(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-17
(54)【発明の名称】WEE1阻害剤、及びがんを治療するための方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20240709BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20240709BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240709BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20240709BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20240709BHJP
【FI】
C12Q1/02
A61K31/519
A61P35/00
A61P15/00
C12Q1/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579401
(86)(22)【出願日】2022-06-21
(85)【翻訳文提出日】2024-02-08
(86)【国際出願番号】 US2022034383
(87)【国際公開番号】W WO2022271731
(87)【国際公開日】2022-12-29
(32)【優先日】2021-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518346476
【氏名又は名称】リキュリウム アイピー ホールディングス リミテッド ライアビリティー カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サマター,アフメド アブディ
(72)【発明者】
【氏名】ドネイト,フェルナンド
(72)【発明者】
【氏名】デ ジョン,ペトリュス ルドルフ
(72)【発明者】
【氏名】エスクーベ,ロール
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ウェン
(72)【発明者】
【氏名】ポルター,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォリオティス,ディミトリオス
(72)【発明者】
【氏名】バンカー,ケビン デュアン
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ピーター キンファ
(72)【発明者】
【氏名】リ,ジアリ
【テーマコード(参考)】
4B063
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA13
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR48
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS33
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB06
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA20
4C086ZA81
4C086ZB26
(57)【要約】
WEE1阻害剤に対する対象の感受性を決定する方法であって、対象から生物学的試料を得るか、又は得たことと、対象がCCNE1の変化した機能を有するかどうかを決定するために、生物学的試料に対して少なくとも1つのアッセイを実施するか、又は実施したことと、を含む、方法が本明細書に開示される。WEE1阻害剤により、がんを治療する方法であって、(a)がん及び(b)CCNE1の内因性機能又は変化した機能を有する対象を特定することと、有効量のWEE1阻害剤、又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することと、を含む、方法も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物ZN-c3、又はその薬学的に許容される塩に対する対象の感受性を決定する方法であって、
前記対象から生物学的試料を得るか、又は得たことと、
前記対象がCCNE1の変化した機能を有するかどうかを決定するために、前記生物学的試料に対して少なくとも1つのアッセイを実施するか、又は実施したことと、を含む、方法。
【請求項2】
がんを治療する方法であって、
対象から生物学的試料を得るか、又は得たことと、
前記対象がCCNE1の変化した機能を有するかどうかを決定するために、前記生物学的試料に対して少なくとも1つのアッセイを実施するか、又は実施したことと、
前記アッセイの結果に基づいて、有効量の化合物ZN-c3、又はその薬学的に許容される塩を前記対象に投与することと、を含む、方法。
【請求項3】
がんを治療する方法であって、
(a)前記がん及び(b)CCNE1の内因性機能又は変化した機能を有する対象を特定することと、
有効量の化合物ZN-c3、又はその薬学的に許容される塩を前記対象に投与することと、を含む、方法。
【請求項4】
がんを治療する方法であって、
(a)前記がん及び(b)CCNE1の過剰発現又は変化した機能を有する対象を特定することと、
有効量の化合物ZN-c3、又はその薬学的に許容される塩を前記対象に投与することと、を含む、方法。
【請求項5】
対象においてがんを治療する方法であって、
前記対象が、化合物ZN-c3、又はその薬学的に許容される塩による治療に対して感作性であるかどうかを決定することであって、前記決定することが、
前記対象から生物学的試料を得るか、又は得たこと、及び
前記対象がCCNE1の変化した機能を有するかどうかを決定するために、前記生物学的試料に対して少なくとも1つのアッセイを実施するか、又は実施したこと、を含む、決定することと、
前記対象が、前記化合物ZN-c3、又はその薬学的に許容される塩による治療に対して感作性であるかどうかの決定に基づいて、前記対象についての治療プロトコルを選択することと、を含む、方法。
【請求項6】
前記CCNE1の変化した機能が、CCNE1遺伝子増幅である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記CCNE1の変化した機能が、CCNE1タンパク質過剰発現である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記CCNE1の変化した機能が、CCNE1遺伝子変異から生じる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記がんが、固形腫瘍又はヘム悪性腫瘍である、請求項2~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記がんが、子宮体がん、胆嚢がん、又は卵巣がんである、請求項2~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記卵巣がんが、上皮性卵巣がん、胚細胞がん、又は間質がんである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記上皮性卵巣がんが、高異型度漿液性卵巣がんである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記対象が、ヒトである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権出願を参照することによる組み込み)
