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特表2024-526333AIE蛍光プローブ組成物、界面活性剤溶液のcmc測定方法及び装置、cmc判定方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-17
(54)【発明の名称】AIE蛍光プローブ組成物、界面活性剤溶液のcmc測定方法及び装置、cmc判定方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/78 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
G01N21/78 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501763
(86)(22)【出願日】2022-06-02
(85)【翻訳文提出日】2024-01-10
(86)【国際出願番号】 CN2022096821
(87)【国際公開番号】W WO2023142326
(87)【国際公開日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】202210113645.0
(32)【優先日】2022-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524014008
【氏名又は名称】ムーン ハウス (チャイナ) シーオー.,エルティーディー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ヂィァン、ヅァン
(72)【発明者】
【氏名】ヂァン、シィァンロォン
(57)【要約】
本発明は、界面活性剤溶液の臨界ミセル濃度cmcの測定用の、プローブ化合物及び助剤を含むAIE蛍光プローブ組成物を提供し、前記プローブ化合物は、疎水性AIE分子であり、前記助剤は、下記一般式(1)で表される少なくとも1種の有機溶媒であり、(R)n-X (1)、ここで、Rは、炭素原子数が3~10の置換又は無置換の直鎖又は分岐アルキル基であり、nは、1又は2の整数であり、nが2である場合、2つのRは、同一でも異なってもよく、Xは、水酸基、アミノ基、シアノ基、ハロゲン基、アミド基、カルボニル基、アルデヒド基、エステル基、及びエーテル基からなる群より選ばれるいずれかの極性基である。本発明は、さらに上記AIE蛍光プローブ組成物を用いた界面活性剤溶液のcmc測定方法及び装置、並びにAIE蛍光プローブによるcmc判定方法及び装置を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤溶液の臨界ミセル濃度cmcの測定用のプローブ溶液であるAIE蛍光プローブ組成物であって、
プローブ化合物及び助剤を含み、前記プローブ化合物は、疎水性AIE分子であり、前記助剤は、下記一般式(1)で表される少なくとも1種の有機溶媒であり、
(R)n-X (1)
ここで、Rは、炭素原子数が3~10の置換若しくは無置換の直鎖又は分岐アルキル基であり、nは、1又は2の整数であり、nが2である場合、2つのRは、同一でも異なってもよく、
Xは、水酸基、アミノ基、シアノ基、ハロゲン基、アミド基、カルボニル基、アルデヒド基、エステル基、及びエーテル基からなる群より選ばれるいずれかの極性基である、
ことを特徴とするAIE蛍光プローブ組成物。
【請求項2】
前記助剤の沸点は、70℃よりも大きい、
請求項1又は2に記載のAIE蛍光プローブ組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)において、前記Rは、炭素原子数が3~6の無置換の直鎖又は分岐アルキル基であり、前記Xは、水酸基又はアミノ基から選ばれる、
請求項1又は2に記載のAIE蛍光プローブ組成物。
【請求項4】
前記助剤は、n‐プロバノール、イソプロバノール、t-ブタノール、n-ブタノール、n-ブチルアミン、及びペンチルアミンからなる群より選ばれる1種以上である、
請求項1又は2に記載のAIE蛍光プローブ組成物。
【請求項5】
前記助剤は、両親媒性構造を備え、分子中に前記極性基からなる親水領域と前記アルキル基からなる疎水領域を有し、前記プローブ化合物は、前記助剤における溶解性が水における溶解度よりも高い、
請求項1又は2に記載のAIE蛍光プローブ組成物。
【請求項6】
前記助剤は、炭素原子数が3~6のアルキルアルコールであり、前記プローブ溶液の調製方法は、前記プローブ化合物を予めアセトンに溶解させ、続いてこれを揮発させて乾燥させ、最後に前記アルキルアルコールを加えることにより、前記AIE蛍光プローブ組成物を得る、
請求項1又は2に記載のAIE蛍光プローブ組成物。
【請求項7】
前記プローブ化合物は、下記化学式1~12のいずれかで示される化合物を基本骨格として含む疎水性AIE分子である、
請求項1又は2に記載のAIE蛍光プローブ組成物。
【化2】
【請求項8】
前記疎水性AIE分子は、前記化学式1で表される無置換のテトラフェニルエチレン(TPE)、前記化学式2で表される無置換のジスチリルアントラセン(DSA)、前記化学式7で表される無置換のヘキサフェニルシラシクロペンタジエン(HPS)、又は前記化学式10で表される無置換のベンゾペリレン(BP)である、
請求項7に記載のAIE蛍光プローブ組成物。
【請求項9】
前記界面活性剤溶液は、アニオン性界面活性剤及び/又は非イオン性界面活性剤を少なくとも含む、
請求項1又は2に記載のAIE蛍光プローブ組成物。
【請求項10】
前記AIE蛍光プローブ組成物における前記プローブ化合物の濃度は、500~2000μmol/Lであり、前記界面活性剤溶液における前記プローブ化合物の濃度は、1~1000μmol/Lである、
請求項1又は2に記載のAIE蛍光プローブ組成物。
【請求項11】
前記AIE蛍光プローブ組成物全体に対する前記助剤の含有量の割合は、70質量%~99質量%であり、前記AIE蛍光プローブ組成物全体に対する前記プローブ化合物の含有量の割合は、1質量%~30質量%である、
請求項1又は2に記載のAIE蛍光プローブ組成物。
【請求項12】
複数の試料セルに漸増濃度を有する一連の界面活性剤の被測定溶液を調製する溶液調製ステップと、
前記複数の試料セルに一定量のプローブ溶液をそれぞれ添加するプローブ加えステップと、
各被測定溶液の蛍光強度を検出機構により検出する検出ステップと、
検出された各被測定溶液の蛍光強度の変化傾向に基づいて前記界面活性剤溶液のcmc濃度を決定する決定ステップと、
を順に含む界面活性剤溶液のcmc測定方法であって、
前記プローブ溶液は、請求項1~11のいずれか1項に記載のAIE蛍光プローブ組成物である、
ことを特徴とする界面活性剤溶液のcmc測定方法。
【請求項13】
前記プローブ化合物は、無置換のヘキサフェニルシラシクロペンタジエン(HPS)であり、
前記検出ステップにおいて、前記複数の試料セルにおける各被測定溶液の蛍光強度が低から高への突然の変化が発生し、最大の蛍光強度に達した後に徐々に弱くなり、
前記決定ステップにおいて、検出された前記最大の蛍光強度に対応する試料セルにおける前記被測定溶液の濃度を前記界面活性剤溶液のcmc濃度とする、
請求項12に記載のcmc測定方法。
【請求項14】
漸増濃度を有する一連の界面活性剤の被測定溶液が調製された複数の試料セルと、
プローブ化合物を含むプローブ溶液が収容されたプローブ容器と、
前記プローブ容器から一定量のプローブ溶液を前記複数の試料セルに加えるための試料加え機構と、
前記複数の試料セルにおける前記被測定溶液の蛍光強度を検出するための検出機構と、
前記検出機構により検出された各被測定溶液の蛍光強度の変化傾向に基づいて前記界面活性剤溶液のcmc濃度を決定する決定機構と、
を含む界面活性剤溶液のcmc測定装置であって、
前記プローブ溶液は、請求項1~11のいずれか1項に記載のAIE蛍光プローブ組成物である、
ことを特徴とする界面活性剤溶液のcmc測定装置。
【請求項15】
界面活性剤溶液が臨界ミセル濃度cmcに達するか否かを判定するための判定方法であるAIE蛍光プローブによるcmc判定方法であって、
水に初期量の界面活性剤を加え、撹拌を施し、被測定溶液を調製する溶液調製ステップと、
前記被測定溶液から少量を採取して試料セルに移すサンプリングステップと、
前記試料セルにAIE蛍光プローブを加え、微振動を施し、混合液を形成するプローブ加えステップと、
前記混合液の蛍光強度を蛍光検出器により検出し、検出信号Sを出力する検出ステップと、
前記検出信号Sの変化傾向に基づいて臨界ミセル濃度cmcに達するか否かを判定し、判定結果がイエスであれば、前記被測定溶液の濃度をcmc濃度として出力し、全てのステップを終了し、判定結果がノーであれば、前記試料セルを空にし、前記溶液調製ステップに戻り、前記被測定溶液に所定量の界面活性剤を追加し、次のサンプリングステップ、プローブ加えステップ、検出ステップ及び判定ステップを実行し続ける判定ステップと、
を順に含み、
前記判定ステップにおいて、前記判定結果がノーであるが、前記溶液調製ステップにおける前記所定量の界面活性剤の追加回数が所定の閾値に達していれば、全てのステップを終了する、
ことを特徴とするAIE蛍光プローブによるcmc判定方法。
【請求項16】
前記AIE蛍光プローブは、請求項1~11のいずれか1項に記載のAIE蛍光プローブ組成物である、
請求項15に記載のcmc判定方法。
【請求項17】
前記判定ステップにおいて、前記検出信号Sが予め設定された閾値S0以上であれば、判定結果はイエスであり、前記検出信号Sが前記閾値S0よりも低ければ、判定結果はノーである、
請求項15に記載のcmc判定方法。
【請求項18】
