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特表2024-526091コーティングスラリー、コーティングセパレータ及びそれらの製造方法
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  • 特表-コーティングスラリー、コーティングセパレータ及びそれらの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-17
(54)【発明の名称】コーティングスラリー、コーティングセパレータ及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/403 20210101AFI20240709BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20240709BHJP
   H01M 50/42 20210101ALI20240709BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20240709BHJP
   H01M 50/429 20210101ALI20240709BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240709BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20240709BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20240709BHJP
   H01M 50/431 20210101ALI20240709BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20240709BHJP
   H01M 50/457 20210101ALI20240709BHJP
【FI】
H01M50/403 D
H01M50/426
H01M50/42
H01M50/414
H01M50/429
H01M50/434
H01M50/446
H01M50/451
H01M50/431
H01M50/44
H01M50/457
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577363
(86)(22)【出願日】2022-06-15
(85)【翻訳文提出日】2023-12-14
(86)【国際出願番号】 CN2022098973
(87)【国際公開番号】W WO2022262778
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】202110665849.0
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518279484
【氏名又は名称】シェンチェン シニア テクノロジー マテリアル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100142804
【弁理士】
【氏名又は名称】大上 寛
(72)【発明者】
【氏名】黄慧▲じぇん▼
(72)【発明者】
【氏名】楊丹丹
(72)【発明者】
【氏名】陳威艶
(72)【発明者】
【氏名】熊迪
(72)【発明者】
【氏名】陳澤林
(72)【発明者】
【氏名】林于琳
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021BB12
5H021BB15
5H021CC03
5H021CC04
5H021EE01
5H021EE02
5H021EE03
5H021EE06
5H021EE10
5H021EE11
5H021EE21
5H021HH00
5H021HH01
(57)【要約】
本発明は、電池のセパレータに適用されるコーティングスラリーであって、有機ポリマー、溶媒及び光開始剤を主成分として含むコーティングスラリーを開示する。本発明は、また、上記コーティングスラリーで製造されたコーティングセパレータ及びその製造方法であって、前記コーティングスラリーを基材の少なくとも一方の面にコーティングし、設定されたエネルギー及び波長の紫外線照射処理を施して、紫外線架橋されたコーティングセパレータを得る、コーティングセパレータ及びその製造方法を開示する。本発明は、上記の技術的解決手段により、セパレータ内に架橋構造を簡単かつ低コストで形成することで、セパレータの熱機械的強度及び破膜温度を向上させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ポリマー、溶媒及び光開始剤を主成分として含む、ことを特徴とするコーティングスラリー。
【請求項2】
前記有機ポリマーの質量分率が0.05~50wt%であり、前記有機ポリマーは、ポリフッ化ビニリデンホモポリマー、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー、ポリフッ化ビニリデン-トリクロロエチレンコポリマー、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸エステル又はその誘導体、ポリアクリルアミド、ポリイミド、ポリオキシエチレン、及びセルロースから選ばれる1種又は複数種である、ことを特徴とする請求項1に記載のコーティングスラリー。
【請求項3】
前記光開始剤の質量分率が0.001~10wt%であり、前記光開始剤は、アゾジイソブチロニトリル、オキサノン、イソプロピルチオキサントン、ベンゾフェノン、過酸化ベンゾイルから選ばれる1種又は複数種の組み合わせである、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のコーティングスラリー。
【請求項4】
前記溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチルウレア、N-メチルピロリドン、アセトン、水、リン酸トリメチル、又はリン酸トリエチルから選ばれる1種又は複数種である、ことを特徴とする請求項1に記載のコーティングスラリー。
