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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-17
(54)【発明の名称】環状ペプチド免疫調節剤
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/50 20060101AFI20240709BHJP
   A61K 38/12 20060101ALI20240709BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240709BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240709BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240709BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240709BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C07K7/50 ZNA
A61K38/12
A61P35/00
A61P31/12
A61P31/00
A61P43/00 111
A61P35/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575757
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(85)【翻訳文提出日】2024-02-06
(86)【国際出願番号】 US2022032605
(87)【国際公開番号】W WO2022261161
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】63/208,582
(32)【優先日】2021-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.SPAN
(71)【出願人】
【識別番号】391015708
【氏名又は名称】ブリストル-マイヤーズ スクイブ カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BRISTOL-MYERS SQUIBB COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162695
【弁理士】
【氏名又は名称】釜平 双美
(74)【代理人】
【識別番号】100156155
【弁理士】
【氏名又は名称】水原 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(72)【発明者】
【氏名】ワン,タオ
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA18
4C084BA25
4C084BA28
4C084BA32
4C084BA37
4C084CA59
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZB32
4C084ZB33
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA31
4H045EA20
(57)【要約】
本開示は、PD-1/PD-L1およびPD-L1/CD80のタンパク質/タンパク質の相互作用を阻害し、かくしてがんおよび感染症を含む種々の疾患の改善に有用である、新規な大環状ペプチドを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
【化1】
または
【化2】
[式中:
およびRは、H、(C=O)Rまたは(C=O)ORから独立して選択され;
は、H、C-CアルキルまたはC-Cシクロアルキルであって;
はOHまたはO-C-Cアルキルである]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項2】
式:
【化3】
[式中:
はH、(C=O)Rまたは(C=O)ORであり;
は、H、C-CアルキルまたはC-Cシクロアルキルであって;
はOHまたはO-C-Cアルキルである]
で示される、請求項1に記載の化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項3】
式:
【化4】
[式中:
はH、(C=O)Rまたは(C=O)ORであり;
は、H、C-CアルキルまたはC-Cシクロアルキルであって;
はOHまたはO-C-Cアルキルである]
で示される、請求項1に記載の化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項4】
がHであり、RがOHである、請求項2に記載の化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項5】
がHであり、RがOHである、請求項3に記載の化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項6】
請求項1に記載の化合物およびそれ用の医薬的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項7】
免疫応答の強化、刺激、および/または増加を必要とする対象にて、その免疫応答を強化、刺激および/または増加させる方法であって、治療的に効果的な量の請求項1に記載の化合物またはその治療上許容される塩を対象に投与することを含む、方法。
【請求項8】
がん細胞の成長、増殖または転移の阻害を必要とする対象にて、そのがん細胞の成長、増殖または転移を阻害する方法であって、治療的に効果的な量の請求項1に記載の化合物またはその治療上許容される塩を対象に投与することを含む、方法。
【請求項9】
がんが、黒色腫、腎細胞がん、扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)、非扁平上皮NSCLC、結腸直腸がん、去勢抵抗性前立腺がん、卵巣がん、胃がん、肝細胞がん、膵臓がん、頭頸部の扁平上皮細胞がん、食道、胃腸管および乳房のがん、ならびに血液学的悪性腫瘍から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
感染症の治療を必要とする対象にて、その感染症を治療する方法であって、治療的に効果的な量の請求項1に記載の化合物、またはその治療上許容される塩を対象に投与することを含む、方法。
【請求項11】
感染症がウイルスによって引き起こされる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
敗血症性ショックの治療を必要とする対象にて、その敗血症性ショックを治療する方法であって、治療的に効果的な量の請求項1に記載の化合物、またはその治療上許容される塩を対象に投与することを含む、方法。
【請求項13】
対象にて、PD-L1とPD-1および/またはCD80との相互作用を遮断する方法であって、治療的に効果的な量の請求項1に記載の化合物またはその治療上許容される塩を対象に投与することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年6月9日付け出願の米国仮特許出願第63/208,582号の優先権の利益を主張するものであり、その内容のすべてを出典明示により本明細書に組み込むものとする。
【0002】
発明の分野
本開示は、PD-L1と結合し、PD-L1とPD-1およびCD80との相互作用の阻害能を有する大環状化合物を提供する。これらの大環状化合物はインビトロにて免疫調節効果を示し、かくしてそれらはがんおよび感染病を含む種々の疾患を治療するための治療薬の候補となる。
【背景技術】
【0003】
プログラム死1(Programmed Death 1)(PD-1)なるタンパク質は、CD28、CTLA-4、ICOSおよびBTLAをも含む、CD28ファミリーの受容体の阻害メンバーである。PD-1は、B細胞、T細胞、骨髄系細胞の活性化で発現する。
【0004】
PD-1タンパク質は、Ig遺伝子スーパーファミリーの一部である、55kDaのI型膜貫通タンパク質である。PD-1は、膜近位の免疫受容抑制性チロシンモチーフ(ITIM)と、膜遠位のチロシンをベースとするスイッチモチーフとを含有する。構造的にはCTLA-4と類似するが、PD-1はCD80 CD86(B7-2)の結合に不可欠である、MYPPYモチーフを欠く。PD-1についての2つのリガンド、PD-L1(B7-H1)とPD-L2(b7-DC)が同定された。PD-1を発現するT細胞を活性化すると、PD-L1またはPD-L2を発現する細胞との相互作用でダウンレギュレートすることが明らかとなった。PD-L1とPD-L2とは両方共にPD-1に結合するB7タンパク質ファミリーのメンバーであるが、他のCD28ファミリーのメンバーには結合しない。PD-L1リガンドは種々のヒトがんにて豊富に存在する。PD-1とPD-L1とが相互作用することで、腫瘍に浸潤するリンパ球の減少、T細胞受容体を介在した増殖の減少、およびがん細胞による免疫回避がもたらされる。免疫抑制はPD-1とPD-L1との局所的相互作用を阻害することで逆転させることができ、ならびにPD-1とPD-L2との相互作用が遮断されると、その効果は相加的となる。
【0005】
PD-L1はまた、CD80とも相互作用することが示されている。PD-L1/CD80の免疫細胞の発現での相互作用は阻害的な相互作用であることが示されている。この相互作用を遮断すると、この阻害的相互作用が消失することが示されている。
【0006】
PD-1を発現するT細胞がそのリガンドを発現する細胞と接触すると、増殖、サイトカイン分泌、細胞傷害性を含む、抗原刺激に対する機能的活性が低下する。PD-1/PD-L1またはPD-L2相互作用は、感染症や腫瘍の治癒の間に、あるいは自己寛容の発達の間に免疫応答をダウンレギュレートする。腫瘍疾患や慢性感染症で起こるような慢性抗原刺激は、PD-1を高レベルで発現し、慢性抗原に対する活性に関して機能不全に陥ったT細胞をもたらす。これを「T細胞疲弊」と称する。B細胞もPD-1/PDリガンドの抑制および「疲弊」を示す。
【0007】
PD-L1との抗体を用いたPD-1/PD-L1ライゲーションの遮断は、多くの系でT細胞の活性化を回復し、かつ増強することが示されている。進行がんの患者はPD-L1に対するモノクローナル抗体による療法が有益である。腫瘍や慢性感染症の前臨床動物モデルでは、モノクローナル抗体によるPD-1/PD-L1経路の遮断が免疫応答を強化し、腫瘍の拒絶反応または感染症の制御をもたらし得ることが示されている。PD-1/PD-L1遮断を介する抗腫瘍免疫療法は、組織学的に異なる多くの腫瘍に対する治療免疫応答を増強し得る。
【0008】
PD-1/PD-L1相互作用に干渉することは、慢性感染症のシステムにおけるT細胞活性の亢進を引き起こす。PD-L1の惹起を遮断することは、慢性リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス感染のマウスにおいてウイルスクリアランスを改善し、免疫を回復させた。HIV-1に感染したヒト化マウスは、ウイルス血症およびCD4+T細胞のウイルス枯渇に対して防御の強化を示す。PD-L1に対するモノクローナル抗体を介してPD-1/PD-L1を遮断することは、HIV患者のT細胞に対してインビトロでの抗原特異的機能を回復させることができる。
【0009】
PD-L1/CD80相互作用を遮断することも免疫を刺激することが示されている。PD-L1/CD80相互作用の遮断によってもたらされる免疫刺激は、さらなるPD-1/PD-L1またはPD-1/PD-L2相互作用の遮断との併用を通して強化されることが示されている。
【0010】
免疫細胞の表現型の変化は、敗血症性ショックの重要な因子であるという仮説がある。これらは高レベルのPD-1およびPD-L1を包含する。高レベルのPD-1およびPD-L1の敗血症性ショック患者から由来の細胞は、高レベルのT細胞のアポトーシスを示す。PD-L1に対する抗体は、免疫細胞のアポトーシスのレベルを低下させることができる。さらに、PD-1の発現を欠くマウスは、野生型マウスよりも敗血症性ショック症状に対して抵抗性がある。研究により、抗体を用いてPD-L1の相互作用を遮断することで、不適切な免疫反応を抑制し、疾患の徴候を改善し得ることが明らかにされた。
【0011】
慢性抗原に対する免疫学的応答を強化することに加えて、PD-1/PD-L1経路を遮断することは、慢性感染症という状況下にあって、治療的ワクチン接種を含め、ワクチン接種に対する応答を増強することも示されている。
【0012】
PD-1経路は、慢性感染症および腫瘍疾患の間に慢性抗原刺激に起因するT細胞の疲弊における重要な阻害分子である。PD-L1タンパク質を標的としたPD-1/PD-L1相互作用の遮断は、腫瘍または慢性感染症の状況でのワクチン接種に対する応答の強化を含め、インビトロおよびインビボでの抗原特異的T細胞免疫機能を回復させることが示されている。したがって、PD-L1とPD-1またはCD80のいずれかとの相互作用を阻害する薬剤が望まれている。
【発明の概要】
【0013】
本開示は、PD-1/PD-L1およびCD80/PD-L1のタンパク質/タンパク質の相互作用を阻害する大環状化合物であって、かくして、がんおよび感染症を含む、種々の疾患の改善に有用である、化合物を提供する。
【0014】
第1の態様において、本開示は、式(I):
【化1】
または
【化2】
[式中:
およびRは、H、(C=O)Rまたは(C=O)ORから独立して選択され;
は、H、C-CアルキルまたはC-Cシクロアルキルであって;
はOHまたはO-C-Cアルキルである]
で示される化合物、またはその医薬的に許容される塩を提供する。
【0015】
第2の態様において、本開示は、式:
【化3】
[式中:
は、H、(C=O)Rまたは(C=O)ORであり;
は、H、C-CアルキルまたはC-Cシクロアルキルであって;
はOHまたはO-C-Cアルキルである]
で示される化合物、またはその医薬的に許容される塩を提供する。
【0016】
第3の態様において、本開示は、式:
