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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ガス感知装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/03 20060101AFI20240709BHJP
   G01N 21/3504 20140101ALI20240709BHJP
【FI】
G01N21/03 B
G01N21/3504
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580823
(86)(22)【出願日】2022-06-28
(85)【翻訳文提出日】2024-02-27
(86)【国際出願番号】 EP2022067691
(87)【国際公開番号】W WO2023280633
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】21183799.2
(32)【優先日】2021-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518190282
【氏名又は名称】ウニヴェルシテート・ウィーン
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136744
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 佳正
(72)【発明者】
【氏名】プッツ,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】トゥルプケ,ミヒャエル
【テーマコード(参考)】
2G057
2G059
【Fターム(参考)】
2G057AA01
2G057AB01
2G057AB02
2G057AC03
2G057BA05
2G057DA03
2G057DA15
2G057DB03
2G059AA01
2G059BB01
2G059EE01
2G059EE11
2G059GG01
2G059GG02
2G059JJ14
2G059KK09
2G059LL01
2G059LL03
2G059MM05
2G059MM14
(57)【要約】
ガス感知装置が提供される。ガス感知装置は、本体内に形成され、1対のマイクロミラーを備える、試験チャンバを備える。1対のマイクロミラーのうちの一方は本体の第1の表面上に配置され、1対のマイクロミラーのうちの他方は本体の第2の表面上に配置され、光学キャビティを形成する。光入口は、光を光学キャビティ内に結合するように配置され、光出口は光学キャビティから光を受け取るように配置される。ガス入口は、検出器の外部からのガスが試験チャンバに入ることができるように構成される。ガス感知装置と、発光システムと、光検出システムとを備えるガス検出器も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス感知装置であって
本体内に形成された試験チャンバであって、前記試験チャンバが1対のマイクロミラーを備え、前記1対のマイクロミラーのうちの一方が前記本体の第1の表面上に配置され、前記1対のマイクロミラーのうちの他方が前記本体の第2の表面上に配置され、前記1対のマイクロミラーが光学キャビティを形成する、試験チャンバと、
光を前記光学キャビティ内に結合するように配置された光入口と、
前記光学キャビティから光を受け取るように配置された光出口と、
前記装置の外部からのガスが前記試験チャンバに入ることができるように構成されたガス入口と
を備える、ガス感知装置。
【請求項2】
前記光学キャビティが、少なくとも10000、または少なくとも50000、または少なくとも100000、または少なくとも250000、または少なくとも500000の光学フィネスを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記1対のマイクロミラーのうちの一方または両方のマイクロミラーが湾曲している、請求項1または請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記本体が第1の部分および第2の部分を含み、前記試験チャンバが前記第1の部分と前記第2の部分との間に形成され、前記第1の表面が前記第1の部分の表面であり、前記第2の表面が前記第2の部分の表面である、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記第1の部分が第1の基板であり、前記第2の部分が第2の基板であり、前記本体が、前記第1の基板と前記第2の基板とを分離する間隔構造をさらに含む、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記試験チャンバが複数の対のマイクロミラーを備え、各対のマイクロミラーのうちの一方が前記第1の表面上に配置され、各対のマイクロミラーのうちの他方が前記第2の表面上に配置され、各対のマイクロミラーがそれぞれの光学キャビティを形成し、
前記光入口が、光を前記光学キャビティのうちの1つまたは複数内に結合するように配置され、
前記光出口が、前記光学キャビティのうちの1つまたは複数から光を受け取るように配置される、請求項1から5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記光入口が、光を前記光学キャビティのサブセット内に結合するように配置され、光学キャビティの前記サブセットが、前記ガス感知装置によって検出される1つまたは複数の対象ガス種に基づいて選択される1つまたは複数の光学キャビティを含む、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記光出口が、前記光学キャビティのサブセットから光を受け取るように配置され、光学キャビティの前記サブセットが、前記ガス感知装置によって検出される1つまたは複数の対象ガス種に基づいて選択される1つまたは複数の光学キャビティを含む、請求項6に記載の装置。
【請求項9】
前記試験チャンバが、前記ガス感知装置によって検出される1つまたは複数の対象ガス種のそれぞれに対して複数の対のマイクロミラーを備える、請求項6から8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記試験チャンバが、前記1つまたは複数の対象ガス種のそれぞれに対して2対以上、または5対以上、または10対以上のマイクロミラーを備える、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記ガス感知装置が、2種以上、または5種以上、または10種以上の対象ガス種を検出するように構成される、請求項6から10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記本体内に形成された基準チャンバをさらに備え、前記基準チャンバが、
1つまたは複数の対のマイクロミラーであって、各対のマイクロミラーが基準光学キャビティを形成する、1つまたは複数の対のマイクロミラーと、
光を前記基準光学キャビティのうちの1つまたは複数内に結合するように配置された光入口と、
前記基準光学キャビティのうちの1つまたは複数から光を受け取るように配置された光出口と
を備え、前記基準キャビティが、外部ガスに対して閉鎖されているかまたは密封可能である、請求項1から11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
本体が第1の部分および第2の部分を含み、前記基準チャンバが前記第1の部分と前記第2の部分との間に形成される、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記基準チャンバが、1つまたは複数の基準ガス種で充填可能である、請求項12または請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記基準チャンバが、前記試験チャンバ内の各対のマイクロミラーに対応する対のマイクロミラーを備える、請求項12から14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
前記試験チャンバおよび前記基準チャンバ内の対応する対のマイクロミラーの共振周波数が実質的に等しい、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記光学キャビティのうちの1つまたは複数の共振周波数を変更するように構成された光学キャビティ調整システムをさらに備える、請求項1から16のいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
前記光学キャビティ調整システムが、前記光学キャビティのうちの1つまたは複数の前記共振周波数を変化させるために、前記マイクロミラーおよび/または前記本体の温度を変化させるように構成される、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記マイクロミラーおよび/または前記本体が圧電材料を含み、前記光学キャビティ調整システムが、前記光学キャビティのうちの前記1つまたは複数の前記共振周波数を変化させるために、圧電材料に圧電制御信号を印加するように構成される、請求項17または請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記光学キャビティ調整システムが、前記光学キャビティのうちの1つまたは複数の前記共振周波数を監視し、監視された前記共振周波数に基づいて前記光学キャビティのうちの1つまたは複数の前記共振周波数を変更するように配置される、請求項17から19のいずれか1項に記載の装置。
【請求項21】
前記1つまたは複数の光学キャビティが、可視電磁範囲から近赤外電磁範囲での共振を有するように構成される、請求項1から20のいずれか1項に記載の装置。
【請求項22】
請求項1から21のいずれか1項に記載のガス感知装置と、
光を前記ガス感知装置の前記光入口内に伝送するように配置された発光システムと、
前記ガス感知装置の前記光出口から光を受け取るように配置された光検出システムであって、前記光検出システムが、受け取った前記光の強度を表す信号を生成するように構成される、光検出システムと
を備える、ガス検出器。
【請求項23】
前記発光システムが、光源および光学ファイバを備え、前記光学ファイバが前記光源からの光を前記光入口内に結合するように配置される、請求項22に記載のガス検出器。
【請求項24】
前記光検出システムが、1つまたは複数のフォトダイオードおよび1つまたは複数の光学ファイバを備え、前記1つまたは複数の光学ファイバが、前記光出口からの光を前記1つまたは複数のフォトダイオード上に結合するように配置される、請求項22または23に記載のガス検出器。
【請求項25】
前記発光システムおよび/または前記光検出システムが前記ガス感知装置に組み込まれる、請求項24に記載のガス検出器。
【請求項26】
ガス検出システムをさらに備え、前記ガス検出システムが、前記光検出システムから前記光の前記強度を表す前記信号を受信し、光源からの光のうち前記ガス感知装置に吸収された光の割合を特定するように構成される、請求項22から25のいずれか1項に記載のガス検出器。
【請求項27】
前記検出システムが、前記ガス感知装置に吸収された前記光における吸収された光の前記割合に基づいて、1つまたは複数の対象ガスが前記試験チャンバ内に存在するかどうかを判定するように構成される、請求項26に記載のガス検出器。
【請求項28】
前記検出システムが、前記チャンバ内に存在する前記1つまたは複数の対象ガスの濃度を特定するように構成される、請求項27に記載のガス検出器。
【請求項29】
環境内の対象ガス種の存在を検出する方法であって、
