(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】HIV及び/またはSIVに感染した細胞のマーカ及びその応用
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20240705BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20240705BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20240705BHJP
C07K 16/40 20060101ALI20240705BHJP
C12N 9/12 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12N15/54 ZNA
C12N15/113 130Z
C07K16/40
C12N9/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504818
(86)(22)【出願日】2021-09-30
(85)【翻訳文提出日】2024-03-22
(86)【国際出願番号】 CN2021122082
(87)【国際公開番号】W WO2023004994
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】202110855712.1
(32)【優先日】2021-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516367039
【氏名又は名称】中国医科大学附属第一医院
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梁国新
(72)【発明者】
【氏名】尚▲紅▼
【テーマコード(参考)】
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ27
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR48
4B063QS33
4B063QS34
4B063QX01
4H045AA11
4H045DA76
4H045EA22
4H045EA53
(57)【要約】
HIV及び/またはSIVに感染した細胞中のマーカ及びその応用であって、マーカはPLK(Polo-like-kinase)である。PLKタンパク質の活性を阻害し、またはそれを除去することにより、リザーバを活性化せずにウイルスを放出させるという目的を実現することで、それを生理状態下で検出することができ、さらに体内で免疫システムまたは薬によって識別、除去させることもできる。PLKタンパク質の活性を強化することで、HIV及び/またはSIVに感染した細胞内でウイルスの放出を直接阻害することができる。それにより、HIV及び/またはSIV感染の診断及び抗ウイルス治療に新しい標的を提供し、ウイルス感染の早期の迅速な検出及び極早期の治療に投薬の根拠と保障を提供しており、重要な臨床的価値を有している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HIV及び/またはSIVに感染した細胞中のマーカにおいて、前記マーカがPLKタンパク質であることを特徴とする、マーカ。
【請求項2】
前記マーカのPLKタンパク質がPLK3タンパク質であることを特徴とする、請求項1に記載のHIV及び/またはSIVに感染した細胞中のマーカ。
【請求項3】
前記マーカのPLK3タンパク質はPLK3-201タンパク質であり、前記PLK3-201タンパク質のアミノ酸配列は配列番号1に示す通りであることを特徴とする、請求項2に記載のHIV及び/またはSIVに感染した細胞中のマーカ。
【請求項4】
HIV感染の検出及び除去に用いる細胞の調製における、PLKタンパク質活性を阻害できる物質の使用であって、
前記PLKタンパク質活性を阻害できる物質が、
I、小分子化合物、
II、Wortmannin、Volasertib、BI2536、GW843682X、TAK960、Poloxin、LFM-A13、SEB13 Hydrochloride、TC-S 7005、TAK-960 dihydrochloride、SEB13及びTAK-960 hydrochlorideを含むPLKプロテアーゼインヒビター、