【請求項5】
無機材料をさらに含み、前記コーティングスラリー中に占める前記無機材料の質量分率が0~95wt%である、ことを特徴とする請求項1に記載のコーティングスラリー。
【請求項6】
前記無機材料は、セラミック材料、ナノワイヤ材料又はナノチューブ材料から選ばれ、前記セラミック材料は、Al、SiO、TiO、ZrO、MgO、CaO、AlOOH、SiCから選ばれる1種又は複数種の組み合わせであり、前記ナノワイヤ材料は、カーボンナノワイヤ、アタパルジャイト、ナノ銀ワイヤ、炭化ホウ素ナノワイヤ、ナノセルロース、水酸化銅ナノワイヤ、一酸化ケイ素ナノワイヤ、ヒドロキシアパタイトナノワイヤから選ばれる1種又は複数種であり、前記ナノチューブ材料は、カーボンナノチューブ、ナノ銀チューブ、炭化ホウ素ナノチューブ、水酸化銅ナノチューブ、一酸化ケイ素ナノチューブ、ヒドロキシアパタイトナノチューブから選ばれる1種又は複数種である、ことを特徴とする請求項5に記載のコーティングスラリー。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のコーティングスラリーで製造されるコーティング層を含み、前記コーティング層は、前記有機ポリマー分子同士が連結して形成された三次元網目構造を含み、前記三次元網目構造の質量は、有機ポリマーの全質量に占める質量分率が50%以上であり、前記コーティング層の全質量に占める質量分率が1.0%以上である、ことを特徴とするコーティングセパレータ。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載のコーティングスラリーと、基材と、を含み、
前記コーティングスラリーを前記基材の少なくとも一方の面にコーティングし、設定されたエネルギー及び波長の紫外線照射処理を施して、紫外線架橋された前記セパレータを得る、ことを特徴とするコーティングセパレータ。
【請求項9】
前記基材は、ポリオレフィン微多孔膜、ポリイミド微多孔膜、不織布セパレータ、多層複合セパレータ、セラミックコーティングセパレータ、ポリマーコーティングセパレータから選ばれる1種又は複数種である、ことを特徴とする請求項8に記載のコーティングセパレータ。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか1項に記載のコーティングセパレータの製造方法であって、
(1)スラリーの製造:有機ポリマー50wt%以下、光開始剤0.001~5.0wt%、無機材料50~95wt%、及びその他の助剤0~5wt%を溶媒に加え、均一に撹拌して、スラリーを得るステップと、
(2)コーティング:上記で製造されたスラリーを基材の少なくとも一方の面にコーティングするステップと、
(3)相転移:コーティングにより得られたセパレータを相転移するステップと、
(4)乾燥:上記のステップ(3)で得られた製品を洗浄、乾燥し、複合セパレータを得るステップと、
(5)紫外線架橋:前記複合セパレータを紫外線照射により架橋反応させ、紫外線架橋複合セパレータを得るステップと、を含む、ことを特徴とする製造方法。
【請求項11】
(1)スラリーの製造:光開始剤0.001~5.0wt%、高耐熱性材料50~95wt%、及びその他の助剤0~5wt%を溶媒に加え、均一に撹拌して、スラリーを得るステップと、
(2)浸漬:上記で製造されたスラリーに基板を浸漬し、セパレータを得るステップと、
(3)相転移:セパレータを相転移するステップと、
(4)乾燥:上記のステップ(3)で得られた製品を洗浄、乾燥し、複合セパレータを得るステップと、
(4)紫外線架橋:前記複合セパレータを紫外線照射により架橋反応させ、紫外線架橋複合セパレータを得るステップと、を含む、ことを特徴とする請求項7~9のいずれか1項に記載のコーティングセパレータの製造方法。
【請求項12】
(1)スラリーの製造:光開始剤0.001~5.0wt%、高耐熱性材料50~95wt%、及びその他の助剤0~5wt%を溶媒に加え、均一に撹拌して、スラリーを得るステップと、
(2)コーティング:上記で製造されたスラリーを基材の少なくとも一方の面にコーティングし、又は、浸漬:上記で製造されたスラリーに基材を浸漬し、セパレータを得るステップと、
(3)乾燥:上記ステップ(2)で得られた製品を乾燥し、複合セパレータを得るステップと、
(4)紫外線架橋:前記複合セパレータを紫外線照射により架橋反応させ、紫外線架橋複合セパレータを得るステップと、を含む、ことを特徴とする請求項7~9のいずれか1項に記載のコーティングセパレータの製造方法。
【請求項13】
使用される紫外線の波長が210nm~420nmの範囲であり、紫外線架橋の時間が0.001s~10sであり、照射光強度が50mj/cm以上である、ことを特徴とする請求項9~12のいずれか1項に記載のコーティングセパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池のセパレータの技術分野に関し、特に、電池のセパレータをコーティングするためのスラリー、上記スラリーでコーティングされたセパレータ、及び前記セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池のセパレータは、電池の正極と負極の間のセパレータ材料の層で、電池の非常に重要な部分で、電池の安全性とコストに直接影響するものであり、主に、正極と負極を隔離し、また、電池内の電子の自由な通過を阻止し、電解液中のイオンを正極と負極の間で自由に通過させる役割を果たす。
【0003】
電池のセパレータのイオン伝導能力は電池の全体的な性能に直接関係しており、正極と負極を隔離する機能により、過充電時や温度上昇時の電流の増加を抑え、電池のショートによる爆発を防止し、微多孔の自己密閉による保護作用があり、電池の使用者やそれを使用する設備に対して保護作用を果たすことができる。
【0004】
量産性と経済性を考慮して、従来の技術案では、融点130℃~160℃のポリオレフィン系ポリマーがベースフィルム材料として使用され、製造されたセパレータ製品の破膜温度が140℃~170℃の間である。電池の正常な使用時に従来の製品では需要が十分に満たされるが、過充電、内外短絡や、衝突や押出などの場合では、電池内の温度が150℃以上に急上昇する可能性があり、セパレータが早期に溶けて破裂し、電池の正極と負極が直接接触するのを防ぐことができなくなると、短期間で大量の熱が蓄積し、熱暴走が発生して、電池の発火や最悪の場合爆発を引き起こす可能性があるので、セパレータの性能は電池の安全性にとって非常に重要である。
