(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】アセトアセトキシアルキル基含有ニトリルゴム及び正極バインダーとしての使用
(51)【国際特許分類】
C08F 236/06 20060101AFI20240711BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240711BHJP
C08F 220/44 20060101ALI20240711BHJP
C08F 8/04 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C08F236/06
H01M4/62 Z
C08F220/44
C08F8/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500357
(86)(22)【出願日】2022-07-07
(85)【翻訳文提出日】2024-01-05
(86)【国際出願番号】 EP2022068832
(87)【国際公開番号】W WO2023280963
(87)【国際公開日】2023-01-12
(32)【優先日】2021-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516112462
【氏名又は名称】アランセオ・ドイチュランド・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】スヴェン・ブランダウ
【テーマコード(参考)】
4J100
5H050
【Fターム(参考)】
4J100AL08R
4J100AM02Q
4J100AS02P
4J100BA14R
4J100BA15R
4J100CA05
4J100CA31
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4J100GB03
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4J100HA04
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4J100HC75
4J100HC90
4J100HE14
4J100JA43
5H050AA07
5H050AA12
5H050AA14
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
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5H050CB25
5H050DA02
5H050DA11
5H050EA28
5H050HA01
(57)【要約】
本発明は、モノマー単位のアクリロニトリルと、1,3-ブタジエンと、メタクリル酸アセトアセトキシエチルとからなるポリマーを教示する。このポリマーは、非水素化又は水素化ポリマーであり得る。本発明は、蓄電池のための正極バインダーとしてのポリマーの使用も教示する。本発明によるポリマーは、少なくともポリフッ化ビニリデンポリマー(PVDF)をベースとする従来のポリマーを上回る利点を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマー単位のアクリロニトリルと、1,3-ブタジエンと、メタクリル酸アセトアセトキシエチルとからなるポリマー。
【請求項2】
水素化されていない、請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
水素化されている、請求項1に記載のポリマー。
【請求項4】
前記モノマー単位のメタクリル酸アセトアセトキシエチルは、3~10重量%の量で前記ポリマー中に存在する、請求項2に記載のポリマー。
【請求項5】
前記モノマー単位のメタクリル酸アセトアセトキシエチルは、0.5~7重量%の量で前記ポリマー中に存在する、請求項3に記載のポリマー。
【請求項6】
前記モノマー単位のアクリロニトリルは、18~50重量%の量で前記ポリマー中に存在し、前記モノマー単位の1,3-ブタジエンは、40~80重量%の量で前記ポリマー中に存在し、及び前記モノマー単位のメタクリル酸アセトアセトキシエチルは、3~10重量%の量で前記ポリマー中に存在する、請求項2に記載のポリマー。
【請求項7】
前記モノマー単位のアクリロニトリルは、30~45重量%の量で前記ポリマー中に存在し、前記モノマー単位の1,3-ブタジエンは、50~65重量%の量で前記ポリマー中に存在し、及び前記モノマー単位のメタクリル酸アセトアセトキシエチルは、0.5~7重量%の量で前記ポリマー中に存在する、請求項3に記載のポリマー。
