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特表2024-526615抗体高次構造コンパラビリティのためのNMR方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】抗体高次構造コンパラビリティのためのNMR方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/08 20060101AFI20240711BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20240711BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20240711BHJP
   G01N 24/12 20060101ALI20240711BHJP
   G01R 33/465 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
G01N24/08 510Q
G01N33/483 E
G01N33/68
G01N24/12 510C
G01R33/465
G01N24/12 510L
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580706
(86)(22)【出願日】2022-06-28
(85)【翻訳文提出日】2024-01-22
(86)【国際出願番号】 US2022035312
(87)【国際公開番号】W WO2023278443
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】63/216,501
(32)【優先日】2021-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ディッキ― イゴール
(72)【発明者】
【氏名】マトウゼク ウィリアム
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045DA37
2G045FA36
(57)【要約】
本発明は、概して、抗体高次構造を特徴付ける方法に関する。特に、本発明は、抗体高次構造における製造プロセス変動性を比較するための新規なNMR方法の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのタンパク質の製造プロセスを比較するための方法であって、
a.少なくとも2つの製造プロセスからの複数の試料を取得することと、
b.NMR分光法のために前記試料を調製することと、
c.調製した試料をNMR実験に供することと、
d.前記NMR実験から前記試料についてのNMRスペクトルを取得することと、
e.前記少なくとも2つの製造プロセスの各々の前記スペクトルを平均化することと、
f.タンパク質高次構造の差異を検出するために、前記少なくとも2つの製造プロセスからの前記平均化されたNMRスペクトルを比較することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記タンパク質が、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、抗体薬物複合体、抗体/標的化薬物複合体、複合モノクローナル抗体、複合モノクローナル抗体断片、又はFc融合タンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タンパク質が、モノクローナル抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
NMR分光法のために前記試料を調製することが、前記試料を少なくとも1つの加水分解剤に接触させるステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記加水分解剤が、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)の免疫グロブリン分解酵素(IdeS)又はそのバリアントである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記NMRスペクトルが、2D-NMRスペクトルである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記2D-NMRスペクトルが、相関分光法(COSY)、全相関分光法(TOCSY)、又は核オーバーハウザー効果分光法(NOESY)を通じた同種核NMR実験を使用して取得される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記2D-NMRスペクトルが、H-15N HSQC又はH-13C HSQCを通じた異種核NMR実験を使用して取得される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
比較が、前記少なくとも2つの製造プロセスからの前記平均化されたNMRスペクトルに対してECHOS-NMRを適用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
タンパク質の2つの製造プロセスを比較することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つのタンパク質の製造プロセスを比較するための方法であって、
(a)少なくとも2つの製造プロセスからの複数のタンパク質試料を取得することと、
(b)NMR分光法のために前記試料を調製することと、
(c)前記試料をNMR実験に供することと、
(d)タンパク質高次構造の差異を検出するために製造プロセスを比較するため、取得されたNMRスペクトルを主成分分析に供することと
を含む、方法。
【請求項12】
前記主成分分析における前記NMRスペクトルが、製造プロセスによってクラスター化される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
製造プロセスを比較するために、前記主成分分析クラスターを統計分析に供することを更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
主成分分析を使用して測定された少なくとも1つの差異に寄与する前記NMRスペクトルの少なくとも1つの領域を決定することを更に含み、前記領域が、前記NMRスペクトル上に等高線プロットとして少なくとも1つの負荷量をプロットすることによって決定される、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記タンパク質が、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、又はFc融合タンパク質である、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記タンパク質が、モノクローナル抗体である、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
NMR分光法のために前記試料を調製することが、前記試料を少なくとも1つの加水分解剤に接触させるステップを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記加水分解剤が、化膿連鎖球菌の免疫グロブリン分解酵素(IdeS)又はそのバリアントである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記NMRスペクトルが、2D-NMRスペクトルである、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記2D-NMRスペクトルが、相関分光法(COSY)、全相関分光法(TOCSY)、又は核オーバーハウザー効果分光法(NOESY)を通じた同種核NMR実験を使用して取得される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記2D-NMRスペクトルが、H-15N HSQC又はH-13C HSQCを通じた異種核NMR実験を使用して取得される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