【化4】
[式中:
は、H、(C=O)Rまたは(C=O)ORであり;
は、H、C-CアルキルまたはC-Cシクロアルキルであって;
はOHまたはO-C-Cアルキルである]
で示される化合物、またはその医薬的に許容される塩を提供する。
【0017】
1の実施形態において、本開示は、第1の態様の範囲内にある例示された実施例から選択される化合物、またはその医薬的に許容される塩、互変異性体もしくは立体異性体を提供する。
【0018】
もう一つ別の実施形態では、第1の態様の範囲内にある化合物の任意の下位群の一覧から選択される化合物を提供する。
【0019】
もう一つ別の態様において、本開示は、それを必要とする対象において免疫応答を強化、刺激、および/または増加させる方法であって、治療的に効果的な量の式(I)もしくは式(II)の化合物、またはその医薬的に許容される塩を対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0020】
もう一つ別の態様において、本開示は、対象において、PD-L1とPD-1および/またはCD80との相互作用を遮断する方法であって、治療的に効果的な量の式(I)もしくは式(II)の化合物、またはその医薬的に許容される塩を対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0021】
もう一つ別の態様において、本開示は、それを必要とする対象において免疫応答を強化、刺激、および/または増加させる方法であって、治療的に効果的な量の式(I)もしくは式(II)の化合物、またはその医薬的に許容される塩を対象に投与することを含む、方法を提供する。第2の態様の第1の実施形態において、該方法は、式(I)の化合物、またはその医薬的に許容される塩の前、後、または同時に、付加的な薬剤を投与することをさらに含む。第2の実施形態において、付加的な薬剤は、抗菌剤、抗ウイルス剤、細胞毒性剤、TLR7アゴニスト、TLR8アゴニスト、HDAC阻害剤、および免疫応答調節剤から選択される。
【0022】
もう一つ別の態様において、本開示は、それを必要とする対象におけるがん細胞の成長、増殖または転移を阻害する方法であって、治療的に効果的な量の式(I)もしくは式(II)の化合物またはその医薬的に許容される塩を該対象に投与することを含む、方法を提供する。第3の態様の第1の実施形態において、がんは、黒色腫、腎細胞がん、扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)、非扁平上皮NSCLC、結腸直腸がん、去勢抵抗性前立腺がん、卵巣がん、胃がん、肝細胞がん、膵臓がん、頭頸部の扁平上皮がん、食道、消化管および乳房のがん、ならびに血液学的悪性腫瘍から選択される。
【0023】
もう一つ別の態様において、本開示は、それを必要とする対象において感染症を治療する方法であって、治療的に効果的な量の式(I)もしくは式(II)の化合物、またはその医薬的に許容される塩を該対象に投与することを含む、方法を提供する。第4の態様の第1の実施形態では、感染症はウイルスによって引き起こされる。第2の実施形態では、ウイルスはHIV、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、ヘルペスウイルス、およびインフルエンザから選択される。
【0024】
もう一つ別の態様において、本開示は、それを必要とする対象において敗血症性ショックを治療する方法であって、治療的に効果的な量の式(I)もしくは式(II)の化合物、またはその医薬的に許容される塩を該対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0025】
もう一つ別の態様において、本開示は、対象においてPD-L1とPD-1および/またはCD80との相互作用を遮断する方法であって、治療的に効果的な量の式(I)もしくは式(II)の化合物またはその医薬的に許容される塩を該対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0026】
本開示によれば、本発明者らは、PD-L1に特異的に結合し、PD-L1とPD-1およびCD80との相互作用の阻害能を有するペプチドを見つけた。これらの大環状ペプチドはインビトロにて免疫調節効果を示し、かくしてそれらはがんや感染症を含む種々の疾患を治療するための治療候補剤となる。
【0027】
「特異的結合」または「特異的に結合する」なる語は、タンパク質と、化合物やリガンドなどの結合分子との間の相互作用をいう。相互作用は、結合分子が認識するタンパク質の特定の構造(すなわち、酵素結合部位、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存する。例えば、ある化合物がタンパク質結合部位「A」についての特異的結合基を有する場合、反応において、結合部位Aを含むタンパク質を含有する化合物と、タンパク質の結合部位Aに特異的に結合する標識ペプチドとが存在すると、タンパク質に結合する標識ペプチドの量が減少する。対照的に、タンパク質への化合物の非特異的結合は、タンパク質からの標識ペプチドの濃度依存的な置換を生じさせない。
【0028】
好ましいペプチドには、本明細書で提供される少なくとも1の大環状ペプチドが含まれ、これらのペプチドは医薬組成物および組合せに含まれてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0029】
特に断りのない限り、原子価を満たさないいずれの原子も、原子価を満たすのに十分な水素原子を有するものとする。
【0030】
単数形の「a」、「an」、および「the」は、文脈上そうでない場合を除き、複数形の参照となる語を含む。
【0031】
本明細書で使用される場合、「または」なる語は論理和(すなわち、および/または)であり、「どちらか」、「でなければ」、「代替的に」なる語、および同様の効果を持つ言葉などで明示的に示されない限り、排他的論理和を示すものではない。
【0032】
本明細書で使用する「アルキル」なる語は、例えば1~12個の炭素原子、1~6個の炭素原子、および1~4個の炭素原子を含む、分岐および直鎖の両方の飽和脂肪族炭化水素基をいう。アルキル基の例としては、メチル(Me)、エチル(Et)、プロピル(例えば、n-プロピルおよびi-プロピル)、ブチル(例えば、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、およびt-ブチル)、およびペンチル(例えば、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル)、n-ヘキシル、2-メチルペンチル、2-エチルブチル、3-メチルペンチル、および4-メチルペンチルが挙げられるが、これらに限定されない。記号「C」の後に添え字で数字が付く場合、その添え字は、特定の基が含有しうる炭素原子の数をより具体的に規定する。例えば、「C1-4アルキル」は、1~4個の炭素原子を有する直鎖および分岐鎖のアルキル基を示す。
【0033】
「シクロアルキル」なる語は、本明細書で使用される場合、飽和環炭素原子から1個の水素原子を除去することによって、非芳香族単環式または多環式炭化水素分子から誘導される基をいう。シクロアルキル基の代表例としては、シクロプロピル、シクロペンチル、およびシクロヘキシルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。記号「C」の後の添え字に数字がある場合、その添え字は特定のシクロアルキル基が含む炭素原子の数をより具体的に規定している。例えば、「C3-6シクロアルキル」は、3~6個の炭素原子を有するシクロアルキル基を示す。
【0034】
「ヒドロキシアルキル」なる語は、1または複数のヒドロキシル基で置換された分岐および直鎖の両方の飽和アルキル基を含む。例えば、「ヒドロキシアルキル」には、-CHOH、-CHCHOH、およびC1-4ヒドロキシアルキルが含まれる。
【0035】
本明細書で使用する「アリール」なる語は、芳香環に結合している1個の水素を除去することによって、芳香環を含む分子から誘導される原子群をいう。アリール基の代表例としては、フェニルおよびナフチルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。アリール環は置換されていなくても、原子価が許す限り1または複数の置換基を含んでいてもよい。
【0036】
「ハロ」および「ハロゲン」なる語は、本明細書で使用される場合、F、Cl、Br、またはIをいう。
【0037】
本発明の芳香族環は、-N-、-S-および-O-から選択される0~3個のヘテロ原子を含有してもよい。また、以下に規定のヘテロアリール基を含んでもよい。
【0038】
「ヘテロアリール」なる語は、少なくとも1個の環において少なくとも1個のヘテロ原子(O、SまたはN)を有する、置換および非置換の芳香族5員または6員の単環基および9員または10員二環基をいい、該ヘテロ原子を含有する環は、O、S、および/またはNから独立して選択される1、2、または3個のヘテロ原子を有することが好ましい。ヘテロ原子を含有するヘテロアリール基の各環は、1個もしくは2個の酸素原子もしくは硫黄原子、および/または1ないし4個の窒素原子を含有することができる:ただし、各環中のヘテロ原子の総数は4個以下であり、各環は少なくとも1個の炭素原子を有することとする。二環基を構成する縮合環は芳香族であり、炭素原子のみを含んでもよい。窒素および硫黄原子は、所望により、酸化されていてもよく、窒素原子は、所望により、四級化されてもよい。二環式ヘテロアリール基は芳香族環のみを含まなければならない。ヘテロアリール基は、任意の環の利用可能ないずれの窒素原子または炭素原子に結合していてもよい。ヘテロアリール環系は置換されていなくてもよいし、1または複数の置換基を含有してもよい。
【0039】
例示としての単環式ヘテロアリール基は、ピロリル、ピラゾリル、ピラゾリニル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、イソチアゾリル、フラニル、チオフェニル、オキサジアゾリル、ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、およびトリアジニルを包含する。
【0040】
例示としての二環式ヘテロアリール基は、インドリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾジオキソリル、ベンゾキサゾリル、ベンゾチエニル、キノリニル、テトラヒドロイソキノリニル、イソキノリニル、ベンズイミダゾリル、ベンゾピラニル、インドリジニル、ベンゾフラニル、クロモニル、クマリニル、ベンゾピラニル、シノリニル、キノキサリニル、インダゾリル、およびピロロピリジルを包含する。
【0041】
本明細書で使用される場合、「またはその医薬的に許容される塩」なる語句は、少なくとも1個の化合物、または化合物の少なくとも1個の塩、またはそれらの組み合わせをいう。例えば、「式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩」には、式(I)の化合物、式(I)の2個の化合物、式(I)の化合物の医薬的に許容される塩、式(I)の化合物と式(I)の化合物の1または複数の医薬的に許容される塩、および式(I)の化合物の2個以上の医薬的に許容される塩が含まれるが、これらに限定されない。
【0042】
本明細書で使用される「有害事象」または「AE」とは、医学的治療の使用に付随する、好ましくなく、一般には意図されず、望ましくさえない、いずれかの徴候(実験室での異常な知見を含む)、症状、または疾患である。例えば、有害事象は、治療に応答して免疫系の活性化または免疫系細胞(例えば、T細胞)の増殖に関連することがある。医療行為には1または複数の関連するAEのあることがあり、各AEの重症度は同じまたは異なるとすることができる。「有害事象を改変させる」ことができる方法に言及した場合、それは異なる治療方針の使用に伴う1または複数のAEの発生率および/または重症度を減少させる治療方針を意味する。
【0043】
本明細書で用いる「過剰増殖性疾患」とは、細胞増殖が正常レベルより亢進している状態をいう。例えば、過剰増殖性疾患または障害には、悪性疾患(例えば、食道がん、大腸がん、胆道がん)および非悪性疾患(例えば、アテローム性動脈硬化、良性過形成、および良性前立腺肥大症)が含まれる。
【0044】
「免疫反応」なる語は、例えば、病原体の侵入した人体、病原体に感染した細胞または組織、がん細胞、あるいは自己免疫または病的炎症の場合には、正常なヒト細胞または組織に選択的な損傷を、それらの破壊を、またはそれらからの離脱をもたらす、リンパ球、抗原提示細胞、貪食細胞、顆粒球、可溶性高分子の作用をいう。
【0045】
「プログラム死リガンド1」、「プログラム細胞死リガンド1」、「PD-L1」、「PDL1」、「hPD-L1」、「hPD-LI」、および「B7-H1」なる語は互換的に使用され、ヒトPD-L1の変異体、アイソフォーム、種ホモログ、およびPD-L1と少なくとも1つの共通エピトープを有するアナログを包含する。PD-L1の全配列はGENBANK(登録商標)Accession No. NP054862下で見ることができる。
【0046】
「プログラム死1」、「プログラム細胞死1」、「タンパク質PD-1」、「PD-1」、「PD1」、「hPD-1」および「hPD-I」なる語は互換的に使用され、ヒトPD-1の変異体、アイソフォーム、種ホモログ、およびPD-1と少なくとも1つの共通エピトープを有するアナログを包含する。PD-1の全配列はGENBANK(登録商標)Accession No.U64863下で見ることができる。
【0047】
「治療する」なる語は、疾患、障害、または症状を阻害すること、すなわち、その発症を阻止すること;および(iii)疾患、障害、または症状を緩和すること、すなわち、疾患、障害、および/または症状、および/または疾患、障害、および/または症状に付随する徴候の退行を引き起こすことをいう。
【0048】
