(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】燃料電池システムを動作させる方法および制御装置
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04302 20160101AFI20240711BHJP
H01M 8/0438 20160101ALI20240711BHJP
H01M 8/0432 20160101ALI20240711BHJP
H01M 8/04007 20160101ALI20240711BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20240711BHJP
【FI】
H01M8/04302
H01M8/0438
H01M8/0432
H01M8/04007
H01M8/04746
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500454
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(85)【翻訳文提出日】2024-03-04
(86)【国際出願番号】 EP2022068022
(87)【国際公開番号】W WO2023285153
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】102021207337.9
(32)【優先日】2021-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ケマー,ヘラーソン
(72)【発明者】
【氏名】リンク,マティアス
【テーマコード(参考)】
5H127
【Fターム(参考)】
5H127AB04
5H127AC09
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA28
5H127BA33
5H127BA43
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB23
5H127BB37
5H127CC01
5H127DA02
5H127DB47
5H127DB72
5H127DC76
5H127DC85
(57)【要約】
【課題】 本発明は、冷媒ポンプ(4)を使用して冷却回路(3)を介して冷媒が供給される冷却通路が通り抜ける複数の燃料電池を有する燃料電池スタック(2)を備えた燃料電池システム(1)を動作させる方法に関する。
【解決手段】 本発明によれば、低温または氷点下始動時に、燃料電池スタック(2)における燃料電池の温度が燃料電池スタック(2)にわたる冷媒の圧力差(Δp)を介して間接的に検出され、間接的に検出された温度に依存して冷媒ポンプ(4)の回転数(n)が制御される。本発明は、さらに、燃料電池システム(1)の制御装置に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒ポンプ(4)を使用して冷却回路(3)を介して冷媒が供給される冷却通路が通り抜ける複数の燃料電池を有する燃料電池スタック(2)を備えた燃料電池システム(1)を動作させる方法において、低温または氷点下始動時に、前記燃料電池スタック(2)における前記燃料電池の温度が前記燃料電池スタック(2)にわたる前記冷媒の圧力差(Δp)を介して間接的に検出され、前記間接的に検出された温度に依存して前記冷媒ポンプ(4)の回転数(n)が制御されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記燃料電池スタック(2)にわたる前記冷媒の前記圧力差(Δp)を検出するために、前記燃料電池スタック(2)の入口(2.1)および出口(2.2)における前記冷媒の圧力(p1)が複数の圧力センサ(5)を用いて、または差圧センサを用いて測定されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記燃料電池スタック(2)にわたる前記冷媒の前記圧力差(Δp)を実質的に一定に、または所定の範囲に保つために、前記低温または氷点下始動中に前記冷媒ポンプ(4)の前記回転数(n)が連続的または徐々に増加されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記燃料電池スタック(2)にわたる前記冷媒の前記圧力差(Δp)を減少させるために、前記低温または氷点下始動中に、前記冷媒ポンプ(4)の前記回転数(n)が