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特表2024-526553カソードペースト、その製造方法、及び使用
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  • 特表-カソードペースト、その製造方法、及び使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】カソードペースト、その製造方法、及び使用
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1391 20100101AFI20240711BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240711BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240711BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
H01M4/1391
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577350
(86)(22)【出願日】2022-07-19
(85)【翻訳文提出日】2023-12-14
(86)【国際出願番号】 EP2022070261
(87)【国際公開番号】W WO2023011914
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】21189700.4
(32)【優先日】2021-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】102021120625.1
(32)【優先日】2021-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502350250
【氏名又は名称】ヴァルタ マイクロバッテリー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】シェベスタ セバスティアン
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050DA02
5H050DA10
5H050DA11
5H050DA18
5H050EA10
5H050EA24
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA10
5H050HA14
5H050HA15
5H050HA20
(57)【要約】
リチウムイオンセルのカソードを製造するためのカソードペースト(1)において、カソードペーストは、活物質として、式LiNiMnCo(ここで、x+y+z=1及びx≧0.6である)で表されるリチウム-ニッケル-マンガン-コバルト混合酸化物、及び式LiNiCoAl(ここで、x+y+z=1及びx≧0.8である)のリチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム混合酸化物、並びに上記リチウム混合酸化物の混合物からなる群から選択される金属リチウム混合酸化物を含む。さらに、カソードペーストは、ポリ二フッ化ビニリデンをベースとする電極バインダーを含む。さらに、カソードペーストは、N-メチルピロリドン及び/又はN-エチルピロリドンを含む溶媒を含む。さらに、溶媒は、水酸化物イオンの中和に適しており、大気圧において50℃~210℃の範囲内の沸点を有する有機添加剤成分含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンセルのカソードを製造するためのカソードペースト(1)であって、以下の特徴:
a.前記カソードペースト(1)が、活物質として、式LiNiMnCo(ここで、x+y+z=1及びx≧0.6である)のリチウム-ニッケル-マンガン-コバルト混合酸化物、及び式LiNiCoAl(ここで、x+y+z=1及びx≧0.8である)のリチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム混合酸化物、及び前記リチウム混合酸化物の混合物からなる群から選択される金属リチウム混合酸化物を含むこと;
b.前記カソードペースト(1)が、電極バインダーとしてポリ二フッ化ビニリデンを含む、又はポリ二フッ化ビニリデンをベースとする電極バインダーを含むこと;
c.前記カソードペースト(1)が、N-メチルピロリドン及び/又はN-エチルピロリドンを含む溶媒を含むこと;
d.前記溶媒が、水酸化物イオンを中和することができ、大気圧において50℃~210℃の範囲内の沸点を有する有機添加剤成分を含むこと、
を有する、カソードペースト(1)。
【請求項2】
以下のさらなる特徴:
a.前記カソードペースト(1)が、室温において少なくとも2週間、好ましくは少なくとも4週間の期間、その粘度特性に関して安定であること、
を有する、請求項1に記載のカソードペースト。
【請求項3】
以下のさらなる特徴:
a.前記有機添加剤成分が、前記溶媒中に、0.1~10重量%の比率、好ましくは0.5~7重量%の比率、特に好ましくは1~5重量%の比率で存在すること;
b.前記N-メチルピロリドン及び/又は前記N-エチルピロリドンが、前記溶媒中に、60~99.9重量%、好ましくは80~99.5重量%の比率で存在すること、
の少なくとも1つを有する、請求項1又は請求項2に記載のカソードペースト。
【請求項4】
以下のさらなる特徴:
a.前記有機添加剤成分が、有機酸、特に酢酸、好ましくは無水酢酸、及び/又はシュウ酸及び/又はマロン酸である、又はこれらを含むこと;
b.前記有機添加剤成分が、有機酸の前駆体、特に有機酸のエステル、好ましくはオルト炭酸及び/又はギ酸のエステル、又は有機酸の無水物、好ましくは無水酢酸及び/又は無水マレイン酸である、又はこれらを含むこと;
c.前記有機添加剤成分が、C-H酸性有機化合物、特にエステル及び/又はジエステル及び/又はケトン及び/又はジケトン及び/又はニトリル及び/又はジニトリル、及び/又は有機ハロゲン化合物及び/又は混合置換化合物、特にアセト酢酸メチル、ジエチルマロン酸エステル、クロロ酢酸エステル、及び/又はアセト酢酸エチルである、又はこれらを含むこと、
の少なくとも1つを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のカソードペースト。
