(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-17
(54)【発明の名称】MRI画像診断のための造影剤
(51)【国際特許分類】
A61K 49/06 20060101AFI20240709BHJP
A61K 38/44 20060101ALI20240709BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240709BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240709BHJP
A61K 31/7004 20060101ALI20240709BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240709BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
A61K49/06
A61K38/44
A61P43/00 121
A61P35/00
A61K31/7004
A61K47/68
A61K39/395 D
A61K39/395 N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579568
(86)(22)【出願日】2022-06-23
(85)【翻訳文提出日】2024-02-14
(86)【国際出願番号】 EP2022067255
(87)【国際公開番号】W WO2022268992
(87)【国際公開日】2022-12-29
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523483935
【氏名又は名称】カタリーナ・フィリピーナ・ヤンセン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】カタリーナ・フィリピーナ・ヤンセン
(72)【発明者】
【氏名】イェレ・オンノ・バレンツ
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・ナガラジャ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァサント・クマル
(72)【発明者】
【氏名】ルメン・トモヴ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA18
4C084BA44
4C084DC23
4C084MA02
4C084MA23
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZC751
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4C085HH07
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4C085KB38
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4C085KB76
4C085LL18
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、MRI画像診断のための造影剤に関する。造影剤は、細胞膜への特異的結合のための少なくとも1つのリガンドに連結したナノ燃料電池から構成される。本発明は、造影剤を使用する、腫瘍細胞の可視化のための画像化方法、及び造影剤を使用する、腫瘍細胞の非侵襲性治療のための方法に更に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞膜への特異的結合のための少なくとも1つのリガンドに連結したナノ燃料電池から構成される、MRI画像診断のための造影剤であって、ナノ燃料電池が、アノードを含むアノード区画、カソードを含むカソード区画、及び電子流を発生させるための懸濁液から構成され、前記懸濁液が、好ましくは、導電的に接触した複数の中空粒子から構成され、前記中空粒子が、前記中空粒子における基質の酵素的変換を触媒し、それにより電子を遊離させるための、そこに捕捉された酸化還元反応を含み、前記中空粒子が、基質透過性且つ導電性の外側ポリマー殻を含み、前記懸濁液が、前記アノード区画内に、又は前記カソード区画内に、又は前記アノードとカソード区画との間に配置された、造影剤。
【請求項2】
少なくとも1つのリガンドが、親和性結合分子、抗体、ミニボディ、FAB断片、リガンドタンパク質、ペプチド、RNA、小分子及びナノ粒子からなる群から選択される1つ又は複数である、請求項1に記載の造影剤。
【請求項3】
少なくとも1つのリガンドが、腫瘍細胞膜タンパク質、PSMA、FAP、CAIX、SSTR、αvβ3インテグリン、ボンベシンR、CEA、CD13、CD44、CXCR4、EGFR、ErbB-2、Her2、Emmprin、エンドグリン、EpCAM、EphA2、葉酸、GRP78、IGF、マトリプターゼ、メソテリン、cMET/HGFR、MT1-MMP、MT6-MMP、Muc-1、PSCA、Tn抗原及びuPAR、好ましくはPSMA、FAP、CAIX、及び/又はSSTRからなる群から選択される特定の細胞膜タンパク質に結合することができる、請求項1又は2に記載の造影剤。
【請求項4】
少なくとも1つのリガンドが、ベータ粒子放出同位体、アルファ粒子放出同位体、オージェ電子放出同位体、フルオロフォア、F-18、Ga-68、Zr-89、Cu64、I-124、Tc-99m、In-111、及びI-123からなる群から選択される放射性核種及び/又は近赤外蛍光色素と更にコンジュゲートしている、請求項1から3のいずれか一項に記載の造影剤。
【請求項5】
前記外側ポリマー殻のポリマーが、疎水性のポリスチレン及び親水性のポリイソシアノペプチドを含むブロックコポリマーである、請求項1から4のいずれか一項に記載の造影剤。
