(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-17
(54)【発明の名称】胃腸疾患の処置において使用する為の生理学的に許容される酵母組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/064 20060101AFI20240709BHJP
A61P 1/12 20060101ALI20240709BHJP
A23L 33/14 20160101ALI20240709BHJP
A61K 36/06 20060101ALI20240709BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240709BHJP
C12N 1/16 20060101ALN20240709BHJP
【FI】
A61K36/064
A61P1/12
A23L33/14
A61K36/06
A61P1/00
C12N1/16 J
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023581076
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(85)【翻訳文提出日】2024-02-27
(86)【国際出願番号】 EP2022068192
(87)【国際公開番号】W WO2023275323
(87)【国際公開日】2023-01-05
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2022-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524005327
【氏名又は名称】エービー マウリ(ユーケー)リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【氏名又は名称】加藤 由加里
(72)【発明者】
【氏名】デ レセア,カルロス
(72)【発明者】
【氏名】クニ カステリャナ,ジョルディ
(72)【発明者】
【氏名】ティントレ ガズーラ,マリア
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB03
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
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4C087AA01
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4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA66
4C087ZA72
(57)【要約】
生理学的に許容される組成物であって、該生理学的に許容される組成物が、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)酵母、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)溶解物、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)細胞壁成分、及びサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)抽出物からなる群から選択される少なくとも1つの成分を含み、並びにクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)酵母、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)溶解物、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)細胞壁成分、及びクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)抽出物からなる群から選択される少なくとも1つの成分を更に含む、上記の生理学的に許容される組成物。任意的に、前記組成物は、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)酵母、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)溶解物、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)細胞壁成分、及びサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)抽出物の群から選択される少なくとも1つの成分を更に含む。本発明は更に、医薬品として使用する為の前記組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胃腸障害の処置において使用する為の、生理学的に許容される組成物であって、(i)不活性化された、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)酵母、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)溶解物、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)細胞壁成分、及びサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)抽出物からなる群から選択されるなくとも1つの成分を含み、並びに、(ii)不活性化された、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)酵母、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)溶解物、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)細胞壁成分、及びクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)抽出物からなる群から選択される少なくとも1つの成分を更に含む、前記生理学的に許容される組成物。
【請求項2】
前記胃腸障害が下痢である、請求項1に記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項3】
ウイルス感染によって、好ましくは、ロタウイルス、ノロウイルス、腸管アデノウイルス、アストロウイルス、肝炎ウイルス又はサイトメガロウイルスによる感染によって、特にはロタウイルスによって、生じる、請求項1又は2記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項4】
前記組成物が、不活性化された、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)酵母及び不活性化されたクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)酵母を含み、ここで、該酵母は好ましくは、加熱死滅されており、より好ましくはチンダリゼーションされた、請求項1~3のいずれか1項に記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項5】
前記サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)が、1グラム当たり少なくとも10
6細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)、好ましくは1グラム当たり10
9細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)~4x10
10細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)、の濃度で存在し、及びここで、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)が、1グラム当たり少なくとも10
6細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)、好ましくは1グラム当たり10
6細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)~5x10
9細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)、の濃度で存在する、請求項1~4のいずれか1項に記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項6】
前記組成物が、医薬品又は栄養補助製品である、請求項1~5のいずれか1項に記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項7】
前記組成物が、栄養製品、好ましくは、乳製品、乳児用調製粉乳、果物ベースの製品、シリアル製品、スナック、野菜飲料、スムージー及びアイソトニック飲料からなる群から選択される製品、である、請求項1~6のいずれか1項に記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項8】
前記組成物が経口補水塩である、請求項1~7のいずれか1項に記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項9】
前記組成物が、消化管内へと、好ましくは経口的に、投与されるべきものである、請求項1~8のいずれか1項に記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項10】
前記組成物が、ヒトの処置において使用する為のものである、請求項1~9のいずれか1項に記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項11】
前記組成物が、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)酵母、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)溶解物、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)細胞壁成分、及びサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)抽出物からなる群から選択される少なくとも1つの成分を、全酵母成分に基づいて、好ましくは、0.05~90重量%、10~90重量%又は10~80重量%、の範囲の総含量で含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項12】
前記組成物が、不活性化されたサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)酵母、好ましくは加熱死滅されたサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)酵母、より好ましくはチンダル化されたサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)酵母、を含む、請求項11に記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項13】
サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)が、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)CNCM I-3856、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)S288C、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)Y1529 及びサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)UFMG 905からなる群から選択され、好ましくは、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)Y1529又はサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)S288Cであり、特にはサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)Y1529である、請求項11又は12に記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項14】
前記組成物が、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)酵母を本質的に含まない、特にはサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)酵母を本質的に含まない、及び更に、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)酵母成分(例えば、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)溶解物、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)細胞壁成分、及びサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)抽出物)を本質的に含まない、請求項1~11のいずれか1項に記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項15】
前記組成物が、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)溶解物、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)細胞壁成分、及びサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)抽出物を本質的に含まない、請求項1~14のいずれか1項に記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項16】
サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)が、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)DSM 33954, サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)CNCM I-745、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)Hansen CBS 5926、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)BLD-3、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)CCTCC M2012116、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)CNCM I-1079、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)ATCC MYA-796、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)Unique28、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)Kirkman、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)Unisankyo、及びサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)CNCM I-3799からなる群から選択され、好ましくはサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)がサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)DSM 33954である、請求項1~15のいずれか1項に記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項17】
クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)が、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)AS41、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)B0399、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)CIDCA 8154、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)CBS1553、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)M3、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)V21/012435、及びクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)Z17からなる群から選択され、好ましくは、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)がクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)V21/012435である、請求項1~16のいずれか1項に記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項18】
前記組成物の前記不活性化されたサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)含量が、全酵母成分に基づいて、5~95重量%、好ましくは20~80重量%、である、請求項1~17のいずれか1項に記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項19】
前記組成物の前記不活性化されたクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)含量が、全酵母成分に基づいて、5~95重量%、好ましくは20~80重量%、である、請求項1~18のいずれか1項に記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項20】
不活性化されたサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)に加えて不活性化されたクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)の総含有量が、全酵母成分に基づいて50~100重量%、90~100重量%、である、請求項18又は19のいずれか1項に記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項21】
前記組成物が、前記胃腸障害を有する個体の処置において使用する為のものである、請求項1~20のいずれか1項に記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項22】
前記処置が予防的処置である、請求項1~20のいずれか1項に記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項23】
生理学的に許容される組成物であって、不活性化されたサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)酵母細胞が、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)DSM 33954、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)CNCM I-745、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)Hansen CBS 5926、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)BLD-3、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)CCTCC M2012116、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)CNCM I-1079、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)ATCC MYA-796、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)Unique28、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)Kirkman、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)Unisankyo、及びサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)CNCM I-3799からなる群から選択され、並びに、不活性化されたクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)酵母細胞が、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)AS41、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)B0399、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)CIDCA 8154、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)CBS1553、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)M3、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)V21/012435、及びクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)Z17からなる群から選択される、前記生理学的に許容される組成物。
【請求項24】
前記組成物が、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)DSM 33954及びクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)V21/012435を含む、請求項23に記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項25】
前記組成物が、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)細胞を実質的に含まず、好ましくはサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)ベースの画分を実質的に含まない、請求項23又は24に記載の生理学的に許容される組成物。
【請求項26】
前記組成物の前記不活性化されたサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)含有量が、全酵母成分に基づいて5~95重量%であり、及び前記組成物の前記不活性化された クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)含有量が、全酵母成分に基づいて5~95重量%であり、ここで、前記含有量が好ましくは両方とも20~80重量%の範囲である、請求項23~25のいずれか1項に記載の生理学的に許容される組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胃腸障害の処置において使用する為の酵母を含む、生理学的に許容される組成物であって、該治療は、予防的治療又は前記障害を有する個体の処置でありうる上記の組成物に関する。特には、本発明に従う組成物は、下痢の処置において使用する為に適している。特には、本発明に従う組成物は、ウイルス感染、例えばロタウイルスによる感染、によって引き起こされる胃腸障害の処置において使用する為に適している。本発明は更に、不活性化された酵母細胞を含む生理学的に許容される組成物に関する。本発明は更に、医薬品として、栄養補助食品、特別な医療目的の食品及び機能性食品の食品添加物又は機能性成分として使用する為の組成物に関する。
【0002】
プロバイオティクス(Probiotics)とは生きている微生物(live microorganisms)であり、それは、適切な量で投与されるときに、宿主に健康上の利益を与える。プロバイオティクスの潜在的な健康効果が知られるようになるずっと以前から、人類は既に何世紀にもわたって、食品中、例えば発酵乳及びヨーグルト中、の微生物から恩恵を受けてきた。現代のプロバイオティクスを含有する栄養素及び医薬品は、初期の発酵食品から直接派生したものである。現在までのところ、最も一般的なプロバイオティクスはラクトバチルス(Lactobacillus)属とビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の細菌であるが、酵母がまた効果的なプロバイオティクス生物と見なされるようになってきている。
【0003】
酵母ベースのプロバイオティクスは、急性胃腸障害、例えば下痢、又は慢性疾患、例えば、炎症性腸疾患(IBD:inflammatory bowel disease)及び過敏性腸症候群(IBS:irritable bowel syndrome)、を予防又は処置する為に、幾つかの国際的なガイドラインによって推奨されている。これらの酵母のプロバイオティクス活性は多因子であると考えられており、並びに、消化管バリア機能の改善、病原体の競合排除、抗菌ペプチドの産生、免疫調節、微生物叢の調節、及び栄養効果を包含する。酵母ベースのプロバイオティクスは、細菌性プロバイオティクスに比べて多くの利点、例えば、胃の極端な環境に耐えて腸に到達すること、及び抗生物質に対する感受性が低いこと、を有し、これにより、抗生物質による処置の間にプロバイオティクス効果が得られる可能性を提供する。幾つかの酵母種がプロバイオティクス効果を有することが示されている。例えば、クリソニリア(Chrysonilia)属、デバロミセス(Debaromyces)属、ハンセニアスポラ(Hanseniaspora)属、クルイベロミセス(Kluyveromyces)属、ラカネンセア(Lachanencea)属、メチコウィア(Metschnikowia)属、ピキア(Pichia)属、サッカロミセス(Saccharomyces)属、トルラスポラ(Torulaspora)属及びヤロウィア(Yarrowia)属に属する幾つかの菌株が、プロバイオティクスとして作用することが示唆されている(Ogunremi et al.,2015. J appl microbiol 117:797-808;Sugiharto et al.,2018.J adv vet 5(3):332-342;Agarbati et al.,2020.Foods 9(3):287;Dufosse et al.,2021.J Fungi 7(3):177)。
【0004】
特定の病態若しくは機能不全、又は身体的及び精神的な一般的健康状態に対して、予防的及び/又は治療的に健康に有益な効果を発揮し得る微生物の新規菌株の必要性に対処する為に、米国特許公開公報第US2010/303778号明細書は、特定のサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)菌株(Collection Nationale de Cultures de Microorganismesに第CNCM I-3856号で寄託されている)及び特定のサッカロミセス・バー・ボウラディ(Saccharomyces var.boulardii)酵母株(Collection Nationale de Cultures de Microorganismesに第CNCM I-3799号で寄託されている)を提供する。該酵母は例えば、腸疾患を処置する為の組成物において使用されうる。
【0005】
急性下痢は、主に小児が罹患する深刻な健康問題である。この疾病の原因物質のうち、ロタウイルスは重症例の大きな割合を占めている。ロタウイルスに対する経口生ワクチンが導入される以前は、該ロタウイルスは、毎年5歳未満の小児に、家庭でのケアのみを必要とする下痢の発症を1億1,100万回、2,500万回の診療所受診、200万回の入院、及び35万2,000~59万2,000人の死亡(中央値44万人の死亡)を引き起こしていたと推定されている(Parashar et al.,2003.Emerg Infect Dis 9:565~572)。2006年以降、該ウイルスに対する新しい経口生ワクチンが利用できるようになったにもかかわらず、世界中で65%の子供がワクチン未接種のままである。これらの問題を克服する為に、様々な栄養学的介入、例えば、プロバイオティクス、例えば、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)GG(LGG)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)及びビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)を包含する上記のプロバイオティクス、プレバイオティクス、及び牛乳からの生物活性成分、が試験されている。
【0006】
医学的疾患、特には、胃腸疾患、例えば、下痢、IBD若しくはIBS、又は炎症性メーカーが役割を果たすところの疾患、例えば、リューマチ性関節炎、変形性関節症、局所皮膚炎、乾癬、アレルギー若しくは肥満、の代替的な処置の可能性を提供する必要性が引き続き存在する。特には、ウイルス感染、例えばロタウイルスによる感染、によって引き起こされる胃腸疾患の代替処置の可能性を提供する必要性が引き続き存在する。更に、腸の健康を改善し、又は胃腸の機能を改善するのに適した代替製品を提供する必要性が引き続き存在する。消化管の健康を改善する為に又は胃腸の機能を改善する為に適した代替製品を提供する必要性が引き続き更に存在する。特には、上述した先行技術に記載されているような酵母を含む公知のプロバイオティック組成物と比較して、改善された消化管バリア機能、改善された抗炎症効果、又は胃腸感染に対する、特には胃腸ウイルス感染に対する、改善された保護を提供する為に適した組成物を提供することが目的である。対処されうる1以上の更なる目的が、本明細書における以下の説明から明らかになるであろう。
【0007】
我々は、少なくとも2種の異なる酵母を含む特定の組成物を提供することによって、複数の複数の前記目的の1以上が実現されることを今発見した。
【0008】
従って、本発明は、医学的障害、特には胃腸障害、の処置において使用する為の、生理学的に許容される組成物であって、該生理学的に許容される組成物が典型的には、活性成分として、(i)(不活性化された)サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)酵母、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)溶解物、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)細胞壁成分、及びサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)抽出物からなる群から選択される少なくとも1つの成分を含み、並びに(ii)(不活性化された)クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)酵母、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)溶解物、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)細胞壁成分、及びクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)抽出物からなる群から選択される少なくとも1つの成分を更に含む、上記の生理学的に許容される組成物に関する。本発明に従う処置は、予防的(prophylacti)(予防的(preventive))であることができ、又は該処置は、処置されるべき医学的疾患を有する個体の処置であることができる。医学的疾患を有する個体の処置は、医学的障害を治癒すること、苦痛を軽減すること、又は前記医学的障害に関連付けられた1以上の症状を緩和若しくは軽減することを含むことができる。
