(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-17
(54)【発明の名称】液滴ベースのシステムにおいて電圧を印加するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/87 20060101AFI20240709BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20240709BHJP
B01J 19/08 20060101ALI20240709BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240709BHJP
C12M 1/42 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C12N15/87 Z
B01J19/00 321
B01J19/08 A
C12M1/00 A
C12M1/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518954
(86)(22)【出願日】2022-06-03
(85)【翻訳文提出日】2023-12-27
(86)【国際出願番号】 US2022032083
(87)【国際公開番号】W WO2022256604
(87)【国際公開日】2022-12-08
(32)【優先日】2021-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523456445
【氏名又は名称】ドロップジーニー,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】シー,スティーブ
(72)【発明者】
【氏名】ヒルカワ,アリソン
(72)【発明者】
【氏名】リトル,サムエル
【テーマコード(参考)】
4B029
4G075
【Fターム(参考)】
4B029AA24
4B029BB01
4G075AA13
4G075AA27
4G075AA65
4G075BA08
4G075BA10
4G075BB05
4G075BD15
4G075CA13
4G075DA02
4G075DA03
4G075DA18
4G075EB50
4G075EC21
4G075FA12
4G075FB02
4G075FB06
4G075FC11
(57)【要約】
本開示は、一般に、たとえばエレクトロポレーションを引き起こすために、液滴ベースのシステムに電圧または電流を印加するためのシステムおよび方法に関する。たとえば、いくつかの実施形態は、標的液滴と物理的に接触および/またはイオン連通している他の液滴を介して標的液滴に電圧または電流を印加することに向けられる。場合によっては、液滴は、デバイス内の画素を用いるデジタルマイクロ流体(DMF)デバイスによって存在してよく、または制御され得る。たとえば、1または複数の液滴は、DMFデバイス内の画素によって画定されてよく、そのような電圧または電流を印加するための電極は、特定の画素内または画素付近に存在してよい。他の実施形態は、一般に、たとえば細胞をエレクトロポレーションするためにそのようなシステムを製造または使用するための方法、そのようなシステムを含むキットなどに向けられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極とイオン連通している第1の流体液滴および第2の電極とイオン連通している第2の流体液滴に標的流体液滴を接触させることと、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加することと
を備える方法。
【請求項2】
前記第1の流体液滴は、前記第1の電極と物理的に接触している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の流体液滴は、前記第2の電極と物理的に接触している、請求項1または2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の流体液滴は、前記第1の流体液滴と前記第1の電極との間の少なくとも1つの介在する流体液滴を通って延びるイオン連通経路を介して前記第1の電極とイオン連通している、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の流体液滴は、前記第2の流体液滴と前記第2の電極との間の少なくとも1つの介在する流体液滴を通って延びるイオン連通経路を介して前記第2の電極とイオン連通している、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記標的流体液滴、前記第1の流体液滴、および前記第2の流体液滴の各々は、デジタルマイクロ流体デバイス上に存在する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記標的流体液滴、前記第1の流体液滴、および前記第2の流体液滴の各々は、前記デジタルマイクロ流体デバイス上の画素によって画定される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記標的流体液滴は、1または複数の細胞を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記印加電圧は、少なくとも、前記標的流体液滴を前記第1の流体液滴および/または前記第2の流体液滴と融合させるために十分である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記印加電圧は、少なくとも、前記標的流体液滴内の前記1または複数の細胞をエレクトロポレーションするために十分である、請求項8または9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記1または複数の細胞のエレクトロポレーションの後、前記1または複数の細胞に分子を挿入することを更に備える、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記挿入された分子は核酸を備える、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記核酸はリボ核酸を備える、請求項11または12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記リボ核酸はsgRNAを備える、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記リボ核酸はガイドRNAを備える、請求項13または14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の電極と前記第2の電極との間に10V以上の電圧を印加することを備える、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の電極と前記第2の電極との間に50V以上の電圧を印加することを備える、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の電極と前記第2の電極との間に100V以上の電圧を印加することを備える、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記第1の電極と前記第2の電極との間に1kV以下の電圧を印加することを備える、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記第1の電極と前記第2の電極との間に500V以下の電圧を印加することを備える、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記標的流体液滴は、前記第1の電極と前記第2の電極との間に前記電圧が印加されると、50V以上の電圧を受ける、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記標的流体液滴は、前記第1の電極と前記第2の電極との間に前記電圧が印加されると、100V以上の電圧を受ける、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記標的流体液滴は、前記第1の電極と前記第2の電極との間に前記電圧が印加されると、500V以上の電圧を受ける、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記標的流体液滴は、前記第1の電極と前記第2の電極との間に前記電圧が印加されると、10kV/cm以上の電圧勾配を経験する、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記第1の流体液滴は、1S/m以上のイオン導電率を有する、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記第2の流体液滴は、1S/m以上のイオン導電率を有する、請求項1~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記標的流体液滴は、500mS/m以下のイオン導電率を有する、請求項1~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記第1の流体液滴の前記導電率は、前記標的流体液滴の前記導電率よりも大きい、請求項1~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記第1の流体液滴の前記導電率は、前記第2の流体液滴の前記導電率と実質的に等しい、請求項1~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記標的流体液滴は、前記第1の流体液滴または前記第2の流体液滴と実質的に同じ体積を有する、請求項1~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記標的流体液滴は、前記第1の流体液滴または前記第2の流体液滴よりも大きな体積を有する、請求項1~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記第1の電極および前記第2の電極は共通の基板にある、請求項1~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記第1の電極は第1の基板にあり、前記第2の電極は第2の基板にある、請求項1~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記第1の電極は第1の界面を有し、前記第2の電極は第2の界面を有する、請求項1~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記第1の界面は円形である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記第1の界面は非円形である、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記第1の界面および前記第2の界面は実質的に同じ形状を有する、請求項34~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記第1の界面および前記第2の界面は実質的に異なる形状を有する、請求項34~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記電圧の印加後、前記標的流体液滴を前記第1の流体液滴および前記第2の流体液滴から離れる方向に移動することを更に備える、請求項1~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