【0005】
上記の問題を解決するために、ベースフィルムを製造する過程で、原料に架橋剤(例えばオルガノシラン類)を直接混合し、高温で押し出して直接架橋させる方法が現存しているが、この方法には、次のような欠点がある。
1、加工難度が高く、生産コストが高い。
2、架橋剤は材料系の中で十分に分散して完全に反応することが難しいので、製品の一貫性が低く、量産が難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、光開始剤を添加したコーティングスラリー、該コーティングスラリーで製造されたコーティングセパレータ、及び該コーティングセパレータの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の技術的解決手段は以下のとおりである。
【0008】
有機ポリマー、溶媒及び光開始剤を主成分として含むコーティングスラリー。
好ましくは、前記有機ポリマーの質量分率が0.05~50wt%であり、前記有機ポリマーは、ポリフッ化ビニリデンホモポリマー、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー、ポリフッ化ビニリデン-トリクロロエチレンコポリマー、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸エステル又はその誘導体、ポリアクリルアミド、ポリイミド、ポリオキシエチレン、及びセルロースから選ばれる1種又は複数種である。
好ましくは、前記光開始剤の質量分率が0.001~5.0wt%であり、前記光開始剤は、アゾジイソブチロニトリル、オキサノン、イソプロピルチオキサントン、ベンゾフェノン、過酸化ベンゾイルから選ばれる1種又は複数種の組み合わせである。
【0009】
好ましくは、前記溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン、テトラメチルウレア、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトン、水、リン酸トリメチル、又はリン酸トリエチルから選ばれる1種又は複数種である。
【0010】
好ましくは、前記コーティングスラリーは無機材料をさらに含み、前記コーティングスラリー中に占める前記無機材料の質量分率が50~95wt%である。
【0011】
好ましくは、前記無機材料は、セラミック材料、ナノワイヤ材料又はナノチューブ材料から選ばれ、前記セラミック材料は、Al、SiO、TiO、ZrO、MgO、CaO、AlOOH、SiCから選ばれる1種又は複数種の組み合わせであり、前記ナノワイヤ材料は、カーボンナノワイヤ、アタパルジャイト、ナノ銀ワイヤ、炭化ホウ素ナノワイヤ、ナノセルロース、水酸化銅ナノワイヤ、一酸化ケイ素ナノワイヤ、ヒドロキシアパタイトナノワイヤから選ばれる1種又は複数種であり、前記ナノチューブ材料は、カーボンナノチューブ、ナノ銀チューブ、炭化ホウ素ナノチューブ、水酸化銅ナノチューブ、一酸化ケイ素ナノチューブ、ヒドロキシアパタイトナノチューブから選ばれる1種又は複数種である。好ましくは、前記無機材料は、高耐熱性無機材料である。
【0012】
同じ発明構想に基づいて、本発明は、また、上記のいずれか1項に記載のコーティングスラリーで製造されるコーティング層を含み、前記コーティング層は三次元網目構造を含み、前記三次元網目構造の質量は、有機ポリマーの全質量に占める質量分率が50%以上であり、前記コーティング層の全質量に占める質量分率が1.0%以上である、コーティングセパレータを提供する。同じ発明構想に基づいて、本発明は、また、上記のいずれか1項に記載のコーティングスラリーと、基材と、を含み、前記コーティングスラリーを前記基材の少なくとも一方の面にコーティングし、設定されたエネルギー及び波長の紫外線照射処理を施して、紫外線架橋された前記セパレータを得る、コーティングセパレータを提供する。
【0013】
好ましくは、前記基材は、ポリオレフィン微多孔膜、ポリイミド微多孔膜、不織布セパレータ、多層複合セパレータ、セラミックコーティングセパレータ、ポリマーコーティングセパレータから選ばれる1種又は複数種である。
【0014】
同じ発明思想に基づいて、本発明は、また、
(1)スラリーの製造:有機ポリマー50wt%以下、光開始剤0.001~5.0wt%、無機材料50~95wt%、及びその他の助剤0~5wt%を溶媒に加え、均一に撹拌して、スラリーを得るステップと、
(2)コーティング:上記で製造されたスラリーを基材の少なくとも一方の面にコーティングするステップと、
(3)相転移:コーティングにより得られたセパレータを相転移するステップと、
(4)乾燥:上記のステップ(3)で得られた製品を洗浄、乾燥し、複合セパレータを得るステップと、
(5)紫外線架橋:前記複合セパレータを紫外線照射により架橋反応させ、紫外線架橋複合セパレータを得るステップと、を含む、上記のコーティングセパレータの製造方法を提供する。
【0015】
上記のコーティングセパレータの製造方法は、
(1)スラリーの製造:光開始剤0.001~5.0wt%、無機材料50~95wt%、及びその他の助剤0~5wt%を溶媒に加え、均一に撹拌して、スラリーを得るステップと、
(2)浸漬:上記で製造されたスラリーに基板を浸漬し、セパレータを得るステップと、
(3)相転移:セパレータを相転移するステップと、
(4)乾燥:上記のステップ(3)で得られた製品を洗浄、乾燥し、複合セパレータを得るステップと、
(4)紫外線架橋:前記複合セパレータを紫外線照射により架橋反応させ、紫外線架橋複合セパレータを得るステップと、を含む。
【0016】
前記その他の助剤は、分散剤、湿潤剤、増粘剤及び導電性助剤の1種又は複数種であってもよい。
【0017】
同じ発明思想に基づいて、本発明は、また、
(1)スラリーの製造:光開始剤0.001~5.0wt%、高耐熱性材料50~95wt%、及びその他の助剤0~5wt%を溶媒に加え、均一に撹拌して、スラリーを得るステップと、
