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特表2024-526188ウイルス核酸を単離及び検出するための装置及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ウイルス核酸を単離及び検出するための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240709BHJP
   C12Q 1/6806 20180101ALI20240709BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALI20240709BHJP
   C12Q 1/6816 20180101ALI20240709BHJP
   C12Q 1/6818 20180101ALI20240709BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12Q1/6806 Z
C12Q1/6813 Z
C12Q1/6816 Z
C12Q1/6818 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579236
(86)(22)【出願日】2022-06-23
(85)【翻訳文提出日】2024-02-01
(86)【国際出願番号】 US2022034636
(87)【国際公開番号】W WO2022271895
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】63/215,002
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】508144129
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ロチェスター
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ミラー, ベンジャミン エル.
(72)【発明者】
【氏名】ビアード, ジェフリー ダブリュ.
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029AA23
4B029BB11
4B029BB13
4B029BB20
4B029CC01
4B029DG08
4B029GB02
4B029GB03
4B029GB05
4B029HA05
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR55
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、ウイルス溶解及び単離、並びにヘアピンカスケード反応(HCR)に基づく簡便で使い捨ての非酵素的ウイルス負荷アッセイのための、新規な装置及び方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体試料からウイルスの核酸を分離するための装置であって、
流体試料を受容し前記流体試料中の細胞を保持するように適合された試料受容領域を有する、第1の層と、
前記第1の層の下に積層され、前記試料受容領域と少なくとも部分的に重なる様式で位置決めされたウイルス溶解領域を有する第2の層であって、前記ウイルス溶解領域はウイルス溶解試薬を含む、第2の層と、
前記第2の層の下に積層され、前記ウイルス溶解領域と流体連通するpH調節領域を有する第3の層であって、前記pH調節領域はpH調節試薬を含む、第3の層と、
前記第3の層の下に積層され、前記pH調節領域と流体連通する核酸受容領域を有する、第4の層と、を備える、装置。
【請求項2】
ウィッキングパッドを有する第5の層を更に備える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記試料受容領域は、(i)前記流体試料を受容し、細胞の第1の集団を保持するように適合された、上部フィルタパッドと、(ii)前記上部フィルタパッドの下に積層され、細胞の第2の集団を保持するように適合された、下部フィルタパッドと、を備える、先行請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項4】
前記ウイルス溶解領域は、(iii)前記溶解試薬を含む溶解試薬パッドを備える、先行請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記ウイルス溶解領域は、(iv)前記溶解試薬パッドの下に積層されたインキュベーションパッドを更に備える、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記溶解試薬パッド又は前記インキュベーションパッドは、
前記溶解試薬パッドと少なくとも部分的に重なる様式で位置決めされた始端と、
前記始端から所定のウィッキング距離で横方向に延在する終端であって、前記終端が前記pH調節領域と流体連通している、終端と、を有するインキュベーションチャネルを備える、請求項4又は5に記載の装置。
【請求項7】
前記ウイルス溶解領域は、分解性フィルムによって前記第3の層から分離されている、先行請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記pH調節領域は、前記pH調節試薬を保持し、
前記第3の層における前記ウイルス溶解領域と流体連通する入口端と、
前記第4の層における前記核酸受容領域と流体連通する出口端と、を有するpHチャネルを備える、先行請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記核酸受容領域は、官能基化されている、先行請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記流体試料は、血液試料、喀痰試料、尿試料、尿スワブ試料、又は唾液試料を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記核酸は、RNA又はDNAを含む、先行請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記ウイルスは、HIV、デング熱、SARS-CoV-2、又はエボラ出血熱である、先行請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記ウイルス溶解試薬は、乾燥Triton X-100を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記pH調節試薬は、酢酸ナトリウムを含む、先行請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記第5の層は、セルロースを含む、請求項2に記載の装置。
【請求項16】
前記溶解試薬パッドは、繊維ガラスを含む、請求項4に記載の装置。
【請求項17】
前記第1の層から前記第2の層への前記流体試料の通過を制御するように適合された制御部材を更に備える、先行請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
前記制御部材は、前記第1の層から前記第2の層への前記流体試料の前記通過を解放するための第1のユーザ動作を受けるように構成されている、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記第1のユーザ動作は、第1のタイマを作動させ、第1の所定の期間の間、前記流体試料が前記ウイルス溶解試薬と接触することを可能にする、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記制御部材は、第2のユーザ動作を受けるように構成され、前記第2のユーザ動作は、第2のタイマを作動させ、第2の所定の期間の間、前記核酸受容領域中の前記核酸が検出剤と接触することを可能にする、請求項17に記載の装置。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項に記載の装置と、前記核酸の標的配列に相補的な配列を有するプローブと、を備える、キット。
【請求項22】
流体試料からウイルスの核酸を分離するための方法であって、
流体試料を備えることと、
請求項1~20のいずれか一項に記載の装置の前記第1の層における前記試料受容領域に、前記流体試料を接触させることと、
前記流体試料の流体部分が前記第1の層、前記第2の層、及び前記第3の層を通過し、前記第4の層に到達することを可能とする条件下で、前記流体試料を前記装置においてインキュベートし、それによって前記ウイルスの前記核酸を得ることと、を含む、方法。
【請求項23】
流体試料中のウイルスの核酸を検出するための方法であって、
請求項22の方法によって得られた前記第4の層を備えることと、
前記核酸受容領域を反応混合物と接触させることと、
前記核酸と前記反応混合物との間の反応を検出することと、を含む、方法。
【請求項24】
前記反応混合物は、前記核酸の標的配列に相補的な配列を有するプローブを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記反応混合物は、ハイブリダイゼーション連鎖反応(HCR)混合物である、請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年6月25日に出願された米国特許仮出願第63/215,002号に対する35U.S.C.119(e)に基づく優先権を主張するものである。前述の出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれたものとする。
【0002】
連邦政府支援研究に関する声明
本発明は、米国国立衛生研究所によるEB027049の政府支援を受けてなされたものである。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、一般的に、ウイルス核酸を単離又は検出するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0004】
ウイルスは様々な障害を引き起こし、世界中に急速に広がり得るものである。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染して生活している人は世界中で約3,790万人おり、毎年100万人を超える新たな感染がある。HIVに感染して生活する人々の数の増加に伴い、この疾患に関連した経済的で利用しやすい臨床試験を開発することが不可欠となっている。ウイルス負荷アッセイは、患者の血液中のHIVビリオンの数を測定するために使用され、HIV患者の健康及び感染の状態を追跡するための最も効果的な方法である。抗レトロウイルス療法(ART)を受けている患者は、米国では3ヵ月毎に、WHOの世界基準を満たすためには6~12ヵ月毎に、ウイルス負荷試験を受けることが推奨されている。定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)は、HIVウイルス負荷を決定するための最も代表的な試験である。米国等の先進国には、頻繁なウイルス負荷及びCD4カウント試験を行う余裕があるが、世界のHIV陽性者の大多数は、これらのアッセイを実行するために必要な資金、消耗品及び検査室へのアクセスが制約されている。低~中所得国(LMIC)は、ウイルス負荷試験の最も大きな必要性を有し、世界のHIV感染者の65%よりも多くを占めているが、この最も代表的な試験は高価であり、労力がかかり、実行するための検査室も必要とする。これらの重要な試験を受けることができなければ、LMICにおける患者にとってARTの有効性が損なわれ、潜在的にHIV関連死の増加に導き得る。