III、PLKタンパク質の特異性抗体またはその抗原結合フラグメント、
IV、PLKタンパク質の標的阻害剤としてのsiRNAまたはshRNA、
のうちの少なくとも1種の物質を含むことを特徴とする、
使用。
【請求項5】
前記PLKタンパク質活性の阻害がPLK3タンパク質活性の阻害であることを特徴とする、請求項4に記載のPLKタンパク質活性を阻害できる物質のHIV感染の検出及び除去に用いる細胞の調製における使用。
【請求項6】
HIV及び/またはSIVに感染した細胞を検出する方法において、前記方法が、感染した細胞中のPLKタンパク質活性を阻害することによって、該細胞に検出可能な子孫ウイルスを放出させて検出の目的を果たすというものであることを特徴とする、方法。
【請求項7】
HIV及び/またはSIVに感染した細胞を除去する方法において、前記方法が、HIV及び/またはSIVに感染した細胞中のPLKタンパク質活性を阻害することによって該細胞に子孫ウイルスを放出させ、さらに特にキラーCD8+T細胞を主なエフェクタ細胞とするヒト免疫システムに特異的に識別され、または関連する抗ウイルス薬に識別されて、HIV及び/またはSIVに感染した細胞を除去する目的を果たすというものであることを特徴とする、方法。
【請求項8】
前記HIV及び/またはSIVに感染した細胞が、HIV及び/またはSIVに感染した細胞、HIV及び/またはSIVに感染した末梢血細胞、CD4+T細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、樹状細胞及びグリア細胞を含むことを特徴とする、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記方法におけるPLKタンパク質活性の阻害が、PLK3タンパク質活性の阻害であることを特徴とする、請求項6または7に記載の方法。
【請求項10】
HIV及び/またはSIVに感染した細胞内でウイルスの放出を直接阻害する方法において、前記方法が、PLKタンパク質の発現を増強することによってHIV及び/またはSIVに感染した細胞内のウイルスの放出を直接阻害することができるものであることを特徴とする、方法。
【請求項11】
前記HIV及び/またはSIVに感染した細胞が、HIV及び/またはSIVに感染した細胞、HIV及び/またはSIVに感染した末梢血細胞、CD4+T細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、樹状細胞及びグリア細胞を含むことを特徴とする、請求項10に記載のHIV及び/またはSIVに感染した細胞内でウイルスの放出を直接阻害する方法。
【請求項12】
前記方法におけるPLKタンパク質発現の増強がPLK3タンパク質発現の増強であることを特徴とする、請求項10に記載のHIV及び/またはSIVに感染した細胞内でウイルスの放出を直接阻害する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオ医薬分野に関する。具体的には、HIV及び/またはSIVに感染した細胞中のマーカ及びその応用に関わり、より具体的には、本発明は、PLKタンパク質をHIV及び/またはSIVに感染した細胞の検出及び該細胞の除去のための用途、HIV及び/またはSIVに感染した細胞に処理を行うことによって該細胞を検出及び除去する方法を提供しており、またHIV及び/またはSIVに感染した細胞内のウイルス放出を阻害する方法も提供している。
【背景技術】
【0002】
HIV感染はすでに地球上の生命の健康に対する重大な脅威となっているが、現時点の抗HIV療法では、ウイルスのアクティブレプリケーションを有効にコントロールできるだけで、徹底的に根治することはできない。HIV感染者が抗ウイルス治療(Highly Active Antiretroviral Therapy,HAART)を行うと、血漿中のウイルス負荷が急速に減少し、最小検出限界(<20コピー/ml)以下になる。しかし、抗ウイルス治療を一旦中止すると、体内のウイルスは急速にリバウンドする。そのため、ほとんどのエイズ患者は、生涯にわたって抗ウイルス治療を行わなければならない(極めて少数のエリートコントローラを除く)。薬の使用を停止した後、ウイルスが急速にリバウンドし、病状が再発して根治が難しい主要な原因は「HIVリザーバ細胞」の存在であり、これもエイズが完全治愈を実現しにくい最も根本的な原因である。そのため、これらHIVに感染したリザーバ細胞に対する有効かつ安全な検出方法及び除去方法を見つける必要がある。
