(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】光活性化合物を用いた海水およびその他の液体からの炭素除去
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20240711BHJP
B01D 61/24 20060101ALI20240711BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20240711BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20240711BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20240711BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20240711BHJP
A01G 7/02 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
B01D53/14 200
B01D53/14 220
B01D61/24 ZAB
B01D53/22
B01D53/62
B01D53/78
C01B32/50
A01G7/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579469
(86)(22)【出願日】2022-06-23
(85)【翻訳文提出日】2024-02-26
(86)【国際出願番号】 US2022034790
(87)【国際公開番号】W WO2022271992
(87)【国際公開日】2022-12-29
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517075883
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ワシントン
【氏名又は名称原語表記】University of Washington
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ギャニオン,アレックス
(72)【発明者】
【氏名】サックス,ジュリアン
【テーマコード(参考)】
2B022
4D002
4D006
4D020
4G146
【Fターム(参考)】
2B022DA12
4D002AA09
4D002AC05
4D002AC07
4D002AC10
4D002BA02
4D002DA35
4D002EA07
4D002FA02
4D006GA12
4D006GA41
4D006KA03
4D006KD11
4D006MA12
4D006PB64
4D006PC80
4D020AA03
4D020BA23
4D020BB03
4D020BC03
4D020BC04
4D020CB40
4G146JA02
4G146JB10
4G146JC10
4G146JC40
4G146JD06
(57)【要約】
海水やその他の天然水などの液体から炭素を除去するシステムと方法を開示する。本システムと方法は、流体のpHを変化させる光活性化合物を用いて炭素を液体から抽出し、第2の環境へ移す。この炭素は、回収、隔離、製品の形成などに使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素含有液体から炭素を除去する方法であって、
炭素含有液体を光活性化合物に暴露することによって、前記炭素含有液体から炭素を除去して、第2の環境に移動させる工程を含む方法。
【請求項2】
前記第2の環境が、ターゲット流又は作用流体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ターゲット流が、液体又は気体である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の環境がターゲット流であり、前記ターゲット流へと前記炭素を移動させる前記炭素の除去が、膜若しくは気体接触部を介して、又は直接移動により行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の環境が作用流体であり、前記作用流体へと前記炭素を移動させる前記炭素の除去が、膜を介して行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記膜が気体透過膜である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記膜がイオン交換膜である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記作用流体が前記炭素含有液体と前記ターゲット流との間に介在している、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記作用流体が膜により前記炭素含有液体から隔てられている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記作用流体が、膜又は気体接触部によって前記ターゲット流から隔てられている、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記作用流体が、前記炭素含有液体から膜により隔てられており、かつ前記ターゲット流から膜又は気体接触部により隔てられている、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記光活性化合物が前記作用流体中に配置されている、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記光活性化合物が、前記炭素含有液体中に配置されているか、又は前記炭素含有液体と接する境界に配置されている、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記炭素含有液体から隔てられている副流体中に前記光活性化合物が配置されている、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記副流体と前記炭素含有液体とがイオン交換膜により隔てられている、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記イオン交換膜が、プロトンが内部を拡散するカチオン交換膜である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記光活性化合物が、前記炭素含有液体のpHを低下させる、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項18】
前記光活性化合物が、活性化された光活性化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記活性化された光活性化合物が、プロトンを生成し、該プロトンが、膜を介して前記炭素含有液体に拡散することによって、前記炭素含有液体のpHが低下して炭素が除去される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記光活性化合物が、光酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記光酸が、可逆性光酸を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記光酸が、準安定状態の光酸を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記光酸が、メロシアニン類、スピロピラン類、トリシアノフラン類、フルギド類、ジアリールエテン類、アゾベンゼン類、スピロオキサジン類、キノン類、又はトリフェニルメタン類を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記光活性化合物が、メロシアニン類を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記メロシアニン類が、インドリニウム環にメトキシ置換基を有し、インドリニウム環の窒素原子にブチルスルホン酸基を有する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記光活性化合物を活性化する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記光活性化合物を活性化する工程が、前記光活性化合物を光に暴露する工程を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記光が、太陽光又は人工光である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記人工光が、発光ダイオード(LED)照明からの人工光である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記光が太陽光であり、前記光活性化合物が、それぞれ異なる吸収スペクトルを有する複数の光活性化合物である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記光活性化合物が、材料内に埋め込まれているか、かつ/又は材料の表面にコーティングされている、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記材料が、ビーズ、粒体、チューブ、プレート、又は膜を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記材料が、請求項7に記載の前記気体透過膜を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記材料が、請求項8に記載の前記イオン交換膜を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記材料が、請求項13に記載の前記炭素含有液体中に配置されている、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記材料が、請求項13に記載の前記炭素含有液体と接触する前記境界に配置されている、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
前記材料が、請求項14の副流体中に配置されている、請求項31に記載の方法。
【請求項38】
前記pHの低下により、前記炭素含有液体中の二酸化炭素の分圧が上昇する、請求項17に記載の方法。
【請求項39】
前記低下したpHが、2~7の範囲内にある、請求項1に記載の方法。
【請求項40】
前記低下したpHが、3~6の範囲内にある、請求項1に記載の方法。
【請求項41】
前記炭素含有液体の流れを前記活性化された光活性化合物の方向に向ける工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項42】
前記炭素含有液体を熱源で加熱する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項43】
前記炭素含有液体が-2℃~120℃の範囲の温度まで加熱される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記熱源が、太陽熱エネルギー、又は発電若しくは工業プロセスからの排熱を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
前記発電が、熱電発電又は原子力発電である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
鉱物の風化反応を加速させる方法であって、ターゲット液体のpHを低下させる光活性化合物に暴露されたターゲット液体に鉱物を暴露することによって、前記鉱物の風化反応を加速させる工程を含む、方法。
【請求項47】
炭素を回収する方法であって、ターゲット液体のpHを低下させる光活性化合物に暴露されたターゲット液体に鉱物を暴露することによって、その他の気体又は流体から回収された炭素を前記ターゲット液体中に濃縮する工程を含む、方法。
【請求項48】
前記鉱物が、粉砕された鉱物である、請求項46又は47に記載の方法。
【請求項49】
前記鉱物が、超苦鉄質岩及び/又は石灰岩及び/又はカンラン石である、請求項46又は47に記載の方法。
【請求項50】
前記炭素源が、化石燃料及び/又はバイオ燃料の燃焼である、請求項46又は47に記載の方法。
【請求項51】
前記炭素源が、工業プロセスである、請求項46又は47に記載の方法。
【請求項52】
前記工業プロセスが、セメントの生産である、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記炭素源が大気である、請求項46又は47に記載の方法。
【請求項54】
前記炭素源が液体である、請求項46又は47に記載の方法。
【請求項55】
前記液体が海水である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記光活性化合物が、鉱物含有ターゲット液体中に配置されているか、又は鉱物含有ターゲット液体と接する境界に配置されている、請求項46又は47に記載の方法。
【請求項57】
前記光活性化合物が、前記ターゲット液体から隔てられている副流体中に配置されている、請求項46又は47に記載の方法。
【請求項58】
前記副流体と前記ターゲット液体とが、カチオン交換膜により隔てられており、前記カチオン交換膜の内部を通して前記プロトンが拡散する、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記除去された炭素を回収する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項60】
前記除去された炭素を回収する工程が、前記光活性化合物の失活化の後に行われる、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記光活性化合物を失活化する工程を更に含む、請求項18に記載の方法。
【請求項62】
前記失活化する工程が、前記光活性化合物の露光を止める工程を含む、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記光活性化合物を活性化する工程と、前記光活性化合物を失活化する工程が、前記炭素含有液体の流れの方向に基づいて連続して行われ、前記除去された炭素を回収する工程が、前記光活性化合物を活性化する工程と、前記光活性化合物を失活化する工程との間に実行される、請求項61に記載の方法。
【請求項64】
前記光活性化合物の露光を止める工程が、前記光活性化合物をその緩和状態に戻すことによって、前記光活性化合物を、請求項1に記載の方法で更に使用するために再生する、請求項62に記載の方法。
【請求項65】
前記再生された光活性化合物を活性化させる工程と、前記光活性化合物の再生後に前記炭素含有液体の流れの方向を反対にして、更に炭素の除去を行う工程を含む、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記作用流体の帯電バランスを維持する工程を更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項67】
前記副流体の帯電バランスを維持する工程を更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項68】
前記帯電バランスを維持する工程が、前記作用流体若しくは前記副流体から前記炭素含有流体に移動させたプロトンをカチオンで置換する工程、又は前記作用流体若しくは前記副流体から移動させたプロトンと共にアニオンを前記炭素含有流体に移動させる工程を含む、請求項66又は67に記載の方法。
【請求項69】
前記カチオン又はアニオンが、別の炭素含有流体又は別の流体からのものである、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記作用流体又は前記副流体の帯電バランスを維持する工程が、電気化学的反応を用いることを含む、請求項66又は67に記載の方法。
【請求項71】
前記電気化学的反応が、アノード又はカソードの存在に基づいて生ずる、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
前記副流体を、イオン交換膜を介して流体の流れに接触させる工程を更に含み、前記流体の流れがプロトン源を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項73】
前記炭素含有液体中の炭素が、二酸化炭素、炭酸、重炭酸塩、及び/又は炭酸塩の形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項74】
前記除去された炭素が、二酸化炭素である、請求項1に記載の方法。
【請求項75】
前記炭素含有液体が水である、請求項1に記載の方法。
【請求項76】
前記水が、海水、海洋水、又は河川水である、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
前記水が汽水である、請求項75に記載の方法。
【請求項78】
前記水が、発電プロセス又は工業プロセスからの排水である、請求項75に記載の方法。
【請求項79】
前記発電プロセスが、熱電発電又は原子力発電である、請求項78に記載の方法。
【請求項80】
前記工業プロセスが、淡水化である、請求項78に記載の方法。
【請求項81】
請求項1に記載の方法を実施するためのシステム。
【請求項82】
炭素含有液体から炭素を除去するためのシステムであって、
炭素含有液体を光活性化合物まで移送するためのダクトと、
前記光活性化合物を含む物質と、
前記物質に含まれる前記光活性化合物を活性化するための刺激部と
を備えるシステム。
【請求項83】
前記除去された炭素を回収するための回収ユニットを更に備える、請求項82に記載のシステム。
【請求項84】
前記炭素含有液体を前記光活性化合物の方向に流すための流動装置を更に備える、請求項82に記載のシステム。
【請求項85】
前記流動装置が、ポンプ又は水頭を備えている、請求項82に記載のシステム。
【請求項86】
前記水頭が、潮流、河川、又はダムにより生じたものである、請求項85に記載のシステム。
【請求項87】
前記流動装置が、加熱された流体の対流を生ずるものである、請求項85に記載のシステム。
【請求項88】
前記回収ユニットとターゲット流との間に材料を更に備え、前記材料が、前記除去された炭素を前記回収ユニットから前記ターゲット流へと移動させることを可能とする、請求項83に記載のシステム。
【請求項89】
前記材料が、膜、気体接触部、又は前記除去された炭素を前記ターゲット流へと直接移動させることを可能とする材料を含む、請求項88に記載のシステム。
【請求項90】
作用流体又は副流体を移送するための第2のダクトを更に備える、請求項82に記載のシステム。
【請求項91】
前記作用流体又は前記副流体を移送するための第3のダクトを更に備える、請求項90に記載のシステム。
【請求項92】
前記刺激部が光源を備えている、請求項82に記載のシステム。
【請求項93】
前記光源が人工光源である、請求項92に記載のシステム。
【請求項94】
前記人工光源がLED光源である、請求項93に記載のシステム。
【請求項95】
前記炭素含有液体を加熱するための熱源を更に備える、請求項82に記載のシステム。
【請求項96】
前記炭素含有液体を前記熱源まで移送する第4のダクトを更に備える、請求項95に記載のシステム。
【請求項97】
炭素含有液体から炭素を除去するためのシステムであって、
炭素含有液体を移送するための第1のダクトと、
光活性化合物を活性化するための刺激部と、
プロセッサと、
コンピュータ実行可能な命令を保存しているコンピュータ可読記録媒体と
を備え、
前記コンピュータ実行可能な命令が実行されると、
前記第1のダクト内の前記炭素含有液体を光活性化合物に暴露する工程と、
前記炭素含有液体から炭素を除去して第2の環境に移動させる工程とを含む操作が前記システムにより実行される、
システム。
【請求項98】
前記刺激部が光源を備え、
前記操作が、前記光源を用いて前記光活性化合物を活性化する工程を更に含む、請求項97に記載のシステム。
