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特表2024-526331窒化アルミニウムMMCを含む粉末金属組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-17
(54)【発明の名称】窒化アルミニウムMMCを含む粉末金属組成物
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20240709BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20240709BHJP
   B22F 1/105 20220101ALI20240709BHJP
   B22F 1/12 20220101ALI20240709BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20240709BHJP
   C22C 1/05 20230101ALI20240709BHJP
   B22F 1/10 20220101ALI20240709BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20240709BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20240709BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20240709BHJP
   C22C 21/12 20060101ALN20240709BHJP
   C22C 9/01 20060101ALN20240709BHJP
   B22F 3/24 20060101ALN20240709BHJP
【FI】
B22F1/00 N
B22F1/05
B22F1/105
B22F1/12
B22F3/02 N
C22C1/05 C
B22F1/10
C22C21/00 E
B22F1/14 500
C22C21/02
C22C21/12
C22C9/01
B22F3/24 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501747
(86)(22)【出願日】2022-07-14
(85)【翻訳文提出日】2024-02-29
(86)【国際出願番号】 US2022037130
(87)【国際公開番号】W WO2023287981
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】63/222,240
(32)【優先日】2021-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507341356
【氏名又は名称】ジーケーエヌ シンター メタルズ、エル・エル・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】ビショップ ドナルド ポール
(72)【発明者】
【氏名】ヘクセマー リチャード エル.ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】ドナルドソン イアン ダブリュ.
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA14
4K018AA40
4K018AB03
4K018AC01
4K018BA08
4K018BB04
4K018CA07
4K018DA11
(57)【要約】
アルミニウム(Al)粉末金属と、アルミニウム銅(Al-Cu)粉末金属と、マグネシウム(Mg)粉末金属と、錫(Sn)粉末金属と、アルミニウム-シリコン(Al-Si)粉末金属と、金属基複合材料添加物としての窒化アルミニウム(AlN)と、を含む粉末金属組成物。少なくとも一部の形態では、アルミニウム(Al)粉末金属の一部は微細アルミニウム粉末金属である。この粉末金属組成物は圧縮されてグリーン粉末金属圧粉体を形成することが可能であり、当該グリーン粉末金属圧粉体を焼結して、6061アルミニウム合金製品の組成及び特性に近い組成及び特性を備えた焼結部品を形成することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム(Al)粉末金属と、
アルミニウム銅(Al-Cu)粉末金属と、
