(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】SCRシステムをクリーニングするための添加剤
(51)【国際特許分類】
B01D 53/94 20060101AFI20240711BHJP
C11D 1/75 20060101ALI20240711BHJP
C11D 7/12 20060101ALI20240711BHJP
C11D 1/68 20060101ALI20240711BHJP
C11D 7/26 20060101ALI20240711BHJP
C11D 7/32 20060101ALI20240711BHJP
C10L 1/185 20060101ALI20240711BHJP
C10L 1/182 20060101ALI20240711BHJP
C10L 1/19 20060101ALI20240711BHJP
C10L 1/192 20060101ALI20240711BHJP
C10L 1/222 20060101ALI20240711BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20240711BHJP
B01J 38/50 20060101ALI20240711BHJP
B01J 37/06 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
B01D53/94 400
C11D1/75
C11D7/12
C11D1/68
C11D7/26
C11D7/32
C10L1/185
C10L1/182
C10L1/19
C10L1/192
C10L1/222
F01N3/08 B
B01J38/50
B01J37/06
B01D53/94 222
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580894
(86)(22)【出願日】2022-07-04
(85)【翻訳文提出日】2024-02-02
(86)【国際出願番号】 EP2022068471
(87)【国際公開番号】W WO2023280786
(87)【国際公開日】2023-01-12
(32)【優先日】2021-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519051322
【氏名又は名称】トゥーナップ ゲーエムベーハー ウント コー. カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ノシグ、ヴォルカー
(72)【発明者】
【氏名】ランゲ、アレックス
(72)【発明者】
【氏名】パウリツチェク、セルゲジ
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
4G169
4H003
4H013
【Fターム(参考)】
3G091AB05
3G091BA07
3G091CA17
4D148AA06
4D148AB02
4D148AC03
4D148CC61
4D148DA03
4D148DA09
4D148DA20
4G169AA08
4G169AA10
4G169CA08
4G169CA13
4G169DA06
4G169FB27
4G169FC04
4G169FC10
4G169GA10
4H003AC05
4H003AC15
4H003DA09
4H003DB01
4H003EB04
4H003EB06
4H003EB14
4H003EB18
4H003EB36
4H013CC02
4H013CD05
4H013CD06
4H013CE03
(57)【要約】
本発明は、選択式触媒還元システムにおける堆積物または不純物を除去するために200℃超でアンモニアを放出する成分を含む溶液に対する添加剤としての極性溶剤の使用に関し、極性溶剤は、101.3kPaにおける沸点が少なくとも140℃である。本発明は、さらに選択式触媒還元システムにおける堆積物または不純物の除去方法と選択式触媒還元システムの運転方法とに関する。本発明は、さらに選択式触媒還元システムにおける堆積物または不純物の除去方法に関し、当該システムを200℃超でアンモニアを放出する成分を含む溶液を用いて運転し、溶液は、さらに101.3kPaにおける沸点が少なくとも140℃である極性溶剤を含む。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択式触媒還元システムにおける堆積物または不純物を除去するために200℃超でアンモニアを放出する成分を含む溶液に対する添加剤としての極性溶剤の使用であって、前記極性溶剤は、101.3kPaにおける沸点が少なくとも140℃である使用。
