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特表2024-525946二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/06 20060101AFI20240705BHJP
   B29C 55/12 20060101ALI20240705BHJP
   B29C 48/305 20190101ALI20240705BHJP
   B29C 48/21 20190101ALI20240705BHJP
   B29K 67/00 20060101ALN20240705BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20240705BHJP
【FI】
B29C55/06
B29C55/12
B29C48/305
B29C48/21
B29K67:00
B29L7:00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503931
(86)(22)【出願日】2022-07-13
(85)【翻訳文提出日】2024-01-22
(86)【国際出願番号】 KR2022010208
(87)【国際公開番号】W WO2023018029
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】10-2021-0105996
(32)【優先日】2021-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518215493
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ヒョンクック
(72)【発明者】
【氏名】パク,ハンス
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,サンス
【テーマコード(参考)】
4F207
4F210
【Fターム(参考)】
4F207AA24
4F207AB11
4F207AG01
4F207AG03
4F207AH73
4F207KA01
4F207KA17
4F207KB26
4F207KK64
4F207KL84
4F210AA24
4F210AB11
4F210AG01
4F210AG03
4F210AH73
4F210AR06
4F210AR08
4F210AR12
4F210AR20
4F210QA02
4F210QA03
4F210QC02
4F210QC06
4F210QD25
4F210QG01
4F210QG15
4F210QG18
4F210QL16
4F210QM15
4F210QW05
(57)【要約】
本出願は、二軸延伸ポリエステルフィルムおよびその製造方法に関する。本出願によれば、ボーイング現象が抑制され、位相差の偏差が減少すると同時に、フィルムの均一性と機械的物性が改善されたポリエステルフィルムが提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
未延伸ポリエステルシートを第1方向で延伸する第1延伸段階を含むポリエステルフィルムの製造方法であり、
前記第1方向での延伸を下記の関係式を満足する条件で行う、ポリエステルフィルムの製造方法:
[関係式]
0.095<y<0.110
(上記関係式中、y=(a/b)x100であり、aは、第1方向での延伸温度(℃)であり、bは、第1方向での延伸速度(%/min)であり、前記yは、無次元の定数である。
ここで、前記第1方向の延伸速度は、下記の式1によって計算される。
[式1]
第1方向の延伸速度(%/min)=ΣSn/n
上記式1中、nは、1以上の整数であり、Snは、n+1個の延伸ロールを備えたn段延伸工程において各区間別延伸速度(%/min)を意味し、各区間別延伸速度は、下記の式2によって計算される。
[式2]
n=En/[Ln/{(Rn+1-Rn)/2}]
上記式2中、Enは、第1区間から第n区間までn段延伸が行われる工程におけるそれぞれの区間での延伸量(%)であり、RnおよびRn+1は、n番目の区間を形成するn+1番目の延伸ロール、およびn番目の延伸ロール(Roll)の回転速度(m/min)であり、Lnは、n番目の区間を形成するn+1番目の延伸ロールとn番目の延伸ロールとの間の距離(m)を意味する。)
【請求項2】
前記第1方向での延伸を80~120℃の範囲の温度で行う、請求項1に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記第1方向での延伸を80,000~95,000%/minの範囲の延伸速度で行う、請求項1に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
320%以下の延伸量で前記第1方向での延伸を行う、請求項1に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記第1延伸段階の後に、第1方向に延伸が行われたフィルムを、第1方向と交差する第2方向に延伸する第2延伸段階;
をさらに含む、請求項1に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記第1方向は、機械方向(MD:machine direction)であり、第2方向は、幅方向(TD:transverse direction)である、請求項5に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記第2方向での延伸を、前記第1方向での延伸よりも高い温度で行う、請求項5または6に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記第2方向での延伸を80~140℃の範囲の温度で行う、請求項5または6に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項9】