第2の標的液滴を、前記第1の電極とイオン連通している前記第1の流体液滴および前記第2の電極とイオン連通している前記第2の流体液滴に接触するように移動し、その後、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加することを更に備える、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記第1の電極と前記第2の電極との間に第1の電圧パルスとして前記電圧を印加することを備え、前記第1の電圧パルスの印加後、前記第1の電極と前記第2の電極との間に第2の電圧パルスを印加することを更に備える、請求項1~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
標的流体液滴に、各々が前記流体液滴に接触している第1の流体液滴および第2の流体液滴を用いて10V以上の電圧を印加すること
を備える方法。
【請求項43】
前記標的流体液滴、前記第1の流体液滴、および前記第2の流体液滴の各々は、デジタルマイクロ流体デバイス上に存在する、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記標的流体液滴、前記第1の流体液滴、および前記第2の流体液滴の各々は、前記デジタルマイクロ流体デバイス上の画素によって画定される、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記印加電圧は、少なくとも、前記標的流体液滴を前記第1の流体液滴および/または前記第2の流体液滴と融合させるために十分である、請求項42~44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記標的流体液滴は、1または複数の細胞を含む、請求項42~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記印加電圧は、少なくとも、前記標的流体液滴内の前記1または複数の細胞をエレクトロポレーションするために十分である、請求項25に記載の方法。
【請求項48】
前記1または複数の細胞のエレクトロポレーションの後、前記1または複数の細胞に分子を挿入することを更に備える、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記挿入された分子は核酸を備える、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記核酸はリボ核酸を備える、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記リボ核酸はsgRNAを備える、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記リボ核酸はガイドRNAを備える、請求項50または51のいずれか1項に記載の方法。
【請求項53】
前記標的流体液滴に100V以上の電圧を印加することを備える、請求項42~52のいずれか1項に記載の方法。
【請求項54】
前記標的流体液滴に1kV以下の電圧を印加することを備える、請求項42~53のいずれか1項に記載の方法。
【請求項55】
前記標的流体液滴は、前記第1の流体液滴または前記第2の流体液滴と実質的に同じ体積を有する、請求項42~54のいずれか1項に記載の方法。
【請求項56】
前記標的流体液滴は、前記第1の流体液滴または前記第2の流体液滴よりも大きな体積を有する、請求項42~55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
前記電圧の印加後、前記標的流体液滴を前記第1の流体液滴および前記第2の流体液滴から離れる方向に移動することを更に備える、請求項42~56のいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
第1の画素、第2の画素、および前記第1の画素と前記第2の画素との間の少なくとも1つの画素を含む複数の画素と、
前記第1の画素と接触している第1の電極と、
前記第2の画素との接触している第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に10V以上の電圧を生成することが可能な電圧発生器と
を備えるデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項59】
前記第1の画素、前記第2の画素、および前記少なくとも1つの画素はコリニアである、請求項58に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項60】
前記第1の画素、前記第2の画素、および前記少なくとも1つの画素はコリニアではない、請求項58に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項61】
前記第2の電極は、前記第1の電極から40マイクロメートル以上離れている、請求項58~60のいずれか1項に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項62】
前記第2の電極は、前記第1の電極から100マイクロメートル以上離れている、請求項58~61のいずれか1項に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項63】
前記第2の電極は、前記第1の電極から1mm以上離れている、請求項58~62のいずれか1項に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項64】
前記第2の電極は、前記第1の電極から1cm以上離れている、請求項58~63のいずれか1項に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項65】
前記第1の電極および前記第2の電極は共通の基板にある、請求項58~64のいずれか1項に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項66】
前記第1の電極は第1の基板にあり、前記第2の電極は第2の基板にある、請求項58~64のいずれか1項に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項67】
前記第1の電極は第1の界面を有し、前記第2の電極は第2の界面を有する、請求項58~66のいずれか1項に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項68】
前記第1の界面は円形である、請求項67に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項69】
前記第1の界面は非円形である、請求項67に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項70】
前記第1の界面および前記第2の界面は実質的に同じ形状を有する、請求項67~69のいずれか1項に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項71】
前記第1の界面および前記第2の界面は実質的に異なる形状を有する、請求項67~69のいずれか1項に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項72】
前記電圧発生器は、50V以上の電圧を生成することが可能である、請求項58~71のいずれか1項に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項73】
第1の電極と、
前記第1の電極から10マイクロメートル以上離れた第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に10V以上の電圧を生成することが可能な電圧発生器と
を備えるデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項74】
前記第2の電極は、前記第1の電極から40マイクロメートル以上離れている、請求項73に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項75】
前記第2の電極は、前記第1の電極から100マイクロメートル以上離れている、請求項73または74のいずれか1項に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項76】
前記第2の電極は、前記第1の電極から1mm以上離れている、請求項73~75のいずれか1項に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項77】
前記第2の電極は、前記第1の電極から1cm以上離れている、請求項73~76のいずれか1項に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項78】
前記第1の電極および前記第2の電極は共通の基板にある、請求項73~77のいずれか1項に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項79】
前記第1の電極は第1の基板にあり、前記第2の電極は第2の基板にある、請求項73~77のいずれか1項に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項80】
前記第1の電極は第1の界面を有し、前記第2の電極は第2の界面を有する、請求項73~79のいずれか1項に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項81】
前記第1の界面は円形である、請求項80に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項82】
前記第1の界面は非円形である、請求項80に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項83】
前記第1の界面および前記第2の界面は実質的に同じ形状を有する、請求項80~82のいずれか1項に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項84】
前記第1の界面および前記第2の界面は実質的に異なる形状を有する、請求項80~82のいずれか1項に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項85】
前記電圧発生器は、50V以上の電圧を生成することが可能である、請求項73~84のいずれか1項に記載のデジタルマイクロ流体デバイス。
【請求項86】
第1の電極を包囲する第1のイオン封じ込めシステムと、
第2の電極を包囲する第2のイオン封じ込めシステムと、
前記第1の電極および前記第2の電極と電気連通している標的流体液滴と
を備え、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧が印加されると、前記第1の電極および前記第2の電極の各々に生じたイオンは、前記それぞれの第1および第2のイオン封じ込めシステム内に封じ込められる、エレクトロポレーションシステム。
【請求項87】
前記エレクトロポレーションシステムは、デジタルマイクロ流体デバイスである、請求項86に記載のエレクトロポレーションシステム。
【請求項88】
前記第1のイオン封じ込めシステムは、前記第1の電極を包囲する第1の流体液滴を備える、請求項86または87のいずれか1項に記載のエレクトロポレーションシステム。
【請求項89】
前記第2のイオン封じ込めシステムは、前記第2の電極を包囲する第2の流体液滴を備える、請求項86~88のいずれか1項に記載のエレクトロポレーションシステム。
【請求項90】