【請求項5】
以下のさらなる特徴:
a.前記有機添加剤成分がアセト酢酸エチルであること;
b.前記有機添加剤成分が無水酢酸であること、
の少なくとも1つを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のカソードペースト。
【請求項6】
以下のさらなる特徴:
a.前記有機添加剤成分が、アセト酢酸エチルであり、前記溶媒中に1~5重量%、好ましくは5重量%の比率で存在すること、
を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のカソードペースト。
【請求項7】
以下のさらなる特徴:
a.前記有機添加剤成分が、無水酢酸であり、前記溶媒中に1~5重量%、好ましくは1.2重量%の比率で存在すること、
を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のカソードペースト。
【請求項8】
以下のさらなる特徴:
a.前記カソードペースト(1)中の前記溶媒の比率が、10~50重量%の範囲内、好ましくは25~40重量%の範囲内、特に25~30重量%の範囲内であること、
を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のカソードペースト。
【請求項9】
以下のさらなる特徴:
a.前記ポリ二フッ化ビニリデンが、ポリ二フッ化ビニリデンホモポリマーであること;
b.前記ポリ二フッ化ビニリデンが、イオン架橋性成分を含むこと、
の少なくとも1つを有する、請求項1~8のいずれか一項に記載のカソードペースト。
【請求項10】
以下のさらなる特徴:
a.前記カソードペースト(1)が、導電剤、好ましくは導電性カーボンブラックを含むこと、
を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載のカソードペースト。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のカソードペースト(1)の製造方法であって、以下の方法ステップ:
a.N-メチルピロリドン及び/又はN-エチルピロリドンと、水酸化物イオンの中和が可能であり、大気圧において50℃~210℃の範囲内の沸点を有する有機添加剤成分とを含む溶媒を提供するステップ;
b.ポリ二フッ化ビニリデンをベースとする電極バインダーを撹拌しながら前記溶媒中に溶解させるステップ;
c.場合により、導電剤、特に導電性カーボンブラックを加えるステップ;
d.式LiNiMnCo(ここで、x+y+z=1及びx≧0.6である)のリチウム-ニッケル-マンガン-コバルト混合酸化物、及び式LiNi Co Al Oz2(ここで、x+y+z=1及びx≧0.8である)のリチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム混合酸化物、及び前記リチウム混合酸化物の混合物からなる群から選択される金属リチウム混合酸化物であるステップ;
e.ステップd.による前記リチウム混合酸化物を、ステップb.又はc.で得られた混合物と混合するステップ;
f.場合により、特定の粘度に調節するために、ステップe.で得られた混合物にさらなる溶媒を加えるステップ;
g.場合により、ステップf.で得られた混合物を濾過するステップ、
を含む、製造方法。
【請求項12】
リチウムイオンセルを製造するための請求項1~10のいずれか一項に記載のカソードペースト(1)の使用であって、前記カソードペースト(1)が集電体(2)に塗布され、乾燥されて、前記セルの前記カソードが得られる、使用。
【請求項13】
少なくとも1つのカソードと、少なくとも1つのアノードとを有するリチウムイオンセルの製造方法であって、前記少なくとも1つのカソードを形成するために、請求項1~10のいずれか一項に記載のカソードペースト(1)が集電体(2)に塗布され、乾燥されることを特徴とする製造方法。
【請求項14】
以下のさらなる特徴:
a.前記カソードペースト(1)が、50℃~150℃の温度範囲内、好ましくは80℃~130℃の温度範囲内、特に100℃~120℃の温度範囲内で乾燥されること、
を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
以下のさらなる特徴:
a.前記少なくとも1つのカソードの形成が、大気圧条件において及び/又は通常の空気条件下で行われること、
を有する、請求項13又は請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソードペースト、その製造方法、カソードペーストの使用、及び上記カソードペーストを用いた電気化学エネルギー貯蔵セルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンセルは、広く使用される種類のエネルギー貯蔵要素である。一般に、エネルギー貯蔵要素は、電気エネルギーを貯蔵可能な1つの電気化学セルと、電気エネルギーを貯蔵可能な電気的に相互接続された幾つかの電気化学セルを有する電池との両方であると理解される。それぞれの電気化学セルは、一般にセパレーターによって互いに分離される少なくとも1つの正極と、少なくとも1つの負極とを含む。
【0003】
電気化学セルにおいては、2つの電気的に結合するが空間的には分離した部分反応で構成される電気化学的エネルギー供給反応が起こる。比較的低い酸化還元電位で起こる1つの部分反応は負極で生じ、比較的高い酸化還元電位における部分反応は正極で起こる。放電中、酸化プロセスの結果として負極で電子が放出されて、外部消費者を介して正極への電子流が得られ、これによって対応するある量の電子が得られる。したがって、正極では還元プロセスが起こる。同時に、電荷平衡のために、エネルギー貯蔵要素内で電極反応に対応するイオン電流が生じる。このイオン電流は、セパレーターを横断し、イオン伝導性電解質によって実現される。
【0004】
二次(充電可能な)電気化学セルでは、この放電反応は可逆的であり、そのため、放電中に生じた化学エネルギーの電気エネルギーへの変換を逆方向に進めることが可能である。
【0005】
「アノード」及び「カソード」という用語が二次電気化学セルに関連して用いられる場合、電極は、それらの放電機能により名付けられる。したがって、このようなエネルギー貯蔵要素中の負極はアノードであり、正極はカソードである。
【0006】