一定に保たれることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記燃料電池スタック(2)にわたる前記冷媒の前記圧力差(Δp)が上昇推移を示す、および/または所定の最大値を超える場合、前記低温または氷点下始動中に前記冷媒ポンプ(4)の前記回転数(n)が低減されることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記燃料電池スタック(2)にわたる前記冷媒の初期最小圧力差を定義する第1の閾値(S1)が決定され、低温または氷点下始動の準備として、前記冷媒ポンプ(4)の前記回転数(n)が前記閾値(S1)に達するまで増加されることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記低温または氷点下始動中に達成されるべき前記燃料電池スタック(2)にわたる前記冷媒の圧力差の範囲を定義する2つのさらなる閾値(S2、S3)が決定され、殊に前記さらなる閾値(S2、S3)は前記第1の閾値(S1)を下回ることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記低温または氷点下始動の終わりに前記燃料電池スタック(2)にわたる前記冷媒の前記圧力差(Δp)が前記達成されるべき圧力差(Δp)の範囲外である場合、前記第1の閾値(S1)が上げられるか、または下げられることを特徴とする、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記低温または氷点下始動中あるいは低温または氷点下始動後の前記圧力差の前記推移が評価され、推移が一時的に停滞する場合、前記第3の閾値(S3)が下げられ、それにより前記第3の閾値が前記第2の閾値(S2)に近づくことを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの閾値(S1)、殊にすべての閾値(S1、S2、S3)が、前記方法のステップを実行するように設定された制御装置に格納されることを特徴とする、請求項6から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
燃料電池システム(1)の制御装置であって、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法のステップを実行するように設定される、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に低温または氷点下始動時に燃料電池システムを動作させる方法に関する。したがって、この方法は、特に移動用途で燃料電池システムを動作させるのに適している。
【0002】
さらに、本発明は、方法のステップを実行するように設定された制御装置に関する。
【背景技術】
【0003】
燃料電池は、例えば水素などの燃料と酸素を電気エネルギー、熱、および水に変換する。出力を高めるために、通常、複数の燃料電池を接続して燃料電池スタックとし、燃料電池スタックを通り抜ける供給通路を介して反応ガスが供給される。燃料電池における電気化学プロセスで発生する熱は冷却回路を用いて排出され、移動用途では通常、車両冷却器のうちの1つの冷却器を介して周囲環境に排出される。冷却回路の冷媒は、冷却回路に組み込まれた冷媒ポンプを用いて、燃料電池スタックを通り抜ける冷媒供給通路を通して移送される。冷却器を迂回するために冷却回路に方向制御弁を組み込むことができる。冷却器の迂回は、例えば始動時に有利であり得る。なぜなら始動時には、特に周囲温度が0℃未満の場合、始動を遅らせる、または妨げさえする可能性のある水および/または氷の集積を回避するために燃料電池スタックを可能な限り迅速に加熱すべきだからである。しかし氷結の危険は、冷媒が燃料電池スタックに流入する前に確実に0℃を超えて加熱された場合に初めて取り除かれる。
【0004】
氷点下始動時に冷媒を加熱するために、電気化学反応と合わせて燃料電池において発生する熱を利用することができる。代替的に冷媒を外部で暖めることができる。しかしどちらの場合も始動プロセスに時間がかかる。それに加えて、燃料電池を常に0℃未満に冷却することから、例えば燃料電池における氷バッファおよび/または燃料電池システムにおける加熱器によって燃料電池の氷耐性(Eistoleranz)を高める措置を講じる必要がある。
【0005】