【0003】
既存のHIVリザーバの検出方法は、基本的にすべて実験室条件下でHIVリザーバ細胞を活性化すること、例えば、植物性凝集素(phytohemagglutinin,PHA)などに類似する物質を添加してHIVリザーバ細胞を活性化することにより、大量に子孫ウイルスを放出させ、放出されたウイルス量を検出し、HIVリザーバ細胞のおおよその存在量を推定するというものである。この検出方法の欠点は、(1)標準化及び定量化ができないこと、(2)HIVリザーバ細胞は、一旦活性化されると、ウイルスの放出を促進することはできるが、HIVリザーバの重要な生理特性を喪失してしまうこと、という点にある。そのため、放出されたウイルスは、すでに潜伏ウイルスの特徴を有していないのである。
【0004】
この分野では、理論上、国際的に広く認められているショック・アンド・キル療法(Shock&Kill)を基本的な治療原則とする方法が研究されている。既存の検出方法と同様に、Shock&Kill治療の原則においても、まず潜伏逆転剤(Latent reversal agents,LRA)がリザーバ細胞内の潜伏ウイルスを活性化/Shockさせ、その後、キラーCD8+T細胞によって発現させ、除去させる。しかし、治療方法の研究の面で現在遭遇している重要な問題は、CD4+Tリザーバ細胞中の潜伏ウイルスのLRAsを活性化しても、リザーバ細胞に特異的に作用するわけではなく、生体が安定バランスを崩したり、ヒト免疫システムが非特異的に活性化したりすることになる。そのため、現在の手段を採用してShock&Kill治療を行うと、患者の生体の安定バランスが崩れ、免疫が混乱し、命を落とすことさえある。つまり、Shock&Kill療法は基礎実験上では成功したが、臨床治療に入ることができなかったのである。サル免疫不全ウイルス(Simian immunodeficiency virus,SIV)はアフリカミドリザルウイルスとも呼ばれ、HIVに類似した特性を有する、アフリカ霊長類のレトロウイルスである。
【0005】
上で述べたように、HIV及び/またはSIVに感染した細胞の中からマーカを探し出すことで、HIVリザーバ細胞を活性化せず、生体の安定バランスを崩すことなく、引き続き大量の子孫ウイルスの放出を促進させることで、安全な生理条件下でこれらの細胞を検出することができること、しかも体内で自己免疫システムまたは関連する抗ウイルス薬によって識別及び除去されること、及びHIV及び/またはSIVに感染した細胞内でウイルスの放出を直接阻害することのすべてが、重要な臨床的意味を有しているのである。
【0006】
Polo様キナーゼ(Polo-like Kinase,PLK)は細胞周期のプロセスにおける重要な制御因子であり、ファミリーメンバーには主にPLK1、PLK2、PLK3、PLK4及びPLK5が含まれる。その中で、ある研究では、PLK3が細胞ストレス反応や遺伝子二重鎖断裂修復に関係していることを指摘している。細胞系では、PLK3タンパク質は微小管依存的に中心体と結合し、有糸分裂に関与し、かつ有糸分裂装置に位置決めされている。キナーゼ喪失突然変異体の発現は、微小管動態の変化とアポトーシスにより引き起こされる細胞形態異常をもたらした。しかし現在のところ、PLK3タンパク質の、HIV及び/またはSIVに感染した細胞内における具体的な機能メカニズムなどの情報に関する報道はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の問題を解決するために、本発明では、HIV及び/またはSIVに感染した細胞中のマーカ及びその応用を提供している。該マーカ(即ちPLKタンパク質)の助けを借りて、HIV及び/またはSIVに感染した細胞を処理し、これらの細胞に子孫ウイルスを放出させることで、該細胞を検出及び除去する方法とを提供しており、また、HIV及び/またはSIVに感染した細胞の子孫ウイルスの放出を直接阻害する方法も提供している。
【0008】
上記の目的を実現するために、本発明では以下の技術手法を提供している。
【0009】