本開示は、本発明の化合物中に存在するすべての原子の同位体を包含するものとする。同位体には、原子番号が同じであるが、質量数が異なる、それらの原子が含まれる。一般的な例として、限定はしないが、水素の同位体には重水素と三重水素とが含まれる。炭素の同位体には13Cと14Cとが含まれる。本開示の同位体標識の化合物は、一般に、それ以外では利用される非標識の試薬の代わりに同位体標識された適切な試薬を用いて、当業者に公知の従来技術または本明細書に記載されるプロセスと類似のプロセスによって製造され得る。かかる化合物には、例えば、生物学的活性を測定する際の標体や試薬として、種々の使用の可能性があり得る。安定した同位体の場合には、かかる化合物は生物学的、薬理学的、薬物動態学的特性を有利に修正する可能性がある。
【0049】
本明細書に記載される内容のさらなる態様は、開示の化合物を、リガンド結合アッセイを開発するための、またはインビボでの吸着、代謝、分布、受容体結合もしくは占有、または化合物の体内動態をモニター観察するための放射性標識されたリガンドとして使用することである。例えば、本明細書に記載の大環状化合物を放射性同位体を用いて製造し、得られた放射性標識の化合物を結合アッセイを開発するために、または代謝作用を研究するのに用いることができる。あるいはまた、同じ目的で、本明細書に記載の大環状化合物は、当業者に公知の方法を用いて、触媒によるトリチウム化により放射性標識の形態に変換され得る。
【0050】
本開示の大環状化合物はまた、当業者に公知の方法を用いて、放射性トレーサーを添加することにより、PET造影剤としても使用され得る。
【0051】
当業者であれば、アミノ酸は、一般構造式:
【化5】
[式中:RおよびR’は本明細書に記載されるとおりである]
で表される化合物を包含することを認識している。特記されない限り、本明細書で利用される「アミノ酸」なる語は、単独でまたは別の基の一部として、限定されないが、「α」炭素と称される同じ炭素に連結したアミノ基およびカルボキシル基を含み、ここで、Rおよび/またはR’は、水素を含む、天然または非天然の側鎖であり得る。「α」炭素における絶対的「S」配置は、一般に「L」または「天然」配置と称される。「R」および「R’」(プライム)置換基の両方が同じように水素である場合には、アミノ酸はグリシンであり、キラルではない。
【0052】
特に指定されない場合、本明細書に記載されるアミノ酸はD-またはL-立体化学とすることができ、本開示の他の箇所に記載されるように置換され得る。立体化学が特定されない場合、本開示は、PD-1とPD-L1および/またはCD80とPD-L1との間の相互作用を阻害する能力を有する、すべての立体化学的異性体またはそれらの混合物を包含すると理解すべきである。化合物の個々の立体異性体は、キラル中心を含む市販の出発物質から合成して製造することもできるし、エナンチオマー生成物の混合物を製造し、つづいてジアステレオマーの混合物に変換し、その後で分離または再結晶、クロマトグラフィー技法、またはキラルクロマトグラフィーカラムでエナンチオマーを直接分離するなどの分離を行うことで製造することもできる。特定の立体化学の出発化合物は市販されているか、当技術分野で知られている技術によって製造され、分割され得る。
【0053】
本開示の特定の化合物は、分離可能な異なる安定なコンフォメーション形態で存在し得る。例えば、立体障害または環のひずみのために、非対称な単結合の回りの回転が制限されることに起因するねじれの非対称性が、異なるコンフォーマーの分離を可能にするかもしれない。本開示には、これらの化合物の各配座異性体およびそれらの混合物が含まれる。
【0054】
本開示の特定の化合物は互変異性体として存在でき、これは分子のプロトンがその分子内の異なる原子にシフトする現象によって生成される化合物である。また、「互変異性体」なる語は、平衡状態で存在し、一の異性体からもう一つ別の異性体に容易に変換される2つ以上の構造異性体のうちの1つをいう。本明細書に記載の化合物の互変異性体はすべて本開示に含まれる。
【0055】
本開示の医薬化合物は、1または複数の医薬的に許容される塩を含み得る。「医薬的に許容される塩」とは、親化合物の所望の生物学的活性を保持し、望ましくない毒物学的効果を付与しない塩をいう(例えば、Berge, S.Mら、J. Pharm. Sci., 66: 1-19(1977)を参照のこと)。塩は、本明細書に記載された化合物の最終的な単離および精製の際に得ることができ、あるいは別途、化合物の遊離塩基の官能基を適切な酸と反応させるか、化合物の酸性基を適切な塩基と反応させることによって得ることができる。酸付加塩としては、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸等などの無毒の無機酸、ならびに脂肪族モノおよびジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪族および芳香族スルホン酸等などの無毒の有機酸から誘導されるものが挙げられる。塩基付加塩としては、ナトリウム、カリウム;マグネシウム、カルシウム等などのアルカリ土類金属由来のもの、ならびにN,N’-ジベンジルエチレンジアミン、N-メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカイン等などの無毒の有機アミンから誘導されるものが挙げられる。
【0056】
本明細書に記載の治療薬の投与には、限定されないが、治療的に効果的な量の治療剤を投与することが含まれる。本明細書で使用される「治療的に効果的な量」なる語は、限定されないが、本明細書に記載されるPD-1/PD-L1結合阻害剤を含む組成物の投与により治療可能な症状を治療するための治療剤の量をいう。その量は、検出可能な治療効果または改善効果を示すのに十分な量である。その効果には、例えば、限定するものではないが、本明細書に列挙した症状の治療が含まれ得る。対象に対する正確な効果的な量は、対象の体格と健康状態、治療される症状の性質と程度、治療医の推奨、投与に選択された治療薬または治療薬の組み合わせに依存するであろう。かくして、事前に正確な効果的な量を特定することは有用ではない。
【0057】
もう一つ別の態様において、本開示は、本開示の大環状化合物を用いて、対象での腫瘍細胞の増殖を阻害する方法に関する。本明細書で実証されるように、本開示の化合物は、PD-L1と結合し、PD-L1とPD-1との相互作用を破壊し、PD-L1のPD-1との相互作用を遮断することが知られている抗PD-1モノクローナル抗体との結合と競合し、CMV特異的T細胞IFNγ分泌を強化し、HIV特異的T細胞IFNγ分泌を強化する能力を有する。その結果、本開示の化合物は、免疫応答を修飾し、がんまたは感染症などの疾患を治療し、防御的自己免疫応答を刺激し、または(例えば、PD-L1遮断化合物を目的とする抗原と共投与することによって)抗原特異的免疫応答を刺激するのに有用である。
【0058】
医薬組成物
もう一つ別の態様において、本開示は、医薬的に許容される担体とともに製剤化された、本開示の範囲内に記載される化合物を1つまたはその組み合わせを含有する組成物、例えば医薬組成物を提供する。本開示の医薬組成物はまた、併用療法にて、すなわち他の薬剤と組み合わせて投与することもできる。例えば、併用療法は、大環状化合物と少なくとも1つの他の抗炎症剤または免疫抑制剤との組み合わせを含むことができる。併用療法に使用できる治療薬の例は、下記の本開示の化合物の使用のセクションにてさらに詳細に説明される。
【0059】
本明細書で使用する「医薬的に許容される担体」には、生理学的に適合する、ありとあらゆる溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤などが含まれる。いくつかの実施形態において、担体は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、非経口投与、脊髄投与、または表皮投与(例えば、注射または注入による)に適している。投与経路に応じて、活性化合物は、該化合物を酸の作用から、および化合物を不活化し得る他の自然条件から保護するための材料で被覆され得る。
【0060】
本開示の医薬組成物はまた、医薬的に許容される酸化防止剤を含み得る。医薬的に許容される酸化防止剤の例としては、(1)アスコルビン酸、塩酸システイン、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム等などの水溶性酸化防止剤;(2)パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、α-トコフェロール等などの油溶性酸化防止剤;および(3)クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸等などの金属キレート剤が挙げられる。
【0061】
本開示の医薬組成物は、1または複数の、当該分野で公知の様々な方法を用いて、1または複数の投与経路を介して投与され得る。当業者には理解されるように、投与経路および/または投与様式は、所望する結果に応じて変化するであろう。いくつかの実施形態において、本開示の大環状化合物の投与経路には、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、皮下、脊髄または他の非経口投与経路、例えば注射または注入による投与経路が含まれる。本明細書で使用される「非経口投与」なる語句は、経腸投与および局所投与以外の、通常は注射による、投与様式を意味し、限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、眼窩内、嚢内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、皮腔内、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、硬膜外および胸骨内の注射および注入を包含する。
【0062】
滅菌注射液は、必要な量の活性化合物を適切な溶媒に、必要に応じて上記に列挙した1の成分またはその組み合わせと共に配合し、つづいて滅菌精密濾過に付すことにより製造され得る。一般に、分散液は、活性化合物を、基剤の分散媒体と、上記に列挙した成分の中から必要な他の成分とを含む滅菌ビヒクルに配合することによって製造される。滅菌注射液を製造するための滅菌粉末の場合においては、いくつかの製造方法には、予め滅菌濾過したその溶液から有効成分と、加えて任意の付加的な望ましい成分との粉末を生成する、真空乾燥およびフリーズドライ(凍結乾燥)がある。
【0063】
本開示の医薬組成物に利用され得る適切な水性および非水性担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等など)、およびそれらの適切な混合物、オリーブ油などの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルが挙げられる。適切な流動性は、例えばレシチンなどのコーティング剤を使用することにより、分散液の場合は必要な粒径を維持することにより、かつ界面活性剤を使用することによって維持され得る。
【0064】
これらの組成物は、保存剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤などのアジュバントも含むことができる。微生物の存在の防止は、上掲の滅菌操作と、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸等の様々な抗菌および抗真菌剤を配合させることの両方で確保され得る。また、糖類、塩化ナトリウム等などの等張剤を組成物に含めることも望ましい。加えて、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅らせる物質を配合することで、注射可能な医薬品形態の長期に及ぶ吸収がもたらされ得る。
【0065】
医薬的に許容される担体には、滅菌水溶液または分散液、および滅菌注射液または分散液を即座に調製するための滅菌散剤が含まれる。医薬的に活性な物質に対するこのような媒体および剤の使用は、当該分野で知られている。従来の媒体または剤が活性化合物と不適合である場合を除き、それを本開示の医薬組成物中で使用することが検討される。補助的な活性化合物を組成物に配合することもできる。
【0066】
治療用組成物は、典型的には、無菌であり、製造および貯蔵の条件下で安定していなければならない。組成物は、溶液、マイクロエマルジョン、リポソームとして、または高薬物濃度に適した他の秩序構造に処方され得る。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液状ポリエチレングリコール等)、およびそれらの適切な混合物を含有する溶媒または分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えばレシチンなどのコーティング剤を使用することにより、分散液の場合は必要な粒径を維持することにより、かつ界面活性剤を使用することによって維持され得る。多くの場合、等張剤、例えば糖類、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール、または塩化ナトリウムを組成物に含めることが望ましい。吸収を遅らせる物質、例えば、モノステアリン酸塩およびゼラチンを組成物に配合することで、注射可能な組成物の長期に及ぶ吸収がもたらされ得る。
【0067】
あるいはまた、本開示の化合物は、局所、表皮または粘膜投与経路などの非経口的でない経路を介して、例えば、経鼻、経口、膣、直腸、舌下または局所的に投与され得る。
【0068】
本明細書で考慮されるいずれの医薬組成物も、例えば、許容され、かつ適切であるいずれかの経口製剤を介して経口的に送達され得る。例示的な経口製剤としては、例えば、錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性および油性懸濁液、分散性粉末または顆粒、乳剤、硬カプセルおよび軟カプセル、液体カプセル、シロップ、およびエリキシルが挙げられるが、これらに限定されない。経口投与を意図した医薬組成物は、経口投与を意図した医薬組成物を製造するための分野で公知の任意の方法に従って製造され得る。医薬として口当たりの良い製剤を提供するために、本開示に従う医薬組成物は、甘味剤、香味剤、着色剤、消炎剤、酸化防止剤、および保存剤から選択される少なくとも1つの剤を含有し得る。
