(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-16
(54)【発明の名称】フタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/184 20170101AFI20240708BHJP
G01N 27/26 20060101ALI20240708BHJP
G01N 27/30 20060101ALI20240708BHJP
G01N 27/42 20060101ALI20240708BHJP
G01N 27/333 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
C01B32/184
G01N27/26 Q
G01N27/30 B
G01N27/42 C
G01N27/333 331F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023564150
(86)(22)【出願日】2022-03-31
(85)【翻訳文提出日】2023-12-13
(86)【国際出願番号】 TR2022050282
(87)【国際公開番号】W WO2022225488
(87)【国際公開日】2022-10-27
(32)【優先日】2021-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520224133
【氏名又は名称】イルディズ テクニク ユニヴァーシテシ
(71)【出願人】
【識別番号】522039496
【氏名又は名称】イルディズ テクノロジ トランフェレ オフィシ アノニム シルケティ
【氏名又は名称原語表記】YILDIZ TEKNOLOJI TRANSFER OFISI ANONIM SIRKETI
【住所又は居所原語表記】YTU Davutpasa Kampusu Yildiz Teknopark Cifte Havuzlar Mah.Eski Londra Asfalti Cad.Idari Bina Dis Kapi No151,Esenler/Istanbul(TR)
(74)【代理人】
【識別番号】100109634
【氏名又は名称】舛谷 威志
(74)【代理人】
【識別番号】100129263
【氏名又は名称】中尾 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100160831
【氏名又は名称】大谷 元
(72)【発明者】
【氏名】シャヒン,ユジェル
(72)【発明者】
【氏名】グルス,フレムセ
(72)【発明者】
【氏名】コユン,オズゲ
(72)【発明者】
【氏名】ゴルダック,セミフ
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB01
4G146AB07
4G146AD17
4G146AD23
4G146AD24
4G146AD40
4G146BA02
4G146BC10
4G146BC18
4G146CB13
4G146CB19
4G146CB35
4G146DA07
(57)【要約】
本発明は、共有結合したフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料をワンステップ、ワンポット電気化学的方法で製造する方法に関し、この方法は1ステップで製造でき、精製手順を必要としない。共有結合しているフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料を製造する方法であって、グラファイト加工電極の表面に同時に得たいフタロシアニン化合物を含む電解液を調製する工程と、グラファイト加工電極を電解液に浸漬する工程と、グラファイト加工電極に一定のスキャンレートで正電位走査を行い、電流を記録する工程と、を有する方法である。グラファイト加工電極を、アノード領域で起こる酸化反応によって酸化グラフェンに変換し、負電位走査で起こるカソード領域での還元反応によって酸化グラフェンをグラフェンに変換する、フタロシアニン化合物とグラフェンを、同時に走査される電位範囲で共有結合的に結合させ、継続するサイクル中に結合を強化し、印加される電位範囲に基づいて得られる共有結合的に結合したフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料を電極表面で得るか、または粉末の形態で溶液中に堆積させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学サイクリックボルタンメトリーシステムが、異なる電位を印加してシステムを制御できるポテンショスタットと、データが記録・処理されるソフトウェアを制御するコンピュータと、アノードとして機能するグラファイト作用電極と、グラファイト作用電極上の電位差を制御する参照電極と、カソードとして機能する対極と、グラファイト作用電極の表面上に同時に得られ、グラファイト作用電極に共有結合で結合し、および/または溶液中のグラフェンに共有結合で結合して粉末状に堆積したフタロシアニンとを含む電解液と、を備え、
以下の工程を含むことを特徴とする、1ステップでのフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料の製造方法:
- 前記グラファイト作用電極表面に同時に得たいフタロシアニン化合物を含む電解液を調製する工程、
- 前記グラファイト作用電極を前記電解液に浸し、前記電極を電気的に接続する工程、
- 前記グラファイト作用電極に一定のスキャン速度で正電位スキャンを行い、電流を記録する工程、