【0009】
処置されるべき好ましい胃腸障害は、消化管バリア機の障害に関連する疾患である。特に好ましい実施態様において、本発明に従う組成物は、下痢の処置において使用する為のものである。処置されるべき好ましい胃腸障害は、ウイルス感染、好ましくはロタウイルスによる感染、によって引き起こされる疾患、例えばウイルス感染を有する個体における(急性)下痢である。
【0010】
特には、胃腸ウイルス感染を有する個体の処置において、不活性化されたサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)酵母と不活性化されたクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)酵母とを含む組成物であって、ここで、該組成物は生きているサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)を本質的に含まず及び不活性化されたサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)を含まない上記の組成物、より特には、該組成物の酵母成分が不活性化されたサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)酵母と不活性化されたクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)酵母とから本質的になるところの組成物、を用いて良好な結果が達成されている。
【0011】
加えて、本発明は、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)DSM 33954、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)CNCM I-745、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)Hansen CBS 5926、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)BLD-3、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)CCTCC M2012116、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)CNCM I-1079、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)ATCC MYA-796、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)Unique28、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)Kirkman、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)Unisankyo及びサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)CNCM I-3799からなる群から選択される不活性化されたサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)酵母細胞と、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)AS41、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)B0399、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)CIDCA 8154、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)CBS1553、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)M3、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)V21/012435及びクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)Z17からなる群から選択される不活性化されたクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)酵母細胞とを含む生理学的に許容される組成物に関する。
【0012】
その上、本発明は、消化管の健康又は胃腸機能の維持又は改善において使用する為の、医学的疾患、例えば、胃腸障害、又は1以上の炎症誘発性マーカーによって定義される疾患、を有する個体の予防的処置又は個体の治療的処置において使用する為の、前記生理学的に許容される組成物に関する。処置されるべき好ましい胃腸障害は、消化管バリア機能の障害に関連する疾患である。特に好ましい実施態様において、本発明に従う組成物は、下痢、IBD又はIBSの処置における使用の為のものである。前記処置における使用に関して、好ましくは、1以上のマーカーが、IL-8、IP-10、MCP-1、TNFα及びTNFα/IL-10からなる群から選択される。IL-10に関して、これは調節性/抗炎症性の化合物であり、その濃度が減少し、そして、TNFαそれ自体が増加しない場合にまた、増加したTNFα/IL-10の比を結果として生じうることが観察される。この比はまた、1以上の炎症誘発性マーカーによって定義される疾患についての関連するマーカーである。好ましくは、本発明に従って処置されるべき1以上の炎症誘発性マーカーによって定義される疾患は、リューマチ性関節炎、変形性関節症、局所皮膚炎、乾癬、アレルギー及び肥満からなる群から選択される。
【0013】
本発明に従う(使用の為の)生理学的に許容される組成物は、食品添加物、飼料添加物、ヒト栄養における機能性食品、動物栄養における機能性食品、又は栄養補助食品の食品添加物若しくは機能性成分として使用されうる。
【0014】
その上、本発明に従う(使用の為の)生理学的に許容される組成物は、プロバイオティクス(probiotic)、ポストバイオティクス(postbiotic)、パラプロバイオティクス(paraprobiotic)、プレバイオティクス(prebiotic)、シンバイオティクス(symbiotic)、又はプロバイオティクス代替物(probiotic-substitute)として使用されうる。
【0015】
その上、本発明は、本発明に従う生理学的に許容される組成物、又は本発明に従う使用の為の生理学的に許容される組成物(好適)を含む医療機器に関する。
【0016】
以下の実施例において示されているように、本発明に従う(使用の為の)組成物は、消化管上皮細胞及び免疫細胞による炎症性サイトカイン産生の減少(すなわち、抗炎症効果を示す)及び経上皮電気抵抗の増加(すなわち、消化管バリア機能の改善された保護を示す)のような、消化管の健康についての1以上の関連するマーカーを改善する際に有効であることが見出されている。従って、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)ベースの画分、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)ベースの画分、及び任意的にサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)又はそれらの溶解物、細胞壁成分若しくは抽出物を含む組成物は、消化管の健康を維持する為の処置において使用されることができる。これらのマーカーに対する効果は、炎症及び/又は上皮の完全性の喪失によって特徴付けられる胃腸疾患、例えば(急性の)下痢、IBD又はIBS、の処置において使用する為のポジティブな効果(positive effect)を示す。更に、該結果は、本組成物がまた、胃腸障害、例えば下痢又は胃腸感染、の処置又は予防の為に有効であることを裏付けている。なぜならば、炎症性促進刺激を用いることによって、又は下痢を誘発することが知られている細菌、例えば典型的な下痢を引き起こす大腸菌(E.coli)株、を、上皮細胞に感染させることによって、急性胃腸感染をシミュレートすることにより、消化管の健康についての幾つかのマーカーが改善するからである。加えて、該組成物がウイルス感染によって引き起こされる胃腸障害の処置においてまた有効であることが裏付けられた。なぜならば、本組成物のロタウイルス感染に対する保護効果が観察されたからである。従って、それは、予防薬として、又は胃腸障害を経験している対象を処置する為に使用されうる。特には、不活性化されたサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)と不活性化されたクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)とを組み合わせることによって、驚くべき効果が得られる。実施例5は、いかなるサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)ベースの画分も含まない、(不活性化された)サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)と(不活性化された)クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)との組み合わせについて、(急性の)ウイルス誘発性下痢の処置における相乗効果を裏付けている。意図された使用に依存して、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)ベースの画分、例えば不活性化されたサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)、を更に含むことが好ましい場合がある。実施例1~実施例4において、個々の酵母は効果がない、効果が低い、又は悪影響を及ぼす一方で、消化管の健康についての幾つかのマーカーがそのような組み合わせによってどのように改善されるかが説明されている。前記3つの酵母画分の組み合わせ、特には(不活性化された)サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)と(不活性化された)クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)と(不活性化された)サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)との組み合わせの相乗効果が、なかんずく、MCP-1(
図2)について、IL-8(
図3)について、TNF-アルファー/INF-ガンマ・チャレンジ後のIP-10及びMCP-1(
図4及び
図5)について、並びにTNF-アルファー/IL-10の比(
図7)について、示されている。その上、前記酵母の組み合わせが消化管上皮の完全性をどのように改善するかを、消化管の細胞単層上の経上皮電気抵抗(TEER:trans epithelial electric resistance)における増加によって測定されたことを示す(
図8、
図9及び
図10)。
【0017】
複数の前記酵母又はそれらの一部は各々独立して、生存酵母細胞及び非生存酵母細胞から選択されることができる。実施例によって例示されているように、これらの酵母は生存可能である必要はない。従って、本発明者等は更に、該組成物中のサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)及びクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)の1つ、2つ又は各々がまた、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)及びクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)夫々の酵母溶解物、細胞壁材料又は酵母抽出物によって完全に又は部分的に置換されることができると結論付けた。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、炎症性刺激の非存在下で3種の酵母及びそれらの組み合わせとインキュベーションした後の、Caco-2細胞によるイン・ビトロ(in vitro)でのIP-10ケモカイン産生を図示する。
【
図2】
図2は、炎症性刺激の非存在下で3種の酵母及びそれらの組み合わせでインキュベーションした後の、MCP-1ケモカインのCaco-2細胞によるイン・ビトロ(in vitro)産生を記載する。
【
図3】
図3は、炎症性刺激の非存在下で3種の酵母及びそれらの組み合わせでインキュベーションした後の、IL-8ケモカインのCaco-2細胞によるイン・ビトロ(in vitro)産生を記載する。
【
図4】
図4は、炎症を起こした消化管上皮をシミュレーションした炎症促進刺激(TNF-α/INF-γ)の存在下、3種の酵母及びそれらの組み合わせでインキュベーションした後の、Caco-2細胞によるイン・ビトロ(in vitro)IP-10ケモカイン産生を図示する。
【
図5】
図5は、炎症を起こした消化管上皮をシミュレーションした炎症促進刺激(TNF-α/INF-γ)存在下、3種の酵母及びそれらの組み合わせでインキュベーションした後の、Caco-2細胞によるMCP-1ケモカインのイン・ビトロ(in vitro)産生を記載する。
【
図6】
図6は、炎症を起こした消化管上皮をシミュレーションする炎症促進刺激(TNF-α/INF-γ)の存在下、3種の酵母及びそれらの組み合わせでインキュベーションした後の、Caco-2細胞によるIL-8ケモカインのイン・ビトロ(in vitro)産生を記載する。
【
図7】
図7は、ヒトTHP-1細胞(マクロファージ)において観察されたTNFα/IL-10比のイン・ビトロ(in vitro)での減少を示す。
【
図8】
図8は、異なる酵母及びそれらの組み合わせによる消化管上皮に対する保護効果を図示する。上皮単層を破壊することが知られている感染剤(大腸菌(E.coli)ETEC H10407)とのインキュベーションの1時間後(左のバー)又は2時間後(右のバー)上に、酵母と陰性対照との比較が示されている。消化管上皮の完全性が、単層の経上皮電気抵抗(TEER:trans epithelial electric resistance)における増加によって測定された。
【
図9a】
図9は、Caco-2細胞単層を酵母の存在下(
図9a)とそれらの組み合わせ(
図9b)でインキュベーションしたときのTEERにおける増加によって測定された消化管上皮の分化を示す。幾つかのエラーバーはあまりにも小さすぎて見えない。
【
図9b】
図9は、Caco-2細胞単層を酵母の存在下(
図9a)とそれらの組み合わせ(
図9b)でインキュベーションしたときのTEERにおける増加によって測定された消化管上皮の分化を示す。幾つかのエラーバーはあまりにも小さすぎて見えない。
【
図10】
図10は、
図9において観察された効果(酵母及びそれらの組み合わせの存在下でCaco-2細胞単層をインキュベーションしたときのTEERにおける増加によって測定される消化管上皮の分化)を、対対照の増加率%で比較したものである。傾向線(trend lines)の回帰式は次のとおりである:サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii):y=-0.0374x+1.1848;サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae):y=0.011x+0.9844;クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus):y=-0.0031x+1.0408;サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)+サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae):y=0.0081x+0.9871;並びに、ABB C22:y=0.0142x+0.9384。
【
図11】