【請求項8】
蓄電池のための正極バインダーとしての、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリマーの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトリルゴムポリマーに関し、特に、モノマー単位のアクリロニトリルと、1,3-ブタジエンと、メタクリル酸アセトアセトキシエチルとからなるポリマーに関する。さらに、本発明は、蓄電池中のバインダーとしてのポリマーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電池(ストレージバッテリー、二次セル又はアキュムレーターとしても知られる)は、多くの回数の充電、放電及び再充電が可能な電気電池のタイプの1つである。
【0003】
蓄電池は、アノード、カソード、電解液及びセパレーターを含む。蓄電池内には、バインダーも存在し、これは、通常、ポリマーである。バインダーにより、蓄電池の電極(アノード及びカソード)中に活物質及び伝導性材料が維持される。バインダーは、以下の特性を有する必要がある:可撓性であること、電解質に対して不溶性であること、集電体に対して良好な付着性を有すること、化学的及び電気化学的に安定であること並びに電極への取り付けが容易であること。
【0004】
正極の一般的なバインダーの1つは、ポリフッ化ビニリデンポリマー(PVDF)である。PVDFをベースとするか又はPVDFを使用するバインダーは、その中に含まれるフッ素によって蓄電池内で腐食が生じ、本来安全ではないという欠点を有する。PVDFをベースとするか又はPVDFを使用するバインダーは、比較的高い密度を有し、したがって結果として得られる蓄電池及び蓄電池を保持するデバイスの重量がそれらによって増加するために望ましくない。PVDFをベースとするか又はPVDFを使用するバインダーは、その中に含まれるフッ素がフッ化水素を形成することがあり、これにより取り扱いの対策が必要となるため、取り扱う場合に安全対策が必要となる。
【0005】
(特許文献1)は、ポリマー及びバインダーとしてのその使用を開示している。このポリマーは、共役ジエンモノマー単位(例えば、1,3-ブタジエン)及び/又はアルキレン構造単位と、ニトリル基含有モノマー単位(例えば、アクリロニトリル)と、任意選択的に別の繰り返し単位(例えば、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、例えばアクリル酸n-ブチル)とを含む。このポリマーは、PVDFとともに用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3605675A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術の上記の問題を克服する必要がある。上記のバインダー特性を維持するだけでなく、従来技術のものよりも向上した特性を得るために、代替的なポリマー及びその正極バインダーとしての使用を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の問題は、本発明によって解決される。
【0009】
第1の態様では、本発明は、ポリマーに関し、このポリマーは、モノマー単位のアクリロニトリルと、1,3-ブタジエンと、メタクリル酸アセトアセトキシエチルとからなる。
【0010】
さらなる一態様では、本発明は、蓄電池のための正極バインダーとしてのポリマーの使用に関する。
【0011】
ポリマー及び正極バインダーとしてのポリマーにより、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を使用する必要性を克服しながら、従来技術によるものに対する少なくとも適切な代替物が得られる。
【0012】
ポリマー及び正極バインダーとしてのポリマーは、PVDFを含まない。これは、安全性の問題を克服し、製造中及び電池用途での使用中の腐食に関する問題を克服する。
【0013】
ポリマー、したがって正極バインダーとしてのポリマーは、従来技術のPDVFをベースとするものと少なくとも同等であるか又はそれを上回る性質を示す。
【0014】
ポリマー及び正極バインダーとしてのポリマーは、従来技術のPDVFをベースとするものよりも低い密度を有し、したがって蓄電池を使用する携帯用デバイス又は電気車両におけるその重量が減少するために好都合である。
【0015】
正極バインダーとしてのポリマーは、剥離強度が増加しており、すなわち従来技術のPDVFをベースとするものよりも集電体に対する接着力が高く、そのため、より長い電池の実用寿命が保証される。