比較が、前記少なくとも2つの製造プロセスからの前記平均化されたNMRスペクトルに対してECHOS-NMRを適用することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項23】
タンパク質の2つの製造プロセスを比較することができる、請求項11に記載の方法。
【請求項24】
タンパク質を特徴付けるための方法であって、
a.タンパク質試料を取得することと、
b.NMR分光法のために前記試料を調製することと、
c.前記試料をNMR実験に供することと、
d.取得されたNMRスペクトルの空の領域からノイズを排除することと、
e.前記NMRスペクトルを分析して、前記タンパク質を特徴付けることと
を含む、方法。
【請求項25】
ステップ(d)が、
(i)前記NMRスペクトルをビンに分割することと、
(ii)前記NMRスペクトルの空の領域を選択することと、
(iii)前記選択された領域におけるシグナル強度の標準偏差を決定して、ノイズ閾値を設定することと、
(iv)前記ノイズ閾値の2倍を下回るシグナルを有する全てのビンがゼロに設定されるように、前記NMRスペクトルシグナルを調整することと
を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
ゼロの強度を有するビンを分析から除外することを更に含む、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記タンパク質が、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、又はFc融合タンパク質である、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記タンパク質が、モノクローナル抗体である、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
NMR分光法のために前記試料を調製することが、前記試料を少なくとも1つの加水分解剤に接触させるステップを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
前記加水分解剤が、化膿連鎖球菌の免疫グロブリン分解酵素(IdeS)又はそのバリアントである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記NMRスペクトルが、2D-NMRスペクトルである、請求項24に記載の方法。
【請求項32】
前記2D-NMRスペクトルが、相関分光法(COSY)、全相関分光法(TOCSY)、又は核オーバーハウザー効果分光法(NOESY)を通じた同種核NMR実験を使用して取得される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記2D-NMRスペクトルが、H-15N HSQC又はH-13C HSQCを通じた異種核NMR実験を使用して取得される、請求項31に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年6月29日に出願された、米国仮特許出願第63/216,501号の優先権及び利益を主張するものであり、これは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本出願は、核磁気共鳴分光法を比較するための方法、及びバイオテクノロジー生成物の製造におけるその適用に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
タンパク質治療薬は、その安全性及び有効性が、高次構造(HOS)を含む、種々の重要品質特性に依存している複雑な原薬である。HOSを特徴付けることは、バイオ医薬品製造における一貫性を確立し、製造変化からのプロセス関連変動を検出し、バイオ治療薬生成物間のコンパラビリティを確立するために不可欠である。
【0004】
近年、核磁気共鳴(NMR)分光方法が、治療用抗体などの、治療用タンパク質におけるHOSの特徴付けのために開発されている。特に、2D異種核相関方法は、原子レベルまでのタンパク質構造の詳細かつ包括的な報告を可能にする。薬物開発プロセスにおける治療用タンパク質の分析は特別な課題を提示する。なぜなら、薬物製造ワークフローは、そうでなければNMRシグナルを増強し、NMRピーク帰属を容易にするために使用され得る、同位体標識又は濃縮と不適合性であり得るからである。代わりに、高度な分析方法が、帰属を容易にするために、又はピーク帰属を必要としない場合があるより広範な統計的メトリックを使用してスペクトルを比較するために適用され得る。
【0005】
試料調製、NMR技法、データ処理、データ後処理、及びデータ分析は全て、NMRによる治療用タンパク質の特徴付けを改善するために現在開発中の領域である。これまでに、治療用タンパク質の個々のロット間比較のための方法が開発されている。2つの試料又はプロセスの間で比較することは、バイオ治療薬製造プロセスの1つの重要な構成要素であるが、1つの代表的なロットのみが分析されるときに不明瞭にされ得る所与のプロセス内の変動もまた存在し得る。この変動を理解すること、及び異なるプロセスの変動を互いに比較することは、バイオ治療薬開発のための製造プロセスを選択及び最適化するために重要である。
【0006】
したがって、治療用タンパク質の製造におけるプロセス変動性の特徴付け及び比較をするためのNMR方法に対する必要性が存在することが理解されるであろう。
【発明の概要】
【0007】
概要
複数の製造プロセスの変動性を比較するための方法が開発された。プロセス平均化された(process-averaged)、ECHOS(easy comparability of higher order structure(高次構造の容易なコンパラビリティ))-NMRの方法は、いずれかのプロセスのロット間変動性による歪みなしでの製造プロセスの比較を可能にする。プロセスクラスター化された(process-clustered)主成分分析(PCA)は、各製造プロセス内並びにそれらの間の変動性の検出及び比較を可能にする。プロセスによるPCAクラスター化は更に、各主成分に対して相対的な当該プロセス変動の統計分析を可能にする。
【0008】
NMR方法に対する追加の改善が本明細書に開示される。NMR試料調製のための消化酵素としてのIdeSの使用は、他の酵素と比較して、抗体断片化における一貫性、及び特有のサイズ範囲にある断片の生成を可能にする。加えて、IdeSの使用は、IdeSなしで又はインタクトなタンパク質を用いて取得されたスペクトル分解能と比べて、スペクトル分解能の改善を提供する。NMRスペクトルを単純化し、分析物シグナルのより精確な統計分析を可能にするノイズ排除方法もまた開示される。
【0009】
本開示は、タンパク質の製造プロセスを比較するための方法を提供する。いくつかの例示的な実施形態では、方法は、(a)少なくとも2つの製造プロセスからの複数のタンパク質試料を取得することと、(b)NMR分光法のために当該試料を調製することと、(c)調製した試料をNMR実験に供することと、(d)当該NMR実験から当該試料についてのNMRスペクトルを取得することと、(e)当該少なくとも2つの製造プロセスの各々の当該スペクトルを平均化することと、(f)タンパク質高次構造の差異を検出するために、当該少なくとも2つの製造プロセスからの当該平均化されたNMRスペクトルを比較することとを含む。
【0010】
いくつかの態様では、当該タンパク質試料は、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、抗体薬物複合体、抗体/標的化薬物複合体、複合モノクローナル抗体、複合モノクローナル抗体断片、又はFc融合タンパク質を含む。
【0011】
いくつかの態様では、NMR分光法のために当該試料を調製することは、当該試料を少なくとも1つの加水分解剤に接触させるステップを含み得る。特定の態様では、当該加水分解剤は、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)の免疫グロブリン分解酵素(IdeS)又はそのバリアントである。
【0012】
