特異性抗体はR3で表示した。二重特異性抗体のアミノ酸配列は表18に示す。以下、R2リンカーを持つ二重特異性抗体はまた33C2/CD3-R2と呼び、また、R3リンカーを持つ二重特異性抗体は33C2/CD3-R3と呼ぶ。
【0316】
【0317】
<実施例4.抗CLL1/抗CD3二重特異性抗体の活性の評価>
【0318】
<4.1.CLL-1発現細胞における結合活性の評価(FACS)>
【0319】
実施例3の二重特異性抗体の腫瘍抗原結合特性を評価するために、哺乳動物細胞で発現されたCLL1に対する33C2/CD3-R2及び33C2/CD3-R3のCLL1標的化部分の結合能力をFACSを用いて分析した。
簡略に、CLL1陽性細胞(U937及びHL60)を33C2/CD3-R2及び33C2/CD3-R3抗体と培養した。FACS緩衝液(PBSの中で1%BSA)で洗浄した後、PE-抗ヒトIgG抗体を各ウェルに添加し、4℃で60分間培養した。PE(phycoerythrin)のMFI(Median Fluorescence Intensity)をFACS Caliburで評価した。一方のアームには抗CD3抗原結合フラグメントを有し、他方のアームには抗原結合フラグメントが存在しないBsAbmock/CD3を対照群として用いた。Merusの抗CLL-1/抗CD3二重特異性抗体MCLA-117を参照として用いた。その結果は図17及び表19に示す。
【0320】
【0321】
図17は、CLL1発現癌細胞における一実施形態による二重特異性抗体の細胞結合活性を示すグラフである。
【0322】
図17及び表19に示したように、CLL1陽性癌細胞株における一実施形態による二重特異性抗体の結合活性は、MCLA-117抗体の結合活性よりも有意に高いことを確認した。
【0323】
<4.2.CD3-発現細胞における結合活性の評価(FACS)>
【0324】
実施例3の二重特異性抗体のCD3結合特性を評価するために、CD3発現哺乳動物細胞に対する33C2/CD3-R2及び33C2/CD3-R3のCD3標的化部分の結合活性をFACSを用いて分析した。
【0325】
簡略に、CD3発現Jurkat細胞株を33C2/CD3-R2及び33C2/CD3-R3抗体と培養した。FACS緩衝液(PBSの中で1%BSA)で洗浄した後、PE-抗ヒトIgG抗体を各ウェルに添加し、4℃で60分間培養した。PEのMFI(Median Fluorescence Intensity)をFACS Caliburで評価した。その結果は図18に示す。
【0326】
図18は、一実施形態による二重特異性抗体の細胞結合活性を示すグラフである。
【0327】
図18に示したように、一実施形態による二重特異性抗体は、CD3発現Jurkat細胞株に用量依存的方法で強く結合したことを確認した。
【0328】
<4.3.多様なCLL1発現条件下における二重特異性抗体のin vitroT細胞活性化>
【0329】
33C2/CD3-R2及び33C2/CD3-R3二重特異性抗体(BsAbs)のCLL1特異的T細胞活性化活性を調べるために、AML細胞株(U937及びHL-60)を用いるPromegaキットを使用した。
【0330】
簡略に、U937またはHL-60癌細胞の2×10個細胞を10%FBSが含まれたRoswell Park Memorial Institute(RPMI)-1640培地中に96ウェルプレートに分取した。BsAbs及び1×10TCR/CD3エフェクター細胞(Nuclear factor of activated T-cells、NFAT)を添加した。T-細胞活性化は、5%CO大気中に37℃で6時間の間培養した後に評価した。その後、Bio-Glo試薬(Promega社製)を添加し、発光プレートリーダーで発光を測定した。抗Claudin18.2を有する二重特異性抗体(非関連抗体)であるBsAbs U1R2、及び抗CD3抗原結合フラグメントを陰性対照群として用いた。その結果は、図19及び表20に示す。
【0331】
図19は、一実施形態による二重特異性抗体のT細胞活性化を示すグラフである。
【0332】
図19及び表20に示したように、一実施形態による二重特異性抗体は、CLL1-特異的T-細胞活性化を用量依存的方法で有意に誘導したことに対し、対照群BsAbでは効果がなかった。
【0333】
<4.4.多様なCLL1発現AML細胞株における二重特異性抗体のT細胞活性化及び細胞溶解活性>
【0334】
実施例3の二重特異性抗体のT細胞活性化及び細胞溶解活性を調べるために、AML細胞株(U937またはHL60)でFACSを行った。
【0335】