【0016】
ポリマー、したがって正極バインダーとしてのポリマーは、高い通過伝導率を有する。
【0017】
ポリマー、したがって正極バインダーとしてのポリマーにより、充電、放電及び再充電後の容量保持率が維持される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明及びその利点の十分な理解のため、以下の詳細な説明が参照される。
【0019】
本明細書に開示される詳細な説明の種々の態様及び実施形態は、本発明の作製及び使用の特定の方法の例証であり、請求項及び詳細な説明を考慮すると、発明の範囲を限定するものではないことが認識されるべきである。本発明の異なる態様及び実施形態からの特徴は、本発明の異なる態様及び実施形態からの特徴と組み合わされ得ることも認識されるであろう。
【0020】
第1の態様では、本発明は、ポリマーに関し、このポリマーは、モノマー単位のアクリロニトリルと、1,3-ブタジエンと、メタクリル酸アセトアセトキシエチルとからなる。
【0021】
モノマー単位という用語は、そのモノマーから誘導される構成単位が、そのモノマーを用いて得られるポリマー中に含まれることを意味する。
【0022】
メタクリル酸アセトアセトキシエチルは、アセト酢酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル、メタクリル酸(2-アセトアセトキシ)エチル、AAEM及びエチレングリコールモノアセトアセテートモノメタクリレートとしても知られている。
【0023】
ポリマーは、水素化ポリマーであり得、これは、少なくとも部分的に水素化されていることから、完全に水素化されていることまでを意味し、水素化ポリマーは、ポリマーの水素化によって得られる。完全に水素化されるために、残留二重結合は、<1%であり、部分的に水素化されるために、残留二重結合は、<5~約6%である。
【0024】
ポリマーが水素化されない場合、モノマー単位のメタクリル酸アセトアセトキシエチルは、ポリマー中に3~10重量%の量で存在する。ポリマーが水素化される場合、モノマー単位のメタクリル酸アセトアセトキシエチルは、ポリマー中に0.5~7重量%の量で存在する。
【0025】
モノマー単位のメタクリル酸アセトアセトキシエチルは、好ましくは、前述の範囲内にあり、記載の範囲を超えると、ポリマーの製造中にモノマー単位のメタクリル酸アセトアセトキシエチルの自己重合が起こる。前述の範囲により、モノマー単位のメタクリル酸アセトアセトキシエチルがポリマー中に組み込まれることが保証される。
【0026】
ポリマーが水素化されない場合、ポリマーは、下記の重量%に基づくモノマー単位を含む。モノマー単位のアクリロニトリルは、ポリマー中に18~50重量%の量で存在する。モノマー単位の1,3-ブタジエンは、ポリマー中に40~80重量%の量で存在する。モノマー単位のメタクリル酸アセトアセトキシエチルは、ポリマー中に0を超え10重量%までの量で存在する。
【0027】
ポリマーが水素化されない場合、ムーニー粘度(100℃におけるML1+4)は、20~70MUの範囲内である。
【0028】
ポリマーが水素化される場合、ポリマーは、下記の重量%に基づくモノマー単位を含む。モノマー単位のアクリロニトリルは、ポリマー中に30~45重量%の量で存在する。モノマー単位の1,3-ブタジエンは、ポリマー中に50~65重量%の量で存在する。モノマー単位のメタクリル酸アセトアセトキシエチルは、ポリマー中に0.5~7重量%の量で存在する。
【0029】
ポリマーが水素化される場合、ムーニー粘度(100℃におけるML1+4)は、60~90MUの範囲内である。
【0030】
ポリマーが水素化されない一実施形態では、ポリマーは、アクリロニトリル41.2重量%、1,3-ブタジエン49.4重量%及びメタクリル酸アセトアセトキシエチル9.4重量%の好ましい重量%に基づくモノマー単位を含む。この実施形態は、非常に高い通過伝導率を示す(以下の実施例Fを参照されたい)。
【0031】
ポリマーが水素化されない一実施形態では、ポリマーは、アクリロニトリル41.2重量%、1,3-ブタジエン54重量%及びメタクリル酸アセトアセトキシエチル4.8重量%の好ましい重量%に基づくモノマー単位を含む。この実施形態は、非常に高い通過伝導率を示す(以下の実施例Dを参照されたい)。
【0032】
ポリマーが水素化される一実施形態では、ポリマーは、アクリロニトリル39.3重量%、1,3-ブタジエン59.9重量%及びメタクリル酸アセトアセトキシエチル6.3重量%の好ましい重量%に基づくモノマー単位を含む。この実施形態は、非常に高い通過伝導率を示す(以下の実施例Lを参照されたい)。