【0005】
RT-qPCR技術は、LMICにおけるウイルス負荷アッセイの必要性の高まりに対応するため、分散型ポイントオブケア(POC)試験に適応されている。POC試験はアッセイ時間を短縮するものであり、ワークフローを簡素化し得るが、従来のRT-qPCR試験よりも高価な、精巧な装置を必要とするものでもある。CepheidによるGeneXpert(登録商標)及びAbbottによるm-PIMA(商標)HIV-1/2ウイルス負荷試験等のウイルス負荷POC装置は、PCRに関連する複雑なワークフローの多くを排除している。しかしながら、これらの装置は高価であり(器具に15,000ドル~18,000ドル、消耗品毎に15ドル~25ドル)、最も代表的な試験と同じ温度に敏感な試薬の多くを使用し、かさばる器具を必要とする。このコストは、これらの試験を最も必要とする地域の要件とは相容れない:アフリカには、1日の所得が1.90ドル未満と定義される極度の貧困状態にある世界人口の約87%が住んでいる。
【0006】
HIV試験の分野の現状に関連する更なる課題は、既存のアッセイが「シングルプレックス」であり、ウイルス負荷の測定を超えて拡張可能でないことを含む。理想的なアッセイプラットフォームは、モジュール式で拡張性があり、HIVに関連する合併症と全身の健康状態を示す標準的な血清マーカとの同時の試験を可能とする。ここでもまた、Luminex(登録商標)システムを含むマルチプレックス臨床アッセイは、複雑な設備、高価な消耗品、及び複雑なワークフローを必要とする。
【0007】
POCの実装に適した最も単純なアッセイ形式の1つは、側方流動アッセイである。これらのアッセイは非常に成功しているが、一般的に定性的であるか又はせいぜい半定量的で、多重化が困難なものである。紙ベースのアッセイに流体チャネルをパターン化するための方法の導入は、LFAのような多重試験の開発を簡素化し、この分野の急速な拡大に導いたが、これらのアッセイは依然として、有用なHIVウイルス負荷試験に必要な感度を欠いている。
【0008】
かくして、費用対効果が高く、堅固で効率的な形式で、POC HIV及びその他のウイルスのウイルス負荷測定を可能にする、新規な装置及び方法に対する喫緊の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0009】
この開示は、ウイルス核酸の単離及び検出のための装置及び方法を提供することによって、上述した必要性に対処する。一態様においては、本開示は、流体試料からウイルスの核酸を分離するための装置を提供する。いくつかの実施形態においては、本装置は、(i)流体試料を受容し流体試料中の細胞を保持するように適合された試料受容領域を有する、第1の層と、(ii)第1の層の下に積層され、試料受容領域と少なくとも部分的に重なる様式で位置決めされたウイルス溶解領域を有する第2の層であって、ウイルス溶解領域はウイルス溶解試薬を含む、第2の層と、(iii)第2の層の下に積層され、ウイルス溶解領域と流体連通するpH調節領域を有する第3の層であって、pH調節領域はpH調節試薬を含む、第3の層と、(iv)第3の層の下に積層され、pH調節領域と流体連通する核酸受容領域を有する、第4の層と、を備える。いくつかの実施形態においては、本装置は、ウィッキングパッドを有する第5の層を更に含む。
【0010】
いくつかの実施形態においては、第1の層の試料受容領域は、(a)流体試料を受容し、細胞の第1の集団を保持するように適合された、上部フィルタパッドと、(b)上部フィルタパッドの下に積層され、細胞の第2の集団を保持するように適合された、下部フィルタパッドと、を備える。
【0011】
いくつかの実施形態においては、第2の層のウイルス溶解領域は、溶解試薬を含む溶解試薬パッドを備える。いくつかの実施形態においては、ウイルス溶解領域は、溶解試薬パッドの下に積層されたインキュベーションパッドを更に備える。
【0012】
いくつかの実施形態においては、溶解試薬パッド又はインキュベーションパッドは、インキュベーションチャネルを備える。いくつかの実施形態においては、インキュベーションチャネルは、溶解試薬パッドと少なくとも部分的に重なる様式で位置決めされた始端と、始端から所定のウィッキング距離で横方向に延在する終端と、を備える。いくつかの実施形態においては、終端は、pH調節領域と流体連通している。
【0013】
いくつかの実施形態においては、ウイルス溶解試薬は、Triton X-100(例えば乾燥Triton X-100)を含む。いくつかの実施形態においては、溶解試薬パッドは、繊維ガラスを含む。
【0014】
いくつかの実施形態においては、ウイルス溶解領域は、分解性フィルムによって第3の層から分離されている。
【0015】
いくつかの実施形態においては、第3の層のpH調節領域は、pH調節試薬を保持するpHチャネルを含む。いくつかの実施形態においては、pHチャネルは、第3の層におけるウイルス溶解領域と流体連通する入口端と、第4の層における核酸受容領域と流体連通する出口端と、を備える。いくつかの実施形態においては、pH調節試薬は、酢酸ナトリウムを含む。
【0016】
いくつかの実施形態においては、第4の層の核酸受容領域は、官能基化されている。
【0017】
いくつかの実施形態においては、流体試料は、血液試料、喀痰試料、尿試料、尿スワブ溶出液試料、鼻スワブ溶出液試料、又は唾液試料を含む。いくつかの実施形態においては、核酸は、RNA又はDNAを含む。いくつかの実施形態においては、ウイルスは、HIV、デング熱、SARS-CoV-2、及びエボラ出血熱のうちのいずれか1つを含む。
【0018】
いくつかの実施形態においては、第5の層は、セルロースを含む。
【0019】
いくつかの実施形態においては、本装置は、第1の層から第2の層への流体試料の通過を制御するように適合された制御部材を更に備える。いくつかの実施形態においては、制御部材は、第1の層から第2の層への流体試料の通過を解放するための第1のユーザ動作を受けるように構成される。いくつかの実施形態においては、第1のユーザ動作は、第1のタイマを作動させ、第1の所定の期間の間、流体試料がウイルス溶解試薬と接触することを可能にする。
【0020】
いくつかの実施形態においては、制御部材は、第2のユーザ動作を受けるように構成される。いくつかの実施形態においては、第2のユーザ動作は、第2のタイマを作動させ、第2の所定の期間の間、核酸受容領域内の核酸が検出剤と接触することを可能にする。
【0021】
別の態様においては、本開示は更に、以上に説明された装置と、核酸の標的配列に相補的な配列を有する1つ以上のプローブと、を備える、キットを提供する。
【0022】
別の態様においては、本開示はまた、流体試料からウイルスの核酸を分離するための方法を提供する。いくつかの実施形態においては、本方法は、(i)流体試料を備えることと、(ii)以上に説明された装置の第1の層における試料受容領域に、流体試料を接触させることと、(iii)流体試料の流体部分が第1の層、第2の層、及び第3の層を通過し、第4の層に到達することを可能とする条件下で、流体試料を本装置においてインキュベートし、それによってウイルスの核酸を得ることと、を含む。
【0023】
更に別の態様においては、本開示は、流体試料中のウイルスの核酸を検出するための方法を更に提供する。いくつかの実施形態においては、本方法は、(a)以上に説明された方法によって得られた第4の層を備えることと、(b)核酸受容領域を反応混合物と接触させることと、(c)核酸と反応混合物との間の反応を検出することと、を含む。
【0024】
いくつかの実施形態においては、反応混合物は、核酸の標的配列に相補的な配列を有するプローブを含む。いくつかの実施形態においては、反応混合物は、ハイブリダイゼーション連鎖反応(HCR)混合物を含む。
【0025】
以上の要約は、本開示の全ての態様を定義することを意図されたものではなく、追加的な態様が、以下の詳細な説明等の他の節において説明される。本明細書の全体は、統一された開示として関連付けられることを意図されたものであり、特徴の組み合わせが本明細書の同じ文、段落、又は節において一緒に見出されない場合であっても、本明細書に説明された特徴の全ての組み合わせが企図されることは、理解されるべきである。本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。しかしながら、本開示の趣旨及び範囲内での様々な変更及び修正が、この詳細な説明から当業者には明らかになるので、詳細な説明及び具体的な実施例は、本開示の具体的な実施形態を示しながらも、例示のためにのみ与えられるものであることは、理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1A-E】ウイルス核酸を単離及び検出するための装置例を示す模式的な図のセットである。
図2】ウイルス核酸を単離及び検出するための装置例のワークフローを示す。
図3】FRET誘導蛍光出力を有するハイブリダイゼーション連鎖反応(HCR)を介したインサイチュ増幅を示す模式図である。
図4】様々な濃度の合成HIV DNA及びRNA配列を用いてインキュベートされたHCRの生成物を示す3%アガロースゲルである。レーン2、4、及び6においては、500nMのH1とH2とのカクテルが、それぞれ100nM、50nM、及び10nMの濃度の合成DNAトリガを用いて1時間インキュベートされた。レーン3、5、及び7においては、500nMのH1とH2とのカクテルが、それぞれ100nM、50nM、及び10nMの濃度の合成RNAトリガを用いて1時間インキュベートされた。レーン8は、トリガ配列の非存在下でのHCR反応(1時間インキュベートされたもの)を含み、レーン1は、100塩基対のDNAラダーを含む。
図5A-D】紙マイクロ流体のロールツーロール製造を示す図のセットである。
図6A-D】キトサンを用いて官能基化されたFusion5フィルタを使用したオリゴヌクレオチドの捕捉を示す図のセットである。図6Aは、経験的に0.9、3.5、及び6.1μgのDNA捕捉(明るい領域)を示すために、緩衝化DNAをフィルタに通した後の、SybrSafeを用いた染色を示す。図6Bは、フィルタされたDNAの質量に対する、捕捉されたDNAの絶対質量を示している。図6Bの斜線領域は、95%信頼区間である。図6Cは、50μLの1μM酵母tRNAを使用した、種々のpH緩衝液における捕捉効率を示す。図6Dは、50μLの10μMを使用したDNAの捕捉効率を示す。いずれのデータ点も、n=3(n=2である図6Dにおける「官能基化されていないもの」は除く)の平均値であり、標準偏差は縦線で表され、JMP Pro 16を使用して分析された。
図7】合成プロウイルスDNAを使用したFusion5フィルタ紙(Cytivia)上でのHCR-FRET生成物のビニングされたFRET強度を示すグラフである。合成HIVプロウイルスDNAが、Fusion5フィルタ紙上で乾燥させられた。次いで、5μLのHCR溶液が定着液滴としてフィルタ紙に塗布され、完全に乾燥することを可能にされ、蛍光顕微鏡を用いてフィルタ紙が撮像された。生の蛍光顕微鏡画像が、右側に示されている。画像強度はImageJを使用して定量化され、データは平均値として表され、標準偏差は縦線で表され、JMP Pro 16を使用して分析された。
図8】合成HIV RNAを使用したFusion5フィルタ紙(Cytiva)上でのHCR-FRET生成物のビニングされたFRET強度を示すグラフである。合成HIV RNAが、Fusion5フィルタ紙上で乾燥させられた。次いで、5μLのHCR溶液が定着液滴としてフィルタ紙に塗布され、完全に乾燥することを可能にされ、蛍光顕微鏡を用いてフィルタ紙が撮像された。生の蛍光顕微鏡画像が、右側に示されている。画像強度はImageJを使用して定量化され、データは平均値として表され、標準偏差は縦線で表され、JMP Pro 16を使用して分析された。
