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特表2024-526277量子トンネリングの二色性光制御を用いた核融合反応炉
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-17
(54)【発明の名称】量子トンネリングの二色性光制御を用いた核融合反応炉
(51)【国際特許分類】
   G21B 1/03 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
G21B1/03
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023581035
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(85)【翻訳文提出日】2024-02-28
(86)【国際出願番号】 US2022035845
(87)【国際公開番号】W WO2023158458
(87)【国際公開日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】63/218,146
(32)【優先日】2021-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524003530
【氏名又は名称】コーテックス フュージョン システムズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100123630
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】レヴィット ジェイコブ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイナハト トーマス シー
(72)【発明者】
【氏名】ラビッツ ハーシェル アルバート
(57)【要約】
核融合反応炉は、核融合反応を制御するために光パルス整形を使用する。反応炉組立体は、エネルギー生成、較正、又は診断測定のために流体核融合反応燃料を受け入れ、高エネルギー核融合生成物を電流に変換する。核融合反応炉は、周囲温度又は周囲温度より低い温度で作動する。モジュール式構成要素の使用により、効率的な商業化のためのスケーリングが可能となる。経済的で、単純なエネルギー取得に資する条件で作動できる核融合反応を制御する手法が必要とされている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核融合反応システムであって、
入力ビームを生成するレーザ源と、
前記入力ビームを用いて第1のパルスビーム及び第2のパルスビームを生成する光学組立体と、
第1の光学入力及び第2の光学入力を有する反応チャンバであって、前記反応チャンバは流体燃料を含むように構成されており、前記第1のパルスビームは、前記第1の光学入力を介して前記反応チャンバに入り、前記流体燃料の粒子を励起状態に励起し、前記第2のパルスビームは、核融合確率が生存率閾値を超えるように、前記励起状態の前記粒子に位相シフトを誘起する、反応チャンバと、
核融合反応により生成されたエネルギーを前記反応チャンバから取り出すエネルギー抽出器と、
を備える、核融合反応システム。
【請求項2】
前記入力ビームが約605nmの波長を有する、請求項1に記載の核融合反応システム。
【請求項3】
前記第2のパルスビームは、前記入力ビームの第3高調波である、請求項1に記載の核融合反応システム。
【請求項4】
前記入力ビームから、前記入力ビームの第2高調波である中間ビームを生成する第1のBBO結晶と、
前記入力ビーム及び前記中間ビームを用いた和周波発生を介して前記入力ビームの第3高調波である第2の中間ビームを生成する第2のBBO結晶であって、前記第2のパルスビームが前記第2の中間ビームの少なくとも一部である、第2のBBO結晶と、
を更に備える、請求項3に記載の核融合反応システム。
【請求項5】
前記第1のパルスビームは、前記入力ビームの第5高調波である、請求項4に記載の核融合反応システム。
【請求項6】
前記第2の中間ビームを前記第2のパルスビームと第3の中間ビームに分割する第2のビームスプリッタと、
前記第3の中間ビームの周波数成分の位相又は振幅のうちの少なくとも一方を変更するパルス整形器と、
前記第3の中間ビーム及び前記入力ビームの一部の同一線上にない4波混合を介して前記第1のパルスビームが生成される希ガスセルと、
を更に備える、請求項5に記載の核融合反応システム。
【請求項7】
前記希ガスセルが、所定の圧力でアルゴン又はクリプトンガスの少なくとも一方を含む、請求項6に記載の核融合反応装置。
【請求項8】
前記パルス整形器が、
回折格子と、
湾曲ミラーであって、前記回折格子及び前記湾曲ミラーは、前記中間ビームの周波数成分を空間的に分離するように構成されている、湾曲ミラーと、
前記周波数成分の位相又は振幅のうちの少なくとも一方を変更するように構成された音響光学変調器と、
を備える、請求項6に記載の核融合反応装置。
【請求項9】
前記音響光学変調器は、パターン認識モデルに基づいて前記周波数成分の位相又は振幅のうちの少なくとも一方を変更するように更に構成されている、請求項8に記載の核融合反応システム。
【請求項10】
前記燃料が、ノズルによって生成された分子ビーム中に提供される、請求項1に記載の核融合反応システム。
【請求項11】
前記燃料が、水の水素同位体である、請求項1に記載の核融合反応システム。
【請求項12】
前記第1のパルスビームが、水分子を
電子状態に励起する、請求項11に記載の核融合反応システム。
【請求項13】
前記第2のパルスビームによって導入される前記位相シフトが、π位相シフトキックのセットを含む、請求項12に記載の核融合反応システム。
【請求項14】
前記位相シフトキックは、粒子量子トンネリングが前記クーロン障壁を通過して生成物並進可能な状態の連続体に入ることに起因して、核融合事象が発生する確率を増加させる、請求項13に記載の核融合反応システム。
【請求項15】
前記反応チャンバが摂氏約0度~約100度の間の温度にある間に核融合が起こる、請求項1に記載の核融合反応システム。
【請求項16】
前記エネルギー抽出器が、核融合生成物から熱を発生し、タービンを駆動するために前記熱を供給する、請求項1に記載の核融合反応システム。