簡略に、U937またはHL60懸濁標的細胞(2×10細胞)を96ウェルUボトムプレートに分取した。多様な濃度のBsAbsまたは対照群分子(U1R2)及びヒト精製されたT細胞(PBMCから精製される)を5:1のエフェクター:標的の比率でプレートに添加した。48時間後に、T細胞活性化及び残っているCD33陽性標的細胞の数をフローサイトメトリーで定量化した。特定の細胞溶解の比率を下記のように計算した:
【0336】
100-[100×(BsAbsで処理した標的細胞の数)/(PBSで処理した標的細胞の数)]。
【0337】
CD25及びCD69の細胞表面水準をT細胞活性化マーカーとして用いてT細胞をフローサイトメトリーで分析した。BsAbsmock/CD3を対照群として用い、Merusの抗CLL-1/抗CD3二重特異性抗体MCLA-117を参照として用いた。HL60及びU937でのEC50結果は、それぞれ図20及び図21、及びそれぞれ表21及び表22に示す。
【0338】
【0339】
【0340】
図20は、HL-60における一実施形態による二重特異性抗体のT細胞活性化及び細胞溶解活性を示すグラフである。
【0341】
図21は、U937における一実施形態による二重特異性抗体のT細胞活性化及び細胞溶解活性を示すグラフである。
【0342】
図20及び図21、及び表21及び表22に示したように、一実施形態による二重特異性抗体は、MCLA-117よりCLL1-特異的T細胞活性化(CD25及びCD69上向き調節で測定する)及び癌細胞溶解を用量依存的方法で有意に誘導し、対照群BsAbには効果がなかったことを確認した。
【0343】
<4.5.多様なCLL1発現細胞株におけるin vitro細胞傷害>
【0344】
抗原依存的溶解を促進する一実施様態による二重特異性抗体の能力を決めるために、FarRed標識されたU937またはHL60でBsAbsのin vitro細胞傷害を分析した。
【0345】
簡略に、FarRed標識されたU937またはHL60懸濁標的細胞(1.5×10細胞)を96ウェルUボトムプレートに分取した。多様な濃度のBsAbsまたは対照群分子(U1R2)及び多様な供与者から入手したヒトPBMCエフェクター細胞を10:1または5:1のエフェクター:標的の比率でプレートに添加した。すべての実験は、三重で遂行した。48時間後に、フローサイトメトリーでZombie VioletTMFixable Viabilityキット(BioLegend社製、Cat#423114)を用いて標的細胞の死滅を評価した。特定細胞溶解の比率は、下記のように計算した:
【0346】
100×[FarRed pos死滅細胞/(FarRed pos生きている細胞+FarRed pos死滅細胞)]
【0347】
その結果は、表23及び図22に示す。
【0348】
【0349】
図22は、一実施形態による二重特異性抗体の抗原依存的細胞溶解活性を示すグラフである。
【0350】
図22及び表23に示したように、一実施形態による二重特異性抗体は、CLL1-陽性U937及びHL60細胞のT細胞媒介溶解を濃度依存的方法で有意に誘導したことに対し、対照群BsAb(U1R2)では効果がなかったことを確認した。
【0351】
<4.6.異種移植モデル(U937モデル)におけるin vivo効果>
【0352】
実施例3の二重特異性抗体の効果を皮下U937異種移植モデル(subcutaneous U937 xenograft model)で評価した。
【0353】
具体的に、U937皮下異種移植片を有するNOGマウスにおけるin vivo抗腫瘍活性を評価した。簡略な実験計画は下記の通りである:
腫瘍細胞株:U937
マウス:NOG群=9
腫瘍細胞s.c.注射:5×10細胞/匹
5日目の拡張T細胞i.P.注射:1×10細胞/匹、供与者(ABL02T)(E:T=2:1)
6日目のhIgG1(Fc block)i.p.注射
7日目の薬物(BsAbs)i.p.注射開始(1mpk、2QW(2回/週間)、総6回)
グループ化:7日目;
グループ1(対照群):PBS(ビヒクル);
グループ2:33C2/CD3-R2;及び
グループ3:33C2/CD3-R3
【0354】
腫瘍の大きさ、腫瘍増殖抑制中央値(%TGI)、及び体重を5、7、10、13、17、20、及び24日目に測定した。
【0355】
二重特異性抗体のCD3アーム(arm)は、マウスCD3と交差反応性がないから、ヒトT細胞を5日目にマウス腹腔内に注射した後に、33C2/CD3-R2(グループ2)及び33C2/CD3-R3(グループ3)、またはPBS(ビヒクル)(グループ1)を1mg/kgの用量で3週間の間1週間当り2回投与した。腫瘍の大きさ(mm)(=(W)×(L)×(H)×0.5)、腫瘍増殖抑制中央値(%TGI)、及びマウスの体重を測定して、その結果は図23に示す。