本出願は、2021年6月23日出願の米国特許仮出願第63/202,770号に対する優先権を主張し、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本出願は、概して、WEE1阻害剤である化合物、及びがんなどの過剰な細胞増殖を特徴とする状態を治療するためにそれらを使用する方法に関する。本発明はまた、がんを有する対象において変異を特定する方法、及びWEE1阻害剤によるそれらの対象のその後の治療に関する。
【背景技術】
【0003】
DNAは、環境から絶えず損傷を受けている。光、化学物質、ストレス及び細胞複製は、DNA骨格に沿った一本鎖又は二本鎖切断をもたらす。典型的には、生物は、損傷したDNAを再接続又は再合成する修復タンパク質によって、DNA損傷に対して防御している。これらのタンパク質が正確に機能することは、生命にとって不可欠である。DNAへのヌクレオチドの不正確な置換は、変異(及び挿入、欠失及びフレームシフトを含むが、これらに限定されない、他の遺伝子変化)、遺伝疾患、並びにタンパク質機能の喪失を引き起こし得る。DNA修復の完全な喪失は、細胞死、腫瘍進行及びがんを引き起こし得る。
【0004】
細胞周期チェックポイントは、適切なDNA修復にとって重要であり、細胞に、それらのゲノム完全性が回復されるまで細胞複製を進行させないことを確実にする。WEE1は、有糸分裂開始前のDNA修復のための、G2-M細胞周期チェックポイントでの停止に関与する核キナーゼである。正常細胞は、G1停止中に損傷したDNAを修復する。がん細胞は、多くの場合、G1-Sチェックポイントを欠き、DNA修復のための機能的G2-Mチェックポイントに依存している。WEE1は、様々ながんの種類において過剰発現している。ZN-c3として知られる化合物は、下式のWEE1阻害剤である。
【0005】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
様々な実施形態は、化合物ZN-c3、又はその薬学的に許容される塩に対する対象の感受性を決定する方法であって、
対象から生物学的試料を得るか、又は得たことと、
対象がCCNE1の変化した機能を有するかどうかを決定するために、生物学的試料に対して少なくとも1つのアッセイを実施するか、又は実施したことと、を含む、方法を提供する。
【0007】
別の実施形態は、がんを治療する方法であって、
対象から生物学的試料を得るか、又は得たことと、
対象がCCNE1の変化した機能を有するかどうかを決定するために、生物学的試料に対して少なくとも1つのアッセイを実施するか、又は実施したことと、
アッセイの結果に基づいて、有効量の化合物ZN-c3、又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することと、を含む、方法を提供する。
【0008】
別の実施形態は、がんを治療する方法であって、
(a)がん及び(b)CCNE1の内因性機能又は変化した機能を有する対象を特定することと、
有効量の化合物ZN-c3、又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することと、を含む、方法を提供する。
【0009】
別の実施形態は、がんを治療する方法であって、
(a)がん及び(b)CCNE1の過剰発現又は変化した機能を有する対象を特定することと、
有効量の化合物ZN-c3、又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することと、を含む、方法を提供する。
【0010】
別の実施形態は、対象においてがんを治療する方法であって、
対象が、化合物ZN-c3、又はその薬学的に許容される塩による治療に対して感作性であるかどうかを決定することであって、決定することが、
対象から生物学的試料を得るか、又は得たこと、及び
対象がCCNE1の変化した機能を有するかどうかを決定するために、生物学的試料に対して少なくとも1つのアッセイを実施するか、又は実施したこと、を含む、決定することと、
対象が、化合物ZN-c3、又はその薬学的に許容される塩による治療に対して感作性であるかどうかの決定に基づいて、対象についての治療プロトコルを選択することと、を含む、方法を提供する。
【0011】
これら及び他の実施形態は、以下により詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】空のベクター対照SKOV3細胞(「対照」)と比較した、安定なSKOV3細胞株におけるCCNE1過剰発現を確認するウェスタンブロットの結果を示す。
【
図2】細胞生存率によって測定されるような、空のベクター対照SKOV3細胞(「空のベクター」)と比較して、CCNE1を過剰発現する安定なSKOV3細胞が、ZN-c3に対してより感受性であることを示すプロットである。
【
図3】ZN-c3の10点の用量応答で72時間治療した後のOVCAR-3卵巣がん細胞の細胞密度率を示すプロットを示す。OVCAR-3は、CCNE1の増幅を有し(表2)、ZN-c3に対して感受性である。生存率を、細胞力価グロー分析を用いて計算する。
【
図4】2×10
7個のOVCAR-3細胞を右脇腹に皮下接種し、80mg/kgのビヒクル又はZN-c3(KP-2638)で毎日治療した10匹のNOD/SCIDマウスの腫瘍体積のプロットを示す。ZN-c3で治療した腫瘍は、ビヒクル対照と比較した場合、有意な腫瘍成長阻害を示す。
【
図5】1×10
6個のHCC1806ヒトトリプルネガティブ乳がん細胞を右脇腹に皮下接種し、80mg/kgのビヒクル又はZN-c3(KP-2638)で毎日治療した10匹のBALB/cヌードマウスの腫瘍体積のプロットを示す。HCC1806細胞は、高コピー数のCCNE1を有する(表2参照)。ZN-c3で治療した腫瘍は、ビヒクル対照と比較した場合、有意な腫瘍成長阻害を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
WEE1は、細胞DNA損傷に応答して有糸分裂の開始を阻止する、ATR媒介性G2細胞周期チェックポイント制御の重要な構成要素である、チロシンキナーゼである。ATRは、CHK1をリン酸化して活性化し、次にWEE1を活性化して、Tyr15でのサイクリン依存性キナーゼ1(cyclin-dependent kinase 1、CDK1)の選択的リン酸化