(2)コーティング:上記で製造されたスラリーを基材の少なくとも一方の面にコーティングし、又は、浸漬:上記で製造されたスラリーに基材を浸漬し、セパレータを得るステップと、
(3)乾燥:上記ステップ(2)で得られた製品を乾燥し、複合セパレータを得るステップと、
(4)紫外線架橋:前記複合セパレータを紫外線照射により架橋反応させ、紫外線架橋複合セパレータを得るステップと、を含む、前記コーティングセパレータの製造方法を提供する。
【0018】
上記乾燥ステップは、熱風、赤外線照射等の手段により乾燥することができる。
好ましくは、使用される紫外線の波長が210nm~420nmの範囲であり、紫外線架橋の時間が0.001s~10sであり、照射光強度が50mj/cm以上である。
【発明の効果】
【0019】
従来技術と比較して、本発明の利点は、以下の点にある。
【0020】
紫外線架橋によりスラリー中の異なる有機物分子セグメント上の架橋部位を活性化し、相互に連結して網目状架橋構造を形成することで、簡単な処方とプロセス、より低いコストでセパレータの破膜温度を高める、電池の安全性を大幅に高める。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のコーティングセパレータの紫外線照射処理中の反応過程の概略図である。
図2】本発明のコーティングセパレータの紫外線照射処理によるミクロ網目状高分子構造の形成の概略図である。
図3】180℃オーブンに30分間放置する前後のセパレータサンプルの比較である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、従来のベースフィルムの架橋方法に存在する、加工難度が高く、コストが高く、架橋の一貫性が高くないという欠点を克服するために、従来のベースフィルム原材料に架橋剤を混入する方法の代わりに、コーティングスラリーに光開始剤を添加し、このスラリーをベースフィルム上にコーティングし、紫外線により架橋させることにより、架橋された電池のセパレータを得ることを考案し、それによって、電池のセパレータの性能向上、特に破膜温度の向上を達成することができる。
【0023】
具体的には、本発明は、まず、有機ポリマー、溶媒及び光開始剤を主成分として含むコーティングスラリーを提供する。
【0024】
前記有機ポリマーの質量分率が0.05~50wt%であり、前記有機ポリマーは、ポリフッ化ビニリデンホモポリマー、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー、ポリフッ化ビニリデン-トリクロロエチレンコポリマー、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸エステル又はその誘導体、ポリアクリルアミド、ポリイミド、ポリオキシエチレン、及びセルロースから選ばれる1種又は複数種である。有機ポリマーの質量分率は、電池のセパレータの性能に影響し、質量分率が少なすぎると、十分な接着性を備えたコーティング層を形成することができず、質量分率が多すぎると、セパレータの微細孔構造の目詰まりを引き起こし、電池の内部抵抗及びサイクル特性に悪影響を与える可能性がある。さらに好ましくは、前記有機ポリマーの質量分率は3~45wt%である。
【0025】
有機ポリマーの質量分率は、例えば、0.05%、0.1%、0.5%、1%、3%、5%、7%、9%、11%、13%、15%、17%、19%、21%、23%、25%、27%、29%、31%、33%、35%、37%、39%、41%、43%、45%、49%、50%である。
【0026】
前記光開始剤の質量分率が0.001~5wt%であり、前記光開始剤は、アゾジイソブチロニトリル(AIBN)、オキサノン(XAN)、イソプロピルチオキサントン(ITX)、ベンゾフェノン(BP)、過酸化ベンゾイル(BPO)から選ばれる1種又は複数種の組み合わせである。光開始剤の質量分率は、セパレータの性能と密接に関連しており、光開始剤の質量分率が少なすぎると、架橋硬化度が十分でなく、破膜温度の改善が予期通りにならない可能性があり、光開始剤の質量分率が多すぎると、セパレータ中に過剰に残存し、コストアップを招く。さらに好ましくは、前記光開始剤の質量分率は0.01~5wt%である。
【0027】
例えば、前記光開始剤の質量分率は、0.001%、0.01%、0.05%、0.07%、0.1%、0.5%、0.9%、1%、1.3%、1.7%、1.9%、2.1%、2.5%、2.9%、3.1%、3.5%、3.9%、4.1%、4.5%、4.9%、5.1%、5.5%、5.9%、6.3%、6.7%、6.9%、7.3%、7.7%、7.9%、8.3%、8.7%、8.9%、9.1%、9.5%、9.7%、9.9%である。
【0028】
前記溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン、テトラメチルウレア、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトン、水、リン酸トリメチル及びリン酸トリエチルから選ばれる1種又は複数種であってもよい。
【0029】
さらに、前記コーティングスラリーは無機材料をさらに含んでもよく、前記コーティングスラリーに占める前記無機材料の質量分率が50~95wt%である。
【0030】
前記無機材料は、セラミック材料、ナノワイヤ材料又はナノチューブ材料から選ばれ、前記セラミック材料は、Al、SiO、TiO、ZrO、MgO、CaO、AlOOH、SiCから選ばれる1種又は複数種の組み合わせであり、前記ナノワイヤ材料は、カーボンナノワイヤ、アタパルジャイト、ナノ銀ワイヤ、炭化ホウ素ナノワイヤ、ナノセルロース、水酸化銅ナノワイヤ、一酸化ケイ素ナノワイヤ、ヒドロキシアパタイトナノワイヤから選ばれる1種又は複数種であり、前記ナノチューブ材料は、カーボンナノチューブ、ナノ銀チューブ、炭化ホウ素ナノチューブ、水酸化銅ナノチューブ、一酸化ケイ素ナノチューブ、ヒドロキシアパタイトナノチューブから選ばれる1種又は複数種であってもよい。
【0031】