【請求項6】
前記酸化還元反応触媒酵素が、グルコースオキシダーゼ(GOx)、好ましくは西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)と組み合わせたGOxであり、前記基質がグルコースである、請求項1から5のいずれか一項に記載の造影剤。
【請求項7】
カソード及び/又はアノードが、酸化還元反応触媒酵素で酵素コーティングされており、好ましくはカソード及び/又はアノードが、グルコースオキシダーゼ(GOx)、より好ましくは西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)と組み合わせたGOxでコーティングされている、請求項1から6のいずれか一項に記載の造影剤。
【請求項8】
ナノ燃料電池がナフトキノン(NQ)を更に含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の造影剤。
【請求項9】
中空粒子が、フェロセン及び/又はビオロゲン誘導体から構成される導電性マトリックスに埋め込まれている、請求項1から8のいずれか一項に記載の造影剤。
【請求項10】
MRI画像化造影剤である、請求項1から9のいずれか一項に記載の造影剤。
【請求項11】
CT、PET及びSPECTからなる群から選択される医用画像診断に更に好適である、請求項1から10のいずれか一項に記載の造影剤。
【請求項12】
少なくとも1つのリガンドに連結した前記ナノ燃料電池が、粒径およそ20~400nm、好ましくは50~250nm、より好ましくは75~200nmを有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の造影剤。
【請求項13】
カソード及びアノードが、少なくとも1つのリガンドをナノ燃料電池に連結させるため、単層若しくは多層カーボンナノチューブ(SWCNT又はMWCNT)及び/又は金属ナノ粒子から構成される、請求項1から12のいずれか一項に記載の造影剤。
【請求項14】
少なくとも1つのリガンドが、前記リガンドのナノ燃料電池への安定な非共有的連結のため、好ましくはカーボンナノチューブ及び/又はナノ金属粒子との連結のため、ピレニル残基を含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の造影剤。
【請求項15】
外側ポリマー殻が、Ag、Au、Pt、Tiからなる群から選択される金属粒子、好ましくはAuでコーティングされている、請求項1から14のいずれか一項に記載の造影剤。
【請求項16】
腫瘍細胞の可視化のための画像化方法であって、
a)請求項1から15のいずれか一項に記載の造影剤を患者に投与する工程、
b)造影剤の活性化をもたらし、医用画像化技法により検出可能な電子流を発生させるため、グルコースを前記患者に投与する工程、
c)医用画像化技法を使用して造影剤の画像を得る工程
を含む、画像化方法。
【請求項17】
医用画像化技法が、MRI、磁気測定的画像化(MEG)、CT、PET及びSPECTからなる群、好ましくはMRIから選択される、請求項16に記載の画像化方法。
【請求項18】
前記造影剤が、前記造影剤を前記患者に投与した後、1~90分、好ましくは5~75分、より好ましくは10~60分間、画像診断により検出可能である、請求項16又は17に記載の画像化方法。
【請求項19】
腫瘍細胞又はマクロファージの非侵襲性治療のための方法であって、
a)請求項1から15のいずれか一項に記載の造影剤を患者に投与する工程、
b)過量のグルコースを前記患者に投与して、腫瘍細胞又はマクロファージの感電死及び/又はエレクトロポレーションをもたらす工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MRI画像診断のための造影剤に関する。造影剤は、細胞膜への特異的結合のための少なくとも1つのリガンドに連結したナノ燃料電池(nano-fuel cell)から構成される。本発明は、造影剤を使用する、腫瘍細胞の可視化のための画像化方法、及び造影剤を使用する、腫瘍細胞の非侵襲性治療のための方法に更に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍標的化は、急速に拡大しつつある、がん治療に適用される技法、及び腫瘍の可視化におけるその使用である。標的化抗がん療法は概して、結合した薬物を腫瘍細胞に指向させる、抗体若しくは抗体由来の断片、タンパク質、ペプチド、小分子阻害剤、又はDNA/RNAアプタマーからなる。腫瘍標的は概して、腫瘍又は腫瘍関連細胞、例えば悪性細胞又は血管新生性の内皮細胞上の、発現が増強された膜タンパク質又は「トレーサー」である。腫瘍又は腫瘍関連細胞上の、発現が増強されたこれらの膜タンパク質は特に、例えば腫瘍の早期診断又は局在化、すなわち腫瘍を標的とした画像化に使用可能な、医用画像診断のための、腫瘍を可視化する化合物又は造影剤の開発に適している。
【0003】
例えば、前立腺がんの検出のため、かつ前立腺がんの疾患進行を決定するため、標的化治療は、最低限の副作用とともに治癒の最大の可能性に基づき投与される。がんを決定するため、前立腺腫瘍に特異的に結合する治療トレーサー(膜タンパク質)が使用されている。例は、前立腺がんの可視化のためにPET/CTスキャンに使用される、PSMA(前立腺特異的膜抗原)である。放射性同位体(例えば18F、68Ga)が、腫瘍の位置及びサイズを観察するため、PSMAトレーサーに結合している。
【0004】
医用の可視化診断において有用となりうる潜在的な膜タンパク質が、10,000超存在する。しかし、腫瘍型ごとの、又は更に、個々の腫瘍若しくは患者ごとの最良の結果のため、いずれの標的が使用されるべきかについての知識は依然としてほとんどない。欠点の1つは、CT及びPET画像化技術について非常に好適な膜タンパク質、例えば前立腺がんに対するPSMAトレーサーが、MRI画像化における使用には不適であることであり、なぜなら、通常のMRI造影剤は、これらの膜タンパク質、例えばPSMA、と結合してMRI画像化において観察されるのに十分に強力でないからである。現時点では労力を要し高価な(4百万超)PET-MRI装置及び方法が、例えばPSMAに対する可視化及び診断には必要である。
