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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】有機官能化無機基材を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/00 20060101AFI20240711BHJP
   C01G 23/047 20060101ALI20240711BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20240711BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20240711BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240711BHJP
   B05D 3/04 20060101ALI20240711BHJP
   B05D 3/10 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
B05D7/00 C
C01G23/047
B01J20/30
B01J20/06 A
B05D7/24 302Z
B05D3/04 A
B05D3/10 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500365
(86)(22)【出願日】2022-07-05
(85)【翻訳文提出日】2024-02-16
(86)【国際出願番号】 EP2022068585
(87)【国際公開番号】W WO2023280850
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】21184075.6
(32)【優先日】2021-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520233386
【氏名又は名称】フィート エンフェー
(71)【出願人】
【識別番号】518108988
【氏名又は名称】ウニベルシテイト・アントウェルペン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヴェラ・メイネン
(72)【発明者】
【氏名】イェルン・ヴァン・デイク
(72)【発明者】
【氏名】アニタ・ビュケンホート
(72)【発明者】
【氏名】ヘルマン・ベッケルス
【テーマコード(参考)】
4D075
4G047
4G066
【Fターム(参考)】
4D075AB01
4D075AB54
4D075BB24X
4D075BB57X
4D075BB65X
4D075BB65Z
4D075BB93X
4D075DA04
4D075DA06
4D075DA11
4D075DB11
4D075DB14
4D075DC19
4D075DC21
4D075EB43
4D075EC08
4G047CA02
4G047CB05
4G047CD03
4G066AA21B
4G066AA23B
4G066AA33D
4G066AA36D
4G066BA01
4G066BA03
4G066BA09
4G066EA01
4G066EA13
4G066EA20
4G066FA02
4G066FA11
4G066FA17
4G066FA34
(57)【要約】
本発明は、前記無機基材の表面は、金属又はメタロイドである元素Mを含む水酸化物及び/又は酸化物を含む、有機官能化固体無機基材を製造する方法を開示する。方法は、前記表面を乾燥する工程;任意選択的に前記表面からプロトンを除去する工程;及び、前記表面を、少なくとも1個の有機官能性部分を含む有機金属試薬と接触させ、それによって有機官能化無機基材を得、少なくとも1個の有機官能性部分は、水酸化物及び/又は酸化物の元素Mに直接M-C結合によって結合される工程であり、乾燥工程が前記表面を、不活性ガスを含むフローと接触させる工程を含む、工程を含む。本発明の方法によって得られた有機官能化無機基材は、膜、触媒、収着媒、センサー又は電子部品として、又は、濾過、吸着、クロマトグラフィー及び/又は分離プロセス中の基材として使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機基材の表面が水酸化物及び/又は酸化物を含み、前記水酸化物及び/又は前記酸化物が金属又はメタロイドである元素Mを含む、有機官能化固体無機基材を製造する方法であって、
(i)前記表面を乾燥する工程、
(ii)任意選択的に前記表面からプロトンを除去する工程;及び、
(iii)前記表面を、少なくとも1個の有機官能性部分を含む有機金属試薬と接触させる工程であり、前記少なくとも1個の有機官能性部分は、酸素架橋を含まない直接M-C結合によって、前記水酸化物及び/又は前記酸化物の元素Mに結合され、それによって前記有機官能化無機基材を得る工程、を含む方法において、
前記乾燥工程が、前記表面を不活性ガスを含むフローと接触させる工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記乾燥工程が少なくとも大気圧で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記表面を不活性ガスを含む前記フローと接触させる工程が、少なくとも90℃、好ましくは少なくとも100℃、より好ましくは少なくとも150℃、最も好ましくは少なくとも200℃、特に少なくとも250℃の温度で実行される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記不活性ガスが、窒素、乾燥空気、貴ガス、特にアルゴン(Ar)又はヘリウム(He)、及びそれらの任意の2種以上の混合物からなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(ii)前記表面を、プロトンと反応することができる試薬と前記表面で接触させることを含む、前記表面からプロトンを除去する工程を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記試薬が、アルコール、オルガノホスホナートエステル、オルガノホスホン酸エステル、オルガノホスフィン酸、カルボン酸又はカルボキシラートである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記試薬が、ガス、蒸気、エアロゾル又は液体として前記表面と接触される、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記不活性ガスを含む前記フローが、前記表面を乾燥する工程及び前記表面からプロトンを除去する工程を同時に遂行するように前記試薬を更に含む、請求項5から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記不活性ガスが前記試薬の液体浴に通して泡立たせられ、又は、前記試薬が前記不活性ガスを含む前記フロー中で噴霧され、それによって前記不活性ガス及び前記試薬を含む前記フローを得る、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記表面を前記有機金属試薬と接触させることを含む、前記表面からプロトンを除去する工程を含み、好ましくは、前記表面を前記有機金属試薬と接触させる工程は、前記表面からのプロトン除去及び前記有機官能化無機基材の取得を得る工程を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記有機金属試薬が式R1-M1、R1-M1-X又はR1-M1-R2[式中、R1及びR2は有機官能基であり、R1及びR2は異なり又は同一であり、M1はLi又はMgであり、Xはハロゲンである。]に対応する、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記元素Mが、IVb族遷移金属、IVa族金属又はメタロイドである、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
