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特表2024-526189予防および治療のためのG-四重鎖含有オリゴヌクレオチド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-17
(54)【発明の名称】予防および治療のためのG-四重鎖含有オリゴヌクレオチド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20240709BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240709BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240709BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240709BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240709BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240709BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240709BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240709BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20240709BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/113 100Z
A61K31/7088
A61K48/00
A61P11/00
A61P29/00
A61P31/04
A61P31/12
A61P31/14
A61P31/16
A61P31/18
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579237
(86)(22)【出願日】2022-06-23
(85)【翻訳文提出日】2024-02-20
(86)【国際出願番号】 EP2022067290
(87)【国際公開番号】W WO2022269013
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】21181596.4
(32)【優先日】2021-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】519417610
【氏名又は名称】ヨハン ヴォルフガング ゲーテ-ウニヴェルズィテート フランクフルト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】キッペンベルガー, シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】シュタインホルスト, カチヤ
(72)【発明者】
【氏名】シナトル, インドリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】ボイコヴァ, デニサ
(72)【発明者】
【氏名】ケーニヒ, ヴェローニカ
(72)【発明者】
【氏名】クレーマン, ヨハンネス
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084MA13
4C084MA28
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA58
4C084MA59
4C084MA60
4C084NA14
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB331
4C084ZB332
4C084ZB351
4C084ZB352
4C084ZC611
4C084ZC612
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA28
4C086MA52
4C086MA55
4C086MA58
4C086MA59
4C086MA60
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZB11
4C086ZB26
4C086ZB33
4C086ZB35
4C086ZC61
(57)【要約】
本発明は、10~20個のヌクレオチド残基を含む少なくとも1つのG-カルテット形成モチーフを含む10~50個のヌクレオチドを有するオリゴヌクレオチド分子であって、前記G-カルテット形成モチーフ形成残基の少なくとも60%がグアノシン残基またはデオキシグアノシン残基であり、該分子が哺乳動物細胞における腫瘍増殖および/またはウイルスもしくは細菌の複製を阻害し、かつ/または抗炎症作用を発揮する、オリゴヌクレオチド分子に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
10~20個のヌクレオチド残基を含む少なくとも1つのG-カルテット形成モチーフを含む10~50個のヌクレオチドを有するオリゴヌクレオチド分子であって、前記G-カルテット形成モチーフ形成残基の少なくとも60%がグアノシン残基またはデオキシグアノシン残基であり、分子が腫瘍増殖および/またはサル痘ウイルスの複製を阻害する、オリゴヌクレオチド分子。
【請求項2】
10~20個のヌクレオチド残基を含む少なくとも1つのG-カルテット形成モチーフを含む10~50個のヌクレオチドを有するオリゴヌクレオチド分子であって、前記G-カルテット形成モチーフ形成残基の少なくとも60%がグアノシン残基またはデオキシグアノシン残基であり、分子が哺乳動物細胞におけるウイルスもしくは細菌の複製を阻害し、かつ/または抗炎症作用を発揮する、オリゴヌクレオチド分子。
【請求項3】
残基の70%超がグアノシン残基またはデオキシグアノシン残基である、請求項1または2に記載のオリゴヌクレオチド分子。
【請求項4】
オリゴヌクレオチドがデオキシヌクレオチドから合成される、請求項1から3のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド分子。
【請求項5】
グアノシン残基またはデオキシグアノシン残基の少なくとも1つが化学修飾されている、請求項1から4のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド分子。
【請求項6】
化学修飾がリン酸骨格修飾である、請求項5に記載のオリゴヌクレオチド分子。
【請求項7】
チオホスホリル置換がホスホロチオエートまたはホスホロジチオエートから選択され、チオホスホリル置換がオリゴヌクレオチド分子の糖-リン酸骨格中のホスホジエステル結合の少なくとも35%を置換する、請求項6に記載のオリゴヌクレオチド分子。
【請求項8】
オリゴヌクレオチドが、グアノシン残基またはデオキシグアノシン残基の少なくとも4つの連続するトリプレットを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド分子。
【請求項9】
分子が、配列番号1から4に記載の配列、および/または少なくとも1ヌクレオチドによってトランケートされた配列番号1から4の配列、のいずれか1つを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド分子。
【請求項10】
薬学的に許容される添加物、担体、アジュバントまたはそれらの組合せの少なくとも1つと組み合わされた、請求項1から9のいずれか一項に記載の少なくとも1つのオリゴヌクレオチド分子を含む薬学的組成物。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか一項に記載の少なくとも1つのオリゴヌクレオチド分子を含むキット。
【請求項12】
腫瘍、ウイルスまたは細菌感染によって引き起こされる疾患および/またはそれに関連する炎症の治療における使用のための、請求項1から9のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド分子、請求項10に記載の薬学的組成物または請求項11に記載のキット。
【請求項13】
オリゴヌクレオチド分子が、哺乳動物細胞における腫瘍増殖および/またはウイルス複製の阻害を誘導する、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