【請求項99】
前記炭素含有液体を流動させるための流動装置を更に備え、
前記操作が、前記流動装置を用いて、前記炭素含有液体の流れを、活性化した光活性化合物の方向に向ける工程を更に含む、請求項97に記載のシステム。
【請求項100】
前記操作が、前記光源に対する前記光活性化合物の露光を止めることで、前記光活性化合物を失活化する工程を更に含む、請求項97に記載のシステム。
【請求項101】
前記除去された炭素を回収する回収ユニットを更に備え、
前記操作が、前記除去された炭素を、前記回収ユニットを用いて回収する工程を更に含む、請求項97に記載のシステム。
【請求項102】
前記除去された炭素の回収が、前記光活性化合物の失活化の後に実行される、請求項101に記載のシステム。
【請求項103】
前記第2の環境が、ターゲット流を含み、
前記システムが、前記回収ユニットと前記ターゲット流との間に材料を更に備え、
前記操作が、所定の時間の間、前記除去された炭素を、前記材料を介して前記回収ユニットから前記ターゲット流へと移動させる工程を更に含む、請求項97に記載のシステム。
【請求項104】
前記材料が、膜、気体接触部、又は前記除去された炭素を前記ターゲット流に直接移動させることが可能な材料を含む、請求項103に記載のシステム。
【請求項105】
前記炭素含有液体を加熱する熱源を更に備え、
前記操作が、前記炭素含有液体を前記熱源で加熱する工程を更に含む、請求項97に記載のシステム。
【請求項106】
前記第2の環境が作用流体を含み、
前記システムが、
前記作用流体を移送する第2のダクトと、
前記光活性化合物を含む副流体と機能的に接触する膜とを更に備え、
前記炭素含有液体を前記光活性化合物に暴露する工程が、
前記副流体が高い方のpH状態の時に、前記炭素含有液体から炭素を除去して前記作用流体に移すのに十分な時間にわたって、前記炭素含有液体を前記膜に暴露する工程を含む、請求項97に記載のシステム。
【請求項107】
ポンプ又は水頭を更に備え、
前記操作が、前記ポンプ又は前記水頭を用いて、前記膜と前記副流体との機能的な接触を切断する工程を更に含む、請求項97に記載のシステム。
【請求項108】
太陽光発電パネルを更に備える、請求項82に記載のシステム。
【請求項109】
前記太陽光発電パネルが、前記光活性化合物を含む前記物質の下に配置されている、請求項108に記載のシステム。
【請求項110】
前記太陽光発電パネルが半透明であり、前記光活性化合物を含む前記物質の上に配置されている、請求項108に記載のシステム。
【請求項111】
前記光活性化合物が、それぞれ異なる吸収スペクトルを有する複数の光活性化合物である、請求項82に記載のシステム。
【請求項112】
前記光活性化合物を含む前記物質が更に鉱物を含む、請求項82に記載のシステム。
【請求項113】
前記鉱物が、粉砕された鉱物である、請求項112に記載のシステム。
【請求項114】
前記鉱物が、超苦鉄質岩及び/又は石灰岩である、請求項112に記載のシステム。
【請求項115】
炭素隔離場所から、1000マイル以内、100マイル以内、50マイル以内、40マイル以内、30マイル以内、20マイル以内、10マイル以内、5マイル以内、2マイル以内、又は、1マイル以内の距離にある、請求項82に記載のシステム。
【請求項116】
前記炭素隔離場所が、海洋中、海中、河川中、又は大陸性地殻中にある、請求項115に記載のシステム。
【請求項117】
前記炭素隔離場所が岩盤中にある、請求項115に記載のシステム。
【請求項118】
前記岩盤が、海洋中、海中、若しくは河川中にあるか、又は海洋底、海底、若しくは川底にある、請求項117に記載のシステム。
【請求項119】
前記岩盤が、炭化水素生成岩層である、請求項117に記載のシステム。
【請求項120】
前記炭化水素生成岩層が、原油増進回収(EOR)に利用される、請求項119に記載のシステム。
【請求項121】
前記岩盤が、塩水の帯水層を含む、請求項117に記載のシステム。
【請求項122】
前記炭素隔離場所が、枯渇した油井中及び天然ガス井中にある、請求項115に記載のシステム。
【請求項123】
前記炭素隔離場所が、塩水の帯水層中にある、請求項115に記載のシステム。
【請求項124】
海岸線から10マイル以内、5マイル以内、又は2マイル以内の距離にある、請求項82に記載のシステム。
【請求項125】
洋上石油掘削リグ、洋上風力発電施設、船舶、洋上構造物、又は水上太陽光発電所に設けられている、請求項82に記載のシステム。
【請求項126】
前記船舶が海軍艦船である、請求項125に記載のシステム。
【請求項127】
請求項1に記載の方法によって炭素含有液体から除去された炭素の、製品の成分としての使用。
【請求項128】
前記製品が、肥料、プラスチック、セメント、又は燃料である、請求項127に記載の使用。
【請求項129】
前記燃料が、バイオ燃料、石油、ガソリン、ディーゼル燃料、ジェット燃料、又は合成燃料である、請求項128に記載の使用。
【請求項130】
前記バイオ燃料が藻類バイオ燃料である、請求項129に記載の使用。
【請求項131】
前記製品が、メタノール、エタノール、又は炭化水素類である、請求項127に記載の使用。
【請求項132】
前記炭化水素類が、長鎖炭化水素類である、請求項131に記載の使用。
【請求項133】
請求項1に記載の方法によって炭素含有液体から除去された炭素の、生物の成長における使用。
【請求項134】
前記生物が藻類である、請求項133に記載の使用。
【請求項135】
前記生物が作物である、請求項133に記載の使用。
【請求項136】
前記作物が農作物である、請求項135に記載の使用。
【請求項137】
前記生物が植物である、請求項133に記載の使用。
【請求項138】
前記植物が大麻草である、請求項137に記載の使用。
【請求項139】
温室栽培において実施される、請求項133に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連件に対するクロスリファレンス
本願は、米国仮特許出願第63/215,029号(2021年6月25日出願)、第63/265,515号(2021年12月16日出願)、及び、第63/363,844号(2022年4月29日出願)に基づく優先権を主張するものであり、その内容全てを参照により本明細書に含むものである。
【0002】
本開示は、炭素含有液体から炭素を除去するためのシステム及び方法を提供する。該炭素は、溶存無機炭素であってもよく、該液体は、海水、海洋水、河川水などの炭素含有水であってもよい。
【背景技術】
【0003】
地球の気候変動は、世界中の懸念事項である。1880年より、地球の温度は10年毎に0.14°F(0.08℃)ずつ上昇しており、この温暖化の速度は、1981年から10年毎に2倍(0.32°F(0.18℃))を超えるようになっている。この温度上昇により、酷暑、北極海の氷の融解、氷河の融解、雨量の変化などを引き起こし、動植物の生息場所の変化などももたらしている(Climate Change: Global Temperature. NOAA Climate.gov, 2021 [Accessed 18 June 2021])。
【0004】
温室効果は、地球の気候を自然に温暖に保つものであり、地球上で生命が生存する上で重要な役割を担っている。主に、二酸化炭素(CO2)、水蒸気(H2O)、亜酸化窒素(N2O)、メタン(CH4)、オゾン(O3)、そして、クロロフルオロカーボン類(CFC類)などの人工化学物質などの温室効果ガスは、地球が発する赤外線(熱)を反射し、これにより地球の大気に到達する日射の一部を吸収し、再放射する。
【0005】
二酸化炭素は、温室効果ガスを構成する主要成分の一つである。二酸化炭素は、地球の大気中に気体として存在し、溶存分子としての地球の海洋中に存在する天然化学化合物である。大気CO2の供給源は様々であるが、呼吸の過程でCO2を生成する人間やその他の生物や、火山、温泉、及び間欠泉などの他の自然発生源なども挙げられる。二酸化炭素は水に溶解しやすい。水中に溶存している場合は、二酸化炭素は、水塊のpHに応じて、CO2、炭酸(H2CO3)、重炭酸塩(HCO3
-)、炭酸塩(CO3
2-)などのいくつかの形態で存在している。CO2の溶存成分の合計は、水中の溶存無機炭素濃度を構成する(Dodds, et al., Freshwater Ecology, 2002)。
【0006】
化石燃料(石炭、石油、天然ガス)の燃焼、農業や伐採などの人間の(又は人為的な)活動は、1750年より2000ギガトンのCO2を排出していると見積もられている(IPCC, 2014: Climate Change 2014: Synthesis Report. Contribution of Working Groups I, II and III to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change)。これらの炭素排出は、CO2などの温室効果ガスの濃度を上昇させて地球の気候の自然な温暖化プロセスを阻害する。大気中のCO2は、1750年の工業化前には280ppmであったが、今日では400ppmを超えている。これにより、温室効果が高まり、重大な地球温暖化を引き起こしている(Department of Agriculture, Water, and the Environment. Environment.gov.au. 2021 [Accessed 18 June 2021])。
【0007】
地球温暖化を遅らせるために大気中の温室効果ガスの量を削減することを目的として、いくつかの国際的な条約が締結され、産業界やこの問題に関心の高い一般市民によって補完的な取り組みがなされている。この野心的な炭素量削減のゴールを達成するためには、放出量の削減、再生可能エネルギー生産の利用の増加、および炭素除去技術の使用など、多岐に渡る取り組みを同時に展開することが必要となる(IPCC, 2014: Climate Change 2014: Synthesis Report. Contribution of Working Groups I, II and III to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change)。炭素除去は、大気や海洋表層のような地表のリザーバから炭素を除去し、その後、この除去した炭素を回収して、地球温暖化に寄与できないようにすることを目的とする。特に、海洋水からの炭素の除去には更なる利点がある。人間が大気中に放出した炭素の多くは、迅速に海洋に溶解する。この増加した炭素により、海洋酸性化と呼ばれるプロセスによって海水pHが低下する。海洋酸性化は、海洋生物に様々な悪影響を及ぼす。牡蠣やサンゴなど、炭酸カルシウムからなる殻や骨格を有する生物は、海洋酸性化に対して特に影響を受けやすい。海洋酸性化は、貝類を扱う水産業にとって大きな問題となっており、また、サンゴに対しても脅威となっているので、世界各国の旅行業界全般に対しても危機となろう。
【0008】
上記のような動機付けを鑑み、CO2(例えば、人為的なCO2)を回収することが重要となる。より具体的には、海水などの液体から炭素を除去し、除去した炭素を回収する技術を開発する必要がある。このような炭素の回収は、地球温暖化や海洋酸性化を遅らせる、又は、逆行させる取り組みにおいて重要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
液体から炭素を除去するためのシステムおよび方法のいくつかの実施形態を開示する。いくつかの例では、除去した炭素をターゲット流に移し、使用のために回収する。
【0010】
システムと方法の一例は、炭素を含有しているソース液体とターゲット流との間に介在している作用流体内に配置された光活性化合物(例えば、光酸)を用いるように構成されている。作用流体内の光活性化合物は、作用流体のpHを変化させて、ソース液体から炭素を引き出し、ターゲット流(例えば、ターゲット液体またはターゲット気体)に移すために使用することができる。
【0011】
システムと方法の他の一例は、光活性化合物を使用して、炭素含有ソース液体のpHを低下させ、この炭素含有ソース液体から炭素を除去するように構成されている。光活性化合物は、炭素含有ソース液体の流れ内や炭素含有ソース液体と接触する境界のいずれかに配置されて、炭素含有ソース液体自身の中に直接配置することができる。または、光活性化合物を、炭素含有ソース液体と接触する材料内に埋め込んでもよく、或いは、光活性化合物を、イオン透過膜を介して炭素含有ソース液体のpHに影響を及ぼす、別途設けられた副流体の一部とすることができる。
【0012】
システムと方法の他の一例は、前述の2つのアプローチを組み合わせたものであり、光活性化合物を使用して、作用流体のpHを変化させ、且つ、光活性化合物を使用して、ソース液体のpHを低下させるように構成されている。
【0013】
システムと方法の他の一例は、上記のアプローチと同様であるが、光活性化合物の使用に加熱を加えて炭素の流れを促進するように構成されている。
【0014】
システムと方法の他の一例は、前述のアプローチを組み合わせたものであり、ソース液体及び/又は作用流体の加熱、冷却、及びpH変化を用い、ソース液体から炭素を除去するように構成され、任意に、その後、除去され移動した炭素を回収するように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1A及び
図1Bを示す。
図1Aは大気からCO
2を除去するメカニズムを示す図である。
図1Aに示すように、海洋表層からのCO
2の除去は、直接空気回収技術と類似している。まず、大気中ではなく、海洋表層の海水から炭素を除去する。炭素は、大気中と海洋表層において(月単位の時間スケールで)急速に平衡化するので、大気と海洋表層を実質的に単一のリザーバとして見なすことができる。CO
2の排出はあらゆる場所で起こり得る。例えば、CO
2の排出は、大陸の真ん中を走る配送トラックや、飛行中の航空機、または海上の貨物船から起こりえる。どの場合でも、CO
2は大気中に拡散され、海洋がCO
2用のスポンジのように作用する。海洋から炭素を除去すると、海洋は除去された分だけCO
2を近くの空気から吸収する。海洋表層は、大気と迅速に平衡化する(3~4ヶ月の時間スケール;Jones、Daniel C、Takamitsu Ito、You Takno、Wei-Ching Hsu、「Spatial and Seasonal Variability of the Air-Sea Equilibration Timescale of Carbon Dioxide」、Global Biogeochemical Cycles 28, no. 11 (November 2014): 1163-78)。
図1Bは、海水中と大気中の二酸化炭素量を体積基準で示す図である。
図1Bに示すように、海水は典型的には99g/m
3の炭素を含む。海水は、空気から自然にCO
2を取り込み、濃縮する。一方、CO
2は大気中では希薄であり、0.7g/m
3しか存在しない。
【0016】
本開示の海水を利用した炭素除去を、直接空気回収技術などの他の競合するプロセスと比較することができる。既存の直接空気回収技術は、大型のファンファームを必要とする。さらに、空気ベースのプロセスは、大気から炭素を除去するために大量のエネルギーを必要とするプロセスに依存する。しかし、1立方メートルあたりの空気に含まれているCO2は1グラムにも満たない。つまり、1メトリックトンのCO2を除去するためには、1.4百万m3の空気を処理しなればならない。また、分離が困難な問題である。空気から二酸化炭素を回収すると、その1分子毎に、他の気体分子を2000個以上も同様に回収してしまう。
【0017】
本開示の直接海水回収技術の効果としては、以下のものが挙げられる。
海洋は、「パッシブファンファーム」である。海水の揚水は、確立された技術である。海水からの回収は、他の工業プロセスと相乗効果を有し得る。沿岸には隔離を行える場所が豊富である。
海水は、自然に大気から炭素を取り込み濃縮する。通常、一般的な海水1立方メートルあたりに含まれる炭素のグラム数は、空気1立方メートルあたりに含まれる炭素のグラム数の140倍を上回る。これは、海水に依存する炭素回収設備が揚水しなければならない量がより少なくてもよいことを意味する。さらに、大規模に海水を揚水する技術は、確立された技術である。よって、大規模のファンファームの代わりに表層海洋全体を天然のパッシブファンファームとして利用することができる。また、他の溶存気体に関する分離の問題でも、海水はより有用である。溶存炭素は、海水において微量成分ではなく、海水中の他の全ての溶存気体よりはるかに豊富に含まれている。海水には炭素が豊富に含まれているので、炭素の回収を大規模化する上でのエネルギー論や実現可能性などの重要事項について、根本的な変化をもたらす。
沿岸、特に大陸棚には隔離を行える場所が豊富にある。よって、沿岸での炭素除去は、エンドユーザにとって便利な場所に位置している。さらに、沿岸では、既に海水の揚水を行っていて本プロセスを併設することが可能である発電所や淡水化設備が多数存在する。本炭素除去プロセスをこれらのプロセスとより密接な形で一体化するような様々な態様があるであろう。少なくとも、これらの施設が大規模に何十年も操業しているということは、海水を大量に揚水することが実績のある技術であることを示している。
【0018】
【
図2】
図2A及び
図2Bを示す。
図2Aは、炭素の除去及び回収のためのプロセスを示す図である。
図2Aに示す実施形態に示すように、投入されるのは天然の海水と光であり、排出されるのは炭素が除去された海水及び二酸化炭素である。このプロセスは、環境から炭素を除去して気候変動の影響を低減し、急速に成長中の炭素除去市場のニーズを満たし、世界がネット・ゼロ・カーボン・エコノミーへ移行するのを加速させるために開発されている。実施例では、企業や政府がその野心的な気候目標の達成のために必要とする炭素除去クレジットを売買の対象とすることが可能である。最も単純な形態を説明すると、本プロセスは、海水を取り込み、今後の隔離または利用のために二酸化炭素を生成するように設計されている。本プロセスにおける光誘起化学反応は、直接炭素回収技術のコストを大幅に削減することができる新しいアプローチである。
図2Bは、海水を酸性化してCO
2を遊離させるプロセスを示す図である。
図2Bに示すように、海水中のほとんどの炭素は、プロトン化や水和化された形態で存在する。海水を酸性化することによって、プロトン化や水和化されている炭素を、気体接触膜を介して受動拡散するCO
2に変換することができる。本開示において記載する技術革新は、光活性化合物(例えば、光活性化された可逆性の光酸)を使用して、酸性化工程を省エネ化し、スケーラブル化するものである。この実施例では、CO
2の除去効率は、80%を超え得る。本プロセスは、収着剤や溶媒に依存してはいないが、収着剤や溶媒を使用するか否かは任意であり、収着剤や溶媒は、含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。CO
2の除去は、即時且つ検証可能に行い得る。図示されている海水は、本明細書の他の個所に記載されているものなどの他の炭素含有液体を示すものであってもよく、同じく、人工光による他の形態であってもよい。
【0019】
【
図3】
図3は、光に誘起されて海水を酸性化する可逆性の光酸を使用するプロセスの一例を示す図である。
図3に示すように、本技術は、海水を酸性化するために可逆性の光酸を使用する。光(例えば、波長450nmの青色光)に暴露すると、これらの分子(光酸)はより酸性の高い状態でプロトンを放出する立体配座となり、放出されたプロトンは海水を酸性化するために使用される。光酸は、暗所では秒から分単位ですぐに緩和し、その後、また光により活性化されてプロトンを再び放出する。
図3には可逆性の光酸の具体例を示しているが、本願明細書に記載のように、光酸の他の例を使用することも可能である。
【0020】
【
図4】
図4は、表面海水から炭素を除去および回収する例示的なプロセスを示す図である。本プロセスの重要な構成である化学サイクルの第1の工程において、太陽又は人工光源からの可視光により可逆性の光酸を励起してプロトンを放出させる。このプロトンは、海水を酸性化して海水のpHを低下させ、溶存炭素をCO
2ガスに変化させる。このCO
2ガスは、気体接触膜を介した迅速な受動拡散により海水から除去される。このようにして生産されたCO
