(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-17
(54)【発明の名称】放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの放射線医薬調製のための新規のキット
(51)【国際特許分類】
A61K 47/64 20170101AFI20240709BHJP
A61K 51/08 20060101ALI20240709BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20240709BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20240709BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240709BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20240709BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240709BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
A61K47/64
A61K51/08 200
A61K9/19 ZNA
A61K47/65
A61K47/26
A61K47/22
A61K47/12
C07K7/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580970
(86)(22)【出願日】2022-06-29
(85)【翻訳文提出日】2024-02-27
(86)【国際出願番号】 EP2022067985
(87)【国際公開番号】W WO2023275195
(87)【国際公開日】2023-01-05
(32)【優先日】2021-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524001639
【氏名又は名称】ライフ モレキュラー イメージング リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】マーリオン ツァーナ
(72)【発明者】
【氏名】ハンノ シーファーシュタイン
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ベルント
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC41
4C076DD41
4C076DD59
4C076DD67
4C076EE59
4C076FF70
4C085HH03
4C085KA07
4C085KA09
4C085KA29
4C085KB07
4C085KB15
4C085KB56
4C085KB82
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA14
4H045BA15
4H045EA20
(57)【要約】
本発明の主題は、放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの調製のための凍結乾燥キット製剤であって、前記キット製剤は、
― 以下を含むキレート官能基化GRP受容体ターゲティングコンジュゲート:
i.キレート部分、
ii.GRP受容体(GRPr)ターゲティングペプチドである、少なくとも1つのターゲティング部分、および、
iii.任意選択で、キレート部分とGRP受容体(GRPr)ターゲティング部分とを連結する、少なくとも1つのリンカー、および
― 少なくとも1つのGRP受容体(GRPr)ターゲティング部分、
― トレハロースおよびスクロースからなる群から選択される少なくとも1つの非還元糖、並びに、
― アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、ゲンチジン酸、ゲンチジン酸塩、またはそれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1つの放射線安定剤。
を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの調製のための凍結乾燥キット製剤であって、
― 以下を含むキレート官能基化ターゲティングコンジュゲート:
i.キレート部分、
ii.少なくとも1つのターゲティング部分であって、GRP受容体(GRPr)ターゲティングペプチドである、前記ターゲティング部分、および、
iii.任意選択で、前記キレート部分と前記GRP受容体(GRPr)ターゲティング部分とを連結する、少なくとも1つのリンカー、
― トレハロースおよびスクロースからなる群から選択される少なくとも1つの非還元糖、並びに、
― アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、ゲンチジン酸、ゲンチジン酸塩、またはそれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1つの放射線安定剤、
を含む、前記キット製剤。
【請求項2】
前記製剤中の前記非還元糖の濃度が10~600μmol、好ましくは20~500μmol、より好ましくは50~300μmolである、請求項1に記載のキット製剤。
【請求項3】
前記製剤中の前記放射線安定剤の濃度が1~500μmol、好ましくは5~250μmol、より好ましくは10~100μmolである、請求項1または2に記載のキット製剤。
【請求項4】
前記製剤中の前記アスコルビン酸の量が1~20mg、より好ましくは1~10mgである、請求項1~3のいずれか一項に記載のキット製剤。
【請求項5】
前記キレート部分が、TACN、TACN-TM、DTAC、H3NOKA、NODASA、NODAGA、NOTP、NOTPME、PrP9、TRAP、Trappist Pr、NOPO、TETA;トリス(ヒドロキシピリジノン)(THP)および誘導体、開鎖キレート、例えば、HBED、DFOまたはデスフェリオキサミンもしくはデスフェラール、EDTA、6SS、B6SS、PLED、TAME、YM103;NTP(PRHP)3;H2dedpaおよびその誘導体、例えばH2dedpa-1、2-H2dedpa、H2dp-bb-NCS、およびH2dp-N-NCS;(4,6-Me02sal)2-BAPEN;ならびにクエン酸塩およびそれらの誘導体からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載のキット製剤。
【請求項6】
前記リンカーが、結合、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、直鎖ジアミン、環状ジアミン、直鎖カルボン酸、環状カルボン酸、ポリエチレングリコール(PEG)およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載のキット製剤。
【請求項7】
前記GRP受容体(GRPr)ターゲティング分子が、
― Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His、
― D-Phe-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His、
― Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Sta、
― D-Phe-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Sta、
― Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Leuψ(CHOH-CH
2)-(CH
2)
2-CH
3、
― D-Phe-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Leuψ(CHOH- CH
2)-(CH
2)
2-CH
3、
― D-Phe-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Leuψ(CH
2NH)、
― Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Leuψ(CH
2NH)、
― Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Sta-Leu-NH
2、又は
― D-Phe-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Sta-Leu-NH
2
からなる群から選択されるペプチド配列を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のキット製剤。
【請求項8】
キレート官能基化GRP受容体ターゲティングコンジュゲートの調製のための前記製剤が、3価の放射性金属カチオンまたは2価の放射性金属カチオンで標識されている、請求項1~7のいずれか一項に記載のキット製剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のキット製剤を用いて、放射性金属標識キレート官能基化GRP受容体ターゲティングコンジュゲートを調製する方法であって、
― 前記放射性金属の溶液を、請求項1~8のいずれか一項に記載のキット製剤と混合するステップ、
― 任意選択で、少なくとも1つの標識緩衝液、または標識緩衝液の混合物を添加するステップ、および
― 請求項1~8のいずれか一項に記載のキレート官能基化GRP受容体ターゲティングコンジュゲートを、放射性金属と錯体形成させるステップ、
を含む、前記方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法によって得られる、放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲート。
【請求項11】
請求項10に記載の放射性金属標識キレート機能化GRP受容体ターゲティングコンジュゲートを含む、放射性医薬組成物。
【請求項12】
― 請求項1~8のいずれか一項に記載の凍結乾燥キット製剤を含むバイアル、
― 少なくとも1つの標識緩衝液または標識緩衝液の混合物を含むバイアルまたはシリンジ、および/または、
― 放射性金属の溶液を含むバイアルまたはシリンジ、
を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は:
― キレート官能基化ターゲティングコンジュゲート、
― トレハロースおよびスクロースからなる群から選択される、少なくとも1つの非還元糖、
― アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、ゲンチジン酸、ゲンチジン酸塩、またはそれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1つの放射線安定剤、
を含む、放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートを調製するための、凍結乾燥キット製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性金属標識ペプチド、特に68Ga標識ペプチドを調製するためのキット製剤の使用は、先行技術に記載されている:
【0003】
国際公開番号WO2016/030103(Wouters et al)は、放射性標識キットを開示している。
【0004】
当該キットは、酢酸塩または酢酸緩衝液、キレート官能基化ターゲティング剤、および汚染されている金属を不活性化できる共キレート剤である金属阻害剤を適量含む。
【0005】
当該出願は、保存中のキット製剤の長期安定性の課題を解決するものではない。
【0006】
国際公開番号WO2016/030104(Wouters et al)は、放射性金属標識方法を開示している。
【0007】
当該方法は、キレート官能基化ターゲティング剤で標識された放射性金属の放射標識収率を増加させるために、放射性金属標識反応中に「金属阻害剤」を使用することを含む。
【0008】
当該出願は、保存中のキット製剤の長期安定性の課題を解決するものではない。
【0009】
Nassiriらは、ガリウムGa 68ドータテートを調製するためのキットを開示している(Nassiri et al.: coalitionforpetdrugapproval.files.wordpress.com/2016/06/nassiri-paulus-kit-for-ga-68-dotatate.pdf)。
【0010】
当該キットは、ソマトスタチン類似体ドータテート、フェナントロリン(金属封鎖剤(metal sequesting agent)として)、ゲンチジン酸およびマンニトールを含む。当該キットの保存可能期間は室温で12ヶ月である。
【0011】
Pandeyらは、68Ga標識用シングルバイアルAMBAキットについて記載している(J Radioanal Nucl Chem, 2016, 1115-1124)。凍結乾燥キット製剤はAMBAペプチド、アスコルビン酸および酢酸ナトリウムを含む。キットは次の使用まで、-20 ℃で保存される。
【0012】
de Barrosらは、99mTc標識HYNIC-bAla-Bombesin(7-14)の調製のためのキット製剤について記載している(Appl. Rad. and Isotopes, 2012, 1440-2445)。当該キット製剤は99mTc標識のために塩化スズ(II)を含んでいる。キット製剤の安定性は、-20 ℃で確認された。
【0013】
Vatsらは、ペプチドおよび酢酸ナトリウムを含むキットについて記載している(Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis, 2019, 39-44)。
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲート、特に、以下のような、放射性金属標識キレート官能基化GRP受容体(GRPr)ターゲティングコンジュゲートの調製のための凍結乾燥キット製剤を提供することである:
― 放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの調製に容易に使用され得る。
― 調製ステップで放射性金属を還元することなく、放射性金属のジェネレーターまたはサイクロトロン由来の溶液とともに使用される。
― 68Gaで標識する場合、様々なジェネレーター(および溶出方法、例えばHClの量や濃度)で使用され得る。
― 放射線分解による分解を伴わないか、あるいは軽微な分解で、放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートを提供する。
― 90%以上、好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上の高純度の放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートを提供する。
― 投与量の均一性、安定性、ケーキおよびケーキ外観を含む、凍結乾燥非経口剤に関する規制要件を満たす。
― キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの分解なしに、少なくとも1年間室温で保存され得る(キレート官能基化ペプチドコンジュゲートの純度は90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上)。
【0015】
Nassiriら及びWO2016030103(Woutersら)は、室温で12ヶ月間安定で、かつ68Ga同位体で容易に標識できる組成物を得るために、キレート官能基化ペプチドのキット製剤に賦形剤として糖アルコール(マンニトール)を使用することを教示している。この教示にもかかわらず、糖アルコールのマンニトールは、キレート官能基化GRPrターゲティングペプチドを含む凍結乾燥キット製剤の製造には不十分であることがわかった。
【0016】
Pandeyらは、1バイアルのキットを記載している。キット中に存在する緩衝液(酢酸ナトリウム)の量はあらかじめ決められているため、当該キットの使用は様々なジェネレーター(HClの量と濃度の変化)に対して柔軟ではない。これらのキットの保管は-20 ℃以下で行う。さらに、存在する酢酸ナトリウムは凍結乾燥に適した賦形剤ではない。
【0017】
Vatsらによって記載されたキットには、特に高い放射能レベルにおいて、放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートを安定化させるために必要とされる放射性捕捉剤が含まれていない。さらに、当該キットには酢酸ナトリウムが含まれている。当該成分のガラス温度のため、投与量の均一性および安定性を含む非経口剤の凍結乾燥に関する規制要件に従った凍結乾燥は達成され得ない。