ウイルス感染が、HS-1ウイルス、HCNウイルス、アデノウイルス、ジカウイルス、C型肝炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、インフルエンザウイルス、RSVウイルス、パラミクソウイルス、HIVウイルス、コロナウイルス、例えばSARS-CoV-1、SARS-CoV-2およびMERS-CoVを含む群から選択されるウイルスによって引き起こされる、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
疾患が気道のウイルス感染症である、請求項13に記載の使用。
【請求項16】
ウイルス性疾患または細菌性疾患に関連する炎症および/または腫瘍増殖の治療が、I型インターフェロン(IFN)および/またはII型IFN経路の干渉から、またはインターロイキン媒介シグナル伝達による抑制からもたらされる、請求項12に記載の使用。
【請求項17】
オリゴヌクレオチド分子において、グアノシン残基またはデオキシグアノシン残基の少なくとも1つが化学修飾され、化学修飾がリン酸骨格修飾であり、オリゴヌクレオチドがグアノシン残基またはデオキシグアノシン残基の少なくとも4つの連続するトリプレットを含む、請求項12に記載の使用。
【請求項18】
分子が、経口、非経口、経腸、眼もしくは鼻経路、または局所およびそれらの組合せからなる群から選択される薬学的に許容される経路で投与される、請求項12に記載の使用(他の適用経路、例えば、クリームまたはローションとして(HSV感染の治療のため)、スプレーとして、シャンプーとして、点眼薬として、坐剤、経皮パッチ、マニキュアとしての局所経路も考慮されるべきである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1および2の主題に記載のオリゴヌクレオチド分子に関する。本発明はまた、請求項10の主題に記載の薬学的組成物、請求項11の主題に記載の本発明のオリゴヌクレオチド分子を含むキット、および本発明のオリゴヌクレオチド分子の治療的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍細胞は、プログラム死リガンド1(PD-L1)を発現することによって、身体の免疫防御をしばしば回避する。T細胞の表面に存在する受容体(PD1)と結合すると、免疫応答が減弱する。遮断抗体(例えば、ペムブロリズマブ、Keytruda(登録商標);ニヴロマブ(nivulomab)、Opdivo(登録商標);アベルマブ、Bavencio(登録商標))によってこの相互作用を阻害すると、T細胞が活性化する。活性化されたT細胞は、自己免疫の増加を媒介し、特に腫瘍細胞に効果的である。この手法の臨床的有効性は、特に転移性黒色腫における、大規模試験で顕著に証明されている(Robert C、Schachter J、Long GVら、(2015)Pembrolizumab versus Ipilimumab in Advanced Melanoma.N Engl J Med 372:2521~32;Schachter J、Ribas A、Long GVら、(2017)Pembrolizumab versus ipilimumab for advanced melanoma: final overall survival results of a multicentre, randomised, open-label phase 3 study (KEYNOTE-006). Lancet 390:1853~62)。
【0003】
ウイルスや細菌によって引き起こされる疾患などの感染性疾患は、患者や医療システムに重大な健康問題をもたらす。例えば、季節性の呼吸器系ウイルス性疾患は何千年も前から知られており、風邪やインフルエンザの毎年の流行は、冬の季節に温帯地域に住む人々に影響を及ぼしている。新たに出現したウイルス感染症は、世界の公衆衛生に大きな脅威を与え続けている。最近、高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスや他の鳥インフルエンザAウイルス亜型(H7N9、H9N2、H7N3)がヒトの疾患に関連していることが判明し、家禽や家畜に循環するA型インフルエンザウイルス亜型がヒトに伝播する可能性によるパンデミックの懸念が高まっている。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)は、非定型肺炎に関係し、2002年から2003年にかけて広東省(中国)で最初に発生し、2003年には全世界で800人が死亡している。コウモリはSARS-CoV様ウイルスの自然貯蔵庫であることが確認されている。2012年には、同じコロナウイルスグループに属する中東呼吸器症候群コロナウイルスがサウジアラビアで確認された。2019年後半、武漢市(中国)の患者においてSARS-CoV2感染に関連した肺炎が出現し、COVID-19の流行状態につながり、世界中で数百万人が感染し、数百万人が死亡した。
【0004】
SARS-CoVウイルスはベータコロナウイルスファミリーに属し、約30Kbの大きなRNAゲノムを持つプラス一本鎖(ss)RNAウイルスである。他のコロナウイルスと同様に、SARS-CoV2ゲノムは27のタンパク質をコードする14のオープンリーディングフレーム(ORF)を含む。ゲノムの5’末端領域のORF1とORF2は、ウイルス複製に重要な15の非構造タンパク質をコードしている。ゲノムの3’末端領域には、構造タンパク質、特にスパイクタンパク質(S)、エンベロープタンパク質(E)、膜タンパク質(M)、ヌクレオカプシドタンパク質(N)、さらに8種類のアクセサリータンパク質がコードされている。
【0005】
新興ウイルス性疾患、特にコロナウイルス感染症の治療に有効な薬物やワクチンが求められている。低分子阻害剤は化合物ライブラリーから容易に同定できる。しかしながら、低分子阻害剤の作用は、標的の小さな表面領域に限定されるため、標的の単一のアミノ酸変化によって、低分子阻害剤の効果が著しく低下する可能性がある。特定の標的分子に結合するオリゴヌクレオチド分子(「アプタマー」)は、SELEX(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)を用いて単離することができ、診断や治療目的のためのアフィニティープローブや分子認識要素として機能する。これらのアプタマーは、合成一本鎖DNAまたはRNAであり、三次元形状で標的分子に高い親和性で結合し、分析、生体分析、イメージング、診断および治療分野で広く応用されている。本発明は、オリゴヌクレオチド分子を用いて、ウイルスまたは細菌感染によって引き起こされる疾患を治療するための効果的な薬物の必要性に対処するものである。
【発明の概要】
【0006】
第1の態様では、本発明は、10~20個のヌクレオチド残基を含む少なくとも1つのG-カルテット形成モチーフを含む10~50個のヌクレオチドを有するオリゴヌクレオチド分子であって、残基の少なくとも60%がグアノシン残基またはデオキシグアノシン残基であり、分子が哺乳動物細胞におけるウイルスもしくは細菌の複製を阻害し、かつ/または抗炎症作用を発揮する、オリゴヌクレオチド分子に関する。
【0007】
本発明によれば、「オリゴヌクレオチド分子」という用語は、オリゴマーとしても知られる短いDNAまたはRNA分子を指すと理解される。最も一般的には、DNAオリゴヌクレオチドは固相化学合成により一本鎖分子として合成され、人工遺伝子合成、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、DNA配列決定、分子クローニング、分子プローブとして使用される。RNAオリゴヌクレオチドは、in vivoでは小さなRNA分子として存在し、遺伝子発現の調節に関与している(例えば、マイクロRNA)、または大きな核酸分子の分解に由来する分解中間体である。特定の標的分子に結合するオリゴヌクレオチドは「アプタマー」と呼ばれ、アプタマーはオリゴヌクレオチド分子であってもペプチド分子であってもよい。本発明の文脈において、「アプタマー」という用語はオリゴヌクレオチド分子を指し、「オリゴヌクレオチド分子」および「アプタマー」という用語は、本出願を通して互換的かつ同義的に使用される。
【0008】