【請求項2】
前記極性溶剤は、少なくとも5×10
-30Cmの電気双極子モーメントを有する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記極性溶剤は、相、濁りまたはエマルジョンが形成されることなく10ppmから50重量%の濃度範囲において水と混合可能である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
温度20℃において水および32.5重量%の尿素と100ppmの前記極性溶剤とからなる溶液の表面量力が少なくとも55mN/m、特に少なくとも65mN/mであるように構成されている、前項のうちいずれか一つに記載の使用。
【請求項5】
前記極性溶剤は、アミンオキシド、有機カーボネート、カルボン酸とサルコシンの縮合生成物、グルコシド、ポリアルキレングリコール、グリコールエーテル、アルコール、アミノアルコールおよびこれらの混合物からなる群から選択される、前項のうちいずれか一つに記載の使用。
【請求項6】
前記極性溶剤は、N,N-ジメチルデシルアミン-N-オキシド、プロピレンカーボネート、ポリエチレングリコール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、トリエタノールアミンおよびこれらの混合物からなる群から選択される、前項のうちいずれか一つに記載の使用。
【請求項7】
前記極性溶剤は、101.3kPaにおける沸点が少なくとも160℃であり、特に少なくとも180℃である、前項のうちいずれか一つに記載の使用。
【請求項8】
200℃超においてアンモニアを放出する成分を含む前記溶液は、10から5000ppmの量の前記極性溶剤を含む、前項のうちいずれか一つに記載の使用。
【請求項9】
200℃超においてアンモニアを放出する前記成分は、尿素またはその誘導体を含んでなる、前項のうちいずれか一つに記載の使用。
【請求項10】
200℃超においてアンモニアを放出する成分を含む前記溶液は、尿素水溶液であり、特に31から34重量%の尿素の濃度を有する、前項のうちいずれか一つに記載の使用。
【請求項11】
選択式触媒還元システムにおける堆積物または不純物の除去方法であって、前記システムを200℃超でアンモニアを放出する成分を含む溶液を用いて運転し、前記溶液は、さらに101.3kPaにおける沸点が少なくとも140℃である極性溶剤を含む除去方法。
【請求項12】
選択式触媒還元システムの運転方法であって、前記方法は以下の、
前記システムに対して200℃超でアンモニアを放出する成分を含み、さらに101.3kPaにおける沸点が少なくとも140℃である極性溶剤を含む溶液を注入する段階、および
前記溶液を前記システムにおいて200℃超の温度に加熱する段階
を含んでなる、運転方法。
【請求項13】
前記極性溶剤は、請求項2から7のうちいずれか一つのように規定されている、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
200℃超においてアンモニアを放出する成分を含む前記溶液は、10から5000ppmの量の前記極性溶剤を含む、請求項11から13のうちいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択式触媒還元システムにおける堆積物または不純物を除去するためにアンモニア放出溶液への添加剤としての極性溶剤の使用、選択式触媒還元システムにおける堆積物または不純物の除去方法および選択式触媒還元システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関が引き起こす大きな問題の一つに窒素酸化物(NOx)の排出がある。EUレベルではNOxの総排出量を削減するための最低限の義務がNEC指令(EU2016/2284)において規定されている。当該指令では、2020年には2005年比で39%、また2030年までに65%の削減を定めている。当該値を達成するためにはNOxを排出する全ての分野からの大きな貢献を強制的に必要とする。内燃機関にとっては選択式触媒還元システム(SCRシステム)を使用する必要があることを意味する。ここでは使用温度下において化合物(通常は尿素)からアンモニアを分離または別の方法で放出し、当該アンモニアは、媒体材料においてNOxと反応して窒素(N2)と水とになる。媒体材料は、使用温度に応じて通常はバナジウムベースまたはゼロライトベースの材料からなる。