【0018】
マンニトール(糖アルコール)の使用とは対照的に、非還元糖を含むキット製剤は、特に、凍結乾燥キット製剤の以下の要件を満たすことがわかった:
― 放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの容易な調製。
― 放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの高い純度。
― 投与量の均一性および安定性を含む非経口剤の凍結乾燥に関する規制要件を満たす。
― 室温での保存中の高い安定性。
【発明の概要】
【0019】
本発明は、特定のキット製剤の使用による、放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの放射性医薬品調製の改善された方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語、表記およびその他の科学用語は、本出願が関連する技術分野における当業者によって一般的に理解される意味を有することが意図される。場合によっては、一般的に理解される意味を有する用語が、明確にするため、および/またはすぐに参照できるように、本明細書において定義されるが、そのような定義を本明細書に含めることは、当該技術分野において一般的に理解されることとの実質的な相違を表すと必ずしも解釈されるべきではない。
【0021】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「and」、および「the」は、文脈上明らかにそうでないことが指示されない限り、複数の参照を含む。
【0022】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、「薬剤」という用語は、「部分」という用語と同じ意味を有し、両用語は交換可能で、置き換えることができる。
【0023】
本明細書において例示的に記載される発明は、好適には、本明細書において具体的に開示されない要素(単数または複数)、限定(単数または複数)も存在しない状態で実施され得る。従って、例えば、本明細書の各例において、「含む」、「から本質的になる」および「からなる」という用語のいずれかは、他の2つの用語のいずれかと置き換えることができる。
【0024】
「1つまたは複数の」という用語、例えば一群の部材のうちの1つまたは複数の部材はそれ自体が明確である一方で、さらなる例示により、この用語は、特に、前記部材のうちの任意の1つ、または前記部材のうちの任意の2つ以上、例えば、前記部材のうちの任意の>3、>4、>5、>6または>7など、および前記部材のすべてまでの参照を包含する。
【0025】
本明細書中で引用される全ての文書は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0026】
「タンパク質」、「ペプチド」、および「ポリペプチド」という用語は、アミノ酸ポリマー、または2つ以上の相互作用もしくは結合したアミノ酸ポリマーのセットを示すために互換的に使用される。当該用語は、1つ以上のアミノ酸残基が対応する天然に存在するアミノ酸の人工的な化学的模倣物であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然に存在するアミノ酸ポリマーおよび天然に存在しないアミノ酸ポリマーに適用される。
【0027】
「アミノ酸」という用語は、天然に存在するアミノ酸および合成アミノ酸、ならびに天然に存在するアミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸メトリック(amino acid metrics)を指す。天然に存在するアミノ酸とは、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、およびO-ホスホセルメなど、遺伝情報によってコードされているアミノ酸や、後に修飾されるアミノ酸のことである。アミノ酸類似体とは、天然に存在するアミノ酸と同じ基本化学構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基に結合した炭素を有する化合物を指し、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムなどがある。このような類似体は、修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)または修飾されたペプチド骨格を有するが、天然に存在するアミノ酸と同じ基本的な化学構造を保持する。アミノ酸模倣体とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様の機能を有する化合物を指す。「非天然に生じるアミノ酸」および「非天然アミノ酸」という用語は、天然に存在しないアミノ酸類似体、合成アミノ酸、およびアミノ酸模倣物を指す。アミノ酸は、本明細書において、一般に知られている3文字の記号、またはIUPAC-IUB生化学命名法委員会が推奨する1文字の記号のいずれかによって言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に容認されている1文字のコードで呼ばれ得る。
【0028】
「標識緩衝液」という用語は、非毒性でなければならず、pHを3.0から5.0の範囲内に事実上維持しなければならず、ガリウム-68イオンと競合することのない溶液を指し、好ましくは、ターゲティング剤と組み合わされたキレート剤の容量に対して、金属キレート化の容量が低い。また、ジェネレーター溶出液の量(およびそれゆえ、HCIの量)のわずかな変化にも耐えられるものでなければならず、すなわち、溶出液の量を10%変化させてもpHを所望の範囲に維持できるほど強力なものでなければならない。適切な緩衝液としては、例えば、酢酸塩、ギ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、リン酸塩などが挙げられる。
【0029】
「放射性医薬品調製物」または「放射性医薬品組成物」という用語は、ヒト投与に適した形態である本発明の放射性金属錯体を含む組成物を意味する。ヒトへの投与のために、放射性医薬品調製物は無菌でなければならない。あるいは、本発明の放射性医薬品調製物は、ヒトへの注射が可能な単位用量形態で提供されることもあり、例えば、予め充填された滅菌シリンジが提供される。単位用量を含むシリンジはまた、シリンジシールド(潜在的な放射性線量から運転者を保護するため)内に供給されるであろう。
【0030】
以下の文章において、本発明の異なる態様または実施形態をより詳細に定義する。このように定義されたすべての態様または実施形態は、特に断らない限り、他の態様または実施形態のそれぞれと組み合わせてもよい。特に、一実施形態において好ましいまたは有利であると示された特徴は、好ましいまたは有利であると示された他の実施形態または実施形態と組み合わせてもよい。
【0031】
本発明の主題は、
― キレート官能基化ターゲティングコンジュゲート、
― トレハロースおよびスクロースからなる群から選択される少なくとも1つの非還元糖、
― アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、ゲンチジン酸、ゲンチジン酸塩、またはそれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1つの放射線安定剤:
を含む、放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの調製のための凍結乾燥キット製剤である。
【0032】
本発明の主題は、放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの調製のための凍結乾燥キット製剤であり、特に、前記製剤中の非還元糖の濃度は、10~600 μmol、好ましくは、20~500 μmol、より好ましくは、50~300 μmolである。
【0033】
本発明のキット製剤の一実施形態において、前記製剤は5~250 mg、好ましくは10~100 mgのトレハロースを含む。
【0034】
本発明のキット製剤の一実施形態において、前記製剤は5~250 mg、好ましくは10~100 mgのスクロースを含む。