前記判定ステップにおいて、隣接する2回の検出ステップで得た検出信号において、後の回の検出信号SYと前の回の検出信号SXとの差分SY-SXが0又は負の値になっていれば、前記判定結果はイエスであり、前記差分SY-SXが0よりも大きければ、前記判定結果はノーである、
請求項15に記載のcmc判定方法。
【請求項19】
界面活性剤溶液が臨界ミセル濃度cmcに達するか否かを判定するための判定装置であり、界面活性剤の貯蔵機構、添加機構、サンプリング機構、試料セル、AIE蛍光プローブの貯蔵機構、試料加え機構、検出機構、cmc判定機構、及び決定機構を含むAIE蛍光プローブによるcmc判定装置であって、
ここで、以下の操作を順に実行し、
前記添加機構は、前記界面活性剤の貯蔵機構から一定量の界面活性剤を取り出して、水と混合撹拌し、被測定溶液を調製し、
前記サンプリング機構は、前記被測定溶液から少量を取り出して前記試料セルに移し、
前記試料加え機構は、前記AIE蛍光プローブの貯蔵機構から微量のプローブ溶液を取り出して前記試料セルに加え、微振動を施し、混合液を形成し、
前記検出機構は、前記混合液の蛍光強度を検出し、得られた検出信号を前記cmc判定機構に伝送し、
前記cmc判定機構は、前記検出信号の変化傾向により臨界ミセル濃度cmcに達するか否かを判定し、
前記cmc判定機構の判定結果がイエスであれば、前記決定機構は、前記被測定溶液の濃度をcmc濃度として出力し、全ての操作を終了し、
前記cmc判定機構の判定結果がノーであり、且つ前記添加機構の実行回数が所定の閾値よりも低ければ、前記試料セルを空にし、前記添加機構は、前記被測定溶液に所定量の界面活性剤を追加し、次の操作を実行し続け、
前記cmc判定機構の判定結果がノーであり、且つ前記添加機構の実行回数が所定の閾値に達していれば、全ての操作を終了する、
ことを特徴とするAIE蛍光プローブによるcmc判定装置。
【請求項20】
前記AIE蛍光プローブは、請求項1~11のいずれか1項に記載のAIE蛍光プローブ組成物である、
請求項19に記載のcmc判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AIE蛍光プローブ組成物、当該AIE蛍光プローブ組成物を用いた界面活性剤溶液のcmc測定方法及び装置、並びにAIE蛍光プローブによるcmc判定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
臨界ミセル濃度(Critical Micelle Concentration、cmcと略称する)は、界面活性剤の溶液性質の重要な区画線であり、cmcの前後に、界面活性剤溶液の多くの物理化学的性質、例えば表面張力、光散乱、モル伝導率、密度、浸透圧、可溶化作用などは、いずれも顕著な変化を有する。
【0003】
従来のcmcの検出方法は、表面張力法、電気伝導率法及び蛍光分光法(PL)などを含むが、これらの方法は、実際の応用には制限がある。例えば、表面張力法でcmcを測定する時に、一連の複雑な操作が必要であり、電気伝導率法は、非イオン性界面活性剤及び電気伝導率が低い界面活性剤を検出することができず、蛍光分光法は、感度が低く、高精度の試験器具に依存するなどの問題がある。
【0004】
近年、一部の有機分子は、溶液中で発光せず、凝集状態や固体薄膜で発光強度が大きく向上することが見出される。当該発光向上の性質は、分子凝集によるものであるので、この現象を「凝集誘起発光」(Aggregation-Induced Emission、AIEと略称する)と定義する。
【0005】
上記AIE現象を有する有機分子を用いて製造されたAIE蛍光プローブは、その凝集誘起発光特性により、精密な器具を借りずに簡単で、高速で、効率的に界面活性剤溶液のcmcを測定することができ、そのため各分野に効果的に応用することができ、例えば洗浄業界などに洗浄水溶液中の界面活性剤の含有量を監視するために用いられ、実際の指導意義を有する。
【0006】
プロトタイプAIE分子は、例えば一般的なテトラフェニルエチレン(TPE)、ヘキサフェニルシロール(即ちヘキサフェニルシラシクロペンタジエン、HPS)及びジスチリルアントラセン(DSA)などを含み、固体状態の場合の高い量子収率及び高い化学的安定性及び光安定性などの利点を有するが、無置換のプロトタイプAIE分子は、その疎水性により界面活性剤溶液などの水性系への応用が制限される。非特許文献1には、疎水性のAIE分子をまずn-ヘキサンなどの揮発性有機溶媒に溶解し、続いて界面活性剤溶液に加え、超音波により混合し、易溶性の有機溶媒が完全に揮発した後にAIE特性を呈することが報告される。しかし、当該方法は、超音波による混合、有機溶剤の揮発などのステップを含むため、実際の応用環境において使用の利便性が乏しい。
【0007】
AIE蛍光プローブの疎水性の問題を解消するために、現在の研究思想は、主に疎水性のAIE分子構造に、帯電した官能基、例えばアンモニウム基、スルホン酸基を導入してその親水性を向上させることに集中している。例えば、特許文献1には、ベンゾキノリン構造単位を母体とし、スルホン酸基を主な水溶性基として導入し、一連の親水性のAIE蛍光プローブが製造され、波長365nmの紫外ランプで蛍光の無から最強への突然の変化の発生を観察することにより、界面活性剤溶液の臨界ミセル濃度を得ることができる。特許文献2には、HPS分子やTPE分子の疎水性骨格に親水性単位を導入してなる両親媒性分子の合成、及びその生物学分野への応用が報告される。しかしながら、これらの方法では、無置換の疎水性AIE分子を誘導体化することにより親水性AIE分子を得る合成技術が困難であり、生産コストが高く、工業分野への一般的な適用が困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「Detection of the critical micelle concentration of cationic and anionic surfactants based on aggregation-induced emission property of hexaphenylsilole derivatives」 TANG Li et.al,Sci China Ser B-Chem,Jun.2009,vol.52,No.6,755-759
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】CN110028446A
【特許文献2】CN106566532A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、疎水性AIE分子を誘導体化することなく、直接界面活性剤溶液のcmc濃度の測定に用いられるAIE蛍光プローブ組成物を提供し、当該AIE蛍光プローブ組成物を用いた界面活性剤溶液のcmc測定方法及び装置、並びにAIE蛍光プローブによるcmc判定方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討したところ、一部の疎水性AIE分子が特定の構造を有する有機溶媒に溶解して安定的な溶液を形成し、有機溶媒の揮発を待つことなく、適切な濃度範囲内で顕著なAIE特性を示すことを見出した。そのため、このような疎水性AIE分子及び特定の有機溶媒を含む蛍光プローブ組成物を用いることにより、界面活性剤溶液のcmc濃度の測定に直接用いることができ、上記問題を好適に解決する。
【0012】
本発明は、AIE蛍光プローブ組成物を提供し、前記AIE蛍光プローブ組成物は、界面活性剤溶液の臨界ミセル濃度cmcの測定用のプローブ溶液であり、プローブ化合物及び助剤を含み、前記プローブ化合物は、疎水性AIE分子であり、前記助剤は、下記一般式(1)で表される少なくとも1種の有機溶媒であり、
(R)n-X (1)
ここで、Rは、炭素原子数が3~10の置換若しくは無置換の直鎖又は分岐アルキル基であり、nは、1又は2の整数であり、nが2である場合、2つのRは、同一でも異なってもよく、
Xは、水酸基、アミノ基、シアノ基、ハロゲン基、アミド基、カルボニル基、アルデヒド基、エステル基、及びエーテル基からなる群より選ばれるいずれかの極性基であることを特徴とする。
【0013】
本発明は、さらに界面活性剤溶液のcmc測定方法を提供し、前記界面活性剤溶液のcmc測定方法は、
複数の試料セルに漸増濃度を有する一連の界面活性剤の被測定溶液を調製する溶液調製ステップと、
前記複数の試料セルに一定量のプローブ溶液をそれぞれ添加するプローブ加えステップと、
各被測定溶液の蛍光強度を検出機構により検出する検出ステップと、
検出された各被測定溶液の蛍光強度の変化傾向に基づいて前記界面活性剤溶液のcmc濃度を決定する決定ステップと、を順に含み、
前記プローブ溶液は、本発明のAIE蛍光プローブ組成物であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、さらに界面活性剤溶液のcmc測定装置を提供し、前記界面活性剤溶液のcmc測定装置は、
漸増濃度を有する一連の界面活性剤の被測定溶液が調製された複数の試料セルと、
プローブ化合物を含むプローブ溶液が収容されたプローブ容器と、
前記プローブ容器から一定量のプローブ溶液を前記複数の試料セルに加えるための試料加え機構と、
前記複数の試料セルにおける前記被測定溶液の蛍光強度を検出するための検出機構と、
前記検出機構により検出された各被測定溶液の蛍光強度の変化傾向に基づいて前記界面活性剤溶液のcmc濃度を決定する決定機構と、を含み、
前記プローブ溶液は、本発明のAIE蛍光プローブ組成物であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、さらにAIE蛍光プローブによるcmc判定方法を提供し、前記AIE蛍光プローブによるcmc判定方法は、界面活性剤溶液が臨界ミセル濃度cmcに達するか否かを判定するための判定方法であり、