【0033】
ポリマーが水素化される一実施形態では、ポリマーは、アクリロニトリル40.3重量%、1,3-ブタジエン56.1重量%及びメタクリル酸アセトアセトキシエチル3.6重量%の好ましい重量%に基づくモノマー単位を含む。この実施形態は、非常に高い通過伝導率を示す(以下の実施例Kを参照されたい)。
【0034】
ポリマーが水素化されない一実施形態では、ポリマーは、アクリロニトリル45.9重量%、1,3-ブタジエン49.7重量%及びメタクリル酸アセトアセトキシエチル4.4重量%の好ましい重量%に基づくモノマー単位を含む。この実施形態は、非常に高い剥離強度を示す(以下の実施例Gを参照されたい)。
【0035】
ポリマーが水素化されない一実施形態では、ポリマーは、アクリロニトリル40.8重量%、1,3-ブタジエン54.5重量%及びメタクリル酸アセトアセトキシエチル4.1重量%の好ましい重量%に基づくモノマー単位を含む。この実施形態は、非常に高い剥離強度を示す(以下の実施例Cを参照されたい)。
【0036】
ポリマーが水素化される一実施形態では、ポリマーは、アクリロニトリル41重量%、1,3-ブタジエン52.7重量%及びメタクリル酸アセトアセトキシエチル3.8重量%の好ましい重量%に基づくモノマー単位を含む。この実施形態は、非常に高い剥離強度を示す(以下の実施例Mを参照されたい)。
【0037】
ポリマーの製造方法は、限定されず、その方法は、当技術分野で知られている方法によるものであり得る。ポリマーの製造方法は、溶液重合、懸濁重合、バルク重合及び乳化重合のいずれかであり得る。ポリマーの製造方法は、付加重合、例えばイオン重合、ラジカル及びリビングラジカル重合であり得る。
【0038】
水素化ポリマーの製造方法も同様に限定されない。水素化ポリマーの製造方法は、油層水素化又は水層水素化のいずれか1つであり得る。水素化ポリマーの製造に使用される水素化触媒は、当技術分野で知られている任意の水素化触媒、例えばパラジウムをベースとする触媒及びロジウムをベースとする触媒又はそれらの任意の組み合わせであり得る。
【0039】
さらなる一態様では、本発明は、蓄電池のための正極バインダーとしてのポリマーの使用に関する。このバインダーにより、蓄電池のための正極中に活物質及び伝導性材料が維持される。
【0040】
ポリマーを有機溶媒中に溶解及び/又は分散させてバインダー溶液を形成する。
【0041】
ポリマーは、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、粉砕機、超音波分散機、ホモジナイザー、遊星ミキサーを用いて溶解及び/又は分散前に粉砕することができる。このような装置は、バインダー溶液を形成するための有機溶媒中へのポリマーの溶解及び/又は分散を促進するために使用することもできる。
【0042】
有機溶媒は、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド及びアセトンであり得る。ポリマーの溶解性及び有機溶媒との相溶性(すなわち不都合な副反応が起こらない)が保証されるため、有機溶媒は、好ましくは、N-メチルピロリドン(NMP)である。
【0043】
次に、バインダー溶液は活物質及び伝導性材料と混合されて、カソードスラリー組成物が形成される。
【0044】
活物質は、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(Li-NMC、LNMC、NMC又はNCMと略記される)であり得、これは、リチウム、ニッケル、マンガン及びコバルトの混合金属酸化物である。活物質は、リン酸鉄リチウム(LFP)であり得る。活物質は、リチウムマンガン酸化物(LMO)であり得る。
【0045】
伝導性材料は、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック)、グラファイト(グラフェン)、炭素繊維(炭素ナノ繊維、カーボンナノチューブ(CNT)及び気相成長炭素繊維)及び炭素フレークなどの炭素材料であり得る。
【0046】
次に、カソードスラリー組成物は、集電体に塗布され、次に乾燥される。
【0047】
集電体への塗布は、ドクターブレーディング、ディップコーティング、リバースロールコーティング、ダイレクトロールコーティング、グラビアコーティング、押出コーティング、バーコーター及び刷毛塗りによるものであり得る。塗布後であるが、乾燥前の集電体上のカソードスラリー組成物の厚さは、適宜設定することができる。
【0048】
