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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】核酸ベクター組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20240705BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
A61K39/00 E
A61P37/04
A61K39/39
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527875
(86)(22)【出願日】2022-07-22
(85)【翻訳文提出日】2024-03-25
(86)【国際出願番号】 GB2022051938
(87)【国際公開番号】W WO2023002223
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】2110646.3
(32)【優先日】2021-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524030765
【氏名又は名称】シサフ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サフィー-シーバート、ロギー スザンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ウェルシュ、マイケル
(72)【発明者】
【氏名】トラビ-プア、ナスロラーフ
【テーマコード(参考)】
4C085
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085BB23
4C085DD11
4C085EE03
4C085EE06
4C085EE07
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG08
(57)【要約】
核酸ベクター組成物であって、以下:1若しくは複数の酵素及び/又はその1若しくは複数の断片と、核酸と、加水分解性シリコンを含む1又は複数の粒子と、1又は複数の脂質と、を含む、核酸ベクター組成物。また、関連する製品、医療用途、及び方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1若しくは複数の酵素及び/又はその1若しくは複数の断片、
核酸、
加水分解性シリコン(hydrolysable silicon)を含む1又は複数の粒子、及び
1又は複数の脂質
を含む、核酸ベクター組成物。
【請求項2】
前記1又は複数の酵素が、核酸と酵素基質複合体を形成するための1又は複数の酵素を含む、請求項1に記載の核酸ベクター組成物。
【請求項3】
前記1又は複数の酵素が、1若しくは複数のヌクレアーゼ及び/又は1若しくは複数のポリメラーゼを含む、請求項1又は請求項2に記載の核酸ベクター組成物。
【請求項4】
酵素及び/又はその断片と核酸との重量比が、1:1×1012~1:1の範囲内である、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の核酸ベクター組成物。
【請求項5】
前記1又は複数の酵素が、pH7.4及び温度25℃にて、核酸基質に対して少なくとも1μmol/分の活性を有する1又は複数の酵素を含む、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の核酸ベクター組成物。
【請求項6】
脂質ナノ粒子の形態であり、シェルによってカプセル化されたコアを所望により有し、前記シェルが、1又は複数の脂質を含み、かつ前記コアが、前記核酸、及び加水分解性シリコンを含む前記1又は複数の粒子を含む、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の核酸ベクター組成物。
【請求項7】
前記核酸が、mRNA、例えばインビトロ転写されたmRNAである、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の核酸ベクター。
【請求項8】
前記核酸が、DNA、例えばプラスミドDNAである、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の核酸ベクター。
【請求項9】
前記mRNAが、タンパク質をコードするオープン・リーディング・フレームと、所望により、
5’キャップ、
ポリ(A)テール、及び
1又は複数の非翻訳領域、
のうち1又は複数と、を含む、請求項7に記載の核酸ベクター組成物。
【請求項10】
前記mRNAの前記オープン・リーディング・フレームが、
病原体の抗原、ここで、所望により、前記mRNAのオープン・リーディング・フレームはSARS-CoV-2のスパイクタンパク質抗原をコードする;
腫瘍関連抗原若しくは腫瘍特異的抗原;
アレルゲン;又は、
免疫疾患、自己免疫疾患、若しくは炎症性疾患の調節因子
をコードする、請求項9に記載の核酸ベクター組成物。
【請求項11】
グリシンなどのアミノ酸を更に含む、及び/又はトレハロースなどの1若しくは複数の二糖を更に含む、請求項1~請求項10のいずれか一項に記載の核酸ベクター組成物。
【請求項12】
DNA鋳型からのインビトロ転写、又は生物的供給源(biological source)からの精製によって前記核酸を得ること、及び
前記核酸を前記1又は複数の粒子及び前記1又は複数の脂質と組み合わせること
を含む、請求項1~請求項11のいずれか一項に記載の核酸ベクター組成物を調製する方法。
【請求項13】
前記核酸が、mRNAであり、前記mRNAが、DNA鋳型からのインビトロ転写によって得られる、請求項12に記載の核酸ベクター組成物を調製する方法。
【請求項14】
請求項12又は請求項13に記載の方法によって製造される、核酸ベクター組成物。
【請求項15】
請求項1~請求項11のいずれか一項に記載の核酸ベクター組成物を含む、予防用又は治療用のワクチン組成物である、医薬組成物。
【請求項16】
前記核酸が、前記医薬組成物中において4℃で少なくとも3ヶ月の半減期を有する、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記核酸が、前記医薬組成物中において4℃で少なくとも6ヶ月の半減期を有する、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記医薬組成物が、アジュバントを更に含む、請求項15~請求項17のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記医薬組成物が、筋肉内注射に好適な形態である、請求項15~請求項18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
医薬品として使用するための、請求項15~請求項19のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
疾患又は障害の治療又は予防を必要とする対象へ、請求項15~請求項19のいずれか一項に記載の医薬組成物を投与することを含む、疾患又は障害を治療又は予防する方法。
【請求項22】
請求項15~請求項19のいずれか一項に記載の医薬組成物を経口投与、皮下投与、又は筋肉内投与することを含む、対象へワクチン接種を提供する方法。
【請求項23】
リポポリプレックス・トランスフェクション・ベクターとしての、請求項15~請求項19のいずれか一項に記載の医薬組成物の使用。
【請求項24】
前記リポポリプレックス・トランスフェクション・ベクターが、核酸、好ましくはmRNAを、細胞へ標的化するために使用される、請求項23に記載の医薬組成物の使用。
【請求項25】
医薬品、例えばワクチンの製造における、請求項15~請求項19のいずれか一項に記載の医薬組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸ベクター組成物、並びに関連する方法及び製品に関する。核酸ベクター組成物は、製薬学の分野において特に有用であるが、これらに限定されない。本発明の組成物は、酵素による分解(enzymatic degradation)から核酸を保護するために特に有用である。
【背景技術】
【0002】
生物活性剤のための添加剤(excipients)の改善が必要とされている。好適な添加剤の提供は、生物医学研究の進歩が、効果的で安全かつ費用効果の高い治療へと完全に変換されるために必要とされる。
【0003】
例示的な例として、RNAなどの核酸が治療剤として提案されている。治療法又は他の目的のための核酸送達は、特に嚢胞性線維症及びある特定のがんなどの疾患の治療のために周知であり、mRNAは、最近、SARS-CoV-2に対する有効なワクチンに使用されている。「遺伝子療法」という用語は、欠陥遺伝子材料を修復、再構築、又は補填することによって治療効果をもたらすことなどの、治療効果をもたらすための遺伝子又は遺伝子の一部の細胞への送達を指すために使用されうる。より広義には、「核酸送達」という用語は、標的細胞への核酸材料の任意の導入を指すために使用されうる。非限定的な例として、核酸送達には、mRNAワクチン接種及びいわゆる細胞工場における商業的に有用なタンパク質の生成が含まれる。
【0004】
核酸を細胞へと送達するための送達システムは、3つの広範なクラス、すなわち、
(i)ネイキッド核酸の直接注射に関与するクラスと、
(ii)ウイルス又は遺伝子修飾ウイルスを使用させるクラスと、
(iii)非ウイルス送達剤を使用させるクラスと、
に分かれる。
【0005】
それぞれに利点及び欠点がある。送達剤としてのウイルスは、高効率及び高い細胞選択性という利点を有するが、毒性や炎症性応答の誘発という欠点を有し、また大きなDNA断片の送達にはあまり好適でない。したがって、mRNAワクチンは、有利には、注射可能なネイキッドmRNA又は非ウイルス送達システム、例えばポリプレックスベクター又は脂質ナノ粒子ベクターなどを含みうる。
【0006】
残念なことに、非ウイルス核酸送達システムではトランスフェクション効率が低いことが認められている。非ウイルス核酸送達システムは、核酸の負帯電したリン酸骨格と、帯電したポリマー、典型的にはカチオン性脂質及び/又はペプチドとの間の静電相互作用によるナノメートル粒子への核酸の圧縮に基づく(Erbacher,P.et al,Gene Therapy,1999,6,138-145)。これらの種が細胞へと導入される機構は、核酸と脂質との間に形成された複合体が細胞の表面に結合し、次いでエンドサイトーシスによって細胞に入る、インタクトな複合体のエンドサイトーシスに関与するものと提案されている。複合体はその後しばらくの間小胞又はエンドソーム内に局在した状態を保ち、核酸構成成分が細胞質へと放出される。
【0007】
非ウイルス送達システムのポリマー構成成分は、静電的に会合してベクター複合体を形成する。脂質構成成分は、核酸と、またある程度まで、任意のペプチド構成成分(複数可)との両方を、分解、エンドソーム、又はその他から遮蔽する。例えば、脂質構成成分は、核酸分子を含む送達システムの他の構成成分をカプセル化する脂質二重層シェルを形成し得る。そのような使用のためのカチオン性脂質は、1980年代後半にFelgnerによって開発され、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84,7413-7417,1987;及び、米国特許第5,264,618号に報告される。Felgnerは、商標「Lipofectin」として公知である現在市販されているカチオン性リポソームを開発した。「Lipofectin」リポソームは、カチオン性脂質DOTMA(2,3-ジオレイルオキシプロピル-1-トリメチルアンモニウム)と中性リン脂質DOPE(ホスファチジルエタノールアミン又は1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン)とが1:1の比率で脂質二重層を有する、球状の小胞である。それ以来、様々な他のカチオン性リポソーム配合物が考案されており、そのほとんどは合成カチオン性脂質と中性脂質とを組み合わせたものである。DOTMA類似体に加えて、複合体アルキルアミン/アルキルアミド、コレステロール誘導体、例えばDC-コレステロールなど、並びにジパルミトール、ホスファチジルエタノールアミン、グルタメート、イミダゾール、及びホスホネートの合成誘導体にも言及しうる。しかしながら、カチオン性ベクターシステムは、血清の存在下におけるそれらのトランスフェクション効率が非常にばらつき、これは、インビボ遺伝子療法及び/又は核酸送達のためのそれらの潜在的な使用に明らかに影響を及ぼす。
【0008】
そのような複合体に使用するためのペプチド構成成分は、典型的には、2つの官能基:細胞表面受容体配列、例えばインテグリン配列、認識配列を含有する「頭部基」、及び核酸に非共有結合的に結合し得る「テール(tail)」を有する。ペプチド構成成分は、細胞型特異的又は細胞表面受容体特異的であるように設計されうる。例えば、インテグリン特異性の程度は、複合体にある程度の細胞特異性を付与することができる。特異性は、細胞表面受容体(例えば、インテグリン受容体)への標的化から生じ、いくつかのアデノウイルスベクターに匹敵するトランスフェクション効率を達成することができる(Jenkins et al.Gene Therapy 7,393-400,2000)。
【0009】
これまでのところ、細胞へのメッセンジャーRNA(mRNA)の非ウイルス送達は、効率的なベクターが無いため特に問題があり制限されていた。DNA又はsiRNAで使用され成功している公知の非ウイルスビヒクルを用いてmRNAを送達する試みでもたらされたタンパク質発現は、最適ではないレベルであった。更に、公知の非ウイルス性ビヒクルは、mRNAと共にパッケージ化された場合、貯蔵安定性が乏しい。細胞へとRNAを送達するための脂質二重層の克服は、RNA治療法の広範な開発にとって大きな障害のままであった。
【0010】
そのため、高レベルのmRNAを細胞へと送達し、良好なレベルのタンパク質発現をもたらす、mRNAの送達に特異的に合わせて調整されたベクターが必要とされている。貯蔵に際して良好な安定性を保持する、mRNAの送達に合わせて調整された組成物、特に中程度の温度での貯蔵に際してその構造及び機能性を保持するmRNA送達複合体もまた、必要とされている。例えば約-5℃~約25℃の温度のような中程度の温度において良好な貯蔵安定性を維持することに課題があるという点で、他の核酸治療剤、例えばプラスミド由来DNAの送達にも、同様の考察が当てはまる。
【0011】
Pfizer及びBioNTechのワクチンBNT162b2(「Comirnaty」)及びModerna CX-024414ワクチンを含む、SARS-CoV-2に対するいくつかのmRNAワクチンは、コールドチェーン貯蔵及び輸送を必要とする。これにより、低所得国ではワクチンへのアクセスが制限され、全ての市場でコスト及び物流の複雑さが増す。ワクチンを貯蔵し、標準的な冷蔵庫温度(約-5℃)又は室温(約20℃)で輸送することができるのであれば有利でありうる。ワクチンが、貯蔵のために、又は輸送及び流通の目的のために少なくともごく短期的に、より高い温度(例えば、30℃、40℃、又は50℃)に耐えることができる場合も、また有益でありうる。
【0012】
注射可能な組成物、例えばワクチン組成物中において核酸(例えば、mRNA又はDNA)の安定性を低温によって維持すること、並びに物流上の課題をもたらすことにはまた、核酸を注射前に解凍しなければならないという技術的限界、及び注射後に充分な生物学的活性を示すのに充分な時間にわたって体内で安定なままでなければならないという技術的限界がある。これは、身体周囲への移行中、及び/又はエンドソーム区画からの脱出中に安定性を維持することを必要とし得る。インビボでの安定性はまた、タンパク質への充分な翻訳が起こるのに充分な長さにわたって維持されなければならない。
【0013】
核酸(及び特にmRNA)は、分解、特に酵素による分解を受けやすい。分解は、低温、及び/又は核酸(例えば、mRNA)の凍結乾燥によって減速されうるが、これらの選択肢の各々には欠点がある。短い長さの核酸であれば、分解酵素を含まない状態に保つことができる完全に合成された生成環境で作製することができる。そのような短鎖核酸は、siRNAなどのある特定の治療用途に有用であり得る。より長い核酸は、完全に合成された生成環境では費用効果的に作製することができず、したがって、典型的には、生物由来材料(biologically sourced material)を含む生成環境で作製される。例えば、mRNAは、生物由来物質(生物由来材料とは、細胞培養系システムで生成される材料又は合成酵素(例えば細胞培養系システムで生成される酵素)を用いてインビトロで生成される材料のいずれかであり、特に核酸を意味する)に由来する転写酵素が用いられるインビトロ転写によって作製されうる。DNA(例えば、プラスミドDNA又はpDNA)は、細胞の培養物から抽出されうる。生物由来材料の使用は、生物由来の分解酵素が核酸調製物中に意図せずに存在する可能性を高める。これは、広範な精製プロセス(費用がかかり、収率の損失をもたらす)を必要としうるものであり、生物由来核酸調製物、例えばインビトロ転写(IVT)mRNAの調製物又はpDNAなどのDNAの調製物から全ての分解酵素を完全に除去することは不可能であるか又は費用効果的でない。更に、体内への移行及び/又はエンドソーム区画からの脱出の間、核酸は、典型的には分解酵素との接触を含む生理学的条件及び細胞内条件へと曝露される。
【0014】
脂質によるカプセル化又はペプチド若しくはカチオン性ポリマー(プロタミンなど)との縮合は、先行技術において核酸(例えば、遺伝子療法又はワクチン接種のためのmRNA)を分解から保護するために使用されている。ペプチド又は他のポリマーによる縮合は、インタクトなままでありその電荷を保持するペプチド又はポリマーに依存する。核酸(例えば、mRNA)の安定性を増加させ、かつ酵素による分解に対する抵抗性を向上させる、特に核酸調製物を凍結する必要なく酵素による分解に対する抵抗性を向上させることができる、改善された添加剤が必要とされている。生物由来の核酸及び脂質、並びに/又はペプチド又は他のポリマーを含む組成物の複数の構成成分の安定性を高めるための、改善された添加剤もまた必要とされている。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、脂質の存在下において加水分解性シリコン(hydrolysable silicon)を使用して、核酸を酵素による分解から保護することによって、mRNA又はDNA(例えば、インビトロ転写されたmRNA又はプラスミドDNA)などの核酸を安定化することができるという認識に基づいている。
【0016】
これは、例えば、医薬組成物を必要とする対象へ医薬組成物が投与される前の、貯蔵中の医薬組成物(例えば、ワクチン)中の核酸を安定化することを含みうる。これは、体内への移行中の核酸を安定化すること、及び/又はエンドソーム区画(核酸が、典型的には分解酵素との接触を含む生理学的条件に曝露された場合)から脱出することを含みうる。
【0017】
したがって、本発明の第1の態様によれば、核酸ベクター組成物であって、
1若しくは複数の酵素及び/又はその1若しくは複数の断片、
核酸、
加水分解性シリコンを含む1又は複数の粒子、及び
1又は複数の脂質
を含む、核酸ベクター組成物が提供される。
【0018】
加水分解性シリコンを含む1又は複数の粒子は、核酸の分解を触媒するために酵素が水性環境を必要とすることに基づいて、水分子を除去又は隔離し、それによって1又は複数の酵素が核酸を分解するのを防ぎ得る。所望により(Optionally)、1又は複数の粒子は、1又は複数の粒子の表面上のシリコン又はシリコン含有部分と、水分子との反応によって、水分子を除去する。所望により、1又は複数の粒子は、1又は複数の粒子の表面上に存在する細孔に水分子を捕捉することによって水分子を隔離する。所望により、1又は複数の粒子は、これらの方法の両方で水分子を隔離する。したがって、酵素触媒反応において核酸と反応するために利用可能な水分子は、低減又は排除されうる。したがって、全体として、加水分解性シリコンを含む1又は複数の粒子は、1又は複数の粒子を有しない組成物と比較して、核酸の安定性を増加させる。
【0019】
1又は複数の酵素は、核酸と酵素基質複合体を形成するための1又は複数の酵素を含みうる。本発明の第1の態様の組成物では、酵素基質複合体を形成することができるが、水分子の利用可能性が低下しているため、酵素触媒反応に必要な工程が起こらないか又は減少した速度でしか起こらないであろう。