2は、そのまま使用されてもよく、様々な市場、例えば、隔離や、肥料、プラスチック、セメント、メタノール、又は、バイオ燃料の製造のために必要なレベルにまで加圧や精製をされた状態にして使用されてもよい。発電所や淡水化プラントなどの大量の海水を揚排水する施設に併設することで、又は、潮流や川の水流を利用して必要な圧力水頭を得ることで、水を揚水するのに必要なエネルギーやコスト支出を更に削減することができ、排水の流れをグリーンレベニューの収益をもたらす流れに変えることができる。一方、光酸は、明所から暗所に揚水で移送され、暗所にて即時に緩和してそのより塩基性が高い形態に戻る。このサイクルは、塩基性となった光酸を使用済みの海水を使って再生して一巡する。炭素を減らした海水が海洋に戻されるので、海洋の酸性化対策としての利点も更に有する。なお、DICとは、溶存無機炭素(H
2CO
3、CO
2(水溶)、HCO
3
-、及びCO
3
2-からなる)を意味する。
【0021】
【
図5】
図5は、ソース液体の流れ(本明細書では炭素含有液体とも称す)から作用流体、そしてターゲット流(例えば、液体又は気体)へのCO
2の拡散を示す図である。
【0022】
【
図6】
図6は、高い方のpH状態の一方の作用流体試料から低い方のpH状態のもう一方の作用流体試料に膜を介してCO
2を拡散させてCO
2の濃縮を行う多段プロセスを示す図である。
【0023】
【
図7】
図7は、炭素含有液体であるソース流のpHを低下させて二酸化炭素の分圧を上げ、炭素含有液体がその中/その上を通過するビーズまたは固体表面に埋め込まれた光酸を用いて無機炭素の一部又は全てをCO
2に転化させて行われる、炭素含有液体であるソース流からの無機炭素の除去を示す。
【0024】
【
図8】
図8は、ビーズまたは粒体に埋め込まれた光酸を光照射により酸性の状態に刺激して(上図のA)溶存無機炭素の一部又は全てをCO
2に転化し、二酸化炭素の分圧を上げることで行う炭素含有液体(ソース液体の流れ)の酸性化と、そのCO
2のターゲット流への移動を示す図である。光酸は光照射がない状態では塩基性に戻り(上図のB)、これによりソース液体の流れのpHが上昇する。ソース液体の流れの方向を逆にして、再生された光酸が光照射を受けてソース液体の流れを酸性化するのに使用され(下図のB)、刺激された状態の光酸が暗所で再生されてより塩基性の高い状態になる(下図のA)ようにすることができる。
【0025】
【
図9】
図9は、気体透過膜の炭素含有液体(ソース液体の流れ)側に埋め込まれた光酸を示す図である。
【0026】
【
図10】気体透過膜の炭素含有液体(ソース液体の流れ)側に付着した光酸が炭素含有液体からの炭素除去を促し、その後にターゲット流により炭素を取り込むことができるプロセスの一例を示す図である。
図10において、「HP」は、プロトン化された光酸を示し、「-P」は、脱プロトン化した光酸を示す。(a)膜の炭素含有液体ソース側の流体が、気体透過膜を介して拡散できない重炭酸塩などのイオンの形態を主として溶存無機炭素を含有している。(b)光酸を光照射することにより、炭素含有液体ソース側の境界層内における、及び/又は、炭素含有液体ソース側の膜の近傍におけるpHを低下させる。(c)この領域のpHが低いことにより、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンをプロトンと結合させ、その結果、CO
2分子が形成される。(d)CO
2は膜を介して拡散し、そして、膜領域からすぐに運び去られる。(e)光照射がなくなると、光酸が再生され、塩基性の溶液を形成する。この塩基性の溶液は、炭素含有ソース液体からなる流体の流れにより移流される。(f)炭素含有ソース液体からなる流体の流れが膜のソース側の溶存無機炭素イオンに置き換わり、本プロセスを再度始められるようになる。破線矢印は、流体又は気体の流れの動きを示している。矢印は一部の分図にのみ記載されてこの流れの影響を分かりやすく示しているが、流れは連続したものであってもよい。また、流体と気体の流れの方向は、本図で図示する矢印の方向と違っていてもよく、ここで重要なのは、この流れにより物質が運び去られるということである。
【0027】
【
図11】
図11は、1枚又は複数枚のイオン交換膜により炭素含有ソース液体の流れから隔てられた副流体内に含有される光酸を示す図である。この光酸により生成されたプロトンが炭素含有ソース流体を酸性化させ、溶存無機炭素種の一部又は全てをCO
2に転化する。この副流体の再生は、CO
2の除去後のソース流体を用いて行ってもよく、又は、再生を、天然の海水や天然の河川水などの他の流体を使用して行ってもよい。
【0028】
【
図12】
図12は、(1)炭素含有ソース流を光酸で酸性化して二酸化炭素の分圧を上げるプロセスと、(2)この二酸化炭素を、光酸を含有する作用流体を介してターゲット流に移すプロセスの2つのプロセスをどのように連ねて使用してソース流からターゲット流への炭素の移送の効率を最大化させるかを示す図である。
【0029】
【
図13】
図13は、スイープガス、海水、及び光酸を用いた炭素回収の例示的なプロセスを示す図である。
図13では、流入海水(「海水 入」)は、淡水化プラント又は熱を利用する発電所からの排水によって、又は、水流や潮流によって供給することができる。流入海水の流量を海水36,000m
3/日とすると、CO
2を1000トン/年生成することができる。即ち、流入海水における流量を海水36,000,000m
3/日とすると、CO
2を百万トン/年生成することができる。本例では必要な海水の量は推定値であり、正確な量はCO
2の除去の効率の影響を受ける。比較のために例を挙げると、カリフォルニア州のDialo Canyon原子力発電所で一日に揚排水される海水の量は、8百万m
3/日であり、サウジアラビアのジュバイルの海水冷却施設で一日に揚水される海水の量は、3千万m
3/日である。
図13に示すように、本プロセスは、光酸ループ(実線で図示)と、水流路(破線で図示)と、気体流路(点線で図示)と、を含む構成であってもよい。
【0030】
光酸ループは、以下の工程を含んだ構成であってもよい。光酸(PA)を、光反応部において酸性状態に変換する。プロトンを、カチオン交換膜を介して海水に移動させる。光酸を暗所のリザーバにおいて熱緩和し、基底状態にする。基底状態(塩基形態/高pH)の再生を、海水からのカチオン交換によって行う。その後、このサイクルは繰り返し行うことができる。
【0031】
水流路は、以下の工程を含んだ構成であってもよい。海水を、カチオン交換膜を介して揚水する。カチオン交換膜にて、活性PAにより海水を酸性化する。溶存炭素をCO2に転化する。CO2を気体接触膜により除去する。高い方のpH状態の海水からプロトンを基底状態のPAに戻し、次のサイクルのためにPAを再生する。海水を排水することにより、排水が流れ込む海洋の酸性度を下げることができ(つまり、pHを上昇させることができ)、海洋酸性化に対する局地的な対策となる。
【0032】
気体流路は、以下の工程を含んだ構成であってもよい。スイープガスを、気体接触膜を介して圧送する。気体接触膜において、酸性化された海水からのCO2をスイープガスに加える。隔離場所又は利用場所へ輸送するためにCO2生成物を圧縮する。または、スイープガスを使用せずに、気体接触部に真空だけを印加する構成であってもよい。
【0033】
【
図14】
図14は、海水、光酸、及びスイープガスを用いた炭素回収の例示的なプロセスを示す図である。
図14に示すように、本プロセスは、光酸ループ(実線で図示)と、水流路(破線で図示)と、気体流路(点線で図示)と、太陽光照明(稲妻状のシンボルで図示)を含む構成であってもよい。
図14において、気体に関するパラメータとして、例えば、CO
2の回収量の設計値を1キロトン/年とする。海水源に関するパラメータとして、例えば、塩分濃度=35、温度=30℃、アルカリ度=2250μ当量/kg、全溶存無機炭素(DIC)=2000μmol/kg、及び流入海水の流量を36,000m
3/日とする。本プロセスから排出される海水に関するパラメータとして、例えば、全溶存無機炭素(DIC)=1000μmol/kgとする。光酸ループに関するパラメータとして、例えば、平均年間日射量を1日あたりの日射量6kW時間/m
2とサンディエゴのピーク日射量に相当するものとし、複数の光酸により入射太陽光の17%が吸収され、光酸の量子収率を0.7(1日あたり8.8モル/m
2の酸を生成するものとし、太陽集光領域の全面積は、アメリカンフットボールフィールドのおおよそ2面分、つまり約10,000m
2)、ピーク光時にパネルの1m
2当たりを通過する流量を、5L/分(LPM)とし、光学的深さを5mmとし、光酸を含有する副溶液の最大流体速度を2cm/秒とし、光酸を含有する副溶液の全流量を40m
3/分とし、光酸を含有する副溶液の全体積を122m
3とし、工程において設備が必要とする光酸の全モル数を600モルとする。光酸に関するパラメータとして、例えば、pK
a-Dark=8.3、pK
a-light=5.0、基底状態のプロトン化形態の溶解度を3mMとし、溶存光酸の全量を5mMとする。
【0034】
光酸ループは、以下の工程を含んだ構成であってもよい。PAを、光反応部において酸性状態に変換する。プロトンを、カチオン交換膜を介して海水に移動させる。光酸を暗所のリザーバにおいて熱緩和して基底状態にする。基底状態に緩和された光酸の再生は、気体接触部から排出され、無機炭素を減少させた酸性化海水と、天然の海水の2種類の海水源を用いたカチオン交換によって行う。その後、このサイクルを繰り返し行うことができる。
【0035】
水流路は、以下の工程を含んだ構成であってもよい。海水を、カチオン交換膜を介して揚水する。カチオン交換膜にて、活性PAにより海水を酸性化する。溶存炭素をCO2に転化する。CO2を気体接触膜により除去する。高い方のpH状態の海水からプロトンを基底状態のPAに戻し、次のサイクルのためにPAを再生する。海水を排水することにより、排水が流れ込む海洋の酸性度を下げることができ(つまり、pHを上昇させることができ)、海洋酸性化に対する局地的な対策となる。本システムを既存の海水揚水に併設することで、省エネ化と低コスト化を行うことができる。
【0036】
気体流路は、以下の工程を含んだ構成であってもよい。スイープガスを、気体接触膜を介して圧送する。気体接触膜において、酸性化された海水からのCO2をスイープガスに加える。隔離場所又は利用場所へ輸送するために高純度のCO2を有する気体生成物を圧縮する。
【0037】
【
図15】
図15は、光化学炭素回収積層体を示す図である。本システムの一例としての構成は、膜およびチャンバの積層体として達成されるコンパクトなフォームファクタを有し、モジュール式大量生産を可能とする。同様のフォームファクタは、燃料電池や膜淡水化において採用されている。
図15に示すように、光化学炭素回収積層体は、光酸励起チャンバ、第1のカチオン交換膜(例えば、ナフィオン(Nafion)、酸性化チャンバ、気体接触膜、気体流路チャンバ、支持部、海水排水チャンバ、第2のカチオン交換膜(例えば、ナフィオン(Nafion))、及び光酸再生チャンバを備えている。
【0038】
本システムは、ハイブリッド型太陽光集光/集熱器と同様のフォームファクタを有することができる。実際に、太陽光をプロセスに使用し、太陽光スペクトルの他の部分も、太陽光発電のために使用する使用例がある。
【0039】
【
図16】
図16は、炭素含有液体から炭素を除去するための例示的なシステム1600を示す図である。本システムは、第1のダクト1602と、第2のダクト1604と、第nのダクト1606と、刺激部1608と、流動装置1610と、1枚以上の膜1612と、熱源1614と、コンピュータシステム1616と、を備えている。第1のダクト1602と、第2のダクト1604と、第nのダクト1606は、炭素含有液体、副流体、及び/又はターゲット流を移送するように構成されている。刺激部1608は、光活性化合物を活性化するように構成されている。刺激部は、光源を備えていてもよい。流動装置1610は、炭素含有液体を動かして流動させるように構成されている。膜1612は、1つの環境から別の環境への炭素の移動を可能にするように構成されている。熱源1614は、炭素含有液体を加熱するように構成されている。コンピュータシステム1616は、プロセッサ1618、通信部1620、入出力(I/O)部1622、及びメモリ1624を備えている。メモリ1624は、コンピュータ実行可能な命令を記憶しているコンピュータ読み取り可能な記憶媒体であってもよい。メモリは、以下のような構成要素を備えた構成であってもよい。暴露部1626は、第1のダクト内の炭素含有液体を光活性化合物に暴露し、それにより炭素含有液体のpHを低下させるように構成されている。いくつかの実施例では、暴露部1626は、副流体が高い方のpH状態にある時に、炭素含有液体から炭素が除去され副流体へ移るのに十分な時間にわたって、炭素含有液体を膜1612に暴露する構成であってもよい。炭素除去部1628は、炭素含有液体から炭素を除去して第2の環境に移すように構成されている。流動部1630は、流動装置1610を使用して炭素含有液体の流れを制御するように構成されている。活性化部1632は、刺激部1608を使用して光活性化合物を活性化するように構成されている。失活部1634は、光活性化合物を刺激部1608へ暴露しないようにすることで、光活性化合物を失活させるように構成されている。炭素回収部1636は、除去され移動した炭素を回収するように構成されている。除去された炭素の回収は、光活性化合物の失活化後に行われる。加熱部は、熱源1614を使用して炭素含有液体を加熱するように構成されている。例えば、本システム1600は、ネットワーク1642を介して遠隔コンピュータ装置1640と通信する構成であってもよい。
【0040】
【
図17】
図17は、今後の利用や隔離のためにCO
2を省エネルギーで生成する方法の一部として海水と太陽光を利用することが可能なことを示す図である。この炭素回収プロセスは、海水中の溶存炭素(DIC)の高濃度を利用するものである。このDICは、光活性化された光酸によってCO
2に変換され、続いて、気体接触膜を介して拡散する。CO
2生成物は、そのまま使用されてもよく、様々な市場、例えば、隔離や肥料、プラスチック、セメント、メタノール、又はバイオ燃料の製造などにおいて要求されるレベルにまで加圧や精製をした状態で使用されてもよい。大量の海水を揚排水する発電所や淡水化プラントなどの施設と併設することにより、又は、潮流や河川流を利用して必要な圧力水頭を得ることにより、揚水に関わるエネルギーやコスト面での支出を更に削減することができ、排水流をグリーンレベニューの収益源となる流れに変えることができる。
【0041】
【
図18】
図18は、光酸サイクルを示す図である。光誘起反応により、流入海水から排水海水にアルカリ性を移すことができる。その間に、海水は一時的に酸性化され、それによりCO
2が放出される。本グラフは、本開示のプロセスが繰り返される中での光酸pHを示し、最近報告されたpK
a-Dark=7.33の光酸の特性を用いたモデル化(Wimberger et al., Basic-to-acidic reversible pH switching with a merocyanine photoacid. Chemical Communications, 2022, 58(37), 5610-5613)に基づくものである。本モデルは、公開されている光酸に関する報告と照らし合わせて検証されたものであり、本例のような既存の光酸を炭素除去サイクルの一部として使用できることを示すものである。本サイクルの形状や位置は最適化することができ、光酸溶液に元から添加される強塩基や強酸の量により影響を受ける。本例では、プロットされているpHは、光酸を含有している副流体のpHである。
【0042】
【
図19】
図19は、海水又は他の天然水又は工業廃水の流れからCO
2を回収する本開示のシステムの例示的な全プロセス図である。
【0043】
【
図20】
図20は、例示的なモジュール式炭素回収器を示す図であり、溶液、気体、イオン交換膜、および気体接触膜の各層を示す。図中に例示する寸法や流体の流量は、モジュール式炭素回収器の表面積1m
2当たりについてのものである。
【0044】
【
図21】
図21は、
図20に示すような一連の各炭素回収器においてソース水からCO
2を除去する本開示の炭素回収システムの一例を示す図である。上左図は、炭素除去を行う集中型気体移送設備への酸性化された海水の移送を示す図である。上右図及び下図は、必要なポンプの数を削減する光酸の循環技術の例を示す図である。
【0045】
【
図22】
図22は、可逆性光酸(RPA)の活性化を必要とせず、入射太陽光の80%超を用いて発電することができる太陽光発電(PV)セルを組み込んだ炭素回収器の実施例を示す図である。本構成は、電気および温水を同時に生成するために使用される市販のハイブリッド型太陽光集光/集熱(PVT)パネルとは類似しているが、本開示の独自のものである。
図22の左図は、ハイブリッド型の炭素回収兼太陽光発電(PV)システムのエネルギーバランスを示す図である。太陽光が、透明カバー層の下で光酸の活性化と、水の加熱とを行う。水と光酸を透過した光は、水の下のPVパネルに入射する。発熱した熱を用いて、炭素含有流体の温度を上昇させ、そのCO
2分圧(pCO
2)を上げる。市販のPVTパネルと類似のものである本システムのモジュール設計のフォームファクタの一例を
図22右図に示す。流体層と流路を、膜とPV層と共に示す概略図を別ページに記載の
図22(続)に示す。
【0046】
【
図23】真空(X軸)、海水流量(分図標題)、及び、海水温度(灰色の濃淡)に対する炭素フラックスの関係を示す図である。これらの実験結果は、CO
2分圧が800ppmである弱酸性の水を用いた実験からのものである。
【0047】
【
図24】
図24は、本プロセスで使用可能な光酸などのメロシアニン光酸の加水分解の分解生成物が、光酸の合成の最終工程の反応生成物となることができることを示す図である。これにより、本プロセスにおいて複数サイクル使用された後に光酸溶液から加水分解生成物を回収し、反応させて光酸を再生することができ、本開示の光酸を生成するコストを削減することができる。これは、Berton et al., (2020) Chem. Sci. 11(32): 8457-8468より採用したものである。
【0048】
【
図25】
図25は、典型的な海水中の溶存無機炭素種の相対存在量をpHの関数として示す図である。黒い太線は、水溶存CO
2
*の相対存在量を示す。この炭素種は、炭酸のpKaよりも海水のpHが高い場合には、溶存無機炭素の微量成分である。炭酸のpKaは、海水中では6であり、温度や圧力、その他の溶液特性に依存する。このpHレベルより高い場合は、溶存無機炭素の他の種であるHCO
3
-(灰色の破線)やCO
3
2-(灰色の点線)の存在量がより多くなる。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本開示のシステム及び方法は、溶存無機炭素を炭素含有液体から除去し、この炭素をソース流から除去して第2の環境に移すように構成されている。第2の環境は、別の液体や気体であってもよく、本明細書ではターゲット流と称す。除去は、ターゲット流への移動を生ずる。水中の溶存無機炭素濃度、つまり溶存二酸化炭素は、水塊のpHに依存して、CO2、炭酸(H2CO3)、重炭酸塩(HCO3
-)、炭酸塩(CO3
2-)などの様々な形態を取り得る。CO2の溶存分の全量が、水中の溶存無機炭素濃度を構成する(Dodds, et al., Freshwater Ecology, 2002)。
【0050】
本プロセスの一例(
図5の左側)において、CO
2はまず膜を介してソース流から除去され、作用流体へ移る。作用流体は1種類又は複数種類の光活性化合物を含んでいる。本プロセスは、例えば、可逆的な光酸又は準安定状態の光酸を用いて行うことができる。いくつかの実施例では、光活性化合物は、光刺激の結果として、作用流体のpHを高い方のpH状態と低い方のpH状態との間でシフトさせるために使用される。
【0051】
想定される本プロセス(
図5)の一部として、作用流体が高い方のpH状態にある時に、ソース流から作用流体へのCO
2の拡散が生じる。ソース流からCO
2が除去されるのに十分な時間を経た後、作用流体をソース流から機能的に分離する。この分離は、膜若しくは気体接触部を密閉すること又は膜若しくは気体接触部を不透過状態にすること、及び/又は、膜から作用流を分離することで行われる。CO