集電体は、電気伝導性及び電気化学的耐久性を有する材料である。集電体は、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金又は白金で作られ得る。集電体は、箔の形態であり得る。集電体は、好ましくは、その高伝導率、電気化学的及び化学的安定性並びに低コストであるという理由でアルミニウム箔である。
【0049】
集電体の少なくとも1つの表面に塗布されたカソードスラリー組成物の乾燥は、周囲圧力において暖かい、高温の又は低湿度の空気によって行われ、真空中での乾燥、赤外光照射による乾燥又は電子ビームを用いた乾燥を用いることもできる。
【0050】
乾燥後、集電体に塗布されたカソードスラリー組成物は、成形プレス又はロールプレスによってプレスすることができる。このプレスにより、乾燥した材料のより均一な層が得られる。
【0051】
正極バインダーとしてのポリマーを含む結果として得られた正極は、次に、蓄電池を形成するために組み立てられる。
【0052】
蓄電池は、正極及び負極と、それらの間のセパレーターとを積層し、電池容器内に積層体を入れるために蓄電池の形状により、得られた積層体の圧延又は折りたたみが必要な場合があり、電池容器への電解液の充填、次に電池容器の封止によって組み立てられる。
【0053】
蓄電池内部の圧力上昇及び過充電又は過放電の発生を防止するために、PTC装置若しくはヒューズなどの過電流防止装置、エキスパンドメタル(ニッケルスポンジなど)又は鉛板を必要に応じて用意することができる。
【0054】
蓄電池の形状は、コイン形、ボタン形、シート形、円筒形、角柱形又は平坦形であり得る。
【0055】
負極は、任意の既知の負極であり得、例えば炭素材料、例えば非晶質炭素、天然グラファイト、人造グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ピッチ系炭素繊維及びシリコン-グラファイト;伝導性ポリマー、例えばポリアセン又はポリアニリン;又は金属、例えば金属の合金を含めて、ケイ素、スズ、亜鉛、マンガン、鉄、リチウム(半電池の場合)及びニッケルであり得る。負極は、好ましくは、グラファイト又はシリコン-グラファイトである。
【0056】
セパレーターは、微多孔質膜又はポリアミド樹脂を含む不織布であり得る。微多孔質膜は、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン又はポリ塩化ビニル)で作られ得る。ポリオレフィン樹脂が好ましく、なぜなら、このようなセパレーター膜は、セパレーター全体の厚さを減少させることができ、蓄電池、最終的に蓄電池のサイズにおける活物質及び伝導性材料の比率が高くなるためである。
【0057】
電解液は、有機溶媒中に溶解する支持電解質の溶液である。支持電解質は、リチウム塩、例えばLiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C4F9SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO2)2NLi及び(C2F5SO2)NLiである。溶媒中に容易に溶解し、高い解離度を示すため、LiPF6が好ましい。有機溶媒は、カーボネート、例えばジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)及びメチルエチルカーボネート(EMC);エステル、例えばγ-ブチロラクトン及びギ酸メチル;エーテル、例えば1,2-ジメトキシエタン及びテトラヒドロフラン;並びに硫黄含有化合物、例えばスルホラン及びジメチルスルホキシドであり得る。
【0058】
試験方法
ポリマーのモノマー単位の微細構造及び含有量は、1H NMR分光法(XWIN-NMR 3.1ソフトウェアを有するBruker DPX400、400MHz、溶媒CDCl3)によって求められる。
【0059】
ムーニー粘度(100℃におけるML1+4)は、100℃においてDIN 53523/3又はASTM D 1646に準拠して剪断ディスク粘度計によって求められる。
【0060】
通過伝導率は、ポリマー試料を120℃において約0.5mmの膜厚までプレスすることによって測定される。次に、ASTM D257に準拠して、この膜に1000Vの電圧を5分間印加する。
【0061】
剥離強度は、ASTM D903に準拠して求められる。カソードシートを25mmの幅及び175mmの長さの試験ストリップに切断する。カソードシートのカソード材料で被覆された表面上に3Mビニル絶縁テープを接着した。Instron引張機により、100mm/分の速度で180°の方向でテープを剥離することで、試験ストリップに対する剥離強度試験を行った。この試験中の剥離力を記録した。剥離強度を、以下の式:
【数1】