【0020】
1又は複数の酵素は、所望により、1又は複数のヌクレアーゼを含んでいてもよい。1又は複数の酵素は、所望により、1又は複数のポリメラーゼを含んでいてもよい。したがって、ある特定の実施形態では、1又は複数の酵素は、所望により、T7、SP6、及びT3 RNAポリメラーゼのうち1又は複数から選択されうる1又は複数のRNAポリメラーゼを含みうる。1又は複数の酵素は、所望により、1又は複数のヌクレアーゼ、及び1又は複数のポリメラーゼの両方を含んでいてもよい。
【0021】
本明細書で使用される場合、ヌクレアーゼという用語は、核酸分子内のヌクレオチド間のホスホジエステル結合を開裂することができる酵素を指す。ヌクレアーゼは、標的分子の一本鎖切断を行うことができる。ヌクレアーゼは、標的分子の二本鎖切断を行うことができる。本明細書で使用される場合、エキソヌクレアーゼという用語は、ポリヌクレオチド鎖の末端(エキソ)から、ヌクレオチドを1つずつ開裂することによって、核酸分子を消化することができる酵素を指す。本明細書で使用される場合、エンドヌクレアーゼという用語は、ポリヌクレオチド鎖の中央(エンド)から開始して、ヌクレオチドを1つずつ開裂することによって、核酸分子を消化することができる酵素を指す。ヌクレアーゼは、DNAに作用する、DNaseとしてもまた知られるデオキシリボヌクレアーゼであってもよい。ヌクレアーゼは、RNAに作用する、RNaseとしてもまた知られるリボヌクレアーゼであってもよい。
【0022】
一般用語では、ポリメラーゼとは、ポリマーの形成を触媒する酵素である。したがって、本明細書で使用されるDNAポリメラーゼという用語は、DNAポリマーの形成を触媒する酵素を指す。本明細書で使用されるRNAポリメラーゼは、RNAポリマーの形成を触媒する酵素である。核酸分子は糖-リン酸骨格を有し、これは、典型的には分子の親水性表面に曝露されており、したがって加水分解に対して特に脆弱な分子の一部である。骨格中のホスホジエステル結合の求核開裂は、例えば、(溶液、例えばHO、の中に存在する求核剤との)分子間反応、及び/又は、(RNA中の2’-OH基、又は他の求核基などによる)分子内攻撃を介して起こり得る。例えば、1若しくは複数の核酸塩基、及び/又は1若しくは複数の糖部分の酸化による、他の分解様式もまた考えられる。
【0023】
本発明の第1の態様による核酸ベクター組成物では、酵素及び/又はその断片と、核酸との重量比は、所望により、1:1×1012~1:1、例えば、1:1×1011~1:1、1:1×1010~1:1、1:1×10~1:1、1:1×10~1:1、1:1×10~1:1、1:1×10~1:1、1:1×10~1:1、1:1000~1:1、又は1:100~1:1の範囲内であってもよい。
【0024】
本明細書で使用される場合、酵素活性という用語は、問題の酵素によって触媒される反応の速度を指す。本発明の第1の態様の組成物中に存在する1又は複数の酵素は、所望により、核酸(例えば、mRNA)基質に対して、7.4のpH及び25℃の温度で少なくとも1nmol/分の活性、例えば、これらの条件下において少なくとも10nmol/分、少なくとも100nmol/分、少なくとも1μmol/分、少なくとも2μmol/分、少なくとも5μmol/分、少なくとも10μmol/分、又は少なくとも50μmol/分の活性を有し得る。
【0025】
1又は複数の酵素断片は、核酸(例えば、mRNA)基質に対して、pH7.4及び温度25℃で、同じpH及び温度条件下において対応する酵素分子全体の活性の少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、及び特に少なくとも80%の活性を有し得る。したがって、1又は複数の酵素断片は、対応する酵素分子全体の1又は複数のインタクトな活性部位を保持し得る。1又は複数の酵素断片は、対応する酵素分子全体の1若しくは複数のインタクトな二次構造、例えば1若しくは複数のインタクトなベータシート、及び/又はアルファヘリックスを保持し得る。
【0026】
所望により、核酸ベクター組成物は、脂質ナノ粒子の形態であり、これは所望により、シェルによってカプセル化されたコアを所望により有し、ここで、シェルは、1又は複数の脂質を、例えば脂質二重層中に含み、かつコアは、核酸、及び加水分解性シリコンを含む1又は複数の粒子を含む。
【0027】
理論に束縛されることを望むものではないが、1又は複数の脂質及び核酸(ただし、加水分解性シリコンを有しない)を用いて配合された従来の脂質ナノ粒子は、典型的には、シェルによってカプセル化されたコアを有するものと考えられる。シェルは、多くの場合、脂質二重層(例えば、DSPC、PEG2000などを含む)である。コアは、典型的には非晶質であり、シェルによってカプセル化され、採用される処方に応じて、核酸、水、並びにカチオン性脂質及び/又はコレステロールなどの他の構成成分を含む。これは、核酸(例えば、mRNA)を外部媒体から保護し得るが、それでもコア中の核酸分子は水分子と接触し得る。例えば、逆カチオン性脂質に囲まれた水孔がコアに存在することが示唆されている(Viger-Gravel et al.,J.Phys.Chem.B 122(7),2073-2081(2018))。コアは、含水量が10~40体積%、例えば20~30体積%など、例えば23~25体積%でありうることが示唆されている。mRNAは、Areta et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,115(15),E3351-E3360(2018)によって報告されるように、無秩序な逆六方相の水シリンダ内に位置してもよい。
【0028】
したがって、本発明の組成物は、脂質ナノ粒子の形態であってもよく、所望によりシェルによってカプセル化されたコアを有していてもよい、従来の脂質ナノ粒子といくつかの類似性を有してもよく、ここで、シェルは、1又は複数の脂質を、例えば脂質二重層中に含み、かつコア(これは、所望により非晶質である)は、核酸、及び加水分解性シリコンを含む1又は複数の粒子を含む。しかしながら、従来の脂質ナノ粒子とは対照的に、本発明の第1の態様による組成物では、加水分解性シリコンを含む粒子は、核酸から水分子を隔離し、それによって酵素触媒反応、例えば糖リン酸骨格と水との反応における核酸と水との反応を、遅延又は防止することで、脂質ナノ粒子中の核酸を安定化させ得る。
【0029】
所望により、脂質及び/又はペプチド分子などの送達システムの構成成分が、シリコン粒子のうち1又は複数に結合していてもよく、これにより、加水分解性シリコンと、脂質及び/又はペプチドなどの送達システムの他の構成成分との両方が安定化されている、安定化複合体が得られる。カチオン性脂質(及び、リン脂質を含むがこれに限定されない、正電荷を保有する他の脂質構成成分)などの正帯電した種が、加水分解性シリコンを含む1又は複数の粒子に結合し、それによってこれらの正帯電した構成成分を安定化していてもよい。
【0030】
したがって、好ましくは、室温(20℃)での核酸(例えば、mRNA又はpDNA)の分解は、シリコン粒子を有しない同等の組成物と比較して、少なくとも半分、より好ましくは一倍、又は少なくとも5倍、10倍、35倍、50倍、100倍、500倍、若しくは1000倍低減される。
【0031】
核酸は、mRNAなどのRNAであり得るか、又はmRNAなどのRNAを含みうる。核酸は、DNAであり得るか、又はDNAを含みうる。核酸がmRNAであるか又はmRNAを含む場合、mRNAは、インビトロ転写されたmRNAであり得る。核酸がDNAであるか又はDNAを含む場合、DNAは、プラスミドDNAであり得る。核酸が、mRNAであるか、又はmRNAを含む場合、mRNAは、タンパク質をコードするオープン・リーディング・フレームと、所望により、
5’キャップと、
ポリ(A)テールと、
1又は複数の非翻訳領域と、
のうち1又は複数と、を含みうる。
【0032】
所望により、mRNAのオープン・リーディング・フレームは、病原体の抗原をコードする。所望により、mRNAのオープン・リーディング・フレームは、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質抗原をコードする。
【0033】
所望により、本発明の全ての態様のある特定の好ましい実施形態では、mRNAのオープン・リーディング・フレームが、腫瘍特異的抗原をコードする。本明細書で使用される場合、腫瘍特異的抗原という用語は、1又は複数の悪性がん細胞において、非同義体細胞突然変異(ネオ抗原をもたらす)又はウイルス組み込み突然変異(がんウイルス抗原をもたらす)から生じる抗原を指し得る。したがって、腫瘍特異的抗原は、非がん性(健康、正常)細胞に完全に存在しない(発現されない)抗原を指し得る。
【0034】
所望により、mRNAのオープン・リーディング・フレームは、腫瘍関連抗原をコードする。本明細書で使用される場合、腫瘍関連抗原という用語は、例えば遺伝子増幅又は翻訳後修飾に起因して、非がん性(健康、正常)細胞と比較して、悪性がん細胞で過剰発現される抗原を指し得る。腫瘍関連抗原という用語は、過剰発現抗原(この用語は、非がん性(健康、正常)細胞では中程度に発現されるが、悪性がん細胞では豊富に発現されるタンパク質を指し得る);分化抗原(この用語は、悪性細胞が発生した細胞系統によって選択的に発現されるタンパク質を指し得、一例は、前立腺特異的抗原である);並びに、がん生殖細胞系抗原(この用語は、通常は生殖組織に限定されるが、悪性がん細胞において異常に発現される抗原を指し得;例えば、メラノーマ抗原ファミリーA3(MAGE-A3);ニューヨーク食道性扁平上カルシノーマ-1抗原(New York Esophageal Squamous Cell Carcinoma-1 Antigen:NY-ESO-1);及び、メラノーマ優先発現抗原(Preferentially Expressed Antigen in Melanoma:PRAME))を包含し得る
【0035】
mRNAのオープン・リーディング・フレームが、がん関連抗原又はがん特異的抗原をコードする場合、核酸ベクター組成物は、予防用ワクチン組成物又は治療用ワクチン組成物における使用に好適であり得る。
【0036】
所望により、mRNAのオープン・リーディング・フレームは、アレルゲン(1又は複数のナッツアレルゲン;これには、次いで、ビシリン、レグミン、アルブミンなどの1又は複数の種子貯蔵タンパク質が含まれるが、これらに限定されない;1又は複数の植物防御関連タンパク質;及び、1又は複数のプロフィリンを含むが、これらに限定されない)をコードする。
【0037】
所望により、mRNAのオープン・リーディング・フレームは、免疫疾患、自己免疫疾患、又は炎症性疾患(狼瘡、アテローム性動脈硬化症、慢性閉塞性肺疾患、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、リウマチ性疾患、ブドウ膜炎、アトピー性皮膚炎、及び肺線維症を含むが、これらに限定されない)を調節するタンパク質をコードする。
【0038】
所望により、本発明の第1の態様による核酸ベクター組成物は、グリシンなどのアミノ酸を更に含む。追加的又は代替的に、組成物は、トレハロースなどの1又は複数の二糖を更に含む。
【0039】
本発明の代替的な態様によれば、核酸ベクター組成物であって、
1又は複数の酵素と、
核酸と、
加水分解性シリコンを含む1又は複数の粒子と、
1又は複数の脂質と、
を含む、核酸ベクター組成物が提供される。
【0040】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様による核酸ベクター組成物を調製する方法であって、
DNA鋳型からのインビトロ転写、又は生物的供給源(biological source)からの精製によって、核酸を得ること、及び
前記核酸を、加水分解性シリコン及び1又は複数の脂質を含む1又は複数の粒子と組み合わせること
を含む、方法が提供される。
【0041】
本発明の第3の態様によれば、本発明の核酸ベクター組成物を含む医薬組成物であって、医薬組成物が、ワクチン組成物である、医薬組成物が提供される。
【0042】
好ましくは、本発明の第1の態様の核酸ベクター組成物を含む、本発明の第3の態様による医薬組成物中の核酸(例えば、mRNA又はpDNA)は、4℃にて、少なくとも3ヶ月、少なくとも6ヶ月、又は少なくとも12ヶ月の半減期を有する。
【0043】
本発明の第4の態様によれば、医薬品として使用するための、本発明の第3の態様による医薬組成物が提供される。
【0044】
本発明の第5の態様によれば、疾患又は障害を治療又は予防する方法であって、疾患又は障害の治療又は予防を必要とする対象へ、本発明の第3の態様による医薬組成物を投与することを含む、方法が提供される。
【0045】
本発明の第6の態様によれば、ワクチン接種(vaccination)を対象へ提供する方法であって、本発明の第3の態様による医薬組成物(それが筋肉内注射に好適な形態である場合)の皮下投与又は筋肉内投与を含む、方法が提供される。
【0046】
本発明の第7の態様によれば、リポポリプレックス・トランスフェクション・ベクターとしての本発明の第3の態様による医薬組成物の使用が提供される。
【0047】
本発明の第8の態様によれば、医薬品の製造における本発明の第3の態様による医薬組成物の使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1図1は、siRNAロード組成物及びsiRNAアンロード組成物のゼータ電位を比較する。各配合物をF1~F5とラベリングする。
図2】siRNAロード(明るい点で塗りつぶされたカラム)組成物及びsiRNAアンロード(暗い斜め線で塗りつぶされたカラム)組成物のゼータ電位の比較を示し、ここで、シリコンナノ粒子は、ステアリルアミン(図2)、PC(図3)、又はレシチン(図4)で表面処理されており、アミンは、アルギニンである。
図3】同上。
図4】同上。
図5図5は、HCES細胞における組成物のトランスフェクション効率を測定するための実験の結果を示す。第1のカラムの細胞はDAPIで染色され、核を示す(元々は)青色である蛍光を発する。第2のカラムの細胞は、(元々は)緑色である蛍光を発し、これは、本発明の配合物F2~F5によるトランスフェクションが成功したことを示す。
図6図6は、ゲル電気泳動実験の結果を示し、これは、本発明に従って調製されたシリコンナノ粒子が、特に2:1以上のシリコンナノ粒子対mRNAの比率で、mRNAを首尾よく捕捉することを示す。
図7図7は、分光光度測定実験の結果を示し、これは、本発明に従って調製されたシリコンナノ粒子が、特に2:1以上のシリコンナノ粒子対mRNAの比率で、mRNAを首尾よく捕捉することを確認する。
図8図8は、siRNAをロードしたシリコンナノ粒子送達システムのトランスフェクション効率を測定するための実験の結果を示す。
図9図9は、siRNAをロードしたシリコンナノ粒子送達システムで処理した細胞のトランスフェクション後の生存率を測定する実験の結果を示す。
図10図10は、シリコンナノ粒子送達システムを用いてsiRNAを細胞に送達した場合の、siRNA誘導性遺伝子サイレンシングの程度を測定するための実験の結果を示す。
図11図11は、局所シリコンナノ粒子配合物によるインビボの眼におけるsiRNA送達(in vivo ocular siRNA delivery)を評価する実験の結果を示す。
図12図12は、siRNAをロードしたシリコンナノ粒子送達システムでの処置中に、生きた動物におけるイメージングによってインビボでマウス角膜におけるルシフェラーゼ発現を測定した実験の結果を示す。
図13図13は、siRNAをロードしたシリコンナノ粒子送達システムでの処置中に、生きた動物におけるイメージングによってインビボでマウス角膜におけるルシフェラーゼ発現を測定した実験の結果を示す。
図14図14は、Siナノ粒子含有配合物及びSiナノ粒子を有しないリポソーム配合物に対するhsDNAについて核酸結合効率を測定するための実験の結果を示す。
図15図15は、粉末への製粉前後のシリコンウェハの外観を示す。
図16図16は、手動で製粉されたシリコン粒子のサイズを評価するために使用された、シリコン粒子のSEM画像を示す。
図17図17は、手動製粉シリコン粒子のTEM画像を示す。
図18図18は、RNAを含む本発明の構成成分との複合体を形成した後の、図17のシリコン粒子のTEM画像を示す。
図19図19は、RNAを含む本発明の構成成分との複合体を形成した後のシリコン粒子のTEM画像を示す。ホウ素ドープシリコンで作製されることを除いて、図18に示される粒子と同様である。
図20図20は、本発明の「Biocourier」シリコン粒子含有配合物(黒塗りバー)、及びシリコン粒子が存在しない対応する「リポソーム」配合物(白塗りバー)について測定される、核酸結合効率(mRNA)を示す。
図21図21は、本発明の「Biocourier」シリコン粒子含有配合物(黒塗りバー)、及びシリコン粒子が存在しない対応する「リポソーム」配合物(白塗りバー)について測定される、核酸結合効率(hsDNA)を示す。
図22図22は、(A)様々な期間にわたりウシ血清(bovine serum:BS)とインキュベートしたmRNA-SIS0012、及び(B)ウシ血清とのインキュベーションの前後にmRNA-SIS0012から抽出したmRNAのゲル遅延度アッセイの結果を示す。ヌクレアーゼフリー水中のネイキッドmRNAを対照として使用した。DNAラダーをサイズガイドとして使用した。
図23図23は、(A)様々な期間にわたりウシ血清(BS)とインキュベートしたmRNA-SIS0013、及び(B)ウシ血清とのインキュベーションの前後にmRNA-SIS0013から抽出したmRNAのゲル遅延度アッセイの結果を示す。ヌクレアーゼフリー水中のネイキッドmRNAを対照として使用した。DNAラダーをサイズガイドとして使用した。
図24図24は、(A)シリコンを伴わずに配合され、様々な期間にわたりウシ血清(BS)とインキュベートされたmRNA-LNP、及び(B)ウシ血清とのインキュベーションの前後にLNPから抽出されたmRNAのゲル遅延度アッセイの結果を示す。ヌクレアーゼフリー水中のネイキッドmRNAを対照として使用した。DNAラダーをサイズガイドとして使用した。
図25図25は、様々な期間にわたりウシ血清(BS)とインキュベートした、ネイキッドmRNAのゲル遅延度アッセイの結果を示す。ヌクレアーゼフリー水中のネイキッドmRNAを対照として使用した。DNAラダーをサイズガイドとして使用した。
【発明を実施するための形態】
【0049】
生物由来の核酸
所望により、本発明は、特定の実施形態によれば、生物由来の(biologically sourced)核酸に関する。これは、細胞培養系システムで産生された核酸、又は細胞培養系システムで生成された酵素を用いてインビトロで生成された核酸のいずれかを意味する。生物由来の核酸には、細胞材料から抽出された又はインビトロで転写された(その後の化学修飾がある場合を含む)、RNA(mRNAなど)及びDNA(pDNAなど)が含まれ得る。ホスホラミダイト化学合成などの完全化学合成経路によって作製された核酸は、生物由来の核酸には含まれない。
【0050】
インビトロ転写されたmRNA
本発明の全ての態様のある特定の好ましい実施形態では、本発明の核酸ベクター組成物は、インビトロで転写された(in vitro transcribed:IVT)mRNAの調製物を含む。
【0051】
「mRNA」という用語は、本明細書では、メッセンジャーRNAを指すために使用される。この用語は、非修飾mRNA及び修飾mRNAを包含する。これに関連して、本発明の全ての態様のある特定の実施形態によるmRNAが、その治療特性、例えば活性の増強、血清安定性の増加、オフターゲティングの減少、及び免疫学的活性化の低下などを増強するために、化学的に修飾されうることは理解されよう。
【0052】
RNAに対する化学修飾には、当技術分野で一般的に公知の任意の修飾、例えば、当技術分野で公知の標識による修飾;メチル化;キャップ、例えば、5’キャップ(例えば、第1のヌクレオチドにトリホスフェート架橋によって連結された7-メチルグアノシンを必要とする、キャップ0;第1のキャップ近位ヌクレオチドの2’-ヒドロキシル基のメチル化を必要とする、キャップ1;若しくは、第2のヌクレオチドの追加的な2’-O-メチル化を有する、キャップ2;又は、修飾キャップ1構造m3’-5’-ppp-5’-Amなどの、修飾キャップ0、キャップ1、又はキャップ2構造)など;ポリ(A)テール;類似体による天然に存在するヌクレオシドの1又は複数の置換、例えば、ウリジンのN1-メチル-プソイドウリジンによる置換;及び、ヌクレオシド間結合の修飾、が含まれ得る。