【0356】
図23は、U937異種移植モデルにおける一実施形態による二重特異性抗体のin vivo効果を示すグラフである。
【0357】
図23に示したように、マウスの体重は、実験群(グループ2及びグループ3)及び対照群(グループ1)のいずれも有意な変化はなかったことを確認した。また、対照群は、実験群である33C2/CD3-R2、33C2/CD3-R3BsAbs-処理マウスと比較して、腫瘍の体積が有意に大きいことを確認した。特に、一実施形態による二重特異性抗体は、U937異種移植モデルで完全な腫瘍退行を誘導した。
【0358】
<4.7.異種移植モデル(HL60-Lu同所性AMLモデル)におけるin vivo効果>
【0359】
実施例3の二重特異性抗体の効能評価をIVHL60-Lu同所性AMLモデル(IV HL60-Lu orthotopic AML model)で遂行した。
【0360】
具体的に、in vivo抗腫瘍活性は、HL60-LuIV(静脈内)異種移植片を有するNOGマウスで評価した。簡略な実験計画は下記の通りである:
腫瘍細胞株:HL 60luc
マウス:NOG群=9
腫瘍細胞I.V.注射:1×10細胞/匹
5日目の拡張T細胞i.P.注射:1.5×10細胞/匹、供与者(ABL14)(E:T=1.5:1)
6日目のhIgG1(Fcブロック)i.p.注射、30mpk
7日目の薬物(BsAbs)i.p.注射開始(2QW(2回/1週間)、総7回)
グループ化:7日目;
グループ1(対照群):PBS(ビヒクル);
グループ2:33C2/CD3-R2;及び
グループ3:33C2/CD3-R3
【0361】
BLI(Bioluminescence index)を7、14、21、及び28日目に遂行した。
【0362】
一実施形態による二重特異性抗体の効能評価をHL60-Lu同所性AMLモデルで遂行した。具体的に、確立した播種性HL60-lucモデルで、33C2/CD3-R2または33C2/CD3-R3治療はIV注射後にAML細胞の骨髓への回帰が確認された後に開始した。
【0363】
簡略に、全身ルシフェラーゼ標識されたHL60同所性モデルを生成するために、1×10HL60-luc細胞を0日目に尾静脈に静脈内注射した。動物を6日目に生物発光の強さによって7つのグループにランダムに割り当てた。
【0364】
7日目から始めて、マウスに0.5mg/kgの33C2/CD3-R2、33C2/CD3-R3またはビヒクルを1週間で2回の腹腔内注射で総7回用量を投与した。BLI(Bioluminescence index)分析を7、14、21、及び28日目に遂行したし、その結果は図24に示し、その定量分析は、図25に示す。また、TGI中央値を14、21、及び28日目に測定したし、その結果は表24に示す。
【0365】
図24は、HL60-Lu同所性AMLモデルにおける一実施形態による二重特異性抗体投与でのBLI(Bioluminescence index)を示すイメージである。
【0366】
図25は、HL60-Lu同所性AMLモデルにおける一実施形態による二重特異性抗体投与でのBLIの定量分析結果を示すグラフである(統計分析:Two-way ANOVA(Bonferroni's multiple comparisons test)、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
【0367】
【0368】
図24及び図25、及び表24に示したように、一実施形態による二重特異性抗体0.5mg/kg投与は、28日目にビヒクル-処理群と比較して、生物発光で評価した結果、腫瘍増殖を有意に(それぞれ90%、及び80%)抑制したことを確認した。また、一実施形態による二重特異性抗体の投与は、生物発光で観察時、骨髓、脊椎及び後肢で腫瘍量が有意に減少したことを確認した。
【0369】
<4.8.異種移植モデル(HL60-Lu同所性AMLモデル)における有効用量の評価>
【0370】
HL60-Lu同所性AMLモデルにおける33C2/CD3-R3二重特異性抗体の有効用量の評価を、実施例4.7.と同様な方式で行い、ただ二重特異性抗体の投与用量を0.5mg/kg、0.05mg/kg、及び0.005mg/kgに変更した。
【0371】
BLI(Bioluminescence index)分析を7、14、21、及び28日目に行い、その結果は図26に示し、その定量分析は、図27に示しており、また、14、21、及び28日目にTGI中央値を測定して、その結果は表25に示す。また、フローサイトメトリー及びIHC染色を用いて骨髓内腫瘍細胞を測定し、その結果はそれぞれ図28及び図29に示す。