により計算した。
【0062】
平均剥離強度は、50~200mmの変位のデータに基づいて計算され、3つの測定値の平均値を剥離強度値として採用した。剥離強度は、基準としてのPVDFを用いて計算され、以下の実施例では基準に対するパーセント値で示している。
【0063】
放電比容量 - 製造された蓄電池(コインセル)を、蓄電池の電圧が4.2Vに到達するまで、23℃において0.2Cのレートで充電する。続いて、23℃において、20分後、蓄電池の電圧が2.75Vに到達するまで、0.2Cのレートで定電流放電を行った。その後、定電流モード(CCモード、0.2Cのレート)で蓄電池の充電及び放電を行った。各サイクル間である。次に、蓄電池を5分間休止させた。5サイクルの平均として蓄電池の放電比容量を計算した。
【0064】
容量保持率 - 定電流モード(CCモード、0.2Cのレート)において、製造された蓄電池(コインセル)の充電及び放電を30サイクル行う。30サイクル後の放電比容量の、第2のサイクル後の放電比容量に対する比として容量保持率をパーセントの単位で求めた。
【実施例】
【0065】
本発明を以下の非限定的な実施例によって示す。
【0066】
以下の材料が、提供された状態で使用された:
Sigma-Aldrichのモノマー単位のアクリロニトリル、アクリル酸ブチル及びメタクリル酸アセトアセトキシエチル、INEOSの1,3-ブタジエン。
【0067】
溶液Fe(II)SO4:プレミックス溶液は、0.986gのFe(II)SO4*7H2O及び2.0gのRongalit(登録商標)Cを400gの水中に含有する。
【0068】
EDTA:Sigma-Aldrichの錯化剤として。
【0069】
脂肪酸:CAS 67701-08-8、重合用乳化剤。
【0070】
SDS:ドデシル硫酸ナトリウム CAS 151-21-3、重合用乳化剤。
【0071】
ロジン酸:不均化ロジン酸のNa塩 CAS 61790-51-0。
【0072】
t-DDM:Arlanxeo Deutschland GmbHの分子量調整剤。
【0073】
Trigonox(登録商標)NT50、Akzo-Degussaのp-メンタンヒドロペルオキシド。乳化重合用開始剤。
【0074】
ジエチルヒドロキシルアミン:重合停止剤、CAS 3710-84-7。
【0075】
酸化防止剤:Irganox(登録商標)1520 - 2-メチル-4,6-ビス(オクチルスルファニルメチル)フェノール(BASF AG、Germany)、Irganox(登録商標)1076 - n-オクタデシル-β-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチル-フェニル)-プロピオネート(BASF AG、Germany)及びWingstay(登録商標)L - ポリ(ジシクロペンタジエン-コ-p-クレゾール)(Omnova、Italy)の等量混合物。
【0076】
VWRの乾燥モノクロロベンゼン(MCB)。
【0077】
水素化触媒としてのMateria Inc.のウィルキンソン触媒及びVWRトリフェニルホスフィン。
【0078】
Jining WuJie Sci.Tech Co.,Ltd.のリチウム-ニッケル-コバルト-マンガン酸化物:活物質;(3/3/3タイプ、8.0~13.0μm)
【0079】
伝導性カーボンブラック:伝導性材料;TIMCAL companyのSuper P。
【0080】
アルミニウム箔:集電体;厚さ20μ;China Aluminium Shanxi New Material Co.製
【0081】
N-メチルピロリドン(NMP):溶媒;Shandong YunChangXin Chemical Tech.Co.の99.9%電池グレード
【0082】
リチウムディスク:アノード;China Energy Lithium Co.,Ltd.のφ16mm
【0083】
多孔質ポリオレフィンフィルム:セパレーターとして、厚さ38μm(Celgard 2340)、φ18mmのディスクに打ち抜かれる;Celgard製。
【0084】
電解液支持電解質LiPF6(Aldrich)。電解液:EC/DEC混合物中1M、EC/DEC=50/50(v/v)。エチレンカーボネート(EC):電解液として使用される有機溶媒:Aladdin Industrial Corporationの98%。ジエチルカーボネート(DEC):電解液として使用される有機溶媒:Shanghai Ning Feng Chemical Reagent Co.製のCPグレード、99.0%
【0085】
電池容器:コインセル:ケーシング;ShanXi LiZhiYuan Battery Material Co.の2032タイプ