【請求項17】
前記エネルギー抽出器が、核融合生成物を可視光に変換するシンチレータと、前記可視光を電流に変換する半導体とを含む、請求項1に記載の核融合反応システム。
【請求項18】
前記入力ビームが、フェムト秒パルスを含む、請求項1に記載の核融合反応システム。
【請求項19】
前記流体燃料が、気相水分子のビーム又は水分子の液体ジェットを含む、請求項1に記載の核融合反応システム。
【請求項20】
前記流体燃料が、診断/較正モードにおいて気相水分子のビームと、発電モードにおいて水分子の液体ジェットを含む、請求項1に記載の核融合反応システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願に対する相互参照)
本出願は、2021年7月2日に出願された米国仮出願第63/218,146号の利益を主張するものであり、当該仮出願は、引用により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(技術分野)
記載される主題は、一般に、核融合力に関し、詳細には、核融合反応を制御するために光学パルスを使用するシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
実行可能な核融合反応炉を製造する際の課題の1つは、反応が進行中になると、正味の正エネルギーを取り込むのに十分な時間、核融合燃料を閉じ込めることである。既存の閉じ込め手法には、慣性閉じ込め(IC)及び磁気閉じ込め(MC)が挙げられる。
【0004】
IC手法では、入射レーザビーム又はイオンビームは、燃料の外層に向けられる。これにより、核融合材料の高密度をもたらし、核融合反応の発生を十分に可能にするのに十分な時間、核融合反応を閉じ込めるのに十分な内向きの力が作用する。MC手法では、強い磁場が燃料上で電荷と相互作用して燃料のプラズマ圧力を相殺し、従って、十分な核融合反応が起こるのに十分な時間で燃料を圧縮する。
【0005】
両方の手法は、高温で高密度を必要とし、正味の正のエネルギー生産を複雑にしている。具体的には、これらの閉じ込め技術は、大量のエネルギーを使用し、これは、正のエネルギー生産を達成するのに必要な核融合反応の回数が比較的多くなる。更に、高温高圧を伴うことで、エネルギー取得及び原子炉の寿命に更なる課題が生じる。経済的で且つ単純なエネルギー取得をもたらす条件で動作できる核融合反応を制御する手法が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
核融合システムは、核融合反応を制御するために光学パルス整形を使用する。核融合システムは、商業化に向けて拡張性の高いモジュラー構成要素を使用することができる。このシステムは、流体核融合反応燃料を受け入れ、高エネルギー核融合生成物の電流への変換を提供する反応炉組立体を含む。核融合システムは、周囲温度又は低温(周囲条件に対して)及び適度な磁場強度で作動し、情報及びフォトニック結晶技術による光学信号操作の効率的な利用を可能にする。正味の結果は、既存の電気インフラストラクチャにシームレスに統合できる発電機組立体である。
【0007】
一実施形態では、核融合反応システムは、入力ビームを生成するレーザ源を含む。核融合反応システムはまた、入力ビームを用いて第1のパルスビーム及び第2のパルスビームを生成する光学組立体を含む。反応チャンバは流体燃料を含むように構成され、第1及び第2の光学入力を有する。第1のパルスビームは、第1の光学入力を介して反応チャンバに入り、流体燃料の粒子を励起状態にする。第2のパルスビームは、核融合確率が生存閾値を超えるように、励起状態の粒子に位相シフトを誘起する。エネルギー抽出器は、核融合反応によって生成されたエネルギーを反応チャンバから抽出する。
【0008】
幾つかの実施形態では、入力ビームは約605nmの波長を有する。入力ビームは、フェムト秒パルスで構成することができる。第2のパルスビームは、入力ビームの第3高調波とすることができる。核融合反応システムはまた、入力ビームから入力ビームの第2高調波である中間ビームを生成する第1のBBO結晶と、入力ビーム及び中間ビームを用いた和周波発生を介して入力ビームの第3高調波である第2の中間ビームを生成する第2のBBO結晶とを含むことができ、第2のパルスビームは第2の中間ビームの少なくとも部分である。第1のパルスビームは、入力ビームの第5高調波とすることができる。
【0009】
核融合反応システムはまた、第2の中間ビームを第2のパルスビームと第3の中間ビームとに分割する第2のビームスプリッタと、第3の中間ビームの周波数成分の位相又は振幅のうちの少なくとも一方を変更するパルス整形器と、第1のパルスビームが第3の中間ビームと入力ビームの部分との同一線上にない4波混合を介して生成される希ガスセルとを含むことができる。希ガスセルは、アルゴンガス又はクリプトンガスの少なくとも一方を所定の圧力で含むことができる。パルス整形器は、中間ビームの周波数成分を空間的に分離する回折格子及び湾曲ミラーを含むことができる。パルス整形器は、周波数成分の位相又は振幅のうちの少なくとも一方を変更するように構成された音響光学変調器も含むことができる。
【0010】
幾つかの実施形態では、燃料は水の水素同位体である。第1のパルスビームは、水分子を
電子状態に励起する。第2のパルスビームによって導入される位相シフトは、π位相シフトキックのセットを含む。位相シフトキックは、クーロン障壁を通って核融合生成物チャネルの連続体にトンネリングする粒子量子に起因する核融合事象の発生確率を増加させる。流体燃料は、気相分子のビーム又は水分子の液体ジェットとすることができる。例えば、気相水分子のビームは診断/較正モードで使用することができ、水分子の液体ジェットは発電モードで使用することができる。
【0011】
核融合は、反応チャンバが摂氏約0度~約100度の間の温度にある間に起こることができる。エネルギー抽出器は、核融合生成物から熱を生成し、タービンを駆動するために熱を供給することができる。追加的又は代替的に、エネルギー抽出器は、核融合生成物を可視光に変換するシンチレータ及び可視光を電流に変換する半導体を含むことができる。
【0012】