マグネシウム(Mg)粉末金属と、
錫(Sn)粉末金属と、
アルミニウム-シリコン(Al-Si)粉末金属と、
金属基複合材料添加物としての窒化アルミニウム(AlN)と、
を含むことを特徴とする粉末金属組成物。
【請求項2】
前記アルミニウム(Al)粉末金属の少なくとも一部は微細アルミニウム粉末金属である、
請求項1記載の粉末金属組成物。
【請求項3】
前記微細アルミニウム粉末金属である前記アルミニウム(Al)粉末金属の前記一部は、前記アルミニウム(Al)粉末金属の10重量%である、
請求項2記載の粉末金属組成物。
【請求項4】
前記微細微細アルミニウム粉末金属である前記アルミニウム(Al)粉末金属の前記一部は、前記アルミニウム(Al)粉末金属の5~30重量%の範囲である、
請求項2記載の粉末金属組成物。
【請求項5】
前記アルミニウム(Al)粉末金属と前記アルミニウム銅(Al-Cu)粉末金属と前記アルミニウム-シリコン(Al-Si)粉末金属とにより提供されるアルミニウム総含有率は、前記粉末金属組成物の95.2重量%であり、
前記アルミニウム銅(Al-Cu)粉末金属により提供される銅総含有率は、前記粉末金属組成物の0.29重量%であり、
前記マグネシウム(Mg)粉末金属により提供されるマグネシウム総含有率は、前記粉末金属組成物の1.07重量%であり、
前記錫(Sn)粉末金属により提供される錫総含有率は、前記粉末金属組成物の0.49重量%であり、
前記アルミニウム-シリコン(Al-Si)粉末金属により提供されるシリコン総含有率は、前記粉末金属組成物の0.49重量%であり、
前記窒化アルミニウム(AlN)は、前記粉末金属組成物の0.98重量%であり、
前記粉末金属組成物はさらに流動助剤を含み、当該流動助剤は前記粉末金属組成物の0.02重量%であり、
前記粉末金属組成物はさらに潤滑剤を含み、当該潤滑剤は前記粉末金属組成物の1.46重量%である、
請求項1記載の粉末金属組成物。
【請求項6】
前記アルミニウム(Al)粉末金属は、+60/-250メッシュ粉末の大半であり、当該アルミニウム(Al)粉末金属の一部は微細アルミニウム粉末金属であり、
前記アルミニウム銅(Al-Cu)粉末金属は-325メッシュであり、
前記マグネシウム(Mg)粉末金属は-200メッシュであり、
前記錫(Sn)粉末金属は-325メッシュであり、
前記アルミニウム-シリコン(Al-Si)粉末金属は-325メッシュである、
請求項1記載の粉末金属組成物。
【請求項7】
前記アルミニウム銅(Al-Cu)粉末金属は50Al-50Cu粉末金属である、
請求項1記載の粉末金属組成物。
【請求項8】
前記50Al-50Cu粉末金属はアトマイズ及び粉砕により作製されたものである、請求項7記載の粉末金属組成物。
【請求項9】
前記アルミニウム-シリコン(Al-Si)粉末金属は88Al-12Si粉末金属である、
請求項1記載の粉末金属組成物。
【請求項10】
さらに潤滑剤を含む、
請求項1記載の粉末金属組成物。
【請求項11】
さらに流動助剤を含む、
請求項1記載の粉末金属組成物。
【請求項12】
前記流動助剤は溶融SiOである、
請求項11記載の粉末金属組成物。
【請求項13】
複数の異なる粉末の一様な分布を有する、
請求項1記載の粉末金属組成物。
【請求項14】
前記窒化アルミニウム(AlN)の比表面積は2.0m/g以下であり、当該窒化アルミニウム(AlN)の粒径分布は、D10%が0.4~1.4μm、D50%が6~10μm、D90%が17~35μmである、
請求項1記載の粉末金属組成物。
【請求項15】
前記窒化アルミニウム(AlN)の比表面積は1.8~3.8m/gであり、当該窒化アルミニウム(AlN)の粒径分布は、D10%が0.2~0.6μm、D50%が1~3μm、D90%が5~10μmである、
請求項1記載の粉末金属組成物。
【請求項16】
前記窒化アルミニウム(AlN)は六方晶構造を有すると共に単相である、
請求項1記載の粉末金属組成物。
【請求項17】
2.8~3.0g/sの流量を有する、
請求項1記載の粉末金属組成物。
【請求項18】
1.21g/ccの見かけ密度を有する、
請求項1記載の粉末金属組成物。
【請求項19】
請求項1記載の粉末金属組成物から形成されたグリーン圧粉体。
【請求項20】