【0053】
いくつかの実施形態では、mRNAは、少なくとも100塩基対、少なくとも200塩基対、少なくとも300塩基対、少なくとも500塩基対、又は少なくとも1000塩基対若しくは2000塩基対の長さであり得る。
【0054】
プラスミドDNA(pDNA)
他の実施形態では、核酸ベクター組成物は、DNAの調製物を含む。好ましくは、これは、プラスミドから(例えば、プラスミドから切り出されることによって)得られたプラスミドの形態の任意のDNAを含む、プラスミドDNAである。
【0055】
インビトロmRNA転写
ある特定の好ましい実施形態では、核酸ベクター組成物を調製する本発明の第2の態様の方法は、直鎖DNA鋳型からのインビトロ転写(in vitro transcription:IVT)によってmRNAを合成することを必要とする。
【0056】
直鎖DNA鋳型は、予め生成されていてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、DNA鋳型は、精製プラスミドの線形化によって、又はPCRを用いた関心領域の増幅によって、事前に生成されうる。
【0057】
転写は、RNAポリメラーゼを用いて行うことができる。例えば、転写は、いくつかの実施形態では、T7、SP6、又はT3 RNAポリメラーゼを用いて行うことができる。ある特定の好ましい実施形態では、例えば、mRNAのオープン・リーディング・フレームがSARS-CoV-2のスパイクタンパク質抗原をコードする場合、T7 RNAポリメラーゼを使用することができる。
【0058】
したがって、転写に使用される反応体は、直鎖DNA鋳型;RNAポリメラーゼ(T7、SP6、又はT3 RNAポリメラーゼなど);及び、ヌクレオシドトリホスフェート基質を含みうる。ヌクレオシドトリホスフェート基質は、修飾ヌクレオシドトリホスフェート基質、例えばN1-メチル-プソイドウリジンを含みうる。いくつかの実施形態では、ポリメラーゼ補助因子MgClが含まれ得る。いくつかの実施形態では、pH緩衝溶液(例えば、ポリアミン及び抗酸化剤を含有するpH緩衝溶液)が含まれ得る。
【0059】
mRNAの5’キャッピングは、所望によりIVT反応中に行うことができ、すなわち、5’キャッピングは共転写であり得る。これは、グアノシントリホスフェート基質の一部をキャップ類似体に置換することによって達成することができる。所望により、共転写キャッピングは、CleanCap(商標)試薬を用いて行うことができる。
【0060】
共転写キャッピングの代替として、mRNAは、いくつかの実施形態では、ワクシニアキャッピング酵素(vaccinia capping enzyme:VCC)によって、メチルドナーと一緒に触媒される、第2の反応(転写後)でキャッピングされうる。ある特定の好ましい実施形態では、例えば、mRNAのオープン・リーディング・フレームがSARS-CoV-2のスパイクタンパク質抗原をコードする場合、ワクシニアキャッピング酵素及びワクシニア2’O-メチルトランスフェラーゼを用いて5’キャッピングが行われる。
【0061】
いくつかの実施形態では、5’キャップは、キャップ0、キャップ1、若しくはキャップ2、又は修飾キャップ0、修飾キャップ1(例えば、m3’-5’-ppp-5’-Amキャップ)、若しくは修飾キャップ2から選択されてもよい。
【0062】
mRNA及びpDNAの精製
本発明の核酸ベクター組成物を調製するには、核酸(例えば、mRNA又はpDNA)を精製する必要がある。核酸がmRNAである実施形態では、これは、インビトロ転写されたmRNAの調製物を形成するために、転写反応混合物(これは、いくつかの実施形態では、酵素、残留ヌクレオシドトリホスフェート、DNA鋳型、及びIVT中に形成された異常なmRNAのうち1又は複数を含む、不純物を含有)からmRNAを精製することを必要とし得る。
【0063】
所望により、精製には、サイズ排除クロマトグラフィー(size exclusion chromatography:SEC);イオン対逆相クロマトグラフィー(ion pair reverse-phase chromatography:IPC);イオン交換クロマトグラフィー(ion exchange chromatography:IEC);親和性に基づく分離;タンジェンシャルフロー濾過(tangential flow filtration:TFF);コア・ビーズ・クロマトグラフィー;ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー;TFFと組み合わせたmRNA沈殿(TFFの最中、膜は、沈殿したmRNA生成を捕獲するが、一方で他の不純物は、ダイアフィルトレーションによって除去される);固定化DNaseによる消化を行うことによるDNA鋳型除去;及び、親和性クロマトグラフィーを用いてIVT後に除去することができるタグ化DNA鋳型の使用のうち、1又は複数が含まれ得るが、これらに限定されない。ある特定の好ましい実施形態では、例えば、mRNAのオープン・リーディング・フレームがSARS-CoV-2のスパイクタンパク質抗原をコードする場合、精製は、オリゴdT親和性精製、酢酸ナトリウム(pH5.0)へのタンジェンシャルフロー濾過による緩衝液交換、及び滅菌濾過を含みうる。
【0064】
精製が完了した場合であっても、インビトロ転写されたmRNAの調製物は、直鎖DNA、1又は複数のRNAポリメラーゼ、及び、1又は複数のヌクレオシドトリホスフェートのうち1又は複数を依然として、少なくとも痕跡量含みうることが理解されよう。例えば、インビトロ転写されたmRNAの調製は、少なくとも0.01v/v%の直鎖DNAを含みうる。インビトロ転写されたmRNAの調製は、少なくとも0.01v/v%のRNAポリメラーゼを含みうる。インビトロ転写されたmRNAの調製は、少なくとも0.01v/v%のヌクレオシドトリホスフェートを含みうる。
【0065】
pDNAは、類似の方法によって、細胞由来(細菌又は酵母細胞由来などの、微生物細胞由来のものを含む)の抽出物から精製されうる。
【0066】
核酸ベクター組成物の調製
本発明の第2の態様による核酸ベクター組成物を調製する方法では、次いで、核酸(例えば、pDNA又はインビトロ転写されたmRNA)の調製物を、水、加水分解性シリコンを含む粒子、及び1又は複数の脂質と組み合わせる。組成物は、所望により、1又は複数のアミノ酸(例えば、グリシン、又はグリシンを含む核酸の混合物)及び所望により1又は複数のトレハロースなどの非還元性二糖を更に含みうる。好適な調製方法は、脂質構成成分をメタノールなどの溶媒中に分散させること;例えばロータリエバポレータ内で溶媒を蒸発させることによって脂質の薄フィルムを産生すること;活性化された加水分解性シリコン粒子、例えば100nm未満の平均粒径を有する粒子、トレハロースなどの非還元性二糖、及びグリシンなどの1又は複数のアミノ酸を含有する、水溶液で脂質を水和させること、を含みうる。組成物は、所望により、粒子の複合体化及び分散を達成するために、フィルタ、例えば0.4及び0.1μmフィルタを通過させ得る。組成物は、更なる複合体化を生じさせるために所望により4℃で貯蔵されてもよい。このようにして調製された担体は、次いで、核酸の水溶液(1:6~1:16の範囲にわたる比率のプラスミドDNA又はmRNAなど(ここで、1は核酸を表す))と複合体化されうる。好ましい比率は1:8~1:12であり、ここで、1:8では通常、生物材料(biological)が少量過剰となり得、1:12では担体が少量過剰となり得る。
【0067】
mRNA構造
核酸がmRNAである本発明の全ての態様のいくつかの実施形態では、mRNAの分子は、所望により、タンパク質をコードするオープン・リーディング・フレームに加えて、以下:5’キャップ;ポリ(A)テール;及び、1又は複数の非翻訳領域のうち1又は複数を含みうる。
【0068】
いくつかの実施形態では、mRNAのタンパク質をコードするオープン・リーディング・フレームは、抗原をコードし、それによってワクチンである配合物を提供する。抗原は、ウイルス抗原、例えばSARS-CoV-2の抗原、例えばSARS-CoV-2又はその一部のスパイクタンパク質に由来する抗原であり得る。したがって、mRNAのオープン・リーディング・フレームは、いくつかの実施形態では、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質抗原をコードし得る。いくつかの実施形態では、オープン・リーディング・フレームは、天然に存在するタンパク質の突然変異型をコードしうる。例えば、いくつかの実施形態では、オープン・リーディング・フレームがSARS-CoV-2のスパイクタンパク質又はその一部をコードする場合、元のアミノ酸がプロリンで置き換えられている2つの突然変異を含みうる。理論に束縛されることを望むものではないが、これは、得られたS糖タンパク質が抗原的に最適なプレ融合コンフォメーションに留まることを確実にしうるものと考えられる。
【0069】
いくつかの実施形態では、mRNAのタンパク質をコードするオープン・リーディング・フレームは、複数のタンパク質をコードし得る。例えば、mRNAのタンパク質をコードするオープン・リーディング・フレームは、ウイルス抗原及びアジュバント化タンパク質、又は複数のウイルス抗原をコードし得る。ある特定の好ましい実施形態では、例えばmRNAのオープン・リーディング・フレームがSARS-CoV-2のスパイクタンパク質抗原をコードする場合、オープン・リーディング・フレームは、シグナルペプチド、例えばS糖タンパク質シグナルペプチドを追加的にコードし得る。
【0070】
5’キャップ
上記のように、mRNAは、5’キャップを有することによって修飾されうる。5’キャップは、第1のヌクレオチドにトリホスフェート架橋によって連結された7-メチルグアノシンを必要とする、キャップ0(mGpppN)構造を有し得る。5’キャップは、第1のキャップ近位ヌクレオチドの2’-ヒドロキシル基のメチル化を必要とする、キャップ1(mGpppNm)構造を有し得る。5’キャップは、第2のヌクレオチドの追加的な2’-O-メチル化を有するキャップ2(mGpppNmpN)構造を有し得る。キャップは、修飾キャップ0構造、修飾キャップ1構造、又は修飾キャップ2構造を有し得る。ある特定の好ましい実施形態では、例えば、mRNAのオープン・リーディング・フレームがSARS-CoV-2のスパイクタンパク質抗原をコードする場合、5’キャップは、キャップ1であるか、又は5’キャップは、m3’-5’-ppp-5’-Amキャップ構造を有する修飾キャップ1である。
【0071】
【化1】
【0072】
【化2】
【0073】
理論に束縛されることを望むものではないが、5’キャップは、5’エキソヌクレアーゼによるmRNAの分解から保護することによってmRNA安定性を増加させ;5’キャップは、リボソームがmRNAの最初部分(beginning)を認識できるようにし;かつ、5’キャップは、真核生物翻訳開始因子4E(eIF4E)に結合することによって翻訳効率を改善しうるものと考えられる。
【0074】
3’ポリ(A)テール
理論に束縛されることを望むものではないが、3’ポリ(A)テールの添加によるmRNAの修飾は、mRNAをヌクレアーゼ分解から保護することを含み、翻訳活性及びmRNA安定性を改善することができるともまた考えられる。ポリ(A)テール(poly(A) tail)は、好ましい実施形態(例えば、mRNAのオープン・リーディング・フレームがSARS-CoV-2のスパイクタンパク質抗原をコードする場合)では、DNA鋳型にポリ(A)配列を含めることによって、mRNAのインビトロ転写中にmRNAに付加されうる。テールのサイズは、mRNAの安定化及び発現を最適化するように選択されうる。有利には、DNA鋳型からのmRNAのインビトロ転写は、規定のポリ(A)テール長を有するmRNAを生成し得る。いくつかの実施形態では、ポリ(A)テールは、100ヌクレオチド~200ヌクレオチドの長さ、例えば120ヌクレオチド~150ヌクレオチドの長さを有し得る。ある特定の好ましい実施形態、例えば、mRNAのオープン・リーディング・フレームがSARS-CoV-2のスパイクタンパク質抗原をコードする場合においては、ヌクレオチド110個のポリ(A)テールが提供され、当該テールはアデノシン残基30個がヌクレオチド10個のリンカー配列によって更なるアデノシン残基70個から分離されているものである。
【0075】
非翻訳領域(Untranslated region:UTR)
非翻訳領域は、mRNAコード領域の上流(5’UTR)ドメイン及び下流(3’UTR)ドメインに位置する、mRNA配列の非コード領域である。理論に束縛されることを望むものではないが、UTRはmRNA安定性のみならず転写調節をも補助することができ、UTRは、翻訳機構認識、動員(recruitment)、及びmRNA輸送に関与することによって翻訳効率に影響を及ぼすものと考えられる。UTRは、RNA結合タンパク質との反応によってmRNAの分解(decay)及び翻訳効率を変化させることができるものと考えられている。
【0076】
ある特定の好ましい実施形態では、例えば、mRNAのオープン・リーディング・フレームがSARS-CoV-2のスパイクタンパク質抗原をコードする場合、最適化されたコザック配列を有するヒトアルファグロビンRNAに由来する5’UTRが提供され、並びに/又はスプリット(AES)mRNAのアミノ末端エンハンサ及びミトコンドリアにコードされる12SリボソームRNAに由来する2つの配列要素を含む3’UTRが提供される。理論に束縛されることを望むものではないが、そのようなUTRは、RNA安定性及び高い総タンパク質発現をもたらすものと考えられる。
【0077】
オープン・リーディング・フレーム(Open reading frame:ORF)
この用語が本明細書で使用される場合、オープン・リーディング・フレーム(ORF)は、核酸のタンパク質コード領域(例えば、mRNA若しくはpDNA)を、又はそのうち1つを指す。いくつかの実施形態では、ORF配列は、より稀なコドンの置き換えとして、同義の共通コドン(及び/又は、より高いtRNA存在量を有するコドン)を含みうる。このようにして、高度に発現された遺伝子は、宿主の同じコドンを用いて翻訳することができ、及び/又は核酸の発現中に関連するtRNAの存在量を保証することができるものと考えられる。しかしながら、いくつかのタンパク質は適切なフォールディングのために低い翻訳速度を必要とするので、核酸のより高い翻訳速度を有することは、必ずしも好ましいとは限らない。これらの状況では、ORFに低頻度のコドンを用いると、より高品質のタンパク質生成物が得られうる。
【0078】
修飾ヌクレオシド及びヌクレオチド
本明細書で使用される場合、「ヌクレオシド」及び「ヌクレオチド」という用語は、既知のプリン塩基及びピリミジン塩基だけでなく、修飾された他の複素環塩基もまた含有する部分を含むことが理解されよう。そのような修飾としては、メチル化プリン若しくはメチル化ピリミジン、アシル化プリン若しくはアシル化ピリミジン、又は他の複素環が挙げられる。修飾されたヌクレオシド又はヌクレオチドはまた、例えば、ヒドロキシル基の1又は複数が、ハロゲン、脂肪族基で置き換えられているか、又はエーテル、アミンなどとして官能化されている、糖部分に対する修飾も含む。ヌクレオチド又はポリヌクレオチドに対する他の修飾は、水素結合をそれぞれの相補的ピリミジン又は相補的プリンへと形成するプリン塩基又はピリミジン塩基上の官能基、例えば、イソグアニン、イソシステインなどを、再配列、付加、置換、又は他の方法で変化させることに関与する。いくつかの実施形態では、mRNAは、少なくとも1個、2個、3個、又は4個の修飾ヌクレオチドを含む。例えば、いくつかの実施形態では、mRNAは、少なくとも1つのN1-メチル-プソイドウリジンヌクレオシド、例えば少なくとも2個、3個、4個、5個、10個、15個、又は20個のN1-メチル-プソイドウリジンヌクレオシドを含むことができる。
【0079】
いくつかの実施形態では、核酸(例えば、mRNA)は、1又は複数のユニバーサル塩基を含む。本明細書で使用される場合、「ユニバーサル塩基(universal base)」という用語は、A、U/T、C、及びGから選択される2つ以上のヌクレオチドにハイブリダイズすることができる、ヌクレオチド類似体を指す。いくつかの実施形態では、ユニバーサル塩基は、デオキシイノシン、3-ニトロピロール、4-ニトロインドール、6-ニトロインドール、5-ニトロインドールからなる群から選択されうる。
【0080】
理論に束縛されることを望むものではないが、修飾ヌクレオシドの導入は、自然免疫応答を調節し、及び/又は核酸安定性を増加させるのに役立ち得るものと考えられる。例えば、いくつかの実施形態では、mRNAのウリジン含有量は、N1-メチル-プソイドウリジンによって部分的又は全体的に置き換えられ得る。ある特定の好ましい実施形態では、例えば、mRNAのオープン・リーディング・フレームがSARS-CoV-2のスパイクタンパク質抗原をコードする場合、mRNAのウリジン含有量は、N1-メチル-プソイドウリジンで完全に置き換えることができる。
【0081】
酵素及びその断片(単数)又は断片(複数)
核酸ベクター組成物に関する本発明の全ての態様によれば、組成物は、1若しくは複数の酵素、及び/又はその1若しくは複数の断片を含みうる。組成物は、少なくとも微量で、直鎖DNA;1若しくは複数のRNAポリメラーゼ、及び/又はその1若しくは複数の断片;並びに1又は複数のヌクレオシドトリホスフェートを含みうる。したがって、特に、組成物は、1若しくは複数のRNAポリメラーゼ、及び/又はその1若しくは複数の断片を含みうる。所望により、1又は複数のRNAポリメラーゼは、T7、SP6、及びT3 RNAポリメラーゼのうち1又は複数から選択されうる。核酸がDNAであるか又はDNAを含む場合、組成物は、少なくとも微量の直鎖DNAを含みうる。
【0082】
組成物は、核酸の分解が可能である、酵素及び/又はその1若しくは複数の断片を少なくとも微量で含みうる。しかしながら、加水分解性シリコンを含む1又は複数の粒子は、水分子を除去又は隔離し、それによって、酵素が核酸の分解を触媒するために水性環境を必要とすることに基づいて、1若しくは複数の酵素及び/又はその1若しくは複数の断片が核酸を分解するのを防止し得る。
【0083】
加水分解性シリコンを含む1又は複数の粒子
本発明の全ての態様によれば、加水分解性シリコンを含む1又は複数の粒子は、純粋なシリコン、又は別の加水分解性シリコン含有材料であり得る。この粒子が純粋なシリコンでない場合、粒子は少なくとも50重量%のシリコンを含有し、すなわち、粒子中の原子の総質量に基づいて少なくとも50重量%のシリコン原子を含む。例えば、シリコン粒子は、シリコンを少なくとも60%、70%、80%、90%、又は95%含有しうる。シリコン粒子は、好ましくは、例えば室温のPBS緩衝液中で、同じ寸法の純粋なシリコン粒子の加水分解度(rate of hydrolysis)の10%以上の加水分解度を示す。シリコン含有材料の加水分解のアッセイは当技術分野で広く知られている(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2011/001456号を参照されたい)。本発明の粒子はいくらかのシリカを含有してもよいが、シリカは、加水分解性シリコンではなく、かつ粒子中のシリコン原子の少なくとも半分は、元素シリコン(又はドープされた元素シリコン)の形態である。
【0084】
本発明の全ての態様によれば、加水分解性シリコンを含む粒子は、ナノ粒子であり得る。ナノ粒子は、5~400nm、例えば50~350nm、例えば80~310nm、例えば100~250nm、例えば120~240nm、例えば150~220nm、例えば約200nmの公称直径を有する。ナノ粒子は、純粋なシリコン又は加水分解性シリコン含有材料のいずれかで作製されうる。ナノ粒子は好ましくは多孔質である。上記の公称直径は平均直径を指してもよく、粒子の試料中の粒子の総質量の少なくとも90%は、指定されたサイズ範囲内に入り得る。粒径は、例えば、2010年2月に改訂されたNIST-NCL Joint Assay Protocol、PCC-X、バージョン1.1、「Measuring the size of nanoparticles using TEM」(https://tsapps.nist.gov/publication/get_pdf.cfm?pub_id=854083)を用いて、透過型電子顕微鏡法(transmission electron microscopy:TEM)によって確認又は承認してもよい。
【0085】