本発明は、また、前記コーティングスラリーで製造されるコーティング層を含み、前記コーティング層は三次元網目構造を含み、前記三次元網目構造の質量は、有機ポリマーの全質量に占める質量分率が50%以上であり、前記コーティング層の全質量に占める質量分率が1.0%以上である、コーティングセパレータを提供する。スラリー中の線状有機ポリマー分子鎖をコーティング(又は浸漬)、乾燥、架橋した後、分岐鎖を介して連結して三次元網目状構造とし、コーティング層においてこの三次元網目状架橋構造を骨格として、その中に分散した無機材料同士を確実に被覆する。架橋後の網目状構造の質量が有機ポリマー全体に対して50%未満である場合やコーティング層全体に対して1.0%未満である場合、架橋反応の程度が十分でなく、架橋点同士が十分に連結されておらず、形成された三次元網目状構造は高温や外力により十分な強度を維持できない。
【0032】
当業者に知られているように、線状有機ポリマーは良溶媒に溶解できるが、架橋後の三次元網目状構造は良溶媒に膨潤するだけで溶解できず、三次元網目状構造の質量分率の試験は、コーティングセパレータ又はコーティング層を揮発性良溶媒に置き、ソックスレー抽出、乾燥をして、三次元網目状構造と無機材料を取得し、TGA又はるつぼを利用して焼灼することにより、無機材料の質量分率を得て、三次元網目状構造の質量割合を得ることによって行われてもよい。もちろん、本発明はこの試験方法に限定されるものではなく、当業者は、実際の需要に応じて他の試験方法を用いて架橋後の三次元有機分子の質量を取得してもよい。
【0033】
本発明は、また、前記コーティングスラリーと、基材と、を含み、前記コーティングスラリーを前記基材の少なくとも一方の面(片面又は両面であってもよい)にコーティングし、設定されたエネルギー及び波長の紫外線照射処理を施して、紫外線架橋されたコーティングセパレータを得る、コーティングセパレータを提供する。
【0034】
前記基材は、ポリオレフィン微多孔膜(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなど)、ポリイミド微多孔膜、不織布セパレータ、多層複合セパレータ、セラミックコーティングセパレータ、ポリマーコーティングセパレータなどを含むが、これらに限定されない。
【0035】
本発明のコーティングセパレータは、紫外線照射処理の過程で、スラリー中の光開始剤が、設定された波長及びエネルギーの紫外線照射下で基底状態から励起状態に遷移し、系の有機物中のC-H構造からHイオンを奪うと同時に有機物高分子ラジカルを生成し、それらが互いに終端すると、有機物高分子が架橋し、この反応過程は図1に示す。反応後、長鎖高分子間に架橋構造が形成され、図2の右図に示すようなミクロ網目状の高分子構造が形成される。上記の反応は、条件によって反応の程度が異なるが、多孔質基材層及び有機ポリマーコーティング層の両方において同時に行うことができる。
【0036】
本発明は、また、以下のステップを含む、前記コーティングセパレータの製造方法を提供する。
(1)スラリーの製造
有機ポリマー50wt%以下、光開始剤0.001~5.0wt%、無機材料50~95wt%、及びその他の助剤0~5wt%を溶媒に加え、均一に撹拌して、スラリーを得る。
(2)コーティング:上記で製造されたスラリーを基材の少なくとも一方の面(片面又は両面であってもよい)にコーティングする。
(3)相転移:コーティングにより得られたセパレータを相転移する。相転移のステップは、凝固浴に浸漬したり、加熱したりすることにより行うことができ、ここでは相転移の技術的手段を制限しないことが理解される。好ましくは、相転換は、沸点が低く、コーティング層有機物と相溶しない非溶媒を用いて、元の溶媒を置換して微多孔を有するコーティング層を形成する凝固浴浸漬によって行うことができ、前記非溶媒は、純水、プロピレントリオール、酢酸エチル、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)、アセトン、酢酸メチル(MAC)、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、エタノール(EtOH)、メタノール、イソプロパノール(i-PrOH)、n-ブタノール(BtOH)、n-オクタノール(OtOH)、ドデカノール(DoOH)、塩化リチウム(LiCl)、及び過塩素酸リチウム(LiClO)から選択される1種又は複数種であってもよい。
(4)乾燥:上記のステップ(3)で得られた製品を洗浄、乾燥し、複合セパレータを得る。
(5)紫外線架橋:前記複合セパレータを紫外線照射により架橋反応させ、紫外線架橋複合セパレータとして前記コーティングセパレータを得る。
上記スラリーコーティング方法を用いる場合、スラリーに有機ポリマーが含まれている。
【0037】
本発明は、また、
(1)スラリーの製造:光開始剤0.001~5.0wt%、高耐熱性材料50~95wt%、及びその他の助剤0~5wt%を溶媒に加え、均一に撹拌して、スラリーを得るステップと、
(2)浸漬:上記で製造されたスラリーに基板を浸漬し、セパレータを得るステップと、
(3)相転移:セパレータを相転移するステップと、
(4)乾燥:上記のステップ(3)で得られた製品を洗浄、乾燥し、複合セパレータを得るステップと、
(4)紫外線架橋:前記複合セパレータを紫外線照射により架橋反応させ、紫外線架橋複合セパレータを得るステップと、を含む、別のコーティングセパレータの製造方法を提供する。
【0038】
上記のスラリー浸漬方法を用いる場合、スラリーは、光開始剤のみを含み、有機ポリマーを含まなくてもよい。
【0039】
本発明は、また、
(1)スラリーの製造:光開始剤0.001~5.0wt%、高耐熱性材料50~95wt%、及びその他の助剤0~5wt%を溶媒に加え、均一に撹拌して、スラリーを得るステップと、
(2)コーティング:上記で製造されたスラリーを基材の少なくとも一方の面にコーティングし、又は、浸漬:上記で製造されたスラリーに基材を浸漬し、セパレータを得るステップと、
(3)乾燥:上記ステップ(2)で得られた製品を乾燥し、複合セパレータを得るステップと、
(4)紫外線架橋:前記複合セパレータを紫外線照射により架橋反応させ、紫外線架橋複合セパレータを得るステップと、を含む、別のコーティングセパレータの製造方法を提供する。