リチウムイオンセルは、リチウムイオンを可逆的に吸収及び放出することができる電極と、リチウムイオンを含有する電解質とを含む。リチウムイオンセルの電極は、通常、導電性集電体と、電気化学的に活性な成分(活物質と呼ばれることが多い)と、必要であれば、電気化学的に不活性な成分とで構成される。電気化学的に不活性な成分は、電極中で重要な機能を果たすが、リチウム又はリチウムイオンの貯蔵には関与しない。
【0007】
集電体は、可能な限り広い面積にわたって電気化学的に活性な成分に電気的に接触する機能を有する。これらは、通常、例えばリボン型の金属箔、又は金属発泡体、又は金属メッシュ、又は金属グリッド、又は金属化不織布からなる。
【0008】
リチウムイオンの吸収及び放出が可能なあらゆる材料を、二次リチウムイオンセルの電極の活物質として使用することができる。二次リチウムイオンセルの負極(アノード)用の従来技術の材料は、特に、リチウムのインターカレーションが可能な炭素をベースとする材料、例えば黒鉛状炭素又は非黒鉛状炭素材料である。さらに、リチウムと合金化可能な金属材料及び半金属材料を使用することができる。例えば、元素のスズ、アンチモン、及びケイ素は、リチウムと金属間相を形成することができる。特に、炭素をベースとする活物質を上記金属材料及び半金属材料と組み合わせることもできる。
【0009】
二次リチウムイオンセルの正極(カソード)の場合、特に、ニッケルを含むことができる金属リチウム混合酸化物が活物質として使用される。リチウム-ニッケル-マンガン-コバルト酸化物(NMC)及びリチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム酸化物(NCA)が特に一般的である。上記材料の混合物及び誘導体を使用することもできる。
【0010】
電気化学的に不活性な成分は、まず最初に、電極バインダー(結合剤)及び導電剤である。電極バインダーは、電極の機械的安定性を保証し、電気化学的に活性な材料の粒子と集電体との間の接触を提供する。一般的な電極バインダーは、ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)をベースとすることが多い。カーボンブラックなどの導電剤は、電極の導電率を高める機能を有する。
【0011】
例えばポリオレフィン、ポリエステル、又はポリエーテルケトンでできた多孔質プラスチックフィルムは、リチウムイオンセルのセパレーターとして特に適している。これらの材料から製造された不織布及び布を使用することもできる。
【0012】
イオン伝導性電解質として、リチウムイオンセルは、例えば、有機カーボネートの混合物を含むことができ、この中にリチウム塩が溶解する。適切なリチウム塩の頻繁に使用される例は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)である。好ましくは、リチウムイオンセルの電極及びセパレーターに電解質を含浸させる。
【0013】
カソードの活物質と、バインダーと、場合によりカーボンブラックなどの導電剤とを含む溶媒をベースとするカソードペーストを用いて、リチウムイオンセル又は対応する電池のカソードを製造することが知られている。これらのカソードペーストは、平坦な集電体、すなわち特に平坦な金属基材、例えばアルミニウム箔に薄層で塗布され、一般に乾燥される。
【0014】
電極バインダー又はバインダーの非常に一般的な物質の種類の1つはポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)である。このバインダーの種類の使用には、非プロトン性で極性の強い溶媒の使用が必要となる。この状況では、N-メチルピロリドン(NMP)又はN-エチルピロリドン(NEP)の使用が一般に普及している。
【0015】
しかしながら、このようなカソードペーストの使用及び処理には、問題がないわけではない。特に、カソードペーストの早期のゲル化が起こり、引き続く処理がより困難となる場合がある。さらに、カソードペーストを用いて製造されたリチウムイオンセルにおいて品質のゆらぎが生じることがある。
【0016】
この状況における主要な問題は、使用されるカソード活物質の高い吸湿性である。これらの材料、特にリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物又はリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物は、周囲の水分と反応して強アルカリ性の水酸化物化合物を形成する。次にこれらの水酸化物化合物は、ポリ二フッ化ビニリデンの比較的酸性の水素原子を攻撃し、電極バインダーの架橋反応を引き起こすことがある。これによって、カソードペーストの粘度変化が生じ、早期のゲル化が起こることがある。さらに、カソードペーストの接着特性が低下し、それによってカソードペーストはさらなる使用のために利用できなくなる。
【0017】
この問題を解決するための従来方法は、例えば、ポリ二フッ化ビニリデンの化学修飾を用いて行われ、これは例えば、水素原子の置換、又は別のモノマーとの共重合が行われる。この方法で改質されたポリ二フッ化ビニリデンは、一般に、改質されていないポリ二フッ化ビニリデンよりも反応が遅い。
【0018】
米国特許出願公開第2013/0309570A1号明細書では、別の方法として、カソードペーストのゲル化を回避するために、アルミナ、ジルコニア、又は酸化バナジウムなどの無機添加剤をペーストに加えることを示唆している。
別の選択肢の1つとして、米国特許第7829219B2号明細書では、カテコール誘導体の形態の重合抑制剤をカソードペーストに加えることを示唆している。
【0019】
しかしながら、これらの方法は、結果として得られるカソードの成分が変更されるので、不具合が生じる。第1の場合では、これはPVDFの複雑な改質によって実現され、別の場合では、さらなる成分又は外来物質をカソードペーストに加えることによって実現され、このため結果として得られるカソードの性質が変化することがある。例えば、これによって、集電体に対するカソードペーストの結合特性に影響が生じる場合がある。
【0020】
上記問題を解決するための別の方法では、カソードの製造中に問題のある水分の導入をできる限り回避しようと試みている。これは特に、カソード製造プロセス中に適切な保護ガス及び非常に乾燥した雰囲気を使用することによって行うことができる。しかし、これは、製造中に技術的に複雑で費用のかかる対策であり、したがってリチウムイオンセル製造業者の観点からは不都合となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
