(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】経カテーテル的人工弁(THV)システム
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20240705BHJP
【FI】
A61F2/24
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504477
(86)(22)【出願日】2022-05-19
(85)【翻訳文提出日】2024-01-23
(86)【国際出願番号】 IN2022050475
(87)【国際公開番号】W WO2023067614
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】202121047196
(32)【優先日】2021-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524030754
【氏名又は名称】メリル・ライフ・サイエンシーズ・ピーブイティー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100181113
【氏名又は名称】赤井 吉郎
(72)【発明者】
【氏名】サンジーヴ・ナウッタム・バット
(72)【発明者】
【氏名】ハルシャード・アムルトラール・パルマール
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA27
4C097BB01
4C097BB04
4C097BB09
4C097CC01
4C097CC05
4C097DD01
4C097DD09
4C097SB03
(57)【要約】
径方向に収縮した状態でデリバリーカテーテルのバルーンに装着するのに適した、径方向に拡張可能かつ収縮可能な人工大動脈弁が開示されている。人工大動脈弁は、角度付きストラットの3つの円周方向に伸びる列を有する支持フレームを含む。円周方向に伸びる角度付きストラットの1列の任意の2つの連続する角度付きストラットは、ピーク/谷を形成する。隣接する角度付きストラットの列は、リンク(菱形セルまたは菱面体)によって相互に接続されており、2列のセルを形成する。人工大動脈弁は、3つの弁突、内側スカート、および外側スカートを含む。支持フレームとデリバリーカテーテルは、人工大動脈弁を目標部位に簡単かつ正確に展開する方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射状に拡張可能かつ折り畳み可能であり、放射状に折りたたまれた状態でデリバリーシステムのバルーンに装着するのに適した人工大動脈弁(100)であって、
前記人工大動脈弁(100)は、遠位端(100a)、近位端(100b)および3列の円周方向に伸びる角度付きストラット(10a、10b、10c)を有する径方向に折り畳み可能および展開可能な支持フレーム(101)を備え、前記3列の円周方向に伸びる角度付きストラット(10a、10b、10c)は、前記支持フレーム(101)の近位端(100a)における上列の角度付きストラット(10a)、前記支持フレーム(101)の遠位端(100b)における下列の角度付きストラット(10c)、および前記上列の角度付きストラット(10a)と前記下列の角度付きストラット(10c)の間に位置する中列の角度付きストラット(10b)を含み、前記下列の角度付きストラット(10c)が前記支持フレーム(101)の流入端(100b)側にあり、
前記3列の円周方向に伸びる角度付きストラット(10a、10b、10c)は、連続する2つの角度付きストラットがそれぞれピークまたは谷を形成する波形を有し、前記上列の角度付きストラット(10a)のピークは前記中列の角度付きストラット(10b)の谷に面し、前記中列の角度付きストラット(10b)のピークは前記下列の角度付きストラット(10c)の谷に面し、
前記3列の円周方向に伸びる角度付きストラット(10a、10b、10c)のうち隣接する列の角度付きストラット同士は、前記遠位端(100a)と前記近位端(100b)の間に2つの隣接して配置されたセル列(101b)を含む支持フレーム(101)を形成するために相互に接続され、
前記上列の角度付きストラット(10a)の谷は、リンクによって前記中列の角度付きストラット(10b)の対応するピークに接続され、各リンクは菱形セル(101c)または菱面体(101d/101c’)を形成することによって、交差した八角形セルを含むセル列(101b2)を形成し、各交連部で菱面体(101d/101c’)または菱形セル(101c)が交互に配置され、前記菱面体(101d/101c’)は内部が中実構造であり、前記菱形セル(101c)は内部が開放構造であり、
前記中列の角度付きストラット(10b)の谷は、リンクによって前記下列の角度付きストラット(10c)の対応するピークに接続され、各リンクは菱形セル(101c)または菱面体(101d/101c’)を形成することによって、交差した八角形セルを含む上列のセル(101b2)に隣接して、交差した八角形セルを含むセル列(101b1)を形成し、各交連部で菱形セル(101c)または菱面体(101d/101c’)が交互に配置され、菱形セル(101c)は内部が開放構造であり、菱面体(101d/101c’)は内部が中実構造であり、
下列のセル(101b1)は前記支持フレーム(100)の流入端(100b)側にあり、上列のセル(101b2)は前記支持フレーム(101)の流出端(100a)側にあり、
前記上列のセル列(101b2)は、3つの菱面体から構成されており、前記3つの菱面体は、互いに角度を付けて配置され、弁尖タブ(103)が取り付けられる3つの交連取り付け部(101d)を形成し、前記3つの菱面体(101d)には穴(101d1)があけられ、
前記人工大動脈弁(100)は、前記人工大動脈弁(100)の流入端から流出端に向かって血液の一方向の流れを可能にし、弁尖(103)の開閉によって逆方向の血液の流れを防ぐのに十分な動きを与える柔軟性を有する生体適合性材料製の3つの弁尖(103)をさらに備え、
前記人工大動脈弁(100)は、生体適合性材料製の内側スカート(105)をさらに備え、前記内側スカート(105)は、前記下列のセル(101b1)の内側表面を少なくとも部分的に覆い、
前記人工大動脈弁(100)は、生体適合性材料製の外側スカート(107)をさらに備え、前記外側スカート(107)は、前記下列のセル(101b1)の外側表面を少なくとも部分的に覆う、人工大動脈弁(100)。
【請求項2】
前記支持フレーム(101)の前記上列のセル(101b2)のセルと前記下列のセル列(101b1)のセルは同じサイズである、請求項1に記載の人工大動脈弁(100)。
【請求項3】
前記支持フレーム(100)の前記上列のセル(101b2)のセルは、前記下列のセル(101b1)のセルのサイズより大きいかまたは小さい、請求項1に記載の人工大動脈弁(100)。
【請求項4】
前記上列のセル(101b2)の穴あきの前記3つの菱面体(101d)以外の前記支持フレーム(101)の各リンクは、菱形セル(101c)または穴なし菱面体(101c’)であり、前記下列のセル(101b1)の各リンクは、菱形セル(101c)または穴なし菱面体(101c’)の少なくとも一方である、請求項1に記載の人工大動脈弁(100)。
【請求項5】
前記上列のセル(101b2)の穴あきの前記3つの菱面体(101d)以外の前記支持フレーム(101)のリンクは、菱面体(101c’)であり、前記下列のセル(101b1)のすべてのリンクは、菱形セル(101c)である、請求項1に記載の人工大動脈弁(100)。
【請求項6】
前記上列のセル(101b2)の穴あきの前記3つの菱面体(101d)以外の前記支持フレーム(100)のリンクは、菱面体(101c’)であり、前記下列のセル(101b1)のすべてのリンクは、菱形セル(101c)である、請求項1に記載の人工大動脈弁(100)。
【請求項7】
前記上列のセル(101b2)の穴あきの前記3つの菱面体(101d)以外の前記支持フレーム(101)の前記上列のセル(101b2)および前記下列のセル(101b1)のすべてのリンクは、菱面体(101c’)を形成する、請求項1に記載の人工大動脈弁(100)。
【請求項8】
前記上列のセル(101b2)の穴あきの前記菱面体(101d)以外の前記支持フレーム(101)の前記上列のセル(101b2)および前記下列のセル(101b1)のすべてのリンクは、菱形セル(101c)である、請求項1に記載の人工大動脈弁(100)。
【請求項9】
各弁尖(103)は、頂点(103a1)を有するまたは有さない比較的直線的な上端(103a)、前記上端(103a)の両側の弁尖(103)における1つの交連タブ(103b1,103b2)、および前記内側スカート(105)に取り付けられた波状の下端(103c)を有し、前記上端(103a)は交連のために自由な状態に保たれる、請求項1に記載の人工大動脈弁(100)。
【請求項10】
前記弁尖(103)は、頂点(103a1)を有するまたは有さない比較的直線的な上端(103a)、前記上端(103a)の両側の弁尖(103)における1つの交連タブ(103b1,103b2)、および前記内側スカート(105)に取り付けられた直線的な下端(103c’)と2つの側端(103c”)を有し、前記上端(103a)は交連のために自由な状態に保たれる、請求項1に記載の人工大動脈弁(100)。
【請求項11】
前記弁尖(103)用の生体適合性材料は動物組織を含み、前記弁尖(103)の両側の交連タブ(103b1,103b2)は、前記支持フレーム(101)に直接または中間布層を介して取り付けられ、前記動物組織と前記支持フレームの金属の直接的な接触を防ぐ、請求項1に記載の人工大動脈弁(100)。
【請求項12】
前記動物組織は牛心膜を含む、請求項11に記載の人工大動脈弁(100)。
【請求項13】
前記弁尖(103)用の生体適合性材料は、生体適合性の合成ポリマー材料である、請求項1に記載の人工大動脈弁(100)。
【請求項14】
前記合成ポリマー材料は布を含む、請求項13に記載の人工大動脈弁(100)。
【請求項15】
前記内側スカート(105)と前記外側スカート(107)の少なくとも一方が、布製または動物組織製である、請求項1に記載の人工大動脈弁(100)。
【請求項16】
前記支持フレーム(101)は蛍光透視材製である、請求項1に記載の人工大動脈弁(100)。
【請求項17】
前記支持フレーム(100)は、金属製または合金の製である、請求項1に記載の人工大動脈弁(100)。
【請求項18】
前記合金は、コバルト-クロム-ニッケル合金またはコバルト-クロム-ニッケル-モリブデン合金MP35Nのいずれかを含む、請求項17に記載の人工大動脈弁(100)。
【請求項19】