本発明の文脈では、「G-カルテット形成モチーフ」とは、グアニン残基が豊富な高次核酸構造である。G-カルテットは、フーグスティーンH-結合を介して結合した4つのG-塩基によって形成され、各G-塩基が隣接するG-塩基と2つのH-結合を作るような正方形の平面構造を形成する。G-四重鎖(G4)を形成するためには、2つまたはそれ以上のG-カルテットが重なり、多型構造を形成する。したがって、折り畳まれた分子内G-四重鎖は、コアとループの2つの主要な要素から構成され、コアは1つまたは複数の積み重なったG-G-G-G四分子(またはG-カルテット)の層を含み、ループはG-四重鎖コアの鎖をつなぐリンカー配列である。したがって、G-四重鎖構造は、鎖の相対的な配向とループの種類によって、非常に多型である。G-リッチオリゴヌクレオチドの配列にもよるが、これらのG-カルテットの安定性は、K+やNa+のような一価の陽イオンの存在、存在するG-リッチオリゴヌクレオチドの濃度、使用されるG-リッチオリゴヌクレオチドの配列など、いくつかの要因に関係している。
【0009】
本発明のオリゴヌクレオチド分子は、ウイルスまたは細菌の複製を阻害することができ、ウイルスまたは細菌ゲノムの複製は、感染細胞中のウイルスまたは細菌の複数コピーの産生をもたらす。本発明のオリゴヌクレオチド分子は、ウイルスまたは細菌のヘリカーゼを標的とすることが好ましい。ヘリカーゼは二重鎖核酸の鎖を分離する酵素であり、通常はATPの加水分解を利用して必要なエネルギーを供給する。二本鎖DNAに作用するヘリカーゼに加えて、DNA-RNAまたはRNA-RNA二重鎖をほどくヘリカーゼもある。細菌の複製に関しては、本発明のオリゴヌクレオチド分子が、原核生物のDNA複製に関与する主要な酵素複合体である細菌のDNAポリメラーゼIIIホロ酵素を標的とすることも好ましい。ウイルスの複製は主として宿主細胞の代謝機能に依存するので、本発明のオリゴヌクレオチド分子は有利にはウイルス複製機構におけるウイルス特異的ステップを標的とし、宿主細胞の機能はそのまま残す。異なるウイルスポリメラーゼ、すなわち、RNA依存性RNAポリメラーゼ、RNA依存性DNAポリメラーゼ、DNA依存性RNAポリメラーゼ、およびDNA依存性DNAポリメラーゼは、ウイルス複製およびウイルスゲノムの転写において中心的な役割を果たし、一般に、ウイルス複製に関連する複数の機能を遂行することができる単一のタンパク質として活性である。ウイルス複製を阻害するために使用する場合、本発明のオリゴヌクレオチド分子は、1つまたは複数のウイルスポリメラーゼを標的とすることも好ましい。
【0010】
「炎症」という用語は、例えばウイルスや細菌の病原体などの有害な刺激に対する、1つまたは複数の組織の複雑な生物学的反応を指す。この反応は、組織細胞を保護するために、細胞傷害の最初の原因を除去する役割を果たす。哺乳動物において、急性炎症反応は、一般的に有益と考えられている、限定された特異性を持つ即時的な適応反応である。しかし、敗血症性ショックに見られるように、制御されないと有害になる可能性がある。炎症経路は、インデューサー、センサー、メディエーター、エフェクターが関与する一連の事象から構成されている。分子や物質の「抗炎症作用」とは、例えば、前記インデューサー、センサー、メディエーター、エフェクターの1つまたは複数と前記分子との特異的相互作用によって、炎症を軽減する性質を指す。
【0011】
驚くべきことに、本発明のオリゴヌクレオチド分子は、残基の少なくとも80%がグアノシン残基またはデオキシグアノシン残基であり、複製の阻害を介して、強い抗ウイルス活性または抗菌活性を示すことが見出された。さらに、この分子は哺乳動物細胞における抗炎症作用を示すことも見出された。有利なことに、本発明のオリゴヌクレオチド分子は、化学合成により比較的容易に低コストで合成できる短い分子である。抗体と比較して、オリゴヌクレオチド分子は免疫原性が低く、安定性が高いという特徴がある。さらに、オリゴヌクレオチド分子は、有機分子、タンパク質、ウイルス、細菌、全細胞および組織を含む様々な標的に結合することができる。
【0012】
さらなる実施形態では、本発明に記載のオリゴヌクレオチド分子は、残基の70%超がグアノシン残基またはデオキシグアノシン残基であるオリゴヌクレオチド分子であってもよい。グアノシン残基の数を増加させると、スクランブル配列または混合配列と比較して、本発明のオリゴヌクレオチドは有意に増加した抗ウイルス活性または抗菌活性を示す。オリゴヌクレオチド分子のすべての残基がグアノシン残基であることが特に好ましい。
【0013】
代替的な実施形態では、オリゴヌクレオチド分子はデオキシヌクレオチドから合成される。個々のヌクレオチドは、核酸塩基、炭素数5の糖(リボースまたはデオキシリボース)、および1~3個のリン酸からなるリン酸基の3つのサブユニット分子から構成される。核酸塩基と糖部分は一緒になってヌクレオシドを形成する。DNAでは、グアニン、アデニン、シトシン、チミンが核酸塩基として使用され、RNAではチミンの代わりにウラシルが使用される。RNAでは、糖-リン酸骨格の糖はリボースであり、DNAはその代わりにデオキシリボースが存在することを特徴とする核酸ポリマーである。有利なことに、オリゴヌクレオチド分子は、加水分解に対する感受性がはるかに低いDNA分子である。
【0014】
本発明のオリゴヌクレオチド分子のさらなる有利な実施態様では、グアノシン残基またはデオキシグアノシン残基の少なくとも1つは化学的に修飾されていてもよい。オリゴヌクレオチド分子はDNAまたはRNA分子であり、より高い結合親和性および/または特異性、ヌクレアーゼ分解に対するより低い感受性、増強されたin vivo安定性、より長いin vivo半減期、腎濾過を介した排泄に対するより低い感受性などの異なる効果を達成するために、骨格または2’糖位置で化学的に修飾されてもよい。一般的な化学修飾には、ヌクレアーゼ(それぞれの末端に最初に結合する)に対する耐性と腎クリアランスをそれぞれ向上させるために、逆位チミジンによる3’末端のキャッピングやPEG化など、核酸の末端の修飾が含まれる。さらなる修飾は、ホスホジエステル結合、糖環(例えば、リボフラノース環の2’O位をフルオロ(-F)、アミノ(-NH2)、アジド(-N3)またはメトキシ/OMe(-OCH3)基で置換する)、および核酸塩基(例えば、プリン修飾、2,6-ジアミノプリン、3-デアザ-アデニン、7-デアザ-グアニンおよび8-アジド-アデニン、またはピリミジン修飾、2-チオ-チミジン、5-カルボキサミド-ウラシル、5-メチル-シトシンおよび5-エチニル-ウラシル)が含まれる。
【0015】
オリゴヌクレオチド分子の特に好ましい実施態様では、化学修飾はリン酸骨格修飾であってもよい。リン酸骨格の修飾は、定義によりホスホジエステル結合に影響し、リン酸基は原子置換により変化し、中性、アニオン性またはカチオン性の修飾をもたらす。例えば、酸素原子の1個または2個をそれぞれ1個または2個の硫黄原子で置換すると、ホスホロチオエート基またはホスホロジチオエート基が得られる。リン酸基の1つの酸素原子を非荷電メチル基で置換すると、メチルリン酸骨格が得られる。カチオン性修飾は、1つの酸素原子をグアニジノプロピルホスホロアミデートのような正に荷電した基と置換することを含む。好ましくは、オリゴヌクレオチド分子のホスホジエステル結合は、骨格O原子がメチル基で置換されるか、または1つもしくは複数の骨格O原子が1つもしくは複数の硫黄原子で置換されるように、メチルホスホネートまたはホスホロチオエートアナログで置換される。有利なことに、この修飾は、細胞外または細胞内のヌクレアーゼに対する抵抗性の向上、より高い熱安定性、標的結合親和性の向上、および/または原形質膜を介した細胞内部への送達の向上をもたらす。
【0016】
チオホスホリル置換がホスホロチオエートまたはホスホロジチオエートから選択される場合は特に好ましく、チオホスホリル置換がオリゴヌクレオチド分子の糖-リン酸骨格中のホスホジエステル結合の少なくとも35%を置換する。オリゴヌクレオチドのすべてのホスホジエステル結合をチオホスホリル基で置換すると、ヌクレアーゼに対する耐性が著しく向上する。標的結合特異性が向上したオリゴヌクレオチド分子を得るために、ホスホジエステル結合のチオホスホリル置換は、35%から完全置換の範囲で滴定することができる。さらに、部分的な置換によって分子内のいくつかのホスホジエステル結合を保存することにより、完全な置換と関連して見出されることもある毒性の増強を回避することができる。チオホスホリル置換が糖-リン酸骨格中のホスホジエステル結合の少なくとも35%を置換するオリゴヌクレオチド分子において、グアノシン残基の数が増加する場合、本発明のオリゴヌクレオチド分子は、スクランブル配列または混合配列と比較して、有意に増加した抗ウイルス活性または抗菌活性を示す。前記PTOオリゴヌクレオチド分子のすべての残基がグアノシン残基であることが特に好ましい。
【0017】
