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特表2024-525943光子数分解能を有する超伝導単一光子検出器
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  • 特表-光子数分解能を有する超伝導単一光子検出器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】光子数分解能を有する超伝導単一光子検出器
(51)【国際特許分類】
   H10N 60/00 20230101AFI20240705BHJP
   G02B 6/30 20060101ALI20240705BHJP
   G02B 6/122 20060101ALI20240705BHJP
   G02B 6/12 20060101ALI20240705BHJP
   G01J 11/00 20060101ALI20240705BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
H10N60/00 Z
G02B6/30
G02B6/122 311
G02B6/12 341
G01J11/00
G01J1/02 R
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503911
(86)(22)【出願日】2022-07-22
(85)【翻訳文提出日】2024-03-22
(86)【国際出願番号】 CA2022051136
(87)【国際公開番号】W WO2023000106
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】63/203,478
(32)【優先日】2021-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522105447
【氏名又は名称】フォトニック インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ケシャヴァルズ アクラギ、 モーセン
【テーマコード(参考)】
2G065
2H137
2H147
4M113
【Fターム(参考)】
2G065AB15
2G065AB19
2G065BA31
2G065BA40
2G065BB02
2G065BB04
2G065BB27
2G065BC01
2G065BC16
2G065BC17
2G065BC28
2G065CA12
2G065CA15
2G065DA01
2H137AA14
2H137BA03
2H137BA35
2H137BA52
2H137BA53
2H137BA55
2H137DB11
2H137EA04
2H147AA02
2H147BB02
2H147CA01
2H147CB01
2H147DA08
2H147DA10
2H147DA15
2H147EA02A
2H147EA02D
2H147EA12A
2H147EA13A
2H147EA14A
2H147EA16A
2H147FC01
4M113AC25
4M113CA13
4M113CA16
4M113CA17
(57)【要約】
単一光子数識別器は、光子数分解能を提供する。識別器は、検出のための光子を受け取る導波路を含む。導波路に近接して複数のナノワイヤが配置される。各ナノワイヤは、ブランチを提供するように電気抵抗素子と直列に接続される。複数のブランチは、互いに並列に電気的に接続される。ブランチを通って流れる電流を供給するために電源が接続可能である。複数のブランチにおける全電流の振幅を監視するために電流モニタが接続される。識別器の動作温度において、ナノワイヤは超伝導であり、各ブランチは、ブランチのナノワイヤが導波路から光子を吸収するときに、ブランチをラッチ状態にラッチするのに十分小さい電気的時定数を有する。検出される光子の数は、ラッチ状態にあるブランチの数に依存する電流の振幅から決定することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光子数識別器(PNRD)において、
検出のための光子を受け取るように接続される光入力を有する導波路と、
離間した位置で前記導波路に対して横方向に延びる複数のナノワイヤであって、前記ナノワイヤの各々は前記光子数識別器の動作温度において超伝導である材料を含み、前記ナノワイヤの各々はブランチを提供するように電気抵抗素子と直列に接続され、前記ブランチは互いに電気的に並列に接続されている、複数のナノワイヤと、
前記ブランチに電圧を印加するように接続される電源と、
前記ブランチによって前記電源から引き出される電流を監視するように接続される電流モニタと
を備え、
前記動作温度において、前記ナノワイヤの電気的時定数は、前記ナノワイヤが光子を吸収するときにラッチ状態へのラッチを引き起こすように十分に小さい、光子数識別器。
【請求項2】
前記複数のナノワイヤは、少なくとも5つのナノワイヤを含む、請求項1に記載の光子数識別器。
【請求項3】
前記複数のナノワイヤは、少なくとも200のナノワイヤを含む、請求項1に記載の光子数識別器。
【請求項4】
前記複数のナノワイヤは、少なくとも500のナノワイヤを含む、請求項1に記載の光子数識別器。
【請求項5】
前記複数のナノワイヤは、少なくとも800のナノワイヤを含む、請求項1に記載の光子数識別器。
【請求項6】
前記複数のナノワイヤは、少なくとも1000のナノワイヤを含む、請求項1に記載の光子数識別器。
【請求項7】
前記ナノワイヤの位置は、前記導波路に沿って少なくとも1/2μmの距離だけ離間されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項8】
前記ナノワイヤの位置は、前記導波路に沿って1/2μmから2μmの範囲の距離だけ離間されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項9】
前記複数のナノワイヤは、少なくとも1/2mmの長さを有する前記導波路の一部に沿って離間されている、請求項1~8のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項10】
前記複数のナノワイヤは、前記導波路に沿って等間隔に離間されている、請求項1~9のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項11】
前記導波路は、0.1mmから6mmの範囲の長さを有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項12】
前記複数のナノワイヤのうちの異なるものは、異なる角度で前記導波路に対して横方向に延びる、請求項1~9のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項13】
前記複数のナノワイヤと前記導波路との間のエバネセント結合は、前記光入力において前記導波路に入る任意の光子が前記複数のナノワイヤのうちの1つによって吸収される確率が少なくとも65%であるように十分に強い、請求項1~12のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項14】
前記複数のナノワイヤと前記導波路との間のエバネセント結合は、前記光入力において前記導波路に入る任意の光子が前記複数のナノワイヤのうちの任意の特定の1つによって吸収される確率が5%未満であるように十分に弱い、請求項1~13のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項15】
前記複数のナノワイヤのうちの任意の特定の1つによって特定の光子が吸収される確率は、2%未満である、請求項14に記載の光子数識別器。
【請求項16】
前記複数のナノワイヤのうちの任意の特定の1つによって特定の光子が吸収される確率は、1%未満である、請求項14に記載の光子数識別器。
【請求項17】
前記複数のナノワイヤのうちの任意の特定の1つによって特定の光子が吸収される確率は、1/2%未満である、請求項14に記載の光子数識別器。
【請求項18】
前記複数のナノワイヤのうちの任意の特定の1つによって特定の光子が吸収される確率は、0.1%未満である、請求項14に記載の光子数識別器。
【請求項19】
前記導波路は、0.2μm~10μmの範囲の幅を有する、請求項1~18のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項20】
前記複数のナノワイヤは、ニオブ(Nb)、窒化ニオブ(NbN)、窒化ニオブチタン(NbTiN)、タングステンシリサイド(WSi)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される材料から作られる、請求項1~19のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項21】
前記ナノワイヤは、断面が平坦化されている、請求項1~20のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項22】
前記ナノワイヤの前記断面のアスペクト比(幅:高さ)は、5:1から20:1の範囲である、請求項21に記載の光子数識別器。
【請求項23】
前記ナノワイヤは、約100nmのオーダーの幅を有する、請求項1~22のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項24】
前記ナノワイヤは、20nm~200nmの範囲の幅を有する、請求項1~22のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項25】
前記ナノワイヤは、150nm未満の幅を有する、請求項1~22のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項26】
前記複数のナノワイヤは、約4nm~10nmのオーダーの厚さを有する、請求項1~25のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項27】
前記ナノワイヤは、10nm未満の厚さを有する、請求項1~26のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項28】
前記複数のナノワイヤ12は、20μmを超えない長さを有する、請求項1~27のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項29】
前記複数のナノワイヤ12は、1000nmを超えない長さを有する、請求項1~28のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項30】
前記複数のナノワイヤの少なくともいくつかは、超伝導導体のより狭い部分によって形成される、請求項1~29のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項31】
前記ナノワイヤは、前記導波路に垂直な直線状に前記導波路を横切って延びる、請求項1~30のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項32】
前記ナノワイヤは、垂直に対して+60度から-60度の範囲の角度で前記導波路を横切って延びる、請求項1~31のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項33】
前記複数のナノワイヤのうちの隣接するものは、約200nmから約4μmの範囲の距離だけ離間されている、請求項1~32のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項34】
光結合部によって前記導波路の前記光入力に結合される光ファイバを備える、請求項1~33のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項35】
前記光ファイバは、シングルモード光ファイバである、請求項34に記載の光子数識別器。
【請求項36】
前記光結合部は、前記導波路のテーパ部分を含む、請求項34~35のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項37】