前記外側スカート(107)は余剰の材料を含み、前記支持フレーム(100)が半径方向に拡張された状態では前記外側スカート(107)にたるみが生じ、前記支持フレーム(100)が半径方向に収縮された状態ではたるみが減少する、請求項1に記載の人工大動脈弁(100)。
【請求項20】
前記交連取り付け部(101d)同士が互いに120°の角度で配置される、請求項1に記載の人工大動脈弁(100)。
【請求項21】
放射状に拡張可能かつ折り畳み可能であり、放射状に折りたたまれた状態デリバリーカテーテルのバルーンに装着するのに適した人工大動脈弁であって、
前記人工大動脈弁は、遠位端、近位端および3列の円周方向に伸びる角度付きストラットを有する径方向に折り畳み可能および展開可能な支持フレームを備え、前記3列の円周方向に伸びる角度付きストラットは、前記支持フレームの近位端における上列の角度付きストラット、前記支持フレームの遠位端における下列の角度付きストラット、および前記上列の角度付きストラットと前記下列の角度付きストラットの間に位置する中列の角度付きストラットを含み、前記下列の角度付きストラットが前記支持フレームの流入端側にあり、
前記3列の円周方向に伸びる角度付きストラットは、波状の形状であり、1つの列の円周方向に伸びる角度付きストラットのうちの任意の2つの連続する角度付きストラットは、ピークまたは谷を形成し、上列の角度付きストラットのピークは、隣接する下列の角度付きストラットの谷に面し、
前記3列の円周方向に伸びる角度付きストラットのうちの隣接する列の角度付きストラット列同士は、前記支持フレームを形成するために互いに接続され、前記支持フレームは、前記遠位端と前記近位端の間に複数の隣接して配置されたセル列を含み、前記複数の隣接して配置されたセル列は、上列のセルと下列のセルから構成され、
上列の角度付きストラットの谷は、リンクによって隣接する下列の角度付きストラットの対応するピークに接続されており、各リンクは菱形セルまたは菱面体を形成し、菱形セルと菱面体が交互に配置されたセル列を形成し、菱面体は中実構造を有し、菱形セルは開放構造を有し、
上列のセルは、3つの菱面体から構成され、前記3つの菱面体は、3つの交連取り付け部を形成するために互いに角度を付けて配置され、前記3つの菱面体には穴があけられ、
前記人工大動脈弁は、前記人工大動脈弁の流入端から流出端に向けて血液の一方向の流動を可能にし、弁尖の開閉によって逆方向の血液の流動を防ぐのに十分な柔軟性を与える生体適合性材料製の3つの弁尖をさらに備え、前記3つの弁尖の各弁尖は、前記交連取り付け部において前記支持フレームが取り付けられる少なくとも2つの交連タブを有し、
前記人工大動脈弁は、生体適合性材料製の内側スカートをさらに備え、前記内側スカートは、前記下列のセルの内側表面を少なくとも部分的に覆い、
前記人工大動脈弁は、生体適合性材料製の外側スカートをさらに備え、前記外側スカートは、前記下列のセルの外側表面を少なくとも部分的に覆う、人工大動脈弁。
【請求項22】
近位端(A)と遠位端(B)を備えるデリバリーカテーテル(200)であって、
遠位端と近位端を備える細長のシャフト(203)と、
前記細長のシャフト(203)の遠位端(遠位端は手術者から離れた端である)に接続された膨張可能なバルーン(201)、および、前記細長のシャフト(203)の近位端に接続されたハンドル(211)と、
前記細長のシャフト(203)の部分に配置された複数の不透射性マーカーと、を備え、前記複数の不透射性マーカーは、少なくとも、遠位マーカー(M2)、近位マーカー(M1)、中間マーカー(M3)、およびランディングゾーンマーカー(M4)を含み、
前記遠位マーカー(M2)は前記バルーン(201)の遠位端側に配置され、前記近位マーカー(M1)は前記バルーン(201)の近位端側に配置され、前記中間マーカー(M3)は、前記近位マーカー(M1)と前記遠位マーカー(M2)の中間に配置され、近位マーカー(M2)と遠位マーカー(M1)から等距離にあり、前記ランディングゾーンマーカー(M4)は前記遠位マーカー(M2)と前記中間マーカー(M3)の間に配置される、デリバリーカテーテル(200)。
【請求項23】
前記ランディングゾーンマーカー(M4)は、前記遠位マーカー(M2)から、前記近位マーカー(M1)と前記遠位マーカー(M2)の間の距離の約32~33%の位置に配置される、請求項22に記載のデリバリーカテーテル(200)。
【請求項24】
請求項1から20のいずれか一項に記載の人工大動脈弁(100)と、
請求項22または23に記載のデリバリーカテーテル(200)と、を備えるアセンブリであって、
前記人工大動脈弁(100)は、蛍光透視を有し、前記デリバリーカテーテル(200)のバルーン(201)上にクリンピングされると、蛍光透視下で交互の明領域と暗領域を示し、
暗領域は角度のあるストラット(10a、10b、10c)の周方向に延びる列によって形成され、明領域は菱形セル(101c)または菱面体(101c’)によって形成されるリンクと交連取り付け部(101d)によって形成され、
前記デリバリーカテーテル(200)のランディングゾーンマーカー(M4)は、前記人工大動脈弁(100)の流入端側に向かって明領域の中間点の後ろに配置される、アセンブリ。
【請求項25】
デリバリーカテーテル(200)を用いて、人工大動脈弁(100)を環状平面である正位位置に正確に位置決めし、展開するする方法であって、
イントロデューサーシースを患者の血管系に導入するステップと、
標準血管造影用のピッグテールカテーテル(8)をイントロデューサーシースを通して前記患者の血管系に導入し、遠位端を蛍光透視下でNCC内の最下端に留置するステップと、
蛍光透視下でガイドワイヤー(9)を導入し、患者の大動脈開口を通過させるステップと、
請求項23に記載のデリバリーカテーテル(200)のバルーン(201)上に予めクリンピングされた請求項1に記載の人工大動脈弁(100)を、前記イントロデューサーシースを通して導入し、蛍光透視ガイド下で前記ガイドワイヤー(9)上に誘導することにより、前記患者の大動脈開口まで誘導するステップと、
前記デリバリーカテーテル(200)のバルーン(201)内のランディングゾーンマーカー(M4)の中心を前記ピッグテールカテーテル(8)の下端と一致させ、流入端側に向かう明領域の中間点を前記ピッグテールカテーテル(8)の下端と一致させることによって、輪状面で前記人工大動脈弁(100)を正確に位置決めするステップと、
前記デリバリーカテーテル(200)のバルーン(201)を拡張させることにより、該位置において人工大動脈弁(100)を展開するステップと、
前記バルーン(201)と共に前記デリバリーカテーテル(200)の細長のシャフト(203)を前記患者の血管系から引き抜くステップと、を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工システムに関連する。より具体的には、本発明は、人工弁経カテーテル心臓弁システムに関する。
【背景技術】
【0002】
人工心臓弁の機能は、病気になった本来の心臓弁の代わりをすることである。置換手術は外科的(開心臓手術を用いる)または経皮的な方法で行われる可能性がある。
【0003】
支持フレームの設計は、人工弁の性能において重要な役割を果たす。長年にわたり、このような疾患に対する決定的な治療法は、開胸手術による心臓弁の外科的修復または置換であったが、このような手術は多くの合併症を引き起こしやすいものであった。一部の患者は、手術に伴う外傷や体外血液循環の継続時間のために、手術に耐えることができない。このため、多くの患者が手術不可能と判断され、未治療のままになっている。
【0004】
外科手術に代わって、開胸手術よりもはるかに侵襲の少ない、柔軟なカテーテルを用いて人工心臓弁を体内に導入し、留置(インプラント)する経皮的カテーテル治療法が開発された。この手術法では、人工弁は、軟性カテーテルの先端部にあるバルーンに圧着して装着され、経カテーテル心臓弁システム(THV)と呼ばれている。カテーテルは、通常は末梢動脈を介して(まれに静脈を介して)血管に導入されるのが最も一般的である。患者の総大腿動脈、場合によっては腋窩、頸動脈、またある可能性が最も高く、まれに経心尖ルート(心臓のピークを通る)などが考えられる。バルーンに人工弁が圧着されたカテーテルは、圧着された人工弁が留置(インプラント)部位に到達するまで血管内を進行する。弁は、弁が取り付けられたバルーンを膨らませることによって、欠損した本来の弁の部位で機能的な大きさまで拡張することができる。あるいは、人口大動脈弁は、拘束シース(リテーニングシース)を引き抜くことによって弁を機能サイズに拡張する自己拡張式ステントまたはサポート支持フレームを有してもよい。前述の人工弁は「バルーン拡張式」、後述の人工弁は「自己拡張式」と呼ばれる。
【0005】
バルーン拡張式弁と自己拡張式弁は、どちらも、通常は管状のスキャフォールド構造である支持フレームまたはステントと、通常は3枚の複数の弁尖を内蔵している。
【0006】
人工弁の性能は、支持フレームの設計によって大きく左右される。人工弁の長期的な性能を達成するためには、支持フレームは、放射状に崩壊したり圧縮されたりする動脈力に耐える十分な放射状強度を有しなければならない。また、支持フレームは、収縮期と拡張期に人工弁が開閉することによって生じる動脈循環力に耐える十分な疲労抵抗性を有しなければならない。これらの要件を考慮して、経カテーテル人工心臓弁の支持フレームの設計は、構造的な堅牢性、十分な放射状強度または剛性、および高い疲労強度に基づいて行うべきである。さらに、支持フレームのサイズおよび/または軸方向の長さは、ネイティブ解剖学とのより優れたインターフェイスを確保するために、望ましいレベルに最適化することが不可欠である。
【0007】
特許文献1および特許文献2として開示されている経カテーテル大動脈人工心臓弁(THV)に関する特許文献を参照されたい。上記特許文献で開示された構成を使用して製造されたTHVは、従来サイズ、中間サイズ、特大サイズという大きなサイズのマトリックスを有し、デリバリーシステムのバルーンに直接クリンピングされる。
【0008】
上記特許文献に開示されたTHVシステムは、以下のような未解決の臨床ニーズに対応するものである:
1.重度大動脈弁狭窄症(中等度から高リスクの手術リスク、すなわち米国胸部外科学会(STS)リスクレベル≧4%)。
2.STSリスクレベルが4%未満の低リスク外科人口。
3.症状のある中等度大動脈弁狭窄症。
4.低流量、低勾配を呈する患者。
5.65歳未満の若年患者へのインプラント。
6.二尖大動脈弁の解剖学的構造との適合性。
7.高度に石灰化した大動脈基部複合体との適合性。
8.弁内弁介入との適合性、すなわちTAVR内SAVR(SAVR(経大動脈弁置換術)後の大動脈弁の狭窄を治療するために、TAVR(経カテーテル大動脈弁置換術)を行う手術)およびTAVR内TAVR(TAVR後の大動脈弁の狭窄を治療するために、TAVRを行う手術)。