請求項1から21のいずれか1項に記載のガス感知装置を、前記環境からのガスが前記装置の試験チャンバに入るように前記環境内に位置付けるステップと、
前記ガス感知装置の光学キャビティ内に光ビームを入力するステップと、
前記光学キャビティを出る前記光を検出するステップと、
検出された前記光を分析して、前記対象ガス種が存在するかどうかを判定するステップと
を含む、方法。
【請求項30】
検出された前記光を分析するステップが、
前記光学キャビティ内で吸収された光の量を特定すること、
前記光学キャビティの共振周波数におけるシフトを検出すること、
前記光学キャビティのリングダウン時間の変化を検出すること、および
前記光学キャビティの線幅の変化を検出すること
のうちの少なくとも1つを含み、
前記対象ガス種が存在するかどうかを判定するステップが、
前記光学キャビティ内で吸収された前記光の量、
共振波長のシフトの大きさ、
前記リングダウン時間の前記変化の大きさ、および
線幅の前記変化の大きさ
のうちの少なくとも1つに基づく、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記対象ガス種が存在するかどうかを判定するステップが、前記試験チャンバ内に存在する前記対象ガスの濃度を特定することを含む、請求項29または請求項30に記載の方法。
【請求項32】
対象ガス種の存在を検出する際に使用するためのガス感知装置を提供する方法であって、
第1の部分と第2の部分との間に試験チャンバを形成することによって前記ガス感知装置を構築するステップであって、前記試験チャンバが複数の対のマイクロミラーを備え、各対のマイクロミラーのうちの一方が前記第1の部分上に配置され、各対のマイクロミラーのうちの他方が前記第2の部分上に配置され、各対のマイクロミラーがそれぞれの光学キャビティを形成する、ステップと、
光を各光学キャビティ内に結合して各光学キャビティの共振周波数を特定するステップと、
特定された前記共振周波数を前記対象ガス種の吸収ピークの周波数と比較するステップと、
共振周波数と前記吸収ピークの前記周波数との比較に基づいて、前記複数の光学キャビティのうちの1つを選択するステップと、
選択された前記光学キャビティからの光を検出するように前記ガス感知装置を構成するステップと
を含む、方法。
【請求項33】
温度、圧力、および湿度のうちの1つまたは複数について前記装置を校正するステップをさらに含む、請求項32に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス感知装置、ガス感知装置を備えるガス検出器、および環境内の対象ガス種を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境内の1つまたは複数の対象ガスを検出および監視することが望ましい状況が多くある。一例は、大気中のメタン汚染およびガス漏洩を監視することである。メタン(CHまたは天然ガス)の20年間の地球温暖化係数(GWP-20)は、COと比較して80倍高く、世界のCH排出量の60%以上が人為的なものである。最大の発生源の1つは、放棄された油井およびガス井である。漏洩している坑井の数は世界中で3000万から4000万基あると推定されており、中には100年以上経過しているものもある。総漏洩量は、年間天然ガス生産量のパーセントレベルである。これは、地球温暖化を阻止するために取り組まれるべき地球規模の脅威である。しかしながら、メタンを燃焼させることにより発生するCO量は、石炭を燃焼させる場合の半分にすぎない。したがって、天然ガスは橋渡しエネルギー源と見なされているが、石炭をメタンに置き換えることにより利益を得るには、排出を防止しなければならない。メタン漏洩を監視することは、気候目標を達成するための重要な部分となる。しかしながら、現在の解決策は、費用がかかる上に感度が低い。
【0003】
ガス感知が重要であるさらなる分野は、水素などの流体中の過剰な炭化水素を検出することである。燃料電池は、気候変動に対抗するために必要とされるエネルギー革命の一部であると考えられている。燃料電池は水素を使用しており、将来的にはトラック、飛行機、および船舶に電力を供給する可能性がある。燃料電池の効率および寿命は電極の耐久性に依存する。燃料中のいかなる汚染も効率および寿命を低下させることになり、したがって、大きな問題である。水素ステーションは通常、燃料の品質を監視するために質量分析計に依存する非常に高価なセンサを使用する。
【0004】
さらに、漏れる冷媒は非常に高い地球温暖化係数を有するので、空調/冷却システムおよびヒートポンプの冷凍サイクルにおける冷媒漏洩の検出がますます必要になる。
【0005】
微量ガス検出は、呼気ガス分析による人間の健康監視における新興技法でもある。揮発性有機化合物の検出は、乳がんまたは小腸細菌の異常増殖のような重篤な病状の初期段階を診断するために使用される。小型で手頃な価格の個人用健康モニタは、将来的に急速に成長する市場および応用分野となる。
【0006】
ガス検出は、様々な物理的効果に依存する広範なデバイスにおいて実行され得る。光学的方法は優れているが、高精度の用途において技術的に実装することが困難である。光学的吸収により、代理効果も触媒効果も使用することなく、空気または任意の他の主要な雰囲気中の化学分子の濃度の直接的な測定および識別が可能になる。多くの化学物質(例えば、炭化水素)は、近赤外から中赤外(NIRからMIR)の波長領域の光を吸収する。必然的に最も強い吸収信号を与える基本吸収帯は、MIR範囲内にある。しかしながら、MIR波長での動作は、光源および検出器のコストが非常に高くつく。したがって、そのようなデバイスは強力であるが、コストおよび技術的オーバーヘッドの理由から、現場での使用および大規模な展開には好適ではない。
【0007】
高価で非実用的なMIR範囲での作業を回避するために、NIRのより高い吸収倍音(absorption overtone)でのガス分子の検出が使用される。最も大きい利点は、NIRが光通信波長領域と一致しており、低コストの構成要素ならびに高度に精緻な製造技法、レーザおよび検出器が利用可能であることである。ほとんどのNIRセンサは、プリント回路基板にすでに取り付けられているシングルパスセルにおいて赤外線吸収を測定するコンパクトな非回折ガスセンサである。しかしながら、市販のセンサは、数百パーツパーミリオン(ppm:parts per million)までのメタン濃度しか検出することができない。
【0008】
空気中のメタンの自然濃度は、1.87ppmであり、すなわち、コンパクトな最先端のNIRセンサの検出下限より2桁低い。これは、限られた数の用途にのみ、例えば爆発危険警告システムに有用であり、ガス漏洩によるメタン検出など、低濃度の検出が必要である重要な環境の監視には有用ではない。
【0009】
現在の光学リモートガスセンサはほとんどが、有効吸収長lがわずか数十センチメートルしかないシングルパスデバイスである。検出可能な吸収信号の強度は、減衰係数αおよび吸収長lに正比例する。吸収長は、光が検出器に当たる前に媒体を通過する距離である。減衰係数は、測定される量であり、大気中の微量ガス分子の濃度に関係する。入射光強度Iと透過光強度Iとの間の関係は、ベールランベルトの法則によって、吸収長lおよび吸収係数α=εcを用いて
I=I-αl
として表される。ここで、εはモル減衰係数、cは大気中の吸収分子の濃度である。自然に豊富に存在する(1.87ppm)メタンの場合、1650nmでの吸収係数はα≒1×10-6cm-1である。吸収長が10cm、レーザ強度が10mWの場合、レーザ強度の変化はわずか50nW程度になり、これは、レーザ強度の相対変化がわずか5ppmであることを意味し、50dBを超えるダイナミックレンジを必要とする。ノイズが存在する実際のシステムにおいてそのような小さい相対信号を検出することは非現実的である。主なノイズ源は、レーザ強度の変動および周波数の不安定性、電子的な読み出しノイズ、ならびに光学システムの機械的振動である。したがって、現在の解決策は、メタン検出および水素燃料監視などのガス感知用途に対して、必要とされる高感度および低コストの組合せを提供しない。
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、ガス感知を改善すること、および/または上記で説明された先行技術の課題のうちの1つまたは複数に少なくとも部分的に対処することである。
【0011】
本発明の第1の態様によれば、ガス感知装置が提供され、ガス感知装置は、本体内に形成された試験チャンバであって、試験チャンバが1対のマイクロミラーを備え、1対のマイクロミラーのうちの一方が本体の第1の表面上に配置され、1対のマイクロミラーのうちの他方が本体の第2の表面上に配置され、1対のマイクロミラーが光学キャビティを形成する、試験チャンバと、光を光学キャビティ内に結合するように配置された光入口と、光学キャビティから光を受け取るように配置された光出口と、検出器の外部からのガスが試験チャンバに入ることができるように構成されたガス入口とを備える。
【0012】
本明細書で使用される場合、マイクロミラーは、500μm以下、または100μm以下のウエストを有する光学ビームを反射するようにサイズ設定または配置されたミラーであってもよい。マイクロミラーの最大サイズ(例えば、幅または直径)は、500μm以下、または100μm以下であってもよい。マイクロミラーは平面を有してもよいが、曲面を有する(すなわち、曲面ミラーである)ことが好ましい。
【0013】
マイクロミラーにより、装置を微細加工によって形成することが可能になる。そのような微細加工されたデバイスは、小型で軽量のデバイスにおいて高感度の検出を実現することができる。光学キャビティは、装置の有効吸収長lを増加させ、装置の感度を高める。同時に、物理的に小さいキャビティは最小限の熱膨張しか受けないので、従来のシステムと比較して熱ノイズが低減される。したがって、光学キャビティの使用とミクロンスケールのミラーの使用とが組み合わされてより高い感度が達成され、高感度が不可欠であるメタン検出などの用途に装置を使用できるようになる。実際、本発明者らは、そのようなガス感知装置の感度限界が従来のコンパクトな光学ガスセンサよりも3桁高い可能性があることを見出した。
【0014】
したがって、ガス感知装置は、ポータブル(例えばハンドヘルド)ガス検出器の一部として使用されてもよい。ガス感知装置は、メタンなどの炭化水素の検出に特に適している可能性がある。特に、ガス感知装置は、コストおよびメタン漏洩の検出感度の点で従来の技術を上回る可能性がある。ガス感知装置は、水素中の過剰な炭化水素を検出するのにも有用である可能性がある。ガス感知装置は比較的低コストでサイズが小さいため、ガス感知装置を水素燃料電池に組み込んで、燃料品質のオンボードでの監視を実現することができる。
【0015】
いくつかの実施形態では、ガス感知装置は、空調/冷却システムまたはヒートポンプの一部であってもよい。装置は、ユニットの冷凍サイクルからの冷媒漏洩を検出するために使用されてもよい。将来、そのような実装が州規制当局によって要求される可能性がある。そのような用途は、本発明において可能な低コスト、小型フォームファクタの装置の恩恵を受ける。
【0016】
いくつかの実施形態では、ガス感知装置は、人間の呼気中の1つまたは複数のガスを検出するように構成された個人健康監視システムであってもよく、またはその一部であってもよい。例えば、人間の呼気中のメタンおよび揮発性有機化合物(VOC:volatile organic compound)を測定することによる呼気ガス分析が、病気の初期段階の検出のために使用されてもよい。代替として、この分析は、麻酔中の呼気ガスの監視および制御のために使用されてもよい。
【0017】
いくつかの実施形態では、光学キャビティはファブリペロー光学キャビティである。ファブリペローキャビティは、特にガスの感知に好適であり、キャビティの物理的な長さに比べて大きな有効吸収長を提供し、したがって装置の感度を向上させる。
【0018】