さらなる実施形態では、オリゴヌクレオチド分子は、少なくとも4個の連続するグアノシンまたはデオキシグアノシン残基のトリプレットを含んでいてもよい。有利なことに、少なくとも4個の連続するグアノシン残基のトリプレットを含むオリゴヌクレオチド分子は、より短いオリゴヌクレオチド分子と比較して、より強い抗ウイルス効果を示すことが見出され、ウイルス複製を阻害する有効性は分子の長さに依存することが示唆された。
【0018】
本発明のオリゴヌクレオチドは、有利には配列番号1から4に記載される配列を含み、ここで配列番号1:5’-GGG GGG GGG GGG GGG GGG GG -3’、配列番号2:5’-GGG GGG GGG GGG GG -3’、配列番号3;5’ GGg gtc aag ctt gaG GGG Gg および配列番号4:GGT GGT GGT GGT TGT GGT GGT GGT GGである。大文字はホスホロチオエート結合(PTO)を表し、小文字は古典的なホスホジエステル結合を表す。より短い配列は、わずかに低下した複製の阻害と関連することが多い。これらの配列を含むオリゴヌクレオチドは、自発的にG-カルテットやG-四重鎖(G4)を形成する。
【0019】
第2の態様では、本発明は、薬学的に許容される添加物、担体、アジュバントまたはそれらの組合せの少なくとも1つと組み合わされた、少なくとも1つのオリゴヌクレオチド分子を含む薬学的組成物に関する。
【0020】
本発明に記載の薬学的に許容される添加物には、所望される特定の剤形に適した任意のおよびすべての溶媒、分散媒、希釈剤、または他の液体ビヒクル、分散体または懸濁補助剤、表面活性剤、等張剤、防腐剤、固体結合剤などが含まれる。Remington’s The Science and Practice of Pharmacy、第23版、A. Adejare(Lippincott、Williams & Wilkins、Baltimore、Md.、2020)には、薬学的組成物の製剤化に使用される様々な添加物およびその調製のための公知技術が開示されている。薬学的に許容される添加物は、少なくとも95%、96%、97%、98%、99%、または100%の純度であってよい。薬学的組成物の製造に使用される薬学的に許容される添加物としては、不活性希釈剤、分散剤および/または顆粒化剤、界面活性剤および/または乳化剤、崩壊剤、結合剤、防腐剤、緩衝剤、潤滑剤、および/または油が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
第3の態様では、本発明は、前述のように少なくとも1つのオリゴヌクレオチド分子を含むキットに関する。
【0022】
第4の態様では、本発明は、記載されるようなオリゴヌクレオチド分子、ウイルスまたは細菌感染によって引き起こされる疾患および/またはそれに関連する炎症の治療における使用のためのオリゴヌクレオチド分子を含む薬学的組成物またはキットに関する。
【0023】
好ましい実施形態では、オリゴヌクレオチド分子は、哺乳動物細胞におけるウイルス複製の阻害を誘導することができる。
【0024】
さらに好ましい実施形態では、ウイルス感染は、HS-1ウイルス、HCNウイルス、アデノウイルス、ジカウイルス、BまたはC型肝炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、インフルエンザウイルス、RSVウイルス、パラミクソウイルス、HIVウイルス、コロナウイルス、例えばSARS-CoV-1、SARS-CoV-2およびMERS-CoVを含む群から選択されるウイルスによって引き起こされることがある。
【0025】
代替的な実施形態では、疾患は気道のウイルス感染症である。
【0026】
別の実施態様では、ウイルス性疾患または細菌性疾患に関連する炎症の治療は、I型インターフェロン(IFN)および/またはII型IFN経路の干渉から、またはインターロイキン媒介シグナル伝達の抑制からもたらされることがある。本発明の文脈では、I型インターフェロン(IFN)とは、感染細胞によって分泌されるポリペプチドを指す。次のような機能はI型IFNに関連する。感染病原体、特にウイルス病原体の拡散を制限するための、感染細胞および隣接細胞における細胞固有の抗菌状態の誘導;炎症促進性経路およびサイトカイン産生を抑制しつつ、抗原提示およびナチュラルキラー細胞機能を促進するための、バランスのとれた自然免疫応答の調節;高親和性抗原特異的TおよびB細胞応答ならびに免疫記憶の発達を促進するための、適応免疫系の活性化。I型IFNは、構造的に類似したサイトカイン群からなり、IFN-β、IFN-ε、IFN-κ、IFN-ω、IFN-δ、IFN-ζ、IFN-τとともに、IFN-αの13~14亜型を含む。IFN-γとして知られるII型IFNは、異なる受容体を介してシグナルを伝達し、I型IFNとは独立した作用を持つ。IFN-γシグナル伝達は、マクロファージの活性化を促進し、抗原プロセシングと提示分子の発現を上方制御し、Th1細胞の発達と活性化を促進し、ナチュラルキラー細胞の活性を増強し、B細胞の機能を調節し、炎症部位へのエフェクター細胞の輸送を促進するケモカインの産生を誘導することにより、宿主防御において重要な役割を果たしている。有利なことに、オリゴヌクレオチド分子は、ウイルス性疾患の異なる段階、例えばSARS-Cov2感染の亜急性状態(「COVIDの後遺症」)での治療に用いることができる。
【0027】
さらなる実施形態では、治療目的で使用されるオリゴヌクレオチド分子において、グアノシン残基またはデオキシグアノシン残基の少なくとも1つが化学修飾されてもよく、化学修飾はリン酸骨格修飾であり、オリゴヌクレオチドはグアノシン残基またはデオキシグアノシン残基の少なくとも4つの連続するトリプレットを含む。
【0028】
代替的な実施形態では、分子は、経口、非経口、経腸、眼もしくは鼻経路、または局所およびそれらの組合せからなる群から選択される薬学的に許容される経路で投与されてもよい。局所適用は、クリーム、フォーム、ゲル、ローション、軟膏、ペースト、粉末、振盪ローション、固形、スポンジ、テープ、チンキ、局所溶液、マニキュア、経皮パッチ、蒸気としての適用が含まれる。
【0029】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかにそうでないと指示しない限り、複数形の参照対象を含むことに注意しなければならない。例えば、「オリゴヌクレオチド分子」という用語は、1つまたは複数のオリゴヌクレオチド分子、すなわち、単一のオリゴヌクレオチド分子および複数のオリゴヌクレオチド分子を指す。さらに、特許請求の範囲は、任意の要素を除外するように起草できることに注意しなければならない。したがって本言明は、特許請求の範囲の要素の記述に関連して「もっぱら(solely)」および「のみ(only)」などの排他的な用語を用いること、または、「否定的な(negative)」限定を用いることの前提的根拠となることを意図している。
【0030】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明の説明が対象とする当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本発明を実施するために、本明細書に記載したものと類似または同等の方法および材料を使用することができるが、好適な方法および材料を以下に記載する。加えて、本明細書に記載された材料、方法、および例は、例示的なものであるに過ぎず、限定を意図するものではない。
【0031】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかであり、またこれらによって包含されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】SARS-CoV-2感染Calu-3ヒト肺がん細胞における抗ウイルス効果について、異なるヌクレオチド配列を比較した図である。nCpG-6-PTOがSARS-CoV-2感染を阻害することを示す。
図2】nCpG-6-PTOがSARS-CoV-2の複製を阻止するが、標的細胞へのウイルス侵入には影響しないことを示す図である。
図3】抗ウイルス有効性が分子の長さに依存することを示す図であり、長い分子が短い分子よりもウイルス感染に対して強い効果を示すことが強調されている。
図4】ホスホジエステル骨格(nCpG-6-PDE)またはホスホロチオエート骨格(nCpG-6-PTO)を持つ同じ長さのオリゴヌクレオチドの比較によって、抗ウイルス効果がODN骨格に依存することを示す図である。
図5】nCpG-6-PTOと、抗がん療法で使用されている周知のアプタマーAS1411の有効性を比較する図である。ウイルス阻害アッセイに用いたところ、AS1411-PDEはSARS-CoV-2に対して有効性を示さなかったが、AS1411-PTOはCpG-6-PTOと同等に効果的であることが見出された。