9.肺動脈弁置換術との適合性。
10.大動脈弁逆流症(AR)の治療。
11.無症候性重度大動脈弁狭窄の治療。
【0009】
上記発明で開示されているTHVの好ましい実施形態のフレームは、3列の六角形のセルを持つ。
【0010】
さらに、バルーン拡張式人工心臓弁の場合、バルーンカテーテルによって植え込み部位にデリバリーされる。デリバリーシステム、すなわちバルーンカテーテルは、バルーンを拡張して人工心臓弁が留置(インプラント)される展開部を正確に特定する上で、非常に重要な役割を果たす。患者の希望する植え込み部位に弁を最適かつ正確に位置決めし、正確に展開(配備)することが引き続き求められている。
【0011】
したがって、上記の観点から、既存のシステムの欠点を克服するステント付き経カテーテル人工心臓弁システムの必要性が生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2018/109779号
【特許文献2】米国特許出願公開第2018/0289476号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、バルーンカテーテルからなるバルーン拡張式人工心臓弁およびデリバリーシステムに関するものである。以下の説明に記載される本発明は、背景として提供された前述の特許出願で開示されたTHVの中核的なレガシー技術を独創的に保持し、いくつかの機能強化を組み込んだものである。
【0014】
大動脈弁置換術において、人工弁を正確に配置し、精確に展開することは、最適なパフォーマンスを達成するために非常に重要である。最適なパフォーマンスとは、弁圧差の低減(持続的な血行動態)、弁周囲逆流の防止、伝導系への医原性損傷の回避(これにより、新しい永久ペースメーカーの植込みが必要となる)を指す。大動脈弁置換術において、人工弁の理想的な植え込み位置は、原則として正中位置で人工弁輪(新生人工弁輪)を、自己弁輪に重ね合わせることが試みられる。この位置に人工弁を植え込むことには、以下に述べる3つの重要な利点がある。
【0015】
第一の利点は、人工弁の解剖学的配置が向上することである。生来の弁輪とその弁尖は狭窄しており、石灰化している可能性がある。生来の弁輪に合わせてサイズ調整された人工弁を本来の位置で拡張すると、石灰化した弁尖を持つ狭窄した弁輪内にフレームがしっかりと固定され、人工弁の脱落による塞栓症のリスクをなくす解剖学的固定が可能になる。
【0016】
第二の利点は、左心室への弁の突出が最小限である。人工弁を弁輪の位置に留置(インプラント)し、心室側、つまり輪下位置に深く埋め込まないことが重要であり、これは、2つの重要な大動脈下の2つの重要な解剖学的領域があるためである。第一領域は、心房と心室の間の膜様中隔であり、正常な心拍を維持するために電気刺激を伝導する密集した心臓伝導筋(房室結節)がある。人工弁が左室流出路(LVOT)内に留まらないようにすることは、心臓伝導系を乱すリスクを低減するために重要である。第二領域は、大動脈カーテンと、大動脈弁に対して後側方に位置する生来の僧帽弁の位置である。誤った位置に留置(インプラント)された人工弁は、僧帽弁前尖の正常な機能に干渉する可能性があり、その結果、僧帽弁の機能に影響を及ぼす可能性がある。本推奨の方法で留置(インプラント)された人工弁は、左室流出路(LVOT)内に留まる人工弁の突出量を最小限に抑えることができる。
【0017】
第三の利点は、バルサルバの冠状静脈洞に沿って位置する、あるいは大動脈起始部の移行部(大動脈起始部の移行部)より上にある冠状動脈の入口部に対する閉塞を最小にすることである。理想的には、人工弁は、冠状動脈の入口部を閉塞したり、閉塞状態を維持したりすることによって、これらの動脈への血流を妨げないことである。人工弁を正中位置に正確に留置(インプラント)することで、フレーム101が左主動脈内に突出することを最小限に抑え、冠状動脈への血流を妨げるのを防ぐことができる。本発明の人工弁は、流出端の露出部が大きく、カバーされていないセルと、フレームの高さが短いため、冠状動脈の入口部の閉塞を回避することができる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、人工大動脈弁を本来の位置に正確に留置(インプラント)し、精密に展開することを可能にする。これは、本発明の人工大動脈弁の構造とデリバリーシステムの設計によって実現される。人工大動脈弁とそのデリバリーシステムを以下に説明する。
【0019】
人工大動脈弁は径方向に伸縮可能であり、径方向に収縮した状態でデリバリーカテーテルのバルーンに装着するのに適している。人工弁は、遠位端、近位端、および遠位端に上列、近位端に下列、それらの間には中列がある、3列の周方向に伸びる角度付きストラット(支柱)列を備えた径方向に収縮および膨張可能な支持フレームを備えている。遠位位置とは、手術者から離れた位置を指す。下列は、支持フレームの流入端に向かっている。角度のついたストラットの列は、山と谷のある起伏のある形状をしており、上列の角度のついたストラットの山は、中列の角度のついたストラットの谷に面しており、中列の角度のついたストラットの山は、下列の角度のついたストラットの谷に面している。角度のついたストラットの列は互いに連結され、遠位端と近位端の間に隣接して配置された2列のセルを含む支持フレームを形成する。角度のついたストラットの上列の谷は、リンクによって角度のついたストラットの中列の対応するピークに接続され、リンクは菱形のセルまたはひし形のセル(穴あり/穴なし)であり、それによって、各交連(接合)部でひし形のセル(穴あり/穴なし)または菱形のセルが交互に配列された交互配列の八角形のセルを含むセルの上列が形成される。菱形のセルは開放構造を持ち、菱面体は中実構造を持つ。中列の角度のついたストラットの谷は、リンクによって下列の角度のついたストラットの対応するピークに接続され、リンクは菱形のセル(開放構造)または菱面体(中実構造)であり、それによって、各交連(接合)部で菱形のセルまたは菱形のセルが交互に配列された八角形のセルが交差する下列のセルが形成される。
【0020】
列数が減り、セルが特殊な形状になったことで、径方向への拡張時にフレームの手前が縮むことが少なくなり、人工心臓弁を正確に埋め込むのが容易になった。
【0021】
2つのセル列は、支持フレームの流出端側に配置された上列のセル列と、支持フレームの流入端側に配置された下列のセル列から構成される。上列のセル列には、互いに120°の角度で配置された穴を有する3つの固体菱面体が含まれており、2つの隣接する弁尖の交連(接合)取り付け部またはタブが取り付けられる3つの交連(接合)取り付け部を形成している。
【0022】
ある一実施形態において、人工大動脈弁は、2列のセルを形成する3列の円周状に配置された角度付きストラット、および複数のリンクを含む。各リンクは、菱形のセルまたは菱面体(穴あり/穴なし)のいずれかを含む。
【0023】
円周状に配置された角度付きストラットの連続する2つの角度付きストラットは、ピークまたは谷を形成する。円周状に配置された角度付きストラットの1列の角度付きストラットのピークは、隣接する円周状に配置された角度付きストラットの1列の角度付きストラットの谷に面している。円周状に配置された1列の角度付きストラットの谷は、リンクを介して、隣接する円周状に配置された1列の角度付きストラットの対応するピークに接続されている。したがって、円周状に配置された角度付きストラットの1列のピークは、隣接する円周状に配置された角度付きストラットの1列の対応する谷と向かい合っている。同様に、円周状に配置された角度付きストラットの1列の谷は、隣接する円周状に配置された角度付きストラットの1列の対応するピークと向かい合っている。
【0024】
1列と隣接する1列の角度付きストラットをリンクで接続すると、交差した八角形のセルと菱形のセルまたは固体の菱面体を持つセル構造が形成される。セル上列の3つのリンクは、互いに120°の角度で配置された穴あき菱面体であり、3つの交連(接合)取り付け部を形成する。
【0025】
人工大動脈弁の流入端から流出端への一方向の血液の流れを可能にし、収縮期および拡張期のサイクル中に弁尖を開閉することによって逆方向の血液の流れを防止するために、十分な柔軟性を有する生体適合性材料から作られた3枚の弁尖が設けられている。
【0026】
人工大動脈弁には、生体適合性材料で作られた内側スカートが含まれ、下列のセルの内側表面を少なくとも部分的に覆っている。生体適合性材料からなる外側スカートも設けられ、下列のセル列の外側表面を少なくとも部分的に覆っている。外側スカートは、余分な材料を有しており、支持フレームが径方向に拡張した状態にあるときに弛みを形成し、支持フレームが径方向に縮小した状態にあるときに弛みが減少するようになる。
【0027】
デリバリーシステムには、遠位端と近位端を有する細長のシャフトからなるバルーンカテーテルが含まれる。細長のシャフトの遠位端には拡張可能なバルーンが取り付けられ、細長のシャフトの近位端にはハンドルが取り付けられている。さらにデリバリーシステムには、バルーンカテーテルに必要なその他のコンポーネントも含まれる。遠位端とは、手術者から離れた端のことを指す。
【0028】
バルーン内に位置するバルーンカテーテルのシャフトの一部には、4つの放射線不透過性マーカー(遠位マーカー、近位マーカー、中間マーカー、ランディングゾーンマーカー)が設けられている。遠位マーカーはバルーンの遠位端に向かって配置され、近位マーカーはバルーンの近位端に向かって配置される。中間マーカーは、近位マーカーと遠位マーカーの間に等距離で配置され、ランディングゾーンマーカーは、遠位マーカーと中間マーカーの間に遠位マーカーからの特定の距離で配置される。
【0029】
上記の人工大動脈弁とバルーンカテーテルは、アセンブリを形成する。人工大動脈弁は蛍光透視性があり、バルーンカテーテルのバルーン上に2つのストッパーと2つの極端放射線不透光マーカーすなわち、近位マーカーと遠位マーカー)の間でクリンピングすると、蛍光透視下で明領域と暗領域が交互に現れる。暗領域は、斜めのストラットの列が円周状に伸びたもので形成され、明領域は、菱形(ダイヤモンド形)のセルの曲がったストラットまたは菱面体と交連(接合)部によって形成される。
【0030】
デリバリーカテーテルのランディングゾーンマーカーは、人工大動脈弁の流入端に向かう明領域の中点より後方に配置されている。
【0031】
上述したように、本発明は本来の位置での人工大動脈弁の正確な位置決めと正確な展開を可能にする。展開方法の最初のステップは、イントロデューサーシースを患者の血管系に導入することを含む。次に、イントロデューサーシースを介して標準的な血管造影用ピグテールカテーテルを患者の血管内に入れ、蛍光透視下で遠位端を無冠尖の最下端に配置する。