いくつかの実施形態では、本体は第1の部分および第2の部分を含み、試験チャンバは、第1の部分と第2の部分との間に形成され、第1の表面は第1の部分の表面であり、第2の表面は第2の部分の表面である。第1の部分は第1の基板であってもよく、第2の部分は第2の基板であってもよく、本体は、第1の基板と第2の基板とを分離する間隔構造をさらに備えてもよい。有利なことに、第1の部分、第2の部分、および/または間隔構造は、シリコンウェハから形成されてもよい。シリコンには、高品質で小規模な光学キャビティの形成を可能にする非常に高精度の製造プロセスが利用可能である。代替として、任意の他の半導体ウェハ、またはより一般的には任意の好適な材料が使用されてもよい。
【0019】
いくつかの実施形態では、試験チャンバは複数の対のマイクロミラーを備え、各対のマイクロミラーのうちの一方は第1の表面上に配置され、各対のマイクロミラーのうちの他方は第2の表面上に配置され、各対のマイクロミラーはそれぞれの光学キャビティを形成する。光入口は、光を光学キャビティのうちの1つまたは複数内に結合するように配置される。光出口は、光学キャビティのうちの1つまたは複数から光を受け取るように配置される。
【0020】
光学キャビティはマイクロミラーから形成されるので、多数の光学キャビティがすべて小さいフォームファクタの装置内に設けられてもよい。有利なことに、光学キャビティは、異なる共振周波数を有してもよく、ガスセンサが複数の対象ガス種を検出できるように、かつ/または、同じ対象ガスから複数の吸収ピークを検出できるようにする。さらに、複数の光学キャビティを設けることにより、意図する用途に最適なキャビティを選択することが可能になる。例えば従来のウェッジ型キャビティで行われているように、デバイスの一部を物理的に移動させることによって装置を能動的に走査する必要はない。したがって、本装置は受動デバイスと見なすことができ、装置の小型化が可能となる。
【0021】
いくつかの実施形態では、装置は、本体内に形成された基準チャンバをさらに備え、基準チャンバは、1つまたは複数の対のマイクロミラーであって、各対のマイクロミラーが基準光学キャビティを形成する、1つまたは複数の対のマイクロミラーと、光を基準光学キャビティのうちの1つまたは複数内に結合するように配置された光入口と、基準光学キャビティのうちの1つまたは複数から光を受け取るように配置された光出口とを備え、基準キャビティは、外部ガスに対して閉鎖されているかまたは密封可能である。
【0022】
基準チャンバは、平衡検出技法を使用してデバイスの感度をさらに高めることを可能にする。光学キャビティのサイズが小さいため、基準チャンバは試験チャンバに物理的に近い。したがって、機械ノイズ、レーザノイズ、および電子ノイズなどのいずれの過剰なノイズも、基準チャンバと試験チャンバとで非常に類似している可能性が高く、ノイズをより効果的に相殺することが可能である。さらに、基準キャビティは、温度、圧力、および湿度などの外部要因についてデバイスを校正することを可能にする。
【0023】
いくつかの実施形態では、装置は、光学キャビティのうちの1つまたは複数の共振周波数を変更するように構成された光学キャビティ調整システム(optical cavity tuning system)をさらに備える。いくつかのそのような実施形態では、光学キャビティ調整システムは、光学キャビティのうちの1つまたは複数の共振周波数を変化させるために、マイクロミラーおよび/または本体(またはその一部、例えば間隔構造)の温度を変化させるように構成される。代替としてまたは追加として、光学キャビティ調整システムは、光学キャビティのうちの1つまたは複数の共振周波数を変化させるために、マイクロミラーおよび/または本体(またはその一部、例えば間隔構造)の圧電材料に圧電制御信号を印加するように構成されてもよい。特定の実施形態では、すべての光学キャビティが同時に調整される。装置が基準チャンバを備える場合、基準光学キャビティも調整されてもよい。
【0024】
光学キャビティ調整システムは、光学キャビティの共振周波数を特定の範囲にわたって変化させることを可能にする。これにより、対象ガスの吸収ピーク付近を走査するなど、周波数範囲全体を走査する吸収測定が可能になる。これは、単一の周波数を検出する場合と比較して、ガスの識別においてより高い確実性を提供する可能性がある。
【0025】
いくつかの実施形態では、光学キャビティ調整システムは、光学キャビティのうちの1つまたは複数の共振周波数を監視し、監視された共振周波数に基づいて光学キャビティのうちの1つまたは複数の共振周波数を変更するように配置される。そのような実施形態により、例えば熱揺らぎに起因する変動を考慮するように光学キャビティを動的に制御して、装置の感度をさらに向上させることが可能になる。
【0026】
いくつかの実施形態では、1つまたは複数の光学キャビティは、可視電磁範囲から近赤外電磁範囲で、または近赤外電磁範囲で共振を有するように構成される。この範囲は、通信デバイスによって使用される範囲と一致する。通信デバイスにおいて使用されるレーザ源および検出器は、小型で電力効率が非常に高く、低コストである傾向がある。したがって、これらの周波数範囲を使用することにより、装置を容易に入手できる構成要素から構築することができ、これにより装置をより小型で、より安価で、より持ち運び可能にすることができる。
【0027】
本発明の第2の態様によれば、ガス検出器が提供され、ガス検出器は、第1の態様のいずれかの実施形態に記載のガス感知装置と、光をガス感知装置の光入口内に伝送するように配置された発光システムと、ガス感知装置の光出口から光を受け取るように配置された光検出システムであって、光検出システムが、受け取った光の強度を表す信号を生成するように構成される、光検出システムとを備える。
【0028】
いくつかの実施形態では、発光システムは、光源および光学ファイバを備え、光学ファイバは、光源からの光を光入口内に結合するように配置される。いくつかの実施形態では、光検出システムは、1つまたは複数のフォトダイオードおよび1つまたは複数の光学ファイバを備え、1つまたは複数の光学ファイバは、光出口からの光を1つまたは複数のフォトダイオード上に結合するように配置される。そのような実施形態は、遠隔感知用途に有用である場合がある。共通の光源および/または検出器は、ファイバによって複数の検出器に結合されてもよい。例えば、メタン漏洩を検出するために、油井の周囲に複数の検出器が位置付けられてもよい。これは、必要とされる光源(例えば、レーザ)および/または検出器が1つだけになるため、コスト効率の高い監視ソリューションを提供することができる。
【0029】
いくつかの実施形態では、発光システムおよび/または光検出システムはガス感知装置に組み込まれる。例えば、LEDまたはレーザダイオードが第1の部分に組み込まれてもよく、フォトダイオード検出器が第2の部分に組み込まれてもよい。そのような実施形態は、小型かつ軽量の形態の完全なガス検出器を提供する可能性がある。
【0030】
本発明の第3の態様によれば、環境内の対象ガス種の存在を検出する方法が提供され、方法は、第1の態様のいずれかの実施形態に記載のガス感知装置を、環境からのガスが装置の試験チャンバに入るように環境内に位置付けるステップと、ガス感知装置の光学キャビティ内に光ビームを入力するステップと、光学キャビティを出る光を検出するステップと、検出された光を分析して、対象ガス種が存在するかどうかを判定するステップとを含む。
【0031】
本発明の第4の態様によれば、対象ガス種の存在を検出する際に使用するためのガス感知装置を提供する方法が提供され、方法は、第1の部分と第2の部分との間に試験チャンバを形成することによってガス感知装置を構築するステップであって、試験チャンバが複数の対のマイクロミラーを備え、各対のマイクロミラーのうちの一方が第1の部分上に配置され、各対のマイクロミラーのうちの他方が第2の部分上に配置され、各対のマイクロミラーがそれぞれの光学キャビティを形成する、ステップと、光を各光学キャビティ内に結合して各光学キャビティの共振周波数を特定するステップと、特定された共振周波数を対象ガス種の吸収ピークの周波数と比較するステップと、共振周波数と吸収ピークの周波数との比較に基づいて、複数の光学キャビティのうちの1つを選択するステップと、選択された光学キャビティからの光を検出するようにガス感知装置を構成するステップとを含む。
【0032】
次に、添付の図面を参照して、実施形態を単なる例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】例示的なガス感知装置を図示する図である。
図2】ガス感知装置の分解図である。
図3】ガス感知装置を備えるガス感知デバイスを図示する図である。
図4】ファブリペロー光学キャビティのモードスペクトルを示す図である。
図5】1650nmにおけるメタンの吸収係数を示し、Siチャンバの熱膨張によって引き起こされる共振条件の変化を図示する図である。
図6a-b】メタン、二酸化炭素、および水の吸収係数を示す図である。
図7】ガス感知装置を提供する方法を図示する図である。
図8】複数のガス感知装置を製造するために使用されるウェハを図示する図である。
図9図8のウェハのダイから形成されたガス感知装置の各層を図示する図である。
図10】ガス感知装置を使用して対象ガスの存在を判定する方法を図示する図である。
図11(a)】坑井パッドの周囲に配置された複数の独立したガス感知装置の使用を図示する図である。
図11(b)】坑井パッドの周囲に配置された複数のガス感知装置を備えるガス感知デバイスの使用を図示する図である。
図12】1565nmでの例示的なキャビティを通る伝送の結果を示す図である。
図13】1573nmでの二酸化炭素の吸収特性を示す校正測定を示す図である。
図14】デバイス温度に対して描かれた温度校正データを示す図である。
図15】大気中のCO濃度の関数としての吸収測定コントラストを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、ガス感知装置1の一例を図示している。ガス感知装置1は、1つまたは複数の対象ガス種を感知/検出するように構成されてもよい。装置1は、例えばメタン漏洩の監視に使用するために、メタンを検出するように構成されてもよい。装置1は、炭化水素(または1つもしくは複数の特定の炭化水素)を検出するように構成されてもよい。そのような事例は、水素燃料の純度を監視するために使用されてもよい。装置1は小型で低コストであるため、装置1は燃料電池に直接組み込まれてもよい。これにより、現在燃料ポンプで利用可能な限られたサンプリングではなく、燃料品質のオンボード監視が実現される。装置1は、1つまたは複数の所望のガスを検出するためのポータブル(例えばハンドヘルド)ガスモニタにおいて使用されてもよい。装置1は、二酸化炭素および/または一酸化炭素を検出するために使用されてもよい。一般に、ガス感知装置1は、好適な波長範囲、例えば可視範囲もしくは近赤外線範囲の吸収特性を有する任意の所望のガスまたはガスの組合せを検出するために使用されてもよい。
【0035】
ガス感知装置1は、本体100内に形成された試験チャンバ200を備える。試験チャンバ200は、本体100によって部分的に囲まれたキャビティまたは開放空間の形態をとる。試験チャンバ200は、1つまたは複数の対象ガスの存在について試験するために、装置1の外部からガスを受け取ることが可能である。
【0036】
本体100は、第1の部分101と第2の部分102とを備えてもよい。その場合、試験チャンバ200は、第1の部分101と第2の部分102との間に形成される。図示された例では、第1の部分101は第1の基板であり、第2の部分102は第2の基板である。本体100は、第1の基板と第2の基板とを分離する間隔構造103をさらに備える。有利なことに、第1の部分101および第2の部分102は、シリコンなどの標準的な半導体基板材料から形成されてもよい。その場合、装置1の特徴は、半導体製造に利用可能な高精度の製造プロセスを使用して基板上に形成され得る。シリコンはまた、熱膨張係数が低い剛性材料であり、これにより、装置1によって提供される検出の品質が向上する。第1の部分101および第2の部分102のそれぞれは、典型的には、100μm以上、250μm以上、および/または1000μm以下の厚さを有してもよい。