図11は、チンダリゼーションされたサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)とチンダリゼーションされたクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)との組み合わせについての結果を示し、ロタウイルス感染に対して保護する為の製品としてのこの組み合わせの使用を裏付ける、
【0019】
明確且つ簡潔な説明の為に、本明細書において、特徴が同一又は別個の実施態様の一部として記載されている。しかしながら、本発明の範囲は、記載された特徴の全て又は一部の組み合わせを有する実施態様を包含しうることが理解されるであろう。
【0020】
本明細書において使用される場合に、単数形「1つ」(a)、「1つ」(an)及び「該」(the)は、複数形を同様に包含することが意図されている。語「又は」は、文脈が明らかに別のことを示していない限り(例えば、「......又は......のどちらか」という構文が使用されている場合)を除き、関連する列挙された項目の1以上の任意の及びあらゆる組み合わせを包含する。語「含む」(comprises)及び「含んでいる」(comprising)は、述べられた特徴の存在を特定するものであるが、1以上の他の特徴の存在又は追加を排除するものでないことが理解されるであろう。方法の特定の工程が他の工程に後続するものとして言及される場合に、別段の指定がない限り、該他の工程に直接後続することができ、又は該特定の工程を実施する前に1以上の中間工程が実施されることができることが更に理解されるであろう。
【0021】
本明細書において、語「(少なくとも)実質的(に)」は一般的に、特定されたもの一般的な性質又は機能を有することを示す為に使用される。定量可能な特徴に言及する場合、この語は一般的に、その特徴の最大値の50%超、特には少なくとも75%以上、より特には少なくとも90%以上、更に特には少なくとも95%、であることを示す為に使用される。
【0022】
本明細書において、語「本質的に含まない」は一般的に、ある特徴が存在しないか、又は製品の特性に有意な影響を与えないような低量で存在することを示す為に使用される。
【0023】
本出願の文脈において、語「約」は一般的に、所与の値から15%以下の偏差、特には10%以下の偏差、より特には5%以下の偏差、を意味する。
【0024】
本明細書において使用される場合に、語「生理学的に許容される組成物」は、個体、例えば動物又はヒト、への投与の為に適した組成物を云う。
【0025】
本明細書において使用される場合に、語「プロバイオティクス」(probiotics)は、適切な量を投与されるときに、個体に健康上の利益を与えるところの生きている微生物を云う。プロバイオティクスは、あらゆる種類の微生物、例えば細菌及び酵母を包含する上記のあらゆる種類の微生物、を包含する。
【0026】
本明細書において使用される場合に、語「不活性化された」(inactivated)又は語「死滅した」(dead)又は語「非生存性の」(non-viable)は、生殖又はコロニー形成をすることができない有機体、例えば酵母、を云う。不活性化された有機体は、細胞膜が無傷である場合があり又は壊れている場合がある。当業者は、一般的な知識及び本明細書において開示された情報に基づいて、不活性化された有機体酵母を得ることができるであろう。ありうる手段は、照射、熱不活性化、超音波処理、凍結乾燥及び化学的不活性化を包含する。
【0027】
本明細書において使用される場合に、語「加熱死滅」(heat-killed)は、加熱処理によって不活性化され且つ代謝活性もコロニー形成も不可能な有機体を云う。有機体を不活性化する為の熱処理の手段は当業者に知られており、並びにチンダリゼーション(tyndallization)、低温殺菌(pasteurization)、超高温(UHT:ultra-high temperature)加熱、オーミック加熱(Ohmic heating)(又はジュール加熱(Joule heating))、ブランチング(blanching)、乾燥、煮沸及び滅菌を包含する。
【0028】
本明細書において使用される場合に、語「チンダリゼーション」(tyndallization)は、プロバイオティック微生物を加熱死滅させる為にしばしば使用される滅菌プロセスを云う。例えば、Ronald M.Atlasによる「Handbook of Microbiological Media」(第3版、2004年、CRC Press)における第11頁に記載されているように、チンダリゼーションは、ある連続した日数の加熱殺菌ステップを繰り返すことを含む。それ故に、語「チンダリゼーションされた」(tyndallized)は、チンダリゼーションによって加熱死滅され且つ代謝活性又はコロニー形成が不可能な有機体を云う。
【0029】
本明細書において使用される場合に、語「細胞溶解」は、有機体の細胞内に天然に含まれている細胞間生物学的成分の放出を結果として生じるあらゆる種類の細胞破壊を云う。それ故に、語「溶解物」は、細胞溶解後に得られる生成物を云う。本明細書において使用される場合に、「溶解物」は特には、有機体を溶解することによって得られる本質的に溶解物全体を意味し、それ故に、高分子、例えば、溶解された細胞からのDNA、RNA、タンパク質、ペプチド及び脂質、並びに細胞残屑、例えば、溶解された細胞からの細胞壁物質及び細胞膜成分を包含する上記の細胞残屑、を含む。溶解物を得る為の方法は当業者に知られており、並びに酵素的、物理的及び化学的方法を包含する。細胞壁成分は、例えば遠心分離又は濾過によって、溶解物の液体部分から分離されることができる。
【0030】
本明細書において使用される場合に、酵母の「抽出物」という語は、酵母細胞若しくは溶解物の流体部分若しくは画分、特には酵母細胞の液体内容物、特には濾過によって若しくは遠心分離によって得られる上記液体内容物若しくはそれらの画分、又は抽出相を用いて細胞若しくは溶解物から抽出することによって得られる上記液体内容物、を云う。
【0031】
本明細書において使用される場合に、語「代謝産物」は、酵母の増殖又は維持に由来し且つ培地中に残存し、しかし、特別な技術で保存される必要がないところのあらゆる物質を云う。代謝物の例は、有機酸及び無機酸、タンパク質、(ポリ)ペプチド、アミノ酸、(補)酵素、脂肪酸、(エステル化された)脂質、炭水化物(単糖、二糖、多糖を包含する)、リポタンパク質、糖脂質、糖タンパク質、糖リン酸塩、ビタミン、塩、金属、又は核酸である。
【0032】
本明細書において使用される場合に、語「生きて」(alive)又は「生存して」(viable)は、生殖又はコロニー形成をすることができる有機体を云う。
【0033】
本明細書において使用される場合に、語「個体」(individual)は、本発明の生理学的に許容される組成物の投与から利益を得ることができるところのあらゆる有機体、例えば動物又はヒト、を云う。本明細書において使用される場合に、語「動物」は特には、脊椎動物、例えば、魚類、鳥類、哺乳類、爬虫類及び両生類を包含する上記の脊椎動物、を云う。該動物は、農場動物、家畜又は実験動物であることができる。本発明に従って処置されるべき個体は特には、ヒト、非ヒト霊長類及びサル類、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、マウス、げっ歯類、例えばラット及びモルモット、家禽類、例えば、ニワトリ(chickens)、雌鶏(hens)、七面鳥、アヒル及びガチョウ、並びに水生動物、例えば魚及びエビ、から選択されうる。語「個体」は、特定の年齢又は性別(例えば、男性/女性)を示すものでない。従って、任意の年齢層のヒト、例えば、成人(18歳以上)及び小児(0~17歳)、例えば新生児個体(0~12ヶ月齢)又は幼児(12~36ヶ月齢)、を包含する上記の任意の年齢層のヒト、が、本発明に従って処置されることができる。好ましい実施態様において、該組成物は、ヒトの処置の使用の為のものであり、実施例は特には、腸細胞に対する有益な、相乗的でさえある効果を例示する。
【0034】
本明細書において使用される場合に、語「栄養製品」(nutritional product)は、個人に少なくとも1つの栄養素を提供する、該固体による摂取することを意図された組成物を云う。栄養製品は一般的に、タンパク質、脂肪、炭水化物及び微量栄養素からなる群から選択される1以上の成分を含む。
【0035】
本明細書において使用される場合に、語「栄養補助食品」(nutraceutical)は、食品中に含まれている基本的な栄養価に加えて、更に健康上の利点を提供する栄養製品を云う。
【0036】
本明細書において使用される場合に、語「経口補水塩」(ORS:oral rehydration salt)は、経口補水療法において使用する為に適した糖類ベースの塩溶液を云う。ORSは、如何なる年齢の個体における何らかの原因による下痢からの脱水の予防においても推奨される。ORSは更に、脱水症状を起こしたどのような年齢を有する個体を処置する為にも推奨されている。
【0037】
本明細書において使用される場合に、語「プレバイオティクス」(prebiotic)は、個体に健康上の利益を与える微生物によって選択的に利用されるあらゆる物質を云う。プレバイオティクスは特には、前記微生物の増殖及び/又は活性を刺激する難消化性食品成分である。
【0038】
本明細書において使用される場合に、語「ポストバイオティックス」(postbiotic)は、個体に健康上の利益を与える不活性化微生物及び/又はそれらの成分のあらゆる調製物を云う。健康上の利益を与える成分は、無細胞上清中のプロバイオティクス、例えば、酵素、分泌されたタンパク質、短鎖脂肪酸、ビタミン、分泌されたバイオサーファクタント、アミノ酸、ペプチド、有機酸等、によって分泌される代謝産物の組み合わせでありうる。
【0039】
本明細書において使用される場合に、語「パラプロバイオティクス」(paraprobiotic)は、個体に健康上の利益を与える不活化された微生物及び/又は細胞画分を云う。
【0040】
本明細書において使用される場合に、語「シンバイオティクス」(synbiotic)又は「シムバイオティクス」(symbiotic)は、プロバイオティクスとプレバイオティクスとの組み合わせからなるあらゆる調製物を云う。
【0041】
本明細書の以下において、語「酵母物質」又は「酵母ベースの画分」は、生きている酵母細胞、不活性化された酵母細胞、酵母溶解物、酵母細胞壁成分及び酵母抽出物についての属として使用される。同様に、語「微生物学的物質」は、生きている微生物、不活化された微生物、微生物の溶解物、微生物の細胞壁成分及び微生物の抽出物についての属として使用される。
【0042】
生理学的に許容される組成物の成分
【0043】
本発明において、前記サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)は、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)var.boulardiiとして分類される又は分類可能であるあらゆる菌株、特には、生きている又は不活性化された形態でプロバイオティックであるところのあらゆるそのような菌株、であることができる。1つの実施態様において、該組成物は、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)DSM 33954、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)CNCM I-745、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)Hansen CBS 5926、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)BLD-3、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)CCTCC M2012116、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)CNCM I-1079、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)ATCC MYA-796、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)Unique28、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)Kirkman、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)Unisankyo及びサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)CNCM I-3799からなる群から選択される少なくとも1つの株を含む。特には、不活性化されたサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)DSM 33954を含む組成物を用いて良好な結果が達成されている。実施例において示されているように、特には、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)DSM 33954を含む組成物を用いて良好な結果が達成されている。
【0044】
本発明において、前記サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)は、種サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)に属するあらゆる菌株、特には、生きている又は不活性化された形態におけるプロバイオティクスであるあらゆる菌株、であることができ、但し、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)var.boulardiiとして分類される又は分類可能である株を除く。該種サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)はまた、当技術分野において、パン酵母、ビール酵母、又はカンジダ・ロブスタ(Candida robusta)と呼ばれる。
【0045】
本発明に従う組成物において、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)ベースの画分の存在は任意である。活性成分としての不活性化されたサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)及び不活性化されたクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)と組み合わせて使用される活性成分としての前記サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)ベースの画分、特には不活性化されたサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)酵母、が、なかんずく、抗炎症効果を提供すること(実施例1及び実施例2)並びに腸管バリア完全性を裏付けること(実施例3及び実施例4)において有利であることが見出されている。一方、実施例5において裏付けされているようにサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)ベースの画分を本質的に含まない組成物は、ウイルス感染に対して腸細胞を保護する為に特に効果的である。特には、ミネラルが豊富なサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)、例えば亜鉛が豊富なサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)、を用いて良好な結果が達成されている。
【0046】
サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)が組成物中に存在する場合、それは好ましくは、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)CNCM I-3856、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)S288C、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)Y1529及びサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)UFMG 905から選択されるサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)ベースの画分、特には不活性化された酵母細胞、を含み、その中でも、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)S288C(ATCCに寄託されている)及びサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)Y1529(ATCCに寄託されている)が特に好ましい。特には、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)Y1529を用いて良好な結果が達成されている。