洗浄工程を更に含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記固体無機基材が粉末、粒子、成形された基材、被覆されたフィルム又は膜である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に従って有機官能化固体無機基材を製造する工程、及び前記有機官能化固体無機基材を膜、触媒、収着媒、センサー又は電子部品として利用する工程を含む方法。
【請求項16】
請求項1から14のいずれか一項に従って有機官能化固体無機基材を製造する工程、及び濾過、吸着、クロマトグラフィー及び/又は分離プロセスを遂行する工程を含み、前記有機官能化固体無機基材が前記プロセスで基材として利用される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機官能化無機基材を製造する方法に関する。特に、本発明は、無機基材の表面に含まれる金属又はメタロイド水酸化物及び/又は金属又はメタロイド酸化物をグリニャール試薬等の有機金属試薬を用いて改質する方法を提供する。本発明は更に、本発明の方法によって得られた有機官能化無機基材の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス材料、例えば膜、成形支持体又は担体材料、被覆された層又は粉末は、それらの混合物を含む、シリカ、チタニア及びジルコニア酸化物等、無機材料から製造される。ポリマー状膜と比較して、セラミック膜は、それらは化学的に不活性であり、高い機械的、熱的、化学的及び熱水安定性を特色とするといういくつかの利点を示す。セラミックス材料は、高温及び腐食環境等の極端な加工条件で頑丈であると知られており、長い使用寿命を示す。したがって、表面改質セラミックスは、安定性又は特定の親和性が必要とされるプロセスで、並びに耐薬品性が必要であるそれらの用途において使用するのに適切である。
【0003】
セラミック膜は通常、無機基材、元素Mの水酸化物及び/又は酸化物を含むその表面からなる。元素Mは、通常、金属、例えば、遷移金属又はメタロイドであるが、必ずしもそうとは限らない。表面での元素Mのヒドロキシル基及び/又は酸化物基の存在の結果として、ほとんどの無機基材は親水性の傾向がある。しかしながら、有機分子及びそれらの官能基によって得ることができる官能基の多様性と比較すると、無機基材が果たすことができる相互作用の多様性は限定的である。結果的に、これは、特定の用途向け無機基材の使用には限定要因となる。したがって、意図した用途を考慮して表面の性質を適応させる必要性がある。
【0004】
表面の性質は、特に化学的表面改質、官能化又はグラフト化とも言われる表面改質によって変えることができる。親水性の特質は、有機官能基等の他の基による無機基材の表面の、さらなる疎水基の付加及び/又はヒドロキシル基(-OH)の置き換え又は立体障害によって、より疎水性に改質することができる。変化させることができる他の表面の性質は、例えば、選択吸着又は相互作用部位、固定化の係留位置、キラル部位、さらなる改質のための反応部位等の存在及び/又は数である。
【0005】
オルガノシラン、オルガノホスホン酸又は有機金属試薬との共縮合反応又はグラフト化反応を伴う方法を含む様々な方法が、固体無機基材等の無機基材の表面改質として報告されている。
【0006】
米国特許出願公開第2006/0237361号は、オルガノシラン試剤を用いるセラミック膜の含浸の方法を開示している。オルガノシラン試剤は、一般式R1R2R3R4Si [式中、少なくとも1個のR基は加水分解可能な基であり、少なくとも1個のR基は、少なくとも部分的にフッ素化することができる、非加水分解可能な基、例えばアルキル基、フェニル基である。]のものである。基材表面に水酸化物(-OH)基を有する加水分解可能な基の縮合反応で、酸素架橋を含むM-O-Si-R結合によって表面にオルガノシラン試剤を結合する。しかし、これらの酸素架橋は、加水分解を受けやすく、使用中に基材から有機官能基の浸出をもたらし得ることが知られている。
【0007】
'Optimization of reaction conditions for the metalorganic modification of MCM-41', S. Angloher, J. Kecht et al., Chem. Mater. 19, 3568-3574頁(2007年)は、周期性メソポーラスシリカでの有機金属試薬のグラフト化を開示している。基材は、150℃で15時間真空下で乾燥され、その後にグラフト化は、有機リチウム又はグリニャール試薬、例えばn-ブチルリチウム又はアリルマグネシウムブロミドを使用して、溶媒、例えばn-ヘキサン又はテトラヒドロフラン(THF)中で-78℃から68℃の間の変動する温度、及び2時間から24時間の間の持続時間遂行される。Si-R結合は、シロキサン橋架けのシリコン原子で有機金属試薬の直接攻撃によって形成される。
【0008】
'Synthesis - properties correlation and the unexpected role of the titania support on the Grignard surface modification', J. Van Dijck, P. Mampuys et al., Applied Surface Science 527 (2020年) 146851は、チタニア支持体の表面でのグリニャール試薬のグラフト化を開示している。チタニア支持体は、まず10-4mbar、190℃で16時間乾燥され、続いてグリニャール試薬、特にエチルマグネシウムブロミド、プロピルマグネシウムクロリド又はオクチルマグネシウムクロリドと、室温で72時間の期間乾燥したテトラヒドロフラン(THF)中で反応させる。
【0009】
国際公開第2010/106167号は、有機官能化無機マトリックスを得る方法を開示している。方法は、高温で無機マトリックスを真空乾燥する工程、乾燥した無機マトリックスの表面をアルコール等の液体試薬と、液体試薬中にマトリックスを沈めることによって反応させてマトリックスの表面からプロトンを除去する工程、過剰の液体試薬を除去する工程、及びマトリックスを有機金属試薬と反応させる工程を含む。有機金属試薬と反応すると、試薬の1個又は複数の有機官能基は、直接M-C結合によって無機マトリックスの表面に結合(グラフト化)される。合計プロセス時間は数日を含む。
【0010】
無機基材すべてに官能基を結合するために有機金属試薬のグラフト化を使用する前述の方法は、有機金属試薬を用いるグラフト化前に基材表面に存在するすべての水を除去するために高温と組み合わせて真空圧力で乾燥工程の形をとる長期の乾燥工程を含み、そうしなければ有機金属試薬と反応し、表面への結合に利用可能な反応体の量が減少することは注目される。この望ましくない副反応の克服のために、最新の方法では、高温と組み合わせた長期の乾燥によって先行技術方法がコスト、エネルギー及び時間の観点で高価になることを報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0237361号
【特許文献2】国際公開第2010/106167号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】'Optimization of reaction conditions for the metalorganic modification of MCM-41', S. Angloher, J. Kecht et al., Chem. Mater. 19, 3568-3574頁(2007年)
【非特許文献2】'Synthesis - properties correlation and the unexpected role of the titania support on the Grignard surface modification', J. Van Dijck, P. Mampuys et al., Applied Surface Science 527 (2020年) 146851
