(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】リアルタイムドリフト補正を用いたAFMイメージング
(51)【国際特許分類】
G01Q 60/34 20100101AFI20240711BHJP
【FI】
G01Q60/34
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500223
(86)(22)【出願日】2022-06-22
(85)【翻訳文提出日】2024-02-28
(86)【国際出願番号】 US2022034483
(87)【国際公開番号】W WO2023283048
(87)【国際公開日】2023-01-12
(32)【優先日】2021-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512038610
【氏名又は名称】ブルカー ナノ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BRUKER NANO,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】フォノベロフ、ウラジミール
(72)【発明者】
【氏名】オズボーン、ジェイソン
(72)【発明者】
【氏名】ハンド、ショーン
(57)【要約】
関心領域の基準画像(平面)を生成するためにデータ走査の低速走査方向に原子間力顕微鏡のプローブとサンプルとの間の相対的な走査運動を提供することを含む原子間力顕微鏡(AFM)作動システム及び方法を提供する。その後、最終データ走査の高速走査方向にプローブとサンプルとの間の相対的な走査運動を提供してデータ画像を生成する。供給するステップ中に、リアルタイムで基準画像に対してデータ画像をマッピングすることで、この香椎実施形態は、取得画像の後処理を行わずに最終ドリフト補正されたデータ画像を生成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子間力顕微鏡(AFM)の方法であって、
前記方法は、
サンプルの関心領域でデータ走査の走査方向に直交する方向に前記AFMのプローブと前記サンプルとの間の相対的な走査運動を提供するステップと、
前記提供するステップ中に、前記サンプルの表面の特性を示すプローブ偏向を検出するステップと、
前記検出するステップに基づいて基準画像を生成するステップと、
前記関心領域で前記データ走査を行うために、前記プローブと前記サンプルとの間の相対的な走査運動を生じさせるステップと、
前記走査運動を生じさせるステップ中に、前記特性を示すプローブ偏向を測定するステップ、及び前記測定するステップに基づいてデータ画像を生成するステップと、
前記サンプルの画像と前記基準画像に基づいてリアルタイムで最終画像を生成するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記提供するステップは高速走査である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記直交する方向は、前記データ走査の低速走査軸である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記基準画像は基準平面である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記最終画像を生成するステップは、前記サンプルの画像と前記基準画像を加えるステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記走査運動はラスタ走査である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記検出するステップ及び前記測定するステップは、
AFM動作のモードで実行され、
前記モードは、ピークフォースタッピング(PFT)モード、接触モード、及びタッピングモードのいずれか1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記特性は前記表面のトポグラフィである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
a)前記方法の走査パラメータを調整するステップ、又は
b)前記供給するステップ中に前記関心領域を調整するステップ
のうちの少なくとも一方をさらに含み、
全ての前記ステップを繰り返す、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
原子間力顕微鏡(AFM)であって、
前記AFMのプローブとサンプルとの間の相対的な走査運動を提供するスキャナと、
AFM動作中にプローブとサンプルの相互作用に応じて前記プローブの偏向を測定する検出器と、
前記偏向に基づいて制御信号を生成するコントローラと、
コンピュータと、
を含み、
前記偏向は、サンプル特性を示して画像として格納され、
