(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】エステラーゼ変異体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 9/16 20060101AFI20240705BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240705BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240705BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20240705BHJP
C12N 15/29 20060101ALI20240705BHJP
C12N 1/19 20060101ALN20240705BHJP
【FI】
C12N9/16 Z
C12N1/21
C12N15/63 Z
C12N15/55
C12N15/29
C12N1/19 ZNA
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505054
(86)(22)【出願日】2021-09-18
(85)【翻訳文提出日】2024-01-26
(86)【国際出願番号】 CN2021119423
(87)【国際公開番号】W WO2023004969
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】202110853890.0
(32)【優先日】2021-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516336828
【氏名又は名称】凱菜英医藥集團(天津)股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】ASYMCHEM LABORATORIES (TIANJIN) CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100158920
【氏名又は名称】上野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】洪 浩
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ,ゲイジ
(72)【発明者】
【氏名】肖 毅
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 娜
(72)【発明者】
【氏名】焦 学成
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼ 益明
(72)【発明者】
【氏名】李 娟
(72)【発明者】
【氏名】黄 ▲啓▼星
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA26X
4B065AA72X
4B065AA88Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA27
4B065CA56
(57)【要約】
エステラーゼ変異体及びその使用を提供する。配列番号1で示されるアミノ酸配列を基に合理的な設計及び数回の酵素進化・スクリーニングによって得られたエステラーゼ変異体は、野生型エステラーゼに比べ、タンパク質構造及び機能が変更し、実際の適用において、エステラーゼ変異体の触媒活性及び/又は立体選択性が極めて大きく向上し、且つ系中に特定の有機溶解補助剤が含まれる場合、依然として比較的安定な触媒活性及び/又は立体選択性を有する。また、エステラーゼ変異体の触媒活性及び/又は立体選択性の向上により、酵素の使用量がある程度低下し、後処理の難易度も低下して、工業化生産に適する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステラーゼ変異体であって、(1)前記エステラーゼ変異体のアミノ酸配列が、配列番号1を基に、
G19S、G19S+H86S、G19S+H86A、G19S+H86Q、G19S+H86M、G19S+H86T、G19S+H86C、G19S+H86N、G19S+F88N、G19S+F88R、G19S+F88Y、G19S+F88K、G19S+S111T、G19S+S111V、G19S+M113I、G19S+M113L、G19S+M113V、G19S+F125Y、G19S+F125S、G19S+Y128F、G19S+L157V、G19S+M166L、G19S+L187V、G19S+L187I、G19S+S218Y、G19S+S218H、G19S+S218F、G19S+S218N、G19S+H86S+S111T、G19S+H86S+S111V、G19S+H86S+M113A、G19S+H86S+M113G、G19S+H86S+M113I、G19S+H86S+M113L、G19S+H86S+M113V、G19S+H86S+M113I+L157A、G19S+H86S+M113I+L157G、G19S+H86S+M113I+L157V、G19S+H86A+S111T、G19S+H86A+S111V、G19S+H86A+M113A、G19S+H86A+M113G、G19S+H86A+M113I、G19S+H86A+M113L、G19S+H86A+M113V、G19S+H86A+M113I+S218E、G19S+H86A+M113I+S218F、G19S+H86A+M113I+S218I、G19S+H86A+M113I+S218L、G19S+H86A+M113I+S218M、G19S+H86A+M113I+S218T、G19S+H86A+M113I+S218V、G19S+H86A+M113I+S218Y、G19S+H86A+M113I+S218F+A86C、G19S+H86A+M113I+S218F+A86M、G19S+H86A+M113I+S218F+A86N、G19S+H86A+M113I+S218F+A86Q、G19S+H86A+M113I+S218F+A86S、G19S+H86A+M113I+S218F+M137F、G19S+H86A+M113I+S218F+M137L、G19S+H86A+M113I+S218F+M137Y、G19S+H86A+M113I+S218F+M137E、G19S+H86A+M113I+S218F+M137W、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y、G19S+H86A+M113I+S218F+F219L、G19S+H86A+M113I+S218F+F219T、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Q、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137F、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137L、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137W、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137Y又はG19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137Sのアミノ酸突然変異が発生したものであるか、又は前記エステラーゼ変異体のアミノ酸配列が、突然変異が発生したアミノ酸配列と80%以上の相同性を有し、且つエステラーゼ活性を有する、