水に初期量の界面活性剤を加え、撹拌を施し、被測定溶液を調製する溶液調製ステップと、
前記被測定溶液から少量を採取して試料セルに移すサンプリングステップと、
前記試料セルにAIE蛍光プローブを加え、微振動を施し、混合液を形成するプローブ加えステップと、
前記混合液の蛍光強度を蛍光検出器により検出し、検出信号Sを出力する検出ステップと、
前記検出信号Sの変化傾向に基づいて臨界ミセル濃度cmcに達するか否かを判定し、判定結果がイエスであれば、前記被測定溶液の濃度をcmc濃度として出力し、全てのステップを終了し、判定結果がノーであれば、前記試料セルを空にし、前記溶液調製ステップに戻り、前記被測定溶液に所定量の界面活性剤を追加し、次のサンプリングステップ、プローブ加えステップ、検出ステップ及び判定ステップを実行し続ける判定ステップと、を順に含み、
前記判定ステップにおいて、前記判定結果がノーであるが、前記溶液調製ステップにおける前記所定量の界面活性剤の追加回数が所定の閾値に達していれば、全てのステップを終了することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、さらにAIE蛍光プローブによるcmc判定装置を提供し、前記AIE蛍光プローブによるcmc判定装置は、界面活性剤溶液が臨界ミセル濃度cmcに達するか否かを判定するための判定装置であり、界面活性剤の貯蔵機構、添加機構、サンプリング機構、試料セル、AIE蛍光プローブの貯蔵機構、試料加え機構、検出機構、cmc判定機構、及び決定機構を含み、ここで、以下の操作を順に実行し、
前記添加機構は、前記界面活性剤の貯蔵機構から一定量の界面活性剤を取り出して水と混合撹拌し、被測定溶液を調製し、
前記サンプリング機構は、前記被測定溶液から少量を取り出して前記試料セルに移し、
前記試料加え機構は、前記AIE蛍光プローブの貯蔵機構から微量のプローブ溶液を取り出して前記試料セルに加え、微振動を施し、混合液を形成し、
前記検出機構は、前記混合液の蛍光強度を検出し、得られた検出信号を前記cmc判定機構に伝送し、
前記cmc判定機構は、前記検出信号の変化傾向に基づいて臨界ミセル濃度cmcに達するか否かを判定し、
前記cmc判定機構の判定結果がイエスであれば、前記決定機構は、前記被測定溶液の濃度をcmc濃度として出力し、全ての操作を終了し、
前記cmc判定機構の判定結果がノーであり、且つ前記添加機構の実行回数が所定の閾値よりも低ければ、前記試料セルを空にし、前記添加機構は、前記被測定溶液に所定量の界面活性剤を追加し、次の操作を実行し続け、
前記cmc判定機構の判定結果がノーであり、且つ前記添加機構の実行回数が所定の閾値に達していれば、全ての操作を終了することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のAIE蛍光プローブ組成物には無置換の疎水性AIE分子を採用し、適切な有機溶媒を助剤として導入することにより、それを安定的且つ良好に水性系に分散させることができる。それにより、無置換のAIEプローブ分子の疎水性問題を解決した。本発明のAIE蛍光プローブ組成物を界面活性剤溶液に加えた後、前記助剤(即ち有機溶媒)は、疎水性AIE分子を補助して界面活性剤溶液のミセルなどの凝集体に安定的な分散構造を形成し、助剤の揮発ステップを必要とせずに界面活性剤溶液のcmc濃度を測定することができ、実際の応用シーンでの使用の利便性を大幅に向上させる。また、本発明のAIE蛍光プローブ組成物は、プローブ溶液として、適切な濃度範囲でcmc濃度に対応する蛍光強度変化を従来の蛍光検出器などにより正確に検出することができるため、AIE蛍光分子のより広い分野での運用に新たな解決思想と研究方向をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】界面活性剤の混合ミセルにおける疎水性AIE分子に対する本発明の助剤による可溶化の効果を例示的に示す分子シミュレーション結果の概略図であり、(A)助剤がブチルアミンであり、(B)助剤がブタノールである。
図2】本発明のAIE蛍光プローブ組成物を直接調製した至尊潔浄洗浄剤の水溶液に添加した場合(実施例1)及び本発明のAIE蛍光プローブ組成物を添加しない場合(参照例1)の蛍光強度(電圧)が濃度に従って変化することを示すグラフである。
図3】実施例1に採用された直接調製した至尊潔浄洗浄剤の水溶液の表面張力が濃度に従って変化することを示すグラフである。
図4】実施例7で本発明のAIE蛍光プローブ組成物を実際の機械洗浄した至尊潔浄洗浄剤の水溶液に添加した時の蛍光強度(電圧)が濃度に従って変化することを示すグラフである。
図5】実施例7で採用した実際の機械洗浄した至尊潔浄洗浄剤の水溶液の界面張力が濃度に従って変化することを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0020】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載した数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲である。
【0021】
本明細書において、界面活性剤(洗浄剤を指す場合がある)の濃度については、界面活性剤溶液(洗浄剤溶液を指す場合がある)に多種の界面活性剤成分が存在する場合、特に説明しない限り、界面活性剤溶液に存在する多種の界面活性剤成分の合計量を指すものとする。
【0022】
(AIE蛍光プローブ組成物)
本発明のAIE蛍光プローブ組成物は、界面活性剤溶液の臨界ミセル濃度cmcの測定用のプローブ溶液であり、プローブ化合物及び助剤を含み、前記プローブ化合物は、疎水性AIE分子であり、前記助剤は、下記一般式(1)で表される少なくとも1種の有機溶媒であり、
(R)n-X (1)
ここで、Rは、炭素原子数が3~10の置換若しくは無置換の直鎖又は分岐アルキル基であり、nは、1又は2の整数であり、nが2である場合、2つのRは、同一でも異なってもよく、
Xは、水酸基、アミノ基、シアノ基、ハロゲン基、アミド基、カルボニル基、アルデヒド基、エステル基、及びエーテル基からなる群より選ばれるいずれかの極性基であることを特徴とする。
【0023】
以下、本発明のAIE蛍光プローブ組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0024】
「プローブ化合物」
本発明のプローブ化合物は、凝集誘起発光性を有する疎水性AIE分子である。
【0025】
凝集誘起発光(Aggregation-Induced Emission、AIE)は、唐本忠院士のチームが2001年に偶然発見した現象であり、一部のシロール分子(HPS、例えば1,1,2,3,4,5-ヘキサフェニルシロール)は、溶液でほとんど発光せず、凝集状態又は固体薄膜で発光強度が大幅に向上する。当該発光強度の向上は、凝集によるものであるので、この現象を「凝集誘起発光」と定義する。
【0026】
凝集誘起発光性を有する一般的なAIE分子は、構造上で、純炭化水素系、ヘテロ原子含有系、マクロ分子系及び金属含有系に大別される。これらの分子の多くは、芳香族系の共役平面骨格を有し、空間で螺旋構造を形成することができ、異なる凝集状態の影響を受けてその共役性が変化し、それにより蛍光スペクトルにおいてAIE特性を示す。これらの分子は、芳香族系骨格の存在により、無置換の原生状態で水に溶解しない疎水性を呈することが多い。
【0027】
本発明のプローブ化合物は、下記化学式1~12のいずれかで示される化合物を基本骨格として含む疎水性AIE分子であることが好ましい。
【0028】
【化1】
【0029】
本発明が採用した疎水性AIE分子は、化学式1で表されるテトラフェニルエチレン(Tetraphenylethylene、TPEと略称する)、化学式7で表されるヘキサフェニルシラシクロペンタジエン(Hexaphenylsilole、HPSと略称する)、化学式2で表されるジスチリルアントラセン(Distyrenylanthracene、DSAと略称する)及び化学式10で表されるベンゾペリレン(1,12-Benzoperylene、BPと略称する)などの無置換のAIE分子を含むことが好ましく、これらのAIE分子の基本骨格構造を含む誘導体、ポリマー又は金属錯体などであってもよく、水溶液に対して疎水性を示す。本発明において、「疎水性」とは、水に溶解せず又は溶解しにくい状態を呈する性質である。
【0030】
上記AIE分子は、異なる凝集状態又は分散状態で全く異なる蛍光性能を呈する。また、異なる種類のAIE分子は、異なる溶液系における発光メカニズムが異なる可能性もある。例えば、テトラフェニルエチレン(TPE)は、良溶媒に溶解する時に蛍光放出せず、貧溶媒にある時に高い蛍光放出を発生する。従来技術では、TPE分子を利用して各種の界面活性剤溶液のcmcを検出する原理は、界面活性剤が低濃度である場合、大部分のTPE分子は水相に凝集し、水がTPE分子の貧溶媒であるため、TPE分子は凝集して非常に強い蛍光を発生することであり、界面活性剤の濃度が非常に高い場合、TPE分子はミセル分子の疎水性コア内に包まれ、この時にTPE分子が各ミセル分子により分散され、ミセルコア内に分散されるため、TPE分子の内回転が制限されず、TPE分子の蛍光が大幅に低減されることである。TPEは、凝集状態と分散状態とでの全く異なる蛍光性能を考慮し、界面活性剤溶液のcmcを検出及び両親媒性分子の組み立てやその解体を追跡するために用いることができる。
【0031】