本発明では、HIV及び/またはSIVに感染した細胞中のマーカを提供しており、その特徴は、上記マーカがPLKタンパク質であるという点にある。
【0010】
さらに、上記マーカのPLKタンパク質はPLK3タンパク質である。
【0011】
さらに、上記マーカのPLK3タンパク質はPLK3-201タンパク質であり、上記PLK3-201タンパク質のアミノ酸配列は配列番号1に示す通りである。
【0012】
本発明はさらに、PLKタンパク質活性を阻害可能な物質の、HIV及び/またはSIV感染の検出及び除去のための細胞の調製における用途を提供しており、上記PLKタンパク質活性を阻害可能な物質は、
I、小分子化合物、
II、Wortmannin、Volasertib、BI2536、GW843682X、TAK960、Poloxin、LFM-A13、SEB13 Hydrochloride、TC-S 7005、TAK-960 dihydrochloride、SEB13及びTAK-960 hydrochlorideを含むPLKプロテアーゼインヒビター、
III、PLKタンパク質の特異性抗体またはその抗原結合フラグメント、
IV、PLKタンパク質の標的阻害剤としてのsiRNAまたはshRNA、
のうちの少なくとも1種の物質を含むことを特徴とする。
【0013】
さらに、上記PLKタンパク質活性の阻害は、PLK3タンパク質活性の阻害である。
【0014】
本発明はさらに、HIV及び/またはSIVに感染した細胞を検出する方法を提供しており、上記方法は、感染した細胞中のPLKタンパク質活性を阻害することによって、該細胞に検出可能な子孫ウイルスの大量放出を開始させて検出の目的を果たすことを特徴とする。
【0015】
本発明はさらに、HIV及び/またはSIVに感染した細胞を除去する方法を提供しており、上記方法は、HIV及び/またはSIVに感染した細胞中のPLKタンパク質活性を阻害することによって、HIV及び/またはSIVに感染した細胞に子孫ウイルスの大量放出を開始させ、それによりヒト免疫システムに特異的に識別され、または関連する抗ウイルス薬に識別されて、HIV及び/またはSIVに感染した細胞を除去する目的を果たすことを特徴とする。
【0016】
さらに、上記HIV及び/またはSIVに感染した細胞を検出及び除去する方法は、上記HIV及び/またはSIVに感染した細胞が、HIV及び/またはSIVに感染した細胞、HIV及び/またはSIVに感染した末梢血細胞、CD4+T細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、樹状細胞及びグリア細胞を含むことを特徴とする。
【0017】
さらに、上記HIV及び/またはSIVに感染した細胞を検出及び除去する方法は、上記方法におけるPLKタンパク質活性の阻害がPLK3タンパク質活性の阻害であることを特徴とする。
【0018】
本発明はさらに、HIV及び/またはSIVに感染した細胞内でウイルスの放出を直接阻害する方法を提供しており、上記方法は、PLKタンパク質の活性を強化することによってHIV及び/またはSIVに感染した細胞内のウイルスの放出を直接阻害することができることを特徴とする。
【0019】
好適には、HIV及び/またはSIVに感染した細胞内でウイルスの放出を直接阻害する上記方法は、上記HIV及び/またはSIVに感染した細胞が、HIV及び/またはSIVに感染した末梢血細胞、CD4+T細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、樹状細胞及びグリア細胞を含むことを特徴とする。
【0020】
さらに、HIV及び/またはSIVに感染した細胞内でウイルスの放出を直接阻害する上記方法は、上記方法におけるPLKタンパク質活性の強化が、PLK3タンパク質発現の強化であることを特徴とする。
【0021】
従来技術と比較すると、本発明の有益な効果は以下の通りである。
【0022】
本発明では、HIV及び/またはSIVに感染した細胞がウイルスを放出することに関連する新しい標的を初めて発見している。PLK3タンパク質の活性を阻害し、またはそれを除去することにより、リザーバを活性化せずに細胞が大量の子孫ウイルスを放出することを促すという目的を果たすことで、それを生理状態下で検出することができ、さらに体内で免疫システムまたは関連する抗ウイルス薬に識別、除去させることもできる。従来の検査方法では、体外で細胞を強烈に活性化させる必要があり、感染した細胞の生理(休止)特徴の変化が生じ、しかもプロウイルスが完全であるか否かを区別できず、リザーバの大きさを過大評価してしまうので、検査結果の真実性や精度が不十分であり、まだ臨床に応用することはできていない。
