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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-16
(54)【発明の名称】脳梗塞治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/407 20060101AFI20240708BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240708BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240708BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240708BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240708BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240708BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240708BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20240708BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240708BHJP
【FI】
A61K31/407
A61P25/00
A61P9/10
A61K9/08
A61K47/26
A61K47/18
A61K47/34
A61K47/28
A61K47/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023570055
(86)(22)【出願日】2022-05-10
(85)【翻訳文提出日】2023-11-10
(86)【国際出願番号】 US2022028488
(87)【国際公開番号】W WO2022240810
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2021079820
(32)【優先日】2021-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524201848
【氏名又は名称】ジーシン ファーマシューティカルズ ホンコン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ニシムラ、ナオコ
(72)【発明者】
【氏名】ハスミ、ケイジ
(72)【発明者】
【氏名】ホンダ、カズオ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB13
4C076CC01
4C076CC11
4C076DD50
4C076DD67
4C076DD68
4C076DD70
4C076EE23
4C086AA01
4C086CB22
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA36
(57)【要約】
脳梗塞患者において、SMTP-7(化合物I)またはその塩を使用する安全かつ有効な療法及び医薬組成物を提供する。SMTP-7(化合物I)またはその薬理学的に許容される塩を含有する脳梗塞治療用医薬組成物であって、SMTP-7(化合物I)またはその塩として、1~6mg/kgの用量で投与される、医薬組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の構造を有する化合物Iまたはその塩を含有する脳梗塞治療用医薬組成物であって、前記化合物Iとして、1~6mg/kgの用量で対象に投与される、前記医薬組成物。
【化1】
【請求項2】
前記化合物Iとして、1mg/kgの用量で対象に投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記化合物Iとして、3mg/kgの用量で対象に投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記化合物Iとして、6mg/kgの用量で対象に投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
脳梗塞発症12時間以内に対象に投与される、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
脳梗塞発症から3~12時間後に対象に投与される、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
脳梗塞発症から4.5~12時間後に対象に投与される、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
出血を引き起こすリスクがある対象に投与される、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記出血は、頭蓋内または頭蓋外出血である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
部分閉塞を含む血管閉塞を伴う脳梗塞を患っている対象に投与される、請求項1~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
静脈内投与される、請求項1~10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
1日1回、好ましくは単回投与で投与される、請求項1~11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
ボーラスとして投与された後、連続投与される、請求項1~12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
1分間かけて静脈内投与された後、30分間かけて点滴静注される、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
血栓溶解剤の投与または物理的血栓除去術が困難または不可能である対象に投与され得る、請求項1~14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記血栓溶解剤は、組織プラスミノーゲン活性化因子である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記脳梗塞は、アテローム血栓性/塞栓性脳梗塞、心原性脳梗塞、またはラクナ性脳梗塞である、請求項1~16のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
単回投与量の化合物Iまたはその塩が、薬理学的に許容される担体と共に、密封容器に収容される、請求項1~17のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
20mg~1000mgの化合物Iまたはその塩が、薬理学的に許容される担体と共に、密封容器に収容される、請求項1~18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
式(I)の構造を有する化合物Iまたはその塩を含有する脳梗塞治療用医薬組成物であって、脳梗塞発症12時間以内に対象に投与される、前記医薬組成物。
【化2】
【請求項21】
脳梗塞発症から3~12時間後に対象に投与される、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
脳梗塞発症から4.5~12時間後に対象に投与される、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記化合物Iとして、1~6mg/kgの用量で対象に投与される、請求項20~22のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記化合物Iとして、1mg/kgの用量で対象に投与される、請求項20~22のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記化合物Iとして、3mg/kgの用量で対象に投与される、請求項20~22のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記化合物Iとして、6mg/kgの用量で対象に投与される、請求項20~22のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項27】
出血を引き起こすリスクがある対象に投与される、請求項20~26のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項28】
前記出血は、頭蓋内または頭蓋外出血である、請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項29】
部分閉塞を含む血管閉塞を伴う脳梗塞を患っている対象に投与される、請求項20~28のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項30】
静脈内投与される、請求項20~29のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項31】
1日1回、好ましくは単回投与で投与される、請求項20~30のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項32】