前記光結合部は、波長選択性である、請求項34~36のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項38】
前記光結合部は、バンドパスフィルタを含む、請求項34~37のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項39】
前記導波路及び前記ナノワイヤは、基板上に支持される、請求項1~38のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項40】
前記基板は、前記光ファイバに対する整列機構を備えるように形成され、前記光ファイバは、前記整列機構と係合する、請求項39に記載の光子数識別器。
【請求項41】
前記ナノワイヤは、前記導波路と前記基板との間に配置される、請求項39~40のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項42】
前記複数のナノワイヤは、前記導波路の複数の側面上に配置される、請求項1~41のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項43】
前記複数のナノワイヤのうちの1つ以上が、前記導波路の2つ又は3つの側面を取り囲むように形成される、請求項1~42のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項44】
前記導波路は、共振構造を形成するようにパターニングされる、請求項1~43のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項45】
前記電気抵抗素子は、前記ナノワイヤから熱的に分離される、請求項1~44のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項46】
前記ブランチは、前記導波路の対向する側面に沿って延びる第1及び第2の超電導導体によって並列に接続される、請求項1~45のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項47】
前記電気抵抗素子は、金属、導電性ポリマー、炭素、又はドープされた半導体の膜を含む、請求項1~46のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項48】
前記電気抵抗素子は、約0.1kΩから約10kΩの範囲のインピーダンスを有する、請求項1~47のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項49】
前記電気抵抗素子は、能動素子を含む、請求項1~48のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項50】
前記能動素子は、電界効果トランジスタ(FET)を含む、請求項49に記載の光子数識別器。
【請求項51】
前記電源は、交流(AC)電源である、請求項1~50のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項52】
前記電気抵抗素子は、リアクティブインピーダンスを提供する装置を含む、請求項51に記載の光子数識別器。
【請求項53】
前記電源は、リセット期間によって分離されたパルスを出力するように構成されるパルス発生器として機能する、請求項1~52のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項54】
前記複数のナノワイヤの臨界電流は、±5%以内で同一である、請求項1~53のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項55】
前記ブランチを超伝導体である温度まで冷却するように動作可能な冷凍機を備える、請求項1~54のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項56】
前記冷凍機は、前記ブランチを4.5K未満の温度に冷却するように動作する、請求項55に記載の光子数識別器。
【請求項57】
前記冷凍機は、無冷媒冷凍機である、請求項55~56のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項58】
前記冷凍機は、0.5Kから4.2Kの範囲の動作温度まで前記ブランチを冷却するように動作する、請求項55~57のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項59】
ケルビンでの前記動作温度は、前記ナノワイヤの臨界温度の半分未満である、請求項55~58のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項60】
前記電源は、前記冷凍機によって冷却される容積の外側に配置される、請求項55~59のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項61】
前記電源は、コントローラによって制御されるデジタル・アナログコンバータ(DAC)を備える、請求項1~60のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項62】
前記デジタル・アナログコンバータの出力をフィルタリングするように接続される1つ以上のフィルタを備える、請求項61に記載の光子数識別器。
【請求項63】
前記フィルタは、パッシブフィルタを含む、請求項61に記載の光子数識別器。
【請求項64】
前記電流モニタは、電流・電圧コンバータ及び電圧モニタを備える、請求項1~63のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項65】
前記電圧モニタは、前記電流・電圧コンバータによって出力された電圧を監視するように接続されるアナログ・デジタルコンバータ(ADC)を備える、請求項64に記載の光子数識別器。
【請求項66】
前記電流・電圧コンバータは、シャント抵抗器及びトランスインピーダンス増幅器の1つ以上を備える、請求項64に記載の光子数識別器。
【請求項67】
前記電気的時定数τはτ=L/Rによって与えられ、ここで、Lは前記ナノワイヤの力学インダクタンスであり、Rは前記電源の負荷抵抗である、請求項1~66のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項68】
光子が前記光子数識別器に送達されるそれぞれ前及び後である第1及び第2の時間における前記電流の測定値を前記電流モニタから取得し、かつ前記電流の測定値間の差を処理することによって前記光子の数Nを計算するように接続されるコントローラを備える、請求項1~67のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項69】
前記コントローラは、
【数1】
を計算することによって光子の数を計算するように構成され、ここで、ISTARTは第1の時間における測定電流であり、IMEASUREは第2の時間における測定電流であり、ΔIはΔI=IBIAS-ILATCHによって与えられ、ここで、IBIASは、非ラッチ状態にあるナノワイヤのうちの1つに対するバイアス電流であり、ILATCHは、ナノワイヤがラッチ状態にあるときのナノワイヤのうちの1つにおける電流である、請求項68に記載の光子数識別器。
【請求項70】
前記コントローラは、光子が検出されている間の1つ以上の時間に前記電流の追加測定値を取得し、かつ前記追加測定値に少なくとも部分的に基づいて光子の数を計算するように構成される、請求項68~69のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項71】
前記コントローラは、前記ナノワイヤの全てが超伝導である温度まで冷却されるのに十分に長い時間にわたり、前記電源から前記ブランチへの電流の供給を中断することによって前記光子数識別器をリセットするように構成される、請求項68~70のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項72】
前記光子数識別器の前記ブランチは、複数のグループに分割され、各グループの前記ブランチは並列に接続され、前記光子数識別器は、前記複数のグループのそれぞれに電源及び電流モニタを備える、請求項68~71のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項73】
前記コントローラは、前記光子数識別器を較正するように構成される、請求項67~72のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項74】
前記コントローラは、
a)一連のバイアス及びリセットパルスを前記ブランチに印加して、前記識別器に光子が入射しない状態で、リセットの直前のバイアス電流を監視すること、
b)バイアス電圧を徐々に増加させて、前記電流を監視すること、
c)臨界バイアス電圧を決定すること、
d)前記臨界バイアス電圧よりも小さい値にバイアスを設定して、前記一連のバイアス/リセットパルスを印加すること、
e)リセットの直前に測定されたバイアス電流のヒストグラムを測定すること、
f)パルスごとの平均光子数が1よりはるかに小さくなるように較正された弱いレーザパルスを送信すること、
g)リセットの直前に測定された測定バイアス電流の前記ヒストグラムを測定すること、
h)前記レーザパルスの前記平均光子数を徐々に増加させて、各設定について前記ヒストグラムを測定すること、
i)前記ヒストグラムを処理して十分に分離されたピークを識別し、前記ピークの位置に基づいて異なる数の光子に対する閾値電流を識別すること
を含むステップによって前記光子数識別器の較正を実行するように構成される、請求項67に記載の光子数識別器。
【請求項75】
前記導波路は、シリコン、窒化シリコン、ガラス、ポリマー、ガリウム砒素、及びアルミニウムガリウム砒素からなる群から選択される材料から作られる、請求項1~74のいずれか1項に記載の光子数識別器。
【請求項76】
光子を検出及び計数するための方法において、
離間した位置で導波路に対して横方向に延びる複数のナノワイヤを有する導波路を、前記ナノワイヤが超伝導となる温度まで冷却するステップと、
前記ナノワイヤのそれぞれにバイアス電流を流すステップであって、前記バイアス電流は、前記ナノワイヤに対する臨界電流よりも低いステップと、
前記導波路に少なくとも1つの光子を誘導し、かつ前記光子が前記ナノワイヤの1つによってエバネセント的に吸収されることを可能にするステップと、
前記ナノワイヤの1つが前記光子を吸収すると、前記ナノワイヤを抵抗状態にラッチするステップと、
前記ナノワイヤによって引き出された総電流を測定し、かつ前記光子を計数するために測定された総電流を処理するステップと
を含む、方法。
【請求項77】
前記光子は、複数の光子のうちの1つであり、前記方法は、前記複数の光子を前記導波路の中に誘導して、前記複数の光子のうちの前記光子が前記複数のナノワイヤのうち異なる対応するものによってエバネセント的に吸収されることを可能にし、それによって前記ナノワイヤの対応するものを前記抵抗状態にラッチするステップを含む、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
前記ナノワイヤへの電流の送達を中断することによって前記ナノワイヤをリセットするステップを含む、請求項76~77のいずれか1項に記載の方法。
【請求項79】
前記電流の送達は、前記ナノワイヤが超伝導である動作温度に戻るまで中断される、請求項78に記載の方法。
【請求項80】
各ブランチにおける前記バイアス電流は、約2μAから約30μAの範囲にある、請求項76~79のいずれか1項に記載の方法。
【請求項81】
前記ナノワイヤのそれぞれについての前記バイアス電流は、前記臨界電流未満であり、かつ前記臨界電流の少なくとも70%又は80%又は90%である、請求項76~80のいずれか1項に記載の方法。
【請求項82】
前記動作温度は、4.5K未満である、請求項76~81のいずれか1項に記載の方法。
【請求項83】
前記ナノワイヤの1つがラッチ状態にあるとき、前記ナノワイヤの少なくとも70%が非超伝導である、請求項76~82のいずれか1項に記載の方法。