【0023】
それと同時に、本発明では、PLK3タンパク質の活性を強化することで、HIV及び/またはSIVに感染した細胞内でウイルスの放出を直接阻害することができ、ウイルスを永久に細胞内に封じ込めるという目的を達成できることを初めて発見している。つまり、PLK3タンパク質の活性を阻害すること、またはそれを除去すること、あるいはPLK3タンパク質の活性を強化することは、いずれもHIV感染の抗ウイルス治療にとって有益なのである。
【0024】
以上のように、本発明は、HIV及び/またはSIV感染の診断及び抗ウイルス治療に全く新しい理論的根拠及び全く新しい標的を提供するとともに、ウイルス検出のウィンドウ期間を有効に短縮することができ、感染の極めて早い時期に細胞レベルを通して微量の感染性ウイルスを検出し、HIV及び/またはSIV感染の早期診断及び極早期治療に投薬の根拠と保障を提供することができるので、重要な臨床応用的価値を有している。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、PLK3タンパク質発現ベクターをトランスフェクションした後の、上澄み液中のHIVの感染率の比較図である。
【
図2】
図2は、PLK3タンパク質発現ベクターをトランスフェクションした後の、p24含有量の比較図である。
【
図3】
図3は、PLK3タンパク質発現ベクターをトランスフェクションした後の、ウイルス粒子に関連するゲノムRNA含有量の比較図である。
【
図4】
図4は、PLK3タンパク質発現ベクターをトランスフェクションした後の、HIV Gag RNA含有量の比較図である。
【
図5】
図5は、PLK3タンパク質発現ベクターをトランスフェクションした後の、野生型Gagタンパク質とコドンが最適化されたGagタンパク質の含有量の比較図である。
【
図6】
図6は、PLK3タンパク質発現ベクターをトランスフェクションした後の、上澄み液中のHBVウイルス含有量の比較図である。
【
図7】
図7は、PLK1、PLK2、PLK3、PLK4及びPLK5タンパク質発現ベクターで293T細胞をトランスフェクションした後の、上澄み液中のHIV-1含有量の比較図である。
【
図8】
図8は、PLK3タンパク質発現ベクターをトランスフェクションした後の、上澄み液中のHIV-1含有量比較図である。
【
図9】
図9は、PLK3タンパク質発現ベクターをトランスフェクションした後の、上澄み液中の異なるエンベロープ(VSV-G、HIV-1
DoL、HIV-1
SF162、HIV-1
89.6、HIV-1
AD8)ウイルスの含有量の比較図である。
【
図10】
図10は、PLK3タンパク質発現ベクターをトランスフェクションした後の、HIV Gag RNA含有量の比較図である。
【
図11】
図11は、PLK1、PLK2、PLK3、PLK4及びPLK5タンパク質発現ベクターをトランスフェクションした後の、上澄み液中のCCR5向性HIV-1
AD8含有量の比較図である。
【
図12】
図12は、PLK1、PLK2、PLK3、PLK4及びPLK5タンパク質発現ベクターをトランスフェクションした後の、上澄み液中のCCR5とCXCR4(両向性)HIV-1
89.6の含有量の比較図である。
【
図13】
図13は、PLK1、PLK2、PLK3、PLK4及びPLK5タンパク質発現ベクターをトランスフェクションした後の、上澄み液中のCCR5向性HIV-1
BaL含有量の比較図である。
【
図14】
図14は、PLK1、PLK2、PLK3、PLK4及びPLK5タンパク質発現ベクターをトランスフェクションした後の、上澄み液中のHIV-2
ROD含有量の比較図である。
【
図15】
図15は、PLK1、PLK2、PLK3、PLK4及びPLK5タンパク質発現ベクターをトランスフェクションした後の、上澄み液中のSIV
agm含有量の比較図である。
【
図16】
図16は、HIV-1の感染に対するPLK3キナーゼ阻害剤GW843682Xの作用の影響図である。
【
図17】