請求項19記載のグリーン圧粉体から形成された焼結粉末金属部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本願は、米国仮特許出願第63/222,240号(発明の名称:「窒化アルミニウムMMCを含む粉末金属組成物」、出願日:2021年7月15日)の出願日の利益を主張するものであり、同出願の記載内容は全て、あらゆる目的のために参照により本願の記載内容に含まれるものとする。
【0002】
<連邦政府の支援による研究に関する言明>
なし。
【0003】
本願開示は、粉末冶金配合物と、当該粉末冶金配合物により作製された焼結部品と、に関する。特に本願開示は、窒化アルミニウム(AlN)金属基複合材料(MMC)添加物を含むアルミニウム合金粉末組成物に関するものである。
【背景技術】
【0004】
6061アルミニウム合金は、主な合金元素としてマグネシウム(Mg)及びシリコン(Si)を含む析出強化アルミニウム合金である。これは、優れた機械的特性及び溶接性を示すと共に、優れた耐食性を備える。これらの特性を兼ね備えていることにより、最も幅広く使用されているアルミニウム合金の一つとなっている。アルミニウム6061の用途は、自動車及び海洋分野における使用を含めた幅広い用途に及ぶ。ここでいう6061アルミニウム合金組成物とは、アルミニウム95.85質量%~98.56質量%と、マグネシウム0.8質量%~1.2質量%と、シリコン0.40質量%~0.8質量%と、鉄0.0質量%~0.7質量%と、銅0.15質量%~0.40質量%と、クロム0.04質量%~0.35質量%と、亜鉛0.0質量%~0.25質量%と、チタン0.0質量%~0.25質量%と、マンガン0.0質量%~0.15質量%と、残部と、を含むものであって、残部は0.05質量%を超えず、それぞれの量は総じて0.15%を超えないものをいう。
【0005】
金属部品を形成する方法は多数存在し、粉末金属又は「PM」処理は、金属部品を形成するための生産技術の一クラスとなっている。粉末冶金は、一般的に粉末状の金属材料を製造又は入手し、この粉末金属材料を工具金型セットで圧粉成形して所望の最終生成物に近い幾何学的形状を有するグリーン圧粉体又はプリフォームを形成し、その後にグリーン圧粉体を焼結して粉末金属粒子を互いに拡散させることにより緻密化して、機械的に格段に高強度の物体にすることを含む。粉末冶金は、高体積で部品を製造するために非常に適しており、スクラップコストが低く、成形後に機械加工を必要としない部品を製造できるという利点がある。
【0006】
上記はあくまで粉末金属製造プロセスの一般的な概要であるが、この説明から、粉末金属プロセスの多くは典型的には固体状態で行うことができ、又は、焼結処理中に形成される液体の量が限られた量しかないということが分かる。しかし、このことは粉末金属プロセスを用いる際の難点の幾つかを深刻化させることにもなる。というのも、焼結処理は拡散依存性の処理であるため、これにより得られる微細構造及びポロシティは粉末配合と処理条件とに依存するからである。よって、鋳造合金を粉末金属配合物に変換しようとすると、同等の微細構造を形成することが困難となり、また同等の機械的特性を提供することが困難となり得る。
【0007】
ここで6061アルミニウム合金の話に戻ると、6061と比較的同等の粉末金属合金
が販売されており、その例としてECKA Granules社(ドイツ、フュルト)が販売している
アルミックス(Alumix)の商標を持つ粉末金属合金が入手可能である。Alumix 321の一例の化学組成は、1.31重量%のMgと、0.5重量%のSiと、0.32重量%のCuと、0.10重量%のFeと、0.01重量%のBiと、0.03重量%のSnと、0.01重量%のVとを含み、残部はアルミニウムとすることができる。本来は6061仕様の範囲内ではないが、この粉末配合物は概ね同等の配合物であることが分かる。この系の主な合金元素は6061アルミニウム合金と同様にマグネシウムとシリコンであり、これらの2つの元素はこの系の熱処理のベースとなる。両元素はMgSiの金属間化合物相を形成し、これは機械的特性を改善する。銅も機械的特性の改善に関与する。不純物として鉄が含まれており、これは腐食性や機械的特性に影響し得る種々の金属間化合物相を形成するのに対し、粉末の焼結応答を改善するためにSn,V,Biが添加されていた。
【発明の概要】
【0008】