【0040】
上記乾燥ステップは、熱風、赤外線照射等の手段により乾燥することができる。
以上より、本願で使用される溶媒は、一般的に、加熱によって完全に除去することができ、それによってコーティング層を形成することができる。一方、一部の溶媒が、高沸点で、加熱によりコーティング層から直接完全に除去することが困難である場合や、加熱除去に多大なエネルギーコストがかかる場合には、沸点が低く、コーティング層中の有機物と相溶しない溶媒を用いて元の溶媒を置換し、微多孔を有するコーティング層を形成し、乾燥によりコーティング層中の溶媒を除去することができる。
【0041】
いくつかの好ましい実施例では、使用される紫外線の波長が210nm~420nmの範囲であり、紫外線架橋の時間が0.001s~10sであり、照射光強度が50mj/cm以上である。
【0042】
本発明では、コーティングスラリーに光開始剤を添加することにより、架橋手段により熱硬化性の網目状ポリマー構造を形成し、それによって、多孔質基材の熱機械強度及び破膜温度を上昇させ、製造されたセパレータ製品についてTMAにより特徴付けた結果、その破膜温度は、光開始剤を添加しない紫外線硬化製品より20~80℃上昇でき、180℃で30分間放置しても、セパレータが破壊されない。
【0043】
また、ある程度の有機ポリマー層架橋構造は、十分な接着力を維持しつつ、常温(25℃)又は高温(60℃)の状態で電解液に浸漬したときの膨潤を減少させることができ、電池内部でのひずみの発生を回避し、コーティング層の空隙率を低下させ、リチウムイオンの輸送経路を閉塞し、電池の長期サイクル特性を向上させることができる。
実施例1
【0044】
(1)スラリーの製造
ポリフッ化ビニリデン9.2wt%、ベンゾフェノン0.3wt%をN-メチルピロリドン90.5wt%に加え、均一に撹拌して、スラリーを得た。
(2)コーティング:上記で製造されたスラリーを、セラミックコーティング層を施したポリエチレン多孔質基材の両面にコーティングし、基材の厚さは9μm、セラミックコーティング層は3μmであり、各面における上記スラリーコーティング層は0.5~1.0μmである。
(3)相転換:コーティングにより得られたセパレータを水に浸漬して相転換した。
(4)乾燥:上記のステップ(3)で得られた製品を洗浄、乾燥し、複合セパレータを得る。
(5)紫外線架橋:乾燥後の複合セパレータを紫外線照射により架橋反応させ、紫外線架橋複合セパレータを得た。使用される紫外線の波長が250nm~390nmの範囲であり、紫外線架橋の時間が0.1sであり、照射光強度が少なくとも100mj/cmである。
それによって、TMA試験結果として180℃を超える紫外線硬化複合セパレータを得た。
実施例2
【0045】
(1)スラリーの製造
ポリイミド7.5wt%、ポリフッ化ビニリデン7.5wt%、ベンゾフェノン0.5wt%をアセトン84.5wt%に加え、均一に撹拌して、スラリーを得た。
(2)コーティング:上記で製造されたスラリーを、セラミックコーティング層を施したポリエチレン多孔質基材の両面にコーティングし、基材の厚さは9μm、片面コーティング層は2μmである。
(3)乾燥:上記ステップ(2)で得られた製品を乾燥し、複合セパレータを得た。
(4)紫外線架橋:乾燥後の複合セパレータを紫外線照射により架橋反応させ、紫外線架橋複合セパレータを得た。使用される紫外線の波長が250nm~390nmの範囲であり、紫外線架橋の時間が0.5sであり、照射光強度が少なくとも100mj/cmである。
それによって、TMA試験結果として180℃を超える紫外線硬化複合セパレータを得た。
実施例3
【0046】
(1)スラリーの製造
ポリフッ化ビニリデン15wt%、アルミナ20wt%、ナノセルロース5wt%、ベンゾフェノン0.3wt%をN-メチルピロリドン59.7wt%に加え、均一に撹拌して、スラリーを得た。
(2)コーティング:上記で製造されたスラリーをポリエチレン多孔質基材の両面にコーティングし、基材の厚さは9μmであり、各面のコーティング層の厚さは3μmである。
(3)相転換:コーティングにより得られたセパレータを水に浸漬して相転換した。
(4)乾燥:上記ステップ(3)で得られた製品を乾燥し、複合セパレータを得た。
(5)紫外線架橋:乾燥後の複合セパレータを紫外線照射により架橋反応させ、紫外線架橋複合セパレータを得た。使用される紫外線の波長が240nm~380nmの範囲であり、紫外線架橋の時間が0.8sであり、照射光強度が少なくとも150mj/cmである。
それによって、TMA試験結果として180℃を超える紫外線硬化複合セパレータを得た。
実施例4
【0047】
(1)スラリーの製造
ポリアクリル酸エステル3.5wt%、アルミナ35wt%、ベンゾフェノン0.5wt%、及びその他の助剤1wt%を水60wt%に加え、均一に撹拌して、スラリーを得た。
(2)コーティング:上記で製造されたスラリーをポリエチレン多孔質基材の一方の面にコーティングし、基材の厚さは9μmであり、コーティング層の厚さは3μmである。
(3)乾燥:前記ステップ(2)で得られた製品を熱風乾燥や赤外線乾燥などの方法でコーティング層中の溶媒を除去し、複合セパレータを得た。
(4)紫外線架橋:乾燥後の複合セパレータを紫外線照射により架橋反応させ、紫外線架橋複合セパレータを得た。使用される紫外線の波長が240nm~380nmの範囲であり、紫外線架橋の時間が0.8sであり、照射光強度が少なくとも150mj/cmである。
それによって、150℃、1hの熱収縮が5%未満、TMA試験結果として180℃を超える紫外線硬化複合セパレータを得た。
実施例5
【0048】
(1)スラリーの製造
ポリアクリル酸エステル3.5wt%、アルミナ30wt%、ナノセルロース5wt%、ベンゾフェノン0.5wt%、及びその他の助剤1wt%を水60wt%に加え、均一に撹拌して、スラリーを得た。
(2)コーティング:上記で製造されたスラリーをポリエチレン多孔質基材の一方の面にコーティングし、基材の厚さは9μmであり、コーティング層の厚さは1.5μmである。
(3)乾燥:前記ステップ(2)で得られた製品を熱風乾燥や赤外線乾燥などの方法でコーティング層中の溶媒を除去し、複合セパレータを得た。