図9A-C】ヌクレオチドを検出するための装置例及びワークフロー例を示す図のセットである。図9Aは、統合された検出システムを備えた、全血からのウイルス核酸の単離及び検出のための装置設計を示す。ペンはスケールのためのものである。図9Bは、血漿分離、ウイルス溶解、及びRNA捕捉のための層を含む、受動的核酸単離のために設計された装置の、内部の多孔質媒体ベースの構成要素を示す。図9Cは、装置のワークフロー例(ステップ1~4)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
ウイルス負荷を測定するための既存の方法は複雑で高価であり、資源が限られた環境又はポイントオブケア(POC)には適していない。POC対応の手法に対する必要性に対処するために、本開示は、ウイルス溶解及び単離のための新規な装置及び方法、並びに、ヘアピンカスケード反応又はトーホールドトリガストランド置換反応(TSDR)等の適切な反応に基づく、簡便で使い捨ての非酵素的ウイルス負荷アッセイを提供する。
【0028】
A.ウイルス核酸を単離及び検出するための装置
したがって、一態様においては、本開示は、流体試料からウイルスの核酸を分離するための装置を提供する。いくつかの実施形態においては、本装置は、(i)流体試料を受容し流体試料中の細胞又は細胞成分を保持するように適合された試料受容領域を有する、第1の層と、(ii)第1の層の下に積層され、試料受容領域と少なくとも部分的に重なる様式で位置決めされたウイルス溶解領域を有する第2の層であって、ウイルス溶解領域はウイルス溶解試薬を含む、第2の層と、(iii)第2の層の下に積層され、ウイルス溶解領域と流体連通するpH調節領域を有する第3の層であって、pH調節領域はpH調節試薬を含む、第3の層と、(iv)第3の層の下に積層され、pH調節領域と流体連通する核酸受容領域を有する、第4の層と、を備える。いくつかの実施形態においては、本装置は、追加的に及び/又は任意に、ウィッキングパッドを有する第5の層を備えてもよい。
【0029】
第1の層
いくつかの実施形態においては、本装置の第1の層は、流体試料から1つ以上の成分を分離すること等の、流体試料の前処理のために使用されてもよい。一例においては、全血試料については、第1の層は、白血球及び/又は赤血球、又はそれらの成分(例えば細胞破片)から血漿を分離するために使用されてもよい。いくつかの実施形態においては、白血球及び/又は赤血球、又はそれらの成分の分離は、1つ以上のフィルタパッドを使用して実施されてもよい。
【0030】
いくつかの実施形態においては、フィルタパッドは、フィルタとして機能し、例えば、細胞(例えば白血球若しくは赤血球)又はその細胞成分の流れを制限する平均孔径を有してもよい。一例においては、フィルタパッドは、白血球又はその細胞成分の流れを制限する平均孔径を有してもよい。いくつかの実施形態においては、フィルタパッドは、約8μm~約14μm(例えば8μm、9μm、10μm、11μm、12μm、13μm、14μm)の平均孔径を有する。別の例においては、フィルタパッドは、赤血球又はその細胞成分の流れを制限する平均孔径を有してもよい。いくつかの実施形態においては、フィルタパッドは、約0.2μm~約8μm(例えば0.5μm、1μm、2μm、3μm、4μm、5μm、6μm、7μm、8μm)の平均細孔径を有するか、又は記載された孔径の任意の組み合わせにおいて孔径が減少する勾配を含む単一層を有する。
【0031】
いくつかの実施形態においては、第1の層の試料受容領域は、流体試料から1つ以上の成分を分離するための1つ以上のフィルタパッドを含んでもよい。例えば、第1の層の試料受容領域は、流体試料を受容し、細胞の第1の集団を保持するように適合された、上部フィルタパッドと、上部フィルタパッドの下に積層され、細胞の第2の集団を保持するように適合された、下部フィルタパッドと、を備える。いくつかの実施形態においては、細胞の第1の集団は、白血球を含んでもよい。いくつかの実施形態においては、細胞の第2の集団は、赤血球を含んでもよい。いくつかの実施形態においては、血液試料から白血球及び赤血球、又はそれらの成分を分離するために、第1の層の試料受容領域は、白血球の流れを制限する平均孔径(例えば約8μm~約14μm)を有する上部フィルタパッドを含んでもよい。第1の層の試料受容領域は、上部フィルタパッドの下に積層され、赤血球の流れを制限する平均孔径(例えば約0.2μm~約8μm)を有する下部フィルタパッドを更に含んでもよい。
【0032】
いくつかの実施形態においては、試料受容領域は、様々な幾何学的形状及びサイズを有する1つ以上の開口部を有してもよい。例えば、開口部は、円形、半円形、三角形、正方形、長方形、五角形、又は六角形の形状を有してもよい。いくつかの実施形態においては、試料受容領域は、円形の形状を有する開口部を有する。いくつかの実施形態においては、円形の形状を有する開口部は、例えば約0.5cm~約10cm(例えば1cm、2cm、3cm、4cm、5cm、6cm、7cm、8cm、9cm、10cm)の直径を有してもよい。
【0033】
いくつかの実施形態においては、試料受容領域の開口部は、1つ以上のフィルタパッドを受容するように構成される。したがって、いくつかの実施形態においては、フィルタパッドは、試料受容領域の開口部と実質的に同じサイズ及び形状を有してもよい。例えば、フィルタパッドは、円形、半円形、三角形、正方形、長方形、五角形、又は六角形の形状を有してもよい。いくつかの実施形態においては、フィルタパッドは円形の形状を有する。いくつかの実施形態においては、円形の形状を有するフィルタパッドは、例えば約0.5cm~約10cm(例えば1cm、2cm、3cm、4cm、5cm、6cm、7cm、8cm、9cm、10cm)の直径を有してもよい。
【0034】
いくつかの実施形態においては、フィルタパッドは、試料受容領域の開口部のサイズよりも大きいサイズを有してもよい。いくつかの実施形態においては、1つ以上のフィルタパッド及び第1の層の残りは、一体型ユニットとして又は別個の部分として形成されてもよい。
【0035】
試料受容領域に適用される流体試料の量は、所望の毛細管流及びアッセイの操作性を提供するのに十分である限り、様々なものとなり得る。いくつかの実施形態においては、本開示の装置は、例えば0.5μL~5mLのような、少量の試料に適合される。
【0036】
試料は、例えばスポイト、ピペット、及びシリンジ等を介してのような、任意の便利なプロトコルを使用して、試料適用部位に適用されてもよい。これに加えて、流体試料は、フィルタパッドを通る適切な流体の流れを提供するために、例えば緩衝液のような任意の適切な液体とともに試料受容領域に適用されてもよい。任意の適切な液体の例は、限定するものではないが、緩衝液、細胞培養培地(例えばDMEM)等を含み得る。緩衝液の例は、限定するものではないが、トリス、トリシン、MOPS、HEPES、PIPES、MES、PBS、及びTBS等を含む。一例においては、適切な液体は、試料受容領域に適用される前に、流体試料と混合されてもよい。別の例においては、適切な液体は、流体試料を適用するのと同時に、適用する前に、又は適用した後に、試料受容領域に適用されてもよい。
【0037】
本明細書で使用される用語「試料」は、生物学的物質を含む試料を含む。試料は、例えば流体試料(例えば血液試料)又は組織試料(例えば頬スワブ)であってもよい。試料は、より大きな試料の一部であってもよい。いくつかの実施形態においては、流体試料は、血液(例えば全血)、血漿、喀痰、尿、汗、尿スワブ、精液、唾液、頬スワブ、又はそれらの組み合わせ等の生物学的流体を含む。試料は、法医学的試料であってもよいし、又は環境試料であってもよい。
【0038】
試料は、システムに導入される前に前処理されてもよい。いくつかの実施形態においては、前処理は、システムに適合しない物質からの抽出、細胞、DNA、RNA、若しくはその他の生体高分子若しくは分子の量の定量化、試料の濃縮、上皮細胞からの精子等の細胞タイプの分離、若しくはビーズ処理若しくはその他の濃縮方法、又はその他の試料の操作を含んでもよい。
【0039】
試料は、DNA又はRNA等の核酸を有する生物学的試料であってもよい。いくつかの実施形態においては、核酸はウイルスのRNA又はDNAである。ウイルスの非限定的な例は、ノーウォーク、ロタウイルス、ポリオウイルス、エボラウイルス、マールブルグウイルス、ラッサウイルス、ハンタウイルス、狂犬病、インフルエンザ、黄熱ウイルス、コロナウイルス、SARS、SARS-CoV-2、西ナイルウイルス、A型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)及びE型肝炎ウイルス、デング熱ウイルス、トガ(例えば風疹)、Rhabdo(例えば狂犬病及びVSV)、ピコルナ(ポリオ及びライノウイルス)、ミクソ(例えばインフルエンザ)、レトロ(例えばHIV、HTLV)、ブンヤ、コロナ、並びにD型肝炎ウイルス及び植物RNAウイルスのようなウイロイド様ウイルスと、Tobusウイルス、ルテオウイルス、トバモウイルス、ポテクスウイルス、トブラウイルス、コモウイルス、ネポウイルス、アルモウイルス、ククモウイルス、ブロモウイルス、及びイラルウイルス等のウイロイドとを含む、ヒトの健康に重大な影響を及ぼすレオウイルスのうちのいずれか1を含む。
【0040】
いくつかの実施形態においては、除去されるべき流体試料中の1つ以上の成分は、細胞を含んでもよい。生物学的試料の文脈において使用される用語「細胞」は、限定するものではないが、小胞(リポソーム等)、細胞、ビリオン、及びビーズ、ナノ粒子、又は微小球等の小粒子に結合した実体を含む、一般的に個々の細胞と同様のサイズの試料を包含する。いくつかの実施形態においては、細胞は、血液細胞、臍帯血細胞、骨髄細胞、赤血球、白血球(leukocyte)、リンパ球、上皮細胞、幹細胞、がん細胞、腫瘍細胞、循環腫瘍細胞、前駆細胞、細胞前駆体、臍帯血幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、脂肪幹細胞、多能性幹細胞、人工多能性幹細胞、胚性幹細胞、臍帯由来細胞、脂肪組織由来細胞、羊水中の間質血管細胞群(SVF)中のマトリクス細胞、月経血中の細胞、脳脊髄液中の細胞、尿中の細胞、骨髄幹細胞、末梢血幹細胞、CD34+細胞、コロニー形成細胞、T細胞、B細胞、神経細胞、免疫細胞、樹状細胞、巨核球、固定化骨髄細胞、血小板、精子、卵子、卵母細胞、微生物、細菌、カビ、酵母、原虫、ウイルス、細胞小器官、核、核酸、ミトコンドリア、ミセル、脂質、タンパク質、タンパク質複合体、細胞残屑、寄生虫、脂肪滴、多細胞生物、胞子、藻類、クラスタ、以上の凝集体、工業用粉末、ポリマー、粉体、エマルション小滴、粉塵、球状粒子(例えばミクロスフェア)、微粒子、及びコロイド状のもの(例えばコロイド)を含んでもよい。
【0041】
第2の層
いくつかの実施形態においては、本開示の装置は、第1の層の下に積層され、試料受容領域と少なくとも部分的に重なる様式で位置決めされたウイルス溶解領域を有する、第2の層を備える。
【0042】
いくつかの実施形態においては、第2の層のウイルス溶解領域は、溶解試薬パッドを備える。いくつかの実施形態においては、溶解試薬パッドは、溶解試薬を含んでもよい。
【0043】