また、非特許文献1には、疎水性のヘキサフェニルシロール(HPS)分子をプローブとして界面活性剤溶液のcmcを測定することが報告されている。その方法は、HPSを揮発性の有機溶媒(例えばn-ヘキサン)に溶解してから界面活性剤の水溶液に添加し、HPSがその疎水性のため水に分散しにくく、被覆層が形成され、超音波で均一に混合させることが必要である。そして、シクロヘキサンの揮発が完了した後で、HPSは界面活性剤分子で形成されたミセルに入り、強い蛍光を発する。つまり、n-ヘキサンを良溶媒としてHPSプローブ分子を溶解する場合、溶媒が揮発するか否かは蛍光結果に支配的な影響を与える。溶媒が揮発していない場合、HPSプローブ分子は、優先的に溶媒に溶解し、HPSは蛍光放出せず、界面活性剤の溶液は発光しないが、溶媒が揮発し始めた後に、HPSは異なる程度の析出があり、一部が界面活性剤ミセルの疎水性コアに入って凝集して、凝集発光可能なAIE特性を呈することができる。
【0032】
しかし、n-ヘキサン自体は、揮発性の高い無色の液体であり、沸点や引火点が低いため、プローブ溶液を調製後に貯蔵しにくく、またcmc測定する過程で溶媒揮発のステップを備えなければならない。AIE分子を有機溶媒に溶解せずに直接添加すると、AIEの添加量が不正確で混合が不均一になり、試験結果の精度に影響を与える可能性がある。
【0033】
[助剤]
本発明者らは、鋭意検討しスクリーニングすることにより、疎水性AIE分子の助剤として、揮発しにくく、且つAIEプローブ分子が適切な濃度範囲で顕著なAIE特性を呈することができる、特定の構造を有する有機溶媒を見出した。
【0034】
典型的な疎水性AIE分子であるヘキサフェニルシラシクロペンタジエン(HPS)は、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、クロロホルムなどの良溶媒に非常に溶解しやすく、メタノールなどのアルコール類には微溶解するが、水には全く溶解しない。通常は、溶媒の種類や極性は、HPSの蛍光吸収や放出スペクトルにほとんど影響を与えないと考えられている。
【0035】
本発明者らは、HPSの一連の有機溶媒への溶解性、及びその界面活性剤溶液(例えば、藍月亮至尊洗浄剤の水溶液)におけるAIE性能について検討し、その結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1の結果から分かるように、溶媒である各種の有機溶媒のうち、HPSは、n-ブタノール、n-ペンタノールなどの溶媒において、一定の洗浄剤の濃度範囲内で顕著なAIE現象を示し、且つ水に微溶解し、HPSに対して微溶解し及び揮発しにくい性質を有するため、本発明のプローブ組成物に含まれる助剤として好適である。特にn-ブタノールは、適切な洗浄剤の濃度範囲(例えば0.1g/L~0.2g/L)内で顕著なAIE現象を示すことができるため、本発明の助剤とすることがより好ましい。
【0038】
さらなる検討の結果から分かるように、有機アルコール類のみならず、特定の両親媒性構造を有する有機溶媒であれば、本発明の助剤とすることができる。これらの有機溶媒の特徴は、分子中に一定の長さのアルキル鎖を有し、またアルキル鎖の末端又は中間に極性基(官能基)を有し、それにより分子中に極性基からなる親水領域とアルキル鎖からなる疎水領域とを有する両親媒性構造を形成することである。
【0039】
つまり、本発明のAIE蛍光プローブ組成物に含まれる助剤は、下記一般式(1)で表される少なくとも1種の有機溶媒であり、
(R)n-X (1)
ここで、Rは、炭素原子数が3~10の置換若しくは無置換の直鎖又は分岐アルキル基であり、nは、1又は2の整数であり、nが2である場合、2つのRは、同一でも異なってもよく、
Xは、水酸基、アミノ基、シアノ基、ハロゲン基、アミド基、カルボニル基、アルデヒド基、エステル基、及びエーテル基からなる群より選ばれるいずれかの極性基である。
【0040】
本発明の疎水性AIE分子の助剤における溶解性は、溶解可能又は微溶解であり、水における溶解度よりも高い。このように、プローブ組成物を低濃度の界面活性剤溶液などの水性系に添加すると、プローブ化合物が助剤に優先的に溶解し、且つ助剤の補助で水性系に安定的に分散する傾向がある。そのため、本発明の疎水性AIE分子は、助剤に溶解して安定的なプローブ溶液を形成する。
【0041】
これらの助剤分子は、長期貯蔵安定性の観点から、揮発しにくい有機溶媒であることが好ましい。一般的に、有機溶媒は、揮発性が強いほど沸点が低く、沸点が高いほど揮発しにくい。そのため、本発明において、助剤の沸点は、70℃よりも大きいことが好ましく、70~155℃であることがより好ましく、75~150℃であることがさらに好ましい。
【0042】
一般式(1)におけるnは、プローブ化合物をより安定的に分散させる観点から、1であることが好ましく、即ち、極性基Xからなる親水領域がアルキル分子鎖の末端にあることが好ましい。
【0043】
一般式(1)におけるRは、炭素原子数が3~10の置換若しくは無置換の直鎖又は分岐アルキル基であり、ここで、Rの炭素原子数の大きさは、助剤分子中のアルキル鎖の長さを反映する。アルキル鎖が短すぎると、形成された疎水領域は、AIE分子を安定化させるには不十分である可能性があり、且つAIE分子が界面活性剤ミセルに入る可溶化の効果が不足であり、また、炭素原子数が小さすぎると助剤分子の揮発性が大きすぎる可能性があり、プローブ溶液の貯蔵安定性に不利である。一方、アルキル鎖が長すぎると、助剤自体の水溶性が低下し、同じくプローブ溶液の安定化に不利であり、また、AIE分子の界面活性剤ミセルへの可溶化の効果を果たすことができない可能性がある。ミセルへの可溶化の効果をさらに高め、且つプローブ溶液の安定性を保つ観点から、一般式(1)におけるRは、炭素原子数が3~6の無置換の直鎖又は分岐アルキル基であることが好ましく、炭素原子数が4~5であることがより好ましい。
【0044】
また、一般式(1)における極性基Xは、助剤分子の安全性、入手容易性及び水溶性の観点から、水酸基又はアミノ基から選ばれることが好ましい。
【0045】
助剤は、n‐プロバノール、イソプロバノール、t-ブタノール、n-ブタノール、n-ブチルアミン、及びペンチルアミンからなる群より選ばれる1種以上であることがより好ましい。助剤は、1種単独でも2種以上の混合物でもよい。
【0046】
異なるAIE分子に対して、異なる助剤の種類を選択することができ、特に制限されない。本発明のAIE蛍光プローブ組成物において、疎水性AIE分子と助剤との好ましい組み合わせとしては、AIE分子は無置換のHPS、TPE、DSA又はベンゾペリレンであり、助剤は炭素原子数が3~5の有機アルコール又は有機アミンである組み合わせが挙げられる。
【0047】
また、本発明者らは、プローブ溶液の調製方法がAIE蛍光プローブ組成物の蛍光性能にも一定の影響を与えることを見出した。例えば、助剤として炭素原子数が3~5の有機アルコールとアセトンとの混合溶媒を採用する場合、アセトンの揮発性がAIE分子の凝集状態に与える影響により、安定的で顕著なAIE現象が生じないことがある。しかしながら、AIEプローブ分子を予めアセトンに溶解させ、アセトンを揮発し乾燥させた後に、上記の有機アルコールを加えてAIE蛍光プローブ組成物の溶液を得る場合、適切な濃度範囲内で安定的で顕著なAIE現象が生じる。これは、AIEプローブ分子が先にアセトンに溶解して揮発して乾いた後、その分子のミクロ凝集状態が変化するからであると推測される。
【0048】
本発明者らは、AIE蛍光プローブ組成物が界面活性剤溶液でAIE現象を生じるメカニズムについて以下のように推測する。
【0049】
まず、疎水性AIE分子は助剤である有機溶媒中に溶解し、プローブ溶液を形成する。プローブ化合物及び助剤を含むプローブ溶液を界面活性剤溶液中に添加する際に、界面活性剤の濃度が低く、臨界ミセル濃度に達していない場合、助剤は、特定の両親媒性構造を有するため、疎水性AIE分子を吸着又は包んで界面活性剤の水溶液に安定的に分散しており、界面活性剤の濃度が臨界ミセル濃度cmcまで増加した場合、大量の界面活性剤分子が自己集合を開始してミセルを形成し、この時、助剤分子は、余分な揮発を必要とせず、疎水性AIE分子とともに界面活性剤分子が形成するミセルの内部キャビティに入り、ミセルを形成する界面活性剤分子と交互に配列され、「柵」(Palisade)構造を形成し、AIE分子は、ミセルの柵層の付近に凝集しており、当該凝集状態は、強いAIE発光を引き起こす。
【0050】
つまり、本発明のAIE蛍光プローブ組成物において、助剤は、疎水性AIE分子の溶媒としての役割を果たすだけでなく、またそれが親水領域と疎水領域の両親媒性構造の特徴を有するため、疎水性のAIE分子が界面活性剤のミセルの柵層に入ることを補助することができ、ミセル中の疎水性AIE分子に対して可溶化の効果が有し、適切な濃度範囲内で顕著なAIE特性を示すようにする。
【0051】
上記推測のメカニズムを検証するために、本発明者らは、下記の分子シミュレーション実験を行った。
【0052】
図1は、界面活性剤の混合ミセルにおける疎水性AIE分子に対する本発明の助剤による可溶化の効果を例示的に示す分子シミュレーション結果の概略図であり、(A)助剤がブチルアミンであり、(B)助剤がブタノールである。
【0053】
助剤分子について、分子シミュレーション実験ではブチルアミン、ペンチルアミン、ペンタノール、プロピルアミン、ブタノール、ブチルアルデヒド、酪酸、イソプロバノール、n‐プロバノール、t-ブタノールなどの多種の極性有機溶媒を選択し、AIE蛍光プローブ分子について、ベンゾペリレンを選択して、脂肪族アルコールポリエーテル硫酸エステルナトリウム(AES)と脂肪族アルコールポリオキシエチレンエーテル(AEO)の混合ミセル(1:1)に可溶化の分子シミュレーション実験を行った。
【0054】