前記コンピュータは、前記走査運動がデータ走査の低速走査軸に沿って行われるときに前記偏向に基づいて基準画像を生成した後、前記走査運動が前記画像の走査の高速走査軸に沿って行われるとき、前記偏向に基づいてデータ画像を生成し、c)最終データ画像を生成するために、前記データ画像の生成中にリアルタイムで前記データ画像を前記基準画像に対してマッピングする、原子間力顕微鏡。
【請求項11】
前記基準画像を生成するための前記走査運動は、データ走査の走査方向と直交する方向である、請求項10に記載の原子間力顕微鏡。
【請求項12】
前記直交する方向は、前記データ走査の低速走査軸である、請求項10に記載の原子間力顕微鏡。
【請求項13】
前記コントローラは、接触モード、非接触モード、タッピングモード、ピークフォースタッピングモードのいずれか1つで制御信号を生成する、請求項10に記載の原子間力顕微鏡。
【請求項14】
前記コントローラは、
a)前記AFMの走査パラメータと、
b)前記データ画像のマッピング中における関心領域と、
のうち少なくとも一方を調整する、請求項10に記載の原子間力顕微鏡。
【請求項15】
原子間力顕微鏡(AFM)の方法であって、
前記方法は、
関心領域の基準画像を生成するために、データ走査の低速走査方向に前記AFMのプローブとサンプルとの間に相対的な走査運動を提供するステップと、
サンプルデータを生成するために、前記プローブと前記サンプルとの間に高速走査方向に相対的な走査運動を供給するステップと、
取得画像の後処理を行わずに最終ドリフト補正データ画像を生成するために前記供給するステップで、リアルタイムに前記基準画像に対して前記サンプルデータをプロッティングするステップと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
好ましい実施形態は、原子間力顕微鏡(AFM;Atomic Force Microscopy)に関し、特に、AFMデータの収集におけるドリフト(drift)を補償するためのリアルタイム方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子間力顕微鏡(AFM)などの走査型プローブ顕微鏡は、チップを備えたプローブを使用して、適切な力でチップをサンプルの表面と相互作用させて表面を原子単位まで特性化する装置である。一般に、プローブは、サンプルの表面に挿入され、チップとサンプルとの間に相対的な走査移動を提供することで、サンプルの特定領域に対して表面特性データが取得され、サンプルの対応するマップを生成することができる。
【0003】
典型的なAFMシステムは、
図1に概略的に示されている。AFM10は、カンチレバー15を有するプローブ14を含むプローブ12を使用する。スキャナ24は、プローブとサンプルの相互作用を測定しながらプローブ14とサンプル22との間で相対運動を生成する。このようにして、サンプルの画像又は他の測定値を取得することができる。スキャナ24は、通常3つの直交方向(XYZ)で動きを生成する1つ以上のアクチュエータから構成される。多くの場合、スキャナ24は、例えば、ピエゾ(piezoelectric)チューブアクチュエータのように3軸の全てにおいて、サンプル又はプローブを移動させる1つ以上のアクチュエータを含む単一の一体型ユニットである。あるいは、スキャナは、複数の分離したアクチュエータのアセンブリであってもよい。一部のAFMは、例えば、サンプルを移動するXYスキャナ及びプローブを移動する分離されたZアクチュエータなど、スキャナを複数の構成要素に分離する。従って、装置は、例えば、Hansmaらの特許文献1、Elingsら特許文献2、及びElingsらの特許文献3で説明されているように、サンプルのトポグラフィ又は一部の他の表面特性を測定する間にプローブとサンプルとの間の相対的な動きを生成することができる。
【0004】
一般的な構成において、プローブ14は、振動(oscilating)アクチュエータ又はカンチレバー15の共振周波数、又は、その近くでプローブ14を駆動するために使用されるドライブ16に結合される場合が多い。代替構成は、カンチレバー15のたわみ、ねじれ、又は、他の動きを測定する。プローブ14は、チップ17が統合されている微細加工されたカンチレバーである場合が多い。
【0005】
一般に、アクチュエータ16(又は、代替的にスキャナ24)がプローブ14を振動させるために、SPMコントローラ20の制御下で信号ソース18から電子信号が印加される。プローブとサンプルの相互作用は、通常、コントローラ20によるフィードバックにより制御される。特に、アクチュエータ16は、スキャナ24及びプローブ14に結合されてもよいが、自己駆動されたカンチレバー/プローブの一部として、プローブ14のカンチレバー15と一体に形成されてもよい。
【0006】