氷点下始動中、局所的ピーク温度、いわゆる「ホットスポット」、および冷媒の入口温度と出口温度との間の過大な温度差を回避するために、冷媒体積流量は十分に大きくなければならない。同時に、燃料電池スタックへの流入時の過大な温度低下、したがって氷結を防ぐために、冷媒体積流量は十分に小さくなければならない。冷媒体積流量の制御は、冷媒ポンプのポンプ回転数を介して行われる。このポンプ回転数は、通常、燃料電池スタックの入口および出口における冷媒温度に依存して制御される。しかし、氷点下始動では冷媒の粘度が高いために、冷媒温度の変化が燃料電池における温度変化に対して時間的に大きくずれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、冷媒ポンプの回転数、したがって燃料電池スタックを通る冷媒体積流量を温度に依存して調整できるようにするために、低温または氷点下始動の場合に燃料電池スタックにおける温度を可能な限り迅速かつ確実に検出できる燃料電池スタックを動作させる方法を提供するという課題に取り組むものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1の特徴を有する方法が提案される。本発明の有利な発展形態は従属請求項から読み取ることができる。さらに、方法を実行するための制御装置が提供される。
【0008】
冷却通路が通り抜ける複数の燃料電池を有する燃料電池スタックを備えた燃料電池システムを動作させる方法が提案される。方法において、冷却通路には、冷媒ポンプを使用して冷却回路を介して冷媒が供給される。本発明によれば、低温または氷点下始動時に、燃料電池スタックにおける燃料電池の温度が燃料電池スタックにわたる冷媒の圧力差を介して間接的に検出される。間接的に検出された温度に依存して冷媒ポンプの回転数が制御される。
【0009】
したがって、燃料電池における温度を検出するための量として、もはや燃料電池スタックの入口および出口における冷媒の温度ではなく、冷媒の圧力もしくは燃料電池スタックにわたる冷媒の圧力差が用いられる。燃料電池スタックにおける温度とともに、燃料電池スタックの冷却通路を通って流れる冷媒の粘度も変化するため、燃料電池スタックの入口における冷媒の圧力と燃料電池スタックの出口における冷媒の圧力との間の圧力差から燃料電池スタックにおける温度を推察することができる。
【0010】
燃料電池における温度を間接的に検出するための量として圧力差を使用することには、圧力差が燃料電池における温度上昇に対して実質的に逆比例的に(gegengleich)、厳密には時間的遅れなしに推移、すなわち減少するという利点がある。したがって、温度をより迅速かつ確実に検出することができる。
【0011】
このようにして、提案される方法は、低温または氷点下始動中の冷媒ポンプの回転数の改善された調整を可能にする。例えば、過大な冷媒体積流量による氷結の危険を低減することができる。氷結の危険が低減されることによって、燃料電池の氷耐性を高める措置も削減でき、それによりコストが下がる。さらに、過大な温度差を回避するために冷媒体積流量を低減する必要がないため、より迅速な氷点下始動を実現することができる。さらに、温度差にもとづいた漏れを無くすことができ、その結果、燃料電池システムの寿命が延びる。
【0012】
燃料電池スタックにおける温度変化を間接的に検出するための量として圧力差を考慮に入れることには、圧力差が簡単な圧力センサを用いて比較的簡単かつ安価に検出できるという利点がさらにある。
【0013】
したがって、燃料電池スタックにわたる冷媒の圧力差を検出するために、複数の圧力センサを用いて用いて、または差圧センサを用いて燃料電池スタックの入口および出口における冷媒の圧力が測定されることが好ましい。圧力センサもしくは差圧センサは、例えば体積流量センサよりも格段に安価に調達できる。第1の圧力センサを燃料電池スタックの入口に、そして第2の圧力センサは出口に配置することができる。これらの圧力センサを温度センサと組み合わせることもでき、それにより圧力および温度センサが使用される。通常、温度センサはすでにあるため、このようにしてセンサの数を少なく抑えることができる。
【0014】