第1方向および第2方向に延伸されたフィルムは、20~60μmの範囲内の厚さを有する、請求項5に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記第2延伸段階の後に行われる熱処理段階;をさらに含み、
前記熱処理は、第1方向での延伸温度および第2方向での延伸温度よりも高い温度で行われる、請求項5に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記熱処理段階を120~250℃の範囲の温度で行う、請求項10に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項12】
前記熱処理段階は、相対的に低い温度で行われる第1熱処理段階、および相対的に高い温度で行われる第2熱処理段階を含み、
前記第1熱処理段階は、120~180℃で行われる、請求項10または11に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項13】
ポリエステル樹脂を含むチップを押出して前記未延伸シートを製造する、請求項1に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項14】
前記チップは、添加剤および粒子の中から選択される1つ以上をさらに含む、請求項13に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項15】
前記未延伸シートは、多層フィルムであり、前記多層フィルムは、組成が互いに異なる2個以上のチップから2個以上の層を共押出して製造される、請求項13に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学用フィルムは、ディスプレイ用光学素材として使用されるフィルムであって、LCDのBLU(Back Light Unit)またはタッチパネル(Touch Panel)などの各種光学ディスプレイの表面保護および工程キャリア(Carrier)用光学素材(部材)として使用される。このような光学用フィルムとしては、ポリエステルフィルムが使用できる。例えば、ポリエステルフィルムが偏光板の製造工程に使用される場合、偏光板の欠点を検査する際に、離型フィルムが貼り付けられた偏光板の配向主軸と、検査機の結晶軸とを垂直に配置した状態で検査を進行させるため、離型フィルムの基材であるポリエステルフィルムの配向角が低くあってこそ、検査時に、色の歪曲を防止し、検査感度を向上させることができる。
【0003】
一方、PETのようなポリエステルフィルムの製造時に、同時二軸延伸や逐次二軸延伸の方法が使用されている。例えば、逐次二軸延伸方法によりポリエステルフィルムが製造される場合、未延伸フィルムに対する機械方向(MD:machine direction)の延伸後に、幅方向(TD:transverse direction)の延伸が、順次に行われるのであって、テンター(tenter)という設備内で熱処理が行われうる。しかし、このような熱処理によって、いわゆるボーイング(bowing)現象が発生する。ボーイング現象とは、延伸前にフィルムの幅方向にひいた直線が、延伸および熱処理が行われた後に弓形(曲がった)状に変形される現象を意味するのであるが、このような現象は、フィルム内の位相差の偏差に関連する。位相差の偏差によって、フィルムの色の不均一、斑および干渉色などが発生するので、位相差の偏差が大きいフィルムは、光学用フィルムとして不適となる。
【0004】
従来技術では、ボーイング現象の抑制のために、機械方向(MD:machine direction)での配向度を低くし、テンター(tenter)設備内の熱処理時、幅方向(TD:transverse direction)の収縮偏差を最小化する方法が考慮された。例えば、MD方向で延伸されたフィルムは、その両辺部がクリップによって固定された状態でテンター(tentor)設備内で熱処理されるが、このような過程でMD配向度を低くすると(つまり、MD延伸比を低くすると)、縦方向(MD方向)に配向された高分子鎖(orientation chain)が、テンター(tentor)内にて、クリップで固定されたフィルムの両辺部と、クリップによって固定されていないフィルム中央部との、縦方向の熱による収縮挙動の差を低減することができるのであって、その結果として、ボーイング現象が抑制されるという処置が取られていた。
【0005】
しかし、機械方向(MD)での配向度を低くすること、つまり、機械方向での延伸比を低くする場合には機械方向での配向が低くなるということにともない、延伸の均一性が保証されにくいという問題がある。延伸が多くなるほど厚さが均一になり、機械的剛性が高くなるというポリエステルフィルムの特性を考慮するとき、機械方向での配向度を低くする従来技術に対する改善が必要である。また、機械方向での配向度を低くする場合には、偏光斑の発生と面内配向性の不足による熱シワ品質の不良が発生するので、それに対する改善も必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願の一つの目的は、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造時に行われる、延伸および熱処理の工程に関連して発生する、上述した従来技術の問題点を解決することである。