【0005】
上記を考慮すると、医用画像診断、より詳細にはMRI画像化における使用のための、向上したより汎用性の高い造影剤の必要性が当技術分野で存在する。それに加えて、腫瘍細胞の可視化のための向上したMRI画像化方法の必要性が当技術分野で存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Truongら2006、Journal of Magnetic reason.、3月;179(1)85~91頁
【発明の概要】
【0007】
他の目的の中で、当技術分野での上記の必要性に取り組むことが本発明の目的である。他の目的の中で、本発明の目的は、添付の請求項で概説されるように、本発明により満たされる。
【0008】
具体的に、他の目的の中で、上記の目的は、細胞膜への特異的結合のための少なくとも1つのリガンドに連結したナノ燃料電池から構成される、MRI画像診断のための造影剤であって、ナノ燃料電池が、アノードを含むアノード区画、カソードを含むカソード区画、及び電子流を発生させるための懸濁液から構成され、前記懸濁液が、好ましくは、導電的に接触した複数の中空粒子から構成され、前記中空粒子が、前記中空粒子における基質の酵素的変換を触媒し、それにより電子を遊離させるための、そこに捕捉された酸化還元反応を含み、前記中空粒子が、基質透過性(substrate permeable)且つ導電性(electrically conductive)の外側ポリマー殻を含み、前記懸濁液が、前記アノード区画内に、又は前記カソード区画内に、又は前記アノードとカソード区画との間に配置された、造影剤によって、本発明による第1の態様により満たされる。ナノ燃料電池は、懸濁液(ナノインク)の形態で腫瘍に送達される、アノード及びカソードナノ電極から構成される。電極、アノード及びカソードは、メディエーターあり又はなしでキャリア表面に固定化された酸化還元選択的酵素触媒でコーティングされた、電子伝導性(electronically conductive)ナノキャリア(例えばカーボンナノチューブCNT又は金ナノ粒子nAu)を含んでいてよい。それに加えて、両ナノ電極は、腫瘍特異的表面への選択的電子伝導性結合を確実にするため、親和性結合分子(抗体、ミニボディ、FAB断片、リガンドタンパク質、ペプチド、RNA、小分子及びナノ粒子)からなる群から選択される1つ又は複数のリガンドとコンジュゲートしている。
【0009】
本発明の造影剤は、MRI画像化技術により検出される組織又は細胞の細胞膜のリガンド又はトレーサーに連結又は結合したナノ燃料電池を含む。MRIでは検出可能でないリガンド単独とは対照的に、リガンドに連結したナノ燃料電池は、腫瘍表面に選択的に局在化した燃料電池が、腫瘍膜/組織を介して心拍数変調電流を放電するため、MRIを使用しても可視である。そのような電流は、十分に強力な局在化した変調磁場を発生させ、変調磁場がMRI内の磁場を局所的に乱し、ゆえに可視となる。例えば、PSMAに連結したナノ燃料電池により、MRIでPSMAを観察及びモニタリングし、それにより前立腺がんを可視化することが可能である。燃料電池に結合したリガンドは、腫瘍細胞の細胞膜標的に指向及び結合するため、腫瘍細胞が、腫瘍細胞位置におけるナノ燃料電池の蓄積により可視化される。燃料電池により放出された電流による磁場の擾乱は、MRIスキャン中の可視化をもたらし、特定の腫瘍の可視化を可能にする。
【0010】
造影剤のナノ燃料電池は、人体に天然に存在するバイオ燃料、例えばグルコースを使用し、燃料送達の頻度(例えば心拍数)により変調する電流を送達することができる。グルコースを使用するナノ燃料電池を含む本発明の造影剤は、本明細書では酵素的グルコース燃料電池(EGFC)とも呼ばれる。これは、そのようなバッテリーの成分が毒性でない/生体適合性であるように設計可能であるため、in vivo環境における使用(例えばヒトにおけるペースメーカー)にとって安全である。がん細胞を可視化するための従来方法(例えばPET-CTにおいて放射性リガンドを使用すること)に対する差として、本造影剤は放射性物質を使用する必要がなく、例えば使用するのにより容易でより安全であり、完全に生分解性であり、MRIで使用可能であり、腫瘍細胞の検出についてPET-CTと比較して、はるかにより鮮明でよりコントラストの強い画像をもたらす。
【0011】
造影剤の燃料電池は、電子流を発生させるのに使用可能な懸濁液を含み、懸濁液はポリペプチドを含み、ポリペプチドは中空粒子に封入されており、中空粒子はポリペプチドに対し透過性でないことを特徴とする。ポリペプチドは、中空粒子の殻に捕捉されてはいるが埋め込まれてはいないため、中空粒子は独自の特性、例えば選択的透過性、頑強性及び伝導性を有する殻を有していてよい。中空粒子内部に電子の蓄積はなく、電子の輸送は外側殻を介して進行する。中空粒子は好ましくは、酵素、好ましくは、グルコースをグルコノラクトンに変換し、電子を放出することが可能な酵素グルコースオキシダーゼを含有する。電子を放出し、本発明の造影剤に使用可能な化学反応を触媒することが知られる、多くの酵素が存在する。ゆえに、このバイオバッテリーは、リガンドに連結すると画像診断に使用可能であり、例えばMRIにおける向上した診断用画像化をもたらす。
【0012】