本願では、6061アルミニウム合金に匹敵する改善された粉末金属組成物であって、比較的伝統的なAl又はSiC等のMMC添加物に代えて窒化アルミニウム(AlN)MMC添加物をさらに含む粉末金属組成物を開示する。粉末金属組成物の特性及びモルフォロジーを変更し、MMC添加物としてAlNを含むことにより、優れた耐食性と、適度から高度な強度と、高い延性と、優れた電気的及び熱的特性と、を兼ね備えることができる組成物が提供される。また、上述の粉末金属組成物は耐摩耗性が向上し、圧粉中及びサイジング中に生じる工具摩耗は、Al又はSiC等のMMC添加物を含む他の同等の組成物と比較して最小限に抑えられると考えられる。
【0009】
一側面では粉末金属は、アルミニウム(Al)粉末金属と、アルミニウム銅(Al-Cu)粉末金属と、マグネシウム(Mg)粉末金属と、錫(Sn)粉末金属と、アルミニウム-シリコン(Al-Si)粉末金属と、金属基複合材料添加物としての窒化アルミニウム(AlN)と、を含む。
【0010】
一部の形態では、前記アルミニウム(Al)粉末金属の少なくとも一部を微細(fine)アルミニウム粉末金属とすることができる。例えば、前記微細アルミニウム(Al)粉末金属である前記アルミニウム(Al)粉末金属の前記一部は、総じて前記元素アルミニウム(Al)粉末金属の10重量%とすることができる。しかし他の形態では、前記微細アルミニウム粉末の量を、前記全元素アルミニウム(Al)粉末金属の5重量%~15重量%、又はより広く、前記全元素アルミニウム(Al)粉末金属の5重量%~30重量%の範囲とすることができる。一部の形態では、アルミニウム(Al)粉末金属の大半はエッカ・バーレーン(ECKA-Bahrain)アルミニウム粉末金属、又は+60/-250メッシュを有する同等のアルミニウム粉末金属とすることができ、微細アルミニウム粉末金属はエッカAl EF2/微細EEGアルミニウム粉末又はこれと同等の粉末とすることができ
る。
【0011】
一部の形態では、前記アルミニウム(Al)粉末金属と前記アルミニウム銅(Al-Cu)粉末金属と前記アルミニウム-シリコン(Al-Si)粉末金属とにより提供されるアルミニウム総含有率は前記粉末金属組成物の95.2重量%とすることができ、前記アルミニウム銅(Al-Cu)粉末金属により提供される銅総含有率は前記粉末金属組成物の0.29重量%とすることができ、前記マグネシウム(Mg)粉末金属により提供されるマグネシウム総含有率は前記粉末金属組成物の1.07重量%とすることができ、前記錫(Sn)粉末金属により提供される錫総含有率は前記粉末金属組成物の0.49重量%とすることができ、前記アルミニウム-シリコン(Al-Si)粉末金属により提供されるシリコン総含有率は前記粉末金属組成物の0.49重量%とすることができ、前記窒化アルミニウム(AlN)は前記粉末金属組成物の0.98重量%とすることができ、前記粉末金属組成物はさらに流動助剤を含むことができ、当該流動助剤は前記粉末金属組成物
の0.02重量%とすることができ、前記粉末金属組成物はさらに潤滑剤を含むことができ、当該潤滑剤は前記粉末金属組成物の1.46重量%とすることができる。これらの重量割合は、上記の各種粉末金属と流動助剤と潤滑剤とを含む粉末金属配合物の総重量を基準とした割合である。
【0012】
一部の形態では前記アルミニウム(Al)粉末金属は+60/-250メッシュ粉末の大半とすることができ、当該アルミニウム(Al)粉末金属の一部は微細アルミニウム粉末金属とすることができ、前記アルミニウム銅(Al-Cu)粉末金属は-325メッシュとすることができ、前記マグネシウム(Mg)粉末金属は-200メッシュとすることができ、前記錫(Sn)粉末金属は-325メッシュとすることができ、前記アルミニウム-シリコン(Al-Si)粉末金属は-325メッシュとすることができる。
【0013】
一部の形態では、前記アルミニウム銅(Al-Cu)粉末金属は50Al-50Cu粉末金属とすることができる。前記50Al-50Cu粉末金属は、アトマイズ及び粉砕(crush)により作製されたものとすることができる。
【0014】
一部の形態では、前記アルミニウム-シリコン(Al-Si)粉末金属は88Al-12Si粉末金属とすることができる。
【0015】
一部の形態では、前記粉末金属組成物はさらに潤滑剤を含むことができ、一部の形態では、前記粉末金属組成物はさらに流動助剤、例えば溶融SiO等を含むことができる。
【0016】
一部の形態では、前記粉末金属組成物は複数の異なる粉末の一様な分布を有することができ、かかる一様な分布は微細アルミニウム粉末の一様な分布を含むことができる。この一様な分布は、強力ミキサで粉末を混合することにより実現することができる。
【0017】