いくつかの実施形態においては、溶解試薬は、化学的又は生化学的溶解試薬及び洗浄剤/界面活性剤を含んでもよい。バイロンの溶解及び/又はバイロンからの核酸の抽出のために使用され得る化学的溶解試薬の非限定的な例は、グアニジニウム塩(例えばグアニジニウムチオシアネート及びグアニジニウム塩酸塩)及び尿素を含む。いくつかの実施形態においては、洗浄剤/界面活性剤は、双性イオン洗浄剤/界面活性剤及び/又は非イオン性洗浄剤/界面活性剤を含む。双性イオン洗浄剤/界面活性剤の例は、限定するものではないが、3-[(3-コラミドプロピリル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホン酸(CHAPS)、コカミドプロピルヒドロキシスルタイン、及びコカミドプロピルベタインを含む。非イオン性洗浄剤/界面活性剤の非限定的な例は、ポリオキシエチレングリコールアルキルエーテル(例えばオクタエチレングリコールモノドデシルエーテル及びペンタエチレングリコールモノドデシルエーテル)、ポリオキシプロピレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのブロック共重合体(例えばポロキサマー(Pluronics))、ポリオキシエチレングリコールオクチルフェノールエーテル(例えばTriton X-100及びTriton X-114等のTriton)、ポリオキシエチレングリコールアルキルフェノールエーテル(例えばNP-40及びNonoxynol-9)、ポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル(例えばPolysorbate/Tween20等のポリソルベート/Tween)、ソルビタンアルキルエステル(例えばモノラウリン酸ソルビタン)、グリセロールアルキルエステル(例えばラウリン酸グリセリル)、並びにグルコシドアルキルエーテル(例えばデシルグルコシド、ラウリルグルコシド、及びオクチルグルコシド)を含む。イオン性洗浄剤の非限定的な例は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシル硫酸リチウム(LDS)、又はデオキシコール酸塩(DOC)を含む。いくつかの実施形態においては、溶解試薬は、グアニジニウム塩(例えばグアニジニウムチオシアネート又はグアニジニウム塩酸塩)、Triton洗浄剤/界面活性剤(例えばTriton X-100又はTriton X-114)、及びCHAPSを含む。
【0044】
いくつかの実施形態においては、溶解試薬は、化学的又は生化学的溶解試薬、洗浄剤/界面活性剤、及び緩衝剤を含む。いくつかの実施形態においては、緩衝剤は、塩基性pH範囲(例えば約pH8~pH11、約pH8~pH10、約pH10~pH11、約pH9~pH10、又は約pH8~pH9)での緩衝を提供する。塩基性pH範囲で緩衝を提供する緩衝剤の非限定的な例は、ホウ酸塩、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン(ビシン)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン(トリシン)、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン(トリス)、3-アミノ-1-プロパンスルホン酸、4-(シクロヘキシルアミノ)-1-ブタンスルホン酸(CABS)、3-(シクロヘキシルアミノ)-1-プロパンスルホン酸(CAPS)、3-(シクロヘキシルアミノ)-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸(CAPSO)、2-(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES)、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(3-プロパンスルホン酸)(EPPS)、及び3-{[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}-プロパンスルホン酸(TAPS)を含む。
【0045】
いくつかの実施形態においては、溶解試薬は、Triton X-100(例えば乾燥/凍結乾燥Triton X-100)を含んでもよい。いくつかの実施形態においては、溶解効率は、溶解試薬のアルカリ度を操作することによって改善されてもよい。いくつかの実施形態においては、溶解試薬は、Triton X-100及び水酸化ナトリウムを含んでもよい。いくつかの実施形態においては、溶解試薬は、SDS及び/又はTween20を含んでもよい。
【0046】
いくつかの実施形態においては、溶解試薬は、プロテアーゼを更に含んでもよい。本明細書で使用される用語「プロテアーゼ」、「ペプチダーゼ」、又は「プロテイナーゼ」は、タンパク質分解、すなわち、より小さいポリペプチド又は単一のアミノ酸へのタンパク質の分解を触媒する(速度を増大させる)酵素を指す。プロテアーゼは、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、スレオニンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、アスパラギンペプチドリアーゼ、及びそれらの組み合わせのうちのいずれか1つであってもよい。
【0047】
いくつかの実施形態においては、溶解剤は、水性、乾燥、初期乾燥、固体、又はゲルの形態であってもよい。
【0048】
いくつかの実施形態においては、溶解試薬パッドは、いずれの適切な物質で形成されてもよい。いくつかの実施形態においては、溶解試薬パッドは、繊維ガラス、合成繊維、又はそれらの組み合わせを含む。
【0049】
いくつかの実施形態においては、溶解試薬パッドは、1つ以上のインキュベーションチャネルを含んでもよい。いくつかの実施形態においては、インキュベーションチャネルは、溶解試薬パッドと少なくとも部分的に重なる様式で位置決めされた始端と、始端から所定のウィッキング距離で横方向に延在する終端と、を含んでもよく、このとき終端は、pH調節領域と流体連通している。
【0050】
他の実施形態においては、ウイルス溶解領域は、溶解試薬パッドの下に積層されたインキュベーションパッドを更に含む。いくつかの実施形態においては、インキュベーションパッドは、1つ以上のインキュベーションチャネルを含む。いくつかの実施形態においては、インキュベーションチャネルは、溶解試薬パッドと少なくとも部分的に重なる様式で位置決めされた始端と、始端から所定のウィッキング距離で横方向に延在する終端と、を含んでもよく、このとき終端は、pH調節領域と流体連通している。
【0051】
インキュベーションチャネルは、試料と溶解試薬との混合物が溶解試薬パッド又はインキュベーションパッドからウィッキングするための流体経路を提供し、同時にビリオンが溶解される時間を確保する。したがって、ウィッキング距離、チャネル形状、及びチャネル幅を含む、インキュベーション流路の寸法は、溶解試薬が試料中のビリオンの少なくとも一部(例えば少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%)を溶解するのに必要とされるインキュベーション時間に基づいて、決定されてもよい。いくつかの実施形態においては、インキュベーションチャネルの寸法は、開示される層の物質の1つ以上の特性(例えば多孔質物質、平均孔径、孔径分布、多孔度、厚さ、及びウィッキング速度)に基づいて選択される。
【0052】
いくつかの実施形態においては、インキュベーションチャネルは、様々な幾何学的形状及びサイズを有し得る。例えば、インキュベーションチャネルは、蛇行形状のチャネル、直線状又は実質的に直線のチャネル、ジグザグ形状のチャネル、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0053】
本明細書で使用される用語「ウィッキング」は、多孔質媒体の細孔において生じる毛細管力の結果として、多孔質媒体を通る流体の移動を指す。典型的には、多孔質媒体は、例えば、小さい直径の細孔又は繊維の近接によって作り出される毛細管力により、流体が媒体を通って移動する程度に、ある程度の毛細管性を有する。用語「ウィッキング速度」は、単位時間当たりの流体の動き、すなわち、指定された期間に流体がどれだけ移動したかを指す。
【0054】
いくつかの実施形態においては、ビリオンを溶解するために必要とされるインキュベーション時間は、そのウイルス溶解領域の下に分解性フィルムを含ませて第3の層から分離することによって達成されてもよい。分解性フィルムは、流体試料中の液体と接触した後、ある期間で分解され、それに続いて流体を第3の層に放出することができる。本明細書で使用される用語「フィルム」は、長方形、正方形、又はその他の望ましい形状を含む任意の形状の、薄いフィルム及びシートを含む。本明細書で記載されるフィルムは、いずれの望ましい厚さ及びサイズのものであってもよい。例えば、フィルムは、約0.1μm~約1mmの比較的薄い厚さを有してもよい。フィルムは、単層であってもよいし、又は多層であってもよい。
【0055】
いくつかの実施形態においては、フィルムは、水溶性ポリマーマトリクスを含んでもよい。本明細書で使用される用語「水溶性」は、限定するものではないが水を含む溶媒に少なくとも部分的に溶解可能な実体を指す。水溶性ポリマーの例は、限定するものではないが、ポリエチレンオキシド、プルラン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、キサンタンガム、トラガカントガム、グアーガム、アカシアガム、アラビアガム、ポリアクリル酸、メチルメタクリレート共重合体、カルボキシビニル共重合体、デンプン、ゼラチン、及びそれらの組み合わせを含む。有用な水不溶性ポリマーの例は、限定するものではないが、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、及びそれらの組み合わせを含む。
【0056】
第3の層
いくつかの実施形態においては、本開示の装置は、第2の層の下に積層され、ウイルス溶解領域と流体連通するpH調節領域を有する、第3の層を備える。
【0057】
いくつかの実施形態においては、第3の層のpH調節領域は、pHチャネルを含んでもよい。pHチャネルは、第3の層のウイルス溶解領域と流体連通する入口端と、第4の層の核酸受容領域と流体連通する出口端と、を含んでもよい。
【0058】
いくつかの実施形態においては、pHチャネルは、pH調節試薬を更に含んでもよい。例えば、pH調節試薬は、例えばpH5.0まで、pH6.5までのように、流体の酸性度を増大させるために提供されてもよい。pH調節試薬の非限定的な例は、酢酸、ホウ酸、クエン酸、乳酸、リン酸、塩酸、又はそれらに由来する塩を含み得る。いくつかの実施形態においては、pH調節試薬は、酢酸ナトリウムを含んでもよい。いくつかの実施形態においては、pH調節試薬は、水性、乾燥、初期乾燥、固体、又はゲルの形態であってもよい。
【0059】
いくつかの実施形態においては、pHチャネルは、様々な幾何学的形状及びサイズを有し得る。例えば、pHチャネルは、蛇行形状のチャネル、直線又は実質的に直線のチャネル、ジグザグ形状のチャネル、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0060】
第4の層
いくつかの実施形態においては、本開示の装置は、第3の層の下に積層され、pH調節領域と流体連通する核酸受容領域を有する、第4の層を更に備える。
【0061】
いくつかの実施形態においては、核酸受容領域は、バルク溶液が通過することを可能にしつつ、ウイルス核酸分子を吸着することが可能な、核酸吸着パッドを更に含んでもよい。核酸吸着パッドは、いずれの適切な物質で形成されてもよい。例えば、核酸吸着パッドは、紙、布、織布、又は不織セルロース基材で形成されてもよい。いくつかの実施形態においては、核酸吸着パッドは、市販のフィルタ紙(例えばワットマン紙、ニトロセルロース、又は繊維ガラス)等の紙で形成されてもよい。