好ましい一実施形態によれば、本発明は、少なくとも1つのリガンドが、親和性結合分子、抗体、ミニボディ、FAB断片、リガンドタンパク質、ペプチド、RNA、小分子及びナノ粒子からなる群から選択される1つ又は複数である、造影剤に関する。腫瘍は、モノクローナル抗体、リガンドタンパク質、ペプチド、RNA、及び小分子の広範な集積により標的化されうる。治療的標的化に加えて、これらの化合物の一部は、放射性核種及び/又は近赤外蛍光色素とのコンジュゲーション後に、術前又は術中の腫瘍可視化に適用されてもよい。これらの腫瘍標的化化合物の大部分は、細胞膜結合タンパク質に対し指向される。各種カテゴリーの標的化可能な膜結合タンパク質、例えばアンカータンパク質、受容体、酵素、及び輸送体タンパク質が存在する。
【0013】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は、少なくとも1つのリガンドが、腫瘍細胞膜タンパク質、PSMA、FAP、CAIX、SSTR、αvβ3インテグリン、ボンベシンR、CEA、CD13、CD44、CXCR4、EGFR、ErbB-2、Her2、Emmprin、エンドグリン、EpCAM、EphA2、葉酸、GRP78、IGF、マトリプターゼ、メソテリン、cMET/HGFR、MT1-MMP、MT6-MMP、Muc-1、PSCA、Tn抗原及びuPAR、好ましくはPSMA、FAP、CAIX、及び/又はSSTRからなる群から選択される特定の細胞膜タンパク質に結合することができる、造影剤に関する。概して、腫瘍又は腫瘍関連細胞上に過剰発現される大部分の膜タンパク質が、腫瘍を標的とした画像化に潜在的に好適であり、本発明の造影剤に使用される好適なリガンドの選択に使用可能である。
【0014】
更に別の好ましい実施形態によれば、本発明は、少なくとも1つのリガンドが、ベータ粒子放出同位体、アルファ粒子放出同位体、オージェ電子放出同位体、フルオロフォア、F-18、Ga-68、Zr-89、Cu64、I-124、Tc-99m、In-111、及びI-123からなる群から選択される、放射性核種及び/又は近赤外蛍光色素と更にコンジュゲートしている、造影剤に関する。リガンドが、例えば放射性同位体又はフルオロフォアと更にコンジュゲートしている場合、MRI造影剤は、例えばPET及びSPECT画像化技術における使用、並びに光線力学的療法及び画像化目的における使用に好適である。
【0015】
更に別の好ましい実施形態によれば、本発明は、前記外側ポリマー殻のポリマーが、疎水性のポリスチレン及び親水性のポリイソシアノペプチドを含むブロックコポリマーである、造影剤に関する。中空粒子は、小胞(vesicle)、好ましくは外側殻を形成する両親媒性分子から構成されるポリマーソームである。ポリマーソームは、ポリマー両親媒性構成ブロックから構築される小胞であり、硬さ及び電子を伝導する能力等の独自の特性を有しうる。中空粒子は、電子を容易に伝導することが可能な伝導性ポリマー、好ましくはブロックコポリマーから構成される。好ましくは、ブロックコポリマーは、ポリスチレン-b-ポリ(L-イソシアノアラニン(2-チオフェン-3-イル-エチル)アミド)(PS-PIAT)を含む。好ましくは、ブロックコポリマーに存在する側基は重合しており、より好ましくは、ポリスチレン-b-ポリ(L-イソシアノアラニン(2-チオフェン-3-イル-エチル)アミド)の側鎖中に存在するチオフェン側基が重合している。PS-PIATは水中で、非常に安定で十分に定義されたポリマーソームを形成することができ、酵素は、PS-PIATから構成される小胞の水性の内部区画内にうまく組み込まれうる。
【0016】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は、酸化還元反応触媒酵素がグルコースオキシダーゼ(GOx)であり、基質がグルコースであり、好ましくはGOxが西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)との組み合わせである、造影剤に関する。好ましいGOx及びHRPはカソードに存在する。電気化学反応は、GOxによる、ss-D-グルコースのD-グルコノ-l、5-ラクトンへの変換である。この反応中、ナノキャリア導電体(例えば官能化されたカーボンナノチューブ又はAuナノ粒子)又は中空粒子の殻を介して、及び伝導性の外側殻及び/又はコンジュゲートしたリガンドを介して輸送された2つの電子が放出される。バイオカソード及びバイオアノードから構成されるナノ燃料電池のin vivo適用についての具体的な問題は、血液中の溶解した酸素の低い濃度である。遊離O2濃度は、空気飽和したex vivo電解質と比較して、血液中ではほぼ5分の1であり、唾液中では10分の1である。酸素分子の大部分は、ヒト血管系においてヘモグロビンに結合しているか、又は様々な酵素反応中に消費される。オキシダーゼ(ラッカーゼ及びビリルビンオキシダーゼを含む)は、それらの、高い開始電位で酸素の電極触媒的(electrocatalytic)還元を達成する能力により、酵素カソードに従来利用される。反対に、in vivo適用におけるそれらの使用は、必要な酸性の最良のpH値により限定される。それに加えて、そのようなバイオカソードは、H2O2濃度の増大による阻害、及び塩素イオン等の阻害剤による失活により引き起こされる不安定性を被る。この問題を克服するため、in-vivo適用に好適な本発明の造影剤は、カソード電極表面(例えばCNT表面)への、グルコースオキシダーゼ(GOx)及び西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)の共固定化から構成されていてよい。この場合、GOxはグルコースの酸化からH2O2を生成し、HRPは、直接電子移動(DET)により、低い過電圧で、H2O2から水への電極触媒的還元を達成する。そのような二酵素カソード設計は、in vivo酸素不足環境における、酵素カソードの不安定性に関連する問題を軽減しうる。したがって、酵素の選択及びEGFCにおけるそれらの固定化は、膜分離の必要性を回避する、酸素還元及びグルコース酸化についての選択性に関して、本発明の造影剤における使用のためのナノ燃料電池の設計における重要な課題を示す。GOx及び西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)の組み合わせをベースとするバイオカソードに二酵素的手法が採用される一方で、バイオアノードの設計はグルコースオキシダーゼ(GOx)の使用に焦点を当てる。1,4-ナフトキノン(NQ)を介した媒介電子移動を使用するバイオアノードとして、GOxを使用した。カソード及びアノードはともに、リガンドの最良の連結のための固定化媒体として、各種カーボンナノチューブ形態(多層カーボンナノチューブMWCNT又は単層カーボンナノチューブSWCNT)を利用してよい。