【0037】
第1の部分101と第2の部分102との間の間隔構造103は、第1の部分101と第2の部分102の対向する表面間に物理的距離を提供する。この間隔が試験チャンバ200の高さを設定する。したがって、間隔構造103は、以下でさらに説明するように、試験チャンバ200内の光学キャビティの長さを粗い尺度で画定する。間隔構造103は、シリコン、石英、炭化ケイ素、または任意の他の好適な材料から作製されてもよい。第1の部分101および第2の部分102と同様に、間隔構造103は半導体ウェハから形成されてもよい。以下でさらに説明するように、間隔構造またはその一部は、圧電性であってもよく、印加電圧によって間隔の調整を可能にする。
【0038】
第1の部分101、第2の部分102、および間隔構造103は、正確な位置合せおよび永続的な安定性を保証する、堅牢なウェハ接合プロセスによって連結されてもよい。
【0039】
装置1は、装置1の外部からのガスが試験チャンバ200に入ることを可能にするように構成されたガス入口206をさらに備える。図示された例では、ガス入口206は、第1の部分101における開口によって形成されている。開口は、ガスが1つまたは複数の対象ガスの存在について試験され得るように、外部ガスが試験チャンバ200に入ることを可能にする。代替としてまたは追加として、ガス入口206は、第2の部分102および/または間隔構造103を通過してもよい。
【0040】
装置1のいくつかの例は、本体100内に形成された基準チャンバ300をさらに備える。開放された試験チャンバ200とは異なり、基準チャンバ300は外部ガスに対して閉鎖されている(または密封可能である)。その代わりに、基準チャンバ300は、1つもしくは複数の基準ガス種で充填されるか、もしくは充填可能である(または真空下に保持され得る)。基準チャンバ300は、基準測定値の取得を可能にする。基準チャンバ300から取得された基準測定値と試験チャンバ200から取得された試験測定値とを比較することにより、試験測定値におけるノイズが低減し、したがって、装置1のガス感知の正確度が向上する。具体的には、基準チャンバ300を使用することにより、平衡検出方法を採用できるようになる可能性がある。この自己基準機能は、例えばデバイスを熱的に安定させるために、また照明光のレーザ源を安定させるために使用され得る。
【0041】
基準ガスは、試験チャンバ200内での検出の対象として選択された対象ガスを含んでもよい。代替としてまたは追加として、基準ガスは、試験チャンバ200内での検出の対象として選択されたガス以外のガスを含んでもよい。基準ガスは、デバイス1の加工中に基準チャンバ200内に注入されてもよい。代替として、装置1は、加工後に基準ガスを基準チャンバ300内に密封可能に注入できるようにする密封可能な注入ポートを備えてもよい。密封可能な注入ポートは、ガス入口206と同様であってもよいが、装置1が意図された基準ガスの雰囲気内に置かれた後は閉鎖される。基準ガスは、ホストマトリックス中に規定の濃度の窒素などの1つまたは複数のガスを含んでもよい。基準ガスは、良好に分離された吸収特性(例えば、吸収係数のピーク)を有する複数の種を含んでもよい。これにより、1つの基準チャンバ300をマルチガス感知に使用できるようになる。代替として、各々がそれぞれの対象ガスに対応する複数の基準チャンバ300が使用されてもよい。
【0042】
図示された例では、基準チャンバ300は、第1の部分101と第2の部分102との間に形成されている。基準チャンバは、試験チャンバ200と実質的に同様であるが、ガス入口206がない。図2は、装置1の代替例を示し、基準チャンバ300の閉鎖性を図示している。この例では、試験チャンバ200へのガス入口206が間隔構造103を貫通して形成されている。
【0043】
ガス感知装置1は、試験チャンバ200内の光の吸収を測定できるように構成される。この目的のために、試験チャンバ200は、1つまたは複数の対のマイクロミラー201、202を備える。各対の第1のマイクロミラー201は、本体100の第1の表面上に配置される。図示された例では、第1の表面は、第1の部分101の表面(すなわち、第1の部分101の試験チャンバ200内に面する表面)である。1対の他方のマイクロミラー202は、本体1の第2の表面に配置される。第2の表面は、第2の部分102の表面(すなわち、第2の部分102の試験チャンバ200内に面する表面)である。マイクロミラー201、202の各対が共に光学キャビティ203を形成する。光学キャビティ203は、1000μm以下、または好ましくは500μm以下の(物理的)長さを有してもよい。したがって、光学キャビティ203はマイクロキャビティであると見なされてもよい。
【0044】
マイクロミラー201、202は、平面または曲面を備え、500μmまたは100μmなどの所定のサイズより小さいビームウエストを有する光ビームを反射するのに十分な幅または大きさを有する。したがって、マイクロミラー201、202は、従来の光学キャビティと比較して小さくすることができ、装置1の全体のサイズを縮小することができる。
【0045】
マイクロミラー201、202は、反応性イオンエッチング技法または他の高精度技法によって形成されてもよい。これにより、光学キャビティ203の長さを非常に精密に制御することが可能になる。数十ナノメートル以上のスケールでの制御が実現可能である。光学キャビティ203の長さを精密に知ることは、光学キャビティ203の共振周波数を設定するために、また光学キャビティ203における光の吸収量を正確に特定するために重要である。
【0046】
いくつかの例では、試験チャンバ200は、複数の対のマイクロミラー201、202を備える。具体的には、試験チャンバ200は、ガス感知装置によって検出される1つまたは複数の対象ガス種のそれぞれに対して1つまたは複数の対のマイクロミラー201、202を備えてもよい。マイクロミラー201、202の各対は、異なる共振周波数を有するように構成されてもよい。異なる共振周波数は、異なる対象種の対象吸収特性(例えば、吸収係数のピーク)に一致するように選択されてもよい。代替としてまたは追加として、異なる共振周波数は、同じ対象ガスの異なる吸収特性に対応するように選択されてもよい。いくつかの例では、試験チャンバ200(および任意選択で基準チャンバ300)は、異なる共振周波数の複数のマイクロミラー201、202を有するように加工されてもよい。その場合、1つまたは複数の対のマイクロミラー201、202は、意図された対象ガスに基づいて、加工後に選択されてもよい。言い換えれば、装置1は、最初は対象ガスが中性になるように加工されてもよい。
【0047】
いくつかの例では、試験チャンバ200は、1つまたは複数の対象ガス種のそれぞれに対して2対以上、または5対以上、または10対以上のマイクロミラーを備えてもよい。いくつかの例では、ガス感知装置1は、2種以上、または5種以上、または10種以上の対象ガス種を検出するように構成されてもよい。したがって、いくつかの例では、対象チャンバ200は、100個以上の光学キャビティ203を備えてもよい。
【0048】
特定の例では、複数の対のマイクロミラー201、202は、ある対から別の対までわずかしか変化しない共振を有する。例えば、マイクロミラー201、202の各対を定義するパラメータを変化させて、共振の変化を最小限に抑えた光学キャビティ203のアレイを提供してもよい。例えば、パラメータは、マイクロミラー201、202のうちの一方(または両方)の曲率半径、マイクロミラー201、202のうちの一方(または両方)の深度、および1対のマイクロミラー201とマイクロミラー202との間の距離のうちの1つまたは複数であってもよい。したがって、いくつかの例では、試験チャンバ200は、異なる曲率半径を有する複数の対のマイクロミラー201、202を備える。代替としてまたは追加として、いくつかの例では、試験チャンバ200は、異なるミラー深度を有する複数の対のマイクロミラー201、202を備える。代替としてまたは追加として、いくつかの例では、試験チャンバ200は、異なるミラー間隔を有する複数の対のマイクロミラー201、202を備える。マイクロミラー201、202の対間の変化は、対応する光学キャビティ203の共振周波数が対象ガスの吸収特性の線幅未満だけ変化するようなものであってもよい。例えば、共振周波数の変化は、吸収特性の線幅の1/10、1/100、または1/1000未満であってもよい。所望の共振条件に一致させるために必要なキャビティの数は、良好かつ安定した半導体加工プロセスを使用することによって削減され得る。関心のある微量ガス吸収特性に一致させるには、キャビティFSRの一部のみがキャビティによって覆われる必要がある。上記の考慮事項はすべて、基準チャンバ300にも適用される。
【0049】
いくつかの例では、マイクロミラー201、202は、高反射率の多層コーティングでコーティングされる。最初に、それぞれの基板101、102を構造化することによって、ミラー形状が作成される。次いで、成形された基板101、102は、高反射率のコーティングでコーティングされる。例えば、多層誘電体ブラッグコーティングは、スパッタリングまたは他の好適なプロセスによって適用されてもよい。コーティングの中心波長は、可視電磁領域から近赤外電磁領域までの間で自由に選択され得る。コーティングは、典型的には、50~100nmの帯域幅で機能する。試験チャンバ200が複数の光学キャビティ203を備える場合、マイクロミラー201、202のそれぞれの対の中心波長は異なっていてもよい。
【0050】
対象ガスを検出するために、光が1つまたは複数の光学キャビティ203内に結合され、光は試験チャンバ200内のガスによって吸収される。この目的のために、装置1は、光を1つまたは複数の光学キャビティ203内に結合するように配置された光入口204を備える。光学キャビティと共振する光は、光学キャビティを通過し、検出され得る。この目的のために、装置1は、光学キャビティ203のうちの1つまたは複数から光を受け取るように配置された光出口205を備える。このようにして、特定の周波数の光がサンプリングされ得る。光学キャビティの共振周波数を対象ガス種の対象吸収特性(例えば、吸収ピーク)に一致させることによって、その特定の波長(またはその波長の周囲の帯域)における試験チャンバ200内の光の吸収が検出され得る。検出された吸収が対象ガスについて期待される吸収と一致する場合、対象ガスが存在すると推論され得る。代替としてまたは追加として、ガスの濃度を特定するために、吸収量が使用され得る。
【0051】
図示された実施形態では、光入口204は第1の部分101内に位置し、光出口205は第2の部分102内に位置する。代替として、光入口204と光出口205との両方が同じ部分101、102内に位置してもよい。実際、光入口204と光出口205は同じ場所に位置してもよい。すなわち、光は、試験チャンバ200から光が受け取られる構成要素と同じ構成要素を介して試験チャンバ200内に結合されてもよい。光入口204および/または光出口205は、第1の部分101と第2の部分102との両方に含まれてもよい。したがって、例えば、装置1の両側から光が検出されてもよい。光入口204および光出口205は、第1の部分101および第2の部分102を通る光通路として機能する。光入口204/光出口205(同様に、以下で説明される入口304/出口305)は、第1の部分101または第2の部分102の一区画であってもよい。例えば、第1の部分101および/または第2の部分102がシリコンで形成され、装置1がNIR範囲の吸収特性を検出するように設計されている場合、入射NIR光は、シリコンを通過してチャンバ202に入ることが可能であってもよい。VIS波長範囲の場合、第1の部分101および/または第2の部分102は、VIS光に対して透過的である窒化ケイ素、炭化ケイ素、石英、またはサファイアなどの材料で形成されてもよい。代替として、光入口/光出口は、第1の部分101または第2の部分102の残りの部分とは異なる、好適に透過的な材料によって形成されてもよい。いずれの事例においても、図示された例に示すように、光入口204/光出口205は反射防止コーティングを備えてもよい。