ボーラスとして投与された後、連続投与される、請求項20~31のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項33】
1分間かけて静脈内投与された後、30分間かけて点滴静注される、請求項32に記載の医薬組成物。
【請求項34】
血栓溶解剤の投与または物理的血栓除去術が困難または不可能である対象に投与され得る、請求項20~33のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項35】
前記血栓溶解剤は、組織プラスミノーゲン活性化因子である、請求項34に記載の医薬組成物。
【請求項36】
前記脳梗塞は、アテローム血栓性/塞栓性脳梗塞、心原性脳梗塞、またはラクナ性脳梗塞である、請求項20~35のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項37】
式(I)の構造を有する化合物Iまたはその塩を含有する脳梗塞治療用医薬組成物であって、前記組成物は、脳梗塞の閉塞血管を再開通する、前記医薬組成物。
【化3】
【請求項38】
式(I)の構造を有する化合物Iまたはその塩を含有する脳梗塞治療用医薬組成物であって、前記組成物は、出血を引き起こすリスクがある対象に投与される、前記医薬組成物。
【化4】
【請求項39】
脳梗塞における出血を引き起こすリスクを低減する医薬組成物であって、式(I)の構造を有する化合物Iまたはその塩を含有する、前記医薬組成物。
【化5】
【請求項40】
式(I)の構造を有する化合物Iまたはその塩を含有する脳梗塞治療用医薬組成物であって、前記組成物は、脳梗塞後の自立生活を改善する、前記医薬組成物。
【化6】
【請求項41】
自立生活の改善の指標は、投与後90日目のmRS(修正ランキンスケール)の結果が0~1である、請求項32に記載の医薬組成物。
【請求項42】
自立生活の改善の指標は、投与後90日目のmRS(修正ランキンスケール)の結果が0~2である、請求項40に記載の医薬組成物。
【請求項43】
式(I)の構造を有する化合物Iまたはその塩を含有する脳梗塞治療用医薬組成物であって、前記組成物は、脳梗塞患者の血栓を溶解する作用を有する、前記医薬組成物。
【化7】
【請求項44】
式(I)の構造を有する化合物Iまたはその塩を含有する脳梗塞治療用医薬組成物であって、前記組成物は、出血性副作用のリスクが低い、前記医薬組成物。
【化8】
【請求項45】
前記出血性副作用は、症候性頭蓋内出血である、請求項44に記載の医薬組成物。
【請求項46】
塩基性添加剤及び両親媒性添加剤のいずれか一方または両方を含む、請求項1~45のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項47】
前記塩基性添加剤は、アミノ糖、アルカノールアミン、及びトロメタモール塩からなる群から選択される1種以上、好ましくはメグルミン、トリエタノールアミン、及びトロメタモール塩酸塩からなる群から選択される1種以上であり、前記両親媒性添加剤は、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、ウルソデソシコール酸、ソルビタン脂肪酸エステル、及びデソキシコール酸ナトリウムからなる群から一種以上、好ましくはポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、及びポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートからなる群から選択される1種以上である、請求項46に記載の医薬組成物。
【請求項48】
化合物Iは、式(II)で表されるSMTP-7である、請求項1~47のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【化9】
【請求項49】
脳梗塞は、虚血性脳卒中である、請求項1~48のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項50】
前記脳梗塞が急性脳梗塞であるか、または前記虚血性脳卒中が急性虚血性脳卒中である、請求項49に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年5月10日に出願された日本特許出願第2021-079820号の優先権を主張し、その開示は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、有効成分として、特定の用量のSMTP-7を含有する脳梗塞治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
脳梗塞は先進国の主要な死因の1つである。たとえ命が助けられたとしても、麻痺などの後遺障害が残る可能性が高い。脳梗塞は、閉塞部位を再開通させることで確実に治療される。しかしながら、脳梗塞により損傷した部位に血流が供給されることにより、出血性脳梗塞が引き起こされ、生命や機能予後が悪化される可能性がある。
【0004】
脳梗塞急性期において閉塞された血管の再開通する治療として、血栓溶解剤を静脈内投与する血栓溶解療法、rt-PA、血管内手術による物理的血栓除去術が知られている。現在、第一選択薬として使用されているrt-PAは、発症から4.5時間後に患者に投与され得る。この薬剤は、強い血栓溶解効果を示すが、出血性副作用を引き起こす可能性が高い。適用タイミング以外にも厳格な制約がある。投与可能患者の割合は、脳梗塞患者全体の10%未満である。rt-PAを適用することができる場合でも、数パーセントの患者に重篤な頭蓋内出血性副作用が発症し、逆に病態が悪化する場合もある。
【0005】
血管内手術は、限られた施設でしか行うことができず、外科手術が適用される条件は、主要動脈閉塞である。患者の80~90パーセントは、条件を満たしておらず、適用範囲外である。再灌流異常により、rt-PA治療を受けた患者と同様に、経時的に出血する可能性が高い。その際、血栓溶解作用のみならず、頭蓋内出血を抑制する作用を有する薬剤が開発されれば、適用可能な対象の数が増加し、副作用を低減することができる。本発明の薬剤は、革新的な脳梗塞治療剤となるであろう。
【0006】
トリプレニルフェノール骨格を有し、糸状菌によって産生される化合物群を指すSMTP(Stachybotrys Microsporaトリプレニルフェノール)化合物は、血栓溶解促進作用及び血管新生阻害作用を示すことが知られている(特許文献1~3)。SMTP化合物は、プラスミノーゲンの構造変化を誘発し、その結果として、血栓溶解を促進する。そのため、過剰なプラスミン産生の誘発を回避することが可能であり、出血性副作用を発症するリスクが軽減される(非特許文献1)。さらに、SMTP化合物は、可溶性エポキシ加水分解酵素(sEH)を阻害することにより、抗炎症活性(非特許文献2)及び抗酸化活性を生じさせ、脳保護作用をもたらす。本発明者らは、動物モデルを用いた実験を行った結果、SMTP化合物の1つであるSMTP-7が脳梗塞の治療に有効であることを既に確認した(特許文献4)。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、脳梗塞患者において、SMTP-7(化合物I)またはその塩を使用する安全かつ有効な療法及び医薬組成物を提供することである。
【0008】
本発明者らは、SMTP-7(化合物I)を健常者及び脳梗塞患者に投与するという臨床試験を実施した。結果として、本発明者らは脳梗塞患者に対するSMTP-7の安全かつ有効な投与量を見出した。
【0009】
本発明は、上記の臨床試験の結果に基づくものであり、下記の[1]~[50]に関する。
[1]下記式(I)で表される化合物Iまたはその塩を含有する脳梗塞治療用医薬組成物であって、前記化合物Iとして、1~6mg/kgの用量で対象に投与される、前記医薬組成物。
【化1】
【0010】
[2]前記化合物Iとして、1mg/kgの用量で対象に投与される、[1]に記載の医薬組成物。
【0011】
[3]前記化合物Iとして、3mg/kgの用量で対象に投与される、[1]に記載の医薬組成物。
【0012】
[4]前記化合物Iとして、6mg/kgの用量で対象に投与される、[1]に記載の医薬組成物。
【0013】
[5]脳梗塞発症12時間以内に対象に投与される、[1]~[4]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0014】
[6]脳梗塞発症から3~12時間後に対象に投与される、[1]~[4]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0015】
[7]脳梗塞発症から4.5~12時間後に対象に投与される、[1]~[4]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0016】
[8]出血を引き起こすリスクがある対象に投与される、[1]~[7]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0017】
[9]前記出血は、頭蓋内または頭蓋外出血であって、前記頭蓋内出血は、例えばNIHSSスコアが4点以上悪化する症候性頭蓋内出血または頭蓋内出血などの頭蓋内出血である、[8]に記載の医薬組成物。
【0018】
[10]部分閉塞を含む血管閉塞を伴う脳梗塞を患っている対象に投与される、[1]~[9]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0019】
[11]前記組成物は、静脈内投与される、[1]~[10]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0020】