【非特許文献3】'Novel grafting method efficiently decreases irreversible fouling of ceramic nanofiltration membranes', G. Mustafa, K. Wyns et al., Journal of Membrane Science 470 (2014年) 369-377頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の欠点の1つ又は複数を克服することを目的とする。本発明の目的は、有機官能化固体無機基材を製造するための改良方法を提供することであって、以下の利点の1つ又は複数を有する:それは、工業規模へのスケールアップによりよく適し、より経済的であり、それほど複雑でなく、より短い合計加工時間であり、エネルギー消費量を削減し、加工工程の数を削減する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、本発明の第1の態様によると、添付された特許請求の範囲に記載された方法を提供するものである。本明細書に記載される方法は、固体無機基材を有機官能化無機基材に変換することを可能にする。固体無機基材の表面は水酸化物及び/又は酸化物を含む。水酸化物及び/又は酸化物は、金属又はメタロイドである元素Mを含む。方法は、(i)無機基材の表面を乾燥する工程;(ii)任意選択的に表面からプロトンを除去する工程;及び、(iii)無機基材の表面を、少なくとも1個の有機官能性部分を含む有機金属試薬と接触させ、それによって有機官能化無機基材を得る工程、を含む。少なくとも1個の有機官能性部分は、直接M-C結合によって、水酸化物及び/又は酸化物の元素Mに結合される。乾燥工程は、無機基材を不活性ガスを含むフローと接触させることを含む。
【0015】
直接M-C結合は、MとCの間に酸素架橋を含まない。理論に拘束されることを望むわけではないが、本発明者らは、直接M-C結合がM-C共有結合又は配位結合になり得ると考える。
【0016】
有利には、乾燥工程は、少なくとも大気圧で行われる。
【0017】
有利には、表面を、不活性ガスを含むフローと接触させる工程は、少なくとも90℃、例えば少なくとも95℃、好ましくは少なくとも100℃、例えば少なくとも125℃、より好ましくは少なくとも150℃、例えば少なくとも175℃、最も好ましくは少なくとも200℃、例えば少なくとも225℃、特に少なくとも250℃の温度で行われる。
【0018】
有利には、不活性ガスは、窒素、乾燥空気、貴ガス、又はそれらの任意の2種以上の混合物である。貴ガスが使用される場合、それは好ましくはアルゴン(Ar)又はヘリウム(He)である。有利には、不活性ガスを含むフローは乾燥したフローである。各工程の混合物の含水率に応じて、当業者は、ガスフロー中に許される最大の水濃度を決定する能力がある。例えば、不活性ガスフローは、5体積%と等しいかそれ以下の水、好ましくは1体積%と等しいかそれ以下の水、より好ましくは0.1体積%と等しいかそれ以下の水、例えば500ppmと等しいかそれ以下の水、又は100ppmと等しいかそれ以下の水を含んでもよい。
【0019】
有利には、本発明の方法はまたプロトン除去工程を含む。プロトン除去工程は、固体無機基材の表面を、プロトンと反応することができる試薬と表面で接触させることを含む。有利には、表面を試薬と接触させると、反応性プロトンが表面から除去される。試薬は、基材の表面からプロトンを除去するために当業者が適切であると考える任意の試薬であってもよい。適切な試薬の例は、アルコール、オルガノホスホナートエステル、オルガノホスホン酸エステル、オルガノホスフィン酸エステル、オルガノホスフィン酸、又はカルボン酸若しくはカルボキシラートを含む。
【0020】
プロトン除去工程の間、試薬は、ガス又は蒸気、すなわち蒸気相又は気相中の試薬であってもよい。本発明の観点では、ガス及び蒸気という単語は、同じ意味で使用され、揮発した状態(したがって、液体でも固体でもない)の試薬を指す。或いは、又は更に、試薬は液体試薬又はエアロゾルであってもよい。例えば、無機基材の表面は、蒸気相中の第1の試薬、及び液体形態中の第2の試薬、すなわち溶液に接触することができる。
【0021】
実施形態によると、不活性ガスを含むフローは、乾燥工程及びプロトン除去工程が同時に行われるような、すなわち、乾燥及びプロトン除去が同時に得られるような試薬を更に含む。好ましくは、不活性ガスを含むフロー中に含まれる試薬は、蒸気として存在する。不活性ガス及び気体試薬又は蒸気相中に試薬を含むフローは、当業界で公知の方法によって得ることができる。例えば、試薬の液体浴に通して不活性ガスを泡立たせることによって、不活性ガスを含むフロー中の試薬を噴霧することによって、又は試薬を蒸発させ、続いて、蒸発した試薬を不活性ガス(加熱して蒸発した試薬の凝結を回避することができる)のフローと混合することによって、フローを得ることができる。
【0022】
別の実施形態によると、無機基材の表面からプロトンを除去する工程は、表面を有機金属試薬と接触させることを含む。言いかえれば、有機金属試薬は、この実施形態によると、表面でプロトンと反応する能力のある試薬である。有利には、有機金属試薬は、溶媒中の有機金属試薬の溶液等の液体である。
【0023】
プロトンの除去に使用される有機金属試薬は、無機基材の表面と接触させて有機官能化無機基材を得るために使用される有機金属試薬と同じであっても異なっていてもよい。例えば、好ましくは液体相中の第1の有機金属試薬、例えば第1の溶媒中の第1の有機金属試薬の溶液は、表面からプロトンを除去するために使用することができ、好ましくは液体相中の第2の有機金属試薬、例えば有利には少なくとも1個の有機官能性部分を含む、第2の溶媒中の第2の有機金属試薬の溶液はまた、反応させて有機官能化固体無機基材を得るために使用することができる。
【0024】
さらなる実施形態によると、表面からプロトンを除去するために、同時に、すなわち、2種以上の試薬に同時に表面を晒すことによって、引き続いて、すなわち、第1の試薬に、引き続いてさらなる試薬に表面を晒すことによって、又は同時と後続のプロトン除去と組み合わせて、すなわち2種以上の試薬に同時に表面を晒し、続いて2種以上のさらなる試薬への同時の後続の曝露によって2種以上の試薬を使用することができる。例えば、第1の試薬は、不活性ガスのフロー中に含まれるガス又は蒸気であってもよく、第2の試薬は、液体試薬、例えば、有機金属試薬、好ましくは溶媒中の有機金属試薬の溶液、より好ましくは溶媒に希釈された有機金属試薬の溶液であってもよい。
【0025】
好ましくは、有機金属試薬は、式R1-M1、R1-M1-X又はR1-M1-R2の成分である。有利には、R1及びR2は有機官能基である。R1及びR2は異なっていても同一であってもよい。有機金属試薬は、また式M1(R1、R2、R3)の成分であってもよく、ここで、R1及びR2は上記に定義された通りであり、R3は有機官能基であり、R1及び/又はR2は異なっていても同一であってもよい。有利には、M1は、Ia族元素、IIa族元素又はAl、特にLi、Mg又はAlである。有利には、Xはハロゲンである。
【0026】
有利には、元素Mは、IVb族金属、すなわち、IVb族遷移金属、IVa族金属、又はIVa族メタロイドである。
【0027】
方法は洗浄工程を更に含むことができる。有利には、洗浄工程は、存在する何らかの塩、又は表面を有機金属試薬と接触させた後固体無機基材の表面に残った何らかの塩を除去する。
【0028】
本開示は、添付された特許請求の範囲に記載された有機官能化無機基材の使用を更に提供する。有機官能化無機基材は、膜、触媒、収着媒、センサー又は電子部品として使用することができ、それらに限定されない。有機官能化無機基材は、更に濾過、吸着、クロマトグラフィー及び/又は分離プロセス中で基材として使用することができる。
【0029】
直接M-C結合による無機基材の表面改質の当技術分野において、無機基材の含水率、及び表面の反応性で、通常酸性のプロトンの濃度は、基材が反応にかけられるとき可能な限り低くなければならないと見なされている。その根拠は、基材に残存する水、及び、表面に存在する反応性で、通常酸性のプロトンは、所望の有機表面改質を達成することができない程度に有機金属反応体と反応すると見なされるということである。その他に、除去されなければならず、望まれない大量の塩の形成が予想される。ここでは、所望の程度の有機表面改質を、それほど長期でない乾燥が実行されても基材がなお水を多少含有していてさえ、それにもかかわらず達成することができることが見いだされた。したがって、本開示による方法において、高価で時間がかかる(高度の)真空乾燥を遂行する必要がなく、省略することができる。更に、別個のプロトン除去工程は省略することができ、プロトン除去は、十分な程度に有機金属反応体によって果たすことができることが見いだされた。それによって、望ましくない塩形成は無視できることが見いだされた。これは驚くべきことである。