記載された概念は、基礎物理学的応用並びに核融合発電プラント(例えば、超小型核融合発電プラント)で使用するための核融合反応炉の商業化を促進することができる。しかしながら、開示された概念は、一般に、核反応生成物(例えば、トリチウム、中性子、ベータ粒子、アルファ粒子、ヘリウム-3、高エネルギー量子、ニュートリノなど)を利用することができる、他の広範な用途(例えば、広範な産業用途)で適用可能である。このような用途には、粒子加速器及び検出器への応用(例えば、放射線治療用機器などの医療用途への応用)、高エネルギー粒子物理学分野への応用、及び核拡散防止分野への応用が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態による、光学パルスを用いた核融合システムのブロック図である。
図2】一実施形態による、図1の核融合反応炉のブロック図である。
図3】一実施形態による、核融合システムを較正するためのプロセスを示す図である。
図4】核融合が、分子結合状態から生成物並進状態の連続体へのクーロン障壁を通るトンネリングを介してどのように起こり得るかを示す図である。
図5】一実施形態による、πに等しい光誘起円錐交差を有する、所与の電子状態に属する核配置の射影ヒルベルト空間である基礎多様体Mの接続及びホロノミーを示す、繊維束を示す図である。
図6】一実施形態による、自発核融合の確率を高めるために量子制御によって操作できる円錐交差を含む水の電子構造の等角図である。
図7】一実施形態による、水の電子構造における光誘起円錐交差を示す図である。
図8】室温における水とある範囲の光波長との間の反応断面を示す図である。
図9】一実施形態による、位相シフトの全ての可能な組み合わせにわたって平均化された場合にπ位相シフトのセットが量子トンネリングを加速する確率モデルを示す図である。
図10】一実施形態による、水が真空紫外(VUV)パルスによって励起されたときに、水の自然電子構造上の円錐交差から生じる量子干渉パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図及び以下の説明は、単に例証として特定の実施形態について記載している。当業者であれば、記載の原理から逸脱することなく構造及び方法の代替の実施形態を利用できることが、以下の説明から容易に認識するであろう。図においては、可能な限り類似又は同様の参照番号が類似又は同様の機能を示すために使用される。異なる文字が続く共通の数字を要素が共用している場合、これは、要素が類似又は同一であることを示す。文脈からそうでないことが示されない限り、数字単独への言及は一般に、このような要素の何れか1つ又は何れかの組み合わせを指す。
【0015】
(概要)
核融合システムは、同一線上にない4波混合スキームが効率的に達成される場合に、システムを構成及び維持するために使用されるよりも多くのエネルギーを生成する有意義な数の核融合反応を生成するのに十分な確率でトンネリングにより自発核融合が起こるように、光学制御を使用して流体燃料(例えば、水)の量子状態を操作する。一般に、第1のレーザパルスは燃料分子(例えば、水分子)を励起状態(例えば、
電子状態)に遷移させ、第2のパルスは、励起分子の位相を操作してクーロン障壁を通るトンネリングを介して核融合を促す。記載の核融合システムは、低温(例えば、周囲温度又は周囲温度未満)で動作することができる。記載された原理による核融合反応炉は、比較的コンパクトなサイズ及び形状を有することができる。記載された概念、構造、及び技術は、先行技術の核融合反応炉製造技術と比較して比較的単純な製造技術を用いた堅固な核融合発電源の建設を可能にする。更に、記載された概念、構造、及び技術は、商業化に向けて十分にスケールアップするモジュラー構成要素を使用することができる。
【0016】
(核融合システムの例)
図1は、核融合システムの一実施形態を示す。図示の実施形態では、核融合システムは、レーザ源110及び反応炉150を含む。様々な光学部品が、レーザ源110によって生成されたビームを分割及び修正し、得られたビームを反応炉150に導くために使用される。他の実施形態では、核融合システムは、異なる要素又は追加の要素を含むことができる。更に、様々な要素は、記載されたものとは異なる方法で動作することができる。記載の核融合システムは、それが具現化する広範な原理の例として提供される。例えば、単一の反応炉150のみが示されているが、単一のレーザ源110は、マルチメガヘルツの繰り返しレートを示すことができ、時分割デマルチプレクサを介して2以上の反応炉150に接続することができる。
【0017】
レーザ源110は、基本周波数を有する光学ビームを生成する。一実施形態では、レーザ源110は、コヒーレントV5連続波レーザで励起されたカーレンズモードロック発振器と、フォトニクスDM-20 Qスイッチ170ns Nd:YLFレーザで励起されたマルチパスリングキャビティ増幅器とを含む。増幅器の出力は、繰り返し周波数1kHz、パルス幅30fs、及び中心波長780nmの1.5mJパルスとすることができる。パルスは、中空コアファイバーでスペクトル幅を広げ、スペクトルの青側(例えば605nm)を選択することができる。他の実施形態では、異なる基本周波数を有する他のタイプのレーザ源を使用することもできる。
【0018】
光学組立体は、レーザ源110によって生成されたビームを修正し、修正されたビームを反応炉150に導く。図1に示す実施形態では、光学組立体は、入力ビームを2つの部分に分割するビームスプリッタ112を含む。第1の部分は紫外線(UV)ビームの生成に使用され、第2の部分は真空紫外線(VUV)ビームの生成に使用される。
【0019】
基本周波数ビームの第1の部分は、第1のホウ酸バリウム(BBO)結晶122に向けられる。一実施形態では、BBO結晶122は、厚さ250μmであり、第2高調波発生(例えば、
タイプI SHG)用にカットされている。その結果、中間第2高調波ビームは、群速度分散(GVD)を補償するための方解石プレート124(例えば、厚さ1mmの方解石結晶、
及び基本波及び第2高調波を同じ偏光にするための半波長プレート126を通過することができる。
【0020】
基本波ビーム及び第2高調波ビームは、異なる高調波の1又は2以上の追加ビームを生成するために使用することができる。一実施形態では、基本波及び第2高調波ビームは、和周波発生(SFG)を介して201nmの光を発生させるために、第3高調波発生