上述のように、選択されたプローブ14は、プローブ14の振動の1つ以上の特性変化を検出することによりサンプル特性がモニタリングされるため、サンプル22に接触して振動することが多い。これに関連して、偏向検出装置25は、典型的にビームをプローブ14の後側に向かうように利用され、ビームは検出器26に向かって反射される。ビームが検出器26を横切って移動することにより、ブロック28で適切な信号が処理され、例えば、RMS偏向を決定し、これをコントローラ20に送信し、コントローラ20はこれらの信号を処理してプローブ14の振動変化を決定する。一般に、コントローラ20は、プローブ14振動の設定点(setpoint)の特性を保持するために、チップとサンプルとの間の相対的に一定の相互作用(又は、レバー15の偏向)を保持するために制御信号を生成する。より具体的には、コントローラ20は、設定点とチップ-サンプルの相互作用によるプローブの偏向に対応する信号を回路30と比較して取得された誤差信号を調整するPIゲインコントロール(PI Gain Control)ブロック32及び高電圧増幅器(HighVoltage Amplifier)34を含み得る。例えば、コントローラ20は、チップとサンプルとの間の一般的に一定の力を確保するために、設定点値ASで振動振幅を保持するために使用されることが多い。代替的に、設定点の位相又は周波数が使用されてもよい。
【0007】
ワークステーション40はまた、コントローラ20内、及び/又は分離されたコントローラ、連結されたシステム、若しくは独立型(stand-alone)コントローラ内に提供され、コントローラから得られたデータを受信して、点選択、曲線適合、及び距離決定動作を行うために走査中に取得されたデータを操作する。
【0008】
AFMは、接触モード、非接触モード、及び振動モードなどの様々なモードで動作するように設計されてもよい。動作は、表面を横切って走査されるときプローブ組立体のカンチレバーの偏向に応じて、サンプル又はプローブ組立体をサンプルの表面に対して垂直に上下移動させることで達成される。走査は、通常、サンプルの表面に少なくとも平行な「x-y」平面で発生し、垂直運動はx-y平面に垂直な「z」方向で発生する。多くのサンプルは、平面から外れた粗さ(roughness)、曲率(curvature)、及び傾き(tilt)を有するため、「一般的に平行(generally parallel)」という用語が使用されていることに留意されたい。このように、この垂直移動に関連するデータを格納し、例えば、表面トポグラフィの測定されたサンプル特性に対応するサンプル表面の画像を構成するために使用されてもよい。TappingMode(登録商標)(TappingMode(登録商標)は、本出願人の商標)として知られたAFM動作の1つのモードでは、チップは、プローブに関連するカンチレバーの共振周波数又はその付近で振動する。フィードバックループは「トラッキングフォース(tracking force)」、即ち、チップ/サンプルの相互作用により生じる力を最小化し、その振動の振幅を一定に保持するように試みる。
【0009】
代替的なフィードバック装置は、位相又は振動周波数を一定に保持する。接触モードと同様に、これらのフィードバック信号は収集、格納され、サンプルを特性化するデータとして使用される。「SPM」及び特定タイプのSPMに対する略語は、ここで顕微鏡装置又は関連技術、例えば「原子間力顕微鏡」を参照するために使用され得ることに留意されたい。本明細書に明示的に組み込まれる特許文献4、特許文献5、及び特許文献6で議論された、ピークフォースタッピングモード(Peak Force Tapping(登録商標)(PFT)Mode)と呼ばれるユビキタスタッピングモード(TappingMode(登録商標))を改善したもので、フィードバックは、各振動周期で測定された力(一時的プローブ-サンプルの相互作用力と呼ばれる)を基盤とする。
【0010】
AFMは、動作モードに関係なく、ピエゾスキャナ、光レバー偏向検出器、及びフォトリソグラフィ技術を用いて製造された極めて小さいカンチレバーを使用することにより、空気、液体、又は真空の様々な絶縁及び伝導性表面の原子レベルまで分解能を得ることができる。AFMは、分解能及び汎用性のために、半導体製造から生物学的研究に至るまで様々な分野において重要な測定装置である。
【0011】
これに関連して、AFMは、半導体製造のような高精密製造工程を含む自動化された応用分野で使用され得る。AFMは、ナノスケールの表面特徴(例えば、トポグラフィ)に対する高分解能測定を提供できるため、AFMは、半導体空間に有効であることが証明されている。しかし、従来、AFMデータは、ほとんどのAFMにとって本質的な問題となるドリフト(drift)及びクリープ(creep)など、システム内の機械的摂動によって妨げられてきた。ドリフトは、任意のタイプのSPM又は実際には任意の顕微鏡で発生するアーチファクト(artifact)であるが、AFMなどの高分解能機器ではより深刻である。一般に、サンプル(又は、プローブ)がある方向にゆっくりと移動するため、これが「ドリフト」として知られている。これは、通常、低速走査方向を変更するとき変更される画像の「歪み(distortion)」として認識され得る。この効果は、ユーザが走査範囲内の新しい関心領域(region of interest)に移動した場合に、特に顕著になり得る。ピエゾクリープ(Piezo creep)は、ピエゾスキャナに設定された電圧を印加した後、特定位置に移動するためにこれを保持しようとするときに発生する。ピエゾは、一定期間同じ方向に動き続ける傾向がある。基本的に、特に新しい画像走査が開始されるときに特徴の伸縮又は圧縮が行われることを意味する。ピエゾクリープは、AFM画像走査中に時間の経過とともに沈静化することがあるが、依然として問題が残っている。