いくつかの態様では、当該NMRスペクトルは、2D-NMRスペクトルである。特定の態様では、2D-NMRスペクトルは、相関分光法(COSY)、全相関分光法(TOCSY)、又は核オーバーハウザー効果分光法(NOESY)を通じた同種核NMR実験を使用して取得される。別の特定の態様では、2D-NMRスペクトルは、H-15N HSQC又はH-13C HSQCを通じた異種核NMR実験を使用して取得される。好ましい態様では、2D-NMRスペクトルは、HSQCである。
【0013】
いくつかの他の態様では、当該NMRスペクトルは、3D-NMRスペクトルである。別の態様では、当該NMRスペクトルは、4D-NMRスペクトルである。
【0014】
いくつかの態様では、当該比較は、当該少なくとも2つの製造プロセスからの当該平均化されたNMRスペクトルに対してECHOS-NMRを適用することを含む。
【0015】
いくつかの例示的な実施形態では、タンパク質の製造プロセスを比較するための方法は、(a)少なくとも2つの製造プロセスからの複数のタンパク質試料を取得することと、(b)NMR分光法のために当該試料を調製することと、(c)当該試料をNMR実験に供することと、(d)一次、二次、及び三次構造並びにより高次構造の差異を検出するために製造プロセスを比較するため、取得されたNMRスペクトルを主成分分析に供することとを含む。タンパク質の製造プロセスを比較するための方法はまた、製造プロセスを比較して、タンパク質試料中の当該タンパク質の翻訳後修飾の差異を検出するために使用され得る。
【0016】
いくつかの態様では、当該タンパク質は、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、抗体薬物複合体、抗体/標的化薬物複合体、複合モノクローナル抗体、複合モノクローナル抗体断片、又はFc融合タンパク質であり得る。
【0017】
いくつかの態様では、NMR分光法のために当該試料を調製することは、当該試料を少なくとも1つの加水分解剤に接触させるステップを含み得る。特定の態様では、当該加水分解剤は、化膿連鎖球菌の免疫グロブリン分解酵素(IdeS)又はそのバリアントである。更なる態様では、NMR分光法のために当該試料を調製することは、当該加水分解された試料をリン酸塩緩衝液中に交換するステップを含み得る。
【0018】
いくつかの態様では、当該NMRスペクトルは、2D-NMRスペクトルである。特定の態様では、2D-NMRスペクトルは、相関分光法(COSY)、全相関分光法(TOCSY)、又は核オーバーハウザー効果分光法(NOESY)を通じた同種核NMR実験を使用して取得される。別の特定の態様では、2D-NMRスペクトルは、H-15N HSQC又はH-13C HSQCを通じた異種核NMR実験を使用して取得される。好ましい態様では、2D-NMRスペクトルは、HSQCである。
【0019】
いくつかの態様では、当該主成分分析における当該NMRスペクトルは、製造プロセスによってクラスター化される。特定の態様では、方法は、製造プロセスを比較するために、当該主成分分析クラスターを統計分析に供することを更に含む。
【0020】
いくつかの態様では、方法は、主成分分析を使用して測定された少なくとも1つの差異に寄与する当該NMRスペクトルの少なくとも1つの領域を決定することを更に含み、当該領域は、当該NMRスペクトル上に等高線プロットとして少なくとも1つの負荷量をプロットすることによって決定される。
【0021】
いくつかの態様では、当該複数のタンパク質試料は、3つ、4つ、5つ、又は5つより多くであり得る。
【0022】
本開示は、タンパク質を特徴付けるための追加の方法を提供する。いくつかの例示的な実施形態では、方法は、(a)タンパク質試料を取得することと、(b)NMR分光法のために当該試料を調製することと、(c)当該試料をNMR実験に供することと、(d)取得されたNMRスペクトルの空の領域からノイズを排除することと、(e)当該NMRスペクトルを分析して、タンパク質を特徴付けることとを含む。
【0023】
いくつかの態様では、ステップ(d)は、(i)NMRスペクトルをビンに分割することと、(ii)NMRスペクトルの空の領域を選択することと、(iii)選択された領域におけるシグナル強度の標準偏差を決定して、ノイズ閾値を設定することと、(iv)ノイズ閾値の4倍を下回るシグナルを有する全てのビンがゼロに設定されるように、NMRスペクトルシグナルを調整することとを含む。特定の態様では、当該方法は、ゼロの強度を有するビンを分析から除外することを更に含む。
【0024】
本発明のこれらの、及び他の、態様は、以下の説明及び添付の図面と併せて考慮されたときによりよく認識及び理解されるであろう。以下の説明は、その様々な実施形態及び多数の具体的な詳細を示すが、限定ではなく、例証として与えられる。多くの置換、修正、追加、又は再配置が、本発明の範囲内で行われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A図1Aは、例示的な実施形態による、生13C/H NMRスペクトルを示す。
図1B図1Bは、例示的な実施形態による、ビニングされた13C/H NMRスペクトルを示す。
図1C図1Cは、例示的な実施形態による、13C/H NMRスペクトルにおけるノイズ領域の選択を示す。
図1D図1Dは、例示的な実施形態による、13C/H NMRスペクトルにおけるノイズ領域の統計分析を示す。
図1E図1Eは、例示的な実施形態による、ノイズを除去するために強度が調整された13C/H NMRスペクトルを示す。
図1F図1Fは、例示的な実施形態による、13C/H NMRスペクトルにおける目的の領域の選択を示す。
図1G図1Gは、例示的な実施形態による、13C/H NMRスペクトルにおける目的の単離領域を示す。
図1H図1Hは、例示的な実施形態による、強度が正規化された13C/H NMRスペクトルを示す。
図1I図1Iは、例示的な実施形態による、シグナル及びノイズ領域を分離するために閾値が適用された13C/H NMRスペクトルを示す。
図1J図1Jは、例示的な実施形態による、シグナル及びノイズ領域を示すために閾値が適用された13C/H NMRスペクトルを示す。
図2図2は、例示的な実施形態による、条件ごとに平均化された3つの試料を用いた、2つの抗体及び2つの製造プロセスについての平均化され、重ね合わされた13C/H NMRスペクトルを示す。
図3図3は、例示的な実施形態による、条件ごとに平均化された3つの試料を用いた、2つの抗体及び2つの製造プロセスについてのECHOS-NMR分析を示す。
図4A図4Aは、例示的な実施形態による、2つの抗体及び2つの製造プロセスについてのNMRスペクトルのセンタリングPCAを示す。
図4B図4Bは、例示的な実施形態による、mAb1及び2つの製造プロセスについてのNMRスペクトルの非センタリングPCAを示す。
図4C図4Bは、例示的な実施形態による、mAb2及び2つの製造プロセスについてのNMRスペクトルの非センタリングPCAを示す。
図4D図4Dは、例示的な実施形態による、2つの抗体及び2つの製造プロセスについてのNMRスペクトルのPCAの統計分析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
詳細な説明
タンパク質治療薬は、その安全性及び有効性が種々の重要品質特性(CQA)に依存している複雑な原薬である。1つのそのような特性は高次構造(HOS)であり、これは、薬物の二次、三次及び四次構造で構成される。HOSを特徴付けることは、バイオ医薬品製造における一貫性を確立し、製造変化からのプロセス関連変動を検出し、バイオ治療薬生成物間のコンパラビリティを確立するために重要である。しかしながら、タンパク質のHOSを測定することは、実質的な技術的及び分析的課題を表す。化学的に誘導され、それについて構造が絶対に決定され得る小分子薬物とは異なり、タンパク質治療薬のHOSは、それらの大きな分子量、タンパク質動力学、及び製造プロセスの微妙な差異から生じる生成物の不均一性に起因して、絶対的な特徴付けを妨げる(Brinson et al.,2019,MAbs,11(1):94-105)。
【0027】