前記標的流体液滴は、1または複数の細胞を含む、請求項86~89のいずれか1項に記載のエレクトロポレーションシステム。
【請求項91】
前記第1のイオン封じ込めシステムは、1S/m以上のイオン導電率を有する、請求項86~90のいずれか1項に記載のエレクトロポレーションシステム。
【請求項92】
前記第2のイオン封じ込めシステムは、1S/m以上のイオン導電率を有する、請求項86~91のいずれか1項に記載のエレクトロポレーションシステム。
【請求項93】
前記標的流体液滴は、500mS/m以下のイオン導電率を有する、請求項86~92のいずれか1項に記載のエレクトロポレーションシステム。
【請求項94】
前記標的流体液滴の前記導電率は、前記第1および第2のイオン封じ込めシステムの前記導電率よりも小さい、請求項86~93のいずれか1項に記載のエレクトロポレーションシステム。
【請求項95】
前記第1のイオン封じ込めシステムの前記導電率は、前記第2のイオン封じ込めシステムの前記導電率と実質的に等しい、請求項86~94のいずれか1項に記載のエレクトロポレーションシステム。
【請求項96】
前記第1の電極および前記第2の電極は共通の基板にある、請求項86~95のいずれか1項に記載のエレクトロポレーションシステム。
【請求項97】
前記第1の電極は第1の基板にあり、前記第2の電極は第2の基板にある、請求項86~95のいずれか1項に記載のエレクトロポレーションシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる、2021年6月4日出願のShih他による“Systems and Methods for Applying Voltages within Droplet-Based Systems”と題された米国仮特許出願第63/197,202号の利益を主張するものである。
【0002】
本開示は、一般に、液滴ベースのシステムに電圧または電流を印加するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
エレクトロポレーションは、細胞膜の透過率を高めるために細胞に電界を印加する技術であり、たとえば細胞のトランスフェクションを目的としてDNAなどの物質を細胞の内外に輸送するために使用され得る。典型的には、細胞は、側面に電極を有するエレクトロポレーションキュベットに収容された溶液に懸濁され、その後、キュベット側面の電極に比較的高い電圧(たとえば数千ボルト)が印加され、細胞をエレクトロポレーションする電圧降下が溶液全体に生じる。しかし、そのような高電圧を生成するプロセス中に、電極にイオンおよび他の化学的副産物が生じ、これが、エレクトロポレーション中の細胞を汚染し、死滅させることもある。したがって、エレクトロポレーション技術における改善が必要である。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、一般に、液滴ベースのシステムに電圧または電流を印加するためのシステムおよび方法に関する。本開示の主題事項は、場合によっては、相互関連する製品、特定の問題に対する代替解決策、および/または、1または複数のシステムおよび/または物品の複数の異なる用途を含む。
【0005】
本開示の一態様は、一般に、デジタルマイクロ流体デバイスに向けられる。1つの実施形態セットにおいて、このデバイスは、第1の画素、第2の画素、および第1の画素と第2の画素との間の少なくとも1つの画素を含む複数の画素と、第1の画素と接触している第1の電極と、第2の画素と接触している第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に10V以上の電圧を生成することが可能な電圧発生器とを備える。
【0006】
別の実施形態セットにおいて、デバイスは、第1の電極と、第1の電極から10マイクロメートル以上離れている第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に10V以上の電圧を生成することが可能な電圧発生器とを備える。
【0007】
本開示の別の態様は、一般に、エレクトロポレーションシステムに向けられる。このシステムは、いくつかの実施形態において、第1の電極を包囲する第1のイオン封じ込めシステムと、第2の電極を包囲する第2のイオン封じ込めシステムと、第1の電極および第2の電極と電気連通している標的流体液滴とを備える。特定の実施形態において、第1の電極と第2の電極との間に電圧が印加されると、第1の電極および第2の電極の各々に生じたイオンは、それぞれの第1および第2のイオン封じ込めシステム内に封じ込められる。
【0008】
本開示のまた別の態様は、一般に、方法に向けられる。1つの実施形態セットにおいて、この方法は、第1の電極とイオン連通している第1の流体液滴および第2の電極とイオン連通している第2の流体液滴に標的流体液滴を接触させることと、第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加することとを備える。
【0009】
別の実施形態セットにおいて、方法は、各々が流体液滴と接触している第1の流体液滴および第2の流体液滴を用いて標的流体液滴に10V以上の電圧を印加することを備える。
【0010】
また別の実施形態セットにおいて、方法は、第1の流体を含む第1の液滴と、第2の流体を含む第2の液滴とを併合し、併合した液滴に電圧を印加することを備える。
【0011】
別の態様において、本開示は、本明細書で説明される実施形態の1または複数、たとえばエレクトロポレーションを適用するためのデジタルマイクロ流体デバイスなどのデバイスを製造する方法を含む。また別の態様において、本開示は、本明細書で説明される実施形態の1または複数、たとえばエレクトロポレーションを適用するためのデジタルマイクロ流体デバイスなどのデバイスを使用する方法を含む。
【0012】
本開示の他の利点および新規の特徴は、添付図面と併せて考慮すると、以下に示す本開示の様々な非限定的な実施形態の詳細な説明から明らかになる。
【0013】
本開示の非限定的な実施形態は、添付図面を参照して例示的に説明され、添付図面は、概略的であり、縮尺通りに描かれることが意図されていない。図において、図示された同一またはほぼ同一の構成要素の各々は、通常、単一の番号によって表される。明確性のために、全ての構成要素が全ての図で表示されるわけではなく、当業者が本開示を理解するために図示が必要でない場合、本開示の各実施形態の全ての構成要素が表示されるわけでもない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】標的液滴に電圧を印加するための特定の実施形態を示す。
【
図2】標的液滴に電圧を印加するための特定の実施形態を示す。
【
図3】標的液滴に電圧を印加するための特定の実施形態を示す。
【
図4】標的液滴が2つの層の間に存在する様々な実施形態を示す。
【
図5】標的液滴が2つの層の間に存在する様々な実施形態を示す。
【
図6】標的液滴が2つの層の間に存在する様々な実施形態を示す。
【
図7】特定の液滴を用いて標的液滴に電圧を印加するための特定の実施形態を示す。
【
図8】特定の液滴を用いて標的液滴に電圧を印加するための特定の実施形態を示す。
【
図9】また別の実施形態に従って、2つの他の液滴に隣接する標的液滴における電界分布を示す。
【
図12】また別の実施形態における、電圧の関数としての効率を示す。
【
図14】別の実施形態における、3つの液滴を用いたペイロード試験を示す。
【
図15】また別の実施形態における、3つの液滴を用いたペイロード試験を示す。
【
図16】
図16A~
図16C。別の実施形態における、3つの液滴でのエレクトロポレーションを用いた細胞集団における効率および生存率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、一般に、たとえばエレクトロポレーションを引き起こすために、液滴ベースのシステムに電圧または電流を印加するためのシステムおよび方法に関する。たとえば、いくつかの実施形態は、標的液滴と物理的に接触および/またはイオン連通している他の液滴を介して、標的液滴に電圧または電流を印加することに向けられる。これは、たとえば電圧を印加する電極からの汚染を防止または軽減するために使用され得る。場合によっては、液滴は、デバイス内の画素を用いてデジタルマイクロ流体(DMF)デバイスによって存在し、または制御され得る。たとえば、1または複数の液滴は、DMFデバイス内の画素によって画定されてよく、そのような電圧または電流を印加するための電極は、特定の画素内またはその付近に存在し得る。他の実施形態は、一般に、たとえば細胞をエレクトロポレーションするためにそのようなシステムを製造または使用するための方法、そのようなシステムを含むキットなどに向けられる。
【0016】
本開示の一態様は、一般に、たとえば遺伝子編集を目的として、エレクトロポレーションを介して、たとえば生体分子(CRISPR関連リボ核タンパク質、gRNAやCas9などの遺伝子、または本明細書で説明される他の分子など)などの分子を生細胞に挿入するためのデバイスおよび方法に向けられる。場合によっては、高い生存率および/または高い輸送効率が実現され得る。いくつかの実施形態によると、細胞は、比較的均質な電界に晒されながら、エレクトロポレーションによる有害な副産物から隔離され得る。また、特定の実施形態において、細胞は、たとえばエレクトロポレーションの後、比較的迅速に回収緩衝液に移動され得る。1つの実施形態セットにおいて、低い電圧または多様な細胞量が使用され得る。たとえば、場合によっては、より少量の細胞を使用することができる。
【0017】
加えて、本明細書で説明される特定の態様は、一般に、標的液滴と物理的に接触またはイオン連通している他の液滴を用いて、標的液滴に電圧または電流を印加するためのシステムおよび方法に向けられる。標的液滴は、たとえば電圧または電流が印加される細胞や他のエンティティを含んでよい。これはたとえば、液滴中の細胞にエレクトロポレーションを発生させるため(たとえばDNAなどの物質を細胞内に輸送させるため)、または本明細書で説明されるような他の用途のために有用であり得る。
【0018】
ここで、
図1を参照して、そのようなデバイスの1つの非限定的な例が説明される。以下で更に詳しく説明するように、他の実施形態において、他の構成も使用され得る。
図1において、デバイス10は、標的液滴15に電圧を印加するために使用される。電圧は、たとえば電気パルス発生器、または別の種類の発生器(たとえば電流発生器)であってよい電圧発生器30を用いて生成される。この例では電圧発生器30によって生成された電圧は、その後、電極21および22を介して標的液滴15に印加される。電極21は液滴11と接触しており、電極22は液滴12と接触しており、液滴11および12の各々は標的液滴15と接触している。そのようなシステムにおいて、電極21から電極22へ(またはその逆に)電流が流れることが可能なイオン連通経路が形成される。したがって、電圧発生器30から生成された電圧(または電流)は、電極21および22を介して液滴11、12、および15を流れる。これらの液滴中で、電流の流れを引き起こす電荷キャリアは、電子ではなくイオンが優勢であることを理解すべきである。したがって、
図1において、標的液滴15は液滴11および12を介して電極21および22とイオン連通しており、イオンは、液滴11および12を流れる電荷キャリアとして作用する。
【0019】
ただし、