2の除去に必要な時間量は、公知の化学原理に則ったものである。この時間量に関連する因子としては、膜の拡散性、ソース流の流量、作用流体の流量、膜のシェルとコア部分の体積、ソース流の温度、及び、膜を介した無機炭素種の濃度勾配などが挙げられる。一実施例では、分離は、連続的に流れるシステムの一部として作用流体をポンプにて移送することによって達成される。膜に接触していない時には、作用流体は、他の流体や気体とは隔離されて炭素交換が制限されている。その他の機能的な分離も採用可能である。
【0052】
その後、作用流体を、光により刺激された光活性化合物によって、低い方のpH状態にシフトさせることができる。より安定的な形態が酸性である他のタイプの光活性化合物については、このシフトは、刺激を受けていない時に酸が経時的に低いpH状態に自発的に戻ることによって生じる。低い方のpH状態にシフトすると、作用流体内で炭酸の濃度と二酸化炭素の分圧が上昇する。この低い方のpH状態の時に、作用流体に、膜又は気体接触部を介してターゲット流と相互作用させる。炭酸濃度がより高い状態であり、且つ二酸化炭素分圧がより高い状態であるため、膜又は気体接触部を介して無機炭素がターゲット流へと拡散する。ターゲット流へ炭素が移動するのに十分な時間を経た後、作用流体をターゲット流から機能的に分離する。この分離は、膜若しくは気体接触部を密閉すること又は膜若しくは気体接触部を不透過状態にすること、及び/又は、膜から作用流を分離することで行われてもよい。これにより作用流はターゲット流との相互作用から分離される。炭素の移動に必要な時間量は、公知の化学原理に則ったものである。この時間量に影響する因子としては、膜の拡散率、ターゲット流の流量、ターゲット流の温度、作用流体の流量、膜のシェル部分及びコア部分の体積、及び、膜を介した二酸化炭素の分圧の勾配などが挙げられる。
【0053】
その後、作用流体は高い方のpH状態に戻るが、これは、刺激を受けていない状態では経時的に高い方のpH状態に自発的に戻る光活性化合物では、その自発的な変換により行われ、より安定的な形態が酸性である他の光酸の場合は、光による刺激により行われる。高い方のpH状態にシフトすると、炭酸の濃度と二酸化炭素の分圧が作用流体内で減少する。再生された作用流体は、再び膜または気体接触部を介したソース流との化学的相互作用に供される。炭素は、作用流体中に拡散し、本プロセスは繰り返し行われる。
【0054】
上記単段プロセスでは、同じ作用流体がソース流とも相互作用し、ターゲット流とも相互作用する。多段プロセスとして想定したものを
図6に示す。各段において、高い方のpH状態の一方の作用流体から低い方のpH状態の他方の作用流体へCO
2が膜を介して移動する。各作用流体は、上記のように、低い方のpH状態と高い方のpH状態との間を循環する。多段を採用することで、最終的なターゲット流における無機炭素の濃度を増加させ、広範囲の用途の要求に応えることができる。
【0055】
本プロセスの他のバージョン(
図7)では、ソース流を酸性化して、溶存無機炭素種の全てまたは一部をCO
2に変換して、ソース流からCO
2を除去するように構成されている。本プロセスのこのバージョンの多くの実施形態では、例えば膜を介して、ソース流から直接CO
2を除去し、CO
2をターゲット流(例えば、ターゲット液体又はターゲット気体)に移動させる。このプロセスの一部として、ソース流体は、光活性化合物の作用によって低い方のpH状態にシフトされ、それにより溶存無機炭素種の全てまたは一部(H
2CO
3、HCO
3
-、CO
3
2-)がCO
2に変換される、つまり、例えば膜や気体接触部を介してソース流から除去されてターゲット流体に移動することが可能な形態に変換される。本プロセスは、例えば、ソース流に直接添加された可逆的な光酸または準安定状態の光酸を用いて行ってもよい。このようなプロセスは、例えば、溶存無機炭素濃度や同位体組成物の実験室での分析などの小規模(例えば、mLからL程度)でも行ってもよく、海水やその他の炭素含有流体からCO
2を抽出するためなどの大規模で行ってもよい。
【0056】
いくつかの実施例では(
図7~10及び12)、光活性化合物は、炭素含有ソース流そのものの中に直接配置されている構成(例えば、(Chandra, A., et al. (2021). 「Highly Sensitive Fluorescent pH Microsensors Based on the Ratiometric Dye Pyranine Immobilized on Silica Microparticles.」Chemistry -A European Journal 27(53): 13318-13324)、炭素含有ソース流に接する境界に固定されている構成、炭素含有ソース流に接する物体に埋め込まれている構成、副流体内に配置された構成、又は、これらアプローチのいずれかの組み合わせの構成で配置されている。光により光活性化合物を刺激することで、光活性化合物がより酸性の高い状態となり、これにより、刺激された状態の光活性化合物のpKaが低い限り、ソース流体の初期のpHよりも低くなるようにソース液体のpHがシフトする。照射された時の形態がより塩基性の高い状態である他の種類の光活性化合物の場合は、このシフトは、刺激がない状態下で経時的により酸性の高い状態に光活性化合物が自発的に戻ることにより生ずる。ソース流体を低い方のpH状態にシフトすることで、ソース流体内で炭酸濃度が上昇し、二酸化炭素の分圧が上昇する。この低い方のpH状態にある間、ソース流体をターゲット流と相互作用させて、二酸化炭素が、例えば膜や気体接触部を介して拡散することを可能にする。ソース液体からターゲット気体流へ直接炭素を除去して移す場合は、炭素交換を膜や気体接触部を設けない構成とすることも任意である。酸性化されたソース流体とターゲット流の間の炭素の十分な移動に必要な時間量は、公知の化学原理に則ったものである。この時間量に関連する因子としては、膜の拡散率、ソース流の流量、ターゲット流の流量、膜を設ける構成の場合はその膜の性質、プロセス流の温度、及び流れの間の無機炭素種の濃度勾配などが挙げられる。
【0057】
光活性化合物がソース流を酸性化するのに十分な時間を経た後、この光活性化合物を本プロセスにおける二酸化炭素の交換が行われている部分から機能的に分離する。この分離は、例えば、光活性化合物を設けている部分を物理的に取り除く、又は、置き換えることにより、及び/又は、膜若しくは気体接触部を覆うこと若しくは不透過状態にすること、及び/又は、ソース流の流れを変えて、炭素移動プロセスの上流において光活性化合物と相互作用しないようにすること、又は、これらのプロセスのいずれかの組み合わせにより行うことができる。光活性化合物がソース流を酸性化する能力は公知の化学原理に則ったものである。この能力に関連する主な因子としては、光活性化合物の量、光活性化合物を刺激やソース流体に暴露することでより酸性の高い状態に変換できる光活性化合物の分量、及びソース流の流量などが挙げられる。機能的な分離は、光活性化合物がより塩基性の高い状態に戻るまで維持される、本プロセスではこの工程を「再生」と称する。本明細書において「緩和」又は「失活化」とは、光がない状態下で光酸がより酸性が低い形態に自発的に戻ることを意味し、「再生」とは、光酸溶液にプロトンを拡散させる前に光酸を緩和させ、プロセスが連続的なサイクルとして機能できるようにすることを意味する。再生は、光活性化合物が刺激の下から外れてより塩基性の高い状態に戻り、そして、このより塩基性の高い状態のpKaに対して相対的に低いpHを有する液体に暴露されると起こる。再生後、光活性化合物は本プロセスの二酸化炭素の交換が生ずる部分に機能的に復帰する。このサイクル全体が繰り返されて更に炭素の除去を行う。
【0058】
光活性化合物を使用してソース水を酸性化し、その後、炭素移動が生じる場所から光活性化合物を分離し、光活性化合物を再生することを可能にする構成は多数存在する。一実施例(
図8)では、ポンプでソース流体を移送して、膜又は気体接触部の上流の照射下の光活性化合物のバッチを通過させた時にシステムを流れる流れの一部としてソース流体の酸性化工程が達成されている。バッチは、基材に固定された光酸から構成されていてもよい。このバッチをバッチAとして示す。バッチAを通過して流れるソース流体は酸性化され、続いて、炭素が膜又は気体接触部を介してターゲット流に移る(
図8の上部)。ソース流体は、炭素を移した後に、刺激がない状態下の光活性化合物のバッチを通過する。このバッチをバッチBとして示す。炭素交換領域を通ってきたソース流体により光活性化合物のバッチBが再生される。ソース水を酸性化するバッチAのキャパシティがいっぱいになり、バッチBが再生された後、ソース流体の流れの方向を逆にし、バッチAの刺激を止め、バッチBの刺激を行う(
図8の下部)。この新しい流れの方向では、バッチBがソース流体の酸性化を行い、バッチAが再生される。本プロセスは、この2つの構成間で何度も切り替わり、ソース流体からターゲット流への炭素の移動を略連続的に行うことを可能にする。他の構成においては、ソース流体の流れの方向を反転させずに、別々の時間に照射又は再生される光活性化合物の別々のバッチにソース水を流すように構成されている。その他の構成においては、本プロセスの他の工程からのソース流体を用いて光活性化合物が再生される。その他の構成においては、光活性化合物の再生は、ソース流体ではない流体を用いて行われる。
【0059】
その他の構成においては、光活性化合物(光酸)は、膜のソース流体側に固定されているか、又は膜内に埋め込まれている(
図9及び
図10)。いくつかの実施例においては、ポリアクリロニトリルなどのCO
2透過膜材料への光活性化合物の付加は、超音波処理プロセスを介して行うことができる。膜のソース流体側を照射すると、光酸は活性化されて低pH状態となり、これにより、ソース流体中の重炭酸イオン及び炭酸イオンからの炭酸及び二酸化炭素の生成を促し、膜の境界における二酸化炭素の分圧を増加させ、ソース流とターゲット流の間の二酸化炭素の勾配を上昇させる。一構成において、膜内に埋め込まれている又は膜に結合されている刺激状態の光酸の再生は、照射がない状態下で水であるソース流を流すことで行うことができる。他の構成において、CO
2が膜を介して除去される時間スケールが、光酸が刺激状態から緩和される時間スケールよりも早い場合は、迅速に再生する光酸を連続的な照射の下に留める構成にすることができる。
【0060】
別の構成では、
図11に示すように、プロトンがソース流へ拡散することが可能である1枚又は複数枚のイオン交換膜によりソース流から隔てられた副溶液に光酸を含有させることができる。この構成では、副溶液を照射して、光酸をより酸性の高い状態にシフトさせ、これによりプロトンを生成し、その後、このプロトンを、例えば膜を介した拡散によってソース流体に移動させる。プロトン拡散中の電荷バランスを維持しうるいくつかの構成の一例として、この拡散が、反対方向に移動するカチオン拡散を伴うものが挙げられる。他の構成例としては、他の流体を用いて副流体中のカチオンを置換する、又は副流体中のアニオンを除去する構成などが挙げられる。別の方法として、これらのアニオン又はカチオンを、電気化学的プロセスを介して生成する構成であってもよい。その後、副流体は、プロトン拡散が生じるプロセスの部分から機能的に分離される。その後、副流体は照射外になり、例えばイオン交換膜を介して他の流体の流れと機能的に接触する状態に置かれるので、副流体はより塩基性の高い状態に戻る。この流体は、炭素除去後のソース流体であってもよく、又は、変更を加えていない別のソース流体であってもよく、又は、塩基性の形態である光酸のpKaよりもpHが低い他の流体であってもよく、プロトン源として機能するものである。光酸は、プロトンが副流体中に拡散するときに再生される。プロトン拡散中の電荷バランスを維持しうるいくつかの構成の一例としては、この拡散が、反対方向に移動するカチオン拡散を伴うものが挙げられる。他の構成例としては、別の流体を用いて副流体中のカチオンを置換する、又は副流体中のアニオンを除去する構成などが挙げられる。別の方法として、これらのアニオン又はカチオンを、電気化学的プロセスを介して生成する構成であってもよい。
【0061】
本プロセスの他のバージョンにおいては、まず、CO
2を膜を介してソース流から除去し、作用流体に移す(
図5及び
図6)。このプロセスの一部として、前述したように、ソース流を光酸の作用を介して低い方のpH状態にシフトし、これによりCO
2をソース流から作用流体に移動させる。この作用流体は、光活性化合物を含有している。そして、この作用流体は、炭素をターゲット流に直接移動させるのに用いられる。または、この作用流体は、多段プロセスの一部として、作用流体の他のバッチに炭素を移動させるのに用いられる。
【0062】
上記プロセスの別のバージョンでは、pH変化を伴う温度変化を利用し、無機炭素の流れを制御する。溶液の温度を上昇させると、溶存CO2の溶解度が低下し、CO2の分圧が上昇する。溶存炭素を放出するための炭素含有ソース流の加熱は、活性化された光酸への炭素含有ソース流の暴露前、暴露後、又は暴露中に行ってもよい。逆に、溶液の温度を下げると、CO2溶解度が増加し、CO2の分圧が低下する。つまり、温度を上昇させることは、炭素含有溶液のpHを低下させることと同じことであるが、温度変化による構成では光酸を必要としない。pHや光酸を利用する代わりに、流体自身の温度を利用する構成の欠点は、海水や他の天然水のような流体は熱容量が大きく、炭素の溶解度を十分にシフトさせるためには、相応に多量の熱をソース流体及び/又は作用流体に出入りさせなくてはならない点である。温度を利用する構成は、例えば水冷式の発電所の一部としてなど、既存の豊富な熱源又は冷源がある構成では有利であり得る。
【0063】
前述のアプローチを組み合わせて、ソース液体及び/又は作用流体の加熱、冷却、及びpH変化を利用して炭素を回収する構成であるシステムおよび方法の別の組み合わせを、一実施形態として
図12に示す。
【0064】
可逆性の光活性化合物の使用は、従来、海水などの液体ではなく、特に気体流からCO2を濃縮する技術として採用されてきた。本開示において述べる技術革新は、空気ではなく、海水などの液体中の無機炭素の自然の濃度を利用する。例えば、典型的な海洋表層の海水は、同じ体積の空気と比較して、約140倍の無機炭素を含有している。海水や無機炭素を豊富に含有するその他の液体を炭素源として使用することにより、そうしなれば非効率的なアプローチを有用な炭素回収戦略に変換することができる。海水や他の液体を炭素回収のための無機炭素源とする構成は有望であり、この分野で盛んに研究されているものの、炭素回収技術の実用化は現状では限られている。ここで説明するプロセスでは、海水などの液体を無機炭素の予濃縮に使用することと、この炭素を移動させ、濃縮する方法とを組み合わせている。
【0065】
以下により詳細に説明するように、得られたCO2が高濃度のターゲット流を様々なプロセスで使用したり、貯留したりすることができる。
【0066】
ソース流や炭素含有液体として使用する液体の例としては、水道水、河川水、海水、湖水、氷河水、海洋水、塩水、天然水、瀬戸水、海峡水、運河水、湾(gulf)水、河口/入り江(estuary)水、ポリニア水、湾(bay)水、入り江(inlet)水、浅瀬水、氷水、酸性水、塩基性水、工業用水、発電所又は工業的冷却に関わる水、淡水化に関わる水、工業プロセスに関わる水、及び/又は雨水、などが挙げられるが、これに限定されない。
【0067】
ソース液体からの炭素の除去や予濃縮を実施することに関する成分/部品及びパラメータとしては様々なものがある。そのような成分/部品及びパラメータの例としては、回収対象の炭素種、炭素種を含む液状溶液、ソース液体の流れ、膜又は気体接触部、光活性化合物を含有する作用流体、光活性化合物を含有する副流体、重炭酸塩や炭酸塩を溶存CO2に変換する光酸を用いたソース流の予酸性化、ターゲット流などが挙げられる。
【0068】
ソース液体からの炭素の回収は、ソース液体から生成又は放出された炭素を分離することを含む。
【0069】
本開示のシステム及び方法は、作用流体として及び/又は何れかの副流体として、水溶液若しくは非水溶液又は混合物を使用することができる。水溶液の利点としては、簡便性、広範囲の膜及び気体接触部の材料に対する適合性、及び使いやすさなどが挙げられる。非水溶液の利点としては、光酸の溶解性がより高く、光酸の安定性がより長く持続する点などが挙げられ、これにより、プロセスの効率を高め、プロセスコストを削減することができ得る。非水性溶媒の例としては、プロトン性溶媒(アンモニア、エタノール、メタノールなど)、非プロトン性溶媒(アセトニトリル、アセトン、ジメチルスルホキシドなど)等が挙げられる。
【0070】
本明細書に記載のように、作用流体は光活性化合物を含有し、炭素含有液体から作用流体自身に炭素を引き寄せ、移動させるものである。作用流体を用いるシステムを、例えば、
図7及び
図8に示す。副流体は、光活性化合物を含有し、炭素含有液体に酸性を提供するものであるが、副流体自身に炭素を引き寄せ、移動させるようには設計されていない。よって、副流体は直接的に炭素を除去し移動させる経路の一部にはならない。副流体を用いるシステムを、例えば、
図13、
図14、及び
図15、並びに、
図19、
図20、及び
図22に示す。
【0071】
本開示の文脈において、「膜」とは、ある液体を他の液体若しくは気体と隔てるが、(1)CO2及び/若しくはH2CO3、若しくはその他の気体の拡散、又は(2)液体間で特定のイオンの拡散が可能である材料を意味する。「気体接触部」とは、気体又は液体から特定の液体を分離するが、CO2及び/若しくはH2CO3の拡散が可能である材料を意味する。このような材料は、当業者によく知られている。例としては、ポリマー製、木製、又はセラミック製の繊維を備えた中空糸気体接触部などが挙げられる。市販品の一例としては、Liqui-Celという商品名で3Mにより製造されているものが挙げられる。気体接触部のポリマー膜材料の例としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)またはポリ-4-メチル-ペンテン-1(PMP)などが挙げられ、市販の非多孔質膜ユニットの一例としては、DIC株式会社のSEPAREL製品シリーズなどが挙げられる。「イオン交換膜」とは、ある液体から別の液体を隔てるが、ある種のイオンの液体間の拡散が可能な材料を意味する。イオン交換膜の市販品の一例としては、ケマーズ社のナフィオン(Nafion)が挙げられる。
【0072】
いくつかの実施例においては、海水がソース流であり、空気がターゲット流である。本システムは、SEPAREL製品シリーズ(DIC株式会社)などの市販の膜ユニットと、遠心ポンプなどの任意の数の市販のポンプから構成されていてもよい。光の照射は、例えば、プリズマティクス社製のファイバカプリングLEDなどの発光ダイオードや他の光源を用いて行ってもよい。光酸の合成は、公開されている方法で行ってもよく、例えば、「Berton et al., “Thermodynamics and kinetics of protonated merocyanine photoacids in water” Chemical Science, 11(32), pp.8457-8468」、「Shi et al., “Long-lived photoacid based upon a photochromic reaction.” J. Am. Chem.Soc. 2011,133, 14699-14703」、「Zayas et al., “Tuning Merocyanine Photoacid Structure to Enhance Solubility and Temporal Control: Application in Ring Opening Polymerization.” ChemPhotoChem 2019,3, 467-472」、又は、「Wimberger, Laura, Joakim Andréasson, and Jonathon E. Beves. "Basic-to-acidic reversible pH switching with a merocyanine photoacid." Chemical Communications 58, no. 37 (2022): 5610-5613.」などに記載の光酸と合成法にて行ってもよい。本プロセスの効果を評価するために、炭素の移動速度及びターゲット流における炭素の増加量のモニタリングを「Dickson, Sabine, and Christian (Eds.) 2007. “Guide to Best Practices for Ocean CO2 Measurements” PICES Special Publication 3」に記載の電量分析法による全溶存無機炭素分析を行うことと、Li-Cor CO2 アナライザ(Li-Cor バイオサイエンス社)などの機器を使ってターゲット流の二酸化炭素の分圧を測定することで、行うことができる。