【0003】
内燃機関におけるSCRシステムの主な適用分野は、自動車、商用車、鉄道車両および船舶におけるディーゼルエンジンである。通常、用いられるのは尿素溶液である。海洋分野における尿素濃度は、40%(ISO18611)、その他の各分野においては32.5%の尿素(DIN70070またはISO22241)である。当該各規格において尿素含有量に加えてどのような不純物がどれぐらいの量において含まれていてもいいのか、例えばISO22241によると少なくとも65mN/mでなければならない、20℃における表面張力などの様々なその他の各物理化学的パラメータなど、輸送と製造とに関する記述がある。自動車については特にドイツ自動車工業会(VDA)の商品名あるいは商標であるAdBlue(登録商標)が定着している。標準化は、当該標準溶液を消費者に安価で提供することが可能であるという利点を有し、他方では各パラメータと各含有物質とがよく記述されているため様々なSCR構造において触媒被毒や誤作動が生じ得ない。
【0004】
尿素は、SCRシステムでは触媒において第一段階でアンモニア(NH3)とイソシアン酸(HNCO)に分解される。当該イソシアン酸は、さらに水と反応してアンモニアとCO2となる。生成されたアンモニアは、さらに排ガスから除去される窒素酸化物と反応して窒素と水、すなわち無害である物質となる。SCRシステムの様々な箇所における形状、液滴分布、滞留時間および温度によっては望ましくない堆積物につながるイソシアン酸の副反応が生じる可能性がある。尿素またはイソシアン酸の一般的な副生成物または分解生成物にはビウレット、シアヌル酸、アンメリド、アンメリンおよびメラミンが含まれる。尿素分解の副反応による堆積物の形成は、各使用条件(外気温、運転/負荷/運動プロファイル)に依存し、観察されることは比較的少ない。通常、正常運転ではシステムがメンテナンスフリーであるように構成されている。
【0005】
しかしながら堆積物形成が開始される場合、このことは様々な箇所におけるSCR媒体の表面変化のつながり、ひいては媒体、よってSCRシステム全体の効率を低下させる。最悪の場合、故障が発生し、排ガス値が基準を満たさなくなり、車両/機械の使用を停止しなければならない。そうすると複雑なクリーニングや部品交換ですら必要になることがある。これによりクリーニングまたは部品交換および必要な代替車両または代替機械による多大なコストと資源の浪費につながる。
【0006】
文献には様々な解決策が記載されているが、全ては連続使用の場合に堆積物の生成を低減または抑制すること(いわゆるキープクリーン・アプローチ)に基づいている。
【0007】
国際出願第94/08893号において表面活性物質を添加することにより注入された尿素溶液の粒子径を小さくし得る方法が記載されている。これにより堆積物形成を減少することを意図している。記載されているのは多数のアニオン性、カチオン性、非イオン性の表面活性化合物であるものの、焦点はアルコールエトキシレートに置かれている。
【0008】
国際出願第2008/125745A2号において特にシアヌル酸ベースの堆積物の形成を低減するためにアンモニア放出溶液に対するHLB値が7から17である「多機能性」物質の添加が記載されている。
【0009】
欧州特許出願第2337625B1号において2つの異なる強度においてエトキシル化されたアルコールからなる混合物も同様に注入された尿素溶液の粒子径を小さくし得て同時に低温での濁り(溶解性の問題)が形成されない方法が記載されている。
【0010】
欧州特許出願第2488283B1号において炭化水素鎖とエトキシル化部分とからなる添加剤の添加が記載されている。当該添加剤もまたSCR媒体における32.5%尿素溶液からなる、詳述はされていない堆積物の形成を低減することを意図している。
【0011】
しかしながらこれらの各提案は、全てキープクリーン・アプローチ、すなわち新しい堆積物の生成を回避することに基づいているため、前述の各添加剤を尿素溶液に対して運転中に可能な限り恒久的に添加する必要があり、よって例えばAdBlue(登録商標)のような安価な標準化された尿素水溶液の使用は不可能である。
【0012】