ことを特徴とするエステラーゼ変異体。
【請求項2】
前記エステラーゼ変異体のアミノ酸配列が、突然変異が発生したアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上の相同性を有し、且つエステラーゼ活性を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載のエステラーゼ変異体。
【請求項3】
前記エステラーゼ変異体が、Rauvolfia serpentinaに由来するものである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のエステラーゼ変異体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のエステラーゼ変異体をコードする、
ことを特徴とするDNA分子。
【請求項5】
請求項4に記載のDNA分子が連結されている、
ことを特徴とする組換プラスミド。
【請求項6】
前記組換プラスミドは、pET-21b(+)、pET-22b(+)、pET-3a(+)、pET-3d(+)、pET-11a(+)、pET-12a(+)、pET-14b、pET-15b(+)、pET-16b(+)、pET-17b(+)、pET-19b(+)、pET-20b(+)、pET-21a(+)、pET-23a(+)、pET-23b(+)、pET-24a(+)、pET-25b(+)、pET-26b(+)、pET-27b(+)、pET-28a(+)、pET-29a(+)、pET-30a(+)、pET-31b(+)、pET-32a(+)、pET-35b(+)、pET-38b(+)、pET-39b(+)、pET-40b(+)、pET-41a(+)、pET-41b(+)、pET-42a(+)、pET-43a(+)、pET-43b(+)、pET-44a(+)、pET-49b(+)、pQE2、pQE9、pQE30、pQE31、pQE32、pQE40、pQE70、pQE80、pRSET-A、pRSET-B、pRSET-C、pGEX-5X-1、pGEX-6p-1、pGEX-6p-2、pBV220、pBV221、pBV222、pTrc99A、pTwin1、pEZZ18、pKK232-8、pUC-18及びpUC-19からなる群より選択されるいずれか1つである、
ことを特徴とする請求項5に記載の組換プラスミド。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の組換プラスミドを含有する、
ことを特徴とする植物でない宿主細胞。
【請求項8】
原核細胞又は真核細胞であり、前記真核細胞が酵母細胞である、
ことを特徴とする請求項7に記載の宿主細胞。
【請求項9】
前記宿主細胞はコンピテント細胞である、
ことを特徴とする請求項8に記載の宿主細胞。
【請求項10】
前記コンピテント細胞は、大腸菌BL21細胞又は大腸菌W3110である、
ことを特徴とする請求項9に記載の宿主細胞。
【請求項11】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエステラーゼ変異体を利用して、式Iで示されるエステル系化合物の、式IIで示される酸系化合物及び式IIIで示されるアルコール系化合物への加水分解を触媒することを含む、
ことを特徴とするキラル化合物の調製方法。
【化1】
(式中、n=1、2、3又は4であり、
X=C、O又はSであり、
R
1=CH
3、CH
2CH
3、CH
2-CH
2CH
3又はCHCH
3CH
3であり、
R
2=H、F、Cl、Br、CH
3又はCH
2CH
3である。)
【請求項12】
前記エステル系化合物は、
【化2】
、
又は
【化3】
のいずれか1つである、
ことを特徴とする請求項11に記載の調製方法。
【請求項13】
前記エステラーゼ変異体は、20℃~40℃の温度で、式Iで示されるエステル系化合物の加水分解反応を触媒する、
ことを特徴とする請求項11に記載の調製方法。
【請求項14】
前記エステル系化合物及び前記エステラーゼはリン酸カリウム緩衝液に溶解して触媒反応系を形成し、ここでリン酸カリウム緩衝液の濃度が0.1M~1Mであり、pH値が6.0~7.5である、
ことを特徴とする請求項11に記載の調製方法。
【請求項15】
前記エステラーゼ変異体と前記エステル系化合物との質量比は0.2mg~2mg:20mgである、
ことを特徴とする請求項11に記載の調製方法。
【請求項16】
前記エステラーゼ変異体と前記エステル系化合物との質量比は0.1g~0.5g:10gである、
ことを特徴とする請求項11に記載の調製方法。
【請求項17】
前記触媒反応系には、DMSO、DCM及び2-MeTHFからなる群より選択されるいずれか1つである溶解補助剤がさらに含まれる、
ことを特徴とする請求項14に記載の調製方法。
【請求項18】
前記触媒反応系における前記溶解補助剤の体積百分含有量が≦20%である、
ことを特徴とする請求項17に記載の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用酵素の調製分野に関し、具体的には、エステラーゼ変異体及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
有機合成は、医薬、農薬及び微細化工業の発展過程において、ますます大きな課題に直面しており、薬物分子において、多くの場合、1つの立体異性体のみが治療効果を有し、他の立体異性体は、治療効果を有しないか、又は副作用さえ有する。従来の有機合成では、反応の化学的及び位置選択性の不足を補うために保護及び脱保護ステップが導入されることが多く、一方、生物酵素触媒反応は、比較的高い触媒活性及び/又は立体選択性を有することが多く、中性及び室温の条件下で行われることが多く、環境汚染が少なく、したがって、有機合成における生物酵素触媒技術の適用は、非常に大きな実用価値を有する。
【0003】
エステラーゼは、エステルの加水分解を触媒する酵素の総称であり、植物、動物及び微生物に広く存在する加水分解酵素である。動物膵臓エステラーゼ及び微生物エステラーゼは、主な由来であり、主に真菌であり、次いで細菌であり、異なる由来のエステラーゼは、異なる触媒特性及び触媒活性を有する。エステラーゼは商品化されており、食品、医薬、化学工業等の分野で重要な役割を果たしている。
【0004】
CN 107058362 Aには、エステラーゼ遺伝子est816及びその組換エステラーゼが開示されており、大腸菌発現系及びピキア酵母発現系において高効率で可溶性に発現し、且つ組換エステラーゼがピレスロイド系農薬(シハロトリン、シペルメトリン、フェンバレレート、及びデルタメトリンを含む)に対して強い分解作用を有し、分解率が90%以上と高く、ピレスロイド系農薬残留物において広い応用の将来性がある。CN 106929493 Aには、配列番号5の配列の167番目のアミノ酸をバリンからヒスチジンに変異させたアミノ酸配列を有するラクトナーゼが開示されており、α-ゼアラレノールに対する分解効率を向上させている。
【0005】