【請求項84】
前記光子が前記ナノワイヤの任意の特定の1つによってエバネセント的に吸収される確率は、5%未満である、請求項76~83のいずれか1項に記載の方法。
【請求項85】
前記光子が前記ナノワイヤの任意の特定の1つによってエバネセント的に吸収される確率は、1%未満である、請求項76~84のいずれか1項に記載の方法。
【請求項86】
前記光子が前記ナノワイヤの任意の特定の1つによってエバネセント的に吸収される確率は、0.1%未満である、請求項76~85のいずれか1項に記載の方法。
【請求項87】
前記光子が前記ナノワイヤの1つによってエバネセント的に吸収される確率は、80%より大きい、請求項76~86のいずれか1項に記載の方法。
【請求項88】
前記導波路は波長特定的であり、前記方法は、前記導波路への光ファイバの結合を波長特定的にするステップを含む、請求項76~84のいずれか1項に記載の方法。
【請求項89】
前記方法は、所定の波長帯域内の光子の検出効率を高めるものであって、
共振構造によって導波路をパターニングするステップと、
前記光ファイバ内に光フィルタを組み込むステップと、
光ファイバのテーパと第1のナノワイヤとの間の前記導波路内でオンチップフィルタをパターニングするステップと
を含む、請求項76~88のいずれか1項に記載の方法。
【請求項90】
前記導波路をパターニングすることは、前記導波路に穴をエッチングすること、又は波状のエッジを有するように前記導波路を加工することを含む、請求項89に記載の方法。
【請求項91】
前記方法は、第1の導体と第2の導体との間においてデジタル・アナログコンバータによって印加される電圧の電気ノイズを低減するものであって、
デジタルグランド接続とアナロググランド接続とを別個の導体で分離するステップ、及び
信号をフィルタリングするステップの少なくとも1つを含む、請求項76~90のいずれか1項に記載の方法。
【請求項92】
前記方法は、光子の測定における誤差を低減するものであって、
前記総電流を複数回測定するステップ、
前記ナノワイヤを複数の回路に分割するステップ、及び
各回路の総電流を別個に測定するステップ
の少なくとも1つを含む、請求項76~91のいずれか1項に記載の方法。
【請求項93】
前記方法は、検出効率を高めるものであって、
前記バイアス電流を臨界電流よりもわずかに低い理想的なバイアス電流に設定するステップを含む、請求項76~92のいずれか1項に記載の方法。
【請求項94】
前記方法は、暗計数を減少させるものであって、
前記バイアス電流を臨界電流よりもわずかに低い理想的なバイアス電流よりも低くするステップを含む、請求項76~93のいずれか1項に記載の方法。
【請求項95】
前記ナノワイヤは、並列に接続されるグループに分割され、各グループの総電流が、電流モニタによって測定される、請求項76~94のいずれか1項に記載の方法。
【請求項96】
光子数識別器(PNRD)を較正するための方法において、
前記光子数識別器は、
導波路と、前記導波路にエバネセント結合された複数のナノワイヤであって、前記光子数識別器の動作温度において、前記ナノワイヤの各々の電気的時定数は、前記ナノワイヤが光子を吸収するときに、ラッチ状態へのラッチを引き起こすのに十分小さい、複数のナノワイヤとを備え
前記方法は、
前記光子数識別器に印加されるバイアス電圧を臨界バイアス電圧より小さい値に設定するステップと、
一連のバイアス及びリセット電流パルスを前記光子数識別器に印加するステップと、
パルスごとの既知の平均光子数をそれぞれ有する複数の較正された弱いレーザパルスを前記光子数識別器の入力に送信し、前記レーザパルスの各々は、前記一連のバイアス及びリセット電流パルスのうち対応するバイアスパルスの間に送信されるステップであって、前記レーザパルスの各々を送信した後であって、前記一連のバイアス及びリセット電流パルスのうち次のリセットパルスの前に、前記光子数識別器のバイアス電流を測定するステップと、
前記レーザパルスの複数の平均光子数のそれぞれについて、対応するバイアス電流測定値のヒストグラムを作成するステップと
を含む、方法。
【請求項97】
複数のレーザパルスの前記平均光子数は、1より有意に小さい値を有する、請求項96に記載の方法。
【請求項98】
前記レーザパルスの複数のグループに関して前記平均光子数を一定に維持するステップと、0.4光子以下の段階によってグループ間の前記平均光子数を段階的に変化させるステップとを含む、請求項96又は97に記載の方法。
【請求項99】
リセット期間によって分離された一連のバイアス及びリセット電流パルスを前記光子数識別器に印加するステップ、
前記光子数識別器に光子が入射しない状態で、前記リセット電流パルスの1つ以上を印加する前に前記光子数識別器のバイアス電流を監視するステップ、
前記光子数識別器に印加されるバイアス電圧を徐々に増加させ、前記バイアス電圧が増加するにつれて前記バイアス電流を監視するステップ、
前記バイアス電流の変化の勾配及び前記バイアス電流の少なくとも一方が減少する前記臨界バイアス電圧をバイアス電圧値として決定するステップ
によって、前記臨界バイアス電圧を決定するステップを含む、請求項96~98のいずれか1項に記載の方法。
【請求項100】
本明細書に記載される任意の新規かつ発明的特徴、特徴の組み合わせ、又は特徴の部分的組み合わせを有する装置。
【請求項101】
本明細書に記載される新規かつ発明的ステップ、動作、ステップ及び/又は動作の組み合わせ、又はステップ及び/又は動作の部分的組み合わせを有する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導単一光子検出器、特に多数の光子を識別することができる光子検出器に関する。本発明は、量子フォトニクス及び量子コンピューティングにおける例示的な用途を有する。
【0002】
(関連出願への相互参照)
本願は、2021年7月23日に出願された“SUPERCONDUCTING SINGLE PHOTON DETECTOR WITH PHOTON NUMBER RESOLUTION”と題する米国出願第63/203478号からの優先権を主張するものであり、それはあらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれている。米国の目的のために、本願は、2021年7月23日に出願された“SUPERCONDUCTING SINGLE PHOTON DETECTOR WITH PHOTON NUMBER RESOLUTION”と題する米国出願第63/203478号の35U.S.C.§119に基づく利益を享受するものであり、それはあらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれている。
【背景技術】
【0003】
個々の光子を検出することが望ましい様々な用途がある。これらの用途には、量子情報技術が含まれる。
【0004】
光子検出器の1つのタイプは、超伝導ナノワイヤ単一光子検出器(SNSPD)である。SNSPDは、高い計数率、非常に小さいタイミングジッタ、及び低い暗計数率で、可視及び近赤外光子に対して高い検出効率を提供する。SNSPDは、例えば、G.N.Gol’tsman等によってPicosecond superconducting single-photon optical detector,Appl.Phys.Lett.79,705(2001)、https://doi.org/10.1063/1.1388868に記載されている。
【0005】
SNSPDは、関心のある光子を吸収することができる場所に配置されたナノワイヤと、超伝導ナノワイヤを介してバイアス電流を通過させるように接続された電位源とを備える。ナノワイヤは、典型的には、光子が吸収される可能性を高めるために蛇行経路をたどる。
【0006】
動作中、ナノワイヤが超伝導である温度のナノワイヤを用いて、バイアス電流は、ナノワイヤ内の電流密度がナノワイヤの超伝導臨界電流密度に近いがそれよりも低い値を有するように制御される。超伝導臨界電流密度は、それを超えるとナノワイヤが非超伝導又は「通常」になる電流密度閾値である。
【0007】
ナノワイヤが光子(例えば、スペクトルの可視又は赤外部分の波長を持つ光子)を吸収する場合、光子のエネルギーはナノワイヤに送達される。これにより、ナノワイヤが局所的に加熱され、ホットスポットが形成される。ナノワイヤは非常に薄いので、光子のエネルギーは、ホットスポットの位置でナノワイヤの材料を通常(非超伝導)にするのに十分である。ホットスポットを通過するバイアス電流の一部は、ホットスポットの周りに迂回される。これにより、ホットスポットの外側の電流密度が増加する。ホットスポットのいずれかの側の増加した電流密度は、臨界電流密度を超えてナノワイヤを横切るストリップを通常(電気的に抵抗性)にし得る。これが発生すると、バイアス電流は、抵抗性ストリップに追加のエネルギーを散逸させ、これにより、ホットスポットのサイズが大きくなり得る。
【0008】
上述のように、光子が超伝導ナノワイヤに吸収されるたびに、ナノワイヤにかかる電圧にはパルスが含まれる。単一光子は、そのようなパルスを検出するために電圧を監視することによって検出され得る。ナノワイヤからの熱が環境に十分迅速に散逸できる限り、ナノワイヤは再び超伝導になる。
【0009】
SNSPDの望ましい特性の少なくとも一部を共有する光子数識別が可能な光子検出器を有することが望ましい。このような光子検出器を提供する様々な試みがなされてきた。しかしながら、これらには様々な欠点がある。
【0010】
Mohsen K.Akhlaghi等による、Nonlinearity in single photon detection:modeling and quantum tomography,Optics Express Vol.19,Issue 22,pp.21305-21312(2011)https://doi.org/10.1364/OE.19.021305は、部分的にバイアスされたSNSPDの同じナノワイヤサイトにおける複数の光子の同時吸収によって引き起こされる電圧パルスを分析して、吸収された光子数に関するいくつかの情報を得ることができることを示した。非線形効果に由来するSNSPDのこの非常に限定された固有光子数分解能(PNR)の能力は、典型的な実際の用途には有用ではない。
【0011】
SNSPDの長いナノワイヤを横切る電圧パルスの振幅は、ナノワイヤに沿った異なる位置(それぞれがナノワイヤ自身の抵抗部分を形成し得る)で吸収された光子の数に依存することが想像されるであろう。しかしながら、十分な電圧分解能を得るには、非常に高い入力インピーダンス増幅器が必要である。Anthony J.Annunziata等による、Reset dynamics and latching in niobium superconducting nanowire single-photon detectors Journal of Applied Physics 108,084507(2010);doi:10.1063/1.3498809は、高い入力インピーダンスを有する読み出し回路を使用することが実用的でないことを示した。ナノワイヤが光子検出後にその超伝導状態に戻るためには、ナノワイヤは電気的時定数τ=L/Rに対して急速に冷却されなければならない。ここで、Lはその長さに比例するナノワイヤの力学インダクタンスであり、Rは読み出し回路の負荷抵抗である。さもなければ、SNSPDは光子に対する感度が低い有限電圧状態にラッチされる。
【0012】
Di Zhu等による、Resolving Photon Numbers Using a Superconducting Nanowire with Impedance-Matching Taper,Nano Lett.2020、20、5、3858-3863、2020年4月9日、https://doi.org/10.1021/acs.nanolett.0c00985は、インピーダンス整合伝送線路に接続されたSNSPDを備える光子検出器を記載しており、SNSPDが本質的な光子数分解能を有することを示している。しかしながら、この装置は少数の光子を検出することしかできず、検出確率が入射光子の時間分布に依存しないため、装置の較正が問題となる。
【0013】