一部の形態では、前記窒化アルミニウムの比表面積は2.0m/g以下とすることができ、当該窒化アルミニウムの粒径分布は、D10%が0.4~1.4μm、D50%が6~10μm、D90%が17~35μmとすることができる。これは、グレードATの窒化アルミニウムと同等である。
【0018】
一部の形態では、前記窒化アルミニウムの比表面積は1.8~3.8m/gとすることができ、当該窒化アルミニウムの粒径分布は、D10%が0.2~0.6μm、D50%が1~3μm、D90%が5~10μmとすることができる。これは、一般にグレードATの窒化アルミニウムより微細なグレードBTの窒化アルミニウムと同等である。
【0019】
一部の形態では、前記窒化アルミニウムは六方晶構造を有すると共に単相とすることができる。
【0020】
一部の形態では、前記粉末金属組成物は2.8~3.0g/sの流量を有することができる。
【0021】
一部の形態では、前記粉末金属組成物は1.21g/ccの見かけ密度を有することができる。
【0022】
他の一側面では、(上記又は本願において記載されているいずれかの形態の)上記の粉末金属組成物を、例えば単軸圧粉を用いて工具金型セット等で圧粉することによりグリーン圧粉体を形成することができる。他の一側面では、上記のグリーン圧粉体を焼結することにより焼結粉末金属部品を形成する。
【0023】
詳細な説明及び図面から、本発明の上記及び他の利点が明らかである。以下の記載はあくまで、本発明の一部の好適な実施形態の説明であり、発明の全範囲を評価するためには特許請求の範囲を参酌すべきである。というのも、下記の好適な実施形態だけが特許請求の範囲に含まれる実施形態であることを意図したものではないからである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
ここでは、6061アルミニウム合金の粉末金属組成物に匹敵する粉末金属組成物を開示する。以下では一具体例の粉末金属組成物を開示し、当該粉末金属の一部の変形形態について説明する。
【0025】
一具体例の組成配合物では、粉末金属組成物は下記の表1に示す通りのものである。
【表1】
【0026】
表1は粉末金属配合物の金属成分のみの割合を示しており、これに対して表2はさらに、金属基複合材料(MMC)添加物としての窒化アルミニウム(AlN)と、流動助剤と、潤滑剤とを含む非金属粉末金属添加物の追加を含む。表1の組成は金属組成の合金組成をより反映したものであり、これに対して表2のデータは、他の添加物である約2.5重量%をさらに考慮するために正規化されており、この約2.5重量%は、実際の粉末金属組成物ブレンドの総重量割合に与える影響が非常に僅かであるものである。
【表2】
【0027】
ここで特筆すべき点として、アルミニウム組成物は1種のアルミニウム粉末のみを含むのではなく、元素アルミニウム粉末金属のうち一部の約10重量%は微細アルミニウム粉末金属である組成を有することが分かる。しかし、その微細粉末の割合は別のものとすることも可能であり、例えばアルミニウム粉末金属の5重量%~15重量%又は5重量%~30重量%とすることができる。さらに他の変更点として、エッカAl EF2/微細E
EG Al粉末に由来するアルミニウムの割合を、エッカ・バーレーン+60/-250
の量を均一に増加させることにより提供することができる。例えば、エッカ・バーレーン+60/-250を93.63重量%(正規化値、別々の粉末からの82.2%+9.13%に等しい)とすることができる。
【0028】
さらに、上記の総アルミニウムは複数の種々のソースに由来する。アルミニウムは、単なる元素アルミニウム粉末金属の他にさらに、50Al-50Cu粉末金属の一部及び88Al-12Si粉末金属の一部としても提供され(このようにして、これらはまとめて約4重量%のアルミニウムをさらに追加する)、これは合金元素の一部も提供する。しかし、上記の例における合金化及びモルフォロジーは、最終的な所望の微細構造を実現すると共に、所望の焼結の実現に資する化学特性を提供するためのものとすることができる。つまり、銅元素及びシリコン元素はアルミニウムより格段に高い融点と格段に高い有効焼結温度とを有し、さらにこれらの元素がアルミニウムと合金化することにより、開始粉末は、銅及びシリコンの一部の量が既にアルミニウムと合金化した別の構造を有することとなる。
【0029】