【0062】
いくつかの実施形態においては、核酸吸着パッドを含む核酸受容領域は、核酸の付着を促進するように官能基化されてもよい。例えば、核酸受容領域は、例えばキトサン又はポリエチレンイミン(PEI)で正に帯電させられるように官能基化されてもよい。
【0063】
本明細書で使用される用語「官能基化された」又は「化学的に官能基化された」とは、化学反応によって物質の表面に官能基を付加することを意味する。当業者には容易に理解されるように、官能基化は、生体適合性及び湿潤性等の望ましい表面特性を達成するために、物質の表面修飾のために採用され得る。
【0064】
いくつかの実施形態においては、第4の層は、必要に応じて切り離されるように、第3の層の下に取り外し可能に積層される。例えば、第4の層が切り離された後、1つ以上の検出試薬が、核酸受容領域に添加されて、ウイルス核酸の検出(例えばインサイチュ検出)を可能にするか又は容易化してもよい。いくつかの実施形態においては、検出試薬は、HCR混合物を含んでもよい。
【0065】
第5の層
いくつかの実施形態においては、本開示の装置は、追加的に及び/又は任意に、流体試料のバルク溶液が第4の層の核酸受容領域を通過するのを容易化して、例えば血漿試料が第4の層の核酸受容領域を通って引き込まれることを確実にする手段(例えばウィッキングパッド、遠心分離、真空)を有する第5の層を備えてもよい。
【0066】
いくつかの実施形態においては、第5の層は、ウィッキングパッドを含んでもよい。いくつかの実施形態においては、ウィッキングパッドは、紙、綿、セルロース、硝酸セルロース、セルロース繊維誘導体、ナイロン(例えばナイロンウール)、焼結ガラス、繊維ガラス、焼結ポリマー、焼結金属、及び合成ポリマーから選択される少なくとも1つの吸収性物質で形成されてもよい。いくつかの実施形態においては、第5の層は、セルロースを含む。
【0067】
いくつかの実施形態においては、以上に説明された第1、第2、第3、第4、及び第5の層は、紙、綿、セルロース、硝酸セルロース、セルロース繊維誘導体、ナイロン(例えばナイロンウール)、焼結ガラス、繊維ガラス、焼結ポリマー、焼結金属、及び合成ポリマー等の、いずれの適切な物質で形成されてもよい。いくつかの実施形態においては、以上の層はまた、膜(例えばニトロセルロース、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン、及びポリスルホン)、ガラス、プラスチック(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリスチレン、及びポリカーボネート)、シリコン、金属、及び金属酸化物を含んでもよい。
【0068】
いくつかの実施形態においては、以上に説明された第1、第2、第3、第4、及び第5の層は、いずれの適切な固定手段によって一緒に保持されてもよい。例えば、これらの層は、接着剤(例えば糊)を用いて一緒に保持されてもよい。いくつかの実施形態においては、本開示の装置は、第1、第2、第3、第4、及び/又は第5の層の間に位置決めされた1つ以上の接着剤層を含んでもよい。いくつかの実施形態においては、以上に説明された層のうちの2つ以上は、単一部品として作製されてもよい。
【0069】
いくつかの実施形態においては、本開示の装置は、筐体内に収容されてもよい。いくつかの実施形態においては、筐体は、カセット又はカートリッジであってもよい。いくつかの実施形態においては、筐体は、第1の層の試料受容領域にアクセスするための開口部を含んでもよい。いくつかの実施形態においては、筐体は、核酸受容領域上で吸収されたウイルス核酸が更なる分析の対象となり得るように、第4の層が他の層から切り離されることを可能にする。
【0070】
いくつかの実施形態においては、本装置は、第1の層から第2の層の中への流体試料の通過を制御するように適合された、制御部材を更に備える。例えば、制御部材は、図9C(「開始ボタン」)に示されるように、ボタンであってもよい。いくつかの実施形態においては、制御部材は、使用者による容易なアクセスのために筐体上に配置されてもよい。
【0071】
いくつかの実施形態においては、制御部材は、第1の層から第2の層の中への流体試料の通過を解放するための第1のユーザ動作を受けるように構成される。いくつかの実施形態においては、第1のユーザ動作は、第1のタイマを作動させ、第1の所定の期間の間、流体試料がウイルス溶解試薬と接触することを可能にする。例えば、ユーザは、押下動作によって制御部材(例えばボタン)を作動させて、流体試料の第1の層から第2の層への流れを開始させてもよい。制御部材は有利にも、溶解ステップをいつ開始するか等の、検出プロセスの開始時間をユーザが制御することを可能にする。これに加えて、制御部材を通して、第1のユーザ動作は、流体試料及び溶解試薬のインキュベーションの継続時間(第1の所定の期間)を制御する内部タイマを作動させてもよい。第1の所定の期間は、細胞又はウイルスが十分に溶解され、核酸が捕捉及び検出のために放出され得るように、溶解試薬を用いた流体試料のインキュベーションに適した期間である。いくつかの実施形態においては、第1の所定の期間は、10分、20分、30分、40分、50分、又は60分であってもよい。
【0072】
いくつかの実施形態においては、制御部材は、第2のユーザ動作を受けるように構成される。いくつかの実施形態においては、第2のユーザ動作は、第2のタイマを作動させ、第2の所定の期間の間、核酸受容領域中の核酸が検出剤と接触することを可能にする。例えば、第2のユーザ動作は、捕捉された核酸を、検出剤(例えばHCR混合物)を用いてインキュベートする継続時間(第2の所定の期間)を制御する内部タイマを開始させる、押下動作であってもよい。いくつかの実施形態においては、第2の所定の期間は、30分、45分、60分、又は75分であってもよい。
【0073】
また本開示において提供されるものは、ウイルス核酸を単離及び/又は検出するためのキットである。いくつかの実施形態においては、キットは、以上に説明されたような装置を含んでもよい。いくつかの実施形態においては、キットは、1つ以上の検出試薬を更に含んでもよい。いくつかの実施形態においては、検出試薬は、HCR混合物を含んでもよい。いくつかの実施形態においては、HCR混合物は、ウイルス核酸を検出するための1つ以上のプローブを含んでもよい。いくつかの実施形態においては、プローブは、ウイルス核酸の標的配列に相補的な配列を有してもよい。
【0074】
いくつかの実施形態においては、キットはまた、検出試薬と同じ容器又は異なる容器に収容された1つ以上の追加的な薬剤を含む。例えば、キットは、追加薬剤とは別個の容器又は別個の区画において備えられる検出試薬を含んでもよい。
【0075】
いくつかの実施形態においては、キットは任意に、試料(例えば生物学的試料)を採取するための機器を含んでもよい。いくつかの実施形態においては、試料を採取するための機器は、限定するものではないが、毛細管、ピペット、シリンジ、針、ポンプ、及びスワブを含んでもよい。いくつかの実施形態においては、キットは、情報マテリアルを含んでもよい。情報マテリアルは、本明細書で説明される装置及び/又はその使用の方法に関連する説明的な、指示的な、マーケティング的な、又はその他のマテリアルであってもよい。
【0076】
ここで図1Aを参照すると、装置100は、試料前処理(例えば血漿分離)のための第1の層110(層1)、バイアル溶解のための第2の層120(層2)、pH調節のための第3の層130(層3)、核酸捕捉のための第4の層140(層4)を備える。いくつかの実施形態においては、装置100は、ウィッキングパッドを含んでもよい第5の層150(層5)を更に含んでもよい。
【0077】
いくつかの実施形態においては、第1の層110は、流体試料を受容し、流体試料中の細胞又は細胞成分を保持するように適合された、試料受容領域を備える。いくつかの実施形態においては、第2の層120は、第1の層110の下に積層され、試料受容領域と少なくとも部分的に重なる様式で位置決めされたウイルス溶解領域を有し、ウイルス溶解領域は、ウイルス溶解試薬を含む。いくつかの実施形態においては、第3の層130は、第2の層120の下に積層され、ウイルス溶解領域と流体連通するpH調節領域を有し、pH調節領域は、pH調節試薬を含む。いくつかの実施形態においては、第4の層140は、第3の層130の下に積層され、pH調節領域と流体連通する核酸受容領域を有する。いくつかの実施形態においては、追加的な又は任意の第5の層150は、第4の層140の下に積層され、第4の層140の核酸受容領域を通過する流体を受容する。
【0078】
ここで図1Bを参照すると、流体試料が全血試料であるシナリオにおいて、第1の層110は、血漿分離用のために適合されている。図1Bに示されるように、第1の層110は、例えば、細胞又はその細胞成分の流れがフィルタパッドを通過するのを制限することによって、流体試料から細胞又はその細胞成分(例えば細胞残屑)を保持するのに適した平均孔径を有する、1つ以上のフィルタパッド(例えばフィルタパッド111及び113)を含んでもよい。
【0079】
例えば、フィルタパッド111は、白血球等の細胞又はその細胞成分の第1の集団を保持するように適合されてもよい。フィルタパッド113は、赤血球等の細胞又はその細胞成分の第2の集団を保持するように適合されてもよい。
【0080】
いくつかの実施形態においては、フィルタパッドは接着剤層の開口部に嵌装されてもよい。例えば、フィルタパッド111及び113は、それぞれ接着剤層117aの開口部115a及び接着剤層117bの開口部115bに嵌装されてもよい(図1B)。
【0081】
いくつかの実施形態においては、第1の層110は、一方を他方の上に積層した、直径約1cm~約6cm(例えば3cm)の2つの円形フィルタパッド(すなわちフィルタパッド111及び113)を使用して、全血試料から血漿を分離する。一例においては、全血の試料(例えば約250μL~約2000μL)が、最も上のパッド(Leukosorb、Pall Corporation)(すなわちフィルタパッド111)に適用され、赤血球及び血漿が、次のパッド(すなわちフィルタパッド113)へと通過し、白血球が、パッド(すなわちフィルタパッド111)に保持される。第2のパッド(すなわちフィルタパッド113)(CytoSep 1668 HV+、Ahlstrom-Munksjo)(すなわちフィルタパッド113)は、赤血球を捕捉して保持し、血漿及びその小さな成分(例えばビリオン)が通過することを可能にする。
【0082】
ここで図1Cを参照すると、第1の層110の下に積層された第2の層120は、第1の層110の試料受容領域と少なくとも部分的に重なる様式で位置決めされたウイルス溶解領域を含んでもよい。いくつかの実施形態においては、ウイルス溶解領域は、溶解試薬パッド121を含んでもよく、溶解試薬パッド121は、接着剤層129a上の開口部122によって受容されてもよい。
【0083】
いくつかの実施形態においては、溶解試薬パッド121は、溶解試薬を含んでもよい。いくつかの実施形態においては、溶解試薬は、Triton X-100(例えば乾燥/凍結乾燥Triton X-100)を含んでもよい。いくつかの実施形態においては、溶解試薬は、Triton X-100及び水酸化ナトリウムを含んでもよい。いくつかの実施形態においては、溶解試薬は、水性、乾燥、初期乾燥、固体、又はゲルの形態であり得る。いくつかの実施形態においては、溶解試薬パッド121は、いずれの適切な物質で形成されてもよい。いくつかの実施形態においては、溶解試薬パッド121は、繊維ガラス、合成繊維、又はそれらの組み合わせを含む。