mAb薬物生成物のHOSを特徴付けるために典型的に使用される方法には、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)及び円二色性(CD)が含まれる。これらの方法のうちのいくつかはmAbに関する構造情報を提供するのに好適であり得るが、それらはタンパク質治療薬のHOS特徴付けについてのいくつかの欠点を有する。CDの実用的なハードウェア制限は、典型的なmAb製剤と比較して希薄なタンパク質濃度を必要とする。CDの別の問題は、特に、変化を観察するにもかかわらず、構造摂動を局在化させることが常には可能でない、IgGのような構造的に均一なタンパク質を評価するときの、低感度である。このより低い濃度で取得された結果が、より高い製剤濃度での挙動の予測となる程度は、未解決の問題のままである。FT-IRは広いタンパク質濃度範囲にわたって動作し得るが、それは、二次構造のみを特徴付ける、限定的な単一特性方法であり、したがって、タンパク質構造の完全な尺度を提供しない。CDと同様に、FT-IRは、いかなる構造的欠陥をも局所化させることができず、このことは、それを比較的低い情報量の方法にしている。FT-IRを使用すると、NMRスペクトルは通常十分に分散され、これは、タンパク質配列に局在化させられ得る数百個の独立した読み出しを提供する。両方の技法の低い分光学的及び構造的分解能はまた、スペクトル分散を構造分散に相関させることを困難にする。加えて、最近の研究は、両方の方法が臨床的に関連するHOS分散について報告する感度を疑問視している(Arbogast et al.,2020,Curr Protoc Protein Sci,100(1):e105)。
【0028】
NMR分光法は、タンパク質高次構造の研究における重要なツールであったが、その使用は、妥当な感度を達成するための13C及び15Nでの同位体標識及び/又は濃縮に伝統的に依存しており、これは、バイオ治療薬製造プロセスと適合性でない場合がある。NMRはまた、一般的に、抗体などのより大きな分子とは対照的な、より小さな分子量の分析物のために使用されている。したがって、NMRは、治療用抗体の構造的特徴付けにおいて限定的な役割を果たしている。しかしながら、NMR方法論における最近の進歩は、より大きな分析物について、及び天然の同位体存在量(1.1%の13C、0.3%の15N)のタンパク質についての感度の改善を可能にした。1D H方法、2D H-H方法、及び2D H-X異種核相関方法を含む、本出願に有用なNMR技法が記載されている。後者の方法の例としては、2D 13C-H及び2D 15N-H方法が挙げられる。加えて、化学シフト自己相関、主成分分析(PCA)及びECHOSなどの、NMRデータ処理及び後処理技法、又は計量化学方法が、抗体の特徴付けのために開発されている(Arbogast et al.,上記、Amezcua and Szabo.Journal of Pharmaceutical Sciences 2013,102(6),1724-1733)。
【0029】
タンパク質治療薬の特徴付けのためのNMR方法の使用が望ましい。なぜなら、単一の2D-NMR実験が、タンパク質治療薬の一次、二次、三次及び四次構造の包括的な原子レベルのフィンガープリントを差し出すスペクトルマップをもたらし得るからである。正しく折り畳まれたタンパク質分子は、典型的には、2Dスペクトルフィンガープリントと言われる、個々の15N-Hアミド又は13C-Hメチル共鳴相関から生じるクロスピークの規定されたパターンを与える。これらのシグナルは、温度、pH、及びイオン強度などの実験試料条件が適正に管理されていると仮定すると、三次元タンパク質構造におけるそれらの個々の原子の独特の化学的及び構造的環境に関連する特定の周波数位置で観察される。2つの生成物からのタンパク質の2つの2D-NMRスペクトルフィンガープリントの精密な一致は、タンパク質の優勢な構造が、それらの2つの生成物試料の間で高度に類似していることの高レベルの保証を提供する。そのような高い類似性の決定は、他の関連するCQAとの組み合わせで、2つの生成物の間の分析的類似性を指定するために使用され得る(Brinson et al.)。
【0030】
NMRを使用するバイオ治療用タンパク質のロット間比較のための方法が確立されているが、適用は、2つの試料又はプロセスの間のHOS差異を分析することに限定されている。2つの試料又はプロセスの間で比較することはバイオ治療薬製造プロセスの1つの重要な構成要素であるが、所与のプロセス内の変動もまた存在し得る。2つ以上の異なるプロセスの変動性を比較することができることは、生成物の全範囲を封入する場合があるか又はしない場合がある各プロセスからの1つの個々のロットを比較することとは対照的に、そのために方法がまだ確立されていない重要な実用的考慮事項である。したがって、抗体高次構造における製造プロセス変動性を比較するための方法に対する差し迫った必要性が存在する。
【0031】
本開示は、抗体製造プロセスの分析のための新規な方法を記載する。消化酵素としてのIdeSの使用、スペクトルノイズ低減のための方法、平均化されたECHOS-NMRのための方法、及びNMRスペクトルのプロセスグループ化された(process-grouped)PCAのための方法を含む、従来のNMR方法に対する種々の進歩が本明細書に開示される。
【0032】
別段記載されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと同様又は同等の任意の方法及び材料が実施又は試験において使用され得るが、特定の方法及び材料がここに記載される。
【0033】
「a」という用語は、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきであり、「約」及び「およそ」という用語は、当業者によって理解されるように標準的な変動を許容すると理解されるべきであり、範囲が提供される場合、エンドポイントが含まれる。本明細書で使用される場合、「含む(include)」、「含む(includes)」、及び「含む(including)」という用語は、非限定的であることが意図され、それぞれ「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含む(comprising)」を意味すると理解される。
【0034】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」又は「医薬タンパク質生成物」という用語は、共有結合されたアミド結合を有する任意のアミノ酸ポリマーを含み得る。タンパク質は、当技術分野において「ポリペプチド」として一般的に知られている、1つ以上のアミノ酸ポリマー鎖を含む。「ポリペプチド」は、ペプチド結合を介して連結されたアミノ酸残基、関連する天然起源の構造バリアント、及びそれらの合成の非天然起源のアナログで構成されたポリマー、関連する天然起源の構造バリアント、並びにそれらの合成の非天然起源のアナログを指す。「合成ペプチド又はポリペプチド」は、非天然起源のペプチド又はポリペプチドを指す。合成ペプチド又はポリペプチドは、例えば、自動ポリペプチド合成装置を使用して合成され得る。様々な固相ペプチド合成方法が当業者に知られている。タンパク質は、単一の機能生体分子を形成するように、1つ又は複数のポリペプチドを含み得る。タンパク質は、抗体断片、ナノボディ、組換え抗体キメラ、サイトカイン、ケモカイン、ペプチドホルモンなどを含み得る。目的のタンパク質には、バイオ治療用タンパク質、研究又は療法において使用される組換えタンパク質、トラップタンパク質及び他のキメラ受容体Fc融合タンパク質、キメラタンパク質、抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、並びに二重特異性抗体のうちのいずれかが含まれ得る。タンパク質は、昆虫バキュロウイルスシステム、酵母システム(例えば、Pichia sp.)、哺乳動物システム(例えば、CHO細胞、及びCHO-K1細胞のようなCHO誘導体)などの、組換え細胞ベースの産生システムを使用して産生され得る。バイオ治療用タンパク質及びその産生を考察する最近の総説については、Ghaderi et al.,“Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation”(Darius Ghaderi et al.,Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation,28 BIOTECHNOLOGY AND GENETIC ENGINEERING REVIEWS 147-176(2012)(その教示全体が本明細書に組み込まれる))を参照されたい。タンパク質は、組成及び溶解性に基づいて分類され得、したがって、球状タンパク質及び線維状タンパク質などの単純タンパク質、核タンパク質、糖タンパク質、ムコタンパク質、色素タンパク質、リンタンパク質、金属タンパク質、及びリポタンパク質などの複合タンパク質、並びに一次誘導タンパク質及び二次誘導タンパク質などの誘導タンパク質を含み得る。