Aleksander Divochiy等による、Superconducting nanowire photon-number-resolving detector at telecommunication wavelengths,Nature Photonics volume 2,pages 302-306(2008)は、電気的に並列に接続された蛇行ナノワイヤ識別器のアレイを記載している。S.Jahanmirinejadによる、Photon-number resolving detector based on a series array of superconducting nanowires,Appl.Phys.Lett.101,072602(2012);https://doi.org/10.1063/1.4746248は、直列に接続されたナノワイヤ識別器のアレイを開示している。これらの識別器はPNRを示したが、コンパクトなナノワイヤレイアウト及び高周波読み出しは、クロストーク及びスケーラビリティの問題を引き起こした。
【0014】
光子数分解能を備えた光子を検出することができる実用的な方法及び装置に対する必要性が残っている。
【発明の概要】
【0015】
本出願は、光子を検出するための装置及び光子を検出するための方法に関する。方法及び装置は、量子情報システムにおける光子を検出するための非限定的な用途を有する。
【0016】
本発明の一態様は、光子数分解能を提供する単一光子検出器の形態で装置を提供する。このような識別器は、「PNRD」又は光子数識別器(photon number resolving detector)と呼ばれる。識別器は、検出のために光子を受け取る導波路を含む。ナノワイヤは、導波路に対して横方向に延びる。各ナノワイヤは、ブランチを提供するように電気抵抗素子と直列に接続される。ブランチは、互いに並列に接続される。例えば、ブランチは、導波路の対向する側面に沿って延びる第1及び第2の超電導導体によって並列に電気的に接続されてもよい。
【0017】
ブランチを通って流れる電流を供給するために電源が接続可能である。電流の振幅を監視するために電流モニタが接続される。識別器の動作温度において、ナノワイヤは超伝導であり、各ブランチは、ブランチのナノワイヤが光子を吸収するときに、ブランチをラッチ状態にラッチするのに十分小さい電気的時定数を有する。
【0018】
いくつかの実施形態において、PNRDのブランチは複数のグループに分割され、各グループのブランチは並列に接続される。PNRDは、各グループに電流を供給するための手段と、各グループの電流を監視するための手段とを備える。例えば、いくつかの実施形態において、PNRDは、複数のグループのそれぞれについて電源及び電流モニタを備える。
【0019】
いくつかの実施形態において、識別器は、5から1000以上の範囲内でナノワイヤを有する。いくつかの実施形態において、ナノワイヤの間隔は、1/2μmから2μmの範囲内である。ナノワイヤは、等間隔であっても等間隔でなくてもよい。いくつかの実施形態において、ナノワイヤの隣接するものは、約200nmから約4μmの範囲の距離だけ離れている。ナノワイヤは、導波路に対して垂直に延びてもよく、ある角度で導波路と交差してもよく、互いに異なる角度で導波路に対して横方向に延びてもよい。いくつかの実施形態において、ナノワイヤは、導波路に隣接して湾曲しているか、又は非直線経路に従っている。いくつかの実施形態において、ナノワイヤは、導波路に対して垂直であるか、又は垂直に対して+60度から-60度の範囲の角度である。
【0020】
いくつかの実施形態において、ナノワイヤは、導波路の異なる側面上に位置するナノワイヤを含み、及び/又は導波路の異なる側面上に延びるように形成されたナノワイヤを含む。例えば、複数のナノワイヤのうちの1つ以上は、導波路の2つ又は3つの側面を取り囲むように形成されてもよい。
【0021】
いくつかの実施形態において、導波路は、0.1mmから6mmの範囲の長さを有する。いくつかの実施形態において、導波路は、0.2μmから3μmの範囲の幅を有する。
【0022】
いくつかの実施形態において、ナノワイヤは、導波路中を伝播する光子が識別器のナノワイヤの1つによって吸収される確率が65%より大きくなるのに十分な強度で導波路にエバネセント結合される。いくつかの実施形態において、ナノワイヤのそれぞれは、導波路中を伝播する光子がナノワイヤの任意の個々の1つによって吸収される確率が5%未満又は1%未満又は0.1%未満となるのに十分な弱さで導波路にエバネセント結合される。
【0023】
ナノワイヤは、超伝導材料を含む。いくつかの実施形態において、ナノワイヤは、ニオブ、窒化ニオブ、窒化ニオブチタン及びタングステンシリサイドの1つ又は組み合わせから構成される。いくつかの実施形態において、ナノワイヤは、5:1から20:1の範囲のアスペクト比(幅:高さ)を有する平坦化された断面を有してもよい。いくつかの実施形態において、ナノワイヤは、20nmから200nmの範囲の幅を有する。いくつかの実施形態において、ナノワイヤは、4nmから10nmの範囲の厚さを有する。いくつかの実施形態において、ナノワイヤは、1000nm未満から5000nmの範囲の長さを有する。
【0024】
いくつかの実施形態において、複数のナノワイヤの臨界電流は±5%以内で同じである。
【0025】
いくつかの実施形態において、導波路は、シリコン、窒化シリコン、ガラス、ポリマー、砒化ガリウム、及び砒化アルミニウムガリウムからなる群から選択される材料から構成される。
【0026】
装置は、光結合部によって導波路の光入力に結合される光ファイバを備えてもよい。いくつかの実施形態において、光ファイバは、シングルモード光ファイバである。いくつかの実施形態において、結合は、導波路のテーパ部分を含む。いくつかの実施形態において、結合は、バンドパスフィルタを含む。いくつかの実施形態において、結合、導波路及び/又は光ファイバは、波長選択性である。
【0027】
いくつかの実施形態において、導波路及びナノワイヤは、基板上に支持される。基板は、光ファイバのための整列機構を備えて形成されてもよく、光ファイバは、整列機構と係合されてもよい。いくつかの実施形態において、ナノワイヤは、導波路と基板との間に配置される。
【0028】
いくつかの実施形態において、導波路は、共振構造を形成するように構成される。
【0029】
光子の検出は、共振構造によって導波路をパターニングすること、光ファイバに光フィルタを組み込むこと、光ファイバテーパと第1のナノワイヤとの間で導波路にオンチップフィルタをパターニングすること、バイアス電流を調整すること、又は動作温度を調整することによって、所定の波長帯域内で増加されてもよい。導波路をパターニングすることは、導波路に穴をエッチングすること、又は適切な共振特性を提供する波状のエッジによって導波路を加工することを含んでもよい。
【0030】
いくつかの実施形態において、識別器は波長特定的である。いくつかの実施形態において、光ファイバの導波路への結合は、波長特定的である。
【0031】
電気抵抗素子は、例えば、金属、導電性ポリマー、炭素、又はドープ処理された半導体の膜を含んでもよい。いくつかの実施形態において、電気抵抗素子は、約0.1kΩ~約10kΩの範囲のインピーダンスを有する。いくつかの実施形態において、電気抵抗素子は、電界効果トランジスタ(FET)等の能動素子及び/又はリアクティブインピーダンスを提供する装置を含む。
【0032】
装置は、ナノワイヤが超伝導体である温度までブランチを冷却するように動作可能な冷凍機を含むか、又は冷凍機と併せて使用されてもよい。例えば、識別器は、1.5K~4.5Kの範囲の動作温度で動作してもよい。いくつかの実施形態において、動作温度は、ナノワイヤの臨界温度の半分未満である(臨界温度はケルビンで表される)。いくつかの実施形態において、冷凍機は、無冷媒冷凍機である。
【0033】
いくつかの実施形態において、電源は交流(AC)電源である。いくつかの実施形態において、電源は、リセット期間によって分離されたパルスを出力するように構成されるパルス発生器として機能するように動作可能である。いくつかの実施形態において、電源は、コントローラによって制御されるデジタル・アナログコンバータ(DAC)と、パッシブフィルタを含み、DACの出力をフィルタリングし得る1つ以上のフィルタとを含む。いくつかの実施形態において、電源は、ブランチの動作温度まで冷却された容積の外側に配置される。
【0034】
いくつかの実施形態において、電流モニタは、電流・電圧コンバータ及び電圧モニタを備える。電圧モニタは、例えば、電流・電圧コンバータによる電圧出力を監視するように接続されるアナログ・デジタルコンバータ(ADC)を備えてもよい。いくつかの実施形態において、電流・電圧コンバータは、シャント抵抗器及びトランスインピーダンス増幅器の1つ以上を備える。
【0035】
いくつかの実施形態において、ブランチに関する電気的時定数τは、τ=L/Rによって与えられる(ここで、Lはナノワイヤの力学インダクタンスであり、Rは電源の負荷抵抗である)。
【0036】
コントローラは、光子が光子数識別器に送達されるそれぞれ前及び後である第1及び第2の時間における電流の測定値を電流モニタから取得し、かつ電流の測定値間の差を処理することによって光子の数Nを計算するように接続されてもよい。
【0037】
いくつかの実施形態において、コントローラは、
【数1】
を計算することによって光子の数を計算するように構成され、ここで、ISTARTは第1の時間における測定電流であり、IMEASUREは第2の時間における測定電流であり、ΔIはΔI=IBIAS-ILATCHによって与えられ、ここで、IBIASは、非ラッチ状態にあるナノワイヤのうちの1つに対するバイアス電流であり、ILATCHは、ナノワイヤがラッチ状態にあるときのナノワイヤのうちの1つにおける電流である。
【0038】
いくつかの実施形態において、コントローラは、光子が検出されている間の1つ以上の時間に電流の追加測定値を取得し、かつ追加測定値に少なくとも部分的に基づいて光子の数を計算するように構成される。
【0039】
いくつかの実施形態において、コントローラは、ナノワイヤの全てが超伝導である温度まで冷却されるのに十分に長い時間にわたり、電源からブランチへの電流の供給を中断することによって光子数識別器をリセットするように構成される。
【0040】
いくつかの実施形態において、コントローラは、光子数識別器を較正するように構成される。コントローラによる、又は他のやり方による較正は、
a)一連のバイアス/リセットパルスをブランチに印加して、識別器に光子が入射しない状態で、リセットの直前のバイアス電流を監視すること、
b)バイアス電圧を徐々に増加させて、結果として生じる電流を監視すること、
c)臨界バイアス電圧を決定すること、
d)臨界バイアス電圧よりも小さい値にバイアス電圧を設定して、一連のバイアス/リセットパルスを印加すること、
e)リセットの直前に測定されたバイアス電流のヒストグラムを測定すること、
f)パルスごとの平均光子数が1よりはるかに小さくなるように較正された弱いレーザパルスを送信すること、
g)リセットの直前に測定された測定バイアス電流のヒストグラムを測定すること、
h)レーザパルスの平均光子数を徐々に増加させて、各設定についてヒストグラムを測定すること、
i)ヒストグラムを処理して十分に分離されたピークを識別し、ピークの位置に基づいて異なる数の光子に対応する閾値電流を識別することを含んでもよい。
【0041】
本発明の他の態様は、光子を検出及び計数する方法を提供する。いくつかの実施形態において、本方法は、
a)離間した位置で導波路に対して横方向に延びる複数のナノワイヤを有する導波路を、ナノワイヤが超伝導となる温度まで冷却するステップと、
b)ナノワイヤのそれぞれにバイアス電流を流すステップであって、バイアス電流は、ナノワイヤに対する臨界電流よりも低いステップと、
c)導波路に少なくとも1つの光子を誘導し、かつ光子がナノワイヤの1つによってエバネセント的に吸収されることを可能にするステップと、
d)ナノワイヤの1つが光子を吸収すると、ナノワイヤを抵抗状態にラッチするステップと、
e)ナノワイヤによって引き出された総電流を測定するステップと、
f)(複数の)光子を計数するために測定された総電流を処理するステップとを含む。
【0042】
複数の光子がある場合、本方法は、複数の光子を導波路に誘導して、光子が異なるナノワイヤによってエバネセント的に吸収されることを可能にし、それによって対応するナノワイヤを抵抗状態にラッチしてもよい。