をもたらし、それによって、CDK1-サイクリンB複合体を不活性な状態に維持し、細胞周期の進行を停止させる。このプロセスは、有糸分裂開始前に、腫瘍細胞が損傷したDNAを修復する時間を与えることによって、生存上の利点を付与する。WEE1を阻害すると、G2チェックポイントを無効化し、DNA損傷を伴うがん細胞に未成熟の有糸分裂を開始させるように促進し、分裂期細胞死による細胞死を起こす。したがって、WEE1の阻害は、シスプラチンなどのDNA損傷剤に対する腫瘍の感受性を高め、腫瘍の細胞死を誘導する可能性を有する。加えて、WEE1活性化はまた、Tyr15でのCDK2の選択的リン酸化をもたらし、それによって、G1/S期進行を制御するCDK2-サイクリンA/E複合体を調節することができる。WEE1の阻害は、過剰な複製活性をもたらし、それによって複製崩壊をもたらし得る。
【0014】
化合物ZN-c3及びその薬学的に許容される塩は、WEE1阻害剤である。化合物ZN-c3の化学構造は上に示されている。化合物ZN-c3及びその薬学的に許容される塩は、様々な方法で調製することができる。例えば、国際公開第2019/173082号を参照されたい。
【0015】
サイクリンE1(Cyclin E1、CCNE1)は、CDK2を含むサイクリン依存性キナ
ーゼ(CDK)に結合し、それによって細胞周期進行を促進することによって、細胞周期調節に関与する。
【0016】
定義
別段の定めがない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で参照される全ての特許、出願、公開出願及び他の出版物は、特に明記しない限り、参照によりそれらの全体が組み込まれる。本明細書のある用語に対して複数の定義が存在する場合、特に明記しない限り、この節にある定義が優先される。
【0017】
本明細書中で使用される場合、「約」という用語は、当業者によって理解されるようなその通常の意味を有し、したがって、ある値が、値を決定するために使用される方法についての誤差の固有の変動、又は複数の決定の間に存在する変動を含むことを示す。
【0018】
本明細書中で使用される場合、「改変する(modify)」若しくは「変更する(alter)
」という用語、又はその任意の形態は、改変すること、変更すること、置き換えること、欠失させること、置換すること、除去すること、変化させること、又は変換することを意味する。
【0019】
本明細書中で使用される場合、「機能」及び「機能的」という用語は、当業者によって理解されるようなそれらの通常の意味を有し、したがって、生物学的機能、酵素的機能、又は治療的機能を指す。
【0020】
本明細書中で使用される場合、「内因性」という用語は、当業者によって理解されるようなその通常の意味を有し、したがって、遺伝子、タンパク質又は細胞のネイティブな特性又は野生型の特性をいう。いくつかの実施形態では、内因性遺伝子は、上述の遺伝子の
野生型配列である。いくつかの実施形態では、内因性タンパク質は、上述のタンパク質の野生型配列である。いくつかの実施形態では、内因性タンパク質機能は、上述のタンパク質の野生型機能及び活性レベルである。いくつかの実施形態では、内因性細胞は、野生型細胞である。
【0021】
「変異」という用語は、当業者によって理解されるその通常の意味を有し、遺伝子配列の変化を指す。いくつかの実施形態では、細胞は、複数の変異を有する。いくつかの実施形態では、変異は、ゲノムのコード領域内にある。変異は、単一ヌクレオチドから、複数の遺伝子を含む染色体の大きなセグメントまでのサイズの範囲であり得る。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの変異はサイレントであり、遺伝子発現又は機能に有意な影響を及ぼさない。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの変異は、遺伝子増幅、過剰発現、又はコピー数の増加など、遺伝子発現又は機能に影響を及ぼす。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの変異はサイレントであり、タンパク質発現又は機能に有意な影響を及ぼさない。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの変異は、タンパク質発現又は機能に対して小さな影響を及ぼす。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの変異は、タンパク質発現又は機能に対して中程度の影響を有する。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの変異は、タンパク質発現又は機能に対して大きな影響を及ぼす。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの変異は、タンパク質の発現又は機能を妨げる。変異の非限定的な例としては、挿入、欠失、切断、置換、重複、転座、及び逆位が挙げられる。いくつかの実施形態では、変異は、「体細胞」であり、すなわち、体細胞において生じ、遺伝性ではない。いくつかの実施形態では、生物における体細胞のサブセットは、他の体細胞が有さない少なくとも1つの変異を有する。いくつかの実施形態では、突然変異は、「生殖系列」であり、すなわち、生殖細胞において生じ、遺伝性である。
【0022】
本明細書中に開示されるように、変異は、種々の配列決定、発現、又は機能アッセイを介して監視され得る。非限定的な例としては、DNA配列決定、RNA配列決定、DNAハイブリダイゼーション、タンパク質配列決定、標的化ゲノム配列決定、全エクソーム配列決定、全ゲノム配列決定、ATAC配列決定、Sanger配列決定、PCR、qPCR、RT-PCR、RT-qPCR、次世代配列決定、タンパク質トランケーションテスト、DNAマイクロアレイ、ヘテロ二本鎖分析、変性勾配ゲル電気泳動、ヌクレオチド配列決定、一本鎖高次構造多型、制限酵素消化アッセイ、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(fluorescence in situ hybridization、FISH)、比較ゲノムハイブリダイゼーション、制限フラグメント長多型、増幅不応性変異システムPCR、ネステッドPCR、マルチプレックスライゲーション依存性プローブ増幅、一本鎖高次構造多型、及びオリゴヌクレオチドライゲーションアッセイが挙げられる。変異はまた、限定されないが、ウェスタンブロッティング、蛍光活性化細胞選別、免疫蛍光、免疫組織化学、免疫細胞化学、免疫沈降、酵素結合免疫吸着アッセイ、ラジオイムノアッセイ、及び電気化学発光アッセイを含む、生物学的試料を使用する様々な抗体ベースのアッセイを介して監視され得る。
【0023】