対照的に、本発明は、来技術において言及された問題が回避され、改善されたカソードペーストの提供を目標としている。特に、カソードペーストは、結果として得られるリチウムイオンセル又は対応する電池における品質のゆらぎを回避することが意図される。さらに、カソードペーストの状態が変化することで生じうる製造プロセスにおける問題が回避されるべきである。さらに、あまり複雑でないリチウムイオンセルの製造プロセスが可能となり、同時にリチウムイオンセル又は対応する電池の品質及び性質、特にカソードの性質が一貫して良好となるように、カソードペーストが提供されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この目的は、請求項1に示される特徴を有するカソードペーストによって実現される。本発明によるカソードペーストの有利な実施形態も、従属請求項から明らかとなるであろう。さらに、上記問題は、カソードペーストの製造方法によって、リチウムイオンセルを製造するための上記カソードペーストの使用によって、及びさらなる補助的な請求項による本発明によるカソードペーストを用いたリチウムイオンセルの製造方法によって解決される。リチウムイオンセルの製造方法の好ましい実施形態も、さらなる従属請求項から明らかとなるであろう。
【0023】
本発明によるカソードペーストは、リチウムイオンセル又は対応する電池のカソードの製造が意図され、以下の特徴a.~d.:
a.カソードペーストが、活物質として、式LiNiMnCo(ここで、x+y+z=1及びx≧0.6である)のリチウム-ニッケル-マンガン-コバルト混合酸化物、及び式LiNiCoAl(ここで、x+y+z=1及びx≧0.8である)のリチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム混合酸化物、及び上記リチウム混合酸化物の混合物からなる群から選択される金属リチウム混合酸化物を含むこと;
b.カソードペーストが、ポリ二フッ化ビニリデンをベースとする電極バインダーを含むこと;
c.カソードペーストが、N-メチルピロリドン(NMP)及び/又はN-エチルピロリドン(NEP)を含む溶媒を含むこと;
d.溶媒が、水酸化物イオンを中和することができ、大気圧において50℃~210℃の範囲内、好ましくは100℃~210℃の範囲内の沸点を有する有機添加剤成分を含むこと、
を特徴とする。
【0024】
金属リチウム混合酸化物は、60%以上の原子比でニッケルを含む混合酸化物である。本発明者らは、特に、60%を超えるニッケル含有量を有するこのようなカソード活物質を用いると、電極バインダーの望ましくない架橋を有する記載の問題が生じ、それによってコーティングプロセスにおけるカソードペーストのさらなる処理が困難又は不可能となることを確認することができた。
【0025】
本発明によるカソードペーストの好ましい実施形態では、高ニッケル含有量のリチウム混合酸化物が使用され、これはリチウムイオンセルの製造において一般に使用されている。例えば、NMC-622及びNMC-811が特に好ましく、これらの数字の配列は、それぞれ混合酸化物中のニッケル、マンガン及びコバルトの原子比を意味し、すなわちそれぞれ6:2:2及び8:1:1の原子比を意味する。別の好ましい一例は、8:1:1の比でニッケル、コバルト、及びアルミニウムを有するNCA-811である。
【0026】
本発明者らによる実験では、有機添加剤成分をカソードペーストに加えることによって、カソードペーストの性質を大幅に改善され、それによってカソードペーストの混合プロセス及びカソードの製造におけるコーティングプロセスをより簡単にすることができコストを下げることができることが示された。有機添加剤成分によって、カソードペーストの安定した品質及び加工性が実現され、それによって、これを用いて製造されるカソードの品質のゆらぎが回避される。特に、カソードペースト中の有機添加剤成分によって、引き続く処理をはるかに困難にするカソードペーストの望ましくない早期のゲル化が防止される。
【0027】
本発明によるカソードペーストによって、水分の影響を抑制しそれによって望ましくないゲル化を回避することが意図された特殊な技術的手段をカソードペーストの処理中に省くことが可能となる。
【0028】
水酸化物イオンの中和に関する有機添加剤成分の性質のために、この添加剤成分によって、PVDFの望ましくない架橋を確実に回避される。さらに、有機添加剤成分の沸点が、大気圧において好ましくは50℃~210℃の範囲内、好ましくは80℃~210℃の範囲内、特に好ましくは100℃~210℃の範囲内、又は80℃~150℃の範囲内であることで、カソード製造プロセス中に使用される乾燥条件下での有機添加剤成分の事実上完全な蒸発が保証される。したがって、コーティングされ及び乾燥されたカソード中に有機添加剤成分は事実上全く残存しない。したがって、完成カソードの性質は、カソードペースト中の有機添加剤成分による影響を受けない。他方、有機添加剤成分は、本発明によるカソードペーストの製造中、及びその処理中に、PVDFの望ましくない架橋が回避されるようにカソードペーストの粘度特性に影響を与える。他方、これによってカソードペーストの処理が促進される。さらに、有機添加剤成分によってカソードペーストの早期のゲル化が防止されるので、有機添加剤成分によって、完成カソードペーストの保管及び輸送が容易になり、又はさらには最初にこのことが可能になる。
【0029】
全体として、本発明によって、原則として、一般に使用される材料を用いたカソードペーストの製造及び処理が可能となり、特に、60%以上のニッケル含有量を有するリチウム混合酸化物と、ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)とを、溶媒のN-メチルピロリドン(NMP)及び/又はN-エチルピロリドン(NEP)を用いて電極バインダーとして使用することができ、最初に言及した問題は発生しない。特に、カソードペーストの混合プロセス、及びコーティングプロセスにおいて、電極バインダーの望ましくない架橋を防止するために、追加の除湿手段を取る必要はない。さらに、結果として得られるカソードの組成、したがってその性質を変化させる、重合抑制剤、又は酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化バナジウムなどの無機添加剤などの別の添加剤は不用である。さらに、架橋の防止が意図される特定の改質PVDFポリマー又は共重合したPVDFを電極バインダーとして使用する必要もない。したがって、特に好ましい実施形態では、本発明によるカソードペーストは、さらなる無機添加剤及び/又は重合抑制剤を含まず、及び/又改質PVDFポリマーを含まない。
