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特表2024-526704結合誘発抗体沈殿および精製のための高親和性超分子ポリマー
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  • 特表-結合誘発抗体沈殿および精製のための高親和性超分子ポリマー 図1
  • 特表-結合誘発抗体沈殿および精製のための高親和性超分子ポリマー 図2
  • 特表-結合誘発抗体沈殿および精製のための高親和性超分子ポリマー 図3
  • 特表-結合誘発抗体沈殿および精製のための高親和性超分子ポリマー 図4
  • 特表-結合誘発抗体沈殿および精製のための高親和性超分子ポリマー 図5
  • 特表-結合誘発抗体沈殿および精製のための高親和性超分子ポリマー 図6
  • 特表-結合誘発抗体沈殿および精製のための高親和性超分子ポリマー 図7
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】結合誘発抗体沈殿および精製のための高親和性超分子ポリマー
(51)【国際特許分類】
   C07K 17/00 20060101AFI20240711BHJP
   C07K 5/04 20060101ALI20240711BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20240711BHJP
   C07K 14/31 20060101ALI20240711BHJP
   C07K 1/14 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C07K17/00 ZNA
C07K5/04
C07K7/06
C07K14/31
C07K1/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501249
(86)(22)【出願日】2022-07-18
(85)【翻訳文提出日】2024-02-29
(86)【国際出願番号】 US2022073822
(87)【国際公開番号】W WO2023004273
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】63/223,792
(32)【優先日】2021-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501335771
【氏名又は名称】ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティ
(71)【出願人】
【識別番号】391015708
【氏名又は名称】ブリストル-マイヤーズ スクイブ カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BRISTOL-MYERS SQUIBB COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】ホンガン ツイ
(72)【発明者】
【氏名】イー リー
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド スターン
(72)【発明者】
【氏名】シュアンクオ シュー
(72)【発明者】
【氏名】リー リン ロック
(72)【発明者】
【氏名】ジェイソン ミルズ
(72)【発明者】
【氏名】サンチャイタ ゴーシュ
(72)【発明者】
【氏名】ジョンジエン リー
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA11
4H045BA12
4H045BA13
4H045BA18
4H045BA41
4H045BA50
4H045BA60
4H045CA11
4H045DA86
4H045EA60
4H045FA33
4H045GA25
(57)【要約】
本開示は、Fc領域が含まれるタンパク質、例えば、抗体またはFc融合タンパク質などのようなものを精製するためのシステムおよび方法に関する。本システムには、ペプチドアミノ酸配列にコンジュゲーションした線状炭化水素鎖を含む一以上のフィラー分子、および線状炭化水素鎖、ペプチドアミノ酸配列、リンカー、および黄色ブドウ球菌プロテインAのZ33ペプチドを含む一以上のリガンド分子が含まれる。フィラー分子およびリガンド分子は生理学的条件下でイムノファイバー(IFs)に自己集合する。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)2-5個のアミノ酸のアミノ酸配列にコンジュゲーションした線状炭化水素鎖を含む一以上のフィラー分子;
(b)線状炭化水素鎖、2-5個のアミノ酸のアミノ酸配列、リンカー、およびリンカーにコンジュゲーションした黄色ブドウ球菌プロテインAのZ33ペプチドまたはその抗体結合フラグメントを含む一以上のリガンド分子
を含み、
前記一以上のフィラー分子および一以上のリガンド分子は、生理学的条件下でイムノファイバー(IFs)に自己集合する能力を有する、システム。
【請求項2】
前記Z33ペプチドはアミノ酸配列FNMQQQRRFYEALHDPNLNEEQRNAKIKSIRDD(配列番号1)を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
各々の前記一以上のフィラー分子および一以上のリガンド分子は12個の炭素の長さの線状炭化水素鎖を含む、請求項1または請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
各々の前記一以上のフィラー分子および一以上のリガンド分子はVVXX(配列番号2)のアミノ酸配列を含む、請求項1-3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記フィラー分子はアミノ酸配列VVEE(配列番号3)を含む、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記リガンド分子はアミノ酸配列VVKK(配列番号4)を含む、請求項4に記載のシステム。
【請求項7】
前記リンカーは一以上のオリゴ(エチレングリコール)(OEG)分子を含む、請求項1-6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記リンカーは一以上のポリエチレングリコール(PEG)分子を含む、請求項1-6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記リンカーは2-50個のOEGまたはPEG分子を含む、請求項7または請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記リンカーは36個のOEGまたはPEG分子を含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記リンカーは16個のOEGまたはPEG分子を含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項12】
抗体のFc領域を含むタンパク質を精製するための方法であって、
