IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ロイヤル メルボルン インスティチュート オブ テクノロジーの特許一覧 ▶ ピーター・マッカラム・キャンサー・インスティテュートの特許一覧

特表2024-526583核酸を検出するための導電率センサ及びその検出方法
<>
  • 特表-核酸を検出するための導電率センサ及びその検出方法 図1
  • 特表-核酸を検出するための導電率センサ及びその検出方法 図2
  • 特表-核酸を検出するための導電率センサ及びその検出方法 図3
  • 特表-核酸を検出するための導電率センサ及びその検出方法 図4
  • 特表-核酸を検出するための導電率センサ及びその検出方法 図5
  • 特表-核酸を検出するための導電率センサ及びその検出方法 図6
  • 特表-核酸を検出するための導電率センサ及びその検出方法 図7
  • 特表-核酸を検出するための導電率センサ及びその検出方法 図8
  • 特表-核酸を検出するための導電率センサ及びその検出方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】核酸を検出するための導電率センサ及びその検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/04 20060101AFI20240711BHJP
   C12Q 1/6825 20180101ALI20240711BHJP
   C12Q 1/6827 20180101ALI20240711BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240711BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
G01N27/04 Z ZNA
C12Q1/6825 Z
C12Q1/6827 Z
C12M1/00 A
C12M1/34 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579370
(86)(22)【出願日】2022-06-23
(85)【翻訳文提出日】2024-02-22
(86)【国際出願番号】 AU2022050637
(87)【国際公開番号】W WO2022266714
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】2021901896
(32)【優先日】2021-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517333347
【氏名又は名称】ロイヤル メルボルン インスティチュート オブ テクノロジー
【氏名又は名称原語表記】ROYAL MELBOURNE INSTITUTE OF TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】124 La Trobe Street,Melbourne,Victoria 3000,Australia
(71)【出願人】
【識別番号】521197450
【氏名又は名称】ピーター・マッカラム・キャンサー・インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アハメド,タイムール
(72)【発明者】
【氏名】ペレラ,ガンガナート
(72)【発明者】
【氏名】ワリア,スミート
(72)【発明者】
【氏名】バースカラン,マドゥー
(72)【発明者】
【氏名】スリラム,シャラート
(72)【発明者】
【氏名】フォックス,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】フェローズ,アンドリュー
【テーマコード(参考)】
2G060
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G060AA07
2G060AA19
2G060AD06
2G060AE17
2G060AF08
2G060AG10
2G060AG15
2G060KA10
4B029BB20
4B029CC07
4B029FA01
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ41
4B063QR82
4B063QS34
4B063QX04
(57)【要約】
本発明は、核酸を検出するためのセンサであって、基板と、互いに離間して対向する関係で基板上に配置された一対の端子電極と、一対の端子電極の間にあり、一対の端子電極と電気的に接触しているセンサ素子とを備え、センサ素子が、(i)基板の半導体部分であって、端子電極間の導電路が半導体部分を貫通する、半導体部分と、(ii)半導体部分の表面上のオリゴヌクレオチドであって、検出される核酸に相補的である、オリゴヌクレオチドとを含み、核酸とオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションがセンサの抵抗の変化をもたらす、センサを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸を検出するためのセンサであって、
基板と、
互いに離間して対向する関係で前記基板上に配置された一対の端子電極と、
前記一対の端子電極の間にあり、前記一対の端子電極と電気的に接触しているセンサ素子とを備え、前記センサ素子が、
(i)前記基板の半導体部分であって、前記端子電極間の導電路が前記半導体部分を貫通する、半導体部分と、
(ii)前記半導体部分の表面上のオリゴヌクレオチドであって、検出される前記核酸に相補的である、オリゴヌクレオチドと
を含み、
前記核酸と前記オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションが前記センサの抵抗の変化をもたらす、センサ。
【請求項2】
前記半導体部分が、100オーム・cmよりも大きい抵抗率を有する、請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記半導体部分が、約500オーム・cmから約5000,000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する、請求項1又は2に記載のセンサ。
【請求項4】
前記半導体部分が、約1000オーム・cmから約10000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項5】
前記半導体部分が、高抵抗率非酸化物半導体を含む、請求項1に記載のセンサ。
【請求項6】
前記非酸化物半導体が、100オーム・cmよりも大きい抵抗率を有する、請求項5に記載のセンサ。
【請求項7】
前記非酸化物半導体が、約500オーム・cmから約50,000オーム・cmの範囲、好ましくは約1000オーム・cmから約10000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する、請求項5又は請求項6に記載のセンサ。
【請求項8】
約10キロオームから約10000キロオームの範囲の電気抵抗を有する、請求項5から7のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項9】
前記非酸化物半導体が、元素半導体及び化合物半導体からなる群から選択され、好ましくは元素半導体である、請求項5から8のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項10】
前記非酸化物半導体が、シリコン半導体である、請求項5から9のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項11】
前記シリコン半導体が、真性シリコン半導体である、請求項10に記載のセンサ。
【請求項12】
前記シリコン半導体が、フロートゾーンシリコン半導体である、請求項10又は請求項11に記載のセンサ。
【請求項13】
前記基板が、その一体部分として前記半導体部分を含む、請求項5から11のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項14】
前記基板が、前記非酸化物半導体のウェハである、請求項13に記載のセンサ。
【請求項15】
前記半導体部分が、酸素欠損金属酸化物を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項16】
前記酸素欠損金属酸化物が、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ストロンチウムチタン(STO)、酸化スズ(SnO)、及び二酸化チタン(TiO)からなる群から選択される、請求項15に記載のセンサ。
【請求項17】
前記酸素欠損金属酸化物の層が、酸素欠損酸化亜鉛である、請求項15又は16に記載のセンサ。
【請求項18】
前記オリゴヌクレオチドが、前記半導体部分に化学的に結合している、請求項1から17のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項19】
前記オリゴヌクレオチドが、(i)エポキシ基、チオール基、アミノ基、カルボキシ基及びヒドロキシ基からなる群から選択される末端官能基を有するシラン化剤で前記半導体部分をシラン化すること、及び(ii)オリゴヌクレオチドを前記末端官能基と反応させることを含むプロセスによって、前記半導体部分に化学的に結合される、請求項18に記載のセンサ。
【請求項20】
前記シラン化剤が、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GPS)、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン(MTS)、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)、及びN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル-トリメトキシシラン(AEAPTS)からなる群から選択される、請求項19に記載のセンサ。
【請求項21】
前記オリゴヌクレオチドが、天然のDNA配列に対する単一点突然変異を有する核酸に相補的である、請求項1から20のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項22】
前記オリゴヌクレオチドが、前記オリゴヌクレオチドの3’末端を介して前記半導体部分の表面に付着している、請求項1から21のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項23】
前記オリゴヌクレオチドが、前記オリゴヌクレオチドの5’末端を介して前記半導体部分の表面に付着している、請求項1から21のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項24】
前記オリゴヌクレオチドがBRAFオリゴヌクレオチドである、請求項1から23のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項25】
前記オリゴヌクレオチドが配列番号1又は配列番号2である、請求項1から23のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項26】
核酸を検出するための方法であって、
(a)請求項1から25のいずれか一項に記載のセンサのセンサ素子を核酸を含み得る物質と接触させる工程と、
(b)前記センサの抵抗に対応する前記センサの電気化学パラメータを測定する工程と、
(c)工程(b)で測定された電気化学パラメータに基づいて前記センサ素子上の核酸の有無を検出する工程と
を含む方法。
【請求項27】