「がん」という用語は、本明細書において、その通常の生物学的意味で使用され、当業者によって理解される。したがって、がんとしては、任意の細胞型のがん、例えば、限定されないが、膠芽腫、星細胞腫、髄膜腫、頭蓋咽頭腫、髄芽腫、及び他の脳がん、白血病、皮膚がん、副腎がん、肛門がん、胆道がん、膀胱がん、骨がん、乳がん、子宮頸がん、結腸直腸がん、子宮体がん、食道がん、眼がん、胆嚢がん、胃腸がん、ホジキンリンパ腫、血液腫瘍、ヘム悪性腫瘍、カポジ肉腫、腎臓がん、咽頭及び下咽頭のがん、肝臓がん、肺がん、リンパ腫、中皮腫、黒色腫、多発性骨髄腫、神経芽腫、上咽頭がん、卵巣がん、骨肉腫、膵臓がん、下垂体がん、網膜芽細胞腫、唾液腺がん、胃がん、小腸がん、精巣がん、胸腺がん、甲状腺がん、子宮がん、子宮肉腫、子宮漿液性腺がん、膣がん、外陰がん、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、ウィルムス腫瘍、固形腫瘍、又は液体腫
瘍を挙げることができる。
【0024】
本明細書中で使用される場合、「腫瘍」という用語は、当業者によって理解されるその通常の意味を有し、細胞又は組織の異常成長を指す。いくつかの実施形態では、腫瘍は、良性である。いくつかの実施形態では、腫瘍は、悪性である。腫瘍は、転移したとき、又は身体の他の領域に広がったときに、がんになる。本明細書で使用される「固形腫瘍」という用語は、当業者によって理解されるその通常の意味を有し、液体領域又は嚢胞を含まない組織の異常な塊を指す。固形腫瘍の非限定的な例としては、肉腫、がん腫、又はリンパ腫が挙げられる。多くのがん組織は、限定されないが、乳がん、脳がん、肺がん、肝臓がん、胃がん、脾臓がん、結腸がん、腎臓がん、膵臓がん、前立腺がん、子宮がん、皮膚がん、頭部がん、頸部がん、肉腫、神経芽細胞腫又は卵巣がんなどの固形腫瘍を形成し得る。「がん」及び「腫瘍」という用語は、より具体的な意味が意図されていることを文脈が明確に示さない限り、一般に互換的に使用され得る。
【0025】
本明細書で使用される「細胞」という用語は、当業者によって理解されるその通常の意味を有し、任意の細胞型を指すことができる。いくつかの実施形態では、上述の細胞は、哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態では、上述の細胞は、ヒト細胞である。
【0026】
本明細書で使用される「個体」、「対象」、又は「患者」という用語は、当業者によって理解されるそれらの通常の意味を有し、したがって、ヒト又は非ヒト哺乳動物を含む。「哺乳動物」という用語は、その通常の生物学的意味で使用される。したがって、具体的には、サル(チンパンジー、類人猿、サル)及びヒトを含む霊長類、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ(swine)、ウサギ、イヌ、ネコ、げっ歯類、ラット、マウス、モルモット
又はブタ(pig)を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、対象は、
ヒトであり得る。いくつかの実施形態では、対象は、小児及び/又は乳児であり得る。他の実施形態では、対象は、成人であり得る。
【0027】
本明細書で使用される「がん治療」という用語は、当業者によって理解されるその通常の意味を有し、治療法(手術及び/若しくは放射線など)、又はがんを治療、阻害、若しくは予防するために使用される小分子、化合物、タンパク質、若しくは他の医薬などの抗がん剤を指す。本明細書に記載される代替例のいずれか1つ以上と共に使用可能な抗がん剤の一般的なクラスの非限定的な例としては、アルキル化剤、抗EGFR抗体、抗Her-2抗体、代謝拮抗剤、ビンカアルカロイド、白金系薬剤、アントラサイクリン、トポイソメラーゼ阻害剤、タキサン、抗生物質、免疫調節剤、免疫細胞抗体、インターフェロン、インターロイキン、HSP90阻害剤、抗アンドロゲン薬、抗エストロゲン薬、抗高カルシウム血症剤、アポトーシス誘導剤、オーロラキナーゼ阻害剤、ブルトンチロシンキナーゼ阻害剤、カルシニューリン阻害剤、CaMキナーゼII阻害剤、CD45チロシンホスファターゼ阻害剤、CDC25ホスファターゼ阻害剤、CHKキナーゼ阻害剤、シクロオキシゲナーゼ阻害剤、bRAFキナーゼ阻害剤、cRAFキナーゼ阻害剤、Ras阻害剤、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤、システインプロテアーゼ阻害剤、DNAインターカレータ、DNA鎖破壊薬、E3リガーゼ阻害剤、EGF経路阻害剤、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、Flk-1キナーゼ阻害剤、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3(glycogen synthase kinase-3、GSK3)阻害剤、ヒストンデアセチラーゼ(histone deacetylase、HDAC)阻害剤、I-カッパB-アルファキナーゼ阻害剤、イミダゾ
テトラジノン、インスリンチロシンキナーゼ阻害剤、c-Jun-N末端キナーゼ(c-Jun-N-terminal kinase、JNK)阻害剤、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(mitogen-activated protein kinase、MAPK)阻害剤、MDM2阻害剤、MEK阻害剤、E
RK阻害剤、MMP阻害剤、mTor阻害剤、NGFRチロシンキナーゼ阻害剤、p38
MAPキナーゼ阻害剤、p56チロシンキナーゼ阻害剤、PDGF経路阻害剤、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ阻害剤、ホスファターゼ阻害剤、プロテインホスファ
ターゼ阻害剤、PKC阻害剤、PKCデルタキナーゼ阻害剤、ポリアミン合成阻害剤、PTP1B阻害剤、プロテインチロシンキナーゼ阻害剤、SRCファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、Sykチロシンキナーゼ阻害剤、Janus(JAK-2及び/又はJAK-3)チロシンキナーゼ阻害剤、レチノイド、RNAポリメラーゼII伸長阻害剤、セリン/トレオニンキナーゼ阻害剤、ステロール生合成阻害剤、VEGF経路阻害剤、化学療法剤、アリトレチノン(alitretinon)、アルトレタミン、アミノプテリン、アミノレブリ
ン酸、アムサクリン、アスパラギナーゼ、アトラセンタン、ベキサロテン、カルボコン、デメコルシン、エファプロキシラール、エルサミトルシン、エトグルシド、ヒドロキシカルバミド、ロイコボリン、ロニダミン、ルカントン、マソプロコル、アミノレブリン酸メチル、ミトグアゾン、ミトタン、オブリメルセン、オマセタキシン、ペグアスパルガーゼ、ポルフィマーナトリウム、プレドニムスチン、シチマゲンセラデノベク(sitimagene ceradenovec)、タラポルフィン、テモポルフィン、トラベクテジン、又はベルテポルフィンが挙げられる。
【0028】