図1は、標的液滴が電極とイオン連通することを可能にする、標的液滴および2つの追加の液滴を有する状況を示すが、これは例示にすぎず、他の実施形態では、より多いまたは少ない数の液滴および/または電極または他のデバイス構成が使用され得ることを理解すべきである。たとえば、電極と標的液滴との間には、1、2、3、4、または他の任意の適切な数の液滴があってよい。たとえば電極とのイオン連通経路を生成するために、標的液滴の両側に同じ数または異なる数の液滴が存在してもよい。これらの実施形態および他の実施形態の例は、以下で更に詳しく説明される。また、複数の標的液滴が、たとえば連続的および/または同時に操作され得る。たとえば特定の実施形態において、電極ペアおよび/または複数の電極ペアと連通している2つ以上の標的液滴が存在してよい。したがって、より一般的には、本開示の様々な態様は、標的液滴に電圧または電流を印加するための様々なシステムおよび方法に向けられており、必ずしも
図1に示すものに限定されない。
【0020】
たとえば、本開示の一態様は、一般に、1または複数の標的液滴に比較的高い電圧を印加するためのシステムおよび方法に向けられる。標的液滴が受ける電圧は、たとえば1V以上、2V以上、3V以上、5V以上、10V以上、20V以上、30V以上、50V以上、100V以上、200V以上、300V以上、500V以上、1kV以上などであってよい。場合によっては、電圧は、1kV以下、500V以下、300V以下、200V以下、100V以下、50V以下、30V以下、20V以下、10V以下、5V以下、3V以下、2V以下、1V以下などであってよい。これらのいずれかの組み合わせも特定の実施形態において可能であり、たとえば、標的液滴が受ける電圧は、50V~200V、500V~1kV、10V~20Vなどであってよい。電圧は、電圧発生器または電圧源を用いて生成され得る。そのような電圧は連続的であってよく、および/または、たとえば電気パルス発生器を用いて電気パルスとして印加されてもよい。当業者は、使用され得る様々な電圧源を認識しており、その一部は市販されている。また、本開示は電圧源のみに限定されず、特定の実施形態において電流源が使用され得ることを理解すべきである。
【0021】
電圧は、多様な用途のために標的液滴に印加され得る。たとえば、1つの実施形態において、電圧は、たとえば液滴中の電圧感受性化合物(たとえばキノンなどの電圧感受性色素、たとえば2,5-ジメチル-1,4-ハイドロキノン)などのエンティティに関与する反応を引き起こすために印加される。別の非限定的な例として、標的液滴への電圧(または電流)の印加は、液滴を他の液滴と融合させ得る。いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、電圧または電流により、液滴の1または複数に電荷、たとえば正電荷および負電荷または双極子が形成され、これによって表面張力を克服し、液滴の一部または全部が互いに融合することを可能にし得ると考えられる。
【0022】
また別の例として、いくつかの実施形態において、電圧は、標的液滴内の細胞にエレクトロポレーションを発生させるために印加され得る。当業者に知られているように、エレクトロポレーションは一般に、細胞の内外へ材料を輸送させるために細胞に電圧を印加することを含む。これは、たとえば、たとえば核酸によって細胞をトランスフェクトするために細胞内に核酸を導入するために使用され得る。核酸の非限定的な例は、DNAまたはRNAを含む。それに応じて、(たとえばプラスミドに含まれる)多様な遺伝子が、たとえばgRNAおよびCas9に関するCRISPR遺伝子を用いる遺伝子編集などの様々な用途のために細胞内にトランスフェクトされ得る。トランスフェクトされ得る遺伝子の他の例は、線状DNA、環状DNA、天然由来または合成の核酸または核酸断片などを含むが、これらに限定されない。加えて、別の非限定的な例として、機能性核酸が細胞内に輸送されてよく、その例は、アプタマ、核酸酵素、アプタザイム、リボザイム、デオキシリボザイムなどを含むが、これらに限定されない。細胞の内外に輸送され得る他の物質は、タンパク質、ペプチド、ウイルス、ホルモン、薬剤、たとえば蛍光色素などの色素、(たとえば1kDa未満または2kDa未満の分子量を有する)小分子、荷電化合物、化学療法剤などを含むが、これらに限定されない。
【0023】
また、いくつかの実施形態において、たとえば標的液滴内の細胞に、より複雑なパルスレジームが適用され得る。非限定的な例として、1つの実施形態セットにおいて、たとえば細胞膜の孔の分布およびアライメントを最適化するために、液滴内の細胞に初期パルスが印加され、次に、細胞内への送達を引き起こすために、より高い電圧パルスが印加され得る。別の非限定的な例として、初期パルスは、標的液滴内の細胞を分散させるために、たとえば印加され得る後続のパルスまたは電界のために標的液滴内の細胞の分散を促すために標的液滴内の細胞に印加され得る。場合によっては他のパルスレジームも可能である。
【0024】
標的液滴は、電圧または電流が印加される様々なエンティティを含んでよい。たとえば、特定の適用例によると、電圧または電流は細胞に印加され得る。したがって、いくつかの実施形態において、標的液滴は、任意の数の細胞および/または細胞型を含んでよい。たとえば、細胞は、エレクトロポレーションのために、または他の用途のために標的化され得る。細胞は、いくつかの実施形態では付着性であってよい。たとえば細胞は、単離細胞、細胞集合体、または細胞培養物、細胞を含む組織構築物などの中にある細胞であってよい。細胞の非限定的な例は、不死細胞、一次細胞、幹細胞、生殖系列細胞、接合子、胚などを含む。細胞の追加の非限定的な例は、たとえば細菌や他の単細胞生物の微生物細胞、植物細胞、動物細胞などを含むが、これらに限定されない。細胞が動物細胞である場合、細胞はたとえば、無脊椎動物細胞(たとえばミバエの細胞)、魚類細胞(たとえばゼブラフィッシュ細胞)、両生類細胞(たとえばカエル細胞)、爬虫類細胞、鳥類細胞、または、ヒト、またはたとえばサル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウサギ、ブタ、マウス、ラット、イヌ、またはネコなどのヒト以外の哺乳類の哺乳類細胞であってよい。細胞が多細胞生物のものである場合、細胞は、生物のどの部分から得られてもよい。たとえば、細胞が動物のものである場合、細胞は、心臓細胞、線維芽細胞、角化細胞、肝細胞、軟骨細胞、神経細胞、骨細胞、骨芽細胞、筋肉細胞、血液細胞、内皮細胞、免疫細胞(たとえばT細胞、B細胞、マクロファージ、好中球、好塩基球、肥満細胞、好酸球)などであってよい。1つの実施形態セットにおいて、細胞は、哺乳類細胞を含む。別の実施形態セットにおいて、細胞は、非哺乳類細胞を含む。
【0025】
標的液滴は、単一の細胞型を含んでよく、または、たとえば同じまたは異なる種、同じまたは異なる生物などからの複数の細胞型を含んでもよい。場合によっては、標的液滴は、単一の細胞のみを含んでよい。ただし、他の場合には、(たとえば同じであってよく異なってもよい)複数の細胞が存在してよい。たとえば、液滴は、5以上、10以上、30以上、50以上、100以上、300以上、500以上、1,000以上、3,000以上、5,000以上、10,000以上、30,000以上、50,000以上、100,000以上、300,000以上、500,000以上、または1,000,000以上の細胞を有してよい。場合によっては、液滴は、1,000,000以下、500,000以下、300,000以下、100,000以下、50,000以下、30,000以下、10,000以下、5,000以下、3,000以下、1,000以下、500以下、300以下、100以下、50以下、30以下、10以下、または5以下の細胞を含んでよい。加えて、特定の実施形態において、液滴は、これらの範囲のいずれかの間の数の細胞を含んでよい。たとえば、標的液滴は、50,000~100,000の細胞、5~50の細胞、300~1,000の細胞などを含んでよい。
【0026】
エレクトロポレーションは、上述したように、従来、エレクトロポレーションキュベットを用いて行われる。しかしながら、そのような(典型的には12.5mmの幅を有する)キュベットにより、通常、比較的多数の細胞および比較的大きな体積サイズ(たとえば数百マイクロリットル)が必要とされる。対照的に、本明細書で説明されるように、いくつかの実施形態において、より少数の細胞および/またはより小さな体積を使用することが可能である。
【0027】
上述したように、特定の実施形態に従って、電圧または電流が標的液滴に印加され得る。標的液滴は、たとえば電圧が印加される標的であってよく、液滴は(たとえば細胞の少なくともいくつかにエレクトロポレーションを引き起こす、液滴融合を生じさせるなどのために)1または複数の細胞を含む。加えて、場合によっては、複数の効果が、たとえば連続的または同時に発生し得る。たとえば、標的液滴は、他の液滴と融合し、その後、エレクトロポレーションされ得る。
【0028】
場合によっては、たとえば電極間に標的液滴を含む複数の液滴が存在する場合、液滴は、電極間にイオン連通経路を形成する全ての液滴の中で標的液滴が最大の電圧降下を経験するように構成され得る。いくつかの実施形態において、経路内に単一の標的液滴が存在するが、特定の実施形態において、2、3、4、またはそれ以上の数の標的液滴が存在してよい。
【0029】
標的液滴は、電極と物理的に接触していてよく、または、標的液滴を電極に接続するイオン連通経路を形成する1または複数の他の液滴が存在してよい。経路は、イオンが一方の電極から他方の電極へ流れ、標的液滴を含む複数の液滴を通過することができるようなものであってよい。液滴の各々は、隣り合う液滴と物理的に接触していてよく、または、たとえば一方の電極から他方の電極へのイオン連通経路が存在するように、少なくとも隣り合う液滴とイオン連通するように配置され得る。
【0030】
イオン連通経路は、標的液滴および他の液滴を含む任意の数の液滴間を通過してよい。したがって、標的液滴と電極との間に任意の数の液滴が存在し、たとえば液滴の連鎖を形成してよく、液滴は、対称または非対称に配置され得る。たとえば、標的液滴と1つの電極との間に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または他の任意の数の液滴が存在してよく、標的液滴と別の電極との間に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または他の任意の数の液滴が存在してよい。加えて、液滴の数は、同じであっても異なってもよい。液滴は、電極間に直線状に配置され得るか、場合によっては、非直線状に配置され得る。また、場合によっては、電極間に、たとえば異なる液滴を通過する複数のイオン連通経路が存在してもよい。いくつかの実施形態において、たとえば標的液滴と直接、または1または複数の追加の液滴などを介してイオン連通している2より多い数の電極が存在してよい。
【0031】
非限定的な実例として、
図7および
図8は、電極91、92と標的液滴85との間の様々な液滴81、82を示す(上面図)。これらの液滴は、実施形態に依存して、直線状または非直線状に配置され得る。たとえば
図7において、液滴は、電極91と92との間の直線経路に存在するが、
図8において、液滴は、電極91と92との間の非直線経路に存在する。また、留意すべき点として、これらの図は、標的液滴85と電極91および92との間に1または複数の液滴が存在し得ることを示す。これらのような構成は、様々な技術を用いて実現され得る。たとえば、場合によっては、液滴は、電極間に手動で配置され得る。加えて、特定の実施形態において、電極間に液滴を配置するためにデジタルマイクロ流体デバイスが使用され得る。デジタルマイクロ流体デバイスは、以下で更に詳しく説明される。
【0032】