用にカットされた厚さ100μmの第2のBBO結晶128内で結合される。SFG用BBO結晶128の後、基本波及び第2高調波から第3高調波を分離するために、第3高調波用の高反射率誘電体ミラーを使用することができる。
【0021】
第2のビームスプリッタ132を使用して、第3高調波ビームを2つの部分に分割することができる。第2のビームスプリッタ132は、ビームに対して45°で厚さ1mmのコーティングされていないCaF2ウィンドウとすることができる。第3高調波ビームの第1の部分は、反応炉150の第1の光学入力に向けられ、第2の部分は、UVパルス整形器160を介して反応炉の第2の光学入力に向けられる。
【0022】
第3高調波ビームの第1の部分は、第3高調波ビームのUV光及び基本周波数を有するビームの第2の部分を希ガスセル(例えば、反応炉150内)に集光するレンズ142(例えば、30cmのCaF2レンズ)に向けられ、第5高調波VUVビームを生成する。光学レンズ142によって導入される色収差を補正するために、望遠鏡又は他の光学系を使用することができる。一実施形態では、第5高調波(例えば、121nm)の生成は、以下の位相整合条件を満たす希ガス(例えば、アルゴン)における同一線上にない4波混合によって達成される。
希ガスセルの圧力及びパルスの位相整合角度は、実験的に較正することができる。
【0023】
或いは、青色同調チタンサファイアレーザの周波数を2倍にする(すなわち、729nmの2つの光子から365nmの1つの光子を発生させる)ことにより第5高調波を発生させ、その後、希ガス中で周波数が2倍になった光の第3高調波発生を利用して121nmを生成することができる。例えば、チタンサファイアレーザを延伸中空コアファイバーに通し、スペクトルを広げてブルーシフトさせ、730nm付近を中心にすることができる。この光を2倍して365nmにし、更にKr/Ar混合ガス中で3倍にすることもできる。
【0024】
UVパルス整形器160は、第3高調波ビームの第2の部分を、量子干渉パターンを発達させる光誘起円錐交差を燃料中に発生させトンネリングのユニタリー位相キック制御を実現する制御パルスに操作する。一実施形態では、RF(無線周波数)信号を音響光学変調器に送り、そこから光パルスを回折させるサウンド波を発生させる。これにより、異なる光周波数の位相及び振幅を変調し、光(UV)パルスを形成することができる。RF信号を変調して光パルスを整形し、所望のパルス形状を得ることができる。
【0025】
量子トンネリングのユニタリーフェーズキック制御は、従来のIC核融合手法(クーロン障壁を克服し核融合を誘発するのに十分なエネルギーを提供するために熱運動の刺激に依存する)で使用されるものよりも桁違いに低いパルスエネルギーを使用することを可能にし、なおかつ同等の核融合反応速度をもたらす。例えば、低強度VUVパルス(1011W/cm2)及び中強度UVパルス(1012W/cm2)が実施形態において使用され、これは、核融合燃料の熱核点火に到達するためにIC核融合手法によって必要とされるパルス強度よりも少なくとも9桁低い。
【0026】
πフェーズキックを含む特定の量子制御を使用する特定の実施形態が記載されているが、広範囲の量子制御が可能であり、及び高い核融合出力をもたらす量子制御プロトコルを特定するためにパターン認識又は機械学習モデルが使用され得ることが理解されるべきである。システム全体としては低温(例えば、摂氏0度から100度の間)で作動するかもしれないが、制御される個々の分子は高いエネルギーを有することに留意されたい。
【0027】
図2は、反応炉150の一実施形態を示す。図示の実施形態では、反応炉150は、希ガスセル210及び反応チャンバ220を含む。希ガスセル210は、第5高調波ビームの発生を促進するために、所定の圧力で希ガス又は希ガスの混合物を保持する。反応チャンバは、パルス光ビームが燃料と相互作用して核融合を促進する場所である。他の実施形態では、反応炉150は異なる構成とすることができる。
【0028】
希ガスセル210は、ガス入口214を介して希ガスが供給され、所定の圧力に維持される。実施形態では、数百Torr、約0.1~1気圧(76~760Torr)の間の圧力が使用される。一実施形態では、第3高調波及び基本周波数ビームは、光学入力212(例えば、厚さ2mmのCaF2ウィンドウ)を介して希ガスセル210に入射する。ビームは、同一線上にない4波混合を介して相互作用し、第5高調波ビームを生成する。インサート218は、第5高調波ビームを生成するための位相整合条件の例を示している。第5高調波ビームは、反応チャンバ220への第2の光学入力である光出力216(例えば、厚さ500μmのCaF2ウィンドウ)を通過する。
【0029】
反応チャンバ220は、燃料の分子ビーム又は液体ジェットを生成するように構成された分子ノズル222を含む。図2では、分子ビームはページから直接出るように向けられている。反応チャンバは低圧(例えば、10-7Torr)に維持することができる。第5高調波及び第3高調波パルスは、量子制御によって核融合を促進するために、分子ビーム中の燃料分子と相互作用する。一実施形態では、VUVパルスはまず、速度マップイメージング(VMI)分光計のリペラプレート223の下を通過する。次に、VUVパルスはダイクロイックミラー240(例えば、曲率半径R=268mm)によって反射される。このミラーは、121nmの光に対しては
で90%以上、201nm及び605nmに対しては5%未満の高反射率コーティングを有することができる。これにより、VUV発生時に残留する紫外線及び可視光線を分離することができる。
【0030】
反射されたVUVパルスは、VMI分光器リペラプレート223の下に集光される。第2パルスのために予約されたUVは、ダイクロ240を通って送られ、及びVMI分光器リペラプレート223の下に集光される。反応チャンバ220内のダイクロイックミラー223から反射されたVUVパルスは、リペラプレートの穴の下に導かれる。
【0031】