「薬学的に許容される塩」という用語は、それが投与される生物に著しい刺激をもたらさず、かつ化合物の生物活性及び特性を無効にしない化合物の塩を指す。いくつかの実施形態では、塩は、化合物の酸付加塩である。薬学的塩は、化合物を無機酸、例えば、ハロゲン化水素酸(例えば、塩酸又は臭化水素酸)、硫酸、硝酸、及びリン酸(2,3-ジヒドロキシプロピルニ水素リン酸塩など)と反応させることによって得られ得る。薬学的塩はまた、化合物を有機酸、例えば、脂肪族又は芳香族のカルボン酸又はスルホン酸、例えば、ギ酸、酢酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、ニコチン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、安息香酸、サリチル酸、2-オキソペンタン二酸、又はナフタレンスルホン酸と反応させることによって得ることもできる。薬学的塩はまた、化合物を塩基と反応させて、塩、例えば、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、例えば、ナトリウム、カリウム、又はリチウム塩、アルカリ土類金属塩、例えば、カルシウム又はマグネシウム塩、炭酸塩の塩、重炭酸塩の塩、有機塩基の塩、例えば、ジシクロヘキシルアミン、N-メチル-D-グルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、C1~C7アルキルアミン、シクロへキシルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、並びにアルギニン及びリシンなどのアミノ酸を有する塩を形成することによって得ることができる。WEE1阻害剤化合物に関して、当業者は、窒素系の基(例えば、NH2)のプロトン化によって塩が形成される場合、窒素系の基が正電荷と会合することができ(例えば、NH2がNH3
+になり得る)、正電荷が負の電荷を持つ対イオン(Cl-など)によってバランスがとられ得ることを理解する。
【0029】
本明細書に開示される化合物が充填されていない原子価を有する場合、その原子価が、水素又はその同位体、例えば、水素-1(軽水素)及び水素-2(重水素)で充填されることを理解されたい。
【0030】
本明細書に記載の化合物が同位体で標識され得ることが理解される。重水素などの同位体での置換は、例えば、インビボ半減期の増加又は必要投与量の低減など、より大きい代謝安定性に起因するある特定の治療上の利点をもたらし得る。化合物構造において表される各化学元素は、当該元素の任意の同位体を含み得る。例えば、化合物構造において、水素原子は、化合物中に存在すると明確に開示され得るか、又は理解され得る。水素原子が存在し得る化合物の任意の位置において、水素原子は、水素-1(軽水素)及び水素-2(重水素)を含むが、これらに限定されない、水素の任意の同位体であり得る。したがって、本明細書における化合物に対する言及は、文脈が明確にそうでないと示さない限り、全ての可能な同位体形態を包含する。
【0031】
本明細書に記載の化合物が、結晶形態(多形体としても既知であり、化合物の同じ元素
組成の異なる結晶充填配置を含む)、非晶相、塩、溶媒和物、及び水和物を含むことが理解される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の化合物は、水、エタノールなどの薬学的に許容される溶媒を有する溶媒和形態で存在する。他の実施形態では、本明細書に記載の化合物は、非溶媒和形態で存在する。溶媒和物は、化学量論量又は非化学量論量のいずれかの溶媒を含有し、水、エタノールなどの薬学的に許容される溶媒での結晶化プロセス中に形成されてもよい。溶媒が水である場合に水和物が形成されるか、又は溶媒がアルコールである場合にアルコラートが形成される。加えて、本明細書に提供される化合物は、非溶媒和形態並びに溶媒和形態で存在することができる。概して、溶媒和形態は、本明細書に提供される化合物及び方法の目的で、非溶媒和形態と同等であるとみなされる。
【0032】
値の範囲が提供される場合、上限及び下限、並びにその範囲の上限と下限との間に介在する各値が、実施形態内に包含されることが理解される。
【0033】
本願で使用される用語及び語句並びにこれらの変化形、特に添付の特許請求の範囲にあるものは、特に明記しない限り、限定的ではなく非限定的であると解釈されるべきである。上記の例として、「含むこと」という用語は、「限定することなく含むこと」、「含むが、これらに限定されないこと」などを意味するよう解釈されるべきである。本明細書で使用される場合、「備えること」という用語は、「含むこと」、「含有すること」、又は「特徴とする」と同義語であり、包括的又は非限定的であり、追加の列挙されていない要素又は方法の工程を除外しない。「有すること」という用語は、「少なくとも有すること」と解釈されるべきである。「含む」という用語は、「含むが、これらに限定されない」と解釈されるべきである。「例」という用語は、考察中の項目の徹底的又は限定的なリストではなく例示的な実例を提供するために使用される。「好ましくは」、「好ましい」、「所望の」又は「望ましい」のような用語、並びに同様の意味の単語の使用は、ある特定の特徴がその構造又は機能にとって重大、本質的又は重要でさえあるということを暗示するものとしてではなく、むしろ単に特定の実施形態で利用される場合又はされない場合がある代替又は追加の特徴を強調することが意図されるものとして理解されるべきである。加えて、「備えること」という用語は、「少なくとも有すること」又は「少なくとも含むこと」という語句の同意語として解釈されるものとする。化合物、組成物、又はデバイスの文脈で使用される場合、「備えること」という用語は、化合物、組成物、又はデバイスが少なくとも列挙された特徴又は構成要素を含むが、追加の特徴又は構成要素も含み得ることを意味する。
【0034】
本明細書の実質的にいかなる複数形及び/又は単数形の用語の使用に関しても、当業者は、文脈及び/又は用途に応じて適切に、複数形から単数形、及び/又は単数形から複数形に変換することができる。様々な単数形/複数形の入れ替えは、明確にするために本明細書で明示的に記載され得る。「a」又は「an」という不定冠詞は、複数を除外しない。ある特定の手段が相互に異なる従属請求項に列挙されるという単なる事実は、利益を得るためにこれらの手段の組み合わせを使用することができないということを示すものではない。請求項中のいかなる参照符号も、その範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0035】
医薬組成物
本明細書に記載のいくつかの実施形態は、有効量の1つ以上の本明細書に記載の化合物(例えば、化合物ZN-c3、又はその薬学的に許容される塩)と、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、又はこれらの組み合わせとを含むことができる、医薬組成物に関する。
【0036】
「医薬組成物」という用語は、本明細書に開示の1つ以上の化合物及び/又は塩と、希釈剤又は担体などの他の化学構成成分との混合物を指す。医薬組成物は、生物への化合物
の投与を容易にする。医薬組成物はまた、化合物を、無機又は有機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、及びサリチル酸と反応させることによって得られ得る。医薬組成物は、一般に、意図される具体的な投与経路に合わせて調整される。