【0035】
本発明のキット製剤の別の実施形態では、非還元糖の混合物が使用される。
【0036】
本発明のキット製剤の一実施形態において、前記放射線安定剤は、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、またはそれらの混合物からなる群から選択される。
【0037】
本発明のキット製剤の特定の一実施形態において、前記放射線安定剤はアスコルビン酸である。
【0038】
本発明のキット製剤の一実施形態において、製剤中の前記放射線安定剤の濃度は、1~500μmol、好ましくは5~250μmol、より好ましくは10~100μmolである。
【0039】
本発明のキット製剤の一実施形態において、製剤中のアスコルビン酸の量は1~20 mg、より好ましくは1~10 mgである。
【0040】
本発明のキット製剤の一実施形態において、キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートは、
― キレート剤または部分、
― 任意選択で、少なくとも1つのリンカーであって、キレート部分とターゲティング部分とを連結する、リンカー、および
― 少なくとも1つのターゲティング剤または部分:
を含む。
【0041】
本明細書で使用される「キレート官能基化ターゲティングコンジュゲート」は、ターゲティング剤に連結されたキレート剤/部分によって、例えばガリウム-68のような放射性同位元素で標識することができるターゲティング剤/部分を指す。任意選択で、少なくとも1つのリンカーが、キレート剤/部分とターゲティング剤/部分とを連結するために存在する。
【0042】
ガリウム-68で放射性標識されるターゲティング剤を官能基化するための好ましいキレート剤は、少なくともそのような放射性標識ターゲッティング剤を用いた診断調査に十分な時間、Ga3+、特に68Ga3+(HCIを用いてゲルマニウム-68/ガリウム-68ジェネレーターから溶出される放射性同位元素ジェネレーター)と安定なキレートを形成するものである。好適なキレート剤としては、脂肪族アミン、線状または大環状アミン、例えば第3級アミンを有する大環状アミンが挙げられる。
【0043】
これらの好適なキレート剤の例は限定されないが、好ましくは、DOTA、NOTAおよびその誘導体、例えば、TACN、TACN-TM、DTAC、H3NOKA、NODASA、NODAGA、NOTP、NOTPME、PrP9、TRAP、Trappist Pr、NOPO、TETA;トリス(ヒドロキシピリジノン)(THP)および誘導体、開鎖キレート、例えば、HBED、DFOまたはデスフェリオキサミンもしくはデスフェラール、EDTA、6SS、B6SS、PLED、TAME、YM103;NTP(PRHP)3;H2dedpaおよびその誘導体、例えばH2dedpa-1、2-H2dedpa、H2dp-bb-NCS、およびH2dp-N-NCS;(4,6-Me02sal)2-BAPEN;ならびにクエン酸塩およびそれらの誘導体が含まれる。本発明のキット製剤の一実施形態において、前記キレート化部分は、NOTAおよびその誘導体ならびに/またはDOTAおよびその誘導体からなる群から選択される。本発明のキット製剤の特定の一実施形態において、前記キレート化部分はDOTAである。
【0044】
ターゲティング剤は、ペプチド、例えば、2~20個のアミノ酸を含むペプチド、ポリペプチド、タンパク質、ビタミン、糖類、例えば単糖類または多糖類、抗体およびその誘導体、例えばナノボディ、ディアボディ、抗体フラグメント、核酸、アプタマー、アンチセンスオリゴヌクレオチド、有機分子、または特定の診断標的に結合する、若しくは特定の代謝活性を発現することができるその他の生体分子であり得る。
【0045】
本明細書に記載のターゲティング剤は、好ましくは生物学的ターゲティング能力を有する。適切なターゲティング剤の非限定的な例としては、VEGF受容体をターゲティングする分子、ボンベシンの類似体またはGRP受容体(GRPr)をターゲティングする分子、ソマトスタチン受容体をターゲティングする分子、RGDペプチドまたはανβ3およびανβ5をターゲティングする分子、アネキシンVまたはアポトーシス工程をターゲティングする分子、エストロゲン受容体をターゲティングする分子が挙げられる。より一般的には、キレート剤によって官能基化された分子(有機または非有機)を標的とするリストは、文献「Velikyan et al., Theranostic 2014, Vol. 4, Issue 1 "Prospective of 68Ga-Radiopharmaceutical Development」に記載されている。
【0046】
本発明のペプチドは、天然由来または合成由来であり得るが、好ましくは合成由来である。
【0047】
本発明のキット製剤の一実施形態において、キレート官能基化ペプチドコンジュゲートの前記ターゲティング部分は、GRP受容体(GRPr)ターゲティング分子、より好ましくは、
― Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His、
― D-Phe-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His、
― Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Sta、
― D-Phe-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Sta、
― Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Leuψ(CHOH-CH2)-(CH2)2-CH3、
― D-Phe-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Leuψ(CHOH- CH2)-(CH2)2-CH3、
― D-Phe-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Leuψ(CH2NH)、
― Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Leuψ(CH2NH)、
― Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Sta-Leu-NH2、又は
― D-Phe-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Sta-Leu-NH2
からなる群より選択されるGRPrターゲティングペプチド配列を含む。
【0048】
本発明のキット製剤の一実施形態において、前記キレート官能基化ペプチドコンジュゲートは、
― DOTA-4-アミノ-1-カルボキシメチル-ピペリジン-D-Phe-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Sta-Leu-NH2、
― NOTA-4-アミノ-1-カルボキシメチル-ピペリジン-D-Phe-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Sta-Leu-NH2、
― NODAGA-4-アミノ-1-カルボキシメチル-ピペリジン-D-Phe-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Sta-Leu-NH2:
からなる群から選択される。
【0049】
本発明のキット製剤の一実施形態において、前記キレート官能基化ペプチドコンジュゲートは、DOTA-4-アミノ-1-カルボキシメチル-ピペリジン-D-Phe-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Sta-Leu-NH2である。
【0050】
本発明のキット製剤の一実施形態において、キレート剤/部分とターゲティング剤/部分とを連結するために、少なくとも1つのリンカーが存在する。キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートのリンカーは、結合、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、直鎖ジアミン、環状ジアミン、直鎖カルボン酸、環状カルボン酸、ポリエチレングリコール(PEG)およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。リンカーは、炭素数5までの脂肪族鎖のような他の基を含んでいてもいなくてもよく、約5~9アミノ酸のペプチド配列から構成され得る。好ましいリンカー群 -ポリ-Lys-、-ポリ-Glu-、-(Gly)Z-Glu-(Lys)3-、(Gly)2 Glu-Lys-Glu-Lys-、(Phe)2-(CH2)s-、(Lys)6-Gly-、-(Gly)3-(DGlu)3-、および-(Gly)3(アミノカプロン酸)2-。