【0012】
より具体的には、本件に関してAFMを使用して垂直計測測定を行おうとするときに直面する問題は、走査運動(scanning motion)の不完全性、又は走査中のプローブの「z」運動を検出することにより発生する。例えば、前述したように、AFMスキャナは、通常、ピエゾチューブを使用して垂直(Z)運動だけでなく横方向(XY)の走査運動も提供する。プローブチップが走査動作の効果のために移動することにより、スキャナは「振り子」運動に近似し、プローブチップが走査原点から遠ざかるにつれてサンプルの表面からわずかに持ち上げられる。AFMは、チップが表面を追跡できるようプローブをサンプル側に向かって拡張するためにアクチュエータに対する電圧を制御し、チップリフトを補償する。このような振り子運動とその結果として生じるフィードバック補償の結果、平面の画像が湾曲、又は「曲がって(bowed)」見える場合がある。このような「曲がり」効果の典型的な大きさは、例えば50ミクロンの横方向の走査運動に対して垂直オフセットが10ナノメートル程度である。同様の効果は、ピエゾ又はその他のアクチュエータの欠陥に起因する一部のZ運動とX及びYの結合によっても生じ得る。このような曲率は、有効な基準表面の正確な決定及び極めて小さい垂直寸法の正確な計測測定を不可能にする。
【0013】
カンチレバーの動きの検出が正確でなければ、走査誤差が発生する可能性がある。スキャナは「経年変化」する可能性があり、即ち、曲がり及びヒステリシス効(hysteresis)果を含む特性は、時間の経過とともに大きく変わり得る。このような要素は、正確な垂直計測測定を妨げる可能性もある。また、ヒステリシス及び経年変化(スキャナが時間の経過とともに変化する)、サンプルの傾き及びその他の要因を含む様々な要因によって測定の反復性が損なわれる可能性があり、必要な精度レベルでの事前校正(pre-calibration)が困難になる。
【0014】
AFMスキャナ/機器誤差を除去するために使用される従来技術は、通常、このような誤差だけでなく上述したような検出の特異性を収容することに成功していない。このような従来の技術の1つは、機器誤差を単純な数学関数としてモデル化するものである。例えば、多項式又は他の単純な関数によって定義される理論上の表面に対する走査データの最適な適合を算出することができる。この理論上の表面を走査データから差し引くと、走査誤差の一部が除去される。しかし、AFMの場合、単純な数学関数では、曲がり、ヒステリシス、検出誤差は、正確に説明できない場合が多い。さらに、適合ステップは、滑らかな表面から外れた特徴、おそらくは測定を要するその特徴によって損なわれる可能性がある。従って、適合(fitting)及び差し引き(subtraction)は、1nm以上の精度を必要とする多くの応用分野に十分な精度の向上につながらない場合が多い。
【0015】
機器誤差を補正するための別のタイプの試みでは、基準差し引きを使用する。この技術では、標準サンプルの基準走査がなされる。基準サンプル候補は、劈開又は研磨されたシリコンウェハーのような平坦な表面を有するものが考えられる。この走査は、その後のサンプルの全てのデータ走査から差し引かれる。Yoshizumiの特許文献7を参照。この技術は、一般に光学的欠陥を補正するために、干渉計と共に使用される。ただし、AFMの場合、ヒステリシスによってサンプル全体の傾きに依存するスキャナの特異性が生じ、サンプルごとに大きく異なる可能性がある。従って、これらの誤差は、基準サンプルから新しいサンプルまで、及び走査ごとに変わる。従って、「標準サンプル」は存在せず、標準基準の差し引きを用いて走査誤差を除去することはできない。
【0016】
いくつかの解決方法では、サンプルを90度回転して2つの画像を生成する。これらの解決方法は、通常、高速走査軸と低速走査軸を定義し、高速走査軸のデータはより短い時間で取得される。そのため、高速走査軸のドリフトは無視される場合が多い。システムは、そのライン内の全てのデータが表面トポグラフィを示していると仮定する。低速走査軸では、表面を横切るAFMラスタのような線対線方向のドリフトは、Zの高さ位置の変化がデータの低周波振動に見える現像を誘発するため、無視できない。既知の解決方法では、走査方向が固定され、2つの画像が差し引かれて最適な画像が生成されるか、又は単一画像に結合される(例えば、スキャナの曲がりを除去するため)。しかし、実際には、これらの既知の技術は全て基準を提供しようとするものの、いずれの場合も基準に欠陥があり、ライン間のZ高さは現実を模倣していない。また、それらは通常、画像取得後の相互相関処理を採用する。その結果、ユーザは、取得したデータの品質を最適化するために、走査中にAFMパラメータを調整することができない。