- 電位スキャン中にマイナスゾーンからプラスゾーンに切り替わるとき、アノードゾーンで、プラス電位で酸化反応が起こる工程、
- アノード領域で起こる酸化反応により、前記グラファイト作用電極を酸化グラフェンに変換する工程、
- プラス電位ゾーンから戻り、電流を記録することで、マイナス電位でのスキャンを継続する工程、
- 負電位走査のカソードゾーンで起こる還元反応により、酸化グラフェンをグラフェンに変換する工程、
- 同時にスキャンされた電位作動範囲でフタロシアニン化合物をグラフェンに共有結合させ、進行中のサイクルの間、結合を強化する工程、及び、
- 印加電位範囲に基づいて得られた共有結合したフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料を電極表面に得るか、または溶液中に粉末状で堆積させる工程であって、
電極として作製した前記フタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料が共有結合した電極表面を超純水に浸漬して洗浄し、室温(18℃~30℃)で乾燥する、または、
粉末として調製した共有結合した前記フタロシアニン・グラフェンハイブリッド材料を直接超純水で洗浄し、20℃~100℃で乾燥する。
【請求項2】
前記作用電極はグラファイト系電極である、請求項1に記載の1ステップでのフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料の製造方法。
【請求項3】
前記参照電極はAg/AgCl電極、カロメル電極、および/または、Hg/HgSO
4電極である、請求項1に記載の1ステップでのフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料の製造方法。
【請求項4】
前記対極は白金電極である、請求項1に記載の1ステップでのフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料の製造方法。
【請求項5】
前記電解液は、0.0001M~5.0Mの濃度範囲のモノプロトン酸、ポリプロトン酸、塩および塩基からなる群から選択される酸溶液と、0.000001M~3.0Mの濃度範囲の異なる官能基を有する可溶性フタロシアニン化合物から調製される、請求項1に記載の1ステップでのフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料の製造方法。
【請求項6】
前記電解液は、0.001M~5.0Mの濃度範囲の酸溶液と、0.000001M~1.0Mの濃度範囲の異なる官能基を有する可溶性フタロシアニン化合物から調製される、請求項5に記載の1ステップでのフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料の製造方法。
【請求項7】
前記酸溶液は、HCl、HNO
3、H
2SO
4、H
3PO
4、H
3BO
3、HClO
4から選択される1つ以上の酸、またはNaOH、KOH、NH
4、Na
2CO
3から選択される1つ以上の塩基、またはKCl、NaCl、LiClO
4、K
2HPO
4、KH
2PO
4、Na
2HPO
4、NaH
2PO
4、Na
2SO
4から選択される1つ以上の塩から選択される、請求項5に記載の1ステップでのフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料の製造方法。
【請求項8】
前記異なる官能基を有する可溶性フタロシアニン化合物は、OH基、-COOH基、-SO
3基、NH
2基、アルキル基、アルコキシ基、長鎖アルキル基、エーテル基、またはチアゾール基の基を有する官能基を有するフタロシアニン化合物から選択される、請求項5に記載の1ステップでのフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料の製造方法。
【請求項9】
共有結合したフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料を表面に有する電極を調製するために、前記グラファイト電極に対して0.001V/s~1.0V/sの範囲のスキャン速度で電位スキャン((-2.0V)~(+4.0V))を行う工程を含む、請求項1に記載の1ステップでのフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料の製造方法。
【請求項10】
共有結合したフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料をその表面に有する電極を調製するために、サイクル数が1~200の範囲である、請求項1または9に記載の1ステップでのフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料の製造方法。
【請求項11】
共有結合したフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料を粉末状材料として調製するために、前記グラファイト電極上で0.001V/s~1.0V/sの範囲のスキャン速度で電位スキャン((-3.0V)-(+6.0V))を行う工程を含む、請求項1に記載の1ステップでのフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料の製造方法。
【請求項12】