【0086】
過電流防止装置:ニッケルスポンジ:1層当たりの厚さ1mm、各コインセルで4層を使用、Changsha LiYuan New Material Co.製
【0087】
3Mテープ:3M China Companyのビニル絶縁テープ(幅17.5mm)。
【0088】
本発明のポリマー(非水素化)の製造方法
以下では、モノマー単位のアクリロニトリル、1,3-ブタジエン及びメタクリル酸アセトアセトキシエチルを含むポリマー並びにそれらの水素化された種類のものの製造方法を説明する。
【0089】
モノマー単位のアクリロニトリル、1,3-ブタジエン及びアクリル酸n-ブチル((メタ)アクリル酸エステルモノマーとして)を含む、欧州特許第3605675号明細書による比較例モノマーの製造方法も説明する。アクリル酸n-ブチルは、本発明によるモノマー単位のメタクリル酸アセトアセトキシエチルに構造的に最も類似するとして選択した。
【0090】
モノマー単位のアクリロニトリル、1,3-ブタジエン及びメタクリル酸アセトアセトキシエチルを含むポリマーの製造に使用した成分は、表1によるものであった。
【0091】
【0092】
それぞれのポリマーは、撹拌機システムを有する5Lのオートクレーブ中においてバッチ式で製造した。それぞれのオートクレーブバッチで1.25kgのモノマー混合物、2.1kgの総量の水を使用し、Fe(II)SO4からのFe(II)に基づく等モル量のEDTAを使用した。この量の水の1.9kgを乳化剤(脂肪酸及び酸)とともにオートクレーブ中に投入し、窒素流をパージした。t-DDMを加え、反応器を閉じた。内容物を重合温度に到達させた後、溶液Fe(II)SO4プレミックス溶液及びTrigonox(登録商標)NT50を加えることによって重合を開始した。変換の重量測定によって重合を監視した。表1中に示す変換率に到達してから、ジエチルヒドロキシルアミンの25%水溶液を加えることによって重合を停止させた。
【0093】
未変換のモノマー(すなわち重合していない)及び残留揮発分を蒸気蒸留によって除去した。
【0094】
酸化防止剤の50%分散液をポリマーの分散液と混合し、固形分を17.5重量%に調整した。
【0095】
得られた分散液に激しく撹拌しながら60℃において一定pHの6で塩化カルシウムの水溶液(濃度0.34重量%)をゆっくり加えた。得られた凝固ポリマーを60℃の温度において水(酢酸又はHClでpH6に調整)で洗浄し、真空オーブン中で16時間乾燥させて、それぞれのポリマーが得られ、それらのモノマー単位含有量及びムーニー粘度を表1a中に示す。
【0096】
【0097】
本発明の水素化ポリマー及び水素化された比較例の製造方法
以下では、モノマー単位のアクリロニトリル、1,3-ブタジエン及びメタクリル酸アセトアセトキシエチルを含む水素化ポリマーの製造方法を説明する。
【0098】
モノマー単位のアクリロニトリル、1,3-ブタジエン及びアクリル酸n-ブチル((メタ)アクリル酸エステルモノマーとして)を含む、欧州特許第3605675号明細書による比較用の水素化された例のポリマー(O*)の製造方法も説明される。アクリル酸n-ブチルは、本発明によるモノマー単位のメタクリル酸アセトアセトキシエチルに構造的に最も類似するとして選択した。
【0099】
使用した成分は、表2によるものであった。
【0100】
【0101】
水素化は、10Lの高圧反応器中において以下の条件下で行った。
固体濃度:MCB中12~13重量%のポリマー
反応器温度:137~140℃
反応時間:最長4時間
触媒:ウィルキンソン触媒、共触媒としてトリフェニルホスフィン
水素圧:8.4MPa
撹拌機速度:600rpm
【0102】
激しく撹拌しながら、H2(23℃、2MPa)を用いてポリマー溶液を3回脱気した。反応器の温度を100℃まで上昇させ、H2圧を6MPaまで上昇させた。ウィルキンソン触媒及び共触媒からなるモノクロロベンゼン溶液を加え、圧力を8.4MPaまで上昇させながら、反応器温度を137~140℃に調節した。反応中は、温度及び圧力を一定に維持した。IR分光法によって残留二重結合含有量を測定することによって反応の経過を監視した。
【0103】
残留二重結合含有量が<5%に到達したとき、水素圧を開放することによって反応を停止させた。
【0104】
得られた水素化ポリマーは、蒸気凝固によって溶液から単離した。このために、ポリマー含有量が7重量%になるまでモノクロロベンゼン溶液を希釈し、水が入れられ、あらかじめ100℃に加熱された撹拌ガラス反応器中に連続的に計量供給した。同時に、凝固の水中に導入するために0.5barの蒸気を使用した。小片として沈殿したポリマーから水を除去し、次に真空下55℃で乾燥させた。