生体触媒は、有機合成に用いられる場合、多くの場合、非天然基質であるが、非天然基質については、それらの反応活性、安定性及び選択性があまり良くないことが多く、そのため、実際に広く用いられているエステラーゼは多くない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主な目的は、エステラーゼ活性が低いか及び/又は立体選択性が低いという従来技術における問題を解決するために、エステラーゼ変異体及びその使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を実現するために、本発明の一態様によれば、エステラーゼ変異体を提供し、当該エステラーゼ変異体のアミノ酸配列が、配列番号1を基に、G19S、G19S+H86S、G19S+H86A、G19S+H86Q、G19S+H86M、G19S+H86T、G19S+H86C、G19S+H86N、G19S+F88N、G19S+F88R、G19S+F88Y、G19S+F88K、G19S+S111T、G19S+S111V、G19S+M113I、G19S+M113L、G19S+M113V、G19S+F125Y、G19S+F125S、G19S+Y128F、G19S+L157V、G19S+M166L、G19S+L187V、G19S+L187I、G19S+S218Y、G19S+S218H、G19S+S218F、G19S+S218N、 G19S+H86S+S111T、G19S+H86S+S111V、G19S+H86S+M113A、G19S+H86S+M113G、G19S+H86S+M113I、G19S+H86S+M113L、G19S+H86S+M113V、G19S+H86S+M113I+L157A、G19S+H86S+M113I+L157G、G19S+H86S+M113I+L157V、G19S+H86A+S111T、G19S+H86A+S111V、G19S+H86A+M113A、G19S+H86A+M113G、G19S+H86A+M113I、G19S+H86A+M113L、G19S+H86A+M113V、G19S+H86A+M113I+S218E、G19S+H86A+M113I+S218F、G19S+H86A+M113I+S218I、G19S+H86A+M113I+S218L、G19S+H86A+M113I+S218M、G19S+H86A+M113I+S218T、G19S+H86A+M113I+S218V、G19S+H86A+M113I+S218Y、G19S+H86A+M113I+S218F+A86C、G19S+H86A+M113I+S218F+A86M、G19S+H86A+M113I+S218F+A86N、G19S+H86A+M113I+S218F+A86Q、G19S+H86A+M113I+S218F+A86S、G19S+H86A+M113I+S218F+M137F、G19S+H86A+M113I+S218F+M137L、G19S+H86A+M113I+S218F+M137Y、G19S+H86A+M113I+S218F+M137E、G19S+H86A+M113I+S218F+M137W、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y、G19S+H86A+M113I+S218F+F219L、G19S+H86A+M113I+S218F+F219T、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Q、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137F、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137L、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137W、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137Y又はG19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137Sのアミノ酸突然変異が発生したものであるか、又は突然変異が発生したアミノ酸配列と80%以上の相同性を有する。
【0008】
さらに、エステラーゼ変異体のアミノ酸配列が、突然変異が発生したアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上の相同性を有する。
【0009】
さらに、エステラーゼ変異体は、Rauvolfia serpentinaに由来するものである。
【0010】
本願の第2態様によれば、上記エステラーゼ変異体をコードするDNA分子を提供する。
【0011】
本願の第3態様によれば、上記DNA分子が連結されている組換プラスミドを提供する。
【0012】
さらに、組換プラスミドは、pET-21b(+)、pET-22b(+)、pET-3a(+)、pET-3d(+)、pET-11a(+)、pET-12a(+)、pET-14b、pET-15b(+)、pET-16b(+)、pET-17b(+)、pET-19b(+)、pET-20b(+)、pET-21a(+)、pET-23a(+)、pET-23b(+)、pET-24a(+)、pET-25b(+)、pET-26b(+)、pET-27b(+)、pET-28a(+)、pET-29a(+)、pET-30a(+)、pET-31b(+)、pET-32a(+)、pET-35b(+)、pET-38b(+)、pET-39b(+)、pET-40b(+)、pET-41a(+)、pET-41b(+)、pET-42a(+)、pET-43a(+)、pET-43b(+)、pET-44a(+)、pET-49b(+)、pQE2、pQE9、pQE30、pQE31、pQE32、pQE40、pQE70、pQE80、pRSET-A、pRSET-B、pRSET-C、pGEX-5X-1、pGEX-6p-1、pGEX-6p-2、pBV220、pBV221、pBV222、pTrc99A、pTwin1、pEZZ18、pKK232-8、pUC-18及びpUC-19からなる群より選択されるいずれか1つである。
【0013】
本願の第2態様によれば、上記のいずれか1つの組換プラスミドを含有する植物でない宿主細胞を提供する。
【0014】
さらに、宿主細胞は、原核細胞又は真核細胞であり、真核細胞が酵母細胞である。
【0015】
さらに、宿主細胞はコンピテント細胞である。
【0016】
さらに、コンピテント細胞は大腸菌BL21細胞又は大腸菌W3110である。
【0017】
本願の第2態様によれば、キラル化合物の調製方法を提供し、当該調製方法は、上記のエステラーゼ変異体を利用して式Iで示されるエステル系化合物の、式IIで示される酸系化合物及び式IIIで示されるアルコール系化合物への加水分解を触媒することを含む。
【化1】
(式中、n=1、2、3又は4であり、
X=C、O又はSであり、
R
1=CH
3、CH
2CH
3、CH
2-CH
2CH
3又はCHCH
3CH
3であり、
R
2=H、F、Cl、Br、CH
3又はCH
2CH
3である。)
【0018】
さらに、エステル系化合物は、
【化2】
、
又は
【化3】
のいずれか1つである。
【0019】
さらに、エステラーゼ変異体は、20℃~40℃の温度で、式Iで示されるエステル系化合物の加水分解反応を触媒する。
【0020】
さらに、エステル系化合物及びエステラーゼはリン酸カリウム緩衝液に溶解して触媒反応系を形成し、ここでリン酸カリウム緩衝液の濃度が0.1M~1Mであり、pH値が6.0~7.5である。
【0021】
さらに、エステラーゼ変異体とエステル系化合物との質量比は0.2mg~2mg:20mgである。
【0022】