【0035】
いくつかの例示的な実施形態では、治療用タンパク質は、約1mg/mL、約2mg/mL、約3mg/mL、約4mg/mL、約5mg/mL、約6mg/mL、約7mg/mL、約8mg/mL、約9mg/mL、約10mg/mL、約15mg/mL、約20mg/mL、約25mg/mL、約30mg/mL、約35mg/mL、約40mg/mL、約45mg/mL、約50mg/mL、約55mg/mL、約60mg/mL、約65mg/mL、約70mg/mL、約75mg/mL、約80mg/mL、約85mg/mL、約90mg/mL、約95mg/mL、約100mg/mL、約110mg/mL、約120mg/mL、約130mg/mL、約140mg/mL、約150mg/mL、約160mg/mL、約170mg/mL、約180mg/mL、約190mg/mL、約200mg/mL、約225mg/mL、約250mg/mL、約275mg/mL、約300mg/mL、約325mg/mL、約350mg/mL、約375mg/mL、又は約400mg/mLで存在し得る。
【0036】
いくつかの例示的な実施形態では、治療用タンパク質は、組換えタンパク質、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、融合タンパク質、scFv及びそれらの組み合わせであり得る。
【0037】
本明細書で使用される場合、「組換えタンパク質」という用語は、好適な宿主細胞中に導入された組換え発現ベクター上に担持された遺伝子の転写及び翻訳の結果として産生されたタンパク質を指す。特定の例示的な実施形態では、組換えタンパク質は、抗体、例えば、キメラ、ヒト化、又は完全ヒト抗体であり得る。特定の例示的な実施形態では、組換えタンパク質は、以下からなる群から選択されるアイソタイプの抗体であり得る:IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgM、IgA1、IgA2、IgD、又はIgE。特定の例示的な実施形態では、抗体分子は、完全長抗体(例えば、IgG1又はIgG4免疫グロブリン)であるか、又は代替的には、抗体は、断片(例えば、Fc断片又はFab断片)であり得る。
【0038】
「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、ジスルフィド結合によって相互接続された4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子、並びにその多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVR又はVHと略される)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2及びCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVR又はVLと略される)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称される、より保存されている領域が散在した、相補性決定領域(CDR)と称される、超可変性の領域に更に細分化され得る。各VH及びVLは、アミノ末端からカルボキシ末端へ、以下の順序で配置された3つのCDR及び4つのFRで構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4。本発明の異なる実施形態では、抗big-ET-1抗体(又はその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であり得るか又は天然に若しくは人工的に改変され得る。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて規定され得る。「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、完全な抗体分子の抗原結合断片もまた含む。抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」などの用語は、本明細書で使用される場合、抗原に特異的に結合して、複合体を形成する任意の天然起源の、酵素的に取得され得る、合成の、又は遺伝子操作されたポリペプチド又は糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合断片は、例えば、完全な抗体分子から、任意の好適な標準的な技法、例えば、タンパク質分解消化、又は抗体の可変ドメイン及び任意選択的に定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を含む組換え遺伝子操作技法を使用して誘導され得る。そのようなDNAは、知られており、かつ/又は、例えば、商業的供給源、DNAライブラリ(例えば、ファージ抗体ライブラリを含む)から容易に入手可能であるか、又は合成され得る。DNAを、配列決定し、化学的に又は分子生物学技法を使用することによって操作して、例えば、1つ以上の可変ドメイン及び/若しくは定常ドメインを好適な構成に配置し得るか、又はコドンを導入し、システイン残基を作製し、アミノ酸を改変、付加、若しくは欠失などさせ得る。
【0039】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」は、例えば、抗体の抗原結合又は可変領域などの、インタクトな抗体の部分を含む。抗体断片の例としては、限定されないが、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、scFv断片、Fv断片、dsFvダイアボディ、dAb断片、Fd’断片、Fd断片、及び単離された相補性決定領域(CDR)領域、並びにトリアボディ、テトラボディ、線状抗体、単鎖抗体分子、及び抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられる。Fv断片は、免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の可変領域の組み合わせであり、ScFvタンパク質は、その中で免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖の可変領域がペプチドリンカーによって接続されている組換え単鎖ポリペプチド分子である。いくつかの例示的な実施形態では、抗体断片は、それが、親抗体が結合するのと同じ抗原に結合する断片である、いくつかの例示的な実施形態では、断片が、親抗体のものと比較可能な親和性で抗原に結合し、かつ/又は抗原への結合について親抗体と競合する、親抗体の十分なアミノ酸配列を含む。抗体断片は、任意の手段によって生成され得る。例えば、抗体断片は、インタクトな抗体の断片化によって酵素的又は化学的に生成され得、かつ/又はそれは部分抗体配列をコードする遺伝子から組換え的に生成され得る。代替的には、又は加えて、抗体断片は、全体的に又は部分的に合成的に生成され得る。抗体断片は、任意選択的に、単鎖抗体断片を含み得る。代替的には、又は加えて、抗体断片は、例えば、ジスルフィド結合によって、一緒に連結されている複数の鎖を含み得る。抗体断片は、任意選択的に、多分子複合体を含み得る。機能的抗体断片は、典型的には、少なくとも約50個のアミノ酸を含み、より典型的には、少なくとも約200個のアミノ酸を含む。
【0040】