[12]1日1回、好ましくは単回投与で投与される、[1]~[11]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0021】
[13]ボーラスとして投与された後、連続投与される、[1]~[12]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0022】
[14]1分間かけて静脈内投与された後、30分間かけて点滴静注される、[13]に記載の医薬組成物。
【0023】
[15]血栓溶解剤の投与または物理的血栓除去術が困難または不可能である対象に投与され得る、[1]~[14]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0024】
[16]前記血栓溶解剤は、組織プラスミノーゲン活性化因子である、[15]に記載の医薬組成物。
【0025】
[17]前記脳梗塞は、アテローム血栓性/塞栓性脳梗塞、心原性脳梗塞、またはラクナ性脳梗塞である、[1]~[16]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0026】
[18]単回投与量の化合物Iまたはその塩が、薬理学的に許容される担体と共に、密封容器に収容される、[1]~[17]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0027】
[19]20mg~1000mgの化合物Iまたはその塩が、薬理学的に許容される担体と共に、密封容器に収容される、[1]~[18]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0028】
[20]化合物Iまたはその塩を含有する医薬組成物であって、脳梗塞発症12時間以内に対象に投与される、前記医薬組成物。
【0029】
[21]脳梗塞発症から3~12時間後に対象に投与される、[20]に記載の医薬組成物。
【0030】
[22]脳梗塞発症から4.5~12時間後に対象に投与される、[20]に記載の医薬組成物。
【0031】
[23]前記化合物Iとして、1~6mg/kgの用量で対象に投与される、[20]~[22]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0032】
[24]前記化合物Iとして、1mg/kgの用量で対象に投与される、[20]~[22]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0033】
[25]前記化合物Iとして、3mg/kgの用量で対象に投与される、[20]~[22]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0034】
[26]前記化合物Iとして、6mg/kgの用量で対象に投与される、[20]~[22]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0035】
[27]出血を引き起こすリスクがある対象に投与される、[20]~[26]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0036】
[28]前記出血は、頭蓋内または頭蓋外出血であって、前記頭蓋内出血は、例えばNIHSSスコアが4点以上悪化する症候性頭蓋内出血または頭蓋内出血などの頭蓋内出血である、[27]に記載の医薬組成物。
【0037】
[29]部分閉塞を含む血管閉塞を伴う脳梗塞を患っている対象に投与される、[20]~[28]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0038】
[30]静脈内投与される、[20]~[29]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0039】
[31]1日1回、好ましくは単回投与で投与される、[20]~[30]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0040】
[32]ボーラスとして投与された後、連続投与される、[20]~[31]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0041】
[33]1分間かけて静脈内投与された後、30分間かけて点滴静注される、[32]に記載の医薬組成物。
【0042】
[34]血栓溶解剤の投与または物理的血栓除去術が困難または不可能である対象に投与され得る、[20]~[33]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0043】
[35]前記血栓溶解剤は、組織プラスミノーゲン活性化因子である、[34]に記載の医薬組成物。
【0044】
[36]前記脳梗塞は、アテローム血栓性/塞栓性脳梗塞、心原性脳梗塞、またはラクナ性脳梗塞である、[20]~[35]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0045】
[37]化合物Iまたはその塩を含有する脳梗塞治療用医薬組成物であって、前記組成物は、脳梗塞の閉塞血管を再開通する(前記組成物が閉塞血管再開通剤である)、前記医薬組成物。
【0046】
[38]化合物Iまたはその塩を含有する脳梗塞治療用医薬組成物であって、前記組成物は、出血を引き起こすリスクがある対象に投与される、前記医薬組成物。
【0047】
[39]脳梗塞における出血を引き起こすリスクを低減する医薬組成物であって、化合物Iまたはその塩を含有する、前記医薬組成物。
【0048】
[40]化合物Iまたはその塩を含有する脳梗塞治療用医薬組成物であって、前記組成物は、脳梗塞後の自立生活を改善する、前記医薬組成物。
【0049】
[41]自立生活の改善の指標は、投与後90日目のmRS(修正ランキンスケール)の結果が0~1である、[40]に記載の医薬組成物。
【0050】
[42]自立生活の改善の指標は、投与後90日目のmRS(修正ランキンスケール)の結果が0~2である、[40]に記載の医薬組成物。
【0051】
[43]化合物Iまたはその塩を含有する脳梗塞治療用医薬組成物であって、前記組成物は、脳梗塞患者の血栓を溶解する作用を有する、前記医薬組成物。
【0052】
[44]化合物Iまたはその塩を含有する脳梗塞治療用医薬組成物であって、前記組成物は、出血性副作用のリスクが低い、前記医薬組成物。例えば、従来の脳梗塞薬(例えば、tPA)と比較して出血性副作用のリスクが低い。
【0053】
[45]前記出血性副作用は、症候性頭蓋内出血である、[44]に記載の医薬組成物。
【0054】
[46]塩基性添加剤及び両親媒性添加剤のいずれか一方または両方を含む、[1]~[45]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0055】
[47]前記塩基性添加剤は、アミノ糖、アルカノールアミン、及びトロメタモール塩からなる群から選択される1種以上、好ましくはメグルミン、トリエタノールアミン、及びトロメタモール塩酸塩からなる群から選択される1種以上であり、前記両親媒性添加剤は、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、ウルソデソシコール酸、ソルビタン脂肪酸エステル、及びデソキシコール酸ナトリウムからなる群から一種以上、好ましくはポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、及びポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートからなる群から選択される1種以上である、[46]に記載の医薬組成物。
【0056】
[48]化合物Iは、式(II)で表されるSMTP-7である、[1]~[47]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【化2】
【0057】
[49]前記脳梗塞は、虚血性脳卒中である、[1]~[48]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0058】
[50]前記虚血性脳卒中は、急性虚血性脳卒中である、[49]に記載の医薬組成物。
【0059】
[37]~[45]に記載の医薬組成物は、[1]~[19]により定義された1つ以上の特徴を有し得る。
【0060】
他の態様によると、本発明では、以下の[1]~[43]が提供される。
【0061】
[1]下記式(I)で表される化合物Iまたはその塩を対象に投与することを含む脳梗塞の治療方法であって、化合物Iまたはその塩は、前記化合物Iとして、1~6mg/kgの用量で投与される、前記方法。
【化3】
【0062】
[2]前記化合物Iとして、前記化合物Iまたはその塩が1mg/kgの用量で対象に投与される、[2]に記載の方法。
【0063】
[3]前記化合物Iとして、前記化合物Iまたはその塩が3mg/kgの用量で対象に投与される、[2]に記載の方法。
【0064】
[4]前記化合物Iとして、前記化合物Iまたはその塩が6mg/kgの用量で対象に投与される、[2]に記載の方法。
【0065】
[5]前記対象は、脳梗塞発症12時間以内の対象である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の方法。
【0066】
[6]前記対象は、脳梗塞発症3~12時間後の対象である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の方法。
【0067】
[7]前記対象は、脳梗塞発症4.5~12時間後の対象である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の方法。