【0030】
したがって本発明によるカソードペーストは、より高いコストに関連する特殊なバインダー材料が不用である。さらに、本発明によるカソードペーストを使用する場合、特に、混合及びコーティング領域における乾燥チャンバー及び保護雰囲気などのカソードの製造における技術的に複雑な解決策が不用となりうる。有機添加剤成分を使用することで、結果として得られるカソードペーストが安定化し、それによってカソードペーストの取り扱いが従来のカソードペーストよりも容易になり、貯蔵性及び被覆性が改善される。これによってプロセスの信頼性が高まり、季節非依存性も保証され、特に幾分高い周囲温度において、カソードペーストとそれを用いて製造できるカソードとの一貫した品質も実現される。さらに、本発明によるカソードペーストは、経済的な利点も得られ、その理由は、商業的に入手可能な化学物質を使用できるからであり、混合及びコーティングプロセスにおいて複雑な技術的手段が不用となるからである。
【0031】
本発明によるカソードペーストは、1つ以上の有機溶媒が含まれる非水性電極ペーストである。
【0032】
カソードペーストの製造に使用されるNMP及び/又はNEPは、好ましくは電池グレード品質のものである。溶媒は、特に、できる限り少ない水を含有することを特徴とする。例えば、使用される溶媒は、最大300ppmの水、好ましくはより少ない水を含有することができる。
【0033】
特に好ましい一実施形態では、本発明によるカソードペーストは、以下のさらなる特徴a:
a.カソードペーストが、室温において少なくとも2週間、好ましくは少なくとも4週間の期間、その粘度特性に関して安定であること、
を特徴とする。
【0034】
この状況における「室温」は、20~50%の相対湿度において20℃~25℃の範囲内の温度を意味する。この状況における「安定性」は、レオロジー的測定による値に基づいて求めることができる粘度(200/s(プレート-プレート40mm)において新しく測定)の変化が20%以下であることを意味する。例えば、粘度は4週間以内に1.3Pasから1.5Pasまで増加しうる。
【0035】
本発明者らは、比較試験において、本発明によるカソードペーストの粘度特性が、密閉容器中室温における長期間の保管中でさえも数週間安定なままであることを示すことができた。このようなより長い期間で、本発明によるカソードペーストの流動性はあまり変化しない。特に、カソードペーストの検出可能なゲル化は起こらず、材料は均一に混和可能で流動性を維持する。さらに、ペーストの構成要素の沈降は殆ど又は全く起こらない。カソードペーストの溶媒成分の蒸発が起こらないように、保管中にカソードペーストを密閉容器中に保存すると好都合である。
【0036】
例えば4週間を超える場合もあるより長い期間にわたる本発明によるカソードペーストの安定な粘度特性のために、カソードペーストの加工が大幅に単純化される。特に、カソードペーストを製造して保管し、必要なときにのみそれを使用することができる。さらに、これによって、カソードペーストの製造、保管、及び必要であれば輸送が可能となり、それによってカソードペーストを別の場所でさらに処理することができる。
【0037】
特に好ましい方法の1つでは、本発明によるカソードペーストは、以下のさらなる特徴a.及び/又はb.:
a.有機添加剤成分が、溶媒中に、0.1~10重量%の比率、好ましくは0.5~7重量%の比率、特に好ましくは1~5重量%の比率で存在すること;
b.N-メチルピロリドン及び/又はN-エチルピロリドンが、溶媒中に、60~99.9重量%、好ましくは80~99.5重量%の比率で存在すること、
の少なくとも1つを特徴とする。
【0038】
特に好ましい実施形態では、溶媒中の有機添加剤成分の比率は、有機添加剤成分がカソードペースト中の電極バインダー又はPVDFに対して化学量論量を超える量で加えられるように調整される。一般に、溶媒中に5重量%の比率の有機添加剤成分で十分である。カソードペースト中の混合比により、特に、カソードペースト中の電極バインダーの比率にもよるが、より少ない量で十分となる場合もある。好ましい実施形態では、例えば、5重量%の有機添加剤成分又は1.2重量%の有機添加剤成分が溶媒中に存在することができる。
【0039】
好ましい実施形態では、溶媒は、2つのみの成分、すなわち有機添加剤成分と、実際の溶媒のN-メチルピロリドン(NMP)及び/又はN-エチルピロリドン(NEP)とからなり、そのため溶媒のNMP及び/又はNEPと有機添加剤成分との比率の合計が100%となる。必要であれば、さらなる成分が溶媒中に存在し、例えばさらなる有機溶媒が存在し、又は例えば、NMP及びNEPが混合物として存在することもできる。NEPはNMPよりも毒性が低いと分類されるので、溶媒のNEPのみの使用が好ましい場合がある。
【0040】
さらなる好ましい一実施形態では、本発明によるカソードペーストは、以下のさらなる特徴a.~c.:
a.有機添加剤成分が、有機酸、特に酢酸、好ましくは無水酢酸、及び/又はシュウ酸及び/又はマロン酸である、又はこれらを含むこと;
b.有機添加剤成分が、有機酸の前駆体、特に有機酸のエステル、好ましくはオルト炭酸及び/又はギ酸のエステル、又は有機酸の無水物、好ましくは無水酢酸及び/又は無水マレイン酸である、又はこれらを含むこと;
c.有機添加剤成分が、C-H酸性有機化合物、特にエステル及び/又はジエステル及び/又はケトン及び/又はジケトン及び/又はニトリル及び/又はジニトリル、及び/又は有機ハロゲン化合物及び/又は混合置換化合物、特にアセト酢酸メチル、ジエチルマロン酸エステル、クロロ酢酸エステル、及び/又はアセト酢酸エチルである、又はこれらを含むこと、
の少なくとも1つを特徴とする。
特に、有機添加剤成分は、NMP及び/又はNEPに対して可溶性である、又はNMP及び/又はNEPと容易に混和性となる成分である。
【0041】