【0372】
図26は、HL60-Lu同所性AMLモデルにおける一実施形態による二重特異性抗体投与でのBLI(Bioluminescence index)を示すイメージである。
【0373】
図27は、HL60-Lu同所性AMLモデルにおける一実施形態による二重特異性抗体投与でのBLIの定量分析を示すグラフである(***=P<0.005)。
【0374】
図28は、一実施形態による二重特異性抗体投与後に骨髓内腫瘍細胞をFACSで測定した結果を示すグラフである。
【0375】
図29は、一実施形態による二重特異性抗体投与後に骨髓内腫瘍細胞をIHC染色で測定した結果を示すイメージである。
【0376】
【0377】
図26及び図27、及び表25に示したように、一実施形態による二重特異性抗体0.5mg/kg、0.05mg/kg、0.005mg/kg投与は、28日目にビヒクル処理したマウスと比較して、生物発光で評価した結果、腫瘍増殖を有意に(それぞれ91%、78%、及び32%)抑制したことを確認した。また、一実施形態による二重特異性抗体の投与は、生物発光で観察時、骨髓、脊椎及び後肢で腫瘍量が用量依存的方法で有意に減少したことを確認した。
【0378】
図28及び図29に示したように、一実施形態による二重特異性抗体の投与で骨髓内腫瘍細胞が有意に減少したことを確認した。また、このような結果は、一実施形態による抗体が癌転移を抑制することができることを意味する。
【0379】
<4.9.原発性患者由来のAML芽球におけるT細胞活性化及び細胞傷害>
【0380】
実施例3の二重特異性抗体の活性を調べるために、原発性患者から入手したPBMC由来のAML芽球(AML blasts)を用いた。AML芽球は動物モデルまたは細胞株よりも臨床環境により近い条件にあたる。
【0381】
まず、PBMCをFicoll(GE Healthcare社製)を用いて密度勾配原審分離に単離して、抗体で染色して、単離直後FACSLSRFortessa(BD Biosciences社製)を用いて分析して4名の原発性患者由来のAML芽球におけるCLL1及びCD33の発現を調べた。データは、FlowJo(BD Biosciences社製)及びGraphPad Prismver.9(GraphPad Software,Inc.社製)ソフトウェアを用いて分析した。AML芽球集団の各IgG陰性対照群染色に対して陽性細胞の比率及び相手MFIを決めた。全血球及びAML芽球におけるCLL1及びCD3の発現結果は表26に示す。
【0382】
【0383】
4名のAML患者サンプルにおいて、AML芽球におけるCLL1発現中央値は陽性細胞の比率及びMFI(Mean Fluorescence intensity)側面ともCD33の発現中央値に類似した。
【0384】
細胞傷害及びT細胞活性化を誘導する一施様態による二重特異性抗体の能力をex vivo細胞傷害分析で11名のAML患者由来のPBMCを用いて評価した。
【0385】
簡略に、前述したごとく、AML患者由来の新鮮な血液から単離されたAMLPBMCs(2×10)を96ウェルUボトムプレートに三重に分取した。BsAbsを50nMから10倍連続希釈してプレートに添加した。U1R2は、対照群として用いた。72時間後に、CLL1陽性AML芽球の細胞溶解(%)及びT細胞活性化(%)をフローサイトメトリーで分析して、その結果はそれぞれ図30及び図31に示す。
【0386】
図30は、AML芽球における一実施形態による二重特異性抗体の細胞溶解活性を示すグラフである。
【0387】
図31は、AML芽球における一実施形態による二重特異性抗体のT細胞活性化の活性を示すグラフである。
【0388】
図30に示したように、一実施形態による二重特異性抗体は、AML芽球における細胞傷害を濃度依存的方法で有意に誘導したことを確認した(EC50:0.07~0.2nM)。図31に示したように、また、前述のような細胞傷害の結果は、4名の患者サンプルにおけるT細胞活性化の増加(EC50:0.0003~0.04nM)と相関関係があったことを確認した。これらのデータは、一実施形態による二重特異性抗体がin vivo条件に一層類似したex vivo環境下でCLL1陽性AML細胞を死滅するのに効果的であったことを示す。
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【配列表】
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【国際調査報告】