【0084】
他の実施形態においては、ウイルス溶解領域は、溶解試薬パッドの下に積層されたインキュベーションパッド125aを更に含む。いくつかの実施形態においては、インキュベーションパッド125aは、インキュベーションチャネル125bを含む。いくつかの実施形態においては、インキュベーションチャネルは、蛇行形状、直線若しくは実質的に直線、若しくはジグザグ形状、又はそれらの組み合わせ等の、様々な形状を有し得る。いくつかの実施形態においては、インキュベーションチャネル125bは、蛇行形状のチャネルである。
【0085】
インキュベーションパッド125a及びインキュベーションチャネル125bは、例えば、紙(例えばAhlstrom-MunksjoのGrade319クロマトグラフィー紙)、綿、セルロース、硝酸セルロース、セルロース繊維誘導体、ナイロン(例えばナイロンウール)、焼結ガラス、繊維ガラス、焼結ポリマー、焼結金属、及び合成ポリマー等の、いずれの適切な物資の基板123上に嵌装されてもよい。
【0086】
いくつかの実施形態においては、第2の層120は、液体が第3の層130へと通過することを可能にする開口部127を有する接着剤層129bを介して、第3の層130の上に積層される。
【0087】
第1の層110において白血球及び赤血球が除去され、血漿は残されて第2の層120を、毛細管現象を介して移動する。いくつかの実施形態においては、第2の層120の構成要素は、約1mm~約6mm(例えば3mm)の溶解試薬パッド121(例えば繊維ガラスで形成されたもの)及びインキュベーションパッド125a(例えばGrade319、Ahlstrom-Munksjo)を含んでもよい。一例においては、溶解試薬パッド121は、乾燥溶解試薬(例えばTriton X-100)を含んでもよい。血漿は、溶解試薬パッド121を通過し、溶解試薬を再水和させ、かくして血漿を溶解のために調製する。血漿溶解液は、インキュベーションパッド125aを通り、インキュベーションチャネル125b(例えば蛇行チャネル)中をウィッキングすることとなり、ビリオンが溶解される時間を確保する。ビリオンを溶解するのに要する時間(例えば約20分~約30分)は、予測可能なウィッキング速度(例えば毎分約10mm~約30mm)と組み合わせて、インキュベーションパッド125aのインキュベーションチャネル125bの寸法及び長さを決定するために使用され得る。いくつかの実施形態においては、インキュベーションチャネル125bは、ボロン酸ポリマーを使用して疎水性障壁を用いて更にパターン化され、ロールツーロールスタンピング法を使用して適用されてもよい。
【0088】
ここで図1Dを参照すると、第2の層120の下に積層された第3の層130は、ウイルス溶解領域と流体連通するpH調節領域を含んでもよい。いくつかの実施形態においては、pH調節領域は、pHチャネル131を含む。いくつかの実施形態においては、pHチャネル131は、pH調節試薬を更に含んでもよい。例えば、pH調節試薬は、流体の酸性度を増大させるために提供されてもよい。pH調節試薬の非限定的な例は、酢酸、ホウ酸、クエン酸、乳酸、リン酸、塩酸、又はそれらに由来する塩を含み得る。いくつかの実施形態においては、pH調節試薬は、酢酸ナトリウムを含んでもよい。いくつかの実施形態においては、pH調節試薬は、水性、乾燥、初期乾燥、固体、又はゲルの形態であってもよい。
【0089】
いくつかの実施形態においては、第3の層130は、試料の酸性度を増大させる(例えばpH5.5~6.0)ことによって、RNA捕捉のための溶解された血漿試料を調製するように適合される。一例においては、第3の層130は、血漿がそこを通過する際に再水和して混合することとなる、乾燥試薬(例えば酢酸ナトリウム)を含む親水性チャネルを有する紙(例えばGrade319、Ahlstrom-Munksjo)で形成されてもよい。
【0090】
いくつかの実施形態においては、第3の層130は、流体が第4の層140へと通過することを可能にする開口部135を有する接着剤層133を更に含んでもよい。
【0091】
ここで図1Eを参照すると、第3の層130の下に積層された第4の層140は、第3の層130のpH調節領域と流体連通する核酸受容領域を含む。いくつかの実施形態においては、核酸受容領域は、バルク溶液が通過することを可能にしつつ、ウイルス核酸分子を吸収することが可能な核酸吸収パッド141を更に含んでもよい。核酸吸収パッド141は、紙、布、織布、又は不織セルロース基材で形成されてもよい。いくつかの実施形態においては、核酸吸収パッド141は、市販のフィルタ紙(例えばワットマン紙)等の紙で形成されてもよい。いくつかの実施形態においては、核酸受容領域、例えば核酸吸収パッド141は、官能基化されてもよい。例えば、核酸受容領域は、キトサン又はポリエチレンイミン(PEI)を用いて官能基化されてもよい。
【0092】
いくつかの実施形態においては、核酸吸収パッド141は、2つの積層された接着剤層、すなわち143aと143bとの間に嵌装されてもよい。
【0093】
いくつかの実施形態においては、第4の層140は、キトサンを用いて官能基化された市販のフィルタ紙(例えばWhatman Fusion5、Cytivia)の小さなディスク(例えば直径約2mm~5mm)の形をとる、核酸吸収パッド141を含んでもよい。酸性血漿溶液が第4の層140を通ってウィッキングされるとき、キトサンがプロトン化される。負に帯電したウイルスRNAは、試料中の他の全ての核酸とともに、バルク溶液が通過する間に核酸吸収パッド141に静電吸着される。
【0094】
B.ウイルス核酸を単離及び検出するための方法
別の態様においては、本開示はまた、流体試料からウイルスの核酸を分離するための方法を提供する。いくつかの実施形態においては、本方法は、(i)流体試料を備えることと、(ii)以上に説明された装置の第1の層中の試料受容領域に、流体試料を接触させることと、(iii)流体試料の流体部分が第1の層、第2の層、及び第3の層を通過し、第4の層に到達することを可能とする条件下で、流体試料を本装置においてインキュベートし、それによってウイルスの核酸を得ることと、を含む。
【0095】
更に別の態様においては、本開示は、流体試料中のウイルスの核酸を検出するための方法を更に提供する。いくつかの実施形態においては、本方法は、(a)以上に説明された方法によって得られた第4の層を備えることと、(b)核酸受容領域を反応混合物と接触させることと、(c)核酸と反応混合物との間の反応を検出することと、を含む(図2)。
【0096】
いくつかの実施形態においては、生物学的試料中の1つ以上のウイルス核酸を検出することは、図3に示されるように、ハイブリダイゼーション連鎖反応(HCR)と呼ばれる核酸増幅の非酵素的方法に基づいてインサイチュで実施される。この手法においては、HIV RNAの単一のコピーが、二重鎖形成を介してプローブDNAヘアピン(H1)の開鎖をトリガし、これが次いで第2のヘアピン(H2)の開鎖をトリガする。これが次いでH1の2番目の分子に結合し、カスケードが続く。各ヘアピンは、その末端を蛍光体-消光体対において標識されることができ、かくして、カスケードが進行するにつれて、各ヘアピンの結合及び開鎖は、蛍光の消光を引き起こし、例えばスマートフォンのカメラのような撮像装置による、又はフェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)による、定量化のための信号の増大を引き起こし、共鳴エネルギーが蛍光体Aの電子から蛍光体Bに移動させられ、蛍光体Aによって放出される光子よりも長い波長を有する光子として放出される。
【0097】
いくつかの実施形態においては、反応混合物は、HCR混合物を含む。いくつかの実施形態においては、反応混合物は、核酸の標的配列に相補的な配列を有する、1つ以上のプローブ(例えばプローブセット)を含む。HCRプローブの配列例が、以下の表1に示される。
【0098】
「HCRプローブセット」又は「HCR開始剤/ヘアピンセット」は、核酸ヘアピン等の1つ以上の準安定HCRモノマーとともに、ハイブリダイゼーション連鎖反応ポリマーを形成することが可能な、核酸の1つ以上の開始剤ストランドを含んでもよい。HCRプローブは、Integrated DNA Technologies(IDT、Coralville、Iowa)、W.M.Keck Foundation Oligo Synthesis Resource(New Haven、Connecticut)、又はMolecular Instruments(Pasadena、California)等の商用の供給源を含む、化学的核酸合成等の標準的な方法を使用して、合成されてもよい。代替としては、HCRプローブは、PCRに続く一方のストランドのラムダエキソヌクレアーゼ消化によりssDNAを得ること(Current Protocols in Molecular Biology(2014):14-23参照、参照によりその全体が本明細書に組み込まれたものとする)、又はインビトロ転写に続く逆転写によりssDNAを得ること(例えばChenら、Science 348:6233(2015):aaa6090参照、参照によりその全体が本明細書に組み込まれたものとする)等の、標準的な酵素法を使用して、合成及び/又は増幅されてもよい。
【0099】
試料は、例えばスポイト、ピペット、及びシリンジ等を介してのような、任意の便利なプロトコルを使用して、試料適用部位に適用されてもよい。これに加えて、流体試料は、フィルタパッドを通る適切な流体の流れを提供するために、例えば緩衝液のような任意の適切な液体とともに試料受容領域に適用されてもよい。任意の適切な液体の例は、限定するものではないが、緩衝液、細胞培養培地(例えばDMEM)等を含む。緩衝液の例としては、トリス、トリシン、MOPS、HEPES、PIPES、MES、PBS、及びTBS等を含む。一例においては、適切な液体は、試料受容領域に適用される前に、流体試料と混合されてもよい。別の例においては、適切な液体は、流体試料を適用するのと同時に、適用する前に、又は適用した後に、試料受容領域に適用されてもよい。
【0100】
また本開示において提供されるものは、ウイルスに感染した患者又はウイルス感染が疑われる患者を同定するための方法である。いくつかの実施形態においては、本方法は、(i)患者の試料(例えば血液試料)を得ることと、(ii)以上に説明された方法によって、血液試料中のウイルス負荷のレベル(例えばHIV RNAのレベル)を決定することと、(iii)決定されたウイルス負荷のレベルを対照レベルと比較し、決定されたレベルが対照レベルと比較して上昇しているか否かを決定することと、(iv)決定されたウイルス負荷のレベルが対照レベルと比較して上昇している場合、患者をウイルス感染症であると決定することと、を含んでもよい。
【0101】
用語「患者」、「個体」、及び「対象」という用語は、相互に交換可能に使用され、一般的に、本明細書に記載される診断又はモニタリング方法を実行するために、開示される方法論が体液試料を得るために利用される、任意の生体を指す。患者は、ヒト等の動物であってもよい。患者はまた、飼育動物又は家畜であってもよい。「患者」又は「個体」は、対象とも呼ばれ得る。
【0102】