【0017】
その結果、AFM分野において、特にサンプルをZの高さに対してサンプルに関する摂動の補正を提供することにより、ドリフトのようなシステム内の機械的摂動の影響を最小化又は除去する解決方法が必要であった。データ取得及び表示時間の改善が必要とされ、画像取得後の処理を行わないことが望まれている。さらに、動作中にAFM走査及び画像取得パラメータを調整できる機能も望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国再発行特許発明第34489号明細書
【特許文献2】米国特許第5266801号明細書
【特許文献3】米国特許第5412980号明細書
【特許文献4】米国特許第8739309号明細書
【特許文献5】米国特許第9322842号明細書
【特許文献6】米国特許第9588136号明細書
【特許文献7】米国特許第5283630号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
好ましい実施形態は、画像後処理(post-image processing)を必要としない自己相関方法(autocorrelation methhod)を提供することによって、AFMイメージングのドリフト効果を解決しようとする現在のAFMシステムの欠点を克服することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
データ走査中にリアルタイムで、データ走査の低速走査軸(基準平面)で初めて取得した基準画像にデータ画像をマッピングすることにより、ドリフトによる機械的摂動の影響が最小限に抑えられる。リアルタイムで生成される最終画像の観察に基づいて、ユーザがAFMパラメータを柔軟に調整できると同時に、高分解能画像が生成される。リアルタイム処理(Real time processing)は、AFM画像の取得中に短時間でデータ処理を実行し、ほぼ瞬時の出力を提供する。
【0021】
好ましい実施形態の一態様によれば、原子間力顕微鏡(AFM)方法は、サンプルの関心領域でデータ走査の走査方向に直交する方向にAFMのプローブとサンプルとの間の相対的な走査運動を提供するステップを含む。次に、方法は、提供するステップ中にプローブ偏向(probe deflection)を検出し、プローブ偏向はサンプル表面の特性を示し、検出ステップに基づいて基準画像(即ち、平面)を生成する。その後、方法は、関心領域でデータ走査を行うためにプローブとサンプルとの間の相対的な走査運動を供給するステップと、供給するステップ中にプローブ偏向を測定するステップとを含み、プローブの偏向は特性を示す。次に、方法は、測定するステップに基づいてデータ画像を生成し、サンプル画像と基準画像に基づいて最終画像をリアルタイムで生成する。
【0022】
好ましい実施形態のさらなる態様によれば、提供するステップは高速走査であり、直交方向はデータ走査の低速走査軸である。
好ましい実施形態の他の態様では、基準画像は基準平面であり、最終生成するステップは、サンプル画像と基準画像を加えるステップを含む。
【0023】
好ましい実施形態の他の態様によれば、走査運動はラスタ走査であり、方法は、サンプルの関心領域が画像化されるまで全てのステップを繰り返すステップをさらに含む。
好ましい実施形態の他の態様では、検出及び測定ステップはAFM動作モードで実行され、モードは、ピークフォースタッピング(PFT)モード、接触モード(contact mode)、及びタッピングモード(tapping mode)のうちの1つである。
【0024】
好ましい実施形態の追加の態様によれば、特性は表面のトポグラフィである。また、方法は、a)方法の走査パラメータ、又は、b)供給するステップ中に関心領域のうちの少なくとも1つを調整するステップをさらに含み、次に、全てのステップを繰り返す。
【0025】
他の好ましい実施形態では、原子間力顕微鏡(AFM)は、AFMのプローブとサンプルとの間の相対的な走査運動を提供するスキャナと、AFM動作中にプローブとサンプルの相互作用に反応してプローブの偏向を測定する検出器を含み、偏向はサンプル特性を示し、画像として格納される。AFMは、偏向に基づいて制御信号を生成するコントローラと、走査運動がデータ走査の低速走査軸に沿って行われるとき、偏向に基づいて基準画像を生成するコンピュータをさらに含む。コンピュータは、走査運動が画像走査の高速走査軸に沿って行われるとき、偏向に基づいてデータ画像を生成し、c)最終データ画像を生成するために、データ画像の生成中にリアルタイムでデータ画像を基準画像にマッピングする。
【0026】
好ましい実施形態の他の態様において、走査運動は、データ走査の走査方向に直交する方向に基準画像を生成し、直交方向はデータ走査の低速走査軸である。