いくつかの好ましい実施形態では、公称直径は、100nm未満、又は80nm未満、又は70nm、50nm、若しくは30nm未満であってもよい。いくつかの実施形態では、公称直径は、約30nm(例えば、20nm~40nm)であり得る。加水分解性シリコンを含む粒子は、粒子をフッ化水素酸(HF)/エタノール混合物と接触させ、電流を印加するなどの標準的な技術によって、多孔質にすることができる。HF濃度並びに電流密度及び曝露時間を変化させることによって、細孔の密度及びそれらのサイズを制御することができ、かつ走査型電子顕微鏡写真及び/又は窒素吸着脱着体積等温測定によって監視することができる。
【0086】
粒子が多孔質である場合、それらの多孔度のおかげで、それらの総表面積が増加する。例えば、表面積は、対応する非多孔質粒子の表面積にわたって少なくとも50%又は少なくとも100%増加し得る。多くの状況において、本発明の全ての態様による多孔質粒子は、実際には、それらの多孔度のために総表面積がはるかに大きく増加する。特定の実施形態によれば、多孔度は、少なくとも30%、40%、50%、又は60%である。これは、粒子体積のそれぞれ30%、40%、50%、又は60%が、細孔空間にあることを意味する。好ましい細孔径は、1nm~50nm、例えば5nm~25nmの範囲にわたる。
【0087】
所望による(optional)シリコンのドーピング
本発明の全ての態様は、所望により、ドープシリコン含有材料(doped silicon containing material)に関する。シリコンは、所望により、nドープ又はpドープされていてもよい。本発明は、シリコンが、Mg、P、Cu、Ga、Al、In、Bi、Ge、Li、Xe、N、Au、Ptから選択される1又は複数の元素でドープされた、全ての態様の実施形態を含む。最も好ましくは、ドーパントは、p型ドーパントである。最も好ましくは、ドーパントは、ホウ素である。Pドープシリコンは、負帯電した核酸を安定化するのに特に好適である。Nドープシリコンはまた、核酸の安定化及び保護を間接的に増加させ得る脂質を分解から保護することができるので、負帯電した核酸を間接的に安定化するのに有用であり得る。
【0088】
ドープシリコンの製造は、半導体産業においてよく理解されており、かつイオン注入及び拡散法を含む。したがって、ドープシリコンは容易に入手可能である。所望により、シリコン中に存在するドーパントの量を増加させるために拡散法を用いることによって、シリコンをドープすることができる。拡散法の一例として、シリコン粉末及びドーピング試薬(例えば、ホウ素ドーピング用のB)をボウル中に入れ、これを混合してN雰囲気下に置き、1050℃~1175℃の温度で数分間かけてドーパント(例えば、ホウ素)をシリコン中に拡散させる。図1及び図2は、この方法によって生成されたホウ素ドープシリコンを示す。
【0089】
特定の実施形態によれば、シリコンのドーピングは高濃度である。高濃度ホウ素ドーピングは特に好ましい。高濃度ドーピングは、cm当たり少なくとも1×1015個のドーパント原子のドーピングを意味するものと理解される。いくつかの実施形態では、ドーパントは、cm当たり少なくとも1×1016個のドーパント原子、cm当たり少なくとも1×1017個のドーパント原子、cm当たり少なくとも1×1018個のドーパント原子、cm当たり少なくとも1×1019個のドーパント原子、又はcm当たり少なくとも1×1020個のドーパント原子のレベルで存在する。
【0090】
ホウ素がドーパントとして使用される場合、好ましくは、cm当たり1×1015個のドーパント原子、及びcm当たり1×1020個のドーパント原子のドーピングレベルは、それぞれ、抵抗率20mohm-cm及び1mohm-cmに対応する。ホウ素が好ましいドーパントである本発明の様々な態様は、ホウ素でドープされる、例えば高濃度にドープされることに加えて、他の元素でもまたドープされるシリコンを除外しない。本発明の全ての態様の好ましい実施形態によれば、大部分のドーパントは、ホウ素である。
【0091】
シリコンと核酸との比率
好ましくは、シリコン対核酸(例えば、mRNA又はpDNA)の比率は、0.01:1~1:8、例えば1:1~1:6、1:1~1:5、1:1~1:4、又は1:1~1:3である。好ましくは、シリコン対核酸の比率は、1:1~1:3である。有利には、このシリコン対核酸の比率は、粒子によって運ばれる核酸を更に安定化し、したがって所望により核酸の放出速度にもまた影響を及ぼす。
【0092】
所望による(optional)核酸のシリコンとの会合(association)
本発明の全ての態様のいくつかの実施形態では、存在する核酸(例えば、mRNA又はpDNA)の少なくとも70重量%、例えば少なくとも80重量%、例えば少なくとも90重量%が、加水分解性シリコンを含む1又は複数の粒子と会合する。これは、核酸が、加水分解性シリコンを含む1又は複数の粒子と非共有結合(non-covalently associated)していることを意味する。理論に束縛されることを望むものではないが、これが起こると、核酸のランダムな動き(また、ブラウン運動とも称される)が、いくつかの実施形態では、減少し得るものと仮定される。その結果、核酸が分解される機会が更に減少する。
【0093】
加水分解性シリコンを含む1又は複数の粒子との核酸の所望による会合は、シリコンの加水分解と相関していてもよく、及び/又はそれによって支配されていてもよい。したがって、核酸が生物学的に利用可能になる速度はまた、シリコンの加水分解と相関してもよく、それによって用量ダンピング(dose-dumping)を回避し、及び/又は好適な長期間にわたって核酸の徐放を確実にしてもよい。いくつかの実施形態では、核酸と1又は複数の粒子との会合は、核酸を更に安定化し得る。例えば、会合は核酸の電荷安定化をもたらし得る。
【0094】
脂質
本発明の全ての態様によれば、少なくとも1つの脂質は、カチオン性脂質;ヘルパー脂質、例えばリン脂質;構造脂質、例えばコレステロール系脂質;及び/又は、ポリエチレングリコール(PEG)脂質を含みうる。
【0095】
使用される脂質(単数)の種類又は脂質(複数)の種類は、インビボでの1又は複数のシリコン粒子の分解速度に影響を及ぼし得る。例えば、1又は複数の脂質分子は、1又は複数のシリコン粒子の表面(単数)又は表面(複数)と非共有的に会合してもよく、これは、1又は複数のシリコン粒子を脂質で表面処理することとして発現されうる。例えば、少なくとも1つの脂質の存在が、シリコンが不溶性ポリマー加水分解生成物ではなく生体利用可能なオルトケイ酸(orthosilicic acid:OSA)分解生成物へと加水分解するように、シリコンの加水分解速度を制御することを可能にすることが分かった。特に、脂質でシリコン粒子を表面処理することは、シリコン粒子の表面電荷に有益な効果を有し、これは、核酸(例えば、mRNA)の改善された安定化を可能にするために必要なゼータ電位をシリコン粒子に提供し、所望により標的部位での核酸の放出速度を制御することが判明した。
【0096】
脂質は、ホスファチジルコリン(PC)、水素付加PC、ステアリルアミン(SA)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、コレステリル3β-N-(ジメチルアミノエチル)カルバメート塩酸塩(DC)-コレステロール、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP)、及びそれらの任意の誘導体のうち1又は複数を含みうる。ある特定の実施形態では、脂質は、DOTAPを含むか、又はDOTAPからなる。ナノ粒子の表面を処理するために使用される脂質の種類は、核酸(例えば、mRNA又はpDNA)の安定化、所望により放出速度に影響を及ぼし得る。特に、脂質分子と1又は複数のシリコン粒子との間に会合がある場合、シリコン粒子の表面電荷に有益な効果が存在し、これは、核酸の安定化を改善するのに必要なゼータ電位をそのシリコン粒子に提供し、かつ所望により標的部位での核酸(例えば、mRNA又はpDNA)の放出速度を制御する。少なくとも1つの脂質の存在が、シリコンが不溶性ポリマー加水分解生成物ではなく生体利用可能なオルトケイ酸(OSA)分解生成物へと加水分解するように、シリコンの加水分解速度が制御されることを可能にし得る。シリコンの加水分解速度を制御することは、核酸の保護が持続される時間に影響を及ぼす。
【0097】
本発明の全ての態様によれば、脂質(単数)又は脂質(複数)は、平均分子量が500~1000の範囲内であってもよく(例えば、脂質が、カチオン性脂質(例えば、DTDTMA(ジテトラデシルトリメチルアンモニウム)、DOTMA(2,3-ジオレイルオキシプロピル-1-トリメンチルアンモニウム)、DHDTMA(ジヘキサデシルトリメチルアンモニウム))DOTAP、ヘルパー脂質、構造脂質、及びPEG脂質のうち1又は複数を含有する場合、又は脂質が、PC、水素化PC、SA、DOPE、DOTAP、DTDTMA、DHDTMA、DC-コレステロール、及びそれらの誘導体のうち1又は複数から選択される場合)、任意の押出プロセス又は濾過プロセスが行われる前の、シリコンに対する脂質(すなわち、総脂質構成成分)の比は、1:1~20:1、例えば、1:1~18:1、1:1~16:1、1:1~11:1、1:1~10:1、1:1~9:1、1:1~8:1、1:1~13:1、2:1~12:1、2:1~11:1、2:1~10:1、2:1~9:1、2:1~8:1、例えば、1:1~7:1、2:1~7:1、3:1~6:1、4:1~5:1である。理論に束縛されることを望むものではないが、シリコンに対する脂質のこの比は、所望により、加水分解性シリコンの粒子と接触している核酸(mRNA又はpDNAなど)の放出を制御し、かつ安定化し、並びにシリコンの生体利用可能な分解生成物であるOSAの制御された放出を促進することができる、小胞システムを提供し得る。
【0098】
有利なことに、脂質化合物は、シリコン粒子の表面電荷に有意な効果を及ぼす。ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanolamine:PE)DOTAP、及びレシチンで処理した加水分解性シリコンを含む粒子は、ゼータ電位分析を行った場合に負の表面電荷を示した(-60~-20mVの範囲、シリコン:脂質の比は1:1~1:3の範囲)。ステアリルアミンで表面処理された粒子は、正のゼータ電位を示した(0~40mVの範囲、シリコン:脂質の比率は1:1~1:3の範囲)。ドープシリコン(例えば、pドープシリコン、例えば、本明細書の他の箇所に記載されるようなホウ素ドープシリコン)を用いることは、ゼータ電位を更により負にすることに寄与し得る。このようにしてシリコン粒子の表面電荷を制御することにより、水分子を除去又は隔離し、したがって核酸を分解から保護する、それらの能力を制御し得る。
【0099】
脂質又は脂質構成成分は、いくつかの実施形態では、リン脂質であり得るか、又はリン脂質を含みうる。「リン脂質」という用語は、脂肪酸鎖及びリン酸基を含む脂質を指す。リン脂質は、正帯電したカチオン性脂質とは異なり、全体的な電荷を有しないか、又は負電荷を有し得るという点で、典型的には中性分子である。リン脂質は、典型的には、正帯電及び負帯電した構成成分の両方を含むが、全体的な電荷を含まない双性イオン化合物である。したがって、リン脂質は、典型的には中性脂質として分類される。特に好適なリン脂質はグリセロリン脂質である。特に好適なリン脂質は、極性頭部基が第四級アンモニウム部分、例えばホスファチジルコリン(phosphatidylcholine:PC)又は水素付加ホスファチジルコリンなどに結合されているリン脂質である。リン脂質の別の例は、DOPE(ホスファチジルエタノールアミン又は1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン)である。脂質の種類は配合物の性質に応じて選択されてもよく、中性又は負帯電したリン脂質は、非プロトン性配合物に好ましいが、一方で正帯電したカチオン性脂質及び小さなCH鎖脂質がプロトン性配合物に好ましい。リン脂質は、レシチンであってもよく、又はレシチンに由来してもよい。
【0100】
好ましくは、リン脂質の側鎖(複数可)は、15個以上の炭素原子を有する脂肪族側鎖(複数可)、又は6個以上の繰り返しエーテル単位を有するエーテル側鎖、例えばポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコール鎖などである。エーテル側鎖を有する脂質は、「PEG脂質」又は「PEG化」脂質と称されうる。PEG脂質は、PEG側鎖を有する1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)などのリン脂質、例えばDSPE-mPEG2000であり得る。
【0101】
脂質構成成分は、ホスファチジルコリン(PC)、水素付加PC、ステアリルアミン(SA)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、DOTAP、コレステリル3β-N-(ジメチルアミノエチル)カルバメート塩酸塩(DC)-コレステロール、及びそれらの誘導体のうち1又は複数を含みうる。ある特定の実施形態では、脂質構成成分は、ホスファチジルコリン、水素付加ホスファチジルコリン、ステアリルアミン、又はそれらの組合せから実質的になり得る。
【0102】
シリコンのドーピングは表面電荷を変化させる。ホウ素(本発明の多くの実施形態ではその様々な態様の全てにおいて好ましい)などの、ある特定の好ましい実施形態によるpドーパントの使用は、ゼータ電位をより正にする(すなわち、負の値がより小さい)。純粋なシリコンの典型的な値である-40mVは、シリコンがホウ素でドープされた場合、約-25mVになる。したがって、ホウ素ドープシリコンは、カチオン性脂質で処理した場合、より容易に正のゼータ電位を達成することができることが理解されうる。例えば、ステアリルアミン又はDOTAPによる処理は、約+20mV~+60mVの値を達成することができる。これは、より少量のカチオン性脂質を用いて、又はより広範囲のカチオン性脂質(ステアリルアミン及びDOTAPよりもカチオン性が低いものを含む)を用いて、正の表面ゼータ電位が達成されうることを意味する。これはまた、カチオン性脂質が貯蔵中に分解(「老化」)することで、脂質の正電荷の部分的損失をもたらしたとしても、粒子の表面ゼータ電位がより長い間充分に正の範囲に留まることを意味する。
【0103】
0.8:1~20:1の脂質対ホウ素ドープシリコンのモル比、例えば1:1、6:1、8:1、又は10:1、又は12:1、又は16:1が特に有利であることが判明した。
【0104】
脂質又は脂質構成成分は、いくつかの実施形態では、リン脂質であり得るか、又はリン脂質を含みうる。「リン脂質」という用語は、脂肪酸鎖及びリン酸基を含む脂質を指す。リン脂質は、それらが正帯電したカチオン性脂質とは異なり、全体的な電荷を有しないか、又は負電荷を保有し得るという点で、典型的には中性分子である。リン脂質は、典型的には、正帯電及び負帯電した構成成分の両方を含むが、全体的な電荷を含まない双性イオン化合物である。したがって、リン脂質は、典型的には中性脂質として分類される。特に好適なリン脂質はグリセロリン脂質である。特に好適なリン脂質は、極性頭部基が第四級アンモニウム部分、例えばホスファチジルコリン(phosphatidylcholine:PC)又は水素付加ホスファチジルコリンなどに結合されているリン脂質である。リン脂質の別の例は、DOPE(ホスファチジルエタノールアミン又は1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン)である。脂質の種類は配合物の性質に応じて選択されてもよく、中性又は負帯電したリン脂質は、非プロトン性配合物に好ましいが、一方で正帯電したカチオン性脂質及び小さなCH鎖脂質がプロトン性配合物に好ましい。リン脂質は、レシチンであってもよく、又はレシチンに由来してもよい。
【0105】
好ましくは、リン脂質の側鎖(複数可)は、15個以上の炭素原子を有する脂肪族側鎖(複数可)、又は6個以上の繰り返しエーテル単位を有するエーテル側鎖、例えばポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコール鎖などである。エーテル側鎖を有する脂質は、「PEG脂質」又は「PEG化」脂質と称されうる。
【0106】
脂質又は脂質構成成分は、いくつかの実施形態では、カチオン性脂質であり得るか、又はカチオン性脂質を含みうる。「カチオン性脂質」という用語は、好適なスペーサを介して疎水性テールに結合したカチオン性頭部基を有する正帯電した分子を指す。例としては、DTDTMA(ジテトラデシルトリメチルアンモニウム)、DOTMA(2,3-ジオレイルオキシプロピル-1-トリメンチルアンモニウム)、DOTAP、DHDTMA(ジヘキサデシルトリメチルアンモニウム)、及びステアリルアミン(SA)が挙げられる。正電荷は、典型的には、負の対イオンによって安定化される。好ましい実施形態では、特にワクチン組成物に関して、カチオン性脂質は、DOTAPであるか、又はDOTAPを含む。
【0107】
ある特定の実施形態では、脂質は、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン(PC)、ステアリルアミン(SA)、又はそれらの任意の組合せからなる群から選択される。
【0108】
ある特定の実施形態では、脂質は、ホスファチジルコリン、水素付加ホスファチジルコリン、ステアリルアミン、又はそれらの組合せから実質的になり得る。
【0109】
ある特定の実施形態では、脂質は、粒子の総重量に基づいて、少なくとも5重量%の水素化ホスファチジルコリン、例えば少なくとも20重量%、典型的には少なくとも30重量%、特に少なくとも50重量%の水素化ホスファチジルコリンからなり得る。0.8:1~5:1の水素化ホスファチジルコリン対シリコンのモル比は、例えば1:1、1.5:1、2:1、2.5:1、3:1、3.5:1、4:1、又は4.5:1が特に有利であることが分かった。
【0110】
ある特定の実施形態では、脂質は、粒子の総重量に基づいて、少なくとも5重量%のホスファチジルコリン、例えば少なくとも20重量%、典型的には少なくとも30重量%、特に少なくとも50重量%のホスファチジルコリンからなり得る。0.8:1~5:1のホスファチジルコリン対シリコンのモル比は、例えば1:1、1.5:1、2:1、2.5:1、3:1、3.5:1、4:1、又は4.5:1が特に有利であることが分かった。
【0111】
ある特定の実施形態では、脂質は、粒子の総重量に基づいて、少なくとも5重量%のステアリルアミン、例えば少なくとも20重量%、典型的には少なくとも30重量%、特に少なくとも50重量%のステアリルアミンからなり得る。0.8:1~5:1のステアリルアミン対シリコンのモル比は、例えば1:1、1.5:1、2:1、2.5:1、3:1、3.5:1、4:1、又は4.5:1が特に有利であることが分かった。
【0112】
ある特定の実施形態では、脂質は、PC及びSAからなってもよく、好ましくは、PC:SAの重量比は、1:1~20:1、より好ましくは7:1~10:1であり得、例えばPC:SAの重量比が72:8などであり得る。
【0113】
ある特定の実施形態では、脂質は、DOPE、SA、及びDC-コレステロールからなり得る。DOPE:SAの重量比は、1:1~10:1、例えば4:1~8:1の範囲内であり得る。DOPE:DC-コレステロールの重量比は、1:1~5:1、例えば1:1~3:1の範囲内であり得る。SA:DC-コレステロールの重量比は、1:1~1:5、例えば1:2~1:4の範囲内であり得る。いくつかの実施形態では、DOPE:SA:DC-コレステロールの重量比は、48:8:24であり得る。
【0114】
ある特定の好ましい実施形態では、脂質は、DOTAP、DOPE、及びPEG脂質(mPEG2000-DSPEなど)からなり得る。DOTAP:DOPEの重量比は、1:2~2:1、例えばおよそ1:1であり得る。DOTAP:PEG脂質及びDOPE:PEG脂質の比率は、10:1~5:1、例えばおよそ7:1であり得る。全脂質対シリコンの比率の総重量は、20:1~10:1、例えばおよそ16:1であり得る。
【0115】