【0068】
[8]前記対象は、出血を引き起こすリスクがある対象である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の方法。
【0069】
[9]前記出血は、頭蓋内または頭蓋外出血であって、前記頭蓋内出血は、例えばNIHSSスコアが4点以上悪化する症候性頭蓋内出血または頭蓋内出血などの頭蓋内出血である、[8]に記載の方法。
【0070】
[10]前記対象は、部分閉塞を含む血管閉塞がある対象を含む、[1]~[9]のいずれか1つに記載の方法。
【0071】
[11]化合物Iまたはその塩は、静脈内投与される、[1]~[10]のいずれか1つに記載の方法。
【0072】
[12]化合物Iまたはその塩を、1日1回、好ましくは単回投与される、[1]~[11]のいずれか1つに記載の方法。
【0073】
[13]化合物Iまたはその塩は、ボーラスとして投与された後、連続投与される、[1]~[12]のいずれか1つに記載の方法。
【0074】
[14]化合物Iまたはその塩は、1分間かけて静脈内投与された後、30分間かけて点滴静注される、[13]に記載の医薬組成物。
【0075】
[15]前記対象は、血栓溶解剤の投与または物理的血栓除去術が困難または不可能である対象を含む、[1]~[14]のいずれか1つに記載の方法。
【0076】
[16]前記血栓溶解剤は、組織プラスミノーゲン活性化因子である、[15]に記載の方法。
【0077】
[17]前記脳梗塞は、アテローム血栓性/塞栓性脳梗塞、心原性脳梗塞、またはラクナ性脳梗塞である、[1]~[16]のいずれか1つに記載の方法。
【0078】
[18]化合物Iまたはその塩を対象に投与することを含む脳梗塞の治療方法であって、前記対象は、脳梗塞発症から12時間以内の対象である、前記方法。
【0079】
[19]前記対象は、脳梗塞発症3~12時間後の対象である、[18]に記載の方法。
【0080】
[20]前記対象は、脳梗塞発症4.5~12時間後の対象である、[18]に記載の方法。
【0081】
[21]化合物Iまたはその塩は、前記化合物Iとして、1~6mg/kgの用量で対象に投与される、[18]~[20]のいずれか1つに記載の方法。
【0082】
[22]化合物Iまたはその塩は、前記化合物Iとして、1mg/kgの用量で対象に投与される、[18]~[20]のいずれか1つに記載の方法。
【0083】
[23]化合物Iまたはその塩は、前記化合物Iとして、3mg/kgの用量で対象に投与される、[18]~[20]のいずれか1つに記載の方法。
【0084】
[24]化合物Iまたはその塩は、前記化合物Iとして、6mg/kgの用量で対象に投与される、[18]~[20]のいずれか1つに記載の方法。
【0085】
[25]前記対象は、出血を引き起こすリスクがある対象である、[18]~[24]のいずれか1つに記載の方法。
【0086】
[26]前記出血は、頭蓋内または頭蓋外出血であって、前記頭蓋内出血は、例えばNIHSSスコアが4点以上悪化する症候性頭蓋内出血または頭蓋内出血などの頭蓋内出血である、[25]に記載の方法。
【0087】
[27]前記対象は、部分閉塞を含む血管閉塞がある、[18]~[26]のいずれか1つに記載の方法。
【0088】
[28]化合物Iまたはその塩は、静脈内投与される、[18]~[27]のいずれか1つに記載の方法。
【0089】
[29]化合物Iまたはその塩を、1日1回、好ましくは単回投与される、[18]~[28]のいずれか1つに記載の方法。
【0090】
[30]化合物Iまたはその塩は、ボーラスとして投与された後、連続投与される、[18]~[29]のいずれか1つに記載の方法。
【0091】
[31]化合物Iまたはその塩は、1分間かけて静脈内投与された後、30分間かけて点滴静注される、[30]に記載の方法。
【0092】
[32]前記対象は、血栓溶解剤の投与または物理的血栓除去術が困難または不可能である対象を含む、[18]~[31]のいずれか1つに記載の方法。
【0093】
[33]前記血栓溶解剤は、組織プラスミノーゲン活性化因子である、[32]に記載の方法。
【0094】
[34]前記脳梗塞は、アテローム血栓性/塞栓性脳梗塞、心原性脳梗塞、またはラクナ性脳梗塞である、[18]~[33]のいずれか1つに記載の方法。
【0095】
[35]化合物Iまたはその塩を対象に投与することを含む、閉塞した血管の再開通方法。
【0096】
[36]化合物Iまたはその塩を対象に投与することを含む脳梗塞の治療方法であって、前記対象は、出血性リスクのある対象である、前記方法。
【0097】
[37]化合物Iまたはその塩を対象に投与することを含む、脳梗塞における出血性リスクの低減方法。
【0098】
[38]化合物Iまたはその塩を対象に投与することを含む、脳梗塞後の自立生活を改善させる方法。あるいは、化合物Iまたはその塩を対象に投与することを含む脳梗塞の治療方法であって、脳梗塞後の自立生活を改善する、前記方法。
【0099】
[39]自立生活の改善の指標は、投与後90日目のmRS(修正ランキンスケール)の結果が0~1である、[38]に記載の方法。
【0100】
[40]自立生活の改善の指標は、投与後90日目のmRS(修正ランキンスケール)の結果が0~2である、[38]に記載の方法。
【0101】
[41]化合物Iまたはその塩を投与することを含む、脳梗塞患者の血栓溶解方法。あるいは、化合物Iまたはその塩を投与することを含む脳梗塞の治療方法であって、脳梗塞患者の血栓を溶解させる、前記方法。
【0102】
[42]化合物Iまたはその塩を対象に投与することを含む脳梗塞の治療方法であって、出血性副作用のリスクが低い、前記方法。例えば、従来の脳梗塞薬(例えば、tPA)と比較して出血性副作用のリスクが低い。
【0103】
[43]前記出血性副作用は、症候性頭蓋内出血である、[42]に記載の方法。
【0104】
[35]~[43]に記載の方法は、[1]~[17]により定義された1つ以上の特徴を有し得る。
【0105】
本発明によると、安全かつ効果的にSMTP-7を利用して脳梗塞を治療することが可能である。特に、従来の血栓溶解剤を適用できない脳梗塞患者を、新たな薬物療法で治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
図1】健常者に対するプラシーボ対照ランダム化二重盲検試験(第I相試験)のフローチャートを示す。
図2】ラット、サル、及びヒトにおいて比較した血漿TMS-007の薬物動態学的パラメータを示す。
図3】サル及びヒトにおける薬物動態パラメータ(血漿TMS-007濃度、Cmax、AUC)を示す。
図4】ヒト(健常者)の薬物動態パラメータを示す。
図5】脳梗塞患者の単回投与試験(第II相試験)における対象の詳細を示す。
図6】脳梗塞患者の単回投与試験(第II相試験)における解析対象集団の詳細を示す。
図7】プラシーボ群と、(TMS-007の1mg投与群)FAS群との間の投与後90日目のmRSオリジナルスコアを示す。
図8】プラシーボ群と、(TMS-007の3mg投与群)FAS群との間の投与後90日目のmRSオリジナルスコアを示す。
図9】プラシーボ群と、(TMS-007の6mg投与群)FAS群との間の投与後90日目のmRSオリジナルスコアを示す。
図10】プラシーボ群と、(TMS-007併用群)FAS群との間の投与後90日目のmRSオリジナルスコアを示す。
図11】治験薬の投与開始31分後、すなわちPK解析対象集団において、異なる用量群における血漿薬物濃度の箱ひげ図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0107】
本明細書において、数値範囲をA「~」Bと表現する場合、「~」の前後の数値をそれぞれ下限値及び上限値として含める。
【0108】
本明細書において、組成物の成分の量が記載されているとき、その成分に対応する複数の物質が組成物中に存在する場合、特に明記しない限り、その量は、組成物中に存在する物質の総量を指す。
【0109】
本明細書において、基(原子団)が記載されるとき、「置換された」及び「置換されていない」のいずれの記載も見出されない場合、置換基を有する基及び置換基を有さない基の両方を含むものとする。例えば、「アルキル基」には、置換基を有さないアルキル基(置換されていないアルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換されたアルキル基)も含まれる。
【0110】
本明細書において、「ステップ」という用語は、独立したステップだけでなく、他のステップと明確に区別できない場合でも、そのステップで目的の作業が達成できる限り、区別がつかないステップも含む。
【0111】
本明細書において、「質量%」及び「重量%」とは互換的に用いられ、「質量部」及び「重量部」とは互換的に用いられる。
本明細書において、「質量平均分子量(Mw)」及び「数平均分子量(Mn)」という用語は、特に明記しない限り、TSKgel GMHxL、TSKgel G4000HxL、またはTSKgel G2000HxL(いずれもTohso Corporationの商品名である)のカラム、及び溶媒THF(テトラヒドロフラン)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置によって分離され、標準物質として用いたポリスチレンに基づく計算を通して示差屈折計によって検出した分子量を指す。
【0112】
1.医薬組成物
(1)有効成分
本発明の医薬組成物は、式(I)で表される化合物Iを含有し、具体的には、有効成分として、式(II)で表されるSMTP-7を含む。

【化4】