【0017】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は、カソード及び/又はアノードが、酸化還元反応触媒酵素で酵素コーティングされており、好ましくはカソード及び/又はアノードが、グルコースオキシダーゼ(GOx)、より好ましくは西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)と組み合わせたGOxでコーティングされている、造影剤に関する。
【0018】
更に別の好ましい実施形態によれば、本発明は、ナノ燃料電池が、アノード電極にメディエーターとしてナフトキノン(NQ)を更に含むか、又はナノ燃料電池がアミノ酸、好ましくはヒスタミンを更に含む、造影剤に関する。触媒とキャリアとの間の直接電子移動(DET)は、酵素がタンパク質マトリックス内に埋まったその触媒部位を有するためしばしば妨害され、そのことが、酸化還元部位を遮断し最終的にDETを阻止する可能性がある。DETにおいて、電池電圧は、妨害された電荷移動、物質輸送又は抵抗損失により引き起こされる過電圧により低減されうる。問題を軽減するには、媒介電子移動(MET)機序の利用を検討することができる。しかし、一部のメディエーターは健康被害を示すか、又はin-vivo環境での化学的劣化を受けやすい。それに加えて、METベースの機構では、酵素とメディエーターとの間の一定の電位差が説明されなければならず、このことが通常、電池電圧の損失につながる。ナフトキノン(NQ)は、グルコースの効率的な媒介酸化に触媒的電流密度のほぼ一桁の増大をもたらすことが知られているため、NQを使用することにより困難が克服される。1,4-ナフトキノン又はパラ-ナフトキノンは、ナフタレンに由来する天然の有機化合物である。1,4-ナフトキノンは、植物、動物、真菌及び細菌のありふれた代謝物である。1,4-ナフトキノンの更なる利点は、それらの生体適合性である。更に、ヒスタミンは、少なくとも脳及び/又は脊髄に対する神経伝達物質、並びにこれらの細胞に対する結合剤として作用し、それによりMRI診断における使用のための造影剤の出力信号を更に向上及び強化することから、ヒスタミン等のアミノ酸が、ナノ燃料電池と組み合わせて使用可能である。
【0019】
好ましい一実施形態によれば、本発明は、中空粒子が、フェロセン及び/又はビオロゲン誘導体から構成される導電性マトリックスに埋め込まれている、造影剤に関する。懸濁液及び/又はナノ電極は、電子輸送を推進するため、フェロセン誘導体及びビオロゲン誘導体等の電子キャリアを含んでいてよい。
【0020】
更に別の好ましい実施形態によれば、本発明は、MRI画像化造影剤である、造影剤に関する。造影剤は、CT、PET及びSPECTからなる群から選択される医用画像診断に更に好適である。
【0021】
更に別の好ましい実施形態によれば、本発明は、少なくとも1つのリガンドに連結した前記ナノ燃料電池が、粒径およそ20~400nm、好ましくは50~250nm、より好ましくは75~200nmを有する、造影剤に関する。粒径が20nmより小さければ、患者の肝臓は患者から造影剤をあまりに迅速に除去し、有効な造影剤とならない。
【0022】
更に別の好ましい実施形態によれば、本発明は、カソード及びアノードが、少なくとも1つのリガンドをナノ燃料電池に連結させるため、炭素、好ましくは単層若しくは多層カーボンナノチューブ(SWCNT又はMWCNT)、及び/又は金属ナノ粒子、好ましくは金ナノ粒子から構成される、造影剤に関する。本発明の造影剤は、予期された酸化還元反応が起こることを確実にするため、触媒から負荷への電子移動をもたらす必要があるナノ燃料電池から構成される。ゆえに、カソード及びアノードにおける炭素(例えばカーボンナノチューブ-CNT)及び/又は金属(例えば金)ナノ形成物が、最良の電子移動を確実にするための最も好適な候補である。多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を含むカーボンナノチューブ(CNT)は、それらの特異性の高い表面及び高い伝導性、並びにそれらの、一部の種類の酸化還元酵素に対する直接電子移動(DET)特性により、好ましい物質でありうる。
【0023】
好ましい一実施形態によれば、本発明は、少なくとも1つのリガンドが、ナノ燃料電池への安定な非共有的連結のため、好ましくは多層カーボンナノチューブ(MWCNT)との連結のため、ピレニル残基を含む、造影剤に関する。カソード及びアノードはともに、好ましくは、固定化電子伝導性媒体としての多層カーボンナノチューブ(MWCNT)から構成される。PSMA、FAP及びsstr2阻害剤等のファーマコフォアを含む特異的細胞膜タンパク質に結合することができるリガンドをMWCNTに結合させるため、リガンドは好ましくはピレニル残基により誘導体化され、これがカーボンナノチューブと非常に安定な非共有結合を形成する。このことは、一方ではリガンド又はファーマコフォア基は十分な力で結合するが、依然として強力な標的結合機能を有することができ、他方ではこの強力な標的が、適切な酵素のナノ電極への結合を妨害又は阻止するべきではないことを可能及び確実にするため、例えば、誘導体化試薬としてピレニル酪酸の活性エステルを使用して達成可能である。これらの結合親和性を更に改善するため、複合性炭素/金ナノキャリアの適用が使用されてよい。この場合、直交コンジュゲーション方法、例えば、リポ酸修飾されたファーマコフォアによるAu選択的誘導体化、又はまずAuナノ成分のチオール誘導体化、それに続く、例えばマレイミドで置換されたファーマコフォアの選択的結合及びその後の、酵素の、複合物のナノカーボン部分へのコンジュゲーションが、多層カーボンナノチューブの装飾に使用可能である。