文献に記載されている各問題解決策は、さらに表面張力を大幅に低下させる表面活性物質の使用に基づいている。これにより一方ではすぐに発泡形成に、他方ではISO規格22241に規定される20℃における65mN/mの表面張力が部分的に大幅に下回ることにつながる。いずれも詳細な構造によってはSCR媒体の信頼できる機能を危うくする。発泡形成は、特に圧縮空気ベースの注入システムにおいて大きな問題につながる可能性がある。
【0013】
よって先行技術における前述の各問題および各欠点を克服するニーズがあると考えられる。特に(AdBlue(登録商標)のような)アンモニア放出溶液に対する添加剤であって、ディーゼル燃料内燃機関の排気ガスの選択式触媒還元システムにおける既存の堆積物または不純物を除去することが可能であるため、添加物を恒久的ではなく必要な場合、特に汚染が既に存在する場合にのみ添加する必要があるような添加物が必要とされると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
よって本発明は、ディーゼル燃料内燃機関の排気ガスの選択式触媒還元システムにおける(既存の)堆積物または不純物を除去するための(AdBlue(登録商標)のような)アンモニア放出溶液に対する添加剤を提供することを課題とする。
【0015】
このようないわゆるクリーンアップ・アプローチ、すなわち既存の堆積物または不純物の除去は、車両または機械の運転を停止する必要もまたSCRシステムまたはその一部を交換する必要もなく既に汚染されたSCRシステムのクリーニングを実施することを可能にする。またこのような添加剤をアンモニア放出溶液に対して恒久的に添加する必要もなく、ほとんどの時間に亘ってSCRシステムをAdBlue(登録商標)のような安価で標準化された尿素水溶液を用いて運転することが可能であり、SCRシステムにおいて不純物が発生または形成された時点で例えば尿素溶液に添加することによりクリーンアップ添加剤を使用するだけでいい。同時に改質溶液の表面張力と発泡挙動は、元の尿素溶液の挙動にできる限り近く、各基準値を満たすべきである。当該添加剤は、加えてAdBlue(登録商標)のような市販の尿素溶液に対して低濃度でも高濃度でも良好な溶解性を有し、当該溶液内において長期安定性を有するべきである。
【0016】
本発明の発明者らは、当該問題を解決するために広範な研究を実施した。驚くべきことに既存の堆積物または不純物の除去に関して表面張力の低下は全くあるいは従属的な役割しか果たさないことが明らかとなった。したがってクリーンアップ処理において界面活性剤特性を有する物質を添加することは必要ではなく、むしろこれに伴う発泡挙動のため不利である。
【0017】
むしろ前述の目的および課題を解決するには比較的高い沸点を有する特殊な極性溶剤が適した添加剤であることが証明されており、加えて当該各極性溶剤をSCRシステムにおける既存の堆積物または不純物の効果的な除去を確実にするには(AdBlue(登録商標)のような)アンモニア放出溶液に対して比較的少量添加するだけでよい。
【課題を解決するための手段】
【0018】
したがって本発明は、(ディーゼル燃料内燃機関の)選択式触媒還元システムにおける(既存の)堆積物または不純物を除去するために200℃超でアンモニアを放出する成分を含む溶液に対する添加剤としての極性溶剤の使用に関し、極性溶剤は、101.3kPaにおける沸点(沸騰温度)が少なくとも140℃である。
【0019】
本発明は、さらに((ディーゼル燃料内燃機関の)排気ガスの)選択式触媒還元システムにおける堆積物または不純物の除去方法に関し、当該システムを200℃超でアンモニアを放出する成分を含む溶液を用いて運転し、溶液は、さらに101.3kPaにおける沸点が少なくとも140℃である極性溶剤を含む。
【0020】
本発明は、さらに((ディーゼル燃料内燃機関の)排気ガスの)選択式触媒還元システムの運転方法に関し、当該方法は、システムに対して200℃超でアンモニアを放出する成分を含み、さらに101.3kPaにおける沸点が少なくとも140℃である極性溶剤を含む溶液を注入する段階と溶液をシステムにおいて200℃超の温度に加熱する段階とを含んでなる。
【0021】
本発明の各実施形態のさらなる課題および利点は、詳細な説明と添付された各図面とより明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】本発明による添加剤を尿素溶液に添加する前のSCRシステムの各写真である。
【