【0032】
次に、標準的に推奨されているガイドワイヤーを蛍光透視下で挿入し、患者の大動脈弁口を越えてナビゲートする。その後、デリバリーカテーテルのバルーン上にあらかじめクリンピングされた人工大動脈弁をイントロデューサーシースから導入し、蛍光透視下でガイドワイヤーに沿って患者の大動脈弁口までナビゲートする。
【0033】
次に、デリバリーカテーテルのバルーン内のランディングゾーンマーカーの中心をピグテールの最下位に、流入ゾーンに向かって明領域の中心をピッグテールの下端に一致させることで、人工大動脈弁を輪状面で正確に配置する。デリバリーカテーテルのバルーンを拡張することで、この位置に人工大動脈弁を展開する。その後、人工大動脈弁を留置(インプラント)した後にデリバリーカテーテルのバルーンを収縮させ、バルーンとともにデリバリーカテーテルシャフトを患者の血管系から引き抜く。
【0034】
上述の特徴およびその他の特徴ならびに本発明の優位性は、添付図を参照しながら進む以降の詳細説明からより明らかになる。
【0035】
上記の要約、および例示的な実施形態に関する以下の詳細説明は、添付の図と併せて読むことにより、よりよく理解することができる。本開示を説明する目的で、様々な例示的実施形態を図に示す。ただし、本開示は、本明細書に開示される説明および図に限定されるものではない。さらに、この当業者であれば、図が縮尺通りでないことを理解するものである。可能な限り、同種の構成要素には同一の番号を付けている。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本開示の実施形態によるフレーム101の分解図である。
【
図1a】本開示の実施形態によるフレーム101の交連(接合)部101dを示す。
【
図1b】本開示の実施形態によるフレーム101の分解図である。
【
図1c】本開示の他の実施形態によるフレーム101の分解図である。
【
図1d】本開示の異なる実施形態によるフレーム101の分解図を示す。
【
図1e】本開示の異なる実施形態によるフレーム101の分解図を示す。
【
図1f】本開示の異なる実施形態によるフレーム101の分解図を示す。
【
図1g】本開示の異なる実施形態によるフレーム101の分解図を示す。
【
図2a】本開示の別の実施形態による弁尖103xを示す。
【
図3】本開示の実施形態による内側スカート105を有する人工弁100を示す。
【
図4】本開示の実施形態による外側スカート107を有するTHV100を示す。
【
図5】本開示の一実施形態によるデリバリーカテーテル200を示す。
【
図6】本開示の実施形態による、支持チューブ207を有するバルーン201の分解図を示す。
【
図7】本開示の実施形態に従った、大動脈弁輪に植え込まれたTHV100を示す。
【
図8】本公表の実施形態に従って、蛍光透視下で見えるようにクリンピングされた状態でデリバリーシステム200のバルーンの上に取り付けられた
図1および1bのフレーム101を用いて作製されたTHV100を概略的に示す。
【
図9】本開示の実施形態に従って、蛍光透視下で見えるようにクリンピングされた状態でデリバリーシステム200のバルーンの上に取り付けられたフレーム101を用いて作製されたTHV100を概略的に示す。
【
図10】生来の大動脈基部複合体を模式的に示している。
【
図11】生来の大動脈基部複合体を模式的に示している。
【
図12】本開示の異なる実施形態に従ったTHV100の植込み方法を開示している。
【
図13】本開示の異なる実施形態に従ったTHV100の位置決めを概略的に示している。
【
図14】本開示の異なる実施形態に従ったTHV100の位置決めを概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明を説明する前に、以下のようにいくつかの単語や用語について定義する。「含む」や「備える」とその派生語は、無制限の含有を意味する。「または」という用語は包括的で、つまりおよび/またはを意味する。「連結されている」および「関連している」とその派生語は、含む、含まれる、相互接続する、含む、含まれる、接続する、または接続される、連結する、通信可能である、協働する、交互に挿入する、並べる、近接する、結びついている、または関連付けられている、特性を持つなどを意味する場合がある。特定の単語や用語の定義は本願全体にわたって与えられ、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、これらの定義がこれらの単語や用語のこれまでの使用だけでなく、将来の使用にわたって適用されることを理解するものである。
【0038】
本願全体にわたる「一実施形態」、「実施形態」、または類似の表現への言及は、特定の特徴、構造、または特性が、少なくとも一つの実施形態に含まれていることを意味する。したがって、本明細書を通じて「一実施形態において」、「実施形態において」、および同様の表現が現れる場合、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すとは限らず、明示的に別段の指定がない限り、「1つまたは複数の、しかしすべての実施形態ではない」ことを意味する場合がある。用語「含む」、「備える」、「有する」およびその変形は、明示的に別段の定めがない限り、「を含むが、これに限定されない」を意味する。項目の列挙は、明示的に別段の定めがない限り、項目のいずれかまたはすべてが相互に排他的および/または相互に包含的であることを意味するものではない。単数形での用語は、明示的に指定されていない限り、複数を指すこともある。
【0039】
本開示の方法の例示的な実施形態の動作は、説明に便利なように特定の順次的な順序で説明されることがあるが、本開示の実施形態は、開示されている特定の順次的な順序以外の動作の順序を包含することができることを理解されたい。例えば、順次説明される動作は、場合によっては再編成されたり、同時並行的に実行されたりする可能性がある。さらに、ある特定の実施形態に関連して提供される説明および開示は、その実施形態に限定されるものではなく、本願で開示される任意の実施形態に適用することが可能である。さらに、簡略化のため、添付の図面には、公開されたシステム、方法、および装置を他のシステム、方法、および装置と組み合わせて使用できる様々な方法を示していない場合もある。
【0040】
さらに、これらの実施形態の記載された特徴、利点、および特性は、任意の適切な方法で組み合わせることができる。関連技術の当業者であれば、特定の実施形態の特定の特徴または利点の1つ以上を欠いても実施形態を実践できることを認識するものである。他の例では、特定の実施形態にはないすべての実施形態で追加の特徴および利点が認識され得る。これらの実施形態の特徴および利点は、以下の説明および添付の特許請求の範囲からより完全に明らかになるか、または以下に記載される実施形態によって知ることができるものである。
【0041】
本願の図面および説明において、用語「フレーム」または「ステント」または「フレーム」または「スキャフォールド構造」または「サポートフレーム」または「スキャフォールド」は、この発明の金属製フレームを指す。これらの用語は互換的に使用され、同じ意味を有する。用語「バルブ」または「人工弁」は、この発明の人工弁を指し、支持フレームと動物組織の弁葉、スカートなどの他の部品を使用して組み立てられた人工弁を指し、これらの用語も互換的に使用される。用語「ネイティブ弁」は、人の心臓にある自然の弁を指す。
【0042】
同様に、「デリバリーシステム」、「デリバリーカテーテル」、「カテーテル」、「バルーンカテーテル」、「デリバリーバルーンカテーテル」という用語は、本発明で使用されるデリバリー装置を指す。これらの用語は相互に使われるが、同じ意味を持つ。
【0043】
本発明は、バルーン拡張式人工心臓弁システム(または単にシステム)を提供する。本発明のシステムは、経カテーテル人工心臓弁(THV)とTHVデリバリーシステムを含む。本発明のTHVは、THVデリバリーシステムを使用して、カテーテル化技術を介して、人の狭窄した大動脈口に留置(インプラント)することができる。THVとTHVデリバリーシステムは、システムの性能を向上させるために協働して動作する。
【0044】
本発明は、背景となる上記特許文献に開示されたTHVのコアとなる従来技術を、いくつかの改良を加えた上で巧みに保持している。THVは、伸縮可能な可撓性フレーム、動物組織または合成材料から形成された複数の弁尖(好ましくは3つの弁尖)、フレームに取り付けられた内側スカートおよび外側スカートで構成されている。
【0045】
本発明のTHVのフレームは、従来のフレームと比較して構造的および臨床的にいくつかの利点を提供し、従来のフレームが提供する欠点を緩和する。本発明のTHVのフレームは、交差した八角形セルで構成されており、各交点に菱形ボディ(穴あり/穴なし)または菱形セルが組み込まれている。このような構造は、柱状の強度を高め、その結果、放射状の強度と疲労耐性の向上をもたらす。
【0046】
フレームは、従来の経カテーテル生体弁のフレームのように2列のセルを持つのではなく、2列の正八面体のセルが重なるように配置されている。列数が減り、セルが特殊な形状になったことで、径方向への拡張時にフレームの手前が縮むことが少なくなり、人工心臓弁を正確に埋め込むのが容易になった。
【0047】
さらに、本発明のデリバリーシステムは、THVの正確な配置と精密な展開に役立つ。
【0048】
本発明の実施形態に係るTHV100を
図3および
図4に表す。
図3は外側スカート107のないTHV100を、
図4は外側スカート107のあるTHV100を示している。THV100は人間の狭窄大動脈弁口に埋め込まれるため、THV100は「人工大動脈弁」とも呼ばれる。
【0049】
THV100のフレーム(「支持フレーム」ともいう)は、径方向に伸縮可能である。THV100は、径方向に収縮した状態でデリバリーカテーテルのバルーンに装着するのに適している。バルーンデリバリーカテーテルは、THV100とともに収縮した状態で植込み部位まで移動し、THV100を径方向に拡張させることにより、THV100が人間の狭窄大動脈弁口に留置(インプラント)される。THV100は蛍光透視特性を示す。
【0050】
THV100には、流入端100aと流出端100bがある。血液は流入端100aからTHV100に入り、流出端100bから出る。
【0051】
図3および
図4において、THV100は、フレーム101(または支持フレーム101)、複数の弁尖103、内側スカート105(
図3および
図4において、THV100は、フレーム101(または支持フレーム101)、複数の弁尖103、内側スカート105(
図3に示すように)および外側スカート107(