本明細書で使用される場合、ウイルス負荷の「対照」レベルとは、いくつかの実施形態においては、例えばHIV感染等のウイルス感染のような、調査において対象となる疾患又は障害に罹患していない1体以上の個体から得られた試料から得られたウイルス負荷のレベルを指す。このレベルは、個体単位毎に測定されてもよいし、又は平均値等のように集合毎に測定されてもよい。「対照」レベルはまた、疾患又は障害を有してはいるが、疾患又は障害の急性期を経験していない、個体の集団の分析によって決定されてもよい。かかる「対照」レベルを得るために、「対照」試料が使用されてもよい。「対照」試料は、調査における対象となる疾患又は障害に罹患していない1体以上の個体から得られてもよい。「対照」試料はまた、疾患又は障害を有してはいるが、疾患又は障害の急性期を経験していない個体の集団から得られてもよい。いくつかの実施形態においては、「対照」レベルは、診断が求められている、又はその状態がモニタリングされている個体と同じ個体からのものであるが、異なる時間に得られたものである。特定の実施形態においては、「対照」レベル又は試料は、同じ患者から、より早い時期に、例えば、数週間、数ヶ月、又は数年前に得られた、レベル又は試料を指し得る。
【0103】
本明細書で使用される「決定されたレベルが対照レベルと比較して上昇している」とは、対照レベルからの値の正の変化を指す。
【0104】
C.定義
本開示による組成物及び方法の詳細な説明の理解を助けるために、本開示の様々な態様の明確な開示を容易化するよう、いくつかの明示的な定義が提供される。別段の定義がされない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する分野における当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0105】
本明細書で使用される用語「接触する」は、成分の任意のセットに関して使用される場合、接触させられる成分が同じ混合物中に混合される(例えば同じ区画又は溶液に添加される)任意のプロセスを含み、言及された成分間の実際の物理的接触を必ずしも必要とするものではない。言及された成分は、任意の順序又は任意の組み合わせ(又はサブ組み合わせ)で接触させられてもよく、任意に他の言及された成分の添加に先立って、1つ又はいくつかの言及された成分が後続して混合物から除去される状況も含み得る。例えば、「AをB及びCと接触させる」とは、(i)AがCと混合され、次いでBが混合物に添加される状況、(ii)A及びBが混合物に混合され、Bが混合物から除去され、次いでCが混合物に添加される状況、及び(iii)BとCとの混合物にAが添加される状況、のうちのいずれか及び全てを含む。
【0106】
本明細書で使用される用語「疾患」は、いずれも、正常な機能を損ない、典型的には明瞭な徴候及び症状によって明らかとなり、ヒト又は動物の生命の継続時間又は質を低下させる、ヒト若しくは動物の身体又はその一部の異常な状態を反映するという点で、(医学的状態における)「障害」及び「状態」という用語と一般的に同義であることが意図され、相互に交換可能に使用される。
【0107】
本明細書で使用される用語「インビトロ」は、多細胞生物内ではなく、例えば試験管又は反応容器の中、細胞培養等のような、人工的な環境において起きる事象を指す。
【0108】
本明細書で使用される用語「インビボ」は、ヒト以外の動物等の多細胞生物内で起きる事象を指す。
【0109】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈が明らかにそうでないことを示していない限り、複数の参照を含むことに留意されたい。
【0110】
用語「含む(including)」、「備える(comprising)」、「含む(containing)」、又は「有する(having)」及びそれらの語形変化は、別段の言及がない限り、その後に列挙されたアイテム及びその等価物並びに追加的な主題を包含することが意図されている。
【0111】
語句「一実施形態において」、「様々な実施形態において」、及び「いくつかの実施形態において」等は、繰り返し使用される。かかる語句は、必ずしも同じ実施形態を指すとは限らないが、文脈が明らかにそうでないことを示していない限り、同じ実施形態を指してもよい。
【0112】
用語「及び/又は」又は「/」は、この用語が関連するアイテムのいずれか1つ、アイテムのいずれかの組み合わせ、又はアイテムの全てを意味する。
【0113】
用語「実質的に」は、「完全に」を除外するものではなく、例えば、Yを「実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含まなくてもよい。必要な場合には、用語「実質的に」は、本開示の定義から省略されてもよい。
【0114】
本明細書で使用される場合、対象となる1つ以上の値に適用される用語「およそ」又は「約」は、言及された基準値と同等の値を指す。いくつかの実施形態においては、用語「およそ」又は「約」は、別段の言及がない限り、又は文脈からそうでないことが明らかでない限り(かかる数がとり得る値の100%を超える場合を除く)、いずれかの方向(より大きい又はより小さい)において、言及された基準値の25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、又はそれ未満に収まる値の範囲を指す。本明細書において別段の示唆がない限り、用語「約」は、個々の成分、組成物、又は実施形態の機能性の観点から同等である、言及された範囲に近接した値、例えば重量パーセントを含むことが意図されている。
【0115】
本明細書において値及び範囲が提供される場合には、これらの値及び範囲に包含される全ての値及び範囲が、本開示の範囲内に包含されることを意図されていることは、理解されるべきである。更に、これらの範囲内に収まる全ての値、及び値の範囲の上限値又は下限値も、本出願によって企図されるものである。
【0116】
本明細書で使用される用語「各」は、アイテムの集合に関連して使用される場合、集合の中の個々のアイテムを特定することを意図されているが、必ずしも集合の中の全てのアイテムを指すものではない。明示的な開示又は文脈が明確にそうでないことを示す場合には、例外が生じ得る。
【0117】
本明細書で提供される任意の及び全ての例、又は例示的な言語(例えば「等の」)の使用は、単に本発明をより良く説明することを意図されたものであり、別段の主張がない限り、本開示の範囲に対して限定を与えるものではない。本明細書中のいかなる文言も、請求されていない要素が本発明の実施に必須であることを示すものとして解釈されるべきではない。本明細書において使用される場合、用語「例示的な」は、「一例として」を意味することを意図されており、特定の例示的なアイテムが好ましい又は必要とされることを示すことを意図されていない。
【0118】
本明細書で記載される全ての方法は、本明細書で別段の示唆がない限り、又は文脈によって明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実行される。提供される方法のいずれかに関して、方法のステップは、同時に起きてもよいし、又は順次起きてもよい。方法のステップが順次起きる場合、別段の言及がない限り、ステップはいずれの順序で起きてもよい。
【0119】
方法がステップの組み合わせを含む場合においては、本明細書で別段の言及がない限り、ステップのそれぞれの及び全ての組み合わせ又はサブ組み合わせは、本開示の範囲内に包含される。
【0120】
本明細書で引用される各出版物、特許出願、特許、及びその他の参考文献は、本開示と矛盾しない程度に、参照によりその全体が組み込まれたものとする。本明細書で開示される出版物は、本開示の出願日前の開示についてのみ提供される。本明細書のいかなる内容も、本発明が先行発明によるかかる出版物に先行する権利を有しないことを認めるものとして、解釈されるべきではない。更に、提供された刊行物の公開日は、実際の公開日と異なり得るものであり、独立に確認する必要される必要があり得る。
【0121】
本明細書で記載された実施例及び実施形態は、単に例示の目的のためのものであり、当業者には、それを考慮した様々な修正又は変更が示唆され、本願の趣旨及び範囲、並びに添付される特許請求の範囲に含まれるべきものであることが理解される。
【実施例
【0122】
D.実施例
実施例1
この実施例は、以下の後続の実施例において使用される物質及び方法を説明する。
【0123】
物質
Ultrapure Agarose及びSybr SafeのDNA染色剤が、Thermo Fisher Scientific(Waltham、MA、USA)から購入された。100BP DNAラダーが、VWR Life Science(Radnor、PA、USA)から購入された。ATTO 550及びATTO 647Nと結合したDNAヘアピンを含む、全てのDNA及びRNAオリゴが、Integrated DNA Technologies(Coralville、IA、USA)から購入された。10X TBE及びChemiDoc XRSゲル撮像器が、Bio-Rad Laboratories(Hercules、CA、USA)から購入された。クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、tween 20、ブロモフェノールブルー-キシレンシアノール、スクロース、及びジエチルピロカーボネートが、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO、USA)から購入された。Fluoromax-4蛍光スペクトロメーターが、Horiba(Kyoto、Kyoto、Japan)から購入された。アガロースゲルキャスト、コーム、MightSlim SX250 Power Supply、及びHE 33 miniホリゾンタルサブマリンユニットが、全てHoefer,Inc.(San Francisco、CA、USA)から購入された。アニーリングのために、Col-Parmer(Vernon Hills、IL、USA)のAmplitron IIサーモサイクラが使用された。蛍光顕微鏡法が、Olympus BX60(Shinjuku、Japan)及びSpot Imaging(Sterling Heights、MI、USA)のSpot Flexカメラを使用して行われた。3D印刷された物質は全て、SolidWorks 2018-2019 Student Editionにおいて設計され、ポリ乳酸(PLA)及びPrusa(Prague、Czech Republic)から購入されたPrusa i3 MK3Sを使用して印刷された。
【0124】
アガロースゲル電気泳動
3%アガロースゲルを作り出すため、1.2グラムのアガロースが40mLの1X TBE緩衝液に添加され、アガロースが完全に溶解するまで30秒単位でマイクロ波加熱され、溶融アガロース溶液中に混合された。4μLのSybrSafeが溶融アガロースに添加され、穏やかに混合され、次いでゲルキャストの中に注がれ、1時間の間、固まることを可能にされた。H1及びH2ヘアピンが、95℃まで5分間加熱し、30分かけて室温まで冷却することによって、アニーリングされた。ヘアピンは次いで、5X SSCTにおいて1.5μMの濃度にまで希釈された。合成DNA及びRNAトリガが、300nM、150nM、及び30nMの濃度にまで希釈された。ヘアピン及びトリガは、1:1:1の割合でキュベットに添加され、最終トリガ濃度を100nM、50nM、10nMのDNA又はRNAとし、最終ヘアピン濃度を500nMとし、500nMのヘアピン濃度及び等しい割合の5X SSCTのみを含む0nMのトリガ対照群とした。混合物を混合され、室温で1時間インキュベートされて、次いで5μLの各混合物が、10μLの1Xのローディング緩衝液(100:1の割合の、Nanopure中の1%スクロース及びブロモフェノールブルー-キシレンシアノール)と混合し、150Vで1時間アガロースゲル中を通過させられた。ゲルが次いで、ChemiDocゲル読み取り器を用いて読み取られた。
【0125】
HCR-FRET