上記特徴a.~c.による好ましいすべての有機添加剤成分は、水酸化物イオンを中和することができ、したがってカソードペースト中のポリ二フッ化ビニリデンの架橋を確実に防止できる性質を有する。このプロセスで生じる化学的プロセスは変化する場合があるが、結果として、カソードペーストの結果が防止される。特に、これは、アルカリ性媒体中の水分に対する反応性によって、又は安定な塩を形成する強アルカリ性化合物との反応性によって、又は強酸性水素原子によるアルカリ化合物又は脱プロトンPVDFとの反応性によって生じうる。
さらに、有機添加剤成分、特に有機添加剤成分として使用される有機酸は、無水又は実質的に無水であることが好ましくなりうる。
アセト酢酸エチル及び/又は無水酢酸の有機添加剤としての使用は、この状況において特に有利であることが分かっている。
【0042】
本発明によるカソードペーストの特に好ましい実施形態では、カソードペーストは以下のさらなる特徴a:
a.有機添加剤成分が、アセト酢酸エチルエステルであり、溶媒中に1~5重量%、好ましくは5重量%の比率で存在すること、
を特徴とする。
【0043】
本発明によるカソードペーストの特に好ましい実施形態と同様に、代案の1つでは、カソードペーストは、以下のさらなる特徴a:
a.有機添加剤成分が、無水酢酸であり、溶媒中に1~5重量%、好ましくは1.2重量%の比率で存在すること、
を特徴とする。
【0044】
アセト酢酸エチルエステルが有機添加剤成分として使用された場合、及び無水酢酸が有機添加剤成分として使用された場合の両方で、本発明者らの試験によって、カソードペーストをより長期間、特に40日を超えるまで保管した後でさえも、ペーストのゲル化が起こらないことが示された。材料は、依然として均一に混和可能で流動性であり、そのためコーティングプロセスにおける処理に容易に適合できた。
【0045】
全体としてのカソードペースト中の溶媒の比率に関して、本発明によるカソードペーストは、特に好ましい方法では、以下のさらなる特徴a:
a.カソードペースト中の溶媒の比率が、10~50重量%の範囲内、好ましくは25~40重量%の範囲内、特に25~30重量%の範囲内であること、
を特徴とする。
【0046】
カソードペースト全体の組成に関して、有機添加剤成分の比率は、特に0.3%~2%の範囲内となりうる。
【0047】
全カソードペースト中の溶媒の比率、特に有機添加剤成分の比率は、別の成分の比率に適宜適合させることができる。特に、有機添加剤成分の比率は、化学量論比を超えるために、それぞれの活物質の量に適合させることができる。
【0048】
電極バインダーに関して、好ましい実施形態では、本発明によるカソードペーストは、以下のさらなる特徴a.又はb.:
a.ポリ二フッ化ビニリデンが、ポリ二フッ化ビニリデンホモポリマーであること;
b.ポリ二フッ化ビニリデンが、イオン架橋性成分を含むこと、
c.ポリ二フッ化ビニリデンが、200000g/mol~1000000g/molの範囲内、好ましくは400000g/mol~850000g/molの範囲内の平均分子量を有すること、
の少なくとも1つを特徴とする。
【0049】
好ましくは、電極バインダーはPVDFである。PVDFは、例えば粉末として提供することができる。リチウムイオンセルの製造に一般に使用されるPVDF材料は、電極バインダーとして特に適している。好ましくは、この場合のPVDFは高分子量であり、このことはこの分野の用途では一般的である。特に、典型的な電池用途に、ホモポリマーのPVDFを使用することができる。
【0050】
カソードペースト中のPVDFの総量は、好ましくは0.5重量%~20重量%の範囲内、より好ましくは1重量%~10重量%の範囲内である。幾つかの好ましい実施形態では、全カソードペースト中のPVDFの量は、特に1.5重量%±1重量%であってよい。
【0051】
カソードペーストが導電剤、好ましくは導電性カーボンブラックを含むことも好ましい。カソードペースト中の導電性カーボンブラックの比率は、通常の範囲内であってよい。例えば、導電性カーボンブラック又は一般に導電剤の比率は、1重量%~30重量%、特に好ましくは5重量%~20重量%の範囲内であってよい。本発明によるカソードペーストの特に好ましい一実施形態では、導電性カーボンブラックの比率は、3重量%±1重量%である。
【0052】
本発明は、特に前述の方法における有機添加剤成分を特徴とする本発明によるカソードペーストの製造方法をさらに含む。このカソードペーストの製造方法は、以下の方法ステップa.~g:
a.N-メチルピロリドン及び/又はN-エチルピロリドンと、水酸化物イオンの中和が可能であり、大気圧において50℃~210℃の範囲内の沸点を有する有機添加剤成分とを含む溶媒を提供するステップ;
b.ポリ二フッ化ビニリデンをベースとする電極バインダーを撹拌しながら上記溶媒中に溶解させるステップ;
c.場合により、導電剤、特に導電性カーボンブラックを加えるステップ;
d.式LiNiMnCo(ここで、x+y+z=1及びx≧0.6である)のリチウム-ニッケル-マンガン-コバルト混合酸化物、及び式LiNiCoAl(ここで、x+y+z=1及びx≧0.8である)のリチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム混合酸化物、及び上記リチウム混合酸化物の混合物からなる群から選択される金属リチウム混合酸化物であるステップ;
e.ステップd.によるリチウム混合酸化物を、ステップb.又はc.で得られた混合物と混合するステップ;
f.場合により、特定の粘度、特に1.25Pas-1.8Pasの範囲内の粘度(好ましくは、動的粘度測定プレート-プレート(40mm)を用いて200/sの剪断速度で測定される)に設定するために、ステップeで得られた混合物にさらなる溶媒を加えるステップ;
g.場合により、ステップf.で得られた混合物を濾過するステップ、
を含む。
【0053】
この方法では、活物質、すなわち金属リチウム混合酸化物が、中和前に電極バインダーPVDFと接触しないことが重要であり、その理由は、そうでなければ望ましくない架橋反応が起こる場合があるからである。したがって、有機溶媒NMP及び/又はNEPと有機添加剤成分とを含む溶媒中にPVDFを溶解させた後に、金属リチウム混合酸化物が加えられる。導電性カーボンブラックを含む場合もある溶媒とPVDFとの混合物へのリチウム混合酸化物の添加は、望ましくない架橋が確実に回避されるように、好ましくは段階的に及び/又はゆっくりと行われる。
【0054】
ステップf.において、記載の方法は、場合により、さらなる溶媒を加えることにより特定の粘度の設定が可能となる。プロセスステップf.におけるそれぞれの粘度及び/又はその任意選択の設定は、それぞれの条件及び用途に適合させることができる。