脂質構成成分は、イオン化性脂質(ionizable lipid)であり得るか、又はイオン化性脂質を含みうる。「イオン化性脂質」という用語は、典型的には、例えば何らかのスペーサを介して疎水性テールに結合したルイス塩基(水素受容体)頭部基を有する、正帯電することができる基を有する脂質を指す。イオン化性脂質は、典型的には、第三級アミン部分を含有する頭部を含む。イオン化性脂質は、生理学的pHでは中性であり得るが、しかしエンドソーム脱出(endosomal escape)の一部分である液胞の内に見られるpHなどの、より低いpH、例えばpH6.5未満ではカチオン性になる。イオン化性脂質は、例えば、Nano Lett.2020 Mar 11;20(3):1578-1589に記載されている。多くのワクチンプラットフォームは、生理学的pHで中性であり、次いでエンドソームへと形質膜陥入され、かつpHが約pH6.2に低下した場合にのみカチオン性になる脂質システムを使用し、次いで、カチオン性になる脂質はエンドソーム脱出を可能にする。中性脂質を含む送達システムは、より多くの粒子が筋肉からリンパ節へと移動し、樹状細胞によって貪食されることを可能にする。イオン化性脂質は、固体である生体適合性粒子の材料との会合によって、例えば加水分解性シリコンとの会合によって安定化されうる。
【0116】
ある特定の実施形態では、脂質は、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン(PC)、ステアリルアミン(SA)、又はそれらの任意の組合せからなる群から選択される。
【0117】
ある特定の実施形態では、脂質は、ホスファチジルコリン、水素付加ホスファチジルコリン、ステアリルアミン、又はそれらの組合せから実質的になり得る。
【0118】
ある特定の実施形態では、脂質は、粒子の総重量に基づいて、少なくとも5重量%の水素化ホスファチジルコリン、例えば少なくとも20重量%、典型的には少なくとも30重量%、特に少なくとも50重量%の水素化ホスファチジルコリンからなり得る。0.8:1~5:1の水素化ホスファチジルコリン対シリコンのモル比は、例えば1:1、1.5:1、2:1、2.5:1、3:1、3.5:1、4:1、又は4.5:1が特に有利であることが分かった。
【0119】
ある特定の実施形態では、脂質は、粒子の総重量に基づいて、少なくとも5重量%のホスファチジルコリン、例えば少なくとも20重量%、典型的には少なくとも30重量%、特に少なくとも50重量%のホスファチジルコリンからなり得る。0.8:1~5:1のホスファチジルコリン対シリコンのモル比は、例えば1:1、1.5:1、2:1、2.5:1、3:1、3.5:1、4:1、又は4.5:1が特に有利であることが分かった。
【0120】
ある特定の実施形態では、脂質は、粒子の総重量に基づいて、少なくとも5重量%のステアリルアミン、例えば少なくとも20重量%、典型的には少なくとも30重量%、特に少なくとも50重量%のステアリルアミンからなり得る。0.8:1~5:1のステアリルアミン対シリコンのモル比は、例えば1:1、1.5:1、2:1、2.5:1、3:1、3.5:1、4:1、又は4.5:1が特に有利であることが分かった。
【0121】
ある特定の実施形態では、脂質は、PC及びSAからなってもよく、好ましくは、PC:SAの重量比は、1:1~20:1、より好ましくは7:1~10:1であり得、例えばPC:SAの重量比が72:8などであり得る。
【0122】
ある特定の実施形態では、脂質は、DOPE、SA、及びDC-コレステロールからなり得る。DOPE:SAの重量比は、1:1~10:1、例えば4:1~8:1の範囲内であり得る。DOPE:DC-コレステロールの重量比は、1:1~5:1、例えば1:1~3:1の範囲内であり得る。SA:DC-コレステロールの重量比は、1:1~1:5、例えば1:2~1:4の範囲内であり得る。いくつかの実施形態では、DOPE:SA:DC-コレステロールの重量比は、48:8:24であり得る。
【0123】
ポリカチオン性核酸結合構成成分
本発明の組成物は、所望により、ポリカチオン性核酸結合構成成分を更に含む。「ポリカチオン性核酸結合構成成分」という用語は当技術分野で周知であり、少なくとも3個の繰り返しカチオン性アミノ酸残基又は正帯電した基を保有する他のカチオン性単位を有するポリマーを指し、そのようなポリマーは、生理学的条件下において核酸と複合体を形成すること(complexion)ができる。核酸結合ポリカチオン性分子の例は、1又は複数のカチオン性アミノ酸を含むオリゴペプチドである。そのようなオリゴペプチドは、例えば、オリゴリジン分子、オリゴヒスチジン分子、オリゴアルギニン分子、オリゴオルニチン分子、オリゴジアミノプロピオン酸分子若しくはオリゴジアミノ酪酸分子、又はヒスチジン、アルギニン、リジン、オルニチンジアミノプロピオン酸、及びジアミノ酪酸残基の任意の組合せを含む若しくはこれらからなる複合オリゴマーであり得る。ポリカチオン性構成成分の更なる例としては、デンドリマー及びポリエチレンイミンが挙げられる。
【0124】
アミノ酸
本発明の全ての態様は、1又は複数のアミノ酸の追加的な所望による存在を含みうる。
その最も広い意味では、「アミノ酸」という用語は、アミン(-NH)及びカルボキシル(-COOH)官能基を含有する任意の人工有機化合物又は天然に存在する有機化合物を包含する。「アミノ酸」という用語は、αアミノ酸、βアミノ酸、γアミノ酸、及びδアミノ酸を含む。「アミノ酸」という用語は、任意のキラル配置のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態によれば(例えば、本発明のシリコン含有粒子が、PC、水素付加PC、SA、DOPE、DOTAP、DC-コレステロール、及びそれらの誘導体の1又は複数と配合される場合)、アミノ酸は、好ましくは天然に存在するαアミノ酸である。それは、タンパク新生アミノ酸又は非タンパク新生アミノ酸(カルニチン、レボチロキシン、ヒドロキシプロリン、オルニチン、又はシトルリンなど)であり得る。好ましい実施形態では、アミノ酸は、アルギニン、ヒスチジン、若しくはグリシン、又はアルギニンとグリシンとの混合物を含む。特に好ましい実施形態では、アミノ酸は、グリシンを含む。そのようなアミノ酸は、貯蔵中及びインビボでの両方にて、シリコン粒子を安定化し、かつシリコンの加水分解を制御するように機能し得る。
【0125】
脂質処理シリコン粒子をアミノ酸で処理することはまた、核酸に対して有益な安定化効果を提供することができる。脂質処理シリコン粒子をアミノ酸で処理すると、生体体液、例えば眼組織並びに血漿及び組織液中の核酸が安定化することが示されている。この様式にてアミノ酸で配合された脂質処理粒子は、身体への送達、例えば経皮注射、硝子体内注射による送達に特に好適であり得る。
【0126】
ペプチド
上記のアミノ酸に加えて、本発明の全ての態様において、粒子にある程度の細胞特異性を付与する細胞表面受容体、例えばインテグリン認識配列を含有するペプチドが含まれ得る。ペプチドは、細胞表面受容体認識配列を含有する「頭部基」と、追加的に核酸(例えば、mRNA又はpDNA)に非共有結合し得る及び/又はシリコンに結合し得る「テール」と、を有し得る。
【0127】
シリコンに対するアミノ酸(複数可)の比率
好ましくは、アミノ酸(複数可)が存在する場合、アミノ酸対シリコンの比率は、0.05:1~2:1、例えば、0.05:1~1.8:1、0.05:1~1.6:1、0.05:1~1.4:1、0.05:1~1.2:1、0.05:1~1:1、0.05:1~0.9:1、0.05:1~0.8:1、0.05:1~0.6:1、0.05:1~0.5:1、0.05:1~0.4:1、0.05:1~0.3:1、0.05:1~0.2:1、好ましくは0.2:1~0.8:1、特に0.3:1~0.7:1である。アミノ酸対シリコンの比率は、0.05:1~0.4:1、例えば、0.08:1~0.35:1、特に0.09:1~0.32:1であり得る。有利には、アミノ酸対シリコンの比率を調整することにより、核酸(例えば、mRNA又はpDNA)が更に安定化される。
【0128】
いくつかの実施形態では、アミノ酸は、アルギニンとグリシンのとの組合せであり、Arg:Glyの比率は、1:0.6~3:1、例えば1:0.8~2.5:1、例えば1:1~2:1である。
【0129】
本発明の全ての態様の他の実施形態によれば、粒子は、アルギニンと共に配合される。好ましくは、アルギニン対シリコンの比率は、0.05:1~0.4:1、例えば0.08:1~0.35:1、特に0.09:1~0.32:1である。
【0130】
本発明の全ての態様の他の実施形態によれば、粒子は、グリシンと共に配合される。好ましくは、グリシン対シリコンの比率は、0.05:1~0.5:1、例えば0.08:1~0.45:1、特に0.09:1~0.42:1である。
【0131】
本発明の全ての態様で使用するための好ましいアミノ酸には、アルギニン、グリシン、プロリン、リジン、及びヒスチジン、並びにそれらの2つ以上の混合物が含まれる。
【0132】
非還元性二糖
本発明の全ての態様によれば、所望により、少なくとも1つの非還元性二糖の組成物及び関連する生成物、並びに方法が含まれる。非還元性二糖は、スクロース、トレハロース、ラフィノース、スタキオース、及びベルバスコース、又はそれらのいずれかの混合物から所望により選択されてもよく、最も好ましくは非還元性二糖は、トレハロース、又はトレハロースを含む混合物である。
【0133】
非還元性二糖(例えば、トレハロース、又はトレハロースを含む混合物)は、所望により、少なくとも1:1000、少なくとも1:100、少なくとも1:50、少なくとも1:10、少なくとも1:1、又は少なくとも1:0.5のシリコンに対する重量比で存在する。好ましくは、非還元性二糖は、シリコンに対する重量比が、所望により、少なくとも1:1000、少なくとも1:100、少なくとも1:50、少なくとも1:10、少なくとも1:1、又は少なくとも1:0.5で存在する、トレハロースである。
【0134】
非還元性二糖、特にトレハロースは脱水保護剤として作用し得るものと仮定される。非還元性二糖は、ガラス質糖マトリックス内に核酸分子を捕捉してその動きが糖マトリックスによって制限されるようにするための繭として作用し得る。トレハロースは、その構造的完全性を緩和することなく1つの結晶形態と別の結晶形態との間を通過する能力に起因して、及び/又はスクロースなどの他の二糖と比較して特に高いガラス遷移温度に起因して、特に効果的であり得る。くわえて、非晶質トレハロースには、残留水分子を捕捉してそれらを固定化する結晶性二水和物の局所的なポケットが存在し、これは、特に水が比較的少ない場合に核酸分解を防ぐために価値がある。したがって、シリコン粒子の水隔離効果を増強し得る。トレハロースなどの非還元性二糖を含むことの追加的な利点は、非還元性二糖の存在が、粉末材料である医薬組成物の再懸濁を促進する点である。
【0135】
特に好ましい組合せ
本発明の全ての態様によれば、特に好ましい実施形態は、ホウ素ドーピング(特に、上で定義されるような高濃度ホウ素ドーピング)であるドーピングに関連し、ここで、核酸が、RNA、特にmRNAワクチンの抗原をコードするmRNAであり、脂質が、イオン化性脂質、例えば1若しくは複数のカチオン性脂質、例えばDOTAPなど、及び/若しくは1若しくは複数の双性イオン性脂質、例えば1若しくは複数のリン脂質など、例えばDOPEなど;又は両方(例えば、脂質はDOTAPを含むか、若しくは脂質はイオン化性脂質及びDOTAPの両方を含む)であるか、又はこれらを含む。
【0136】
更なる構成成分及び特徴
本発明の全ての態様の好ましい実施形態によれば、トランスフェクション試薬を含む1又は複数の更なる構成成分が追加的に存在し得る。
【0137】
その最も広い意味で、「トランスフェクション試薬」とは、ネイキッド核酸又は精製された核酸の真核生物細胞への導入を促進する薬剤である。例えば、いくつかのトランスフェクション試薬は、真核生物細胞へのmRNAの誘導を促進する薬剤である。
【0138】
本発明の全ての態様の他の実施形態によれば、トランスフェクション試薬は、リポフェクション(リポソームトランスフェクション)試薬、デンドリマー、塩化カルシウム溶液と合わせたリン酸イオンを含有するHEPES緩衝生理食塩水(HeBS)、又はジエチルアミノエチル-デキストラン(DEAEデキストラン)若しくはポリエチレンイミン(PEI)などのカチオン性ポリマーであり得る。
【0139】
好ましい実施形態では、トランスフェクション試薬は、リポフェクタミンなどのリポフェクション試薬である。
【0140】
医薬組成物
本発明の第3の態様によれば、本発明の第1の態様の核酸ベクター組成物を含む医薬組成物であって、医薬組成物が、ワクチン組成物である、医薬組成物が提供される。
【0141】
いくつかの実施形態では、核酸(例えば、インビトロ転写されたmRNA又はpDNA)は、医薬組成物中において4℃で、少なくとも3ヶ月、例えば少なくとも4ヶ月、5ヶ月、又は6ヶ月の半減期を有する。
【0142】
いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物及びベクター組成物は、筋肉内注射に好適な形態である。本発明の医薬組成物及びベクター組成物は、保存剤、凍結保護剤、及び免疫アジュバントを含むが、これらに限定されない添加剤を含みうる。本明細書で使用される場合、アジュバントという用語は、ワクチン組成物に対する対象の免疫応答を調節する、例えば増加させる物質を指し得る。非限定的な例として、アジュバントは、1又は複数の脂質、タンパク質、CpGオリゴデオキシヌクレオチド、及び/又は他の分子アジュバントであり得るか、又はこれらを含みうる。医薬組成物及びベクター組成物は、いくつかの実施形態では、1又は複数の緩衝液構成成分を含みうる。医薬組成物及びベクター組成物は、いくつかの実施形態では、トロメタモールを含みうる。医薬組成物及びベクター組成物は、いくつかの実施形態では、塩酸トロメタモールを含みうる。医薬組成物及びベクター組成物は、いくつかの実施形態では、酢酸を含みうる。医薬組成物及びベクター組成物は、いくつかの実施形態では、酢酸ナトリウム三水和物を含みうる。医薬組成物及びベクター組成物は、いくつかの実施形態では、塩化カリウムを含みうる。医薬組成物及びベクター組成物は、いくつかの実施形態では、リン酸二水素カリウムを含みうる。医薬組成物及びベクター組成物は、いくつかの実施形態では、塩化ナトリウムを含みうる。医薬組成物及びベクター組成物は、いくつかの実施形態では、リン酸水素二ナトリウム二水和物(disodium hydrogen phosphate dehydrate)を含みうる。医薬組成物及びベクター組成物は、いくつかの実施形態では、スクロースを含みうる。本発明の医薬ベクター組成物は、所望により、筋肉内注射による投与前に生理食塩水で希釈されうることが理解されるであろう。いくつかの実施形態では、医薬ベクター組成物は、粉末であり得る。いくつかの実施形態では、医薬組成物及びベクター組成物は、液体を含みうる。
【0143】
本発明の医薬組成物及びベクター組成物では、核酸(例えば、インビトロ転写されたmRNA又はpDNA)は、本明細書に記載されるように水を隔離又は除去する、加水分解性シリコンを含む1又は複数の粒子によって、酵素による分解から保護することができる。
【0144】
加水分解性シリコンを含む粒子の調製
本発明での使用のための粒子は、当技術分野で従来の技術によって、例えば製粉プロセスによって、又は粒径を小さくするための他の既知の技術によって、都合よく調製されうる。シリコン含有粒子は、ケイ酸ナトリウム粒子、コロイダルシリカ、又はシリコンウェハ材料から作製されうる。マクロスケール、マイクロスケール、又はナノスケールの粒子は、ボールミル、遊星ボールミル、又は他のサイズ削減機序で粉砕される。得られた粒子を、空気分級又はふるい分けして、均一な必要サイズの粒子を回収してもよい。粒子の生成のためにプラズマ法及びレーザアブレーションを使用することもまた可能である。多孔質粒子は、本明細書に記載の方法を含む、当技術分野にて従来の方法によって調製されうる。
【0145】
ドープされた加水分解性シリコンを含む粒子の調製
本発明に従う使用のためのホウ素ドープシリコンの例示的な仕様は、片面研磨ウェハ、CZDiameter:150±0.2mm配向:(100)±1°型:p/ホウ素抵抗率:0.014±25%Ohmcmである。5×1018原子/cm3一次フラット:57.50±2.5mm一次フラット1位置:D<100>~{110}厚さ:675±15μmパッキング:Ultrapak Shipping CassetteTTV:≦18μmTIR:≦5μmに近い。このようなホウ素ドープシリコンは、例えば、ドイツのNanografi,Jena社又はドイツのSi-Mat社から市販されている。
【0146】
医薬組成物及びベクター組成物の調製
本発明の医薬組成物及びベクター組成物は、構成成分を一緒にすることによって製造されうる。いくつかの実施形態では、この一緒にすることとは単に、例えばそれらの複合体化をもたらす条件下において、構成成分の溶液を混合することを含み得る。一緒にすることは、脂質構成成分を添加する前に、核酸をシリコン含有材料の粒子と接触させることを含み得る。核酸とシリコン含有粒子との接触後の脂質構成成分の添加は、コアをカプセル化する本明細書に記載の脂質シェルの形成を促進することができ、コアは1又は複数の粒子及び核酸の両方を含む。
【0147】
いくつかの実施形態では、本発明のシリコン含有粒子は、本発明の他の構成成分と接触する前に活性化されることが有利であることが分かっており、したがって好ましい。活性化は、本発明の他の構成成分と接触させる前に、粒子(例えば、多孔質ドープシリコンナノ粒子)を、揮発性アルコール又は他の揮発性溶媒(クロロホルム、メタノール、エタノール、又はプロパノールなど、例えばメタノール)中に分散させることによって行われ得る。
【0148】
典型的には、シリコン粒子を、非還元性二糖、存在する場合には核酸及び所望によるアミノ酸と混合し、次いで、脂質構成成分と接触させて、核酸が脂質区画内の粒子と会合している脂質シリコン粒子を形成する。
【0149】
シリコン含有粒子、特に多孔質加水分解性ドープシリコンを含む粒子を含む送達システムは、そうでなければ核酸と反応するはずの水分子を、組成物中に存在する酵素によって触媒される加水分解反応において隔離することによって、核酸の安定性を増加させるものと仮定される。
【0150】
凍結乾燥
ある特定の実施形態では、医薬組成物又はベクター組成物は、所望により凍結乾燥され、所望により凍結保護剤及び/又は凍結乾燥保護剤(lyoprotectant)、1又は複数の糖など、スクロース及び/又はトレハロースなどにより凍結乾燥されて、例えば、粉末を形成する。凍結乾燥は、水を除去し、かつ乾燥粉末の生成を可能にする。そのような乾燥粉末は、所望により、例えばヒドロゲル中に分散されうる。本発明の組成物の他の物理的形態には、液体形態及び凍結形態が含まれる。いくつかの実施形態では、組成物は、送達デバイス、例えば注射器又は多数のマイクロニードルなどの注射デバイスで提供されうる。
【実施例
【0151】
以下の非限定的な例を参照して、本発明の様々な態様及び実施形態を説明する。
【0152】
実施例1:シリコンナノ粒子(SiNP)の調製
片面研磨シリコンウェハは、ドイツのSi-Matから購入した。全ての浄化試薬及びエッチング試薬は、クリーンルームグレードであった。エッチングされたシリコンウェハは、純エタノールと10%HF酸水溶液との1:1(v/v)混合物中において、2~10分間にわたり80mA/cmのアノード電流密度でSiをアノードエッチングすることによって調製した。エッチング後、試料を純エタノールですすぎ、使用前に乾燥高純度窒素の流れの下で乾燥させた。
【0153】
エッチングされたP+型又はN-型であるシリコンウェハを、製粉ボール並びに/又は乳棒及び乳鉢を用いて破砕した。
シリコンウェハの仕様
-片面研磨ウェハ、CZ
-直径:150±0.2mm
-配向:(100)±1°
-種類:p/ホウ素
-抵抗率:0.014±25%Ohmcm。-5×10^18原子/cmに近い
-一次フラット:57.50±2.5mm
-一次フラット1位置:D<100>~{110}
-厚さ:675±15μm
-梱包:Ultrapak Shipping Cassette
-TTV:≦18μm
-TIR:≦5μm
ウェハは多孔度約40%、厚さ50μm以下。
【0154】
上記成分をボールミル又は乳棒及び乳鉢を用いて手動で製粉した。製粉前後の外観を図15に示す。図16はサイズ評価のために用いられた製粉シリコン粒子のSEM画像を示す。図17図18、及び図19は、粒子(図17、シリコン単独;図18、シリコン粒子+脂質、並びに「Biocourier」(定義については以下を参照)及びsiRNA(SIS0012)のような他の構成成分;図18図17と同様であるが、SIS0013としてホウ素ドープシリコンで生成された)のTEM画像である。
【0155】