【0069】
錠剤は、例えば、少なくとも1つの式(I)の化合物および/または少なくとも1つのその医薬的に許容される塩を、錠剤の製造に適した少なくとも1つの非毒性の医薬的に許容される賦形剤と混和することによって製造され得る。例示的な賦形剤としては、一例として、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウムなどの不活性希釈剤;例えば、微結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム、トウモロコシデンプン、およびアルギン酸などの造粒剤および崩壊剤;例えば、デンプン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、およびアカシアなどの結合剤;および、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、およびタルクなどの滑沢剤が挙げられるが、これらに限定されない。さらには、錠剤は、コーティングされていないか、または不快な味の薬物の悪い味を隠すか、または消化管での有効成分の崩壊と吸収を遅らせ、それによって有効成分の効果をより長く持続させるかのいずれかのために、既知の技術によってコーティングされるかのいずれかとすることができる。例示的な水溶性矯味物質としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースが挙げられるが、これらに限定されない。例示的な時間遅延物質としては、エチルセルロースおよび酢酸酪酸セルロースが挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
硬ゼラチンカプセルは、例えば、少なくとも1の式(I)の化合物および/またはその少なくとも1の塩を、例えば炭酸カルシウム;リン酸カルシウム;およびカオリンなどの少なくとも1の不活性固体希釈剤と混合することによって製造され得る。
【0071】
軟ゼラチンカプセルは、例えば、少なくとも1の式(I)の化合物および/またはその少なくとも1の医薬的に許容される塩を、例えばポリエチレングリコールなどの少なくとも1の水溶性担体;および例えば、落花生油、流動パラフィン、およびオリーブ油などの少なくとも1の油性媒体と混合することによって製造され得る。
【0072】
水性懸濁液は、例えば、少なくとも1の式(I)の化合物および/またはその少なくとも1の医薬的に許容される塩を、水性懸濁液の製造に適した少なくとも1の賦形剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸、ポリビニルピロリドン、トラガントガム、およびアカシアガムなどの沈殿防止剤;例えば、天然に存在するホスファチド、例えば、レシチンなどの分散剤または湿潤剤;例えば、ポリオキシエチレンステアレートなどのアルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物;例えば、ヘプタデカチレンオキシセタノールなどのエチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物;例えば、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエートなどのエチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトールから誘導される部分エステルとの縮合生成物;および例えば、ポリエチレンソルビタンモノオレエートなどのエチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトール無水物から誘導される部分エステルとの縮合生成物を含むが、これらに限定されない)と混和することにより製造され得る。水性懸濁液はまた、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸エチルおよびn-プロピルなどの少なくとも1の保存剤;少なくとも1の着色剤;少なくとも1の香味剤;および/または、例えば、シュークロース、サッカリンおよびアスパルテームを含むが、これらに限定されない、少なくとも1の甘味剤を含有し得る。
【0073】
油性懸濁液は、例えば、少なくとも1の式(I)の化合物および/またはその少なくとも1の医薬的に許容される塩を、例えば、アラキス油、ゴマ油、ヤシ油などの植物油;または例えば、流動パラフィンなどの鉱油のいずれかに懸濁させることによって製造され得る。油性懸濁液はまた、例えば蜜蝋、硬質パラフィン、およびセチルアルコールなどの少なくとも1の増粘剤を含有し得る。口当たりのよい油性懸濁液を提供するために、本明細書にて既に上記した少なくとも1の甘味剤、および/または少なくとも1の香味剤が油性懸濁液に添加され得る。油性懸濁液は、さらに、一例として、例えば、ブチル化ヒドロキシアニソール、アルファ-トコフェロールなどの酸化防止剤を含むが、これらに限定されない、少なくとも1の保存剤を含有し得る。
【0074】
分散性の粉末および顆粒は、例えば、少なくとも1の式(I)の化合物および/またはその少なくとも1の医薬的に許容される塩を、少なくとも1の分散剤および/または湿潤剤、少なくとも1の沈殿防止剤、および/または少なくとも1の保存剤と混和することによって製造され得る。適切な分散剤、湿潤剤、および沈殿防止剤については、既に上記した。例示的な保存剤としては、例えば、酸化防止剤、例えばアスコルビン酸が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、分散性粉末および顆粒は、例えば、甘味剤、香味剤、および着色剤を含むが、これらに限定されない、少なくとも1の賦形剤を含有し得る。
【0075】
少なくとも1の式(I)の化合物および/またはその少なくとも1の医薬的に許容される塩のエマルションは、例えば、水中油型エマルションとして製造され得る。式(I)の化合物を含むエマルションの油相は、公知の方法で公知の成分から構成され得る。油相は、一例として、例えば、オリーブ油、アラキス油などの植物油;例えば、流動パラフィンなどの鉱油;およびそれらの混合物によって提供できるが、これらに限定されない。該相は単に乳化剤だけを含むこともできるが、少なくとも1つだけでない(at least none)乳化剤と、脂肪または油、あるいは脂肪と油の両方との混合物を含むこともできる。適切な乳化剤としては、例えば天然に存在するホスファチド、例えば、大豆レシチン、例えば、ソルビタンモノオレエートなどの脂肪酸とヘキシトール無水物から誘導されるエステルまたは部分エステル、および例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートなどの部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、安定剤として作用する親油性乳化剤と一緒に親水性乳化剤が含まれる。また、油と脂肪の両方を含むことが望ましい場合もある。安定剤を含む乳化剤、または含まない乳化剤が一緒になって、いわゆる乳化ワックスを構成し、該ワックスが油脂と一緒になって、クリーム製剤の油性分散相を形成する、いわゆる乳化軟膏基剤を構成する。エマルジョンはまた、甘味料、香料、保存料、および/または酸化防止剤を含有し得る。本開示の製剤に使用するのに適した乳化剤および乳化安定剤としては、ツィーン(Tween)60、スパン(Span)80、セトステアリルアルコール、ミリスチルアルコール、モノステアリン酸グリセリル、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセラルジステレートを単独で、またはワックスと共に、あるいは当該分野で周知の他の材料が挙げられる。
【0076】
活性化合物は、インプラント、経皮パッチ、マイクロカプセル化デリバリーシステムを含む放出制御製剤のように、化合物が急速に放出されないように保護するであろう担体を用いて製造され得る。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、ポリ乳酸などの生分解性で生体適合性のあるポリマーが使用できる。このような製剤を製造する方法の多数は特許を取得しているか、または一般に当業者に公知である。例えば、Robinson, J.R.編、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems, Marcel Dekker, Inc, New York(1978)を参照のこと。
【0077】
治療用組成物は、当該分野で知られている医療装置を用いて投与され得る。例えば、一の実施形態では、本開示の治療用組成物は、米国特許第5,399,163号、同第5,383,851号、同第5,312,335号、同第5,064,413号、同第4,941,880号、同第4,790,824号、または同第4,596,556号に開示される装置などの無針皮下注射装置を用いて投与され得る。本開示において有用な周知のインプラントおよびモジュールの例として、米国特許第4,487,603号(薬剤を制御可能な速度で分配するための移植可能なマイクロ注入ポンプを開示する);米国特許第4,486,194号(薬剤を皮膚を通して投与するための治療用装置を開示する);米国特許第4,447,233号(薬剤を正確な注入速度で送達するための薬剤注入ポンプを開示する);米国特許第4,447,224号(薬物を連続的に送達するための可変流量の移植可能な注入装置を開示する);米国特許第4,439,196号(多室コンパートメントを有する浸透圧薬物デリバリーシステムを開示する);および米国特許第4,475,196号(浸透圧薬物デリバリーシステムを開示する)が挙げられる。これらの特許は出典明示により本明細書に組み込まれる。多数の他のかかるインプラント、デリバリーシステム、およびモジュールは当業者に知られている。
【0078】
特定の実施形態において、本開示の化合物は、インビボでの適切な分布を確実にするように製剤化され得る。例えば、血液脳関門(BBB)は多くの親水性の高い化合物を排除する。本開示の治療用化合物が(所望であれば)BBBを確実に通過させるために、それらは、例えばリポソーム中に製剤化され得る。リポソームの製造方法については、例えば米国特許第4,522,811号、同第5,374,548号、同第5,399,331号を参照のこと。リポソームは、特定の細胞または器官に選択的に輸送される1または複数の部分を含むことができ、その結果、標的とする薬物の送達が強化される(例えば、Ranade, V.V.、J. Clin.Pharmacol., 29:685 (1989)を参照のこと)。例示としての標的部分には、葉酸またはビオチン(例えば、Lowらの米国特許第5,416,016号を参照のこと);マンノシド(Umezawaら、Biochem. Biophys. Res. Commun., 153: 1038(1988));大環状化合物(Bloeman, P.G.ら、FEBS Lett., 357: 140 (1995);Owais, M.ら、Antimicrob. Agents Chemother., 39: 180(1995));サーファクタントタンパク質Aレセプター(Briscoeら、Am. J. Physiol., 1233: 134(1995));p120(Schreierら、J. Biol.Chem., 269: 9090 (1994));Keinanen, K.ら、FEBS Lett., 346:123 (1994);Killion, J.J.ら、Immunomethods 4: 273(1994)が含まれる。
【0079】
本開示の使用および方法
本開示の大環状ペプチド、組成物および方法は、例えば、PD-L1の検出、またはPD-L1の遮断による免疫応答の増強に関与する多くのインビトロおよびインビボでの有用性を有する。例えば、これらの分子は、インビトロまたはエクスビボにて培養中の細胞に、あるいは、例えば、インビボにてヒト対象に投与して、さまざまな状況において免疫力を高めることができる。従って、1の態様において、本開示は、対象における免疫応答を修飾する方法であって、対象における免疫応答が修飾されるように本開示の大環状ペプチドを対象に投与することを含む、方法を提供する。好ましくは、応答が増強、刺激、またはアップレギュレートされる。他の態様では、大環状ペプチドは、抗カニクイザル(anti-cyno)、抗マウス、および/または抗ウッドチャックの結合および治療活性を有する可能性がある。
【0080】
本明細書において、「対象」なる語は、ヒトおよびヒト以外の動物を含むものとする。ヒト以外の動物には、すべての脊椎動物、例えば、哺乳類、およびヒト以外の霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ニワトリ、ウッドチャックなどのヒト以外の哺乳類、両生類、爬虫類が含まれるが、ヒト以外の霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウシ、およびウマなどの哺乳類が好ましい。好ましい対象には、免疫反応の増強を必要とするヒト患者が含まれる。該方法は、T細胞介在性免疫応答を増強することによって治療され得る障害のヒト患者を治療するのに特に適している。特定の実施形態において、該方法は、インビボでのがん細胞の治療に特に適している。抗原特異的な免疫増強を達成するために、大環状ペプチドを目的とする抗原と一緒に投与され得る。PD-L1に対する大環状ペプチドがもう一つ別の薬剤と一緒に投与される場合、その2種はいずれの順序でも、あるいは同時に投与され得る。
【0081】
本開示はさらに、試料中のヒト、ウッドチャック、カニクイザル(cyno)、および/またはマウスPD-L1抗原の存在を検出する方法、またはヒト、ウッドチャック、カニクイザル、および/またはマウスPD-L1抗原の量を測定する方法であって、大環状物と、ヒト、ウッドチャック、カニクイザル、および/またはマウスPD-L1との間で複合体を形成することのできる条件下で、試料、および対照となる試料を、ヒト、ウッドチャック、カニクイザル、および/またはマウスPD-L1に特異的に結合する参照の大環状ペプチドと接触させることを含む方法を提供する。次に、複合体の形成を検出し、対照試料と比べて試料との間の複合体形成の違いが、試料中のヒト、ウッドチャック、カニクイザル、および/またはマウスPD-L1抗原の存在を示す。