一実施形態では、これは可動ミラーマウントを用いて行われる。可動ミラーマウントの例が図のインサート270に示されている。図示された可動ミラーマウントは、中心を貫通する穴が開けられたKF40ブランクと、ウィンドウホルダとして穴の周囲にセットされたOリング溝とを含む。KF40ウィンドウホルダはKF40ベローに接続されている。ベローの首の周りにはカラーがあり、側面には高精度1/4インチ-80ファインヘックスアジャスター20のボールチップヘッドが収まる3つの穴がある。ナット付き1/4インチ-80ロッキングブッシングを所定の位置にロックするために、3つのスロットを有するアルミニウム(又は他の適切な材料)フレームが配置されている。このアルミニウムフレームは、反応チャンバ220から独立してボルトで固定することができる。1/4インチ-80ファインヘックスアジャスターは1/4インチ-80ロッキングブッシングに通してある。反応チャンバ220が真空になると、ベローが収縮し、及び1/4インチ-80ファインヘックスアジャスターのボールチップヘッドがカラーの穴に接触する。これはダイクロイックミラー240のジンバルマウントのように働き、及びVUVビームのステアリングを可能にする。
【0032】
反応チャンバはまた、1又は2以上のエネルギー抽出器230を含む。エネルギー抽出器230は、核融合生成物(例えば、高速中性子)と相互作用してエネルギーを抽出する。例えば、核融合生成物は、(反応チャンバの外側で)タービンを駆動するために水を加熱するために使用され得るか、又はシンチレータ/半導体システムは、核融合生成物を可視光に変換し、及び電気エネルギーに変換するために使用することができる、等である。核融合反応によって放出されるエネルギーを捕捉するために、任意の適切なエネルギー抽出方法が使用され得ることが理解されるべきである。核融合生成物は、相互作用領域を取り囲む立体角の周囲で等方的に放出される(すなわち、一様に約4πステラジアン)。従って、エネルギー抽出器230は、典型的には、システムの他の要素によって課される制約の範囲内で、この立体角の周りでエネルギー抽出器の表面積を最大にするように構成される。
【0033】
図3は、VMI分光計を使用して核融合システムを較正するための例示的なプロセスを示す。VMI分光計は、静電レンズ及びマイクロチャネルプレート(MCP)及び蛍光体ベースの位置感応検出器を用いる。VMI分光計は、高速タイムスタンプカメラと共に図示されている。静電レンズは、磁気シールド用のμ-金属シートシリンダー内に設置された標準的なリペラ-抽出器-接地電極レンズを含むことができる。第1(VUV)及び第2(UV)パルスビームは、分子ノズル222に垂直なリペラプレート223を平行に伝播する。VMIプレート223の上方には、既知の長さ(例えば、20cm)の飛行時間(TOF)管体226があり、及び管体の端部には、荷電粒子位置感応型二次元検出器がある。蛍光体からの蛍光光はカメラによって収集される。
【0034】
一実施形態では、ポンプパルス及びプローブパルスの両方が、偏光方向がTOF方向に対して垂直な直線偏光であり、レーザ偏光に関する対称性があるため、データのアーベル逆変換が可能である。カメラによって収集されたデータは、空間的に分解された分子形状データを提供する。このデータは、反応を最適化するために、パターン認識検索アルゴリズムを使用してレーザパルスの形状を決定するために使用することができる。キャリブレーションプロセスは、融合駆動に最適な(又は少なくとも最適に近い)パルス形状/シーケンスを決定する。実施形態では、「閉ループ学習制御」が使用される。ランダムなパルス形状/シーケンスのコレクションに対して収率の測定が行われる。最適なパルス形状のコレクションは、パターン認識アルゴリズムを使用して最適なパルス形状/シーケンスの探索を開始するために使用される。ランダムな初期パルスの場合、核融合収率が非常に低くなることが予想されるため、システムは予備知識/経験から推測される最適なパルス形状で初期化される。例えば、VMIスペクトロメーターの信号に記録されている、H原子を近づけることで生じる高エネルギー陽子などである。
【0035】
(量子制御の例)
図4図10及び対応する説明は、核融合システムが作動する理論を説明するものである。適所にて提供される理論は、説明のために簡略化される場合があり、又は読みやすさのために幾つかの詳細が省略される場合がある。しかしながら、当業者であれば、以下の理論的な議論から、核融合システムがどのように動作するか、また、融合に対する従来の手法と比較してシステムが有する様々な利点を理解するであろう。
【0036】
図4は、粒子の分離の関数としてのエネルギーを示している。具体的には、図4は、粒子がトンネリングによって分子結合状態から生成物の並進可能な連続状態へどのように遷移するかを示している。プロトンが低分子の電子構造で結合している系では、反応性衝突によって生成される多様な連続状態(中性子、ヘリウムイオンなど)に崩壊することがある。この過程は摂動がなければ観測される可能性は低いが、ユニタリーフェーズキック制御によって、自発的な振る舞いに比べてトンネリング速度を劇的に加速することができる。適切な光制御を行えば、従来のような力任せの熱核的手法を必要とすることなく、クーロン障壁を通るトンネリングによって核融合を起こすことができる。
【0037】
最初に状態|s>で準備された分子の束縛状態は、クーロン障壁をトンネリングして、反応性衝突によって生成される連続状態|k>の多様体へと崩壊する。この反応のハミルトニアンは次のようになる。
ここでλs及びλkは定常固有値である。Jks、Jskが0に等しくないとき、状態|s>は非定常である。摂動がない場合、時間依存の波動関数|ψ>は以下を満たす。
【0038】
初期条件cs(0)=1及びck(0)=0を用いて時間依存シュレディンガー方程式を解くことにより、展開係数の運動方程式を回復することができる。
積分すると、連続状態の多様体|k>への結合の結果として、状態|s>のポピュレーション崩壊による自発的トンネリング確率の標準式が得られ、
摂動論の2次まで有効である。これは、束縛状態|s>と連続状態の多様体|k>との間の結合のべき乗でトンネリング確率の摂動展開を計算していることを強調しておく。この結合は弱いので、問題は摂動展開の収束半径内に収まる。
【0039】
図5は、光誘起円錐交差の包絡に伴う固有状態|s>による幾何学的位相γ(C)=πの獲得を示す。基礎多様体Mは、与えられた電子状態に属する核配置の突出部ヒルベルト空間である。典型的なファイバーはU(1)リー群であり、位相因子の集合である。原子核波動関数の固有状態|s>は束空間内に存在し、固有状態の動的進化は束空間内の経路Eで表される。繊維束のベース空間における閉回路Cを考える。ベリー接続1-形式は、このパスを、同じファイバー上で始まり及び終わるバンドル内のパスEに持ち上げるユニークな方法を提供する。ファイバーは群なので、束のパスの始点を終点に写すファイバーの要素が存在する。この要素がホロノミーである。U(1)ファイバーの場合、経路Cに対応するホロノミーはexp{iγ(C)}と書くことができ、これは初期固有状態と最終固有状態の位相の差(すなわち幾何学的位相)である。光誘起円錐交差の場合、ホロノミーは正確にπに等しい。