図17は、PLK3キナーゼ喪失突然変異発現ベクターをトランスフェクションした後の、HIV-1感染に対する作用の影響図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
発明の詳細な説明
以下では、具体的な実施形態と結び付けて、本発明について詳細に記述しているが、その目的は、前述の技術内容をより適切に理解させることであって、前述の技術内容を制限することではない。実質的に、同一または類似する原理により行われる改良は、すべて本発明で保護を請求している請求項の範囲内にある。
【実施例】
【0027】
実施例1
【0028】
HIVリザーバ細胞のヒトPLK3タンパク質は、HIV-1ウイルスタンパク質の翻訳を阻害する作用を有しており、HIV-1に対して特異的な阻害性を持つ。
【0029】
PLK3の作用を検証するために、HIV-1ウイルスベクターを異なるPLK3タンパク質発現レベルを有する293T細胞に処理したところ、PLK3タンパク質発現のない293T細胞と比較して、これらのPLK3タンパク質発現を含む293T細胞は、HIVの感染性を最大約1/150のレベルまで低下させられることがわかった。具体的な試験のステップは次の通りである。293T細胞を3×FLAGを用いてマーキングしたPLK3タンパク質発現ベクターでトランスフェクションし、陰性対照群を含めて、pNL4.3を用いて処理した。トランスフェクションを48時間行い、上澄み液をTZM-bl指示細胞の感染に用いて、ウイルス感染レベルを取得した。毎回の測定データからは、いずれもバックグラウンドRLUが差し引かれている(
図1)。
【0030】
PLK3タンパク質の過剰発現がある場合は、培養上澄み液中のウイルス粒子のコア抗原p24及びウイルス粒子のゲノムRNAの含有量も大幅に減少する。具体的な試験のステップは次の通りである。
図1と類似する前処理ステップを採用して、p24酵素結合免疫吸着測定(ELISA)を行い(
図2)、特定のプローブのqPCRに基づいて、ウイルス粒子に関するゲノムRNA(Virion RNA)を測定した(
図3)。
【0031】
しかし、PLK3タンパク質の過剰発現は、細胞内ウイルスGag転写レベルには影響していない。これは、PLK3タンパク質の過剰発現はHIV-1のタンパク質発現を著しく減少させたものの、HIV-1の転写には影響しなかったことを表している。また、PLK3タンパク質と関連するウイルスGagタンパク質も著しく減少しており、これはPLK3がHIVタンパク質の翻訳を特異的に阻害する過程に関わっていることを表している。具体的な試験のステップは次の通りである。すべてのRNAを抽出してqPCRを行い、HIV-1のGag転写レベルを測定した(
図4)。細胞を集めてフローサイトメトリー試験を行い、かつ特異性抗体を用いてHIV-1p24タンパク質の発現レベルを検出した(
図5)。
【0032】
293T細胞中のPLK3タンパク質の過剰発現がCMVプロモータが駆動するHBV(Hepatitis B virus)ウイルスに対する作用を検出し、PLK3タンパク質がHIV-1に特異的に作用するか否かを判断した結果、完全なHBVの複製を発見した。つまり、PLK3タンパク質はHBVの複製及び放出に影響しないということである。具体的な試験のステップは以下の通りである。実験グループの293T細胞を3×FLAGでマーキングしたPLK3発現ベクターでトランスフェクションし、陰性対照群と共にHBVレプリコン(CMVプロモータ)を用いて処理した。48時間後、HBs酵素結合免疫吸着測定を用いて、培養上澄み液中のHBVウイルス粒子を検出した(
図6)。
【0033】
実施例2
【0034】
ヒトPLK(PLK1、PLK2、PLK3、PLK4及びPLK5)タンパク質ファミリーの中で、PLK3タンパク質だけがHIV-1タンパク質の翻訳を阻害する作用を有し、HIV-1に対して特異的な阻害性を持っている。また、チンパンジーのPLK3タンパク質にもHIV-1タンパク質の翻訳を阻害する作用があり、HIV-1に対して特異的な阻害性を持っている。
【0035】