(4)紫外線架橋:乾燥後の複合セパレータを紫外線照射により架橋反応させ、紫外線架橋複合セパレータを得た。使用される紫外線の波長が240nm~380nmの範囲であり、紫外線架橋の時間が0.8sであり、照射光強度が少なくとも150mj/cmである。
それによって、150℃、1hの熱収縮が5%未満、TMA試験結果として180℃を超える紫外線硬化複合セパレータを得た。
実施例4と比べて、実施例5では、スラリー中の高耐熱性材料がアルミナとナノセルロースとの複合体であり、針状のナノセルロースがコーティング層に分散して互いに重なり合い、形成された物理的連結構造と本実施例における有機物化学架橋構造とが組み合わされて、コーティング層の耐熱性と耐高温溶断性が一層強化されている点は相違する。
比較例1
【0049】
(1)スラリーの製造
ポリフッ化ビニリデン9.5wt%をN-メチルピロリドン90.5wt%に加え、均一に撹拌して、スラリーを得た。
(2)コーティング:上記で製造されたスラリーを、セラミックコーティングを施したポリエチレン多孔質基材の両面にコーティングし、基材の厚さは9μmであり、セラミックコーティング層は3μmであり、各面における上記スラリーコーティング層は0.5~1.0μmである。
(3)相転換:コーティングにより得られたセパレータを水に浸漬して相転換した。
(4)乾燥:上記のステップ(3)で得られた製品を洗浄、乾燥し、複合セパレータを得た。
実施例1と比較して、比較例1では、コーティング層に光開始剤及び架橋構造が含まれていない点は相違し、その結果、TMA試験結果は改善されていなかった。
比較例2
【0050】
(1)スラリーの製造
ポリアクリル酸エステル4wt%、アルミナ35wt%、及びその他の助剤1wt%を水60wt%に加え、均一に撹拌して、スラリーを得た。
(2)コーティング:上記で製造されたスラリーをポリエチレン多孔質基材の一方の面にコーティングし、基材の厚さは9μmであり、コーティング層の厚さは3μmである。
(3)乾燥:上記ステップ(2)で得られた製品を乾燥し、複合セパレータを得た。
実施例4と比較して、比較例2では、コーティング層に光開始剤及び架橋構造が含まれていない点は相違し、その結果、TMA試験結果は改善されず、150℃での熱収縮が劣った。
比較例3
【0051】
(1)スラリーの製造
ポリアクリル酸エステル3.5wt%、アルミナ35wt%、ベンゾフェノン0.5wt%、その他の助剤1wt%を水60wt%に加え、均一に撹拌して、スラリーを得た。
(2)コーティング:上記で製造されたスラリーをポリエチレン多孔質基材の一方の面にコーティングし、基材の厚さは9μmであり、コーティング層の厚さは3μmである。
(3)乾燥:前記ステップ(2)で得られた製品を熱風乾燥や赤外線乾燥などの方法でコーティング層中の溶媒を除去し、複合セパレータを得た。
(4)紫外線架橋:乾燥後の複合セパレータは紫外線照射により架橋反応させ、紫外線架橋複合セパレータを得た。使用される紫外線の波長が240nm~380nmの範囲であり、紫外線架橋の時間が0.5sであり、照射光強度が100mj/cmである。
実施例4と比較して、比較例3では、コーティング層中の有機物は完全に架橋されておらず(十分な強度のUV照射を受けていない)、架橋後の三次元網目状有機分子構造の強度が十分ではない点は相違し、その結果、150℃での熱収縮とTMA試験はいずれも劣った。
得られた複合セパレータをTMA試験した結果を表1に示すが、表1は本発明の実施例1~実施例5及び比較例1~3で製造された複合コーティングセパレータのTMA試験結果である。TMA試験方法:試験サンプルの長さ8mm、幅4mm、試験引張力0.01N、加熱速度5℃/min。表のデータに示すように、実施例1~実施例3のサンプルの破膜温度は、比較例1(未架橋硬化)のサンプルに比べて少なくとも30℃高くなっている。
【0052】
表1
【0053】
本発明の態様は、以下の特徴を有する。
1.本発明は、リチウムイオン電池のセパレータのコーティングスラリーに光開始剤を導入し、設定された波長及びエネルギーの紫外線照射下で当該コーティングを塗布されたセパレータに架橋構造を発生させることによって、セパレータ(ベースフィルム)の熱機械的強度及び破膜温度を向上させる。
2.有機ポリマーコーティング層の架橋の程度を制御することにより、コーティング層の硬度と耐溶剤性を向上させることができ、常温と高温状態でコーティング層の電解液中の膨潤を減少させ、それによって電池の長期サイクル特性を向上させることができる。有機ポリマー架橋手順の制御は、光開始剤質量分率の調節、紫外線架橋速度の選択、照射光強度の設定により実現できる。
3.本発明は、光開始剤の含有量、紫外線照射の強度及び波長、並びに紫外線架橋速度を調整することにより、セパレータの熱機械的強度/破膜温度及び接着性を最適なバランスにすることができる。また、紫外線反応効率が現在の量産製品の生産速度と一致するので、紫外線架橋工程の生産コストを最小化し、製品の付加価値を高めることができる。
4.本発明の技術案では、光開始剤を添加するだけでよく、光開始剤を用いて従来のポリマーコーティングセパレータ中の有機物の架橋を開始させることができ、架橋剤又は架橋モノマー又は光硬化性樹脂を追加する必要がなく、それによって、処方がより簡単で、コストがより低く、得られる製品の性能と効果が優れている。
5.ベースフィルムの製造時に開始剤を直接添加する従来の方式に対して、本発明は、コーティング層に光開始剤を添加し、コーティング層をベースフィルムの表面に付着させ、光開始条件下でベースフィルムを架橋させるプロセスであり、このプロセスは、破膜温度の要求を満たす製品を可能にするとともに、プロセスがより制御されやすく、生産コストがより低くなり、また、開始剤と基材の互換性がないことによる助剤析出の問題を解決し、製品の外観や性能の一貫性を改善した。
6.既存の一方向に延伸されたセパレータ製品に対して、本発明の架橋後のセパレータ製品は、その耐引き裂き性を効果的に向上させることができる。
上記は、本発明の例示的な実施形態に過ぎず、当業者は、本発明の教示の下で、本発明の保護の範囲内にある様々な変換スキームを実装することもできる。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2023-12-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ポリマー、溶媒及び光開始剤を主成分として含む、ことを特徴とするコーティングスラリー。