【0040】
位相の実際の取得は、光誘起円錐交差を囲む配置空間内の回路が完了したときに瞬時に行われるため、その囲みは、波動関数|ψ>に作用するオペレータ
により表すことができる。
これは、時間発展した波動関数の|s>に沿った突出部の符号を変化させ、連続体の状態|k>の多様体に沿った|ψ>の突出部は影響を受けない。
【0041】
時間
におけるトンネリング確率の式を、オペレータ
の繰り返し作用の間の時間間隔
の関数として計算する(すなわち、構成空間における光誘起円錐交差の繰り返し包囲に対応する)ために、等確率で±1の値をとり、時間
においてオペレータ
が系に作用する(すなわち、
=-1)、又は作用しない(すなわち、
=1)に対応する確率変数を導入する。オペレータ
の影響下で進化する束縛状態の生存確率は次式で与えられる。
ここで、
及び

項を含むので無視される。πフェーズキックの全シーケンスにわたって平均化する効果を分析するために、
で以下の独立確率変数を考える。
従って、
及び時間
における平均生存確率は
である。積分すると、制御下の平均トンネリング確率が得られる。
上記の式は、光誘起円錐交差の特性を適切に修正することにより、制御場のパラメータを量子制御融合の最適化に使用することができることを示している。
【0042】
一実施形態では、量子制御は、ホロノミー(すなわち、π位相キックの所望のユニタリー変換)である幾何学的位相の取得を介して、その包絡が核波動関数の固有状態間の固定位相関係を変化させる光誘起円錐交差を生成する。包囲を繰り返すことで、反応性量子干渉が誘起される。
【0043】
図6は、水の電子構造がどのように量子制御核融合に適しているかを示している。図6は、水の同位体の光解離反応座標を記述する3つの断熱電子表面を示す。一実施形態では、核波動関数のユニタリー量子ダイナミクスは、この反応座標に沿って制御され、配置空間の古典的に禁じられた領域における確率振幅を確立する量子干渉パターンを引き出す。先に述べた光パルスは、水の原子核波動関数を高度に振動する時間発展状態に置き、そこではクーロン障壁を通るトンネリングが自発的な振る舞いに比べて加速され、水素原子核の融合が生じる。
【0044】
具体的には、記載された核融合システムの実施形態では、光解離ダイナミクスは、
電子状態への水分子の垂直励起をもたらすVUV範囲の最初の光制御パルスによって開始される。続く核波動関数の量子ダイナミクスは
電子状態を形成し、そこから更に動的な進化が起こり、
電子状態と
電子状態が自然に円錐状に交差する点で、接合された水素間の接合角がほぼ完全に閉じる。この円錐交差は、H+OH(X2Π)からの反発ポテンシャル曲線上のHからOHへの直線的な接近が、H+OH(A2Σ+)からの引力ポテンシャル曲線を横切ることができるために生じるが、曲がったジオメトリの下側C2v対称性では、これらの曲線の交差は避けられる。
【0045】
原子核の閉じ込めが外部ポテンシャルによって能動的に維持されなければならない先行技術の核融合技術(例えば、MC核融合手法)と比較して、記載された核融合反応炉では、閉じ込めは水の電子構造の受動的な結果であり、拡大された配置空間密度で原子核波動関数を安定化するための遮蔽を提供する。どの水素同位体を使うかによって、核融合は次のように起こる: H-H、H-D、H-T、D-D、D-T、又はT-Tである。
【0046】
図7は、単色磁場によって生成され得る光誘起円錐交差を示す。二色制御プロトコルにおける第2パルスの特性は、光誘起円錐交差の特性を決定する。例えば、フィールドの周波数はその位置を決定し、強度は円錐の急峻さを決定する。従って、光誘起円錐交差は、トンネル駆動核融合が起こる確率を高めるために、所望の電界をかけた電子プロファイルを作り出すように操作することができる。
【0047】
図8は、VUV光による水の室温断面図である。核融合プロセスの収率を制限する2つの要因は、光-物質相互作用のための断面積及びユニタリーフェーズキック制御下でのトンネリング確率である。図8に示すように、断面積は121nmの
電子状態に対応するピークを有する。図示の光-物質相互作用の断面積は、従来の核融合技術で達成可能な最良の熱核断面積よりも桁違いに大きい。例えば、121nmにおける水-VUV断面積は、D-D熱核断面積よりも9桁大きい。ユニタリーフェーズキック制御の数値シミュレーションでは、核の波動関数にπフェーズキックを繰り返すことで、MeVのクーロン障壁を通るトンネルを50%以上の確率で達成することができる。例えば、Saha, R., Markmann, A., Batista, V. S. (2012). Tunneling through Coulombic barriers: quantum control of nuclear fusion.Molecular Physics, 110(9-10), 995-999; Saha, R., Batista, V. S. (2011).Tunneling under coherent control by sequences of unitary pulses.The Journal of Physical Chemistry B, 115(18), 5234-5242; and Rego, L. G., Abuabara, S. G., Batista, V. S. (2007). Multiple unitary-pulses for coherent-control of tunnelling and decoherence. Journal of Modern Optics, 54(16- 17), 2617-2627を参照されたい。これらは全て引用により本明細書に組み込まれる。
【0048】
2つの水素原子核の核融合で利用可能なエネルギーは1MeVのオーダーである。1mJのエネルギーを有するレーザパルスから始めるとすると、レーザパルスあたり1010個の核融合事象が必要となる。ガス相では、分子数密度は1ccあたり約1014個である。レーザの焦点を100ミクロン、VUV及びUVパルスの伝搬経路長を1センチメートルとすると、ガス相での総焦点体積は10-4ccとなり、焦点体積内の分子の総数は、ガス相分子ビームでは約1010分子となる。従って気相は、VMIスペクトロメーターにおける同時計数統計のために低い数密度を必要とする較正及び診断測定に特に有用である。