【0030】
理論に拘束されることを望むわけではないが、官能化工程の間に有機金属試薬の一部は残存する水と反応するが、いかなる残存する水分子との有機金属試薬の反応も、表面に存在する水の量が限定的である限り、基材の表面を官能化することができる程度を著しくは低減しないと考えられる。表面の多少の水分子の存在は、また望まれない程度の塩形成を引き起こさない。
【0031】
結果的に、本開示の方法において、したがって、乾燥工程はより短くてもよく、低温で遂行することができ、及び/又は、(高)真空条件下で遂行する必要はない。これによって、より短い持続時間、より低いエネルギー消費量を有する、及び/又は必要とする設置経費が削減された乾燥工程及び全体プロセスをもたらす。したがって、本開示の方法は、最先端技術の方法ほど複雑でなく、工業規模により容易なスケールアップを可能にする。
【0032】
本開示の態様は、実質的に本明細書において記載される有機官能化固体無機基材の製造、及び、有機官能化固体無機基材の、膜、触媒、収着媒、センサー又は電子部品としての利用に関する。本開示の態様は、実質的に本明細書において記載される有機官能化固体無機基材の製造、及びプロセスにおいて基材としての有機官能化固体無機基材の利用を含む、濾過、吸着、クロマトグラフィー及び/又は分離プロセスに関する。
【0033】
本発明の態様はここで、添付された図面を参照してより詳細に記載され、同じ参照番号は同じ特徴を図示する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の第1の実施形態による方法のプロセス工程を概略的に表す。
図2】本発明の第2の実施形態による方法のプロセス工程を概略的に表す。
図3】本発明の第3の実施形態による方法のプロセス工程を概略的に表す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の態様によると、有機基を用いて無機基材を官能化する方法が提供される。
【0036】
無機基材の表面は、水酸化物及び/又は酸化物を含み、水酸化物及び/又は酸化物は元素Mを含む。元素Mは金属又はメタロイドである。特に、水酸化物はMの水酸化物であってもよく、及び/又は、酸化物はMの酸化物であってもよい。
【0037】
有利には、元素MはIVb族金属又はIVa族金属である。好ましくは、金属Mはスズ(Sn)である。或いは、元素Mは、IVb族遷移金属、特にチタン(Ti)又はジルコニウム(Zr)である。
【0038】
有利には、元素Mは、IVa族メタロイド、例えばシリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、アンチモン(Sb)又はテルル(Te)である。メタロイドの好ましい例はシリコン(Si)である。
【0039】
酸化物及び/又は水酸化物は、上記元素Mの組み合わせ、特に、上記の金属及び/又はメタロイドの組み合わせを含むことができる。
【0040】
無機基材の表面は、2種以上の異なる水酸化物及び/又は2種以上の異なる酸化物を含むことができ、それぞれ異なる元素M、又は元素Mの異なる組み合わせを含む。例えば、固体無機基材の表面は、シリカ及びチタニアの組み合わせ、すなわちSiを含む酸化物と、Tiを含む酸化物の組み合わせを含むことができる。
【0041】
元素Mを含む酸化物は、無機基材のバルク全体にわたって存在することができる。特に、無機基材は(実質的に)酸化物からなる。或いは、元素Mを含む酸化物は、無機基材の(曝露された)表面を含む表面層中に用意することができる。可能性として、表面層に隣接するバルク層は、実質的に酸化物を含まないことがある。しかし、バルク層は、例えば酸化化合物でない元素Mを含むことができる。例えば、バルク層は、炭化ケイ素(SiC)であってもよく、又は実質的にそれを含むことができ、最上層は、実質的に二酸化ケイ素(SiO2)を含むことができる。
【0042】
元素Mを含む水酸化物は、有利には無機基材の(曝露された)表面を、すなわちヒドロキシル基(-OH)の形態で含む表面層に用意される。表面層に隣接するバルク層は水酸化物を含有していてもよいが、表面に隣接するバルク層中の水酸化物の量は、好ましくは可能な限り小さく、又は、表面に隣接するバルク層は実質的に水酸化物を含まない。可能性として、バルク層は、水酸化物以外の化合物として、元素Mを、例えば、酸化物又は炭化物として含むことができる。
【0043】
無機基材は、多孔質、例えば、多孔質膜、多孔質粒子を含む粉末、多孔質粒子又は多孔質ビーズであってもよい。無機基材は高い又は低い空隙率を有することができ、又は、それは非多孔質であってもよい。無機基材は、チューブ、膜等のシート、ディスク、中空ファイバー、毛細管、微粒子粉末、ビーズ、中空シェル、被覆されたフィルムの形、又は有利には溶液中の物質又はガスに浸透性のある他の形状であってもよい
【0044】
図1を参照すると、本発明の方法の第1の実施形態10を表し、工程1において固体無機基材が用意される。固体無機基材は乾燥工程2で乾燥される。乾燥工程2は、無機基材を、不活性ガスを含むフローと接触させることを含む。特に、無機基材の曝露された表面は乾燥工程2にかけられる。
【0045】
有利には、不活性ガスは、窒素、乾燥空気、貴ガス、又はそれらの任意の2種以上の混合物である。貴ガスが使用される場合、それは好ましくはアルゴン(Ar)又はヘリウム(He)である。好ましくは、不活性ガスは窒素、乾燥空気又はアルゴンである。有利には、フローは、少なくとも75体積%、例えば、少なくとも80体積%、より好ましくは少なくとも90体積%、例えば、少なくとも95体積%、少なくとも96体積%、少なくとも97体積%、少なくとも98体積%、最も好ましくは少なくとも99体積%、例えば99.5体積%、99.9体積%の不活性ガスを含む。好ましくは、不活性ガスを含むフローは、実質的に1種又は複数の不活性ガスからなる。
【0046】
有利には、不活性ガスを含むフローは乾燥したフローである。各工程の混合物の含水率に応じて、当業者は、ガスフロー中で許される最大の水濃度を決定する能力がある。例として、ガスフローは、5体積%と等しいかそれ以下の水、好ましくは1体積%と等しいかそれ以下の水、より好ましくは0.5体積%と等しいかそれ以下の水、例えば0.1体積%と等しいかそれ以下の水、例えば750ppmと等しいかそれ以下の水、500ppmと等しいかそれ以下の水、250ppmと等しいかそれ以下の水、又は100ppmと等しいかそれ以下の水を含んでもよい。
【0047】
有利には、不活性ガスを含むフローの流速、すなわちガス流速は、少なくとも5ml/分、例えば少なくとも10ml/分、好ましくは少なくとも15ml/分、例えば少なくとも20ml/分、少なくとも25ml/分、少なくとも30ml/分、少なくとも40ml/分、少なくとも50ml/分、少なくとも75ml/分、少なくとも100ml/分、少なくとも125ml/分、少なくとも150ml/分、少なくとも175ml/分、少なくとも200ml/分、少なくとも250ml/分、少なくとも300ml/分、少なくとも350ml/分、少なくとも400ml/分、少なくとも500ml/分、少なくとも600ml/分、少なくとも700ml/分、少なくとも750ml/分、少なくとも800ml/分、少なくとも900ml/分、又は少なくとも1000ml/分である。理解されるように、最適なガス流速は、無機基材、特にその組成、形状(例えば膜又は粉末)、質量、厚さ、表面積、及び空隙率(多孔質であるとき)、更に使用される装置、特に、乾燥区画、乾燥温度及び不活性ガス、特にその組成に依存するが、それらに限定されない。
【0048】
有利には、乾燥工程は、大気圧と等しいかそれ以上の圧力で遂行される。有利には、乾燥工程は真空処理を含まない。理解されるように、最適な圧力は、無機基材の性質、特に、その組成、形状(例えば膜又は粉末)、質量、厚さ、表面積、及び空隙率(多孔質である場合)、更に乾燥を行うために使用される装置、特に乾燥区画、乾燥温度及び不活性ガスの性質に依存するが、それらに限定されない。
【0049】