【0037】
「生理学的に許容される」という用語は、化合物の生物活性及び特性を無効にすることも、組成物の送達が意図される動物に相当な損傷又は負傷を引き起こすこともしない、担体、希釈剤、又は賦形剤を指す。
【0038】
本明細書で使用される場合、「担体」は、細胞又は組織への化合物の組み込みを促進する化合物を指す。例えば、限定することなく、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)は、対象の細胞又は組織への多くの有機化合物の取り込みを容易にする、一般的に利用される担体である。
【0039】
本明細書で使用される場合、「希釈剤」は、明らかな薬理活性はないが、薬学的に必要又は望ましくあり得る、医薬組成物中の成分を指す。例えば、希釈剤は、製造及び/又は投与には質量が小さ過ぎる、効力のある薬物のかさ増しのために使用され得る。それはまた、注射、摂取、又は吸入によって投与される薬物を溶解させるための液体であり得る。当該技術分野において一般的な希釈剤の形態は、限定することなく、ヒト血液のpH及び等張性を模したリン酸緩衝生理食塩水などの、緩衝水溶液である。
【0040】
本明細書で使用される場合、「賦形剤」は、限定するものではないが、かさ、稠度、安定性、結合能力、潤滑、崩壊能力などを組成物に提供するために、医薬組成物に添加される、本質的に不活性の物質を指す。例えば、酸化防止剤及び金属キレート剤などの安定剤は、賦形剤である。一実施形態では、医薬組成物は、酸化防止剤及び/又は金属キレート剤を含む。「希釈剤」は、ある種の賦形剤である。
【0041】
本明細書に記載の医薬組成物は、ヒト患者にそれ自体で、あるいはそれらが、併用療法におけるような他の活性成分、又は担体、希釈剤、賦形剤、若しくはそれらの組み合わせと混合される医薬組成物において、投与することができる。適切な製剤化は、選択される投与経路に依存する。本明細書に記載の化合物の製剤化及び投与のための技術は、当業者に既知である。
【0042】
本明細書に開示の医薬組成物は、例えば、従来の混合、溶解、顆粒化、ドラジェ作製、水簸、乳化、封入、捕捉、又は錠剤化プロセスによって、それ自体が既知である様式で製造され得る。追加的に、活性成分が、その意図した目的を達成するために有効な量で含有される。本明細書に開示の薬剤の組み合わせで使用される化合物の多くは、薬学的に適合する対イオンを有する塩として提供されてもよい。
【0043】
経口、直腸、肺内、局所、エアロゾル、注射、注入、並びに筋肉内、皮下、静脈内、髄内注射、くも膜下、直接心室内、腹腔内、鼻腔内、及び眼内注射を含む非経口送達が挙げられるが、これらに限定されない、WEE1阻害剤化合物、塩、及び/又は組成物を投与する複数の技術が当該技術分野において存在する。いくつかの実施形態では、WEE1阻害剤化合物、又はその薬学的に許容される塩は、経口投与され得る。
【0044】
また、全身的な方法ではなく局所的な方法で、例えば、多くの場合、デポー製剤又は持続放出製剤として化合物を罹患領域に直接注射するか、又は移植によってWEE1阻害剤化合物、塩、及び/又は組成物を投与してもよい。更に、標的化した薬物送達システムで、例えば、組織特異的抗体でコーティングされたリポソームで化合物を投与することができる。リポソームは、器官に対して標的化され、かつ器官により選択的に取り込まれるで
あろう。例えば、呼吸器の疾患又は状態を標的とするための鼻腔内又は肺内送達が望ましい場合がある。
【0045】
組成物は、所望される場合、活性成分を含有する1つ以上の単位剤形を含み得る、パック又はディスペンサデバイス中に提供されてもよい。パックは、例えば、ブリスタパックなどの金属又はプラスチック箔を含み得る。パック又はディスペンサデバイスには、投与に関する指示書が添付され得る。パック又はディスペンサはまた、医薬品の製造、使用、又は販売を規制する行政機関によって規定された形式の、容器に関連付けられた注意書きが添付され得、その注意書きは、ヒト又は動物投与のための薬物の形態の機関による承認を反映する。そのような注意書きは、例えば、処方薬に関し米国食品医薬品局によって承認されたラベル、又は承認された製品添付文書であり得る。適合する薬学的担体中で製剤化される本明細書に記載の化合物及び/又は塩を含むことができる組成物はまた、示された病態の治療のために調製され、適切な容器内に配置され、かつラベル付けされてもよい。
【0046】
方法
様々な実施形態は、化合物ZN-c3、又はその薬学的に許容される塩に対する対象の感受性を決定する方法であって、
対象から生物学的試料を得るか、又は得たことと、
対象がCCNE1の変化した機能を有するかどうかを決定するために、生物学的試料に対して少なくとも1つのアッセイを実施するか、又は実施したことと、を含む、方法を提供する。
【0047】
別の実施形態は、がんを治療する方法であって、
対象から生物学的試料を得るか、又は得たことと、
対象がCCNE1の変化した機能を有するかどうかを決定するために、生物学的試料に対して少なくとも1つのアッセイを実施するか、又は実施したことと、
アッセイの結果に基づいて、有効量の化合物ZN-c3、又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することと、を含む、方法を提供する。
【0048】
別の実施形態は、がんを治療する方法であって、
(a)がん及び(b)CCNE1の内因性機能又は変化した機能を有する対象を特定することと、
有効量の化合物ZN-c3、又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することと、を含む、方法を提供する。
【0049】
別の実施形態は、がんを治療する方法であって、
(a)がん及び(b)CCNE1の過剰発現又は変化した機能を有する対象を特定することと、
有効量の化合物ZN-c3、又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することと、を含む、方法を提供する。
【0050】
別の実施形態は、対象においてがんを治療する方法であって、
対象が、化合物ZN-c3、又はその薬学的に許容される塩による治療に対して感作性であるかどうかを決定することであって、当該決定することが、
対象から生物学的試料を得るか、又は得たこと、及び
対象がCCNE1の変化した機能を有するかどうかを決定するために、生物学的試料に対して少なくとも1つのアッセイを実施するか、又は実施したこと、を含む、決定することと、
対象が、化合物ZN-c3、又はその薬学的に許容される塩による治療に対して感作性
であるかどうかの決定に基づいて、対象についての治療プロトコルを選択することと、を含む、方法を提供する。
【0051】
上述の方法の様々な実施形態及び実装形態の詳細は、本明細書の他の箇所でより詳細に説明される。全てのそのような実施形態及び実装形態は、文脈が明確に別様に示さない限り、上述の方法の全てに適用されることが理解されるであろう。
【0052】