さらに、燃料電池スタックにわたる冷媒の圧力差を実質的に一定に、または所定の範囲に保つために、低温または氷点下始動中に冷媒ポンプの回転数を連続的に、または徐々に増加させることが提案される。冷媒ポンプの回転数の増加は、冷媒の、したがって燃料電池の迅速な加熱につながる。その際、ポンプ回転数を連続的に、または徐々にもしくは段階的に増加させることができる。徐々に増加することには、低温または氷点下始動中にポンプ回転数がそれほど大きく増加せず、過大なポンプ回転数が回避されるという利点がある。このために、第1のステップにおいて、ポンプ回転数は、例えば10mbarなどの所定の最大圧力差が測定できるまで増加される。その後、ポンプ回転数は少しの間一定のままであり、それにより冷媒が暖まるため、燃料電池スタックにわたる冷媒の圧力差が再び減少する。圧力差が、例えば5mbarの所定の最小圧力差に達すると、第2のステップにおいて、圧力差が所定の最大値に新たに達するまでポンプ回転数が再び増加される。冷媒温度がその目標温度に達し、低温または氷点下始動が完了するまでこれを繰り返すことができる。ポンプ回転数が徐々に増加される場合、殊に、燃料電池スタックにわたる冷媒の圧力差は、所定の範囲内で鋸歯に似た推移を示す。
【0015】
これに対して、燃料電池スタックにわたる冷媒の圧力差が上昇推移を示す、および/または所定の最大値を超える場合、冷媒ポンプの回転数を下げる必要がある。なぜなら、圧力差の当該推移は過大な体積流量のあらわれであり、氷結の危険があるからである。これは、過大な体積流量の場合、燃料電池は冷媒によって加熱されるのではなくむしろ冷却されるからである。
【0016】
したがって、別の措置として、燃料電池スタックにわたる冷媒の圧力差が上昇推移を示す、および/または所定の最大値を超える場合、低温または氷点下始動中に冷媒ポンプの回転数が低減されるということが提案される。このようにして、冷媒体積流量によって引き起こされる氷結を確実に回避することができる。
【0017】
別の好ましい動作ストラテジによれば、燃料電池スタックにわたる冷媒の圧力差を減少させるために、低温または氷点下始動中の冷媒ポンプの回転数が一定に保たれる。この経過は燃料電池の通常の加熱に相当する。したがって、これと同時に過大な冷媒体積流量による氷結の危険が低下する。圧力差が増加した場合、この場合も冷媒ポンプの回転数を低減することによって対抗策を講じることができる。
【0018】
本発明の発展形態において、燃料電池スタックにわたる冷媒の初期最小圧力差を定義する第1の閾値が決定され、かつ低温または氷点下始動の準備として、冷媒ポンプの回転数が閾値に達するまで増加されることが提案される。この措置によって、低温または氷点下始動中に利用可能な測定範囲が利用できることが確保されている。これは、低温または氷点下始動中に燃料電池の温度が急速に上昇し、それにより温度推移、およびそれに伴い圧力差の推移がそれぞれ非常に急峻になるからである。したがって、初期圧力差が十分に大きく選択される必要がある。したがって、冷媒ポンプの回転数が閾値に達するまで増加される。ポンプ回転数が大きい結果として生じる大きい体積流量が燃料電池の入口領域に氷結を生じさせないようにするためには回転数も過大に選択されてはならない。したがって、低温または氷点下始動の準備として、閾値に達するが、これを大幅に上回らないようにしなければならない。このようにして氷結を阻止する一方で「ホットスポット」の形成を防ぐのに十分な大きさの冷媒体積流量が達成される。
【0019】
第1の閾値は、例えば50mbarであり得る。この場合、冷媒は、燃料電池において発生する熱が良好に分散されるように循環される。同時に、冷媒流量が小さいため、燃料電池の入口領域における氷結が回避される。
【0020】
低温または氷点下始動中に達成されるべき燃料電池スタックにわたる冷媒の圧力差の範囲を定義する2つのさらなる閾値が決定されることがさらに好ましい。これは、低温または氷点下始動の終わりに、下限が第2の閾値によって、上限が第3の閾値によって定められる事前に決定された範囲の圧力差が達成されなければならないということを意味する。例えば5mbarであり得る第2の閾値は、冷媒体積流量が冷媒を循環させるのに十分な大きさであることを確保する。それより大きい、例えば15mbarであり得る第3の閾値は、以下に説明するように、第1の閾値の適応を可能にする基準量である。第2の閾値についても同じことが当てはまる。
【0021】
これは、本発明の好ましい実施形態によれば、低温または氷点下始動の終わりに燃料電池スタックにわたる冷媒の圧力差が達成されるべき圧力差の範囲外である場合、第1の閾値が上げられるか、または下げられるからである。これは、所定の範囲を達成するために、第1の閾値が第2の閾値を下回る場合に上げられ、第3の閾値を上回る場合に下げられることを意味する。これは第1の閾値を相応に適応させることを意味する。この適応は、低温または氷点下始動の終わりに、燃料電池スタックにわたる冷媒の圧力差に依存して、したがって温度に依存して冷媒ポンプの初期回転数、したがって燃料電池スタックを通る冷媒体積流量の最適な調整を可能にする。