前記センサの電気化学パラメータを測定することが、(i)前記センサの両端間に電圧を印加すること、及び(ii)前記センサを通る電流フローを測定することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記核酸配列の有無を検出することが、前記電気化学パラメータを前記センサのそのパラメータの基準値と比較することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記センサを試料溶液と1分から60分の時間接触させる、請求項26から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記センサを前記試料溶液と1分から10分の時間接触させる、請求項26から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記オリゴヌクレオチドが、天然のDNA配列に対する単一点突然変異を有する核酸に相補的である、請求項26から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記オリゴヌクレオチドが、前記オリゴヌクレオチドの3’末端を介して前記センサ素子の表面に付着している、請求項26から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記オリゴヌクレオチドが、前記オリゴヌクレオチドの5’末端を介して前記センサ素子の表面に付着している、請求項26から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記オリゴヌクレオチドが、BRAFオリゴヌクレオチドである、請求項26から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記オリゴヌクレオチドが、配列番号1又は配列番号2である、請求項26から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
核酸を検出するためのセンサを製造する方法であって、
a.半導体部分を含む基板を用意する工程と、
b.互いに離間して対向する関係にある一対の端子電極を前記基板上に作製する工程であって、前記基板の前記半導体部分が前記端子電極間に配置されて前記端子電極と電気的に接触し、前記端子電極間の導電路が前記半導体部分を貫通する、工程と、
c.前記半導体部分の表面に、検出される前記核酸に相補的なオリゴヌクレオチドを固定化し、それにより、(i)前記半導体部分及び(ii)前記オリゴヌクレオチドを含むセンサ素子を作製する工程と
を含む、方法。
【請求項37】
前記半導体部分が、100オーム・cmよりも大きい抵抗率を有する、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記半導体部分が、約500オーム・cmから約5000,000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する、請求項36又は37に記載のセンサ。
【請求項39】
前記半導体部分が、約1000オーム・cmから約10000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する、請求項36から38のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項40】
前記半導体部分が、高抵抗率非酸化物半導体を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項41】
前記非酸化物半導体が、100オーム・cmよりも大きい抵抗率を有する、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記非酸化物半導体が、約500オーム・cmから約50,000オーム・cmの範囲、好ましくは約1000オーム・cmから約10000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する、請求項40又は請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記センサが、約10キロオームから約10000キロオームの範囲の電気抵抗を有する、請求項40から42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記非酸化物半導体が、元素半導体及び化合物半導体からなる群から選択され、好ましくは元素半導体である、請求項40から43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記非酸化物半導体が、シリコン半導体である、請求項40から44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記シリコン半導体が、真性シリコン半導体である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記シリコン半導体が、フロートゾーンシリコン半導体である、請求項45又は請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記基板が、その一体部分として前記半導体部分を含む、請求項36から47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記基板が、前記非酸化物半導体のウェハである、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記半導体部分が、酸素欠損金属酸化物を含む、請求項36から49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記酸素欠損金属酸化物が、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ストロンチウムチタン(STO)、酸化スズ(SnO)、及び二酸化チタン(TiO)からなる群から選択される、請求項50に記載のセンサ。
【請求項52】
前記酸素欠損金属酸化物の層が、酸素欠損酸化亜鉛である、請求項50又は51に記載の方法。
【請求項53】
前記オリゴヌクレオチドが、前記半導体部分に化学的に結合している、請求項36から52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記オリゴヌクレオチドが、(i)エポキシ基、チオール基、アミノ基、カルボキシ基及びヒドロキシ基からなる群から選択される末端官能基を有するシラン化剤で前記半導体部分をシラン化すること、及び(ii)オリゴヌクレオチドを前記末端官能基と反応させることを含むプロセスによって、前記半導体部分に化学的に結合される、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記シラン化剤が、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GPS)、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン(MTS)、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)、及びN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル-トリメトキシシラン(AEAPTS)からなる群から選択される、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記オリゴヌクレオチドが、天然のDNA配列に対する単一点突然変異を有する核酸配列に相補的である、請求項36から55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記オリゴヌクレオチドが、前記オリゴヌクレオチドの3’末端を介して前記半導体部分の表面に付着している、請求項36から56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記オリゴヌクレオチドが、前記オリゴヌクレオチドの5’末端を介して前記半導体部分の表面に付着している、請求項36から56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記オリゴヌクレオチドが、BRAFオリゴヌクレオチドである、請求項36から58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記オリゴヌクレオチドが、配列番号1又は配列番号2である、請求項36から59のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサに関し、特に、流体中の核酸配列を検出するための導電率センサ及びそのようなセンサを用いて核酸を検出するための方法に関する。本発明は、主に、体液又は組織などの試料の中の核酸の検出、及び試料に由来する核酸の検出に使用するために開発されており、この例示的な用途を参照して以下に説明される。
【0002】
本発明の背景の以下の議論は、本発明の理解を容易にすることを意図している。ただし、当然のことながら、その議論は、言及された内容のいずれかが、本明細書の特許請求の範囲のいずれか1つの優先日に、オーストラリア又は他の国において公開された、又は公知の、又は共通の一般知識の一部であったことを肯定又は承認するものではない。
【背景技術】
【0003】
目的の異なる核酸を正確に検出する能力は、広範囲の技術分野で応用されているが、医療診断及び治療に使用されるセンサにおいて特に重要である。例えば、これは、個体から得られた試料中の特定の核酸配列の存在が、癌などの疾患に罹患している個体につながる個体における遺伝子突然変異を示す用途を見出す。これは、天然の核酸(例えば、RNA及びサブタイプ、DNA、メチル化タイプ)と疾患に罹患している個体の核酸との間の差が核酸中の単一点突然変異である場合及び/又は個体中の核酸の変化に基づいて適切な治療が決定される場合に特に重要である。
【0004】
このタイプの疾患の例は、BRAF V600E単一塩基変異体を有する黒色腫である。黒色腫は一般的な皮膚癌であり、末期に特定された場合に死亡率が高い(オーストラリアでは年間約1700人が死亡)世界的な健康上の憂慮事項である。BRAF V600Eは、黒色腫における一般的な発癌点変異(約40%)であり、抗BRAF標的療法には同定が必要である。特定の治療は突然変異を標的とするが、他の方法では効果がない場合に、核酸のこのような微かな変化を同定する能力は不可欠である。これらの内科的疾患を有する患者の予後不良を考えると、正しい治療にアクセスすることは、死亡率を改善するために不可欠である。診断、予後及び治療上重要な核酸の変化/突然変異の他の例は複数ある。
【0005】
突然変異を検出する能力などの特定の核酸を検出することの利益を前提として、これらの分野では重要な研究が行われてきた。したがって、黒色腫におけるBRAF V600EなどのDNA中の突然変異を検出するために、広範囲の従来のPCRベースの技術、対立遺伝子特異的PCR、液滴デジタルPCR、高分解能融解PCR、並びにサンガー及び次世代シークエンシングなどのPCRクランピング及びシークエンシングが広く使用されている。残念なことに、従来の突然変異DNA検出方法は、癌同定技術として使用される場合、試料の調製や、試料の取り扱い、操作及びデータ分析の複雑さに大いに悩まされる。更に、試験は非常に時間がかかり、面倒であり、高価である。
【0006】
例えば、従来のBRAF V600E変異型DNA検出技術には、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づく技術、及び従来のサンガー及びより最近の次世代シーケンシングなどのシーケンスベースアプローチが含まれる。
【0007】
これらの従来の方法は、少なくとも以下の一般的な欠点、(i)特定の技術的技能及び知識の必要性、(ii)高価でかさばる装置及び試験コスト、(iii)偽陽性/陰性結果をもたらす試料汚染に対する過度の負担、(iv)複雑で時間のかかる試料調製方法(数時間から数日までさまざま)、及び(v)試料の取り扱い、機器の準備及び操作における実験条件の慎重な制御の必要性、を伴う。
【0008】