ヒトPLKタンパク質は、具体的には、PLK1タンパク質、PLK2タンパク質、PLK3タンパク質、PLK4タンパク質及びPLK5タンパク質の5種類がある。5種類すべてのヒトPLKタンパク質と霊長類PLK3タンパク質の抗HIV-1活性を検出した。陰性対照群に比べて、様々な発現量のヒトPLK3は、HIV-1の感染性を陰性対照群の1/11~1/115まで低下させている。また、ヒトPLK1タンパク質、PLK2タンパク質、PLK4タンパク質及びPLK5タンパク質は抗HIV-1活性を示さなかった。チンパンジー(chimpanzee)PLK3タンパク質及びマカク(macaca)PLK3タンパク質も、HIV-1の感染性を低下させることができ、その低下の幅はヒトPLK3タンパク質とは僅かな差しかない。これは、霊長類のPLK3ファミリータンパク質がすべて抗HIV-1活性を有する可能性があることを表している。具体的な試験のステップは以下の通りである。293T細胞を、それぞれ3×FLAGでマーキングしたヒトPLK1、PLK2、PLK3、PLK4及びPLK5タンパク質発現ベクター、3×FLAGでマーキングしたチンパンジーPLK3タンパク質発現ベクター、及び3×FLAGでマーキングしたマカクPLK3タンパク質ベクターを用いてトランスフェクションし、陰性対照群を含めて、すべてpNL4.3で処理した。トランスフェクションの48時間後に、上澄み液をTZM-bl指示細胞の感染に用いて、ウイルス感染レベルを取得した。毎回の測定データからは、いずれもバックグラウンドRLUが差し引かれている(
図7、8)。
【0036】
実施例3
【0037】
PLK3タンパク質はHIV-1に対して阻害性を有しており、該阻害性は、Gagの転写に影響を及ぼすことなく、CXCR4向性及びCCR5向性エンベロープタンパク質に包まれたHIVに対していずれも阻害作用を有することに現れている。
【0038】
ヒトPLK3タンパク質はHIV-1感染を阻止する非常に強い能力を示しており、しかもGag転写には影響していない。具体的な試験プロセスは次の通りである。3×FLAGでマーキングしたPLK3タンパク質発現ベクターを用いて293T細胞をトランスフェクションし、陰性対照群を含めてpNL4.3ΔE-GFP及びそれぞれVSV-G、pDoL-gp160、pSF162-gp160、pAD8-gp160またはp89.6-gp160を発現するベクターにより処理した。トランスフェクションの48時間後、上澄み液をTZM-bl指示細胞の感染に用い、ウイルスの感染レベルを取得した。毎回の測定データからは、いずれもバックグラウンドRLUが差し引かれている(
図9)。抽出されたすべてのRNAにqPCRを行ってGag転写物を定量化し、ホスホグリセルアルデヒドデヒドロゲナーゼによって規格化した(
図10)。
【0039】
実施例4
【0040】
PLK3タンパク質は、HIV-1、HIV-2及びSIVに対して阻害性を有しており、該阻害性は、野生型CCR5向性ウイルス(AD8及びBaL)、両向性ウイルス(89.6)、HIV-2ROD及びSIVagmに対していずれも阻害作用を有することに現れている。
【0041】
ヒトPLK3の発現は、HIV-1
AD8、HIV-1
BaL、HIV-1
89.6、HIV-2
ROD及びSIV
agm感染に対する制限能力も表している。具体的な試験のステップは次の通りである。3×FLAGでマーキングしたPLK3タンパク質発現ベクターを用いて293T細胞をトランスフェクションし、陰性対照群も含めていずれもウイルスベクターpAD8(
図11)、p89.6(
図12)、pBaL(
図13)、pHIV-2
ROD(
図14)及びpSIV
agm(
図15)を用いて処理した。トランスフェクションの48時間後、上澄み液をTZM-bl指示細胞の感染に用い、ウイルスの感染レベルを取得した。毎回の測定データからは、いずれもバックグラウンドRLUが差し引かれている。
【0042】
実施例5
【0043】
PLK3には、HIV-1に対する阻害作用を実現するためのキナーゼ活性が必要である。PLK3キナーゼ阻害剤またはキナーゼドメイン喪失突然変異は、HIV-1に対するPLK3の阻害作用を阻害することができる。
【0044】
ヒトPLK3はPolo様キナーゼである。PLK3キナーゼ阻害剤GW843682Xを使用する処理では、PLK3の発現レベルに変化はなかったが、その抗ウイルス能は阻害された。GW843682XまたはPLK3キナーゼドメイン突然変異ベクターを使用してそれぞれを処理し、結果を観察した。GW843682XまたはPLK3キナーゼドメイン突然変異は、ヒトPLK3の抗HIV-1ウイルス能を阻害することができた。具体的な試験のステップは次の通りである。3×FLAGでマーキングしたPLK3タンパク質発現ベクターを用いて、24時間トランスフェクションした後、陰性対照群も含めていずれもNL4.3.Luc(VSV-G)を用いて処理を行った。それと同時に、GW843682Xを用いて細胞を処理した。トランスフェクションの48時間後に、細胞を集めてフローサイトメトリー検査を行った(