【0051】
本発明のキット製剤の一実施形態において、リンカーは、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、直鎖ジアミン、環状ジアミン、直鎖カルボン酸、環状カルボン酸、ポリエチレングリコール(PEG)およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0052】
より好ましくは、リンカーは、4-アミノ-l-カルボキシメチルピペリジン、(R,S)-ジアミノ酢酸、PEG1-24、Sar-10、8-アミノオクタン酸、6-アミノカプロン酸、4-(2-アミノエチル)-l-カルボキシメチルピペラジン-、ジアミノ酪酸、ヒプリン酸、4-アミノ-l-Boc-ピペリジン-4-カルボン酸、グリ-アミノ安息香酸、5-アミノ-3-オキサ-ペンチル-コハク酸、PEG1-24-4-アミノ-l-カルボキシメチルピペリジン、Dab(シキミ酸)、(D-Gln)x、(D-Asn)xからなる群から選択される。
【0053】
本発明のキット製剤の一実施形態において、リンカーは4-アミノ-1-カルボキシメチル-ピペリジンである。
【0054】
本発明のキット製剤の一実施形態において、前記キット製剤は、5~500 nmolのキレート官能基化ターゲティングコンジュゲート、好ましくは、5~150 nmolのキレート官能基化ターゲティングコンジュゲート、より好ましくは、10~100 nmolのキレート官能基化ターゲティングコンジュゲートを含む。
【0055】
本発明のキット製剤の一実施形態において、凍結乾燥状態の製剤は、結晶性、部分的に結晶性、部分的に非晶質または非晶質製剤であり得る。
【0056】
本発明のキット製剤の一実施形態において、製剤は非晶質製剤である。
【0057】
本発明のキット製剤の一実施形態において、製剤は1%以下、好ましくは0.5%以下の残留水分を有する。
【0058】
本発明のキット製剤の一実施形態において、凍結乾燥製剤は無菌である。
【0059】
本発明のキット製剤の一実施形態において、25℃/60%RHで12ヶ月間保存した後の製剤中のキレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの分解率は、10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下である。
【0060】
本発明のキット製剤の一実施形態において、製剤から調製された放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの放射化学的純度は、25℃/60%RHで12ヶ月間保存後、90%以上、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上である。
【0061】
本発明のキット製剤の一実施形態において、キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの調製のための製剤は、3価または2価の放射性陽イオンで標識される。
【0062】
本発明のキット製剤の一実施形態において、キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの調製のための製剤は、3価の放射性金属カチオンで標識される。
【0063】
本発明のキット製剤の一実施形態において、キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの調製のための製剤は、2価の放射性金属カチオンで標識される。
【0064】
本発明のキット製剤の一実施形態では、同位体で標識されたキレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの調製のための製剤は、Ga、Cu、Lu、Y、Pb、Ac、Bi、Sc、Thからなる群から選択される。
【0065】
本発明のキット製剤の一実施形態において、同位体で標識されたキレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの調製のための製剤は、68Ga、64Cu、67Cu、177Lu、86Y、90Y、212Pb、225Ac、213Bi、44Sc、227Thからなる群から選択される。
【0066】
本発明のキット製剤の一実施形態において、同位体で標識されたキレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの調製のための製剤は、68Ga、64Cu、67Cu、177Lu、86Y、90Y、212Pb、225Ac、213Bi、44Sc、227Thまたは18F-Alからなる群から選択される。
【0067】
本発明のキット製剤の一実施形態において、同位体で標識されたキレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの調製のための製剤は、68Ga、64Cu、67Cu、177Lu、86Y、90Y、212Pb、225Ac、213Bi、44Scまたは18F-Alからなる群から選択される。
【0068】
本発明のキット製剤の特定の一実施形態では、キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの調製のための製剤は68Gaで標識される。
【0069】
本発明のキット製剤の一実施形態では、キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの調製のための製剤は、177Luで標識される。
【0070】
本発明のキット製剤の一実施形態では、キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの調製のための製剤は、18F-Alで標識される。
【0071】
本発明の主題はまた、本発明に係る前記キット製剤を使用することにより、放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートを調製するための方法であって、前記方法は、
― 放射性金属の溶液を、先行する実施形態のいずれか1つに記載のキット製剤と混合するステップ、
― 任意選択で、少なくとも1つの標識緩衝液または標識緩衝液の混合物を添加するステップ、
― 先行する実施形態のいずれか1つに記載のキレート官能基化ターゲティングコンジュゲートを、放射性金属と錯体形成させるステップ:
を含む。
【0072】
一実施形態において、前記方法は、
― 錯体形成ステップの後に希釈剤を添加するステップ、および/または
― 放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの投与の量を分注するステップ:
をさらに含む。
【0073】
一実施形態において、本発明による前記キット製剤を使用して、放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートを調製するための方法は、
―放射性金属の溶液を、先行する実施形態のいずれか1つに記載のキット製剤と混合するステップ、
―任意選択で、少なくとも1つの標識緩衝液または標識緩衝液の混合物を添加するステップ、
―先行する実施形態のいずれか1つに記載のキレート官能基化ターゲティングコンジュゲートを、放射性金属と錯体形成させるステップ、
―錯体形成のステップの後に希釈剤を添加するステップ、および/または
―放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの投与の量を分注するステップ
を含む。
【0074】
一実施形態において、放射性医薬品の調製方法は手動で実施される。
【0075】
別の実施形態において、
― 放射性医薬品の溶液を添加する、
― 任意選択で、少なくとも1つの(標識)緩衝液を添加する、
― キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの錯体形成を実施する、または