【0052】
上記で説明したように、従来のオンチップ光学システムでは、吸収長は約10~20cmに達する可能性があり(しかし、多くの場合、吸収長はこれよりもはるかに短い)、1650nmでのメタン吸収によるレーザ強度の実現可能な変化は、わずか5ppmである。これは、必要とされるダイナミックレンジが50dBを超えることに相当するが、実際のシステムにおいては非現実的である。
【0053】
吸収信号は、光路長lを延長することによって強化され得る。これは、光源と検出器との間の距離、マルチパス分光吸収セル、またはファブリペロー(FP)キャビティなどのキャビティを延長することによって行われ得る。光源から検出器までの距離は延長され得るが、これによりコンパクトなフォームファクタを維持することが不可能になる。マルチパスセルは、光ビームを2つのミラー間で数十回反射させることができる。例えば、標準的なマルチパスセルはヘリオットセルであり、ヘリオットセルの長さは、典型的には50cmであり、最大50mの吸収長が可能である。サイズおよび安定性の問題により、それらの動作はほとんど実験室環境でしか可能にならず、オンラインチップベースの感知アプリケーションには好適ではない。
【0054】
任意のシステムにおいて光学的深度を高めるための最も性能が優れたデバイスはキャビティである。キャビティ増強吸収分光法(CEAS:cavity enhanced absorption spectrometry)では、キャビティを使用して光と試験サンプルとの間の相互作用長を延長し、光の吸収を増加させる。特にガス感知の場合、オープンアクセスのファブリペロー(F-P)キャビティは好ましい特徴を有する。ここでは、距離lだけ離れた2つのミラーが共振器を形成し、光ビームは、キャビティに入った後にその共振器の中で循環することができる。光子がキャビティを出る前に往復する回数はフィネス(F)に比例し、有効吸収長はleff=Fl/πになる。フィネスは、単純にキャビティの帯域幅にわたる自由スペクトル範囲(FSR:free spectral range)である。図4は、F-P光学キャビティのモードスペクトルを図示している。キャビティ長の2倍が探索レーザ波長の整数倍に等しくなるたびに、共振が発生する。自由スペクトル範囲(FSR)は、FSR=c/2nlのようにキャビティの長さに依存し、cは光の速度であり、lはミラー間隔であり、nはF-Pキャビティ内の雰囲気または媒質の屈折率である。
【0055】
したがって、ガス感知装置1の特定の例は、F-P光学キャビティ203を使用する。マイクロミラーを使用してF-P光学キャビティ203を形成することによって、装置1は高度に小型化され得、オンチップF-Pキャビティ203を採用することができる。具体的には、高フィネス光学マイクロキャビティは、第1の部分101および第2の部分102を形成する半導体(例えば、Si)ウェハ内に加工されてもよい。この概念により、半導体微細加工プロセスを使用して、非常にコンパクトで安定しており安価なモノリシック光学センサをシリコンウェハプラットフォーム上に構築することが可能になる。この手法は、コンパクトな光学ガスセンサの感度限界を最大3桁向上させることができる。ガス感知装置1は、CEAS技法において使用されてもよい。
【0056】
光学キャビティ203は、1μmから1000μmまで、または5μmから500μmまで、または150μmから350μmまでの範囲の(物理的)長さを有してもよい。光学キャビティは、約50fLから約400pLの体積を有してもよい。光学キャビティは、少なくとも10,000、または少なくとも50,000、または少なくとも100,000、または少なくとも250,000、または少なくとも500,000、またはそれを超える光学フィネスを有してもよい。
【0057】
特定の例では、(試験チャンバおよび/または基準チャンバ内の)マイクロミラーの各対の1つまたは複数のマイクロミラーが湾曲している。湾曲したミラーは、光ビームのキャビティ内での再集束を実現する。これにより、ウェッジミラーキャビティまたは平坦な平行ミラーキャビティなどの従来の手法において問題となる、反射中のビームの拡大が防止される。ビームが拡大するということは、より大きな光学系を使用する必要があることを意味し、キャビティの小型化が妨げられる。特定の例では、対のミラーのマイクロミラーのうちの少なくとも一方の曲率は、ガウスビーム光学系によって与えられる曲率を有し、これは放物面ミラー形状と呼ばれることがある。特に有利な例では、対のマイクロミラー間の距離は、マイクロミラーの曲率半径の2倍未満である。そのような場合、光学キャビティ203は光学的に安定する。これは、ビームウォークオフを採用する従来の手法とは対照的であり、従来の手法は、最良でも理論的に辛うじて安定しているにすぎず、拡大するビームを有する。光学的に安定したキャビティは、非常に高いフィネス値に到達することを可能にする。高フィネスキャビティとは、光ビームが共振器内を無限に循環することができ、ビームが拡張しないので建設的な干渉のみが発生することを意味し、したがってビームウォークオフは必要ない。これは、ビームがより長い有効距離のガスを通過し、センサの感度が高まることを意味するので、本ガスセンサにとって特に有利である。
【0058】
装置1の例の理論上のショットノイズ検出限界(α)minは、素電荷eを用いて、
【0059】
【数1】
によって与えられ得、フィネス
【0060】
【数2】
、キャビティ長l=200μm、検出器応答性η=0.9/A、光検出器に当たる光強度P=1mWと仮定する。これは、1秒の積分時間で自然の大気中のメタン存在量
【0061】
【数3】

と比較して4桁を超えて小さい。この高い基本感度限界は、実際のデバイスにおいて達成することが困難であり得るが、装置1の極めて小さいフォームファクタおよびコンパクトさが高感度を実現する鍵となる。本明細書で採用される一般的なサイズおよび半導体加工技法は、機械的かつ熱的に安定した光学システムの加工を可能にする。
【0062】
熱安定性について考察すると、長さ200μmの全シリコン製マイクロキャビティ203の1ケルビンの温度変化下での熱膨張はわずか0.5nmである。これはキャビティ共振波長と比較するとサブパーセントレベルである。対照的に、(従来のシステムと同様に)長さ20cmの巨視的キャビティの場合、熱膨張は少なくとも500nmになる。これは共振波長の約30%に相当する。したがって、本装置1の光学マイクロキャビティ203は、従来のシステムと比較して、熱安定性に関してはるかに優れた動作を提供する。その結果、吸収測定の感度が大幅に向上する。さらに、温度による変動が小さいことにより、熱制御を使用して光学キャビティ203を微調整することが可能になる。一例として、図5は、長さ200μmのSiキャビティの熱膨張がキャビティの共振条件をどのように変化させるかを示している。1650nm付近のメタンの吸収係数も示されている。この図からわかるように、温度の小さな変化を使用して、キャビティ203の共振条件を正確に制御することができる。実際、メタンの吸収特性全体にわたってキャビティを調整するには、5°K未満の変化が必要である。そのようなキャビティの微調整について以下でさらに説明する。
【0063】
光学キャビティ203のサイズが小さいことにより、検出の機械的安定性も向上する。一例として、指示誤差(pointing error)が1度のレーザビームについて考察する。長さ20cmの従来のキャビティでの光軸からのビームのオフセットは約4mmになるが、これはそのような長いキャビティではビームウエストの数倍に相当する。長さ200μmのマイクロキャビティの場合、このオフセットはわずか0.4μmであり、これはキャビティ内のビームウエストの5パーセント未満である。したがって、装置1のキャビティ203は、機械的安定性に関して従来のキャビティ強化型ガス検出器よりも優れている。
【0064】
光学キャビティ203は、可視(VIS)電磁範囲から近赤外(NIR)電磁範囲(380nmから3000nm)で共振を有するように構成されてもよい。最も強い吸収信号を与える傾向があるガス種の基本吸収帯は、中赤外(MIR)範囲にある傾向がある。したがって、ガスセンサの妥当な選択は、MIR吸収帯を対象とすることになる。しかしながら、MIRの光源および検出器は高価になる傾向があり、これらを大規模な展開に使用することの妨げとなっている。しかしながら、本ガス感知装置1の感度の向上により、VIS-NIR範囲のより高い吸収倍音を対象にすることが可能になる。図6aは、NIR範囲におけるメタン、二酸化炭素、および水の吸収係数を示している。メタンが検出され得る空白枠は1650nmである。図6bは、より広い波長範囲にわたる同じガスの吸収係数を示している。
【0065】
有利なことに、この範囲は光通信波長領域と一致する。その結果、この領域では、低コストの構成要素および高度に精緻な製造技法が利用可能になる。そのような構成要素は、民生用ハンドヘルドデバイスに使用され、したがって、非常に電力効率が高く、コンパクトである。そのような構成要素を使用すると、低コストのポータブルガス感知デバイスの加工が実現され得る。
【0066】
試験チャンバ内の光学キャビティ103の利点および配置に関する上記の説明は、例えば基準チャンバ300を備える基準チャンバ300にも等しく適用される。図1に図示されるように、基準チャンバ300は、1つまたは複数の対のマイクロミラー301、302も備える。マイクロミラー301、302は、マイクロミラー201、202と同様に形成される。対のマイクロミラー301、302はそれぞれ、基準光学キャビティ303を形成する。図示された実施形態では、光入口304は、光を基準光学キャビティ303のうちの1つまたは複数内に結合するように配置される。光出口305は、基準光学キャビティ103のうちの1つまたは複数から光を受け取るように配置される。光入口204/光出口205と同様に、光入口304および/または光出口305は、第1の部分101および第2の部分102のいずれかまたは両方に位置してもよい。光入口304および光出口305は組み合わされてもよい。光入口204/光出口205に関連して上記で説明された特徴は、光入口304/光出口305にも等しく適用される。
【0067】
マイクロミラーおよびマイクロキャビティの使用によって可能になった装置1の小型化により、基準チャンバ300は物理的に試験チャンバ200に非常に近い。したがって、検出光路および基準光路は共通のノイズ源の影響を受けるため、余分なノイズはほとんど相殺され得る。このようなノイズは、機械的ノイズ、レーザノイズ、および電子的ノイズである場合がある。
【0068】
基準チャンバ300は、試験チャンバ内の各対のマイクロミラー201、202に対応する対のマイクロミラー301、302を備えてもよい。例えば、単一の対象ガスを検出するために複数の光学キャビティ203が使用される場合、基準チャンバ300は、各試験光学キャビティ203に基準信号を提供するために、対応する1組の基準光学キャビティ303を備えてもよい。試験チャンバ200が複数の対象ガスを検出するための複数の光学キャビティ203を備える場合、基準チャンバ300はまた、それらの対象ガスの基準信号を提供するための複数の光学キャビティ203を備えてもよい。そのような場合、基準チャンバ300内に保持される基準ガスは、対象ガスのそれぞれを含んでもよい。代替としてまたは追加として、装置1は、複数の基準チャンバ300を備えてもよく、各基準チャンバは、基準光学キャビティ303を形成する1つまたは複数の対のマイクロミラー301、302を備える。そのような場合、複数の対象ガスを検出するために単一の試験チャンバ200が使用される場合でも、各基準チャンバ300は、対象ガスのうちの1つだけに対して、または対象ガスのサブセットに対して基準信号を提供するように配置されてもよい。そのような場合、各基準チャンバ300は、その基準チャンバ300のそれぞれの対象ガスを含む基準ガスで充填されてもよい。