図4に示すように)を含む。
【0052】
本発明のフレーム101の2つの例示的実施形態の分解図は、
図1、
図1b、および
図1cに示されている。フレーム101は、円筒形であり、流入端100aと流出端100bを有する。また、フレーム101は、径方向に折り畳み可能であり、径方向に拡張可能である。例示的実施形態のフレーム101は、バルーン拡張式であり、自己拡張式にもなる。
【0053】
フレーム101は、あらかじめ定められた方法に従って形成することができる。例えば、THV 100のフレームは、金属管をレーザー切断することによって形成することができる。金属管は、ステンレス鋼、コバルト-クロム合金、コバルト-クロム-ニッケル合金、MP35Nのようなコバルト-クロム-ニッケル-モリブデン合金、ニチノールなどを含むがこれらに限定されない金属または金属合金から作られてもよい。フレーム101に使用される材料は、蛍光透視可能なものであってもよい。本発明の好ましい実施形態において、フレーム101はバルーン拡張式であり、コバルト-クロム-ニッケル-モリブデン合金のチューブから作られている。MP35Nは、THVフレーム101の適切な放射強度、放射線不透過性、および迅速なMRI互換性を保証する。
【0054】
ある実施形態において、フレーム101の少なくとも外側表面に、チタン・ニオブ・ナイトライド(TiNbN)セラミック表面コーティングを施すことができる。このコーティングは生体親和性が高く、次のような利点がある。
1.フレームの放射状強度の向上。
2.フレームの放射線透過性の向上
3.フレームの疲労耐性の向上。
4.フレームに使用される合金のコバルトやその他の成分によるアレルギー反応の低減。
5.TiNbNコーティングによる高度な表面仕上げにより、粗さ平均(RA値)が非常に低く、血小板凝集や潜在的な血栓形成、パンヌス形成を最小限に抑える。
【0055】
例示的な実施形態のフレーム101の構造を
図1、
図1aおよび
図1bに示す。
図1bに関連して、フレームスキャフォールド設計は便宜上平らにして示してあるだけであり、フレーム101は平らな金属板から作られるとは限らないことに留意されたい。
【0056】
図1および
図1bから明らかなように。フレーム101は、流入端100a、流出端100b、およびセル101bの複数の列を含む。セル101bは、あらかじめ定義された八角形の形状を含む。1および1bにおいて、フレーム101は、その遠位端と近位端との間に延びる、1つ上に配置された(隣接して配置された)八角形の四角形のセル101bの2つの列すなわちセル101b1の下側の列(流入端100aに向かって)とセル101b2の上側の列(流出端100bに向かって)を含む。1および1bにおいて、フレーム101は、その遠位端と近位端との間に延びる、1つ上に配置された(隣接して配置された)八角形の四角形のセル101bの2つの列すなわちセル101b1の下側の列(流入端100aに向かって)とセル101b2の上側の列(流出端100bに向かって)を含む。
【0057】
図3および
図4を参照すると、血液は流入端100a(「下端」または「遠位端」とも呼ばれる)でTHV100に入り、流出端100b(「上端」または「近位端」とも呼ばれる)で流出する。フレーム101の流入端100a/遠位端にある八角形のセル101bの列は、セル101bの下側の列101b1とも呼ばれる。フレーム101の流出口端100a/近位端にある八角形のセル101bの列は、セル101bの上列の101b2とも呼ばれる。
【0058】
図1と
図1bに示す実施形態では、セル列は2列で、前述の特許出願のセル列3列より少ない。列数の削減とセル101bの特殊な形状により、径方向の拡張時にフレーム101の手前側の収縮が減少し、手術者がTHV100を正確に植え込むことが容易になる。さらに、八角形のセル101bを使用することで、構造体に高い柱状支持と放射状支持を提供する。
【0059】
フレーム101図に示すすなわち、上列101b2と下列101b1のセル101bは同じか等しいサイズである。しかし、異なるサイズのセル101bを有するフレーム101も本発明の範囲内である。例えば、上列101b2のフレーム101のセル101bのサイズは、下列101b1のセル101bのサイズよりも大きくても小さくてもよい。
【0060】
多角形の角の和は、(n-2)×180°である。ここで、nは辺の数を表す。したがって、8角形(8つの辺を持つ)の場合、角度の合計は1080°となる。よって、例示的な実施形態のフレーム101の八角形のセル101bのすべての角度の合計は1080°である。
【0061】
図1bから明らかなように、フレーム101の前述のセル101b1、101b2の列は、3列の周方向に延びる角度付きストラット(単に「角度付きストラット」とも呼ばれる)10a、10b、10cの列によって形成される。周方向に延びる角度付きストラットの列は、角度付きストラットの第1の列10a(または角度付きストラットの上部の列10a)、角度付きストラットの第2の列10b(または角度付きストラットの中間の列10b)、および角度付きストラットの第3の列10c(または角度付きストラットの下部の列10c)を含む。角度付きストラットの第1の列10aは、フレーム101の近位端100bに配置されている。第3列の角度付きストラット10cは、フレーム101の遠位端100a(または流入端)に配置される。角度付きストラットの第2列10bは、角度付きストラットの第1列10aと角度付きストラットの第3列10cとの間に配置されている。
【0062】
ある実施形態では、
図1bに描かれた実施形態における2つの角度付きストラット間の角度(A)は116°である。ただし、この角度は116°以下でも116°以上でもよいことに留意されたい。
【0063】
角度付きストラット10a、10b、10cの周方向に延びる列の各々は、
図1bに示すように、複数のピーク「P」と谷「V」を有する起伏のある形状を含むことができる。したがって、角度付きストラット10a/10b/10cの円周方向に延びる列の任意の2つの連続する角度付きストラットは、ピークPまたは谷Vのいずれかを形成する。
図1bでは、1列目の角度付きストラット10aのピーク「P」は、2列目の角度付きストラット10bの谷間「V」に面している。同様に、2列目の角度付きストラットのピークPは、3列目の角度付きストラット10cの谷間Vに面している。ある列の角度付きストラットのピークが、隣接する列の角度付きストラットの谷に面している場合を、対応するピークまたは谷と呼ぶ。
【0064】
上記で定義された周方向に延びる角度付きストラット10a、10b、10cの列は、フレーム101に隣接して配置された第1および第2のセル101b1、101b2の列を形成するために、リンクによって互いに接続される。各リンクは、菱形のセル101cか、穴の開いた固体の菱面体(101d)である。セル101b2の上列には3つの菱面体(101d)がある。
【0065】
図1bに示すフレーム構造の実施形態では、上列のセル101b2は、上列の角度付きストラット10aの谷部Vと、中列の角度付きストラット10bの対応するピークPとをリンクで連結することによって形成される。各リンクは、1対の曲がったストラットで定義された菱形のセルか、固体の菱面体のどちらかである。一対の曲がったストラット(分解
図Yに示すように、s1/s2およびs3/s4)は、菱形のセル101cを形成する。従って、セル101b2の上列には、各交連(接合)部に菱面体または菱形のセルを交互に並べた八角形のセルが含まれる。3つの菱面体101dがあり、各菱面体は、互いに120°の間隔で均等に配置された4つの穴を有している。
図1aは、弁尖の交連(接合)タブを縫合するために設けられた4つの穴101d’を有する例示的な菱面体101dの詳細を示す。穴の数は4つ以下でも4つ以上でもよい。この実施形態では、下列のセル101b1は、中列の角度付きストラット10bの谷部Vと下列の角度付きストラット10cの対応するピークPとをリンクで連結することによって形成される。各リンクは、菱形のセル101cを形成する一対の曲がったストラット(分解
図Yに示すように、s1/s2およびs3/s4)によって定義される菱形のセルである。1列目の角度付きストラット10a/10b/10cと隣接する列の角度付きストラット10a/10b/10cがこのようなリンクを介して相互接続されることで、絡み合った八角形のセル101bと菱形のセル101cまたは穴あき固体菱面体101dを有するセル構造が形成される。
【0066】
図1cに関連して、フレームスキャフォールド設計は便宜上平らにして示してあるだけであり、フレーム101は平らな金属板から作られるとは限らないことに留意されたい。この実施形態では、セル101b2の上側の列は、第1の列の角度付きストラット10aの谷部「V」を第2の列の角度付きストラット10bの対応するピーク「P」にリンクによって接続することによって形成される。各リンクは、1対の曲がったストラット(ストラット)または固体の菱面体によって形成される菱形のセルによって定義される。従って、セル101b2の上列には、各交連(接合)部に菱面体または菱形のセルを交互に並べた八角形のセルが含まれる。この実施形態におけるセル101b2の上列列は、
図1bの実施形態におけるセルの上列列と同様であり、リンクは穴の開いた3つの菱面体101dで構成され、残りは菱形のセル101cである。この実施形態では、セル101bの下側の列101b1は、2列目の角度付きストラット10bの谷部「V」と、3列目の角度付きストラット10cの対応するピーク「P」とを、穴のない菱面体101c’によって接続することによって形成される。
図Zは、リンク101cと101c’の拡大図を示している。
【0067】
上述の例示的な構造は、フレーム101の柱状強度を高めるのに役立ち、その結果、フレーム101の放射状強度と耐疲労性が向上する。
図1bのフレーム101の一部の拡大
図Yと、
図1cのフレーム101の一部の拡大
図Zに、交錯する八角形の詳細が示されている。
【0068】
図1b~
図1cに示すように、菱形のセル101cは開放構成を有している。すなわち、どの菱形のセル101cも、一対の曲がったストラットs1/s2およびs3/s4に囲まれた開口101c1を含んでいる。開口101c1を有する菱形のセル101cは、「開放菱面体」(開放構造を有する菱面体)とも呼ばれる。固体の菱面体は、開口のない菱形のセルである(固体の構造を持つ菱面体)。
【0069】
当業者であれば、角度付きストラット10a/10b/10cを連結する菱形セル(101c)と菱面体(101c’/101d)の様々な組み合わせを有する多数の代替フレームスカフォールド構造を思いつくことができると思う。フレームスカフォールド構造のいくつかの例示的な実施形態を以下に説明する。以下に説明するすべての実施形態において、フレームスキャフォールド設計は、便宜上、平坦な状態で示されており、フレーム101は、平坦な金属シートから作成されない場合もある。