さらに、エステラーゼ変異体とエステル系化合物との質量比は0.1g~0.5g:10gである。
【0023】
さらに、触媒反応系には、DMSO、DCM及び2-MeTHFからなる群より選択されるいずれか1つである溶解補助剤がさらに含まれる。
【0024】
さらに、触媒反応系における前記溶解補助剤の体積百分含有量が≦20%である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の技術的解決手段を適用すると、配列番号1で示されるアミノ酸配列を基に合理的な設計及び数回の酵素進化・スクリーニングによって得られたエステラーゼ変異体は、野生型エステラーゼに比べ、タンパク質構造及び機能が変更し、実際の適用において、エステラーゼ変異体の触媒活性及び/又は立体選択性が極めて大きく向上し、且つ系中に特定の有機溶解補助剤が含まれる場合、依然として比較的安定な触媒活性及び/又は立体選択性を有する。また、エステラーゼ変異体の触媒活性及び/又は立体選択性の向上により、酵素の使用量がある程度低下し、後処理の難易度も低下して、工業化生産に適する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
なお、本願における実施例及び実施例の特徴は、矛盾しない限り、互いに組み合わせることができ、以下、実施例を参照して本発明を詳細に説明する。
【0027】
典型的な実施例において、エステラーゼ変異体を提供し、当該エステラーゼ変異体のアミノ酸配列が、配列番号1で示されるアミノ酸配列にG19S、G19S+H86S、G19S+H86A、G19S+H86Q、G19S+H86M、G19S+H86T、G19S+H86C、G19S+H86N、G19S+F88N、G19S+F88R、G19S+F88Y、G19S+F88K、G19S+S111T、G19S+S111V、G19S+M113I、G19S+M113L、G19S+M113V、G19S+F125Y、G19S+F125S、G19S+Y128F、G19S+L157V、G19S+M166L、G19S+L187V、G19S+L187I、G19S+S218Y、G19S+S218H、G19S+S218F、G19S+S218N、G19S+H86S+S111T、G19S+H86S+S111V、G19S+H86S+M113A、G19S+H86S+M113G、G19S+H86S+M113I、G19S+H86S+M113L、G19S+H86S+M113V、G19S+H86S+M113I+L157A、G19S+H86S+M113I+L157G、G19S+H86S+M113I+L157V、G19S+H86A+S111T、G19S+H86A+S111V、G19S+H86A+M113A、G19S+H86A+M113G、G19S+H86A+M113I、G19S+H86A+M113L、G19S+H86A+M113V、G19S+H86A+M113I+S218E、G19S+H86A+M113I+S218F、G19S+H86A+M113I+S218I、G19S+H86A+M113I+S218L、G19S+H86A+M113I+S218M、G19S+H86A+M113I+S218T、G19S+H86A+M113I+S218V、G19S+H86A+M113I+S218Y、G19S+H86A+M113I+S218F+A86C、G19S+H86A+M113I+S218F+A86M、G19S+H86A+M113I+S218F+A86N、G19S+H86A+M113I+S218F+A86Q、G19S+H86A+M113I+S218F+A86S、G19S+H86A+M113I+S218F+M137F、G19S+H86A+M113I+S218F+M137L、G19S+H86A+M113I+S218F+M137Y、G19S+H86A+M113I+S218F+M137E、G19S+H86A+M113I+S218F+M137W、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y、G19S+H86A+M113I+S218F+F219L、G19S+H86A+M113I+S218F+F219T、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Q、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137F、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137L、 G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137W、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137Y又はG19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137Sの突然変異が発生したものであるか、又はエステラーゼ変異体のアミノ酸配列に突然変異が発生したアミノ酸配列における突然変異部位があり、且つ突然変異が発生したアミノ酸配列と80%以上(好ましくは90%以上、又は95%以上、又は99%以上)の相同性を有するアミノ酸配列である。
【0028】
上記エステラーゼ変異体のアミノ酸配列は、配列番号1で示されるアミノ酸配列に突然変異が発生したものであり、関連する突然変異が発生した重要な部位は、G19S、H86S、H86A、H86Q、H86M、H86T、H86C、H86N、F88N、F88R、F88Y、F88K、S111T、S111V、M113A、M113G、M113I、M113L、M113V、F125Y、F125S、Y128F、M137F、M137L、M137Y、M137E、M137W、M137S、L157V、L157A、L157G、M166L、L187V、L187I、S218Y、S218H、S218F、S218N、S218E、S218I、S218L、S218M、S218T、S218V、F219Y、F219L、F219T、F219Qのうちの1つ又は複数の部位を含むが、これらに限定されない。
【0029】
上記エステラーゼ変異体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を基に合理的な設計及び数回の酵素進化・スクリーニングによって得られたものであり、親エステラーゼに比べ、タンパク質構造及び機能の変更が発生した。実際の適用において、エステラーゼ変異体の触媒活性及び/又は立体選択性が極めて大きく向上し、且つ系中に特定の有機溶解補助剤が含まれる場合、依然として比較的安定な触媒活性及び/又は立体選択性を有する。また、エステラーゼ変異体の触媒活性及び/又は立体選択性の向上により、酵素の使用量がある程度低下し、後処理の難易度も低下して、工業化生産に適する。また、エステラーゼ変異体の触媒活性及び/又は立体選択性の向上により、酵素の使用量がある程度低下し、後処理の難易度も低下して、工業化生産に適する。
【0030】
配列番号1のアミノ酸配列(Rauvolfia serpentinaに由来)は次のとおりである。
【化4】
【0031】
本願は、上記配列番号1で示されるタンパク質配列に基づいて、大腸菌に対してコドン最適化を行い、具体的な核酸配列(即ちCDS、終端コドンtaaを含む)は配列番号2である。
【化5】
【0032】
上記の合理的な設計及び酵素進化・スクリーニングの具体的な方法又はステップは、以下に例示したものを含むが、これらに限定されない。
【0033】