【0082】
CD28、ICOSおよびCTLA-4と比較して、PD-L1に対する本開示の大環状ペプチドの特異的結合を考慮すると、本開示の大環状ペプチドは、細胞表面上のPD-L1発現を特異的に検出するのに使用でき、さらには、免疫アフィニティー精製を介してPD-L1を精製するのに使用され得る。
【0083】
がん
大環状ペプチドによるPD-1の遮断は、患者のがん細胞に対する免疫反応を高めることができる。PD-1のリガンドであるPD-L1は、正常なヒト細胞では発現されないが、様々なヒトがんでは豊富にある(Dongら、Med., 8: 787-789(2002))。PD-1とPD-L1の相互作用は、腫瘍浸潤リンパ球の減少、T細胞受容体介在性増殖の減少、およびがん細胞による免疫回避をもたらす(Dongら、J. Mol.Med., 81: 281-287(2003);Blankら、Cancer Immunol. Immunother., 54: 307-314(2005);Konishiら、Clin.Cancer Res., 10: 5094-5100(2004))。免疫抑制は、PD-1のPD-L1に対する局所的相互作用を阻害することで逆転させることができ、PD-1のPD-L2に対する相互作用も同様に遮断されるとその効果は相加的である(Iwaiら、Proc. Natl. Acad. Sci., 99: 12293-12297(2002);Brownら、J. Immunol., 170: 1257-1266(2003))。これまでの研究で、T細胞増殖がPD-1のPD-L1に対する相互作用を阻害することで回復され得ることが示されているが、PD-1/PD-L1相互作用を遮断することでインビボにおけるがん性腫瘍増殖に関する直接的な効果についての報告はない。1の態様において、本開示は、がん性腫瘍の増殖が阻害されるように、大環状ペプチドを用いた対象のインビボでの治療に関する。大環状ペプチドは、単独でがん性腫瘍の成長を阻害するために使用されてもよい。あるいはまた、下記に述べるように、大環状ペプチドは、他の免疫原、標準的ながん治療薬、あるいは他の大環状ペプチドと組み合わせて用いることもできる。
【0084】
従って、1の実施形態において、本開示は、対象における腫瘍細胞の増殖を阻害する方法であって、治療的に効果的な量の大環状ペプチドを対象に投与することを含む方法を提供する。
【0085】
成長が本開示の大環状ペプチドを用いて阻害され得る好ましいがんには、免疫療法に典型的に応答するがんが含まれる。治療に好ましいがんの非限定的な例としては、黒色腫(例えば、転移性悪性黒色腫)、腎細胞がん(例えば、明細胞がん)、前立腺がん(例えば、ホルモン不応性前立腺腺がん、去勢抵抗性前立腺がん)、乳がん、大腸がんおよび肺がん(例えば、扁平上皮および非扁平上皮非小細胞肺がん)が挙げられる。加えて、本開示には、本開示の大環状ペプチドを用いて成長が阻害され得る難治性または再発性の悪性腫瘍が含まれる。
【0086】
本開示の方法を用いて治療され得る他のがんの例には、骨がん、膵臓がん、皮膚がん、頭頸部がん、皮膚または眼内悪性黒色腫、子宮がん、卵巣がん、結腸がん、直腸がん、肛門域のがん、胃がん、精巣がん、子宮がん、卵管がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、膣がん、外陰がん、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、食道がん、小腸がん、内分泌系がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟部組織の肉腫、尿道がん、陰茎がん、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病を含む慢性または急性の白血病、小児期の充実性腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱がん、腎臓または尿管のがん、腎盂がん、中枢神経系(CNS)の新生物、原発性CNSリンパ腫、腫瘍血管新生、脊髄軸腫瘍、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫、カポジ肉腫、表皮がん、扁平上皮がん、T細胞リンパ腫、アスベストによって誘発されるがんを含む環境誘発性がん、および前記がんの組み合わせが含まれる。本開示は、転移性がん、特にPD-L1を発現する転移性がんの治療にも有用である(Iwaiら、Int.Immunol., 17: 133-144(2005))。
【0087】
所望により、PD-L1に対する大環状ペプチドを、がん細胞、精製された腫瘍抗原(組換えタンパク質、ペプチド、糖質分子を含む)、細胞、および免疫刺激サイトカインをコードする遺伝子でトランスフェクトされた細胞などの免疫原と組み合わせることができる(Heら、J. Immunol., 173: 4919-4928(2004))。使用可能な腫瘍ワクチンの非限定的な例としては、gp100、MAGE抗原、Trp-2、MART1および/またはチロシナーゼのペプチドなどのメラノーマ抗原のペプチド、またはサイトカインGM-CSFを発現するようにトランスフェクトされた腫瘍細胞が挙げられる(下記にてさらに記載される)。
【0088】
ヒトでは、メラノーマなどの免疫原性を示す腫瘍もある。PD-L1遮断によってT細胞活性化の閾値を上げることで、本発明者らは宿主での腫瘍応答を活性化すると期待し得るものと予測される。
【0089】
PD-L1遮断は、ワクチン接種プロトコルと併用した場合に、最も効果的であると考えられる。腫瘍に対するワクチン接種のための多くの実験的戦略が考案されている(Rosenberg, S.、Development of Cancer Vaccines, ASCO Educational Book Spring: 60-62(2000);Logothetis, C.、ASCO Educational Book Spring: 300-302(2000);Khayat, D.、ASCO Educational Book Spring: 414-428(2000);Foon, K.、ASCO Educational Book Spring: 730-738(2000)を参照のこと;また、Restifo, N.ら、Cancer Vaccines, Chapter 61, pp.3023-3043, DeVita, V.ら編, Cancer: Principles and Practice of Oncology, Fifth Edition(1997)も参照のこと)。これらの戦略の一つでは、ワクチンは自己腫瘍または同種異系腫瘍細胞を用いて製造される。これらの細胞ワクチンは、腫瘍細胞がGM-CSFを発現するように形質導入された場合に最も効果的であることが示されている。GM-CSFは、腫瘍ワクチン接種のための抗原提示の強力な活性化因子であることが示されている(Dranoffら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 3539-3543(1993))。
【0090】
様々な腫瘍における遺伝子発現および大規模な遺伝子発現パターンを研究することで、いわゆる腫瘍特異的抗原を定義するに至った(Rosenberg, S.A.、Immunity, 10: 281-287(1999))。多くの場合、これらの腫瘍特異的抗原は、腫瘍にて、および腫瘍が発生した細胞にて発現する分化抗原であり、例えばメラノサイト抗原gp100、MAGE抗原、Trp-2などである。さらに重要なことは、これらの抗原の多くが宿主にて見出される腫瘍特異的T細胞の標的であると示され得ることである。PD-L1遮断は、腫瘍内で発現する組換えタンパク質に対する免疫応答を生じさせるために、それらのタンパク質および/またはペプチドの集合体とともに使用され得る。これらのタンパク質は、通常、免疫系によって自己抗原とみなされるため、それで免疫系に対して耐性がある。腫瘍抗原には、また、染色体のテロメアの合成に必要であり、ヒトがんの85%より多くで発現し、限られた数の体細胞組織でのみ発現する、タンパク質のテロメラーゼも含まれ得る(Kim, Nら、Science, 266: 2011-2013(1994))。(これらの体組織は、さまざまな手段で免疫の攻撃から保護されている可能性がある。)腫瘍抗原はまた、体細胞変異がタンパク質の配列を改変させるか、または関係のない2つの配列の間で融合タンパク質(すなわち、フィラデルフィア染色体のbcr-abl)を作るか、あるいはB細胞腫瘍からのイディオタイプであるために、がん細胞で発現する「ネオ抗原」であるかもしれない。
【0091】
他の腫瘍ワクチンには、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)、肝炎ウイルス(HBVおよびHCV)、カポジヘルペス肉腫ウイルス(KHSV)などの、ヒトのがんに関与するウイルスから由来のタンパク質が含まれてもよい。PD-L1遮断と組み合わせて使用できる腫瘍特異的抗原のもう一つ別の形態は、腫瘍組織そのものから単離された熱ショックタンパク質(HSP)の精製物である。これらのヒートショックタンパク質は腫瘍細胞から由来のタンパク質のフラグメントを含有しており、これらのHSPは腫瘍免疫を惹起するために抗原提示細胞への送達が極めて効率的である(Suot, R.ら、Science, 269: 1585-1588(1995);Tamura, Y.ら、Science, 278: 117-120(1997))。
【0092】
樹状細胞(DC)は、抗原特異的応答のプライミングに用いることができる、強力な抗原提示細胞である。DCはエクスビボで産生され、種々のタンパク質およびペプチド抗原、ならびに腫瘍細胞抽出物をローディングし得る(Nestle, F.ら、Nat. Med., 4: 328-332(1998))。DCはまた、これらの腫瘍抗原も同様に発現するように遺伝的手段によって遺伝子導入されることもある。DCはまた、免疫化を目的として腫瘍細胞と直接融合されることもある(Kugler, A.ら、Nat. Med., 6: 332-336(2000))。ワクチン接種の方法として、DC免疫をPD-L1遮断と効果的に組み合わせることで、より強力な抗腫瘍応答を活性化し得る。
【0093】
PD-L1遮断は標準的ながん治療と組み合わせることもできる。PD-L1遮断は化学療法と効果的に組み合わされてもよい。このような場合には、投与される化学療法試薬の量を減らすことが可能かもしれない(Mokyr, M.ら、Cancer Res., 58: 5301-5304(1998))。このような組み合わせの例としては、黒色腫の治療に、大環状ペプチドをデカルバジンと組み合わせることである。このような組み合わせのもう一つ別の例が、黒色腫の治療に、大環状ペプチドをインターロイキン-2(IL-2)と組み合わせることである。PD-L1遮断と化学療法とを組み合わせて使用することを推奨する科学的な論理的根拠は、化学療法における大抵の化合物の細胞毒性作用の結果、細胞死が抗原提示経路にて高レベルの腫瘍抗原をもたらすはずである、ということである。細胞死を介してPD-L1遮断との相乗効果をもたらす可能性のある他の併用療法は、放射線療法、手術療法、ホルモン喪失療法である。これらのプロトコルはいずれも、宿主に腫瘍抗原の供給源を作るものである。血管新生阻害剤をPD-L1遮断と組み合わせてもよい。血管新生の阻害は、腫瘍抗原を宿主抗原提示経路に送り込む可能性のある、腫瘍細胞死をもたらす。
【0094】
PD-L1を遮断する大環状ペプチドは、FcアルファまたはFcガンマ受容体を発現するエフェクター細胞を腫瘍細胞に標的化する二重特異性大環状ペプチドと組み合わせて使用することもできる(例えば、米国特許第5,922,845号および同第5,837,243号を参照のこと)。二重特異性大環状ペプチドは、2つの別々の抗原を標的化するのに使用され得る。例えば、抗Fc受容体/抗腫瘍抗原(例えば、Her-2/neu)二重特異性大環状ペプチドは、マクロファージを腫瘍部位に標的化させるために使用されてきた。この標的化は腫瘍特異的応答をより効果的に活性化し得る。PD-L1遮断を使用することで、これら応答のT細胞アームは増強されるだろう。あるいはまた、腫瘍抗原および樹状細胞特異的細胞表面マーカーに結合する二重特異性大環状ペプチドを用いることで、抗原をDCに直接に送達することもできる。
【0095】
腫瘍は多種多様な作用機構で宿主の免疫監視を回避する。これらの作用機構の多くは、腫瘍によって発現され、免疫抑制的であるタンパク質を不活性化することによって克服され得る。これらは、とりわけ、TGF-ベータ(Kehrl, J.ら、J. Exp. Med., 163: 1037-1050(1986))、IL-10(Howard, M.ら、Immunology Today, 13: 198-200(1992))、およびFasリガンド(Hahne, M.ら、Science, 274: 1363-1365(1996))を包含する。これらの各実体に対する大環状ペプチドは、免疫抑制剤の効果を打ち消し、宿主による腫瘍免疫応答を有利にするために、抗PD-L1と組み合わせて使用され得る。
【0096】
宿主の免疫応答性を活性化するために使用され得る他の大環状ペプチドも、抗PD-L1と組み合わせて使用できる。これらは、DC機能および抗原提示を活性化する、樹状細胞の表面にある分子を包含する。抗CD40大環状ペプチドは、T細胞ヘルパー活性と効果的に置き換えることができ(Ridge, J.ら、Nature, 393: 474-478(1998))、PD-1抗体と組み合わせ使用され得る(Ito, N.ら、Immunobiology, 201(5): 527-540(2000))。大環状ペプチドを、CTLA-4(例えば、米国特許第5,811,097号)、OX-40(Weinberg, A.ら、Immunol., 164: 2160-2169(2000))、4-1BB(Melero, I.ら、Nat. Med., 3: 682-685(1997)、ICOS(Hutloff, A.ら、Nature, 397: 262-266(1999))などのT細胞同時刺激分子に活性化することもまた、高レベルのT細胞活性化を提供するかもしれない。