― 任意選択で、好ましくは注射用水、生理食塩水または生理学的緩衝液からなる群から選択される希釈剤を添加する
ために、装置が使用される。
【0076】
本発明に係る方法の特定の一実施形態において、前記錯体形成ステップは、0~150℃の間、好ましくは25℃(室温)で、または50℃~150℃の間で、より好ましくは80℃~120℃の間で、さらに好ましくは90℃~110℃の間で実施される。
【0077】
本発明に係る方法の特定の一実施形態において、錯体形成のために、前記製剤は、任意のタイプのヒーターまたはマイクロ波を使用して加熱され得る。
【0078】
本発明に係る方法の特定の一実施形態において、錯体形成は0.5分~30分、好ましくは1分~20分、好ましくは1分~10分、より好ましくは5分~10分行われる。
【0079】
本発明に係る方法の特定の一実施形態において、前記(標識)緩衝液は、酢酸緩衝液、ギ酸緩衝液からなる群から選択される。
【0080】
本発明に係る方法の特定の一実施形態において、錯体形成は2.5~5、より好ましくは3.5~4.5のpH値で行われる。
【0081】
本発明に係る方法の特定の一実施形態において、この方法によって得られるキレート官能基化ターゲティングコンジュゲートは、90%以上、好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上の純度を示す。
【0082】
本発明はまた、本発明の上記放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートのいずれかを含む放射性医薬組成物にも関する。
【0083】
一実施形態において、本発明の放射性医薬組成物は、
― 本発明の放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲート
― トレハロースおよびスクロースからなる群から選択される少なくとも1つの非還元糖、および
― アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、ゲンチジン酸、ゲンチジン酸塩、またはそれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1つの放射線安定剤:
を含む。
【0084】
特定の一実施形態において、本発明の主題は、
― 上記に記載の本発明に係る凍結乾燥キット製剤を含むバイアル
― 少なくとも1つの標識緩衝液または標識緩衝液の混合物を含むバイアルまたはシリンジ、および/または
― 放射性金属の溶液を含むバイアルまたはシリンジ:
を含むキットである。
【0085】
好ましい実施形態において、キット製剤は無菌である。
【0086】
好ましい実施形態において、標識緩衝液は無菌である。
【0087】
好ましい実施形態において、希釈剤は無菌である。
【0088】
好ましい実施形態において、放射性医薬品調製のための方法は、放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの無菌溶液を提供することである。好ましくは、前記溶液は、ヒトへの投与に使用可能である。
【0089】
上記の背景を踏まえて、以下の連続番号を付した実施形態は、本発明のさらなる具体的な態様を提供する:
【0090】
1.放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの調製のための凍結乾燥キット製剤であって、
― キレート官能基化ターゲティングコンジュゲート
― トレハロースおよびスクロースからなる群から選択される少なくとも1つの非還元糖
― アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、ゲンチジン酸、ゲンチジン酸塩、またはそれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1つの放射線安定剤
を含む、前記キット製剤。
【0091】
2.前記製剤中の非還元糖の濃度が10~600μmol、好ましくは20~500μmol、より好ましくは50~300μmolである、実施形態1に記載のキット製剤。
【0092】
3.前記キット製剤が、5~250mg、好ましくは10~100mgのトレハロースを含む、実施形態1または2に記載のキット製剤。
【0093】
4.前記キット製剤が、5~250mg、好ましくは10~100mgのスクロースを含む、実施形態1または2に記載のキット製剤。
【0094】
5.前記放射線安定剤が、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、またはそれらの混合物からなる群から選択される、実施形態1~4のいずれか1つに記載のキット製剤。
【0095】
6.前記放射線安定剤の製剤中の濃度が、1~500μmol、好ましくは5~250μmol、より好ましくは10~100μmolである、実施形態1~5のいずれか1つに記載のキット製剤。
【0096】
7.製剤中のアスコルビン酸の量が1~20mg、より好ましくは1~10mgである、実施形態1~6のいずれか1つに記載のキット製剤。
【0097】
8.実施形態1~7のいずれか1つに記載のキット製剤であって、前記キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートが、
― キレート化部分
― 任意選択で、少なくとも1つのリンカーであって、キレート部分とターゲティング部分とを連結するリンカー、および
― 少なくとも1つのターゲティング部分
を含む、前記キット製剤。
【0098】
9.前記キレート化部分が、TACN、TACN-TM、DTAC、H3NOKA、NODASA、NODAGA、NOTP、NOTPME、PrP9、TRAP、Trappist Pr、NOPO、TETA;トリス(ヒドロキシピリジノン)(THP)および誘導体、開鎖キレート、例えば、HBED、DFOまたはデスフェリオキサミンもしくはデスフェラール、EDTA、6SS、B6SS、PLED、TAME、YM103;NTP(PRHP)3;H2dedpaおよびその誘導体、例えばH2dedpa-1、2-H2dedpa、H2dp-bb-NCS、およびH2dp-N-NCS;(4,6-Me02sal)2-BAPEN;ならびにクエン酸塩およびそれらの誘導体からなる群より選択される、実施形態8に記載のキット製剤。
【0099】
10.前記キレート化部分が、NOTAおよびその誘導体ならびに/またはDOTAおよびその誘導体、好ましくはDOTAである、実施形態8に記載のキット製剤。
【0100】
11.前記リンカーが、結合、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、直鎖ジアミン、環状ジアミン、直鎖カルボン酸、環状カルボン酸、ポリエチレングリコール(PEG)およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、実施形態8~10のいずれか1つに記載のキット製剤。
【0101】
12.前記リンカーが、4-アミノ-l-カルボキシメチルピペリジン、(R,S)-ジアミノ酢酸、PEG1-24、Sar-10、8-アミノオクタン酸、6-アミノカプロン酸からなる群から選択される、実施形態8から11のいずれか1つに記載のキット製剤、 4-(2-アミノエチル)-l-カルボキシメチルピペラジン、ジアミノ酪酸、ヒプリン酸、4-アミノ-l-Boc-ピペリジン-4-カルボン酸、グリ-アミノ安息香酸、5-アミノ-3-オキサ-ペンチル-コハク酸、PEG1-24-4-アミノ-l-カルボキシメチルピペリジン、Dab(シキミ酸)、(D-Gln)x、(D-Asn)x。
【0102】
13.前記リンカーが4-アミノ-1-カルボキシメチル-ピペリジンである、実施形態8~12のいずれか1つに記載のキット製剤。
【0103】
14.前記ターゲティング部分が、VEGF受容体を標的とする分子、ボンベシンの類似体またはGRP受容体(GRPr)を標的とする分子、ソマトスタチン受容体を標的とする分子、RGDペプチドまたはανβ3およびανβ5を標的とする分子、アネキシンVまたはアポトーシス過程を標的とする分子、またはエストロゲン受容体を標的とする分子から選択される、実施形態8~13のいずれか1つに記載のキット製剤。
【0104】
15.前記GRP受容体(GRPr)ターゲティング分子が、GRPrターゲティングペプチドである、実施形態14に記載のキット製剤。
【0105】