例えば50~70μmのメッシュサイズのふるい分けフィルターを用いた、方法のステップg.における得られた混合物の最終の濾過は、用途によっては有用な場合もあり、又は必要であれば省略することができる。
【0055】
本発明は、リチウムイオンセルを製造するため又は対応する電池を製造するための記載のカソードペーストの使用をさらに含み、本発明によるカソードペーストを集電体に塗布し、乾燥させて、セルのカソードが得られる。
【0056】
最後に、本発明は、少なくとも1つのカソードと少なくとも1つのアノードとを有するリチウムイオンセルの製造方法、又は対応する電池の製造方法を含む。原理上、この製造方法は、カソードの製造にカソードペーストが用いられる従来のリチウムイオンセルの製造方法と同じ方法で行うことができる。本発明による製造方法に特有の特徴は、本発明によるカソードペーストが、少なくとも1つのカソードの製造又は提供に使用されることであり、このカソードペーストは、記載のさらなる有機成分を特徴とする。この製造方法において、このカソードペーストを集電体に塗布し、乾燥させる。リチウムイオンセルを製造するための残りのステップは、当業者には周知である。
【0057】
カソードの集電体は、特に、アルミニウムの箔又はメッシュ又はその他の層であってよく、これは例えば1μm~500μmの間の厚さを有する。本発明によるカソードペーストは、種々の方法でこの集電体に塗布することができ、好ましくは塗布中に薄層が塗布される。層の厚さは、例えば25μm~150μmの範囲内であってよい。従来のドクターブレードプロセス(ドクターブレードコーティング)又はスロットノズルを用いた塗布をこの目的のために用いることができる。当然ながら別のコーティングプロセスも可能である。次に、層は乾燥され、この乾燥ステップ中に有機溶媒(NMP及び/又はNEP)及び有機添加剤成分は蒸発する。次に、結果として得られたカソード層は集電体に堅固に接着する。
【0058】
アノードの製造、セパレーターの配置、及び電解質の導入、並びに必要であれば、リチウムイオンセルを製造するためのさらなる手段、例えば電極の接触は、本来周知である方法で行うことができる。
【0059】
本発明による方法の特に好ましい一実施形態では、この方法は、以下のさらなる特徴a.:
a.集電体に塗布した後のカソードペーストの乾燥が、50℃~150℃の温度範囲内、好ましくは80℃~130℃の温度範囲内、特に100℃~120℃の温度範囲内で行われること、
を特徴とする。
【0060】
この乾燥ステップ中、有機溶媒NMP及び/又はNEPからなる溶媒と有機添加剤成分とが蒸発する。これは、有機添加剤成分と実際の溶媒NMP及び/又はNEPとが、結果として得られるカソード中に事実上もはや存在しないことを意味する。したがって本発明による有機添加剤成分の添加によって、カソードの性質に影響しうる追加の物質がカソード中に導入されることはない。
【0061】
有機添加剤成分の沸点が50℃~210℃の範囲内であるため、添加剤成分は、従来のカソードの製造方法において設けられる乾燥ステップ中に蒸発できることを特徴とする。特定の状況下では、乾燥条件、特に乾燥プロセス中の温度は、そのそれぞれの沸点により、それぞれの場合で用いられる有機添加剤成分に適合させることができる。この状況では、比較的低い沸点を有する添加剤成分は、乾燥中に比較的低い温度で操作されるプロセスに適している。添加剤成分が比較的高い沸点を有する場合は、それに応じて乾燥温度を選択すべきである。
【0062】
それらの沸点のため、例えば、100℃~120℃の範囲内の乾燥温度が使用される従来の製造プロセスでは、特に好ましい有機添加剤のアセト酢酸エチルエステル及び酢酸又は氷酢酸が適切となる。
【0063】
本発明による方法の特に好ましい一実施形態では、この方法は、以下のさらなる特徴a.:
a.少なくとも1つのカソードの形成が、大気圧条件において及び/又は通常の空気条件下で行われること、
を特徴とする。
【0064】
既に上記に説明したように、本発明による有機添加剤成分を使用することで、特に、カソードの活物質、すなわち特に高ニッケル含有量のリチウム混合酸化物の強い吸湿性のために生じるPVDFの望ましくない架橋反応を回避するための技術的に複雑な手段が不要となりうる。したがって、本発明によるカソードペーストがリチウムイオンセルの製造プロセスに使用される場合、有機添加剤成分によってPVDFの架橋が防止されるので、不活性ガス及び/又は非常に乾燥した雰囲気などの特殊な予防手段は不要となる。したがって、カソードペーストの製造若しくは混合プロセス、及びカソードペーストの集電体への塗布プロセスは、大気圧条件において及び/又は通常の空気条件下で行うことができる。これによって、より複雑でない方法で本発明によるカソードペーストを用いる製造プロセスの設計が可能となり、同時に、カソードの一貫した品質、したがって得られるリチウムイオンセルの一貫した品質が保証される。
【0065】
本発明のさらなる特徴及び利点は、図面と関連する実施形態の実施例の以下の説明によって示される。ここで、個別の特徴は、それぞれ別々に、又は互いの組み合わせで実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1】本発明のカソードペーストを集電体に塗布するための代表的な方法を示している。
【発明を実施するための形態】
【0067】
本発明者らは種々の比較試験を行い、結果として得られる本発明によるカソードペーストの粘度特性を従来のカソードペーストと、それぞれより長い期間の後に比較した。
【0068】
有機添加剤成分を有しない比較用ペースト、及び本発明によるカソードペーストを以下の説明により調製した。
【実施例
【0069】
a)有機添加剤成分を有しない比較カソードペースト(NMC-622)
プラスチック容器中で、142.5gのN-エチルピロリドン(NEP)又はN-メチルピロリドン(NMP)を溶媒として量り取った。この溶媒に、激しい撹拌下で7.5gのPVDF粉末(Kynar HSV1810;Arkema,France)を加え、PVDF粉末が完全に溶解するまで撹拌した。
この溶液を15gの導電性カーボンブラック(LiTX200,Cabot,USA)と混合し、均一混合物(カーボンブラックペースト)が得られるまで激しく撹拌した。