上述の方法の様々な実施形態では、CCNE1の変化した機能は、CCNE1遺伝子増幅である。他の実施形態では、CCNE1の変化した機能は、CCNE1タンパク質過剰発現である。いくつかの実施形態では、CCNE1の変化した機能は、CCNE1遺伝子変異から生じる。
【0053】
上述の方法の様々な実施形態では、がんは、本明細書に記載されるがん(腫瘍を含む)の種類のうちの1つ以上を含む。一実施形態では、がんは、固形腫瘍である。一実施形態では、がんは、ヘム悪性腫瘍である。いくつかの実施形態では、がんは、子宮体がん、胆嚢がん、又は卵巣がんである。卵巣がんの例としては、上皮性卵巣がん、胚細胞がん、及び間質がんが挙げられる。一実施形態では、上皮性卵巣がんは、高異型度漿液性卵巣がんである。上述の方法の様々な実施形態では、対象は、ヒトである。
【0054】
「機能アッセイ」は、刺激又は傷害に応答した遺伝子、タンパク質、又は細胞の活性を検出するための方法である。実施される特定の機能アッセイは、細胞のゲノムに組み込まれた特定の変異又は複数の変異に依存する。例えば、様々な実施形態では、本明細書に記載の方法は、対象がCCNE1の変化した機能を有するか(又はCCNE1の変化した機能を有しないか)を決定するために、生物学的試料に対して少なくとも1つのアッセイを実施するか、又は実施したことを含み得る。機能アッセイとしては、限定されないが、キナーゼアッセイ、例えばレポーター構築物を使用する転写アッセイ、増殖アッセイ、アポトーシスアッセイ、遊走/走化性アッセイ、栄養素感受性アッセイ、薬剤(例えば、薬物、化学療法剤、変異原)又は放射線感受性アッセイ、核酸結合アッセイ又はタンパク質結合アッセイが挙げられるが、これらの全ては、当業者の能力の範囲内である。
【0055】
本明細書で使用される場合、「治療する」、「治療すること」、「治療」、「治療的」、及び「療法」という用語は、必ずしも疾患又は状態の完全な治癒又は消滅を意味するとは限らない。疾患又は状態の任意の所望されない兆候又は症状の任意の程度までの任意の緩和が、治療及び/又は療法とみなされ得る。更に、治療は、対象の健康又は外観についての全体的な感覚を悪化させ得る行為を含み得る。
【0056】
「投与」又は「投与する」という用語は、本明細書中で使用される場合、当業者によって理解されるそれらの通常の意味を有し、任意の有効な経路によって、化合物ZN-c3、又はその薬学的に許容される塩などの薬剤を対象に提供するか、又は与えることを指す。例示的な投与経路としては、経口、注射(頭蓋内、皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、及び静脈内など)、舌下、直腸、経皮、鼻腔内、膣、眼内、又は吸入経路が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
「治療有効量」及び「有効量」という用語は、記載の生物学的又は医学的応答を誘発する、活性化合物又は薬学的薬剤の量を示すために使用される。例えば、化合物、塩又は組成物の治療有効量は、疾患又は状態の症状を予防、緩和、若しくは寛解するか、又は治療される対象の生存を延長するために必要な量であり得る。この応答は、組織、系、動物、又はヒトにおいて生じる場合があり、治療されている疾患又は状態の兆候又は症状の緩和を含む。有効量の決定は、本明細書に提供される本開示を考慮して、十分当業者の能力の範囲内である。用量として必要とされる治療有効量の本明細書に開示されるZN-c3化
合物、及びその塩は、投与経路、ヒトを含む治療されている動物の種類、及び考慮中の特定の動物の身体特性に依存するであろう。用量は、所望の効果を達成するように調整され得るが、体重、食生活、併用投薬及び医療分野の当業者が認識するであろう他の要因などの要因に依存するであろう。
【0058】
例えば、化合物又は放射線の有効量は、(a)がんによって引き起こされる1つ以上の症状の軽減、緩和、若しくは消失、(b)腫瘍サイズの低減、(c)腫瘍の除去、及び/又は(d)腫瘍の長期疾患安定化(増殖停止)、をもたらす量である。肺がん(非小細胞肺がんなど)の治療において、治療有効量は、咳、息切れ、及び/又は疼痛を緩和又は除去する量である。別の例として、WEE1阻害剤の有効量、つまり治療有効量は、WEE1活性及び/又はリン酸化(例えば、CDK1としても知られる、CDC2のリン酸化)の低減をもたらす量である。WEE1の活性の低減は当業者に既知であり、WEE1内因性キナーゼ活性及び下流の基質のリン酸化の分析によって判定することができる。
【0059】
治療で使用するために必要とされる化合物ZN-c3、又はその薬学的に許容される塩の量は、選択された特定の化合物又は塩だけはなく、投与経路、治療されている疾患又は状態の性質及び/又は症状、並びに患者の年齢及び状態によっても変化し、最終的に、主治医又は臨床医の判断による。薬学的に許容される塩の投与の場合、投薬量は、遊離塩基として計算され得る。当業者によって理解されるように、ある特定の状況において、特に進行性の疾患又は状態を効果的かつ積極的に治療するために、本明細書に記載の投与量範囲を超えるか、又ははるかに超えさえする量で、本明細書に開示の化合物を投与することが必要であり得る。
【0060】
しかしながら、概して、好適な用量は多くの場合、約0.05mg/kg~約10mg/kgの範囲内であるであろう。例えば、好適な用量は、体重1kg当たり1日約0.10mg~約7.5mg、例えば、レシピエントの体重1kg当たり1日約0.15mg~約5.0mg、レシピエントの体重1kg当たり1日約0.2mg~4.0mgの範囲内、又はこの間の任意の量であってもよい。化合物は、単位剤形で投与されてもよく、単位剤形は、例えば、単位剤形当たり1~500mg、10~100mg、5~50mg、又はこの間の任意の量の活性成分を含有する。
【0061】
所望の用量は、単回用量で、又は例えば、1日当たり2回、3回、4回、若しくはそれ以上の部分用量として、適切な間隔で投与される分割用量として、便利に提供されてもよい。部分用量自体は、例えば、いくつかの別個の大まかに間隔がおかれた投与に更に分割され得る。
【0062】
当業者には容易に明らかになるように、投与される有用なインビボ投与量及び特定の投与方法は、年齢、体重、苦痛の重症度、治療される哺乳動物種、用いられる特定の化合物、及びこれらの化合物が用いられる特定の用途に応じて変動するであろう。有効な投薬量レベル、つまり所望の結果を達成するために必要な投薬量レベルの判定は、日常的な方法、例えば、ヒト臨床試験、インビボ研究及びインビトロ研究を使用して、当業者によって達成することができる。例えば、化合物ZN-c3、又はその薬学的に許容される塩の有用な投薬量は、それらのインビトロ活性、及び動物モデルにおけるインビボ活性を比較することによって判定することができる。そのような比較は、シスプラチン及び/又はゲムシタビン)などの確立された薬物との比較によって行われ得る。
【0063】
投与量及び間隔は、活性部分が調節作用又は最小有効濃度(minimal effective concentration、MEC)を維持するのに十分である血漿濃度を提供するように、個々に調節さ