【0007】
本出願の他の目的は、ボーイング現象が抑制されたポリエステルフィルムおよびその製造方法を提供することである。
【0008】
本出願のさらに他の目的は、位相差の偏差が減少したポリエステルフィルムおよびその製造方法を提供することである。
【0009】
本出願のさらに他の目的は、光学用またはディスプレイ用部材として好適なポリエステルフィルムおよびその製造方法を提供することである。
【0010】
本出願の上記の目的およびその他の目的は、下記の詳細に説明される本出願によりすべて解決できる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本出願の具体例によれば、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法およびそれから製造されたフィルムが提供される。
【0012】
具体的には、本出願の発明者は、ボーイング現象を抑制できるように低倍率延伸(例:MD延伸)が行われる場合に、低倍率延伸によるフィルムの均一性を犠牲にしない、延伸速度と延伸温度との間の関係を実験的に確認して、本発明を完成した。後述する本発明によれば、ボーイング現象を抑制するだけでなく、低倍率延伸においてもフィルムの均一性を確保でき、それに伴い幅方向の位相差の偏差が減少したフィルムが提供できる。
【0013】
以下、本出願発明をより詳しく説明する。
【0014】
本出願の一例において、本出願は、ポリエステルフィルムの製造方法に関する。
【0015】
具体的には、前記方法は、未延伸ポリエステルシートを第1方向に延伸する第1延伸段階を含み、前記第1方向での延伸は、下記の関係式を満足する条件で行われる。
【0016】
[関係式]
0.095<y<0.110
【0017】
ただし、上記関係式中、y=(a/b)x100であり、aは、第1方向での延伸温度(℃)であり、bは、第1方向での延伸速度(%/min)であり、前記yは、無次元の定数として扱われる。
【0018】
ここで、前記第1方向の延伸速度は、下記の式1によって計算される。
【0019】
[式1]
第1方向の延伸速度(%/min)=ΣSn/n
【0020】
上記式1中、nは、1以上の整数であり、Snは、n+1個の延伸ロールを備えたn段の延伸工程におけるそれぞれの区間別の延伸速度(%/min)を意味し、それぞれの区間別の延伸速度は、下記の式2によって計算される。
【0021】
[式2]
n=En/[Ln/{(Rn+1-Rn)/2}]
【0022】
上記式2中、Enは、第1区間から第n区間までのn段の延伸が行われる工程におけるそれぞれの区間での延伸量(%)であり、RnおよびRn+1は、n番目の区間を形成するn+1番目の延伸ロール、及びn番目の延伸ロール(Roll)の回転速度(m/min)であり、Lnは、n番目の区間を形成するn+1番目の延伸ロールとn番目の延伸ロールとの間の距離(m)を意味する。
【0023】
ここで、前記延伸量は、ポリエステルフィルム延伸の技術分野にて使用される延伸比と同じ意味で使用される。例えば、前記第1方向での延伸量(%)が300%というのは、第1方向での延伸比が3.00倍であることを意味する。通常、延伸比は、延伸前の長さに対する延伸後の長さの比(延伸後の長さ/延伸前の長さ)を意味するが、ロールツーロールを用いた延伸では、延伸前のロール速度に対する延伸後のロール速度の比を延伸比として使用したりする。
【0024】
本出願の具体例において、前記第1方向の延伸が2段延伸工程で行われる場合、上記式1および式2は、下記のように表現される。
【0025】
[式1-1]
第1方向の延伸速度=(S1st+S2nd)/2
【0026】
上記式1-1中、S1stおよびS2ndは、第1~第3の延伸ロールを備えた2段延伸工程において、式2-1および2-2で表される1番目の区間および2番目の区間の区間別の延伸速度(%/min)であり、
【0027】
[式2-1]
1st=E1/[L1/{(R2-R1)/2}]
【0028】
[式2-2]
2nd=E2/[L2/{(R3-R2)/2}]
【0029】
式2-1および2-2中、E1およびE2は、それぞれ前記2段延伸工程の各区間での延伸倍率(%)であり、R1、R2、およびR3は、それぞれ独立して個別の延伸ロール(Roll、R/L)の回転速度(m/min)であり、L1は、第1延伸ロールから第2延伸ロールまでの間の距離(m)であり、L2は、第2延伸ロールから第3延伸ロールまでの間の距離(m)である。
【0030】
一つの例において、上記関係式の数値の下限は、0.096以上、0.097以上、0.098以上、0.099以上、0.100以上、0.101以上、0.102以上、0.103以上、0.104以上または0.105以上でありうる。そして、その上限は、例えば、0.109以下、0.108以下、0.107以下、0.106以下、0.105以下、0.104以下、0.103以下、0.102以下、0.101以下または0.100以下でありうる。
【0031】
本出願の具体例によれば、後述するように、第1方向の第1延伸が先に行われる逐次二軸延伸が行われるが、以下の実験例を通して見られるように、第1方向延伸に関する工程条件が上記関係式による範囲を満足する場合、上述した従来技術の問題点を解消するのに効果があることが確認された。これは、逐次二軸延伸においてボーイングのような問題を発生させる主な原因が、第1方向(例:MD方向)での配向度にあるためと考えられる。本出願発明者が実験を通して確認したところによれば、第2方向(例:TD方向)に関する延伸条件(例:延伸倍率)の制御は、上記関係式を満足する第1方向の延伸条件に対する、従来技術における問題点の改善に、有意な結果を提供できない。