図6】nCpG-6-PTOは0.5、1、2、4μMの範囲の濃度でHSV-1による細胞病原性作用を完全に抑制することを示す図である。
図7】G4特異的抗体であるBG4を用いて、nCpG-6-PTOからの四重鎖(G4)構造の形成を示す図である。
図8】ヘリカーゼアッセイを用いて、nCpG-6-PTOがSARS-CoV-2ヘリカーゼを阻害することを示す結果を示す図である。
図9】G4形成PTO-ODN(nCpG-6-PTOおよびAS1411-PTO)がIFNβ媒介シグナル伝達分子を阻害する可能性を示す図である。図9Aは、I型インターフェロンシグナル伝達の経路を模式的に示す(Gonzalez-Caoら、2018より)。ウエスタンブロット解析(図9B)により、nCpG-6-PTOおよびAS1411-PTOによる、正準シグナル伝達分子p-Stat1およびpStat2のチロシンリン酸化の強い下方制御が示される。
図10】G4形成PTO-ODN(nCpG-6-PTOおよびAS1411-PTO)がIFNy媒介シグナル伝達分子を阻害することを実証する図である。図10Aは、II型インターフェロンシグナル伝達の経路を模式的に示す(Gonzalez-Caoら、2018より)。ウエスタンブロット解析(図10B)により、nCpG-6-PTOおよびAS1411-PTOによる、正準シグナル伝達分子p-JAK2およびpStat2のチロシンリン酸化の強い下方制御が示される。
図11】G4形成PTO-ODN(nCpG-6-PTOおよびAS1411-PTO)はインターロイキン6(IL-6)を媒介するSTAT3リン酸化を阻害する可能性を示す図である。図11Aは、IL6シグナル伝達の経路を模式的に示す(Jinら、2017より)。ウエスタンブロット解析(図9B)(Fig. 9B)により、nCpG-6-PTOおよびAS1411-PTOによる、Stat3のチロシンリン酸化の強い下方制御が示される。さらに、p-Stat1に対する抑制効果も認められた。
図12】例示的なデータはnCpG-6-PTOが分割皮膚モデルにおいてHSV-1感染を抑制することを示す図である。CPE減少によって示される、nCpG-6-PTOがin vitro培養包皮線維芽細胞においてHSV-1感染を抑制した実施例6(図6)に加え、抗ウイルス有効性を分割皮膚試料においても試験した。創傷被覆に使用されなかった大腿部の余剰分割皮膚は、外科ユニットから提供された。皮膚試料をPBSに入れ、ダーマローラー(Segminismart(登録商標)、Nicosia、Cyprus)を使用して(Tajpara P、Mildner M、Schmidt Rら、A Preclinical Model for Studying Herpes Simplex Virus Infection. The Journal of investigative Dermatology 139:673~82、2019)に記載されたように実施した。継続的に皮膚を3×3mmに切断した。それぞれの断片を24ウェルMSの1ウェルに入れ、500μlのDMEM(10%FBS、1%P/S)で覆った。皮膚試料を10 HSV-1コピー/ml +/- 4μM nCpG-6-PTO (GQ20-PTO)で2日間処理した(37℃)。次いで、組織試料を固定し、標準プロトコールを用いて4μmの厚さの切片に切断した。抗HSV-1(1:10、Invitrogen:PA1-29210)およびペルオキシダーゼ基質としてHistoGreen(Histo Green Kit、Linaris、E109)を用いてHSV-1を検出した。
図13】nCpG-6-PTOがサル痘ウイルスに有効であることを示す図である。
図14】腫瘍形成におけるチェックポイント分子の作用を模式的に示す図である。上図:抗原提示細胞は腫瘍抗原とB7分子を提示することによってT細胞を活性化する。T細胞が腫瘍を認識するとIFN-γが産生され、腫瘍細胞や抗原提示細胞上のPD-1リガンドが上方制御される。T細胞上のPD-1とPD-1リガンドとの結合は、T細胞の活性化を阻害し、結果として抗腫瘍免疫応答を減弱させる。下図:ニボルマブ(またはペムブロリズマブなどの別の抗体)によるPD-1の封鎖は、T細胞の阻害を逆転させ、抗腫瘍免疫応答を再活性化する。(Brahmer JR、Hammers H、Lipson EJ (2015) Nivolumab: targeting PD-1 to bolster antitumor immunity. Future Oncology 11:1307~26より抜粋)。本発明は、チェックポイント封鎖の代替概念を導入するものである。G4の添加により、腫瘍細胞におけるIFNγシグナル伝達カスケードが阻害され、結果としてPD-L1が阻害される。
図15】IFNγシグナル伝達とPD-L1発現との間の関係を示す図である。IFNγシグナル伝達は腫瘍細胞の「免疫回避」を引き起こす。この図式は、IFNγが炎症性メディエーターのカスケード(Jak-1、Jak-2、Stat-1)を活性化し、それが続いてIRF-1(インターフェロン制御因子-1)の発現を刺激することを示している。転写因子IRF1はPD-L1プロモーターの中心的要素である。PD-L1とPD-1との間の相互作用は免疫応答の阻害につながるGarcia-Diaz A、Shin DS、Moreno BHら、(2017) Interferon Receptor Signaling Pathways Regulating PD-L1 and PD-L2 Expression. Cell reports 19:1189~201)。 SARSコロナウイルス-2(SARS-CoV-2)は、他の多くのウイルス(例えば、ハンタおよびエボラ)と同様に、大量のIFNγ誘導を引き起こし、PD-L1やPD-L2などのチェックポイント分子の発現を介してT細胞の枯渇と破壊を引き起こす(Aghbash PS、Eslami N、Shamekh Aら、 (2021) SARS-CoV-2 infection: The role of PD-1/PD-L1 and CTLA-4 axis. Life Sci 270:119124~)。このことにより、続いて、ウイルスに対する免疫応答が低下する。したがって、COVID-19を治療するために、前述のチェックポイント阻害剤を併用することも考えられている。しかし、SARS-CoV-2感染後、チェックポイント阻害薬で治療したがん患者が重症化することが観察されている(Robilotti EV、Babady NE、Mead PAら、(2020) Determinants of COVID-19 disease severity in patients with cancer. Nat Med 26:1218~23)。これは副作用(ステロイド)のためである可能性もあるし、阻害剤によって引き起こされるサイトカインカスケードが原因である可能性もある。したがって、2021年のAghbashらの研究では、COVID-19に対するPD-1ベースの治療の必要性が要求されている:「COVID-19の治療とPD-1を標的とした治療において重要な点は、炎症カスケードと疲弊したT細胞の形成を同時に低減および除去できる方法を採用することである」。G4の有効性に関する本発明の結果は、ここに抗ウイルス性、抗炎症性、および免疫賦活性の両方のメカニズムがあることを示唆している。
図16】オリゴヌクレオチドがPD-L1とPD-L2のタンパク質発現を抑制することを示す図である。
図17】nCpG-6-PTOおよびCpG-1-PTOによるPD-L1およびPD-L2の抑制と、濃度および分子長の影響を示す図である。
図18】リアルタイムRT-PCRによるPD-L1とPD-L2の発現解析を示す図である。
図19】プロモーター機能解析を示す図である。
図20】インターフェロン受容体シグナル伝達タンパク質のウエスタンブロット解析を示す図である。
図21】nCpG-6-PTOがG-四重鎖(G4)を形成し、IFNGR2に結合することを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
実施例1
G-リッチPTO-ODNは抗ウイルス活性を提示し、nCpG-6-PTOは特に強力である。
ウイルスの調製
ウイルスの調製は記載された通りに行った(Bojkovaら、2020)。簡単に述べると、SARS-CoV-2バリアントはヒト結腸癌細胞株Caco-2を用いて単離した。実験に使用したSARS-CoV-2ストックは、Caco-2細胞上で最大3継代を経ており、-80℃で保存した。ウイルス力価は、96ウェルマイクロタイタープレートのコンフルエント細胞におけるTCID50/mlとして決定した。