【0047】
本発明において、前記クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)は、種クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)に属するあらゆる菌株であることができる。この種はまた、サッカロミセス・マルシアヌス(Saccharomyces marxianus)、カンジダ・ケフィア(Candida Kefyr)、カンジダ・シュードトロピカリス(Candida pseudotropicalis)、クルイベロミセス・フラジリス(Kluyveromyces fragilis)、クルイベロミセス・シセリスポルス(Kluyveromyces cicerisporus)として当技術分野において言及されている。1つの実施態様において、前記組成物は、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)AS41、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)B0399、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)CIDCA 8154、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)CBS1553、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)M3、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)V21/012435、及びクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)Z17からなる群から選択される1以上の株を含む。クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)V21/012435細胞を含む本発明に従う組成物を用いて良好な結果が達成されている。従って、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)V21/012435細胞、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)V21/012435細胞の抽出物、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)V21/012435細胞の溶解物、又はクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)V21/012435細胞の細胞壁材料が、本発明の好ましい組成物中に存在する。
【0048】
標準的な文献、例えば、「The yeasts,a taxonomic study」(CP Kurtzman,JW Fell and T Boekhout),第5版,2011,Elsevier、を使用することによって、所与の酵母株が、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)var.boulardiiとして、種サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)として、又はクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)として、分類され又は分類可能である場合に、当業者は決定することができるであろう。その上、当業者は、標準的な文献、例えば、Edwards-Ingram L,Gitsham P,Burton P,et al.,「Genotypic and physiological characterization of Saccharomyces boulardii,the probiotic strain of Saccharomyces cerevisiae」,Appl Environ Microbiol 2007;73:2458~67に基づいて、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)var.boulardiiを、種サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)に属する他の酵母株と区別することができるであろう。
【0049】
(i)(不活性化された)サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)酵母、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)溶解物、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)細胞壁成分、及びサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)抽出物(本明細書において、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)ベースの画分としてまた言及される)からなる群から選択される少なくとも1つの成分、(ii)(不活性化された)クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)酵母、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)溶解物、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)細胞壁成分、及びクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)抽出物(本明細書において、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)ベースの画分としてまた言及される)からなる群から選択される少なくとも1つの成分の相対的な量が、広い範囲内で変化することができる。
【0050】
加えて、存在する場合に、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)酵母、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)溶解物、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)細胞壁成分、及びサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)抽出物(本明細書において、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)ベースの画分としてまた言及される)からなる群から選択される少なくとも1つの成分の相対的な量がまた、広い範囲内で変化することができる。
【0051】
一般的に、本発明に従う(使用の為の)組成物の前記サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)ベースの画分、特には、前記不活性化されたサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)細胞から本質的になる画分、は、全酵母成分に基づいて、0.05~99.95重量%、好ましくは5~95重量%、より好ましくは20~80重量%、特には20~60重量%、より特には25~50重量%、である。
【0052】
一般的に、本発明に従う(使用の為の)組成物中に存在し、該組成物が下痢、特にはウイルス誘発性下痢、の処置とは異なる目的の為のものである場合、前記サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)ベースの画分、特には本発明に従う(使用の為の)組成物の不活性化されたサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)細胞から本質的になる画分、は、全酵母成分に基づいて0.05~90重量%、好ましくは10~90重量%、より好ましくは20~80重量%、の範囲である。これは、或る抗炎症効果及び消化管バリアの完全性の為に有利であることが見出されている。下痢、特にはウイルス感染に関連付けられた下痢、より特にはロタウイルス感染に関連付けられた下痢、又はノロウイルス、腸管アデノウイルス、アストロウイルス、肝炎ウイルス及びサイトメガロウイルスの群から選択されるウイルスでの感染に関連付けられた下痢、の処置において使用されることが意図された組成物の場合に、前記サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)ベースの画分は通常、全酵母成分に基づいて0~30重量%である。特に好ましくは、0~0.044重量%の含有量である。代替的には、全酵母成分に基づいて、0.045~20重量%、特には0.050~10重量%、より特には0.5~5重量%、の範囲の含有量は、下痢、特にはウイルス感染、例えばロタウイルス感染、に関連付けられた下痢、の処置において使用されることができる。
【0053】
一般的に、(使用の為の)前記クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)ベースの画分、特には本発明に従う不活性化されたクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)細胞から本質的になる画分、は、全酵母成分に基づいて、0.05~99.95重量%、好ましくは5~95重量%、より好ましくは20~80重量%、特には20~60重量%、より特には25~50重量%、である。
【0054】
通常、前記サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)ベースの画分、前記サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)ベースの画分及び前記クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)ベースの画分は、一緒にして、総微生物学的物質(例えば、細菌、藻類若しくは真菌細胞、それらの溶解物、それらの抽出物)の少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも25重量%、より好ましくは少なくとも50重量%、特には少なくとも75重量%、を形成する。所望により、他の微生物学的物質、特には、プロバイオティクス微生物又はプロバイオティクス微生物の細胞物質、が、該組成物中に存在してもよい。従って、前記サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)ベースの画分、前記サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)ベースの画分及び前記クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)ベースの画分の合計は、総微生物学的物質に基づいて、総微生物学的物質の100重量%以下、例えば99重量%以下、である。
【0055】
有利な実施態様において、前記生理学的組成物は、5~95重量%のサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)ベースの画分、10~80重量%のサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)ベースの画分及び5~95重量%のクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)ベースの画分)を含む(全ての範囲は総微生物学的物質に基づく)。特には、そのような組成物を用いて、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)ベースの画分の含有量が15~50重量%の範囲、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)ベースの画分の含有量が15~50重量%の範囲、及びクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)ベースの画分の含有量が15~50重量%の範囲を有する組成物(全ての範囲は、該組成物の総微生物学的物質に基づき、但し、前記3つの画分の合計が100重量%以下である)を用いて、例えば、幾つかの炎症誘発性マーカー又はTEERに関して、良好な結果が達成される。本明細書において、有利には、酵母ベースの画分は、不活性化された酵母細胞から少なくとも実質的になる。本明細書において、有利には、総微生物学的物質は、不活性化された酵母細胞から少なくとも実質的になる。当業者であれば理解されるように、本明細書に開示された情報及び一般的な一般知識に基づいて、満足のいく結果を得る為に異なる含有量が適用されてもよい。
【0056】
他の有利な実施態様において、該生理学的組成物が、前記組成物中の全酵母成分に基づいて、5~95重量%のサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)ベースの画分(特には、不活性化されたサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii))及び5~95重量%のクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)ベースの画分(特には、不活性化されたK.marxianus)を含み、しかし、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)ベースの画分を本質的に含まない(サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)酵母、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)溶解物、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)細胞壁成分、及びサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)抽出物を本質的に含まない)。特には、例えば、20~80重量%の範囲のサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)ベースの画分の含有量(特には、不活性化されたサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)含有量)及び20~80重量%の範囲のクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)ベースの画分の含有量(特には、不活性化されたクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)含有量)を有する組成物(全ての範囲は総微生物学的物質に基づく)のウイルス感染、例えばロタウイルス感染、に対する保護に関して、良好な結果が達成される。本明細書において、前記2つの画分の合計は、全酵母成分に対して100重量%以下、好ましくは50~100重量%、より好ましくは80~100重量%、特には90~99重量%、である。当業者であれば理解されるように、本明細書に開示された情報及び一般的な一般知識に基づいて、満足のいく結果を得る為に異なる含有量が適用されてもよい。
【0057】
例えば、脆弱な患者群若しくは免疫不全の患者群又は新生児において、生きている微生物の使用に関する安全性の問題が生じている故に、非生存性の不活化されたプロバイオティクスを使用することにおける関心が高まっている。幾つかの不活化方法が、当業者に知られており、並びに照射、加熱不活化、超音波処理、凍結乾燥及び化学的不活化を包含する。チンダリゼーションは、プロバイオティック微生物を加熱死滅させる為にしばしば使用される滅菌プロセスである。興味深いことに、本発明に従って、チンダリゼーションされた酵母は、関連する生物学的応答、例えば、正常な腸のホメオスタシスを回復させること、を発揮することが示されている。