【0070】
図1dに示すフレーム構造の実施形態では、上列のセル101b2は、上列の角度付きストラット10aの谷部Vと、中列の角度付きストラット10bの対応するピークPとをリンクで連結することによって形成される。リンクは菱面体101c’(穴なし)または101d(穴あり)によって定義される。従って、セル101b2の上列には、各交連(接合)部に菱面体(穴の有無は問わない)を交互に並べた八角形のセルが含まれる。3つの菱面体101dがあり、各菱面体は、互いに120°の間隔で均等に配置された4つの穴を有している。残りのリンクは穴のないひし形101c’である。この実施形態では、下列のセル101b1は、穴のない菱面体(101d)によって形成されたリンクによって、中列の角度付きストラット10bの谷Vと下列の角度付きストラット10cの対応するピークPとを接続することによって形成される。
【0071】
フレームスキャフォールド構造の他の例示的な実施形態が
図1e~
図1gに示され、菱形のセル101c、穴のない菱面体101c’、穴のある菱面体101dの異なる組み合わせで角度付きストラットの列をつなぐリンクがある。
【0072】
例えば、
図1eの実施形態のフレーム構造では、上列101b2のセルがリンク101c、101c’、101dで形成され、下列101b1のセルがリンク101cで形成されている。
【0073】
別の例示的な実施形態のフレーム構造が
図1fに示されており、上列101b2のセルはリンク101c、101c’、101dで形成され、下列101b1のセルはリンク101c’で形成されている。
【0074】
フレーム構造の別の例示的な実施形態が
図1gに示されており、上列101b2のセルはリンク101c、101c’および101dで形成され、下列101b1のセルはリンク101cおよび101c’で形成されている。
【0075】
菱形のセル101cおよび菱形の本体101d/101c’(穴の有無は問わない)を提供する他のいくつかの代替構成が、上記の開示に照らして当業者によって容易に実現され、本発明の教示の範囲内に含まれる。
【0076】
上述したすべての実施形態において、セル101b2の上部列は、互いに対して120°の角度で配置された穴を有する3つの菱面体101dを含む。これらの穴ありの菱面体101dは、複数の穴101d1(
図1aに示す)を有する交連(接合)取り付け部を形成し、弁尖103の交連(接合)部をフレーム101に縫合する(後述)。
図1aに示す推奨実施形態では、各交連(接合)取り付け部101dは4つの穴101d1を含む。ただし、穴101d1の数は4つ以上でも4つ未満でもよいことに留意されたい。
【0077】
ある実施形態では、少なくとも1つの放射線不透過性マーカー(図示せず)が、蛍光透視下で容易に可視化するために、フレーム101上のストラットのいずれか、好ましくは菱形セル101cを形成する曲がったストラット上、またはひし形体101c’上に設けられてもよい。推奨される実施形態では、少なくとも1つの放射線不透過性マーカーは、菱形セル101cのストラット上、またはセル101b1の下列に位置する菱面体101c’上に設けられる。別の推奨される実施形態では、少なくとも1つの放射線不透過性マーカーは、少なくとも1つの菱面体101c’に設けることができる。
【0078】
中実構造の菱面体101c’または101dは、開放構造の菱形セル101cよりも金属量が多いことは明らかである。従って、菱形のセル101c’/101dは、菱形のセル101cよりも高い放射線不透過性を示す。より高い放射線不透過性は、後述するように、X線蛍光透視下でよりよく可視化されるため、THV100の正確な配置に役立つ。
【0079】
本発明THV100は、さらに複数の弁尖を含む。一実施形態では、THV100は3つの弁尖を含む。弁尖は、弁尖の動きを可能にするのに十分な柔軟性を持つ、生体適合性材料から作られてもよい。例えば、本発明において、好ましい実施形態の弁尖は、牛心膜組織などの動物組織から作られている。あるいは、弁尖は合成ポリマー材料から形成されてもよい。
【0080】
当業者は、THV100の流入端100aから流出端100bへの一方向の血流を可能にし、逆方向の血流を防止する人工心臓弁の弁尖の機能を理解しているものである。これは、収縮期と拡張期のサイクル中に弁尖を開閉することによって達成される。
【0081】
弁尖103の構造の例示的な実施形態を
図2に示す。図示されるように、この実施形態の各弁尖103は、比較的直線状の上端103aを有する本体103’を含むことができる。
図2に示す実施形態では、頂点103a1がある。しかし、頂点103a1がない場合もある。上縁103aは、他の弁尖103の対応する自由縁との交連のために自由な状態に保たれる。
【0082】
各弁尖103の上縁103aは、弁尖103のいずれかの側で103b1、103b2とマークされた、反対側に配置された側部タブ(または交連(接合)タブ)に伸びる場合がある。縫合を容易にするために、側面タブ103b1、103b2の両方に複数の穴を配置してもよい。
図2に示す実施形態では、側面タブ103b1、103b2の弁尖103の本体103’に近い部分の近傍に、Y、Zと記された縦2列の穴が設けられている。一実施形態では、穴Y、Zの各列は4つの穴(1、2、3、4と表示)を含むことができる。穴の数は4つ以上でも以下でもよい。同様に、縦列の穴の数は1つでも2つ以上でもよい。上記の穴は、弁尖103を縫合によって、接続布地および/またはフレーム101に取り付けするために使用される。
【0083】
各弁尖103は、さらに下縁103cを含むことができる。
図2の実施形態に示すように、下縁103cは、下縁103cと側面タブ103b1、103b2との交連(接合)部に位置する任意の小さな直線部分103c1、103c2を有する波状の形状を含むことができる。推奨される実施形態の弁尖103の波状の下縁は、一定の半径Rを含むことができる。ただし、弁尖103の波状の下縁は、変化する半径を持つことができる。各弁尖103の波状の下縁は、縫合などの既知の方法によって、内側スカート105に取り付けることができる。
【0084】
別の方法として、THV100は、
図2aの実施形態に示すような弁尖103xを含むことができる。
図2aは、直線状の下縁103c’と(波状の下縁とは異なり)垂直方向を向いた側面103c”を有することを除いては、
図2の実施形態と同じである。2.側面103c”は、垂直であってもよいし、底部直線縁103c’に対して斜めであってもよい。
図2aは、側面103c”が正確には垂直ではなく、底辺103’に対して角度をなしている実施形態を示す。
【0085】
上記の弁尖103/103xは、予め定められた方法でフレーム101に取り付けることができる。当業者は、1つまたは複数の支持布を使用してフレーム101の交連(接合)取り付け部101dに弁尖を取り付ける当該技術分野で公知の様々な方法を熟知しているものである。所定の弁尖103または103xの1つの側面タブ103b1/103b2は、別の弁尖103または103xの1つの側面タブ103b1/103b2と対になって弁尖を形成する。弁尖は、その後、フレーム101の金属と組織が直接接触しないように、支持布を用いてフレーム101の交連(接合)取り付け部101dに取り付けることができる。上述したように、弁尖103(
図2)の下縁103cは、内側スカート105に取り付けられてもよい。同様に、弁尖103x(
図2a)の直線状の下縁103c’および垂直方向に向いた縁103c”もまた、内側スカート105に取り付けられてもよい。
【0086】
内側スカート105は、フレーム101の内側(または内部)表面に取り付けられており、好ましい実施形態では、
図3に示すように、八角形のセル101bの下側の列101b1の内面を少なくとも部分的に覆っている。弁尖103または103xのスカラップ状の下縁103cまたは直線状の下縁103c’は、内側スカート105の内面に取り付けられている。尖弁103xの垂直方向の縁103c”も内側スカート105の内面に取り付けられている。好ましい実施形態の内側スカート105は、PETのような生地から作られてもよい。しかしながら、必要な可撓性、強度および多孔性を有する他の任意の生体適合性の布または動物組織を、内側スカート105の作製に使用することができる。内側スカート105は、下列101b1のフレーム101のセル101bの開口からの血液の漏れを防止し、また、病的な本来の弁に存在するカルシウム棘によるTHV100の弁尖103/103xの不注意な損傷を防止する。
【0087】
図4に、好ましい実施形態の外側スカート107が示されている。外側スカート107は上端107bと下端107aを有している。実施形態において、外側スカート107の上端107b(流出端側)は、
図4に示すように、フレーム101の中間部位で縫合により内側スカート105およびフレーム101に取り付けられる場合がある。同じ実施形態において、外側スカート107の下端107a(流入端100a側)は、内側スカート105の下端105aに縫合により取り付けられる。当業者には知られていることである、外側スカート107の機能は、THV100と血管の内面との間の非常に小さな通路を塞ぎ、人工弁と血管の間に血液が漏れることを防止または最小化することである。
【0088】
図4は、外側スカート107がフレーム101の外側(または外部)表面に取り付けられ、八角形セル101bの下列101b1の外側表面を少なくとも部分的に覆う好ましい実施形態を示している。この覆いの程度は、非対称な尖頭形状、重度の石灰化を伴う尖頭、水平大動脈のような解剖学的に困難な大動脈などに対してTHV100を最小限の誤差で配置することをさらに助ける。また、この覆いは、配置や展開中の手術者の習得曲線を短縮する。
【0089】
本発明の外側スカート107は、PETのような生地から作られてもよい。しかし、必要な柔軟性、強度、多孔性を備えた、動物組織のような他の生体適合生地や材料を使用することもできる。さらに、
図4に示すように、外側スカート107は、フレーム101が径方向に拡張した状態ではたるみを生じるように、フレーム101にゆるく適合する余剰材料を有している。ゆるくフィットした外側スカート107の余剰材料は、大動脈輪の不規則な内表面(生来の弁尖も有する)を埋め、微小チャネルを塞ぎ、傍弁漏れを防いだり最小限に抑えたりする。フレーム101が径方向に収縮した状態では、たるみが減少する。
【0090】
本発明のTHV100のデリバリーシステム、すなわちデリバリーカテーテル200について、以下に説明する。