【0024】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は、外側ポリマー殻が、Ag、Au、Pt、Ti、好ましくはAuからなる群から選択される金属粒子でコーティングされている、造影剤に関する。造影剤、又はより具体的にはナノ燃料電池の外側殻は、ナノ燃料電池を含む造影剤の、腫瘍細胞表面への選択的結合を更に改善するため、例えば金(Au)粒子を使用する表面改質により(例えばチオールキャッピングされたAuナノ粒子を生成することにより)、金属粒子でコーティングされていてもよい。
【0025】
本発明は、第2の態様によれば、腫瘍細胞の可視化のための画像化方法であって、
a)本発明の造影剤を患者に投与する工程、
b)造影剤の活性化をもたらし、医用画像化技法により検出可能な電子流を発生させるため、グルコースを前記患者に投与する工程、
c)医用画像化技法を使用して造影剤の画像を得る工程
を含む、画像化方法に関する。
【0026】
更に別の好ましい実施形態によれば、本発明は、医用画像化技法が、MRI、磁気測定的画像化(Magnetometric imaging; MEG)、CT、PET及びSPECT、好ましくはMRIからなる群から選択される、方法に関する。
【0027】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は、前記造影剤が、前記造影剤を前記患者に投与した後、1~90分、好ましくは5~75分、より好ましくは10~60分間、画像診断により検出可能である、方法に関する。造影剤を投与した後、基質、すなわちグルコースは、透過性かつ導電性の外側ポリマー殻を通過し、かつ/又はナノ燃料電池の両方の電極に送達され、それにより、酵素反応及びMRIにより検出できる、腫瘍により提示される負荷(load)を介した電子の放出を開始させる。この反応及び検出は最大90分間維持されMRIによりモニタリングされてよく、その後信号が徐々に弱まる。
【0028】
本発明は、更なる一態様によれば、腫瘍細胞又はマクロファージの非侵襲性治療のための方法であって、
a)本発明の造影剤を患者に投与する工程、
b)過量のグルコースを前記患者に投与して、腫瘍細胞又はマクロファージの感電死及び/又はエレクトロポレーションをもたらす工程
を含む、方法に関する。
【0029】
画像化目的に次いで、造影剤は、エレクトロポレーションによる腫瘍破壊又は腫瘍の感電死に使用可能である。燃料電池は特定の位置で電流を放出するため、より強力な電流を放出して、腫瘍細胞の感電死又は焼灼、及び部位特異的な破壊(すなわち腫瘍細胞の細胞表面での)を可能にする可能性ももたらしうる。現時点では、いわゆるIRE(不可逆エレクトロポレーション)で腫瘍細胞が感電死させられ、その場合数本の針が前立腺がんの周囲に挿入され、次いで腫瘍が選択的に破壊される。本発明の造影剤を使用して類似の方法が可能であり、ナノ燃料電池が、細胞膜又はマクロファージへの特異的結合のためのリガンド、例えばPSMAに連結しており、このようにして前立腺腫瘍又はマクロファージを感電死させる。添加される過量のグルコースは、供給されるグルコースの量が、本発明の造影剤による最大の電子発生のための、患者の最大のグルコースレベルに近くなるような量である。グルコースの量を増大させることに加えて、外部エネルギーの適用(例えば電波、AIDの電流等の電流、超音波)が、ナノ燃料電池を「充電」し、即時放電を誘導することができる。そうするとナノ燃料電池は「導体」のように作用する。前立腺腫瘍細胞の破壊についての本発明の方法は、ベータ線(Lu-PSMA療法)又はアルファ線(Ac-PSMA療法)を使用する、前立腺がんについての既存の破壊方法と比較可能である。腫瘍細胞は、治療される特定の部位で、腫瘍細胞特異的なリガンドに連結した燃料電池を使用する感電死により非侵襲的に破壊されるため、手術の必要がない。
【0030】
本発明は、以下の実施例及び図において更に詳述される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】好ましくは腫瘍細胞の、細胞膜への特異的結合のための少なくとも1つのリガンドに連結したナノ燃料電池の概略図である。板は電極を表すものであり、それらのうちの上側はカソードであり、下側の板はアノードである。中空粒子が丸として表され、それらのうちの1つが図の右側に拡大される。中空粒子は、電子を容易に伝導することができ、同時に、前記粒子内部の酵素のための捕捉された小胞を供給する、基質透過性且つ導電性の外側ポリマー殻から構成される。中空粒子は、酵素、好ましくはグルコースをグルコノラクトンに変換し、電子を放出することが可能な酵素グルコースオキシダーゼを含有する。基質、例えば、中空粒子に捕捉されているか又は別の実施形態ではナノ燃料電池の電極にコーティングされていてよい酵素グルコースオキシダーゼの基質である、酵素的に処理されるグルコースとの接触後、電子がナノ燃料電池から放出される。少なくとも1つのリガンド(例えば特定の抗体)が、特定の細胞膜タンパク質、好ましくは腫瘍細胞膜タンパク質に結合することができる。
【
図2】体内の腫瘍細胞の検出のためのMRI装置内の、画像化中に投与される本発明の造影剤のIV注入を有する患者を示す図である。
【
図3】本発明の造影剤の作用原理を示す図である。
図3aは、様々な細胞受容体を有する腫瘍細胞を示し、細胞受容体のうちの1つが腫瘍特異的である(三角で示される)。本発明の造影剤は、この腫瘍細胞への特異的結合ためのリガンドを含む。