微粉末を、38μmゲージであるRetsch(商標)ふるいシェーカAS 200を用いてふるい分けした。ふるいの開口サイズによって、均一で選択された粒径選択(20~100μm)が達成された。粒径は、Malvern instruments製のquantachromeシステム及びPCSによって測定した。更なる使用まで、試料を密閉容器内に保った。
【0156】
ナノシリコン粉末はまた、Sigma Aldrich及びHefei Kaier,Chinaからも得た。ロード及びエッチングに供する前に、粒径をPCSによって測定し、粒子のサイズを記録した(サイズは20~100nmの範囲であった)。
【0157】
直径100nmの多孔質シリコンナノ粒子500mgを、エタノール250mLと混合し、マグネットバーを用いて30分間にわたりかき混ぜた。次いで、溶液を3000rpmで30分間にわたり遠心分離した。上清を廃棄し、ナノ粒子を5mLの蒸留水で洗浄し、丸底フラスコへと移した。フラスコの内容物を凍結させた(-25℃で2時間)。凍結したナノ粒子を、凍結乾燥機を用いて一晩凍結乾燥した。得られた乾燥粉末は、シリコンナノ粒子を活性化した。
【0158】
実施例2:脂質官能化siRNA-SiNP配合物の調製
材料
実施例1に従って調製された活性化シリコンナノ粒子(SiNP)。
ヌクレアーゼフリー水。
クロロホルム。
脂質:ステアリルアミン(SA)、カタログ番号305391(Sigma-Aldrich);
卵黄由来のL-α-ホスパチジルコリン(PC)、カタログ番号61755(Sigma-Aldrich);
ジオレオイルL-α-ホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、カタログ番号P1223(Sigma-Aldrich);
N-(2-ジメチルアミノエチル)カルバメートコレステロール(DC-コレステロール)、カタログ番号92243(Sigma-Aldrich)。
siRNA:非特異的NSC4(カスタマイズ化siRNA二重鎖、Eurogentec);
標的化siLUC(カスタマイズ化siRNAオリゴヌクレオチド二重鎖、Eurogentec);
FAMタグ化siRNA(緑色siGlo、Dharmacon)。
機器
回転蒸発システム、ボルテックス、バスソニケータ、水浴、丸底フラスコ、万能試験管、エッペンチューブ、マイクロピペット、凍結乾燥機システム、Zetasizer、高速遠心分離機、NanoDrop分光光度計、蛍光リーダ。
【0159】
手順
注意.蛍光siRNA(siGlo)では、手順中に光曝露を回避した(例えば、カバーフラスコ及びチューブをアルミニウム箔で覆った)。
【0160】
構成成分1の調製:siRNA-SiNP混合物
1.ヌクレアーゼフリー水中のSiNP(0.2mg/mL)の濾過溶液を調製する。
2.各々が140μgのSiNPを含有するように、700μLの上記溶液を8本のエッペンドルフマイクロチューブへと分注する。
3.各アリコートにsiRNA及びグリシンを添加し、ヌクレアーゼフリー水で体積を1.4mLに調整する。
【0161】
【表1】
【0162】
4.チューブを完全に混合し、試料を撹拌しながら室温で1時間インキュベートする。
【0163】
構成成分2の調製:脂質フィルム
1.各脂質構成成分(SA、PC、DOPE、DC-コレステロール)を、クロロホルム中に、0.2mg/mLの濃度で溶解させる。
2.所望の量の各脂質を小さな丸底フラスコへと移し、完全に混合する。各脂質混合物を8連の複製(in 8 replicates)(8フラスコ中)で調製する。
a.脂質塩基DS61
68μgのDOPE(340μL)
12μgのSA(60μL)
b.脂質塩基PS91
72μgのPC(360μL)
8μgのSA(40μL)
c.脂質塩基DSC613
48μgのDOPE(240μL)
8μgのSA(40μL)
24μgのDC-コレステロール(120μL)
d.脂質塩基PDS1051
50μgのPC(250μL)
25μgのDOPE(125μL)
5μgのSA(25μL)
e.脂質塩基PDS1052
48μgのPC(240μL)
23μgのDOPE(115μL)
9μgのSA(45μL)
f.脂質塩基PDSC10514
40μgのPC(200μL)
20μgのDOPE(100μL)
4μgのSA(20μL)
16μgのDC-コレステロール(80μL)
3.回転蒸発システムを用いて溶媒を慎重に蒸発させて、薄い脂質フィルムを形成する。乾燥した脂質を真空下に置いて、残留溶媒を除去する。
【0164】
siRNA-SiNP(構成成分1)と脂質(構成成分2)との官能化
1.siRNAロードナノ粒子試料又は空のSiナノ粒子試料(構成成分1)を用いて薄い脂質フィルム(構成成分2)を溶解させる。脂質フィルム(a、b、c、d、e、f)を含有する各フラスコに、第1、第2、第3、又は第4のシリコンナノ粒子/siRNA混合物のいずれかを200μL添加する。
【0165】
【表2】
【0166】
2.各フラスコに200μLのヌクレアーゼフリー水を添加することによって、溶液の体積を400μLに調整する。
3.各フラスコをパラフィルムで覆い、内容物を完全に混合し、室温で1時間インキュベートする。
4.ボルテックスして脂質フィルムを完全に溶解する。脂質の溶解を助けるために、対象フラスコを15秒間にわたり浴超音波処理する。
5.各フラスコの全ての内容物を別々のエッペンドルフマイクロチューブに移す。
6.全てのチューブを冷凍庫(-20℃)に入れ、少なくとも3時間(又は一晩)保持する。
7.冷凍庫から試料を取り出し、それらを30℃の水浴へと10分間入れる。室温で冷却し、充分にボルテックスする。
8.凍結解凍(工程5及び工程6)を更に2回繰り返す。
9.アッセイするまで、全ての試料を冷凍庫(-20℃)に保持する。
10.各ロード試料は、400μL体積で[siRNA 10μg:SiNP(シリコンナノ粒子)20μg:脂質塩基80μg:グリシン10μg]を含有する。
【0167】
得られた配合物の構成成分を以下の表3に示す。
【0168】
【表3】
【0169】
アミノ酸、脂質、リポフェクタミンロードsiRNAナノ粒子の調製
配合物SIS005-PS91及びSIS005-DS61(グリシンを含む)は、各々、リポソーム形成材料の薄フィルムを、siRNAを含有するシリコンナノ粒子の水性懸濁液中に溶解することによって調製した。次いで、混合物を、三重凍結解凍し、インビトロでHCES細胞に対するトランスフェクション効率について試験した。並行して、SIS005-PDS1051配合物を、角膜のためのsiRNA送達システムにとって好ましいと考えられる(負のゼータ電位を有することが示された)より多くの正電荷を導入することを目的として更に修飾した後に試験した。この目的のために、配合物中のカチオン性脂質の比率を増加させた。
【0170】
コロイド安定性は、アンロード配合物及びロード配合物の両方について、ゼータ電位測定と並行して、動的光散乱法によって評価した。くわえて、siRNAのカプセル化効率を、分光光度法により測定した。トランスフェクションの効率(細胞内への内在化)を、フローサイトメトリーによってヒト角膜上皮細胞において評価し、その後、siRNAロード配合物による処置後にインビトロでノックダウンの測定を実施した、デュアル・ルシフェラーゼ・アッセイを行った。
【0171】
シリコン-ナノ粒子/脂質配合物の特性評価
カプセル化効率
siRNAカプセル化効率を、高速遠心分離で遊離(非結合)siRNAからロード粒子を分離してからカプセル化効率を測定することによって調べた。
【0172】
1.50μLの各試料を遠心分離マイクロチューブに回収する。
2.全ての試料を21,000gで30分間にわたり遠心分離する。
3.各試料から25μL(上半分)の上清を別々のチューブ(S1として示す)に移し、アッセイするまで4℃で貯蔵する(siGloロード試料の場合は光曝露を避ける)。
4.25μLの2%SDSをペレット試料(残りの上清を含む)に添加して、脂質二重層を崩壊させ、結合siRNAを放出する。
5.チューブを再び21,000gで30分間にわたり遠心分離し、上清(S2として示す)を収集する。
6.NanoDrop分光光度計を用いて、全ての上清S1試料及び上清S2試料の260nmでの吸光度(OD)を測定する。siGloロード試料については、S1上清試料及びS2上清試料の両方で蛍光強度(fluorescence intensity:FI)を測定する。
7.カプセル化効率(EE%)を計算する:
【0173】
【数1】
【0174】
式中、ODS1-上清S1の吸光度(260nm)(1回目の遠心分離後)
ODS2-上清S2の吸光度(260nm)(2回目の遠心分離後)
siGloロード試料については、ODS1及びODS2の代わりに、それぞれFIS1及びFIS2を使用する。
8.上清試料中のsiRNAの濃度及びシリコンナノ粒子配合物によって捕捉されたsiRNAの量は、(前述のように)siRNA較正曲線を用いて測定することができる。
【0175】
Zetasizer測定
コロイド安定性は、ゼータ電位測定と並行して、動的光散乱法によって評価した。測定は、アンロード(空)配合物試料、及びsiLUC/NSC4をロードした試料で行った。
1.各試料200μLを収集し、ヌクレアーゼフリー超純水で希釈して、総体積1mLにする。
2.フォールドされた毛細管細胞に試料をロードする。
3.Zetasizerを用いて試料を読み取る:粒子寸法、多分散指数、及びゼータ電位。各測定を3回実行する。データを図1図2図3、及び図4に示す。
【0176】
HCES細胞におけるトランスフェクション効率
トランスフェクションの効率(細胞内への内在化)を、フローサイトメトリーによってヒト角膜上皮細胞において評価した。この研究の目的のために、本発明者らは、蛍光タグ付きsiRNAプローブ(siGlo)をロードした配合物試料を使用する。
1.10%FBSを濃縮した1mLのDMEM中の2×10個のHCES細胞/ウェル(12ウェルプレート上)を播種し、標準条件において24時間(80%コンフルエンスまで)増殖させる。
2.10%FBSで濃縮した新鮮なDMEM950μL/ウェルの培地を交換する。
3.siGloロードシリコンナノ粒子/脂質試料を室温に調整する。
4.6μLのリポフェクタミンRNAiMAX試薬を、3μLのsiGlo原液(100μM)と、151μLのOptiMEM中で混合し、室温で15分間にわたりインキュベートすることによって、リポフェクタミントランスフェクション試薬を用いて対照試料を調製する。
5.ウェル当たり53.3μLの各siGloロード配合物又はLPF対照を添加して、0.1μMのsiGlo濃度を得ることによって、細胞を処理することを3連の複製(in 3 replicates)で行う。
6.標準条件(37℃、5%CO)で24時間にわたり細胞を増殖させる。
7.培地を廃棄し、ウェルを500μLのPBSで洗浄する。
8.300μLのトリプシン-EDTAを添加し、プレートを37℃で10分間にわたりインキュベートする。
9.10%FBSを濃縮した300μLのDMEMを直ちに添加して、トリプシン処理を停止させる。
10.細胞を別々のマイクロチューブに移し、1000~2000rpmで5分間にわたり遠心分離する。
11.上清を廃棄し、細胞を500μLのPBS中に慎重に懸濁する。
12.試料を1000~2000rpmで5分間にわたり遠心分離する。
13.上清を廃棄し、PI色素を含有する600μLのFACS緩衝液中に細胞を慎重に再懸濁する。
14.フローサイトメータを用いて試料を分析する。
【0177】
ノックダウン効率
ノックダウン誘導の効率を測定するために、デュアル・ルシフェラーゼ・アッセイを、特異的配合物(siLUC)、非特異的配合物(NSC4)、及びアンロード配合物をロードした、試験配合物試料を用いて行った。
【0178】
1.10%FBSで濃縮した100μLのDMEM中でウェル当たり6.5×10個のHCES細胞(96ウェルプレート上)を播種し、標準条件で24時間にわたり増殖させる。全ての配合物試料を研究するために5連の複製(in 5 replicates)の各々に2つずつプレートを調製する。
2.製造業者のプロトコルに従ってリポフェクタミン2000を用いて、ウミシイタケ及びLuc2pプラスミドで細胞をトランスフェクトする。各ウェルに、0.3μLのリポフェクタミン2000、1ngのウミシイタケプラスミド、及びOptiMEM培地中で希釈した5ngのLuc2pプラスミドを含有する、50μLの試薬混合物を添加して、総体積を50μLにする。
3.細胞を、37℃、5%COで24時間にわたり増殖させる。
4.ウェル当たり90μLの新鮮なDMEMの培地を交換する。
5.配合物試料を室温に調整する。32μLの各試料を28μLのOptiMEMと混合する。
6.リポフェクタミントランスフェクション試薬を用いて対照試料を調製する。
・1.2μLのリポフェクタミンRNAiMAX試薬を55.8μLのOptiMEMと混合し、室温で5分間インキュベートし、次いで、3μLのsiLUC原液を添加し、10分間インキュベーションを継続する。
・1.2μLのリポフェクタミンRNAiMAX試薬を55.8μLのOptiMEMと混合し、室温で5分間インキュベートし、次いで、3μLのNSC4原液を添加し、10分間インキュベーションを継続する。
・1.2μLのリポフェクタミンRNAiMAX試薬を58.8μLのOptiMEMと混合し、室温で15分間にわたりインキュベートする。
【0179】
7.5連の複製(in 5 replicates)において、ウェル当たり10μLのロード配合物若しくは空の配合物又はLPF対照を添加することによって細胞を処理する。
8.標準条件(37℃、5%CO)で細胞を増殖させる。
9.48時間後、培地を廃棄し、ウェルをPBSで洗浄する。
10.ウェル当たり20μLの受動的溶解緩衝液を添加する。
11.オービタルシェーカ(900rpm)で室温にて15分間にわたり、プレートをインキュベートする。
12.製造業者のプロトコルに従って、Dual-Luciferase Reporter Assayキット及びLUMIstar OPTIMAプレートリーダを用いて発光レベルを読み取る。
結果を図5に示す。
【0180】
実施例3:siRNAロードシリコンナノ粒子とリポフェクタミン(SIS005-LPF)との組合せ
1.各々が20μgのSiNPを含有するように、6つのエッペンドルフマイクロチューブへとシリコンナノ粒子懸濁液を分注する。
2.上記のSiNPアリコートに、10μgのsiRNAを添加する:
a.2つのマイクロチューブに37μLの20μM siLuc2pを添加=標的siRNA
b.2つのマイクロチューブに37μLの20μM NSC4を添加=非特異的siRNA
c.アンロード対照:SiNPを含有する残り2つのマイクロチューブをsiRNAなしのままにして、空の対照を調製する
3.試料を撹拌しながら室温で1時間にわたりインキュベートし、次いでボルテックスし、チューブを冷凍庫(-20℃)に入れ、2~3時間保存する。
4.一晩の凍結乾燥(free drying)のために試料を凍結乾燥システムに接続する。
5.更なる分析の前に、siRNAロード(又はアンロード対照)SiNP試料を、リポフェクタミン溶液(リポフェクタミンRNAiMAX試薬、カタログ番号13778075、ThermoFisher Scientific)中に溶解し、ヌクレアーゼフリー水で希釈して、総体積を150μLにし、ボルテックスし、室温で1時間インキュベートする。
【0181】
【表4】
【0182】
SIS005-LPF1及びSIS005-LPF2は、シリコンナノ粒子と組み合わせて、2つの異なる比率でリポフェクタミン(脂質として)を使用した。LFP1は、20μgのシリコンナノ粒子と組み合わせた15μLの20μMリポフェクタミン溶液を使用した。LPF2は、2倍量のリポフェクタミンを使用した。この実験の目的は、リポフェクタミンとシリコン粒子との組合せが、リポフェクタミンによって促進されるトランスフェクションを増進(boost)できることを実証することであった。結果は、シリコンナノ粒子がリポフェクタミンによるトランスフェクションを改善したことを示した。
【0183】
siRNAロードは、ステアリルアミン表面処理シリコンナノ粒子の表面電荷に最も大きな影響を及ぼし、高い負電荷を誘導した。以前の分析が示したように、SA及びSA+アルギニンをロードした空のSi-NPは、正又はほぼ中性の表面電荷を有し、したがって、これらはアニオン性siRNA分子を効果的に誘引した。
【0184】
実施例4:mRNA捕捉効率に対するロード比率の効果
SIS005-DSC613G(実施例2)について、上記のプロトコルに従って試料を調製した。各試料は、シリコンナノ粒子:ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE):ステアリルアミン:コレステロール3β-N-(ジメチルアミノエチル)カルバメート塩酸塩(DC-コレステロール):グリシンの重量比が、10:24:4:12:5で構成された。試料は、以下の表5に示すように、核酸対シリコンナノ粒子の異なる比率で調製した。
【0185】
【表5】
【0186】
実施例5:ゲル電気泳動を用いたシリコンナノ粒子配合物によるmRNAの捕捉の評価
mRNA捕捉効率に対するシリコンナノ粒子とmRNAとのローディング比の影響を、ゲル電気泳動によって調べた。1%E-Gel EXプレキャストアガロースゲルを使用した。ゲルを、Gel Logic 100 Imaging System(Kodak)を用いて可視化した。結果を図6に示す。
【0187】
図6は、ライン1におけるアンロードmRNA(U0)を示す。mRNA(L0.5、L1、L2、L3、L4、L5、L6、L8)がロードされたシリコンナノ粒子は、左から右へ、シリコンナノ粒子とmRNAとの比が増加する順に、ライン2~ライン9にある。等量のmRNA(100ng)を、ライン1~ライン9の各々にロードした。Invitrogen E-Gel 1 Kb Plus Express DNA Ladder(80ng)を、マーカとしてラインMにロードした。ライン10は(水ブランクとして)空のままにした。
【0188】
電気泳動は、本発明のSIS005-DSC613G配合物がmRNAを首尾よく捕らえ、2:1を超える比などのより高いシリコンナノ粒子対mRNA比で、特に良好に捕捉されることを実証した。図6の対照レーン(アンロードmRNA、U0)は、予想通り単一の高速移動バンドを示す。バンドはまた、ライン2(ロードL0.5)及びライン3(荷重L1)にも見られた。この可視バンドは非結合mRNAに対応する。ライン2及びライン3(特に、ライン3)のバンドの強度は、対照(U0)と比較して低かった。これは、シリコンナノ粒子対mRNAの比が非常に低い試料であっても、一部のmRNAは依然としてシリコンナノ粒子に捕捉されており、したがってバンド内では見えないことを示している。
【0189】
効率的に捕捉されたmRNAは、ゲル細孔を通って移動することができず、(U0、L0.5、及びL1とは異なり、バンドが現れないように)ウェル内に留まる。図6は、ライン1~ライン3と比較してシリコンナノ粒子の含有量が増加した試料L2~L8が、mRNAを首尾よく捕捉したことを示す。これは、U0、L0.5、及びL1に見られるバンドが存在しないことによって証明される。これは、本発明のシリコンナノ粒子配合物がmRNAを首尾よく捕捉することができることを実証する。結果は、最適なロード比(使用されるナノ粒子の量を最小限に抑えながら、mRNAの捕捉が最大である比率)がL2であり、2:1(シリコンナノ粒子:mRNA)及び11:1(送達システムの他の全ての構成成分:mRNA)の比率に対応することを示唆している。同じローディング比がsiRNAローディングに有効であることが分かった。この比率は、およそ2.5のN/P電荷比に相当する。
【0190】
実施例6:分光光度測定を用いた捕捉効率の評価
mRNA捕捉の捕捉効率(パーセンテージとして表されるEE)を推定するために、SIS005-DSC613G試料(U0~L8)も遠心分離して、非結合mRNAを分離した。上清液中の核酸含有量を分光光度法により測定し、以下の式を用いて捕捉効率を計算した。
【0191】
【数2】
【0192】
ODunloadedとは、アンロードmRNA対照(U0)の吸光度である。ODloadedとは、各試料L0.5~L8の吸光度である。
【0193】
結果を図7に示し、ゲル電気泳動実験の結果を確認する。シリコンナノ粒子対mRNAの比率が増加するにつれて、捕捉効率はプラトーに達するまで増加し、2:1を超えるシリコン対mRNAの比で横ばいになる。
【0194】
実施例7:インビボでのシリコンナノ粒子配合物の活性の評価
上記の実施例2のSIS005-PS91G及びSIS005-DSC613Gのプロトコルに従って試料を調製した。これらの試料は、以下の重量比のsiRNA、シリコンナノ粒子、脂質、及びグリシンを含む。
【0195】
【表6】
【0196】