好ましい実施形態のさらなる態様によれば、コントローラは、接触モード、非接触モード(non-contact mode)、タッピングモード、及びピークフォースタッピングモードのうちの1つで制御信号を生成する。また、コントローラは、a)AFMの走査パラメータ、又は、b)データ画像マッピング中に関心領域のうち少なくとも1つを調整する。
【0027】
他の実施形態によれば、原子間力顕微鏡(AFM)の方法は、AFMのプローブとサンプルの関心領域にあるサンプルの間の相対的な走査運動を提供するステップを含む。次に、方法は、提供するステップ中にプローブ偏向を検出するステップ含み、検出するステップに基づいて基準画像を生成する。その後、プローブとサンプルとの間の相対的な走査運動は、関心領域に対するデータ走査を行うために提供される。プローブ偏向は、生産するステップで測定され、測定ステップによりプローブとサンプルとの間の間隔が制御される。次に、方法は、生産するステップ中にリアルタイムに、そして制御ステップに基づいて、a)方法の走査パラメータ、及びb)生産するステップ中に関心領域のうちの少なくとも1つを調整するステップを含み、次に全てを繰り返す。
【0028】
別の実施形態において、原子間力顕微鏡(AFM)の方法は、関心領域の基準画像を生成するために、データ走査の低速走査方向にAFMのプローブとサンプルとの間に相対的な走査運動を提供するステップと、データ画像を生成するために高速走査方向にプローブとサンプルとの間の走査運動を生産するステップとを含む。次に、この方法は、生産するステップ中に基準画像に対してデータ画像をリアルタイムでプロットし、画像取得後の処理を行わずに最終的なドリフト補正されたデータ画像を生成する。
【0029】
本発明のこれら、並びに他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び添付の図面から当業者には明白になるであろう。しかしながら、本発明の好ましい実施形態を示す詳細な説明及び具体的な例は、限定するものではなく、例示的な方法として提供されることを理解されたい。本発明の思想を逸脱することなく本発明の範囲内で多くの変更及び修正が行うことができ、本発明はそのような全ての修正を含む。
【0030】
本発明の好ましい実施形態は、添付の図面に示されており、全体を通じて同じ参照符号は類似の部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】従来技術の原子間力顕微鏡AFMの概略図である。
【
図2A-2C】画像後処理を行わずに、AFM画像取得中にドリフトを収容するために好ましい実施形態で使用される走査の一連の概略図である。
【
図3】AFMデータを取得し、ドリフト効果が実質的にないAFM画像を生成するためのAFMシステムのブロック図である。
【
図4】好ましい実施形態のドリフト補正方法を例示するフローチャートである。
【
図5】ドリフト補正が適用されていないオリジナルAFMトポグラフィ画像である。
【
図6A】
図5の画像でドリフトの効果を示すプロットである。
【
図6B】
図5の画像でドリフトの効果を示すプロットである。
【
図7】好ましい実施形態の方法及び装置を用いてドリフト補正を行ったAFMトポグラフィ画像である。
【
図8A】
図7のデータ画像でドリフト補正の効果を示すプロットである。
【
図8B】
図7のデータ画像でドリフト補正の効果を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
好ましい実施形態は、画像後処理を行わずにAFMシステムでドリフト効果を最小化/除去できる原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy:AFM)用のドリフト補正方法(drift correction method)及びシステムに関する。本明細書で説明した方法は、サンプルの関心領域の初期画像が意図的データ走査の高速走査軸に直交する高速走査軸を用いて生成される自己相関を採用する。これは、走査が意図したデータ走査の低速走査軸の方向に高速走査を実行するように走査角度を変更したり、サンプルを90°回転させることによって実現され得る。この初期画像が意図的データ走査のための基準平面として使用されると、長い時間スケールのZドリフト誤差が最小限に抑えられる。これは、ユーザ制御の効率性、正確性、及び柔軟性を最大化するためにリアルタイムで実行される。
【0033】
まず、
図2A~
図2Cを参照すると、好ましい実施形態の方法の一連のAFM走査の簡略
図100が示されている。上から下に向かって、画像化される関心特徴を有する関心領域を有するサンプル102が
図2Aに概略的に示されている。AFMが最終データ走査を行う前に、ラスタ走査線104に沿ってAFMデータ取得が実行される基準走査が行われる。この場合、最終データ走査の低速走査軸に沿って高速AFMイメージングが実行される。言い換えれば、この走査のために、サンプルを90°回転したりラスタ走査が低速走査軸に沿うように走査角度を変更してもよい。このようにして、データ走査の低速走査軸で高速走査を実行し、基準画像が取得される。