【0032】
上述した関係式を満足できれば、前記第1方向での延伸温度(℃)は特に制限されない。
【0033】
例えば、前記第1延伸は、延伸対象ポリエステルのガラス転移温度(Tg)以上の温度で行われうる。本出願の具体例によれば、前記第1方向での延伸は、例えば、80℃以上、85℃以上、90℃以上、95℃以上または100℃以上で行われる。そして、その上限は、特に制限されないが、例えば、120℃以下、115℃以下、110℃以下、105℃以下、100℃以下または95℃以下でありうる。
【0034】
上述した関係式を満足できれば、前記第1方向での延伸速度(%/min)は、特に制限されない。
【0035】
例えば、本出願の具体例によれば、前記第1方向での延伸速度は、80,000%/min以上、81,000%/min以上、82,000%/min以上、83,000%/min以上、84,000%/min以上、85,000%/min以上、86,000%/min以上、87,000%/min以上、88,000%/min以上、89,000%/min以上、90,000%/min以上、91,000%/min以上または92,000%/min以上でありうる。そして、その上限は、例えば、95,000%/min以下、94,500%/min以下、94,000%/min以下、93,500%/min以下、93,000%/min以下、92,500%/min以下、92,000%/min以下、91,500%/min以下、91,000%/min以下、90,500%/min以下または90,000%/min以下でありうる。
【0036】
実験的に確認した結果、上述した関係式の満足を前提に、このような温度および延伸速度範囲で第1延伸が行われる場合、フィルムの均一性が低下しない。
【0037】
本出願の具体例によれば、前記第1方向での延伸量(%)は、一般にフィルムの均一性確保のために行われる延伸量よりも低い水準であってもよい。例えば、逐次二軸延伸に関する最近の技術において、第1方向(例:MD)延伸は、330~400%程度といったように、約350%前後またはそれを上回る水準で行われているが、本出願の製造方法では、それより低い水準の第1方向の延伸量を得ることができる。
【0038】
例えば、前記第1方向での延伸は、延伸量が320%以下、310%以下、300%以下、290%以下、280%以下、または270%以下でありうる。上述のように、従来技術で延伸量を低くすることは、ボーイング現象を抑制する1つの手段として使用されていたが、低い延伸量(延伸比)はポリエステルフィルムの均一性を劣化させるという問題がある。しかし、本出願では、上記関係式のように、延伸速度と延伸温度との間の関係を制御するため、低倍率延伸によるフィルムの均一性を犠牲にしないのでありうる。前記第1方向での延伸量の下限は特に制限されないが、延伸が過度に低い場合にはフィルムの強度を高めにくいため、これを考慮して、前記第1方向延伸の延伸量の下限は、250%以上、260%以上、270%以上、280%以上、290%以上、300%以上または310%以上でありうる。
【0039】
一つの例において、前記延伸が行われる第1方向は、機械方向(MD:machine direction)(または縦方向)でありうる。しかし、これに制限されるわけではなく、前記第1方向は、前記機械方向と直角をなす幅方向(TD:transverse direction)(または横方向)でありうる。
【0040】
一つの例において、前記方法は、逐次に二軸延伸を行う方法でありうる。具体的には、前記方法は、先に行われた前記第1延伸段階の後に、第1方向に延伸が行われたフィルムを第1方向と交差する第2方向で延伸する第2延伸段階をさらに含む方法でありうる。第1方向と第2方向との交差する角度は特に制限されないが、直角でありうる。
【0041】
逐次二軸延伸を行う本出願の方法の具体例によれば、前記第1方向は、機械方向(MD:machine direction)であり、第2方向は、幅方向(TD:transverse direction)でありうる。
【0042】
一つの例において、前記方法は、第1延伸段階の実施後第2延伸段階の実施前に、第1方向で延伸されたフィルムを予熱する段階をさらに含むことができる。予熱が行われる温度は特に制限されないが、例えば、前記予熱は、ポリエステルフィルムのガラス転移温度(Tg)以上の温度で行われうる。ポリエステルフィルムのガラス転移温度は、重合度による固有粘度(I.V.)などに応じて異なるが、一般に65~85℃の範囲でありうる。これを考慮して、前記予熱は、例えば、65~95℃で行われうるが、前記温度範囲に予熱温度が特定されるわけではない。
【0043】
前記第2方向での延伸が行われる温度は特に制限されない。本出願の具体例において、前記第2方向で延伸が行われる温度は、80℃以上、85℃以上、90℃以上、95℃以上、100℃以上、105℃以上または110℃以上でありうるのであり、その上限は、例えば、140℃以下、135℃以下、130℃以下、125℃以下、120℃以下、115℃以下、110℃以下または105℃以下でありうる。
【0044】
一つの例において、前記第2方向での延伸は、前記第1方向での延伸より高い温度で行われうる。
【0045】
このような温度条件で第2方向延伸が行われる場合、フィルムの破断なしに安定した工程を行うことができる。
【0046】
本出願の具体例において、前記第2方向での延伸は、テンター内で行われ、この場合、前記第2方向での延伸速度(%/min)は、4,500%/min~5,500%/minの範囲でありうる。ここで、第2方向での延伸速度は、下記の式3によって計算されうる。