【0058】
従って、有利には、本発明の生理学的に許容される組成物は、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)及びクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)から選択される少なくとも1つの不活性化された酵母を含む。好ましくは、不活性化されたサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)及び不活性化されたクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)は、本発明に従う(使用の為の)前記組成物中に存在する。1つの実施態様において、不活性化されたサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)は更に、前記本発明に従う組成物中に存在する。前記酵母のうちの1以上が、ミネラルが豊富な酵母、例えば亜鉛が豊富な酵母、である場合、該ミネラルが豊富な酵母が不活性化されていることが特に好ましい。好ましくは、前記不活性化された酵母は加熱死滅される。より好ましくは、該不活性化された酵母はチンダリゼーションされる。該チンダリゼーションは、当技術分野で一般的に知られているチンダリゼーションプロセスに基づいてもよい。特には、チンダリゼーションされたサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)、更にはチンダリゼーションされたクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)、及び任意的に、更にはチンダリゼーションされたサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)を含む組成物を用いて、良好な結果が達成されている。
【0059】
生存酵母細胞を本質的に含まない組成物を用いて良好な結果が達成されているが、本発明の生理学的に許容される組成物は、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)及びクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)から選択される少なくとも1つの生きている酵母を含んでいてもよい。
【0060】
消化管内への投与の為の本発明の生理学的に許容される組成物中に含まれる前記サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)は通常、1グラム当たり106細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)~1グラム当たり1011細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)、1グラム当たり107細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)~1グラム当たり1011細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)、より好ましくは1グラム当たり109細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)~1グラム当たり2x1010細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)、の範囲の濃度で存在する。消化管内への投与の為の本発明の生理学的に許容される組成物中に含まれるクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)は通常、1グラム当たり106細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)~1グラム当たり1010細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)、好ましくは1グラム当たり107細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)~1グラム当たり5x109細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)、の濃度の範囲で存在する。
【0061】
前記サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)が消化管内への投与の為に本発明の生理学的に許容される組成物内に含まれている場合、前記サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)は通常、1グラムあたり1011個の細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)までの濃度で存在する。ウイルス性下痢の処置とは異なる用途、特にはロタウイルス感染に関連付けられた下痢、とは異なる使用を意図された組成物中に含まれる場合、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)が存在する場合、好ましくは1グラム当たり106~1011個の細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)、好ましくは1グラム当たり108細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)~1グラム当たり5x109個の細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)の範囲、の濃度で含まれる。胃腸ウイルス感染、特には、ロタウイルス感染症に関連付けられた下痢、の処置において使用される組成物の場合、前記サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)の濃度は有利には、1グラム当たり106個未満の細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)、特には1グラム当たり0~104個の細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)である。特には、ウイルス性下痢の処置において、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)ベースの画分を本質的に含まない組成物を用いて良好な結果が達成されている。
【0062】
消化管内への投与の為の本発明の生理学的に許容される組成物中に含まれるクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)は通常、1グラム当たり106細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)~1グラム当たり1010細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)、好ましくは1グラム当たり107細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)~1グラム当たり5x109細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)、の濃度の範囲で存在する。
【0063】
別の投与様式(例えば局所投与、特には、医療機器の一部として)の為の、本発明の生理学的に許容される組成物中に含まれる前記サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)は通常、1グラム当たり104細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)~1グラム当たり1011細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)、好ましくは1グラム当たり106細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)~1グラム当たり1010細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)、の濃度の範囲で存在する。別の投与様式、例えば局所投与、の為の、本発明の生理学的に許容される組成物中に含まれる場合に、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)は通常、1グラム当たり104細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)~1グラム当たり1011細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)、好ましくは1グラム当たり106細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)~1グラム当たり1010細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)の濃度の範囲で存在する。別の投与様式、例えば局所投与、の為の、本発明の生理学的に許容される組成物中に含まれるクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)は通常、1グラム当たり104細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)~1グラム当たり1011細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)、好ましくは1グラム当たり106細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)~1グラム当たり1010細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)の濃度の範囲で存在する。
【0064】
生きている酵母と不活性化された酵母の濃度が測定され、そして、全酵母成分1g当たりの細胞数で表される。生きている酵母の場合、「グラム当たりの細胞数」における濃度は、全酵母成分1グラム当たりのコロニー形成単位(CFU:colony forming units)と等価である。生きている細胞及び不活性化された細胞(コロニー形成しない)の組み合わせが存在する場合に、細胞の合計は通常、上記された通常の範囲、好ましくは上記された好ましい範囲、又はより好ましい範囲、である。酵母溶解物の場合、抽出物の場合又は細胞壁成分の場合に、適切な濃度は通常、1グラム当たり104細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)~1グラム当たり1011細胞(前記酵母成分の総重量に基づく)から得られるところの、溶解物、抽出物、及び細胞壁成分の量に相当する。
【0065】
本発明の生理学的に許容される組成物は、ミネラルが豊富な酵母、例えば、亜鉛が豊富なサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)又は(例えば、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)の非存在下で)亜鉛が豊富なサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)又は亜鉛が豊富なクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)を含んでいてもよい。本発明の生理学的に許容される組成物は、ミネラル塩、好ましくは亜鉛塩、最も好ましくは硫酸亜鉛、を含んでいてもよい。
【0066】
亜鉛が豊富な酵母は、生物学的利用能の高い亜鉛の天然供給源を提供する。亜鉛は、免疫力と下痢管理について重要な栄養素と考えられている。興味深いことに、亜鉛を有機的に結合させたり又は酵母有機体を介して混合させたりして補給することにより、無機亜鉛に比べてより良い生物学的利用能を結果として生じることが示されている。亜鉛だけでなく、他のミネラル、例えば、セレン、クロム、鉄、銅、マグネシウム、マンガン、カリウム、カルシウム及びヨウ素もまた、個体のミネラルバランスを回復する際に有益であることが示されており、及び酵母に対して濃縮されて、より良い生物学的利用能にすることができる。ミネラルが豊富な酵母は、1以上の、例えば、亜鉛、セレン、クロム、鉄、銅マグネシウム、マンガン、カリウム、カルシウム又はヨウ素、が添加された培地において酵母を培養することによって得られることができる。ミネラルは典型的には、酵母タンパク質と有機的に結合し又は他の方法で吸収され、その結果、1以上のミネラルが該酵母の細胞内に吸収されることになる。該ミネラルは培養前、培養の間、又は培養後に該培地に添加されることができる。本明細書において使用される場合に、語「ミネラルが豊富な酵母株」は特には、ミネラル塩の存在下で発酵された酵母株、又は発酵後にミネラル塩が添加された酵母株であり、そのようなミネラルの最終濃度は、製品全体の乾燥重量に対して最大12重量%、特には最大5重量%、より特には最大2重量%、例えば最大1重量%、である。亜鉛添加の場合に、最終濃度が1~12重量%の範囲、特には約4重量%~約10重量%の範囲、が好ましい。
【0067】
生理学的に許容される組成物の投与様式及び剤形
【0068】
本発明の生理学的に許容される組成物は好ましくは、消化管内に投与される。該消化管内への投与は好ましくは、経口投与である。具体的な実施態様において、該組成物は、経管栄養(tube feeding)によって又は座薬として投与される。経口摂取の為に適した本発明に従う組成物の剤形は、カプセル剤、被覆されたカプセル剤、錠剤、分包剤、丸薬、パール剤、ソフトゲル剤、バイアル剤、粉末剤、顆粒剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤、シロップ剤、散剤、トローチ剤、ガム剤、ハードキャンディ剤及びゲル剤を包含するが、これらに限定されない。局所投与の為に適した本発明に従う組成物の剤形は、酵母成分の効果が必要とされる胃腸管の一部に施与する為に適した組成物、例えば坐薬又は胃腸医療機器、を包含する。
【0069】
胃腸障害の処置における局所投与は一般的に、胃腸管の粘膜又は上皮への投与を含む。本発明に従う(使用の為の)組成物を含む医療製品は、消化管上皮の表面に保護バイオフィルム等を形成する為に適した製品であることができる。そのような製品は例えば、IBSの処置の為の既知の製品に基づくことができる。
【0070】
具体的な実施態様において、前記組成物は、徐放性製品として投与されるべきである。本発明に従う(使用の為の)組成物は、食品であってもよい。該食品は、発酵食品であってもよく、又は非発酵食品であってもよい。特に好適な食品の例は、乳製品、例えば、ヨーグルト、ヨーグルトドリンク、チーズ、牛乳、粉ミルク、乳児用調製粉乳、クリーム、アイスクリーム、クリームパウダー及びバター;果物ベースの製品、例えば、フルーツジュース、コンポート又はフルーツゼリー;固形食品、例えば、小麦粉、シリアル、スナック、ビスケット;並びに、液体製剤、例えば、野菜飲料、スムージー、アイソトニック飲料、塩溶液、及び経腸栄養レシピ、を包含する。動物によって摂取する為の本発明に従う生理学的に許容される(使用の為の)組成物は、動物の為の任意の適切な食品であってもよく、及び上記に列挙された食品に加えて、錠剤、被覆された錠剤、顆粒、穀類、(乾燥された)肉、(乾燥された)魚、油糧、ケーキ、クッキー、サトウキビ、並びに粗飼料、例えば、牧草、干草、サイレージ(silage)、根菜(root crops)、わら及び茎葉、を包含する。
【0071】
本発明に従う(使用の為の)栄養製品は、食事補助食品(dietary supplement)、食品添加物、飼料添加物、ヒト栄養における機能性食品、動物栄養における機能性食品(functional food)、栄養補助食品(nutraceuticals)の為の食品添加物又は機能性成分(functional ingredient)、又は特別な医療目的の為の食品の形態であってもよい。
【0072】
本発明に従う生理学的に許容される(使用の為の)組成物は、医薬品、化粧品又は栄養補助食品製品であることができる。前記医薬品は、医薬的に許容されるアジュバント及び/又は添加剤を更に含みうる。アジュバント及び添加剤は、当業者に周知である。
【0073】