【0069】
試験チャンバ200の対のマイクロミラー201、202に対応する基準チャンバ300の対のマイクロミラー301、303は、試験チャンバ200内の共振周波数と実質的に等しい共振周波数を有する光学キャビティ303を形成するように配置されてもよい。実質的に等しいとは、基準共振周波数と試験共振周波数との間の差が、それらが測定するように配置された吸収特性の線幅よりも小さいことを意味する場合がある。実際には、これは、NIR-VIS範囲における吸収特性に関して、20GHz以下、好ましくは10GHz以下の差である場合がある。
【0070】
いくつかの例では、基準光学キャビティ303の共振周波数は、基準光学キャビティ303が基準信号を提供する対応する試験光学キャビティ203とは異なっていてもよい。例えば、異なるガス種を使用して基準を提供してもよい。代替として、同じガス種の異なる吸収特性を使用して試験信号および基準信号を提供してもよい。
【0071】
ガス感知装置1は、光源および光検出器と組み合わされてガス検出器を形成してもよい。図3は、そのようなガス検出器10の一例を、アクティブチャネルを通過する光ビーム11とともに図示している。ガス検出器10は、本体100と試験チャンバ200とを有するガス感知装置1を備える。図示されていないが、ガス感知装置1は、基準チャンバ300をさらに備えてもよい。
【0072】
ガス検出器10は、光をガス感知装置1の光入口204内に伝送するように配置された発光システム600を備える。発光システムが存在する場合、発光システムは、光を基準入口304内にも伝送する。この例では、発光システム600は、光源(図示せず)からの光を光入口204内に結合する光学ファイバ601(または他のフォトニック導波路)のアレイを備える。光源は、例えば、光学キャビティ203(および、存在する場合には基準光学キャビティ303)の共振周波数と一致する光波長を発する、レーザ、LED、または他の光源であってもよい。光源は、例えばPound-Drever-Hall技法、ディザ技法、またはサイドフリンジロック技法を使用して、1つまたは複数のキャビティ203、303上にロックされてもよい。光源は、複数のガス検出器10に共通であってもよい。デバイス10に結合される光学ファイバ601の数は、探索される光学キャビティ203(および任意選択で基準光学キャビティ303)の数と一致する。これは、以下でさらに説明するように、光学キャビティ203のすべてであってもよく、または光学キャビティ203の1つだけもしくはサブセットであってもよい。
【0073】
図示された例では、光入口204は、上記で説明された第1の部分101を通る通路に加えて、層401、層402を備える。層401は、複数のレンズ(またはマイクロレンズ)を含むレンズアレイである。各レンズは、試験チャンバ200のそれぞれの光学キャビティ203で受け取った光を集束させるように構成される。レンズアレイ401のレンズはシリコンレンズであってもよい。屈折率整合層(index matching layer)402は、各光学ファイバ601と層401との間で光を結合する。屈折率整合層402の屈折率は、光学ファイバ601の屈折率と一致する。光学ファイバ601から来る光は、屈折率整合層402内で拡大し、次いで、層402のレンズによってそれぞれのキャビティ203内に集束される。屈折率整合層402は、多層構造であってもよい。位置合せ構造(alignment structure)403は、発光システム600を層401に接続して位置合せする。位置合せ構造403は、システム600(この例では光学ファイバ入力601の層を含む)と層403との間の距離ならびにシステム600および層403の横方向位置を制御する。位置合せ構造403は、シリコンなどの半導体に対して形成されてもよい。
【0074】
光は、光学ファイバ601のうちの1つまたは複数から装置1内に結合され、光学キャビティ203(および同様に303)のそれぞれに集束される。光学キャビティ203を抜け出す光は、次いで、光出口205によって受け取られる。図示された実施形態では、光出口は、層501、502、および503、ならびに上記で説明されたように第2の部分102を通る光路を備える。層503は、位置合せ構造403と同様の位置合せ構造である。層502は、屈折率整合層502と同様の屈折率整合層である。層501は、レンズアレイ401と同様のレンズアレイである。レンズアレイ501は、各光学キャビティ203(および任意選択で各基準光学キャビティ303)のそれぞれのレンズ(またはマイクロレンズ)を備える。レンズアレイ501のレンズは、それぞれの光学キャビティ201から光を受け取り、その光を光検出システム700へ方向付ける。
【0075】
光検出システム700は、ガス感知装置1の光出口204から光を受け取るように配置される。光検出システム700は、受け取った光の強度を表す信号を生成するように構成される。図示された例では、光検出システム700は複数の光学ファイバ701を備える。各光学ファイバ701は、測定が行われる際の元となる光学キャビティ203のうちの1つに対応する。これは、すべての光学キャビティ203、光学キャビティ203のうちの1つ、または光学キャビティ203のサブセットであってもよい。レンズアレイ701のレンズは、屈折率整合層502を通してそれぞれの光学ファイバ701内に光を集束させる。屈折率整合層502の屈折率は、光学ファイバ701の屈折率と一致する。光学ファイバ701は、フォトダイオードなどの光学検出器(図示せず)に光を伝送する。光学検出器は、受け取った光の強度を特定するように、したがって試験チャンバ200(および任意選択で基準チャンバ300)内のガスによって吸収された光の量を特定するように構成される。
【0076】
上記で説明された例では、光源および光検出器は、光学ファイバ601、701によってガス検出器10内のガス感知装置1に接続されたガス検出器10の一部として説明された。ガス検出器10のいくつかの例では、発光システム600および/または光検出システム700は、ガス感知装置1に取り外し可能に結合されてもよい。例えば、装置1は、1つまたは複数の光学ファイバ601、701を収容し、その光学ファイバ601、701からの光を1つまたは複数の光学キャビティ203(および/または基準キャビティ303)内に結合するように構成された、ポートを備えてもよい。
【0077】
レンズアレイ501および/またはレンズアレイ601が使用されるか否かは、マイクロミラー201、202の形状に依存する可能性がある。1対のマイクロミラー201、202の両方が凹面である場合、レンズアレイ501、502は、光をそれぞれのキャビティ203内に正確に結合するのに有用である可能性がある。1対のマイクロミラー201、202の一方または両方が平面である場合、レンズアレイ501、601は省略されてもよい。
【0078】
上記で説明された光学ファイバ601、701により、遠隔の光源/光検出器をガス感知装置1に接続することが可能になる。しかしながら、いくつかの例では、光源および/または光検出器は、ガス感知装置1に直接組み込まれてもよい。例えば、光源および/または光検出器は、第1の部分101および第2の部分102のうちの一方に取り付けられてもよい。そのような光源は、レーザダイオード、例えば、垂直キャビティ面発光レーザ(VCSEL:vertical-cavity surface-emitting laser)、差周波発生(DFG:difference freqeuncy generation)レーザダイオード、または分布帰還(DFB:distributed feedback)レーザダイオードを備えてもよい。そのような光検出器は、フォトダイオードであってもよい。光源および/または光検出器をガス感知装置1に組み込むことによって、完全でコンパクトなガス検出器10が作製され得る。
【0079】
ガス検出器10は、ガス検出システムをさらに備えてもよい。ガス検出システムは、光検出システムから光の強度を表す信号を受信し、光源からの光のうちガス感知装置に吸収された光の割合を特定するように構成される。次いで、ガス検出システムは、ガス感知装置に吸収された光の割合に基づいて、1つまたは複数の対象ガスが試験チャンバ内に存在するかどうかを判定してもよい。これは、チャンバ内に存在する1つまたは複数の対象ガスの濃度を特定することを含んでもよい。ガス検出器は、光検出システムから信号を受信し、吸収された光の割合を特定し、対象ガスの存在の判定結果を出力するように構成された、プロセッサを備えてもよい。そのようなプロセッサは、ガス感知装置1に組み込まれてもよい。ガス検出システムは、ガス検出器10が(有線接続または無線接続によって)接続されるコンピュータまたは埋め込みシステムであってもよい。
【0080】
上記で説明したように、ガス感知装置1は、同じ対象ガスを対象とする複数の光学キャビティ203および/または基準キャビティ303を有するように加工されてもよい。これらのキャビティ203、303のそれぞれは、例えば製造公差により、わずかに異なる共振周波数を有することがある。したがって、複数のキャビティ203のうち、対象ガスの意図された吸収特性に最もよく適合する1つまたは複数を選択することが有利である可能性がある。この目的のために、ガス感知装置1は、光学キャビティ203および/または基準光学キャビティ303のうちの1つまたは複数を選択するために、使用前に校正されてもよい。これは、各光学キャビティ202(および/または基準光学キャビティ303)からの光出力の周波数を測定すること、ならびに、どの光学キャビティ202、303が周波数において対象吸収特性に最も近い共振を有するかを特定することを含んでもよい。そのような方法については、図7に関連して以下で説明する。
【0081】
結果として、ガス感知装置1が校正された後に、すべての光学キャビティ203からの光を検出する必要はない可能性がある。したがって、いくつかの例では、光入口204は、光を光学キャビティ203のサブセット内のみに結合するように配置される(基準光学キャビティ203についても同様である)。光学キャビティ203のサブセットは、ガス感知装置1によって検出される1つまたは複数の対象ガス種に基づいて選択される1つまたは複数の光学キャビティを含む。言い換えれば、光学キャビティ203のサブセットは、対象ガスの対象吸収特性に最もよく適合するように校正プロセスにおいて選択されたものである。同様に、光出口205は、光学キャビティのサブセットのみから光を受け取るように配置されてもよい。代替として、光は依然としてすべての光学キャビティ203内に結合されてもよいが、光検出システムまたはガス検出システムは、選択されていない光学キャビティ203からの測定値を無視してもよい。
【0082】
上記で説明したように、光学キャビティ203、303の共振周波数は、対のマイクロミラー201、202、301、302が形成される第1の部分101の表面と第2の部分102の表面との間の間隔によって大まかに設定される。図示された例では、この間隔は、間隔構造103の厚さによって設定される。マイクロミラー201、202、301、302の形態によって、光学キャビティ203と光学キャビティ303との間の共振周波数においてより小さな変化が生じる可能性がある。対象ガスのための最良の光学キャビティ203、303は、上記で説明したように、校正プロセスを使用して選択され得る。しかしながら、校正後、さらにはガス感知装置1の使用中であっても、光学キャビティ203、303の共振周波数の微調整を可能にすることが依然として有利であろう。
【0083】