化学名:2,5-ビス-[8-(4,8-ジメチル-ノナ-3,7-ジエニル)-5,7-ジヒドロキシ-8-メチル-3-オキソ-3,6,7,8-テトラヒドロ-1H-9-オキサ-2-アザシクロペンタ[a]ナフタレン-2-イル]-ペンタン酸
分子式:C516810
分子量:869.09
【化5】

化学名:(S)-2,5-ビス((2S,3S)-2-((E)-4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエン-1-イル)-3,5-ジヒドロキシ-2-メチル-7-オキソ-3,4,7,9-テトラヒドロピラノ[2,3-e]イソインドール-8(2H)-イル)ペンタン酸
分子式:C516810
分子量:868.49
【0113】
化合物Iは、薬学的に許容される塩の形態で存在し得る。塩酸、臭化水素、硫酸、硝酸、リン酸、またはクエン酸などの無機酸、ギ酸、フマル酸、リンゴ酸、酢酸、コハク酸、酒石酸、メタンスルホン酸、またはp-トルエンスルホン酸などの有機酸、ナトリウム、カリウム、カルシウム、またはマグネシウムなどのアルカリ金属及びアルカリ土類金属、塩基性アミン及び塩基性アミノ酸は、化合物Iの塩の形成に好適に使用される。
【0114】
化合物Iの好適な塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、及びマグネシウム塩が挙げられる。ナトリウム塩及びカリウム塩が好ましく、ナトリウム塩が最も好ましい。
【0115】
化合物Iは、化学的に合成されてもよく、または精製により、Stachybotrys microsporeなどの糸状菌の培養物から得てもよい。化合物Iの製造方法は、例えば、特開第2004-224737号、特開第2004-224738号、及び国際公開WO2007/111203に記載されている。
【0116】
化合物Iは、エナンチオマー、ジアステレオマー、エナンチオマーの混合物、またはジアステレオマーの混合物であってよい。そのようなエナンチオマー、ジアステレオマー、エナンチオマーの混合物、またはジアステレオマーの混合物は、化学合成によって得てもよく、または精製により、糸状菌の培養物から得てもよい。化合物Iを糸状菌から得る場合、主にL-オルニチンを糸状菌の培地に添加することによって得ることができる。
【0117】
化合物Iは、血栓溶解効果、抗炎症効果、及び抗酸化効果を有する。その結果、化合物Iは、血栓溶解効果に加え、細胞保護効果及び神経保護効果を発揮し、脳梗塞などの虚血性障害に対して予防または治療効果を奏する。
【0118】
(2)組成/剤形
本発明の医薬組成物において、医薬組成物の全質量に対する化合物Iの含有量は、好ましくは1質量%~80質量%、より好ましくは5質量%~60質量%、さらに好ましくは5質量%~50質量%である。
【0119】
本発明の医薬組成物は、静脈内製剤(注射剤)である。静脈内製剤には、無菌水溶液もしくは非水溶媒、懸濁液、または乳化剤が含まれる。水溶媒の例としては、注射用蒸留水及び食塩水が挙げられる。非水溶媒の例としては、エタノールなどのアルコール類が挙げられる。本発明の医薬組成物は、等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、または溶解助剤などの薬学的に許容される担体をさらに含有し得る。
【0120】
好ましくは、本発明の医薬組成物は、塩基性添加剤及び/または両親媒性添加剤を含有する。
【0121】
塩基性添加物の例としては、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、及びトリイソプロパノールアミンなどのアルカノールアミン;トロメタモール(トリヒドロキシメチルアミノメタン)またはその塩;グリシンなどのアミノ酸;及びメグルミンなどのアミノ糖が挙げられる。これらの中でも、アミノ糖、アルカノールアミン、及びトロメタモール塩からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく含有され、メグルミン、トリエタノールアミン、及び塩酸トロメタモールからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましく含有され、メグルミン及び塩酸トロメタモールの少なくとも1種がさらに好ましく含有され、メグルミンがさらに好ましく含有される。
【0122】
塩基性添加剤の含有量は、医薬組成物の全質量に対して、好ましくは0.1質量%~60質量%、より好ましくは1質量%~40質量%、さらに好ましくは2質量%~30質量%である。
【0123】
使用可能な両親媒性添加剤としては、アニオン性両親媒性添加剤、カチオン性両親媒性添加剤、両性両親媒性添加剤、及び非イオン性両親媒性添加剤のいずれか1種を使用し得る。これらの中でも、非イオン性両親媒性添加剤が好ましい。
【0124】
非イオン性両親媒性添加剤としては、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、ウルソデソキシコール酸、ソルビタン脂肪酸エステル、及びデソキシコール酸ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、及びポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートからなる群から選択される少なくとも1種、ポリオキシエチレンヒマシ油、またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油がより好ましく、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が特に好ましい。
【0125】
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油に含有されるオキシエチレン単位の総数は、特に限定するものではないが、好ましくは2~150、より好ましくは10~100である。
【0126】
上記の両親媒性添加剤が含まれる場合、医薬組成物の全質量に対する両親媒性添加剤の含有量は、1質量%~80質量%が好ましく、5質量%~70質量%がより好ましく、5質量%~60質量%がさらに好ましい。
【0127】
本発明の好ましい医薬組成物は、化合物Iのナトリウム塩、メグルミン、及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有する。
【0128】
本発明の医薬組成物は、無菌水溶液または非水溶媒を含有し得る。水溶媒の例としては、注射用蒸留水及び食塩水が挙げられる。非水溶媒の例としては、エタノールなどのアルコール類が挙げられる。これらの以外に、本発明の医薬組成物は、等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、pH調節剤(例えば、塩酸、水酸化ナトリウム)、または溶解助剤などの薬理学的に許容される担体をさらに含有し得る。
【0129】
医薬組成物が他の添加剤を含有する場合、医薬組成物の剤形によって異なるが、医薬組成物の総質量に対する他の添加剤の含有量は、好ましくは0.1質量%~80質量%、より好ましくは1質量%~60質量%である。例えば、使用時に調製される凍結乾燥注射製剤の場合、医薬組成物の全質量に対する他の添加剤(希釈用注射剤の質量を除く)の含有量は、好ましくは0.1質量%~80質量%、より好ましくは1質量%~60質量%である。
【0130】
本発明の医薬組成物は、使用時に調製される製剤であってもよく、すぐに使える製剤であってもよい。例えば、医薬組成物は、化合物Iまたはその塩を、薬理学的に許容される担体と共にアンプルまたはシリンジに入れて気密に密封することにより得られた製剤であり得る。
【0131】
本発明の医薬組成物は、上記に記載の塩基性添加剤及び両親媒性添加剤に加えて、無菌水溶液または非水溶媒を含有し得る。水溶媒の例としては、注射用蒸留水及び食塩水が挙げられる。非水溶媒の例としては、エタノールなどのアルコール類が挙げられる。これらの以外に、本発明の医薬組成物は、等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、または溶解助剤などの薬理学的に許容される担体をさらに含有し得る。
【0132】
2.対象(有効性/効果)
本発明の医薬組成物は、脳梗塞の予防または治療に用いられ、特に脳梗塞の治療に用いられる。
【0133】
本発明の医薬組成物が標的とする脳梗塞(脳血栓症及び脳塞栓症を含む)としては、発症から12時間以内の脳梗塞を含む。
【0134】
本発明の医薬組成物は、従来の再灌流療法が容易に適用されないまたは適用不可能な対象に適用し得る。従来の再灌流療法の例としては、血栓溶解剤の投与及び物理的血栓除去術(経皮経管的脳血栓除去術)が挙げられる。
【0135】
血栓溶解剤の例としては、ウロキナーゼ、プロウロキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)、ナサルプラーゼ、及びストレプトキナーゼが挙げられる。t-PAは、天然に存在するt-PAであってもよく、組換えt-PAであってもよい。現在臨床で利用可能なt-PAは、全てが組換えt-PA(rt-PA)であって、例えば、アルテプラーゼ、チソキナーゼ、パミテプラーゼ、ならびにテネクテプラーゼ及びデスモテプラーゼなどの現在開発中のrt-PAが挙げられる。
【0136】
血栓溶解剤を脳梗塞に適用する場合、血栓溶解剤の投与期間が制限される。例えば、ウロキナーゼは、発症から6時間以内に適用されなければならず、t-PAは、発症から4.5時間以内(例えば、日本において)または3時間以内(例えば、米国において)に適用されなければならない。本発明の医薬組成物は、投与期間が長いため、従来の血栓溶解剤を適用できない患者、例えば、脳梗塞発症から3~12時間後、または4.5~12時間後の患者に好適に適用可能である。発症時刻が明確に分からない場合には、最も直近の無症状時刻(患者に症状が発現していないと確認された最も直近の時刻)を発症時刻とみなすことに留意されたい。