液滴(標的液滴および他の液滴を含む)は、任意の形状またはサイズであってよく、各々が独立して同じサイズまたは異なるサイズであってよい。たとえば、様々な実施形態において、液滴は、1cm未満、5mm未満、3mm未満、2mm未満、1mm未満、500マイクロメートル未満、300マイクロメートル未満、200マイクロメートル未満、100マイクロメートル未満、75マイクロメートル未満、50マイクロメートル未満、40マイクロメートル未満、30マイクロメートル未満、25マイクロメートル未満、20マイクロメートル未満、15マイクロメートル未満、10マイクロメートル未満、5マイクロメートル未満、3マイクロメートル未満、2マイクロメートル未満、1マイクロメートル未満などの平均径または特徴径を有してよい。液滴の平均径または特徴径は、1マイクロメートル以上、2マイクロメートル以上、3マイクロメートル以上、5マイクロメートル以上、10マイクロメートル以上、15マイクロメートル以上、20マイクロメートル以上、25マイクロメートル以上、30マイクロメートル以上、40マイクロメートル以上、50マイクロメートル以上、75マイクロメートル以上、100マイクロメートル以上、200マイクロメートル以上、300マイクロメートル以上、500マイクロメートル以上、1mm以上、2mm以上、3mm以上、5mm以上、10cm以上などであってもよい。上記のいずれかの組み合わせも可能である。たとえば、液滴は、40マイクロメートル~100マイクロメートル、50マイクロメートル~1mm、1mm~1cmなどの平均径または特徴径を有してよい。上述したように、複数の液滴(たとえば標的液滴、および標的液滴と接触またはイオン連通している1または複数の他の液滴)が存在する場合、液滴は、独立して、たとえば本明細書に記載されるもののいずれかを含む同じサイズまたは異なるサイズ、径、または体積などであってよい。たとえば、標的液滴は、他の液滴と実質的に同じ体積(たとえば体積で20%以内、10%以内、または5%以内)、または異なる体積を有してよい。たとえば、標的液滴は、他の液滴よりも大きく、または小さくてよい。
【0033】
液滴において、電荷キャリアは電子ではなくイオンが優勢であることを理解すべきである。したがって、たとえば液滴内または液滴間をイオンが流れ得ることにより、電極間に電気経路を生成するように、液滴は互いにイオン連通していると言える。特に、いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、電圧または電流が印加されると、一方の電極において電子がイオンに変換され、他方の電極においてイオンが電子に変換され電気化学反応が起こることにより、電荷キャリアの流れ(すなわち電流)が可能になり、電気回路が完成すると考えられる。
【0034】
しかしながら、電子流をイオン流に(またはその逆に)変換するプロセスは、通常、電気化学反応を伴い、それによって電極の付近に化学的副産物が生じることもある。非限定的な例として、水は、電極において以下のように反応し得る。
2H2O+2e-→H2(g)+2OH-
(aq)
2OH-
(aq)→1/2O2(g)+H2O(l)+2e-
この例では、第1の電極において電子が効果的にイオン(OH-)に変換され、第2の電極においてイオンが電子に変換される。しかし、そのような化学反応は、各電極の付近に、副産物の形成、pH変化などをもたらし得る。たとえば、この例では、たとえばH2やO2などの副産物が生成され得る。しかしながら、本明細書で説明されるように、電極で生成されるそのような化学的副産物は、電極を取り囲む液滴を用いて拘束され得るので、そのような化学反応の能力が標的液滴内に封じ込められた細胞または他のエンティティに影響を及ぼすことが防止または軽減される。たとえば、電極の一方または両方がそれぞれの液滴と接触していてよく、これを用いて電極によって生成される化学的副産物を封じ込めることにより、それらが標的液滴に到達することが防止され得る。
【0035】
上述したように、液滴中の電流は、通常、液滴中のイオン、たとえば上記例におけるOH
-によって搬送される。他のイオン(たとえばNa
+、K
+、Cl
-などのイオン性塩)が液滴中で同様に電荷を搬送してもよい。したがって、標的液滴は、電流が流れることが可能な経路を生成する1または複数の他の液滴を介して電極とイオン連通していてよい(イオンは、そのような液滴中で電荷キャリアとして作用する)。例示的で非限定的な例として、
図1において、標的液滴15は、液滴11および12を介して電極21および22とイオン連通しており、イオンは、液滴11および12中で電荷キャリアとして作用する。
【0036】
いくつかの実施形態において、電荷キャリアとして作用するイオンは、たとえば複数のイオンが存在し得ることによって正確に知られていないが、それにもかかわらず、そのようなイオン連通は、たとえば電気回路の液滴または他の部分を通過する電流として決定され得ることを理解すべきである。加えて、特定の実施形態において、液滴は、液滴間に比較的均等な界面が存在するように配置されてよく、これにより、電圧または電流が界面に沿って基本的には均等に印加されることが可能になり得る。
【0037】
典型的には、イオンを封じ込め電流経路として作用する流体は、ある程度の電気抵抗を有し、オームの法則(V=IR)に基づいて、そのような流体にわたる電圧降下は、電流と流体の抵抗との関数である。流体の抵抗は、たとえば(たとえば流体の組成に基づく)流体の電気抵抗率、イオンが流体を通って流れる必要がある長さまたは距離、流体経路の断面積などの要因によって制御され得る。本明細書で説明されるように、これらは、様々な実施形態において、標的液滴が受ける電圧を制御するために制御され得る。
【0038】
たとえば、1つの実施形態セットにおいて、標的液滴は、比較的高い抵抗率の媒体(または同等に比較的低い導電率の媒体)を有する流体を含んでよく、他の液滴は、比較的低い抵抗率の媒体(または同等に比較的高い導電率の媒体)を有する流体を含んでよい。(ただし、他の実施形態において、標的液滴の抵抗率は、他の液滴の抵抗率と実質的に等しい、またはそれより低くてもよいことを理解すべきである。)標的液滴を含む様々な液滴における電圧降下は、たとえば流体の組成、液滴の数、イオン連通経路の長さなどを制御することによって制御され得る。複数の液滴が存在する場合、液滴のサイズ、組成などは、独立して同じであっても異なってもよい。たとえば、異なる抵抗率または導電率を有する流体を有する液滴を用いることによって、液滴内でより小さなまたは大きな電圧が生成され得る。これは、たとえば、(たとえば液滴中の細胞にエレクトロポレーションを引き起こすために)標的液滴に大きな電圧降下を生じさせながら、他の(非標的)液滴に小さな電圧降下を生じさせ得るために有用であり得る。したがって、非限定的な例として、再び
図1を参照すると、標的液滴15は、比較的低い導電率の媒体を含んでよく、液滴11および12は、比較的高い導電率の媒体(同じであっても異なってもよい)を含んでよい。
【0039】
特定の実施形態において、複数の液滴、たとえば標的液滴と1または複数の他の液滴が存在する場合、液滴は、各々が独立して同じ組成または異なる組成を有してよい。これは、たとえば、上述したように(たとえば、異なる組成によって生じる異なる導電率または抵抗率を液滴が有することによって)異なる液滴において異なる電圧降下をもたらすため、または本明細書で説明されるもののいずれかを含む他の用途のために有用であり得る。1つの実施形態セットにおいて、特定の組成を有する、たとえば比較的高い導電率または比較的低い導電率を有する標的液滴または他の液滴がデバイスに添加されるか、または、たとえば所望の導電率を有する流体を作成するために他のストック流体を混合することによってデバイス上で作成され得る。たとえば、本明細書で更に詳しく説明されるように、デバイスはデジタルマイクロ流体デバイスであってよく、様々な液滴は、原料流体から直接作成されてよく、および/または、所望の組成または所望の導電率などの液滴を生成するために他の液滴を互いに組み合わせることによって作成されてもよい。場合によっては、たとえば、標的液滴は、他の液滴の抵抗率よりも大きい抵抗率、または他の液滴の導電率よりも低い導電率を有してよい。
【0040】
いくつかの実施形態において、液滴は、細胞に適した培地を含んでよく、たとえば液滴は、細胞培養培地、血清、または細胞の維持に適した他の種を含んでよい。細胞培養培地の非限定的な例は、DMEM、MEM、RPMI、PBSなどを含む。一例において、培地は、たとえば1または複数の塩を含む水性流体を含んでよい。別の非限定的な例として、液滴は、エレクトロポレーションに適した培地、たとえばエレクトロポレーション緩衝液を含んでよい。エレクトロポレーション緩衝液は、細胞質組成を模倣してよく、様々なそのようなエレクトロポレーション緩衝液が商業的に入手され得る。加えて、液滴中に含まれ得る流体の他の例は、水、生理食塩水、エタノールなどを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、1または複数の塩が水に溶解され、液滴中に含まれ得る水溶液を形成してよい。
【0041】
デバイス内の他の液滴は、標的液滴と同じ組成または異なる組成を有してよい。場合によっては、たとえば、他の液滴は、標的液滴中の流体よりも低い抵抗率または高い導電率を有する流体を含んでよく、またはその逆であってもよい。したがって、非限定的な例として、標的液滴はエレクトロポレーション緩衝液を含んでよく、他の液滴は、エレクトロポレーション緩衝液よりも高い導電率を有する流体、たとえば細胞培養培地、高塩分生理食塩水などを含んでよい。加えて、特定の実施形態によると、標的液滴に対する他の液滴の導電率比は、少なくとも1.5:1、少なくとも2:1、少なくとも3:1、少なくとも4:1、少なくとも5:1、少なくとも6:1、少なくとも8:1、少なくとも10:1などであってよい。
【0042】
比較的高い導電率または比較的低い抵抗率を有する流体の非限定的な例は、生理食塩水、またはたとえばDMEM、MEM、RPMIなどの特定の種類の細胞培養培地を含むが、これらに限定されない。場合によっては、比較的高い導電率を有する流体の導電率は、1S/m以上、1.5S/m以上、2S/m以上、2.5S/m以上、3S/m以上、3.5S/m以上、4S/m以上、4.5S/m以上、5S/m以上、10S/m以上などであってよい。比較的低い導電率または比較的高い抵抗率を有する流体の非限定的な例は、エレクトロポレーション緩衝液を含むが、これに限定されない。場合によっては、比較的低い導電率を有する流体の導電率は、1S/m以下、500mS/m以下、300mS/m以下、200mS/m以下、100mS/m以下、50mS/m以下、30mS/m以下、20mS/m以下、10mS/m以下、5mS/m以下、3mS/m以下、2mS/m以下、1mS/m以下などであってよい。
【0043】
1つの実施形態セットにおいて、液滴は、60未満、50未満、40未満、または30未満の比誘電率または誘電定数を有する培地を含んでよい。また、いくつかの実施形態において、非標的液滴中の培地は、50以上、60以上、70以上、80以上、または90以上の比誘電率または誘電定数を有してよい。標的液滴の比誘電率は、非標的液滴の比誘電率よりも小さくてよい。たとえば、標的液滴に含まれる培地の比誘電率と、非標的液滴に含まれる培地の比誘電率とは、少なくとも1:1.5、少なくとも1:2、少なくとも1:2.5、または少なくとも1:3であってよい。
【0044】
加えて、1つの実施形態セットにおいて、たとえば標的液滴または他の液滴などの液滴は、たとえば液滴内に、または液滴の周囲にコアシェル構造を形成する油または空気を独立して含んでよい。使用され得る油の非限定的な例は、炭化水素、シリコン油、鉱物油、フルオロカーボン油、有機溶剤などを含むが、これらに限定されない。
【0045】
上述したように、電流は、適切な導体から形成され得る1または複数の電極を用いて複数の液滴に印加され得る。電極は、他の液滴(たとえば標的液滴)と物理的に接触またはイオン連通し得る液滴と物理的に接触またはイオン連通していてよい。
【0046】