【0097】
骨髄移植は、現在、造血臓器の種々の腫瘍の治療に用いられている。対移植片宿主疾患がこの治療の結果であるが、治療効果は対移植片腫瘍応答から得られる可能性がある。PD-L1遮断は、ドナーから移植された腫瘍特異的T細胞の有効性を高めるために用いることができる。
【0098】
また、腫瘍に対する抗原特異的T細胞を獲得するために、エクスビボで抗原特異的T細胞の活性化および増殖に関与し、これらの細胞をレシピエントに養子移入する、いくつかの実験的治療プロトコルがある(Greenberg, R.ら、Science, 285: 546-551(1999))。これらの方法は、CMVなどの感染因子に対するT細胞応答を活性化するために使用されてもよい。大環状ペプチドの存在下でのエクスビボでの活性化は、T細胞の養子移入の頻度と活性を増加させると予想され得る。
【0099】
感染症
本開示の他の方法は、特定の毒素や病原体に暴露された患者の治療に用いられる。従って、本開示のもう一つ別の態様は、対象での感染症を治療する方法であって、対象が感染症について治療されるように、本開示の大環状ペプチドを該対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0100】
上述したようにその腫瘍への応用と同様に、PD-L1遮断薬は、単独で、あるいはアジュバントとして、ワクチンと組み合わせて使用し、病原体、毒素、自己抗原に対する免疫応答を刺激できる。この治療法が特に有用である可能性のある病原体の例が、現在のところ効果的なワクチンが存在しない病原体、あるいは従来のワクチンが完全には有効でない病原体を包含する。これらには、HIV、肝炎(A、B、C)、インフルエンザ、ヘルペス、ジアルジア、マラリア(Butler, N.S.ら、Nature Immunology 13, 188-195(2012);Hafalla, J.C.R.ら、PLOS Pathogens; February 2, 2012))、リーシュマニア、黄色ブドウ球菌、緑膿菌が含まれるが、これらに限定されない。PD-L1遮断薬は、感染経過とともに抗原の変化を示す、HIVなどの病原体による確立された感染に対して特に有用である。これらの新規エピトープは抗ヒトPD-L1の投与の際に異物として認識され、かくしてPD-L1を介したネガティブシグナルによって減衰することのない強力なT細胞応答を引き起こす。
【0101】
本開示の方法によって治療可能な感染症を引き起こす病原性ウイルスのいくつかの例としては、HIV、肝炎(A、B、またはC)、ヘルペスウイルス(例えば、VZV、HSV-1、HAV-6、HSV-II、およびCMV、エプスタインバーウイルス)、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、フラビウイルス、エコーウイルス、ライノウイルス、コクサッキーウイルス、コルノウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ムンプスウイルス、ロタウイルス、麻疹ウイルス、ルブロタウイルス、パルボウイルス、ワクシニアウイルス、HTLVウイルス、デングウイルス、パピローマウイルス、軟属腫ウイルス、ポリオウイルス、狂犬病ウイルス、JCウイルス、およびアルボウイルス脳炎ウイルスが含まれる。
【0102】
本開示の方法によって治療可能な感染症を引き起こす病原性細菌のいくつかの例としては、クラミジア、リケッチア菌、マイコバクテリア、ブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎球菌、髄膜炎菌および淋菌(conococci)、クレブシエラ、プロテウス、セラチア、シュードモナス、レジオネラ、ジフテリア、サルモネラ、バチルス、コレラ、破傷風、ボツリヌス、炭疽、ペスト、レプトスピラ、およびライム病菌が挙げられる。
【0103】
本開示の方法によって治療可能な感染症を引き起こす病原性真菌のいくつかの例としては、カンジダ(アルビカンス、クルセイ、グラブラータ、トロピカリス等)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス、アスペルギルス(フミガータス、ニガー等)、ムコール属(ケカビ、アブシディア、クモノスカビ)、スポロトリクス・シェンキイ、ブラストミセス・デルカチチジス、パラコッシジオイデス・ブラジリエンシス、コクシジオイデス・イミディス、およびヒストプラズマ・カプスラーツムが挙げられる。
【0104】
本開示の方法によって治療可能な感染症を引き起こす病原性寄生虫のいくつかの例には、赤痢アメーバ、大腸バランチジウム、ネグレリア・ホウレリ、アカントアメーバ種、ジアルジア・ランビア、クリプトスポリジウム種、ニューモシスティス・カリニ、三日熱マラリア原虫、バベシア・ミクロチ、トリパノソーマ・ブルーセイ、トリパノソーマ・クルーズ、リーシュマニア・ドノバン、トキソプラズマ原虫、およびニッポストロンギルス・ブラジリエンシスが含まれる。
【0105】
上記したすべての方法において、PD-L1遮断は、サイトカイン治療(例えば、インターフェロン、VEGF活性またはVEGFレセプターを標的とする薬剤、GM-CSF、G-CSF、IL-2)などの他の形態の免疫療法、または腫瘍抗原の提示の強化を提供する二重特異性抗体療法(例えば、Holliger、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 6444-6448(1993);Poljak、Structure, 2: 1121-1123(1994)を参照のこと)と組み合わせることができる。
【0106】
自己免疫応答
大環状ペプチドは、自己免疫反応を誘発して増幅させることができる。実際、腫瘍細胞ワクチンやペプチドワクチンを用いる抗腫瘍応答の誘導は、多くの抗腫瘍応答が抗自己反応性を含むことを明らかにしている(van Elsasらの前掲での抗CTLA-4+GM-CSF修飾B16メラノーマで観察された脱色素;Trp-2ワクチン接種マウスにおける脱色素(Overwijk, W.ら、Natl. Acad. Sci. USA, 96: 2982-2987(1999))、TRAMP腫瘍細胞ワクチンによって誘発される自己免疫性前立腺炎(Hurwitz, A.、前掲(2000))、ヒト臨床試験で観察されるメラノーマペプチド抗原ワクチン接種および白斑(Rosenberg, S.A.ら、J. Immunother. Emphasis Tumor Immunol., 19(1): 81-84(1996))。
【0107】
したがって、疾患を治療するのに、これらの自己タンパク質に対する免疫応答を効率的に発生させるワクチン接種プロトコルを考案するために、抗PD-L1遮断薬を様々な自己タンパク質と組み合わせて使用することを考慮することも可能である。例えば、アルツハイマー病は、脳でのアミロイド沈着におけるA.ベータペプチドの不適切な蓄積が関与しており、アミロイドに対する抗体応答は、このようなアミロイド沈着をクリアすることができる(Schenkら、Nature, 400: 173-177(1999))。
【0108】
アレルギーおよび喘息を治療するためのIgE、関節リウマチを治療するためのTNFアルファなどの、他の自己タンパク質も標的として使用されるかもしれない。最後に、様々なホルモンに対する抗体応答が、本明細書に開示された大環状化合物の使用によって誘導される可能性がある。生殖ホルモンに対する中和抗体反応は、避妊のために使用され得る。特定の腫瘍の増殖に必要なホルモンおよび他の可溶性因子に対する中和抗体反応も、可能性のあるワクチン接種の標的として考えられ得る。
【0109】
抗PD-L1の大環状物の使用について上記される類似の方法は、アルツハイマー病でのA.ベータを含むアミロイド沈着などの他の自己抗原、TNF.アルファなどのサイトカイン、およびIgEなどの、他の自己抗原の不適切な蓄積を有する患者を治療するための治療的自己免疫応答の誘導に使用され得る。
【0110】
ワクチン
大環状ペプチドは、抗PD-1大環物と目的とする抗原(例えば、ワクチン)とを組み合わせることにより、抗原特異的免疫応答を刺激するのに使用され得る。従って、もう一つ別の態様において、本開示は、対象における抗原に対する免疫応答を強化する方法であって、対象に、(i)抗原;および(ii)対象での抗原に対する免疫応答が強化されるような抗PD-1大環状物を投与することを含む、方法を提供する。抗原は、例えば、腫瘍抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、病原体由来の抗原であり得る。このような抗原の非限定的な例としては、上記の腫瘍抗原(または腫瘍ワクチン)、または上記のウイルス、細菌、または他の病原体から由来の抗原などの、上記のセクションで議論されたものが挙げられる。
【0111】
本開示の組成物(例えば、大環状ペプチド、多重特異的および二重特異的分子、ならびに免疫コンジュゲート)をインビボおよびインビトロにて投与する適切な経路は、当該分野で周知であり、当業者によって選択され得る。例えば、組成物は注射(例えば、静脈内または皮下)によって投与され得る。使用される分子の適切な投与量は、対象の年齢および体重、ならびに組成物の濃度および/または製剤に依存するであろう。
【0112】
上記のように、本開示の大環状ペプチドは、1または複数の治療剤、例えば細胞毒性剤、放射性毒性剤または免疫抑制剤と共投与され得る。ペプチドは薬剤と(免疫複合体として)連結させることもできるし、または薬剤とは別に投与することもできる。後者(分離投与)の場合、ペプチドは、薬剤の前、後、または薬剤と同時に投与でき、あるいは、他の既知の療法、例えば、放射線治療などの抗がん療法と共投与することもできる。このような治療薬には、特に、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、シスプラチン、硫酸ブレオマイシン、カルムスチン、クロラムブシル、デカルバジン、およびシクロホスファミド・ヒドロキシ尿素などの抗腫瘍剤が含まれており、これらは、それ自体が患者に毒性または亜毒性であるレベルで有効であるにすぎない。シスプラチンは4週に1回100mg/用量として静脈内投与され、アドリアマイシンは21日に1回60-75mg/mlの用量として静脈内投与される。本開示の大環状ペプチドと化学療法剤との共投与は、ヒト腫瘍細胞に対して細胞毒性作用をもたらす異なるメカニズムを介して作用する2種の抗がん剤を提供する。このような共投与によって、薬物に対する耐性が発達すること、または薬物をペプチドと反応しなくなるようにする腫瘍細胞の抗原性が変化すること、による問題が解決され得る。
【0113】
また、本開示の組成物(例えば、大環状ペプチド、二重特異性もしくは多重特異性分子、または免疫コンジュゲート)および使用説明書を含むキットも、本開示の範囲内にある。キットは、少なくとも1つの付加的な試薬、または本開示の1または複数の付加的な大環状ペプチド(例えば、大環状物とは異なるPD-L1抗原のエピトープに結合する相補活性のあるヒト抗体)をさらに含有し得る。キットは、典型的には、キットの中身の使用目的を示すラベルを含む。ラベルなる語は、キット上に、またはそれと共に供給されるいずれの書面での材料または記録材料も、あるいはその他にキットに付随するものを包含する。
【0114】
併用療法
本開示の大環状ペプチドともう一つ別のPD-L1アンタゴニストおよび/または他の免疫調節剤との併用は、過剰増殖性疾患に対する免疫応答の強化に有用である。例えば、これらの分子は、インビトロまたはエクスビボにて培養中の細胞に、あるいはインビボにてヒト対象に投与して、様々な状況下で免疫力を高めることができる。従って、1の態様において、本開示は、対象における免疫応答を修飾する方法であって、本開示の大環状ペプチドを、対象における免疫応答が修飾されるように、対象に投与することを含む、方法を提供する。応答が強化、刺激、またはアップレギュレートされることが好ましい。もう一つ別の実施形態において、本開示は、過剰増殖性疾患の免疫刺激性治療剤での治療に付随する有害事象を改変する方法であって、本開示の大環状ペプチドを、治療量以下のもう一つ別の免疫調節剤と対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0115】
大環状ペプチドによるPD-L1の遮断は、患者のがん細胞に対する免疫反応を高めることができる。本開示の大環状ペプチドを用いて増殖が阻害され得るがんには、典型的には、免疫療法に応答する、がんが含まれる。本開示の併用療法で治療されるがんの代表例としては、黒色腫(例えば、転移性悪性黒色腫)、腎がん、前立腺がん、乳がん、結腸がん、および肺がんが挙げられる。本開示の方法を用いて治療され得る他のがんの例としては、骨がん、膵臓がん、皮膚がん、頭頸部がん、皮膚または眼内の悪性黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、肛門領域のがん、胃がん、精巣がん、子宮がん、卵管がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、膣がん、外陰がん、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、食道がん、小腸がん、内分泌系がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟部組織の肉腫、尿道がん、陰茎がん、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病を含む慢性または急性の白血病、小児期の充実性腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱がん、腎臓または尿管がん、腎盂がん、中枢神経系(CNS)の新生物、原発性CNSリンパ腫、腫瘍血管新生、脊髄軸腫瘍、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫、カポジ肉腫、表皮がん、扁平上皮がん、T細胞リンパ腫、アスベストによって誘発されるがんを含む環境誘発がん、ならびに上記がんの組み合わせが挙げられる。本開示は転移性がんの治療にも有用である。
【0116】