図3bは、本発明の造影剤が、基質、例えばナノ燃料電池内部のグルコースオキシダーゼにより酵素的に処理されるグルコースにより活性化され、細胞膜に沿って電子流を発生させることを示す。
図3Cは、造影剤がグルコースにより活性化され、電子流(電流)を発生させると、MRIスキャン中、この電子の発生が検出され、MRI画像において腫瘍細胞の特定の存在及び位置を示すことを示す。
【
図4】GOx及び西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)の組み合わせをベースとするバイオカソードに二酵素的手法が採用される一方で、グルコースオキシダーゼ(GOx)の使用に焦点を当てる造影剤のバイオアノードの設計についての概要を示す図である。1,4-ナフトキノン(NQ)を介した媒介電子移動を使用するバイオアノードとして、GOxを使用した。カソード及びアノード(左及び右)はともに、少なくとも1つのリガンドをナノ燃料電池に連結させるため、固定化媒体として多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を利用する。提案されるnEGFCの作用が例示される;MWCNT支持体上のGOx及びナフトキノン(NQ)メディエーターの同時の閉じ込めにより生み出されるバイオアノードにおけるグルコースの電極触媒的酸化。バイオカソードの作用は、相乗的な二酵素的作用をベースとする-(i)グルコース酸化を介する、GOxによるO2還元を介したH2O2の生成、及び(ii)MWCNTに直接固定されたHRPによる、低過電圧での生成されたH2O2の還元。
【
図5】GOx(アノード)、GOx及びHRP(カソード)を含む酵素でコーティングされる前後の、多層カーボンナノチューブMWCNTから構成される電極の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【実施例】
【0032】
ナノ燃料電池及びリガンドから構成されるMRI造影剤の生成
中空粒子への、グルコースオキシダーゼGOx酵素の封入を、リン酸緩衝液(20mM、pH7.0)中で溶解させた48mg/l GOxの溶液を調製することにより実施した。この溶液中に、ポリスチレン-b-ポリ(L-イソシアノアラニン(2-チオフェン-3-イル-エチル)アミド)(PS-PIAT)のテトラヒドロフラン(THF)中1.0mg/ml溶液を注入し、最終緩衝液をTHF比6:1(v/v)にした。遊離酵素を、Sephadex G-50及び溶出剤としてのリン酸緩衝水溶液(pH7.5)を使用するサイズ排除クロマトグラフィーにより除去した。
【0033】
次に、30mg/lカンジダ・アンタークティカ(Candida antarctica):リパーゼB(CALB)0.20ml及び1.3μMビス(2,2'-ビピリジン)ルテニウム(II)ビス(ピラゾリル)(BRP)1.0mlの水溶液を作製し、そこに、THF中に0.50g/l PS-PIATを含有する溶液0.10mlを注入して、最終水/THF比12:1(v/v)とすることにより、PS-PIATポリマー膜の架橋を行った。存在するチオフェン基の量(2x10-7M)に相当するBRPの濃度を選択した。それに続いて、分散体を60℃のウォーターバス中に所望の期間配置した。室温まで冷却した後、分散体0.50mlを、カットオフ100kDaのフィルターユニットを有するエッペンドルフに移した。分散体を乾燥状態まで遠心処理し、その後純水0.50mlを添加し、分散体を乾燥状態まで再度遠心処理した。この工程を2回繰り返した後、水0.50mlを添加して、架橋した凝集物を再分散させた。
【0034】
約1~2cm3の狭い(confined)反応チャンバーが、グルコースオキシダーゼを含有する小胞の水ベースの分散体で満たされる。「燃料」グルコースは、比較的高濃度までこの分散体中に溶解されてよい。2つの電極(例えば酸化インジウムスズ(ITO)から構築される)が反応チャンバーの上部及び下部に取り付けられ、電圧を印加すると、燃料電池で発生した電子が外部コンデンサーに輸送され、そこから定電流が得られる。
【0035】
in-vivo適用のための、ナノ酵素的グルコース燃料電池(nEGFC)に対する電気化学的分析
多数のナノ次元電極(アノード及びカソード)が、標的化された腫瘍に、その表面で自己組織化することを意図して送達され、血流への静脈内投与により統計上有意な数のナノ酵素的グルコース燃料電池(nEGFC)を形成する。これらのnEGFCは、PSMA等の特異的な抗体/リガンドコンジュゲーションを介して、がん組織に選択的に結合しうる。そのようにして、軟部がん組織は、形成されたnEGFCを放電させるための電気的負荷として機能する。生じた電流は、MRI画像化解像度を増強し、更に治療上の役割を果たす(十分に高電流で)。
【0036】
この実験では、GOx及び西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)の組み合わせをベースとするバイオカソードに二酵素的手法が採用される一方で、バイオアノードの設計はグルコースオキシダーゼ(GOx)の使用に焦点を当てる。1,4-ナフトキノン(NQ)を介した媒介電子移動を使用するバイオアノードとして、GOxを使用した。カソード及びアノードはともに、固定化媒体として多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を利用する。提案されるnEGFCの作用が
図4に例示される。以下の式1は、MWCNT支持体におけるGOx及びナフトキノン(NQ)メディエーターの同時の閉じ込めにより生み出されるバイオアノードにおけるグルコースの電極触媒的酸化を表す。バイオカソードの作用は、相乗的な二酵素的作用をベースとする-(i)グルコース酸化を介する、GOxによるO
2還元を介したH
2O
2の生成(式2);(ii)MWCNTに直接固定されたHRPによる、低過電圧での生成されたH
2O
2の還元(式3)。
アノード:
グルコース→グルコノラクトン+2e-+2H+(グルコースの電極触媒的酸化) (1)