【0043】
いくつかの実施形態において、各ブランチにおけるバイアス電流は、約2μA~約30μAの範囲である。各ナノワイヤのバイアス電流は、臨界電流未満である。いくつかの実施形態において、バイアス電流は、臨界電流の少なくとも70%又は80%又は90%である。個々のナノワイヤにおけるバイアス電流は、ナノワイヤと直列に接続される抵抗器の値を調整することによって調整されてもよい。抵抗器は、非超伝導導電体の膜をパターニングすることによって作製されてもよい。非超伝導導電体は、例えば、薄い金属膜、炭素の導電性ポリマーの膜又はドープされた半導体の膜を含んでもよい。ナノワイヤのバイアス電流は、バイアス電流を提供する電圧を調整することによって調整されてもよい。
【0044】
本明細書に記載される装置及び方法は、誤差を低減し、及び/又は検出効率を高めるための複数の手法を組み込んでもよい。これらは、
・例えば、ナノワイヤと導波路との間の間隔を増加させることによって、ナノワイヤと導波路との間の熱クロストークを減少させること、
・デジタル及びアナロググランド接続を分離し、及び/又はフィルタリングを適用することによって、DAC又は他の電源によって印加される電圧の電気ノイズを減少させること、
・総電流を複数回測定すること、
・ナノワイヤを複数の回路に分割し、各回路の全電流を別々に測定すること、及び/又は
・バイアス電流を調整することの1つ以上を含んでもよい。
【0045】
さらなる態様及び例示的な実施形態が添付の図面に示され、及び/又は以下の記載で説明される。
【0046】
本発明は、これらが異なる請求項に記載されている場合であっても、上記特徴の全ての組み合わせに関連することが強調される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
添付の図面は、本発明の非限定的な例示的な実施形態を示す。
【0048】
図1】例示的な実施形態による光子検出器の概略図である。
【0049】
図1A】ナノワイヤの代替配置を示す概略図である。
【0050】
図2】例示的な実施形態による装置のための例示的な等価電気回路を示す電気概略図である。
【0051】
図2A】光子検出器用の電源の例示的な波形を示す図である。
【0052】
図2B図1に示すタイプの場合の光子検出器の時間の関数としての全電流の概略例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下の説明では、本発明をより完全に理解するために、具体的な詳細を説明する。しかしながら、本発明は、これらの詳細なしに実施され得る。他の例では、周知の要素は、本発明を不必要に不明瞭にすることを避けるために、詳細に示されておらず、説明もされていない。したがって、明細書及び図面は、限定的な意味ではなく、例示的なものと見なされるべきである。
【0054】
図1は、例示的な実施形態による光子数識別器10を示す。識別器10は、光導波路14に隣接して配置された複数のナノワイヤ12を備える。導波路14は、例えば、Si等の適切な光透過性材料から構成される。いくつかの実施形態において、導波路14は、シリコン、窒化シリコン、ガラス、ポリマー、ガリウム砒素、アルミニウムガリウム砒素、又はターゲット動作波長で透明であり、周囲の媒質よりも高い屈折率を有する別の材料で構成される。
【0055】
導波路14は、光学モードをサポートする。光学モードで導波路を通過する光子は、導波路14内で内部反射され、ナノワイヤ12にエバネセント結合される。
【0056】
導波路14は、ナノワイヤ12間に所望の間隔があるように所望の数のナノワイヤ12を収容するのに十分な長さを有する。例えば、導波路に沿ったナノワイヤ12のアレイの長さは、1mmのオーダーであってもよい。導波路14は、ナノワイヤのアレイの長さに、導波路14を支持する及び/又は導波路14を他の光学構造に結合するために所望の任意の余分な長さを加えた長さを有してもよい。いくつかの実施形態において、導波路14は、0.1mm~6mmの範囲の長さを有する。
【0057】
好ましい実施形態において、導波路14は、導波路14の第1の端14Aにおける光入力で導波路14に入る任意の光子が、その光子が導波路14の終端14Bに到達する前にナノワイヤ12によって吸収される高い確率がある十分な長さを有する。いくつかの実施形態において、その高い確率は、少なくとも65%(例えば、65%又は70%又は80%又は90%又は95%又は99%)である。後述するように、導波路14に入る光子がナノワイヤ12のいずれかで吸収される高い確率があるが、その光子がナノワイヤ12のいずれかの特定の1つで吸収される確率が比較的低いように、任意の個々のナノワイヤ12へのエバネセント結合の強度は十分に高い。
【0058】
ナノワイヤ12への光子のエバネセント結合の強度は、導波路14の材料及び寸法、ナノワイヤ12の材料及び寸法、ナノワイヤ12と導波路14との間の間隔、導波路14とナノワイヤ12との間の媒体の特性、及びナノワイヤ12及び導波路14の幾何学的形状等の要因に依存する。識別器10の設計において、これらの要因は、導波路14内の光子とナノワイヤ12との間のエバネセント結合の所望の強度を提供するように調整されてもよい。
【0059】
例えば、ターゲット周波数を有する光子に関するナノワイヤ12へのエバネセント結合を増加させるために、
・ターゲット周波数の光子をより強く吸収するナノワイヤ12のための材料を使用すること、
・導波路14により大きな領域を提供する幾何学的形状でナノワイヤ12を製造すること(例えば、ナノワイヤ12をより広くする、及び/又はナノワイヤ12をある角度で導波路14と交差させる、及び/又は
・導波路14により近い位置にナノワイヤ12を配置することにより識別器10を製造し得る。ターゲット周波数における光子のナノワイヤ12へのエバネセント結合は、識別器10を上記の反対の特性を有するようにすることによって低減され得る。
【0060】
導波路へのナノワイヤのエバネセント結合の強度は、導波路に面するナノワイヤの断面積が増加するようにナノワイヤの寸法を増加させること、現在選択されている材料よりも強くターゲット周波数で光子を吸収するナノワイヤのための材料を選択すること、ナノワイヤと導波路との間の間隔を減少させること、導波路に面するナノワイヤの断面積が増加するように導波路の垂直に対してナノワイヤの角度を調整すること、導波路の共振構造を提供すること、及び/又は導波路に面するナノワイヤの断面積が増加するようにナノワイヤの幾何学的形状を変更することによって増加させ得る。
【0061】
導波路へのナノワイヤのエバネセント結合の強度は、導波路に面するナノワイヤの断面積が増加するようにナノワイヤの寸法を減少させること、現在選択されている材料よりも弱くターゲット周波数で光子を吸収するナノワイヤのための材料を選択すること、ナノワイヤと導波路との間の間隔を増加させること、導波路に面するナノワイヤの断面積が減少するように導波路の垂直に対してナノワイヤの角度を調整すること、又は導波路に面するナノワイヤの断面積が減少するようにナノワイヤの幾何学的形状を変更することによって減少させ得る。
【0062】
導波路14は、例えば、1μm(例えば0.5μm)のオーダーの幅を有してもよい。ナノワイヤ12は、導波路14と密接に接触し、導波路14の幅を横切って延びる。
【0063】
ナノワイヤ12は、装置10の動作温度で超伝導である材料から作られる。ナノワイヤ12は、例えば、ニオブ(Nb)、窒化ニオブ(NbN)、窒化ニオブチタン(NbTiN)及び/又はタングステンシリサイド(WSi)から作られてもよい。
【0064】
ナノワイヤ12は、断面が平坦化されてもよい。いくつかの実施形態において、ナノワイヤ12の断面のアスペクト比(幅:高さ)は、5:1から20:1の範囲である。ここで、「高さ」は、ナノワイヤが隣接する導波路14の表面に対して垂直に測定される寸法であり、「幅」は、導波路14の表面に対して平行かつナノワイヤ12に対して横断的に測定される寸法である。
【0065】
いくつかの実施形態において、ナノワイヤ12は、約100nmのオーダーの幅を有する。いくつかの実施形態において、ナノワイヤ12は、20nmから200nmの範囲の幅を有する。いくつかの実施形態において、ナノワイヤ12は、150nm未満の幅を有する。
【0066】
以下により詳細に説明するように、ナノワイヤ12が所与の動作条件に対して広すぎる場合、ナノワイヤ12によって吸収される一部の光子が検出されない可能性がある。ナノワイヤ12の最適な幅(すなわち、吸収された光子が検出される高い確率があるような幅)は、実験的に及び/又はモデリングによって決定されてもよい。最適な幅は、ナノワイヤ12の材料、動作温度、及び検出される光子の波長に依存し得る。
【0067】
ナノワイヤ12は、例えば、約4nm~10nmのオーダーの厚さ(高さ)を有してもよい。いくつかの実施形態において、ナノワイヤ12は、10nm未満の厚さを有する。
【0068】
ナノワイヤ12は、短くてもよい。いくつかの実施形態において、ナノワイヤ12は、例えば、1000nmを超えない、又は5000nmを超えない長さを有する。
【0069】
図示された実施形態において、ナノワイヤ12の一部又は全部は、超伝導導体12Bのより狭い部分12Aによって形成される。部分12Aは、導波路14に隣接する。この構成では、導体12Bを通過する所定の電流について、ナノワイヤ12を形成する導体12Bのより狭い部分12Aにおける電流密度は、導体12Bの他の部分における電流密度よりも高い。
【0070】
ナノワイヤ12は、導波路14に対して所望の角度で(例えば垂直に)直線的に導波路14を横切って延びてもよい。いくつかの実施形態において、ナノワイヤ12は、導波路14に対して垂直でない角度(例えば、垂直面に対して+60°から-60°の範囲の角度)で延びる。
【0071】
ナノワイヤ12の角度は、ターゲット波長の光子とナノワイヤ12との間の所望の結合強度を達成するために選択され得る1つのパラメータである。いくつかの実施形態において、識別器10内の異なるナノワイヤ12は、異なる角度で導波路14に対して横方向にもよい。例えば、識別器14において、光入口14Aに最も近い第1のナノワイヤ12は、導波路14に対して垂直であってもよい。導波路14に沿った後続の各ナノワイヤ12は、わずかにより多くの角度を付けられてもよい。これは、図1Aに概略的に示されている。他の配置も可能である。
【0072】
ナノワイヤ12は、隣接するナノワイヤ12間に熱クロストークが本質的に存在しないのに十分な距離だけ隣接するナノワイヤ12から離間される。例えば、隣接するナノワイヤ12は、1μmのオーダーの距離(例えば約200nm~約4μmの範囲の距離)だけ離間されてもよい。
【0073】
識別器10は、多数のナノワイヤ12を含んでもよい。例えば、識別器10は、少なくとも5、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも600、少なくとも800又は少なくとも950のナノワイヤ12を含んでもよい。一実施形態において、識別器10は、500から2000の範囲のナノワイヤ12を含む。いくつかの実施形態において、識別器10は、1000以上のナノワイヤ12を含む。識別器10に含まれ得るナノワイヤ12の数に固定上限はない。
【0074】
検出されるべき光子は、導波路14に結合される。図示された実施形態において、光子は、適切な光結合部17によって導波路14に結合される光ファイバ16内を搬送される。光ファイバ16は、例えば、シングルモード光ファイバであってもよい。結合17は、例えば、導波路14内にテーパを含んでもよい。いくつかの実施形態において、導波路14は、T.Zhu等による、Ultrabroadband High Coupling Efficiency Fiber-to-Waveguide Coupler Using Si3N4/SiO2 Waveguides on Silicon,IEEE Photonics Journal,vol.8,no.5,pp.1-12、Oct.2016,Art no.7102112,doi:10.1109/JPHOT.2016.2600037に記載されているやり方で光ファイバ16に結合され、ファイバ16は、光子を導波路14の所望のモードに送達する。
【0075】