共有結合したフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料を粉末状材料として調製するために、サイクル数が1~500の範囲である、請求項1または11に記載の1ステップでのフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共有結合的に相互作用するフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料の電気化学的方法による1ステップおよびin situでの製造に関するものであり、この材料は、医療、電子デバイス、オプトエレクトロニクスおよびセンサー技術、特にエネルギー貯蔵システムにおいて使用され、多くの市場にアピールするものである。本発明の方法によって開発された材料は、エネルギー分野で応用されるスーパーキャパシタ、バッテリー、バッテリーシステムの部品に使用することができる。また、健康や食品産業におけるセンサー応用分野において、ヒトや環境の健康に重要な分析物の検出のための材料(改質剤として)や電極成分として使用することもできる。
【背景技術】
【0002】
グラフェンをベースとする材料(グラフェン、還元グラフェン、官能基含有グラフェン、酸化グラフェン)は、現在、多くの分野、特にエネルギー貯蔵、センサー、電子デバイスで使用される可能性がある。グラフェン系材料は、様々なマクロ化合物で官能基化され、それらのハイブリッドが得られると、より高い導電性、選択性、安定性など、複数の新規かつ重要な特性を有するようになる。
【0003】
当該技術分野において、文献で用いられている製造方法では、異なる方法(化学蒸着法、化学的剥離法、電気化学的剥離法など)により得られたグラフェン系材料を、様々な化学薬品(ジメチルホルムアミド(DMF)、ジクロロベンゼン(DCB)、テトラヒドロフラン(THF)など)の存在下、フタロシアニン化合物と長時間混合し、濾過、洗浄し、ハイブリッド材料を合成する。同様に、前処理によってグラフェンをジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)などの化学物質で官能基化(-COOHなど)した結果、グラフェンとフタロシアニン化合物の間で共有結合的に相互作用が起こる。すなわち、複数の合成工程によって得られた2つの生成物を、ハイブリッド材料の形成のために再度製造工程に付し、最終生成物であるハイブリッド材料を得る。このようにして作製されたハイブリッド材料をセンサーとして利用したい場合、一般的にはグラッシーカーボン電極表面に滴下して作製される。これらのプロセスでは、まずグラフェンとフタロシアニン化合物をDMFなどの有害な有機溶媒に溶解し、それぞれ電解質表面に滴下し、乾燥させることで電極材料として使用することができる。
【0004】
本技術の現状を把握するために実施した特許・文献検索で得られた結果のうち、以下の出願および刊行物を考慮することができる。テトラヒドロキシフタロシアニン亜鉛還元酸化グラフェンナノコンポジット及びそれから調製した電気化学センサー並びにその応用」と題する公開番号CN111521653(A)の中国特許登録出願は、テトラヒドロキシフタロシアニン亜鉛還元酸化グラフェンナノコンポジットの調製方法を開示している。具体的な調製方法としては、0.01gのテトラヒドロキシフタロシアニン亜鉛を300μLのDMFに溶解し、1mg/mLを10mL加えて還元する。酸化グラフェン溶液を室温で12時間撹拌し、遠心分離する。得られた沈殿物を水で洗浄してテトラヒドロキシフタロシアニン亜鉛還元グラフェンオキシドナノコンポジットを得た後、得られたテトラヒドロキシフタロシアニン亜鉛還元グラフェンオキシドナノコンポジットを水10mLに溶解する。このようにして、テトラヒドロキシフタロシアニン亜鉛還元グラフェンナノコンポジット溶液を得る。この方法に見られるように、製造方法には溶解、攪拌、遠心分離など複数の工程が存在し、DMFなど有害な有機溶媒を使用し、さらに洗浄工程が必要なことが問題となる。
【0005】
さらに、中国の出願文献である公開番号CN104091959(A)には、ニトロ第一鉄フタロシアニン-グラフェン複合材料を調製するための代替方法が開示されている。本発明の目的は、高い触媒活性と酸素に対する触媒安定性を有するニトロ第一鉄フタロシアニン-グラフェン複合材料を製造することである。この出願の発明とは異なり、ニトロ第一鉄フタロシアニンはグラフェン層の表面にナノ球状構造を形成する。さらに、アセトンやエタノールによる洗浄、DMFの使用などが製造方法に関わる工程である。したがって、上記の技術的問題を超えるものではないと考えられる。
【0006】
下記リンクの論文:
https://www.researchgate.net/publication/232286950_Facile_preparation_of_graphene-metal_phthalocyanine_hybrid_material_by_electrolytic_exfoliation
は、当技術分野で遭遇した別の文献であるが、この研究では、電気化学的方法によるグラフェン金属フタロシアニンハイブリッド材料の安定な水性分散液の調製方法が開示されている。この研究では、銅フタロシアニン3,4',4'',4'''-テトラスルホン酸四ナトリウム塩(TSCuPc)からなる電解液中でグラフェンの電解質剥離を行い、材料を調製した。そこで、別の代替法である電解液剥離法を用いた。
【0007】
当該文献には、共有結合を含む粉末フタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料を調製するための様々な方法が存在する。しかしながら、現在使用されている既存の方法や上記で提供されている方法は、複数の合成工程を必要とし、環境に有害な化学物質を使用し、異なる方法では高温環境が必要であり、経済的コストが非常に高いなどの問題があるため、これらの化合物の使用を実質的に制限している。従って、共有結合的に相互作用するフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料を、環境にやさしく、安価で、簡便な方法で、室温で電気化学的手法により1ステップで、かつその場で製造することは、これらの材料の広範な使用の開発にとって重要である。