別法として、核酸中の点突然変異などの突然変異を検出するための光学センサが提案されており、蛍光分光法、表面増強ラマン分光法、発光分光法、及び表面プラズモン共鳴分光法などの検出方法が利用されている。核酸配列における点突然変異検出のためのこれらの光学センサは、以下の制約、すなわち、(i)かさばる測定用機器の必要性、(ii)目的のバイオマーカーを検出するための適切な光学活性タグ/標識の必要性(例えば、蛍光分光法)、(iii)感受性の欠如につながる標的バイオマーカーとバックグラウンド成分の光学バンドの密接な重複、(iv)検出(例えば、表面増強ラマン分光法及び表面プラズモン分光法)のためにナノ粒子の細胞傷害性をもたらし得るナノ粒子の必要性、(v)光安定性の限界及び認識能力の喪失、(vi)pH、温度、及び酸素レベルなどの要因による干渉に対する感受性、という制約を受ける。
【0009】
核酸配列中の点突然変異などの突然変異の検出のための電気化学センサもこれまでに提案されており、アンペロメトリ、ボルタンメトリ(サイクリック、方形波、差動パルス)、電界効果トランジスタ、及び電気化学インピーダンス分光法などの検出方法を利用してきた。
【0010】
核酸配列における点突然変異検出などの突然変異の検出のためのこれらの電気化学センサは、以下の欠点を有する。(i)従来の電気化学的方法は、複雑な検出技術(例えば、電気化学インピーダンス分光法及び電界効果トランジスタ)を必要とするが、本発明では、単純な導電率測定検出方法を使用する。(ii)電界効果トランジスタ及びサイクリックボルタンメトリーなどの電気化学的方法は、高い電力消費につながる複数の電極を必要とするが、本発明では、2つの端子電極を使用して電力消費が少ない。(iii)いくつかの電気化学的方法は、特定の材料及び複雑なセンサ製造方法(例えば、ナノ材料関連センサプラットフォーム)を利用する。(iv)いくつかの電気化学技術は、シグナル増幅のために特定の酵素(例えば、エンドヌクレアーゼ)を必要とし、シグナル生成のために特定のレドックス対(例えば、アンペロメトリ)を必要とするが、本発明では、検出のためにこれらの材料を必要としない。
【0011】
したがって、突然変異を含むDNA配列などの核酸の検出を可能にする方法を開発することが望ましいにもかかわらず、この結果を達成するためのさらなる方法が依然として必要である。
【0012】
本発明は、試料中の核酸のレベルを検出及び/又は定量するのに使用するためのセンサ、並びに変化した核酸のレベルを検出及び/又は定量するための方法を提供しようとするものであり、これは先行技術の欠点の少なくともいくつかを克服するか、又は実質的に改善するか、又は少なくとも有用な代替物を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様によれば、核酸を検出するためのセンサであって、基板と、互いに離間して対向する関係で基板上に配置された一対の端子電極と、一対の端子電極の間にあり、一対の端子電極と電気的に接触しているセンサ素子とを備え、センサ素子が、(i)基板の半導体部分であって、端子電極間の導電路が半導体部分を貫通する、半導体部分と、(ii)半導体部分の表面上のオリゴヌクレオチドであって、検出される核酸に相補的である、オリゴヌクレオチドとを含み、核酸とオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションがセンサの抵抗の変化をもたらす、センサが提供される。
【0014】
センサ素子の一部を形成する基板の半導体部分は、多くの形態をとることができる。一実施形態では、半導体部分は、高抵抗率非酸化物半導体を含む。一実施形態では、半導体部分は、酸素欠損金属酸化物を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、半導体部分は、100オーム・cmを超える抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、半導体部分は、200オーム・cmを超える抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、半導体部分は、500オーム・cmを超える抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、半導体部分は、1000オーム・cmを超える抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、半導体部分は、2000オーム・cmを超える抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、半導体部分は、5000オーム・cmを超える抵抗率を有する。
【0016】
いくつかの実施形態では、半導体部分は、約500オーム・cmから約5000,000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、半導体部分は、約1000オーム・cmから約5000,000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、半導体部分は、約5000オーム・cmから約5000,000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、半導体部分は、約1000オーム・cmから約10000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する。
【0017】
いくつかの実施形態では、半導体部分は、高抵抗率非酸化物半導体を含む。いくつかの実施形態では、非酸化物半導体は、100オーム・cmを超える抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、非酸化物半導体は、約500オーム・cmから約50,000オーム・cmの範囲、又は約1000オーム・cmから約10000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する。
【0018】
いくつかの実施形態では、センサは、約10キロオームから約10000キロオームの範囲の電気抵抗を有する。
【0019】
いくつかの実施形態では、非酸化物半導体は、元素半導体及び化合物半導体からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、非酸化物半導体は元素半導体である。
【0020】
いくつかの実施形態では、非酸化物半導体はシリコン半導体である。シリコン半導体は、真性シリコン半導体であってもよい。シリコン半導体は、フロートゾーン型のシリコン半導体であってもよい。
【0021】
いくつかの実施形態では、基板は、その一体部分として半導体部分を含む。基板は、非酸化物半導体のウェハであってもよい。
【0022】
別の実施形態では、半導体部分は、酸素欠損金属酸化物を含む。いくつかの実施形態では、酸素欠損金属酸化物は、約500オーム・cmから約5000,000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、酸素欠損金属酸化物は、約1000オーム・cmから約5000,000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、酸素欠損金属酸化物は、約5000オーム・cmから約5000,000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、酸素欠損金属酸化物は、約1000オーム・cmから約10000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する。
【0023】
いくつかの実施形態では、酸素欠損金属酸化物は、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ストロンチウムチタン(STO)、酸化スズ(SnO)、及び二酸化チタン(TiO)からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、酸素欠損金属酸化物層は、酸素欠損酸化亜鉛である。
【0024】
いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチドは、例えば、シラン化剤の残基であり得る有機リンカーによって、半導体部分に化学的に結合している。オリゴヌクレオチドは、(i)非酸化物半導体を、エポキシ基、チオール基、アミノ基、カルボキシ基及びヒドロキシ基からなる群から選択される末端官能基を有するシラン化剤でシラン化すること、及び(ii)オリゴヌクレオチドを含む前駆体を末端官能基と反応させることを含むプロセスによって、半導体層に化学的に結合され得る。シラン化剤は、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GPS)、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン(MTS)、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)、及びN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル-トリメトキシシラン(AEAPTS)からなる群から選択される。
【0025】
いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチドは、天然のDNA配列に対する単一点突然変異を有する核酸に相補的である。いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチドは、天然のDNA配列に対して挿入又は欠失突然変異を有する核酸に相補的である。いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの3’末端を介して半導体部分の表面に付着している。いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの5’末端を介して半導体部分の表面に付着している。いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチドは、少なくとも1つの2’-O,4’-C-メチレン-β-D-リボフラノシルヌクレオチド単量体単位、すなわち、ロックド核酸(LNA)を含む(Vester,B.,Wengel,J.,LNA(locked nucleic acid):high-affinity targeting of complementary RNA and DNA.Biochemistry 43,13233-13241(2004)。
【0026】
いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチドは、ヒトBRAF遺伝子の配列に相補的である。いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチドは、マイクロRNA配列に相補的である。いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチドは、薬理遺伝学的遺伝子の変異体に相補的である。
【0027】
センサは、好適には導電率センサである。したがって、センサは、端子電極間に電圧を印加し、センサの導電路を通る電流フローを測定するための装置を備えることができる。この装置は、好適にはポテンショスタットであってもよい。したがって、実施形態では、センサは電界効果トランジスタではない。
【0028】
本発明の第2の態様によれば、核酸を検出するための方法であって、(a)本発明のセンサのセンサ素子を核酸を含み得る物質と接触させる工程と、(b)センサの抵抗に対応するセンサの電気化学パラメータを測定する工程と、(c)工程(b)で測定された電気化学パラメータに基づいてセンサ素子上の核酸の有無を検出する工程とを含む方法が提供される。
【0029】