【0034】
次に、
図2Bにおいて、最終データ走査の高速走査軸の方向にラスタ走査を行うデータ走査を行う。これは関心サンプル/領域の標準的なAFMトポグラフィ画像である。ラスタ走査線106は、最終データ走査の高速走査軸に沿っている。この画像は、Z方向のドリフトなどのシステム異常によって損なわれ、関心領域のサンプル表面のトポグラフィ画像にアーチファクトが発生し得る。
【0035】
図2Cは、
図2Bの最終データ走査、即ち、トポグラフィ画像が
図2Aで生成された基準画像にラインごとにマッピングされるとき、好ましい実施形態の自己相関を示す。これらの2つの画像の処理は、ドリフトの影響を受けた低速走査軸のライン110がドリフト補正されたトポグラフィを有する画像を生産するために、2つの画像の自己相関で補正される画像を生産する。
【0036】
好ましい実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡機器150(例えば、AFM)が
図3に示されている。このシステムでは、チップ154を有するプローブ152は、ピエゾチューブスキャナ156によって支持されるプローブホルダ(図示せず)によって保持される。スキャナ156は、AFMイメージング中にサンプル158に対してチップ154を配置するために、閉ループ制御システムのサンプル特性に反応する「Z」又は垂直スキャナである。チューブスキャナ156は、AFM動作中にサンプル表面に対してプローブチップ162をラスタ化するために使用されるXYスキャナ160、好ましくは、ピエゾチューブに連結される。機械的Zステージ162は、例えば、AFM画像の取得の開始中にチップ154とサンプル158とを連結するためにチップ154とサンプル158との間のZ方向に大きな移動を提供するために使用される。サンプル158は、サンプル158の関心領域にプローブ152を配置するために、概略的なXY運動を主に提供するXYステージ164に装着される。XYステージコントローラ(stage controller)166は、ステージ164を制御してその関心領域にプローブ/サンプルを位置させる。しかしながら、ステージ164は、選択された走査速度でチップ154とサンプル158との間の相対的な走査運動(例えば、ラスタ)を提供するように構成され得る。コントローラ166はまた、AFMコントローラ174に応じて関心領域にデータ走査を位置させる。コントローラ166,174は、コンピュータ180によって実現される。
【0037】
動作時に、チップ154がサンプル158と結合された後、前述のように選択されたモードAFM動作モード(例えば、PFTモード)でXYスキャナ160を用いてサンプルの高速走査が開始される。初期「基準平面」走査(
図2A)で高速走査は、一般的なデータ走査の低速走査軸にて進行される。この基準走査を行うために、走査角度が修正されたりサンプルが90°回転する。チップ154がサンプル158の表面と相互作用することでプローブ152が偏向し、この偏向が光学ビームバウンス偏向検出装置(optical beam-bounce deflection detection apparatus)168によって測定される。装置168は、カンチレバー155の後面から偏向信号の高速処理のために、例えば、AFMコントローラ174のDSP176に偏向信号を送信する光検出器172に向けてビーム「L」を照射するレーザ170を含む。
【0038】
AFMコントローラ174は、AFM作動モードに応じて制御信号を連続的に決定し、サンプル158に対してプローブ152のZ位置を保持し、より具体的には、フィードバック設定点でプローブの偏向を保持するためにその信号をピエゾチューブ156に送信する。コントローラ174は、また、基準画像の生成を実行する。このAFM制御は、
図4に表示された方法に関連して以下でさらに図解及び説明する。
【0039】
図4において、AFM画像データのドリフトをリアルタイムで補正する方法200が示されている。ブロック202において、AFMチップは、関心領域のサンプル表面と係合する。サンプルの初期走査は、ブロック204において、実行されてAFM動作モード(タッピング、PFTなど)で基準データとして格納される。この走査は、最終AFMデータ走査の低速走査軸で実行される高速走査[[速度?]]である(
図2A参照)。前述したように、走査角度を変更したりサンプルを回転して、走査がその領域の最終データ走査の高速走査軸に対して90°になるようにすることができる。
【0040】
ドリフト補正方法200は、ブロック206において、第1画像又は基準画像を生成するためにデータを処理するステップを含む。この画像は、トポグラフィデータに対するドリフト効果を補正するために、画像走査データとの自己相関演算で後に使用される「基準平面」を定義し、これについては以下で詳細に説明される。次に、選択されたAFM制御モードにおいて関心領域のAFMデータ走査がブロック208で開始される。このステップで、ラスタ運動は、画像走査の高速走査軸に沿って拡張される(