「二重特異性抗体」という用語は、2つ以上のエピトープに選択的に結合することができる抗体を含む。二重特異性抗体は、一般的に、2つの異なる重鎖を含み、各重鎖は、2つの異なる分子(例えば、抗原)上又は同じ分子上(例えば、同じ抗原上)のいずれかの、異なるエピトープに特異的に結合する。二重特異性抗体が2つの異なるエピトープ(第1のエピトープ及び第2のエピトープ)に選択的に結合することができる場合、第1の重鎖の第1のエピトープに対する親和性は、一般的に、第1の重鎖の第2のエピトープに対する親和性よりも少なくとも1桁~2桁又は3桁又は4桁低く、逆もまた同様である。二重特異性抗体によって認識されるエピトープは、同じ又は異なる標的上(例えば、同じ又は異なるタンパク質上)にあり得る。二重特異性抗体は、例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖を組み合わせることによって作製され得る。例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖可変配列をコードする核酸配列は、異なる重鎖定常領域をコードする核酸配列に融合され得、そのような配列は、免疫グロブリン軽鎖を発現する細胞において発現させられ得る。
【0041】
典型的な二重特異性抗体は、各々が3つの重鎖CDRを有する2つの重鎖、続いて、CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン、及びCH3ドメイン、並びに免疫グロブリン軽鎖を有し、この免疫グロブリン軽鎖は、抗原結合特異性を付与しないが、各重鎖と会合し得るか、又は各重鎖と会合し得、かつ重鎖抗原結合領域によって結合されるエピトープのうちの1つ以上と結合し得るか、又は各重鎖と会合し得、かつ一方若しくは両方のエピトープへの重鎖のうちの一方若しくは両方の結合を可能にし得る。BsAbは、2つの主要なクラス、Fc領域を有するもの(IgG様)及びFc領域を欠くものに分けられ得、後者は、通常、Fcを含むIgG及びIgG様二重特異性分子よりも小さい。IgG様bsAbは、異なる形式、例えば、限定されないが、トリオマブ(triomab)、ノブズイントゥホールズIgG(knobs into holes IgG)(kih IgG)、クロスMab(crossMab)、オルト-Fab IgG(orth-Fab IgG)、二重可変ドメインIg(DVD-Ig)、ツーインワン(two-in-one)若しくは二重作用Fab(DAF)、IgG-単鎖Fv(IgG-scFv)、又はκλボディを有し得る。非IgG様の異なる形式には、タンデムscFv、ダイアボディ形式、単鎖ダイアボディ、タンデムダイアボディ(TandAb)、二重親和性再標的化分子(DART)、DART-Fc、ナノボディ、又はドックアンドロック(dock-and-lock)(DNL)方法によって生成された抗体が含まれる(Gaowei Fan,Zujian Wang & Mingju Hao,Bispecific antibodies and their applications,8 JOURNAL OF HEMATOLOGY & ONCOLOGY 130、Dafne Muller & Roland E.Kontermann,Bispecific Antibodies,HANDBOOK OF THERAPEUTIC ANTIBODIES 265-310(2014)(その教示全体が本明細書に組み込まれる))。
【0042】
本明細書で使用される場合、「多重特異性抗体」は、少なくとも2つの異なる抗原に対する結合特異性を有する抗体を指す。そのような分子は、通常、2つの抗原に結合するのみであるが(例えば、二重特異性抗体、bsAb)、三重特異性抗体及びKIH三重特異性などの追加の特異性を有する抗体もまた本明細書に開示される方法によって対処され得る。
【0043】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、ハイブリドーマ技法を通して産生される抗体に限定されない。モノクローナル抗体は、当技術分野において利用可能であるか又は知られている任意の手段によって、任意の真核生物、原核生物、又はファージクローンを含む、単一クローンに由来し得る。本開示で有用なモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、及びファージディスプレイ技法、又はそれらの組み合わせの使用を含む、当技術分野において知られている多種多様の技法を使用して調製され得る。
【0044】
いくつかの例示的な実施形態では、治療用タンパク質は、哺乳動物細胞から産生され得る。哺乳動物細胞は、ヒト起源又は非ヒト起源のものであり得、初代上皮細胞(例えば、ケラチノサイト、子宮頸部上皮細胞、気管支上皮細胞、気管上皮細胞、腎臓上皮細胞及び網膜上皮細胞)、樹立細胞株及びそれらの株(例えば、293胚性腎臓細胞、BHK細胞、HeLa子宮頸部上皮細胞及びPER-C6網膜細胞、MDBK(NBL-1)細胞、911細胞、CRFK細胞、MDCK細胞、CHO細胞、BeWo細胞、Chang細胞、Detroit 562細胞、HeLa 229細胞、HeLa S3細胞、Hep-2細胞、KB細胞、LSI80細胞、LS174T細胞、NCI-H-548細胞、RPMI2650細胞、SW-13細胞、T24細胞、WI-28 VA13、2RA細胞、WISH細胞、BS-C-I細胞、LLC-MK2細胞、Clone M-3細胞、1-10細胞、RAG細胞、TCMK-1細胞、Y-l細胞、LLC-PKi細胞、PK(15)細胞、GHi細胞、GH3細胞、L2細胞、LLC-RC 256細胞、MHiCi細胞、XC細胞、MDOK細胞、VSW細胞、及びTH-I、B1細胞、BSC-1細胞、RAf細胞、RK-細胞、PK-15細胞又はそれらの誘導体)、任意の組織又は器官からの線維芽細胞(限定されないが、以下を含む:心臓、肝臓、腎臓、結腸、腸、食道,胃、神経組織(脳、脊髄)、肺、血管組織(動脈、静脈、毛細血管)、リンパ組織(リンパ腺、アデノイド、扁桃、骨髄、及び血液)、脾臓、並びに線維芽細胞及び線維芽細胞様細胞株(例えば、CHO細胞、TRG-2細胞、IMR-33細胞、Don細胞、GHK-21細胞、シトルリン血症細胞、Dempsey細胞、Detroit 551細胞、Detroit 510細胞、Detroit 525細胞、Detroit 529細胞、Detroit 532細胞、Detroit 539細胞、Detroit 548細胞、Detroit 573細胞、HEL 299細胞、IMR-90細胞、MRC-5細胞、WI-38細胞、WI-26細胞、Midi細胞、CHO細胞、CV-1細胞、COS-1細胞、COS-3細胞、COS-7細胞、Vero細胞、DBS-FrhL-2細胞、BALB/3T3細胞、F9細胞、SV-T2細胞、M-MSV-BALB/3T3細胞、K-BALB細胞、BLO-11細胞、NOR-10細胞、C3H/IOTI/2細胞、HSDMiC3細胞、KLN205細胞、McCoy細胞、マウスL細胞、Strain 2071(マウスL)細胞、L-M株(マウスL)細胞、L-MTK’(マウスL)細胞、NCTCクローン2472及び2555、SCC-PSA1細胞、Swiss/3T3細胞、インドキョン細胞、SIRC細胞、Cn細胞、並びにJensen細胞、Sp2/0、NS0、NS1細胞又はそれらの誘導体)を含み得る。
【0045】
本明細書で使用される場合、「消化」という用語は、タンパク質の1つ以上のペプチド結合の加水分解を指す。消化は、NMRのための試料の調製において使用され得る。消化を使用することの利点は、分析物のサイズを低減させることであり、これは、その分析物についてのNMRシグナルを比例的に増加させる。特に、抗体に関して、抗体のサブドメインは互いに独立して折り畳み得、したがって、サブドメインを互いから切断することは、タンパク質構造における重大な変化なしにシグナルの増強の利益を提供する。同位体標識も濃縮もなしに特定の断片化されたサブドメインへのNMRシグナルの帰属を容易にすることにおける、断片化に対する追加の利益が存在し得る。
【0046】