720gのNMC-622カソード活物質(Umicore,Brussels,Belgiumより購入)を混合容器中に量り取った。この材料に、上記カーボンブラックペーストを複数の段階に分けて加えた。それぞれの添加段階の後、材料が均一に分散し凝集物のないペーストが得られるまで、得られた混合物を二重遊星ミキサー中で混練した。指定の最終粘度を設定するため、40gのさらなる溶媒(NEP又はNMP)を加えた(すべての例で同じ個体含有量を設定した)。
上記ペーストを濾過し、次にレオロジー的に試験し、凝集体の存在を試験した。さらなる試験のため、ペーストを密閉したプラスチック容器中に保管した。
22℃及び20~30%の室内湿度で28日間保管した後、ペーストの透明なゲル化が観察された。材料は固体であり、もはや均一に混和できなかった。流動性はもはや存在しなかった。
【0070】
b)NEP又はNMPとアセト酢酸エチルエステルとを有するカソードペースト(NMC-622)
プラスチック容器中で、7.13gのアセト酢酸エチルエステル(AEE)と135.37gのN-エチルピロリドン(NEP)又はN-メチルピロリドン(NMP)とを量り取った。この溶媒混合物に、激しい撹拌下で7.5gのPVDF粉末(Kynar HSV1810;Arkema,France)を加え、PVDF粉末が完全に溶解するまで撹拌した。
この溶液を15gの導電性カーボンブラック(LiTX200,Cabot,USA)と混合し、均一混合物(カーボンブラックペースト)が得られるまで激しく撹拌した。
720gのNMC-622カソード活物質(Umicore,Brussels,Belgiumより購入)を混合容器中に量り取った。この材料に、上記カーボンブラックペーストを複数の段階に分けて加えた。それぞれの添加段階の後、材料が均一に分散し凝集物のないペーストが得られるまで、得られた混合物を二重遊星ミキサー中で混練した。指定の最終粘度を設定するため、40gのさらなる溶媒(1:19の比率のAEEとNEP又はNMP)を加えた(すべての例で同じ個体含有量を設定した)。
上記ペーストを濾過し、次にレオロジー的に試験し、凝集体の存在を試験した。さらなる試験のため、ペーストを密閉したプラスチック容器中に保管した。
22℃及び20~30%の室内湿度で43日間保管した後、ペーストのゲル化は観察されなかった。材料はわずかに沈降し、均一に混和可能であった。流動性は依然として存在した。
【0071】
c)NEP又はNMPと無水酢酸(氷酢酸)とを有するカソードペースト(NMC-622)
プラスチック容器中で、1.71gの酢酸(氷酢酸)と、140.79gのN-エチルピロリドン(NEP)又はN-メチルピロリドン(NMP)とを量り取った。この溶媒混合物に、激しい撹拌下で7.5gのPVDF粉末(Kynar HSV1810;Arkema,France)を加え、PVDF粉末が完全に溶解するまで撹拌した。
この溶液を15gの導電性カーボンブラック(LiTX200,Cabot,USA)と混合し、均一混合物(カーボンブラックペースト)が得られるまで激しく撹拌した。
720gのNMC-622カソード活物質(Umicore,Brussels,Belgiumより購入)を混合容器中に量り取った。この材料に、上記カーボンブラックペーストを複数の段階に分けて加えた。それぞれの添加段階の後、材料が均一に分散し凝集物のないペーストが得られるまで、得られた混合物を二重遊星ミキサー中で混練した。指定の最終粘度を設定するため、さらなる溶媒(3:247の比率で氷酢酸をNEP又はNMPと混合した)を加えた(すべての例で同じ個体含有量を設定した)。
上記ペーストを濾過し、次にレオロジー的に試験し、凝集体の存在を試験した。さらなる試験のため、ペーストを密閉したプラスチック容器中に保管した。
22℃及び20~30%の室内湿度で41日間保管した後、ペーストのゲル化は観察されなかった。材料はある程度沈降し、均一に混合可能であった。流動性は依然として存在した。
【0072】
d)有機添加剤成分を有しない比較カソードペースト(NMC-811)
実施例a)と同様にカーボンブラックペーストを調製した。720gのカソード活物質NMC-811(Umicore,Brussels,Belgiumより購入)を混合容器中に量り取った。実施例1と同様に材料をさらに処理して均一ペーストを得て、試験を行った。
22℃及び20~30%の室内湿度で27日間保管した後、ペーストのゲル化が観察された。材料は固体であり、もはや均一に混和できなかった。流動性はもはや存在しなかった。
【0073】
e)NEP又はNMPとアセト酢酸エチルエステルとを有するカソードペースト(NMC-811)
実施例b)と同様にカーボンブラックペーストを調製した。720gのカソード活物質NMC-811(Umicore,Brussels,Belgiumより購入)を混合容器中に量り取った。実施例b)と同様に材料をさらに処理して均一ペーストを得て、試験を行った。
22℃及び20~30%の室内湿度で36日間保管した後、ペーストのゲル化は観察されなかった。材料は均一に混和可能であった。流動性は非常に良好であった。
全体として、これらの試験によって、カソードペーストの溶媒に有機添加剤成分を加えることで、望ましくないゲル化を確実に防止できることが示された。
【0074】
図1は、リチウムイオンセルの製造における本発明によるカソードペーストのさらなる処理のための代表的な可能性の1つを示している。ドクターブレードプロセスでカソードペーストが集電体に塗布され、次に乾燥される。
【0075】
最初に、前述の説明により、例えば実施形態b)又はc)又はe)により、カソードペースト1が調製される。カソードペースト1はプラスチック容器10中に入れられ、撹拌機20を用いて均質化される(ステップA)。
【0076】
カソードを製造するために、カソードペースト1は、集電体2、特にアルミニウム箔に薄層として塗布される。このために、集電体2はキャリア30上に配置され、ドクターブレード40を用いてカソードペースト1は薄層として集電体2に均一に塗布される(ステップB)。
【0077】
続いて、カソードペースト層は50℃~150℃の範囲内の温度で乾燥される。100℃~120℃の温度範囲での乾燥が特に好ましい。状況によるが、乾燥は、数分から約1時間、例えば5~60分の時間で行うことができる。この乾燥中、溶媒は有機溶媒NMP又はNEP及び有機添加剤成分とともに蒸発する。このプロセスによって、カソードペースト1が集電体2に塗布されており、溶媒が蒸発している完成カソード100が得られる。このカソード100は、機能性リチウムイオンセルを製造するためにそれ自体周知である方法にさらに使用することができる。
図1
【国際調査報告】