カソード:
O2+2e-+2H+→H2O2(GOxによるH2O2の生成) (2)
H2O2+2e-+2H+→2H2O(HRPによるH2O2の電極酵素的(electroenzymatic)還元) (3)
【0037】
材料及び方法
酵素、HRP(1000Umg-1)及びGOx(220Umg-1)はともに、SERVA社から購入した。1,4-ナフトキノン(NQ)、D-(+)グルコース及びPBS緩衝液は、Sigma Aldrich社から購入した。前駆物質は受け取ったまま使用した。多層カーボンナノチューブMWCNT(純度90%超)は、ケンブリッジ大学の材料科学冶金学科内の研究プロジェクト由来であった。
【0038】
Bio Logic VNP3B-5電気化学ワークステーションを使用して、3電極電気化学電池構成において電気化学的実験を実施した。白金線を対電極として使用し、Ag/AgClが参照電極として機能した。ここで与えられる電位は、Ag/AgCl電極に対して参照される。実験は全て、約37℃の、pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS:0.02Mリン酸緩衝液)中で行った。
【0039】
MWCNT電極の形態を、高解像度FEI Nova Nano SEMにより調査した。ナノ電極インク懸濁液を、2つのカーボンフェルト電極{面積約1cm2)に滴下により投入した。電極を、Leit-Cカーボンペイント(Sigma-Aldrich社)を使用する金電流路に取り付けた。金電極をガラス基板に内部でスパッターさせた。
【0040】
電極を生成した、簡潔に言えば 30ミリグラムのMWCNT(30mg)を、超純水3ml中で30分間超音波処理した。生じた懸濁液を1.5mlの2つの等しい部分に分割し、1500rpmで更に30分間磁力的に撹拌した。GOx(3mg)及びNQ(1.5mg)をアノードインクに添加した。HRP(3mg)及びGOx(0.3mg)をカソードインクに添加した。撹拌から1h後、懸濁液を別々のマイクロ遠心管に移し、5000rpmで10分間遠心処理した。次いで上清100μLを、2つのカーボンフェルト電極の各々に滴下により投入した。電極をホットプレート上で、40℃で30分間乾燥させ、GOx/NQアノード及びHRP+GOxカソードを生じさせた(
図5を参照のこと)。両バイオ電極を、PBS緩衝液中10mMグルコース溶液の存在下でpH7で試験した。
【0041】
酵素的グルコース燃料電池(EGFC)が、MRI画像化すなわちPSMA-PET-CTにおける使用のため、リガンド、より具体的にはPSMAに連結される。ナノ燃料電池は単層又は多層カーボンナノチューブ(SWCNT又はMWNT)から構成され、そこにPSMAリガンド(ファーマコフォア)が以下の通り結合される:SWNTが、グルコースオキシダーゼ(GOx)及び西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)の共固定化が実施される前に、(4-ピレニル)ブタノイル-PEG-Lys-CO-gluにより処理される。(4-ピレニル)ブタノイル-PEG-Lys-CO-gluの量は、固定化されたPSMAリガンドが酸化還元酵素の固定化を阻止しないように、かつ標的に対する十分な結合親和性が維持されるように最適化されなければならない。
【0042】
代わりに、既に組織化された電極が、アミン反応性TfpO2C-PEG-Lys-CO-Gluにより処理される。リガンドコンジュゲーションを、GOx及びHRPの酵素活性を顕著に妨げないが、十分な数のPSMA結合部位を供給するように最適化した。
【0043】
結果
次いでナノバイオ燃料電池を、外部可変抵抗器(10~0.5kΩ)を介しての可変負荷放電により特徴付けた。腫瘍組織の抵抗値が、文献において約100Ω~数kΩの間で変動して報告されたことに留意されたい。開回路電圧(OCV)370~390mVが、約1.5時間の安定化後に初めに観察された。可変負荷下での放電は、20μA~6μAの範囲の電流を記録した。OCVは、10mMグルコース溶液中での一晩の放電後に約250mVに低下した。そのような約30%のOCV電圧低下は、グルコース溶液のわずかな不明瞭化(obfuscation)を伴い、インクの部分的浸出を明示した。
【0044】
次に、実験セットアップからの容量の寄与を回避するため、サイクリックボルタンメトリー(CV)実験を低速のスキャン速度(1mV/s)で実施した。サイクリックボルタンメトリーは、電極の電気化学的特性を研究するために使用される。3電極構成におけるCVを使用して、一晩の作動後の、アノードによるグルコース酸化及びカソードによる酸素還元についてのバイオ電極触媒電流密度を評価した。pH7.4の0.1mMグルコース溶液の存在下での、MWCNTに固定化されたアノード(GOx/NQ)及びカソード(HRP+GOx)インクの低速スキャンCV応答をモニタリングした。最大定常電流密度約970μAcm-2がアノードについて観察される。最大定常電流密度約370μAcm-2が、二酵素カソードによる酸素還元について観察された。
【0045】
科学論文が、MRIによる、ニューロンを介した電界変動の検出を開示する。神経線維における神経電気的活性により誘導される電流密度と同じ桁数の電流密度を有するイオン電流が、MRIにより検出できる。Truongら2006、Journal of Magnetic reason.、3月;179(1)85~91頁は、MRI検出の下限が約1~10マイクロAであること、及び単一のニューロンによって発生する電流が、その直径、一般的には104~105ニューロン/mmに応じてナノアンペアのオーダーであり、数十μAmm-2オーダーの電流密度を発生させることができることを開示する。このことは、少なくとも300μAcm-2を生成する、MRIにおいて印加される磁場強度でのナノ酵素的グルコース燃料電池(nEGFC)と適合する。
【国際調査報告】