図5は、例示的なデリバリーカテーテル200を示している。デリバリーカテーテル200は、ターゲット位置にある損傷した生来の弁内にTHV100を展開するために使用される。本発明のTHV100のフレーム構造とデリバリーカテーテル200は、ターゲット位置にTHV100を容易かつ正確に展開する方法を提供する。
【0091】
図5に示すデリバリーカテーテル200はバルーンカテーテルである。当業者は、ステントや人工弁などのバルーン拡張式デバイスを径方向に拡張するために使用されるバルーンカテーテルの構造をよく理解しているものである。例示的なデリバリーカテーテル200は、近位端Aおよび遠位端Bを含み、デリバリーカテーテル200はさらに、その遠位端B(
図6に示す)にバルーン201を含み、近位端に外側シャフト203、内側シャフト205、支持チューブ207、1つまたは複数のストッパー209、ハンドル211およびコネクタ213を含む。
【0092】
外側シャフト203は、「細長のシャフト」とも呼ばれる細長い外管の形をしている。 外側シャフト203は、内側シャフト205が同軸に延びる外側内腔を画定する。内側シャフト205は内腔を画定する。ガイドワイヤーが内腔を通る。
【0093】
外側シャフト203および内側シャフト205は、それぞれの近位端および遠位端(それぞれAおよびB)を有する。近位端はハンドル211の方向、すなわち手術者の方向。バルーン201の反対側の端は、手術者から離れた遠位端である。外側シャフト203および内側シャフト205の近位端は、ハンドル211を通過し、コネクタ213に取り付けられる。コネクタ213は、ガイドワイヤーの出口用ポート213Aと、カテーテル200内に膨張液を注入するためのポート213Bとを有するY字形コネクタであってもよい。ガイドワイヤーポート213Aは内腔と連通している。膨張液用のポート213Bは、2つのシャフト203と205の間の環状空間と連通している。当業者であれば、この配置が通常バルーンカテーテルに備わっていることを理解できるものである。
【0094】
バルーン201の例示的な実施形態が
図6に示されている。バルーン201は外側シャフト203の遠位端に取り付けられている。内腔205はバルーン201を貫通して延び、カテーテル200の最遠位端で軟性先端部215に至る。ガイドワイヤー(図示せず)は、カテーテル200のソフトチップ(軟性先端部)215の遠位端でガイドワイヤールーメンに入り、内腔を通り、バルーン201を通過し、ガイドワイヤーポート213aでコネクタ213から出る。
【0095】
バルーン201は、加圧された膨張流体を、外側シャフト203と内側シャフト205の間の環状空間を通してバルーン201内に注入することにより、放射状に拡張される。
【0096】
好ましい実施形態では支持チューブ207外側シャフト203の遠位端に取り付けられる。支持チューブ207はバルーン201内に伸び、内筒205は支持チューブ207内を同軸的に通過する(
図6を参照)。
【0097】
図6に示すように、支持チューブ207は、近位端207aおよび遠位端207bを含む。近位端207aは外側シャフト203に取り付けられている。遠位端207bは自由端であり、バルーン201内に突き出ている。
【0098】
デリバリーカテーテル200は、弾力性があり生体適合性材料から作られた少なくとも1つのストッパーを含むことができる。
図6の好ましい実施形態は、近位ストッパー209aと遠位ストッパー209bの2つのストッパーを備えている。
図6に示すように、近位ストッパー209aおよび遠位ストッパー209bは、支持チューブ207の外面に取り付けられている。
【0099】
近位ストッパー209aと遠位ストッパー209bは、あらかじめ定められた間隔で配置される場合がある。好ましい実施形態において、近位ストッパー209aの遠位端と遠位ストッパー209bの近位端の間のクリアランスは、クリンピングされたTHV100の長さよりもわずかに大きくなる。THV100は、この隙間内でバルーン201にクリンピングされる。上記で定義されたクリアランスは、クリンピングされたTHV100の長さに応じて変化し得る。
【0100】
上記のようにTHV100を近位ストッパー209aと遠位ストッパー209bとの間でクリンピングすることにより、クリンピングされたTHV100を患者の血管系に挿入する間、およびTHV100を曲がりくねった血管経路を通って留意(インプラント)部位に到達させるため操作する間、THV100がバルーン201上でずれたり、バルーン201から外れたりするのを防止することができる。ストッパー209aおよび209bはまた、バルーン拡張中の不慮の弁塞栓を防止する。ストッパー209aと209bは、その弾性により、それぞれの端でより低い進入プロファイルを作成し、THV100がイントロデューサーシースから患者の大動脈(血管系)にスムーズに移動することを助け、また展開されていないTHV100を簡単に回収することができる。膨張液は、支持チューブ207の近位端207aの穴207cを通じてバルーン201に入り、またその自由開放の遠位端207bからもバルーン201に入る。この機能により、バルーン201が遠位端と近位端から同時に着実に拡張され、展開中にTHV100を安定させるドッグボーンが形成され、不慮の弁塞栓を防ぐ。
【0101】
当業者であれば、上述の支持チューブ207は、ストッパー209a、209bの正確な取り付けを容易にするためと、膨張液がバルーン201に自由に流れるようにするためのものであることを容易に理解できるものである。支持チューブ207を備えないデリバリーシステムも機能する。この場合、ストッパーは内側シャフト205に配置される。
【0102】
本発明の支持チューブ207は、複数の放射線不透過性マーカー帯(またはマーカー)を含むことができる。推奨される実施形態では、支持チューブ207は、近位マーカー帯M1、遠位マーカー帯M2、中間マーカー帯M3およびランディングゾーンマーカー帯M4を含む4つの放射線不透過性マーカー帯を含む。デリバリーシステム200が支持チューブ 207を備えていない場合、これらのマーカーは、バルーン201内に位置する部分の内側シャフト205に設けることができる。
【0103】
上記の説明は、特定のTHVフレームスキャフォールド構造101に言及しており、この構造101は、菱形のセル101c’または菱形のセル101cが交錯した八角形のセル101bと、特定の形状の交連(接合)部101dとを有する。当業者は、本来の位置でのTHV100の正確な配置のために放射線不透過マーカー(近位マーカー、遠位マーカー、中間マーカー、着陸帯マーカーなど、以下に開示)を設けるというコンセプトは、任意の多角形形状(例:菱形、六角形など)のセルを有するフレームスキャフォールド構造にも適用できることを容易に理解できるものである。
【0104】
その名が示すように、近位マーカー帯M1および遠位マーカー帯M2は、それぞれ支持チューブ207の近位端207aおよび遠位端207bに向かって配置されている。中間のマーカー帯M3は、近位と遠位のマーカー帯M1、M2の間に位置し、M1とM2から等距離にある。一実施形態では、ランディングゾーンマーカーM4は、遠位端マーカーM2から近位端マーカーM1と遠位端マーカーM2の間の距離の約32~33%の位置に、遠位マーカーバンドM2と中間マーカーバンドM3の間に配置される。すなわち、寸法Bは寸法Aの32~33%であり、
図6に示すように配置される。
【0105】
ランディングゾーンマーカーM4は、植込み部位におけるTHV100の正確な位置決めにおいて、最も好ましい位置、すなわち本来の位置への植込みを達成するためのガイドの役割を果たす。THV100の正確な位置決めは、後述するようにランディングゾーンマーカーM4がなくても達成できる。
【0106】
例示的なカテーテル200のシャフトの遠位端は、大動脈弓を容易に通過させるために、制御された方法で曲げられるように構成されている。代替の実施形態では、カテーテル200のシャフトの遠位端は曲げられるように構成されていない場合がある。さらに別の代替の実施形態では、カテーテル200のシャフトの遠位端は、大動脈弓を容易に通過させるために固定半径で事前に成形されている。カテーテルシャフトの事前成形は、熱処理などの既知の方法によって達成することができる。
【0107】
以下の記述は、大動脈弁置換術に関するものである。
【0108】
大動脈弁置換術において、人工弁を正確に配置し、精確に展開することは、最適なパフォーマンスを達成するために非常に重要である。最適なパフォーマンスとは、弁圧差の低減(持続的な血行動態)、弁周囲逆流の防止、伝導系への医原性損傷の回避(これにより、新しい永久ペースメーカーの植込みが必要となる)を指す。大動脈弁置換術において、人工弁の理想的な植え込み位置は、原則として正中位置で人工弁輪(新生人工弁輪)を、自己弁輪に重ね合わせることが試みられる。この位置に人工弁を植え込むことには、以下に述べる3つの重要な利点がある。
【0109】
人工弁を本来の位置に置く利点の1つは、人工弁の解剖学的配置がしやすいことである。生来の弁輪とその弁尖は狭窄しており、石灰化している可能性がある。生来の弁輪に合わせてサイズ調整された人工弁を本来の位置で拡張すると、石灰化した弁尖を持つ狭窄した弁輪内にフレームがしっかりと固定され、人工弁の脱落による塞栓症のリスクをなくす解剖学的固定が可能になる。
【0110】
人工弁を本来の位置に置く利点の2つ目は、左心室への弁の突出が最小限であることである。人工弁を弁輪の位置に留置(インプラント)し、心室側、つまり輪下位置に深く埋め込まないことが重要であり、これは、2つの重要な大動脈下の2つの重要な解剖学的領域があるためである。第一領域は、心房と心室の間の膜様中隔であり、正常な心拍を維持するために電気刺激を伝導する密集した心臓伝導筋(房室結節)がある。人工弁が左室流出路(LVOT)内に留まらないようにすることは、心臓伝導系を乱すリスクを低減するために重要である。第二帯は、大動脈弁の後外側に位置する大動脈僧帽弁カーテンと原生僧帽弁の位置である。誤った位置に留置(インプラント)された人工弁は、僧帽弁前尖の正常な機能に干渉する可能性があり、その結果、僧帽弁の機能に影響を及ぼす可能性がある。本推奨方法で植え込まれたTHV100は、左室流出路における人工弁の突出を最小限に抑える。
図7は、大動脈基部複合体(詳細は後述)を模式的に示したものである。ある実施態様において、
図7に示すように、拡張されたTHV100の長さの80%~85%は大動脈環状部より上に残り、残りの15%~20%は仮想環平面6である弁下腔内に留まる。
【0111】
人工弁を本来の位置に配置することの第3の利点は、
図7の3と4に示す冠動脈起始部に対する閉塞を最小限に抑えることである。冠動脈起始部は、バルサルバの冠状静脈洞に沿って位置するか、または起始部の移行部より上に位置することがある。理想的には、人工弁は、冠状動脈の入口部を閉塞したり、閉塞状態を維持したりすることによって、これらの動脈への血流を妨げないことである。THV100を本来の位置に正確に配置することで、フレーム101が上行大動脈に突出することを最小限に抑えることで、これを防止する。本発明では、THV100の展開後のフレームの高さが短く、流出端の大きな被覆されていないセルによって、冠状動脈の入口部(3および4)の閉塞をさらに回避することができる。