有利には、(少なくとも)、無機基材の表面は、少なくとも90℃、例えば95℃、好ましくは少なくとも100℃、例えば110℃、120℃、125℃、130℃、140℃、150℃、160℃、170℃、175℃、180℃、190℃、より好ましくは少なくとも200℃、例えば210℃、220℃、225℃、230℃、240℃、更により好ましくは、少なくとも250℃、例えば260℃、270℃、275℃、280℃、290℃、又は300℃以上の温度で不活性ガスを含むフローと接触される。
【0050】
本発明者らは、90℃未満の温度で無機基材の表面を、不活性ガスを含むフローと接触させると、さらなる加工工程のための無機基材、及び本発明の方法を用いて得られる有機官能化無機基材の品質を低下させることに気づいた。したがって、乾燥工程は、好ましくは少なくとも90℃の温度で行われる。
【0051】
有利には、無機基材を、不活性ガスを含むフローと接触させる持続時間として定義される乾燥時間は、15分から48時間の間、例えば30分から40時間の間、1時間から36時間の間、好ましくは1.5時間から30時間、より好ましくは2時間から24時間の間、例えば2時間、2.5時間、3時間、3.5時間、4時間、4.5時間、5時間、5.5時間、6時間、6.5時間、7時間、7.5時間、8時間、8.5時間、9時間、9.5時間、10時間、10.5時間、11時間、11.5時間、12時間、12.5時間、13時間、13.5時間、14時間、14.5時間、15時間、15.5時間、16時間、16.5時間、17時間、17.5時間、18時間、18.5時間、19時間、19.5時間、20時間、20.5時間、21時間、21.5時間、22時間、22.5時間、23時間、23.5時間、又は24時間である。
【0052】
乾燥時間は、無機基材が不活性ガスを含むフローと接触される温度及び圧力に、ガスフローの組成に、特に不活性ガスの性質に、ガス流速に、及び固体無機基材の性質、特にその組成に依存するが、それらに限定されない。より低い温度はより長い乾燥時間を必要とし得る。より高いガス流速はより短い乾燥時間につながり得る。より親水性の基材はより長い乾燥時間を必要とし得る。
【0053】
なお図1を参照すると、乾燥工程2には、好ましくはプロトン除去工程3が続く。有利には、プロトン除去工程3は、固体無機基材の表面を、プロトンと反応することができる試薬と無機基材の表面で接触させる工程を含む。
【0054】
試薬は、広範囲の化合物、例えばアルコール、オルガノホスホナートエステル、オルガノホスホン酸エステル、オルガノホスフィン酸エステル、オルガノホスフィン酸、カルボン酸又はカルボキシラート、カテコール、オルガノスルホン酸、アルケン、アルキン、ヒドロキサム酸、アルコキシド又はハロゲニドの1つ又は複数から選択され得る。しかしながら、適切な試薬のリストは前述の化合物に限定されない。
【0055】
プロトンと反応することができる試薬は、ガス又は蒸気、すなわち蒸気相中の試薬であってもよい。本発明の観点では、ガス及び蒸気という単語は、同じ意味で使用され、揮発した状態、したがって液体でも固体でもない試薬を指す。或いは、又は更に、試薬はエアロゾル、又は有機金属試薬等の液体試薬であってもよい。液体試薬は溶液又はエマルションの形で使用することができる。試薬としてガス又は蒸気を使用して行われるプロトン除去工程は、好ましくは、少なくとも90℃の温度で行って基材表面の水の再吸着を打ち消す。
【0056】
固体無機基材の表面は、表面でプロトンと反応する能力のある2種以上の試薬と、同時に又は連続的に接触することができる。2種以上の試薬は親和性を有することができ、それらが無機基材の表面からプロトンを除去するための同時使用を可能にし、例えば、両試薬は互いにではなく表面と反応する。2種以上の試薬は親和性がなくてもよく、それらは好ましくは連続するプロトン除去工程で使用される。例えば、基材は、蒸気相中の第1の試薬及び液体形態中の第2の試薬と、又は液体試薬及び溶媒の両方を含む溶液等の、一緒に用意された第1の液体試薬及び第2の液体試薬と接触することができる。
【0057】
ガス又は蒸気が使用される場合、プロトン除去工程は有利には、少なくとも90℃、例えば95℃、好ましくは少なくとも100℃の温度で行われる。本発明者らは、プロトン除去工程3が蒸気相中の気体試薬又は試薬の表面との接触により90℃未満の温度で遂行される場合、プロトン除去で形成された水は、表面に残存し得ることを発見した。そのような水は、さらなる加工工程のための無機基材、及び本発明の方法を用いて得られる有機官能化無機基材の品質を低下させることがある。プロトン除去工程が液体を使用して行われる場合、より低い温度を維持することができる。
【0058】
プロトン除去工程3には、無機基材の表面がパージ化合物と接触して表面及び反応器から過剰試薬を除去する任意選択のパージ工程4が続く。パージ化合物は、不活性ガス等のガスを含むさらなるフローを含むことができる。不活性ガスを含むさらなるフローは、基材の乾燥のために使用される不活性ガスを含むフローと同じ又は異なる組成物を有することができる。或いは又は更に、パージ化合物は、溶媒等の液体を含むことができる。
【0059】
パージ工程が行われる温度は、使用されるプロトン除去試剤の性質を考慮して、基材表面から吸着されたプロトンを除去する試剤の脱着を確実にするのに十分に高くなるように変動させてもよく、当業者によって選択されてもよい。好ましくは、任意選択のパージ工程4は、少なくとも25℃、例えば少なくとも30℃又は少なくとも50℃又は少なくとも90℃、例えば95℃、好ましくは少なくとも100℃、例えば110℃、120℃、125℃、130℃、140℃、150℃、160℃、170℃、175℃、180℃、190℃、より好ましくは少なくとも200℃、例えば210℃、220℃、225℃、230℃、240℃、更により好ましくは少なくとも250℃、例えば260℃、270℃、275℃、280℃、290℃、又は300℃以上の温度で遂行される。パージ工程の温度は乾燥工程の温度と同じ温度であってもよい。
【0060】
パージ工程4は、15秒から120分の間、例えば30秒から100分の間、1分から90分の間、好ましくは2分から60分の間、例えば5分から50分の間、より好ましくは10分から45分の間、例えば15分から30分の間で行うことができる。
【0061】
官能化工程5は、無機基材の表面を有機金属試薬と接触させ、それによって有機官能化無機基材を得ることを含む。
【0062】
有利には、有機金属試薬は少なくとも1個の有機官能性部分を含む。有利には、表面を有機金属試薬と接触させると、有機金属試薬の少なくとも1個の有機官能性部分は、水酸化物及び/又は酸化物の元素Mに直接M-C結合によって結合される。
【0063】
直接M-C結合は、Mと有機金属錯体を形成する共有結合又は配位結合であってもよい。直接M-C結合は、MとCの間に酸素架橋を含まない。
【0064】
有利には、有機金属試薬は、式R1-M1、R1-M1-X又はR1-M1-R2の成分である。或いは、有機金属試薬は、式M1(R1、R2、R3)の成分であってもよい。有利には、R1、R2、R3は有機官能基である。R1、R2、R3の2つ又はすべては異なっていても同一であってもよい。例えば、R1及びR2は同一であってもよく、R3はR1及びR2と異なっていてもよい。
【0065】
部分R1、R2及びR3は、有機金属化合物と親和性のある任意の官能基を含む。部分R1、R2及びR3はまた、官能基が保護された形態で用意される、すなわち保護基を有する有機金属化合物と親和性のない任意の官能基を更に含む。保護基は当技術分野においてよく知られ、本明細書において詳細には開示されない。
【0066】
R1、R2及びR3部分の例は、アルキル、ハロアルキル、アリール、ハロアリール、アミン(第一級、第二級及び第三級アミン)、チオール、キラル炭化水素、及びそれらの任意の組み合わせを含むが、それらに限定されない。
【0067】
好ましくは、R1、R2及びR3は、アルキル、好ましくはC1~16アルキル、より好ましくはC1~C8アルキル;ハロアルキル、好ましくはフルオロアルキル又はパーフルオロアルキル、より好ましくはフルオロC1~C16アルキル又はパーフルオロC1~C16アルキル、より好ましくはフルオロC1~C8アルキル又は(パー)フルオロC1~C8アルキル;アリール、好ましくはC6~C18アリール、より好ましくはC6~C12アリール;ハロアリール、好ましくはフルオロアリール又はパーフルオロアリール、より好ましくはフルオロC6~C18アリール又はパーフルオロC6~C18アリール、より好ましくはフルオロC6~C12アリール又はパーフルオロC6~C12アリール;及びそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される。