蛍光体結合H1及びH2が、5X SSCT中で合成RNAトリガと混合され、750μLの最終体積、各ヘアピンについて5nMの最終濃度、及び0nM、1nM、2nM、3nM、5nM、及び7nMのトリガ濃度として、1.5mLキュベット中で、ホイル中で2時間、室温でインキュベートされた。HCR反応が石英キュベットに加えられ、Fluoromax-4分光蛍光光度計を使用してスキャンされた。スペクトルが次いで、Matlab 2020bを使用して作り出されたカスタムスクリプトを使用して分析された。
【0126】
実施例2
HIVウイルス負荷アッセイは、1)全血からのHIV標的の精製、及び2)定量可能なレベルまでの検体の増幅の、2つの主要な構成要素で構成される。血液試料は、試験に先立って除去されていない場合、核酸増幅アッセイを妨害することとなる、タンパク質及び酵素を含んでいる。これらの汚染物質を除去するために、ウイルスRNAの単離は典型的には、全血からビリオンを分離し、ビリオンを溶解し、ウイルスRNAを精製するように設計された、精巧な手順を含む。RNAを精製した後、ウイルス信号の増幅は、最も一般的には、RT-qPCRを使用して達成される。これらの方法は効果的ではあるが、複雑なワークフロー、高価な試薬、及び高価で不安定な器具を動作させることを含む。
【0127】
既存の方法の欠点に対処するために、この開示は、HIVウイルス負荷の簡便で酵素を使用しない検出に適したハンドヘルド診断技術を記載する。しかしながら、この開示は、ウイルス負荷決定に限定されるものではない。開示される装置及び方法は、CD4カウントの決定、HIVに関連する併存疾患(例えば結核との重感染)の決定、及び炎症のタンパク質マーカ等の、他の用途にも適している。
【0128】
図1A~1Eに示されるように、本明細書で開示される装置は、安価で使い捨てのアッセイストリップを含んでもよい。このアッセイストリップは、HIVウイルス負荷決定のための3つの新規な開発を活用している。これらのうちの第1のものは、蛍光消光を伴うHCRを使用した、HIVゲノムRNAの増幅であり、核酸検出に対する酵素を用いないDNAナノテクノロジーによる手法である。図3に示されるように、HCRは、DNAナノ構造を生成するために、開始配列(標的HIV RNA)の、2つのヘアピンH1及びH2との反応に依存している。H1及びH2は、その末端がFRETドナー-アクセプタ対で標識されており、HCRプロセスが進行すると、ヘアピンが展開し、アクセプタ蛍光体の蛍光信号の増大をもたらす。開始配列は、H1のトーホールド領域に結合し、H1を展開させ、かくしてH2のトーホールド領域に相補的な配列を出現させる。H2が結合すると、展開して、H1のトーホールド領域に相補的な配列を出現させる。このことは、反応が「カスケード」することを可能にし、より多くのH1及びH2のコピーを、容易に検出可能な蛍光DNAナノ構造に組み込む。ヘアピンDNAカスケードは、RNA信号を著しく増幅することが可能であり、酵素的核酸増幅並びにそれに伴う高感度な試薬及び器具の必要性を回避する。
【0129】
この実施例において例証されるように、プローブ設計法を使用するHCRは、HIVから合成核酸配列を首尾よく検出することができる(図4)。図4は、アガロースゲル中で撮像されたヘアピンカスケード反応の結果を示す。DNAはSYBR Safe色素を用いて可視化された。レーン2、4、及び6においては、500nMのH1及びH2のカクテルが、それぞれ100nM、50nM、及び10nMの濃度の合成DNAトリガを用いて1時間インキュベートされた。レーン3、5、及び7においては、500nMのH1及びH2のカクテルが、それぞれ100nM、50nM、及び10nMの濃度の合成RNAトリガを用いて1時間インキュベートされた。レーン8は、トリガ配列の非存在下でのHCR反応(1時間インキュベートされたもの)を含み、レーン1は、100塩基対のDNAラダーを含む。大きな分子量のバンドが、100nM及び50nMのDNA及びRNAのレーンに見られ、27以上のヘアピンを含むHCR生成物を示している。DNA及びRNAトリガの存在下でハイブリダイゼーション鎖を形成するHCRの能力は、この手法の実現可能性についての強い支持を提供するものである。
【0130】
これに加えて、開示される装置及び方法は、セルロース結合ボロン酸ポリマーを使用して紙中にマイクロ流体チャネルをパターン化することを更に採用してもよく、このことは、堅固で、ロールツーロール製造に適合し、アッセイ消耗品の単一ステップ生成を可能とする(図5A~5D)。アッセイ結果の撮像及び分析は、内蔵されたスマートフォンアプリケーションを有する標準的なスマートフォンのカメラ等の、いずれの適切な検出手段を使用して実行されてもよい。
【0131】
実施例3
官能基化Fusion5フィルタ紙を用いたオリゴヌクレオチドの捕捉を試験するため、Fusion5フィルタ(Cytiva)が、ロータリシェーカ上で0.2MのNaOHで5分間洗浄された。NaOH溶液は吸引され、フィルタがロータリシェーカ上で、脱イオン水で3回、5分間洗浄された。フィルタは、50℃で、真空下で乾燥され、次いで、0.1Mの酢酸に溶解された0.25%w/vのキトサン溶液(Sigma-Aldrich)中で16時間、室温で、ロータリシェーカ上でインキュベートされた。フィルタは、脱イオン水を使用して3回、5分間洗浄され、50℃で、真空下で乾燥された。その結果の官能基化されたFusion5フィルタは、使用されるまで4℃で保存された。
【0132】
標準的な0.22ミクロンの遠心フィルタ(Millipore Sigma)からのフィルタが取り外され、1/4インチ四方の官能基化されたFusion5フィルタと交換された。ストックDNA又はRNA(30ヌクレオチドDNA及び酵母tRNA)が1xのPBS(5、6又は7のpH)で希釈され、フィルタを通して1300xgで遠心分離された。Nanodrop Lite (Thermo Fisher Scientific)を使用して、遠心分離の前後で核酸濃度が測定された。図6Aにおいては、フィルタが1xのSybrSafe(Thermo Fisher Scientific)で10分間染色され、ChemiDoc MP(Bio-Rad)を使用して撮像された。図6B、6C、及び6Dからのデータは、JMP Pro 16を使用して分析された。
【0133】
オリゴヌクレオチドを捕捉する官能基化されたFusion5フィルタ紙の能力が、図6A~6Dに示されている。図6Aは、使用されたフィルタ上で捕捉された核酸を経験的に示し、図6Bは、質量による捕捉能力を示す。図6C~6Dは、短い配列のヌクレオチドを静電吸着するための官能基化の必要性を例示している。図6Cは、キトサンがその約6.4のpKa未満のpHでプロトン化することを示している。図6Dは、プロトン化キトサンで官能基化されない限り、短いDNA及びtRNAがフィルタを通過することとなることを示している。
【0134】
実施例4
捕捉された核酸がフィルタ上で直接検出されることができるか否かを試験するため、Fusion5フィルタ紙から直径1.5mmのパッドが切り出され、1.5mmのPDMS(Sigma-Aldrich)台座に付着させられて、親水性材料上での定着液滴の形成を可能にした。合成トリガDNA又はRNAがDI水を使用して希釈され、紙パッド上へと乾燥させられた。H1及びH2ヘアピンの5nMのHCR溶液が、DNAハイブリダイゼーション緩衝液(75mMの塩化ナトリウム、15mMのクエン酸ナトリウム、10mMの塩化マグネシウム、及び0.1%のTween20(いずれもSigma-Aldrich))、又はRNAハイブリダイゼーション緩衝液(37.5mMの塩化ナトリウム、15mMのクエン酸ナトリウム、10mMの塩化マグネシウム、及び0.1%のTween20)中で作成され、5μLが定着液滴として各台座に塗布され、乾燥剤(Thermo Fisher Scientific)に囲まれた密閉環境において完全に乾燥することを可能にされた。乾燥させられた紙は次いで、FRETキューブを有する蛍光顕微鏡使用して撮像され、ImageJ及びJMP Pro 16を使用して分析された。全てのp値が、両側のStudentのt検定を使用して算出された(n=3)。全てのDNA及びRNAは、IDTから得られた。図7及び8におけるFusion5フィルタは、キトサン
H1:5’-GGGGAAGAGACAAGGTTTTGTCTCTTCCCCAAACCT-3’-Cy3(配列番号11)、
H2:Cy5-5’-AAACCTTGTCTCTTCCCCAGGTTTGGGGAAGAGACA-3’(配列番号12)、
DNA及びRNAトリガ:AGGTTTGGGGAAGAGACA(配列番号13)及びAGGUUUGGGGAAGAGACA(配列番号14) で官能基化されていない。
【0135】
図7及び8に示されるように、DNA及びRNAのトリガ配列はいずれも、定着液滴の形でインキュベートされ、蛍光顕微鏡を使用して撮像された、ハイブリダイゼーション連鎖反応を使用して、フェムトモル領域において、酵素を含まないFusion5フィルタ紙上で直接検出されることができる。
【0136】
実施例5
この実施例は、ヌクレオチドを検出するための装置例(図9A~9B)及びワークフロー例(図9C)を例示する。ステップ1(図9C)において、血液試料をロードするために、全血(例えば150μL)の毛細管が装置に挿入された。血液は、毛細管現象によって毛細管から装置の中へと引き込まれ、次いで図9C(ステップ2)において説明されたようにボタンが押下され、装置内の内部タイマを作動させた。第1の層においては、全血から血漿が分離され、再び毛細管現象によって溶解層の中へと引き込まれた。内部タイマが切れたときに、洗浄緩衝液を含むブリスタパックが自動的に穿刺され、その内容物を装置の溶解層の中へと放出し、溶解された試料を、RNA捕捉層を通して流した。全ての液体は、毛細管ポンプ層によって装置を通してウィッキングされた。次いで、エンドユーザがプルタブを引くことによって、RNA捕捉層が、他の層から装置の検出ゾーンへと取り外された(図9C;ステップ3)。タブが引かれると、HCR溶液が同時に、定着液滴の形でRNA捕捉パッド上へと放出された。次いで、エンドユーザが再びボタンを押下し(図9C;ステップ3)、別の内部タイマを作動させた。タイマが切れたときに、装置がLEDレーザ及びフォトダイオードを使用して検出ゾーンを撮像し、アッセイの結果をLCDスクリーンに表示した(図9C;ステップ4)。
【0137】
開示された核酸試験の設計の利点は、トレーニングを必要としない使いやすい形式で、複雑な試料から回答までの核酸試験を実行することである。この設計は、いずれもスケーリングされる製造が可能である安価な構成要素を使用する。電子構成要素は安価であり、標準的なデジタル妊娠試験において使用されているものと同様である。
【0138】
以上の実施例及び好ましい実施形態の説明は、特許請求の範囲によって定義されるものに本発明を限定するものではなく、説明するものとしてみなされるべきである。容易に理解されるように、特許請求の範囲に規定される本発明から逸脱することなく、以上に規定された特徴の多数の変形及び組み合わせが利用され得る。かかる変形は、本発明の範囲から逸脱するものとはみなされず、全てのかかる変形は、以下の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。本明細書で引用された全ての参考文献は、その全体が本明細書に組み込まれたものとする。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2
図3
図4
図5A-D】
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9A
図9B
図9C
【配列表】
2024526188000001.app
【国際調査報告】