【0022】
冷媒の粘度が温度に強く依存し、もしくはそれにもとづく圧力差の変動範囲が大きいために、初期温度ごとに第1の閾値が異なる可能性がある。したがって、殊に、初期温度ごとに第1の閾値が定義される。その場合、この閾値を制御装置に格納することができる。さらに、第1の閾値を決定する際に、例えば、燃料電池を完全に温度調節する必要があるのか、または不完全にかを左右する停止継続時間(Abstelldauer)など他の依存関係を考慮することができる。
【0023】
好ましくは、低温または氷点下始動中あるいは低温または氷点下始動後の圧力差の推移が評価され、推移が一時的に停滞する場合、第3の閾値が下げられ、それによりこれが第2の閾値に近づく。圧力推移の線図において、停滞する推移をプラトーとして認識できる。これは氷結と解氷過程とを示す。これは冷媒ポンプの初期回転数が過大であったことの表れと見なすことができる。第3の閾値を下げることによって第1の閾値の適応、したがって冷媒ポンプの初期回転数の低減が行われ、それにより次の低温または氷点下始動時の氷結の危険が最小化される。
【0024】
少なくとも1つの閾値、殊にすべての閾値が、方法のステップを実行するように設定された制御装置に格納されることがさらに好ましい。それにより方法を大幅に自動化することができる。
【0025】
さらに、本発明による方法のステップを実行するように設定された燃料電池システムのための制御装置が提案される。特に、この制御装置を用いて上記の様々な動作ストラテジを実現することができる。このために、少なくとも1つの閾値を制御装置に格納することができる。さらに、制御装置を用いて、燃料電池スタックにわたる冷媒の圧力差の推移を評価することができる。制御装置は、圧力センサもしくは差圧センサから必要な測定値を得る。評価の結果に応じて、冷媒ポンプの回転数を上げる、下げる、または一定に保つために制御装置を用いて冷媒ポンプを制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明による方法を実行するのに適した移動型燃料電池システムの模式図である。
【
図2】燃料電池システムの燃料電池スタックの媒体供給の模式図である。
【
図3】時間tに対する燃料電池スタックにわたる冷媒の圧力差Δp、燃料電池スタックの入口における冷媒温度T
Einおよび出口における冷媒温度T
Aus、冷媒体積流量Q、冷媒ポンプの回転数n、ならびに電流Iの推移を示す図である。
【
図4】本発明による第1の方法の手順を示すブロック回路図である。
【
図5】本発明による第2の方法の手順を示すブロック回路図である。
【
図6】低温または氷点下始動中の燃料電池スタックにわたる冷媒の圧力差Δpの好ましい推移を示す図である。
【
図7】本発明による方法の手順を示すブロック回路図である。
【
図8】本発明による方法の手順を示すブロック回路図である。
【
図9】本発明による方法の手順を示すブロック回路図である。
【
図10】低温または氷点下始動中のポンプ回転数を含めた燃料電池スタックにわたる冷媒の圧力差Δpの別の好ましい推移を示す図である。
【
図11】温度に依存した圧力差の閾値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付の図面をもとにして本発明および本発明の利点を詳しく説明する。
【0028】
図1に示される燃料電池システム1は、電気駆動エネルギーを生成するために用いられる。このために、燃料電池システム1は、アノード10とカソード23を有する燃料電池スタック2を備える。システムの動作中、アノード10にはアノード経路11を介して燃料、例えば水素が供給され、カソード23にはカソード経路24を介して酸素供給源としての空気が供給される。
【0029】
燃料は、遮断弁13により遮断可能であるタンク12に貯蔵される。遮断弁13の下流には、燃料の温度調節のための熱交換器14と圧力制御のための圧力制御器15とがアノード経路11に配置されている。さらに、噴射ポンプ16と、再循環経路17に配置された送風機18とが設けられており、これらを用いて燃料電池スタック2から流出する燃料を再循環させることができる。流出する燃料が液体水を含む可能性があるため、燃料は再循環の前に水分離器19に供給され、水分離器はガスから液体水を分離して容器20に集める。容器20が一杯になるとドレン弁21が開かれ、容器20が空にされる。時間の経過とともに、カソード側からアノード側に拡散する窒素が燃料に蓄積するため、アノード領域が時々パージされる。このためにパージ弁22が開かれる。パージ弁を介して放出された量は、タンク12からの新鮮な燃料と入れ替えられる。