【0073】
(i)pHおよび炭素拡散、(ii)光活性化合物、及び(iii)炭素除去システムの使用と場所に関する本開示の態様を更なる詳細と任意の構成と共に下記に説明する。これらの見出しは、順序立てて説明することのみを目的としたもので、本開示の範囲や解釈を限定するものではない。また、実施例や、モデル化、実験データの詳細は実施例1にて説明する。
【0074】
(i)pH及び炭素拡散
炭素が膜又は気体接触部を介してある流れから別の流れに拡散するか否かを左右する主要な因子は、両方の流れの間の二酸化炭素の分圧(pCO2)の差である。2つの流れはどちらも流体であってもよく、又は流体と気体であってもよい。第1の流れがソース流であり、第2の流れが作用流体であってもよい。また、第1の流れが作用流体であり、第2の流れがターゲット流であってもよい。第1の流れが低いpH状態の一方の作用流体試料であり、第2の流れが高いpH状態の他方の作用流体試料であってもよい。流体中において、二酸化炭素の分圧は以下のようになる。
pCO2=x0×DIC×KH’
【0075】
ここで、pCO2は流体の二酸化炭素の分圧である。DICは、流体中の全溶存無機炭素の濃度であり、その式はDIC = [CO2
*]+[HCO3
-]+[CO3
2-]となる。ここで、[CO2
*]とは、帯電していない水性種CO2(aq)及びH2CO3の合計の濃度を示し、その式は[CO2
*] = [CO2(aq)] + [H2CO3]である。CO2(aq)をH2CO3から識別するには困難な実験が必要であり、通常は現実的ではないので、水圏化学では、通常、CO2
*の概念が使用されている。x0は、全溶存炭素に対する溶存二酸化炭素のモル分率(CO2
*)であり、その式は:x0 = [CO2
*]/([CO2
*]+[HCO3
-]+[CO3
2-]) = [CO2
*]/DICとなる。KH’は、特定の流体状態についての見掛けのヘンリーの法則の気体定数であり、温度、圧力、イオン強度、主要なイオン流体成分、及び使用される流体又は溶媒の種類の関数である。
【0076】
全溶存炭素に対する溶存二酸化炭素の相対存在量(x
0)は、pHの関数である(
図25参照)。これは、このプロセスの機能にとって重要である。
x
0 = [H
+]
2/([H
+]
2 + [H
+]K
1
’ + K
1’*K
2’) 及び [H
+] = 10
-(pH)
K
1’及びK
2’は、特定の流体の特定の温度、圧力、イオン強度、及び、主要なイオン濃度に対応する炭酸の第1及び第2の見掛けの解離定数である。
【0077】
水圏化学分野の文献(例えば、Stumm and Morgan. Aquatic Chemistry -3rd ed. John Wiley & Sons Inc.(1996)参照)に記載されている上記の関係によれば、pHを低下させると、全溶存炭素に対する溶存二酸化炭素のモル分率が増加し、二酸化炭素の分圧が増加する傾向がある。逆に、pHを増加させると、全溶存炭素に対する溶存二酸化炭素のモル分率が減少し、二酸化炭素の分圧が低下する傾向がある。
【0078】
ソース流のpHを低下させるために光酸を用いると、ソース流中の二酸化炭素の分圧が上昇する。この光酸は、(1)ソース流自身の内に配置する(例えば、水が接触する固体粒体や表面に埋め込むなど)、(2)ソース流をターゲット流から隔てる気体透過膜若しくは気体接触膜の上、若しくはその中に配置する、又は(3)プロトンの光酸溶液からソース流への透過が可能な1枚若しくは複数枚のイオン交換膜により炭素含有ソース流から隔てられている副流体中に配置されてもよい。
【0079】
図5及び
図6に示す構成においては、ソース流に接触している作用流体のpHが、ソース流における二酸化炭素の分圧よりも作用流体における二酸化炭素の分圧が低くなるのに十分なほど高くなっている。これにより、二酸化炭素がソース流から作用流体に拡散する。光活性化合物の形態が変化し、それにより作用流体のpHが低下した後、この新しいpHは、作用流体における二酸化炭素の分圧がターゲット流における二酸化炭素の分圧よりも高くなるのに十分なほど低いものとなっている。二酸化炭素の分圧のこの勾配により、炭素が作用流体からターゲット流に拡散する。
【0080】
(ii)光活性化合物
特定の実施形態において、用語「光」とは、作用光を意味し、光化学反応を生ずることができる全ての光がその例として挙げられる。
【0081】
特定の実施形態において、用語「光活性」とは、本明細書において化合物や分子に対して使用されているように、構造変化などの化学反応によって光に応答することができる化合物を言及するものである。
【0082】
特定の実施形態において、用語「光酸」とは、本明細書において化合物に対して使用されているように、光化学反応により塩基若しくは比較的弱い酸から比較的強い酸に変換可能な化合物を意味する。
【0083】
光活性化合物へ光を照射すると、光活性化合物が第1の状態又は第2の状態の少なくとも一方から、第1の状態又は第2の状態の他方に変換する。例えば、光活性化合物が第1の状態にある場合、光に暴露されると、光活性化合物は、第1の状態から第2の状態に変化する。この場合、光活性分子の第1の状態が基底状態であり、光活性分子の第2の状態が励起状態である。あるいは、光活性化合物が第2の状態にある場合、光に暴露されると、光活性化合物は第1の状態に変化する。この場合、光活性分子の第2の状態が基底状態であり、光活性分子の第1の状態が励起状態である。
【0084】
一実施形態では、光活性化合物は、特定の波長の光に感受性である。必要な状態間の光誘起構造変化は、光活性分子の吸収帯に対応する特定の波長の光への暴露又はその光の除去によって達成される。いくつかの実施例では、光活性化合物は、UV光及び可視光の両方に感光性である。
【0085】
あるいは、光活性化合物は、可視光のみに感光性であってもよい。さらに他の代替的な一実施形態では、光活性化合物はUV光に感光性である。異なる波長の光に感光性である複数の光活性化合物を使用する構成は、光活性化合物の溶液が複数の異なる種類の光活性化合物を含む場合に特に有利であり得る。光酸を照射して励起状態の光酸とプロトンに変換する光のスペクトルを増やすために、異なる種類の光活性化合物を備えて、異なる波長において状態変換が生ずるように構成してもよい。これにより、利用可能な光をより効率的に利用できるようになり、集光領域がより小さいものであってもよくなるため、資本コストを削減することができ得る。
【0086】
いくつかの実施例では、光誘起変化により、光活性化合物の化学的環境が変化する。この変化は、電子的な変化であってもよく、又は、立体配座的な変化であってもよい。光誘起変化により溶液のpHが変化する構成であってもよく、光活性化合物のpKaが変化する構成であってもよい。
【0087】
一群の実施形態において、光活性化合物は光酸である。いくつかの実施例では、本開示において有用な光酸化合物は、基底状態では酸形態(つまり、プロトン化された形態)で存在し、光照射されると励起状態に変形することが可能である。励起状態は、典型的には光酸の共役塩基であり、脱プロトン化された形態で存在してもよい。照射時の基底状態の形態によるプロトンの付与と励起状態の形態への変換により、周囲の溶液のpHが低下する。
【0088】
光活性化合物の作用範囲は、光活性分子の励起状態と基底状態との間のpKaの差に関連しうる。作用範囲は、基底状態(例えば、塩基又は比較的弱い酸の形態)における光活性化合物のpKaと、励起状態(例えば、比較的強い酸の形態)における光活性化合物のpKaとを測定することによって確認することができる。したがって、これら2つの形態の間のpKaの差により、光活性化合物の作用範囲を規定することができる。
【0089】
一実施形態では、光酸及びその他の酸若しくは塩基を含む副溶液の作用範囲を利用して、この副溶液の作用範囲のシフトや調整を行う。
【0090】
一実施形態では、光活性化合物の励起状態の形態は、光活性化合物の基底状態の形態よりも低いpKaを有する。
【0091】
別の実施形態では、光活性化合物の励起状態の形態は、光活性化合物の基底状態の形態よりも高いpKaを有する。
【0092】
いくつかの実施形態では、ソース溶液のpHは、光活性化合物の作用範囲のpKa内にあり、光活性化合物を励起させると、pHが低下する。
【0093】
いくつかの実施例では、光活性化合物が、その基底状態である第1の状態にある時、溶液は高い方のpHを有し、光に暴露されると、光活性化合物は、溶液が低い方のpHを有する第2の状態に変換される。いくつかの実施例では、光活性化合物が、その基底状態である第1の状態にある時、溶液はアルカリ性又は弱酸性であり、光に暴露されると、光活性化合物は、溶液が酸性である第2の状態に変換される。一群の実施形態では、光活性分子を光励起すると、周囲溶液のpHの低下につながる。いくつかの実施例では、光活性化合物が第1の状態にあるときの溶液のpHは7~10、又は9~12であり、光活性化合物が第2の状態にあるときの溶液のpHは2~7.5、又は、0~8である。
【0094】
いくつかの実施例では、光活性化合物の励起におけるpKaの変化は、少なくとも0.5、少なくとも1.0、少なくとも2.0、又は少なくとも3.0である。いくつかの実施例では、光誘起変化は、官能基の酸解離定数又は塩基解離定数の変化である。
【0095】
一群の実施形態では、溶液に印加される光エネルギーは、光活性化合物を光誘起変化させるのに十分であるが、作用溶液の加熱には十分ではない。
【0096】
いくつかの実施例では、光活性化合物は、作用溶液中において0.1モル/L~50モル/Lの範囲、0.01ミリモル/L~0.1モル/Lの範囲、又は0.1ミリモル/L~10モル/Lの濃度範囲で存在する。いくつかの実施例では、光活性化合物は、1モル/L~10モル/Lの範囲の濃度で存在する。いくつかの実施例では、光活性化合物は、3モル/L~7モル/Lの範囲の濃度で溶液中に存在する。濃度範囲は、前記濃度下限値のいずれかから前記濃度上限値のいずれかまでであってもよい。光活性化合物の濃度は、溶液中の他の化合物の存在に応じて変化し得る。アミンなどの他の吸収性分子が存在する場合、光活性化合物の濃度がより低いものである構成を採用することができる。
【0097】
いくつかの実施形態では、ソース流のpHを低下させて、そのpCO2を増加させるために、光酸を固体粒体又は膜に埋め込み、炭素含有流体が固体粒体若しくは膜内を通過するように、又は、固体粒体若しくは膜を通過するように構成されている。
【0098】
その他の一群の実施形態では、光酸をイオン交換膜により炭素含有ソース流から隔てられている副流体中に配置し、イオン交換膜は、プロトンを通過させてソース流に移すことができるものであるか、又はソース流側の表面上にプロトンを蓄積させることができるものであり、これにより、イオン交換膜に接しているソース流のpHを低下させ、そのpCO2を増加させることができる。
【0099】
一群の実施形態では、pHの変化は、溶液中の光活性化合物の濃度に影響されるものであってもよく、いくつかの場合、光活性化合物の濃度を増加させることにより、より大きくpHを変化させることが可能となりえる。
【0100】
以下に示す非限定的な例を参照して光活性化合物の一般的な種類のいくつかを説明することができる。以下の非限定的な例では、光の照射により生ずる変換を示している。
フルギド類
【化1】
ジアリールエテン類
【化2】
アゾベンゼン類
【化3】
スピロピラン類及びメロシアニン類
【化4】
スピロオキサジン類及びメロシアニン類
【化5】
キノン類
【化6】
式中、a)X = O、R
1 = Ph、b)X = CR
2R
3、R
1 = H、c)X = O、
【化7】
式中、R
2及びR
3は水素又はアルキル基であり、R
4はアルキル基である。
トリフェニルメタン類
【化8】
トリシアノフラン類
【化9】
【0101】
スピロピラン類、メロシアニン類、及びスピロオキサジン類の上記の例において、置換基「R」は、例えば、水素、C1~C6のアルキル基、及び、a- (CH2)nW(式中、nは1~6(例えば、2~4)であり、Wは-NH2、CO2-、又はSO3-(例えば、SO3-)である)からなる群から選択されたものであってもよい。
【0102】
上記のスピロピラン類及びメロシアニン類の例では、環上の官能基-NO2が存在していないものであってもよく、又は、他の位置にあるものであってもよく、又は、他の官能基で置き換えられているものであってもよい。
【0103】
上記のスピロピラン類、メロシアニン類、及びスピロオキサジン類の例では、-OCH3などの官能基を加えたものであってもよく、又は、-OCH3などの官能基で他の官能基を置き換えたものであってもよい。
【0104】
いくつかの実施例では、1つ又は複数の光活性化合物は、ロイコハイドキサイド類、ペリミジンスピロシクロヘキサジエノン類、アゾベンゼン類、スピロピラン類、スピロオキサジン類、ジチエニルエテン類、フルギド類、キノン類、ベンゾピラン類、ナフトピラン類、及びジヒドロインドリジン類からなる群から選択されたものである。いくつかの実施例では、1つ又は複数の光活性化合物は、スピロピラン類、メロシアニン類、ナフトール類(例えば、1-(2-ニトロエチル)-2-ナフトールなど)からなる群から選択されたものである。
【0105】
実施形態では、可逆性光酸としては、フルギド類、ジアリールエテン類、アゾベンゼン類、メロシアニン類、スピロピラン類、スピロオキサジン類、キノン類などが挙げられる。
【0106】
実施形態では、光活性化合物は、光に暴露されるとコンフォメーション的又は構造的に変化し、その酸性又は塩基性を変化させる光酸などの準安定状態の光酸である。そのような化合物の例が段落[0100]に示されており、例示されているもの全ての合成経路は公開されている。
【0107】
特定の実施形態では、メロシアニン類は、その活性状態の寿命が長く(典型的には分単位)、暗所で達成可能なpKa値が高く(これにより使用できる天然水のpH値の利用可能範囲が決まる)、水溶性が比較的高く、加水分解や光分解に対しての安定性が比較的高いため、好ましい光酸である。特定の実施形態では、Wimberger ら(Basic-to-acidic reversible pH switching with a merocyanine photoacid. Chemical Communications, 2022, 58(37) 5610-5613)により報告されている、インドリニウム環にメトキシ置換基を有し、インドリニウムの窒素原子にブチルスルホン酸基を有するメロシアニンが好ましい。特定の実施形態では、この好ましい光酸は、以下のようである。
【化10】
左側の構造は、失活状態(基底状態)の形態(メロシアニンの一例)であり、右側の構造は、活性状態(励起状態)の形態(スピロピランの一例)である。この化合物の構造を改変して、暗所でのpKa値や、加水分解に対する安定性、水溶性を更に向上させることも可能であろう。
【0108】
図3に有用なメロシアニンとスピロピランの一対を示す。この一対の場合、可視光(UVではなく)で活性化して自発的に(例えば、加熱により)緩和する。
【0109】
採用するのに好適な光酸化合物の他の例としては、この分野では公知のものなども挙げられ、そのような例を記載している文献としては:Berton et al., Thermodynamics and kinetics of protonated merocyanine photoacids in water. Chemical Science, 2020, 11(32), pp.8457-8468; Shi et al., Long-lived photoacid based upon a photochromic reaction. J. Am. Chem.Soc. 2011,133, 14699-14703;Zayas et al., Tuning Merocyanine Photoacid Structure to Enhance Solubility and Temporal Control: Application in Ring Opening Polymerization. ChemPhotoChem 2019,3, 467-472.;Berkovic et al., Chem. Rev. 2000., 100, 1741-1754;Metsuda et al., J. Photochem. Photobiol., C2004, 5169-182; Yokoyama Chem. Rev. 2000, 100, 1717-1740;米国特許4,636,561号;米国特許6,549,327号;米国特許5,879,592号;米国特許5,185,390号;米国特許6,211,374号;欧州特許EP0277639号;Chen et al., Photochem. Photobiol. Sci., 2011, Jun., 10(6) 1023-9; Johns et al., Chemistry, 2014, Jan. 13: 20(3):689-92;米国特許出願公開US 2013/0192978号;Shi et al. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133 (37) 14699-14703; Bao et al. RSC Adv., 2014, 4, 27277-27280;Luo et al. J. Mater. Chem. B, 2013, 1, 887-1001;Nunes et Al., J. Am. Chem. Soc., 2009, 14331 (26) 9356-9462;Lauren et al., Acc. Chem. Res., 2002, 35, 19-27;米国特許7,588,878号;Prog. Polym. Sci. vol. 21, 1-45, 1996;及び国際特許出願国際公開WO2011/020928号などが挙げられる。
【0110】
(iii)炭素除去システムの使用と場所
本開示の炭素回収プロセスから生産されたCO2生成物は、広範囲の工業用途のためや、炭素隔離のために使用することができる。その製造プロセスにおいて大量にCO2を使用する産業の例としては、尿素製造業者(肥料製造)、メタノール製造業者、プラスチック製造業者、及びバイオ燃料製造業者などが挙げられる。多くの場合、これらの産業では、天然ガスの燃焼などの化石資源からのCO2を使用している。大量のCO2を使用する他の産業としては、石油産業がある。石油産業では、大量のCO2を油井や天然ガス井に圧送し、炭化水素類の回収を増進している(原油増進回収(EOR)と称される)。多くの場合、EORは、地中のCO2の化石系リザーバから抽出したCO2を使用している。このような産業に対しては、規制や投資家から工程の脱炭素化や非化石燃料系のCO2源へ代替するよう圧力が高まっており、本開示のプロセスにより天然水から回収されたCO2の利用は、あらゆる場合において、これらの産業にとって有益であろう。
【0111】
本開示のプロセスにより回収されたCO2は、藻類の成長増進に使用することができ、藻類バイオ燃料の生産の効率を向上させることができるであろう。
【0112】
本開示のプロセスにより回収されたCO2は、例えば、エタノール、長鎖炭化水素類、ジェット燃料、ガソリン、及びディーゼルなどのCO2からの炭化水素類や燃料の生産において使用することができるであろう。ひとつのシナリオでは、本開示のプロセスにより回収されたCO2を、フィッシャー・トロプシュプロセスに用いてこのような化学物質や燃料を生産する。特定の実施形態では、長鎖炭化水素類は、8個超の炭素原子を有するものである。
【0113】