【0068】
特定の実施形態において、R1、R2及び/又はR3は、アミン、ジアミン、トリアミン、チオール、キラル炭化水素及びそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される。この文脈において組み合わせは、これらの群の間の組み合わせに加えて群内の組み合わせも含んでもよい。
【0069】
本明細書において使用されるR1、R2又はR3部分は、直鎖、分岐又は環式分子を含んでもよい。例えば、「アルキル」という用語は、直鎖、分岐並びに環式アルキルを包含するように意図される。「アリール」という用語は、単環式、多環式又は複素環式のアリールを包含するように意図される。「ハロアルキル」という用語は、1個又は複数のハロゲン原子で置換された本明細書において定義されるアルキルを包含するように意図される。「(パー)フルオロアルキル」という用語は、1個又は複数のフッ素原子で置換された、本明細書において定義されるアルキルを包含するように意図される。「ハロアリール」という用語は、1個又は複数のハロゲン原子で置換された、好ましくは1~5個のハロゲン原子で置換された、本明細書において定義されるアリールを包含するように意図される。「(パー)フルオロアリール」という用語は、1個又は複数のフッ素原子で置換された、好ましくは1~5個のフッ素原子で置換された、本明細書において定義されるアリールを包含するように意図される。
【0070】
「置換」という用語が本発明の文脈において使用される場合は常に、「置換」を使用する表現で示される原子上の1個又は複数の水素又は炭素が、示された原子の標準原子価を超過しないこと、及び置換が化学的に安定な化合物、すなわち反応混合物から純度の有用な程度に単離を生き延びるのに十分に頑丈な化合物をもたらすことを条件にして、示された群からの選択を用いて置き換えられることを示すように意図される。
【0071】
有利には、M1は、Ia族元素、IIa族元素又はAlである。好ましくは、M1はLi、Mg又はAlである。
【0072】
有利には、Xはハロゲンである。好ましくは、XはBr、Cl又はIである。
【0073】
適切な有機金属試薬の具体的な例は、有機マグネシウム試薬(好ましくはグリニャール試薬)、有機リチウム、有機アルミニウム及び誘導体である。
【0074】
有機リチウム試薬は、炭素とリチウム原子の間に直接結合を有する有機金属試薬を指す。有機リチウム試薬は、R1が本明細書において上記に定義される部分である、一般式R1-Liによって表すことができる。
【0075】
有機マグネシウム試薬は、炭素とマグネシウム原子の間に直接結合を有する有機金属試薬を指す。有機マグネシウム試薬は、一般式R1-Mg-X又はR1-Mg-R2[式中、R1及びR2は本明細書において上記に定義される部分であり、Xはハロゲン原子、好ましくはBr、Cl又はIである。]によって表すことができる。本発明内に使用される有機金属試薬は、より好ましくはグリニャール試薬である。
【0076】
グリニャール試薬の非限定的な例は、フェニルマグネシウムクロリド、フェニルマグネシウムブロミド、プロピルマグネシウムクロリド、プロピルマグネシウムブロミド、ペンチルマグネシウムクロリド、ペンチルマグネシウムブロミド、オクチルマグネシウムクロリド、オクチルマグネシウムブロミド及びメチルマグネシウムブロミドである。
【0077】
有機金属試薬、及び特にグリニャール試薬は非常に反応性であると知られている。特に、それらは強塩基であり、したがって、無機基材の表面に含まれる金属又はメタロイドである元素Mの水酸化物と容易に反応する。それらの反応性条件において、有機金属試薬は、直接M-C結合によって官能性部分と元素Mに結合した後又はプロトン除去後、表面に塩を残し得る。これらの塩は表面から除去することが困難であることが示され、苛酷な条件を使用する洗浄工程又は少なくとも2つの洗浄工程の連続を必要とする。更に、その純粋で希釈しない形態の有機金属試薬の使用は、それらの高い反応性により安全でない加工環境を引き起こしかねない。
【0078】
本発明者らは、溶媒に希釈された有機金属試薬を使用すると、より安定な有機金属試薬が得られ、塩の形成を低減することができ、より安全な加工環境を提供することができるといういくつかの利点を提供することを発見した。存在するか又は使用される有機金属試薬の絶対量は、溶媒中試薬の無稀釈よりも少なくてもよいが、低減された塩形成及び改善された安定性によって、より安全な加工環境で無機基材の同じか又は更に改善された改質度を得ることが可能になる。
【0079】
有利には、無機基材の表面を有機金属試薬と接触させる工程5は、溶媒に希釈された有機金属試薬を含む液体相中で実行される。溶媒は、最先端技術において有機金属試薬と親和性があると知られている任意の溶媒であってもよい。適切な溶媒の例は、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、又はそれらの任意の2種以上の混合物である。
【0080】
好ましくは、溶媒は乾燥溶媒である。溶媒は、最大250ppmの水、好ましくは最大200ppmの水、より好ましくは最大150ppmの水、例えば、最大125ppmの水、最大100ppmの水、最大90ppmの水、最大80ppmの水、最大70ppmの水、最大60ppmの水、最大、50ppmの水、最大、40ppmの水、最大30ppmの水、最大25ppmの水、又は最大20ppmの水が存在するとき、乾燥していると考えられる。例えば0.067Mのグリニャール試薬が固体無機基材として1グラムのTiO2(チタニア)粉末の処理のためにTHFに希釈される場合、最大100ppmの水が存在するとき、THFは実質的に乾燥していると考えられる。
【0081】
本発明者らは驚いたことに、多少の水分子が、溶媒に希釈された有機金属試薬の溶液中に存在し得ることに気づいた。例えば、試薬は、無機基材の改質度に影響を与えずに、水分子と反応することができることが示された。しかしながら、水の量が少ないほど、その官能性部分の元素Mへの結合以外の反応による有機金属試薬の消費は少なくなり、したがって好ましいことは明らかである。限定量の水の存在の可能性は、乾燥溶媒のより少ない使用を可能にし、通常それほど高価にならず、それによってプロセスの全体経費を削減する。
【0082】
有利には、表面を、少なくとも1個の有機官能性部分を含む有機金属試薬と接触させる工程5は、-80℃から75℃の間、例えば-75℃から75℃の間、-50℃から75℃の間、-25℃から70℃の間、-10℃から70℃の間、0℃から70℃の間、5℃から65℃の間、好ましくは10℃から60℃の間、例えば12℃から55℃の間、15℃から50℃の間、より好ましくは18℃から45℃の間の温度、例えばほぼ室温で行われる。有機金属試薬が溶媒に希釈される場合、温度は好ましくは溶媒の沸点より低い。
【0083】
有利には、有機金属試薬、特にグリニャール試薬は強塩基であり、追加のプロトン除去工程が行われても行われなくてもそれとは関係なく、表面に残存するすべてのプロトンを除去する能力がある。
【0084】
官能化工程5には、任意選択の洗浄工程8が続いてもよい。有利には、洗浄工程は、当業者によく知られている方法によって行われ、例えば、水、溶媒を用いる、及び/又は、例えば希酸等の酸を用いる洗浄を含んでもよい。洗浄工程8は、単一工程又は多重工程で、有利には苛酷な条件の使用を必要とせずに遂行することができる。
【0085】
本発明の方法の第2の実施形態20は図2に表される。実施形態20は、無機基材を乾燥する工程2、及びプロトン除去工程3が、単一工程6中に組み合わせられた点で実施形態10と異なる。他の工程はすべて実施形態10と等しい。特に、乾燥工程2で使用される不活性ガスを含むフローは、プロトン除去試薬を更に含み、それによって工程6で乾燥工程及びプロトン除去工程を同時に行う。言いかえれば、無機基材の表面は乾燥され、同じフローが無機基材の表面を流れることによってプロトンはそこから除去される。不活性ガス及び試薬を含むフローは、反応性ガスフローと見なすことができる。好ましくは、不活性ガスを含むフローに含まれる試薬は、ガス又は蒸気又はエアロゾルとして存在する。