【0008】
共有結合で相互作用するフタロシアニン-グラフェン系ハイブリッド材料を電解質材料として使用する場合、得られたフタロシアニン-グラフェン系ハイブリッド材料は、他のどの電極表面にも付着するため、追加の処理工程が必要となり、その製造および使用が制限される。
【0009】
このように、現在の合成法は環境に有害であり、複数の反応工程が必要で、しかもコストが高い。これらの理由から、環境にやさしく、安価で簡便な方法で、共有結合的に相互作用するフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料を室温で合成する新しい方法が求められている。
【0010】
フタロシアニン-グラフェン系材料の製造工程は複数の工程からなるため、共有結合したフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料を、より新しく、より容易で、より安価で、より環境に優しい方法で、最も重要なこととして、1ステップで、その場で製造することが求められている。本発明以前に用いられていた方法では、フタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料の製造には複数の工程が必要であり、したがって長い工程が必要であった。
【0011】
本発明は、炭素系材料(グラファイトなど)からグラフェンを形成する際に、溶液環境中に存在するフタロシアニン化合物が共有結合的相互作用によってグラフェン構造に同時に付加されることにより、電気化学的方法を用いてハイブリッド材料を1ステップで製造することを可能にする。
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、電気化学的方法により共有結合的に相互作用するフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料を製造することであり、この方法は環境に優しく安価であり、1ステップおよび1ポットでの製造が可能であり、精製手順を必要としない。
【0013】
本発明のもう1つの目的は、上記技術状態で提供される以前の方法および市場で知られている方法で遭遇する、1つ以上の工程(機械的攪拌、1つ以上の合成反応、滴下工程など)で得る必要性、製造中に媒体に含まれる化学物質を除去するための追加技術、労働力および専門知識の必要性、および高コストのような問題を克服することである。本発明の製造方法によれば、電気化学的方法により1ステップで同時に製造するため、追加の工程が不要であり、精製工程も不要であり、超純水による洗浄工程を適用するだけである。さらに、簡単で安価な応用であることも、その間接的な利点の一つである。
【0014】
本発明は、グラファイト系材料から共有結合したフタロシアニン-グラフェン系ハイブリッド材料を1ステップで調製するための直接的な解決策を提供するものである。本発明により、フタロシアニン化合物は、グラファイト材料の表面に得られたグラフェン電極および粉末状材料に、電気化学的方法を用いて、1ステップで直接、共有結合により結合され、同時に調製される。従来技術とは異なり、フタロシアニン-グラフェン電極および粉末フタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料は、グラファイト電極から電気化学的方法により1ステップで製造される。
【0015】
本発明の製造方法の重要な利点は、追加の精製手順が必要ないことである。さらに、環境に有害な化学物質の使用も必要ない。
【0016】
また、この製造方法により、より高品質(低欠陥率)のフタロシアニン-グラフェン系ハイブリッド材料を製造できることも特徴である。開発した製造方法は、専門家を必要としないユーザーフレンドリーな方法である。
【0017】
研究された方法では、従来の技術とは異なり、電極を備えた製造システムが使用される。Ag/AgCl、カロメル、Hg/HgSO4、Pt対極、グラファイト系電極などの参照電極が作用電極として使用される。電解質としては、0.0001M~5.0Mの濃度範囲のモノプロトン酸、ポリプロトン酸、塩、構造中に異なる官能基を有する塩基およびそれらの混合物、ならびに0.000001M~3.0Mの濃度範囲のフタロシアニン化合物からなる溶液が使用される。
【0018】
文献とは異なり、電気化学的手法によるグラフェン製造では、使用する電圧値が低く、印加するエネルギーも低い。関連する製造方法では、作動電位は(-3.0V)~(+6.0V)、スキャン速度は0.001V/s~1.0V/s、サイクル数は1~500の範囲である。
【0019】
本発明では、目的に応じて、異なるフタロシアニン化合物とグラファイト材料からグラフェンを形成する際に、共有結合で制御された方法でフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料を合成することができる。このように、共有結合したフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料の調製は、容易で、安価で、環境にやさしく、使い勝手のよい方法を含んでいる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、共有結合したフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料を1ステップ、1ポットによる電気化学的方法で製造する方法に関し、この方法は1ステップで製造でき、精製手順を必要としない。