本出願人らは、核酸とオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションがセンサの抵抗の変化をもたらすことを見出した。理論に拘束されることを望むものではないが、これは、標的核酸のオリゴヌクレオチドへのハイブリダイゼーションによって引き起こされる電気的環境の変化に起因すると考えられる。測定され得るいくつかの異なるパラメータがある。一実施形態では、センサの電気化学パラメータを測定することは、(i)センサの両端間に電圧を印加すること、及び(ii)センサを通る電流フローを測定することを含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、センサの電気化学パラメータを測定することは、(i)センサの両端間に電圧を印加すること、及び(ii)センサを通る電流フローを測定することを含む。
【0031】
いくつかの実施形態では、核酸の有無を検出することは、工程b)で測定された電気化学パラメータをセンサのそのパラメータの基準値と比較することを含む。いくつかの実施形態では、センサの基準抵抗に対するセンサの抵抗の増加は、センサ上の核酸、したがって試料中の核酸の存在を示す。
【0032】
いくつかの実施形態では、物質は、組織及び/又は体液から抽出された核酸からの試料溶液である。
【0033】
本発明の第3の態様によれば、核酸を検出するためのセンサを製造する方法であって、半導体部分を含む基板を用意する工程と、互いに離間して対向する関係にある一対の端子電極を基板上に作製する工程であって、基板の半導体部分が端子電極間に配置されて端子電極と電気的に接触し、端子電極間の導電路が半導体部分を貫通する、工程と、半導体部分の表面に、検出される核酸に相補的なオリゴヌクレオチドを固定化し、それにより、(i)半導体部分及び(ii)オリゴヌクレオチドを含むセンサ素子を作製する工程とを含む方法が提供される。
【0034】
本発明の他の態様も開示される。
【0035】
本発明の範囲内にあり得る他の形態にもかかわらず、本発明の好ましい実施形態は、ここでは添付の図面を参照して単なる例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、本発明の特定の実施形態による核酸を検出するための導電率センサの一実施形態の概略図を示し、センサは、半導体部分の表面に固定化されたオリゴヌクレオチドを有するセンサ基板の半導体部分を含むセンサ素子を有し、オリゴヌクレオチドは、検出される核酸配列に相補的である。
図2図2は、図1に示す導電率センサを製造するための方法の概略図を示す。
図3図3は、本発明の特定の実施形態による核酸を検出するための導電率センサの別の実施形態の概略図を示し、センサは、半導体部分の表面に固定化されたオリゴヌクレオチドを有するセンサ基板の半導体部分を含むセンサ素子を有し、オリゴヌクレオチドは、検出される核酸配列に相補的である。
図4図4は、図3に示す導電率センサを製造するための方法の概略図を示す。
図5図5は、高抵抗率非酸化物半導体上のセンサ形成及び核酸検出の概略図を示す。
図6図6は、酸素欠損金属酸化物上のセンサ形成及び核酸配列検出の概略図を示す。
図7図7は、金属酸化物(ZnO(1-x)センサ)上の(a)3’及び(b)5’アミン固定化オリゴヌクレオチド上の一点変異DNAの検出のグラフ表示を示す。
図8図8は、金属酸化物(ZnO(1-x)センサ)上の(a)3’及び(b)5’アミン固定化オリゴヌクレオチド上の変異DNAの選択性実験のグラフ表示を示す。
図9図9は、シリコンセンサ上の5’アミン固定化オリゴヌクレオチド上の一点変異DNAの検出のグラフ表示を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
配列識別子の概要
【表1】
【0038】
BRAF 3’-アミンDNAオリゴヌクレオチド(配列番号1)
(5’-GGTCTAGCTACAGAGAAATCTCGAT/3AmMO/-3’)
【0039】
BRAF 5’-アミンDNAオリゴヌクレオチド(配列番号2)
(5’-/AmMC6/GGTCTAGCTACAGAGAAATCTCGAT-3’)
【0040】
本発明は、核酸を検出するための導電率センサに関する。センサは、基板と、基板上に相互に離間して対向する関係で配置された一対の端子電極と、一対の端子電極の間に配置され、一対の端子電極と電気的に接触するセンサ素子とを備える。センサ素子は、(i)基板の半導体部分と、(ii)半導体部分の表面上の1つ又は複数のオリゴヌクレオチドであって、検出される核酸に相補的なオリゴヌクレオチドとを含む。端子電極間の電気的な導電路は、半導体部分を貫通している。使用時に、オリゴヌクレオチドへの核酸配列の結合は、センサの電気抵抗の変化を引き起こす。理論に拘束されることを望むものではないが、オリゴヌクレオチドへの核酸配列の結合は、センサ上の電子密度の変化をもたらし、ひいてはセンサの抵抗の変化をもたらすと考えられる。したがって、抵抗の増加は、センサの抵抗に対応するセンサの電気化学パラメータを測定することによって調べることができる。例えば、抵抗は、センサの両端間に電圧が印加されたときの電流応答を測定することができ、したがって、核酸の有無及び/又は濃度を検出することができる。一実施形態では、試料中の目的の核酸の存在は、センサを試料とインキュベーションした後のセンサの抵抗の増加によって示される。更に別の実施形態では、試料中の目的の核酸の存在は、センサを試料とインキュベーションした後のセンサの抵抗の増加によって示されるが、天然配列とのインキュベーションは抵抗の減少をもたらした。
【0041】
したがって、本発明のセンサは、試料中、例えば、流体中の潜在的な核酸の範囲を検出するための導電率検出技術を使用する。例示的な流体の例としては、ヒトの唾液、血液、血漿、間質液、脳脊髄液、涙及び/又は汗などの体液、あるいは、個々の人の内科的疾患又は他の特徴の予後診断/治療のために、また薬理ゲノミクスのために組織から抽出された核酸が挙げられる。センサを使用して、呼吸エアロゾル液滴又は換気システムなどの気体試料中の核酸を検出することもできる。以下でより詳細に説明するように、導電率センサは、単純で比較的容易に製造することができるデバイス構造を有し、これは、特殊な基板を必要とするか、又はその精度を制限する検出技術を採用するかのいずれかである従来の非侵襲的センサに対して費用効果の高い代替手段を提供する。
【0042】
以下は、試料中、例えば、流体中のある範囲の核酸のレベルを検出するための非侵襲的導電率センサ及びその適用方法の詳細な説明である。以下の説明では、異なる実施形態における同様の又は同じ参照番号は、同じ又は同様の特徴を示すことに留意されたい。
【0043】
センサ
一形態では、図1の概略図に示すように、センサ100は、基板102と、基板上に互いに離間して対向する関係で配置された一対の端子電極104、106と、端子電極104、106の間にあり、端子電極と電気的に接触するセンサ素子108とを備える。センサ素子108は、半導体材料112を含む半導体部分110と、半導体部分110の表面116上のオリゴヌクレオチド114とを含む。端子電極104と端子電極106との間の導電路120は、半導体部分110を貫通し、ひいては半導体材料112を貫通している。
【0044】
図1に示す実施形態では、基板102は、基板の一体部分として半導体部分110を含み、したがって、基板の残りの部分は、同じ半導体材料112から構成される。端子104と106との間の導電経路120は、使用時にセンサの両端間に電圧が印加されたときに確立される電界線によって基板の表面層(半導体部分110に対応する表面層)に実質的に限定される。したがって、有利には、センサ基板上に個別の薄膜半導体層を製造する必要がない。したがって、基板102は、例えば、半導体材料112のウェハを使用するときに与えられるような任意の好都合な厚さであってもよい。
【0045】
あるいは、センサ素子108は、基板102上の、少なくとも端子電極104と106との間の個別の表面層として、ただし任意選択で基板表面全体にわたって延在する個別の表面層として形成された半導体部分110を含むことができる。そのような実施形態では、基板102は、半導体層110を受け入れて支持することができる任意の適切な材料から構成されてもよい。
【0046】
使用時に、センサ100は、核酸124を含有する(又は含有し得る)試料溶液122などの物質と接触する。核酸は、それが存在する場合、オリゴヌクレオチド114とハイブリダイズし、それによってセンサの電気抵抗の変化を引き起こす。電気抵抗の変化は、入ってくる相補的DNA鎖がオリゴヌクレオチドとハイブリダイズするときに、半導体への電子の供与又は半導体からの電子の受容による電荷移動によって起こる。センサの両端間に、すなわち端子電極104と106との間に電圧が印加されると、その結果として導電経路120に沿って端子電極間を流れる電流を測定することができ、したがってセンサの電気抵抗を求めることができる。この抵抗をセンサの予め定義された基準抵抗と比較することにより、試料溶液122中の核酸の有無を検出することができる。
【0047】
当業者には当然のことながら、センサ素子108は、典型的には複数のオリゴヌクレオチド114を含み、124とハイブリダイズするそれらのオリゴヌクレオチドの割合は、試料溶液122中の核酸濃度に依存し得る。導電経路120の抵抗は、ハイブリダイズしたオリゴヌクレオチド部位114の割合に比例するので、流体122中の核酸124の濃度は、例えば、較正曲線で決定された抵抗を比較することによって求めることができる。
【0048】
別の形態では、図3の概略図に示すように、センサ100は、基板102と、基板上に互いに離間して対向する関係で配置された一対の端子電極104、106と、端子電極104、106の間にあり、端子電極と電気的に接触するセンサ素子108とを備える。センサ素子108は、下地となる基板上の半導体層112を含む半導体部分110と、半導体部分110の表面116上のオリゴヌクレオチド114とを含む。端子電極104と端子電極106との間の導電路120は、半導体部分110を貫通し、ひいては半導体材料112を貫通している。
【0049】
図3に示される実施形態では、基板102は、基板の層部分として半導体部分110を含み、したがって、基板の残りの部分は、支持材料から構成される。端子104と端子106との間の導電経路120は、半導体部分110に対応する層に実質的に限定される。
【0050】
したがって、この実施形態では、センサ素子108は、基板102上の、少なくとも端子電極104と106との間の個別の表面層として、ただし任意選択で基板表面全体にわたって延在する個別の表面層として形成された半導体部分110を含む。そのような実施形態では、基板102は、半導体層110を受け入れて支持することができる任意の適切な材料から構成されてもよい。
【0051】
使用時に、センサ100は、核酸124を含有する(又は含有し得る)試料溶液122などの物質と接触する。核酸は、それが存在する場合、オリゴヌクレオチド114に結合し、それによってセンサの電気抵抗の変化を引き起こす。電気抵抗の変化は、入ってくる相補的DNA鎖がオリゴヌクレオチドとハイブリダイズするときに、半導体への電子の供与又は半導体からの電子の受容による電荷移動によって起こる。センサの両端間に、すなわち端子電極104と106との間に電圧が印加されると、その結果として導電経路120に沿って端子電極間を流れる電流を測定することができ、したがってセンサの電気抵抗を求めることができる。この抵抗をセンサの予め定義された基準抵抗と比較することにより、試料溶液122中のオリゴヌクレオチドの有無を検出することができる。
【0052】
前述のように、当業者は、センサ素子108が典型的には複数のオリゴヌクレオチド部位114を含み、核酸124とハイブリダイズするそれらの結合部位の割合が試料溶液122中の核酸濃度に依存し得ることを理解するであろう。導電経路120の抵抗は、ハイブリダイズしたオリゴヌクレオチド114の割合に比例するので、流体122中の核酸124の濃度は、例えば、較正曲線で決定された抵抗を比較することによって求めることができる。
【0053】
以下、導電率センサの各構成要素について説明する。
【0054】
基板
本発明の最も広い形態では、基板は総じて特に限定されず、例えば、半導体、ポリマー、ガラス又はセラミックからなる群から選択される材料から製造されてもよい。