【0034】
抗ウイルスアッセイ
96ウェルプレート中のCalu-3細胞のコンフルエント層をMOI 0.01でSARS-CoV-2に感染させた。「MOI」という用語は「感染多重度」を表し、感染標的(例えば、細胞)に対する病原体(例えば、ウイルス、細菌)の比率を指す。ウイルスはオリゴヌクレオチドと同時に添加し、1%FBS添加MEM中でインキュベートした。抗ウイルス効果は、SARS-CoV-2Sに対する抗体(1:1500、Sino Biological、Eschborn、Germany)を用いたウイルス特異的抗原の免疫組織化学的検出により、2日後に評価した。定量的検出は、Bioreader(登録商標)7000-F-Z-Imicro(Biosys)を用いて行った。
【0035】
使用したオリゴヌクレオチド分子(ODN)
1.CpG-1-PTO:5’-TCC ATG ACG TTC CTG ACG TT-3’
2.n-CpG-6-PTO:5’-GGG GGG GGG GGG GGG GGG GG-3’
3.n-CpG-3A-PTO:5’-TTT TTT TTT TTT TTT TTT-3’
4.n-CpG-5-PTO:5’-CCC CCC CCC CCC CCC CCC CC-3’
5.スクランブル-CpG-1-PTO:5’-CTC TAG GAC TCT CTG GAC TT-3’
6.G3139 Genasense(オブリマーセン):5’-TCTCCCAGCGTGCGCCAT-3’
7.CpG-2118(KonA):5’-GGg gtc aag ctt gaG GGG Gg-3’
【0036】
大文字はホスホロチオエート結合(PTO)を表し、小文字は古典的なホスホジエステル結合を表す(CpG-2118)。本明細書で使用される場合、CpGオリゴデオキシヌクレオチドは、シトシン三リン酸デオキシヌクレオチド(「C」)に続いてグアニン三リン酸デオキシヌクレオチド(「G」)を含む短い一本鎖合成DNA分子であり、ここで「p」は連続するヌクレオチド間のホスホジエステル結合を指す。アクロニム「n-CpG」は、非CpG-ODNであるオリゴヌクレオチドを指す。異なる濃度(0.25、0.5、1、2、4mM)で試験した。オブリマーセン(商品名:Genasense)は、慢性リンパ性白血病、B細胞リンパ腫、乳がんを含むいくつかのタイプのがんの可能性のある治療法として研究されているアンチセンスオリゴデオキシリボヌクレオチドである。CpG-2118(KonA)は、末端がPTO結合で保護されたグアニンリッチ分子であり、マウスTLR9リガンドであるODN1585のコントロールとして機能する合成オリゴヌクレオチドである。
【0037】
結果は図1に示されており、nCpG-6-PTOがSARS-CoV-2感染を阻害することが示されている。
【0038】
実施例2
nCpG-6-PTOはSARS-CoV-2の「侵入」ではなく「複製」を阻害する。
材料および方法
nCpG-6-PTOがウイルスの細胞内への吸着と内部移行を防ぐのか(侵入)、それともウイルスの複製を防ぐのか(複製)を識別するために、添加時間実験を行った。
【0039】
添加時間実験設定
侵入:異なる濃度のnCpG-6-PTO(0.25、1、4mM)をSARS-CoV-2(0.01MOI)とともに添加し、1時間インキュベートした。1時間後、ウイルスと処理を洗い流し、培地を新しくした。
【0040】
複製:Calu-3細胞にSARS-CoV-2を1時間感染させた(0.01 MOI)。1時間後、ウイルス接種液を除去し、細胞を洗浄して、細胞に浸透しなかったウイルス粒子を確実に洗い流した。連続して異なる濃度のnCpG-6-PTOを添加した。
【0041】
どちらの設定でも、ウイルスタンパク質の検出は上記のように2日後に行った(SARS-CoV-2Sに対する抗体を用いたウイルス特異的抗原の免疫組織化学的検出)。
【0042】
結果は図2に示されており、nCpG-6-PTOはSARS-CoV-2の複製を阻止するが(三角)、標的細胞へのウイルス侵入には影響しないことが示されている(円)。
【0043】
実施例3
抗ウイルス効果は長さに依存する
nCpG-6-PTO欠失突然変異体の比較。実施例1および2(図1および2)では、nCpG-6-PTOの抗ウイルス有効性が示された。実施例3は、分子の長さと抗ウイルス効果との間に相関関係があることを示している。この目的のために、nCpG-6-PTOの欠失突然変異体が用いられた。
【0044】
手順は実施例1に記載したように行った。以下の異なる長さのオリゴヌクレオチド分子を濃度0.5、1、2、4μM ODNとして使用した。
【0045】
【0046】
図3に示すように、抗ウイルス有効性は分子の長さに明らかに依存し、長い分子は短い分子よりもウイルス感染に対して強い効果を示した。IC50はnCpG-6-PTO(0.5mM、黒円)を用いた場合に最も低く、6G ODN nCpG-6G-PTO(1.5mM、薄い灰色円)を用いた場合にはより低い有効性へとシフトした。濃度は対数スケールで描かれていることに注意。
【0047】
実施例4
抗ウイルス効果はODN骨格に依存する。
ODN骨格の影響を、ホスホジエステル骨格を持つnCpG-6(nCpG-6-PDE、薄い灰色円)とホスホロチオエート骨格を持つnCpG-6(nCpG-6-PTO、黒円)を比較することによって試験した。処理:nCpG-6-PTOまたはnCpG-6-PDEをそれぞれ0.5、1、2、4μMの濃度で適用した。手順は実施例1に記載したように行った。
【0048】
図4は、PTO結合が抗ウイルス効果を伝える可能性を示している。
【0049】
実施例5
nCpG-6-PTO、AS1411-PTOおよびAS1411-PDEのウイルス阻害の比較
実施例5は、本発明のnCpG-6-PTOと、よく知られたアプタマーAS1411の2つの形態、すなわちAS1411-PTOとAS1411-PDEを用いた複製阻害を比較したものである。
【0050】
AS1411(AGRO100としても知られている)は、ホスホジエステル結合(PDE)を持つG-リッチオリゴヌクレオチドであり、強力な抗がんアプタマーとして長い間確立されてきた。構造的には、AS1411はおそらく複数の異なるG-四重鎖コンフォメーションで存在し、複数のG-四重鎖コンフォメーションをとりうる単一オリゴヌクレオチドの例となっている。処理は以下の濃度で行った:それぞれ0.5、1、2、4μMのnCpG-6-PTO(黒円)、AS1411-PTO(灰色円)、AS1411-PDE(薄い灰色円)。手順は実施例1に記載したように行った。
【0051】
【0052】
図5に示すように、nCpG-6-PTOは高い抗ウイルス有効性を示した。抗ウイルス薬として試験中のAS1411-PDEは、SARS-CoV-2に対して有効性を示さなかった。骨格をPTO結合に置き換えた場合にのみ、nCpG-6-PTOに匹敵する抗ウイルス有効性が明らかになった。
【0053】
実施例6
nCpG-6-PTOは単純ヘルペス1(HSV-1)に対しても抗ウイルス有効性を示す。
nCpG-6-PTOまたはnCpG-6-PDEをHSV-1とともにヒト包皮線維芽細胞に適用した。2日後、HSV-1感染の細胞病原性効果(CPE)を目視によるスコアリングによって決定した。処理は以下の濃度で行った:0.5、1、2、4μM。
【0054】
図6では、nCpG-6-PTOは試験した濃度範囲でHSV-1によって引き起こされるCPEを完全に抑制することが示されている(黒色棒)。注目すべきは、nCpG-6-PDEもHSV-1のCPEの抑制を示したことである(灰色棒)、ただし、1μM以上の濃度でのみである。
【0055】
実施例7
nCpG-6-PTOは四重鎖(G4)を形成する
可能性のある作用機序を解明するために、低ナノモル親和性でDNAおよびRNAのG-四重鎖構造を高い選択性で認識する特異的抗体を用いて、in vitroで本発明のオリゴヌクレオチド分子の二次構造形成を調べた。
【0056】
5’-Cy5標識nCpG-6-PTO(2μg)を、G4二次構造に特異的な抗体であるBG4(Biozol ABA-AB00174-1.1、Eching、Germany)の200ngまたは400ngと、室温で15分間混合した。10%非変性ネイティブPAGE(100V、14.7V/cmに相当)、0.5×TBEで分離した後、蛍光をLI-COR Odyssey Gelドキュメンテーションシステム(Bad Homburg、Germany)を用いて捕捉した。BG4と5’-Cy5標識nCpG-6-PTOを含むG4との滴定により、抗体がG4形成DNAに結合することが示された(図7A、レーン2、3)。BG4抗体の非存在下では、複合体の形成は検出されなかった(最初のレーン)。