経口補水塩(ORS:oral hydration salt)は、本発明に従う製品の好ましい一例である。ORSは、各国の規制に応じて、医薬品(例えば、WHO)として又は食品サプリメントとして分類されうる。ORSの為に特に適した酵母細胞は、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)DSM 33954(ABBiotek-SpainからABB1として入手可能,https://www.abbiotek.com)、及びクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)V21/012435(National Measurement Institute,Port Melbourne Vic 3207,Australiaに寄託されている,ABBiotekからABB7として入手可能)であることが判明している。
【0074】
生理学的に許容される組成物は更に、増量剤、特には炭水化物、例えばマルトデキストリン、を含んでいてもよい。
【0075】
液体形態のORS製剤の一例は、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)及びクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)を含み、並びに、水、グルコース、クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、マルトデキストリン、硫酸亜鉛、二酸化ケイ素、香料、甘味料(アセスルファムK)、及び酸味料(クエン酸)を更に含む。任意的に、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)がまた存在する。
【0076】
粉末形態におけるORS製剤の一例は、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)及びクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)を含み、並びに更に、デキストロース、レモン、フレーバー、クエン酸、クエン酸マグネシウム、リンゴ酸、クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸カリウム、アスコルビン酸カルシウム、スクラロース及びリボフラビンを含む。ORS製剤は、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)を本質的に含まないことができる。1つの実施態様において、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)がまた存在する。具体的な実施態様において、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)、クルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)及びサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)の組み合わせは、ABBiotek(スペイン、https://www.abbiotek.com)から入手可能なABB C22である。
【0077】
生理学的に許容される組成物の製造
【0078】
生理学的に許容される組成物は、酵母製剤を製造する為にそれ自体知られている方法論に基づいて、異なる成分を組み合わせることによって製造されることができる。
【0079】
例えば、全ての酵母は、非GMO酵母株から製造されうる。関心のある酵母についてそれ自体既知の発酵プロセスが、無菌好気性条件下で増殖する一次増殖酵母を生産する為に使用される。結果として生じた製品又は酵母クリーム(yeast cream)は、所望に応じて、細胞の生存率を維持する為に冷蔵保存されてもよい。
【0080】
該酵母クリームは、酵母の熱処理されたバージョンを得る為に、不活性化処理、例えば高温殺菌又はチンダリゼーション、に付されることができる。所望により、該酵母は、例えば噴霧乾燥により乾燥することができ、それは好ましくは、不活性化後に行われる(非生存酵母が該組成物の為に使用されるべきである場合)。
【0081】
マルトデキストリン又は他の増量剤が、濃度を標準化させる為にサポート剤として使用されることができる。3種の酵母が混合されて、この混合後に均質化工程が行われてもよい。
【0082】
個体を処置し、そして個体の消化管の健康又は胃腸機能を改善する方法
【0083】
本発明に従って、生理学的に許容される組成物は有利には、胃腸障害、例えば、過敏性腸症候群(IBS:irritable bowel syndrome);炎症性腸障害(IBD:inflammatory bowel disorder)、例えば、クローン病又は潰瘍性大腸炎;機能性便秘;下痢、例えば、抗生物質に関連付けられた下痢、旅行者下痢、急性胃腸炎、小児下痢、腸内菌共生バランス失調下痢若しくは慢性下痢、特には、免疫不全患者における腸内菌共生バランス失調下痢若しくは慢性下痢;機能性腹痛;機能性腹部膨満感、食後ストレス症候群(Postprandial Distress Syndrome)、胃腸アレルギー又は不耐症;壊死性腸炎;細菌、例えば、エシェリヒア属(Escherichia)、サルモネラ属(Salmonella)、シゲラ属(Shigella)、ブドウ球菌(Staphylococcus)、ビブリオ属(Vibrio)、カンピロバクター属(Campylobacter)、エルシナ属(Yersina)、クロストリジウム属(Clostridium)、又はヘリコバクター属(Helicobacter)、によって引き起こされる胃腸感染症;ウイルス、例えば、ノロウイルス(norovirus)、アデノウイルス(adenovirus)、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus)、エンテロウイルス(enterovirus)、又はロタウイルス(rotavirus)、によって引き起こされる胃腸感染症ノロウイルス;寄生虫、例えば、ジアルジア(Giardia)、エンタモエバ(Entamoeba)、クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)、シクロスポラ(Cyclospora)又はアスカリス(Ascaris)、によって引き起こされる胃腸感染症;及びそれらの組み合わせを有する個体の処置において使用される。好ましくは、胃腸障害が処置され、より好ましくは下痢が予防される、又は胃腸障害を有する個体が処置される。非常に好ましい実施態様において、処置されるべき下痢症は、ウイルス感染、例えばロタウイルス感染、によって引き起こされる。更に処置されることが好ましいものは、IBD又はIBSを有する個体である。
【0084】
更に、生理学的に許容される組成物、特には、不活性化されたサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)、不活性化されたクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)及び不活性化されたサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)を活性成分として含むそのような組成物、は有利には、1以上の炎症誘発性マーカーによって定義される疾患を有する個体の処置において使用され、ここで、前記マーカーは、IL-8、IP-10、MCP-1、TNFα/IL-10、及びTNFαを包含する。本発明の組成物によって処置可能である炎症誘発性マーカーによって定義される疾患には、リューマチ性関節炎、変形性関節症、局所皮膚炎、乾癬、アレルギー及び肥満を包含する。
【0085】
更に、本発明の生理学的に許容される組成物は、感染の非存在下において、前記炎症誘発性マーカーの1以上によって定義される炎症性疾患の処置の為に使用されうる。
【0086】
更に、本発明に従う生理学的に許容される組成物は特には、消化管の健康又は胃腸機能、特には消化管バリア機能の障害若しくは弱さ、又は炎症性サイトカイン放出における変化を伴う消化管の健康又は胃腸機能の状態、を維持又は改善する為に適している。本明細書において記載する語「消化管の健康」(gut health)は、消化管の健康状態を意味する。個体の消化管の健康状態は例えば、感染症の原因、又は非感染症の原因、例えば、最適でない食事、によって影響されうる。語「胃腸機能」は、胃腸系に関連付けられた全ての器官及び構造の作動を云う。消化管の健康又は胃腸機能を決定する為のマーカーは当業者に知られており、例えば上皮バリアの完全性の指標としての経上皮電気抵抗、並びに炎症及び傷害のマーカーを包含する。マーカーの例は、Celi等(2019)「Biomarkers of gastrointestinal functionality in animal nutrition and health」,Animal Feed Science and Technology 250:9~31において記載されている。
【0087】
投与量、投与期間及び投与頻度は、意図される目的と該組成物が投与されるべき対象とに依存して、広い範囲内で選択されることができる。処置の期間は、例えば、疾患又は疾患の症状の急性症状、例えば下痢、の場合に、相対的に短期間、例えば1週間以下、又は1日以下、であることができる。処置の期間はまた、例えば慢性疾患、例えばIBD、の場合に、1週間以上、1ヶ月以上、1年以上、延長されることができる。
【0088】
本発明に従う使用の為の生理学的に許容される組成物は、用途に依存して、完全な処置の為に単回の投与量として投与されうる。複数回の投与が意図される場合、投与回数は一般的に、1日当たり10回以下である。例えば、ORSの使用の場合に、1日当たり3回以上の投与が可能であるが、典型的には1日当たり約3回以下、好ましくは1日当たり約2回以下、特には1日当たり約1回以下、の投与である。1つの実施態様において、該組成物は、少なくとも約1週間に1回(平均して)投与される。好ましくは、該組成物は、3日間の期間につき少なくとも1回(平均して)、より好ましくは2日間の期間につき少なくとも1回(平均して)、投与される。
【0089】
生理学的に許容される組成物は、(他の)プロバイオティクス、プレバイオティクス、ポストバイオティクス、抗生物質、鎮痛剤、抗炎症剤、抗下痢剤、例えば、運動性若しくは分泌の阻害剤、(他の)経口補水塩、下剤、又はそれらの組み合わせを包含してもよく又はそれらと共投与されてもよい。
【0090】
当業者は、過度の実験を行うこと無しに、共通の一般的知識及び本明細書において開示された情報に基づいて、個体に投与する為の生理学的に許容される組成物の適切な投与量を決定することができるであろう。当業者であれば理解されるように、実際の好ましい投与量は、種々の要因、例えば、使用される特定の酵母の活性、その酵母の代謝安定性及び作用時間、個体の年齢、体重、一般的な健康状態、性別及び種、食事、投与の様式及び時間、排泄速度、薬物の組み合わせ、特定の障害の重症度、並びに個体を包含する上記の種々の要因、に依存する。本明細書において開示された投与量は、ヒト個体(大人及び子供を包含する)についての平均的な症例を示すものである。もちろん、より高用量又は低用量が妥当であるところの個々の例がある可能性がある。経口投与又は消化管への他の投与の為の、特にヒトの為の、通常の有効1日用量は、(酵母成分の)約100mg~(酵母成分の)約1000mg、好ましくは(酵母成分の)約200mg~(酵母成分の)約900mg、より好ましくは、(酵母成分の)約200mg~(酵母成分の)約650mgである。通常、局所投与の為の、特にヒトの為の、1日有効量は、(酵母成分の)約1mg~(酵母成分の)約1000mg、好ましくは(酵母成分の)約5mg~(酵母成分の)約500mg、である。
【0091】
本発明は、胃腸医学的疾患の処置において使用する為の生理学的に許容される組成物を提供する。
【0092】
本発明は、消化管の健康の改善を必要とする個体又は胃腸機能の改善を必要とする個体を処置する方法であって、本発明に従う生理学的に許容される組成物の有効量を投与することを含み、これにより消化管の健康又は胃腸機能を改善する上記の方法を提供する。本発明は特には、消化管バリア機能を改善する際に、及び抗炎症状態を促進する際に、並びにウイルス感染、細菌感染及び酵母感染から保護し、同時に微生物叢をユーバイオティック状態(eubiotic state)に向けて調節する際に、有効であることが見出されている。
【0093】
本発明は、胃腸障害を有する個体を処置する方法、又は個体における胃腸障害を予防する方法であって、本発明に従う生理学的に許容される組成物の有効量の投与することを含む上記の方法を提供する。予防的処置の有効性は、例えば、本発明に従って使用する為の組成物で処置されたコホート又は試験動物と、減少した発生率を有する参照製品(プラセボ)とを比較することによって、日常的に決定されることができる。疾患を有する個体の治療の効果は、完全な治癒、症状の緩和、苦痛の軽減等であることができる。
【0094】
本発明は、胃腸障害、例えば、下痢、IBD、IBS、又は消化管バリア機能の障害に関連する(他の)胃腸障害、を有する個体を処置する方法であって、本発明に従う生理学的に許容される組成物の有効量を前記個体に投与することを含む上記の方法を提供する。
【0095】
本発明は、炎症誘発性マーカー、例えば、リューマチ性関節炎、変形性関節症、局所皮膚炎、乾癬、アレルギー、又は肥満、によって定義される疾患を有する個体を処置する方法であって、本発明に従う生理学的に許容される組成物の有効量を前記個体に投与することを含む上記の方法を提供する。
【0096】
本発明は、胃腸障害、好ましくは、下痢、IBD及びIBSからなる群から選択される胃腸障害、又は消化管バリア機能の障害に関連する(別の)胃腸障害の処置において使用する為の、医薬品又は食品(例えば、医療用食品又は臨床用食品)でありうるところの製品の調製における使用の為の、本発明に従う生理学的に許容される組成物の使用方法を提供する。好ましくは、該下痢は、ウイルス、特にロタウイルス、に感染した個体の下痢である。ウイルス感染に起因する(急性の)下痢を有する成人だけでなく小児も効果的に処置可能であることが想定される。
【0097】
本発明は、消化管の健康又は胃腸機能を維持又は改善する為の製品の調製の為の、本発明に従う生理学的に許容される組成物の使用方法を提供する。
【0098】
本発明がここで下記の実施例によって説明されるが、これらは例示の為に提供されるものであって、本発明の精神及び添付された特許請求の範囲から逸脱すること無しに、記載された方法及び示された量における多くの変形が可能であることが理解されるであろう。
【0099】
実施例
【0100】
実施例1:消化管上皮細胞に対する抗炎症効果
材料及び方法
全ての酵母は、非GMO酵母株から生産された。実験に含められた酵母は、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)DSM 33954(DSMZ,German Collection of Microorganisms and Cell Cultures,Germany,に寄託されている)(ABBiotekからABB1として入手可能);サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)Y1529(ATTCとして寄託されている)(ABBiotekからABB6として入手可能,亜鉛が豊富な形態);及びクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)V21/012435(National Measurement Institute,Port Melbourne Vic 3207,Australiaに寄託されている)(ABBiotekからABB7として入手可能)であった。本明細書において使用される場合に、これらの酵母の組み合わせはまた、ABBiotekからABB22として入手可能である。
【0101】
発酵プロセスにおいて、無菌の好気性条件下で増殖が生じる一次増殖酵母が生成された。発酵の間、温度、pH及び増殖速度が厳密に調節された。サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)の場合、硫酸亜鉛が乾燥重量に基づいて約10%の濃度になるように、発酵プロセスの最後に酵母クリームに添加された。結果として得られた製品、すなわち酵母クリーム、は、細胞の生存率を維持する為に冷蔵保存された。噴霧乾燥の前に、冷やした酵母クリームが高温殺菌システムで処理されて、酵母のチンダリゼーションされたバージョンを得た。マルトデキストリン又は他の増量剤が、濃度を標準化する為にサポート剤として使用されことができる。
【0102】