大麻草の栽培は、CO2の重要な市場である。大麻草のハウス栽培では、CO2をハウスの空気に添加し、植物の成長を促進する。多くの場合、このCO2は、バイオマスや化石燃料を燃焼させて得られたものである。その後、最終的にはCO2はハウスから環境に放出されて、地球温暖化や気候変動に寄与することになる。大気から回収したCO2を大麻草や他の農作物のハウス栽培のために利用できれば、CO2増加による気候に対するネガティブな影響を低減させることができる。本開示の回収プロセスによれば、農業におけるCO2の利用可能性を増加し、利用されたCO2の気候的影響を低減することができる。回収されたCO2を温室ハウス又は他の関連する閉鎖空間に注入することによって、CO2が富化された雰囲気中で農作物を成長させることができる。CO2の輸送を担う葉の開口部(気孔)は、CO2が多い環境では小さくなるが、水分損失の主経路のひとつでもある。よって、本開示のプロセスによりCO2を植物周辺の空気に加えることで、成長を促進させるだけでなく、水分損失を制限し、乾燥耐性を向上させることができ得る。
【0114】
本開示の炭素回収施設に適した場所のひとつとして、多数の石油や天然ガス会社や肥料やメタノールの製造業者が稼働している米国のメキシコ湾岸が挙げられる。本開示の施設をそのような回収CO2生成物のエンドユーザの近隣に設けることで、回収CO2をエンドユーザまで輸送するためのコストや物流を削減することができる。さらに、そこにはメキシコ湾の海下において枯渇した油井や天然ガス井にCO2を何千ギガトンも収容することができるCO2隔離キャパシティがあり、石油や天然ガスの回収に従事している掘削業者や物流支援業者の多くは、近い将来そのインフラ設備やビジネスモデルを炭素隔離に転換させるべく、事業転換を進めている。
【0115】
本開示の炭素回収設備に適した他の場所としては、回収されたCO2の注入が風化及び/又は鉱化、および長期的隔離につながる地理的リザーバの近傍が挙げられる。そのような場所の例としては、溶存無機炭素の濃度が高い河川(ヤキマ川、スネーク川、コロンビア川など)の近傍にあるコロンビアリバー玄武岩のようなワシントン州東部の玄武岩帯が挙げられる。このような場所の他の例としては、地球上でのCO2の鉱化の母岩としては最も豊富なタイプのひとつである海底玄武岩に近い洋上施設が挙げられる。本明細書に開示したもののような海水ベースの炭素回収プロセスの設備を洋上に設けると、隔離するCO2を海洋の玄武岩帯で生産することができ、CO2を洋上の場所に輸送する必要性を低減することができ得る。さらに他の例としては、オマーンの超苦鉄質岩の露頭近傍が挙げられる。オマーンの超苦鉄質岩の露頭は、CO2の鉱化を介した炭素隔離に好適であり、海水の近くに位置している。
【0116】
本開示の炭素回収施設を、熱電発電所や原子力発電所、淡水化プラントなどの既に大量の海水や河川水の揚排水を行っている施設と併設する構成は、コスト面で有益である。このような施設業者は排水を後続の炭素除去に提供することで、排水の流れを収益の流れに変えることができるであろう。そのような施設は、米国の東海岸や西海岸沿い、溶存炭素濃度が高い川でもあるミシシッピ川などの主要河川沿いなどに多数存在する。既に大量の海水の揚排水を行っている施設と併設する構成は、取水よりも排水の水温が高いことが多い(例えば、取水を、機械システムや化学システムでの冷却に利用することが多いためである)という点でも有益である。水温が高いと水中のCO2の分圧が上昇し、本開示のプロセスにおける炭素除去の効率が増加するので、水温がより高いほうが本開示のプロセスにとって有利である。本開示の炭素回収施設をこのような設備と併設する別の有益な点としては、排水の水頭がゼロより大きい場合が多い点である。提供されたシステムの取水にある程度水頭がある場合、本開示のプロセスは、それほど高くない圧力で行うことができ、揚水のエネルギーコストを削減することができる。水頭は、河川流や潮流、ダムや堤防の貯水、又はダムや堤防の余水吐の水などによっても得ることができる。
【0117】
本開示の炭素回収施設のその他の用途や洋上の併設施設としては以下のものが挙げられる:
-洋上風力発電施設
風力エネルギーが豊富であり、風力エネルギーが予測可能な場所で、大規模な構造物を広範囲の陸地を必要とせずに設けることができる場所では風力の利用を利用するために洋上風力発電施設を設置することが世界的に増加している。このような施設では、現時点での需要よりも多くの電力が生成されることがあり、そのため、稼働の抑制が必要になることや、余剰電力を破棄するのに費用が必要になることがある。本開示の炭素回収施設を洋上風力発電施設と併設することで、余剰電力を利用して炭素回収プロセスを稼働することができる。海水のすぐ近くにあることや、本開示の炭素回収を実施するために土地を取得したり、借地したりする必要がないことからコスト削減できる点も有利である。
-海上で炭素の回収を行い、エンドユーザ及び/又は隔離場所へ運搬する船舶
本開示の炭素回収システムは、大型のファンファームを必要とする直接空気回収システムよりもフォームファクタが小さく、また、船舶のエンジン冷却システムで使用されて排水される大量の海水は本開示の炭素回収システム用のソース水として有用でありうる。
-洋上石油掘削リグ
大量のCO2を隔離することができる枯渇した油井や天然ガス井に直接接続できるので、これらのプラットフォームは、本開示の炭素回収施設を設置するのに理想的である。これらの設置場所には無限に海水があり、陸上での設置よりも揚水や配管などを簡略化できる。
-水上太陽光発電所
沿岸部の土地のコストが上昇するにつれ、水上太陽光発電所の普及が進んでいる。本開示の炭素回収施設を洋上(水上)太陽光発電所に併設すると、洋上にある塩水の帯水層や枯渇した油井や天然ガス井などの隔離場所が近い場所にあり、回収したCO2生成物の輸送距離が短くなるので、有益である。また、海水は設置した場所にあるので、輸送インフラは不要である。真昼などのこのような太陽光発電所の発電量が需要を上回る時には、余剰電力を本開示の炭素回収プロセスに分流することができ、電力コストを削減できる可能性がある。また、この環境は、風化による炭素隔離用の母岩が大量に表層に存在する海洋の玄武岩帯と近い洋上にあるという利点もある。
-海軍艦船
現在の航空母艦は、現時点での運用に必要な量よりも大幅に余剰なエネルギーを生産できる原子炉を備えて建造されており、海上で合成燃料を生産することが可能であり得る。複数の企業が合成燃料技術を開発中であり、その多くがCO2を原料のひとつとしている。海上での燃料の自給自足を図って本開示の炭素回収施設を海軍艦船に設ける構成では、原材料の供給を随時必要な時に受けることができる。原子炉により生成された余剰電力は、本開示のシステムの、最もスペース効率が高いフォームファクタであるLEDライト群の列を採用する構成の給電に使用することができる。
【0118】
本開示の本システムのフォームファクタは、ハイブリッド型集光/集熱(PVT)パネルのものと同様である(例えば、
図22参照)。このフォームファクタは、本開示の炭素回収器のモジュール大量生産を可能にするため好ましい。ハイブリッドPVTパネルは、入射する太陽光を、スイミングプールや、家電、給湯器などに利用できる電力変換(入射太陽光エネルギーの20%しか必要としない)と温水の生成の両方に効率的に利用できるため、家庭や企業において普及が進んでいる。同じパネルで太陽光を本開示の光化学反応の活性化と太陽光発電を介した発電との両方に利用すれば、大きな相乗効果を奏する。本開示の光化学反応は、入射太陽光スペクトルの15~20%ほどしか利用しなくてもよいので、このような構成は実現可能性を有する。入射太陽光スペクトルの残りは、光酸チャンバ(例えば、厚さ1cm程度のもの)の下に設けられた太陽光発電パネルによる発電に利用することができる。太陽光発電のパネルの上、又は下に流体チャンバを設けることで、パネルを冷却することができ、太陽光発電の発電効率を向上させることができる。生成された熱を利用して、炭素含有液体を加熱してそのpCO
2を上昇させ、ソース流体からターゲット流へのCO
2の移動効率を高めることができる。
【0119】
その他の炭素除去技術の一部として光酸性化を使用し、鉱物の風化率を高めることができる。大気からCO2を除去するためのひとつのアプローチとして炭酸カルシウム(石灰岩)又は超苦鉄質岩(すなわち、色指数が90より大きいもの)の風化が研究開発されている。このプロセスは、とりわけ、炭酸カルシウムやカンラン石などの特定の鉱物のCO2中和能力を利用する。このアプローチが炭素除去において非効率的となる原因のひとつは、これらの鉱物がCO2と反応する速度が遅い点である。多くの風化反応は、微粉砕された鉱物に添加される水溶液に酸又は追加のCO2を添加することでその反応速度を上げることができる。光酸を光により活性化することで酸を生成する本開示のプロセスを使用すれば、超苦鉄質岩や炭酸カルシウムなどの物質の溶解や風化の速度を上げるために必要とされる酸性度及び/又は高いCO2濃度を得ることができる。これにより、風化を行う施設での二酸化炭素除去の速度を上げることができ得る。鉱物を、光酸の作用により酸性度が増加したターゲット溶液へ暴露することができ得る。一実施形態では、光酸にプロトンを生成させるように、光酸が副溶液中で活性化される。その後、プロトンは、膜を介してターゲット溶液に移され、ターゲット溶液のpHを下げて、風化を加速させる。風化反応は、公知の地球化学的プロセスを介して炭素の除去を行う。また、光酸は、ビーズやプレート、又は、膜のターゲット溶液側などの、ターゲット溶液と接する表面に固定されている構成であってもよい。
【0120】
例示的な実施形態
1.炭素含有液体から炭素を除去する方法であって、
炭素含有液体を光活性化合物に暴露することによって、前記炭素含有液体から炭素を除去して、第2の環境に移動させる工程を含む方法。
2.前記第2の環境が、ターゲット流又は作用流体を含む、実施形態1に記載の方法。
3.前記ターゲット流が、液体又は気体である、実施形態2に記載の方法。
4.前記第2の環境がターゲット流であり、前記ターゲット流へと前記炭素を移動させる前記炭素の除去が、膜若しくは気体接触部を介して、又は直接移動により行われる、実施形態2又は3に記載の方法。
5.前記第2の環境が作用流体であり、前記作用流体へと前記炭素を移動させる前記炭素の除去が、膜を介して行われる、実施形態2~4のいずれかに記載の方法。
6.前記膜が気体透過膜である、実施形態5に記載の方法。
7.前記膜がイオン交換膜である、実施形態5又は6に記載の方法。
8.前記作用流体が前記炭素含有液体と前記ターゲット流との間に介在している、実施形態2~7のいずれかに記載の方法。
9.前記作用流体が膜により前記炭素含有液体から隔てられている、実施形態8に記載の方法。
10.前記作用流体が、膜又は気体接触部によって前記ターゲット流から隔てられている、実施形態8又は9に記載の方法。
11.前記作用流体が、前記炭素含有液体から膜により隔てられており、かつ前記ターゲット流から膜又は気体接触部により隔てられている、実施形態8~10のいずれかに記載の方法。
12.前記光活性化合物が前記作用流体中に配置されている、実施形態2~11のいずれかに記載の方法。
13.前記光活性化合物が、前記炭素含有液体中に配置されているか、又は前記炭素含有液体と接する境界に配置されている、実施形態1~12のいずれかに記載の方法。
14.前記炭素含有液体から隔てられている副流体中に前記光活性化合物が配置されている、実施形態1~13のいずれかに記載の方法。
15.前記副流体と前記炭素含有液体とがイオン交換膜により隔てられている、実施形態14に記載の方法。
16.前記イオン交換膜が、プロトンが内部を拡散するカチオン交換膜である、実施形態15に記載の方法。
17.前記光活性化合物が、前記炭素含有液体のpHを低下させる、実施形態13~16のいずれかに記載の方法。
18.前記光活性化合物が、活性化された光活性化合物である、実施形態1~17のいずれかに記載の方法。
19.前記活性化された光活性化合物が、プロトンを生成し、該プロトンが、膜を介して前記炭素含有液体に拡散することによって、前記炭素含有液体のpHが低下して炭素が除去される、実施形態18に記載の方法。
20.前記光活性化合物が、光酸を含む、実施形態1~19のいずれかに記載の方法。
21.前記光酸が、可逆性光酸を含む、実施形態20に記載の方法。
22.前記光酸が、準安定状態の光酸を含む、実施形態20又は21に記載の方法。
23.前記光酸が、メロシアニン類、スピロピラン類、トリシアノフラン類、フルギド類、ジアリールエテン類、アゾベンゼン類、スピロオキサジン類、キノン類、又はトリフェニルメタン類を含む、実施形態1~22のいずれかに記載の方法。
24.前記光活性化合物が、メロシアニン類を含む、実施形態1~23のいずれかに記載の方法。
25.前記メロシアニン類が、インドリニウム環にメトキシ置換基を有し、インドリニウム環の窒素原子にブチルスルホン酸基を有する、実施形態24に記載の方法。
26.前記光活性化合物を活性化する工程を更に含む、実施形態1~25のいずれかに記載の方法。
27.前記光活性化合物を活性化する工程が、前記光活性化合物を光に暴露する工程を含む、実施形態26に記載の方法。
28.前記光が、太陽光又は人工光である、実施形態27に記載の方法。
29.前記人工光が、発光ダイオード(LED)照明からの人工光である、実施形態28に記載の方法。
30.前記光が太陽光であり、前記光活性化合物が、それぞれ異なる吸収スペクトルを有する複数の光活性化合物である、実施形態29に記載の方法。
31.前記光活性化合物が、材料内に埋め込まれているか、かつ/又は材料の表面にコーティングされている、実施形態1~30のいずれかに記載の方法。
32.前記材料が、ビーズ、粒体、チューブ、プレート、又は膜を含む、実施形態31に記載の方法。
33.前記材料が、実施形態7に記載の前記気体透過膜を含む、実施形態31又は32に記載の方法。
34.前記材料が、実施形態8に記載の前記イオン交換膜を含む、実施形態31~33のいずれかに記載の方法。
35.前記材料が、実施形態13に記載の前記炭素含有液体中に配置されている、実施形態31~34のいずれかに記載の方法。
36.前記材料が、実施形態13に記載の前記炭素含有液体と接触する前記境界に配置されている、実施形態31~35のいずれかに記載の方法。
37.前記材料が、実施形態14の副流体中に配置されている、実施形態31~36のいずれかに記載の方法。
38.前記pHの低下により、前記炭素含有液体中の二酸化炭素の分圧が上昇する、実施形態17~37のいずれかに記載の方法。
39.前記低下したpHが、2~7の範囲内にある、実施形態1~38のいずれかに記載の方法。
40.前記低下したpHが、3~6の範囲内にある、実施形態1~39のいずれかに記載の方法。
41.前記炭素含有液体の流れを前記活性化された光活性化合物の方向に向ける工程を更に含む、実施形態1~40のいずれかに記載の方法。
42.前記炭素含有液体を熱源で加熱する工程を更に含む、実施形態1~41のいずれかに記載の方法。
43.前記炭素含有液体が-2℃~120℃の範囲の温度まで加熱される、実施形態42に記載の方法。
44.前記熱源が、太陽熱エネルギー、又は発電若しくは工業プロセスからの排熱を含む、実施形態42又は43に記載の方法。
45.前記発電が、熱電発電又は原子力発電である、実施形態44に記載の方法。
46.鉱物の風化反応を加速させる方法であって、ターゲット液体のpHを低下させる光活性化合物に暴露されたターゲット液体に鉱物を暴露することによって、前記鉱物の風化反応を加速させる工程を含む、方法。
47.炭素を回収する方法であって、ターゲット液体のpHを低下させる光活性化合物に暴露されたターゲット液体に鉱物を暴露することによって、その他の気体又は流体から回収された炭素を前記ターゲット液体中に濃縮する工程を含む、方法。
48.前記鉱物が、粉砕された鉱物である、実施形態46又は47に記載の方法。
49.前記鉱物が、超苦鉄質岩及び/又は石灰岩及び/又はカンラン石である、実施形態46~48のいずれかに記載の方法。
50.前記炭素源が、化石燃料及び/又はバイオ燃料の燃焼である、実施形態46~49のいずれかに記載の方法。
51.前記炭素源が、工業プロセスである、実施形態46~50のいずれかに記載の方法。
52.前記工業プロセスが、セメントの生産である、実施形態51に記載の方法。
53.前記炭素源が大気である、実施形態46~52のいずれかに記載の方法。
54.前記炭素源が液体である、実施形態46~53のいずれかに記載の方法。
55.前記液体が海水である、実施形態54に記載の方法。
56.前記光活性化合物が、鉱物含有ターゲット液体中に配置されているか、又は鉱物含有ターゲット液体と接する境界に配置されている、実施形態46~55のいずれかに記載の方法。
57.前記光活性化合物が、前記ターゲット液体から隔てられている副流体中に配置されている、実施形態46~56のいずれかに記載の方法。
58.前記副流体と前記ターゲット液体とが、カチオン交換膜により隔てられており、前記カチオン交換膜の内部を通して前記プロトンが拡散する、実施形態57に記載の方法。
59.前記除去された炭素を回収する工程を更に含む、実施形態1~58のいずれかに記載の方法。
60.前記除去された炭素を回収する工程が、前記光活性化合物の失活化の後に行われる、実施形態59に記載の方法。
61.前記光活性化合物を失活化する工程を更に含む、実施形態18~60のいずれかに記載の方法。
62.前記失活化する工程が、前記光活性化合物の露光を止める工程を含む、実施形態61に記載の方法。
63.前記光活性化合物を活性化する工程と、前記光活性化合物を失活化する工程が、前記炭素含有液体の流れの方向に基づいて連続して行われ、前記除去された炭素を回収する工程が、前記光活性化合物を活性化する工程と、前記光活性化合物を失活化する工程との間に実行される、実施形態61又は62に記載の方法。
64.前記光活性化合物の露光を止める工程が、前記光活性化合物をその緩和状態に戻すことによって、前記光活性化合物を、実施形態1に記載の方法で更に使用するために再生する、実施形態62又は63に記載の方法。
65.前記再生された光活性化合物を活性化させる工程と、前記光活性化合物の再生後に前記炭素含有液体の流れの方向を反対にして、更に炭素の除去を行う工程を含む、実施形態64に記載の方法。
66.前記作用流体の帯電バランスを維持する工程を更に含む、実施形態2~65のいずれかに記載の方法。
67.前記副流体の帯電バランスを維持する工程を更に含む、実施形態14~66のいずれかに記載の方法。
68.前記帯電バランスを維持する工程が、前記作用流体若しくは前記副流体から前記炭素含有流体に移動させたプロトンをカチオンで置換する工程、又は前記作用流体若しくは前記副流体から移動させたプロトンと共にアニオンを前記炭素含有流体に移動させる工程を含む、実施形態66又は67に記載の方法。
69.前記カチオン又はアニオンが、別の炭素含有流体又は別の流体からのものである、実施形態68に記載の方法。
70.前記作用流体又は前記副流体の帯電バランスを維持する工程が、電気化学的反応を用いることを含む、実施形態66~69のいずれかに記載の方法。
71.前記電気化学的反応が、アノード又はカソードの存在に基づいて生ずる、実施形態70に記載の方法。
72.前記副流体を、イオン交換膜を介して流体の流れに接触させる工程を更に含み、前記流体の流れがプロトン源を含む、実施形態14~71のいずれかに記載の方法。
73.前記炭素含有液体中の炭素が、二酸化炭素、炭酸、重炭酸塩、及び/又は炭酸塩の形態である、実施形態1~72のいずれかに記載の方法。
74.前記除去された炭素が、二酸化炭素である、実施形態1~73のいずれかに記載の方法。
75.前記炭素含有液体が水である、実施形態1~74のいずれかに記載の方法。
76.前記水が、海水、海洋水、又は河川水である、実施形態75に記載の方法。
77.前記水が汽水である、実施形態75又は76に記載の方法。
78.前記水が、発電プロセス又は工業プロセスからの排水である、実施形態75~77のいずれかに記載の方法。
79.前記発電プロセスが、熱電発電又は原子力発電である、実施形態78に記載の方法。
80.前記工業プロセスが、淡水化である、実施形態78又は79に記載の方法。
81.実施形態1~80のいずれかに記載の方法を実施するためのシステム。
82.炭素含有液体から炭素を除去するためのシステムであって、
炭素含有液体を光活性化合物まで移送するためのダクトと、
前記光活性化合物を含む物質と、
前記物質に含まれる前記光活性化合物を活性化するための刺激部と
を備えるシステム。
83.前記除去された炭素を回収するための回収ユニットを更に備える、実施形態82に記載のシステム。
84.前記炭素含有液体を前記光活性化合物の方向に流すための流動装置を更に備える、実施形態82又は83に記載のシステム。