【0047】
[式3]
第2方向の延伸速度(%/min)=E/(L/LSP)
【0048】
上記式3中、Eは、テンター式延伸工程において複数の延伸ゾーンでの延伸量(%)であり、Lは、複数の延伸ゾーンの総長さ(m)であり、LSPは、テンター式延伸工程における線速度(Line speed)(m/min)である。
【0049】
特に制限されるわけではないが、このような第2方向での延伸に関連して、複数の延伸ゾーンは、例えば、第1~第3延伸ロールを備えた2段延伸のように、2個以上でありうる。
【0050】
一つの例において、前記第2方向での延伸は、500%以下の延伸量(%)で行われうる。例えば、前記第2方向延伸の延伸量は、490%以下、480%以下、470%以下、460%以下、450%以下、440%以下、430%以下、420%以下、410%以下または400%以下でありうる。そして、その下限は、例えば、200%以上、250%以上、300%以上、350%以上または400%以上でありうる。
【0051】
第2方向での延伸量も、延伸比と同じ意味で使用されうる。上述のように、延伸比は、延伸前の長さに対する延伸後の長さの比(延伸後の長さ/延伸前の長さ)を意味するが、テンター式の延伸の場合、テンターの入口側の幅W1(m)に対する出口側の幅W2(m)の比により延伸比を定義したりする。
【0052】
前記第2方向の延伸速度と延伸量を満足する場合、物性の劣化および破断がなしにフィルムを製造するのに有利である。
【0053】
一つの例において、前記方法は、前記第2延伸段階の後に行われる熱処理(または熱固定)段階をさらに含むことができる。熱処理は、加温または加熱された雰囲気にフィルムを露出するもので、このような熱処理によりフィルムの機械的物性(例:剛性など)を高めることができる。
【0054】
特に制限されないが、前記熱処理は、第1延伸および第2延伸が行われる温度よりも高い温度で行われうる。
【0055】
一つの例において、前記熱処理は、120~250℃の範囲の温度で行われうる。具体的には、前記熱処理温度の下限は、例えば、130℃以上、140℃以上、150℃以上、160℃以上、170℃以上、180℃以上、190℃以上または200℃以上でありうるのであり、その上限は、例えば、240℃以下、230℃以下、220℃以下、210℃以下または200℃以下でありうる。
【0056】
本出願の具体例によれば、前記熱処理は、互いに異なる温度で段階別に行われうる。具体的には、前記熱処理段階は、相対的に低い温度で行われる第1熱処理段階、および相対的に高い温度で行われる第2熱処理段階を含むことができる。
【0057】
第1熱処理および第2熱処理の温度は、フィルムの機械的物性(例:剛性など)を考慮して適切に調節可能であるが、例えば、前記第1熱処理は、120~180℃で行われうる。また、前記第2熱処理は、例えば、160℃以上の温度、具体的には180~250℃の温度で行われうる。実験的に確認した結果、第2熱処理の温度を前記範囲内に制御することが、ポリエステルフィルムの剛性の確保において、より有利である。
【0058】
特に制限されないが、順次に行われる第1および第2熱処理は、例えば、二軸延伸されたフィルムが、温度が互いに異なるように設定されたテンター(tentor)設備内の区域を、順次に通過するという方式で行われうる。
【0059】
一つの例において、前記方法は、前記熱処理段階の後に、熱処理されたフィルムを弛緩する段階をさらに含むことができる。このような延伸および熱処理が行われたフィルムをそのまま後加工すれば、熱による寸法変化が発生するという問題がある。弛緩処理は、このような寸法変化の問題を防止することができる。
【0060】
特に制限されないが、このような弛緩処理は、公知の方式、例えば、テンター(tenter)内にて、フィルムを把持したクリップ(clip)のレール(rail)を幅方向に縮めたり、機械方向(MD)のクリップ間の間隔を縮めたりする方式で行われうる。
【0061】
弛緩処理にも所定の熱が必要になるので、上述した熱処理とともに弛緩処理が行われてもよい。ただし、弛緩処理の実施方式が、このような方式にのみ制限されるわけではなく、必要に応じて、熱処理区間と区別された冷却区間(冷却ゾーン(zone))を通しても弛緩処理が行われうる。
【0062】
一つの例において、前記弛緩は、第1方向および/または第2方向で行われうる。
【0063】
一つの例において、前記弛緩処理は、2.0~5.0%の範囲の弛緩率を満足するように行われる。ここで、前記弛緩率は、ポリエステルフィルム延伸の技術分野にて使用される総(トータルの)弛緩率と同じ意味で使用されうる。
【0064】
特に制限されないが、第1延伸段階の後の過程、例えば、第1方向に延伸されたフィルムに対する予熱、第2方向での延伸、熱処理および弛緩といった工程は、テンター(tenter)として知られた設備を通して行われうる。この場合、テンターの空間は、予熱ゾーン(zone)、第2方向延伸ゾーン(zone)、熱処理ゾーン(zone)、その他の冷却ゾーン(zone)などを含むといったように、それぞれの工程または処理を行うことができる別個の区域を含むか、分画されたものでありうる。弛緩処理まで完了したフィルムは、テンター設備から排出される。
【0065】
一つの例において、前記方法は、前記弛緩段階の後に、弛緩処理されたフィルムを巻取る段階をさらに含むことができる。巻取に使用される方法や装置は特に制限されず、公知の方法を利用して適切に行われる。
【0066】
前記第1方向延伸などの工程を経る未延伸シートを製造する方法は特に制限されない。例えば、ポリエステル樹脂やこれを含む組成物またはチップを、(溶融)押出して製造されたものでありうる。押出には、従来技術で幅広く使用されるT-ダイを用いた溶融押出が行われるのであって、押出された未延伸シートは冷却されうる。