【0137】
本発明の医薬組成物は、血栓溶解剤の投与中に禁忌症状または徴候が現れたため、血栓溶解剤の投与が中止された患者に適用され得る。禁忌徴候の例としては、出血性素因、出血、高血圧、及び血糖障害が挙げられる。また、本発明の医薬組成物は、頭蓋内出血のリスクが高いことから血栓溶解剤を投与することができない脳梗塞患者に適用され得る。
【0138】
本発明の医薬組成物は、経皮経管的脳血栓除去装置を用いて、血栓除去術前後に適用し得る。
【0139】
脳梗塞は、原因に応じて、ラクナ性脳梗塞、心原性脳梗塞、及びアテローム血栓性脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞及びアテローム塞性脳梗塞)に大別される。本発明の医薬組成物は、脳梗塞のいずれか1種に適用し得る。脳梗塞は、虚血性脳卒中と互換的に用いられる。急性脳梗塞は、急性虚血性脳卒中と互換的に用いられる。虚血性脳卒中は、通常、急性虚血性脳卒中であり、全ての脳卒中のほぼ90%を占める。
【0140】
3.用法及び用量
本発明の医薬組成物の用量は、特に限定されないが、好ましくは、成人に対して、化合物I(遊離形態)当量で1~6mg/kgの範囲内である。用量は、1~6mg/kgの範囲内である限り制限されない。用量は、1~3mg/kg、3~6mg/kg、1mg/kg、3mg/kg、及び6mg/kgのいずれか1つであってよい。
【0141】
投与頻度は、特に限定されないが、1日に1回または複数回であってよい。複数回投与の間隔及び期間は、臨床所見、画像所見、血液学的所見、併存疾患、及び病歴に応じて当業者によって選択され得る。
【0142】
本発明の医薬組成物の投与経路は、特に限定されないが、好ましくは静脈内投与である。
【0143】
本発明の医薬組成物、より具体的には、単回投与量の化合物Iまたはその塩が、薬理学的に許容される担体と共に密閉した容器に収容され得る。単回投与は、体重1kg当たりの用量に患者の体重を乗じることによって得ることができる。通常、単回投与は、体重1kg当たりの用量(例えば、1~6mg/kg)に成人平均体重(例えば、50kg、60kg、70kg)を乗じることによって得ることができる。例えば、体重1kg当たりの用量が1~6mg/kgであり、かつ成人平均体重が60kgである場合、単回投与は、60~360mg(化合物I(遊離形態)当量で)となる。
【0144】
本発明の医薬組成物において、化合物Iまたはその塩は、柔軟な制御を可能にするために、単回投与(標準用量)よりも10%、20%、30%多い量で、薬理学的に許容される担体と共に密封容器に収容され得る。あるいは、化合物Iまたはその塩の1/2回投与を、薬理学的に許容される担体と共に密封容器に収容させてもよい。言い換えれば、本発明の医薬組成物において、20mg~1000mgの化合物Iまたはその塩を、薬理学的に許容される担体と共に密封容器に収容させることができ、好ましくは30~900mgの化合物Iまたはその塩、より好ましくは40~800mgの化合物Iまたはその塩を、薬理学的に許容される担体と共に密封容器に収容させることができる。
【0145】
本発明の医薬組成物の投与方法は、限定されないが、化合物Iの単回投与を最初にボーラスとして投与し、続いて連続投与する。例えば、単回投与の10%をボーラスとして投与し、続いてその用量の90%を30分~1時間かけて点滴により投与する方法を用いることができる。通常、1分間かけて静脈内投与を実施し、続いて30分間かけて点滴する。
【0146】
繰り返し投与の場合、発症直後、発症してから12時間以内、及び1日1回7日間投与することが好ましい。1時間当たり1分かけて静脈内投与を実施し、続いて30分かけて点滴することが好ましい。
【0147】
本発明の医薬組成物は、本発明の目的に反しない場合、他の薬剤と組み合わせて使用してもよい。以上のように、本発明の医薬組成物は、血栓溶解剤を適用できない患者に投与され得る。しかしながら、本明細書では、血栓溶解剤との併用を禁止することは意図されていない。したがって、本発明の医薬組成物を、血栓溶解剤、血小板凝集阻害剤、及び血液凝固阻害剤(抗凝固剤)と組み合わせて用いてもよい。
【0148】
脳梗塞発症後、一部の患者は、血管の損傷(例えば再灌流中に)により出血する可能性が高い。しかしながら、本発明の医薬組成物は、出血状態への移行を効果的に防止し、出血傾向を低減させる。
【0149】
本発明の医薬組成物は、従来の脳梗塞薬または療法(例えば、tPA)に比べて出血リスクを低減させる。特に、症候性頭蓋内出血などの頭蓋内出血のリスクが、従来の療法よりも低い。臨床第II相試験(後述)には、NIHSSスコアが4点以上悪化する症候性頭蓋内出血が示されている。
【0150】
脳梗塞に対する根本的な治療は、閉塞部位の再開通であるが、予め形成された脳梗塞部位への血流の再供給により、出血性脳梗塞が誘発され、生命・機能予後が悪化する可能性がある。これはジレンマ事例である。脳梗塞急性期の閉塞血管を再開通する治療に使用される第1選択薬であるtPAは、強い血栓溶解効果を有するが、出血性副作用を引き起こす可能性が高い。本発明の医薬組成物は、従来の脳梗塞薬(例えば、tPA)に比べて出血性副作用(例えば、症候性頭蓋内出血)を引き起こすリスクが低い。本発明の医薬組成物は、血栓溶解能を有するので、閉塞血管が再開通され、脳梗塞患者の症状が改善される。したがって、本発明の医薬組成物は、頭蓋内または頭蓋外出血などの出血性リスクがある対象、及び部分閉塞を含む血管閉塞を伴う脳梗塞を患う対象に投与され得る。
【0151】
3.脳梗塞の治療または予防方法
本発明は、本発明の医薬組成物または化合物Iもしくはその塩を、それを必要とする患者に投与することを含む、脳梗塞の治療または予防方法を提供する。医薬組成物(化合物Iまたはその塩)の用量、投与間隔、投与期間、及び投与方法は、本発明の医薬組成物の記載に示されたものと同様である。当該方法は、対象に出血を引き起こすリスクを低減し、部分閉塞を含む閉塞血管を再開通させることを特徴とする。
【0152】
本発明はまた、本発明の医薬組成物または化合物Iもしくはその塩を、それを必要とする患者に投与することを含む、脳梗塞により閉塞した血管を再開通させる方法を提供する。
【0153】
本発明はまた、本発明の医薬組成物または化合物Iもしくはその塩を、それを必要とする患者に投与することを含む、脳梗塞後の自立生活を改善させる方法を提供する。自立生活の改善は、例えば、投与後90日目のmRS(修正ランキンスケール)の結果が0~1または投与後90日目のmRS(修正ランキンスケール)の結果が0~2であることに基づいて評価され得る。
【0154】
本発明の医薬組成物を投与することにより、脳梗塞が改善される。さらに、脳梗塞に伴う神経症状、脳梗塞に伴う日常生活能力障害、及び脳梗塞に伴う機能不全からなる群から選択される少なくとも1つを改善し得る。
【実施例
【0155】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、特に明記しない限り、「%」は質量%を表す。
【0156】
参考例1:ラットへの2週間反復投与による毒性試験
麻酔も拘束もしない条件下で、ラット(12匹の雄及び12匹の雌)に、TMS-007(そのナトリウム塩の調製)を2.4、12、及び60mg/kg(30分かけて連続的に)の用量で2週間にわたって1日1回繰り返しかつ静脈内投与した。繰り返し投与を完了した翌日、ラットを解剖した。その結果、ラットに対する繰り返し投与による毒性試験のNOAELは60mg/kg以上と判定された。
【0157】
参考例2:カニクイザルへの2週間反復投与による毒性試験
麻酔も拘束もしない条件下で、カニクイザル(1群当たり3匹の雄及び1群当たり3匹の雌)に、TMS-007(そのナトリウム塩の調製)を3、10、及び30mg/kg(30分かけて連続的に)の用量で2週間にわたって1日1回繰り返しかつ静脈内投与した。繰り返し投与を完了した翌日、カニクイザルを解剖した。その結果、カニクイザルに対する繰り返し投与による毒性試験のNOAELは、雄群及び雌群両方で10mg/kg以上と判定された。
【0158】
実施例1:健常者に対するプラシーボ対照ランダム化二重盲検試験(第I相試験)
1.試験方法
健康な成人の男性に対して第I相試験(プラシーボ対照ランダム化二重盲検試験)を実施した。それぞれ8名(実薬を6名に投与し、プラシーボを2名に投与)で構成された5つのコホートを試験に用いた。TMS-007(SMTP-7ナトリウム塩製剤)またはプラシーボを、1回に0.05、0.25、1、3、及び6mg/kg(当量)の用量で31分間かけて静脈内投与した(1分間かけてボーラス+30分間かけて連続投与)。スクリーニング試験に適格すると判断された対象を、投与前日に入院させた。投与完了から3日目、対象を退院させた。投与が完了してから7日目に、安全性、耐性、及びPKを確認するために、事後(追跡)調査を行った。この試験のフローチャートを図1に示す。
【0159】
2.結果
観察された有害事象は、全て非重篤/軽度/回復性であった。
【0160】
個々のコホートのCmax値(0.05、0.25、1、3、及び6mg/kgの投与)は、それぞれ0.346±0.026、1.86±0.15、6.70±1.44、20.3±2.8、及び49.9±5.2μg/mLであった。個々のコホートのAUC0~24値は、それぞれ15.1±1.7、83.1±11.7、301±73、959±154、及び2330±330μg・min/mLであった。TMS-007の血中濃度は、投与後に急激に増加し、投与完了直後31分にピークに達し、その後にTMS-007は、血液から急速に消失した。血液中のTMS-007の半減期は、用量に関係なく、全て約10~15分であった。尿中のTMS-007の変化形態は、いずれか1つのコホートでも観察されなかった。薬物動態(PK)データは、図2及び3に示されており、一方で、薬力学(PD)データは、図4に示されている。