検出される光子を提供するファイバ16又は別の光学構造との界面で導波路14が終端されるやり方は、ファイバ16から導波路14への計数される光子の所望の結合効率を達成するように選択されてもよい。一般に、計数される光子の高い結合効率が望ましい。いくつかの実施形態において、ファイバ16から導波路14への結合は、ターゲット波長帯域内の光子が、ターゲット波長帯域外の光子よりも強く導波路14に結合されるように波長選択性を有する。
【0076】
識別器10は、ターゲット波長帯域及び/又はターゲット偏光状態内の光子に対して最大効率を得るように最適化されてもよい。導波路14のモード形状及びエバネセント結合の強度は、光子偏光に依存してもよい。いくつかの実施形態において、導波路14及びナノワイヤ12は、光子検出を最適化し、特定の偏光における暗計数を低減するように設計される。例えば、識別器10は、ナノワイヤ12の数、ナノワイヤ12の間隔、ナノワイヤ12の長さ、導波路14内の光ファイバのタイプ、及び/又は導波路14に対する界面の設計等の識別器10の設計パラメータを調整することによって、特定の偏光の光子を検出するように最適化されてもよい。これらのパラメータのいくつか又は全ては、異なる偏光を有する光子を検出するように最適化された識別器10の間で異なってもよく、また、特定の偏光を有する光子を検出するように最適化された識別器10と、複数の偏光状態の光子を効率的に検出するように最適化された識別器10との間で異なってもよい。
【0077】
図1では、導波路14及びナノワイヤ12は、基板18上に支持されている。この例では、基板18は、溝19等の特徴を備えて形成され、光ファイバ16は、導波路14との整列のために特徴と係合される(例えば溝19に係合する)。いくつかの実施形態において、導波路14は、基板18上に支持されたフォトニック素子(例えば、導波路、共振器、光共振器等の素子)のネットワークの一部である。フォトニック素子のネットワークは、フォトニック素子のネットワークによって導波路14に結合され、かつ識別器10によって検出され得る光子を放出する量子ビットを含んでもよい。
【0078】
導波路14及びナノワイヤ12の物理的配置は変更されてもよい。例えば、図示された実施形態において、ナノワイヤ12は、導波路14の「下」(すなわち、導波路14と基板18との間)に位置する。ナノワイヤ12は、導波路14の他の側面上に追加的又は代替的に配置されてもよい。例えば、ナノワイヤ12は、導波路14の「上」に(すなわち、導波路14がナノワイヤ12と基板18との間に介在されるように)配置されてもよい。いくつかの実施形態において、ナノワイヤ12は、導波路14の2つ又は3つの側面を取り囲むように形成される。
【0079】
別の例として、ナノワイヤ12又は導波路14が直線である必要はない。これらの構造のいずれかを湾曲させてもよい。例えば、識別器10は、湾曲した導波路14を備えるように構成されてもよい。そのようないくつかの実施形態において、ナノワイヤ12は、中央パッドから放射状に広がる。また、個々のナノワイヤ12は、湾曲、U字型(例えば、ナノワイヤ12の両端が導波路14の一方の側にあるように)又はその他の形状であってもよい。一般に、ナノワイヤ12及び導波路14は、本明細書に記載される動作原理と適合する識別器14を作製するために使用されるツール(例えば、リソグラフィシステム)によって達成され得る任意の形状を有してもよい。
【0080】
いくつかの実施形態において、導波路14は、共振構造を形成するようにパターニングされる。そのようなパターニングは、所定の波長帯域内の光子の検出を強化し、他の波長帯域内の光子を排除するのに役立ち得る。共振構造は、光ファイバ16からさらに離れたナノワイヤが光子を効率的に検出することができるように、導波路14内を移動する光子の指数関数的減衰挙動を修正してもよい。光子の指数関数的減衰は、光子が導波路14に沿ってナノワイヤ12と相互作用するときに生じる。共振パターニングは、例えば、リソグラフィ法を用いて作製されてもよい。例えば、材料に穴をエッチングすることによって、導波路14の材料又は隣接する材料内にフォトニック結晶共振器が作製されてもよく、又は導波路14は波状のエッジ沿備えるように作製されてもよい。
【0081】
導波路14の共振パターニングは、光ファイバ16から所定の距離に位置するナノワイヤ12が、ナノワイヤによる暗計数の生成に影響を与えることなく光子を吸収して検出する確率を高めることによって、信号対ノイズ比を向上させ得る。導波路14内に又は導波路に隣接して共振構造を設けることにより、導波路14に沿って異なる距離にあるナノワイヤ12が、そうでない場合よりも均等に光子検出に寄与するように、導波路14内の光子の指数関数的減衰挙動を修正し得る。これは、特に、より少ない数のナノワイヤセクションを有する識別器10に対して、光子検出の忠実度を向上させ得る。
【0082】
より鋭い共振を生成する共振構造は光・物質相互作用も増加させ、それによって、識別器10におけるより短いナノワイヤ12の使用を容易にし得る。より短いナノワイヤは、製造を容易にするとともに、光子のより速くかつより静かな検出を提供し得る。
【0083】
各ナノワイヤ12は、抵抗器15と直列に接続される。1つのナノワイヤ12と対応する抵抗器15との組み合わせは、「ブランチ」20と呼ばれ得る。識別器10は、第1及び第2の導体22A及び22Bを含む。ブランチ20は、それぞれ導体22A及び22Bの間に結合される。したがって、ブランチ20は、導体22A、22Bによって互いに並列に接続される。導体22A及び22Bは、超伝導トレース、ワイヤ、導体、ストリップ等を含んでもよい。
【0084】
抵抗器15は、選択された電位(電圧)が導体22A及び22Bの間に印加されると、バイアス電流が各ナノワイヤ12を通って流れるように、動作温度において電気インピーダンス(例えば抵抗)を有する。バイアス電流は、ナノワイヤ12の臨界電流よりも小さい振幅を有する。理想的には、バイアス電流は、ナノワイヤ12の臨界電流よりもわずかに小さいだけである。より低いバイアス電流を選択すると、光子の検出効率が低下するが、「暗計数」も低下させることができる。暗計数は、迷走光子がナノワイヤ12によって吸収されるとき、又はナノワイヤ12の非理想的な内部力学のために発生する意図しない計数である。
【0085】
いくつかの実施形態において、各ブランチ20におけるバイアス電流は、約2μA~約30μAの範囲である。
【0086】
抵抗器15は、抵抗器15で散逸されたエネルギーから生じる熱がナノワイヤ12の温度に有意に影響しないように、ナノワイヤ12から十分に熱的に分離される。熱的分離は、例えば、抵抗器15をナノワイヤ12から十分に離して配置することによって行うことができる。これは、各ブランチ20を構成する導体を、電気的ノイズ(例えば、浮遊容量及びインダクタンス等の寄生的電気効果から生じる)の過剰なピックアップを回避するのに十分に短く維持しながら行われてもよい。
【0087】
抵抗器15は、例えば、「通常」(すなわち非超電導)の導電体の膜(例えば、金属膜、炭素の導電性ポリマーの膜又はドープされた半導体の膜)をパターニングすることによって作成されてもよい。抵抗器15は、識別器10の動作温度において所望の電気抵抗を提供するような寸法を有する。抵抗器15は、任意の適切な幾何学的形状(例えば、細長い長方形、蛇行線等)を有してもよい。
【0088】
いくつかの実施形態において、抵抗器15は、約0.1kΩ~約10kΩの範囲のインピーダンスを有する。
【0089】
いくつかの実施形態において、抵抗器15は、電界効果トランジスタ(FET)等の能動素子によって提供される。能動素子は、対応するブランチ20のバイアス電流を調整するように制御されてもよい。能動素子は、例えば、任意の既知の半導体製造技術によって基板18に形成されてもよい。
【0090】
いくつかの実施形態において、バイアス電圧は、交流(AC)電圧である。そのような実施形態において、抵抗器15は、最大電流をブランチ20のナノワイヤ12の臨界電流未満に制限するリアクティブインピーダンス(例えばコンデンサ及び/又はインダクタ)を提供する装置を備えるか又はそれらから構成されてもよい。
【0091】
理想的な場合には、各ナノワイヤ12は、同じ臨界電流を有する。そのような理想的な場合には、各ナノワイヤ12の臨界電流よりわずかに小さいバイアス電流を達成することは、各抵抗器15が同じ抵抗を提供するようにすることによって達成されてもよい。
【0092】
いくつかの実施形態において、ナノワイヤ12の臨界電流は、同じ設計の抵抗器15が各ナノワイヤ12において許容可能なバイアス電流(すなわち、ナノワイヤに対する臨界電流よりも小さく、ナノワイヤに対する臨界電流の所望の範囲内にあるバイアス電流)を提供するように、同じであるのに十分に近い。例えば、識別器10は、各ナノワイヤ12のバイアス電流が臨界電流未満であり、臨界電流の少なくとも40%又は50%又は60%又は70%又は80%又は90%又は95%又は98%であるように作成されてもよい。
【0093】
いくつかの実施形態において、個々のナノワイヤにおけるバイアス電流は調整される。これは、例えば、抵抗器15の値を調整することによって(例えば、バイアス電流を減少させるためにレーザアブレーション又は他の適切な技術によって個々の製造時の抵抗器15から材料を除去することによって、及び/又は抵抗器15の全部又は一部を提供する能動素子を制御することによって)達成されてもよい。
【0094】
識別器10は、ブランチ20及び導体22A及び22Bを超伝導体である温度(例えば、液体ヘリウム温度又は数ケルビンまでの温度)まで冷却するように動作可能な冷凍機24を含む。例えば、冷凍機24は、図1に示すチップ全体を冷却するように接続されてもよい。基板18は、熱が発生する識別器10の素子(例えば、光子を吸収するナノワイヤ12又は抵抗損失(IR)の形態でエネルギーを散逸させる抵抗器15)から熱を持ち去るのに十分に低い熱抵抗を有してもよい。基板18の良好な熱伝導率は、例えば、シリコン又はサファイア等の材料から基板18を作ることによって達成されてもよい。
【0095】
いくつかの実施形態において、冷凍機24は、無冷媒冷凍機である。いくつかの実施形態において、識別器10の動作温度は1.5Kを超える。いくつかの実施形態において、より良好な検出のためにより低い温度が望ましい場合、識別器10は、4.2K以下の温度に維持される。いくつかの実施形態において、識別器10の動作温度(ケルビン)は、ナノワイヤ12の臨界温度の半分未満である。
【0096】
動作中、ナノワイヤ12は超伝導である。電源30は、各ブランチ20にバイアス電流が流れるように、導体22A及び22Bの間に電位差を印加するように接続される。電源30は、可変電圧電源を含んでもよい。電圧は、各ブランチ20に適切なバイアス電流IBIASを提供するように調整されてもよい。
【0097】
図2は、電源30が、適切な電圧を出力するようにコントローラ38によって制御されるデジタル・アナログコンバータ(DAC)30Aを備える一例を示す。導体22A及び22Bの間に印加されるDAC30Aの出力をフィルタリングするために、1つ以上のフィルタが接続されてもよい。いくつかの実施形態において、フィルタはパッシブフィルタである。
【0098】
導体22の間においてDAC30Aによって印加される電圧の電気ノイズを最小限に抑えるために、DAC30Aは、別個のグランド導体に接続される別個のデジタル及びアナロググランド接続を有してもよい。フィルタは、導体22A及び22BへのDAC30Aのアナロググランド及びアナログ出力における電子ノイズの伝送を低減するように動作するフィルタを含んでもよい。いくつかの実施形態において、フィルタは、DAC30Aを制御することによって生成されるパルスのリンギング又はオーバシュートを低減又は除去するように動作するフィルタを含む。フィルタは、ローパスフィルタ及び/又はバンドパスフィルタを含んでもよい。図2は、フィルタ32A、32B及び32Cの例を示す。いくつかの実施形態において、フィルタの少なくとも一部は、極低温(例えば、図2のフィルタ32B及び32C)で動作する。
【0099】
電源30は、任意選択的に、冷凍機24によって冷却された容積の外側に配置される。例えば、電源30は、室温であってもよい。電源30は、低周波数(MHz範囲)の電気接続を提供し得る電気接続31によって導体22A及び22Bに接続されてもよい。例えば、電気接続31は、パッド23A及び23Bにおいて導体22A及び22Bにそれぞれ電気的に接続される導電体31A、31Bを含んでもよい。電気接続31は、例えば、同軸ケーブルを含んでもよい。