まず、フループラスミドPCRの方式により、配列番号1に突然変異部位を導入し、変異体の活性及び選択性を検出し、活性及び選択性が向上した変異体を選択する。
【0034】
配列番号1をテンプレートとして、部位特異的突然変異プライマーを設計して、部位特異的突然変異手段を利用し、pET-22b(+)を発現キャリアとして、ターゲット遺伝子を持つ突然変異プラスミドを取得する。
【0035】
ここで、部位特異的突然変異とは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の方法によってターゲットDNA断片(ゲノムであっても、プラスミドであってもよい)に必要な変化(通常は、有利な方向を特徴付ける変化)を導入することをいい、塩基の添加、削除、部位突然変異等が含まれる。部位特異的突然変異は、DNAが発現するターゲットタンパク質の性状及び特徴を迅速で、高効率に向上させることができ、遺伝子研究作業における非常に有用な手段である。
【0036】
フループラスミドPCRを利用して部位特異的突然変異を導入する方法は簡単で効果的であり、現在よく使用されている手段である。その原理は、次のとおりである。突然変異部位を含む一対のプライマー(正方向、逆方向)及びテンプレートプラスミドをアニーリングした後、ポリメラーゼを用いて「循環伸長」させ、いわゆる循環伸長とは、ポリメラーゼがテンプレートにしたがってプライマーを一周伸長させ、プライマー5’端に戻ると終了してから、加熱・アニーリング・伸長を繰り返す循環を行い、この反応は、ローリングサークル増幅と異なって、複数のタンデムコピーを形成しない。正方向と逆方向プライマーの伸長生成物はアニーリング後、切り口付きの開環状プラスミドになるように対合される。伸長生成物をDpn I酵素切断し、元のテンプレートプラスミドが一般的な大腸菌に由来するため、damメチル化修飾されたものであり、Dpn Iに敏感で細断されるが、インビトロで合成された突然変異配列を持つプラスミドは、メチル化されていないため、切断されず、そのため、その後の形質転換に成功して、突然変異プラスミドのクローンを得ることができる。
【0037】
単一部位突然変異で性状が向上した変異体を取得したことを基に、有益なアミノ酸部位を組み合わせて、性状がより優れる変異体を得ることができる。
【0038】
活性及び鏡像体選択性が大幅に向上したエステラーゼ変異体を得た後、飽和突然変異の方式をさらに用いてより高性能な変異体を得る。
【0039】
飽和突然変異は、ターゲットタンパク質のコード遺伝子を改変することにより、標的部位のアミノ酸がそれぞれ他の19種類のアミノ酸に置換された変異体を短時間内に取得する方法である。この方法は、タンパク質を指向改変する強力なツールであるだけでなく、タンパク質構造-機能関係研究の重要な手段でもある。飽和突然変異は、単一部位突然変異よりもより理想的な進化体をしばしば取得できる。部位特異的突然変異方法で解決できないこれらの問題は、飽和突然変異方法が得意とする独特な点である。
【0040】
上記のように、突然変異プラスミドを大腸菌細胞内に形質転換し、大腸菌内で過剰発現させる。その後、超音波で細胞を破砕する方法で粗酵素を取得する。エステラーゼ誘導発現する最適条件は、0.06mMのIPTG、25℃で一晩誘導発現させることである。
【0041】
本願のスクリーニングされた変異体は大量の実験によって検証され、ラセミ化合物形態で存在する基質が過度に形質転換されない場合、最終的に、当該酵素触媒反応の触媒活性及び/又は立体選択性が顕著に向上した(例えば、e.e.が最初の<10%から少なくとも80%以上まで向上した)ことを証明し、工業化生産のニーズを大きく満たした。
【0042】
本発明の典型的な実施形態において、さらに、上記いずれか1つのエステラーゼ変異体をコードするDNA分子を提供する。コードされた上記エステラーゼ変異体は、触媒活性が高いか及び/又は立体選択性が高いという長点を有する。
【0043】
本発明の典型的な実施形態において、さらに、上記DNA分子が連結されている組換プラスミドを提供する。当該DNA分子は、上記いずれか1つの触媒活性が高いか及び/又は立体選択性が高いエステラーゼ変異体をコードすることができる。
【0044】
上記組換プラスミドのうち、上記エステラーゼのDNA分子を発現するために使用できる任意の組換プラスミドは、いずれも本発明に適する。本発明の好ましい実施例において、組換プラスミドは、pET-22b(+)、pET-21b(+)、pET-3a(+)、pET-3d(+)、pET-11a(+)、pET-12a(+)、pET-14b、pET-15b(+)、pET-16b(+)、pET-17b(+)、pET-19b(+)、pET-20b(+)、pET-21a(+)、pET-23a(+)、pET-23b(+)、pET-24a(+)、pET-25b(+)、pET-26b(+)、pET-27b(+)、pET-28a(+)、pET-29a(+)、pET-30a(+)、pET-31b(+)、pET-32a(+)、pET-35b(+)、pET-38b(+)、pET-39b(+)、pET-40b(+)、pET-41a(+)、pET-41b(+)、pET-42a(+)、pET-43a(+)、pET-43b(+)、pET-44a(+)、pET-49b(+)、pQE2、pQE9、pQE30、pQE31、pQE32、pQE40、pQE70、pQE80、pRSET-A、pRSET-B、pRSET-C、pGEX-5X-1、pGEX-6p-1、pGEX-6p-2、pBV220、pBV221、pBV222、pTrc99A、pTwin1、pEZZ18、pKK232-8、pUC-18及びpUC-19からなる群より選択される1つである。
【0045】
本発明の典型的な実施形態において、さらに、上記のいずれか1つの組換プラスミドを含有する植物でない宿主細胞を提供する。具体的な宿主細胞は、原核細胞であっても、真核細胞であってもよく、好ましくは、真核細胞は酵母細胞である。より好ましくは、上記宿主細胞はコンピテント細胞であり、さらに好ましくは、コンピテント細胞は大腸菌BL21細胞又は大腸菌W3110である。
【0046】
本発明の典型的な実施形態において、さらに、キラル化合物の調製方法を提供し、当該調製方法は、前記いずれか1つのエステラーゼ変異体を利用して、式Iで示されるエステル系化合物の、式IIで示される酸系化合物及び式IIIで示されるアルコール系化合物への加水分解を触媒することを含む。
【0047】
好ましい実施例において、エステル系化合物は、以下のいずれか1つである。
【化6】
【0048】
好ましい実施例において、エステラーゼ変異体は、20℃~40℃の温度で比較的高い触媒活性又は比較的高い立体選択性を有するため、式Iで示されるエステル系化合物の加水分解反応を触媒することができる。
【0049】
好ましい実施例において、リン酸カリウム緩衝液、エステル系化合物及びエステラーゼは触媒反応系を形成し、ここでリン酸カリウム緩衝液の濃度は好ましくは0.1M~1Mであり、pH値は好ましくは6.0~7.5である。この条件下では、異なる基質を触媒することができ、且つ比較的高い活性及び/又は比較的高い立体選択性を有する。
【0050】
好ましい実施例において、エステラーゼ変異体とエステル系化合物との質量比は0.2mg~2mg:20mgであり、当該質量比は小さい反応容量(例えば、0.6mL)で行うのに適しており、対応する基質の用量が20mgである場合、酵素の質量は2mg~0.2mgの範囲である。
【0051】