この目的のために、ガス感知装置1(および/またはガス検出器10)のいくつかの例は、光学キャビティ調整システム104を備える。調整システム104は、光学キャビティ203(および/または基準光学キャビティ303)の共振周波数の微調整を可能にする。具体的には、調整システム104は、対のマイクロミラー201、202間および/または基準マイクロミラー301、302間の間隔に小さな変化をもたらすように配置されてもよい。間隔を調節すると、同様に光学キャビティ203、303の共振周波数が調節される。いくつかの例では、第1の部分101と第2の部分102との間の間隔を調節して、すべての光学キャビティ203(および、存在する場合には基準光学キャビティ303)を同時に調整してもよい。代替として、調整システム104は、個々の光学キャビティ203、303を形成するマイクロミラー201、202、301、302の間隔または形状を変更することによって、個々の光学キャビティ203、303を調整するように構成されてもよい。
【0084】
図1に図示された例では、間隔構造103に信号を印加する調整システム104が示されている。信号は、間隔構造103の厚さ(すなわち、第1の部分101と第2の部分102との間の間隔に平行な方向の厚さ)を制御するように構成される。間隔構造103の厚さを変化させると、対のマイクロミラー201、202、301、302の間の間隔が変化し、したがって光学キャビティ203、303の共振周波数が調節される。
【0085】
いくつかの例では、光学キャビティ調整システム104は、間隔構造103(または一般に、本体100の材料の熱膨張/収縮を引き起こすように、本体100)の温度を変化させるように配置される。調整システム104は、間隔構造103/本体100に取り付けられた加熱器/冷却器であるか、またはそれを含んでもよい。調整システム104は、温度コントローラをさらに備えてもよく、温度コントローラは、間隔構造103/本体100の温度を監視し、それに応じて加熱器/冷却器に信号を印加するように配置される。代替として、調整システム104は、間隔構造103/本体100に電気信号を印加して、(例えば、抵抗加熱によって)間隔構造103/本体100の温度を変化させるように構成されてもよい。同様に、調整システム104は、1対のマイクロミラー201、202、301、302のうちの一方または両方に熱または信号を直接印加して、それらが形成する光学キャビティ203、303を個別に調整してもよい。
【0086】
追加としてまたは代替として、光学キャビティ調整システム104は、圧電制御電圧信号を間隔構造103および/または本体100に印加するように構成されてもよい。そのような例では、間隔構造103/本体100、またはその一部は、圧電活性材料を含む。圧電材料は、電界の印加時に第1の部分101と第2の部分102との間の間隔を増加または減少させるように配置される。光学キャビティ調整システム104が適用できる最大間隔変化は、10pmから500pm、または10pmから100pm、または25pmから75pmの範囲であってもよい。例えば、間隔構造103の厚さは、この方式で制御されてもよい。調整システム104は、圧電材料に取り付けられた電極と、圧電活性材料を制御するために電極に電圧を印加するように構成された電気信号発生器とを備えてもよい。一例では、1つまたは複数の第1の電極は、第1の部分101に面する間隔構造103の第1の表面に取り付けられるか、またはその中に組み込まれる。1つまたは複数の第2の電極は、第2の部分102に面する間隔構造103の第2の表面に取り付けられるか、またはその中に組み込まれる。第1の表面および/または第2の表面は、それぞれ第1の電極および第2の電極によって実質的に完全に覆われてもよい。間隔構造自体は、弱い圧電材料で形成される。光学キャビティ調整システム104は、第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加するように構成される。間隔構造103はコンデンサを形成し、第1の電極と第2の電極との間に電界が構築されると、圧電結晶が膨張または収縮し、これにより間隔構造の厚さが膨張または収縮し、したがって第1の部分101と第2の部分102との間の距離が変化する。間隔構造103の材料の一例は、誘電率d33=5pC/Nを有する窒化アルミニウム(AlN)である。そのような間隔構造103に10ボルトの電圧が印加される場合、間隔構造103は約50pmで膨張または収縮するが、これは、吸収特性全体にわたって走査するのに、またはさらには光入力レーザに対してキャビティをロックするのに十分である。印加される電圧信号は、最大で数百キロヘルツの周波数までのD.CまたはA.Cとすることができる。他の好適な圧電材料には、ニオブ酸リチウム、酸化亜鉛、石英、または任意の他の好適な材料が含まれる。
【0087】
同様に、光学キャビティ203、303のうちの1つまたは複数は、マイクロミラー201、202、301、302のそれぞれの対に関連付けられた圧電活性材料に電気信号を印加することによって個別に調整されてもよい。例えば、対のマイクロミラー201、202、301、302のうちの少なくとも1つは、圧電活性材料上に、または圧電活性材料から形成されてもよい。
【0088】
光学キャビティ調整システム104は、吸収測定中に光学キャビティ203および/または基準キャビティ303のうちの1つまたは複数を調整するために使用されてもよい。このようにして、ガス感知装置は、単一の周波数点でのみ測定を行うのではなく、測定中に一定範囲の周波数全体を走査することができる。これにより、対象ガスの吸収特性をより正確に特定することが可能になる場合がある。
【0089】
代替としてまたは追加として、調整システム104は、光学キャビティを熱的に安定させて、吸収測定値における熱雑音を低減するために使用されてもよい。図5に関連して上記で説明したように、本体100の熱膨張は、光学キャビティ203、303をそれらの意図された吸収特性の周波数から離調する可能性がある。光学キャビティ調整システム104は、そのような離調を補正するために使用され得る。そのような例では、光学キャビティ調整システム104は、光学キャビティ203、303のうちの1つまたは複数の共振周波数を監視し、監視された共振周波数に基づいて光学キャビティのうちの1つまたは複数の共振周波数を変更するように配置される。例えば、調整システム104は、(例えば、検出システムによって測定される)光学キャビティ203、303の現在の共振周波数を表す信号、または共振周波数の変化を表す信号を受信してもよい。次いで、調整システム104は、受信された信号に基づいて光学キャビティ203、303を調整することができる。したがって、フィードバックループが形成されてもよい。
【0090】
光学キャビティ調整システム104は、温度のような低速のドリフトを補償するために、かつ/または、キャビティ203、303を(光入力システムの一部として使用される)レーザに直接ロックするために使用され得る。このためには制御が高速でなければならず、これは、高速圧電シフトによってまたは温度調整によって行われ得る。後者の高速調整の場合、キャビティ203、303はレーザにロックされ、その逆は起こらない。これは、多くのキャビティ203、303が1つの共通のレーザにロックされ得るので好ましい。ロックのためのフィードバックループは、システムをロックおよび安定化するために、レーザの代わりに光学キャビティ調整システム104に供給されるロックエラー信号を使用してもよい。代替として、低速制御のために、温度または圧電信号を使用して、基準チャンバ内のレーザまたは吸収特性に関してキャビティ203、303を制御することができる。例えば、レーザが校正されている場合、低速調整を使用して、キャビティの共振周波数をレーザに一致させるか、またはその逆を行うことができる。
【0091】
いくつかの例では、共振周波数を監視することは、基準チャンバ内の基準キャビティ303のうちの1つまたは複数を監視することを含む。次いで、これらの基準キャビティ303の共振周波数は、校正された光源に関して測定されてもよい。代替として、基準チャンバ300内の1つまたは複数の基準ガスの吸収が監視されてもよく、その基準ガスの吸収から、1つまたは複数の基準キャビティ303の共振周波数の変化が算出され得る。
【0092】
したがって、ガス感知装置1は、微細加工プロセス(特に半導体ウェハで形成される場合)の精度を光学キャビティの高精度調整と組み合わせることを可能にする。温度調整は、約pm/mKの精度での共振波長の制御を実現することができる。圧電調整は、約pm/Vの精度を実現することができる。これにより、小型フォームファクタのデバイスにおいて非常に高感度の吸収測定が可能になる。
【0093】
図7は、対象ガス種の存在を検出する際に使用するガス感知装置1を提供する方法20を図示している。
【0094】
方法20はステップ21から開始し、ステップ21では、第1の部分101と第2の部分102との間に試験チャンバ200を形成することによってガス感知装置1が構築される。試験チャンバは、複数の対のマイクロミラー201、202を備え、各対のマイクロミラー201、202のうちの一方は第1の部分101上に配置され、各対のマイクロミラー201、202のうちの他方は第2の部分102上に配置される。各対のマイクロミラー201、202は、それぞれの光学キャビティ203を形成する。ガス感知装置は、一般に、基準チャンバ300など、上記で説明された装置1またはデバイス10の特徴のいずれかを有するように構築されてもよい。
【0095】
上記で述べたように、ガス感知装置1は、有利には、半導体(例えば、Si)ウェハを使用して構築されてもよい。図8および図9は、半導体ウェハ800から複数のガス感知装置1を形成する例示的なプロセスを図示している。このプロセスでは、第1の部分101、第2の部分102、および間隔構造103のそれぞれが、光リソグラフィおよび反応性イオンエッチングによってそれぞれのウェハ800上に形成される。図8は、複数の第1の部分がエッチングされた第1のウェハ800の一例を図示している。
【0096】
マイクロミラー201、202(および任意選択で基準マイクロミラー301、302)は、第1の部分101および第2の部分102に使用されるウェハ800上に形成される。これらのウェハは、マイクロミラーを形成するために高反射率コーティングでコーティングされてもよい。第1の部分101および第2の部分102を通る低損失伝送を促進するために、反射防止コーティングを使用して光入口204/光出口205を形成してもよい。第1の部分101および/または第2の部分102を形成するウェハ800上には、リソグラフィおよびエッチングプロセスによってガス入口206も形成される。次いで、3つのウェハ800すべてが、制御された雰囲気下で互いに接合される。接合プロセスは気密である。制御された雰囲気は、任意の基準チャンバ300を基準ガスで充填および密封するために使用されてもよい。例えば、接合は、CH、CO、またはCOなどの基準ガスを含有する窒素などの不活性ガス雰囲気下で実行される。ウェハ800を接合した後、ウェハサンドイッチは、より小さいダイにダイシングされる。図9は、ガス感知装置1を形成する個々のダイの3つの層101、102、103を個別に図示している。
【0097】
装置1が構築された後、方法20はステップ22に進む。ステップ22では、各光学キャビティ203の共振周波数を特定するために、光が各光学キャビティ203内に結合される。光は、検出構成に応じて、各光学キャビティ203内に順番に、またはすべてのキャビティ203内に同時に結合されてもよい。光は、発光システム600に関連して上記で説明されたような任意の光源によって提供されてもよい。吸収後に光学キャビティ203を出る光は、受け取った光の周波数を特定するように構成された検出システムによって検出される。例えば、検出システムは、受け取った光を既知の周波数の校正された光源と比較してもよい。任意の基準キャビティ303が同様に試験されてもよい。
【0098】