【0030】
空気は周囲環境から採取され、カソード経路24に配置されたエアフィルタ25を介して、圧縮するための空気圧縮機26に供給される。その際、空気が熱せられるため、空気を冷却する熱交換器27がさらに設けられている。停止時に、入口側および出口側の遮断弁28によって燃料電池スタック2への空気流入を阻止することができる。燃料電池スタック2から流出する排気は排気経路29を介して再び周囲環境に放出される。さらに、燃料電池スタック2を迂回するためにバイパス弁31が配置されたバイパス経路30が設けられている。
【0031】
燃料電池スタック2の動作は電気エネルギーの他に熱も生成する。したがって、燃料電池スタック2は、冷媒ポンプ4が組み込まれた冷却回路3に結合されている。循環する冷媒は、取り込まれた熱を冷却器6に送るが、これは特に車両の主冷却器であり得る。冷却器6を迂回するために冷却器バイパス7が設けられ、これは方向制御弁8を介して開かれる。冷却回路3において、燃料電池スタック2への入口2.1の領域および燃料電池スタック2からの出口2.2の領域にそれぞれ圧力センサ5が組み込まれている。これらの圧力センサは、入口2.1および出口2.2の領域において冷媒の圧力を測定し、それによりこれらの測定値をもとにして燃料電池スタック2にわたる冷媒の圧力差を検出することができる(
図2も参照)。2つの圧力センサ5に代えて差圧センサ(図示せず)を使用することもできる。
【0032】
図3に例示的に示されるように、低温または氷点下始動時に、冷媒ポンプ4の回転数nが一定の場合に燃料電池スタック2にわたる冷媒の圧力差Δpが低下する。温度の上昇とともに冷媒の粘度が低下するため、この推移は、冷媒の温度とは逆の向きである。
図3において、入口2.1の領域における冷媒温度T
Einと出口2.2の領域における冷媒温度T
Ausの推移が示されている。同時に冷媒体積流量Qが増加する。したがって、冷媒の体積流量Qもしくは圧力差Δpから温度の変化を間接的に読み取ることができる。本発明はこの関係を利用する。体積流量センサと比べて格段に手頃でもある簡単な圧力センサを用いて(
図1および
図2における圧力センサ5を参照)圧力差Δpを検出できるので、本発明は、燃料電池スタック2における温度変化を間接的に検出するために圧力差Δpに照準を合わせる。
【0033】
図4において、本発明の方法による第1の可能な動作ストラテジが示される。低温または氷点下始動の初めに(ステップ100)、まず、冷媒ポンプ4がオンに切り替えられる(ステップ110)。続いて、冷媒入口温度T
Einが0℃を超えるかどうかが検査される(ステップ120)。それに当てはまる場合(「イエス」)、方法をすでに終了することができる(ステップ130)。それに当てはまらない場合(「ノー」)、燃料電池スタック2にわたる冷媒の圧力差Δpが検知され(ステップ140)、かつ圧力差Δpが減少するかどうか、すなわち燃料電池が熱せられるかどうかが検査される。それに当てはまる場合(「イエス」)、入口温度T
Einが新たに測定され、これはステップ120とステップ130またはステップ140とが繰り返されることを意味する。それに当てはまらない場合(「ノー」)、これらのステップを繰り返す前にポンプ回転数nが低減される(ステップ150)。
【0034】
図5において、変形された動作ストラテジが示される。その場合、ステップ200~230はステップ100~130に相当する。ステップ240において、同様に燃料電池スタック2にわたる冷媒の圧力差Δpが検知されて評価される。しかし検査されるのは、圧力差Δpが一定であるかどうかである。それに当てはまる場合(「イエス」)、測定温度T
Einに応じて、ステップ220とステップ230またはステップ240とが繰り返される。それに当てはまらない場合(「ノー」)、ステップ250において、圧力差Δpが減少するかどうかが検査される。それに当てはまる場合(「イエス」)、ポンプ回転数nが増加される(ステップ260)。それに当てはまらない場合(「ノー」)、ポンプ回転数nが低減される(ステップ270)。続いて、ステップ220および230あるいは、測定温度T
Einに応じて、ステップ220、240および250が繰り返される。
【0035】
図6は、低温または氷点下始動中の燃料電池スタック2にわたる冷媒の圧力差Δpの推移を示し、本来の低温または氷点下始動は時点t