れてもよい。MECは、化合物ごとに変化するが、インビボ及び/又はインビトロデータから推定することができる。MECを達成するために必要な投薬量は、個々の特性及び投
与経路に依存するであろう。しかしながら、血漿濃度を判定するためには、HPLCアッセイ又はバイオアッセイを使用することができる。投薬量間隔もまた、MEC値を使用して判定することができる。組成物は、10~90%の期間、好ましくは30~90%及び最も好ましくは50~90%にわたって、MECを超える血漿レベルを維持する計画を使用して投与されるべきである。局所投与又は選択的取り込みの場合、薬物の有効局所濃度は、血漿濃度に関係しない場合がある。
【0064】
毒性又は臓器機能不全により、投与の終了、中断、又は調節の方法及び時期については、主治医が承知しているであろうことに留意されたい。反対に、主治医は、臨床応答が適切ではない(毒性を除外する)場合、治療をより高いレベルに調節することも承知しているであろう。対象となる疾患の管理において投与される用量の大きさは、治療しようとする疾患又は状態の重症度及び投与経路によって変化するであろう。疾患又は状態の重症度は、例えば、ある程度は、標準的な予後評価方法によって評価され得る。更に、用量及び恐らく投薬頻度はまた、個々の患者の年齢、体重及び応答によっても変化するであろう。上記で考察されるものと同等のプログラムが、獣医学で使用され得る。
【0065】
本明細書に開示された化合物ZN-c3、その薬学的に許容される塩及び組成物は、既知の方法を使用して有効性及び毒性に関して評価され得る。例えば、ある特定の化学部分を共有する特定の化合物又は化合物のサブセットについての毒性学は、哺乳動物の細胞株、好ましくはヒトの細胞株などの細胞株に対するインビトロ毒性を評価することによって確立され得る。そのような研究の結果は、多くの場合、哺乳動物、又は特にヒトなどの動物における毒性を予測する。代替的に、マウス、ラット、ウサギ、イヌ又はサルなどの動物モデルにおける特定の化合物の毒性は、既知の方法を使用して判定され得る。特定の化合物の有効性は、インビトロ方法、動物モデル、又はヒト臨床試験などのいくつかの認められている方法を使用して確立され得る。有効性を決定するためのモデルを選択する場合、当業者は、適切なモデル、用量、投与経路及び/又はレジメンを選択するにあたり最先端の技術を指針とすることができる。
【実施例】
【0066】
実施例1-細胞培養分析は、CCNE1過剰発現が、細胞増殖の停止におけるWEE1阻害剤の有効性と相関することを示す。
サイクリンE1(CCNE1)は、CDK2を含むサイクリン依存性キナーゼ(CDK)に結合し、それによって細胞周期進行を促進することによって、細胞周期調節に関与する。CCNE1の低い内因性発現レベルを有する卵巣がん細胞培養株SKOV3を、CCNE1を有するレンチウイルスベクター又は空のベクター対照によって形質導入した。安定なSKOV3細胞株を、ピューロマイシン選択によって確立した。空のベクター対照細胞と比較した、安定なSKOV3細胞株におけるCCNE1過剰発現を、ウェスタンブロッティングによって確認した(
図1)。次いで、これらの細胞を6日間にわたって漸増濃度のZN-c3で治療し、細胞生存について監視した(
図2)。対照細胞と比較して、CCNE1機能を過剰発現する細胞は、WEE1阻害に対して3.1倍高い感受性であった(表1)。これらの結果は、CCNE1増幅が、がん細胞におけるWEE1阻害剤の有効性を増強することを示す。
【0067】
【0068】
表1は、
図2に示される細胞培養実験の結果の統計分析(IC
50、μM)をまとめ
たものである。
【0069】
実施例2-腫瘍細胞成長分析は、高コピー数のCCNE1を有する細胞株が、細胞増殖の停止におけるWEE1阻害剤の有効性と相関することを示す。
OVCAR-3ヒト卵巣がん細胞株は、CCNE1のコピー数が増幅しており(表2)、これはCCNE1タンパク質の高発現と相関する。OVCAR-3細胞を、72時間にわたって漸増濃度のZN-c3で治療し、細胞生存について監視した(
図3)。ZN-c3治療された細胞は、395nMのIC50感受性を示した(表3)。これらの結果は、CCNE1の高コピー数が、ZN-c3治療に対する感受性をもたらすことを示す。
【0070】
【0071】
表2は、
図3、
図4、及び
図5において使用される細胞株におけるCCNE1のコピー数をまとめたものである。データは、Catalogue Of Somatic Mutations In Cancer(COSMIC)データベースから入手した。
【0072】
【0073】
表3は、
図3に示される細胞培養実験の結果の統計分析(IC
50、μM)をまとめたものである。
【0074】
実施例3-インビボ腫瘍成長阻害分析は、高コピー数のCCNE1を有する細胞株が、腫瘍成長の停止におけるWEE1阻害剤の有効性と相関することを示す。
2000万個のOVCAR-3細胞を、10匹の6~8週齢の雌NOD/SCIDマウスの右脇腹に接種した。動物を無作為に分け、平均腫瘍体積が111mm
3に達したときに治療を開始した。動物をビヒクル(20%HP-β-CD)又は80mg/kgのZN-c3で毎日治療し、腫瘍体積及び体重を週2回測定した。OVCAR-3は、CCNE1の増幅されたコピー数を有する(表2)。ビヒクルで治療されたマウスと比較して、ZN-c3治療されたマウスは、28日後に腫瘍成長の有意な減少を示す(
図4)。これらの結果は、CCNE1の高コピー数が、ZN-c3治療に対する感受性をもたらすことを示す。
【0075】
1×10
6個のHCC1806細胞を、10匹の6~8週齢の雌BALB/cヌードマウスの右脇腹に接種した。動物を無作為に分け、平均腫瘍体積が155mm
3に達したときに治療を開始した。動物をビヒクル(20%HP-β-CD)又は80mg/kgのZN-c3で毎日治療し、腫瘍体積及び体重を週2回測定した。HCC1806ヒトトリプルネガティブ乳がん細胞株は、CCNE1の増幅されたコピー数を有する(表2)。ビヒクルで治療されたマウスと比較して、ZN-c3治療されたマウスは、28日後に腫瘍成長の有意な減少を示す(
図5)。これらの結果は、CCNE1の高コピー数が、ZN-c
3治療に対する感受性をもたらすことを示す。
【0076】
実施例4-臨床試験は、サイクリンE1(CCNE1)遺伝子増幅を有する対象におけるがんを治療するWEE1阻害剤の優れた能力を示す。
CCNE1遺伝子増幅を有するヒト対象におけるWEE1阻害剤の有効性を、臨床試験によって評価した。CCNE1遺伝子の増幅を示す既存のゲノム報告に基づいて、4回の以前の療法を受けたIVB期の胆嚢がんを有するヒト対象(患者1)を、臨床試験ZN-c3-005に参加させた。
【0077】
患者1は、300mgのQDのZN-c3による治療を開始した。患者1を、およそ6週間後にZN-c3に対する応答について評価した。腫瘍の進行は、腫瘍イメージング分析を用いて監視され、測定可能な腫瘍において38%の減少を示した。これらの結果は、臨床設定下でCCNE1遺伝子増幅を有するヒト対象におけるWEE1阻害の有効性の増強を示す。
【国際調査報告】