まず21nm*21nm*21nmのボールミセル立方水箱を建て、各分子は、United-Atom力場を用い、gromacsソフトウェアを用い、50nsのNPT制御圧シミュレーションを行った。その結果、各系にいずれも安定的なミセルが形成されるが、助剤分子の水における溶解性が異なるため、形成されたミセルの大きさ、形状が異なり、且つミセルに可溶化された助剤分子と水に分散された助剤分子の数が異なることが発見された。
【0055】
図1から分かるように、助剤1が(A)ブチルアミン、(B)ブタノールである場合、いずれも安定的なボールミセルモデルが得られ、蛍光プローブ分子であるベンゾピレン2(図1における濃色大スポット)は、いずれもミセルの内部に可溶化される。界面活性剤分子3は、ミセル骨格を形成し、蛍光プローブ分子を被覆する。ここから分かるように、ブチルアミンを助剤とする時に形成されたミセルは、ブタノールよりも規則的である。
【0056】
また、発明者らは、さらに各蛍光プローブ分子から水分子層までの距離を計算したところ、いずれも0.2nmよりも大きく、これは、蛍光プローブ分子と水分子が隔離され、ミセルカーネルに可溶化されることをさらに説明する。また、水素結合数を比較すると、ブチルアミンなどは、水における溶解性が低く、界面活性剤とミセルをより形成しやすく、ミセルを安定化する役割を果たすことができることが分かる。
【0057】
上記分子シミュレーションの結果から分かるように、本発明のAIE蛍光プローブ組成物の各系は、いずれも安定的なミセルを形成することができ、助剤分子は、ミセルの形成に関与し、それが界面活性剤ミセルの柵層の極性基に近い側に位置し、混合界面活性剤ミセルの形成及びAIE蛍光プローブ分子の被覆に積極的な貢献を有する。
【0058】
現在の結果から見ると、構築された分子モデルが合理的であり、方法が実行可能であり、結果も合理的である。
【0059】
[その他の成分]
本発明のAIE蛍光プローブ組成物には、プローブ化合物である疎水性AIE分子と、助剤である特定の有機溶媒以外、そのAIE効果に影響を与えない限り、さらにその他の成分、例えば安定剤、防腐剤などの添加剤を含むことができる。
【0060】
その他の成分を含む場合に、その他の成分の合計含有量は、AIE蛍光プローブ組成物の全量に対して5質量%よりも低いことが好ましく、1質量%よりも低いことがより好ましい。
【0061】
本発明において、AIE蛍光プローブ組成物における助剤及びプローブ化合物の含有量の割合は、適切なAIE強度に達することができる限り、特に限定されない。AIE蛍光プローブ組成物全体に対する助剤の含有量の割合は、40質量%~90質量%であることが好ましく、50質量%~80質量%であることがより好ましく、AIE蛍光プローブ組成物全体に対するプローブ化合物の含有量の割合は、10質量%~60質量%であることが好ましく、20質量%~50質量%であることがより好ましい。また、AIE蛍光プローブ組成物は、助剤とプローブ化合物のみを含んでもよい。
【0062】
本発明のAIE蛍光プローブ組成物において、プローブ化合物である疎水性AIE分子の濃度は、プローブ溶液の溶解性、貯蔵安定性及びAIE発光強度の観点から、500~2000μmol/Lであることが好ましく、600~1500μmol/Lであることがより好ましい。AIE蛍光プローブ組成物を測定される界面活性剤溶液に加えた後、界面活性剤溶液におけるプローブ化合物の濃度は、1~1000μmol/Lであることが好ましく、10~500μmol/Lであることが好ましい。
【0063】
本発明のプローブ組成物は、疎水性AIE分子をプローブ化合物として、特定の両親媒性構造を有する有機溶媒を助剤として採用することにより、安定的なプローブ溶液を形成することができ、また、助剤は、疎水性AIE分子に対して界面活性剤の混合ミセルに可溶化の効果を果たし、適切な濃度範囲内で顕著なAIE特性を示し、さらに、本発明のプローブ溶液は、試験試料に加えた後、溶媒を揮発することを必要とせずにcmcを正確に測定することができるため、実際のシーンでの使用の利便性を大幅に向上させ、AIE蛍光プローブの界面活性剤溶液のcmc濃度の測定における実際の応用需要を満たすことができる。
【0064】
(界面活性剤溶液のcmc測定方法)
本発明のような、疎水性AIE分子をプローブ分子として、特定の有機溶媒を助剤として含むAIE蛍光プローブ組成物を用いることにより、安定的なプローブ溶液の形態として界面活性剤溶液(洗浄剤溶液)のcmc濃度の測定に直接用いることができる。
【0065】
本発明のAIE蛍光プローブ組成物に含まれるのが電荷中性の疎水性AIE分子であり、誘導体化された親水性AIE分子と比較して電荷相互作用の干渉を受けにくいため、様々なタイプの界面活性剤に適用することができる。
【0066】
本発明の界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両親媒性界面活性剤の少なくとも1種を含むことができる。本発明の界面活性剤は、少なくともアニオン性界面活性剤及び/又は非イオン性界面活性剤を含むことがより好ましい。
【0067】
アニオン性界面活性剤の例としては、アルキル硫酸塩型、アルキルアルコールポリエーテル硫酸エステル塩型、アルキルカルボン酸塩型、アルキルスルホン酸塩型、リン酸塩型などの界面活性剤が挙げられる。
【0068】
非イオン性界面活性剤の例としては、アルキルグルコシド、アルキルアルコールエーテルグルコシド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミドなどが挙げられる。
【0069】
被測定溶液である界面活性剤溶液において、上記界面活性剤成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
また、界面活性剤溶液には、蛍光増白剤などが含まれてもよい。
【0071】
本発明の界面活性剤溶液の臨界ミセル濃度cmcの測定方法は、
複数の試料セルに漸増濃度を有する一連の界面活性剤の被測定溶液を調製する溶液調製ステップと、
前記複数の試料セルに一定量のプローブ溶液をそれぞれ添加するプローブ加えステップと、
各被測定溶液の蛍光強度を検出機構により検出する検出ステップと、
検出された各被測定溶液の蛍光強度の変化傾向に基づいて前記界面活性剤溶液のcmc濃度を決定する決定ステップと、を含み、
前記プローブ溶液は、本発明のAIE蛍光プローブ組成物であることを特徴とする。
【0072】
ヘキサフェニルシラシクロペンタジエン(HPS)をプローブ化合物として採用する場合、検出ステップにおいて、複数の試料セルにおける各被測定溶液の蛍光強度が低から高への突然の変化が発生し、最大の蛍光強度に達した後に徐々に弱くなることが発見され、そのため、決定ステップにおいて、検出された最大の蛍光強度に対応する試料セルにおける被測定溶液の濃度を前記界面活性剤溶液のcmc濃度とする。
【0073】
好ましくは、前記プローブ化合物の前記AIE蛍光プローブ組成物における濃度は、500~2000μmol/Lであり、また、前記プローブ化合物の前記界面活性剤溶液における濃度は、1~1000μmol/Lである。
【0074】
好ましくは、上記一連の界面活性剤の漸増濃度の範囲は、0~20g/Lであり、前記プローブ溶液は、前記界面活性剤の溶液に対する体積比で1:1000~100:1000の割合で添加される。
【0075】
上記方法により、複数の試料セルを有し、それぞれ一連の漸増濃度の界面活性剤を備えるため、各試料セルにおける蛍光の強弱を直感的に判定することができ、蛍光検出機器がなくても蛍光強度が最大の試料セルを肉眼で判定できることがあるため、界面活性剤溶液のcmc濃度を容易に測定することができる。
【0076】
また、複数の試料セルに代えて、1つの試料セルのみを採用してもよい。この時、当該試料セルに初期濃度の界面活性剤溶液を調製し、一定量の蛍光プローブを添加して混合液を形成し、当該混合液の蛍光強度を検出する。続いて、当該試料セルに所定回数で一定量の界面活性剤を追加し、追加した度に、混合液の蛍光強度をそれぞれ測定し、検出された蛍光強度の変化傾向に基づいて界面活性剤溶液のcmc濃度を決定する。当該測定方法では、1回のみのプローブの添加及び所定回数の界面活性剤の追加で済むため、試薬の使用量が減少し、コストが節約されるという利点を有する。
【0077】
(界面活性剤溶液のcmc測定装置)
本発明は、さらに界面活性剤溶液の臨界ミセル濃度cmcの測定装置を提供し、前記測定装置は、
漸増濃度を有する一連の界面活性剤の被測定溶液が調製された複数の試料セルと、
プローブ化合物を含むプローブ溶液が収容されたプローブ容器と、
前記プローブ容器から一定量のプローブ溶液を前記複数の試料セルに加えるための試料加え機構と、
前記複数の試料セルにおける前記被測定溶液の蛍光強度を検出するための検出機構と、
前記検出機構により検出された各被測定溶液の蛍光強度の変化傾向に基づいて前記界面活性剤溶液のcmc濃度を決定する決定機構と、を含み、
前記プローブ溶液は、本発明の上記AIE蛍光プローブ組成物であることを特徴とする。
【0078】
前記プローブ化合物は、HPS分子であることが好ましい。HPS分子を蛍光プローブとして採用する場合、検出された蛍光強度は、低から高への変化が発生し、cmc濃度に対応する試料セルにおいて最も強い蛍光強度が発生する。
【0079】
前記検出機構は、励起波長の範囲が275~375nmであり、且つ受信可能な波長範囲に少なくとも350~370nm又は720~740nmを含む蛍光センサであることが好ましく、前記界面活性剤溶液の350~370nm又は720~740nmの波長範囲における蛍光放出ピークのピーク強度の変化を検出することにより、蛍光強度の検出信号を出力する。
【0080】
(AIE蛍光プローブによるcmc判定方法)