1で初めて開始する。それより前は、低温または氷点下始動が準備される段階がある。この準備段階において、圧力差Δpは、最小値、厳密には閾値S1に相当する初期値にされる。次いで、それに続く低温または氷点下始動中に、圧力差Δpが閾値S2およびS3によって定義される範囲内の目標値にされる。閾値S1~S3を決定することによって、過大な体積流量、およびそれに伴い氷結が防がれる。その一方で、冷媒を十分に循環させる体積流量が保証され続ける。
【0036】
図7において、準備段階における可能な動作ストラテジが例示的に示される。準備段階の初めに(ステップ300)、まず、冷媒ポンプ4がオンに切り替えられる(ステップ310)。続いて、ステップ320において、圧力差Δpが検知され、かつこの圧力差が閾値S1に達したかどうかが検査される。それに当てはまる場合(「イエス」)、準備段階を終了することができ、低温または氷点下始動を開始することができる(ステップ330)。それに当てはまらない場合(「ノー」)、ポンプ回転数nを増加させる必要がある(ステップ340)。
【0037】
図8は、初期ポンプ回転数nを温度に依存して適応させる別の可能な動作ストラテジを示す。本発明によれば、温度は、燃料電池スタック2にわたる冷媒の圧力差Δpを介して間接的に検出される。適応の開始をもって(ステップ400)、まず、低温または氷点下始動がすでに実行および終了されたかどうかが検査される(ステップ410)。なぜなら、適応のために必要な情報がその場合にしか存在しないからである。続いて、圧力差Δpが低温または氷点下始動の終わりに閾値S2より下であったかどうかが検査される(ステップ420)。検査の結果が肯定的(「イエス」)である場合、ステップ430において閾値S1が上げられ、適応が終了される(ステップ440)。検査の結果が否定的(「ノー」)である場合、圧力差Δpが低温または氷点下始動の終わりに閾値S3より上であったかどうかが検査される(ステップ450)。それに当てはまらない場合(「ノー」)、適応は行われる必要はなく、ステップ440をもって方法を終了することができる。しかし閾値S3を上回った場合(「イエス」)、閾値S1を下げる必要がある(460)。そうして初めて、適応を終了することができる(ステップ440)。
【0038】
図9において、燃料電池スタック2にわたる冷媒の圧力差Δpの推移の評価をもとにした初期ポンプ回転数nの適応の別の可能性が示される。この方法は、一時的に停滞する推移が氷結を示すということを利用する。停滞する推移は、それ以外は下降する曲線におけるプラトーとして認識できる(
図3を参照)。この方法は、適応の開始をもって(ステップ500)、まず、低温または氷点下始動がすでに実行および終了されたかどうかが検査される(ステップ510)ことを企図する。なぜなら、適応のために必要な情報がその場合にしか存在しないからである。続いて、冷媒の圧力差Δpの推移がプラトーを示すかどうかが検査される(ステップ520)。それに当てはならない場合(「ノー」)、適応の必要はなく、方法を終了することができる(ステップ530)。しかし検査の結果がポジティブ(「イエス」)である場合、ステップ540において、閾値S3が下げられ、それに続くステップ530において適応が終了される。
【0039】
最初に非常に高いポンプ回転数nを回避するために、ポンプ回転数nを連続的に上昇させるのではなく、
図10に例示的に示されるように、徐々に、もしくは段階的に行う動作ストラテジを選択することもできる。回転数nが徐々に増加するとともに圧力差Δpも増加する。回転数nが一定に保たれる時間の間、圧力差Δpは再び減少する。このようにして、圧力差Δpが特定の範囲に保たれ、
図10に示される鋸歯に似た推移を示す。
図11に例示的に示されるように、この範囲は、温度に依存して変動する下限値(Δp
U)と上限値(Δp
A)とによって定めることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 燃料電池システム
2 燃料電池スタック
2.1 (燃料電池スタック2への)入口
2.2 (燃料電池スタック2からの)出口
3 冷却回路
4 冷媒ポンプ
5 圧力センサ
6 冷却器
7 冷却器バイパス
8 方向制御弁
10 アノード
11 アノード経路
12 タンク
13 遮断弁
14 熱交換器
15 圧力制御器
16 噴射ポンプ
17 再循環経路
18 送風機
19 水分離器
20 容器
21 ドレン弁
22 パージ弁
23 カソード
24 カソード経路
25 エアフィルタ
26 空気圧縮機
27 熱交換器