【0021】
本発明は、電気化学サイクリックボルタンメトリーシステムが、異なる電位を印加してシステムを制御できるポテンショスタットと、データが記録・処理されるソフトウェアを制御するコンピュータと、アノードとして機能するグラファイト作用電極と、グラファイト作用電極上の電位差を制御する参照電極と、カソードとして機能する対極と、グラファイト作用電極の表面上に同時に得られ、グラファイト作用電極に共有結合で結合し、および/または溶液中のグラフェンに共有結合で結合して粉末状に堆積したフタロシアニンとを含む電解液と、を備え、
以下の工程を含むことを特徴とする、1ステップでのフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料の製造方法に係る:
- グラファイト作用電極表面に同時に得たいフタロシアニン化合物を含む電解液を調製する工程、
- グラファイト作用電極を電解液に浸し、電極を電気的に接続する工程、
- グラファイト作用電極に一定のスキャン速度で正電位スキャンを行い、電流を記録する工程、
- 電位スキャン中にマイナスゾーンからプラスゾーンに切り替わるとき、アノードゾーンで、プラス電位で酸化反応が起こる工程、
- アノード領域で起こる酸化反応により、前記グラファイト作用電極を酸化グラフェンに変換する工程、
- プラス電位ゾーンから戻り、電流を記録することで、マイナス電位でのスキャンを継続する工程、
- 負電位走査のカソードゾーンで起こる還元反応により、酸化グラフェンをグラフェンに変換する工程、
- 同時にスキャンされた電位作動範囲でフタロシアニン化合物をグラフェンに共有結合させ、進行中のサイクルの間、結合を強化する工程、及び、
- 印加電位範囲に基づいて得られた共有結合したフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料を電極表面に得るか、または溶液中に粉末状で堆積させる工程であって、
電極として作製したフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料が共有結合した電極表面を超純水に浸漬して洗浄し、室温(18℃~30℃)で乾燥する、または、
粉末として調製した共有結合したフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料を直接超純水で洗浄し、20℃~100℃で乾燥する。
【0022】
以上、基本的な工程を時系列的に示したフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料の製造方法において、任意に、適用時の電位範囲に応じて得られた共有結合したフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料を電極表面に得ることができる。本願では、電解質として調製した共有結合したフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料を表面に有する電極を超純水に浸漬し、洗浄した後、室温(18℃~30℃)で乾燥する。化学薬品を使用しないため、余分な精製工程を必要とせず、純水のみで洗浄が可能であることが理解できる。また、高温を必要とせず、室温で乾燥させることができるため、間接的にエネルギー消費量を削減することができる。
【0023】
第二の選択肢として、適用中の電位範囲に応じて得られる共有結合したフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料は、粉末の形態で溶液中に堆積させることができる。この用途では、粉末として調製された共有結合フタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料は、超純水で直接洗浄され、20℃~100℃の温度で乾燥される。
【0024】
電極表面にハイブリッド材料が形成され、粉末状のハイブリッド材料が製造された結果、2つの異なる材料が得られる主な違いは、印加する電位差とサイクル数が異なることである。電極として作製した共有結合型フタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料に印加する電位スキャンは(-2.0V)および(+4.0V)の範囲であり、適用する変化サイクル数は1~200(連続して記録された交流ボルタンモグラムの数)の範囲である。粉体として調製した共有結合フタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料に印加した電位スキャンは(-3.0V)および(+6.0V)の範囲であり、適用した変化サイクルの数は1~500(連続して記録された交流ボルタンモグラムの数)の範囲である。電極表面に形成された材料は、印加された過電位((-3.0V)と(+6.0V))と強化されたサイクル数(1-500の範囲の変化サイクル数)で、粉末状のままサポート電解液媒体に流し込まれる。このようにして、粉末状の物質が生成される。より低い電位((-2,0V)と(+4,0V))とサイクル数(1~200サイクルの範囲でサイクル数を変化)の場合、グラフェン形成と同時にフタロシアニン化合物が共有結合し、電極表面にハイブリッド材料が形成される。
【0025】