図1B】本発明による添加剤を尿素溶液に添加した後のSCRシステムの各写真である。
【
図2】本発明による添加剤の添加量に対するAdBlue(登録商標)尿素溶液の表面張力の依存性に関する試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のさらなる詳細とさらなる各実施形態例を以下に説明する。しかしながら本発明は、以下の詳細な説明に限定されるものではなく、当該説明は、本発明の教示を単に例示するものである。
【0024】
なお、一つの例示的な実施形態に関連して説明される各特徴を任意の他の例示的な実施形態と組み合わせることが可能である。特に明示的に別段の記載がない限り、本発明による使用に関する例示的な実施形態に関連して説明される各特徴を本発明による使用に関する任意の他の例示的な実施形態および本発明による方法に関する任意の例示的な実施形態と組み合わせることが可能であり、逆もまた然りである。
【0025】
用語が例えば「男性不定冠詞」「女性不定冠詞」「中性不定冠詞」「男性定冠詞」「女性定冠詞」「中性定冠詞」などの不定冠詞または定冠詞とともに単数形で記述される場合、明示的に別段の記載がない限り、複数形の用語も含まれるものであり、逆もまた然りである。本明細書において使用する「有する」または「含んでなる」などの各表現は、「包含する」「含む」の意味を含むだけではなく「~からなる」および「本質的に~からなる」をも意味することがあり得る。
【0026】
第1の態様において本発明は、選択式触媒還元システム(SCRシステム)における堆積物または不純物を除去するために200℃超でアンモニアを放出する成分を含む溶液に対する(クリーンアップ)添加剤としての極性溶剤の使用に関する。
【0027】
本明細書において使用する「クリーンアップ」という表現は、「キープクリーン」、すなわち新しい堆積物または不純物の生成を防止することとは対照的に、特に既存のまたは既に生じている堆積物または不純物の除去を意味する。
【0028】
本明細書において使用する「極性」という表現は、例えば炭化水素のような無極性または疎水性溶剤とは対照的に、特にこのように記述された溶剤が特定の極性、例えば少なくとも5×10-30Cmの(永久)電気双極子モーメントを有することを意味する。極性溶剤は、プロトン性または非プロトン性であり得る。
【0029】
本出願の範囲において「溶剤」は、特にその他の成分、特に尿素またはイソシアン酸の副生成物または分解生成物またはSCRシステムにおいて生じ得るその他の堆積物または不純物を溶解し得るまたは少なくとも緩めることが可能である化学化合物であると理解される。
【0030】
極性溶剤は、特に101.3kPa(常圧)における沸点(または沸騰温度)が少なくとも140℃であることを特徴とする。例示的な実施形態によると極性溶剤は、101.3kPaにおける沸点が少なくとも150℃であり、特に少なくとも160℃であり、特に少なくとも180℃であり、特に少なくとも200℃である。SCRシステムの運転温度において極性溶剤が液体状であることが有利である。これによりSCRにおける堆積物または不純物を極性溶剤によって特に効果的に除去することが可能である。極性溶剤の101.3kPaにおける最大沸点は、特に制限されるものではなく、500℃未満、特に400℃未満であることが好ましい。
【0031】
例示的な実施形態によると極性溶剤は、少なくとも5×10-30Cmの(永久)電気双極子モーメントを有する。電気双極子モーメントと特に永久電気双極子モーメントとは、分子の極性の尺度であり、当該極性は、通常(例えば関与する各原子の異なる電気陰性度に起因する)極性原子結合または(例えば双性イオン化合物の場合)電荷によって引き起こされる。特に極性溶剤は、少なくとも5.5×10-30Cm、特に少なくとも6×10-30Cm、特に少なくとも6.5×10-30Cm、特に少なくとも7×10-30Cmの(永久)電気双極子モーメントを有し得る。
【0032】
例示的な実施形態によると極性溶剤は、特に(2つ以上の)相、濁りまたはエマルジョンが形成されることなく10ppmから50重量%(50%(m/m)の濃度範囲において水(20℃および/または101.3kPaにおいて)と混合可能である。
【0033】