85.前記流動装置が、ポンプ又は水頭を備えている、実施形態82~84のいずれかに記載のシステム。
86.前記水頭が、潮流、河川、又はダムにより生じたものである、実施形態85に記載のシステム。
87.前記流動装置が、加熱された流体の対流を生ずるものである、実施形態85又は86に記載のシステム。
88.前記回収ユニットとターゲット流との間に材料を更に備え、前記材料が、前記除去された炭素を前記回収ユニットから前記ターゲット流へと移動させることを可能とする、実施形態83~87のいずれかに記載のシステム。
89.前記材料が、膜、気体接触部、又は前記除去された炭素を前記ターゲット流へと直接移動させることを可能とする材料を含む、実施形態88に記載のシステム。
90.作用流体又は副流体を移送するための第2のダクトを更に備える、実施形態82~89のいずれかに記載のシステム。
91.前記作用流体又は前記副流体を移送するための第3のダクトを更に備える、実施形態90に記載のシステム。
92.前記刺激部が光源を備えている、実施形態82~91のいずれかに記載のシステム。
93.前記光源が人工光源である、実施形態92に記載のシステム。
94.前記人工光源がLED光源である、実施形態93に記載のシステム。
95.前記炭素含有液体を加熱するための熱源を更に備える、実施形態82~94のいずれかに記載のシステム。
96.前記炭素含有液体を前記熱源まで移送する第4のダクトを更に備える、実施形態95に記載のシステム。
97.炭素含有液体から炭素を除去するためのシステムであって、
炭素含有液体を移送するための第1のダクトと、
光活性化合物を活性化するための刺激部と、
プロセッサと、
コンピュータ実行可能な命令を保存しているコンピュータ可読記録媒体と
を備え、
前記コンピュータ実行可能な命令が実行されると、
前記第1のダクト内の前記炭素含有液体を光活性化合物に暴露する工程と、
前記炭素含有液体から炭素を除去して第2の環境に移動させる工程とを含む操作が前記システムにより実行される、
システム。
98.前記刺激部が光源を備え、
前記操作が、前記光源を用いて前記光活性化合物を活性化する工程を更に含む、実施形態97に記載のシステム。
99.前記炭素含有液体を流動させるための流動装置を更に備え、
前記操作が、前記流動装置を用いて、前記炭素含有液体の流れを、活性化した光活性化合物の方向に向ける工程を更に含む、実施形態97又は98に記載のシステム。
100.前記操作が、前記光源に対する前記光活性化合物の露光を止めることで、前記光活性化合物を失活化する工程を更に含む、実施形態97~99のいずれかに記載のシステム。
101.前記除去された炭素を回収する回収ユニットを更に備え、
前記操作が、前記除去された炭素を、前記回収ユニットを用いて回収する工程を更に含む、実施形態97~100のいずれかに記載のシステム。
102.前記除去された炭素の回収が、前記光活性化合物の失活化の後に実行される、実施形態101に記載のシステム。
103.前記第2の環境が、ターゲット流を含み、
前記システムが、前記回収ユニットと前記ターゲット流との間に材料を更に備え、
前記操作が、所定の時間の間、前記除去された炭素を、前記材料を介して前記回収ユニットから前記ターゲット流へと移動させる工程を更に含む、実施形態97~102のいずれかに記載のシステム。
104.前記材料が、膜、気体接触部、又は前記除去された炭素を前記ターゲット流に直接移動させることが可能な材料を含む、実施形態103に記載のシステム。
105.前記炭素含有液体を加熱する熱源を更に備え、
前記操作が、前記炭素含有液体を前記熱源で加熱する工程を更に含む、実施形態97~104のいずれかに記載のシステム。
106.前記第2の環境が作用流体を含み、
前記システムが、
前記作用流体を移送する第2のダクトと、
前記光活性化合物を含む副流体と機能的に接触する膜とを更に備え、
前記炭素含有液体を前記光活性化合物に暴露する工程が、
前記副流体が高い方のpH状態の時に、前記炭素含有液体から炭素を除去して前記作用流体に移すのに十分な時間にわたって、前記炭素含有液体を前記膜に暴露する工程を含む、実施形態97~105のいずれかに記載のシステム。
107.ポンプ又は水頭を更に備え、
前記操作が、前記ポンプ又は前記水頭を用いて、前記膜と前記副流体との機能的な接触を切断する工程を更に含む、実施形態97~106のいずれかに記載のシステム。
108.太陽光発電パネルを更に備える、実施形態82~107のいずれかに記載のシステム。
109.前記太陽光発電パネルが、前記光活性化合物を含む前記物質の下に配置されている、実施形態108に記載のシステム。
110.前記太陽光発電パネルが半透明であり、前記光活性化合物を含む前記物質の上に配置されている、実施形態108又は109に記載のシステム。
111.前記光活性化合物が、それぞれ異なる吸収スペクトルを有する複数の光活性化合物である、実施形態82~110のいずれかに記載のシステム。
112.前記光活性化合物を含む前記物質が更に鉱物を含む、実施形態82~111のいずれかに記載のシステム。
113.前記鉱物が、粉砕された鉱物である、実施形態112に記載のシステム。
114.前記鉱物が、超苦鉄質岩及び/又は石灰岩である、実施形態112又は113に記載のシステム。
115.炭素隔離場所から、1000マイル以内、100マイル以内、50マイル以内、40マイル以内、30マイル以内、20マイル以内、10マイル以内、5マイル以内、2マイル以内、又は、1マイル以内の距離にある、実施形態82~114のいずれかに記載のシステム。
116.前記炭素隔離場所が、海洋中、海中、河川中、又は大陸性地殻中にある、実施形態115に記載のシステム。
117.前記炭素隔離場所が岩盤中にある、実施形態115又は116に記載のシステム。
118.前記岩盤が、海洋中、海中、若しくは河川中にあるか、又は海洋底、海底、若しくは川底にある、実施形態117に記載のシステム。
119.前記岩盤が、炭化水素生成岩層である、実施形態117又は118に記載のシステム。
120.前記炭化水素生成岩層が、原油増進回収(EOR)に利用される、実施形態119に記載のシステム。
121.前記岩盤が、塩水の帯水層を含む、実施形態117~120のいずれかに記載のシステム。
122.前記炭素隔離場所が、枯渇した油井中及び天然ガス井中にある、実施形態115~121のいずれかに記載のシステム。
123.前記炭素隔離場所が、塩水の帯水層中にある、実施形態115~122のいずれかに記載のシステム。
124.海岸線から10マイル以内、5マイル以内、又は2マイル以内の距離にある、実施形態82~123のいずれかに記載のシステム。
125.洋上石油掘削リグ、洋上風力発電施設、船舶、洋上構造物、又は水上太陽光発電所に設けられている、実施形態82~124のいずれかに記載のシステム。
126.前記船舶が海軍艦船である、実施形態125に記載のシステム。
127.実施形態1~80のいずれかに記載の方法によって炭素含有液体から除去された炭素の、製品の成分としての使用。
128.前記製品が、肥料、プラスチック、セメント、又は燃料である、実施形態127に記載の使用。
129.前記燃料が、バイオ燃料、石油、ガソリン、ディーゼル燃料、ジェット燃料、又は合成燃料である、実施形態128に記載の使用。
130.前記バイオ燃料が藻類バイオ燃料である、実施形態129に記載の使用。
131.前記製品が、メタノール、エタノール、又は炭化水素類である、実施形態127~130のいずれかに記載の使用。
132.前記炭化水素類が、長鎖炭化水素類である、実施形態131に記載の使用。
133.実施形態1~80のいずれかに記載の方法によって炭素含有液体から除去された炭素の、生物の成長における使用。
134.前記生物が藻類である、実施形態133に記載の使用。
135.前記生物が作物である、実施形態133に記載の使用。
136.前記作物が農作物である、実施形態135に記載の使用。
137.前記生物が植物である、実施形態133に記載の使用。
138.前記植物が大麻草である、実施形態137に記載の使用。
139.温室栽培において実施される、実施形態133~138のいずれかに記載の使用。
【実施例】
【0121】
実施例1.炭素回収プロセスの全体
本化学サイクルの第1の工程において(
図17)、可視光で可逆性光酸を励起し、プロトンを放出させる。このプロトンが海水又は他の炭素含有液体を酸性化し、このソース液体のpHを低下させて、ソース液体中の溶存炭素をCO
2ガスに変換する。このCO
2ガスは、例えば、市販の気体接触膜などを介して、受動拡散によりソース液体から除去される。一方、光が光酸から外されると、光酸は自発的に緩和し、より塩基性の高い形態に戻る。このサイクルは、塩基性の形態となった光酸を使用済みのソース液体を用いて再生して一巡する。いくつかの実施例では、この再生を、他の構成では本プロセスの一部をなさない海水などの他の流体を用いて行うこともできる。炭素源であるソース流体として海水を用いる実施例では、炭素を低減させた海水が海洋に戻されるので、海洋の酸性化の地域的な対策となるという付加価値も奏する。以下の説明では、光酸が副流体に溶解されている本開示のプロセスの一実施例を主に説明する。他の実施例では、光酸を基材の表面に固定したり、材料に埋め込んだりしている構成を想定しているが、全体的なサイクルは、ここで説明するものと同様に構成することができる。
【0122】
より詳細には、酸性化において、可逆性光酸がプロトンを海水又は溶存炭素を含むその他の液体に加えると、Na
+または他のカチオンと置き換わる(
図18)。このプロセスは、例えば、カチオン交換膜を介して行われる。このプロセスは、電子的に中性であり、つまり、同量の正電荷が同時に失われて、得られるので、酸化速度を遅らせる電位を回避することができる。水圏化学的に見れば、このカチオン交換工程は、供給される海水からアルカリ性を除去することと均等である。再生においては、同様であるが逆方向に進行するプロトンとカチオンの交換プロセスにより排水される海水に同量のアルカリ性が戻される。よって、本開示のプロセスの工程間でアルカリ性が移動するが、全体としてアルカリ性を海洋に加えたり、海洋から除去したりするわけではない。全体的な海洋のアルカリ性を変えてしまうような構成の多くでは、化学物質を大量に投入する必要性や、大量の排水流が生じうるが、本構成では、そのようなことを避けることができる。これは、本開示のプロセスにおける重要な効果のひとつである。本開示のプロセスは、光と光酸を用いて1つの流体の複数の試料の間、又は別々の流体の間でアルカリ性を移動させる一連のサイクルを含む(
図18)。その他の詳細や裏付けとなる実験結果を、本プロセスの具体的な工程についての章において後述する。
【0123】
プロセスモデル化により得られた本開示のプロセスの実施の一シナリオを、プロセスフローと化学的性質についての詳細と共にここに示す。
【0124】
プロトンを生成するための光反応部における光酸の励起
可逆性光酸(RPA)は、溶液中にて反応していくつかの異なる化学種を形成する。このような種の例としては、基底状態のプロトン化した種(GSH)、基底状態の脱プロトン化した種(GS)、及び、励起状態の脱プロトン化した種(ES)などが挙げられる。本開示の化学プロセスでは、光を用いてRPAのGSH種を励起してES種とし、これによりプロトンを放出して、溶液をpHが低下した、より酸性度が高いものとする。研究所は、多数の様々なRPAについて、光を可逆性光酸に照射することで溶液のpHを低下させることができることを実証しており、pHの増減は明暗サイクルを繰り返すことで繰り返される。
【0125】
照射光のどの成分が所望の反応を引き起こすのかは、光反応の重要な性能パラメータのひとつである。この性能に関する指標は:GSH光酸の吸収スペクトルにマッチする照射光の成分;消光係数、経路長、及び吸光する種の濃度の関数である、吸収される入射光の量;および所望の光反応を生ずる吸光される光の成分(量子収率、φ)により制御される。既存のRPAは、典型的には青色の可視光にて励起されるものであり、消光係数が大きい(104 L mol-1 cm-1程度)ことを特徴とする。消光係数が大きいということは、これらの化合物はその最大励起波長の近傍で光を効率的に吸収するということである(本例の光酸ではλmax = 425 nm)。RPAの溶液における、λmaxでの入射光の99%減衰の長さのスケールは、典型的なRPAの性質である消光係数104と、GSH種の水溶性である2ミリモルを用いて計算した場合、1mm程度である。研究所は、これまでの研究にて、入射青色光が全体的に減衰し、GSHのESへの励起が最大量子収率0.7にて起こることを実証している(Berton et al., 2020)。このような性質は、実用的かつコンパクトな光反応部を効率的にプロトン放出するように設計するには、GSH状態のRPAを含有する溶液を通る光の光路長をほんの数ミリメートル設ければよい、ということを意味する。他の実施例として、材料の表面に固定されているか、又は、材料中に組み込まれているRPAに光を照射してもよい。RPAの消光係数が高く、量子収率が高いということは、これらの実施例においてRPAの層は薄くても十分効果があるということを意味する。
【0126】
RPAの多くは光変色性であるため、光路長や光反応部の寸法は、1mmを超えるように柔軟に変更することができる。光変色性の化合物において、基底状態種の吸収スペクトルは、励起状態種の吸収スペクトルと大きく異なる。この吸収のシフトにより、自己遮光は制限される。ES状態に変換する光変色性RPAは、GSH励起に最も適合する波長の光を減衰しない。よって、RPAの溶液の厚さが上記の特徴的な1mmよりも厚くとも、光はRPAの溶液を透過することができ、残りのGSH種と反応することができる。
【0127】
光反応部の最適な寸法および設計については、RPAが溶液中に溶解されているのか、それとも基材に固定されているのかや、RPAが溶液中に溶解されている場合の流量や混合、入射光の光路、入射光の光源、輝度、及び波長、その光反応部が本開示のプロセスの他の態様に組み込まれているか否か、及び、その光反応部が他の工業的にプロセスに組み込まれているか否か、などの他のファクターも考慮される。本プロセスのいくつかの工程をモジュールパネルにおいて組み合わせた一実施例を
図20に示す。
【0128】
図21に、
図20に図示されているような炭素回収器を並べた構成においてソース水を酸性化し、酸性化したソース水を、中央ガス移送施設に移送する本開示の例示的な炭素回収システムの一実施例を示す。ガス移送装置は、ガス移送パイプと資本コストを最小限にするよう、中央に配置されている。一実施例において、熱サイホンを用いて各パネル内で光酸溶液を再循環させているので、わざわざ流体を揚水する必要性がなく、電気の需要を低減し、水ポンプの資本コストを削減し得る。
【0129】
人工光源の使用
RPA励起反応のための光は、太陽光又は人工光源によって提供することができる。人工光源の一例としては、発光ダイオード(LED)が挙げられる。LEDを使用することの利点としては、光反応部の設計がコンパクトになり、光源の波長をRPAの吸収スペクトルに密接に適合させることができる点などが挙げられる。既存のRPAの吸収スペクトルと適合する高輝度の青色LEDが市販されている。例えば、OSRAM社のOSLON GD CSBRM2.14 Deep Blueは、本開示のプロセスにおいて好適に機能し得るピーク発光が445nmの市販のLEDである。このLEDは、典型的には70%の効率を有し、これは、このLEDが2Wの入力電気エネルギーで駆動されると、1.4ワット(J/秒)の中心光エネルギーを生成することを意味する。一実施例では、毎秒平方メートル当たり1860μモルの光子を生成し、720ワットの電力を消費する500W/m2のLEDアレイを、350個のLEDを用いて形成しうる(5cm間隔で配列したが、これは側面まで3mmのLEDケースの大きさと比較して大きな間隔である)。この高輝度の光源は、人工光を使用する水耕農業にて使用される照明フレームと同様のものである。また、LEDをより複雑な形状に配列して、RPAの露出の最適化や組み合わされているプロセス工程の最適化を図ってもよい。この照明のレベルでは、(光子量1860μモル/秒m2)×(光源と光反応溶液間の光結合の予測値95%)×(量子収率0.7)=ES及びプロトンの生成量1237μモル/秒m2となり、商用電力の料金をキロワット/時当たり$0.06とすると電力のコストは$0.043/時となる。この反応で生成されたプロトンが85%の効率でCO2を移動させるとすると仮定すると、1平方メートルのLEDアレイにより、(プロトン量1237μモル/秒)×(85%)×(60秒/分)×(60分/時)=CO2の生成量は1時間当たり3.79モル、つまり、毎時167gとなる。CO2の1トンはCO2の106gであるので、このシナリオにおけるCO21トン当たりのLEDの電力コストは、回収したCO21トン当たり$259である。このLEDアレイシステムの一例では、1キロトンのCO2を年間に生産する設備で必要とされるLED照明の面積は、685m2である。各モジュールパネルの高さを10cmとすると、本システムは、高さ3m、長さと幅が5mの体積の範囲に収めることができ、これは標準的な40フィートのハイキューブ海上輸送コンテナとほぼ同じ体積である。
【0130】
光源としての太陽光
太陽光を使用して光酸を励起する構成は、LED又は他の人工光を動作させるためのエネルギーやコストが必要とされないため、運転コストを削減することができるエネルギー面で効率的なオプションである。しかし、太陽光スペクトルは、その一部のみがGSH光酸の吸収スペクトルと適合し、また、太陽光が利用できるのは一日のうちの限られた時間であり、太陽光は多数の人工光源よりも輝度が低いので、十分な光を集光するのに必要な面積が大きくなり得る。太陽光及び/又は人工光の選択は、具体的な用途により、エネルギーコストや太陽光の利用可能性、土地の利用可能性、サイズ的な制約、及び、光反応部の製造に関する資本コストなどのファクターを考慮したものになるであろう。
【0131】
溶存CO
2を含む海水又は河川に近いいくつかの場所における典型的な太陽光の利用可能量を以下の表に示す。
【表1】
【0132】
直達日射量が6.0kWh/m2日、つまり、2200kWh/m2年であるサンディエゴを設計例として示す。既存の光酸は、地表の太陽光スペクトルのおよそ13%を吸収すると予想される。例示する計算は、サンディエゴのような太陽光が利用可能な場所における年間1キロトンのCO2を生産する施設に必要な集光器の面積についてのものである。これらのパラメータをこれらの計算に用いた場合、年間1キロトンのCO2を生産する施設に必要な日光を集光するのには、10,000m2、つまり、アメリカンフットボールフィールドのおよそ2面分の面積が必要である。
・(2200 kWh/年m2)(光損失0.95)(有効太陽光スペクトル13%)(減衰率100%)=光酸により吸収される有効照射量 272 kWh/年m2
・(吸収される照射量 272 kWh/年m2)(1000 Wh/1 kWh)(3,600 J/1 Wh)= 吸収される照射量 1 ×109 J/年m2
・(吸収される照射量 1 ×109 J/年m2)/ (上記430nmの光子毎のエネルギー4.62 × 10-19 J )(1モル/ 光子の数6.02 × 1023)=平方メートル当たりの年間光子吸収量 3,706 モル
・(平方メートル当たりの年間光子吸収量3,706 モル)(量子収率 0.7)×(CO2への変換率 0.85)=平方メートル当たりのCO2年間生産量2,205モル
・年間1キロトンのCO2を生産する施設は22.7× 106 モル/年を必要とするので、必要とされる太陽光の集光面積=(22.7× 106 モル/年)/(CO2のモル数2.20 × 103/年 m2)=10,307 m2
・アメリカンフットボールフィールド1面分の面積 = 360 フィート×160フィート = 57,600 平方フィート これは、57,600 平方フィート/(3.28 フィート/m)/(3.28 フィート/m)= 5,354 m2である。つまり、本技術による1キロトンのCO2を生産する施設は、(10,307 m2)/(5,353 m2) =アメリカンフットボールフィールド1.9面分の太陽光集光面積を必要とする。
このシナリオでは、太陽光エネルギーの利用は、LEDの実施例での表面積の15倍に当たる面積を必要とすることになる。特に、太陽光の集光エリアは積み重ねることができず、LEDや他の人工光源のシナリオのようにコンパクトなものにできない。
【0133】