【請求項2】
前記有機ポリマーの質量分率が0.05~50wt%であり、前記有機ポリマーは、ポリフッ化ビニリデンホモポリマー、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー、ポリフッ化ビニリデン-トリクロロエチレンコポリマー、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸エステル又はその誘導体、ポリアクリルアミド、ポリイミド、ポリオキシエチレン、及びセルロースから選ばれる1種又は複数種である、ことを特徴とする請求項1に記載のコーティングスラリー。
【請求項3】
前記光開始剤の質量分率が0.001~10wt%であり、前記光開始剤は、アゾジイソブチロニトリル、オキサノン、イソプロピルチオキサントン、ベンゾフェノン、過酸化ベンゾイルから選ばれる1種又は複数種の組み合わせである、ことを特徴とする請求項1に記載のコーティングスラリー。
【請求項4】
前記溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチルウレア、N-メチルピロリドン、アセトン、水、リン酸トリメチル、又はリン酸トリエチルから選ばれる1種又は複数種である、ことを特徴とする請求項1に記載のコーティングスラリー。
【請求項5】
無機材料をさらに含み、前記コーティングスラリー中に占める前記無機材料の質量分率が0~95wt%である、ことを特徴とする請求項1に記載のコーティングスラリー。
【請求項6】
前記無機材料は、セラミック材料、ナノワイヤ材料又はナノチューブ材料から選ばれ、前記セラミック材料は、Al、SiO、TiO、ZrO、MgO、CaO、AlOOH、SiCから選ばれる1種又は複数種の組み合わせであり、前記ナノワイヤ材料は、カーボンナノワイヤ、アタパルジャイト、ナノ銀ワイヤ、炭化ホウ素ナノワイヤ、ナノセルロース、水酸化銅ナノワイヤ、一酸化ケイ素ナノワイヤ、ヒドロキシアパタイトナノワイヤから選ばれる1種又は複数種であり、前記ナノチューブ材料は、カーボンナノチューブ、ナノ銀チューブ、炭化ホウ素ナノチューブ、水酸化銅ナノチューブ、一酸化ケイ素ナノチューブ、ヒドロキシアパタイトナノチューブから選ばれる1種又は複数種である、ことを特徴とする請求項5に記載のコーティングスラリー。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のコーティングスラリーで製造されるコーティング層を含み、前記コーティング層は、前記有機ポリマー分子同士が連結して形成された三次元網目構造を含み、前記三次元網目構造の質量は、有機ポリマーの全質量に占める質量分率が50%以上であり、前記コーティング層の全質量に占める質量分率が1.0%以上である、ことを特徴とするコーティングセパレータ。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載のコーティングスラリーと、基材と、を含み、
前記コーティングスラリーを前記基材の少なくとも一方の面にコーティングし、設定されたエネルギー及び波長の紫外線照射処理を施して、紫外線架橋された前記セパレータを得る、ことを特徴とするコーティングセパレータ。
【請求項9】
前記基材は、ポリオレフィン微多孔膜、ポリイミド微多孔膜、不織布セパレータ、多層複合セパレータ、セラミックコーティングセパレータ、ポリマーコーティングセパレータから選ばれる1種又は複数種である、ことを特徴とする請求項8に記載のコーティングセパレータ。
【請求項10】
請求項7に記載のコーティングセパレータの製造方法であって、
(1)スラリーの製造:有機ポリマー50wt%以下、光開始剤0.001~5.0wt%、無機材料50~95wt%、及びその他の助剤0~5wt%を溶媒に加え、均一に撹拌して、スラリーを得るステップと、
(2)コーティング:上記で製造されたスラリーを基材の少なくとも一方の面にコーティングするステップと、
(3)相転移:コーティングにより得られたセパレータを相転移するステップと、
(4)乾燥:上記のステップ(3)で得られた製品を洗浄、乾燥し、複合セパレータを得るステップと、
(5)紫外線架橋:前記複合セパレータを紫外線照射により架橋反応させ、紫外線架橋複合セパレータを得るステップと、を含む、ことを特徴とする製造方法。
【請求項11】
(1)スラリーの製造:光開始剤0.001~5.0wt%、高耐熱性材料50~95wt%、及びその他の助剤0~5wt%を溶媒に加え、均一に撹拌して、スラリーを得るステップと、
(2)浸漬:上記で製造されたスラリーに基板を浸漬し、セパレータを得るステップと、
(3)相転移:セパレータを相転移するステップと、
(4)乾燥:上記のステップ(3)で得られた製品を洗浄、乾燥し、複合セパレータを得るステップと、
(5)紫外線架橋:前記複合セパレータを紫外線照射により架橋反応させ、紫外線架橋複合セパレータを得るステップと、を含む、ことを特徴とする請求項7に記載のコーティングセパレータの製造方法。
【請求項12】
(1)スラリーの製造:光開始剤0.001~5.0wt%、高耐熱性材料50~95wt%、及びその他の助剤0~5wt%を溶媒に加え、均一に撹拌して、スラリーを得るステップと、
(2)コーティング:上記で製造されたスラリーを基材の少なくとも一方の面にコーティングし、又は、浸漬:上記で製造されたスラリーに基材を浸漬し、セパレータを得るステップと、
(3)乾燥:上記ステップ(2)で得られた製品を乾燥し、複合セパレータを得るステップと、
(4)紫外線架橋:前記複合セパレータを紫外線照射により架橋反応させ、紫外線架橋複合セパレータを得るステップと、を含む、ことを特徴とする請求項7に記載のコーティングセパレータの製造方法。
【請求項13】
使用される紫外線の波長が210nm~420nmの範囲であり、紫外線架橋の時間が0.001s~10sであり、照射光強度が50mj/cm以上である、ことを特徴とする請求項10に記載のコーティングセパレータの製造方法。
【国際調査報告】