例示的な実施形態によると極性溶剤は、温度20℃(および101.3kPaの圧力)において水および32.5重量%の尿素と100ppmの極性溶剤とからなる溶液の表面量力が少なくとも55mN/m、特に少なくとも60mN/m、特に少なくとも65mN/mであるように構成されている。換言すると極性溶剤は、水と32.5重量%の尿素との溶液に対して100ppmの当該極性溶剤を添加した場合、溶液の表面張力が55mN/m未満、特に60mN/m未満、特に65mN/m未満に低下しないように構成され得、このことはISO規格22241の(実質的な)遵守に関して有利である。
【0034】
例示的な実施形態によると極性溶剤は、AdBlue(登録商標)またはその他のアンモニア放出溶液のような尿素水溶液中で使用される場合、低い発泡性を有することを特徴とする。
【0035】
例示的な実施形態によると極性溶剤は、アミンオキシド、有機カーボネート、カルボン酸とサルコシンの縮合生成物、グルコシド、ポリアルキレングリコール、グリコールエーテル、アルコール、アミノアルコールおよびこれらの混合物とのからなる群から選択される。好適なアミンオキシドとしては、特に第三級脂肪族アミンの酸化物、特に例えばN,N-ジメチル-C6-C14アルキルアミンN-オキシドなどのC2-C22アルキルアミンオキシドが挙げられる。好適な有機カーボネートとしては、特にプロピレンカーボネートが挙げられる。カルボン酸とサルコシンとの好適な縮合生成物としては、特に脂肪酸(特にC2-C22脂肪酸)とサルコシンとの縮合生成物が挙げられ、任意にアミンまたはアミノアルコールで中和されている。適切なポリアルキレングリコールとしては、特に、エトキシル基とプロポキシル基の比が少なくとも2:1であるポリアルキレングリコール、およびポリエチレングリコール(例えば平均分子量が200から800g/mol)が挙げられる。適切なグリコールエーテルとしては、特に、ジプロピレングリコールn-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル、プロピレングリコールn-ブチルエーテル、プロピレングリコールn-プロピルエーテル、トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジプロピレングリコールフェニルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールヘキシルエーテル、ジエチレングリコールヘキシルエーテル、エチレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールフェニルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)α-フェニル-ω-ヒドロキシ、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールn-ブチルエーテルおよびエチレングリコールn-ブチルエーテルが挙げられる。好適なアルコールとしては、特に3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールが挙げられる。好適なアミノアルコールとしては、特にトリエタノールアミンが挙げられる。挙げた極性溶剤の2種以上の混合物も好適である。
【0036】
例示的な実施形態によると極性溶剤は、N,N-ジメチルデシルアミン-N-オキシド、プロピレンカーボネート、ポリエチレングリコール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、トリエタノールアミンおよびこれらの混合物からなる群から選択される。特に、N,N-ジメチルデシルアミン-N-オキシドは、SCRシステムにおける既存の堆積物または不純物の効果的な除去に特に適していることが明らかとなった。
【0037】
例示的な実施形態によると200℃超においてアンモニアを放出する成分を含む溶液は、10から5000ppm、特に20から1000ppm、特に50から500ppm、特に75から400ppm、特に100から200ppmの量(濃度)の極性溶剤を含む。5000ppmを超える量も好適であるが、一般的に堆積物または不純物の除去においてそれ以上の改善はもたらさない。
【0038】
例示的な実施形態によると200℃超においてアンモニアを放出する成分は、尿素またはその誘導体を含んでなる。
【0039】
例示的な実施形態によると200℃超においてアンモニアを放出する成分を含む溶液は、尿素水溶液であり、特に31から34重量%の尿素、特に約32.5重量%の尿素の濃度あるいは例えば海洋分野における適用においては38から42重量%の尿素、特に約40重量%の尿素の濃度を有する。