熱不活性化された3種の酵母が予め混合され、続いて、ホモジナイズされた。後述されているイン・ビトロ(in vitro)研究において、各酵母のストック溶液が混合された。
【0103】
各酵母ストックの酵母濃度がフローサイトメトリーによって測定された。各酵母について、細胞培養培地中1x107細胞/mLで標準化されたサンプルが調製された。組み合わせを得る為に、各酵母株のサンプルが、各菌株の均質な比で、すなわち、該混合物中の3種の菌株の各々が0.333x107細胞/mlの濃度になるように、混合された。
【0104】
酵母及びそれらの組み合わせのイン・ビトロ(in vitro)免疫調節活性が、炎症性刺激の存在下及び非存在下でのCaco-2細胞によるケモカイン産生によって調べられた。Caco-2細胞が96ウェルプレートにおいてコンフルエントになるまで培養された。実験開始時、細胞は抗生物質を含まない培養液で一度洗浄された。単層が、抗生物質無添加の培地中、37℃で1時間、試験成分とインキュベーションされた(3回繰り返し)。その後、該細胞が、試験成分と50μg/mlのゲンタマイシン(Invitrogen)とを含む培地を用いてインキュベーションされた(2回繰り返し)。2回繰り返しのうちの1つが更に、炎症性促進刺激として、組換えTNFα(10ng/ml)と組換えIFNγ(5ng/ml)(R&D systems)との混合物を用いて刺激された(
図4~
図6)。ブランク対照として、
図1~
図3の場合には刺激なしの培地のみが使用され、
図4~
図6の場合には炎症性促進刺激(組換えTNFα(10ng/ml)と組換えIFNγ(5ng/ml)との混合物)下の培地が使用された。
【0105】
上清が、刺激後24時間で回収され、そして、20℃で保存された。Bio Plexアッセイ(BioRad)が、製造者のプロトコルに従ってIL-8、IP-10及びMCP-1レベルを測定する為に用いられた。
【0106】
試験成分の細胞毒性が無いことを確認する為に、培養上清を回収した後に、製造者のプロトコルに従って、WST-1アッセイ(Roche)によって細胞の代謝活性が分析された。細胞が代謝活性を示さなかったことにより、観察された何らかの効果は代謝の変化によるもの又は細胞毒性によるものでないことを示す。
【0107】
他の実施例と同様に、一元配置分散分析(one-way ANOVA)が行われ、その後、ダネット(Dunnett)の事後検定(post hoc test)を用いて対照条件と試験条件と間の統計的差異が計算された。図中で使用されている有意閾値は下記の通りである:*p<0.05,**p<0.01,及び***p<0.001。
【0108】
結果
図1は、炎症性促進刺激の非存在下で、3種の酵母及びそれらの組み合わせでインキュベーションした後の、Caco-2細胞によるイン・ビトロ(in vitro)でのIP-10ケモカイン産生を図示する。
【0109】
消化管の上皮細胞における炎症性サイトカインの相乗的な減少が特には、サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)及びクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)を含む酵母組成物(以下、組成物ABB C22と呼ぶ)において、個々の酵母と比較して観察された(
図2~
図3)。TNFα/IFNγによる炎症性チャレンジ後の消化管の上皮細胞における炎症性サイトカインの相乗的減少は、個々の酵母と比較して酵母組成物ABB C22について観察された(
図4~
図5)。その上、ABB C22組成物は、酵母サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)及びサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)のみを含む組成物よりも優れていることが観察され(
図2~
図6)、少なくとも幾つかの観点において相乗的でさえある、幾つかのマーク付けされたポジティブな効果を得る為にクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)の重要な役割を果たすことを示す。
【0110】
実施例2:免疫細胞に対する抗炎症効果
材料及び方法
複数の酵母及びそれらの組み合わせが、実施例1と同様に調製された。
【0111】
複数の酵母及びそれらの組み合わせのイン・ビトロ(in vitro)免疫調節活性が、THP-1細胞株(マクロファージ)によるサイトカイン産生を追跡することによって調べられた。
【0112】
ヒトTHP-1細胞株が96ウェルプレートで1x105細胞/ウェル、100nMのホルボール12-ミリスタート 13-アセタート(phorbol12-myristate 13-acetate)(PMA,Sigma)存在下で培養され、そして、THP-1単球のマクロファージへの分化を誘発する為に48時間インキュベーションされた。細胞が洗浄され、そして、培養液中で更に72時間インキュベーションされた。この後、細胞が試験成分とともに1時間インキュベーションされ、その後、試験成分の存在下、LPS(100ng/ml,Sigma)の有無にかかわらず、細胞が更に16時間インキュベーションされた。全ての条件が3回繰り返して試験された。
【0113】
上清が刺激後に回収され、そして、-20℃で保存された。ELISAアッセイ(IL-10 Human Uncoated ELISA Kit,TNF-α Human Uncoated ELISA Kit,Life Technologies)、製造業者のプロトコルに従ってTNF-α及びIL-10レベルを測定する為に用いられた。TNF-α/IL-10比は、試験された成分の抗炎症効果の尺度として計算された。
【0114】
試験成分の非細胞毒性を確認する為の、細胞の代謝活性が、培養上清を回収した後に、製造業者のプロトコルに従って、WST-1アッセイ(Roche)によって分析された。細胞は代謝活性を示さなかったことが判明した。
【0115】
結果
免疫細胞における抗炎症効果の尺度であるTNFα/IL-10比の減少が、酵母組成物ABB C22について、個々の酵母と比較して、並びに酵母酵母サッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)及びサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)のみを含む組成物と比較して、観察された(
図7)。
【0116】
実施例3:チャレンジ後の腸管バリアの完全性
材料及び方法
複数の酵母及びそれらの組み合わせが、実施例1と同様に調製された。
【0117】
チャレンジ時の消化管バリア機能に対する酵母及びそれらの組み合わせの影響が、消化管の細胞層上の経上皮電気抵抗(TEER)を追跡することによって調べられた。
【0118】
Caco-2細胞が、平均孔径0.4μm、直径0.33cm2を有するトランスウェルポリカーボネート細胞培養インサート(Transwell polycarbonate cell culture inserts)(Greiner Bio one)上に播種され(2×104細胞/cm2)、そして、完全分化1000Ωまで培養された。バリア完全性(barrier integrity)の指標尺度(indicative measure)として、TEERがEVOM2上皮電圧抵抗計(epithelial volt ohmmeter)(World Precision Instruments)を用いて測定された。
【0119】
実験当日、細胞が洗浄され、そして、試験成分を含む抗生物質且つ無血清培地用いて37℃で、1時間インキュベーションされた。引き続き、ウェルが該試験成分の存在下でETEC H10407(MOI200:1)に6時間暴露された。TEERは、実験の開始前に(t=1)、該試験成分への曝露から1時間後、ETECの添加前(t=0)、並びにETECへの曝露から1時間後、2時間後、3時間後、4時間後及び6時間後(夫々、t=1、t=2、t=4、及び6時間)に測定された。
【0120】
病原体に曝露後の個々の条件のTEER値は、t=0におけるそれら自体のTEER値に関連付けられ、ΔTEER(Ω.cm2)として表された。陰性対照(ETEC H10407のみ)と、病原体にも試験成分にも曝露されなかった陽性対照が含まれていた。全ての条件は、3回繰り返して試験された。
【0121】
FITCデキストラン(Sigma)を用いた経上皮フラックス(Transepithelial flux)が、TEER測定後の様々な時点で測定された。
【0122】
結果
消化管上皮の完全性の保護は、上皮単層を破壊することが知られている感染剤(ここでは、大腸菌ETEC(E.coli ETEC))とのインキュベーション後に測定された。酵母の組み合わせABB C22は、インキュベーションの1時間及び2時間後、夫々の酵母又はサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)とサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)との組み合わせと比較して、陰性対照に相対的にTEERにおいてより高く増加を有した(
図8)。
【0123】
実施例4:腸管バリア完全性形成
材料及び方法
複数の酵母及びそれらの組み合わせが、実施例1と同様に調製された。
【0124】
腸上皮細胞の増殖と分化とに対する酵母とそれらの組み合わせの影響が、消化管の細胞単層の形成中に追跡された。
【0125】
Caco-2細胞が、平均孔径0.4μm、直径0.33cm2を有するトランスウェルポリカーボネート細胞培養インサート(Transwell polycarbonate cell culture inserts)(Greiner Bio one)上に播種された(2×104細胞/cm2)。細胞を一晩接着させた後に、試験成分が細胞の頂端側(apical side)に添加された。
【0126】
試験材料が調製され、そして、アリコートで、20℃で保存された。2日おきに新しいアリコートが採取されて、材料を新しくした。試験された酵母(好気的条件下で増殖可能である場合)による上皮細胞の過剰増殖を避ける為に、酵母及びそれらの組み合わせの10%のコンディショニング培地が、加熱死滅させた酵母と共に使用された。
【0127】
細胞増殖及びバリア形成の指標尺度(indicative measure)として、TEERが2日おきにEVOM2上皮電圧抵抗計(epithelial volt ohmmeter)(World Precision Instruments)を用いて測定された。
【0128】
結果
TEERにおける増加は、経時的な消化管上皮の自然形成を測定する為に使用された。TEERにおける増加は、3種の酵母について16日後に陰性対照と比較されて観察され、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)についてのみ20日目まで維持された(
図9a、上側)。対照的に、組み合わせABB C22について観察された16日目からの対照に対するTEERにおける増加は、22日目まで維持され、そして増加した(
図9b、下側)。
【0129】
個々の酵母株、並びにサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)とサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)との組み合わせと比較して、組み合わせABB C22について、より速いTEER増加を示すより大きいTEER増加の勾配が観察される(
図10中の傾向線(trendlines)の勾配)。
【0130】
実施例5:ロタウイルス感染に対する腸上皮細胞に与えられる保護
材料及び方法
【0131】
ウイルスの拡大と採取
【0132】
HT-29細胞がT75培養フラスコ上に播種され、そして、80%コンフルエンスまで増殖された。培養液が除去され、そして、ウイルスを含むバイアルの内容物の半分(500μl)が加えられ、続いて、37℃で2時間インキュベーションされた。その後、単層が完全に覆われるまで新しい培地が加えられた(「HT-29細胞成長培地」,すなわち、McCoy′s 5A + 2mMのグルタミン + 10%の胎児ウシ血清 FBS(Foetal Bovine Serum)/FCS;https://www.sigmaaldrich.com/ES/es/product/sigma/cb_91072201?gclid=CjwKCAiA866PBhAYEiwANkIneP61QoaUBsagNLA2fdSVt2ru3mbcwSxQH_VtHd4NcJel460I-9GpVxoCeEQQAvD_BwE)。
【0133】
細胞は培地を交換すること無しに24~96時間インキュベーションされ、そして、空隙が単層内に認められるようになるまで顕微鏡下で頻繁に観察した。フラスコの横がたたかれて感染した細胞が剥がされ、そして、上清が収穫された。収穫された上清は、一度、-80℃で凍結融解されて、細胞溶解とウイルス放出が行われた。採取された上清に8回連続希釈が行われた(すなわち、1/4、1/8、1/16、1/32、1/64、1/128、1/256、1/512希釈)。
【0134】
ウイルスの滴定
【0135】
HT-29細胞が96ウェルプレート内に播種され、80%コンフルエントになるまで増殖された。培養液が細胞から除去され、そして、1列当たり1つの異なる希釈率を使用して、上記収穫された上清の連続希釈液50μlと置き換えられ、続いて、37℃で1時間インキュベーションされた。
。その後、50μlの新しい培地が加えられた。希釈液間の差異が観察されるまで、該プレートが37℃で24~96時間インキュベーションされた。該プレートが顕微鏡下で観察され、そして、50%の組織培養感染量(TCID50:50% Tissue Culture Infectious Dose)がSpearman-Karber法を用いて下記の式を用い計算された:
log(TCID50)=-(最高ウイルス濃度のlog)-[(各希釈度における羅患ウェル割合の合計/100-0.5)×(希釈倍率のlog)]
【0136】
試験されるべきプロバイオティクス株
【0137】
試験された酵母株が下記の表1においてリスト化されており、実施例1と同様にして調製された。
【0138】
【0139】
ロタウイルス感染に対するプロバイオティクス菌株及び複数のプロバイオティクス菌株の組み合わせの活性測定
【0140】
試験した酵母株又はそれらの組み合わせ毎に、96ウェルプレートの1列にHT-29細胞が播種された。加えて、1枚の96ウェルプレートが陰性対照プレートとして、及び1枚の96ウェルプレートがロタウイルス感染した対照プレートとして使用された。陰性対照プレートには、PBSでなくHT-29培養液が入れられ、ロタウイルス感染した対照プレートには、培養液とウイルス負荷(virus load)のあるHT-29細胞が入れられた。プレートにはクロスコンタミネーション(cross contamination)を避ける為に、酵母を用いたものとは異なるものとされた。全てのプレートは80%コンフルエントになるまで増殖させた。上清が除去され、そして、各ウェルについて、酵母株又はそれらの組み合わせの2倍の最終濃度を含有する培養液50μlが加えられ、引き続き、37℃で1時間インキュベーションされた。その後、推定されたTCID50の最終濃度を得るように、ウイルス上清のうちの1つの50μlが添加された。該プレートが37℃で24~96時間、空胞が観察されるまでインキュベーションされた。細胞培養上清が収穫されて、ロタウイルス遺伝子NSP3及びVP7の存在を決定した。
【0141】
RT q-PCRによるロタウイルス抗原の検出
【0142】
NSP3及びVP7ロタウイルス遺伝子の検出は、C.Kottaridi et al.Journal of Virological Methods 180(2012) 49~53に記載の方法に従って、RT-qPCRによって行われた。
【0143】
結果
チンダリゼーションされたサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)(ABB3)及びチンダリゼーションされたクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)(ABB8)の各菌株が単独で試験された場合に、いずれもロタウイルス感染に対する保護は認められなかった(下記の表2)。しかしながら、チンダリゼーションされたサッカロミセス・ブラウディ(S.boulardii)とチンダリゼーションされたクルイベロミセス・マルシアヌス(K.marxianus)とを組み合わせることによって、ロタウイルス感染に対して保護する為の製品としてのこの組み合わせの使用を裏付ける肯定的な結果が得られた(ABB3+ABB8,表2及び
図11)。
【0144】
【国際調査報告】