【0086】
本発明者らは、驚いたことに、乾燥工程中に存在するプロトン除去試剤を用いて、乾燥はより低い温度で遂行することができることを発見した。
【0087】
不活性ガス、気体試薬又は蒸気相中の試薬を含むフローは、当技術分野で知られている方法によって得ることができる。例えば、試薬の液体浴に通して不活性ガスを泡立たせることによって、不活性ガスを含むフロー中の試薬の噴霧によって、又は蒸発した試薬の凝結を回避するために加熱することができる、試薬を蒸発させ、続いて蒸発した試薬を不活性ガスのフローと混合することによって、フローを得ることができる。
【0088】
第2の実施形態20によるプロトン除去に使用される試薬は、アルコール、ホスホナートエステル、ホスホン酸エステル、ホスフィン酸、ホスフィン酸エステル、カルボン酸又はカルボキシラート、ヒドロキサム酸、アルコキシド、ハロゲニド、又はそれらの2種以上の任意の組み合わせであってもよいが、それらに限定されない。アルコキシドは好ましくは金属アルコキシドである。プロトン除去のための最も好適な試薬は、無機基材表面の組成、及び特に元素Mに依存する。当業者には最も好適な試薬を選択する能力がある。
【0089】
好ましい試薬は、図1に関連して単一工程6に記載されるように乾燥工程2及びプロトン除去工程3を組み合わせることにより、形成された水分子が表面及び乾燥装置から除去されるので、無機基材の表面からのプロトンの除去で水分子を形成する試薬である。
【0090】
好ましくは、試薬はアルコールである。アルコールは脂肪族であっても芳香族であってよい。アルコールは、直鎖、分岐又は環式であってもよく、任意選択的に直鎖でも分岐でもよい1個又は複数の側鎖を含む。好ましくは、アルコールは式R10-OHであり、ここで、R10はアルキル、好ましくはC1~8アルキル、例えばC1~6アルキル、より好ましくはC1~4アルキル、最も好ましくはC1~2アルキルである。アルコールの好ましい例は、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びブタノールである。
【0091】
不活性ガスを含むフロー中に含まれる試薬の量は、特に限定されない。特に試薬が蒸気として存在する場合、不活性ガスのフローは試薬で飽和することができる。或いは、不活性ガスのフローは飽和水準より低い量で試薬を含むことができる。
【0092】
有利には、乾燥とプロトン除去を組み合わせた工程6の温度は、プロトン除去試薬の物理吸着を最小限にするのに十分に高い。物理吸着は、1個又は複数のプロトンを除去する試薬の代わりに無機基材の表面に対する試薬の結合であり、したがって最小限にされ、好ましくは回避されるべきである。例えば試薬がメタノール等のアルコールである場合、温度は、好ましくは実施形態10の乾燥工程2に関連して示した通り、すなわち、少なくとも90℃、例えば少なくとも100℃、好ましくは少なくとも150℃、より好ましくは少なくとも175℃、最も好ましくは少なくとも200℃である。本発明者らは、更に、90℃未満の温度では、プロトン除去試剤の解離吸着が損なわれることがあり、試薬及び/又は形成された水の物理吸着が生じ、それによって実施形態20の方法を用いて得られる有機官能化無機基材の品質を低下させ得ることに気づいた。
【0093】
試薬の物理吸着を最小限にする温度での作業の1つの利点は、乾燥中に表面から放出された、又は、プロトン除去中に形成された水分子の、表面での再凝結を最小限にすることができることである。
【0094】
不活性ガスを含むフロー中の試薬の存在の1つの利点は、表面から離れ装置から出る水分子の排気を改善することができることである。したがって、乾燥とプロトン除去を組み合わせた工程6は、先行技術乾燥方法と比較して、所定のレベルの乾燥に到達する乾燥時間及び/又は乾燥温度を低下させる。更に、プロトンが同じく同時に除去されるので、合計プロセス時間は、先行技術方法と比較し、実施形態10とも比較して、 - 乾燥時間を短縮し別個のプロトン除去工程を無くし - 加工工程の数も同様に減少する、という2通りで低下する。
【0095】
本発明の方法の第3の実施形態30は図3に表される。実施形態30は、プロトン除去工程3及び官能化工程5が単一工程7で組み合わせられる点で第1の実施形態10と異なる。このような場合、プロトンは、水酸化物及び/又は酸化物の元素Mへの、少なくとも1個の有機官能性部分の、直接M-C結合による結合と同時に表面から除去され、それによって有機官能化無機基材を得る。結果的に、任意選択のパージ工程4は、実施形態30において行われない。無機基材を用意する工程1、乾燥工程2及び任意選択の洗浄工程8を、実施形態10に関連して記載されたように、遂行することができる。
【0096】
工程7において、プロトンを除去する有機金属試薬は、無機基材の表面と反応する有機金属試薬、すなわち上記の工程5で使用される試薬と同じであっても異なっていてもよい。
【0097】
工程7で使用される有機金属試薬がプロトン除去用及び表面との反応用と同じである場合、有機金属試薬の第1の部分は表面からプロトンを除去することができるのに対し、有機金属試薬の第2の部分は表面と同時に反応して官能性部分を元素Mに結合し、それによって有機官能化無機基材を得ることができる。
【0098】
異なる有機金属試薬が、工程7でプロトン除去用及び表面との反応用に使用される場合、試薬の混合物は有利には、同時のプロトン除去及び表面の官能化を行うために使用される。
【0099】
工程7で使用される好ましい有機金属試薬はグリニャール試薬である。
【0100】
単一工程7で同時にプロトンを除去し、基材の表面を官能化するという利点は、合計の加工時間が短縮され、プロセスがそれほど複雑でなくなるということである。
【0101】
実施形態20及び30の工程を組み合わせることができることに注目することは好都合である。特に、第4の実施形態(図示せず)において、実施形態20は、工程5が実施形態30の工程7と置き換えられるという点で修正される。したがって、プロトンの第1の部分は、工程6のように無機基材の表面から除去される。次に、有機金属試薬は、上述のように工程7の無機基材の表面からプロトンの第2の残存する部分を除去する。
【0102】
本開示の方法によって得られた有機官能化無機基材は、有利には膜、収着媒、触媒、センサー又は電子部品として使用される。本開示の方法によって得られた有機官能化無機基材は、濾過、吸着、クロマトグラフィー及び/又は分離プロセスの基材として更に使用することができる。
【実施例
【0103】
(実施例1)
参照試料(表1の参照試料1及び2)として、先行技術プロセスによって、有機官能化無機基材を製造した。
【0104】
固体無機基材として、チタニア粉末を使用し、'Synthesis - properties correlation and the unexpected role of the titania support on the Grignard surface modification', J. Van Dijck, P. Mampuys et al., Applied Surface Science 527 (2020) 146851に開示された詳細に従って製造した。
【0105】
不活性ガスを含むフローのない状態で10-4mbarの圧力、及び190℃で16時間チタニア粉末の表面を乾燥することにより、参照試料1を得た。次に、120℃で48時間液体メタノール(50ml)中に乾燥した基材を沈めることにより、乾燥したチタニア粉末の表面からプロトンを除去した。再び(60℃、10-4mbarの圧力で16時間)粉末を乾燥してすべての残存するメタノールをその表面から除去し、次いで、粉末を、室温(RT)で24時間、チタニア基材1グラム当たり2mmolの濃度で30mlのTHFに希釈したオクチルマグネシウムクロリド(8Grと短縮する)、有機金属試薬と接触させて、参照試料1を得た。
【0106】
参照試料1についてと同じ乾燥を遂行することにより、参照試料2を得た。次に、プロトン除去と表面の官能化を組み合わせた工程を、室温(RT)で24時間、チタニア基材1グラム当たり2mmolの濃度で30mlのTHFに希釈した8Grと粉末を接触させることによって遂行して参照試料2を得た。