本発明のAIE蛍光プローブ組成物の1つの応用分野は、スマートマーカーとして、洗浄機器における洗浄剤のスマート投入システムのオンライン判定に用いられる。
【0081】
現在の洗浄機器例えば自動投入洗濯機は、主に織物負荷の重量に応じて洗浄剤を添加し、スマートではなく、異なる洗浄剤に対する汎用性及び各洗浄シーンに対する活用性がいずれもよくなく、大きな改善の余地が存在する。洗濯機自動投入システムのスマート判定が解決しようとするマーカー問題について、目標が完全に洗浄し又は基本的に洗浄する点を指示することではなく、汚れ除去効率が最も良い点又はコストパフォーマンスが最も高い点を指示することである。
【0082】
本発明者らの検討により、界面活性剤成分を含む洗浄剤の濃度が臨界ミセルの濃度に達した後、その洗浄効果は、コストパフォーマンスが最適なバランス点に達したことが分かる。そのため、洗浄剤の水溶液がcmc濃度に達するか否かを洗浄剤のスマート投入の判定根拠として利用することができる。
【0083】
そのため、本発明は、AIE蛍光プローブによるcmc判定方法をさらに提供し、当該判定方法は、界面活性剤が臨界ミセル濃度cmcに達するか否かを判定するための判定方法であり、
水に初期量の界面活性剤を加え、撹拌を施し、被測定溶液を調製する溶液調製ステップと、
前記被測定溶液から少量を採取して試料セルに移すサンプリングステップと、
前記試料セルにAIE蛍光プローブを加え、微振動を施し、混合液を形成するプローブ加えステップと、
前記混合液の蛍光強度を蛍光検出器により検出し、検出信号Sを出力する検出ステップと、
前記検出信号Sの変化傾向に基づいて臨界ミセル濃度cmcに達するか否かを判定し、判定結果がイエスであれば、前記被測定溶液の濃度をcmc濃度として出力し、全てのステップを終了し、判定結果がノーであれば、前記試料セルを空にし、前記溶液調製ステップに戻り、前記被測定溶液に所定量の界面活性剤を追加し、次のサンプリングステップ、プローブ加えステップ、検出ステップ及び判定ステップを実行し続ける判定ステップと、を順に含み、
前記判定ステップにおいて、前記判定結果がノーであるが、前記溶液調製ステップにおける前記所定量の界面活性剤の追加回数が所定の閾値に達していれば、全てのステップを終了することを特徴とする。
【0084】
本発明のcmc判定方法で採用した界面活性剤溶液は、直接調製された洗浄剤の水溶液であってもよく、実際の機械洗浄用の洗浄機器における洗浄剤の水溶液であってもよい。上記洗浄剤の水溶液は、1種又は多種の界面活性剤成分を含む洗浄剤の水溶液であり、少なくともアニオン性界面活性剤及び/又は非イオン性界面活性剤を含む。
【0085】
本発明において、凝集誘起発光特性を有するAIE蛍光プローブをマーカーとして採用するため、感度の高くない通常の蛍光検出器を採用して洗浄剤の水溶液の蛍光強度を正確に測定し、蛍光強度を検出信号Sに変換することにより、cmcのオンライン判定及び洗浄剤の添加量のスマートな制御を実現することができる。
【0086】
本発明のcmc判定方法で採用したAIE蛍光プローブは、水溶性AIE分子を含む蛍光プローブ水溶液であってもよく、本発明の疎水性AIE分子及び助剤を含むAIE蛍光プローブ組成物であってもよい。コスト、適用性及び利便性の観点から、本発明のAIE蛍光プローブ組成物を採用することが好ましい。
【0087】
AIE蛍光プローブであるHPS分子を添加した洗浄剤の水溶液は、一定の濃度範囲内でいずれも肉眼で観察される緑黄色の蛍光があり、且つ蛍光強度がまず増加し、続いて顕著に弱くなる。直接調製した洗浄剤の水溶液の場合、肉眼で大まかに観察される最も強い蛍光強度に対応する濃度範囲は、0.1g/L~0.2g/L付近であり、洗浄剤の濃度>2g/Lである時に、蛍光強度が顕著に低下する。
【0088】
洗浄機器の自動制御を実現するためには、蛍光検出器により検出された混合液の蛍光強度を、特定の波長における蛍光強度Fに対応する電圧信号を検出信号Sとして出力し、後述する判定機構又は決定機構に出力する必要がある。
【0089】
閾値S0については、前述した界面活性剤溶液のcmc測定方法により、複数の試料セル又は単一の試料セルに漸増濃度を有する一連の界面活性剤の被測定溶液を予め調製し、検出された最大の蛍光強度に対応する検出信号Sを閾値S0として設定することができる。
【0090】
続いて、判定ステップにおいて、検出信号Sが予め設定された閾値S0以上であれば、判定結果は、イエス(洗浄剤の水溶液がcmc濃度に達している)であり、検出信号Sが前記閾値S0よりも低ければ、判定結果は、ノー(洗浄剤の水溶液がcmc濃度に達していない)である。
【0091】
しかし、実際の機械洗浄の洗浄機器における洗浄剤の水溶液のcmc濃度は、多方面の要因(例えば水温、織物重量など)に影響されるため、予め設定された閾値S0が実際のcmc濃度に対応しないことがあり、通常、実際の機械洗浄の洗浄剤水溶液の見かけcmc濃度は、上記閾値S0に対応するcmc濃度よりもはるかに大きい。この場合、実際の洗浄過程において少量ずつ洗浄剤を添加し、本発明のcmc判定方法により、洗浄剤水溶液の見かけcmc濃度をオンライン判定し、その結果により洗浄剤のスマートな添加を実現することが好ましく。
【0092】
2回以上実行した前記判定ステップにおいて、隣接する2回の前記検出信号SX、SYの差分の変化を観察することにより、前記界面活性剤の濃度が臨界ミセル濃度cmcに達するか否かを判定することが好ましい。
【0093】
より具体的には、前記隣接する2回の検出信号において、後の回の検出信号SYと前の回の検出信号SXとの差分SY-SXが0又は負の値になっていれば、前記判定結果は、イエス(洗浄剤の水溶液がcmc濃度に達している)であり、前記差分SY-SXが0よりも大きければ、前記判定結果は、ノー(洗浄剤の水溶液がcmc濃度に達していない)である。
【0094】
上記cmc判定方法を洗浄機器の実際の洗浄過程に応用する場合、判定ステップは、主に洗浄剤を追加する必要があるか否かを決定するために用いられる。第1回に洗浄剤を加えた後、洗浄機器は、洗浄を開始することができ、洗浄過程で複数回のサンプリング、判定を行うこともでき、全てのステップが終了した後に洗浄を開始することもできる。
【0095】
本発明のAIE蛍光プローブによるcmc判定方法において、凝集誘起発光特性を有するAIE蛍光プローブを採用するため、精密な器具を借りずに、通常の低感度の蛍光検出器を採用することができ、ひいては肉眼だけでAIE蛍光強度変化を認識することができるため、簡単で、高速で、効率的に洗浄剤の水溶液のcmcを決定することができ、洗浄業界において洗浄水溶液における洗浄剤の含有量をオンライン監視することに効果的に応用することができ、洗浄剤のスマート投入において実際の指導意義を有する。
【0096】
(AIE蛍光プローブによるcmc判定装置)
さらに、本発明は、AIE蛍光プローブによるcmc判定装置を提供し、前記AIE蛍光プローブによるcmc判定装置は、界面活性剤溶液が臨界ミセル濃度cmcに達するか否かを判定するための判定装置であり、界面活性剤の貯蔵機構、添加機構、サンプリング機構、試料セル、AIE蛍光プローブの貯蔵機構、試料加え機構、検出機構、cmc判定機構、及び決定機構を含み、ここで、以下の操作を順に実行し、
前記添加機構は、前記界面活性剤の貯蔵機構から一定量の界面活性剤を取り出して水と混合撹拌し、被測定溶液を調製し、
前記サンプリング機構は、前記被測定溶液から少量を取り出して前記試料セルに移し、
前記試料加え機構は、前記AIE蛍光プローブの貯蔵機構から微量のプローブ溶液を取り出して前記試料セルに加え、微振動を施し、混合液を形成し、
前記検出機構は、前記混合液の蛍光強度を検出し、得られた検出信号を前記cmc判定機構に伝送し、
前記cmc判定機構は、前記検出信号の変化傾向に基づいて臨界ミセル濃度cmcに達するか否かを判定し、
前記cmc判定機構の判定結果がイエスであれば、前記決定機構は、前記被測定溶液の濃度をcmc濃度として出力し、全ての操作を終了し、
前記cmc判定機構の判定結果がノーであり、且つ前記添加機構の実行回数が所定の閾値よりも低ければ、前記試料セルを空にし、前記添加機構は、前記被測定溶液に所定量の界面活性剤を追加し、次の操作を実行し続け、
前記cmc判定機構の判定結果がノーであり、且つ前記添加機構の実行回数が所定の閾値に達していれば、全ての操作を終了する。
【0097】
当該装置が採用したAIE蛍光プローブは、本発明の上記AIE蛍光プローブ組成物であることが好ましい。
【0098】
上記装置を実際の洗浄機器に応用する場合、前記cmc濃度を出力せず、cmc判定機構の判定結果のみに基づいて界面活性剤(洗浄剤)を追加するか否かを決定することができる。前記決定機構は、初回の検出操作が終了した後、又は全ての操作が終了した後に、洗浄機器に洗浄を開始させるように制御することができる。
【0099】
検出機構は、励起波長範囲が275~375nmであり、受信可能な放出波長範囲が350~750nmである蛍光センサであってもよく、励起波長範囲が275~375nmであり、受信可能な波長範囲に少なくとも350~370nm又は720~740nmを含む蛍光センサであることが好ましい。
【0100】
AIE蛍光プローブであるHPS分子は、365nm紫外光の励起で、主に350~370nmの範囲内での鋭くて強度の大きな蛍光ピークと、720~740nmの範囲内での相対的に強度の小さくて幅の低い蛍光ピークという2つの蛍光強度の放出ピークがあり、且つ実際の洗浄剤の水溶液(例えば、藍月亮社製の至尊潔浄洗浄剤及び至尊亮白洗浄剤)に含まれる蛍光増白剤(例えば、CBS)の放出ピークと重ならず、即ち、蛍光増白剤CBSの放出ピークが現れる400~550nmの波長範囲を避ける。このように、蛍光増白剤のcmc判定結果に対する干渉を回避することができる。
【0101】