次いで、方法20はステップ23に進み、ステップ23では、特定された共振周波数が、吸収係数のピークなどの対象ガス種の対象吸収特性の周波数と比較される。例えば、メタンの場合、対象吸収ピークは、1650nm付近の吸収ピークであってもよい。
【0099】
次いで、方法20はステップ24に進み、ステップ24では、共振周波数と吸収ピークの周波数との比較に基づいて、複数の光学キャビティ203のうちの1つ(または複数)が選択される。例えば、対象吸収特性の周波数に最も近い共振周波数を有するキャビティが選択されてもよい。
【0100】
次いで、方法20はステップ25に進み、ステップ25では、ガス感知装置1が、選択された光学キャビティからの光を検出するように構成される。例えば、これは、選択されたキャビティ203のみがサンプリングされるように、発光システム600および/または光検出システム700を接続することを含んでもよい。代替として、すべてのキャビティ203から測定値が取得されてもよいが、選択されていないキャビティ203からの測定値は破棄される。代替として、選択されていないキャビティ203の入力チャネルおよび出力チャネルがブロックされてもよい。
【0101】
方法20は、装置1が検出しようとする対象ガスごとに繰り返されてもよい。同様に、方法20は、基準光学キャビティ303が検出しようとする基準ガスごとに繰り返されてもよい。いくつかの例では、例えば調整システム104が共振周波数に対する十分な制御を提供できると信頼され得る場合は、ステップ22~25の選択プロセスは必要とされないことがある。
【0102】
方法20は、共振波長を温度の関数として校正することをさらに含んでもよい。図12図15に関しては、そのような校正の例示的な結果が図示されている。
【0103】
図12には、微量ガスが存在しない場合のマイクロキャビティの伝送応答が示されている。マイクロキャビティは、基本共振が二酸化炭素(CO)の吸収特性、例えば1573nmでの吸収特性に近い複数のマイクロミラーから選択される。図12に示されたデータは、所望の吸収特性から1自由スペクトル範囲(FSR)だけ離れたところで取得されている。この例では、キャビティは、ミラー間隔160μmに対応する900GHzのFSRを有する。キャビティのフィネスは>120,000であり、有効吸収長leff>6mであり、このタイプの測定は、デバイスのフィネスの下限を与える。
【0104】
装置の温度は、安定化され、4ケルビンの範囲にわたって低速で走査される。ガス感知装置は、CO濃度が変更され得る制御された雰囲気内に置かれる。装置温度が走査され、マイクロキャビティが共振状態にある間、マイクロキャビティ透過率は、Pound-Drever-Hallロックを介して図12の最大ピークにロックされる。キャビティの空気中のCO濃度が1.4%の場合、透過率は、図13に見られるようにベールランベルトの法則に従って減衰する。図13における急降下の大きさは、大気中のCO濃度に直接関係している。キャビティの線幅が微量ガス吸収特性の4000分の1であることは強調されるべきである。図14には、マイクロキャビティ透過率およびデバイス温度が描かれている。このデータセットは、校正データセットであり、デバイス温度を測定波長にマッピングしている。
【0105】
オンチップ基準セルは、マイクロキャビティが微量ガス吸収特性と共振状態にある点でデバイス温度を安定化することが可能である。言い換えれば、デバイス温度を図13の吸収最小値にロックすることが可能である。測定マイクロキャビティと基準マイクロキャビティの周波数差は、所与の温度における微量ガス吸収特性の線幅よりも小さくなる。デバイス温度を基準セルにロックすることによって、測定セルは、対象となる微量ガス吸収波長と正確に一致する測定波長に継続的に安定化される。これは、能動的な走査/感知が必要ないことも意味する。一般に、使用前にガス感知装置1の温度校正データが測定されてもよい。次いで、試験されるガス(または複数のガス)の対象吸収周波数(または複数の対象吸収周波数)に基づいて温度校正設定が決定される。使用中、ガス感知装置の温度は、温度校正設定に一致するように制御(例えば、加熱または冷却)される。したがって、ガス感知装置1は、特定の対象周波数(または複数の対象周波数)にロックされる。校正ステップにおいて、複数の温度校正設定が決定されてもよい。ガス感知装置1を使用するとき、個々の温度校正設定は、ガス感知装置1の現在の状態、またはガス感知装置1が受ける状態に基づいて選択される。例えば、現場のガス感知装置1が受ける周囲温度が大きく異なる可能性がある夏期と冬期の場合で、別個の温度校正設定が選択されてもよい。追加としてまたは代替として、ガス感知装置1の現在の状態またはガス感知装置1が受ける状態に応じて、装置1の異なるキャビティ203および/または303が使用されてもよい。例えば、夏と比べて冬には異なる光学キャビティ203が使用されてもよい。これにより、1つのキャビティ203のみを使用する場合と比較して、温度を安定化するために装置1を加熱しなければならない温度範囲が減少し、装置1の電力要件が減少する可能性がある。使用中の装置1の温度は、装置1が受ける局所露点よりも高く維持されることが好ましい。
【0106】
図10は、ガス感知装置1(またはガス感知デバイス10)を使用して環境内の対象ガス種の存在を検出する方法30を図示している。
【0107】
方法30は、ステップ31で開始し、ステップ31では、ガス感知装置1が、環境からのガスがガス入口206を介して装置1の試験チャンバ200に入るように環境内に位置付けられる。装置1は、上記で説明された特性のいずれかを備えてもよい。ガス感知装置1の温度は、例えば上記で説明された温度校正設定であり得る所定の温度に設定されてもよい。温度は、ガス感知装置1のチャンバを所望の温度まで加熱および/または冷却するように構成された内部または外部の温度コントローラを使用して設定されてもよい。
【0108】
ステップ32では、ガス感知装置1の1つまたは複数の光学キャビティ203内に光ビームが入力される。例えば、光を装置1内に結合するために発光システム600が使用されてもよい。
【0109】
ステップ33では、光学キャビティを出る光の強度が検出される。例えば、光を受け取り、その強度を特定するために、光検出システム700が使用されてもよい。
【0110】
ステップ34では、光学キャビティ内で吸収された(すなわち、試験チャンバ200内のガスにより光学キャビティ203を通過する間に吸収された)光の量が特定される。例えば、光学キャビティ203内で吸収された量を推論するために、測定された強度が、光学キャビティ203内に入力された光の初期強度と比較されてもよい。
【0111】
ステップ35では、光学キャビティ203または複数の光学キャビティ203内で吸収された光の量に基づいて、対象ガス種が存在するかどうかが判定される。これは、試験チャンバ200内に存在する対象ガスの濃度を特定することを含んでもよい。
【0112】
光学キャビティ203を通過する光を検出して特徴付けるために、様々な検出スキームが使用されてもよい。例えば、装置1が、試験光学キャビティ203に対応する1つまたは複数の基準光学キャビティ303を有する基準チャンバを備える場合、平衡検出スキームが使用されてもよい。光は、光学キャビティ203内と対応する基準光学キャビティ303内との両方に結合されてもよい。両方が検出され、受信された信号に対するノイズの影響を軽減するために比較(例えば、減算または除算)される。
【0113】
代替としてまたは追加として、波長変調分光技法または周波数変調分光技法が採用されてもよい。そのような場合、キャビティ203の共振は、(調整システム104を使用して)吸収特性にわたって急速に変調される。ここで、急速とは、システム内のノイズよりも速いことを意味する。次いで、(例えばロックイン検出技法を使用して)同じ変調を示す光のみが検出され、検出された信号内のノイズの量が減少する。
【0114】
代替としてまたは追加として、現場ヘテロダイン検出スキームが採用されてもよい。そのような場合、レーザは、対象分子吸収特性の帯域幅に相当する周波数で変調され、1つまたは複数のキャビティ203に送られ、光検出器上で干渉される。代替としてまたは追加として、キャビティリングダウン分光法が採用されてもよい。
【0115】
図10は、吸収された光の量に基づいて対象ガスを検出することを説明しているが、一般に、検出された光の任意の好適な性質(または性質の組合せ)を分析して、対象ガスの存在を判定してもよい。例えば、検出された光を分析して、光学キャビティの共振周波数におけるシフト、光学キャビティのリングダウン時間の変化、および光学キャビティの線幅の変化のうちの少なくとも1つを検出してもよい。次いで、光学キャビティ内で吸収された光の量、共振波長のシフトの大きさ、リングダウン時間の変化の大きさ、および線幅の変化の大きさのうちの少なくとも1つに基づいて、ガス種の存在が判定されてもよい。
【0116】
そのような検出技法は、検出された信号におけるレーザノイズ、機械ノイズ、および/または熱ノイズを低減し、したがってガス感知装置1の感度を向上させる。
【0117】
図11(a)および図11(b)は、実践される方法30の例を図示している。これらの図は、坑井パッド上の天然ガス漏洩を監視するために使用されるいくつかのガス感知装置1の概略図である。図11(a)では、複数の個別のガス検出器10が天然ガスプルームを監視および観察する。本デバイスの低コスト性および可搬性は、個々の坑井パッドの周囲またはパイプラインに沿って複数のデバイス10が容易に位置付けられ得ることを意味する。図11(b)では、坑井パッドの周囲に複数のガス感知装置1が配列されている。ガス感知装置1は、光学ファイバによってガス検出器10に接続されている。ガス検出器10は、装置1の収集のための基地局として機能する。ファイバ光学機器のネットワークは、検出器10の発光システム600および/または光検出システム700を複数の装置1と共有することを可能にする。ガス検出器10は、すべての装置1を代表して結果(すなわち、対象ガスの検出または不検出/対象ガスの濃度)を遠隔サーバに送信することもできる。これにより、必要な電子機器およびレーザ源の数が減り、コストがさらに節約される。
【0118】
謝辞
本出願に至るまでのプロジェクトは、助成金契約番号862721およびマリー・スクウォドフスカ・キュリー助成金契約番号801110に基づく欧州連合のホライズン2020研究およびイノベーションプログラム、ならびにオーストリア連邦教育科学研究省(BMBWF)エルヴィン・シュレーディンガー量子科学技術センターの共同出資機関、オーストリア科学基金(FWF):I3167-N27から、またオーストリア科学基金(FWF)TAI350-Nから資金提供を受けている。
【符号の説明】
【0119】
1 ガス感知装置、デバイス、本体
10 ガス検出器、デバイス、ガス感知デバイス
100 本体
101 第1の部分、基板、層
102 第2の部分、基板、層
103 間隔構造、光学キャビティ、基準光学キャビティ、層
104 光学キャビティ調整システム
200 試験チャンバ、基準チャンバ、対象チャンバ
201 マイクロミラー、光学キャビティ
202 マイクロミラー、チャンバ、光学キャビティ
203 光学キャビティ、マイクロキャビティ、光学マイクロキャビティ、試験光学キャビティ、基準光学キャビティ
204 光入口、光出口
205 光出口
206 ガス入口
300 基準チャンバ
301 マイクロミラー、基準マイクロミラー
302 マイクロミラー、基準マイクロミラー
303 基準光学キャビティ、マイクロミラー
304 入口、光入口、基準入口
305 出口、光出口
401 層、レンズアレイ
402 層、屈折率整合層
403 位置合せ構造、層
501 層、レンズアレイ
502 層、屈折率整合層、レンズアレイ
503 層
600 発光システム
601 光学ファイバ、光学ファイバ入力、レンズアレイ
700 光検出システム
701 光学ファイバ、レンズアレイ
800 半導体ウェハ
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【国際調査報告】