具体的なメッシュサイズ及び粉末モルフォロジーが、上記粉末金属配合物から得られる焼結部品の焼結性並びに最終的な微細構造及び特性に影響を及ぼし得ると解される。よって、粉末金属配合物により得られる特性及び密度を適切なものとするためにメッシュサイズ及び粉末モルフォロジーを確立する必要がある。ここで開示する粉末も機能可能なものであるが、本願開示の配合の範囲及び思想から逸脱することなく、上記の粉末の何らかの変形形態も機能可能となり得る。
【0030】
例えば上記の合金元素の中には、上記表に掲げられた形態とは若干異なる形態とすることが可能なものがある。合金組成もまた、ここで開示されているものとは若干異なるものとすることができる。例えば錫の場合、錫0.5重量%が最適であると考えられているが、錫0.1重量%~1.0重量%の範囲も、焼結の際の緻密化を向上すると考えられる。上記の組成例とは異なる元素について何らかの変形形態を実施することも可能である。例えば、シリコン量を全部の金属粉末金属組成物の0.40~0.8重量%の範囲とすることができ、また、マグネシウム量を全部の金属粉末金属組成物の0.8~1.2重量%の範囲とすることができる。というのも、これらの範囲は6061組成におけるシリコン量及びマグネシウム量と概ね同等だからである。また、銅量の何らかの範囲(0.04~0.35重量%)も粉末組成において機能可能であり、本例の組成の銅0.30重量%はこの範囲に該当する。
【0031】
潤滑剤はLicowax(リコワックス、登録商標、クラリアント社(スイス、ムッテンツ)
より販売)等のワックスとすることができ、このワックスは、粉末粒子をまとめた状態に維持することにより圧粉グリーン部品をまとめた状態に維持するのを助けることができ、また、圧粉加工後に工具金型セットから型抜きする際にグリーン部品を取り出すのを助けることも可能なものである。潤滑剤は典型的には、焼結処理中に予熱ゾーンにおいて焼き尽くされる。
【0032】
流動助剤は、充填及び粒子パッキングを改善するために添加することができる。本例の組成では、流動助剤は溶融シリカ(SiO)である。
【0033】
窒化アルミニウム(AlN)MMC添加物については、例えばグレードATの窒化アルミニウム(粒径分布が広い弱凝集粉末)又はグレードBTの窒化アルミニウム(比較的微細な粒径を有し、無凝集粉末である)とすることができる。両グレードとも本願開示の粉末金属配合物に使用することができ、両者においては、処理及び特性に応じた差異が存在する。
【0034】
両グレードAT及びBTの窒化アルミニウムは六方晶構造を有すると共に単相である。これらの窒化アルミニウム添加物を化学的にキャラクタリゼーションするため、質量分画として両グレードAT及びBTは最小で32.0%のNと、最大で0.15%のCと、最大で0.05%のFeと、を含む。しかし、グレードATのOの最大量は1.3%であるのに対し、グレードBTのOの最大量は1.5%である。グレードATの比表面積は2.0m/g以下であり、それに対してグレードBTは1.8~3.8m/gである。上記の2つの異なるグレードの粒径分布は、以下の表3に示されている通りである。
【表3】
【0035】
MMC添加物としての窒化アルミニウムは、粉末金属配合物の摩耗性、延性及び熱伝導特性を改善することができる。伝統的なAl又はSiC等のMMC添加物と比較して工具摩耗は最小限になる。
【0036】
上記の各種粉末金属と窒化アルミニウムと流動助剤と潤滑剤とは粉末調製の際に、好適には強力ミキサ(high intensity mixer)でブレンドされ、これにより各種粒子の分布、特に微細粒子の分布が、粉末金属組成物ブレンド全体において一様となり、偏析が回避される。
【0037】
圧粉前の粉末の応答に関しては、この粉末の流量は平均で2.9g/sであるのが測定され、見かけ密度は平均で1.21g/ccであるのが測定された。
【0038】
この粉末金属組成物は、密度2.50g/ccのバーに圧粉成形された。この圧粉グリーンバーのグリーン強度は平均で8,382kPaであった。焼結応答に関しては、3本のバーを1セットとしたものにおける各バーの平均質量は1.41%減少し(これは、焼結中の潤滑剤消失分に概ね相当する)、平均焼結密度は2.69g/ccであり、緻密化による寸法収縮に関しては、平均高さ寸法変化は3.93%減少、平均幅変化は2.65%減少、平均長さ変化は2.11%減少であった。18個の異なる読値から得られた平均T1硬さは58.1HRE(全てのデータ点が55.4HRE~60.1HREに包含される)、熱拡散率の平均レーザフラッシュ分析結果は72.3であった(室温で記録)。