【0049】
液相(例えば液体ジェット)では、分子の数密度は9桁大きくなるため、光路内の分子の数によって試料からエネルギーを抽出する能力が制限されることはなくなる。むしろ、利用可能なUV及びVUV光子の数である。VUV変換効率が10-3であれば、1パルスあたり1013個の光子を生成することができ、及びこれらの光子が全て吸収されれば、10-3の核融合収率で正味プラスのエネルギー生成が達成される。より高いVUV変換効率が達成されれば、収支均衡又は正味のエネルギー生産を達成するためには、より低い核融合収率が必要となる。
【0050】
ユニタリーフェーズキック制御は、核の波動関数における量子コヒーレンシスが反応性散乱事象の持続時間よりも長く存続する限り観測される。コヒーレント反ストークスラマン分光法によって測定された、水素接合による液体中の水素の回転-振動デコヒーレンスタイムスケールは~100-200fsである。このタイムスケール及び制御パルスの持続時間を考慮すると、量子トンネリングのユニタリー位相キック制御は液体水中でも観測できる。
【0051】
図9は、連続体への量子トンネリングの加速につながるπ位相キックの確率論的モデルを示しており、全ての可能な実現について平均化すると、確率論的モデルは、量子アンチゼノ効果の文脈で分析された減衰率を回復する。これにより、自発的又は熱的挙動と比較して核融合反応速度が加速される触媒機構を解析することができる。
【0052】
図10は、水が121nmで二色制御プロトコルの最初のVUVパルスによって励起されるときに、自然電子構造上の円錐交差によって誘発される例示的な量子干渉パターンを示す。斜線を引いたローブは正の量子振幅領域であり、及び斜線を引いていないローブは負の量子振幅領域である。システムは、水素原子核間のクーロン障壁を通過して加速するために、2番目のUVパルスによって生成される光誘起円錐交差によって、これらの自然干渉パターンを修正する。ローブは、水中で2番目の水素原子を見つける確率の振幅を示している。
表面上のハッチングされた領域は、
電子表面からの垂直励起に対するフランク・コンドンの領域であり、水のおなじみの平衡幾何学的形状を回復している。
【0053】
水の電子構造は、従来技術に比べて拡大された配置空間密度において、核波動関数を安定化させるスクリーニングを提供する。電子構造は更に、核の運動を3つの原子(すなわち、H、H、O)の位置によって定義される平面に閉じ込める。水中で結合した2つの水素原子核間のクーロン障壁を通過するトンネリングのユニタリーフェーズキック制御を観察するために、システムは核波動関数の固有状態間の固定相関係を変化させ、反応性量子干渉パターンを引き出す。これは、ある電子状態に属する核配置の突出部である基礎多様体Mのホロノミーが、光誘起の円錐交差を有することによって達成される。基礎多様体は、二色性制御プロトコルの2番目のパルスによってホロノミーが付与され、核シュレディンガー方程式の非断熱結合項が縮退点で無限に大きくなるだけでなく、極になる。極となることで、非断熱結合項はトポロジカル効果とみなされる多くの現象の原因となる。
【0054】
水中では、B~1A電子表面と
電子表面との間に自然な円錐状の交差があり、水を121nm(ライマンα波長)で照射すると、自然な量子干渉パターンが生じる。図10に示す干渉パターンは、
電子表面上の2つのプロトン間の極めて短い距離(約50pm)において、ある程度の確率振幅があることがわかるが、実行可能な量の核融合には至らない。これは、自然な円錐形の交点の1つが、直線的なO-H-Hジオメトリで対称性が要求されるため、VUV光解離中に
電子表面で接合角が閉じると、2つのプロトンが互いに接近するために起こる。この技術は水の電子構造を再正規化し、光によって誘起される円錐状の交点の位置を制御するもので、量子力学のフローケ図形におけるフィールドドレスの位置及び形状は、これらの自然な円錐状の交点の位置によって決定される。従って、この技術は、第2の光制御パルスによって、関連する自然干渉パターンを融合に至るように修正する。水を121nmで照射した後に適用される第2の制御パルスは、光誘起円錐交差を発生させ、水中のトンネリングのユニタリー位相キック制御を実現するのに十分な干渉パターンを発達させる。注目すべきは、この手法は、反応性衝突を達成するために熱運動の古典的エルゴード性に依存する従来技術で利用されているものよりも、少なくとも9桁低いパルスエネルギーを利用できることである。記載された手法は更に、2つのパルス間のタイミング、波長、時間的パルスエンベロープなどに関して光制御が可能である。
【0055】
制御プロトコルを最適化する一つの方法は、VMIスペクトロメーターを使うことである。VMIスペクトロメーターは、直接ジオメトリーデータ(すなわち、制御フィールド内のプロトンがどの程度近いか)を提供し、更に、気相で進化的パルス整形実験を実行するための統計的にロバストな観測値である。「閉ループ学習制御」が用いられる。閉ループ学習では、ランダムなパルス形状/シーケンスのコレクションに対して収率の測定を行う。次に、最適なパルス形状のコレクションを使用して、パターン認識検索アルゴリズムに基づく最適なパルス形状/シーケンスの検索を開始する。
【0056】
(追加的考察)
本明細書で使用される場合、「1つの実施形態」又は「一実施形態」への何れかの言及は、実施形態に関連して説明される特定の要素、特徴、構造、又は特性が、少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。本明細書の様々な箇所で「一実施形態において」という表現が現れるが、必ずしも全てが同じ実施形態を指すわけではない。同様に、要素又は構成要素の前に「a」又は「an」を使用するのは、単に便宜上のことである。本明細書は、他の意味であることが明らかでない限り、要素又は構成要素の1又は2以上が存在することを意味すると理解されるべきである。
【0057】
値が「約」又は「実質的に」(又はこれらの派生語)として記載されている場合、文脈から別の意味が明らかでない限り、このような値は正確に±10%と解釈されるべきである。例えば、「約10」は、「9から11の範囲」を意味すると理解されるべきである。