別の好ましい実施例において、エステラーゼ変異体とエステル系化合物との質量比は0.1g~0.5g:10gである。当該用量配合比は特に大きい反応系(例えば、100mL)で行うのに適しており、対応する基質の用量が10gである場合、酵素の質量は0.1g~0.5gの範囲である。
【0052】
本願の進化・スクリーニングによって得られた変異体は、適切な緩衝液条件下で基質の加水分解反応を触媒することができるだけでなく、特定の溶解補助剤の存在下で、同様に比較的高い安定性、触媒活性及び/又は立体選択性を有する。好ましい実施例において、反応系には、DMSO、DCM及び2-MeTHFからなる群より選択されるいずれか1つである溶解補助剤がさらに含まれる。これらの溶解補助剤が存在する反応系において、本願の変異体の触媒活性及び/又は立体選択性は依然として比較的安定している。
【0053】
好ましい実施例において、反応系における溶解補助剤の体積百分含有量が≦20%であり、反応系に当該含有量の溶解補助剤が含まれる場合、本願の変異体は依然として比較的高い触媒活性及び/又は立体選択性を有する。
【0054】
以下、具体的な実施例を参照して本願の有益な効果をさらに説明する。なお、下記実施例で用いる基質は、前記基質1~基質5に示す。
【0055】
(実施例1)
基質1を20mg加え、0.6mLの反応系、エステラーゼ2mg、0.3M リン酸カリウム緩衝液pH 7.0であった。20℃で3h反応させた後、0.6mLの反応系に1.5mLの無水エタノールを加え、よく振とうした後、適量の無水硫酸マグネシウムを加え、12000rpmで3min遠心分離し、上清液体を無水エタノールで2倍希釈し、変換率及びe.e.値を液相検出し、基質2及び基質3は基質1に記載のとおり、同じ系の反応及び処理方式を確立し、結果を表1に示した。
【0056】
【0057】
異なる基質に対する野生型のエステラーゼの触媒活性の数値の意味は各実施例において同じであり、即ち、活性は変換率を表し、ここでは基質1の活性値20を例として説明し、0.3M リン酸カリウム緩衝液pH 7.0、20℃の条件下で、2mg野生型の酵素、3h、基質1の変換率が20%であった。
【0058】
親より活性の低下及び向上の倍数は、---が5倍未満低下、--が2~5倍低下、-が1~2倍低下、+が1~2倍向上、++が2~5倍向上、+++が5~10倍向上、++++が10倍超向上したことを表した。
【0059】
0%未満のee値(生成物のee値を指し、基質がラセミであり、即ちS配置及びR配置の両方が存在するため、例えばそれぞれ50%程度を占め、酵素は触媒過程で、S及びR配置を選択的に触媒し、例えばR配置を選択的に触媒する基質が多く転化されると、生成物には対応するR配置も多い。進化過程で、ある突然変異した酵素がR配置を触媒すると予想と逆になる場合があり、即ちR配置の生成物の割合(例えば40%)がS配置の生成物の割合(例えば60%)未満である場合があると、R配置の生成物のee値(即ち-20%)が0未満の場合がある)を#、0~50%のee値を*、50~60%のee値を**、60~70%のee値を***、70%~80%のee値を****、80%~95%のee値を*****、95%超のee値を******とラベル付けた。
【0060】
(実施例2)
基質4を20mg加え、0.6mLの反応系、エステラーゼ2mg、0.3M リン酸カリウム緩衝液pH 7.0であった。20℃で3h反応させた後、0.6mLの反応系に1.5mLの無水エタノールを加え、よく振とうした後、適量の無水硫酸マグネシウムを加え、12000rpmで3min遠心分離し、上清液体を無水エタノールで2倍希釈し、変換率及びe.e.値を液相検出し、基質5は基質1に記載のとおり、同じ系の反応及び処理方式を確立し、結果を表2に示した。
【0061】
【0062】
親より活性の低下及び向上の倍数は、---が5倍未満低下、--が2~5倍低下、-が1~2倍低下、+が1~2倍向上、++が2~5倍向上、+++が5~10倍向上、++++が10倍超向上したことを表した。
【0063】
0%未満のee値を#、0~50%のee値を*、50~60%のee値を**、60~70%のee値を***、70%~80%のee値を****、80%~95%のee値を*****、95%超のee値を******とラベル付けた。
【0064】
上記結果を基に続けて突然変異を行って、生成物のee値を向上させた。
【0065】
(実施例3)
基質1を20mg加え、0.6mLの反応系、エステラーゼ2mg、0.3M リン酸カリウム緩衝液pH 7.0であった。20℃で3h反応させた後、0.6mLの反応系に1.5mLの無水エタノールを加え、よく振とうした後、適量の無水硫酸マグネシウムを加え、12000rpmで3min遠心分離し、上清液体を無水エタノールで2倍希釈し、変換率及びe.e.値を液相検出し、基質2及び基質3は基質1に記載のとおり、同じ系の反応及び処理方式を確立し、結果を表3に示した。
【0066】
【0067】
親より活性の低下及び向上の倍数は、---が5倍未満低下、--が2~5倍低下、-が1~2倍低下、+が1~2倍向上、++が2~5倍向上、+++が5~10倍向上、++++が10倍超向上したことを表した。
【0068】
0%未満のee値を#、0~50%のee値を*、50~60%のee値を**、60~70%のee値を***、70%~80%のee値を****、80%~95%のee値を*****、95%超のee値を******とラベル付けた。
【0069】
(実施例4)
基質4を20mg加え、0.6mLの反応系、エステラーゼ2mg、0.3M リン酸カリウム緩衝液pH 7.0であった。20℃で3h反応させた後、0.6mLの反応系に1.5mLの無水エタノールを加え、よく振とうした後、適量の無水硫酸マグネシウムを加え、12000rpmで3min遠心分離し、上清液体を無水エタノールで2倍希釈し、変換率及びe.e.値を液相検出し、基質5は基質1に記載のとおり、同じ系の反応及び処理方式を確立し、結果を表4に示した。
【0070】
【0071】
親より活性の低下及び向上の倍数は、---が5倍未満低下、--が2~5倍低下、-が1~2倍低下、+が1~2倍向上、++が2~5倍向上、+++が5~10倍向上、++++が10倍超向上したことを表した。
【0072】
0%未満のee値を#、0~50%のee値を*、50~60%のee値を**、60~70%のee値を***、70%~80%のee値を****、80%~95%のee値を*****、95%超のee値を******とラベル付けた。
【0073】
以下の実施例は有益な突然変異部位をさらに組み合わせて、さらに生成物のee値を向上させた。
【0074】
(実施例5)
基質1を20mg加え、0.6mLの反応系、エステラーゼ1mg、0.3M リン酸カリウム緩衝液pH 6.5であった。20℃で3h反応させた後、0.6mLの反応系に1.5mLの無水エタノールを加え、よく振とうした後、適量の無水硫酸マグネシウムを加え、12000rpmで3min遠心分離し、上清液体を無水エタノールで2倍希釈し、変換率及びe.e.値を液相検出し、基質2及び基質3は基質1に記載のとおり、同じ系の反応及び処理方式を確立し、結果を表5に示した。
【0075】
【0076】
親より活性の低下及び向上の倍数は、---が5倍未満低下、--が2~5倍低下、-が1~2倍低下、+が1~2倍向上、++が2~5倍向上、+++が5~10倍向上、++++が10倍超向上したことを表した。
【0077】