16.前記GRP受容体(GRPr)ターゲティング分子が、
― Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His、
― D-Phe-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His、
― Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Sta、
― D-Phe-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Sta、
― Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Leuψ(CHOH-CH2)-(CH2)2-CH3、
― D-Phe-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Leuψ(CHOH- CH2)-(CH2)2-CH3、
― D-Phe-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Leuψ(CH2NH)、
― Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Leuψ(CH2NH)、
― Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Sta-Leu-NH2、又は
― D-Phe-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Sta-Leu-NH2
から成る群より選択されるペプチド配列を含む、実施形態14に記載のキット製剤。
【0106】
17.前記キレート官能基化ペプチドコンジュゲートは、
― DOTA-4-アミノ-1-カルボキシメチル-ピペリジン-D-Phe-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Sta-Leu-NH2、
― NOTA-4-アミノ-1-カルボキシメチル-ピペリジン-D-Phe-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Sta-Leu-NH2、
― NODAGA-4-アミノ-1-カルボキシメチル-ピペリジン-D-Phe-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Sta-Leu-NH2:
からなる群から選択される、実施形態1~16のいずれか1つに記載のキット製剤。。
【0107】
18.前記キット製剤が、5~500nmolのキレート官能基化ターゲティングコンジュゲート、好ましくは、5~150nmolのキレート官能基化ターゲティングコンジュゲート、より好ましくは、10~100nmolのキレート官能基化キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートを含む、実施形態1~17のいずれか1つに記載のキット製剤。
【0108】
19.前記製剤が結晶性、部分結晶性、部分非晶質または非晶質製剤である、実施形態18に記載のキット製剤。
【0109】
20.前記凍結乾燥製剤が無菌である、実施形態18または19に記載のキット製剤。
【0110】
21.前記製剤が1%以下、好ましくは0.5%以下の残留水分を有する、実施形態1~20のいずれか1つに記載のキット製剤。
【0111】
22.25℃/60%RHで12ヶ月間保存した後の製剤中のキレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの分解が、≦10%、好ましくは≦5%、より好ましくは≦3%である、実施形態1~21のいずれか1つに記載のキット製剤。
【0112】
23.実施形態~ら22のいずれか1つに記載のキット製剤であって、前記製剤から調製された放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの放射化学的純度が、25℃/60%RHで12ヶ月間保存後、90%以上、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上である、キット製剤。
【0113】
24.キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの調製のための製剤が、3価の放射性金属カチオンまたは2価の放射性金属カチオンで標識される、実施形態1~23のいずれか1つに記載のキット製剤。
【0114】
25.同位体で標識されたキレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの調製のための製剤が、68Ga、64Cu、67Cu、177Lu、86Y、90Y、212Pb、225Ac、213Bi、44Sc、または18F-Alからなる群から選択される、実施形態1~24のいずれか1つに記載のキット製剤。
【0115】
26.キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの調製のための製剤が、68Gaで標識される、実施形態1~25のいずれか1つに記載のキット製剤。
【0116】
27.実施形態1~26のいずれか1つに記載の前記キット製剤を使用する、放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの調製方法であって、
- 放射性金属の溶液を、実施形態1~26のいずれか1つに記載のキット製剤と混合するステップ、
- 任意選択で、少なくとも1つの標識緩衝液または標識緩衝液の混合物を添加するステップ、
- 実施形態1~26のいずれか1つに記載のキレート官能基化ターゲティングコンジュゲートを、放射性金属と錯体形成させるステップ:
を含む、前記方法。
【0117】
28.実施形態27に記載の方法であって、
- 錯体形成のステップの後に希釈剤を添加するステップ、および/または
- 放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートの投与量を分注するステップ。
をさらに含む、前記方法。
【0118】
29.前記錯体形成ステップが、0~150℃の間、好ましくは25℃(室温)、または50℃~150℃の間、より好ましくは80℃~120℃の間、さらにより好ましくは90~110℃の間で行われる、実施形態27または28に記載の方法。
【0119】
30.前記錯体形成が、加熱手段、好ましくはヒーターまたはマイクロ波によって行われる、実施形態27~29のいずれか1つに記載の方法。
【0120】
31.前記錯体形成が、0.5分~30分、好ましくは1分~20分、好ましくは1分~10分、より好ましくは5分~10分実施される、実施形態27~30のいずれか1つに記載の方法。
【0121】
32.前記標識緩衝液が、酢酸緩衝液またはギ酸緩衝液からなる群から選択される、実施形態27~31のいずれか1つに記載の方法。
【0122】
33.前記方法によって得られるキレート官能基化ターゲティングコンジュゲートが、90%以上、好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上の純度を示す、実施形態27~32のいずれか1つに記載の方法。
【0123】
34.錯体形成が、2.5~5、より好ましくは3.5~4.5のpH値で行われる、実施形態27~33のいずれか1つに記載の方法。
【0124】
35.実施形態27~34のいずれか1つに記載の方法によって得られる、放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲート。
【0125】
36.実施形態35に記載の放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲートを含む、放射性医薬組成物。
【0126】
37.
― 実施形態35に記載の放射性金属標識キレート官能基化ターゲティングコンジュゲート
― トレハロースおよびスクロースからなる群から選択される、少なくとも1つの非還元糖、
― アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、ゲンチジン酸、ゲンチジン酸塩、またはそれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1つの放射線安定剤、
を含む、放射性医薬組成物。
【0127】
38.