【0055】
例えば、基板として使用するのに適したポリマーは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリイミド(PI)及びポリエチレンナフタレート(PEN)からなる群から選択することができる。適切なセラミックは、酸化アルミニウム(Al2O3)、サファイア及び窒化ケイ素(Si3N4)からなる群から選択することができる。
【0056】
前述のように、基板の少なくとも一部は、センサ素子の一部を形成する半導体部分を含む。特定の実施形態では、半導体部分は基板全体に相当する。特定の実施形態では、半導体部分は、全体として基板の一部のみに相当する。そのような実施形態では、センサ素子の半導体部分は、基板の支持層上に支持されてもよく、任意選択でセンサ素子によって覆われた基板領域内でのみ、基板の支持層上に支持されてもよい。特定の実施形態では、センサ素子を形成する基板の半導体部分は、基板の支持層の片側の層の形態である。特定の実施形態では、センサ素子を形成する基板の半導体部分は、電極間の基板の支持層上の、又は支持層内に窪んだストリップの形態である。ただし、いくつかの好ましい実施形態では、基板は半導体部分を含むか、又はそれからなる。この実施形態では、基板の半導体部分は基板全体に相当する。したがって、図1に見られるように、センサ素子の半導体部分は、基板の一体部分として、デバイス構造を単純化してもよい。いくつかの実施形態では、基板は半導体材料のウェハである。
【0057】
電極
センサは、互いに離間して対向する関係で基板上に配置された一対の端子電極を備える。したがって、センサのセンサ素子は、離間した端子電極間の検出領域に配置される。当業者には明らかなように、端子電極は導電性であり、センサの両端間に電圧を印加するための装置、例えば、ポテンショスタットに電気的に接続するように構成される。
【0058】
図1に示すように、端子電極は、基板表面の上に個別の構造として形成され、その下の基板の半導体部分と電気的に接触している。ただし、他の構成も想定される。例えば、端子電極は基板内に陥凹していてもよく、センサ素子の半導体部分は基板表面に沿って端子電極間に水平に横たわっていてもよい。
【0059】
端子電極は、導電性金属又は合金、好ましくは化学的に不活性な金属又は合金を含んでいてもよい。金は、好適な金属の一例である。
【0060】
いくつかの実施形態では、微細加工技術によって基板上に端子電極が形成される。電子ビームリソグラフィを使用して、半導体層上に金薄膜(100nmのクロム接着層を有する250nm)を蒸着させることによって、金端子電極を形成することができる。次いで、堆積した状態の金薄膜は、一対の端子電極を画定するために標準的なフォトリソグラフィ及びウェットエッチング技術を使用してパターニングされる。
【0061】
端子電極は、一般に、導電率センサに適した任意の構成で互いに対して寸法決め及び配置されてもよい。いくつかの実施形態では、端子電極は、1マイクロメートルから100マイクロメートルの範囲の距離だけ離間している。いくつかの実施形態では、端子電極は、200から4000マイクロメートルの範囲の長さ(すなわち、電極間ギャップ距離に直交する方向の長さ)を有する。本発明者らは、40マイクロメートル離間した、長さ4000マイクロメートルの2つの平行電極を使用して良好な結果を得て、16×10-8の面積を有する検出領域を実現した。
【0062】
原則として、センサは、電極に関して多種多様なセンサの幾何学的形状及び寸法で機能する。それにもかかわらず、電極は、典型的には、1μmから200μm離間している。一実施形態では、電極は1μmから100μm離間している。一実施形態では、電極は10μmから80μm離間している。一実施形態では、電極は20μmから60μm離間している。一実施形態では、電極は30μmから50μm離間している。一実施形態では、電極は35μmから45μm離間している。一実施形態では、電極は約40μm離間している。
【0063】
検出電極はまた、幅が様々であってもよく、幅は、典型的には200から4000μmの幅である。一実施形態では、検出電極の幅は400から3000μmである。一実施形態では、検出電極の幅は800から2000μmである。一実施形態では、検出電極の幅は1000から1500μmである。
【0064】
センサ素子
センサは、(i)基板の半導体部分と、(ii)半導体部分の表面上のオリゴヌクレオチドであって、検出される核酸に相補的なオリゴヌクレオチドとを含むセンサ素子を備える。当業者には理解されるように、センサは、表面上に一種類のオリゴヌクレオチドを用いて製造されてもよく、又は最終用途に応じて複数の異なるオリゴヌクレオチドを用いて製造されてもよい。一実施形態では、センサは、単一オリゴヌクレオチドを用いて製造される。一実施形態では、センサは、複数の異なるオリゴヌクレオチドを用いて製造される。更に理解されるように、センサは、表面上に一種類のオリゴヌクレオチドのみが存在する場合、異なるオリゴヌクレオチド間の干渉の可能性が低減されるので、より感度が高い。それにもかかわらず、原則として、センサは、一回の試験で複数の異なる核酸が検出され得るように、いくつかの異なるオリゴヌクレオチドを含み得る。核酸は、任意のクラス及びタイプのものであり得る。
【0065】
センサ素子は、端子電極間に位置し、両端子電極と電気的に接触している。したがって、デバイスは、端子電極間の電気導電路が半導体部分を貫通し、ひいては半導体部分を貫通するように構成される。
【0066】
半導体部分
いくつかの実施形態では、半導体部分は、基板の一体部分、具体的には、端子電極間の検出領域を横切って延在する基板の領域又は表面部分である。
【0067】
他の実施形態では、半導体部分は、下地となる基板の支持層上に支持された基板の別個の表面層である。半導体層は、少なくとも端子電極間の検出領域内に位置するが、任意選択で基板表面全体にわたって延在していてもよい。そのような実施形態では、端子電極は、基板の別個の半導体層の表面上に、例えば、金属堆積によって形成されてもよい。あるいは、端子電極は支持層上に形成されてもよく、基板の半導体部分は、続いて、少なくとも端子電極間の検出領域において基板の支持層上に形成される。
【0068】
基板の半導体部分は、いくつかの異なる形態をとることができる。一実施形態では、半導体部分は、高抵抗率非酸化物半導体を含み、典型的には高抵抗率非酸化物半導体からなる。本明細書で使用される場合、非酸化物半導体は、元素半導体材料及び化合物半導体材料の両方を含むが、金属酸化物半導体は含まない。別の実施形態では、半導体部分は、酸素欠損金属酸化物を含む。
【0069】
ドープされたシリコンなどの多くの非酸化物半導体を含む電気化学デバイスに使用される一般的な半導体は、導電率センサ素子で使用するには導電性が高すぎる。オリゴヌクレオチドが表面に結合することによって引き起こされるそのような半導体の電子特性へのいかなる影響も、十分な感度を得るには小さすぎる。このため、従来の導電率センサは、典型的には、高抵抗率ポリマー又は金属酸化物材料の個別の導電率検出層で構成されている。
【0070】
本出願人らは、驚くべきことに、センサの表面に結合したペンダントオリゴヌクレオチドへの核酸配列のハイブリダイゼーションによって引き起こされる電気的環境の時として非常に小さな変化を検出することができる好適に感受性のセンサを実現できるようにするためには、使用される半導体材料は、非常に高い抵抗率を有さなければならないことを見出した。いくつかの実施形態では、半導体材料は、100オーム・cm超、又は200オーム・cm超の抵抗率を有する。このタイプ以上の抵抗率は、結合オリゴヌクレオチドを検出する際にセンサに適切な感度をもたらすことが見出された。
【0071】
いくつかの実施形態では、半導体部分は、100オーム・cmを超える抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、半導体部分は、200オーム・cmを超える抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、半導体部分は、500オーム・cmを超える抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、半導体部分は、1000オーム・cmを超える抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、半導体部分は、2000オーム・cmを超える抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、半導体部分は、5000オーム・cmを超える抵抗率を有する。
【0072】
いくつかの実施形態では、半導体部分は、約500オーム・cmから約5000,000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、半導体部分は、約1000オーム・cmから約5000,000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、半導体部分は、約5000オーム・cmから約5000,000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、半導体部分は、約1000オーム・cmから約10000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する。
【0073】
したがって、驚くべきことに、次に、導電率センサ素子に高抵抗率非酸化物半導体を使用すると、良好な導電率センサ性能が得られ得ることが分かった。高抵抗率を有する非酸化物半導体を選択することにより、センサは、センサ素子表面に結合したペンダントオリゴヌクレオチドへの核酸配列のハイブリダイゼーションによって引き起こされる電気的環境の変化の検出に適した範囲に収まる全体的な抵抗を有する。
【0074】
いくつかの実施形態では、高抵抗率非酸化物半導体は、100オーム・cm超、又は200オーム・cm超の抵抗率を有する。対照的に、電気化学的検出デバイスに一般的に使用されるドープされたシリコン半導体は、一般に、約1から10オーム・cmの抵抗率を有する。
【0075】
いくつかの実施形態では、高抵抗率非酸化物半導体は、500オーム・cmから約50,000オーム・cmの範囲、例えば、約1000オーム・cmから約10000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する。本発明者らは、1000オーム・cm及び5000~10000オーム・cmの抵抗率を有する非酸化物半導体で良好な結果を得た。
【0076】
高抵抗率非酸化物半導体は、端子電極間で(且つ導電路に沿って)測定されるときに、センサが適切な電気抵抗を有するように選択されてもよい。いくつかの実施形態では、センサは、例えば、オリゴヌクレオチドとハイブリダイズしている核酸配列が存在しない場合、約10キロオームから約10000キロオームの範囲の電気抵抗を有する。本発明者らは、低抵抗センサを使用すると、バイオアナライトに対する非常に低い感度が得られることを見出した。
【0077】
いくつかの実施形態では、非酸化物半導体は、元素半導体及び化合物半導体からなる群から選択される。
【0078】
好適な元素半導体としては、シリコン及びゲルマニウム半導体、好ましくはシリコン半導体が挙げられる。高純度の真性(ドープされていない)シリコン半導体は、それらの抵抗特性のために特に適していることが分かっている。真性シリコン半導体は、フロートゾーン精製技術によって調製された高純度シリコンであるフロートゾーンシリコンであってもよい。この技術では、溶融領域はシリコンのロッドに沿ってゆっくりと通過し、不純物は再結晶シリコンに再び組み込まれずに溶融領域に優先的に残る。対照的に、ほとんどのシリコン半導体はチョクラルスキー法によって製造され、それ故により高度の不純物を組み込む。適切なフロートゾーンシリコンは、<100>配向を有する3”及び4”ウェハである。
【0079】
真性シリコン半導体が特に適していることが分かっているが、ドーピングレベルが十分に低く、半導体が高抵抗に維持されているのであるならば、非酸化物半導体がドープ元素半導体であってもよく、これを排除するものではない。