【0107】
熱重量分析(TGA)によって、改質度を測定し、参照試料1について0.80基/nm2及び参照試料2について0.79基/nm2であった。これは0.7基/nm2を超え、このタイプのチタニア基材及びこの有機金属試薬について良好な改質度として極小値と考えられる。
【0108】
(実施例2)
本発明の第2の実施形態に従って3つの試料(表1の試料1、2及び3)を調製した。乾燥とプロトン除去を組み合わせた工程のプロセスパラメータを変動させた。無機基材は参照試料用の基材と同じであった。
【0109】
メタノールを試薬としてプロトン除去のために使用した。N2+メタノール(蒸気)の30ml/分のフローを4時間の持続時間使用し、メタノールによってN2が飽和するまでN2にメタノールを添加した。使用した温度は80℃、100℃及び200℃であった。
【0110】
次いで、室温で24時間、チタニア粉末の2mmol/gの濃度で30mlのTHFに希釈した8Grと、基材を接触させて有機官能化無機基材を得た。言いかえれば、官能化工程は実施例1の参照試料と同じであった。
【0111】
上述の通り、改質度を測定した。表1から、80℃の温度に関しては、チタニア粉末と有機金属試薬(8Gr)のこの特定の組み合わせについて改質度が十分ではない(0.63基/nm2)ことは明らかである。この温度でメタノールの物理吸着が生じたこと、及び上で説明されたように、恐らく水は再凝結し、100℃(0.83基/nm2)及び200℃(0.76基/nm2)で遂行した同じプロセス工程についてよりも改質度は低かったことが分かった。許容誤差を0.1基/nm2とすれば、試料1及び2は参照試料と同様の品位を示す。
【0112】
(実施例3)
本発明の第3の実施形態に従って3つの試料(表1の試料4、5及び6)を調製し、乾燥工程のプロセスパラメータを変動させた。無機基材は実施例1及び2の基材と同じであった。
【0113】
N2のフローの使用により乾燥を遂行した。流速を30ml/分から100ml/分の間で変動させた。温度を200℃から250℃の間で変動させた。持続時間を4時間から16時間の間で変動させた。
【0114】
その後、室温で24時間、チタニア粉末2mmol/gの濃度で30mlのTHFに希釈した8Grに、基材を接触させて、プロトンを除去し少なくとも1個の官能性部分を結合し、それによって有機官能化無機基材を得た。言いかえれば、官能化工程は参照試料1と同じであった。
【0115】
改質度を上述の通り測定した。表1参照。200℃で乾燥を遂行した場合、4時間後の改質度は、この特定のチタニア粉末及び有機金属試薬(0.67基/nm2)について、100ml/分の増加した流速についてさえ十分ではなかったが、16時間後、30ml/分のより低い流速で、良好な改質度を得た(0.77基/nm2)。許容誤差が0.1g/nm2とすれば、試料4は参照試料と同様の品位を示す。250℃に温度を上げて30ml/分の流速を維持することによって、4時間後に境界線上の十分な改質度を得ることができる(0.71基/nm2)。
【0116】
【表1】
【0117】
(実施例4)
0.9nmの孔径を有する最上層、外径10mm及び長さ25cmを有する未処理の単一管状TiO2膜(Inopor社によって届けられた)(表2の試料「無処理」)について不可逆的汚損の程度を測定した。'Novel grafting method efficiently decreases irreversible fouling of ceramic nanofiltration membranes', G. Mustafa, K. Wyns et al., Journal of Membrane Science 470 (2014) 369-377頁に開示されているようにフミン酸で膜を汚損した後の水流束を測定し、それを汚損前の水流束と比較することによってこれを行った。規格化水流束はまた、改質品位とも称され、汚損後の水流束と汚損前の水流束の比として定義され、膜の不可逆的汚損の尺度である。低い規格化流束は高い不可逆的汚損を示し、その逆も成立する。同論文に報告されたように、未処理の試料は、45%±5%の規格化水流束(すなわち改質品位)を示し、これは、特定のタイプの基材として少なくとも90%である良好な改質品位を有する、メチルマグネシウムブロミドを用いて改質した膜について見いだされた値よりはるかに低い。したがって、規格化水流束、すなわち改質品位は、この特定のタイプの膜基材の改質の品位を測定する優れた方法である。
【0118】
不活性ガスを含むフローのない状態で10-4mbarの圧力及び190℃で16時間チタニア膜の表面を乾燥することにより、参照試料(表2の「参照試料」)を得た。チタニア膜は上に記載された未処理の膜と同じであった。次に、室温で24時間、0.045Mの濃度でTHFに希釈したメチルマグネシウムブロミド(CH3MgBr、C1と短縮)(官能性部分としてメチル基を有する有機金属試薬)に基材を接触させて、プロトンを除去し少なくとも1個の官能性部分を結合し、それによって有機官能化チタニア膜を得た。
【0119】
未処理のチタニア膜についてと同じ方法に従って参照試料の規格化水流束を測定し、94%の優れた改質品位を報告した。
【0120】
(実施例5)
本発明の第2の実施形態に従って1つの試料(表2の試料1)を調製した。無機基材は実施例4に使用したチタニア膜と同じであった。
【0121】
150℃で12時間膜の表面を乾燥するためにN2のフローを使用し、続いて乾燥とプロトン除去を組み合わせるために150℃で4時間N2フローに、プロトン除去用の試薬であるメタノール蒸気を添加した。乾燥とプロトン除去を組み合わせた工程の間、N2+メタノール(蒸気)の20l/時間のフローを使用し、ここで、メタノールによってN2が飽和するまでN2にメタノールを添加した。
【0122】
次に、室温で24時間、0.045Mの濃度でTHFに希釈したC1に基材を接触させて有機官能化チタニア膜を得た。
【0123】
実施例4に記載された通り、規格化水流束を測定した。表2から、有機官能化チタニア膜を得るためにより低い温度を使用し、真空は使用しなったが、改質品位は参照試料と同じ範囲にあり、したがって良好と考えられ、それによって全体的なエネルギー消費量を減少させ、したがって処理のコストが削減されることは明らかである。
【0124】
(実施例6)
本発明の第3の実施形態に従って3つの試料(表2の試料2、3及び4)を調製した。無機基材は、実施例4において使用したチタニア膜と同じであった。
【0125】
N2のフローの使用により乾燥を遂行した。乾燥N2(試料2及び3)及び含湿N2(試料4)の両方を使用した。乾燥N2は最大0.02ppmの水を含んでいた。流速は20l/時間であった。温度は200℃であった。乾燥N2フローについては持続時間を4時間から16時間の間で変動させ、含湿N2フローについては16時間であった。
【0126】
次に、室温で24時間、0.045Mの濃度でTHFに希釈したC1に基材を接触させてプロトンを除去し、少なくとも1個の官能性部分を結合し、それによって有機官能化チタニア膜を得た。言いかえれば、プロトン除去と官能化の組み合わせは、実施例4の参照試料と同じであった。
【0127】
'Novel grafting method efficiently decreases irreversible fouling of ceramic nanofiltration membranes', G. Mustafa, K. Wyns et al., Journal of Membrane Science 470 (2014) 369-377頁に開示されている手順を使用して、実施例4に記載された通り、規格化水流束、すなわち改質品位を測定した。表2から、N2のフローが乾燥している場合、改質品位は優れていて、4時間の乾燥時間でさえ参照試料についてよりもはるかに高いことは明らかである。しかしながら、N2のフローが十分に乾燥していない場合、改質の品位は著しく低下するが、しかし未処理のチタニア膜よりなお良好ではある。
【0128】
【表2】
【符号の説明】
【0129】
1 無機基材を用意する工程
2 乾燥工程
3 プロトン除去工程
4 パージ工程
5 官能化工程
6 乾燥とプロトン除去を組み合わせた工程
7 単一工程
8 洗浄工程
10 第1の実施形態
20 第2の実施形態
30 第3の実施形態
図1
図2
図3
【国際調査報告】