― 上実施形態1から26のいずれか1つに記載の凍結乾燥キット製剤を含むバイアル
― 少なくとも1つの標識緩衝液または標識緩衝液の混合物を含むバイアルまたはシリンジ、および/または
― 放射性金属の溶液を含むバイアルまたはシリンジ:
を含むキット。
【実施例】
【0128】
化学物質:
― RM2-DOTA (GMP), ABX
― 酢酸ナトリウム三水和物
― ギ酸ナトリウム (Sigma Aldrich 456020-25G)
― L-アスコルビン酸ナトリウム (Sigma), 11140-50g
― L-アスコルビン酸 (TraceSelect, Fluka, #: 05878; Sigma, #:PHR1068-2G; 20-80 mesh GMP, # 0938-05, JT Baker; Roth, #: 6288.1; Appli Chem, #: 141013.1208)
― 2,5ジヒドロキシ安息香酸 (Sigma Aldrich #:149357)
― 2,5ジヒドロキシ安息香酸超高純度 (Sigma Aldrich #:39319-10x10 mg-F)
― 水 (TraceSelect, Fluka, 5305)
― 30%塩酸 (TraceSelect, Merck, 1.01514.0500)
― 0.1 M HCl (1.06 ml 30% HClをTraceSelect水で100 mlまで溶解; Rotem Prod.#: K72001P; ABX Prod.#: HCl-103-G)
― D-(+)-トレハロース二水和物 (Sigma Aldrich T9531-100G)
― ポリビニルピロリドンK25 (Fluka, #:90268)
― ポリビニルピロリドン40 (Sigma, #: PVP40)
―トレハロース (Fluka,#:PHR1344)
―ソルビトールフェスト(Sigma, #:PHR 1006)
― D-ソルビトール(Sigma Aldrich #:97336-1kg-F)
―ショ糖(Sigma, #:S7903)
― Polysorbat 80, (Fluka, #:59924-100)
― ポリソルバット20 (Fluka,#:44112)
― マンニトール(Sigma, #:PHR 1007)
― D-マンニトール(Sigma, #:M8429)
― 2-ヒドロキシエチルセルロース (Aldrich, #:308633)
― ヒプロメロース (Sigma, #:H3785)
― デキストラン (Sigma, #:D9260-50)
― D-(-)-フルクトース (Sigma, #:F9048-100G)
― D(+)-グルコース (Sigma, #:G7528-250G)
【0129】
材料:
― ヘッドスペースバイアル、 9.5 ml、 3131-5245-K 1 ホウケイ酸ガラス、 E&Z
― TC-ELU-5バイアル (15 ml)
― 「ベントバイアルアダプター」 von Helapet, #:IV0020
― 注射バイアル 10R、フィオラックス ― 透明ガラス、NIPRO、#: MG037-002-0049-086 (Gilyos社より納入)
― 10ml透明SCHOTT (Fiolax) Type 1 Plus (SiO2) コーティングバイアル (Adelphi社より納入)
― Fluoro-Tec Septum, West Pharma, #:13194023/50/GREY/SIL A DB (Gilyos社より納入)
― Freeze Dry Stopper, FluoroTecコーティング, Bromobutyl 4023/50 grey, Westar RS P (Adelphi社より納入)
― シリンジ, Injekt(登録商標) F Solo, 1ml, BBraun #: 9166017V
― シリンジ, Injekt(登録商標) F Solo, 5 mL, BBraun #: 4606051V
― 金属製針 Sterican(登録商標) Gr. 2, G 21 x 1/1”, 0.80 x 0.40, BBraun #: 4657527
【0130】
ITLC:
― Agilent Technologies, ITLC-SG Chromatography paper, cat#: SGI0001
【0131】
機器:
― Modular Lab Pharm Tracer + ヒーターモジュール HRM-6299 + バイアルアダプター (3111-2603)
Eckert & Zieglerにより)
―[68Ga]GaCl3: ジェネレーター IGG100-50M, ロット#: 1779-14, 1856-1 Eckert & Ziegler
―[68Ga]GaCl3: ジェネレーター IGG101-50MGallia Pharm, ロット#: LGHE03, Eckert & Ziegler
―[68Ga]GaCl3: ジェネレーター ID: GaG-16-151, ITG
― pH-メーター 766, Calimatic, Knick
― 蛍光体撮像装置
【0132】
分析方法
【0133】
凍結乾燥キット製剤中のペプチドの安定性を、分析HPLCによって測定した。放射性金属標識キレート官能基化ターゲティング複合体の放射化学的純度は、HPLCおよびTLCによって測定した。
【0134】
【0135】
【0136】
TLC手法: 酢酸アンモニウム1M: メタノール(1:1 V/V)、リテンションファクター(Rf)は以下の通りである:非錯体形成Ga68種、Rf = 0~0.1;68Ga-RM2、Rf = 0.8~1。
【0137】
放射性標識手順
【0138】
Eckert&ZieglerジェネレーターIGG100またはIGG101の場合、ジェネレーターは5 mLの0.1 M HClで溶出され、凍結乾燥キット製剤に直接注入される。標識バッファー(200~300 μLのトラセレクト水に85 mgの酢酸ナトリウム、または200~300 μLに100 mgのギ酸ナトリウム)を加え、バイアルを沸騰水浴中で8分間加熱する。
【0139】
ITGジェネレーターの場合、ジェネレーターは4 mLの0.05 M HClで溶出され、凍結乾燥キット製剤に直接注入される。標識バッファー(200~300 μL中35 mgのギ酸ナトリウム)を加え、バイアルを沸騰水浴中で8分間加熱する。
【0140】
凍結乾燥キット製剤の調製
【0141】
バイアル(充填量1mL)の凍結乾燥サイクルは、
― 凍結セットポイント -45 °V、ランプレート 1 °C/min
― 一次/二次乾燥 -30 °C - 40 °C、設定真空度40 mTorr:
(全体のサイクル時間:48時間)
を含む。
【0142】
【0143】
凍結乾燥キット製剤の外観および残留水分の評価
【表4】
【0144】
凍結乾燥キット製剤におけるペプチド安定性の評価
【0145】
凍結乾燥したキット製剤は室温または40℃/相対湿度60%で保存した。ペプチドの安定性は、分析用HPLCによりベースラインおよびいくつかの時点で試験した(表3および表4)。
【0146】
マンニトールを含むキット製剤(比較製剤C、D、E)は、室温並びに40℃での保存中にペプチドの著しい分解を引き起こした。非還元糖のトレハロースまたはスクロースを含むキット製剤では、ペプチドの分解は観察されなかったか、わずかであった。
【表5】
【表6】
【0147】
キット製剤の保管後に得られた放射化学的純度の評価
【表7】
【配列表】
【国際調査報告】