したがって、本発明の一実施形態では、共有結合したフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料を粉末状材料として調製するために、グラファイト電極における電位スキャンを、0.001V/s~1.0V/sの範囲のスキャン速度で、((-3,0V)~(+6,0V))の範囲で行い、サイクル数を1~500の範囲とする。
【0026】
したがって、本発明の別の実施形態では、共有結合したフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料の表面に存在する電極を調製するために、グラファイト電極における電位スキャンを、0.001V/s~1.0V/sの範囲のスキャン速度で、((-2.0V)~(+4.0V))の範囲で行い、サイクル数を1~200の範囲とする。
【0027】
本発明の方法では、グラフェン系電極を作用電極として使用し、Ag/AgCl、カロメルおよび/またはHg/HgSO4を参照電極として使用し、白金(Pt)電極を対極として使用する。
【0028】
本発明によるフィタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料の製造方法において、電解液は、0.0001M~5.0Mの濃度範囲のモノプロトン酸およびポリプロトン酸、塩および塩基からなる群から選択される酸溶液と、0.000001M~3.0Mの濃度範囲の異なる官能基を有する可溶性フタロシアニン化合物とから調製される。好ましくは、電解液は、0.001M~5.0Mの濃度範囲の酸溶液と、0.000001M~1.0Mの濃度範囲の異なる官能基を有する可溶性フタロシアニン化合物とから調製される。
【0029】
本発明の方法で使用される酸は、HCl、HNO3、H2SO4、H3PO4、H3BO3、HClO4から選択される1つ以上の酸であり、塩基は、NaOH、KOH、NH4、Na2CO3から選択される1つ以上の塩基であり、塩は、KCl、NaCl、LiClO4、K2HPO4、KH2PO4、Na2HPO4、NaH2PO4、Na2SO4から選択される1つ以上の塩である。
【0030】
フタロシアニン化合物は大環状分子である。置換基を持たない化合物(可溶性の官能基を持たない化合物)は溶解性が極めて低い。これらの化合物は、溶解性の低いフタロシアニン環に、異なる官能基からなる-R基を結合させることにより、水や有機溶媒に溶解するようになる。これらの-R基は、-OH、-COOH、-SO3、NH2、アルキル基、アルコキシ基、長鎖アルキル基、エーテル基、チオアゾール基などの基を含む官能基である。本発明の方法においては、ここで規定される-R基を有する官能基を有するフタロシアニン化合物が使用される。
【0031】
本発明のフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料の製造方法の例示的な適用では、以下の工程が適用される:
- 電解質として所定濃度の酸溶液(モノプロトン酸、ポリプロトン酸、塩、塩基からなる溶液)に、0.000001M~3.0Mの濃度範囲のフタロシアニン化合物(官能基の異なる可溶性フタロシアニン化合物)を添加して溶液系を調製し、電極を有する電気化学製造装置にグラファイト作用電極を浸漬し、電極の電気的接続を行う工程、
- グラファイト電極に所定の正電位スキャン((-3.0V)-(+6.0V))を所定のスキャン速度(0.001V/s-1.0V/s)で行い、電流を記録する工程、
- 電位スキャン中にマイナスゾーンからプラスゾーンに切り替わるとき、アノードゾーンで、プラス電位で酸化反応を実現する工程、
- アノード領域で起こる酸化反応により、グラファイト電極を酸化グラフェンに変換する工程、
- アノードゾーンでの酸化反応後、プラス電位ゾーンから戻ってマイナス電位でスキャンを続け、電流を記録する工程、
- 負電位スキャンによるカソードゾーンでの還元反応により、酸化グラフェンをグラフェンに変換する工程、
- 同時にスキャンされた電位作動範囲でフタロシアニン化合物をグラフェンに共有結合させ、進行中のサイクルの間、結合を強化する工程、
- 所望により電極表面に印加電位範囲に基づいて得られた共有結合したフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料を得、これを溶液中に粉末の形態で堆積させる工程、
- 電極として作製され、表面に共有結合したフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料を有する電極を超純水に浸漬して洗浄し、室温で乾燥する工程、
- 粉末として調製した共有結合したフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料を超純水で直接洗浄し、20℃~100℃で乾燥する工程。
【0032】
本発明方法の最も重要な利点は、グラファイト電極表面にフタロシアニン-グラフェンハイブリッド材料を同時に製造できることである。また、グラファイト電極表面に同時に得られた共有結合グラフェンとフタロシアニンハイブリッド材料を含む電極は、印加電位とサイクル数により、溶液媒体中に析出させて粉末状の材料を得ることができる。
【0033】
本発明の方法によって提供されるもう一つの利点は、製造された粉体および電極材料を洗浄工程中に超純水で洗浄することである。
【0034】
本発明の新規な(特定の)特徴は、グラファイト電極表面でスキャンした電位作動範囲でスキャンプロセスを開始することにより、グラフェン系材料の形成中にフタロシアニン化合物を構造体に同時に共有結合させ、サイクル数、印加時間、印加する電位および電流範囲に応じて制御された方法で、ハイブリッド材料の電極または粉末形態を所望のように提供することである。
【国際調査報告】