いくつかの実施形態において、たとえば他の液滴中に含まれる流体などの流体を用いて標的液滴から電極を分離することは、たとえば電流または電圧を生成するために電極が使用される場合に電極に生じるイオンを封じ込めるために役立ち得る。したがって、たとえば、電極を取り囲む液滴は、イオン封じ込めシステムとして作用し、一般に、電極で生じたイオンまたは他の化学的副産物が標的液滴(または電極と接触していない他の液滴)に到達すること、または標的液滴中に含まれる細胞や他のエンティティに到達することを防止し得る。場合によっては、そのような液滴は、たとえばエレクトロポレーションや本明細書で説明されるような他の目的のために電流または電圧を生成するために使用され得るデバイス内の電極の一部または全てに存在してよい。電極からのイオンまたは他の化学的副産物を封じ込めるために使用される液滴は、標的液滴と直接接触してよく、またはいくつかの実施形態において、1または複数の介在する液滴または他の流体や物質が存在してよい。
【0047】
デバイス内の電極は、同じまたは異なる導電材料で作られてよく、同じまたは異なる形状を有してよい。電極材料の非限定的な例は、たとえば金、銀、銅、プラチナ、鋼、チタン、真鍮、パラジウムなどの金属を含む。たとえば酸化物(たとえば酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ルテニウム、酸化イリジウム、酸化プラチナなど)、グラファイト、炭素、導電性ポリマなど、他の材料が電極に使用されてもよい。いくつかの実施形態に従って、電極で生じたイオンまたは他の化学的副産物による標的液滴の汚染を軽減または防止するためにイオンの封じ込めが用いられ得るので、そのような副産物を生成することが知られている材料を含む多種多様な材料を使用可能であることを理解すべきである。
【0048】
電極は、任意の適切な形状の界面を有してよい。形状の非限定的な例は、円形、長方形、正方形、三角形、多角形、不規則形などを含む。場合によっては、1または複数の電極は、非円形形状を有する界面を有してよい。複数の電極が存在する場合、電極界面は、同じまたは異なる形状を有してよい。いくつかの実施形態において、電極は、たとえば標的液滴などの液滴の形状を変化させる界面形状を有してよい。たとえば、電極界面は、液滴を細長くさせる形状を有してよく、たとえば界面は長円形または楕円形であってよい。
【0049】
電極は、デバイス内の任意の適切な位置に配置され得る。たとえば電極は、基板、たとえばデジタルマイクロ流体デバイス内などの平面基板に配置され得る。電極は、たとえば複数の基板が存在する場合、同じまたは異なる基板に独立して位置してよい。たとえば、デジタルマイクロ流体デバイスにおいて、電極は、単一の基板(たとえば上部基板、下部基板など)に一体化されてよく、または複数の基板に(たとえば第1の基板に1つ、第2の基板に1つが)一体化されてもよい。他の実施形態において、他の構成も可能である。加えて、いくつかの実施形態において、電極の1または複数は、基板から分離していてよい。たとえば電極は、基板から分離または電気的に絶縁されたワイヤまたは他の電気コネクタとして存在してよい。
【0050】
電極は、デバイス内に任意の適切な間隔で配置され得る。たとえば電極は、10マイクロメートル以上、20マイクロメートル以上、30マイクロメートル以上、40マイクロメートル以上、50マイクロメートル以上、60マイクロメートル以上、70マイクロメートル以上、80マイクロメートル以上、90マイクロメートル以上、100マイクロメートル以上、200マイクロメートル以上、300マイクロメートル以上、500マイクロメートル以上、1mm以上、2mm以上、3mm以上、5mm以上、1cm以上、2cm以上、3cm以上、5cm以上などだけ分離され得る。場合によっては、電極は、5cm以下、3cm以下、2cm以下、1cm以下、5mm以下、3mm以下、2mm以下、1mm以下、500マイクロメートル以下、300マイクロメートル以下、200マイクロメートル以下、100マイクロメートル以下、50マイクロメートル以下、30マイクロメートル以下、20マイクロメートル以下、10マイクロメートル以下などだけ分離され得る。これらのいずれかの組み合わせも、いくつかの実施形態において可能である。たとえば電極は、20マイクロメートル~30マイクロメートル、50マイクロメートル~100マイクロメートル、1mm~1cmなどの距離だけ分離され得る。ただし、電極間の物理的距離は、必ずしも、電圧が印加された場合に電極間に生じるイオン連通経路の長さを定めるものではないことを理解すべきである。たとえば、電極間のイオン連通経路を画定する液滴の連鎖は非直線状であってもよく、それによって電流が流れるためのより長い距離を定める。
【0051】
場合によっては、電極の1または複数は、たとえば親水性コーティングでコーティングされ得る。複数の電極が存在する場合、電極は、独立してコーティングありでもなしでもよく、および/または同じまたは異なるコーティングを有してよい。適切なコーティング材料の非限定的な例は、シランコーティングを含むが、これに限定されない。いくつかの実施形態において、試薬や他の材料が、たとえば化学的または物理的にコーティングに付着させられ得る。非限定的な例として、たとえばsgRNAまたはガイドRNAなどの試薬は、たとえば遺伝子編集のためにエレクトロポレーションを介して生細胞内に生体分子(CRISPR関連リボ核タンパク質、たとえばgRNAやCas9などの遺伝子など)を挿入することを含む用途のために、電極に付着させられ得る。
【0052】
場合によっては、電極に印加される電圧は、10V以上、20V以上、30V以上、50V以上、100V以上、200V以上、300V以上、500V以上、1kV以上などであってよい。いくつかの実施形態において、電極に印加される電圧は、1kV以下、500V以下、300V以下、200V以下、100V以下、50V以下、30V以下、20V以下、10V以下などであってよい。これらのいずれかの組み合わせも特定の実施形態において可能であり、たとえば印加される電圧は、50V~200V、500V~1kV、10V~20Vなどであってよい。
【0053】
加えて、特定の例において、電極に印加される電圧は、1V/cm以上、2V/cm以上、3V/cm以上、5V/cm以上、10V/cm以上、20V/cm以上、30V/cm以上、50V/cm以上、100V/cm以上、200V/cm以上、300V/cm以上、500V/cm以上、1kV/cm以上、2kV/cm以上、3kV/cm以上、5kV/cm以上などの電圧勾配を標的液滴内で生成するために使用され得る。場合によっては、標的液滴は、5kV/cm以下、3kV/cm以下、2kV/cm以下、1kV/cm以下、500V/cm以下、300V/cm以下、200V/cm以下、100V/cm以下、50V/cm以下、30V/cm以下、20V/cm以下、10V/cm以下、5V/cm以下、3V/cm以下、2V/cm以下、1V/cm以下などの電圧勾配を経験してよい。加えて、場合によっては、これらのいずれかの組み合わせも用いられてよく、たとえば、標的液滴内で電圧勾配を生成するために使用される電極に印加される電圧は、10V/cm~50V/cm、50V/cm~100V/cm、500V/cm~2kV/cmなどであってよい。また、いくつかの実施形態において、標的液滴における電圧または電圧勾配は、比較的均一または均質であってよい。たとえば、比較的高い導電性を有する流体を使用することによって、標的液滴内で比較的均一または均質な電界が生成され得る。非限定的な例として、2つの他の液滴に隣接した標的液滴における電界分布を示す図が
図9に示される。
【0054】
たとえば本明細書で説明されるような液滴構成を生成するために様々なデバイスおよび技術が使用され得る。たとえば、場合によっては、液滴は電極間に手動で配置され得る。加えて、特定の実施形態において、たとえば本明細書で説明されるような電圧または電流を標的液滴に印加することができる電極間を接続するように液滴を配置するために、デジタルマイクロ流体デバイスが使用され得る。デジタルマイクロ流体デバイスにおいて、液滴は、基板上、たとえば平面基板上に存在し、たとえばエレクトロウェッテイング、誘電泳動、非混和性流体流などの技術を用いて基板全体を移動してよい。
【0055】
そのような基板上の液滴の移動を操作または促進するために、様々な電極が存在してよく、多くの場合、液滴が存在し得る基板上に複数の「画素」または位置を画定し得る。当業者は、様々なデジタルマイクロ流体デバイス、およびその中の液滴の移動、分類、併合、混合、分割などを含む液滴の操作のための技術に精通している。加えて、デジタルマイクロ流体デバイス内の「液滴」は、必ずしも球形または円形ではなく、たとえばデバイス内の画素によって画定されるような他の様々な形態および形状をとり得ることを理解すべきである。
【0056】
したがって、いくつかの実施形態において、たとえば、標的液滴を含む液滴は、デジタルマイクロ流体デバイス内の電極間の位置に移動され、たとえば電極間にイオン連通経路を生成してよく、その後、電極を用いて標的液滴に電圧または電流が印加される。デジタルマイクロ流体デバイスは、たとえば標的液滴内の細胞にエレクトロポレーションを引き起こすために標的液滴に電圧または電流を供給することが可能な2、3、4、または更に多い数のそのような電極を有してよく、そのような電極は、基板上の液滴を操作するために使用される電極と同じであってよく、異なってもよい。
【0057】
また、場合によっては、デジタルマイクロ流体デバイスは、間に流体液滴が含まれて操作される平行なプレートまたは基板を含んでよく、場合によっては、(たとえばエレクトロポレーションを引き起こすため、または本明細書で説明されるような他の用途のために)比較的高い電圧を印加するために使用される電極は、各々が同じプレートまたは基板にあってよく、あるいは異なるプレートまたは基板にあってもよい。そのような構成の非限定的な例は、
図4~6に示され得る。
【0058】
場合によっては、デジタルマイクロ流体デバイス内の液滴は、標的液滴を制御するために制御され得る。たとえば、標的液滴および/または他の液滴は、標的液滴に特定の電圧を印加させるためにデジタルマイクロ流体デバイス内で制御され得る。たとえば液滴の数、液滴の組成、液滴の位置、液滴のサイズ、液滴の体積、液滴の電気抵抗などのパラメータは、たとえば上述したようなデジタルマイクロ流体デバイス内で液滴を操作するための技術を用いて容易に制御され得る。
【0059】
たとえば、特定の実施形態において、標的液滴は、デジタルマイクロ流体デバイス内で第1の位置に移動されてよく、他の液滴は、他の位置(たとえば廃棄物として廃棄するために)他の位置に移動されてよい。非限定的な例として、標的液滴が細胞を含む場合、(たとえば細胞にエレクトロポレーションを引き起こすために)電圧を印加した後、標的液滴は、デジタルマイクロ流体デバイス内で、細胞の回収が可能な位置に移動され得る。場合によっては、たとえば細胞を含む液滴は、回収緩衝液または細胞培地などを含む液滴と結合され得る。
【0060】
いくつかの実施形態において、複数の標的液滴が、たとえば連続的および/または同時に操作され得ることを理解すべきである。たとえば、デジタルマイクロ流体デバイスなどのデバイスは、たとえば(たとえば標的液滴内に存在し得る細胞にエレクトロポレーションを引き起こすために)電圧が印加される複数の標的液滴を有してよい。液滴は、同じ電極および/または2つの異なる電極に触れるようにも操作され得る。たとえば、本明細書で説明されるように第1の標的液滴に電圧が印加され、次に、第1の標的液滴は電極から離され、第2の標的液滴がその位置に移動され得る。別の非限定的な例として、第1の電極ペアを用いて第1の標的液滴に第1の電圧が印加されてよく、たとえば第1の標的液滴と同時および/または連続的に、第2の電極ペアを用いて第2の標的液滴に第2の電圧が印加されてよい。
【0061】