【0058】
本明細書で使用される場合、用語「comprises」、「comprising」、「includes」、「including」、「has」、「having」又はこれらの他の変形形態は、非排他的な包含を保護することを意図している。例えば、要素のリストを含むプロセス、方法、物品、又は装置は、必ずしもこれらの要素のみに限定されるものではなく、明示的に列挙されていない又はこのようなプロセス、方法、物品、又は装置に固有の他の要素を含むことができる。更に、そうでないことが明示されない限り、「又は」は包括的な又はを意味し、排他的な又はを意味しない。例えば、条件A又はBは、以下の何れかにより満たされる:Aは真であり(又は存在し)、Bは偽である(又は存在しない)、Aは偽であり(又は存在しない)、Bは真である(又は存在する)、及びA及びBの両方が真である(又は存在する)。
【0059】
本開示を読めば、当業者であれば、光学的に制御された核融合のためのシステム及びプロセスのための更に追加の代替的な構造的及び機能的設計を理解するであろう。従って、特定の実施形態及び用途が図示及び記載されているが、記載された主題は、開示された正確な構造及び構成要素に限定されないことを理解されたい。保護範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。
【符号の説明】
【0060】
110 レーザ源
132 ビームスプリッタ
142 レンズ
150 反応炉
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2024-03-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核融合反応システムであって、
入力ビームを生成するレーザ源と、
前記入力ビームを用いて第1のパルスビーム及び前記第1のパルスビームとは異なる波長を有する第2のパルスビームを生成する光学組立体と、
第1の光学入力及び第2の光学入力を有する反応チャンバであって、前記反応チャンバは流体燃料を含むように構成されており、前記第1のパルスビームは、前記第1の光学入力を介して前記反応チャンバに入り、前記流体燃料の個々の分子を励起状態に励起し、前記第2のパルスビームは、前記個々の分子の中の粒子の核融合確率が生存率閾値を超えるように、前記励起状態の前記個々の分子に位相シフトを誘起する、反応チャンバと、
核融合反応により生成されたエネルギーを前記反応チャンバから取り出すエネルギー抽出器と、
を備える、核融合反応システム。
【請求項2】
前記入力ビームが約605nmの波長を有する、請求項1に記載の核融合反応システム。
【請求項3】
前記第2のパルスビームは、前記入力ビームの第3高調波である、請求項1に記載の核融合反応システム。
【請求項4】
前記入力ビームから、前記入力ビームの第2高調波である中間ビームを生成する第1のBBO結晶と、
前記入力ビーム及び前記中間ビームを用いた和周波発生を介して前記入力ビームの第3高調波である第2の中間ビームを生成する第2のBBO結晶であって、前記第2のパルスビームが前記第2の中間ビームの少なくとも一部である、第2のBBO結晶と、
を更に備える、請求項3に記載の核融合反応システム。
【請求項5】
前記第1のパルスビームは、前記入力ビームの第5高調波である、請求項4に記載の核融合反応システム。
【請求項6】
前記第2の中間ビームを前記第2のパルスビームと第3の中間ビームに分割する第2のビームスプリッタと、
前記第3の中間ビームの周波数成分の位相又は振幅のうちの少なくとも一方を変更するパルス整形器と、
前記第3の中間ビーム及び前記入力ビームの一部の同一線上にない4波混合を介して前記第1のパルスビームが生成される希ガスセルと、
を更に備える、請求項5に記載の核融合反応システム。
【請求項7】
前記希ガスセルが、所定の圧力でアルゴン又はクリプトンガスの少なくとも一方を含む、請求項6に記載の核融合反応装置。
【請求項8】
前記パルス整形器が、
回折格子と、
湾曲ミラーであって、前記回折格子及び前記湾曲ミラーは、前記中間ビームの周波数成分を空間的に分離するように構成されている、湾曲ミラーと、
前記周波数成分の位相又は振幅のうちの少なくとも一方を変更するように構成された音響光学変調器と、
を備える、請求項6に記載の核融合反応装置。
【請求項9】
前記音響光学変調器は、パターン認識モデルに基づいて前記周波数成分の位相又は振幅のうちの少なくとも一方を変更するように更に構成されている、請求項8に記載の核融合反応システム。
【請求項10】
前記燃料が、ノズルによって生成された分子ビーム中に提供される、請求項1に記載の核融合反応システム。
【請求項11】
前記燃料が、水の水素同位体である、請求項1に記載の核融合反応システム。
【請求項12】
前記第1のパルスビームが、水分子を
電子状態に励起する、請求項11に記載の核融合反応システム。
【請求項13】
前記第2のパルスビームによって導入される前記位相シフトが、π位相シフトキックのセットを含む、請求項12に記載の核融合反応システム。
【請求項14】
前記位相シフトキックは、粒子量子トンネリングが前記クーロン障壁を通過して生成物並進可能な状態の連続体に入ることに起因して、核融合事象が発生する確率を増加させる、請求項13に記載の核融合反応システム。
【請求項15】
前記反応チャンバが摂氏約0度~約100度の間の温度にある間に核融合が起こる、請求項1に記載の核融合反応システム。
【請求項16】
前記エネルギー抽出器が、核融合生成物から熱を発生し、タービンを駆動するために前記熱を供給する、請求項1に記載の核融合反応システム。
【請求項17】
前記エネルギー抽出器が、核融合生成物を可視光に変換するシンチレータと、前記可視光を電流に変換する半導体とを含む、請求項1に記載の核融合反応システム。
【請求項18】
前記入力ビームが、フェムト秒パルスを含む、請求項1に記載の核融合反応システム。
【請求項19】
前記流体燃料が、気相水分子のビーム又は水分子の液体ジェットを含む、請求項1に記載の核融合反応システム。
【請求項20】
前記流体燃料が、診断/較正モードにおいて気相水分子のビームと、発電モードにおいて水分子の液体ジェットを含む、請求項1に記載の核融合反応システム。
【国際調査報告】