【0040】
別の態様において本発明は、(特にディーゼル燃料内燃機関の排気ガスの)選択式触媒還元システムにおける堆積物または不純物の除去方法に関し、当該システムを200℃超でアンモニアを放出する成分を含む溶液を用いて運転し、溶液は、さらに101.3kPaにおける沸点が少なくとも140℃である極性溶剤を含む。
【0041】
例示的な実施形態によると上記に詳述した極性溶剤を使用することが可能である。
【0042】
例示的な実施形態によると200℃超においてアンモニアを放出する成分を含む溶液は、10から5000ppm、特に20から1000ppm、特に50から500ppm、特に75から400ppm、特に100から200ppmの量(濃度)の極性溶剤を含む。
【0043】
さらに形態において本発明は、(特にディーゼル燃料内燃機関の排気ガスの)選択式触媒還元システムの運転方法に関し、当該方法は、システムに対して200℃超でアンモニアを放出する成分を含み、さらに101.3kPaにおける沸点(沸騰温度)が少なくとも140℃である極性溶剤を含む溶液を注入する段階と溶液をシステムにおいて200℃超の温度に加熱する段階とを含んでなる。これにより特にSCRシステムにおける堆積物または不純物の除去を達成することが可能である。
【0044】
例示的な実施形態によると上記に詳述した極性溶剤を使用することが可能である。
【0045】
例示的な実施形態によると200℃超においてアンモニアを放出する成分を含む溶液は、10から5000ppm、特に20から1000ppm、特に50から500ppm、特に75から400ppm、特に100から200ppmの量(濃度)の極性溶剤を含む。
【0046】
以下において本発明を以下の各実施例を参照してさらに説明するが、これらの実施例は、単に本発明の教示を説明するためのものであり、決して本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0047】
SCRシステムにおける様々な添加剤のクリーンアップ挙動の調査
調査した添加剤
-N,N-ジメチルデシルアミン-N-オキシド(実施例1)
-ポリエチレングリコール400(実施例2)
-8個のエトキシル単位を有するC9~C11置脂肪アルコールエトキシレート(比較例1)
【0048】
AdBlue(登録商標)に調査した各添加剤をそれぞれ100ppm添加した各混合物を製造し、得られた各混合物の表面張力を20℃で測定した。純粋なAdBlue(登録商標)(すなわち添加剤無添加)については20℃における表面張力が73.0mN/mであった。激しく堆積物によって負荷を受けているSCRシステムにおける各混合物のクリーンアップ挙動をさらに調査し、堆積物の存在を0(きれい)から4(激しく汚染)のスケールで目視評価した。
【0049】
【0050】
100ppmのN,N-ジメチルデシルアミン-N-オキシド(実施例1)を使用した場合、実際の適用では得られた溶液について表面張力の65mN/mの基準値を少ししか下回らないわずかな減少と極めて低い発泡挙動とが観察された。しかしながら堆積物によって激しく負荷を受けている実際のSCRシステムにおけるかなりのクリーンアップ挙動を観察することができた。
図1において実施例1による混合物の使用前(
図1A)と使用後(
図1B)のSCRシステムの各写真が図示されている。
【0051】
PEG400(実施例2)もまたSCRシステムにおける堆積物を除去するための有能な添加剤であることが証明され、加えてAdBlue(登録商標)の表面張力を低下させないため65mN/mの基準値を維持することが可能である。
【0052】
調査によりさらに例えば比較例1のように添加剤の界面活性剤特性がクリーンアップ挙動の悪化にすらつながり、加えて多大な泡生成と表面張力の大きな低下とが不利であることが判明した。
【0053】
本発明による添加剤N,N-ジメチルデシルアミン-N-オキシドの添加量に対するAdBlue(登録商標)尿素溶液の表面張力の依存性をさらに調べた。試験結果は、
図2において図示されている。ここからわかるように当該添加剤の濃度がより高くなっても表面張力のさらなる低下はわずかである。
【0054】
本発明を特定の各実施形態と各実施例とを用いて説明してきた。しかしながら本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなくこれらの種々の変更が可能である。
【国際調査報告】