【0080】
適切な化合物半導体としては、ガリウムヒ素(GaAs)、インジウムリン(InP)及びインジウムアンチモン(InSb)などの二元半導体、ガリウムアルミニウムヒ素(GaAlAs)などの三元半導体などが挙げられる。
【0081】
既に述べたように、特定の実施形態では、高抵抗率非酸化物半導体を含む半導体部分は、基板の一体部分であってもよく、すなわち、基板は、非酸化物半導体を含むか、又は非酸化物半導体からなってもよい。例えば、基板は、高抵抗率真性シリコン半導体のウェハなどの非酸化物半導体のウェハであってもよい。
【0082】
なおさらなる実施形態では、半導体部分は酸素欠損金属酸化物を含む。いくつかの実施形態では、酸素欠損金属酸化物は、約500オーム・cmから約5000,000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、酸素欠損金属酸化物は、約1000オーム・cmから約5000,000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、酸素欠損金属酸化物は、約5000オーム・cmから約5000,000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、酸素欠損金属酸化物は、約1000オーム・cmから約10000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する。
【0083】
いくつかの適切な酸素欠損金属酸化物を半導体部分に使用することができる。一実施形態では、酸素欠損金属酸化物半導体部分は、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ストロンチウムチタン(STO)、酸化スズ(SnO)、及び二酸化チタン(TiO)からなる群から選択される任意の適切な金属酸化物を使用して形成され得る。
【0084】
好ましい形態では、半導体部分は、酸化亜鉛(ZnO)又は酸化ストロンチウムチタン(STO)を用いて形成された酸素欠損金属酸化物層である。後述するように、本発明者らは、金属酸化物層が薄膜酸素欠損酸化亜鉛(ZnO)層である場合に、良好な結果が得られることを見出した。
【0085】
酸素欠損金属酸化物半導体部分は、反応性スパッタリング、物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)、有機金属化学蒸着(MOCVD)、パルスレーザー蒸着(PLD)及び分子線エピタキシ(MBE)からなる群から選択される技術によって基板表面に付着させてもよい。
【0086】
一実施形態では、酸素欠損金属酸化物層を反応性スパッタリングによって剛性(SiO/Si)ウェハ又は可撓性ポリイミド箔の表面に付着させて、約50nmから約200μmの範囲の厚さを有する薄い金属酸化物膜を得る。
【0087】
特定の実施形態では、半導体部分は、硬質(SiO/Si)ウェハの表面にスパッタリングされた酸化亜鉛によって形成され、表面に複数のヒドロキシ(OH)基を提示する酸素欠損酸化亜鉛層(ZnO1-x)を得る。堆積した状態の酸素欠損ZnO層は、所望の用途に適合する任意の適切な厚さであってもよい。本出願人らは、酸素欠損ZnO層が約10nmから約1μmの範囲に収まる厚さを有する場合に良好な結果が得られることを見出した。
【0088】
酸化亜鉛(ZnO)
酸素含有量の比が異なる2つの異なるタイプのZnO薄膜が、マグネトロンスパッタリングによって調製される。これは、スパッタリングされた薄膜の異なる化学量論をもたらす。スパッタパラメータ及び関連する導電率を表1に列挙する。
【0089】
【表2】
【0090】
スパッタリングパラメータは、0.08~0.6S/mの範囲の導電率を有する薄膜を設計するように選択される。この範囲の導電率は、センサの良好な感度を与える。
【0091】
酸化チタンストロンチウム(STO)
2つの異なるタイプの酸化ストロンチウムチタン(SrTiO3:STO)薄膜は、異なる酸素含有率を用いたマグネトロンスパッタリングによって調製される。スパッタリングパラメータを表3にまとめる。
【0092】
【表3】
【0093】
オリゴヌクレオチド
センサのセンサ素子は、半導体部分の表面上に少なくとも1つのオリゴヌクレオチド、典型的には複数のオリゴヌクレオチドを含む。オリゴヌクレオチドは、検出される1つ又は複数の核酸配列に相補的であるように選択される。本明細書で使用される場合、「相補的」という用語は、検出される1つ又は複数の核酸配列が、核酸配列の実質的に全長にわたって塩基対合する結果としてオリゴヌクレオチドと結合することを意味する。いくつかの実施形態では、センサ素子は、半導体部分の表面上に複数のオリゴヌクレオチドを含む。
【0094】
オリゴヌクレオチドは、物理吸収又は化学結合のいずれかによって基板の半導体部分に固定化されてもよい。好ましい形態では、オリゴヌクレオチドは半導体部分の表面に化学的に結合している。
【0095】
シリコン半導体を含む、酸素欠損金属酸化物又は非酸化物半導体などの半導体は、典型的には、シラン化剤(アルコキシシランなどのシラン化基を含む表面改質剤)などの表面改質剤との共有結合形成反応の影響を受けやすいヒドロキシ基などの表面官能基を含む。したがって、オリゴヌクレオチドは、(i)非酸化物半導体を、エポキシ基、チオール基、アミノ基、カルボキシ基及びヒドロキシ基からなる群から選択される末端官能基を有するシラン化剤でシラン化すること、並びに(ii)適切に官能化されたオリゴヌクレオチドを末端官能基と反応させることを含むプロセスによって、半導体部分に化学的に結合され得る。このプロセスの結果として、結合部位は、シラン化剤の残基である有機リンカーによって半導体部分の表面に固定される。
【0096】
適切なシラン化剤としては、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GPS)、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン(MTS)、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)、及びN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル-トリメトキシシラン(AEAPTS)などが挙げられる。例えば、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GPS)などのエポキシ官能化シラン化剤が使用される場合、非酸化物半導体のシラン化は、ペンダントエポキシ基でその表面を官能化する。したがって、アミノ官能化オリゴヌクレオチドなどの適切に官能化されたオリゴヌクレオチドは、エポキシ反応性官能基とアミンとの抱合反応によってこの表面に固定化され得る。
【0097】
別の一連の実施形態では、オリゴヌクレオチドは、シラン化基などの表面反応性官能基で予め官能化された分子上に最初に存在する。したがって、オリゴヌクレオチドは、共有結合形成を可能にするのに適した条件、ひいては表面固定化を可能にするのに適した条件下で、予め官能化された生体分子(又は他の実体)を半導体部分と接触させることによって、半導体部分に化学的に結合され得る。
【0098】
特定の実施形態では、オリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの3’末端を介して半導体部分の表面に付着している。特定の実施形態では、オリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの5’末端を介して半導体部分の表面に付着している。
【0099】
本発明のセンサは、多種多様な核酸を検出するために使用することができ、唯一の実際の制約は、核酸を検出するために、検出される核酸に相補的な(上述のような)オリゴヌクレオチドを半導体部分に付着させることが必要であることである。一般に、核酸配列決定及びオリゴヌクレオチド合成の進歩により、検出される標的核酸は、診断される内科的疾患に関連するため、通常は十分にキャラクタライズされているので、このことは、重大な困難を引き起こさない。
【0100】
一実施形態では、オリゴヌクレオチドは、天然のDNA配列と比較して単一点突然変異を有する核酸配列に相補的である。一実施形態では、オリゴヌクレオチドはヒトBRAF由来である。一実施形態では、オリゴヌクレオチドはヒトKRAS遺伝子由来である。一実施形態では、オリゴヌクレオチドはヒトPIK3CA遺伝子に由来する。一実施形態では、オリゴヌクレオチドは、天然のDNA配列に対して挿入又は欠失突然変異を有する核酸に相補的である。一実施形態では、オリゴヌクレオチドはヒトEGFR遺伝子由来である。一実施形態では、オリゴヌクレオチドはヒトマイクロRNA核酸に相補的である。一実施形態では、オリゴヌクレオチドはヒトマイクロRNA miR-371aに由来する。一実施形態では、オリゴヌクレオチドは、ヒト天然DNA配列に共通の変異を有する核酸に相補的である。一実施形態では、オリゴヌクレオチドはヒトDPYD遺伝子由来である。一実施形態では、オリゴヌクレオチドは、配列番号1又は配列番号2である。
【0101】
基板の半導体部分は、半導体部分上に酸化物表面層を含んでいてもよく、酸化物層は、表面改質剤との共有結合形成反応を受けやすい表面官能基を含んでいてもよい。そのような不動態化層は一般に非常に薄く、その結果、オリゴヌクレオチドの結合は、使用中に、その下の高抵抗率半導体の抵抗に変化を引き起こす。したがって、半導体部分の表面における任意の酸化物表面層は、厚さが10nm未満であってもよい。
【0102】
検出方法
本発明はまた、核酸を検出する方法に関する。本方法は、(a)本明細書に記載のセンサのセンサ素子を核酸を含み得る物質と接触させる工程と、(b)センサの抵抗に対応するセンサの電気化学パラメータを測定する工程と、(c)工程(b)で測定された電気化学パラメータに基づいてセンサ素子上の核酸の有無を検出する工程とを含む。
【0103】
検出される核酸は、典型的には、目的の核酸配列を含有するか、又は含有し得る任意の物質であり得る物質の中に位置する。いくつかの実施形態では、物質は、試料溶液であり、例えば、唾液、汗、血液若しくは尿などの体液、又は組織若しくは腫瘍から抽出された核酸であるか、それらを含む液体試料である。
【0104】
上記のように、本方法は、検出される核酸が、センサ上に位置し、検出される核酸に相補的なオリゴヌクレオチドとハイブリダイゼーションすることに依存する。したがって、本発明のセンサ素子は、ハイブリダイゼーションが起こるのに十分な期間、物質と接触させる必要がある。例えば、物質が流体である場合、核酸には、液体を通ってオリゴヌクレオチドに拡散し、オリゴヌクレオチドとハイブリダイズするのに十分な時間が与えられる必要がある。
【0105】
原則として、センサ素子と物質試料との接触時間は、検出される核酸がオリゴヌクレオチドとハイブリダイズするのに十分な時間にわたって物質と接触している限りにおいて、任意の長さの時間であり得る。特定の実施形態では、センサ素子は、1分から60分の期間、物質と接触する。特定の実施形態では、センサ素子は、1分から30分の期間、物質と接触する。特定の実施形態では、センサ素子は、1分から20分の期間、物質と接触する。特定の実施形態では、センサ素子は、1分から10分の期間、物質と接触する。特定の実施形態では、センサ素子は、5分から10分の期間、物質と接触する。
【0106】
センサ素子と試料の接触後、センサ素子は、典型的には、センサの表面からあらゆる物質を除去するためにリン酸緩衝液(PBS、pH7.4)で洗浄される。
【0107】
前述のように、オリゴヌクレオチドへの核酸のハイブリダイゼーションは、センサの抵抗の変化をもたらす。したがって、センサ素子を物質と接触させた後、センサの抵抗に対応するセンサの電気化学パラメータが測定される。
【0108】
当業者には理解されるように、センサの抵抗に対応する測定され得るセンサのいくつかの異なる電気化学パラメータが存在する。例えば、センサの両端間に固定電流を印加して、センサの両端間の電圧を測定することができる。あるいは、センサの両端間に固定電圧を印加して、電流フローを測定することができる。