【0067】
前記組成物またはチップに含まれるポリエステル樹脂は、公知の成分、例えば、酸成分(例:ジカルボン酸成分)とグリコール成分との間の反応により得られたものでありうる。
【0068】
使用可能なジカルボン酸の具体的な種類は特に制限されないが、例えば、テレフタル酸またはそのアルキルエステルやフェニルエステルなどが使用可能であり、場合によっては、イソフタル酸、オキシエトキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸および5-ナトリウムスルホイソフタル酸などの二官能性カルボン酸、またはそのエステル形成誘導体で置換されたものが一部使用されうる。
【0069】
また、使用可能なグリコール成分の種類も特に制限されないが、例えば、エチレングリコールと、その他の混合成分として、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ビスオキシエトキシベンゼン、ビスフェノールおよびポリオキシエチレングリコールから選択される成分の1つ以上が使用されうる。
【0070】
一つの例において、前記ポリエステル樹脂は、ポリエチレンテレフタレート(PET)でありうる。具体的には、前記ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸(Terephthalic acid)を使用し、グリコール成分としてエチレングリコール(Ethylene glycol)を使用して製造されたポリエチレンテレフタレートでありうる。
【0071】
一つの例において、前記ポリエステル樹脂としては、固有粘度が0.6~0.7dl/gのものが使用できる。前記固有粘度を満足するポリエステル樹脂は、フィルムに耐熱性を付与し、フィルムを形成する層間界面安定性や安定した積層、および走行安定性を確保するのに有利である。
【0072】
一つの例において、前記未延伸ポリエステルシートは、ポリエステル樹脂以外に他の成分をさらに含むことができる。つまり、未延伸ポリエステルシートを製造するのに使用される組成物またはチップは、ポリエステル樹脂以外に他の成分を含むことができる。他の成分は、例えば、公知の各種添加剤や粒子でありうる。
【0073】
フィルムに含まれる添加剤の種類は特に制限されないが、例えば、ピニング剤(pinning)、帯電防止剤、紫外線安定剤、防水剤、スリップ剤および熱安定剤の中から選択される1つ以上でありうる。光安定剤の場合、例えば、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾオキサジノン系化合物、ベンゾエート系化合物、フェニルサリシレート系化合物、またはヒンダードアミン系化合物などが使用されうる。
【0074】
フィルムに含まれる粒子は、有機または無機粒子でありうる。このような粒子は、例えば、フィルム製造工程に関するアンチブロッキング剤(anti-blocking agent)として機能する有機粒子、無機粒子またはハイブリッド粒子でありうる。無機粒子は、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、二酸化チタン、カオリン、硫酸バリウム、アルミナシリケートおよびカルシウムカーボネートから選択される1つ以上でありうるが、これらに制限されるわけではない。有機粒子は、例えば、シリコーン樹脂、架橋ジビニルベンゼンポリメタクリレート、架橋ポリメタクリレート、架橋ポリスチレン樹脂、ベンゾグアナミン-ホルムアルデヒド樹脂、ベンゾグアナミン-メラミン-ホルムアルデヒド樹脂、およびメラミン-ホルムアルデヒド樹脂から選択される1つ以上でありうるが、これらに制限されるわけではない。ハイブリッド粒子は、例えば、異なる2つの成分が、それぞれコアおよびシェル(コーティング成分)を形成した粒子を意味しうる。粒子が使用される場合、例えば、その含有量(重量)は、全体フィルムベースで200~2,000ppmまたは400~1,000ppmの範囲でありうる。また、使用される粒子は、最も長い次元の長さが、例えば、0.01~5μmまたは0.1~3μmの範囲内であるか、前記範囲内の平均粒径を有することができる。
【0075】
一つの例において、前記未延伸シートは、単層または多層のフィルムでありうる。単層フィルムは、上述したポリエステル樹脂成分を含むことができ、多層フィルムは、多層フィルムを形成する2層の少なくとも1つ以上の層が、上述したポリエステル樹脂成分を含むことができる。
【0076】
本出願の具体例において、前記未延伸シートが多層フィルムの場合、前記多層フィルムは、組成が互いに異なる2個以上のチップからそれぞれ形成された2個以上の層を共押出して製造されたものでありうる。
【0077】
前記未延伸シートが多層フィルムの場合、前記フィルムは、コア層、および前記コア層の両面にそれぞれ少なくとも1層以上が積層されたスキン層を含むことができる。これらは共押出されて未延伸シートを構成することができる。
【0078】
特に制限されないが、前記スキン層は、アンチブロッキング機能の粒子を含むものでありうるのであって、コア層は、前記機能の粒子を含まないものでありうる。ここで、前記多層フィルムは、フィルム全体の70~90重量%を占めるコア層、および10~30重量%を占めるスキン層を含むことができる。
【0079】