太陽光を利用するプロセスの効率向上を図るひとつの方法としては、吸収スペクトルが異なる(ラムダマックスが異なる)複数の光酸を使用して、より多くの太陽光スペクトルを集光できるようにする構成が挙げられる。このアプローチは、RPA構造への化学変化がラムダマックスをシフトし得るという研究(Liu, Junning, Wenqi Tang, Lan Sheng, Zhen Du, Ting Zhang, Xing Su, and Sean Xiao‐An Zhang. “Effects of Substituents on Metastable-State Photoacids: Design, Synthesis, and Evaluation of Their Photochemical Properties.” Chemistry‐An Asian Journal 14, no. 3 (February 2019): 438-45. doi.org/10.1002/asia.201801687.)に裏付けされている。
【0134】
太陽光のエネルギーをより効率的に使用するための別の実施例では、光反応部を太陽光発電パネルと組み合わせる構成としてもよい(
図22)。この実施例は、発電と水の加熱を同時に行うために使用される、市販のハイブリッド型太陽光集光/集熱パネルと同様のものである。例えば、太陽光パネルは、RPAを含有する溶液の下に配置してもよい。RPAにより吸収されなかった太陽光は、溶液を透過してPV集光器に吸収され、電気を生成する。このアプローチは、太陽光のエネルギーを利用して、炭素の回収と発電の両方を行い得る。このアプローチは、本システムの収益性と環境に対する有用性を向上させ得る。代替的な一実施例では、RPA溶液の下にPVパネルを配置する代わりに、特殊な半透明太陽光PVパネルをRPA溶液の上に配置する。
【0135】
CO2の拡散
拡散工程が外膜又は高圧を必要としないこと、及び、市販の部品を用いて拡散工程を達成し得ることを示すために、関連する海水の流量を用いて広範な研究室試験およびフィールド試験を行った。この実験では、CO2には透過性であり、水やイオンには透過性ではない市販の気体接触膜(Separel EF-040p-Q-AN, 日本製)を用いて、海水からCO2を抽出した。二酸化炭素は、装置の内外を隔てる40μm厚のポリ-4-メチル-ペンテン-1(PMP)膜を介して受動拡散される。使用されたEF-040p-Q-AN膜の表面積は40m2であるが、これより小さいサイズのものも、大きいサイズのものも市販されている。ポンプを用いて膜の外側に海水を移送し、膜の下流に配置されている液封式ラボ用真空ポンプ(Welch 2585B)を用いて少流量のスイープガス(この例では大気)を引いて、装置の内側を移送する。他のテストでは、スイープガスを気体接触部の上流に設けたポンプを用いて膜を介して圧送した。他のテストでは、スイープガスを用いずに、膜の内側に真空を印加した。膜の気体側を真空としても、正圧(>1atm)としても、液体から気体へのCO2の移動効率は同様のものが得られた。
【0136】
CO
2は気体接触膜の水側から空気側に移動するので、水中の溶存無機炭素(DIC)が減少するが、アルカリ性は変化しない。よって、膜を介した炭素フラックスは、式1により、接触部に流入する海水と接触部から流出する海水間のDICの減少量を水の流量で乗じて求めることができる。
【数1】
【0137】
また、膜を介した炭素フラックスは、膜の内側から排出される気体のpCO2からも別途算出された。このふたつの独立した推定値は全体的に合致しており、炭素フラックスを精確に測定することができることが分かった。また、実験データを、無機炭素の移流、拡散、及び化学反応を担う膜式気体接触部の数値計算モデルと比較した。このモデルでは、気体接触部内の海水とスイープガスを別々のボックスに分けている。対流させることで、海水とスイープガスをそれぞれ反対方向に移流させている。CO2は、膜を介した拡散により海水とスイープガスとの間を移動する。よく攪拌されている海水ボックスのそれぞれにおける無機炭素が運動学的且つ平衡である化学反応に付される。この検証された数値計算モデルを用いて広範囲の状態にわたる炭素移動率を予測することができ、プロセス最適化のための設計の助けとなり得る。
【0138】
一連の実験において、本開示のプロセスで予測されるおおよそのレベルに対応するよう、海水のアルカリ性が2300から300μ等量/kgまで減少するように海水を酸性化した。炭素フラックスは、海水を酸性化すると大幅に上昇した。例えば、炭素フラックス速度は、他の実験条件を一定として、酸性化前の海水では膜に対してCO225μモル/分m2であったものが、酸性化後の海水ではCO2825μモル/分m2と33倍に上昇した。これらの実験により、天然水からのCO2の除去を酸性化により向上させることができるという、本開示のプロセスにおける基礎原理のひとつが実証できた。本開示のプロセスを他の技術から際立たせるひとつのファクターとして、この酸性化が可逆性光酸を用いて達成されることが挙げられる。さらに、この実験データは、炭素除去速度がこれらの実験条件下の酸性化された海水についてCO2860μモル/分m2であることを予測した数値計算気体移動モデルと良好に合致し、精度誤差は5%未満であった。
【0139】
任意の酸性化レベルについて、海水の流量を最大とし、海水の加熱を最大とし、真空強度を約0.85atmとしたときに、Separel EF-040p-Q-AN膜によって海水から除去することができる炭素フラックスは最高になった(
図23)。
【0140】
同一設計の異なる膜を用い、異なる場所において、その場所の天然海水と本研究所の人工海水を用い、測定を数か月後に行い、その結果を上述のモデル化したものと比較したが、炭素フラックスは再現性を有しており、CO2の海水からの除去を予測できることについて確信した。
【0141】
光酸の劣化と理想的な光酸の性質
本開示のプロセスの実施において考慮すべきファクターのひとつとして、光酸の劣化が挙げられる。現在のRPAは、水溶液において数時間から数日の時間スケールで加水分解することが知られている。このような速度では、いくつかの用途にとってRPAの交換がコスト的な妨げとなり得る。RPAの構造を改変することで、この分解反応を遅らせることができ得る(Berton, et al. 2021)。主な分解経路は公知であり(Berton, et al. 2020)、RPAを生成する最後の合成工程が単に逆になったものである(
図24)。つまり、分解反応の生成物は、RPA合成の最後の工程の出発原料である。これは、劣化反応からの生成物を回収してRPAを再生することが可能であり得ることを意味する。また、RPAは、アセトニトリルなどの一部の非水性溶媒においては数か月間安定である。劣化を制限する他のアプローチとしては、RPAを含有する作用流体として、非水性溶媒を使用する、又は、非水性溶媒と水性溶媒との混合物を使用することである。RPAを表面又は材料内に固定化することもまた、劣化速度に対して好影響を与える。
【0142】
結語
別途記載がない限り、本開示の実施は、化学、有機化学、生化学、分析化学、物理化学、および電気化学の従来技術を採用することができる。これらの方法は、以下の刊行物に記載されている。例えば、Harcourt, et al., Holt McDougal Modern Chemistry: Student Edition (2018); J. Karty, Organic Chemistry Principles and Mechanisms (2014); Nelson, et al., Lehninger Principles of Biochemistry 5th edition (2008); Skoog, et al., Fundamentals of Analytical Chemistry (8th Edition); Atkins, et al., Atkins' Physical Chemistry (11th Edition); Lefrou, et al., Electrochemistry: The Basics, with Examples, 2012, Anslyn and Dougherty, Modern Physical Organic Chemistryを参照されたい。
【0143】
上記の方法の動作の一部又は全ては、以下に定義するコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されたコンピュータ読み取り可能な命令の実行により実行されてもよい。本願明細書及び本願特許請求の範囲において使用される「コンピュータ読み取り可能な命令」という用語は、ルーチン、アプリケーション、アプリケーションモジュール、プログラムモジュール、プログラム、コンポーネント、データ構造、アルゴリズム等を包含するものである。コンピュータ読み取り可能な命令は、単一プロセッサ若しくはマルチプロセッサシステム、ミニコンピュータ、メインフレームコンピュータ、パーソナルコンピュータ、携帯型コンピュータ装置、マイクロプロセッサベースのプログラム可能な家電製品、それらの組み合わせなどの様々なシステム上で実施することができる。
【0144】
コンピュータ読み取り可能な記録媒体は、揮発性メモリ(ランダムアクセスメモリ(RAM)など)及び/又は非揮発性メモリ(リードオンリーメモリ(ROM)、フラッシュメモリ、など)を含むものであってもよい。また、コンピュータ読み取り可能な記録媒体は、コンピュータ読み取り可能な、命令、データ構造、プログラムモジュールなどの非揮発性の記録を提供可能な取り外し可能な記録媒体及び/又は取り外し不可能な記録媒体を更に含むものであってもよく、そのような取り外し可能な記録媒体及び/又は取り外し不可能な記録媒体の例としては、フラッシュメモリ、磁気記憶装置、光学記憶装置、及び/又はテープ記憶装置などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0145】
非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体の一例である。コンピュータ読み取り可能な記録媒体は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体と通信媒体という少なくとも2つのタイプのコンピュータ読み取り可能な記録媒体を包含する。コンピュータ読み取り可能な記録媒体は、コンピュータ読み取り可能な命令、データ構造、プログラムモジュール、又はその他のデータなどの情報を記録する任意のプロセスや技術において実装された揮発性及び非揮発性である、取り外し可能及び取り外し不可能な媒体を包含するものである。コンピュータ読み取り可能な記録媒体の例としては、相変化メモリ(PRAM)、スタティックランダムアクセスメモリ(SRAM)、ダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)、他のタイプのランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、電気的に消去可能なプログラマブルリードオンリーメモリ(EEPROM)、フラッシュメモリ又はその他のメモリ技術、コンパクトディスクリードオンリーメモリ(CD-ROM)、デジタル多用途ディスク(DVD)又はその他の光学ストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスク記憶装置又は他の磁気記憶装置、又はコンピュータデバイスがアクセスする情報を記憶するために使用することが可能なあらゆるその他の非伝送媒体などが挙げられる。一方、通信媒体は、搬送波やそのほかの通信メカニズムなどの変調データ信号にコンピュータ読み取り可能な命令、データ構造、プログラムモジュール、又は、その他のデータを具現化したものであり得る。本明細書において定義されるように、コンピュータ読み取り可能な記録媒体は、通信媒体を包含するものではない。
【0146】
1つ又は複数の非一時的コンピュータ読み取り可能な記録媒体に保存されているコンピュータ読み取り可能な命令は、1つ又は複数のプロセッサにより実行されると、図面を参照して上記に説明された動作を実行するものであってもよい。一般に、コンピュータ読み取り可能な命令は、特定の機能を実行する、又は、特定の抽象データタイプを供するルーチン、プログラム、オブジェクト、コンポーネント、データ構造などを含むものである。動作が記載された順番は、限定として解釈されることを意図したものではなく、上記した工程は、本プロセスを実施するために、任意の数で組み合わせて、任意の順番及び/又は並行して実行されてもよい。
【0147】
本明細書に開示された各実施形態は、記載された特定の構成要素、工程、材料又は成分を含む/備える(comprise)か、実質的にこれらからなるか、又は、これらからなるものであってもよい。したがって、「含む/備える(includes)」又は「含んでいる/備えている(including)」という用語は、「含むか(comprising)、実質的に~からなるか(essentially consisting of)、又は、~からなる(consisting of)」ということを記載していると解釈されるべきものである。「含む/備える(comprising)」という移行句は有するということを意味するが、それに限らず、特定されていない構成要素、工程、材料又は成分が、たとえその量/数が多くとも、含まれていてもよいことを意味する。「からなる」という移行句は、特定されていない構成要素、工程、材料、成分は含まれていないことを意味する。「実質的に~からなる」という移行句は、実施形態の範囲を、特定されている構成要素、工程、材料又は成分、及び実施形態に重大な影響を及ぼさないものに限定するものである。重大な影響とは、炭素を炭素含有液体から除去し、ターゲット気体又は液体の流れへ移動させる効率を統計的に有意に減少させうる影響のことである。
【0148】
別途記載がない限り、本明細書や本特許請求の範囲において記載され、使用されている、分子量や反応条件などの、材料の量や性質を表すあらゆる数値は、あらゆる場合において、「約」という用語で修飾されていると解釈されるべきものである。したがって、別途記載がない限り、本明細書および添付の本特許請求の範囲に記載の数値パラメータは、本発明により得ようとする所望の性質に応じて変動しうる近似値である。各数値パラメータは、少なくとも各請求項の範囲に対する均等論の適用を制限することを意図したものではなく、少なくとも、記載されている有効数字の桁数を考慮し、通常の端数処理技術を鑑みて解釈するべきものである。更なる明確性が必要な場合は、「約」という用語は、記載の数値や数値範囲と共に使用された場合に当業者が合理的にそれに付し得る意味を有し、すなわち、記載の数値の±20%の範囲;記載の数値の±19%の範囲;記載の数値の±18%の範囲;記載の数値の±17%の範囲;記載の数値の±16%の範囲;記載の数値の±15%の範囲;記載の数値の±14%の範囲;記載の数値の±13%の範囲;記載の数値の±12%の範囲;記載の数値の±11%の範囲;記載の数値の±10%の範囲;記載の数値の±9%の範囲;記載の数値の±8%の範囲;記載の数値の±7%の範囲;記載の数値の±6%の範囲;記載の数値の±5%の範囲;記載の数値の±4%の範囲;記載の数値の±3%の範囲;記載の数値の±2%の範囲;または記載の数値の±1%の範囲で、記載の数値又は数値範囲よりもある程度多い又は少ないことを示す。
【0149】
本発明の広い範囲を示す数値範囲およびパラメータは近似値であるものの、具体的な各実施例に記載されている数値は、可能な限り精確なものとして記載されている。しかし、如何なる数値も、各試験の測定値における標準偏差により必然的に生ずるある程度の誤差を本質的に含むものである。
【0150】
本発明を説明する文脈において(特に以下の請求項の文脈において)使用されている「a」、「an」、「the」および同様の指示語は、別途記載がない限り、又は文脈上明らかに矛盾しない限り、単数の場合と複数の場合の両方を含むと解釈されるべきものである。本明細書に記載の数値範囲は、その数値範囲に含まれる各数値を個別に指すための簡略的な方法であることを意図している。別途記載がない限り、各数値は、個別に本明細書に記載されているものとして、本明細書に組み込まれている。本明細書に記載されている方法はいずれも、別途記載がない限り、又は、文脈上明らかに矛盾しない限り、あらゆる好適な順番で実施されてもよい。本明細書において示されているすべての例や例示に関する表現(例えば「など」)は、本明細書をより分かりやすく説明することのみを意図したものであり、特許請求の範囲に記載されていない本発明の範囲を限定するものではない。本明細書の文言は、本発明の実施において必須であるものの、請求項には記載されていない構成要素を示していると解釈すべきものではない。
【0151】
本明細書に開示されている代替的な構成要素や実施形態の組み合わせは、限定として解釈されるべきものではない。各組み合わせのメンバーは、個別に言及や特許請求されてもよく、又は、同じ組み合わせの他のメンバーや本明細書に記載の他の構成要素と任意に組み合わせて言及や特許請求されてもよい。説明の簡略化のため及び/又は特許性のために、ある組み合わせの1つ又は複数のメンバーを他の組み合わせに加えてもよく、また、ある組み合わせから1つ又は複数のメンバーを削除してもよいことは理解されるであろう。そのような追加若しくは削除をする場合、本明細書はそのように修正された組み合わせを含むものとして解釈され、添付の請求項において使用される全てのマーカッシュ群についての記載要件を満たしているとされるべきものである。
【0152】
本明細書には、本発明者らの知見によれば本発明を実施するためのベストモードであるものを含む、本発明の一部の実施形態が記載されている。当然のことながら、上記の説明を読めば当業者にはこれら上述した実施形態の変形例が明らかになるであろう。本発明者らは、当業者がそのような変形例を適宜採用することも想定しており、本発明者らは本発明が本明細書に具体的に記載されているものとは違う形態で実施されることも意図している。よって、本発明は、適用法により許された範囲で、添付の特許請求の範囲に記載されている発明のあらゆる変形例と均等物とを包含するものである。また、別途記載がない限り、又は、文脈上あきらかに矛盾しない限り、あらゆる可能な変形例における上記した構成要素のあらゆる組み合わせは、本発明により包含されている。
【0153】
さらに、本明細書全体において特許、刊行物、ジャーナルの論文、その他の文献を多数参照している(本明細書における参照文献)。各参照文献も、その参照された教示について、その全体を参照により本明細書にそれぞれ組み込まれている。
【0154】
最後に、本明細書に開示されている本発明の各実施形態は、本発明の原理を説明するためだけのものであると解釈されるべきものである。採用し得る他の変形例も本発明の範囲内に含まれる。よって、例えば、これに限るものではないが、本発明の代替的な構成を本明細書に記載の教示に従って採用してもよい。したがって、本発明は、本願において図示及び記載されている通りのものに限定されるものではない。
【0155】
本開示において提示されている具体例は単なる例示であり、本発明の好ましい実施形態を説明するためだけのもので、本発明の様々な実施形態の原理と概念的態様を容易に理解するのに最も有用であると信じられたものを提供するために提示されている。この点において、本発明の基本的理解のために必要であるもの以上に詳細に本発明の構造的詳細を提示してはいないが、本図面及び/又は実施例を参照して記載を読めば、本発明の態様のいくつかを実施する上でどのように具現化しうるかについては、当業者に明らかであろう。
【0156】
本開示において用いられる定義や説明は、各実施例において明白且つ一義的に変更されている場合や、その意味を適用すると解釈が無意味になってしまう、若しくは実質的に無意味になってしまう場合を除き、将来におけるあらゆる解釈を規定することを意味し、意図している。用語を解釈するとその用語が無意味であったり、実質的に無意味であったりする場合は、ウェブスター辞典(第3版)、又は、当業者に知られているOxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology(Eds. Attwood T et al., Oxford University Press, Oxford, 2006)などの辞書における定義を採用するものとする。
【国際調査報告】