0%未満のee値を#、0~50%のee値を*、50~60%のee値を**、60~70%のee値を***、70%~80%のee値を****、80%~95%のee値を*****、95%超のee値を******とラベル付けた。
【0078】
(実施例6)
基質4を20mg加え、0.6mLの反応系、エステラーゼ1mg、0.3M リン酸カリウム緩衝液pH 6.5であった。20℃で3h反応させた後、0.6mLの反応系に1.5mLの無水エタノールを加え、よく振とうした後、適量の無水硫酸マグネシウムを加え、12000rpmで3min遠心分離し、上清液体を無水エタノールで2倍希釈し、変換率及びe.e.値を液相検出し、基質5は基質1に記載のとおり、同じ系の反応及び処理方式を確立し、結果を表6に示した。
【0079】
【0080】
親より活性の低下及び向上の倍数は、---が5倍未満低下、--が2~5倍低下、-が1~2倍低下、+が1~2倍向上、++が2~5倍向上、+++が5~10倍向上、++++が10倍超向上したことを表した。
【0081】
0%未満のee値を#、0~50%のee値を*、50~60%のee値を**、60~70%のee値を***、70%~80%のee値を****、80%~95%のee値を*****、95%超のee値を******とラベル付けた。
【0082】
上記の実施例における反応条件に基づいて、以下の実施例はさらに反応系を最適化した。
【0083】
(実施例7)
基質1を20mg加え、0.6mLの反応系、エステラーゼ(G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137L)1mg、0.3M リン酸カリウム緩衝液pH 6.5であった。反応条件に基づいて、反応系を最適化し、異なる溶解度の溶解補助剤2-MeTHF(0%~20%)、DCM(0%~20%)、DMSO(0%~20%)、異なる濃度の緩衝液(0.1M~1M リン酸カリウム緩衝液pH 6.5)、異なるpHの緩衝液(0.3M リン酸カリウム緩衝液pH 6.0~7.5)、反応温度(20℃~40℃)であった。3h反応させた後、0.6mLの反応系に1.5mLの無水エタノールを加え、よく振とうした後、適量の無水硫酸マグネシウムを加え、12000rpmで3min遠心分離し、上清液体を無水エタノールで2倍希釈し、変換率及びe.e.値を液相検出し、結果を表7~10に示した。
【0084】
【表7】
注:表7の反応条件は次のとおりである。異なる溶解補助剤を含み、緩衝液が0.3M リン酸カリウム緩衝液pH 6.5であり、反応温度が20℃であった。
【0085】
【表8】
注:表8の反応条件は次のとおりである。溶解補助剤を含まず、反応温度が20℃であった。
【0086】
【表9】
注:表9の反応条件は次のとおりである。溶解補助剤を含まず、緩衝液が0.3M リン酸カリウム緩衝液であり、反応温度が20℃であった。
【0087】
【表10】
注:表10の反応条件は次のとおりである。溶解補助剤を含まず、緩衝液が0.3M リン酸カリウム緩衝液であり、pH 6.5であった。
【0088】
親より活性の低下及び向上の倍数は、---が5倍未満低下、--が2~5倍低下、-が1~2倍低下、+が1~2倍向上、++が2~5倍向上、+++が5~10倍向上、++++が10倍超向上したことを表した。
【0089】
0%未満のee値を#、0~50%のee値を*、50~60%のee値を**、60~70%のee値を***、70%~80%のee値を****、80%~95%のee値を*****、95%超のee値を******とラベル付けた。
【0090】
基質10gの増幅反応を行った。
【0091】
(実施例8)
最適化された反応系に基づいて、増幅反応を行い、基質1を10g加え、100mLの反応系、エステラーゼ(G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137L)100mg、0.3M リン酸カリウム緩衝液pH 6.5であった。20℃で反応させ、反応時間を追跡してサンプリングして検出し、且つpHを6.4程度に調節し、3h反応させた時の変換率が49%で、e.e.値が99%であった。反応サンプルを後処理し、100mLの塩化メチレンを加え、抽出し、よく振とうした後、有機層を分離し、且つ適量の無水硫酸ナトリウムを加え、さらに濾過し、及び有機層を回転式蒸発処理し、最後に4.8gのサンプルを得、純度が98%で、e.e.値が98%であり、さらに核磁気測定を行い、収率が45%であった。
【0092】
(実施例9)
最適化された反応系に基づいて、増幅反応を行い、基質4を10g加え、100mLの反応系、エステラーゼ(G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137L)100mg、0.3M リン酸カリウム緩衝液pH 6.5であった。20℃で反応させ、反応時間を追跡してサンプリングして検出し、且つpHを6.4程度に調節し、6h反応させた時の変換率が49%で、e.e.値が99%であった。反応サンプルを後処理し、100mLの塩化メチレンを加え、抽出し、よく振とうした後、有機層を分離し、且つ適量の無水硫酸ナトリウムを加え、さらに濾過し、及び有機層を回転式蒸発処理し、最後に4.6gのサンプルを得、純度が98%で、e.e.値が98%であり、さらに核磁気測定を行い、収率が44%であった。
【0093】
以上の説明から明らかなように、本発明の上記実施例は、以下の技術的効果を実現した。配列番号1で示されるアミノ酸配列を基に合理的な設計及び数回の酵素進化・スクリーニングによって得られたエステラーゼ変異体は、親エステラーゼに比べ、タンパク質構造及び機能が変更し、実際の適用において、エステラーゼ変異体の触媒活性及び/又は立体選択性が極めて大きく向上し、且つ系中に特定の有機溶解補助剤が含まれる場合、依然として比較的安定な触媒活性及び/又は立体選択性を有する。また、エステラーゼ変異体の触媒活性及び/又は立体選択性の向上により、酵素の使用量がある程度低下し、後処理の難易度も低下して、工業化生産に適する。
【0094】
以上の説明は、本発明の好適な実施例に過ぎず、本発明を限定するものではなく、当業者にとって、本発明は種々の変更及び変形が可能である。本発明の趣旨及び原理を逸脱しない範囲で、行われたあらゆる修正、同等の置換、改良等も、本発明の保護範囲に含まれるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2024-02-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステラーゼ変異体であって、(1)前記エステラーゼ変異体のアミノ酸配列が、配列番号1を基に、