【0100】
各ブランチ20におけるバイアス電流の振幅は、電源30によって印加される電圧及びブランチ20内の抵抗器15によって提供される抵抗に依存する。これらのパラメータは、超伝導ナノワイヤ12の臨界電流を下回るがそれに近いレベルでバイアス電流を維持するように選択又は制御される。いくつかの実施形態において、印加されるバイアス電流は、ナノワイヤ12の臨界電流の少なくとも40%又は少なくとも60%又は少なくとも80%又は少なくとも90%である。いくつかの実施形態において、バイアス電流は、ナノワイヤ12の臨界電流の40%~90%の範囲である。
【0101】
導波路14に沿って移動する任意の光子は、ナノワイヤ12に弱くエバネセント的に結合される。任意の個々のナノワイヤ12が任意の個々の光子を吸収する可能性は低い。例えば、任意の特定のナノワイヤ12による特定の光子の吸収の確率は、2%未満又は1%未満、又は1/2%未満又は0.1%未満であり得る。しかしながら、多数のナノワイヤ12がある場合、導波路14内を伝搬する任意の個々の光子がナノワイヤ12のうちの1つによって吸収される確率は高くなり得る(例えば、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%)。
【0102】
任意の特定のナノワイヤ12が光子を吸収する確率は低いので、ナノワイヤ12が1つの測定サイクルにおいて2つ以上の光子を吸収する確率は、妥当な数の光子に対して(例えば、一度に10以下又は15以下又は20以下又は25以下の光子に対して)無視できるほど小さくなり得る。
【0103】
電源30は、定電圧で動作してもよい。したがって、検出された光子が存在しない場合に電源30から引き出される電流は、全てのブランチ20のバイアス電流の合計に等しい。
【0104】
図2は、電源30から引き出される電流を測定するように動作可能な例示的な電流測定回路36を示す。回路36は、例えば、電流・電圧コンバータ36Aと、電流・電圧コンバータ36Aによる電圧出力を監視するように接続されるアナログ・デジタルコンバータ(ADC)等の電圧モニタ36Cとを備えてもよい。アナログ・デジタルコンバータは、吸収される光子の異なる数に対応する異なる電流レベルを識別するのに十分な分解能を有する。例えば、電圧モニタ36Cは、8、12又は16ビットのデジタル出力を有するADCを含んでもよい。電流・電圧コンバータ36Aは、低ノイズ増幅器36Bを含んでもよい。電流・電圧コンバータ36Aは、例えば、シャント抵抗器、トランスインピーダンス増幅器等を含んでもよい。
【0105】
各ブランチ20は、光子がブランチ20によって吸収される場合、光子からのエネルギーによってブランチ20が、光子の吸収時に対応するナノワイヤ12の全て又は一部が抵抗性(非超伝導)である状態にラッチされるように設計されかつ動作する。これは、例えば、ナノワイヤ12を短くすることによって達成されてもよく、それによって電気的時定数τ=L/R(ここで、Lはナノワイヤの力学インダクタンスであり、Rは電源30の負荷抵抗である)が、ナノワイヤが光子の吸収から直接的又は間接的に生じる熱を放散するために必要な時間に対して小さくなる。ラッチは、例えば、光子の吸収によってナノワイヤ12の一部が電気的に抵抗性になり、非超伝導ナノワイヤ12を流れる電流からの抵抗損失(IR)が、その後、ナノワイヤ12が十分に冷却されて超伝導であることを再開するのを妨げる場合に発生し得る。
【0106】
いくつかの実施形態において、ナノワイヤ12がラッチ状態にある場合、ナノワイヤ12の大部分は非超伝導である。例えば、ナノワイヤ12の少なくとも70%又は80%又は90%又は99%は、ラッチ状態において非超伝導であってもよい。
【0107】
光子を吸収し、ラッチされた抵抗状態にあるブランチ20は、バイアス電流IBIAS未満の電流ILATCHを搬送する。したがって、光子のパルスの吸収後に電源によって供給される全電流は、光子の1つを吸収したブランチ20の数に比例して減少する(これは光子のそれぞれがナノワイヤ12の異なる1つによって吸収される場合、光子のパルスにおける光子の数に等しい)。この電流は、(例えば電流測定回路36によって)測定され、読み出し信号として使用されてもよい。
【0108】
図2Bは、時間の関数としての全電流を示す曲線50を含むグラフである。測定は、時間t0で開始される。光子は、時間t1からt8で捕獲される。光子が捕獲されるたびに、全電流は、ΔI=IBIAS-ILATCHの量だけ低下する。ここで、IBIASは、1つのナノワイヤ12のバイアス電流であり、ILATCHは、ラッチ状態にあるナノワイヤ12の電流である。ナノワイヤ12は、リセットされるまでラッチされたままであるため、全電流は、光子が捕獲された後で、いつでも測定され得る。捕獲された光子の数Nは、以下によって決定され得る。
【数2】
ここで、ISTARTは、光子がナノワイヤ12によって吸収される前の全電流であり、IMEASUREは、光子がナノワイヤ12によって吸収された後に測定された電流である。
【0109】
識別器10によって正確に検出され得る光子の数に対する1つの制限は、ΔI=IBIAS-ILATCHが全てのブランチ20に対して同一ではない可能性があるという事実、及びISTART-IMEASUREの決定に関連する不確実性から生じる。特に、多数の光子が吸収される場合、Nの値が1つ以上の不確実性を有する場合があり得る。
【0110】
上記の制限は、
・全電流を複数回測定すること、及び/又は
・識別器10のナノワイヤ12を、それぞれが複数のナノワイヤ12を含む複数の別個の回路に分割し、別個の回路のそれぞれについて別個に全電流を測定することを含む様々なやり方で対処され得る。
【0111】
例えば、M個のナノワイヤ12を含む識別器10において、ナノワイヤ12は、2つ又は3つ以上の回路にグループ化されてもよく、全電流は、回路のそれぞれについて別個に測定されてもよい。いくつかの実施形態において、全電流は、到着光子の時間分解計数を提供するのに十分に高いレートで測定されてもよい。例えば、測定は、任意の2つの隣接する測定の間に、数個以上の光子がナノワイヤ12によって吸収される可能性が低くなり得る十分なレートで行うことができる。光子を含む光パルスが十分に広く、かつ読み出しが十分に速い場合、個々のラッチ事象が識別されてもよい。
【0112】
図2Bは、光子がナノワイヤ12に吸収された後に行われる測定に加えて、光子が検出されている間に一回以上の全電流を測定する例を示す。図2Bは、時間Mでの測定に加えて、時間Ma及び/又はMbで全電流の測定が行われる例を示す。これらの測定は、時間Mで行われる単一の測定によって達成され得るよりも低い不確実性でNの測定を達成するために使用されてもよい。
【0113】
いくつかの実施形態において、ナノワイヤは、導波路14の端部14Aからの距離に基づいて複数の回路にグループ化される。例えば、第1の回路は、端部14Aに最も近い第1のグループのナノワイヤ12を含んでもよく、第2の回路は、第1のグループに隣接するナノワイヤ12のグループを含んでもよく、以下同様である。いくつかの実施形態において、端部14Aに最も近いグループは、端部14Aから遠くに位置するグループよりも少ないナノワイヤ12を含む。
【0114】
ラッチされたブランチ20は、全てのナノワイヤ12が再び超電導になる温度まで冷却されるのに十分な時間の間、電源30からの電流の供給を中断することによって、対応するナノワイヤ12が再び超電導になるようにリセットされてもよい。例えば、ラッチされたナノワイヤ12から基板18を介して熱が持ち去られてもよい。
【0115】
識別器10は、例えば、パルス発生器として機能する電源30を印加することによって、バイアス電圧を一時的にゼロ又は別の低い値に下げることによってリセットされてもよい。パルス発生器は、例えば、リセット期間42によって分離されたパルス41を含む図2Aに示すような波形40を出力してもよい。パルス41は、ナノワイヤ12の臨界電流に対応するレベル43未満の振幅を有する。リセット期間42における波形40の振幅はゼロ又は十分に低く、これは、ラッチされたナノワイヤにおける抵抗加熱が、リセット期間42の終わりまでにラッチされたナノワイヤが再び超電導である温度まで冷却され得るように十分に低い。パルス41が等間隔であることは必須ではない。いくつかの実施形態において、パルス41は、識別器10によって計数されるべき光子を放出し得る事象と同時にトリガされる。パルス41が全て同じ持続時間であることは必須ではない。パルス41は、関心のある光子が検出され、かつ全電流が測定され得るのに十分な長さであるべきである。
【0116】
パルス発生器は、例えば、波形40のような波形を生成するようにコントローラ38によってADC30Aの出力電圧を制御することによって提供されてもよい。代替回路を電源30に使用してもよい。例えば、識別器10を駆動する波形は、アナログパルス発生器回路によって、又はスイッチング回路を用いて固定電圧電源の出力をスイッチングすることによって生成されてもよい。
【0117】
一部の実施形態において、リセット期間は短くてもよい。例えば、ラッチされたナノワイヤ12をリセットするために必要な時間は、リセット期間が10マイクロ秒を超えない期間又は10ナノ秒を超えない期間を有する場合であっても、ナノワイヤ12がリセットされるように、非常に短くてもよい(例えば、10ns未満)。リセット期間42の実際的な最小期間は、ナノワイヤ12と、ナノワイヤ12を冷却するヒートシンクとして機能する識別器10の低温部分との間の接続の熱伝導率、及び電源30、導体31、及び識別器10の電気的特性を含む様々な要因に依存する。
【0118】
コントローラ38は、
・光子計数を得るために読み出し信号を処理すること、
・識別器10を較正すること、
・適切なベース電流を提供するように識別器10を設定すること、
・識別器10のリセットをトリガすること等の追加の機能を提供してもよい。
【0119】
識別器10を較正するために、コントローラ38は、以下のステップを実行するように構成されてもよい。
1-一連のバイアス/リセットパルスを識別器10に印加し、識別器10に光子が入射しない状態で、リセット直前のバイアス電流を監視する。
2-バイアス電圧を徐々に増加させて、電流を監視する。電流は、より低いバイアス電流で線形的に上昇するはずであり、その後、電流の変化の勾配又は電流自体は減少するはずである。この変化の開始は、ナノワイヤ12における臨界電流に対応するバイアス電圧を示す。これは、臨界バイアス電圧と呼ばれる場合がある。
3-バイアスを臨界バイアス電圧よりも小さい値に設定し、一連のバイアス/リセットを印加する。
4-リセット直前に測定したバイアス電流のヒストグラムを測定する。
5-1パルスごとの平均光子数が1よりずっと小さいように較正された弱いレーザパルスを送る。
6-リセット直前に測定したバイアス電流のヒストグラムを測定する。
7-平均光子数を徐々に増加させて、それぞれの設定についてヒストグラムを測定する。
8-ヒストグラムのセットは、十分に分離されたピークを示すはずである。ピークを分離する垂直線は、検出された光子数に対応する閾値のセットである。
較正されたレーザパルスにおける光子の既知の統計値を、測定された光子の統計値と比較することにより、検出効率及び検出不確実性等の検出パラメータの決定が可能となる。異なるバイアス電流及び異なる光子波長を用いてこの手順を繰り返すことにより、他のセットの閾値及び性能測定値が得られる。
【0120】
コントローラ38は、較正手順によって決定された較正情報をデータストアに記憶するように構成されてもよい。例えば、較正情報は、ルックアップテーブルに記憶されてもよい。
【0121】
本明細書に記載される装置は、ラッチされたブランチ20の形態で複数の単一光子検出事象を「記憶」するように動作可能であることが理解され得る。ラッチされたブランチ20の数は、電源30によって供給された電流を読み出すことによっていつでも決定され得る。その後、ブランチ20は、本明細書に記載されるようにリセットされてもよい。記憶機能によって、高周波読み出しが不要になる(ただし、一部の実施形態において高周波読み出しが実行され得る)。より低い周波数で(例えば、光子の各パルスが導波路14に送達された後に一回)識別器10の出力を読み取ることは、誤差の発生源としての電気的クロストークを除去するのに役立つ。いくつかの実施形態において、識別器10は、少なくとも1MHzの繰り返し率で動作可能である。