図16)。3×FLAGでマーキングしたPLK3キナーゼドメイン喪失突然変異タンパク質発現ベクターを用いて、24時間トランスフェクションした後、陰性対照群も含めてNL4.3.Luc(VSV-G)を用いて処理を行った。トランスフェクションの48時間後に、細胞を集めてフローサイトメトリー検査を行った(
図17)。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-03-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HIVに感染した細胞を検出する製品の調製における、PLK3タンパク質を検出する試薬の使用であって、
前記PLK3タンパク質はPLK3-201タンパク質であり、前記PLK3-201タンパク質のアミノ酸配列は配列番号1に示す通りである
、使用。
【請求項2】
HIV
に感染
した細胞の検出及び除去に用いる
製品の調製における、PLK
3タンパク質活性を阻害できる物質の使用であって、
前記PLK3タンパク質はPLK3-201タンパク質であり、前記PLK3-201タンパク質のアミノ酸配列は配列番号1に示す通りであり、
前記PLK
3タンパク質活性を阻害できる物質が、
I、小分子化合物、
II、Wortmannin、Volasertib、BI2536、GW843682X、TAK960、Poloxin、LFM-A13、SEB13 Hydrochloride、TC-S 7005、TAK-960 dihydrochloride、SEB13及びTAK-960 hydrochlorideを含むPLK
3プロテアーゼインヒビター、
III、PLK
3タンパク質の特異性抗体またはその抗原結合フラグメント、
IV、PLK
3タンパク質の標的阻害剤としてのsiRNAまたはshRNA、
のうちの少なくとも1種の物質を含むことを特徴とする、使用。
【請求項3】
HIVに感染した細胞を検出する
製品の調製における、PLK3タンパク質活性を阻害する物質の使用であって、
前記
製品は、感染した細胞中のPLK
3タンパク質活性を阻害することによって、該細胞に検出可能な子孫ウイルス
の放出
を実現させて
おり、
前記PLK3タンパク質はPLK3-201タンパク質であり、前記PLK3-201タンパク質のアミノ酸配列は配列番号1に示す通りである、
使用。
【請求項4】
HIVに感染した細胞を除去する
製品の調製における、PLK3タンパク質活性を阻害する物質の使用であって、
前記
製品は、
HIVに感染した細胞内のPLK
3タンパク質活性を阻害することによって該細胞に子孫ウイルスを放出させ、
さらにキラーCD8+T細胞を主なエフェクタ細胞とするヒト免疫システムに特異的に識別され、または関連する抗ウイルス薬に識別され
ることを実現しており、
前記PLK3タンパク質はPLK3-201タンパク質であり、前記PLK3-201タンパク質のアミノ酸配列は配列番号1に示す通りである、使用。
【請求項5】
前記
HIVに感染した細胞が
、末梢血細胞、CD4+T細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、樹状細胞及びグリア細胞を含むことを特徴とする、請求項
3または
4に記載の
使用。
【請求項6】
抗HIVウイルス製品の調製における、PLK3タンパク質の発現を増加させる試薬の使用であって、
前記
製品は、PLK
3タンパク質の発現を増強することによって
HIVに感染した細胞内のウイルスの放出を直接阻害すること
を実現しており、
前記PLK3タンパク質はPLK3-201タンパク質であり、前記PLK3-201タンパク質のアミノ酸配列は配列番号1に示す通りである、使用。
【請求項7】
前記
HIVに感染した細胞が
、末梢血細胞、CD4+T細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、樹状細胞及びグリア細胞を含むことを特徴とする、請求項
6に記載の
使用。
【国際調査報告】