28 遮断弁
29 排気経路
30 バイパス経路
31 バイパス弁
Q 冷媒体積流量
S1、S2、S3 閾値
TEin (入口2.1の領域における)冷媒温度
TAus (出口2.2の領域における)冷媒温度
Δp 圧力差
ΔpU 下限値
ΔpA 上限値
【手続補正書】
【提出日】2024-03-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒ポンプ(4)を使用して冷却回路(3)を介して冷媒が供給される冷却通路が通り抜ける複数の燃料電池を有する燃料電池スタック(2)を備えた燃料電池システム(1)を動作させる方法において、低温または氷点下始動時に、前記燃料電池スタック(2)における前記燃料電池の温度が前記燃料電池スタック(2)にわたる前記冷媒の圧力差(Δp)を介して間接的に検出され、前記間接的に検出された温度に依存して前記冷媒ポンプ(4)の回転数(n)が制御されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記燃料電池スタック(2)にわたる前記冷媒の前記圧力差(Δp)を検出するために、前記燃料電池スタック(2)の入口(2.1)および出口(2.2)における前記冷媒の圧力(p1)が複数の圧力センサ(5)を用いて、または差圧センサを用いて測定されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記燃料電池スタック(2)にわたる前記冷媒の前記圧力差(Δp)を実質的に一定に、または所定の範囲に保つために、前記低温または氷点下始動中に前記冷媒ポンプ(4)の前記回転数(n)が連続的または徐々に増加されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記燃料電池スタック(2)にわたる前記冷媒の前記圧力差(Δp)を減少させるために、前記低温または氷点下始動中に、前記冷媒ポンプ(4)の前記回転数(n)が一定に保たれることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記燃料電池スタック(2)にわたる前記冷媒の前記圧力差(Δp)が上昇推移を示す、および/または所定の最大値を超える場合、前記低温または氷点下始動中に前記冷媒ポンプ(4)の前記回転数(n)が低減されることを特徴とする、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項6】
前記燃料電池スタック(2)にわたる前記冷媒の初期最小圧力差を定義する第1の閾値(S1)が決定され、低温または氷点下始動の準備として、前記冷媒ポンプ(4)の前記回転数(n)が前記第1の閾値(S1)に達するまで増加されることを特徴とする、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項7】
前記低温または氷点下始動中に達成されるべき前記燃料電池スタック(2)にわたる前記冷媒の圧力差の範囲を定義する2つのさらなる閾値(S2、S3)が決定され、殊に前記
2つのさらなる閾値(S2、S3)は前記第1の閾値(S1)を下回ることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記低温または氷点下始動の終わりに前記燃料電池スタック(2)にわたる前記冷媒の前記圧力差(Δp)が前記達成されるべき圧力差(Δp)の範囲外である場合、前記第1の閾値(S1)が上げられるか、または下げられることを特徴とする、請求項
6に記載の方法。
【請求項9】
前記低温または氷点下始動中あるいは低温または氷点下始動後の前記圧力差の前記推移が評価され、推移が一時的に停滞する場合、前記
2つのさらなる閾値(S2、S3)のうちの一方の第3の閾値(S3)が下げられ、それにより前記第3の閾値が前記
2つのさらなる閾値(S2、S3)のうちの他方の第2の閾値(S2)に近づくことを特徴とする、請求項
7に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の閾値(S1)、前記第2の閾値(S2)、および前記第3の閾値のうちの少なくとも1つの閾
値が、前記方法のステップを実行するように設定された制御装置に格納されることを特徴とする、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
燃料電池システム(1)の制御装置であって、請求項1
または2に記載の方法のステップを実行するように設定される、制御装置。
【国際調査報告】