【0161】
上記のように、TMS-007を用量漸増試験で1回静脈内投与した場合、健常者では出血性リスクの徴候が観察されなかった。安全性及び耐性などについて、満足できる結果を得た。PK及びPDプロファイルにおいて目立った問題は見られなかった。
【0162】
3.検討
例えば、マウス、ラット、及びサルを用いた薬理試験において、TMS-007は、1~10mg/kgの用量で梗塞領域の減少及び神経症状の改善などの薬効を有することが既に判明された。TMS-007をラット及びサルに投与した場合のCMAX値及びAUC0-24値は次の通りであった。ラットでは、Cmax及びAUC0~24の値が、それぞれ20.2μg/mL及び1540μg・分/mLであった(雄のラットにおける反復投与試験開始日の12mg/kg用量群の平均値)。サルでは、Cmax及びAUC0~24の値が、それぞれ45.8~58.6μg/mL及び1930~2410μg・分/mLであった(雄のサルにおける拡張型単回投与試験及び反復投与試験(第1の日)の10mg/kg用量群の平均値)。
【0163】
以上より、ヒトにおけるTMS-007の薬効は1~6mg/kgの用量で得られることが期待される。第II相試験では、上記の安全性結果及び予想される治療用量に基づいて、用量を1、3、及び6mg/kgに設定した。
【0164】
実施例2:脳梗塞患者に対する単回投与試験(第II相試験)
1.試験方法
(1)臨床試験設計
ランダム化、二重盲検、プラシーボ対照、単回投与、静脈内投与、群間の並行、及び用量漸増レジメン
【0165】
(2)対象
発症から12時間以内の脳梗塞患者を対象とする。次の選択基準及び除外基準にしたがって、試験対象(90人の患者:第1のコホート:9、第2のコホート:27、第3のコホート:54)を決定する。
選択基準:
1)本臨床試験への参加に十分な説明を受け、その後インフォームド・コンセントを書き込んだ者(代理人によるインフォームド・コンセントを含む)
2)脳梗塞の症状を有する20歳以上88歳未満の日本人男性、及び60歳以上88歳未満の日本人女性
3)体重が30kg以上である者
4)脳梗塞の発症が確認された時刻または最も直近の無症状時刻から12時間以内に治験薬の投与を受けることができる者
5)登録の審査時のNIHSSスコアが6以上23以下であると判定された者
6)登録の審査時のMRI(DWI)-ASPECTS値(11ポイント法)が5以上であると判定された者
除外基準:
臨床症状/臨床試験:
1)医師がrt-PAの投与または血管内治療を受けるのに適切であると判断した者
2)出血:
a.出血している者(頭蓋内出血、胃腸出血、尿路出血、後腹膜出血、喀血)
b.くも膜下出血が疑われる者
c.投与前の血小板数が100,000個/mm以下の者
d.投与前のプロトロンビン時間国際標準化比(PT-INR)が2.6以上である者
3)血圧:
a.投与前に降圧療法を適切に適用した場合でも、収縮期血圧が185mmHg以上または拡張期血圧が110mmHg以上である者
4)血糖:
a.投与前の血糖レベルが50mg/dL未満または400mg/dL超である者
5)病理学:
a.投与前のMRIで観察された広範囲の初期虚血性変化(脳実質の吸収値がわずかに低下したかまたは脳溝の消失)を有する者
b.投与前のMRIで観察された正中面偏差などの変位を有する者
c.発症時にてんかんの疑いのある発作がある者
d.軽度の脳梗塞症状を有する患者または急速に進む重度の脳梗塞症状を有する者
e.発症前のmRSが2以上である者
f.第3のコホートにおいて、医師が登録の審査時に得た臨床的データ及び画像データに基づいて内頸動脈の急性完全閉塞を疑う者
疾患の状態、病歴、妊娠の状態:
6)治験薬の投与前一月以内に頭蓋内出血の既往歴、または治験薬の投与時に頭蓋内腫瘍、脳動静脈奇形、脳動脈瘤、または大動脈解離があった者
7)治験薬の投与前1月以内に頭蓋内または脊髄の外科手術もしくは損傷、または過去に脳梗塞を患った既往歴があった者
8)治験薬投与前14日以内に消化管出血または尿路出血の既往歴があった者
9)治験薬投与前7日以内に大手術を受けた者
10)重篤な肝障害を有する者
11)急性膵臓炎を患う者
12)治験薬投与前7日以内に過去に重篤な外傷を受けた者
13)急性心筋梗塞または心筋梗塞後の心膜炎も併発している者
14)重篤な悪性腫瘍がある者
15)妊娠中の者(妊娠疑いのある者の場合、血液中または尿中のhCGに基づく妊娠検査を行う)
アレルギー及び薬物有害反応:
16)臨床的に重要な薬物過敏症または試験される薬物の成分に対する過敏症の既往歴がある者
嗜好品/薬歴:
17)3ヶ月以内に他の臨床試験に参加し、かつ治験薬(プラシーボを含む)を受けた者
その他:
18)インフォームド・コンセントを提供しない者(妊娠回避予防措置に対するインフォームド・コンセントを含む)
19)健康保険に入っていない者
20)追跡調査を受けることができない者
21)ペースメーカー、動脈瘤クリップ、またはインプラントデバイスの使用、閉所恐怖症などの理由でMRIスキャンを適用することができない者
22)例えば、治験の主治医により不適切であると判断された者
(3)研究された薬物
試験薬(TMS-007(SMTP-7ナトリウム塩製剤))
対照薬(プラシーボ)
【0166】
(4)投与スケジュール
発症から12時間以内に急性脳梗塞の患者に、TMS-007(SMTP-7ナトリウム塩製剤)またはプラシーボを1回静脈内投与した(1分間かけてボーラス+30分間かけて連続注射)。プラシーボを投与すべき患者の数に対する、実薬(TMS-007ナトリウム塩製剤)を投与すべき患者の数の比を、以下の表1に示すように、第1のコホート及び第2のコホートでは2:1に、第3のコホートでは1:1とする。
【表1】
【0167】
(5)用量漸増及び中止基準
用量漸増を決定するための項目は、安全項目、NIHSS、脳MRI、バイタルサイン、及び必要に応じて、治験薬の投与後7日目までの個々のコホート内の全ての対象のPKデータである。安全項目において問題が発見された場合には、次のコホートでの用量を減少させるか否か、または次のコホートへの移行を取り消すか否かを考慮する。用量の減少程度は、基本的には、次のコホートの推定用量の20%であり、最大50%とすることができる。
【0168】
以下のいずれか1つの状況が満たされる場合には、スケジュールされた次のコホートへの移行をキャンセルする。必要であれば、用量の変更を考慮し得る。
1)治験薬との因果関係の有無にかかわらず、コホート1において4人以上、コホート2において8人以上、コホート3において16人以上が死亡した場合
2)治験薬との因果関係の有無にかかわらず、24時間以内にNIHSSスコアが4点以上悪化する症候性頭蓋内出血の発生頻度が、コホート1において4回以上、コホート2において11回以上、コホート3において22回以上である場合
3)独立データモニタリング委員会から中断勧告を受けた場合
【0169】
なお、86歳以上の高齢者に対しては、安全性をさらに評価する。
【0170】
(6)エンドポイント
一次エンドポイント
TMS-007の投与後24時間までのNIHSSスコアが4点以上悪化する症候性頭蓋内出血の発生頻度
二次エンドポイント
試験期間における全体死亡率
投与後7日目までの安全性(例えば、頭蓋外出血、大出血)
投与後24時間以内の症候性頭蓋内出血及び非症候性頭蓋内出血
投与後90日目のmRS値
投与後24時間後のMRA画像で観察された再開通率
TMS-007を投与したときのPK(TMS-007、Cmax、AUCの非変化形態の濃度、)
その他
(7)解析対象集団
安全性解析対象集団:治験薬が投与された対象
有効性解析対象集団:FASを主要な解析対象集団とし、PPS対象集団の解析に基づき感度を解析する
-FAS(最大の解析対象集団)対象集団:治験薬の投与を受けており、臨床試験プロトコールで定義された有効性評価データがある対象
-PPS(プロトコールを遵守した対象集団)対象集団:臨床試験プロトコールから逸脱しないFASの対象
PK解析対象集団:適切に治験薬の投与を受けており、血漿中のTMS-007濃度が適切に測定される対象
PD解析対象集団:適切に治験薬の投与を受けており、血液マーカーが適切に測定される対象
【0171】
対象の詳細は、図5に示されており、解析対象集団の詳細は、図6に示されている。
【0172】
安全性解析対象集団の背景情報として、性別、合併症の有無、脳梗塞のサブタイプ(疾患の種類)、脳血管再開通/閉塞状態、年齢、体重、PT-INR値、NIHSSスコア、DWI-ASPECTSスコア、発症後経過時間、収縮期血圧、及び拡張期血圧を解析したが、TMS-007(1、3、6mg/kg)群、TMS-007併用群、及びプラシーボ群では統計的に有意な差は認められなかった。
【0173】
TMS-007(1、3、6mg/kg)群、TMS-007併用群、及びプラシーボ群における対象の平均年齢は、それぞれ66.3歳、71.1歳、74.1歳、72.3歳、及び72.3歳であった。それらの発症後の平均時間は、それぞれ9.16時間、9.21時間、9.76時間、9.50時間、及び9.33時間であった。全ての対象(90例)に、発症から3~12時間以内にTMS-007を投与し、次いで90例のうちの88例に4.5~12時間以内にTMS-007を投与した。
【0174】
2.1安全性