【0057】
細胞レベルでG4構造を表示するために、A375細胞(ヒト悪性黒色腫細胞株)を、4μMnCpG-6-PTOの存在下または非存在下で、ガラスカバースリップ上で24時間培養した。2%パラホルムアルデヒド/PBSで固定した後、細胞を透過処理し、PBS中の0.1%triton-X100/5%正常ヤギ血清でブロックした。一次抗体BG4(BSA中0.5μg/ml)を、室温で90分間細胞に適用した;マウスIgG1抗体(Dako)がコントロールとして機能した。Alexa 488に結合した抗マウスIgG(Invitrogen)とインキュベートした後、Zeiss顕微鏡を用いて代表的な画像を撮影した。調べたすべての細胞は、一次BG4抗体非存在下(図7、左パネル、コントロール)では観察されなかった点状の核染色(図7B、右パネル、実験条件:4μM nCpG-6-PTOの矢印)を示した。
【0058】
実施例8
nCpG-6-PTOはSARS-CoV-2ヘリカーゼを阻害する。
ヘリカーゼアッセイは、Adedejiらの方法(Adedejiら、2012)にしたがって実施した。簡単に言うと、SARS-CoV-2由来のヘリカーゼであるnsp13を、Quench2:5’-CGCAGTCTTCTCCTGGTGCTCGAACAGTGAC-3’-BHQ1およびFlu2:Cy3-5’-GTCACTGTTCGAGCACCA-3’からなるハイブリダイゼーションプライマーとインキュベートした。ヘリカーゼ活性は、プライマーFlu2の蛍光がこれ以上消光しないようにハイブリッドを分離する。捕捉プローブとして過剰のCaptureQ2:5’-GTCACTGTGTGTGを加えると、Flu2がQuench2に再アニーリングすることを防止される。図8の上段は、アッセイの原理を表した図式である。ヘリカーゼアッセイは、比較のために漸増濃度のnCpG-6-PTOまたはnCpG-6-PDE(0.2、1、4mM)を用いて行った。生成物は6%非変性PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)で分離した(図8、下段)。漸増濃度のnCpG-6-PTOを加えると、nsp13が阻害され、これは消光したハイブリッドの量が増加することによって示された(コントロール、レーン2に対して、レーン5、6を参照)。同濃度のnCpG-6-PDEを加えても、ヘリカーゼ活性を同様に阻害することはできず、これはコントロールに匹敵する蛍光一本鎖の存在によって示された。
【0059】
実施例9
nCpG-6-PTOはIFN I型(IFNβ)に誘導されるSTATリン酸化を抑制する
I型インターフェロンシグナル伝達経路の図式を図9Aに示す(Gonzalez-Caoら、2018)。Calu-3細胞を4μM nCpG-6-PDE、nCpG-6-PTO、AS1411-PTO、AS1411-PDEで1時間処理し、次いでIFNβ(20ng/ml)で刺激した。関節リウマチ治療薬であり、ヤヌスキナーゼ亜型、JAK1およびJAK2のよく知られた阻害剤であるバリシチニブを対照として用いた(1mM)。10分後、細胞を、プロテアーゼ阻害剤とホスファターゼ阻害剤(Roche、Mannheim、Germany)を添加したStrawn Buffer(20mM HEPES[pH7.5]、150mM NaCl、0.2%Triton X 100、10%グリセロール)で超音波処理し、5分間煮沸し、次いでSDS-ポリアクリルアミドゲルで分離した。連続して、タンパク質をPVDF膜にイムノブロットした。膜をブロッキングバッファー(TBS[pH7.6]、0.1%Tween-20、5%脱脂乾燥乳)で少なくとも1時間、RTでブロッキングした後、以下の一次抗体とインキュベートした:p-Stat-1(Tyr701)、p-Stat-2(Tyr690)、p-Stat-3(Tyr705)、すべてCST(Frankfurt、Germany)より、および等量のローディングのコントロールとして抗バクチン(SantaCruz、Biotechnology、Heidelberg、Germany)。結合した一次抗体は、ウサギ抗ヤギIgG-ホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲート(Dako、Frankfurt、Germany)を用いて検出し、LumiGlo検出システム(CST)で可視化した。図9Bに示す結果は、nCpG-6-PTOによるStat1およびStat2のリン酸化の阻害を明確に示しているが、nCpG-6-PDEによる阻害は示していない;同様に、G-リッチ四重鎖を形成するAS1411のPTO型は、Stat1およびStat2の両方のチロシンリン酸化を十分に抑制したが、PDE型はそうすることができなかった。
【0060】
実施例10
nCpG-6-PTOはIFN II型(IFNg)に誘導されるJAK2およびSTATリン酸化を抑制する
II型インターフェロンシグナル伝達経路の図式を図10Aに示す(Gonzalez-Caoら、2018)。実験設定については、上記、実施例9を参照のこと:Calu-3細胞を4μM nCpG-6-PDE、nCpG-6-PTO、AS1411-PTO、AS1411-PDEで1時間処理し、次いでIFNg(20ng/ml)で刺激した。SDSページで分離した後、p-Stat-1(Tyr701)、p-Stat-2(Tyr690)、p-Stat-3(Tyr705)およびp-JAK2(Tyr1007/Tyr1008)抗体、すべてCST(Frankfurt、Germany)より、および等量のローディングのコントロールとして抗バクチン(SantaCruz、Biotechnology、Heidelberg、Germany)を用いてリン酸化を検出した。
【0061】
ウエスタンブロット解析、図10Bは、正準シグナル伝達分子p-JAK2およびpStat1のチロシンリン酸化の強い下方制御を示す。また、pStat2/3に対する抑制効果も認められ、I型とII型のシグナル伝達経路が部分的に重複していることが確認されたGarcia-Diaz A、Shin DS、Moreno BHら、(2017) Interferon Receptor Signaling Pathways Regulating PD-L1 and PD-L2 Expression. Cell reports 19:1189~201)。
【0062】
実施例11
nCpG-6-PTOはインターロイキン6(IL-6)を媒介するSTAT-3のリン酸化を抑制する
インターロイキン6(IL-6)のシグナル伝達経路の図式を図11Aに示す(Jinら、2017)。実験設定については、上記、実施例9を参照のこと:Calu-3細胞を4μM nCpG-6-PDE、nCpG-6-PTO、AS1411-PTO、AS1411-PDEで1時間処理し、IL-6(20ng/ml)で刺激した。SDSページで分離した後、p-Stat-1(Tyr701)、p-Stat-2(Tyr690)、p-Stat-3(Tyr705)抗体、すべてCST(Frankfurt、Germany)より、および等量のローディングのコントロールとして抗バクチン(SantaCruz、Biotechnology、Heidelberg、Germany)を用いてリン酸化を検出した。
【0063】
ウエスタンブロット解析、図11Bは、チロシンリン酸化の強い下方制御を示す。ウエスタンブロット解析は、pStat3の下方制御を示す。また、pStat1に対する抑制効果も認められた。
【0064】
実施例12
以下では、ホスホロチオエートを介して結合した20個のグアノシンからなるオリゴヌクレオチド(ODN)、nCpG-6-PTOが、黒色腫細胞におけるPD-L1およびPD-L2の発現を阻害することを示す。
【0065】
以下のODNが実験に供された。大文字はホホロチオエート(phophorothioate)結合(PTO)を表し、小文字は古典的なホスホジエステル結合を表す(CpG-2118)。
表1
【0066】
図16は、オリゴヌクレオチドがPD-L1とPD-L2のタンパク質発現を抑制することを示している。
【0067】
IFNγ(20ng/ml)で1時間前刺激したA375黒色腫細胞を、異なるオリゴヌクレオチド(4μM)に曝露した。骨格と配列に関するオリゴの特徴を表1に示す。(A)24時間後に総タンパク質を抽出し、SDS-PAGEで分離した。ブロットしたタンパク質を抗PD-L1および抗PD-L2で探索した。抗ベータアクチンを用いた探索はローディングコントロールとして機能した。画像は代表的な結果を示す。(B)A375細胞において4μM CpG-1-PTOおよび4μM nCpG-6-PTOで処理した後のPD-L1およびPD-L2に対するFACSスキャンの結果の一例。4μMのCpG-1-PTOまたはnCpG-6-PTOで処理した(C)A375細胞および(D)SK-Mel-28細胞を用いた9回の独立したFACS実験のまとめ。標準偏差を示す。データは参照ポジティブコントロール(IFNγ)と関係していた。*p<0.05。