特定の実施形態において、本明細書で示される少なくとも1の大環状ペプチドを含有する治療剤の組み合わせは、医薬的に許容される担体中の単一の組成物として同時に投与されてもよく、または各薬剤が順次投与され得る別々の組成物として同時に投与されてもよい。例えば、第2の免疫調節剤および本開示の大環状ペプチドは、第2の免疫調節剤を先に投与し、大環状ペプチドを後に投与するか、または大環状ペプチドを先に投与し、第2の免疫調節剤を後に投与するように、順次投与され得る。さらには、併用療法が複数回の投与で順次投与される場合、順次投与の順序は、投与の各時点で逆にすることも、同じ順序に保つこともでき、順次投与は同時投与と組み合わせることもでき、あるいはそれらを任意に組み合わせてもよい。例えば、第2の免疫調節剤および大環状ペプチドの第1の投与は同時とし、第2の投与は第2の免疫調節剤を先に、そして大環状ペプチドを次にして逐次的であってもよく、第3の投与は大環状ペプチドを先に、そして第2の免疫調節剤を次として逐次的であってもよい等である。もう一つ別の代表的な投与スキームには、第1の投与が大環状ペプチドを先に、そして第2免疫調節剤を次に逐次的とし、その後の投与が同時であってもよいものが含まれ得る。
【0117】
所望により、大環状ペプチドと第2の免疫調節剤との組み合わせを、がん細胞、精製腫瘍抗原(組換えタンパク質、ペプチド、糖質分子を含む)、細胞、および免疫刺激サイトカインをコードする遺伝子でトランスフェクトされた細胞などの免疫原とさらに組み合わせることができる(Heら、J. Immunol., 173: 4919-4928(2004))。使用可能な腫瘍ワクチンの非限定的な例としては、gp100、MAGE抗原、Trp-2、MART1および/またはチロシナーゼのペプチドなどのメラノーマ抗原のペプチド、またはサイトカインGM-CSFを発現するようにトランスフェクトされた腫瘍細胞が挙げられる(下記にてさらに記載される)。
【0118】
PD-L1大環状ペプチドと第2の免疫調節剤との組み合わせは、ワクチン接種プロトコルとさらに組み合わせることができる。腫瘍に対するワクチン接種のための多くの実験的戦略が考案されている(Rosenberg, S.、Development of Cancer Vaccines, ASCO Educational Book Spring: 60-62(2000);Logothetis, C.、ASCO Educational Book Spring: 300-302(2000);Khayat, D.、ASCO Educational Book Spring: 414-428 (2000);Foon, K.、ASCO Educational Book Spring: 730-738(2000)を参照のこと;Restifoら、Cancer Vaccines, 第61章, 3023-3043頁, DeVitaら編, Cancer: Principles and Practice of Oncology, Fifth Edition(1997)も参照のこと)。これらの戦略の一つでは、ワクチンは自己または同種腫瘍細胞を用いて調製される。これらの細胞ワクチンは、腫瘍細胞がGM-CSFを発現するように形質導入された場合に最も効果的であることが示されている。GM-CSFは、腫瘍ワクチン接種のための抗原提示の強力な活性化因子であることが示されている(Dranoffら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 3539-3543(1993))。
【0119】
様々な腫瘍における遺伝子発現および大規模な遺伝子発現パターンの研究から、いわゆる腫瘍特異的抗原が定義されてきた(Rosenberg、Immunity, 10: 281-287(1999))。多くの場合、これらの腫瘍特異的抗原は、腫瘍にて、または腫瘍が発生した細胞にて発現する分化抗原、例えばメラノサイト抗原gp100、MAGE抗原、およびTrp-2である。さらに重要なことに、これらの抗原の多くは宿主にて見られる腫瘍特異的T細胞の標的であることが示され得る。特定の実施形態において、PD-L1大環状ペプチドと第2の免疫調節剤との組み合わせは、これらのタンパク質に対する免疫応答を生じさせるために、腫瘍において発現される組換えタンパク質および/またはペプチドの集合体とコンジュゲートして使用されてもよい。これらのタンパク質は、通常、免疫系から自己抗原とみなされ、したがって、それらに対して耐性がある。腫瘍抗原にはまた、染色体のテロメアの合成に必要であり、ヒトがんの85%より多くで発現し、限られた数の体細胞組織でのみ発現する、タンパク質のテロメラーゼも含まれ得る(Kimら、Science, 266: 2011-2013(1994))。(これらの体組織は、様々な手段で免疫の攻撃から保護されているのかもしれない。)腫瘍抗原はまた、体細胞変異がタンパク質の配列を改変させるか、または関係のない2つの配列の間で融合タンパク質(すなわち、フィラデルフィア染色体のbcr-abl)を作るか、あるいはB細胞腫瘍からのイディオタイプのために、がん細胞で発現する「ネオ抗原」であるかもしれない。
【0120】
他の腫瘍ワクチンには、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)、肝炎ウイルス(HBVおよびHCV)、カポジヘルペス肉腫ウイルス(KHSV)などの、ヒトのがんに関与するウイルスから由来のタンパク質が含まれてもよい。PD-L1大環状ペプチド遮断とコンジュゲートして使用できる腫瘍特異的抗原のもう一つ別の形態は、腫瘍組織そのものから単離された熱ショックタンパク質(HSP)の精製物である。これらのヒートショックタンパク質は腫瘍細胞から由来のタンパク質のフラグメントを含有しており、これらのHSPは腫瘍免疫を惹起するために抗原提示細胞への送達が極めて効率的である(Suotら、Science, 269: 1585-1588(1995);Tamuraら、Science, 278: 117-120(1997))。
【0121】
樹状細胞(DC)は、抗原特異的応答のプライミングに用いることができる、強力な抗原提示細胞である。DCはエクスビボで産生され、種々のタンパク質およびペプチド抗原、ならびに腫瘍細胞抽出物をローディングし得る(Nestleら、Nat. Med., 4: 328-332(1998))。DCはまた、これらの腫瘍抗原も同様に発現するように遺伝的手段によって遺伝子導入されることもある。DCはまた、免疫化を目的として腫瘍細胞と直接融合されることもある(Kuglerら、Nat. Med., 6: 332-336(2000))。ワクチン接種の方法として、DC免疫化は、抗PD-L1大環状ペプチドと第2の免疫調整剤との組み合わせと、さらに効果的に組み合わせることで、より強力な抗腫瘍応答を活性化され得る。
【0122】
抗PD-L1大環状ペプチドと、付加的な免疫調節剤との組み合わせは、標準的ながん治療とさらに組み合わせることもできる。例えば、大環状ペプチドと第2の免疫調節剤との組み合わせは、化学療法と効果的に組み合わせることができる。このような場合、大環状ペプチドと第2の免疫調節剤との組み合わせで観察されるように、本開示の組み合わせで投与される他の化学療法試薬の用量を減らすことが可能であろう(Mokyrら、Cancer Res., 58: 5301-5304(1998))。このような組み合わせの一例が、大環状ペプチドと第2の免疫調節剤の組み合わせを、黒色腫の治療のためにさらにデカルバジンと組み合わせることである。もう一つ別の例が、大環状ペプチドと第2の免疫調節剤との組み合わせを、黒色腫の治療のためにさらにインターロイキン-2(IL-2)と組み合わせることである。PD-L1大環状ペプチド、およびもう一つ別の免疫調整剤と、化学療法とを組み合わせて使用することを推奨する科学的な論理的根拠は、化学療法における大抵の化合物が細胞毒性作用を示す結果、細胞死が抗原提示経路にて高レベルの腫瘍抗原をもたらすはずである、ということである。細胞死を介して、抗PD-L1大環状ペプチドと付加的な免疫調整剤との組み合わせで相乗作用がもたらされる可能性のある他の併用療法には、放射線療法、手術、ホルモン遮断療法が含まれる。これらのプロトコルはいずれも、宿主に腫瘍抗原の供給源を作るものである。血管新生阻害剤は、PD-L1と、第2の免疫調節剤とを組み合わせてもよい。血管新生が阻害されると、腫瘍細胞が死滅するに至るが、これは宿主の抗原提示経路に送り込まれる腫瘍抗原の供給源でもあり得る。
【0123】
PD-L1と、もう一つ別の免疫調節剤との組み合わせは、FcアルファまたはFcガンマ受容体を発現するエフェクター細胞を腫瘍細胞に標的化する二重特異性大環状ペプチドと組み合わせて使用することもできる(例えば、米国特許第5,922,845号および同第5,837,243号を参照のこと)。二重特異性大環状ペプチドは、2つの別々の抗原を標的化するのに使用され得る。例えば、抗Fc受容体/抗腫瘍抗原(例えば、Her-2/neu)二重特異性大環状ペプチドは、マクロファージを腫瘍部位に標的化させるために使用されてきた。この標的化は腫瘍特異的応答をより効果的に活性化し得る。PD-L1と第2の免疫調整剤の組み合わせを使用することで、これら応答のT細胞アームは増強されるだろう。あるいはまた、腫瘍抗原および樹状細胞特異的細胞表面マーカーに結合する二重特異性大環状ペプチドを用いることで、抗原をDCに直接に送達することもできる。
【0124】
もう一つ別の例では、大環状ペプチドと、第2の免疫調節剤の組み合わせは、リツマン(RITUXAN)(登録商標)(リツキシマブ)、ヘルセプチン(HERCEPTIN)(登録商標)(トラスツズマブ)、ベクザー(BEXXAR)(登録商標)(トシツモマブ)、ゼバリン(ZEVALIN)(登録商標)(イブリツモマブ)、カンパス(CAMPATH)(登録商標)(アレムツズマブ)、リンホシド(Lymphocide)(登録商標)(エプルツズマブ)、アバスチン(AVASTIN)(登録商標)(ベバシズマブ)、タルセバ(TARCEVA)(登録商標)(エルロチニブ)などの抗腫瘍性大環状物質とコンジュゲートして使用され得る。一例として、理論に束縛されることを望まないが、抗がん抗体または毒素とコンジュゲートした抗がん抗体による治療は、がん細胞(例えば、腫瘍細胞)の死滅をもたらし、第2の免疫調節標的またはPD-L1によって媒介される免疫応答を増強するであろう。例示的な実施形態において、過剰増殖性疾患(例えば、がん腫瘍)の治療は、抗がん抗体を大環状ペプチドおよび第2の免疫調節剤と、同時にてもしくは順次にて、あるいはそれらを任意で併用して組み合わせて含んでもよく、宿主による抗腫瘍免疫応答を増強できる。
【0125】
腫瘍は多種多様なメカニズムで宿主の免疫監視を回避する。これらのメカニズムの多くは、腫瘍によって発現され、免疫抑制作用を持つタンパク質を不活性化することで克服できるかもしれない。これらには、とりわけ、TGF-β(Kehrl, J.ら、J. Exp. Med., 163: 1037-1050(1986))、IL-10(Howard, M.ら、Immunology Today, 13: 198-200(1992))、およびFasリガンド(Hahne, M.ら、Science, 274: 1363-1365(1996))が含まれる。もう一つ別の例では、これらの各実体に対する抗体をさらに大環状ペプチドおよびもう一つ別の免疫調節剤と組み合わせて、免疫抑制剤の効果を打ち消し、宿主による抗腫瘍免疫応答を促進してもよい。
【0126】
宿主免疫応答性を活性化するために使用され得る他の薬剤は、本開示の大環状ペプチドと組み合わせてさらに使用され得る。これらには、樹状細胞の表面にある、DCの機能および抗原提示を活性化する分子が含まれる。抗CD40大環状ペプチドは、T細胞ヘルパー活性を効果的に置換でき(Ridge, J.ら、Nature, 393: 474-478(1998))、単独でまたは抗CTLA-4併用と組み合わせるかのいずれかで、本開示の大環状ペプチドとコンジュゲートして使用され得る(Ito, N.ら、Immunobiology, 201(5):527-540(2000))。大環状ペプチドをT細胞共刺激分子、例えば、OX-40(Weinberg, A.ら、Immunol., 164: 2160-2169(2000))、4-1BB(Melero, I.ら、Nat. Med., 3: 682-685(1997)、ICOS(Hutloff, A.ら、Nature, 397: 262-266(1999))に活性化することもまた、T細胞活性化レベルの上昇をもたらし得る。
【0127】
骨髄移植は、現在、造血器官の種々の腫瘍の治療に用いられている。対宿主移植片疾患はこの治療の結果であるが、治療効果は対腫瘍移植片応答から得られるかもしれない。本開示の大環状ペプチドは、単独でまたはもう一つ別の免疫調節因子と組み合わせるかのいずれかで、ドナー生着腫瘍特異的T細胞の有効性を増大させるのに使用され得る。
【0128】
また、腫瘍に対する抗原特異的T細胞を得るために、エクスビボで抗原特異的T細胞を活性化かつ増殖させ、これらの細胞をレシピエントに養子移入する実験的治療法もいくつかある(Greenberg, R.ら、Science, 285: 546-551(1999))。これらの方法はまた、CMVなどの感染因子に対するT細胞応答を活性化するのに使用され得る。本開示の大環状ペプチドを、単独で、またはもう一つ別の免疫調整剤と組み合わせた、いずれかの存在下でのエクスビボでの活性化は、養子移入されたT細胞の頻度と活性を増加させると予想される。
【0129】
特定の実施形態において、本開示は、免疫刺激剤による過剰増殖性疾患の治療に関連する有害事象を改変させる方法であって、本開示の大環状ペプチドを、治療量以下のもう一つ別の免疫調節剤と組み合わせて対象に投与することを含む、方法を提供する。例えば、本開示の方法は、非吸収性ステロイドを患者に投与することにより、免疫刺激性治療抗体誘発性大腸炎または下痢の発生率を低下させる方法を提供する。免疫刺激性治療抗体を投与される患者はいずれも、そのような治療によって誘発される大腸炎または下痢を発症するリスクがあるため、この患者集団全体が、本開示の方法による治療に適している。ステロイドは炎症性腸疾患(IBD)を治療するのに、IBDの増悪を防止するのに投与されてきたが、IBDと診断されていない患者のIBDを防止するのに(その発症率を低下させるのに)使用されてこなかった。非吸収性ステロイドであっても、ステロイドに伴う有意な副作用があるため、予防的使用は敬遠されてきた。