図2B)。サンプル表面の特性(即ち、トポグラフィ)を測定してそのデータをサンプルデータとして格納する。結果として得られる画像には、高速走査軸データとそれに直交する低速走査軸データが含まれる。
【0041】
ブロック210において、方法200は、最終データ走査の低速走査データを第1画像で生成された最も適合でフィルタリングされた平均基準平面にマッピングし、結果を最終データ画像として格納する。この最終データ画像は、最終データ走査の個別高速軸データラインを生成してキャプチャーする間に、リアルタイムで生成されるドリフト補正マッピング画像(drift corrected mapped image)を生成する。次に、ブロック212において、プローブとサンプルが分離され、リアルタイムドリフト補正が反映されたAFM画像を生成する。例示的なデータは、
図5、
図6A、
図6B(補正されていないAFM画像)だけでなく、
図7、
図8A、
図8B(ドリフト補正されたAFM画像)にも示されている。
【0042】
まず、
図5を参照すると、サンプル表面の最終データ走査の高速走査軸に沿ってAFM走査が実行される従来のAFM画像300が示されている。注目すべきは、暗いセクション304と明るいセクション302とが交互に示されることである。これは一般的なAFMデータ走査中に関心領域を走査するとき低速走査軸のドリフト効果を示す。ラインとラインの明確な対比は、システムの機械的摂動(例えば、垂直又はZ方向のドリフト)により発生する。以下でさらに明確になるように、長い時間に規模のドリフト誤差は、該当領域の関心特徴(例えば、トポグラフィ)の分解能を大きく損傷させる。
【0043】
図6Aに示すように、低速軸におけるドリフト効果は、プロット400でアーチファクトとして現れる(後述する
図8Aの補正画像からのデータと比較するとより顕著である)。この低周波ドリフトアーチファクトを解決して最小化するために前述した方法が使用され、下記にて説明する
図7の画像が生成される。垂直カーソル(vertical cursors)の間で強調表示された領域は、サンプルのトポグラフィと関係のないアーチファクトであり、ここで参照した方法を適用すると、アーチファクトが除去されてサンプル表面のトポグラフィがより正確に示される(
図8Aと関連して下記で詳説する)。
図6Bは、プロット(plot)500の領域502でアーチファクトを強調し、低周波の長い時間の規模ドリフトについて説明する。再び、好ましい実施形態(
図3)のZドリフト補正アルゴリズム200は、初期に基準画像(サンプルを90°回転させて関心領域の平面を定義する)をキャプチャーする。この基準画像キャプチャーは自動化され、ユーザには表示されない。これは画像ファイルに埋め込まれており、その後、前述のようにドリフトアーチファクトを除去するための自己相関マッピング動作で使用される。これは、
図7、
図8A及び
図8Bに示されている。
【0044】
図7は、ドリフト補正された最終AFMデータ画像600を示す。この画像は、初期の直交走査を用いて生成された基準平面と共にドリフトの影響を受けたデータ走査(一般方向-高速走査軸に沿った高速走査)で生成される。
図5のオリジナル画像とは異なり、関心領域の表面特徴は、Zドリフト誤差が除去されているため、分解能が極めて高い。
図6A(原始データ)及び
図8A(ドリフト補正データ602)の振幅比較は、低周波ドリフトアーチファクトの補正を示す。
図6B及び
図8Bの類似比較は、ドリフトの補正後に
図8Bにおいて、振幅信号604の低周波成分が大きく減少した同じ内容(
図6Bの領域502)を示す。
【0045】
全般的に、好ましい実施形態は、AFM環境の機械的ドリフトによる悪影響を実質的に受けない高分解能AFM画像を提供する。方法及びシステムは、速度及び精度の利点を提供するだけでなく、ユーザへのリアルタイムのフィードバックを提供することにより、ユーザーはAFMの操作を柔軟に管理することができる。より具体的には、システム及び方法は、制御設定点、走査の速度及び方向、ドライブ信号の位相/振幅などだけではなく、走査位置を含むAFM動作の走査パラメータのリアルタイムの調整を許容する(「リアルタイム」とは、サンプルの関心領域のデータ画像の取得及び生成中、即ち、AFM画像取得中に短い時間でデータ処理を実行し、ほぼ瞬時の出力を提供することと定義される)。要約すると、原始データ画像の後処理を必要とせずに、1つ以上の関心領域の高分解能データ画像を生成することができる。結果として得られる最終データ画像には、ドリフトによる機械的摂動が実質的にない。
【0046】
以上、本発明を実施するために発明者らが考えた最良の形態を上記に開示したが、上記の発明の実施はこれらに限定されるものではない。本発明の思想の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明の特徴の様々な追加、修正、及び再配置を行うことができることは明らかである。
【国際調査報告】