特定の実施形態において、たとえば本明細書で説明されるように標的液滴に電圧または電流が印加された後、標的液滴は、電極および/または他の液滴から離され得る。これは、たとえば、他の液滴および/または電極による標的液滴の汚染を防止または軽減するために役立ち得る。また、上述したように、標的液滴は、特定の実施形態において、たとえば細胞内にエレクトロポレーションを引き起こすために使用される電気パルスにおいて電流および/または電圧が印加された後、標的液滴内に存在し得る細胞の回収が可能な位置に移動され得る。
【0062】
Shih他による“Systems and Methods for Applying Voltages within Droplet-Based Systems”と題された2021年6月4日出願の米国仮特許出願第63/197,202号は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0063】
以下の例は、本開示の特定の実施形態を説明することが意図されており、本開示の全範囲を例示するものではない。
例1
【0064】
この例は、特定の実施形態に従って、高い生存率および高い効率でエレクトロポレーションを介して生細胞に高価値の生体分子(たとえばCRISPR関連リボ核タンパク質、哺乳類細胞への遺伝子編集が可能なヌクレアーゼなど)を挿入するためのデバイスを示す。この例におけるデバイスは、細胞を均質な電界に晒しながら、エレクトロポレーションの有害な副産物から細胞を隔離することが可能である。また、回収緩衝液への細胞の載置も容易になり得る。この例で説明されるデバイスは、より低い電圧または様々な細胞量を容易にするために修正されてもよい。このデバイスは、極めて少量の細胞を取り扱うことができる(現在利用可能なデバイスには欠けている機能)。このデバイスが使用され得る細胞の例は、哺乳類細胞または微生物細胞を含むが、これらに限定されない。
【0065】
この例で説明されるデバイスは、3つ以上の液滴の連鎖によってアノードおよびカソードが電気的に接続されたエレクトロポレーションシステムである。外側の2つの液滴は、高導電率の媒体を備え、中間の液滴は、細胞および細胞内に挿入される生体分子を含む低導電率のエレクトロポレーション緩衝液を備えてよい。たとえば、
図1を参照すること。
【0066】
アノードおよびカソードと接触するように高導電率の液滴を配置することによって、これらの液滴は基本的に「液体電極」に変換され、中間の液滴は「液体キュベット」として作用する。液滴からエレクトロポレーション装置を形成することにより、たとえば以下のような特定の利点が提供される。
【0067】
「液体キュベット」(すなわち中間の液滴)に含まれる生体物質は、電極から隔離される。これにより、中間の液滴中の感応材料は、電極と「液体電極」(すなわち外側の液滴)との間の境界における電気分解の影響から保護され得る。
【0068】
「キュベット」形状、または細胞を含む液体の寸法は、液滴連鎖内の液滴によって定められ得る。したがって、特定の実施形態において、特定の電解を得るために必要な電圧は、たとえば液滴連鎖内の液滴を制御すること、たとえばその数、サイズ、組成、電気抵抗などを制御することによって、所望に応じて増減され得る。たとえば、1つの実施形態セットにおいて、1または複数の液滴の経路を通るアノードとカソードとの間の距離は、たとえば「液体キュベット」を「狭める」または「広げる」ために制御され得る。
【0069】
液滴連鎖の電気抵抗は、たとえばアノードとカソードとの間の距離、または液滴連鎖の断面積などの要因に依存してよい。これは、印加される電圧に影響を及ぼし得る。断面積は、たとえば液滴連鎖の形状、たとえばその幅、高さ、および/または長さに基づいて変化し得る。
【0070】
高導電率の液滴(すなわち「液体電極」)は、それらの液滴と細胞を含む液滴(すなわち「液体キュベット」)との間の界面に沿って電圧が基本的に均等に印加されることを可能にし得る。場合によっては、結果として生じる電界は、細胞を含む液滴にわたり均一に印加され得る。これは、電極が位置する平面に電界が極端に局在化し、その結果、たとえば細胞に印加される電界分布が乏しくなる他の電極システムとは対照的であり得る。
【0071】
加えて、特定の実施形態において、細胞を含む液滴は、たとえばエレクトロポレーションの直後、回収緩衝液と混合され得る。
【0072】
上記システムは、いくつかの実施形態において、デジタルマイクロ流体(DMF)デバイスに統合され得る。たとえば、アノードおよびカソードは、上部プレートに、下部プレートに、または上部プレートに1つ、下部プレートに1つが統合され得る。本明細書で説明されるものを含む他の構成も可能である。これにより、たとえば誘電体上エレクトロウェッテイング(EWOD)などの技術によって液滴がエレクトロポレーション箇所に導入されるように、たとえばエレクトロウェッテイングの発動を介して液滴が配置および操作されること、必要に応じて液滴を追加または除去することなどが可能になり得る。
【0073】
図1は、連続的に電気接続された連鎖を作る、デバイス10内の3つの液滴を一列に示す。外側の2つの液滴11、12は、比較的高い導電率を有する媒体を含んでよく、中間の液滴15は、比較的低い導電率を有する媒体を含んでよい。外側の2つの液滴は、電気パルス発生器30によって制御される導体21、22と接触している。
図2は、液滴が基板40上に存在している点を除き、
図1と同様である。
図3もまた、この図では導体21および22が基板40に含まれる点を除き、同様である。
【0074】
図4および
図5において、連続的に電気接続された連鎖を作る、デバイス50内の3つの液滴が一列に示される。外側の2つの液滴51、52は、比較的高い導電率を有する媒体を含んでよく、中間の液滴55は、比較的低い導電率を有する媒体を含んでよい。この図の液滴は、2つの基板41、42の間に挟まれている。導体は、いずれかの基板に一体化されるか、または液滴内に直接挿入されるかなどであってよい。
図4において、導体61および62の各々は基板41に統合されるが、
図5では、導体61は基板41に含まれ、導体62は基板42に含まれる。
【0075】
図6は、2つの基板41、42の間に挟まれた3つの液滴を示す。これらの基板は、たとえばEWODベースの発動のために使用され得る。外側の2つの液滴51、52は、比較的高い導電率の媒体を含んでよく、中間の液滴55は、比較的低い導電率の媒体を含んでよい。外側の2つの液滴は、基板41に含まれ得る電極61、62と接触している。この例では、基板41は、ガラス層71、誘電層72、疎水性層73、(たとえばDMFを行うための)電極74、および(たとえばエレクトロポレーションを引き起こすために電圧を印加するための)電極75を含んでよい。非限定的な例として、電極74はクロムを備えてよく、および/または電極75は金を備えてよい。
【0076】
場合によっては、標的敵的は、たとえば1Mエレクトロポレーション緩衝液などの高抵抗流体を含んでよい。エレクトロポレーション緩衝液の非限定的な例の1つは、5mMのKCl、15mMのMgCl2、120mMのNa2HPO4/NaH2PO4、および50mMのpH7.2のマンニトールの水溶液である。
例2
【0077】
この非限定的な例は、本発明の特定の実施形態に従って、液滴におけるエレクトロポレーションを示す様々な実験を提示する。
【0078】
実験概要:これらの実験では、液滴操作は、(1)リザーバの充填、(2)3液滴の分注、(3)3液滴の併合、および(4)3液滴のエレクトロポレーションという4つの重要なステップで構成された。デバイスは、3つのリザーバを有し、2つの外側のリザーバは、PBS(または高導電率緩衝液、σ(シグマ)~16mS/cm)で満たされ、中間のリザーバは、低導電率エレクトロポレーション緩衝液(σ(シグマ)~8.4mS/cm)に懸濁された細胞および所望のペイロードで満たされた。リザーバは、上部プレートの縁部で下部プレートに各6マイクロリットルをピペットし、リザーバ内に流体を引き込むためにデジタルマイクロ流体(DMF)の駆動電位(300Vrmsおよび15kHz)で3つのリザーバ電極を作動させることによって満たされた。次に、DMFの作動を用いてリザーバから液体を引き出し、オンチップ液滴分注技術を実施して、1マイクロリットルの単一液滴が各リザーバから分注された。細胞を含む液滴は、エレクトロポレーション箇所の中心に動かされ、2つのPBS分注液滴は、エレクトロポレーション箇所の外縁部に動かされた。3つの液滴は、細胞を含む液滴に向かってPBS液滴を内側に動かすことによって併合され、連続した3液滴構造が作成された。併合の直後、エレクトロポレーション回路は、PBS液滴と直接接触している露出したAu電極に、3つの高電圧DC(0~250V)方形波パルス(10ms)シーケンスを供給するためにトリガされた。エレクトロポレーションの後、上部プレートは取り外され、エレクトロポレーションされた細胞は、抗生物質のない150マイクロリットルの加温完全培地で事前に充填された96ウェルプレートに即時載置された。
【0079】
本明細書で説明される全ての実験に関して、細胞株はHEK293であり、供給されたペイロードは、蛍光検出のためのFITC分子と結合した様々なサイズ(70kDa、250kDa、2000kDa)のデキストラン分子であった。サイズにかかわらず、300マイクログラム/mlのデキストランが添加された。
【0080】
トランスフェクション効率および生存率は、BD FACS Melody(BD Bioscience、カナダ)を用いて測定された。FACSの前に、細胞は培地に再懸濁され、その後、遠心分離(300g、3分間)によって洗浄され、1mlのPBSに再懸濁された後、再び遠心分離(300g、3分間)され、600マイクロリットルのFACS緩衝液に再懸濁された。生存率は、FACSの直前に添加されたDAPIを用いて評価された。
【0081】
全ての実験において、低導電率緩衝液としてNeon Type T EP緩衝液が使用された。0.05%のF68界面活性剤が8.4mS/cmで添加された。全ての実験において、高導電率緩衝液としてPBSが使用された。0.05%のF68界面活性剤が16.0mS/cmで添加された。ペイロードは、様々なサイズのFITC標識デキストラン分子であった。DAPIを用いてLive/Dead染色が行われた。
【0082】
図10A~10Bは、「トリドロップ」(3液滴)エレクトロポレーションと対照との比較を示す。
図10Aは、3つの条件に晒された細胞のFITC発現プロファイルを示す。第1の条件(デキストランなし、EPなし)は、デキストランで処理されていない細胞のFITC発現プロファイルが、実験期間にわたり培地内に留まったことを示す。第2の条件(70kDaのデキストラン、EPなし)は、エレクトロポレーション緩衝液中に約10分間存在したが、オンチップエレクトロポレーションを受けなかった、70kDaのデキストランを有する細胞の発現プロファイルを示す。最後の条件(70kDaのデキストラン、EP+)は、トリドロップエレクトロポレーション(3,200V、10msパルス)を受けた70kDaのデキストランを有する細胞の発現プロファイルを示す。
図10Bは、3つの条件全てのDAPI発現プロファイルを示し、トリドロップエレクトロポレーションの使用により、細胞生存率への影響を最小限に抑えながらFITC摂取率を著しく高めることが可能であることを提示する。
【0083】
図11A~11Bは、高-低-高ドロップ構成の重要性を示す。
図11Aは、FITC発現プロファイルを示す。
図11Bは、全て3,200V、10msのパルスでエレクトロポレーションされた70kDaのデキストランを含む3つの条件に関するDAPI発現プロファイルを示す。第1の条件(低導電率、シングルドロップ)は、トリドロップ構造における3つの液滴全てが低導電率媒体で構成されている場合のエレクトロポレーションの結果を示す。第2の条件(高導電率、シングルドロップ)は、トリドロップ構造における3つの液滴全てが高導電率媒体で構成されている場合のエレクトロポレーションの結果を示す。最後の条件(高-低-高、トリドロップ)は、トリドロップ構造における外側の液滴の全てが高導電率媒体で構成され、内側の液滴が低導電率媒体で構成されている場合のエレクトロポレーションの結果を示す。これらの結果から、高-低-高液滴構造は、電界が中央の液滴に集中することを可能にし、細胞の健康を保ちながら大きなエレクトロポレーション力をもたらすことが示される。