SAはステアリルアミンであり、DOPEはジオレオイルホスファチジルエタノールアミンであり、PCはホスファチジルコリンであり、DC-コレステロールはコレステリル3β-N-(ジメチルアミノエチル)カルバメート塩酸塩である。
【0197】
特異的siRNA(siLUC)及び非特異的siRNA(NSC4)を含む試料を調製した。両方のsiRNA(siLUC及びNSC4)を、中央の19bp二重鎖領域及び対称的なdTdTジヌクレオチドオーバーハングを各3’末端に有する、21量体(21-mers)として設計した。siRNAは、Eurogentec(ベルギー)によって提供された。
【0198】
試料を調製するために、ヌクレアーゼフリー水中に溶解したsiRNAを、ナノ粒子の水溶液に添加し、室温で60分間にわたりインキュベートした。2:1のシリコンナノ粒子とmRNAとの比を使用した(これは、ゲル電気泳動及び分光光度測定実験において最適な比率であることが分かっているため。上記を参照のこと)。
【0199】
生きている動物におけるイメージング(Live animal imaging)
動物を、UK Animal Welfare Actに従って、内務省(スコットランド)、及びDepartment of Health,Social Services and Public Safety(北アイルランド)による倫理的承認を得て、以下の実験に使用した。角膜への蛍光siRNA(DY-547標識siGLO、Dharmacon、英国)の送達を評価するための実験を、野生型C57BL/6マウスで行った。配合物のsiRNAバイオアベイラビリティ及びサイレンシング活性を評価するために、レポーター・ノックイン・マウス系統(Krt12+/luc2)を使用し、(内因性Krt12プロモータの制御下において)角膜上皮に特異的にホタルルシフェラーゼを発現させた。この動物モデルは、以前に報告されたようにC57BL/6バックグラウンドで開発され、かつレポーター遺伝子発現モニタリングを用いるsiRNA送達方法のインビボ評価のための信頼できるモデルを提供する。インビボ画像化のために、マウスを、約1.5L/分の酸素流下において、1.5~2%イソフルラン(Abbott Laboratories Ltd.、英国)を用いて麻酔した。局所適用後の測定された時点で、DsRedフィルタの組合せ(励起535nm、発光570nm)を用いて、LivingImage 3.2ソフトウェアを含むXenogen IVIS Spectrum(どちらも、Perkin Elmer、英国)により、siGloの蛍光を検出した。ルシフェラーゼレポーター遺伝子発現を測定するために、Viscotearsゲル(Novartis、英国)と1:1w/wで混合したルシフェリン(30mg/mLのD-ルシフェリンカリウム塩;Gold Biotechnology、米国)を、画像化の直前に麻酔したマウスの眼に滴下した。およそ10分間にわたってIVIS Spectrumによって生物発光読み取り値を取得し、取得時間内にシグナルが安定したままであることを確実にした後、LivingImageソフトウェアを用いて定量化した。シグナル強度の定量化のために、関心領域(region of interest:ROI)を、実験を通して一定のROIパラメータ(サイズ及び形状)を維持する各眼について別々に選択した。値は、分割体制御測定レジームを用いて右眼/左眼比(RE/LE)として表される。
【0200】
インビボsiRNA処置
同じ動物の一方の眼を試験下で処置し、陰性対照であるもう一方の眼と比較することによって、分割体対照(split body control)を用いた実験を行った。処置中、マウスを上記のように麻酔した。2:1のSiNP対mRNAの重量比で複合体化した25μM siRNAを含有するシリコンナノ粒子配合物を調製し、眼当たり4μLの総体積で、インタクトな角膜に滴剤として局所適用した。適用後、マウスを更に15分間にわたり麻酔し続けて、吸収を可能にし、取り込みを最大にした。処理後、蛍光及び発光実験を以下に記載されるように行った。
【0201】
角膜へのsiRNA浸透の評価
角膜へのsiRNAの送達を調査するために、siGloを含有する点眼剤を用いて野生型マウスにて、インビボ蛍光研究を行った。蛍光siRNAシリコンナノ粒子配合物を右眼に適用し、一方で同量のネイキッドsiGloを、対照として各マウスの左眼に局所適用した。蛍光ライブイメージングを、siGlo適用の15分後(すなわち、処置手順の直後)並びに3時間、6時間、及び24時間後に、IVIS Spectrumを用いて取得し、シグナル強度を、処置前に測定されたバックグラウンド蛍光(すなわち、未処置眼)に対して正規化し、先に記載されたように定量化した。3時間又は24時間のいずれかで測定した後、マウスを屠殺し、眼球を摘出し、PBS中の4%パラホルムアルデヒドで30分間にわたり室温で固定し、PolyFreeze(Sigma-Aldrich、英国)に浸し、直ちに-80℃で凍結した。5マイクロメートル切片を、クライオスタット(CM 1850、Leica)を用いて切断し、DAPI含有封入剤(DAPI I、Vysis、米国)を有するAPES被覆スライド(3-アミノプロピルトリエトキシシラン、Sigma Aldrich、英国)にマウントし、蛍光を、AxioCam MRcカメラ(Carl Zeiss、ドイツ)上に20倍/40倍のN Archoplanレンズを装備したAxioScope A1顕微鏡を用いて可視化した。
【0202】
siRNA媒介遺伝子サイレンシングの評価
ルシフェラーゼレポーター・マウス(n=7)を使用して、本発明のシリコンナノ粒子による局所送達後の角膜における、siRNAのバイオアベイラビリティを測定した。分割体対照実験では、シリコンナノ粒子配合物と複合体化したルシフェラーゼ標的化siLucを、麻酔したマウスの右眼(RE)のインタクトな角膜に滴剤として局所適用し、一方で左眼(LE)は、陰性対照として、シリコンナノ粒子配合物と複合体化したNSC4で同様に処置した。処置を8日間連続して毎日繰り返し、インビボ眼性発光測定を、およそ4~5時間後に行った。ルシフェラーゼレポーター遺伝子発現に対する処置の効果を、処置レジメン全体にわたって毎日、及びウォッシュアウト期間を監視するために処置停止後更に8日間、ルシフェラーゼ生物発光活性(上記のように)の測定によって確認した。処置前に4日間にわたり24時間間隔で眼におけるルシフェラーゼ活性を監視することによって、各実験動物についてベースライン発光を定義した。相対RE/LEルシフェラーゼ生物発光活性を、IVIS LivingImageソフトウェアを用いて定量化し、平均値±標準偏差としてプロットした。
【0203】
統計分析
データは、平均±1標準偏差として提示され、かつ特に明記しない限り、少なくとも3つの独立した測定の代表値を表す。統計的有意性は、一元配置分散分析又は二元配置分散分析、続いて95%信頼水準でのテューキーのHSD事後検定で評価した。インビトロ・デュアル・ルシフェラーゼ・アッセイのために、ノックダウンレベル(siLuc対NSC4対照)を分析するために、両側スチューデントt検定を各配合物について別々に行った。インビボルシフェラーゼ実験のために、統計分析を、処置開始前の最初の4日間(ベースラインとして設定)における7匹全てのマウスについての平均右/左比を、その後の日に測定されたR/L比と比較することによって行った。統計分析を、GraphPad Prismソフトウェア(GraphPad Software、米国)を用いて行った。
【0204】
結果
シリコン系siRNA送達システムの特徴
本発明のシリコンナノ粒子送達システム(SIS005-PS91G及びSIS005-DSC613G)の2つの複製物を、核酸送達に一般的に使用されるカチオン性脂質、ステアリルアミン及びDC-コレステロールによるシリコンの表面官能化によって配合し、これにより、約350nmの同様の流体力学的サイズ及び比較的正のゼータ電位値を有するハイブリッド粒子が得られた。ゲル電気泳動によって研究した、カチオン性シリコンナノ粒子配合物とsiRNAとの複合体化は、2:1の最小SiNP-siRNAw/w比で、核酸の完全な捕捉を示した。様々なw/w比に対する複合体化siRNAの割合を分光光度測定によって測定し、担体に添加されたsiRNA量の差、及び粒子分離後の溶液中のsiRNAの濃度から計算した。ステアリルアミンで官能化された粒子と比較して、カチオン性コレステロール誘導体を含有するナノ粒子との複合体化について、より高いsiRNA捕捉効率が観察された。しかしながら、両方のバリアントは、シリコンナノ粒子1mg当たり13~48nmolの範囲内のsiRNAロード容量を示した。上記のsiRNAロード研究に続いて、2:1の固定SiNP/siRNA比を、全ての更なる実験のために選択した。
【0205】
ナノ粒子の物理化学的特性が薬物送達において重要な役割を果たすことから、siRNAロード複合体の粒径及び表面電荷を測定した。SIS005-DSC613Gは、空の担体とロードされた担体とを比較した場合に寸法又はゼータ電位に有意差を示さなかったが、一方でSIS005-PS91Gは、siRNAと複合体化した場合に平均粒径及び負の表面電荷の増加を示し、これは、内部siRNA捕捉に加えてハイブリッド粒子の表面上で核酸分子が吸収(absorption)されることを示唆した(以下の表を参照)。この研究で検討された配合物を、遺伝子サイレンシングのゴールドスタンダードであるLipofectamine(商標)RNAiMAX(siRNA送達用に特別に設計された市販の脂質ベースの担体)と比較した。空のsiRNAをロードしたRNAiMAXのZetasizer分析はまた、核酸との複合体形成後に、粒径の増加、及び正の値から負の値への表面電荷の反転を示した。
【0206】
【表7】
【0207】
実施例8:角膜細胞へのインビトロsiRNA送達の評価
最初のインビトロスクリーニングのために、ヒト角膜上皮細胞系統(HCE-S)を使用して、細胞トランスフェクションにおける本発明のシリコンナノ粒子送達システムの効率を、その潜在的な細胞傷害性と共に評価した。トランスフェクション効率は、シリコン担体システムにロードした蛍光オリゴヌクレオチド二重鎖で処理した24時間後に実施した、フローサイトメトリー分析によって定量化した(図8参照)。RNAiMAX試薬について観察された84±1%と比較して、SIS005-DSC613Gは55±2%を示し、SIS005-PS91Gは65±6%のFAM陽性細胞を示した。
【0208】
トランスフェクション後の細胞生存率を、膜崩壊の一般的な指標である、ヨウ化プロピジウム(PI)による生/死染色に基づいて評価した。これにより、シリコンナノ粒子配合物が、リポフェクタミンとは対照的に、角膜上皮細胞によって充分に忍容されることが示された(図9参照)。リポフェクタミンは、インビトロでの細胞への外因性核酸の送達に非常に有効であるにもかかわらず、臨床用途には好適でない。リポフェクタミンRNAiMAXでトランスフェクトした細胞の50%超は、膜不透過性色素PIによる内部染色によって証明されるように、損傷した膜を有することが示されたが、一方でシリコンナノ粒子配合物により処理した後の細胞は、86%超及び98%超がインタクトな細胞であることが観察された。
【0209】
siRNAのバイオアベイラビリティを、二重ルシフェラーゼレポーターアッセイを用いて遺伝子発現研究において評価した。シリコン系送達システムと複合体化した0.1μM siLucでHCE-S細胞を処理した後、SIS005-PS91G及びSIS005-DCS613Gで達成されたノックダウンは、それぞれ、46±5%(p<0.01、siLuc対NSC4対照)及び38±8%(p<0.01)であり、一方でRNAiMAXでトランスフェクトしたsiLucは、ルシフェラーゼレポーター遺伝子発現を66±9%減少させた(p<0.001)。図10を参照されたい。したがって、シリコンナノ粒子送達システムは、より安全であり、かつ細胞によってより良好に忍容されながら、最大で市販のsiRNAトランスフェクション試薬の70%の効力があることが実証された。
【0210】
実施例9:局所シリコンナノ粒子配合物によるインビボ眼性siRNA送達の評価
インビトロでのsiRNA送達及び遺伝子ノックダウンの成功の実証に続いて、2つのシリコンナノ粒子配合物(SIS005-PS91G及びSIS005-DCS613G)を、前眼部への局所投与によってインビボで評価した。最初に、SIS005-PS91G及びSIS005-DCS613Gを蛍光siGloと複合体化させ、ネイキッドsiGlo対照を反対側の眼に滴下して片側処置後に野生型マウスに点眼剤として適用した。眼における蛍光(ocular fluorescence)を、インビボ画像化システムを用いて最大24時間まで監視した。最初の測定は、マウスが処置後まだ麻酔下にあった投与後15分で行い、以下の測定を、投与後3時間、6時間、及び24時間で繰り返した。等量のsiGloを各眼に局所適用したが、15分後に測定したところ、最大蛍光強度が観察されたのはSIS005-DSC613G処置区であり、SIS005-PS91Gではわずかに低く、かつネイキッドsiGloでは2倍低い(p<0.05)(図11参照)。これは、ネイキッドオリゴヌクレオチドと比較して、配合された薬物の眼表面接着が増加していること、及び2つのシリコンナノ粒子配合物の滞留時間が改善していることを示した。3時間後、インビボ蛍光シグナルは、活性眼クリアランス機構に起因して、siGlo-SIS005-DSC613G処置眼において3倍減少し、一方でsiGlo-SIS005-PS91G及び非配合siGlo点眼剤についてベースラインレベルに戻った。インビボシグナル強度の更なる漸減が観察されたが、siGlo-SIS005-DSC613Gで処置した眼における蛍光は、最大24時間まで持続し、かつ全時点で非配合のネイキッドsiGloで処置した眼よりも有意に高かった(3時間及び6時間でp<0.01、24時間でp<0.05)。これは、本発明のシリコンナノ粒子と配合された局所投与siRNA薬物が効果的に取り込まれたことを示唆する。組織へのナノ粒子透過を検証するために、角膜層全体にわたるsiRNAの分布を、処置後の角膜切片の蛍光顕微鏡法によって調べた。赤色siGlo蛍光は、点眼剤適用の3時間後に収集された眼の全ての処理された切片において全角膜層を通して検出されたが、一方で、バックグラウンドを超える蛍光はネイキッドsiGlo対照では観察されなかった。siRNA配合物の投与の24時間後には、SIS005-DSC613Gで処理した角膜切片でのみ蛍光が観察された。
【0211】
インビボ取り込み研究に続いて、角膜上皮に専ら限定されたルシフェラーゼ発現を有するマウス・レポーター・モデルを用いた機能アッセイにおいて、SIS005-DSC613GによるsiRNA送達を更に調べた。インビボ処置の前に、レポーターマウスにおける基礎角膜ルシフェラーゼ活性を、24時間毎に4日間にわたり定量化して、分割体対照実験の一貫した左右比を確認した。siLuc又は対照siRNAと複合体化したSIS005-DSC613Gを、同じ動物の反対側の眼に点眼剤として1日間隔で8回局所適用し、角膜ルシフェラーゼ発現を、処置レジメン全体及びその後8日間にわたって、生きている動物におけるイメージングによって毎日評価した。処置開始の24時間以内にルシフェラーゼ発現の減少が観察され、11日目に最大阻害(41%±13、p<0.001)が達成された。有意な遺伝子サイレンシング効果が治療レジメン全体にわたって持続し、かつ治療終了後4日間継続した。予想通り、眼における低下した生体発光レベルは、治療中止後に徐々にベースラインに戻り、遺伝子抑制からの首尾よい回復を示した。これらの結果については図12及び図13を参照されたい。重要なことに、処置した眼の肉眼検査及び局所処置後の動物の毎日の目視検査では、点眼剤からの有害作用は現れておらず、これは、シリコンナノ粒子配合物がインビボで充分に忍容されたことを示唆した。
【0212】
既知のリポソームと比較したSi含有配合物の増加した核酸結合効率
シリコンナノ粒子を含む試料配合物を上記のプロトコルに従って調製した。シリコンナノ粒子を有しない配合物もまた調製した。配合物は以下の表に示す組成を有する。
【0213】
【表8】
【0214】
これらの各組成物について、hsDNAに対する核酸結合効率を調べた。結果を図14に示す。図14が示すように、Siナノ粒子含有配合物について観察された結合効率は、シリコンナノ粒子を含まないリポソーム配合物よりも改善を示した。
【0215】
実施例10:Biocourier配合物を用いた更なる調査
これらの実施例で使用される「Biocourier」とは、シリコン、脂質、及び本発明により所望による他の成分を含み、核酸がその上にロードされうる、本発明によるベクター組成物を指す。
【0216】
出発物質の調製
(a)非活性化ホウ素ドープシリコンウェハ:BSシリコンから得られ、手動で製粉されたもの
(b)非活性化AEシリコン:American Elementsによって提供されているもの、平均直径30nm、多孔質
(c)活性化AEシリコン:American Elements、平均直径30nm、多孔質。1gの材料を50mLのMeOHに懸濁し、次いで、ドラフトチャンバー下においてゆっくりと蒸発させるプロセスに供した。
(d)活性化BSシリコン:多孔質。1gの材料を50mLのMeOHに懸濁し、次いで、ドラフトチャンバー下においてゆっくりと蒸発させるプロセスに供した
(e)DOTAP-Cl溶液:DOTAPを5mg/mLの濃度でメタノールに溶解した。特に、50mgのDOTAPを、10mLのメタノールに溶解し、完全に溶解するまで超音波処理した。
(f)DOPE溶液:DOPEを5mg/mLの濃度でメタノールに溶解した。特に、60mgのDOPEを、12mLのメタノールに溶解し、完全に溶解するまで超音波処理した。
(g)mPEG2000-DSPE溶液:mPEG2000-DSPEを、メタノールに5mg/mLの濃度で溶解した。特に、40mgのmPEG2000-DSPEを、8mLのメタノールに溶解し、完全に溶解するまで超音波処理した。
(h)トレハロース(THR):Sigma Aldrichによって提供される粉末。
(i)グリシン(GLY):Sigma Aldrichによって提供される粉末。
(j)SiNP AE+GLY+THR溶液:活性化SiNP(AE)、グリシン、及びトレハロースを、ヌクレアーゼフリー水に懸濁した。特に、50mgの活性化SiNP、50mgのトレハロース及び25mgのグリシンを、50mLのヌクレアーゼフリー水中に懸濁し、60分間超音波処理した。
(k)SiNP BS+GLY+THR溶液:活性化SiNP(BS)、グリシン、及びトレハロースを、ヌクレアーゼフリー水に懸濁した。特に、50mgの活性化SiNP、50mgのトレハロース及び25mgのグリシンを、50mLのヌクレアーゼフリー水中に懸濁し、60分間超音波処理した。
【0217】
免疫化研究のためのpDNA-Biocourierアリコートの調製
Biocourierの種類の選択、及び最適なpDNA複合体化のための比率の計算
American Elements(AE)シリコン(多孔質、活性化、平均粒径<100nm)を用いて調製された、Biocourier配合物1型。成分及び比率は下記の通り。
【0218】
【表9】
【0219】
脂質:Si(押出前)比率=16:1
16mgの総脂質/10mLのBiocourier、1.6mg/mLの脂質、及び0.1mg/mLのシリコン、以下に相当:
Biocourier原液=1.6μg/μL
pDNA原液=2μg/μL
各バイアルは、以下を必ず含む:
80μgのpDNA
400μLの総体積
40μLに相当する80μgのpDNA-残りの体積=400μL(総体積)-40μL(pDNA体積)=360μL
360μLは、最大1.6μg/μL×360μL=576μgのBiocourierを含有し得る
Biocourier:pDNAの比率=576:80=7.2:1
このフォーマットを用いると、50μL(単回用量/マウス)のSiSaf Biocourier/pDNA複合体は、以下を含有する:
10μgのpDNA及び72μgのBiocourier
【0220】
全ての試料は、ヌクレアーゼフリー水中に懸濁した押出試料として提供される。押出は、注入可能な試料を調製するためのゴールドスタンダードな手法と考えられ、かつ粒子が許容できないほど凝集したものでないことを確実にするために、懸濁粒子をフィルタ膜に複数回通過させることを指す。
【0221】
Biocourier注射用のi.d./i.m.は、400nm及び100nmのポリカーボネート膜によって押し出され、相当量のpDNAと複合体化する準備ができた。
【0222】
上記Biocourier配合物1型の調製:液体形態
(A)脂質フィルム調製