本発明のAIE蛍光プローブによるcmc判定方法及び装置を採用することにより、実際に洗浄機器に運用し、cmcのオンライン検出、オンライン判定及び洗浄剤の自動添加を行うことができるため、洗浄機器の洗浄剤のスマート投入システムに応用することができる。
【実施例
【0102】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、その主旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されない。
【0103】
(実施例1)
<AIE蛍光プローブ組成物の調製>
プローブ化合物であるHPS(98%純度、分子量M=938)を、濃度が0.001mol/Lとなる方式で、助剤であるn-ブタノールに溶解し、プローブ溶液を調製した。
【0104】
<界面活性剤を含む被測定溶液の調製>
界面活性剤を含む被測定溶液としては、至尊潔浄洗浄剤B1-B10(商品名、藍月亮社製)を直接、それぞれ濃度が0.02g/L、0.05g/L、0.1g/L、0.2g/L、0.5g/L、1g/L、2g/L、5g/L、10g/L、20g/Lの一連の洗浄剤の水溶液に調製し、それぞれ150μLの上記プローブ溶液を5mLの上記洗浄剤の水溶液に加えて被測定溶液を調製し、被測定溶液におけるHPSプローブの濃度は、30μmol/Lであった。
【0105】
(参照例1)
プローブ溶液を加えなかったこと以外、実施例1と同様にして、参照例1の界面活性剤を含む被測定溶液を調製し、対照を行った。
【0106】
<蛍光強度の測定>
カスタマイズして組み立てられた蛍光検出器(光フィルターは、励起光フィルター(365nm)、ダイクロイックミラー、放出光フィルター(729nm)を含み、光源はピーク値の波長が365nmであり、波長域が300~400nmであり、動作電流が0.02Aであり、動作電圧が5Vである)を採用し、上記HPSプローブが添加された被測定溶液に対して蛍光検出を行い、蛍光発光の明るさ(発光強度が効果的な電圧の読み取り可能な表示数に変換される)に応じて蛍光強度を検出した。実施例1及び参照例1の結果を図2に示した。
【0107】
<洗浄剤の水溶液のcmc濃度の決定>
図2は、本発明のAIE蛍光プローブ組成物を上記直接調製した至尊潔浄洗浄剤の水溶液に添加した場合(実施例1、図中黒丸印)及び本発明のAIE蛍光プローブ組成物を添加しない場合(参照例1、図中黒四角印)の蛍光強度が濃度に従って変化することを示すグラフである。
【0108】
図2から分かるように、プローブ溶液を加えない場合、洗浄剤の水溶液の蛍光強度は、非常に低く、その強度が洗浄剤の濃度の増加に伴ってほとんど変化しない(参照例1)。
【0109】
これに対して、実施例1の本発明のプローブ溶液(HPS-n-ブタノール)を添加した洗浄剤の水溶液では、洗浄剤の水溶液の濃度が低い(cmcよりも低い)場合にも、一定強度の蛍光が観察された。これは、洗浄剤及びHPSプローブ分子を系に添加した後、洗浄剤における界面活性剤のアルキル鎖間の疎水性相互作用及びHPS分子間のπ-π相互作用の駆動で、HPS/界面活性剤の混合物が凝集を開始し、これらが規則的な構造又は複合の構造を形成し、分子内の動きを効果的に制限しており、それにより一定の凝集発光特性を示すからであると推測される。
【0110】
系における洗浄剤の水溶液の濃度がcmcに達するか又はcmc以上(10倍cmcよりも小さい)になると、界面活性剤分子が大量に自己集合してミセルを形成する。この時のミセルは、ボール状になることが多く、且つミセルの大きさ及び形状は、ほぼ変わらない。親水-疎水相互作用の駆動で、親油(疎水)のHPSプローブ分子は、助剤(n-ブタノール)の補助で、ボール状ミセルの疎水性コアに入って凝集し、0.1~2g/Lの濃度範囲内で蛍光強度が強いAIE特性を示す。図2の曲線のピーク値(最大の蛍光強度)に対応する被測定溶液の濃度は、0.1g/Lであるため、当該濃度を直接調製した洗浄剤の水溶液のcmc濃度と決定することができる。
【0111】
系における洗浄剤の水溶液の濃度が高すぎる(例えば10倍のcmc以上である)と、蛍光放出の強度が顕著に低下し、これは、過剰な界面活性剤の濃度でボール状ミセルがワーム状ミセル又は小胞などの異方性凝集体を形成し、HPSが異なる形状のミセル又は凝集体に分布され、HPS分子間のπ-π相互作用が破壊され、HPS分子内の動き制限が弱くなり、励起状態にある分子が回転振動形態により光エネルギーを熱エネルギーなどの形態で消費し、HPSの蛍光が弱くなるからであると考えられる。また、非ボール状のミセル凝集体の環境におけるHPSプローブの蛍光異方性の影響により、肉眼で観察される蛍光強度が顕著に弱くなる可能性があると推測される。
【0112】
また、上記至尊潔浄洗浄剤の水溶液のAIE蛍光強度の変化は、肉眼のみで認識することもできる。肉眼で見た蛍光強度が最も強い被測定溶液の濃度をcmc濃度として決定し、その観察結果は、上記蛍光検出器による測定結果と基本的に一致する。
【0113】
本発明のAIE蛍光プローブ組成物を採用したcmc測定結果の正確性をさらに検証するために、K100C表面張力計を用いて、実施例1で採用した至尊潔浄洗浄剤の水溶液に対してcmcを測定したところ、図3に示すような表面張力が濃度に従って変化するグラフを得る。
【0114】
図3における変化曲線をフィッティングすることにより、直接調製した至尊潔浄洗浄剤の水溶液のcmc≒0.09g/Lと推測され、本発明のAIE蛍光プローブ法による測定結果(0.1g/L)に近く、本発明のAIE蛍光プローブ組成物によるcmc測定方法が実行可能で有効であることを示す。
【0115】
(実施例2~6、比較例1~3、参照例2)
至尊潔浄洗浄剤B1-B10に代えて、蛍光増白剤CBSを含む至尊亮白洗浄剤A0-A10(商品名、藍月亮社製)を採用し、AIE蛍光プローブ組成物の組成を下記表2-1、表2-2のように変更したこと以外、実施例1と同様にして、実施例2~6、比較例1~3の被測定溶液を直接調製し、同様の測定を行った。
【0116】
また、プローブ溶液を加えなかった以外、実施例2と同様にして参照例2の被測定溶液を調製し、対照を行った。結果を表2-1、表2-2に示す。表中、電圧値についての欄における太字の数字は、最大の蛍光強度(ピーク値)に対応する電圧値を示す。
【0117】
【表2-1】
【0118】
【表2-2】
【0119】
表2-1、表2-2から分かるように、本発明の実施例2~6において、異なる助剤の種類を採用するにもかかわらず、最大の蛍光強度に対応する被測定溶液の濃度は、いずれも0.2g/Lである。そのため、当該濃度を直接調製した至尊亮白洗浄剤の水溶液のcmc濃度として決定することができる。
【0120】
さらに、実施例6に示すように、HPSをアセトンに予め溶解し、揮発して乾いた後にn-ブタノールを加えた場合でも、同様に、適切な濃度範囲内で安定的で顕著なAIE現象が生じ、且つcmc濃度付近で最大の蛍光強度を示す。
【0121】
これに対し、比較例1で採用した助剤分子(アミノメチルアセトン)におけるアルキル鎖の炭素原子数が本発明の一般式(1)の規定を満たさないため、0~20g/Lの濃度範囲内で顕著なAIE現象を示さない。
【0122】
比較例2では、n-ブタノールとアセトンとの混合溶媒を採用したが、アセトン自体は、本発明の一般式(1)の規定を満たしておらず、また、アセトンが混合溶媒における揮発度の不確定性により、被測定溶液の発光強度の変化傾向が不安定となり、cmc濃度を正確に測定することができなかった。この結果によると、プローブ溶液における揮発性溶媒が完全に揮発しないと、測定結果が不正確になることを示す。
【0123】
比較例3は、アセトンを助剤として直接採用し、アセトンが完全に揮発した後に測定を行った。実験結果から見ると、アセトンが完全に揮発した後に顕著なAIE現象を示したが、アセトンは、非常に揮発しやすいという特性から安定的なプローブ溶液を調製することができず、且つ測定過程で溶媒の揮発を待つ必要があるため、本発明のプローブ溶液としては適さず、本発明の範囲外となり、比較例となる。
【0124】
(実施例7)
<実際の機械洗浄の洗浄剤の水溶液の調製>
重量が2.5kgの衣類をドラム式洗濯機に入れ、13Lの水と1gの至尊潔浄洗浄剤B0-B10(商品名、藍月亮社製)を加えて撹拌し、続いて、洗濯機の洗濯中に一定量の洗浄剤を追加し続け、13Lの水に添加された洗浄剤の使用量は、それぞれ1g、2g、4g、8g、12g、16g、20g、24g、28g、32gとなり、対応する至尊潔浄洗浄剤の濃度は、それぞれ0.075g/L、0.15g/L、0.31g/L、0.62g/L、0.92g/L、1.23g/L、1.54g/L、1.85g/L、2.15g/L、2.46g/Lとなる。この一連の濃度の異なる洗浄剤を含む実際の機械洗浄の洗浄剤の水溶液を被測定溶液とし、ドラム式洗濯機から順次取り出した。
【0125】
実施例7において、実施例1で採用した直接調製した洗浄剤の水溶液に代えて、上記の実際の機械洗浄用の洗浄剤の水溶液を採用したこと以外、実施例1と同様にして蛍光強度の測定を行い、結果を図4に示した。
【0126】
図4は、本発明のAIE蛍光プローブ組成物(HPS-n-ブタノール)を実際の機械洗浄の至尊潔浄洗浄剤の水溶液に添加した時の蛍光強度が濃度に従って変化することを示すグラフである。
【0127】
図4に示すように、図2における変化傾向と同様に、洗浄剤の水溶液における洗浄剤の濃度が徐々に高くなることに伴い、各洗浄剤の水溶液の蛍光強度が低から高への突然の変化が発生し、最大の蛍光強度に達した後に徐々に弱くなるが、図2と異なるのは、曲線に現れるピーク値(最大の蛍光強度)に対応する洗浄剤の水溶液の濃度が0.62g/Lのことである。
【0128】