G19S、G19S+H86S、G19S+H86A、G19S+H86Q、G19S+H86M、G19S+H86T、G19S+H86C、G19S+H86N、G19S+F88N、G19S+F88R、G19S+F88Y、G19S+F88K、G19S+S111T、G19S+S111V、G19S+M113I、G19S+M113L、G19S+M113V、G19S+F125Y、G19S+F125S、G19S+Y128F、G19S+L157V、G19S+M166L、G19S+L187V、G19S+L187I、G19S+S218Y、G19S+S218H、G19S+S218F、G19S+S218N、G19S+H86S+S111T、G19S+H86S+S111V、G19S+H86S+M113A、G19S+H86S+M113G、G19S+H86S+M113I、G19S+H86S+M113L、G19S+H86S+M113V、G19S+H86S+M113I+L157A、G19S+H86S+M113I+L157G、G19S+H86S+M113I+L157V、G19S+H86A+S111T、G19S+H86A+S111V、G19S+H86A+M113A、G19S+H86A+M113G、G19S+H86A+M113I、G19S+H86A+M113L、G19S+H86A+M113V、G19S+H86A+M113I+S218E、G19S+H86A+M113I+S218F、G19S+H86A+M113I+S218I、G19S+H86A+M113I+S218L、G19S+H86A+M113I+S218M、G19S+H86A+M113I+S218T、G19S+H86A+M113I+S218V、G19S+H86A+M113I+S218Y、G19S+H86A+M113I+S218F+A86C、G19S+H86A+M113I+S218F+A86M、G19S+H86A+M113I+S218F+A86N、G19S+H86A+M113I+S218F+A86Q、G19S+H86A+M113I+S218F+A86S、G19S+H86A+M113I+S218F+M137F、G19S+H86A+M113I+S218F+M137L、G19S+H86A+M113I+S218F+M137Y、G19S+H86A+M113I+S218F+M137E、G19S+H86A+M113I+S218F+M137W、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y、G19S+H86A+M113I+S218F+F219L、G19S+H86A+M113I+S218F+F219T、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Q、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137F、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137L、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137W、G19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137Y又はG19S+H86A+M113I+S218F+F219Y+M137Sのアミノ酸突然変異が発生したものであるか、又は前記エステラーゼ変異体のアミノ酸配列が、突然変異が発生したアミノ酸配列と80%以上の相同性を有し、且つエステラーゼ活性を有する、
ことを特徴とするエステラーゼ変異体。
【請求項2】
前記エステラーゼ変異体のアミノ酸配列が、突然変異が発生したアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上の相同性を有し、且つエステラーゼ活性を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載のエステラーゼ変異体。
【請求項3】
前記エステラーゼ変異体が、Rauvolfia serpentinaに由来するものである、
ことを特徴とする請求項
1に記載のエステラーゼ変異体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のエステラーゼ変異体をコードする、
ことを特徴とするDNA分子。
【請求項5】
請求項4に記載のDNA分子が連結されている、
ことを特徴とする組換プラスミド。
【請求項6】
前記組換プラスミドは、pET-21b(+)、pET-22b(+)、pET-3a(+)、pET-3d(+)、pET-11a(+)、pET-12a(+)、pET-14b、pET-15b(+)、pET-16b(+)、pET-17b(+)、pET-19b(+)、pET-20b(+)、pET-21a(+)、pET-23a(+)、pET-23b(+)、pET-24a(+)、pET-25b(+)、pET-26b(+)、pET-27b(+)、pET-28a(+)、pET-29a(+)、pET-30a(+)、pET-31b(+)、pET-32a(+)、pET-35b(+)、pET-38b(+)、pET-39b(+)、pET-40b(+)、pET-41a(+)、pET-41b(+)、pET-42a(+)、pET-43a(+)、pET-43b(+)、pET-44a(+)、pET-49b(+)、pQE2、pQE9、pQE30、pQE31、pQE32、pQE40、pQE70、pQE80、pRSET-A、pRSET-B、pRSET-C、pGEX-5X-1、pGEX-6p-1、pGEX-6p-2、pBV220、pBV221、pBV222、pTrc99A、pTwin1、pEZZ18、pKK232-8、pUC-18及びpUC-19からなる群より選択されるいずれか1つである、
ことを特徴とする請求項5に記載の組換プラスミド。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の組換プラスミドを含有する、
ことを特徴とする植物でない宿主細胞。
【請求項8】
原核細胞又は真核細胞であり、前記真核細胞が酵母細胞である、
ことを特徴とする請求項7に記載の宿主細胞。
【請求項9】
前記宿主細胞はコンピテント細胞である、
ことを特徴とする請求項8に記載の宿主細胞。
【請求項10】
前記コンピテント細胞は、大腸菌BL21細胞又は大腸菌W3110である、
ことを特徴とする請求項9に記載の宿主細胞。
【請求項11】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエステラーゼ変異体を利用して、式Iで示されるエステル系化合物の、式IIで示される酸系化合物及び式IIIで示されるアルコール系化合物への加水分解を触媒することを含む、
ことを特徴とするキラル化合物の調製方法。
【化1】
(式中、n=1、2、3又は4であり、
X=C、O又はSであり、
R
1=CH
3、CH
2CH
3、CH
2-CH
2CH
3又はCHCH
3CH
3であり、
R
2=H、F、Cl、Br、CH
3又はCH
2CH
3である。)
【請求項12】
前記エステル系化合物は、
【化2】
、
又は
【化3】
のいずれか1つである、
ことを特徴とする請求項11に記載の調製方法。
【請求項13】
前記エステラーゼ変異体は、20℃~40℃の温度で、式Iで示されるエステル系化合物の加水分解反応を触媒する、
ことを特徴とする請求項11に記載の調製方法。
【請求項14】
前記エステル系化合物及び前記エステラーゼはリン酸カリウム緩衝液に溶解して触媒反応系を形成し、ここでリン酸カリウム緩衝液の濃度が0.1M~1Mであり、pH値が6.0~7.5である、
ことを特徴とする請求項11に記載の調製方法。
【請求項15】
前記エステラーゼ変異体と前記エステル系化合物との質量比は0.2mg~2mg:20mgである、
ことを特徴とする請求項11に記載の調製方法。
【請求項16】
前記エステラーゼ変異体と前記エステル系化合物との質量比は0.1g~0.5g:10gである、
ことを特徴とする請求項11に記載の調製方法。
【請求項17】
前記触媒反応系には、DMSO、DCM及び2-MeTHFからなる群より選択されるいずれか1つである溶解補助剤がさらに含まれる、
ことを特徴とする請求項14に記載の調製方法。
【請求項18】
前記触媒反応系における前記溶解補助剤の体積百分含有量が≦20%である、
ことを特徴とする請求項17に記載の調製方法。
【国際調査報告】