【0109】
導電率センサの典型的な動作では、直接測定されるパラメータは、既知の電圧(又は電圧プロファイル)がセンサの両端間に印加されたときの電流応答である。したがって、いくつかの実施形態では、センサの電気化学パラメータを測定する方法は、(i)センサの両端間に電圧を印加すること、及びセンサを通る電流フローを測定することを含む。ポテンショスタットなどの導電率センサ用の従来の装置を使用して、電圧を印加し、電流フローを測定することができる。
【0110】
ただし、センサ抵抗に対応する異なる電気化学パラメータを測定してもよく、これを排除するものではない。例えば、原則として、センサに所定の電流を流し、この電流を達成するために必要な電圧を測定することが可能である。その場合、測定された電圧は、センサ抵抗に対応する。一実施形態では、基準抵抗と比較したセンサの抵抗の増加は、試料中の核酸の存在を示す。
【0111】
センサ素子上の核酸の有無は、測定された電気化学パラメータをセンサのそのパラメータの基準値と比較することによって検出することができる。測定されたパラメータが電流応答である場合、電流フロー又は電流フローから求められるセンサの電気抵抗は、センサ素子上の核酸の有無に対応するセンサの予め定義された基準電流フロー又は抵抗に対する。例えば、物質と接触した後のセンサの電流フロー(又は抵抗)を、核酸を含まない参照溶液と接触した後のセンサの電流フロー(又は抵抗)と比較することができる。その最も単純な形態では、そのような比較を使用して、物質中の核酸の有無を判定することができる。あるいは、核酸を含有する試料溶液との接触後のセンサの電流フロー(又は抵抗)を、既知濃度の核酸を有する一連の参照溶液との接触後のセンサの電流フロー(又は抵抗)をプロットする較正曲線と比較することができる。このようにして、試料溶液中の核酸の濃度を算出することができる。
【0112】
本方法は、任意選択で、センサ素子を物質と接触させる工程と電圧を印加する工程との間に、1つ以上の調製工程を含むことができる。例えば、物質が試料溶液である場合、核酸(試料溶液中にそれが存在する場合)のオリゴヌクレオチド部位への結合を可能にするために、規定の条件(例えば、温度)で規定の時間、センサ素子をインキュベートすることができる。次いで、試料溶液をセンサから除去し、導電率測定を実行する前にセンサ素子を洗浄及び/又は乾燥させることができる。
【0113】
あるいは、センサは、例えば、マイクロニードルに組み込めば、核酸のin situ検出のために人体に挿入される侵襲性センサとして使用することができる。別の実施形態では、センサは、ヒトの汗中の核酸をモニタリングするためのウェアラブルデバイスに組み込まれる。
【0114】
原則として、本発明のセンサは、目的の任意の核酸の存在を検出するために使用することができる。実際、センサは、BRAF及び癌関連配列に関して例示されているが、原理上、センサは、任意の核酸を検出するために使用することができる。核酸配列を検出するセンサの能力に対する唯一の制限。
【0115】
センサの製造方法
本発明はまた、核酸を検出するためのセンサを製造する方法に関する。本方法は、半導体部分を含む基板を用意する工程を含む。基板の半導体部分が端子電極間に配置され、端子電極と電気的に接触し、端子電極間の導電路が半導体部分を貫通するように、一対の端子電極が基板上に互いに離間して対向する関係で作製される。次いで、オリゴヌクレオチドを半導体部分の表面に固定化し、それにより、(i)半導体部分と、(ii)半導体部分の表面上のオリゴヌクレオチドとを含むセンサ素子を作製する。
【0116】
本発明の一形態では、図2の概略図に示すように、基板102は工程Aで用意される。基板102は、本明細書に記載の半導体材料112を含む半導体部分110を含む。図2に示す実施形態では、基板102は、基板の一体部分として半導体部分110を含み、したがって、基板の残りの部分は、同じ半導体材料112から構成される。あるいは、基板102は、半導体層110を受け入れ且つ支持することができる任意の適切な材料から構成され得る、下地となる支持層上の個別の薄い表面層として形成された半導体部分110を含み得る。
【0117】
工程Bでは、基板102上に、互いに離間して対向する関係にある一対の端子電極104、106を作製する。電極は、基板の半導体部分110が端子電極104、106の間に配置され、端子電極と電気的に接触するように製造される。したがって、端子電極104と106との間の導電路120は、半導体部分110を貫通し、ひいては半導体材料112も貫通している。
【0118】
工程Cでは、オリゴヌクレオチド114が半導体部分の表面116に固定化され、それによってセンサ素子108が作製される。図1は単一の結合部位を示しているが、当然のことながら、複数のオリゴヌクレオチド114を表面116に固定化することができる。センサ素子108は、半導体部分110及びオリゴヌクレオチド114を含む。したがって、図1を参照して本明細書で前述したように、センサ100は、工程A、B、及びCを実行した後に製造される。
【0119】
本発明の製造方法の別の形態では、図4の概略図に示すように、基板102が工程Aで用意される。基板102は、本明細書に記載の半導体材料の層112として存在する半導体部分110を含む。図4に示す実施形態では、基板102は、半導体層110を受け入れ且つ支持することができる任意の適切な材料から構成され得る、下地となる支持層上の個別の薄い表面層112として形成された半導体部分110を含む。
【0120】
工程Bでは、基板102上に、互いに離間して対向する関係にある一対の端子電極104、106を作製する。電極は、基板の半導体部分110が端子電極104、106の間に配置され、端子電極と電気的に接触するように製造される。したがって、端子電極104と106との間の導電路120は、半導体部分110を貫通し、ひいては半導体材料112も貫通している。
【0121】
工程Cでは、オリゴヌクレオチド114が半導体部分の表面116に固定化され、それによってセンサ素子108が作製される。図4は単一のオリゴヌクレオチドを示しているが、当然のことながら、複数のオリゴヌクレオチド部位114を表面116に固定化することができる。センサ素子108は、半導体部分110及びオリゴヌクレオチド114を含む。したがって、図3を参照して本明細書で前述したように、センサ100は、工程A、B、及びCを実行した後に製造される。
【0122】
半導体部分を含む基板は、本発明のセンサに関連して本明細書に記載される実施形態のいずれかによるものであり得る。
【0123】
端子電極は、任意の適切な方法によって基板上に作製することができる。いくつかの実施形態では、端子電極は微細加工技術によって形成される。電子ビームリソグラフィを使用して、半導体層上に金薄膜(100nmのクロム接着層を有する250nm)を蒸着させることによって、金端子電極を形成することができる。次いで、堆積した状態の金薄膜は、一対の端子電極を画定するために標準的なフォトリソグラフィ及びウェットエッチング技術を使用してパターニングされる。
【0124】
オリゴヌクレオチド結合部位は、物理吸収又は化学結合のいずれかによって半導体部分の表面に固定化され得る。好ましい形態では、オリゴヌクレオチドは、半導体部分の表面に化学的に結合している。
【0125】
シリコン半導体又は酸素欠損金属酸化物を含む非酸化物半導体などの本発明の基板の半導体部分に使用される材料は、典型的には、シラン化剤(アルコキシシランなどのシラン化基を含む表面改質剤)などの表面改質剤との共有結合形成反応の影響を受けやすいヒドロキシ基などの表面官能基を含む。したがって、オリゴヌクレオチドは、(i)半導体部分を、エポキシ基、チオール基、アミノ基、カルボキシ基及びヒドロキシ基からなる群から選択される末端官能基を有するシラン化剤でシラン化すること、及び(ii)オリゴヌクレオチドを含む前駆体を末端官能基と反応させることを含むプロセスによって、半導体部分に化学的に結合され得る。このプロセスの結果として、オリゴヌクレオチドは、シラン化剤の残基である有機リンカーによって半導体部分の表面に固定される。
【0126】
適切なシラン化剤としては、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GPS)、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン(MTS)、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)、及びN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル-トリメトキシシラン(AEAPTS)などが挙げられる。
【0127】
図5(1)の概略図に示すように、金(Au)端子電極の下及びその間の基板の半導体部分は、半導体材料、この場合は高抵抗率真性シリコンウェハを含む。工程(2)において、半導体部分の表面を、任意選択で(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GPS)などのエポキシ官能化シラン化剤であってもよい、シラン化剤と接触させる。シラン化剤は、半導体部分の表面ヒドロキシ(-OH)官能基と反応し、その結果、共有結合を介してシラン化剤を表面に固定し、ペンダント共役基、この場合はエポキシ基で表面を官能化する。次いで、工程(3)において、オリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチド中に存在するエポキシ反応性官能基、この場合はアミン(-NH)の抱合反応によって表面に固定化される。すなわち、オリゴヌクレオチドは、シラン化剤の残基である有機連結基によって半導体部分の表面に固定される。使用中、工程4に示すように、核酸はオリゴヌクレオチドとハイブリッド形成して、固定化核酸分子をセンサ上に形成する。
【0128】
別の実施形態のための同じプロセス工程が、図6の概略図に示されている。図6(1)では、基板の支持部上、金(Au)端子電極の下及びその間に、基板の半導体部分が層として設けられたセンサが設けられている。図示の層は、酸素欠損酸化亜鉛層である。工程(2)において、半導体部分の表面を、任意選択で(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GPS)などのエポキシ官能化シラン化剤であってもよい、シラン化剤と接触させる。シラン化剤は、半導体部分の表面ヒドロキシ(-OH)官能基と反応し、その結果、共有結合を介してシラン化剤を表面に固定し、ペンダント共役基、この場合はエポキシ基で表面を官能化する。次いで、工程(3)において、オリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチド中に存在するエポキシ反応性官能基、この場合はアミン(-NH)の抱合反応によって表面に固定化される。すなわち、オリゴヌクレオチドは、シラン化剤の残基である有機連結基によって半導体部分の表面に固定される。使用中、工程4に示すように、核酸はオリゴヌクレオチドとハイブリッド形成して、固定化核酸分子をセンサ上に形成する。
【実施例
【0129】
材料及び方法
抵抗率1000~2000オーム・cmの高抵抗率シリコンウェハ(直径100mm)を日本のD&X社から購入し、それは片面研磨シリコンウェハであった。1000~2000オーム・cmウェハの配向は<100>であり、厚さは500±10μmであった。
【0130】
シリコンウェハセンサは、標準的なフォトリソグラフィプロセスを使用して高抵抗率シリコンウェハ上に2つの端子面内電極をパターニングすることによって作製した。電極ギャップは、1~2μmから100μmの範囲内とすることができる。ただし、この電極ギャップは、最良のセンサ性能のために40μmになるように最適化した。電極の長さは、200μmから4000μmの範囲とした。最適電極長は4000μmとした。センサ素子面積(電極間のシリコン基板面積)は16×10-8であった。金属酸化物層についても同様の仕様であることを確認した。