ここから確定されるように、実施例7に示す使用シーンでは、実際の機械洗浄用の洗浄剤の水溶液のcmc濃度は、0.62g/Lである。当該cmc濃度は、実施例1で採用した直接調製した洗浄剤の水溶液で測定したcmc濃度よりも高い。これは、実際の機械洗浄用の洗浄剤の水溶液に多量の衣類が含まれ、洗浄剤を一定程度に吸着するからであり、そのため、見かけcmc濃度が高くなり、この結果が合理的である。
【0129】
本発明のAIE蛍光プローブ組成物を採用したcmc測定結果の正確性をさらに検証するために、K100C表面張力計を用いて、実施例7で採用した実際の機械洗浄の至尊潔浄洗浄剤の水溶液に対してcmcを測定したところ、図5に示すような表面張力が濃度に従って変化するグラフを得る。
【0130】
図5中の変化曲線をフィッティングすることにより、実際の機械洗浄の至尊潔浄洗浄剤の水溶液のcmc≒0.7g/Lと推測され、本発明のAIE蛍光プローブ法による測定結果(0.62g/L)に近く、本発明のAIE蛍光プローブ組成物を採用したcmc測定方法が実行可能で有効であることを示す。
【0131】
上記実施例1~7の結果から明らかなように、本発明のAIE蛍光プローブ組成物は、安定的なプローブ溶液を形成することができ、直接調製や実際の機械洗浄で採用した洗浄剤の水溶液のいずれにも適用性があり、また洗浄剤の水溶液における蛍光増白剤の干渉を回避し、適切なcmc濃度範囲内でAIE特性を示すため、洗浄機器などの実際の用途に適用して洗浄剤の水溶液のcmc濃度を正確で容易に測定することができる。
【0132】
「産業上の利用可能性」
本発明のAIE蛍光プローブ組成物を採用することにより、高精度の試験器具を採用することを必要とせず、簡単に組み立てられた紫外可視光範囲内の蛍光検出器だけで界面活性剤溶液のcmc濃度に対するオンライン測定及びオンライン判定を実現することができ、工業化を容易にし、特に洗浄機器の洗浄剤のスマート添加システムにおいて重要な役割を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2024-01-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤溶液の臨界ミセル濃度cmcの測定用のプローブ溶液である凝集誘起発光(AIE蛍光プローブ組成物であって、
プローブ化合物及び助剤を含み、前記プローブ化合物は、疎水性AIE分子であり、前記助剤は、下記一般式(1)で表される少なくとも1種の有機溶媒であり、
(R)n-X (1)
ここで、Rは、炭素原子数が3~10の置換若しくは無置換の直鎖又は分岐アルキル基であり、nは、1又は2の整数であり、nが2である場合、2つのRは、同一でも異なってもよく、
Xは、水酸基、アミノ基、シアノ基、ハロゲン基、アミド基、カルボニル基、アルデヒド基、エステル基、及びエーテル基からなる群より選ばれるいずれかの極性基である、
ことを特徴とするAIE蛍光プローブ組成物。
【請求項2】
前記助剤の沸点は、70℃よりも大きい、
請求項1に記載のAIE蛍光プローブ組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)において、前記Rは、炭素原子数が3~6の無置換の直鎖又は分岐アルキル基であり、前記Xは、水酸基又はアミノ基から選ばれる、
請求項1に記載のAIE蛍光プローブ組成物。
【請求項4】
前記助剤は、n‐プロバノール、イソプロバノール、t-ブタノール、n-ブタノール、n-ブチルアミン、及びペンチルアミンからなる群より選ばれる1種以上である、
請求項1に記載のAIE蛍光プローブ組成物。
【請求項5】
前記助剤は、両親媒性構造を備え、分子中に前記極性基からなる親水領域と前記アルキル基からなる疎水領域を有し、前記プローブ化合物は、前記助剤における溶解性が水における溶解度よりも高い、
請求項1に記載のAIE蛍光プローブ組成物。
【請求項6】
前記助剤は、炭素原子数が3~6のアルキルアルコールであり、前記プローブ溶液の調製方法は、前記プローブ化合物を予めアセトンに溶解させ、続いてこれを揮発させて乾燥させ、最後に前記アルキルアルコールを加えることにより、前記AIE蛍光プローブ組成物を得る、
請求項1に記載のAIE蛍光プローブ組成物。
【請求項7】
前記プローブ化合物は、下記化学式1~12のいずれかで示される化合物を基本骨格として含む疎水性AIE分子である、
請求項1に記載のAIE蛍光プローブ組成物。
【化2】
【請求項8】
前記疎水性AIE分子は、前記化学式1で表される無置換のテトラフェニルエチレン(TPE)、前記化学式2で表される無置換のジスチリルアントラセン(DSA)、前記化学式7で表される無置換のヘキサフェニルシラシクロペンタジエン(HPS)、又は前記化学式10で表される無置換のベンゾペリレン(BP)である、
請求項7に記載のAIE蛍光プローブ組成物。
【請求項9】
前記界面活性剤溶液は、アニオン性界面活性剤及び/又は非イオン性界面活性剤を少なくとも含む、
請求項1に記載のAIE蛍光プローブ組成物。
【請求項10】
前記AIE蛍光プローブ組成物における前記プローブ化合物の濃度は、500~2000μmol/Lであり、前記界面活性剤溶液における前記プローブ化合物の濃度は、1~1000μmol/Lである、
請求項1に記載のAIE蛍光プローブ組成物。
【請求項11】
前記AIE蛍光プローブ組成物全体に対する前記助剤の含有量の割合は、70質量%~99質量%であり、前記AIE蛍光プローブ組成物全体に対する前記プローブ化合物の含有量の割合は、1質量%~30質量%である、
請求項1に記載のAIE蛍光プローブ組成物。
【請求項12】
界面活性剤溶液が臨界ミセル濃度cmcに達するか否かを判定するための判定方法であるAIE蛍光プローブによるcmc判定方法であって、
水に初期量の界面活性剤を加え、撹拌を施し、被測定溶液を調製する溶液調製ステップと、
前記被測定溶液から少量を採取して試料セルに移すサンプリングステップと、
前記試料セルにAIE蛍光プローブを加え、微振動を施し、混合液を形成するプローブ加えステップと、
前記混合液の蛍光強度を蛍光検出器により検出し、検出信号Sを出力する検出ステップと、
前記検出信号Sの変化傾向に基づいて臨界ミセル濃度cmcに達するか否かを判定し、判定結果がイエスであれば、前記被測定溶液の濃度をcmcとして出力し、全てのステップを終了し、判定結果がノーであれば、前記試料セルを空にし、前記溶液調製ステップに戻り、前記被測定溶液に所定量の界面活性剤を追加し、次のサンプリングステップ、プローブ加えステップ、検出ステップ及び判定ステップを実行し続ける判定ステップと、
を順に含み、
前記判定ステップにおいて、前記判定結果がノーであるが、前記溶液調製ステップにおける前記所定量の界面活性剤の追加回数が所定の閾値に達していれば、全てのステップを終了し、
前記AIE蛍光プローブは、請求項1~11のいずれか1項に記載のAIE蛍光プローブ組成物である、ことを特徴とするAIE蛍光プローブによるcmc判定方法。
【請求項13】
前記判定ステップにおいて、前記検出信号Sが予め設定された閾値S0以上であれば、判定結果はイエスであり、前記検出信号Sが前記閾値S0よりも低ければ、判定結果はノーである、
請求項12に記載のcmc判定方法。
【請求項14】
前記判定ステップにおいて、隣接する2回の検出ステップで得た検出信号において、後の回の検出信号SYと前の回の検出信号SXとの差分SY-SXが0又は負の値になっていれば、前記判定結果はイエスであり、前記差分SY-SXが0よりも大きければ、前記判定結果はノーである、
請求項12に記載のcmc判定方法。
【請求項15】
界面活性剤溶液が臨界ミセル濃度cmcに達するか否かを判定するための判定装置であり、界面活性剤の貯蔵機構、添加機構、サンプリング機構、試料セル、AIE蛍光プローブの貯蔵機構、試料加え機構、検出機構、cmc判定機構、及び決定機構を含むAIE蛍光プローブによるcmc判定装置であって、
前記添加機構は、前記界面活性剤の貯蔵機構から一定量の界面活性剤を取り出して、水と混合撹拌し、被測定溶液を調製するものであり
前記サンプリング機構は、前記被測定溶液から少量を取り出して前記試料セルに移すものであり
前記試料加え機構は、前記AIE蛍光プローブの貯蔵機構から微量のプローブ溶液を取り出して前記試料セルに加え、微振動を施し、混合液を形成するものであり
前記検出機構は、前記混合液の蛍光強度を検出し、得られた検出信号を前記cmc判定機構に伝送するものであり
前記cmc判定機構は、前記検出信号の変化傾向により臨界ミセル濃度cmcに達するか否かを判定するものであり
前記決定機構は、前記cmc判定機構の判定結果がイエスであれば、前記被測定溶液の濃度をcmcとして出力し、全ての操作を終了するようにし、或いは
前記cmc判定機構の判定結果がノーであり、且つ前記添加機構の実行回数が所定の閾値よりも低ければ、前記試料セルを空にし、前記添加機構、前記被測定溶液に所定量の界面活性剤を追加し、次の操作を実行し続けるようにし又は、
前記cmc判定機構の判定結果がノーであり、且つ前記添加機構の実行回数が所定の閾値に達していれば、全ての操作を終了するようにするものであり
前記AIE蛍光プローブは、請求項1~11のいずれか1項に記載のAIE蛍光プローブ組成物である、ことを特徴とするAIE蛍光プローブによるcmc判定装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0103
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0103】
(実施例1)
<AIE蛍光プローブ組成物の調製>
プローブ化合物であるHPS(98%純度、分子量M=538.7)を、濃度が0.001mol/Lとなる方式で、助剤であるn-ブタノールに溶解し、プローブ溶液を調製した。
【国際調査報告】