(1)上記の表9に示す量の脂質を、原液から清浄なガラス丸底フラスコに移し、混合する。
(2)溶媒を、40℃の水浴及び真空を用いてロータリエバポレータを用いて慎重に蒸発させる。
(B)フィルムの再水和
(3)Si-NPs+GLY+THR溶液をフィルムへ添加して、必要に応じて、ヌクレアーゼフリー水を用いて最終体積を10mLに調整する。
(4)フラスコをパラフィルムで覆い、フィルムを再水和し、水浴(60℃)中で5分間フラスコを撹拌する。
(5)試料1mLを、RNAを含まないエッペンチューブ中、合計10のエッペンドルフへと分割する。懸濁液を冷蔵庫に貯蔵する。
(C)押出プロセス
(6)懸濁液は、0.4μm及び0.1μmの孔径の膜フィルタを、60℃で、0.4μmを10サイクル通過させ、次いで0.1μmを10サイクル通過させる。押出が完了した後、懸濁液を冷蔵庫に貯蔵する。
(D)pDNAによるBiocourierのローディング
(7)-40℃で貯蔵したpDNA試料を解凍し、室温に達するまで(予想所要時間10分)、チューブをドラフトチャンバーの下に放置する。
(8)押出されたBiocourier試料を、冷蔵庫からドラフトチャンバーに移し室温に置くことによって、平衡化する(予想所要時間6分)。
(9)相当量のBiocourierをpDNAと共に滅菌エッペンチューブへとロードする。特に、360μLのBiocourierを40μLのpDNA溶液と混合する。エッペンドルフを密閉する。
(10)エッペンドルフを15秒間にわたり穏やかにボルテックスし、密閉した試料を室温で30分間にわたり放置して平衡化する。試料を使用するまで冷蔵庫に移しておく。提供された注射前の注意書に従う。
上述のとおりにして4つのアリコートを調製する。
【0223】
上記Biocourier配合物1型の調製:凍結乾燥形態
(A)脂質フィルム調製
(1)上記の表9に示す量の脂質を、原液から清浄なガラス丸底フラスコに移し、混合する。
(2)溶媒を、40℃の水浴及び真空を用いてロータリエバポレータを用いて慎重に蒸発させる。
(B)フィルムの再水和
(3)Si-NPs+GLY+THR溶液をフィルムへ添加して、必要に応じて、ヌクレアーゼフリー水を用いて最終体積を10mLに調整する。
(4)フラスコをパラフィルムで覆い、フィルムを再水和し、水浴(60℃)中で5分間フラスコを撹拌する。
(5)試料1mLを、RNAを含まないエッペンチューブ中、合計10のエッペンドルフへ分割する。懸濁液を冷蔵庫に貯蔵する。
(C)押出プロセス
(6)懸濁液は、0.4μm及び0.1μmの孔径の膜フィルタを、60℃で、0.4μmを10サイクル通過させ、次いで0.1μmを10サイクル通過させる。押出が完了した後、懸濁液を冷蔵庫に貯蔵する。
(D)pDNAによるBiocourierのローディング
(7)-40℃で貯蔵したpDNA試料を解凍し、室温に達するまで(予想所要時間10分)、チューブをドラフトチャンバーの下に放置する。
(8)押出されたBiocourier試料を、冷蔵庫からドラフトチャンバーに移し室温に置くことによって、平衡化する(予想所要時間6分)。
(9)相当量のBiocourierをpDNAと共に滅菌エッペンドルフへとロードする。特に、360μLのBiocourierを40μLのpDNA溶液と混合する。エッペンドルフを密閉する。
(10)エッペンドルフを15秒間にわたり穏やかにボルテックスし、密閉した試料を室温で30分間にわたり放置して平衡化する。試料を冷蔵庫に移し3時間置く。
(11)試料を凍結するために-40℃に移す(5時間)。
(12)凍結乾燥機を起動し、恒温槽を-40℃にする。試料を凍結乾燥機に移し、真空にさせる。
(13)乾燥試料を一晩凍結する。
(14)得られた試料を密閉し、冷蔵庫に移動させる。
上述のとおりにして4つのアリコートを調製する。
【0224】
ホウ素ドープシリコンを用いて調製した、Biocourier配合物2型(多孔質、活性成分、及び比率
【0225】
【表10】
【0226】
脂質:Si(押出前)比率=16:1
16mgの総脂質/10mLのBiocourier、1.6mg/mLの脂質、及び0.1mg/mLのシリコン、以下に相当:
Biocourier原液=1.6μg/μL
pDNA原液=2μg/μL
各バイアルは、以下を含む:
80μgのpDNA
400μLの総体積
【0227】
40μLに相当する80μgのpDNA-残りの体積=400μL(総体積)-40μL(pDNA体積)=360μL
360μLは、最大1.6μg/μL×360μL=576μgのBiocourierを含有し得る
Biocourier:pDNAの比率=576:80=7.2:1
このフォーマットを用いると、50μL(単回用量/マウス)のBiocourier/pDNA複合体は、以下を含有する。
10μgのpDNA及び72μgのBiocourier
【0228】
全ての試料は、ヌクレアーゼフリー水中に懸濁した押出試料として提供される。押出は、注射可能な試料を調製するためのゴールドスタンダードな実施と考えられる。
【0229】
Biocourier注射用のi.d./i.m.は、400nm及び100nmのポリカーボネート膜を通して押し出した。次いで、Biocourierは、相当量のpDNAと複合体化される試料を押し出した。
【0230】
上記Biocourier配合物2型の調製:液体形態
(A)脂質フィルム調製
(1)上記の表10に示す量の脂質を、原液から清浄なガラス丸底フラスコに移し、混合する。
(2)溶媒を、40℃の水浴及び真空を用いてロータリエバポレータを用いて慎重に蒸発させる。
(B)フィルムの再水和
(3)Si-NPs+GLY+THR溶液をフィルムへ添加して、必要に応じて、ヌクレアーゼフリー水を用いて最終体積を10mLに調整する。
(4)フラスコをパラフィルムで覆い、フィルムを再水和し、水浴(60℃)中で5分間フラスコを撹拌する。
(5)試料1mLを、RNAを含まないエッペンチューブ中、合計10のエッペンドルフへと分割する。懸濁液を冷蔵庫に貯蔵する。
(C)押出プロセス
(6)懸濁液は、0.4μm及び0.1μmの孔径の膜フィルタを、60℃で、0.4μmを10サイクル通過させ、次いで0.1μmを10サイクル通過させる。押出が完了した後、懸濁液を冷蔵庫に貯蔵する。
(D)pDNAによるBiocourierのローディング
(7)-40℃で貯蔵したpDNA試料を解凍し、室温に達するまで(予想所要時間10分)、チューブをドラフトチャンバーの下に放置する。
(8)押出されたBiocourier試料を、冷蔵庫からドラフトチャンバーに移し室温に置くことによって、平衡化する(予想所要時間6分)。
(9)相当量のBiocourierをpDNAと共に滅菌エッペンドルフへとロードする。特に、360μLのBiocourierを40μLのpDNA溶液と混合する。エッペンドルフを密閉する。
(10)エッペンドルフを15秒間にわたり穏やかにボルテックスし、密閉した試料を室温で30分間にわたり放置して平衡化する。試料を使用するまで冷蔵庫に移しておく提供された注射前の注意書に従う。
【0231】
上述のとおりにして4つのアリコートを調製する。
【0232】
上記Bio-courier配合物2型の調製:凍結乾燥形態
(A)フィルム調製
(1)上記の表3に記載される量の脂質を、原液から清浄なガラス丸底フラスコに移し、混合する。
(2)溶媒を、ロータリエバポレータを用いて、及び40℃の水浴を用いて、真空下において、慎重に蒸発させる。
(B)フィルムの再水和
(3)Si-NPs+GLY+THR溶液をフィルム上へ添加して、必要に応じて、ヌクレアーゼフリー水を用いて最終体積を10mLに調整する。
(4)フラスコをパラフィルムで覆い、フィルムを再水和し、水浴(60℃)中で5分間フラスコを撹拌する。
(5)RNAを含まないエッペンドルフ中の試料1mLを、合計10のエッペンドルフに分割する。懸濁液を冷蔵庫に貯蔵する。
(C)押出プロセス
(6)懸濁液は、0.4μm及び0.1μmの孔径の膜フィルタを、60℃で、0.4μmを10サイクル通過させ、次いで0.1μmを10サイクル通過させる。押出が完了した後、懸濁液を冷蔵庫に貯蔵する。
(D)pDNAによるBiocourierのローディング
(7)-40℃で貯蔵したpDNA試料を解凍し、室温に達するまで(予想所要時間10分)、チューブをドラフトチャンバーの下に残す。
(8)押出されたBiocourier試料を、冷蔵庫からドラフトチャンバーに移し室温に置くことによって、平衡化する(予想所要時間6分)。
(9)相当量のBiocourierをpDNAと共に滅菌エッペンドルフへとロードする。特に、360μLのBiocourierを40μLのpDNA溶液と混合する。エッペンドルフを密閉する。
(10)エッペンドルフを15秒間にわたり穏やかにボルテックスし、密閉した試料を室温で30分間にわたり放置して平衡化する。試料を冷蔵庫に移し3時間置く。
(11)試料を凍結するために-40℃に移す(5時間)。
(12)凍結乾燥機を起動し、恒温槽を-40℃にする。試料を凍結乾燥機に移し、真空にさせる。
(13)乾燥試料を一晩凍結する。
(14)得られた試料を密閉し、冷蔵庫に移動させる。
上述のとおりにして4つのアリコートを調製する。
【0233】
試料の再構成及び取扱いに関する一般的な推奨事項
凍結乾燥粉末試料再構成に関する指示
エッペンチューブをドラフトチャンバーに移し、400μLのヌクレアーゼフリー水を用いてエッペンドルフの内容物を再懸濁する。
再懸濁は、ドラフトチャンバーの下で、適切な滅菌保護装置を用いて室温で行われ、したがって、内容物の任意の相互汚染を回避することが意図されている。
再懸濁後、エッペンチューブを閉じ、15秒間にわたり穏やかにボルテックスし、密閉した試料を室温で30分間にわたり平衡化させたままにする。
試料を冷蔵容器に移し、投与の数分前に室温にする。サンプリング前に、エッペンドルフを2回穏やかに反転させる。
同日に使用/投与することを意図したバイアルのみを再水和する。
【0234】
液体試料に関する指示
エッペンドルフをドラフトチャンバーに移す。室温で3分間にわたり平衡化し、15秒間にわたり穏やかにボルテックスし、密閉した試料を室温で30分間にわたり平衡化させたままにする。
試料を冷蔵容器に移し、投与の数分前に室温にする。サンプリング前に、エッペンドルフを2回穏やかに反転させる。
【0235】
実施例11:押出に関する考察、及びこのプロセス工程が成分の最適な出発比をどのように変化させ得るか。
押出は、使用される初期量に対してシリコン粒子の損失を生じ得る。本目的のために、2μg/mLに相当する、約2mg/Lの押出後の最終シリコン含有量を求めた。
【0236】
その要件を満たす完成したベクター組成物1mLを生成するには、一般的に、脂質構成成分1.6mg、トレハロース0.1mg(存在する場合)、グリシン0.05mg(存在する場合)、及びシリコン2μgから始めることが推奨される。
【0237】
簡便のために、本明細書においてBiocourier:核酸の比率が参照される場合、これは、Biocourierの脂質構成成分と核酸とのとモル比である。
【0238】
例示的な組成を以下の表11に示す。
【0239】
【表11】
【0240】
実施例12:ゼータ電位の評価
表12に示される成分を有する配合物を生成した。これらの配合物の測定されたゼータ電位を表13に示す。ゼータ電位に対する成分の影響を評価することができ、RNAのロードに対するゼータ電位の変化を、首尾よい複合体化の証拠としての単純な品質管理マーカとして使用することができる。
【0241】
【表12】
【0242】
【表13】
【0243】
実施例13:核酸結合効率及び複合体の安定性に対するシリコンの利点の実証
一連のBiocourier配合物(前述の実施例に記載されるように製造されたもの)を、シリコン含有粒子を含まずに各Biocourier組成物と同じ構成成分を用いて同じ様式で配合された脂質ナノ粒子組成物と比較して、シリコンの存在が核酸結合効率及び安定性に有益な効果を及ぼすかどうかを評価するため、スクリーニングした。
【0244】
特に、核酸結合効率及び安定性に対するシリコン粒子の影響を評価するために、DNAの例としてニシン精子の粗抽出物(hsDNA)を用い、またmRNAの例として酵母mRNAを用いて、Biocourier配合物DSC613G、DS61G、DS6G、及びD6Gを用いて研究を行った。
【0245】
表14:
【0246】
【表14】
【0247】
結果を図20及び図21に示す。シリコン粒子が存在する場合、核酸(hsDNA又はmRNA)の結合効率(したがって、安定性を推測させる)が明らかに改善される。したがって、これらの図に実証されるように、核酸結合及び安定性は、シリコン粒子を含まずに作製された対応する配合物より、シリコン粒子を含有する配合物が優れていることが見出された。
【0248】
実施例14-Siと複合体化したDasher GFP mRNAの安定性
材料
mRNA
200μg(200μL)のDasher GFP mRNAのヌクレアーゼフリー水(1mg/mL)中溶液を、Aldevron(4055 41st Avenue South Fargo、North Dakota 58104、米国)から得た。mRNAを、200μLのヌクレアーゼフリー水で更に希釈して0.5mg/mLの最終濃度にし、次いで、0.2mLのPCRチューブ中の50μLアリコートへと分注した。
【0249】
ウシ血清
ウシ血清は、Merck(The Old Brickyard、New Rd、Gillingham、Dorset、SP8 4XT)から凍結液体形態で得た。受け取ったら、血清を解凍し、そこから15mL及び50mLの滅菌ファルコンチューブ中にアリコートを調製し、次いで、これを-20℃で貯蔵した。1mLの血清を、4mLのヌクレアーゼフリー水と混合して、5mLの20%血清を得た。この試料から、1mLの20%血清を4mLのヌクレアーゼフリー水と混合することによって、4%血清を調製した。次いで、20%及び4%血清試料を、ヌクレアーゼ2mLのPCRチューブ(ヌクレアーゼ及びプロテアーゼを含まない)中の1mLアリコートへと分注し、アッセイに使用するまで-20℃で貯蔵した。
【0250】
SIS0012、SIS0013、及び脂質ナノ粒子
上記のプロトコルに従って、SIS0012(アンドープSi)及びSIS0013(ホウ素ドープSi;5×1018ホウ素原子/cm)試料を提供した。
SIS0012及びSIS0013のシリコンを除く全ての構成成分を含有する脂質ナノ粒子試料もまた提供された。
【0251】
上記のプロトコルに従って、mRNAを、SIS0012、SIS0013、及び脂質ナノ粒子試料にロードした。SIS0012、SIS0013、及びLNPの各々に対するmRNAの重量比は、1:12であった。
【0252】
実験手順
以下の試料の各々を、8本の0.2mLのPCRチューブ(30μL/チューブ)へと添加した。
・mRNA-SIS0012複合体
・mRNA-SIS0013複合体
・mRNA-脂質ナノ粒子(シリコンを除いた)複合体(「mRNA-X」)
・ヌクレアーゼフリー水中のmRNAの対照試料
【0253】
全ての試料を、ウシ血清と混合し、37℃でインキュベートし、次いで、以下の手順に従ってゲル電気泳動によって分析した:
【0254】
30μLのウシ血清(4%)を各チューブに添加し、次いでこれを、上下に4~5回ピペッティングすることによって完全に混合した。キャップをしっかりと閉めた。チューブをパラフィルムでオーバーシールし、37℃の水浴中のマイクロチューブラック内に置いた。無血清対照として、一方のチューブを20μLのヌクレアーゼフリー水のみと混合した。
【0255】
ゲル電気泳動分析のために、0時間、0.5時間、1時間、2時間、4時間、6時間、及び24時間で、アリコートを採取した(後述する図22図25を参照されたい)。
【0256】
ゲル電気泳動分析の目的のために、SIS0012、SIS0013、及び脂質ナノ粒子配合物から抽出されたmRNAの試料もまた、各時点で収集した。mRNAを抽出するために、試料を、ドデシル硫酸ナトリウム(ヌクレアーゼフリー水中1%溶液)と混合し、ボルテックスによって完全に混合し、室温で20分間にわたりインキュベートした。インキュベーションの最後に、KCl(ヌクレアーゼフリー水中の0.1M溶液)を、混合物に添加し、ボルテックスによって充分に混合し、次いで氷上で10分間にわたりインキュベートした。次いで、混合物を、4℃で19000×g(14224rpm)で15分間にわたり遠心分離した。ペレットを乱すことなく上清を慎重に除去して、新規PCRチューブへと移した。
【0257】
ゲル電気泳動分析は、いずれもThermoFisher Scientific、168 Third Avenue、Waltham、MA USA 02451から入手可能である、E-Gel(商標)Power Snap電気泳動デバイス及びE-Gel(商標)アガロースゲル(1%)を用いて行った。
【0258】
結果の考察
2%ウシ血清と、0時間、0.5時間、1時間、2時間、4時間、6時間、及び24時間にわたりインキュベートした後のmRNA-SIS0012、mRNA-SIS0013、mRNA-X(シリコンを含まないLNP)、及びネイキッドmRNAのゲル電気泳動結果を、図22図25に提示する。
【0259】
図22A及び図23Aは、調べた任意の時点で、血清とのインキュベーションの前又は後に、mRNAがmRNA-SIS0012ウェル及びmRNA-SIS0013ウェルから移動しなかったことを示す。
【0260】
mRNA-SIS0012ウェル及びmRNA-SIS0013ウェル内では、血清での任意の処置前について強いmRNAシグナルが存在した。血清への曝露後、mRNA-SIS0012ウェル及びmRNA-SIS0013ウェルの各々の中のシグナルは、経時的に徐々に減少した。最終的に(すなわち、6時間及び24時間インキュベートした試料について)、mRNA-SIS0012ウェル及びmRNA-SIS0013ウェルで比較的弱いシグナルが観察された。SIS0012及びSIS0013ウェルから離れたmRNA移動の欠如は、SIS0012及びSIS0013がmRNAと充分に会合(associate)することを示す。経時的に、37℃の血清環境(ヌクレアーゼ酵素が存在する、対象への投与時にmRNAが曝露されうるインビボ環境を模倣すること)では、mRNAが徐々に分解され、得られるウェル内シグナルがよりかすかとなり得るものと考えられる。したがって、mRNAとSIS0012及びSIS0013との会合は充分である。mRNAは、ヌクレアーゼ酵素が存在し、37℃の温度に保持されているインビボ様環境であっても、経時的に分解から保護される。
【0261】
上記の結果を確認するために、mRNA-SIS0012及びmRNA-SIS0013から抽出したmRNAを、調べた全時点でゲル電気泳動分析に供した。図22B及び23Bに示すように、このmRNAはゲルを通って移動することが観察された。血清とのインキュベーション(血清対照なし)前にSIS0012及びSIS0013から解離したmRNAには強く鋭いバンドが存在し、これは、ネイキッドmRNA対照試料で観察されたバンドと同じくらい強く、同じ距離を移動しており、SIS0012結合mRNA及びSIS0013結合mRNAの完全性を示している。血清と混合したmRNA-SIS0012及びmRNA-SIS0013試料から回収したmRNAの場合、0時間~6時間の時点で抽出されたmRNAに強いバンドが存在した。しかしその後、バンドの強度が経時的に低下し始め、4時間後からスメアリングが観察された。
【0262】
mRNA-Xと呼ばれる、シリコンなしで配合されたLNP対応物のゲル電気泳動結果を図24に示す。図24B(抽出mRNA)は、SIS0012及びSIS0013よりも顕著なスメアリングを示す。これは、LNP関連mRNAが、SIS0012会合mRNA又はSIS0013会合mRNAよりも、血清への曝露時に分解を受けやすいことを示す。LNP試料は早くも0.5時間のバンドで弱いシグナルを示しており、これは、ゲル中を移動したmRNAの小さな断片の存在を示す。
【0263】
したがって、ゲル遅延度アッセイによって、mRNAとSIS0012及びSIS0013との複合体化の成功が確認された。
【0264】
要約すると、これらのゲル電気泳動結果は、ウシ血清中に存在するヌクレアーゼ酵素による分解に対する、mRNAに関するSIS0012及びSIS0013の保護作用を実証している。対照的に、シリコンを含まないLNPに関連するmRNAの場合(図24)、ゲル電気泳動結果は、mRNAの強いスメアリングを示す。ネイキッドmRNAについては、図25)は、血清とのインキュベーション直後(0.5時間)に断片化が開始され、分解がほぼ直ちに観察されたことを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
【国際調査報告】