一つの例において、前記方法は、コア層形成チップおよびスキン層形成チップを、それぞれ溶融後に共押出して、多層の未延伸シートを製造する段階をさらに含むことができる。この時、共押出の温度は、特に制限されないが、工程性などを考慮するとき、260~300℃でありうる。場合によっては、前記共押出されたフィルムに対して、冷却工程が追加的に行われうる。冷却が行われる温度は、例えば、40℃以下または30℃以下でありうる。
【0080】
本出願の具体例において、前記二軸延伸フィルムは、20~60μmの範囲の厚さを有することができる。具体的には、前記厚さの下限は、例えば、25μm以上、30μm以上、35μm以上または40μm以上でありうるのであり、その上限は、例えば、55μm以下、50μm以下、45μm以下、40μm以下または35μm以下でありうる。
【0081】
前記方法により製造されたフィルムは、低い配向角、小さい面内位相差、小さい面内位相差の偏差および厚さ偏差などを有することができる。
【0082】
本出願の具体例において、前記二軸延伸フィルムは、12°以下、11°以下、または10°以下の配向角を有することができる。ここで、配向角は、幅方向(TD)における分子の主配向角度であって、フィルムの屈折率が最も大きくなる方向を意味するのであって、以下の実験に記載された方法により測定または計算されうる。前記範囲を超えるポリエステルフィルムを、光学用部材、例えば、偏光板の離型フィルムの基材フィルムとして使用する場合、クロスニコルの異物および欠点の検査にて検査感度が低くなりうる。
【0083】
本出願の具体例において、前記二軸延伸フィルムは、面内位相差の標準偏差が100nm以下でありうる。前記面内位相差の標準偏差は、以下の実験に記載された方法により測定または計算されうる。具体的には、前記面内位相差の標準偏差は、例えば、90nm以下、80nm以下、70nm以下、60nm以下または50nm以下でありうる。前記範囲を超える場合には、光透過の均一性が不足するため、高級光学用部材としての使用に適切でない。
【0084】
本出願の具体例において、前記二軸延伸フィルムは、面内位相差の偏差が5%以内でありうる。前記面内位相差の偏差は、以下の実験に記載された方法により測定または計算されうる。具体的には、前記面内位相差の偏差は、例えば、4.9%以下、4.8%以下、4.7%以下、4.6%以下、4.5%以下、4.4%以下、4.3%以下、4.2%以下、4.1%以下、4.0%以下、3.9%以下、3.8%以下、3.7%以下、3.6%以下または3.5%以下でありうる。前記範囲を満足する場合、偏光斑を抑制するのに有利である。
【0085】
特に制限されないが、前記面内位相差の標準偏差(nm)と、位相差の偏差(%)を満足することを前提に、本出願の二軸延伸フィルムは、面内位相差の平均が0~1700nmの範囲でありうる。前記面内位相差平均は、以下の実験に記載された方法により測定または計算されうる。具体的には、前記面内位相差の平均は、例えば、1650nm以下、1500nm以下、1450nm以下、1400nm以下、1350nm以下、1300nm以下、1250nm以下または1200nm以下でありうる。
【0086】
本出願の具体例において、前記二軸延伸フィルムは、厚さの偏差が1.0μm以内でありうる。前記厚さの偏差は、以下の実験に記載された方法により測定または計算される。具体的には、前記フィルムの厚さの偏差は、例えば、0.9μm以下、0.8μm以下、0.7μm以下、0.6μm以下または0.5μm以下でありうる。厚さの偏差が小さい場合、上述した偏光板部材として使用される場合に、フィルムの性能改善に寄与することができる。
【0087】
前記二軸延伸フィルムの用途は特に制限されない。例えば、光学ディスプレイの表面保護の用途、工程中のキャリアの用途または偏光板といった光学フィルムに対する離型用フィルムの用途などに使用可能である。
【発明の効果】
【0088】
本出願によれば、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造時に行われる、延伸および熱処理の工程に関連して発生するという上述した従来技術の問題点が解決されうる。本出願の具体例によれば、ボーイング現象が抑制され、位相差の偏差が減少すると同時に、フィルムの均一性と機械的物性(例:剛性)に優れたポリエステルフィルムが提供される。また、本出願は、光学用またはディスプレイ用の部材として好適なポリエステルフィルムを提供するという発明の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0089】
図1】第1方向の延伸速度を説明するための概略図であって、3個のローラR1、R2、R3が使用される2つの区間のそれぞれの長さL1、L2が示されている。ここで、3個のローラは、それぞれVR1、VR2およびVR3の回転速度を有することができる。
図2】第2方向の延伸速度を説明するための概略図であって、テンター式延伸設備での延伸区域が示されている。ここで、テンター式のTD方向の延伸において、入口側と出口側のそれぞれの幅はW1とW2であり、延伸ゾーンの総長さはLである。
図3】フィルムの虹斑の有無の評価に関連する方法を説明するためのイメージである。
図4】離型コーティングの際における熱シワの有無の評価に関連する方法を説明するためのイメージである。
【発明を実施するための形態】
【0090】
以下、発明の具体的な実施例を通じて発明の作用・効果をより具体的に説明することとする。ただし、これは発明の例として提示されたものであり、これによって発明の権利範囲がいかなる意味でも限定されるのでない。
【0091】
<実施例および比較例>