【0084】
図12は、電圧最適化を示す。トランスフェクション効率(実線)および生存率(破線)が電圧の増加とともに示される。70kDaのデキストランが使用された。生存率は、トランスフェクトされた集団の生存率を健康な未処理の集団の生存率で割ったものとして定義される。これらの結果から、トリドロップエレクトロポレーションを行うための最適な電圧範囲が示された。全てのサンプルは、3パルス、10msで処理された。ペイロードは、FITC標識70kDaデキストラン、DAPI+であった。
【0085】
図13A~13Bは、電圧最適化例のデータを示す。全て70kDaのデキストランを含む3つの条件に関してドットプロット(前方散乱対FITC発現)が示される。第1の条件は、エレクトロポレーションされていない細胞を示す(概して
図13Aおよび
図13Bの左側)。第2の条件は、3,200V、10msのパルスでエレクトロポレーションされた細胞を示す(概して
図13Aの右側)。最後の条件は、3,225V、10msのパルスでエレクトロポレーションされた細胞を示す(概して
図13Bの右側)。3パルス、10msで処理されたデータが示される。ペイロードは、FITC標識70kDaデキストラン、DAPI+であった。
【0086】
図14は、トリドロップペイロード試験を示す。3つの異なるサイズ(70kDa、250kDa、および2000kDa)のデキストラン分子を挿入した場合のトランスフェクション効率および生存率、ならびにエレクトロポレーションされていない対照が示される。全てのサンプルは、3,200V、10msのパルスでエレクトロポレーションされた。デキストランは、300マイクログラム/mlの濃度まで添加された。これらの結果から、トリドロップエレクトロポレーションを用いて、細胞の健康状態への影響を最小限に抑えながら哺乳類細胞に大きな分子を挿入することが可能であることが提示される。
【0087】
図15は、トリドロップペイロード試験におけるFITC発現を示す。トリドロップエレクトロポレーションを用いて挿入された3つの異なるペイロードのFITC発現が示される。第1のプロファイル(70kDaのデキストラン、EPなし)は、70kDaのデキストランを有するエレクトロポレーションされていない細胞を示す。次の3つのプロファイルは、70kDaのデキストラン(70kDaのデキストラン、EP+)、250kDaのデキストラン(250kDaデキストラン、EP+)、および2000kDaのデキストラン(2000kDaデキストラン、EP+)を含む、3200V、10msのパルスでエレクトロポレーションされた細胞を示す。全てのサンプルは、200V、3パルス、10msで処理された。ペイロードは、FITC標識70kDaデキストラン、DAPI+であった。これらの結果から、大きなデキストラン分子が生存率への影響を最小限に抑えながら効率的に挿入されるだけではなく、細胞は、より小さな分子が挿入された細胞と同様の強度で蛍光発光していることが提示される。
【0088】
図16A~16Cは、トリドロップ法を用いた一次ヒトT細胞集団における編集効率および細胞生存率を示す。
図16Aは、エレクトロポレーションされておらず無染色の(無染色対照)、B2Mを標的とするsgRNAでエレクトロポレーションされた(B2MsgRNA(ノックアウト))、またはスクランブルドシーケンスを標的とするsgRNAでエレクトロポレーションされた(スクランブルドsgRNA(対照))一次CD4+T細胞における3日目および5日目のB2Mのレベルを示すヒストグラムを示す。CD4+T細胞は、ポジティブ選択によって人間ドナーの末梢血液から隔離された。全てのデータは、フローサイトメータ(Attune、Thermo Fischer)を用いて捕捉された。Cas9ヌクレアーゼ(Aldevron)は、細胞内に供給する前に、リボ核タンパク質(RNP)を形成するために合成ガイド(sg)RNA(Synthego)と結合された。
図16Bは、トリドロップシステムを用いた編集後の3日目または5日目におけるCD4+ヒトT細胞におけるB2Mレベルの定量を示す。ネガティブB2M細胞の割合は、フローサイトメータ(Attune、Thermo Fischer)を用いて定量化された。実験は、2人の人間ドナーに対し技術的に二重または三重に行われた。
図16Cは、GFP mRNA(Tri Link)によるエレクトロポレーション後のヒトT細胞の生存率を示す。細胞は、Live/Dye555染色(Thermo Fischer)を用いてエレクトロポレーション後の1日目および5日目にフローサイトメータで計数された。データは、技術的4通りの代表値である(上図)。細胞生存率は、エレクトロポレーションの5日後に評価された。3人の異なる人間ドナーから、N=7である。
【0089】
本開示のいくつかの実施形態が本明細書において説明および図示されたが、当業者は、本明細書で説明される機能を実行し、および/または本明細書で説明される結果および/または利点の1または複数を得るために、様々な他の手段および/または構造を容易に想定するものであり、そのような変形例および/または修正の各々は、本開示の範囲内であるとみなされる。より一般的には、当業者は、本明細書で説明される全てのパラメータ、寸法、材料、および構成が例示であることを意味し、実際のパラメータ、寸法、材料、および/または構成は、本開示の教示が使用される特定の1または複数の用途に依存することを容易に理解する。当業者は、日常的な実験以上のものを用いずに、本明細書で説明される本開示の特定の実施形態に対する多数の均等物を認識し、または確認することが可能である。したがって、上述した実施形態は単に例示として提示されたものであり、添付の特許請求の範囲およびその均等物の範囲内で、本開示は、具体的に説明され特許請求対象となったもの以外の方法で実施され得ることを理解すべきである。本開示は、本明細書で説明される個々の特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法の各々に向けられる。また、そのような特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法が互いに矛盾しない場合、そのような特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法の2つ以上の任意の組み合わせは、本開示の範囲内に含まれる。
【0090】
本明細書および参照によって組み込まれた文献が対立および/または矛盾する開示を含む場合、本明細書が優先されるものとする。参照によって組み込まれた2つ以上の文献が互いに対立および/または矛盾する開示を含む場合、発効日が遅い文献が優先されるものとする。
【0091】
本明細書で定義され使用される全ての定義は、辞書上の定義、参照によって組み込まれた文献における定義、および/または定義された用語の一般的な意味よりも優先されることを理解すべきである。
【0092】
本明細書および特許請求の範囲において使用される不定冠詞「a」および「an」は、反対の意味が明示されない限り、「少なくとも1つ」を意味することを理解すべきである。
【0093】
本明細書および特許請求の範囲において使用される「および/または」という表現は、そのように接続された要素の「いずれかまたは両方」、すなわち、場合によっては結合的に存在し、他の場合には分離的に存在する要素を意味することを理解すべきである。「および/または」を用いて羅列された複数の要素は、同様に、すなわちそのように接続された要素の「1または複数」として解釈すべきである。「および/または」の節によって具体的に識別された要素以外に、具体的に識別された要素に関連するかしないかにかかわらず、任意選択的に他の要素が存在してよい。したがって、非限定的な例として、「Aおよび/またはB」への言及は、たとえば「備える」などのオープンエンドな言葉と組み合わせて使用される場合、1つの実施形態においてAのみ(任意選択的にB以外の要素を含む)、別の実施形態においてBのみ(任意選択的にA以外の要素を含む)、また別の実施形態においてAおよびBの両方(任意選択的に他の要素を含む)などを指し得る。
【0094】
本明細書および特許請求で使用される場合、「または」は、上述した「および/または」と同じ意味を有することを理解すべきである。たとえば、リスト内の項目を区切る場合、「または」または「および/または」は、包含的なものとして、すなわち複数の要素または要素のリストのうちの少なくとも1つだけでなく複数も含み、任意選択的にリストにない追加の項目を含むものとして解釈されるものとする。たとえば「~のうちの1つのみ」または「~の1つだけ」などの逆の意味を明確に示す用語や、特許請求の範囲において使用される「~で構成される」のみが、複数の要素または要素のリストのうちのただ1つの要素のみを含むことを指す。一般に、本明細書で使用される「または」という用語は、たとえば「いずれか」、「一方」、「一方のみ」、または「一方だけ」などの排他的な用語が付け加えられた場合のみ、排他的な選択肢(すなわち「両方ではなく一方または他方」)を示すと解釈されるものとする。
【0095】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、1または複数の要素のリストに言及する「少なくとも1つ」という表現は、要素のリスト内の要素のいずれか1または複数から選択された少なくとも1つの要素を意味するが、必ずしも要素のリストに具体的に挙げられた各要素および全ての要素の少なくとも1つを含むものではなく、要素のリスト内の要素の任意の組み合わせを除外するものではないことを理解すべきである。この定義は、「少なくとも1つ」という表現が言及する要素のリスト内で具体的に識別された要素以外の要素が、具体的に識別された要素に関連するかしないかにかかわらず、任意選択的に存在し得ることも可能にする。したがって、非限定的な例として、「AおよびBの少なくとも1つ」(または同等に「AまたはBの少なくとも1つ」、または同等に「Aおよび/またはBの少なくとも1つ」)は、1つの実施形態において、少なくとも1つ、任意選択的に複数のAが存在し、Bが存在しない(任意選択的にB以外の要素を含む)こと、別の実施形態において、少なくとも1つ、任意選択的に複数のBが存在し、Aが存在しない(任意選択的にA以外の要素を含む)こと、また別の実施形態において、少なくとも1つ、任意選択的に複数のA、および少なくとも1つ、任意選択的に複数のBが存在する(任意選択的に他の要素を含む)ことなどを指し得る。
【0096】
本明細書において「約」という言葉が使用される場合、本開示の別の実施形態は、「約」という言葉の存在で修飾されないその数を含むことを理解すべきである。
【0097】
また、反対の意味が明示されない限り、本明細書において特許請求対象となる、複数のステップまたは動作を含む任意の方法において、方法のステップまたは動作の順序は、必ずしも方法のステップまたは動作が記載される順序に限定されないことも理解すべきである。
【0098】
特許請求の範囲において、上記明細書と同様に、たとえば「備える」、「含む」、「担持する」、「有する」、「包含する」、「伴う」、「保持する」、「~から成る」などの全ての移行句は、オープンエンドであること、すなわち含むがそれらに限定されないことを意味するものとして理解すべきである。米国特許局特許審査手続マニュアルのセクション2111.03で規定されるように、「~で構成される」および「基本的に~で構成される」という移行句のみが、それぞれクローズドまたはセミクローズドな移行句であるものとする。
【国際調査報告】