【0039】
T1引張試験を行った結果、5つの試験の一群における平均ヤング率は83.2GPA、平均降伏応力は83MPa、平均極限引張強度(UTS)は193MPa、平均伸び率は13.9%であることが示された。これらの予備的引張データについて注目すべき点は、ヤング率は実に大きなばらつきがあり、その結果は54.2GPa~135GPaに及ぶのに対し、平均降伏応力は最小測定値と最大測定値の間が約5MPa以内となり、平均UTSは最小測定値と最大測定値との間が約3MPaとなり、平均伸び率は最小測定値と最大測定値との間が約2%となったことである。
【0040】
これとは対照的に、上記のT1処理プロファイルによる成形加工後(wrought)の60
61は、UTSが210MPa、降伏応力が110MPa、伸び率が16%となる。よって、焼結粉末金属であるにもかかわらず、上記の本願開示の粉末金属配合物は略成形後の特性を有する。
【0041】
T8熱処理(後で詳述する)を施した複数の試料に対し、同様の組成を有する粉末金属のさらなる評価を行った。これらの試料は、2体積%のAlN(ターゲット)をさらに含むものと含まないものがある。この比較は、以下の表4の化学組成を有する粉末金属により行った。
【表4】
【0042】
以下の実施例では、この粉末組成から作製された試料を「PM6061」あるいは「PM6061-AlN」という。ここで「-AlN」との表記は、当該組成から作製された試料であってターゲットの窒化アルミニウムMMC添加物を2体積%含むものを指す。これらの組成は必ずしも6061仕様に対するものであるとは限らず、むしろ、成形加工後の6061に対して比較可能に粉末金属組成物を実施することを目標としていると解すべきである。
【0043】
PM6061及びPM6061-AlNそれぞれについて、グリーン密度2.50g/ccをターゲットとする各ブレンドを圧粉処理して50個の抗折力(TRS)バーと、5個のシャルピーと、5個のファレックスパック(Falex puck)(50mmOD×12mmOAL)を作製し、その後焼結した。最初に、各組成の15個のTRSバーをそれぞれ異なる熱プロファイルで焼結し、全てのTRSバーの寸法変化、質量変化、平均硬さ及び焼結密度を特定し、最適な条件を特定した(その理由は、炉ごとに最適な条件が異なり得るため)。残りのTRSバーを全てシャルピー及びファレックスパックと共に、上記の最初の焼結工程で15個のTRSバーの試料試験中に最適と判断された条件下で焼結した。
【0044】
その後、上記の最適な焼結条件下で作製された試料に対して測定を行い、PM6061及びPM6061-AlNそれぞれの5つのTRSバーの焼結直後(as-sintered)の寸
法変化、質量変化、平均硬さ、及び焼結密度を測定した。
【0045】
これらの焼結直後の寸法変化、質量変化、平均硬さ、及び焼結密度の結果は下記の表5及び表6に示されており、表6にはT8硬さの対比も示している。
【表5】
【表6】
【0046】
他の全ての試料はT8熱処理(ターゲット2~3%RIH)に処理した。このT8熱処理は、530℃での溶体化処理(solutionizing、同温度で2時間)、焼入れ、AOLで
の2%減少サイジング、並びに160℃及び18時間のエイジング処理を含むものであった。上記の表6に示すT8試料について、このT8熱処理を施した試料の平均硬さが提供されている。
【0047】
シャルピーは、ねじ端引張(threaded-end tensiles)に機械加工され、その後、PM
6061及びPM6061-AlNに係る5つの試料について降伏強度、極限引張強度、ヤング率、及び破断するまでの総伸び率を測定した。これについては、下記にて表7に示されている。
【表7】
これらも、上記の粉末組成から作製されてT8熱処理が施された試料の機械的特性である。
【0048】
各T8処理組成の試料には、3点曲げ疲労ステアケースをさらに行った。その結果を下記の表8に示す。
【表8】
【0049】
さらに、T8 TRSバーを機械加工して試料を作製し、室温でレーザフラッシュ分析
により熱拡散率の測定をそれぞれ2回ずつ行った。その結果は以下の表9に示されている。
【表9】
【0050】
上記の好適な実施形態について、本発明の思想及び範囲内で種々の他の改良や変更を行うことができることが明らかである。よって、本発明は上記の実施形態に限定されるべきものではない。発明の全範囲を確認するためには、以下の特許請求の範囲に基づくべきである。
【国際調査報告】