適切な加水分解剤を使用して試料中のタンパク質の消化を実施することへのいくつかのアプローチ、例えば、酵素消化又は非酵素消化が存在する。本明細書で使用される場合、「消化酵素」という用語は、タンパク質の消化を行い得る多数の異なる薬剤のうちのいずれかを指す。酵素消化を実施し得る加水分解剤の非限定的な例としては、Aspergillus Saitoiからのプロテアーゼ、エラスターゼ、サブチリシン、プロテアーゼXIII、ペプシン、トリプシン、Tryp-N、キモトリプシン、アスペルギロペプシンI、LysNプロテアーゼ(Lys-N)、LysCエンドプロテイナーゼ(Lys-C)、エンドプロテイナーゼAsp-N(Asp-N)、エンドプロテイナーゼArg-C(Arg-C)、エンドプロテイナーゼGlu-C(Glu-C)又は外膜タンパク質T(OmpT)、化膿連鎖球菌の免疫グロブリン分解酵素(IdeS)、サーモリシン、パパイン、プロナーゼ、V8プロテアーゼ又はそれらの生物学的に活性な断片若しくはホモログ又はそれらの組み合わせが挙げられる。タンパク質消化のために利用可能な技法を考察する最近の総説については、Switazar et al.,“Protein Digestion:An Overview of the Available Techniques and Recent Developments”(Linda Switzar,Martin Giera & Wilfried M.A.Niessen,Protein Digestion:An Overview of the Available Techniques and Recent Developments,12 JOURNAL OF PROTEOME RESEARCH 1067-1077(2013))を参照されたい。例示的な実施形態では、消化酵素は、IdeS、又はIdeSのバリアントである。
【0047】
治療用製剤は、NMR分析における使用に好適でない成分を含み得る。例えば、水素原子を含む賦形剤又は緩衝剤は、タンパク質分析物の検出に干渉する望ましくないNMRシグナルを生成し得る。そのような場合、タンパク質分析物を好適な緩衝液に移すために、緩衝液交換又は透析ステップが使用され得る。例示的な実施形態では、分析物は、pH6.0の10mMリン酸ナトリウムを含む緩衝液中に透析される。
【0048】
本明細書で使用される場合、「核磁気共鳴」(「NMR」)という用語は、原子核の周囲の局所磁場を観察するために使用される技法である、核磁気共鳴分光法を指す。NMRシグナルは、ラジオ波での分析物試料の核の核磁気共鳴への励起によって生成され、これは、次いで、ラジオレシーバーを用いて検出される。取得されたNMRスペクトルは、分析物分子の構造、動力学、反応状態、及び化学的環境に関する情報を提供する。分析物及び所望のデータに応じて選択され得る種々の異なるNMR技法が存在する。タンパク質分析に関連するNMR技法には、例えば、1D H方法、2D H-H方法、並びに2D H-X異種核相関方法(2D 13C-H及び2D 15N-H方法を含む)が含まれる。例示的な実施形態では、製造プロセスを比較するために使用されるNMR方法は、2D 13C-H方法である。
【0049】
2D異種核NMRの分野内には、異種核単一量子相関(HSQC)、異種核多量子相関分光法(HMQC)、及び異種核多重結合相関分光法(HMBC)を含む、代替の方法のサブセットが存在する。別段示さない限り、本明細書に開示される実験は、HSQCを用いる。しかしながら、開示される方法はまた、HMQC又はHMBCを使用することを含む任意のタイプの多次元NMR実験に適用され得る。
【0050】
NMRスペクトルは、各スペクトルに固有の豊富なデータセットを更に解釈するために、追加の分析に供され得る。本明細書で使用される場合、「データ処理」、「データ後処理」、又は「計量化学」という用語は、獲得後のNMRデータの分析のための方法を記載するために使用される。データ処理を容易にするために使用され得るいくつかのソフトウェアプログラム、例えば、JMP 15(SAS Institute,Inc.)又はMATLAB(Mathworks)が存在する。大規模データセットを操作することができる任意の好適なソフトウェアが選択され得る。
【0051】
NMRデータは、例えば、ECHOS-NMR(easy comparability of higher order structure by NMR(NMRによる高次構造の容易なコンパラビリティ))を使用して更に分析され得る(Amezcua et al.,2013,J Pharm Sci,102(6):1724-1733)。ECHOS-NMRは、ビニングされたNMRスペクトル強度の線形回帰分析から導かれる相関係数を測定することによって、2つの実験試料の間の類似性を比較することを含む。この方法は、同位体標識も濃縮も必要とせずに、2つの分析物の間の全体的類似性の直接的な相対比較を行うことを可能にする。例示的な実施形態では、ECHOS-NMRの方法は更に、2つの製造プロセスからの平均化されたスペクトルに適用され、したがって、2つの試料の代わりに2つのプロセスを比較するために使用される。
【0052】
大規模データセットの分析のための一般的な統計的方法は、主成分分析(PCA)である。PCAは、可能な限り多くのデータの変動を保ちながらより低次元のデータを得るために、最も高い分散を有するデータセットの次元を表す最初のいくつかの主成分のみに各データポイントを投影することによる、次元削減のために一般に使用される。主成分は、データ共分散行列の固有値分解によって計算され得る。例示的な実施形態では、PCAプロット上の各データポイントは、NMRスペクトルを表す。例示的な実施形態では、PCAプロット上のデータポイントは、分析物抗体の製造プロセスに従ってクラスター化され得る。例示的な実施形態では、これらのクラスターは、各製造プロセスの分散を他と比較するために、追加の統計分析に供され得る。
【0053】
ECHOS-NMR又はPCAは、NMR分析物の的確な化学構造から抽出されるが、これらの、又は他の、統計的方法を使用して検出されたNMRスペクトルの間の統計的差異又は分散は、各々の差異又は変動の特定の化学的な根源を決定するために、代替の分析方法を用いて相関させられ得る。
【0054】
本発明は、前述のタンパク質、抗体、NMR技法、消化酵素、データ処理方法、又はデータ後処理方法のうちのいずれかに限定されず、任意のタンパク質、抗体、NMR技法、消化酵素、データ処理方法、又はデータ後処理方法が、任意の好適な手段によって選択され得ることが理解される。
【0055】
本発明は、以下の実施例を参照することによってより完全に理解される。しかしながら、それは、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0056】
試料調製。NMR実験を、2つの異なる製造プロセス、プロセス1及びプロセス2を使用して製造したmAb1及びmAb2ロット試料を用いて行った。mAb1及びmAb2ロット試料を、固定化IdeS(Genovis FragITカラム)を用いてインサイチュで消化し、10mMリン酸ナトリウム、pH6.0中に透析し、NMR実験のために40mg/mLに濃縮した。
【0057】
NMRデータ収集。一次元H及び二次元13C/H NMRスペクトルを、45℃の低温冷却したプローブを使用して、800MHz(1H周波数)で動作するBruker分光計上で、標準的なBrukerパルスシーケンス(zgesgp、又は勾配を用いた励起スカルプティングを使用する水抑制を伴う1Dシーケンス、及びhsqcetgpsp、又はEcho/Antiecho-TPPI勾配選択を使用する二重inept移動、位相感応型を介する2D H-1/X相関)を使用して取得した。二次元スペクトルを、50%不均一サンプリングを用いて収集した。
【0058】
NMRデータ処理及び後処理。一次元H及び二次元13C/H NMRスペクトルを、NMRFx Processor(One Moon Scientific,Inc)を使用して処理し、生スペクトル強度をエクスポートし、次いで、JMP 15(SAS Institute,Inc)中にインポートした。プロセス間比較のために、各プロセスからの代表的なロット/試料について収集したスペクトルを、NMRFx処理後に平均化して、各プロセスを表す平均スペクトルを生成した。次いで、これらの平均スペクトルを、直接的に収集したデータと同じく処理し得る。
【0059】
一次元スペクトルを、スペクトル全体として、又はアミド(6.0~11.5ppm H)及び脂肪族(-1.0~3.5ppm H)領域に分解してのいずれかで分析した。一次元スペクトルに対してノイズ除去又は正規化を行わなかった。
【0060】
二次元スペクトルを、ビニング、ノイズ除去、及び正規化に供した。二次元スペクトルを、H次元における幅0.054ppm及び13C次元における高さ0.406ppmのビンに分割し(なぜなら、これが、各メチルピークのおおよそのサイズであるからである)、各ビン内のシグナルを平均化した。ノイズを除去するために、経験的に決定された「ノイズ領域」(-1.5~-1.0ppm H)におけるシグナル強度の標準偏差を計算し、次いで、そのノイズ閾値の2倍を下回るシグナルを有する全てのビンをゼロに設定した。これはまた、この実験において予想されていない、全ての負のシグナルをゼロに設定する目的にかなった。最後に、濃度のささいな変動を説明するために、メチル領域(-1.0~2.5ppm H、10.8~28ppm 13C)内のビンを、その領域における最も高い強度のビンに対して正規化した。