<未延伸シートの製造>:テレフタル酸といったジカルボン酸成分と、エチレングリコールやネオペンチルグリコールといったジオール成分とを用いて、固有粘度が約0.63dl/gの共重合ポリエステルのチップを製造した。これを押出機にて280℃で溶融させて、T-ダイを通して押出した後、表面温度20℃の冷却ローラ上で急冷固化させると同時に、静電印加法を用いて冷却ローラに密着させながら無定形の未延伸シート10個の試験片を得た。
【0092】
<二軸延伸フィルムの製造>:フィルムの製造に関する一連の過程を下記の表1に記載された条件で行い、約38μmの厚さの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。なお、38μmの厚さは、偏光板に使用される偏光板離型フィルムの基材フィルムに関連する分野にて、一般に使用される厚さである。費用低減のために、厚さを25μm程度まで縮小させることが検討されたりもしたが、工程使用時、カール(Curl)発生の品質の問題があるため、現在38μmの厚さが標準となっている。
【0093】
【表1】
【0094】
<フィルムに対する評価>
評価項目は下記のとおりである。
【0095】
1.偏光鏡ムラ(斑)の有無:偏光曲げ評価機器(Shinto Scientific社、Heidon-24W、日本)を用いて、下段の偏光軸と上段の偏光軸とを直交(90°)に調整した後、A4サイズに裁断したサンプルを評価機器の下段に載せて、上から肉眼でフィルムの虹斑の有無を評価した(図3参照)。具体的には、虹斑が視認される場合を「有」と記載し、虹斑が視認されない場合を「無」と記載した。
【0096】
2.配向角(degree、°):マイクロ波方式の分子配向機器(Oji Scientific Instruments社、MOA-7015、日本)を用いて、専用試料ホルダに、各フィルム試料を装着した後、分子配向機器に挿入して配向角を測定した。機器で測定される配向角はMDを基準とした値であるので、TDを基準とした配向角を記録するために、90°から実際に測定された値を引いた後、その絶対値を配向角として記録した。
【0097】
3.面内位相差平均(nm)、面内位相差の標準偏差(nm)および面内位相差の偏差(%):平行ニコル回転方式の位相差測定器(Oji Scientific Instruments社、KOBRA-WPR、日本)を用いて、590nmの測定波長での位相差値を測定した。具体的には、面内位相差(Re)およびその標準偏差(Re標準偏差)は、下記のように計算される。
【0098】
[式]
面内位相差(Re)=Re=(nx-ny)×d
【0099】
ここで、nxは、主配向軸方向の屈折率であり、nyは、主配向軸方向の垂直方向に相当する屈折率であり、dは、フィルムの厚さである。
【0100】
[式]
【0101】
ここで、は、位相差測定値の個別値であり、は、位相差測定値全体の平均であり、nは、位相差の測定回数である。
【0102】
また、長手方向に20cmおよび幅方向に100cmサイズに準備された試料を幅方向に10cm間隔で裁断した10個の試料に対して前記記載された位相差測定器で位相差値を測定し、位相差値の最大値と最小値との差を平均値で割って%表示した値を、面内位相差の偏差として取得した。
【0103】
4.厚さおよび厚さ偏差R値(μm):電気マイクロメーター測定器(Mahr社、Millimar-1240、ドイツ)を用いて、製造されたフィルムの幅方向にて5cm間隔で厚さを測定し、測定した厚さを下記の式で計算して厚さ偏差R値を計算した。
【0104】
【0105】
(上記の式中、は、厚さ測定値の個別値であり、は、厚さ測定値の平均であり、nは、厚さ測定回数である)
【0106】
6.離型コーティング時の熱シワの有無(後加工模写):離型コーティング時の熱シワの有無の評価は、以下のa)~d)の順序により評価した。この際、図4に示されたTaut熱シワ評価機器が用いられた。
【0107】
a)フィルムをMDで30cm、そしてTDで80cmに裁断されたフィルムに2,000gの重りを装着し、
b)130℃に設定された乾燥オーブンで約180秒間加熱した後、
c)乾燥オーブンから取り出して常温で約60秒間冷却させる。
【0108】
d)以後、処理されたサンプルの熱シワを肉眼で確認し、熱シワの寸法および個数を測定して下記のように等級を判定する。
【0109】
-1等級:シワなし
-2等級:幅3cm以上のシワ4個以下発生
-3等級:幅3cm以上のシワ5個以上発生
-4等級:幅3cm以下のシワ4個以下発生
-5等級:幅3cm以下のシワ5個以上発生
【0110】
【表2】
【0111】
表1および表2にて、関係式を満足する実施例1-5を、関係式を満足していない比較例1-5と比較すれば、実施例が比較例に比べて斑がなく、配向角が低く、面内位相差および位相差(標準)偏差が低いことが確認される。また、実施例が比較例に比べて低い厚さ偏差を有し、熱シワ評価でも優れていることが確認される。
【0112】
このように、本出願は、第1方向で320%以下の低い延伸量(3.2以下の低い延伸比)を用いながらもフィルムの均一性(位相差の偏差および厚さ)を確保し、熱シワがないといったような機械的剛性も確保できる。これは、比較例のように、ボーイング現象抑制のために、MD方向で低い延伸比を採用し、それに伴い均一性と剛性を犠牲にする従来技術では確保できない効果である。
【0113】
参照として、テンター内で、MDおよびTD方向にそれぞれ延伸されたフィルムを、クリップで把持した後に行われる熱処理によってボーイング現象が発生するが、MD方向の延伸量が340~350%の場合、通常、ボーイング現象により発現する配向角は約30~40°である。したがって、配向角が12°以下に減少した本出願の実施例では、ボーイング現象が抑制されたと考えられる。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】