安全性解析対象集団に関して、TMS-007群ではNIHSSスコアが4点以上悪化する症候性頭蓋内出血が観察されておらず、プラシーボ群では1/38例(2.6%)の割合で観察された。個々のTMS-007群、併用群、及びプラシーボ群の、NIHSSスコアが4点以上悪化する症候性頭蓋内出血の発生頻度をFisherの正確確率検定により比較した。その結果、いずれも統計的に有意ではなかった。これは、プラシーボ群と比較して、TMS-007が、投与後24時間まで、NIHSSスコアが4点以上悪化する症候性頭蓋内出血を促進しないことを示唆した。PPS対象集団でも同様の結果が得られた。
【0175】
安全性解析対象集団では、投与後7日目までの大出血の発生頻度は、TMS-007群及びプラシーボ群のどちらでも観察されなかった。PPS対象集団でも同じ結果が得られた。
【0176】
安全性解析対象集団に関して、TMS-007群では投与後24時間以内の症候性頭蓋内出血が観察されておらず、プラシーボ群では2/38例(5.3%)の割合で観察された。個々のTMS-007群、併用群、及びプラシーボ群の、24時間以内の症候性頭蓋内出血の発生頻度をFisherの正確確率検定により比較した。その結果、いずれも統計的に有意ではなかった。これは、プラシーボ群と比較して、TMS-007が、投与後24時間以内の症候性頭蓋内出血を促進しないことを示唆した。PPS対象集団でも同様の結果が得られた。
【0177】
安全性解析対象集団に関して、TMS-007(1、3、6mg/kg)群及びプラシーボ群における試験期間(90日目まで)中の全死亡率は、それぞれ0/6例(0.0%)、1/18例(5.6%)、0/28例(0.0%)、及び2/38例(5.3%)であった。TMS-007併用群の全死亡率は、1/52例(1.9%)であった。個々のTMS-007群、併用群、及びプラシーボ群の全死亡率を、Fisherの正確確率検定によって比較した。その結果、いずれも統計的に有意ではなかった。これは、TMS-007が、プラシーボ群と比較して試験期間(90日目まで)中の全死亡率を促進しないことを示唆した。PPS対象集団でも同様の結果が得られた。
【0178】
試験期間(90日目まで)中の個々のTMS-007群、併用群、及びプラシーボ群の、有害事象、重篤な有害事象、副作用、重篤な副作用、及び中断に繋がる有害事象の発生頻度を、Fisherの正確確率検定により比較した。その結果、いずれも統計的に有意ではなかった。PPS対象集団でも同様の結果が得られた(図8)。
【0179】
2.2有効性
(1)mRS
FAS群では、TMS-007(1,3,6mg/kg)群、併用群、及びプラシーボ群のmRS0~1比は、それぞれ3/6例(50.0%)、7/18例(38.9%)、11/28例(39.3%)、21/52例(40.4%)、7/38例(18.4%)であった。PPS対象集団でも同様の結果が得られた。FAS群では、TMS-007(1,3,6mg/kg)群、併用群、及びプラシーボ群のmRS0~2比は、それぞれ4/6例(66.7%)、9/18例(50.0%)、15/28例(53.6%)、28/52例(53.8%)、14/38例(36.8%)であった。
【0180】
FAS群では、投与後90日目(Day90)の個々の用量群のmRS評価(mRS0~1には1が割り当てられ、mRS2~6には0が割り当てられる)に対して、反応、用量群(TMS-007併用群及びプラシーボ群)、ベースライン上のmRS、NIHSSスコア、年齢、血圧(収縮期血圧)を説明変数として使用するロジスティックモデルを適用し、プラシーボ群に対するTMS-007併用群のオッズ比及び95%信頼区間を推定した。TMS-007用量群をプラシーボ群に対する用量群として用いることで、同様の推定を行った。より具体的には、プラシーボ群に対する個々のTMS-007用量群のオッズ比及び95%の信頼区間を推定した。
【0181】
結果を図7~10及び表2~4に示す。mRSの切片推定値は、それぞれ-6.193及び-6.434であった。プラシーボ群のmRSに対する用量群のmRSのオッズ比は0.299であり、その95%信頼区間は0.099~0.902であった。これは、用量群のmRSがプラシーボ群よりも統計的に有意に低い(治療効果がある)ことを示唆した。プラシーボ群のmRSに対するTMS-007群のmRSのオッズ比及び95%信頼区間(括弧内に記載)は、TMS-007(1mg/kg)用量群では0.088(0.010~0.787)、TMS-007(3mg/kg)用量群では0.484(0.120~1.945)、TMS-007(6mg/kg)用量群では0.299(0.083~1.072)であった。これらの値は、プラシーボ群に対するこれらの用量群のオッズ比1よりも小さいため、治療効果があることを示唆した。特に、用量群の値(1mg/kg)は、統計的に有意な差を示す。これは、治療効果があることを示唆した。
【表2】

【表3】
【0182】
なお、投与後90日目のmRS0~2の結果が得られた割合(以下に示す)は、統計的に有意な差を示さない値であって、結果的に、TMS-007の有効性が示唆された値であった。
【表4】
【0183】
(2)再開通率
再開通率をMRAによって評価した。登録時に閉塞が観察され、2日目に「開通」または「部分開通」したと観察された患者(39例)を、再開通症例として評価した。再開通症例の比は、TMS-007投与群では14/21例(58.3%)であり、プラシーボ群では4/15例(26.7%)であった。このことから、TMS-007投与群での改善が観察された(オッズ比:4.23、95%信頼区間CI:0.99、18.07)。
【0184】
上述した通り、TMS-007は、1~6mg/kgの用量では、発症から12時間以内の急性脳梗塞患者に対して安全かつ有効であることが確認された。
【0185】
2.3薬物動態(PK)
PK解析対象集団では、プラシーボ群以外の用量群に対して計数/解析を行った。治験薬の投与から31分後のTMS-007(1、3、6mg/kg)群(以下、同様の順番で記載)の血漿TMS-007濃度(元のスケール値、平均±標準偏差)は、それぞれ7.294±1.472、29.28±8.425、及び52.19±12.76μg/mLであり、投与してから2時間後の血漿TMS-007濃度は、それぞれ0.1379±0.09777、0.8970±0.5752、及び3.033±2.924μg/mLであった。治験薬の投与開始31分後の血漿中濃度値(対数換算値)について、用量間の差は、用量を因子として使用する一元配置分散分析によって評価された。その結果、p値は0.0001未満であり、差は統計的に有意であった。
【0186】
治験中の新薬の投与開始31分後、新薬の血漿TMS-007濃度の用量比例性を評価したところ、パワーモデルの回帰式の傾きbの点推定値(両面95%信頼区間)は、1.042(0.895~1.189)であった。このことから、1~6mg/kgの用量範囲におけるTMS-007の線形性を確認した(図11を参照すること)。
【0187】
3.検討
脳梗塞治療剤として広く使用されているt-PAという薬剤は、主に血栓溶解効果から臨床的有用性を示すものと考えられている。血栓溶解剤としてデスモテプラーゼやテネクテプラーゼなどの他の化合物が開発されており、これらはt-PAと同様のタンパク質である。実際、脳梗塞患者の血栓除去に効果がある低分子化合物は、現在まで知られていない(Mican et al.,Computational and Structural Biotechnology Journal,Vol.17,2019,Pages 917-938;Nikitin et al.,J Stroke.2021;23 (1):12-36)。
【0188】
t-PAという薬剤は、脳梗塞患者の症候性頭蓋内出血を増加させることが知られている。血栓溶解効果を有する他の脳梗塞治療剤候補物質は、頭蓋内出血を促進することが知られている(Wardlaw et al.,Lancet.2012 Jun 23;379(9834):2364-72)。同様に、血栓溶解効果により頭蓋内出血のリスクが高まることが考えられている(Shi et al.,Sci Rep 6,33989(2016);Kvistad et al.,Stroke. Stroke.2019 May;50(5):1279-1281)。しかしながら、脳梗塞患者の臨床試験で実際に得られた上記の結果は、TMS-007がプラシーボ群と比較して症候性頭蓋内出血の発生頻度を増加させないことを実証している。
【0189】
産業上の利用可能性
本発明は、脳梗塞の治療、特に、従来の血栓溶解療法及び血栓除去療法を適用できない脳梗塞患者の治療に有用である。
【0190】
本明細書で引用される全ての刊行物、特許、及び特許出願は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
先行技術文献
特許文献
特許文献1:特開2004-224737
特許文献2:特開2004-224738
特許文献3:WO2007/111203
特許文献4:WO2011/004620
非特許文献
非特許文献1:Takayasu et al.,“Enhancement of fibrin binding and activation of plasminogen by staplabin through induction of a conformational change in plasminogen”FEBS Letter1997;418:58-62
非特許文献2:Matsumoto et al.,“Soluble Epoxide Hydrolase as an Anti-inflammatory Target of the Thrombolytic Stroke Drug SMTP-7”J Biol Chem 2014;289:35826-35838
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】