【0105】
表2a中に示されるそれぞれの水素化ポリマー、モノマー単位含有量、残留二重結合の%及びムーニー粘度である。水素化反応前、その間及びその後のポリマーのスペクトルをPerkin Elmer spectrum 100 FT-IR分光計上に記録した。
【0106】
モノクロロベンゼン中のポリマーの溶液をKBrディスク上にキャストし、乾燥させて試験用の膜を形成した。ASTM D 5670-95の方法に準拠して、FT-IR分析によって水素化変換率が求められる。
【0107】
【0108】
通過伝導率
通過伝導率を測定し、結果を表3中に示している。バインダー材料としてPVDFを有するさらなる比較例に留意されたい。
【0109】
【0110】
表3の結果は、PVDF又はハロゲンを含まないO*水素化ニトリルゴムと比較して、本発明によるポリマーが少なくとも同程度又はさらにより良好な電極の通過伝導率を維持することを示している。
【0111】
密度
密度を測定し、それらの結果を表4中に示している。バインダー材料としてPVDFを有するさらなる比較例に留意されたい。
【0112】
【0113】
表4の結果は、PVDF又はハロゲンを含まないO*水素化ニトリルゴムと比較して、本発明によるポリマーが少なくとも同程度及びより低い密度を維持し、したがってそのような電極が保証されることを示している。
【0114】
コインセルの製造
それぞれの本発明によるポリマー及び比較用ポリマーを含むコインセルを以下の一般方法により製造した。
【0115】
溶解:室温においてシェーカー中で終夜、ある量のポリマーを溶媒(NMP)中に溶解させて、5重量%のバインダー溶液を形成した。
【0116】
カソードスラリー組成物の調製:それぞれのバインダー溶液を活物質(NMC111)及び伝導性材料(伝導性カーボンブラックSuperP)と遊星ボールミル(粉砕条件:28Hz、6分、室温)中で混合して、カソードスラリー組成物(活物質/ポリマー/伝導性材料の重量比=80/10/10)を得た。
【0117】
カソードディスクの製造:バーコーターを用いてカソードスラリー組成物を集電体(アルミニウム箔)上に2.8mm/sの速度で塗布して、150μmのコーティング厚さのカソードシートを形成した。
【0118】
乾燥:カソードシートをオーブン中80℃で120分間乾燥させて、溶媒及び水分を除去した。乾燥後、カソードシートをカレンダー加工して、面密度(重量:12~19mg/ディスク;ディスク面積:201mm2;密度:60~95g/m2)を調節した。ShenZhen PengXiang YunDa Machinery Technology Co.の機械のModel:PX-CP-S2を用いて乾燥させたカソードシートからカソードディスク(φ16mm)を打ち抜いた。
【0119】
リチウムイオン蓄電池コインセルの組み立て:リチウムイオン蓄電池の組み立て及びプレス加工は、グローブボックス中で行った。この組立体は、コインセルケーシング上部(2032タイプ;負側)、ニッケルスポンジ、リチウムディスク(アノードとして)、多孔質セパレーター(Celgard 2340)、カソードディスク及びケーシング底部(正側)を含む。すべての部品を層ごとに組み立てた。組み立て中に電解液を加えて、コインセルの自由体積を完全に満たした。グローブボックス中でプレス機械によってこのコインセルケースをプレスした。
【0120】
剥離強度
剥離強度を測定し、その結果を表5中に示した。基準としてのPVDFに対する%の単位であることに留意されたい。
【0121】
【0122】
表5の結果は、PVDF又はO*と比較して、本発明によるポリマーが電極の高い剥離強度を有し、本発明による水素化ポリマーでさらに良好であることを示している。
【0123】
セルの放電比容量及び容量保持率
本発明によるポリマーを含むセルの放電比容量及び容量保持率を測定し、結果を表6中に示した。
【0124】
【0125】
表6の結果は、本発明によるポリマーは、充電、放電及び再充電に耐えることができ、容量保持率を維持できることを示している。
【0126】
このように本発明及びその利点について説明してきたが、本明細書に開示される本発明の種々の及び実施形態は、本発明の作製及び使用のための特定の方法の単なる例であることを認識すべきである。
【0127】
添付の請求項及び上記の詳細な説明を考慮すると、本発明の種々の態様及び実施形態は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0128】
特許証により保護されることが望まれる内容は、以下の請求項に記載される。
【国際調査報告】