【0061】
NMRデータ分析。後処理後の、一次元H及び二次元13C/H NMRスペクトルを表すベクトルを、ECHOS-NMR又はPCA分析のいずれかを使用して比較した。
【0062】
ECHOS-NMRのために、2つのスペクトルを表すベクトルを、JMP 15において直接的に相関させた。R値(高は類似性を示す)、RMSE(低は差異の欠如を示す)、及び%CV(変動係数、これは、平均シグナルによってスケーリングされたRMSEであり、低は差異の欠如を示す)を、各ペアワイズ比較について報告した。二次元データセットのために、それにおいて比較される両方のデータセットについて強度がゼロであったポイントを、ECHOS-NMR分析から除外した。
【0063】
PCAのために、いくつかのスペクトル(例えば、2つのプロセスからのいくつかの代表的なスペクトル)を表すベクトルを、JMP 15中に実装された主成分プラットフォームを使用し、ペアワイズ推定方法を使用し、共分散に基づいて作成された主成分について分析した。PCAの間に、データセット間で変動のないビンを分析から外した。
【0064】
いくつかのグループ(例えば、異なる製造プロセス)の比較のために、上位2つの主成分のスコアを互いに対してプロットし、比較されるカテゴリによってグループ化された95%信頼密度の楕円をプロットした。楕円の平均及び標準偏差を、グループの統計的比較(t検定)のために使用し得るか、又は視覚的検査のためにプロットし得、これは、コンパラビリティ又はコンパラビリティの欠如の発見をもたらす。
【0065】
それにおいてグループ間で関連する差異が観察される主成分を、差異の根源について更に分析し得る。目的の主成分についての負荷量(スペクトルビンを主成分に変換する係数)を、元のスペクトル化学シフト軸上に等高線プロットとしてプロットし得、これは、この主成分に沿って差異に強く寄与する領域を示す「仮想スペクトル」をもたらす。1つの主成分に沿って分離されている2つのクラスター/プロセスの場合、この負荷量プロットは、2つのグループの差異スペクトルを本質的に再現し、分析物に対して高分解能で差異が正確に示されることを可能にする。
【0066】
実施例1.NMR方法の改善
従来のNMR方法を、抗体高次構造(HOS)の定量分析のために改良した。
【0067】
NMR分析のための抗体の調製において、より高いNMRシグナル及びより高い分解能の分析のためのより小さな断片を生成するために、抗体を消化酵素によって消化し得る。NMR分析のための抗体の従来の消化は、消化酵素として、例えば、パパインを使用し得、これは、抗体を非特異的部位で消化し、おおよそ50、50及び50kDaの抗体断片を生成する。本分析のために、酵素IdeSを使用した。IdeS、及び関連酵素は、ヒンジ領域の下の特異的で予測可能な抗体部位を切断し、従来の方法と比べて、実験間のより高いコンパラビリティを可能にする。加えて、IdeSは、おおよそ100、25及び25kDaの抗体断片を生成し、これは、分析物サイズにつれて変動する、NMRシグナルの質及び強度の点で特有の結果を提供する。消化がmAbのスペクトル分散に重大な影響を及ぼさないように留意した。
【0068】
NMRデータの後処理分析のために、新規なノイズ低減方法を試験し、用いた。例えば、二次元13C/H NMRスペクトルにおける、大きな領域が、タンパク質分析物からのシグナルを含まず、もっぱらノイズを含み得る。後続の分析にこのノイズを含めることは、例えば、ECHOS-NMR又はPCAを使用する相関を歪め得る。
【0069】
ノイズ排除及びシグナル正規化を含む、NMRデータ分析の例示的な方法を、図1に示す。生データを、図1Aに示すように集め、図1Bに示すようにビニングした。分析物からのシグナルを含まない「空の」領域を図1Cに示すように選択し、ノイズ閾値を、図1Dに示すように、この領域からの値の標準偏差に基づいて設定した。次いで、図1Eに示すように、調整された強度を計算し、適用して、このノイズを除外し、NMRスペクトルを単純化した。この新規なノイズ除去プロセスは、NMRデータのより精確な定量分析を可能にし、これを下記の実験のために使用した。
【0070】
実験間の技術的変動について管理するために、シグナル強度の正規化を行った。図1F及び図1Gに示すように、目的の領域を特定し、単離した。図1Hに示すように、スペクトル間の定量的比較を容易にするために、目的の領域内のビンの強度を、目的の領域の、最も高い強度のビンに対して正規化した。
【0071】
図1I及び図1Jに示すように、前のステップからの、調整され、正規化された強度を使用して、スペクトルのシグナル領域を、スペクトルのノイズ領域から分離し得た。
【0072】
実施例2.mAb製造におけるプロセス変動性の評価
2つのモノクローナル抗体、mAb1及びmAb2を、2つの異なるプロセス、プロセス1及びプロセス2を使用して各々製造した。抗体高次構造(HOS)の点で両方のプロセスのプロセス変動性を分析するために、新規なNMR技法を開発した。
【0073】
プロセス1及びプロセス2に従って製造した3ロットのmAb1及びmAb2を、上記のように、NMRを使用して分析した。各プロセスについての各抗体についての13C/Hスペクトルを、図2に示すように、平均化し、重ね合わせた。プロセス1からのスペクトルを黒で示し、プロセス2からのスペクトルを赤で示す。重ね合わされた平均化されたスペクトルは、プロセス間でほとんど変動が存在しないことを示す。スペクトルの平均化及び重ね合わせのこの方法は、抗体HOSにおけるプロセス変動性の容易な視覚的分析を可能にする。各プロセスについての各抗体についてのNMRスペクトルを平均化することは、ロット間変動の小さな効果を除去し、各プロセスについての部位間の有意差の分析を可能にする。
【0074】
製造プロセス間の更なる比較を、ECHOS-NMRを使用して実施した。各プロセスについての各抗体についての平均化されたスペクトルを、図3に示すように相関させた。両方の抗体について、2つの製造プロセスは、決定係数(R)及び二乗平均平方根誤差(RMSE)の両方によって測定したところ、高度に比較可能であった。mAb2のためのプロセスは、おそらくより比較可能であった。ECHOS-NMR分析のための平均化されたスペクトルの使用は、製造プロセス間の堅牢な比較を可能にし、これは、いかなるロット間変動性をも補償する。
【0075】
プロセス変動性の追加の分析を、PCAを使用して行った。図4Aに示すように、各プロセスについての各抗体についての代表的なスペクトルを、上位2つの主成分のスコアに基づいて互いに対してプロットした。製造プロセスによってグループ化された95%信頼密度の楕円(「クラスター」)をプロットした。この分析は、プロセス間及びプロセス内の両方の可視的な変動を与え、単一のロット間比較と比べて、潜在的な品質管理関連性を有する抗体HOS変動のより詳細な理解を可能にする。図4A及び4Bに示す例において、このPCA分析は、mAb1について、各成分における相関が、各プロセスの間で一貫性があるようであることを明らかにする。対照的に、mAb2について、プロセス1についてのコンポーネント1は、プロセス2についてよりも変動性であるようであり、一方、プロセス2についてのコンポーネント2は、プロセス1についてよりも変動性であるようである。図4B及び4Cはまた、スペクトル類似性数に加えて分散ブレークダウンを示す。
【0076】
このPCA分析からのデータを、図4Dに示すように、上記で確立された各製造プロセスからのNMRスペクトルのクラスターの統計分析を使用して更に調べ得る。プロセス変動性を、様々な方法で、例えば、PCAプロット上のスペクトル値の平均又は標準的な変動をとることによって、定量化及び比較し得る。この分析は、タンパク質製造プロセス間の変動性を比較するための単純な定量的方法を提供する。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図1J
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
【国際調査報告】