【0131】
センサのコンダクタンスは、市販の電流源計(Keysight Technologies製のB2901A精密源/測定ユニット)を使用して測定した。センサは、すべての測定において、センサホルダとしてのLTS120 Linkamステージ上に配置した。Keysight Quick I-V Measurementソフトウェアをデータ取得に使用した。電極間のバイアスは1.8Vに維持した。オリゴヌクレオチドを固定し、且つ相補的DNAをハイブリダイゼーションした後に、センサの抵抗測定値を取得した。所与のセンサのデータ取得時間を1分とした。
【0132】
PBS中の野生型DNA(NA 12878)及びPBS中の点変異体V600Eを有する黒色腫A375 DNAは、Peter MacCallum Cancer Centreによって提供され、受け取った状態で使用した。
【0133】
実施例1.GPSシラン化シリコンウェハセンサの調製:
シリコンウェハセンサは、標準的なフォトリソグラフィプロセスを使用して高抵抗率シリコンウェハ上に2つの端子面内電極をパターニングすることによって作製した。電極ギャップは、1~2μmから100μmの範囲内とすることができる。ただし、この電極ギャップは、最良のセンサ性能のために40μmになるように最適化した。電極の長さは、200μmから4000μmの範囲とした。最適電極長は4000μmとした。センサ素子面積(電極間のシリコン基板面積)は16×10-68であった。
【0134】
(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GPS)を用いたシリコンウェハセンサ表面のシラン化は、新たに調製したセンサデバイスをO2プラズマ(プラズマクリーナーPDC-002、Harrickプラズマ)に10分間曝露してシリコン表面のヒドロキシル基を活性化した後に行った。次いで、新たに調製したGPS溶液20μLをAl箔上にドロップキャストし、これを真空デシケータ内に配置し、デシケータ内にGPS蒸気を生じさせた。次いで、O2プラズマ洗浄シリコンセンサを、LC200グローブボックスシステム内でこのGPS蒸気に30~45分間曝露した。その後、シラン化シリコンウェハセンサをMilli-Q水で2分間十分にすすいで、表面から未結合シラン基を除去した。次いで、洗浄したセンサを150℃で10分間加熱して、シリコンウェハ表面へのシラン基の結合を強化した。次いで、基板表面に化学的に結合した表面エポキシド官能基で官能化されたこれらのGPSシラン化シリコンウェハセンサを使用して、オリゴヌクレオチドを固定化した。
【0135】
実施例2.GPSシラン化酸化亜鉛ウェハセンサの調製:
センサは、標準的なマイクロナノ製造技術に従って、剛性基板(50~300nmのSiO/500μmのSi)及び可撓性プラスチック基板(ポリイミド箔、厚さ75~125μm)上に、バイオセンサ内の検出層として作用する酸素欠損酸化亜鉛(ZnO)などの金属酸化物の厚さ80~100nmの薄膜を堆積させることによって作製した。検出層の組成物を反応性スパッタリングによって作製し、1~2シーメンス/mの範囲のコンダクタンスを有する酸素欠損金属酸化物膜を得た。コンダクタンス測定のために、16×10-8の検出面積を有する2つの端子面内電極がパターニングされて作製される。
【0136】
新たに調製したZnOデバイスをOプラズマ(市販のPlasma Cleaner PDC-002、Harrickプラズマ)に10分間曝露して、デバイス表面から有機汚染物質を取り除き、ZnO表面のヒドロキシル基を活性化した。次いで、20μLの新たに調製したGPS溶液を、真空デシケータ内に配置された市販のAl箔上にドロップキャストし、デシケータ内にGPS蒸気を生じさせた。次いで、Oプラズマで洗浄したZnOセンサをこのGPS蒸気に1~2時間曝露した。ZnOセンサのGPS蒸気への曝露は、LC200グローブボックスシステム内で行った。GPS蒸気への曝露が完了したら、ZnOセンサをMili-Q水で2分間十分にすすぎ、ZnOデバイスから結合していないシラン基を除去した。次いで、洗浄したZnOセンサを150℃で10分間加熱して、ZnO表面へのシラン基の結合を強化した。これらのGPSシラン化センサをオリゴヌクレオチドの固定化に使用した。
【0137】
実施例3.オリゴヌクレオチドの固定化
この実施例は、実施例2のZnOセンサへのオリゴヌクレオチドの固定化を例示する。同様の方法が、オリゴヌクレオチドを他のセンサに固定化するために使用される。
【0138】
BRAF 3’-アミンDNAオリゴヌクレオチド(5’-GGTCTAGCTACAGAGAAATCTCGAT/3AmMO/-3’)及びBRAF 5’-アミンDNAオリゴヌクレオチド(5’-/AmMC6/GGTCTAGCTACAGAGAAATCTCGAT-3’)は、Integrated DNA Technologies,Inc.,USAから購入し、受け取った状態で使用した。新たに調製した15μL体積の35pMオリゴヌクレオチド溶液(pH7.4リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で調製)を、新たにGPSシラン化した各ZnOセンサ上にドロップキャストし、1時間インキュベートしてオリゴヌクレオチドをZnOセンサ上に固定させた。次いで、センサをpH7.4のPBS溶液で広範囲にすすぎ、結合していないオリゴヌクレオチドを除去した。次に、導電率測定の前に、PBSで洗浄したZnOセンサをNガス下で2分間乾燥させた。
【0139】
実施例4.DNA-ZnOセンサの導電率測定
PBS中の野生型DNA(NA 12878)及びPBS中の点変異体V600Eを有する黒色腫A375 DNAは、Peter MacCallum Cancer Centreによって提供され、受け取った状態で使用した。DNA試料の添加前に、オリゴヌクレオチド固定化ZnOセンサのベースラインコンダクタンスを測定した。15μLの量のDNA溶液(野生型DNA又は点突然変異体DNA)をオリゴヌクレオチド固定化ZnOセンサ上にドロップキャストし、10分間インキュベートした。10分後、センサ上の残りのDNA溶液を除去し、Nガス下で表面を乾燥させた後、コンダクタンス測定を行った。交差選択測定のために、2種類のDNA試料を1:200、1:100、1:1、100:1、及び200:1の体積比(点変異体DNA:野生型DNA)で予備混合することによって一連のDNA混合物を調製した。ストックDNA試料のモル濃度が同じであるため、2つのDNAタイプの体積比は、2つのDNAタイプのモル比と同じである。
【0140】
3’-アミンオリゴヌクレオチドと5’-アミンオリゴヌクレオチドはいずれも、野生型DNA鎖とのハイブリダイゼーションについて得られた抵抗変化と比較して、点突然変異体DNA鎖とのハイブリダイゼーションの際に抵抗変化における極性の逆転を示した(図7)。抵抗の変化は、ベースライン抵抗に対するDNAハイブリダイゼーション後のデバイスの抵抗の変化率である。ベースライン抵抗は、DNA添加前のオリゴヌクレオチド固定化デバイスの抵抗である。デバイスの抵抗は、点突然変異体DNAとのハイブリダイゼーション時に増加したが、デバイスの抵抗は、野生型DNAとのハイブリダイゼーション後に減少した。この結果は、点突然変異体DNAが電子受容体として作用し、野生型DNAが両方のタイプのオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーション時に電子供与体として作用することを示唆している。点突然変異体DNAの抵抗の変化の逆極性は、健康なDNAと比較して単一塩基対の違い(V600E変異体)を有する黒色腫などの癌DNAを検出するためのこれらの導電率測定デバイスの高い感度を強調している。試験したすべての試料について得られた抵抗値の絶対変化は、5’-アミンオリゴヌクレオチド固定化デバイスよりも3’-アミンオリゴヌクレオチド固定化デバイスにおいて高い。これは、電荷移動プロセスが5’-アミンオリゴヌクレオチドよりも3’-アミンオリゴヌクレオチドではるかに起こり得ることを示している。PBS溶媒の抵抗変化は、野生型DNAと同じ極性であり、点突然変異体DNAとは同じ極性ではない。したがって、抵抗の変化に対する点突然変異体DNA溶液のマトリックスからの寄与は無視できる。
【0141】
実施例5.交差選択性実験
他のDNAの存在下でV600E点変異体DNAを検出するための導電率測定デバイスの実現可能性を調べるために、交差選択性測定も行った。両方のタイプのオリゴヌクレオチド固定化デバイスは、野生型DNAの存在下でV600E点変異体DNAを選択的に検出した(図8)。抵抗変化は、V600E点変異体DNA画分の増加と共に増加し、点変異体DNA:野生型DNAのモル分率が100:1を超えると飽和値に達した。この傾向は、両方のタイプのオリゴヌクレオチドで見られる。両方のオリゴヌクレオチドは、臨床的に重要な対立遺伝子分率比(すなわち0.5%)に相当する1:200の点突然変異体DNA:野生型DNAモル比でV600E点突然変異体DNAを検出することに成功した。この結果は、V600E点変異体DNA検出におけるこれらの導電率センサの高い感度及び高い選択性を強調している。
【0142】
実施例6.Siセンサ上のDNAの導電率測定
実施例4の方法を使用し、ただし、5’-アミンオリゴヌクレオチドが固定化された実施例1のシリコンセンサを使用して実験を行った。導電率測定実験の結果を図9に示す。
【0143】
定義
本明細書で範囲、例えば、温度範囲、時間範囲、又は濃度範囲が与えられるときはいつでも、すべての中間範囲及び部分範囲、並びに与えられた範囲に含まれるすべての個々の値が本開示に含まれることが意図される。当然のことながら、本明細書の説明に含まれるあらゆる部分範囲、又は範囲若しくは部分範囲内の任意の個々の値は、本明細書の特許請求の範囲から除外することができる。
【0144】
本明細書で定義及び使用されるすべての定義は、当然のことながら、辞書の定義、参照により組み込まれる文書における定義、及び/又は定義された用語の通常の意味に優先すると理解されるべきである。
【0145】
本明細書で使用される不定冠詞「a」及び「an」は、そうでないことが明確に示されていない限り、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。
【0146】
本明細書で使用される「及び/又は」という語句は、そのように結合された要素、すなわち、場合によっては結合的に存在し、他の場合には選言的に存在する要素の「いずれか又は両方」を意味すると理解されるべきである。「及び/又は」を用いて列挙された複数の要素は、同じように、すなわちそのように結合された要素の「1つ又は複数」と解釈されるべきである。「及び/又は」節によって具体的に特定される要素以外の他の要素が、具体的に特定される要素に関連するか否かにかかわらず、任意選択で存在し得る。したがって、非限定的な例として、「A及び/又はB」への言及は、「含む」などのオープンエンドの表現と共に使用される場合、一実施形態では、Aのみ(B以外の要素を任意選択で含む)を指す場合があり、別の実施形態では、Bのみ(任意選択でA以外の要素を含む)を指す場合があり、更に別の実施形態では、A及びBの両方(任意選択で他の要素を含む)を指す場合がある、といった具合である。
【0147】
本発明を限られた数の実施形態と共に説明してきたが、当業者には当然のことながら、前述の説明に照らして多くの代替、変更、及び変形が可能である。したがって、本発明は、開示される本発明の趣旨及び範囲内に含まれ得るようなすべてのそのような代替、変更及び変形を包含することが意図される。
【0148】
「含む/備える(「comprise」、「comprises」、「comprised」、又は「comprising」)」という用語が本明細書(特許請求の範囲を含む)で使用される場合、それらは、記載された特徴、整数、工程又は構成要素の存在を特定するが、1つ以上の他の特徴、整数、工程又は構成要素、又はそれらの群の存在を排除しないと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
2024526583000001.app
【国際調査報告】