【0130】
さらなる実施形態において、本開示の大環状ペプチドは、単独でまたはもう一つ別の免疫調節剤と組み合わせて、任意の非吸収性ステロイドの使用とさらに組み合わせることができる。本明細書で使用する「非吸収性ステロイド」は、肝臓での代謝後、ステロイドの生物学的利用能が低い、すなわち約20%未満であるような、広範な初回通過代謝を示すグルココルチコイドである。本開示の一実施形態では、非吸収性ステロイドはブデソニドである。ブデソニドは局所作用型のグルココルチコステロイドであり、経口投与後に、主に肝臓で広範囲に代謝される。エントコート(ENTOCORT)(登録商標)EC(アストラゼネカ)は、回腸に、そして結腸全体への薬物の送達を最適化するために開発された、ブデソニドのpHおよび時間依存性の経口製剤である。エントコート(登録商標)ECは、回腸および/または上行結腸を含む軽度から中等度のクローン病の治療薬として米国で承認されている。クローン病治療におけるエントコート(登録商標)ECの一般的な経口投与量は6~9mg/日である。エントコート(登録商標)ECは腸内で放出された後、腸粘膜にて吸収かつ保持される。エントコート(登録商標)ECは、腸粘膜を通過して標的となる組織に達した後、肝臓にてチトクロームP450系により、グルココルチコイド活性のほとんどない代謝物に広範囲にわたって代謝される。そのため、生物学的利用能は低い(約10%)。ブデソニドの生物学的利用能が低いため、それほど広範でない初回通過代謝の他のグルココルチコイドと比較して治療比の改善がもたらされる。ブデソニドは、全身作用型コルチコステロイドよりも、視床下部-下垂体抑制の低下を含め、副作用が少ない。しかし、エントコート(登録商標)ECの慢性投与は、副腎皮質機能亢進症や副腎抑制などの全身性グルココルチコイド作用をもたらし得る。Physicians’Desk Reference Supplement, 58th Edition, 608-610(2004)を参照のこと。
【0131】
さらなる実施形態において、非吸収性ステロイドとコンジュゲートしたPD-L1ともう一つ別の免疫調節剤の組み合わせは、サリチレートとさらに組み合わせることができる。サリチレートには、例えば、スルファサラジン(アズルフィジン(AZULFIDINE)(登録商標)、ファルマシア&アップジョン);オルサラジン(ジペンツム(DIPENTUM)(登録商標)、ファルマシア&アップジョン);バルサラジド(コラザル(COLAZAL)(登録商標)、サリックス・ファーマシューティカルズ社);およびメサラミン(アサコール(ASACOL)(登録商標)、Procter & Gamble Pharmaceuticals;ペンタサ(PENTASA)(登録商標)、Shire US;カナサ(CANASA)(登録商標)、Axcan Scandipharm;ロワサ(ROWASA)(登録商標)、Solvay)などの5-ASAが含まれる。
【0132】
合成法
化合物は、以下に記載される方法を含め、当該分野で公知の方法(当該分野の技術の範囲内にある変形を含む)によって製造され得る。いくつかの試薬や中間体は当該分野で知られている。他の試薬および中間体は、容易に入手可能な材料を用い、当該分野で知られている方法で製造され得る。化合物の合成を説明するために使用される可変基(例えば、番号付けされた「R」置換基)は、化合物の製造方法を説明することのみを意図しており、特許請求の範囲または本明細書の他のセクションで使用される可変基と混同されることはない。以下の方法は例示を目的としたものであり、本発明の範囲を制限しないものとする。
【0133】
スキームにおいて使用される略語は、一般に、当該分野で使用されている慣例に従うものとする。本明細書および実施例で使用する化学略号は以下のように定義される:「THF」はテトラヒドロフラン;「DMF」はN,N-ジメチルホルムアミド;「MeOH」はメタノール;「EtOH」はエタノール;「n-PrOH」は1-プロピルアルコールまたはプロパン-1-オール;「i-PrOH」は2-プロピルアルコールまたはプロパン-2-オール;「Ar」はアリール;「TFA」はトリフルオロ酢酸;「DMSO」はジメチルスルホキシド;「EtOAc」は酢酸エチル;「EtO」はジエチルエーテル;「DMAP」は4-ジメチルアミノピリジン;「DCE」は1,2-ジクロロエタン;「ACN」はアセトニトリル;「DME」は1,2-ジメトキシエタン;「h」は時間;「rt」は室温または保持時間(文脈によって決まる);「min」は分;「HOBt」は1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物;「HCTU」は1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-5-クロロベンゾトリアゾリウム 3-オキシド・ヘキサフルオロホスフェートまたはN,N,N’,N’-テトラメチル-O-(6-クロロ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウム・ヘキサフルオロホスフェート;「HATU」は、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム 3-オキシド・ヘキサフルオロホスフェートまたはN-[(ジメチルアミノ)-1H-1,2,3-トリアゾロ-[4,5-b]ピリジン-1-イルメチレン]-N-メチルメタナミニウム・ヘキサフルオロホスフェート N-オキシド;「DIEA」および「iPrNEt」はジイソプロピルエチルアミン;「EtN」はトリエチルアミンを表す。
【0134】
略語は以下の通り定義される:「1x」は1回;「2x」は2回;「3x」は3回;「℃」は摂氏;「eq」は当量;「g」はグラム;「mg」はミリグラム;「L」はリットル;「mL」はミリリットル;「μL」はマイクロリットル;「N」は正規;「M」はモル;「mmol」ははミリモル;「min」は分;「h」は時間;「rt」は室温;「RT」は保持時間;「atm」は大気;「psi」はポンド毎平方インチ「conc.」は濃縮物;「sat」または「sat’d」は飽和物;「MW」は分子量;「mp」は融点;「ee」はエナンチオマー過剰率;「MS」または「Mass Spec」は質量分析法;「ESI」はエレクトロスプレーイオン化質量分析法;「HR」は高分解能;「HRMS」は高分解能質量分析法;「LS」は液体クロマトグラフィー;「LCMS」は液体クロマトグラフィー質量分析法;「HPLC」は高圧液体クロマトグラフィー;「RP HPLC」は逆相HPLC;「TLC」または「tlc」は薄層クロマトグラフィー;「NMR」は核磁気共鳴分光法;「H」はプロトン;「δ」はデルタ;「s」は一重項;「d」は二重項;「t」は三重項;「q」は四重項;「m」は多重項;「br」はブロード;「Hz」はヘルツを表し;そして「α」、「β」、「R」、「S」、「E」、および「Z」は当業者に馴染みのある立体化学的呼称である。
【0135】
BMT-001は構造式:
【化6】
で表され;
化合物1001の調製物:
【化7】
または
【化8】
である。
【0136】
BMT-001(50mg)およびHATU(7.66mg)のDMF(2 mL)中溶液に、iPrNEt(0.018 mL)を加えた。混合物を室温で16時間撹拌した。すべての溶媒を真空下で除去した後、残渣を分取HPLCで精製した。
【表1】
【0137】
構造体を製造する一般的な操作:
BMT-001、試剤(1-20当量)の、EtNまたはiPrNEt(0-200当量)を含むかまたは含まない、DMFまたはTHFまたはジオキサンまたはDMEまたはMeOHまたはEtOHまたはnPrOHまたはiPrOHまたはDMSOまたはCHClまたは水、あるいはこれらの溶媒の混合液中の混合物を、室温~100℃で0.5~48時間にわたって撹拌し、その後で反応物をメタノールまたは水でクエンチした。すべての溶媒を真空下で除去した後、残渣を分取HPLCで精製し、本発明の化合物を得た。
【0138】
あるいはまた、NaHまたはLiOHまたはNaOHまたはKOHまたはLiCOまたはNaCOまたはKCO(1-200当量)を、BMT-001(1当量)および試剤(1-20当量)のDMFまたはTHFまたはジオキサンまたはDMEまたはMeOHまたはEtOHまたはnPrOHまたはiPrOHまたはDMSOまたは水、または上記した混合液中の溶液に添加した。反応物を室温~100℃で0.5~48時間にわたって撹拌した。すべての溶媒を真空下で除去した後、残渣を分取HPLCで精製し、本発明の化合物を得た。
【0139】
あるいはまた、EtNまたはiPrNEt(1-200当量)を、酸(1-20当量)、HCTUまたはHATUまたはHOBt(1-20当量)の、DMFまたはTHFまたはジオキサンまたはDME中溶液に添加した。混合物を室温で24時間撹拌した後、BMT-001(1当量)を添加した。次に、反応物を室温~100℃で0.5~48時間にわたって撹拌し、その後で反応物をメタノールまたは水でクエンチした。すべての溶媒を真空下で除去した後、残渣を分取HPLCで精製し、本発明の化合物を得た。
【0140】
均一系時間分解蛍光(HTRF)結合アッセイを用い、大環状ペプチドがPD-1とPD-L1との結合と競合する能力を試験する方法
式(I)の化合物のPD-L1と結合する能力を、PD-1/PD-L1の均一系時間分解蛍光(HTRF)結合アッセイを用いて調べた。
【0141】
均一系時間分解蛍光(HTRF)結合アッセイ
PD-1とPD-L1との相互作用は、2つのタンパク質の細胞外ドメインの可溶性の精製した調製物を用いて評価され得る。PD-1とPD-L1タンパク質の細胞外ドメインは、検出タグを有した融合タンパク質として発現され、PD-1については、タグは免疫グロブリンのFc部分(PD-1-Ig)であり、PD-L1については、それは6のヒスチジンモチーフ(PD-L1-His)であった。すべての結合試験は、0.1%のウシ血清アルブミンと0.05%(v/v)のツィーン-20を補足したdPBSからなるHTRFアッセイバッファー中で行われた。h/PD-L1-His結合アッセイでは、阻害剤をPD-L1-His(最終10nM)と共に4μlのアッセイバッファー中で15分間にわたってプレインキュベートし、つづいてPD-1-Ig(最終20nM)を1μlのアッセイバッファーにて添加し、さらに15分間にわたってインキュベートした。HTRF検出は、ユーロピウムクリプテート標識の抗Ig(最終1nM)とアロフィコシアニン(APC)標識の抗His(最終20nM)を用いて達成された。抗体をHTRF検出バッファーで希釈し、5μlを結合反応物の上に分注した。反応混合物を30分間にわたって平衡化させ、結果としてのシグナル(665nm/620nm比)をEnVision蛍光光度計を用いて得た。付加的な結合アッセイが、ヒトタンパク質PD-1-Ig/PD-L2-His(各々、20および5nM)とCD80-His/PD-L1-Ig(各々、100および10nM)の間で確立された。
【0142】
組換えタンパク質:
免疫グロブリンG(Ig)のC末端ヒトFcドメインのエピトープタグを有するヒトPD-1(25-167)[hPD-1(25-167)-3S-IG]およびC末端Hisのエピトープタグを有するヒトPD-L1(18-239)[hPD-L1(18-239)-TVMV-His]をHEK293T細胞で発現させ、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーに付して順次精製した。ヒトPD-L2-HisおよびCD80-Hisは市販品より入手した。
【0143】
表1は、PD-1/PD-L1の均一系時間分解蛍光(HTRF)結合アッセイにて測定された、本開示の代表的な実施例のIC50値を示す。
表1
【表2】
【0144】
本開示が、上記の例示としての実施例に限定されるものではなく、その本質的な属性を逸脱することなく他の具体的な形態で具現化され得ることは、当業者にとって明らかであろう。従って、実施例は、あらゆる点で例示であって、制限的なものではないとみなされ、上記の実施例よりもむしろ添付した特許請求の範囲に対して言及されるのが望ましく、かくして特許請求の範囲の意義および均等な範囲内に入るすべての変更は本発明に包含されるものとする。
【0145】
式(I)の化合物は、PD-1/PD-L1相互作用の阻害剤としての活性を有し、従ってPD-1/PD-L1相互作用に付随する疾患または欠損の治療にて使用され得る。PD-1/PD-L1相互作用の阻害を介して、本開示の化合物は、HIV、敗血症性ショック、A型、B型、C型、またはD型肝炎などの感染症、およびがんの治療に利用され得る。
【0146】
概要および要約のセクションではなく、詳細な説明のセクションが、特許請求の範囲を解釈するのに使用されるものとすると理解されたい。概要および要約のセクションは、本発明者によって企図された本開示のすべてではない1または複数の実施形態を例示として示すことができ、かくして、本開示および添付の特許請求の範囲を何らかの方法で限定しようとするものではない。
【0147】
本開示は、特定の機能とその関係の実施を示す機能ビルディングブロックの協力を得て、上記されている。これらの機能ブロックの境界は、本明細書では説明の便宜上、任意に定義されている。特定の機能とその関係が適切に実施される限り、代替となる境界が定義され得る。
【0148】
具体的な実施形態に関する上記の説明は、当該分野の知識を適用し、かかる特定の実施形態を種々に適用するために、過度な実験を行うことなく、本開示の一般的な概念から逸脱することなく、容易に修飾し、および/または適合させることによって、本開示の一般的な性質が十分に明らかにされるものであろう。したがって、このような適応および修正は、本明細書にて示された教示および指針に基づいて、開示された実施形態の均等の意義および範囲内にあるものとする。本明細書の用語または言い回しは、説明を目的とするものであり、限定を目的とするものではなく、本明細書の用語または言い回しは当業者であれば教示および指針を考慮して解釈されることを理解されたい。
【0149】
本開示の広さおよび範囲は、上記の例示的な実施形態のいずれかによって限定されるべきではなく、以下の特許請求の範囲およびその均等物に従ってのみ定義されるべきである。
【国際調査報告】