【0122】
いくつかの実施形態において、識別器10に流れる電流をサンプリングして、個々の光子の吸収に起因する電流の変化を検出する。サンプリングレートは、個々の光子の検出時間を所望の精度レベルに決定するのに十分に高くてもよい。この動作モードは、光パルスの形状に関する情報を提供してもよく、又は蓄積された不確実性を低減するのに有用であってもよい。
【0123】
また、識別器10の設計は、隣接するナノワイヤ12間の比較的大きな距離を容易にする。この特徴は、誤差の発生源としての異なるナノワイヤ12間の熱クロストークを回避するのに役立つ。
【0124】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載する識別器10は、高い信頼度(例えば、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、又は少なくとも95%の信頼度レベル)でパルス状に導波路14に到達する光子を含む光子を計数するために適用される。
【0125】
いくつかの実施形態において、導波路14は、識別器10が合理的に広い範囲の波長を有する光子を計数するのに有効であるように、強い波長選択性を持たない。例えば、いくつかの実施形態による識別器10は、800nmの波長を有する光子及び1550nmの波長を有する光子を計数するように動作可能である(例えば、識別器10は、1550nm±20nm及び800nm±10nmの範囲の波長、又は800±50nm及び1550±100nmの範囲の波長を有する光子に対して90%以上の検出効率を有してもよい)。いくつかの実施形態において、本明細書に記載する識別器10は、約5000nm~約400nm以下の範囲の波長を有する光子を計数するように動作可能である。
【0126】
いくつかの実施形態において、導波路14は、光ファイバ16に光フィルタを組み込むことによって、及び/又は光ファイバ16のテーパと第1のナノワイヤ12との間の導波路14の部分にオンチップフィルタをパターニングすることによって、より高い波長選択性になる。このような光フィルタは、迷光を排除するのに有効であり、信号対ノイズ比を高める(すなわち、ナノワイヤに送達される不要な光子を減少させる)のに役立ち得る。
【0127】
識別器10が最も感度を有する波長範囲は、バイアス電流及び動作温度を変更することによって、小さな範囲内で調整されてもよい。
【0128】
広帯域動作を容易にするために、導波路14、光ファイバ16、コネクタ17及びナノワイヤ12の各々は、広帯域であってもよい(すなわち、導波路14、光ファイバ16、及びコネクタ17は、所望の帯域内の波長を有する光子を効率的に伝送してもよく、ナノワイヤ12は、エバネセント吸収によって所望の帯域内の光子を集合的に効率的に吸収し得る)。広帯域動作のいくつかの実施形態において、ファイバ16は、ターゲット波長における最適な性能のために選択され、及び/又は結合機構17は、ターゲット波長のために最適化される。
【0129】
非広帯域動作を容易にするために、導波路14は、光を操作するようにさらにパターニングされてもよい。例えば、穴は、隣接するナノワイヤ12の間にある導波路14の部分にエッチングされてもよい。穴の数、位置及び寸法は、導波路14内の光とナノワイヤ12との相互作用を調整するように設計されてもよい。非広帯域動作を達成する別の例示的なやり方は、光をフィルタリングするか、又はその伝播を遅くするために周期的に変調される幅を有するように導波路14を形成することである。このような構造は、典型的には、はるかに狭い有効帯域幅を提供する。
【0130】
単一の基板18は、本明細書に記載されるように、任意選択的に、複数の光子計数識別器を担持してもよい。例えば、20×20mmのチップは、数百までのそのような識別器を収容し得る。
【0131】
識別器10及びその動作条件を設計する際に、ナノワイヤ12の材料、動作波長及び動作温度が基本設計パラメータとして採用されてもよい。これらから、効率的な光子検出のためのナノワイヤ12の最大幅が決定されてもよい。導波路14の材料及び寸法、並びにナノワイヤ12から導波路14までの間隔は、導波路14内の光子に対するナノワイヤ12の所望の結合強度を得るために、ナノワイヤ12の幅に基づいて設計されてもよい。
(用語の解釈)
【0132】
文脈が明らかに他を必要としない限り、説明及び請求項の全体を通して、・「備える」、「備え」等は、排他的又は網羅的な意味とは対照的に、包括的な意味で、すなわち、「含むがこれに限定されない」の意味で解釈されるべきである。「接続される」、「結合される」、又はその変形は、直接的又は間接的に、2つ以上の要素間の接続又は結合を意味する。要素間の結合又は接続は、物理的、論理的、又はそれらの組み合わせであり得る。「本明細書中」、「上記」、「下記」、及び同様の意味を有する語は、本明細書を記述するために使用される場合、本明細書全体を指すものとし、本明細書の特定の部分を指すものではない。「又は」は、2つ以上の項目のリストに関して、リスト内の任意の項目、リスト内の全ての項目、及びリスト内の任意の項目の組み合わせの単語の解釈の全てを含む。単数形「a」、「an」、及び「前記(the)」は、適切な複数形の意味も含む。
【0133】
本明細書及び添付の特許請求の範囲(存在する場合)において使用される「垂直」、「横」、「水平」、「上方」、「下方」、「前方」、「後方」、「内側」、「外側」、「左」、「右」、「前側」、「後側」、「上部」、「底部」、「下部」、「上」、「下」等の方向を示す語は、説明及び図示された装置の特定の向きに依存する。本明細書に記載される主題は、種々の代替的な向きを想定し得る。したがって、これらの方向用語は厳密に定義されておらず、厳密に解釈されるべきではない。
【0134】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される装置は、コントローラを含む。コントローラは、専用設計ハードウェア、構成可能ハードウェア、データプロセッサ上で実行可能なソフトウェア(任意選択的に「ファームウェア」を備え得る)の提供によって構成されるプログラム可能データプロセッサ、本明細書に詳細に説明された方法における1つ以上のステップを実行するように特別にプログラムされ、構成され、又は構築された専用コンピュータ又はデータプロセッサ、及び/又はこれらの2つ以上の組み合わせを使用して実装されてもよい。専用設計ハードウェアの例は、論理回路、特定用途向け集積回路(「ASIC」)、大規模集積回路(「LSI」)、超大規模集積回路(「VLSI」)等である。構成可能ハードウェアの例は、プログラマブルアレイロジック(「PAL」)、プログラマブルロジックアレイ(「PLA」)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(「FPGA」)等の1つ以上のプログラム可能論理装置である。プログラム可能データプロセッサの例は、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ(「DSP」)、埋め込みプロセッサ、グラフィックスプロセッサ、数値演算コプロセッサ、汎用コンピュータ、サーバコンピュータ、クラウドコンピュータ、メインフレームコンピュータ、コンピュータワークステーション等である。例えば、装置の制御回路内の1つ以上のデータプロセッサは、プロセッサにアクセス可能なプログラムメモリ内のソフトウェア命令を実行することによって、本明細書に記載の方法を実装してもよい。
【0135】
本発明のいくつかの態様は、プログラム製品の形態で提供されてもよい。プログラム製品は、データプロセッサによって実行されると、データプロセッサに本発明の方法(例えば、本明細書に記載の装置を制御する方法、及び/又は本明細書に記載の装置を較正する方法、及び/又は本明細書に記載の装置からの読み出しを処理する方法)を実行させるコンピュータ可読命令のセットを担持する任意の非一時的媒体を備えてもよい。本発明によるプログラム製品は、多種多様な形態のいずれであってもよい。プログラム製品は、例えば、ハードディスクドライブ、フロッピーディスクを含む磁気データ記憶媒体、CDROM、DVDを含む光学データ記憶媒体、ROM、フラッシュRAM、EPROMを含む電子データ記憶媒体、配線接続又は事前プログラムされたチップ(例えばEEPROM半導体チップ)、ナノテクノロジーメモリ等を備えてもよい。プログラム製品におけるコンピュータ可読信号は、任意選択的に、圧縮又は暗号化されてもよい。
【0136】
いくつかの実施形態において、本発明の所定の態様は、ソフトウェアで実装される。より明確にするために、「ソフトウェア」は、プロセッサ上で実行される任意の命令を含み、ファームウェア、常駐ソフトウェア、マイクロコード等を含み得るが、これらに限定されない。処理ハードウェア及びソフトウェアの両方は、当業者に知られているように、全体又は部分的に集中化又は分散化(又はその組み合わせ)されてもよい。例えば、ソフトウェア及び他のモジュールは、ローカルメモリを介して、ネットワークを介して、分散コンピューティングの文脈におけるブラウザ又は他のアプリケーションを介して、又は上記の目的に適した他の手段を介してアクセス可能であってもよい。
【0137】
構成要素(例えば、ソフトウェアモジュール、プロセッサ、導波路、抵抗器、電源、アセンブリ、装置、回路等)が上記で言及された場合、別段の指示がない限り、その構成要素への言及(「手段」への言及を含む)は、その構成要素の均等物として、説明された構成要素の機能を実行する任意の構成要素(すなわち、機能的に均等なもの)を含むものとして解釈されるべきであり、これには、本発明の例示的実施形態において機能を実行する本開示の構造と構造的に均等でない構成要素が含まれる。
【0138】
システム、方法及び装置の具体例は、例示目的で本明細書に記載されている。これらは単なる例に過ぎない。本明細書で提供される技術は、上述の例示的なシステム以外のシステムに適用され得る。多くの変更、修正、追加、省略、及び並べ替えも本発明の実施内で可能である。本発明は、当業者に明らかな記載された実施形態の変形を含み、これには、特徴、要素及び/又は動作を均等な特徴、要素及び/又は動作と置き換えること、異なる実施形態の特徴、要素及び/又は動作を混合及び一致させること、本明細書に記載された実施形態の特徴、要素及び/又は動作を他の技術の特徴、要素及び/又は動作と組み合わせること、及び/又は記載された実施形態の特徴、要素及び/又は動作を組み合わせることを省略することによって得られる変形が含まれる。
【0139】
本明細書では、様々な特徴が「いくつかの実施形態」に存在するものとして記載されている。このような特徴は必須ではなく、全ての実施形態に存在しなくてもよい。本発明の実施形態は、そのような特徴の0、任意の1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせを含み得る。そのような特徴が異なる図面に示され、及び/又は異なるセクション又は段落に記載されている場合であっても、そのような特徴の全ての可能な組み合わせが本開示によって企図される。これは、そのような特徴のうちの所定のものが、そのような特徴の他のものと両立しない程度に限定され、その意味では、当業者がそのような両立しない特徴を組み合わせた実用的な実施形態を構築することは不可能であろう。したがって、「いくつかの実施形態」が特徴Aを有し、「いくつかの実施形態」が特徴Bを有するという記載は、発明者が特徴Aと特徴Bとを組み合わせる実施形態も意図していることを明示していると解釈されるべきである(明細書に別段の記載がない場合、又は特徴A及び特徴Bが基本的に両立しない場合を除く)。
【0140】
したがって、以下の添付の特許請求の範囲及び以下に紹介する特許請求の範囲は、合理的に推論することができるような変形、並べ替え、追加、省略、及び部分的組み合わせの全てを含むものと解釈されることが意図される。特許請求の範囲は、例示に記載された好ましい実施形態によって限定されるべきではなく、全体としての説明と一致する最も広い解釈が与えられるべきである。
図1
図1A
図2
図2A
図2B
【国際調査報告】