【0112】
図1b~
図1gに示すように、THV100のフレーム101は、菱形のセル101c、菱形の本体101c’および交連(接合)部101dによって相互接続された、円周方向に延びる3列の角度のついたストラット10a、10b、10cを有している。THV100は、2つのストッパー209a、209bと2つの先端X線不透過性マーカーM1、M2との間でバルーン201にクリンピングされる。蛍光透視下で、
図1と
図1bに示すようなTHV100のフレーム101は、バルーン201に圧着された状態では、
図8に示したように、交互に明領域(LA)と暗領域(DA)を示す。暗領域DAは、角度付きストラット(10a、10b、10c)の円周方向に延長された列によって形成され、明領域LAは、菱形セル(101c)の曲がったストラット(s1/s2/s3/s4)と、八角形セル(101b)を組み合わせて形成される交連(接合)部(101d)によって形成される。THV100が、2つのストッパー209a、209bと極端な放射線不透過性のマーカーM1、M2との間でデリバリーシステム200のバルーン201にクリンピングされると、ランディングゾーンマーカーM4は、フレーム101および
図101bの実施形態を示す
図8に概略的に示されているように、THV100の流入端100aに向かう最初の明領域の中点の後方に配置されている。
【0113】
図1cに示す実施形態では、では、セル101bの下列101b1は、菱面体101c’を含み、これは、菱形セル101cよりも相対的に高い放射線透過性を提供する。したがって、クリンピングされたフレーム101の流入端100a側の明領域(LA)は、菱形セル101cによって形成されるLAよりも相対的に暗くなり、
図9に示すように蛍光透視下でより容易に識別できるようになる。
【0114】
図1c~
図1ggに示される支持フレームの他の実施形態は、
図8および
図9に示したのと同様のLAとDAを形成する。
【0115】
図10は大動脈基部複合体1を示す。大動脈基部は、大動脈の末端に取り付けられた、拡張した最初の部分である。これは、原生大動脈弁を含む上行大動脈(AA)2の一部である。通常、自然の大動脈弁には3つの尖がある。冠動脈は大動球の近傍から、3つの尖端のうち2つの尖端から生じている。右冠動脈(RCA)3は理想的には右冠尖(RCC)から起始し、左冠動脈(LCA)4は理想的には左冠尖(LCC)から起始する。残りの尖は冠状動脈がこの尖の近くから発生しないため、「無冠尖(NCC)」と呼ばれる。2つの明確な境界面があり、1つは仮想環状平面(VAP)6、もう1つは大動脈起始部の移行部(SJ)7である。蛍光透視下での標準的な処置では、原生冠動脈弁尖は共平面化される。このとき、各尖のヒンジポイントは直線上に配置され、3つの尖はすべて十分に分離されている。こうして得られたVAP6は、蛍光透視下で確認することができ、人工弁の植込みに最適な位置に配置するためのガイド機能となる。
【0116】
THV置換術中、蛍光透視下で、3つの生来の冠動脈尖(洞)であるRCC、LCC、NCCは、無冠尖(NCC)が患者の右側に、左冠尖(LCC)が患者の左側に、右冠尖(RCC)が中央にある共平面ビューで視覚的に整列される。これを
図11に模式的に示す。蛍光透視像は、解剖学的/AP的な真の像の鏡像であることに留意されたい。したがって、
図11の模式図では、NCCは患者の右に、LCCは患者の左に見える。
【0117】
図12は、デリバリーカテーテル200を用いて、人工大動脈弁100を環状面すなわち本来の位置に正確に位置決めし、段階的に展開する方法を説明する。
図13と
図14は埋込み位置を模式的に示している。
図13は、
図8に示したカテーテル200のバルーン201にクリンピングされたTHV100を示す(
図1bに示したフレームに対応)。
図14は、
図9に示したカテーテル200のバルーン201にクリンピングされたTHV100を示す(
図1cに示したフレームに対応)。これらのフレーム構造は、植込み方法を示すためにのみ示されている。この方法は、上記の他のフレーム構造にも適用できる。
【0118】
心臓弁の経皮的植込みの訓練を受けた当業者は、一般的に、手順301で患者の血管系にイントロデューサーシースを挿入する。その後、手順303で、蛍光透視ガイド下で、標準的な血管造影ピッグテールカテーテル8(できれば5Fサイズのものが望ましい)を挿入し、イントロデューサーシースを介して患者の血管系に導き、その遠位端をNCC内の最下端に留置(インプラント)する(NCCは通常最も低い基準尖で、冠動脈の起始がないことに留意)。この状態は、
図13と
図14に示されており、ピッグテールカテーテル8の湾曲した遠位端8aがNCC内に収まっている。手順305では、標準的な推奨ガイドワイヤー9を蛍光透視下で挿入し、患者の大動脈弁口を超えて誘導される。
【0119】
ピッグテールカテーテル8から生理食塩水希釈造影剤を注入すると、手術者は大動脈起始部1を可視化することができる。VAPは、大動脈起始部1の低位点を結ぶ仮想線6として決定される(
図10参照)。
【0120】
ステップ307で、デリバリーカテーテル200に予めクリンピングされた本発明のTHV100が、挿入され、誘導され、蛍光透視誘導下で標準的な推奨ガイドワイヤーに沿って患者の大動脈弁口を越えて導かれる。
【0121】
ステップ309で、環状面におけるTHV100の正確な位置決めのために、THVデリバリーシステム200のバルーン201内のランディングゾーンマーカーM4の中心は、
図13および
図14に示すように、NCCの最下部(VAP6を特定する)内に配置されたピッグテール8の下端8aと一致しなければならない。言い換えれば、ランディングゾーンマーカーM4の中心はVAP6と一致する。ランディングゾーンマーカーM4がない場合、環状面におけるTHV100の正確な位置決めは、フレーム101の遠位端に向かうLAの中心と、NCCの最下部(VAP6を特定する)内に配置されたピッグテール8の下端8aとを一致させることによって達成される。したがって、ランディングゾーンマーカーM4は絶対に必要というわけではないが、ガイドとしてのみ機能し、正確な配置を容易にする。THV100は、仮想環状面6と同軸であり、したがって、蛍光透視下で可視化されるようにピッグテール8に隣接している。これにより、THV100は展開前の望ましい位置に確実に到達する。これは、蛍光透視下で生理食塩水希釈造影剤を同時に注入することで達成できる。
【0122】
代替的に、または組み合わせて、THV100は、流入端100aに向かう明領域(LA)の中心が、
図13および
図14に示すように、NCCの最下部内に配置されたピッグテール8の下端8a、またはVAP6のいずれかと一致するように配置することができる。
【0123】
上記の弁輪位置を達成したら、ステップ311で標準的な既知の技術を使用して心臓を急速にペーシングしながら、バルーン膨張によってTHV100を展開することができる。先に述べた本発明の2列八角形セル形状により、フレーム101の拡張とそれに伴う低いフォアショートニングは、正確な正中展開を可能にする。THV100はセル列数が少なく、フレームスカフォールド構造であるため、フォアショートニング率が低く、展開精度が向上している。
【0124】
THV100の展開後、急速ペーシングは中止される。ステップ313で、バルーン201を素早く収縮させ、カテーテル200を展開したTHV100から引き抜き、その後ステップ315で患者の体内から取り出す。その後、ガイドワイヤーとピッグテールカテーテルも同様に標準的な手技で抜去する。
【0125】
本開示の好ましい実施形態の説明は、例示と説明を提供するが、網羅的なものではなく、開示を具体的に開示された形式に限定するものではない。上記の教示に基づいて変更や変形が可能であり、または開示の実践から取得される場合がある。
【0126】
たとえば、フレームには、角度付きストラットの周方向に伸びる複数の列によって形成される、互いに重なる八角形セルが2列以上含まれる場合がある。このような場合、フレームには、フレームの上端部にある角度付きストラットの最上列、フレームの下端部にある角度付きストラットの最下列、およびその間の複数の角度付きストラットの中間列が含まれる場合がある。最下列の列は、支持フレームの流入端に向かって配置されている。さらに、このような実施形態では、上列は、下列と呼ばれる隣接する下列に対して相対的に参照される。
【0127】
上記の例では、周方向に伸びる角度付きストラットの列は、周方向に伸びる角度付きストラットの列の連続する2つの角度付きストラットがピークまたは谷を形成する波形状を有する場合がある。角度付きストラットの上列のピークは、隣接する角度付きストラットの下列の谷を向いている。
【0128】
隣接する周方向に伸びる角度付きストラットの列は、近位端と遠位端の間に複数の隣接して配置されたセル列を含む支持フレームを形成するために、互いに接続される。複数の隣接して配置されたセル列には、最上列のセルと最下列のセルを含む。
【0129】
上列の角度付きストラットの谷は、隣接する下列の角度付きストラットの対応するピークに、リンク(菱形セルまたは菱面体)によって接続され、互いに絡み合った八角形セルを含むセル列を形成する。これにより、各交連(接合)部で菱面体または菱形セルが交互に並ぶようになる。菱面体は、内部が中実構造である場合があり、菱形セルは、内部が開放構造である。最上列のセルは、菱面体3つを含み、これらの菱面体は互いに角度を付けて配置され、3つの交連(接合)取り付け部を形成する場合がある。前記菱面体には穴が設けられている。
【0130】
異なるセル列における前記リンクの様々な配置が可能であるため、支持フレームの複数の実施形態を得ることができる。
【0131】
このような人工弁は、上記で説明した人工弁と同様に、弁尖、内側スカートおよび外側スカートをさらに含む場合がある。
【0132】
このようなフレームは、必要な柱状強度を提供する。このようなステントを展開する方法も、対応するデリバリーシステムを使用してステントを適切に配置するために、それに応じて変更される。
【0133】
本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものである。より一般的には、当業者は、本願で説明されているすべてのパラメータ、寸法、材料、および構成は例示的なものにすぎず、実際のパラメータ、寸法、材料、および/または構成は、本発明の教示が使用される特定の用途または用途によって異なることを容易に理解するものである。
【国際調査報告】