【0068】
結果:nCpG-6-PTOはA375およびSK-Mel-28黒色腫細胞のPD-L1/2発現を阻害する。
【0069】
図17は、nCpG-6-PTOおよびCpG-1-PTOによるPD-L1およびPD-L2の抑制、濃度および分子長の影響を示している。
【0070】
IFNγで刺激したA375細胞を漸増濃度の(A)nCpG-6-PTO(1、2、4μM)または(B)CpG-1-PTO(4、6、8μM)で処理した。同様に、SK-Mel-28細胞は漸増濃度の(C)nCpG-6-PTOまたは(D)CpG-1-PTOで処理した。さらに、ODNの長さの影響も調べた。IFNγ刺激A375細胞を、(E)4μM nCpG-6-PTOおよび参照欠失突然変異体(nCpG-6B/6D/6G-PTO)、または(F)4μM CpG-1-PTOおよび参照欠失突然変異体(CpG-14/12/9-PTO)で処理した。同様に、SK-Mel-28細胞を(G)nCpG-6-PTO、または(H)CpG-1-PTOおよびその欠失突然変異体で処理した。24時間後、PD-L1とPD-L2の発現をFACSで測定した。各バーは6回の独立した実験の平均を示す。標準偏差を示す。データは参照ポジティブコントロール(IFNγ)と関係していた。*p<0.05。
【0071】
結果:nCpG-6-PTOは低濃度(1μM)で作用する。効果は長さ依存的で、すでに1つの6-mer(nCpG-6G-PTO)が有効である。
【0072】
図18は、リアルタイムRT-PCRによるPD-L1とPD-L2の発現解析を示す。
【0073】
A375メラノーマ細胞をIFNγで1時間刺激した後、CpG-1-PTOまたはnCpG-6-PTOで3、6、24時間インキュベートした。続いて、総RNAを抽出し、記載したように定量的RT-PCRを行った。(A)PD-L1および(B)PD-L2の結果が表示されている。各列は3つの独立した実験の平均を示す。標準偏差を示す。統計解析は、IFNγ単独で処理したコントロールとの関係で行った。*p<0.05。
【0074】
結果:nCpG-6-PTOはPD-L1RNA発現を阻害する。
【0075】
図19は、プロモーター機能解析を示す。
【0076】
(A)PD-L1および(B)PD-L2プロモーターの一過性ルシフェラーゼレポーターアッセイ。A375黒色腫細胞に、関連する転写結合部位の欠失を含むPD-L1およびPD-L2プロモーターコンストラクトをトランスフェクトした。20ng/mlのIFNγで1時間刺激した後、細胞を4μMのCpG-1-PTOまたはnCpG-6-PTOで16時間処理した。(C)4μM CpG-1-PTOまたはnCpG-6-PTOで1時間前処理し、沈殿のためにIRF1抗体を用いて6時間連続IFNγ刺激した後のChIPアッセイ。PD-L1または(D)PD-L2プロモーター特異的プライマーを用いてPCRを行った。各列は3回の実験の平均を表す。統計解析は、IFNγ単独で処理したコントロールとの関係で行った。*p<0.05。
【0077】
結果:nCpG-6-PTOはPD-L1/2プロモーターを阻害する。IRF-1(ChIP)とStat-1/3を介した作用。
【0078】
図20は、インターフェロン受容体シグナル伝達タンパク質のウエスタンブロット解析を示す。
【0079】
A375細胞を4μMCpG-1-PTOまたは4μM nCpG-6-PTOで、それ以上刺激せずに(基礎活性化、1~3行目)、またはIFNγで2つの時間(t1およびt2)追加刺激した。タンパク質抽出物をウエスタンブロットに供し、IRF1(t1:60分、t2:3時間)、p-JAK-1(t1:10分;t2:30分)、p-JAK-2(t1:10分;t2:30分)、p-STAT-1(t1:10分;t2:30分)、p-STAT-2(t1:10分;t2:30分)、p-STAT-3(t1:10分;t2:30分)の発現を試験した。リン酸化タンパク質の全形態に対する抗体を用いて、またはIRF1の場合はGAPDHによって、等量のローディングをモニターした(右側のブロット)。ブロットは代表的な結果を示す(n=3)。p-、ホスホ。
【0080】
結果:nCpG-6-PTOはIFNγシグナル伝達経路を阻害する。
【0081】
図21は、nCpG-6-PTOがG-四重鎖(G4)を形成し、IFNGR2に結合することを示す。
【0082】
(A)5’-Cy5標識CpG-1-PTOおよびnCpG-6-PTO(2μg)を、G4二次構造を特異的に認識する抗体であるBG4の200ngおよび400ngと混合した。画像はPAGE後の蛍光を示す。(B)4μM CpG-1-PTO、4μM nCpG-6-PTOまたは1μM ピリドスタチン(G4を安定化する)で24時間処理したA375-細胞を固定し、BG4抗体で染色した。BG4反応性は、nCpG-6-PTOで処理した細胞の細胞外腔にも見られた(矢印参照)。示した画像は代表的な切片である。(C)5’-Cy5標識CpG-1-PTOおよびnCpG-6-PTO(2μg)を200ngおよび400ngのIFNGR1またはIFNGR2と混合し、PAGEで分離した。画像はPAGE後の蛍光を示す。
【0083】
結果:nCpG-6-PTOはG4を形成する。nCpG-6-PTOはIFNγ受容体のシグナル伝達サブユニット(IFNGR2]に結合する。
【0084】
結論
nCpG-6-PTOはG4を形成する(図21A、B)。
nCpG-6-PTOはPD-L1とPD-L2の発現を阻害する(タンパク質/mRNA/プロモーター;図16~19)。
nCpG-6-PTOはIFNγ受容体のシグナル伝達サブユニット(IFNGR2)に結合する(図21C)。
nCpG-6-PTOは、IFNγ依存性シグナル伝達分子(JAK-1/2、Stat1、2、3、およびIRF1)を阻害する(図20)。
【0085】
IRF1の阻害は、PD-L1プロモーターの活性化を阻害する(図15)。
【0086】
G4形成ODNは、PD-L1(およびPD-L2)の発現を阻害することによってT細胞を活性化し、内因性の抗腫瘍反応を増強するため、単剤療法または併用療法としての免疫療法に有用である。これは、腫瘍疾患だけでなく、ウイルス関連疾患(COVID-19など)の治療にも有用である。G4形成ODNは炎症性メディエーター(JAK、Stat)を阻害するのにも有用である。特に有効なG4形成ODNはnCpG-6-PTOである。
【0087】
抗体によってPD-L1/PD-1などのチェックポイント分子の相互作用を標的とすることで、T細胞の機能を活性化し、それによって腫瘍細胞の免疫認識からの回避を阻止することが証明されている。チェックポイント阻害剤の臨床的有用性は、黒色腫や非小細胞肺がんなどの様々な腫瘍で十分に確立されている。さらに、肝臓がん、腎がん、ホジキン病、結腸直腸がん、乳がんなどの治療にも成功している。
【0088】
最近、高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスや他の鳥インフルエンザAウイルス亜型(H7N9、H9N2、H7N3)がヒトの疾患に関連していることが判明し、家禽や家畜に循環するA型インフルエンザウイルス亜型がヒトに伝播する可能性によるパンデミックの懸念が高まっている。
【0089】
ここで導入したG4によるPD-L1/2の下方制御という治療概念は、チェックポイント分子を標的とする他の治療法と組み合わせることができる。ここで挙げるのは、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブ、セミピリマブ、BMS-202など、PD-1やPD-L1を標的とする抗体ベースの薬物である。また、イピリムマブ(CTLA-4に対する)のような他のチェックポイント分子を標的とする化合物も考えられる。さらに、G4オリゴヌクレオチドは、化学療法、低分子、放射線照射などの他の抗腫瘍治療と組み合わせることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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【配列表】
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【国際調査報告】