請求項1-11のいずれか一項に記載のシステムを水溶液において生理学的pHにて溶解すること、および夜通し熟成させることであり、それによって前記一以上のフィラー分子および一以上のリガンド分子がイムノファイバー(IFs)に自己集合すること;
(b)IFsがFc領域に結合して溶液においてイムノファイバー-タンパク質複合体を形成する条件下でFc領域を含むタンパク質が含まれるサンプルを前記IFsと混合すること;
(c)塩の添加および/または遠心分離によって前記溶液から前記イムノファイバー-タンパク質複合体を分離すること;および
(d)前記Fc領域を含むタンパク質を前記IFsから解離させること
を含む、方法。
【請求項13】
前記Fc領域を含むタンパク質は抗体である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記Fc領域を含むタンパク質はFc融合タンパク質である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記Fc領域を含むタンパク質は、pHを溶出条件まで低下させること、およびろ過または精密ろ過によって前記IFsから解離される、請求項12-14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
30分以内に完了する、請求項12-15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【優先権主張】
【0001】
この出願は、2021年7月20日に出願された米国仮特許出願連続番号第63/223,792号に対する優先権を主張し、それはその全体が参照によりここに組み込まれる。
【0002】
電子的に提出された資料の参照による組込み
2022年7月18日に作成され、5,022バイトのファイルサイズを有する「JHU-39610-601_SQL」と題された、ここに提出されたコンピュータ可読配列リストのテキストは、参照によりその全体がここに組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
超分子集合は、階層的および機能的なナノ構造を構築するためのボトムアップアプローチである。最近開発された超分子ポリマーの中でも、ペプチドベースの材料は、それらの生体適合性、生分解性、および低毒性のために、特に魅力的である。超分子基質上での生理活性エピトープの提示は、効率的な分子/細胞認識およびシグナル伝達、ならびに治療薬の望ましい部位での正確なデリバリーおよび蓄積のためのナノ構造体のアクティブターゲティングを可能にさせる。これらのエピトープを超分子ポリマー表面に固定することによってもたらされる立体障害を考慮すると、エピトープの空間的配置はそれらの機能性を制御する上で重要な役割を果たしている。不活性分子による生物活性ビルディングユニットの共集合は、エピトープ密度を効果的に調節し、および向上した生物活性を達成することが示された。一方、エピトープのアクセシビリティおよび標的生体分子とのそれらの相互作用を改善するために、結果として生ずるナノ構造体の半径方向においてエピトープの間隔を空けることについての柔軟なリンカーの使用も同様に不可欠である。
【0004】
アフィニティー沈殿は、モノクローナル抗体(mAbs)および他の治療用タンパク質の精製のために、プロテインAクロマトグラフィーに対する有望な代案として次第に探索されてきたが、それは慣習的なプロテインAベースのアフィニティークロマトグラフィー法は制限された生産容量および高い媒体コストを受けるためである。精製プロセスの間に、抗体の沈殿を誘発または補助するために塩を使用することが一般に行われる。しかしながら、塩濃度が高いと、タンパク質が不安定になり、および溶液中に存在する不純物が非特異的に沈殿する危険性が高まることが知られる。
【0005】
抗体および他のタンパク質を捕捉および精製するためのより一層効率的なシステムおよび方法に対する必要性が残っている。
本開示の簡単な要約
【0006】
本開示は、以下の:(a)2-5個のアミノ酸のアミノ酸配列にコンジュゲーションした線状炭化水素鎖を含む一以上のフィラー分子;(b)線状炭化水素鎖、2-5アミノ酸のアミノ酸配列、リンカー、およびリンカーにコンジュゲーションした黄色ブドウ球菌(スタフィロコッカス・アウレウス)プロテインAのZ33ペプチド、またはその抗体結合フラグメントを含む一以上のリガンド分子を含むシステムを提供し、一以上のフィラー分子および一以上のリガンド分子は、生理学的条件下でイムノファイバー(IFs)に自己集合する能力を有する。また、前述のシステムを使用して抗体および/または融合Fcタンパク質を精製する方法も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1A-1Cは、OEG(またはPEG)リンカーによるイムノファイバー(IF)ビルディングユニットの分子設計、およびモノクローナル抗体(mAb)捕捉のためのIFsの形成を例示する模式図を含む。図1Aは、フィラー分子、C12-VVEE、およびリガンド分子、C12-VVKK[リンカー]Z33の化学構造を示す。図1Bは、さまざまなリンカーを用いたリガンド分子設計および共集合IFs上でのZ33ペプチドの提示に対するリンカーの長さの効果を例示する概略図である。図1Cは、フィラー分子およびリガンド分子の超分子IFsへの共集合、およびIF溶液におけるmAbsの4つの可能な状態:(1)2つの異なるIFsからの2つのリガンドに結合したmAbの2つのFc部分;(2)同じIFからの2つの隣接するリガンドに結合したmAbの2つのFc部分;(3)IF上の1つのリガンドに結合したmAbの1つのFc部分;(4)IFsに組み立てられていない、ゼロ、1つ、または2つのモノマーリガンドに結合した溶液における遊離mAbsを例示する。
図2図2A-2Hはフィラー分子およびリガンド分子の特徴付けを示す。図2A-2Gは、PBSにおける自己集合フィラーおよびリガンド分子(2A:C12-VVEE、2B:O4、2C:O8、2D:O12、2E:O16、2F:O36、および2G:P2000)の代表的なTEM像であり、それぞれ7.4±0.6nm、11.1±0.9nm、12.6±1.2nm、13.6±1.2nm、14.9±1.3nm、18.5±1.8nm、および19.3±2.0nmの直径を有する。直径は平均±SDとして与える(n=30)。スケールバー:100nm。図2Hは、異なるOEG(またはPEG)リンカーを有する自己集合リガンド分子の正規化CDスペクトルを例示するグラフであり、α-ヘリックス二次構造の形成および保持が示唆される。
図3図3A-3Dは、PBS、pH7.4において25℃にて、100μMのmAb1を40μMのO4(3A)、O8(3B)、O12(3C)、O16(3D)に段階的に注入した場合のITCプロファイルおよび結合曲線を例示するグラフである。
図4図4A-4Eは異なるリガンド分子を有するIFsのmAb沈殿性能の比較を示す。図4Aおよび4Bは、1Mの塩または無塩条件下で種々の共集合IFs(2.5mMフィラー、100μMリガンド)と共にインキュベーションした20μMおよび40μMのmAb1それぞれについてのmAb沈殿収率を例示するグラフである。図4Aにおける1M塩によるG2についてのデータポイントは、参考文献からリプロットした。図4Cおよび4Dは、1M塩または無塩条件下で、20μM(0.3mg)(4C)および40μM(0.6mg)(4D)のmAb1を様々な100 IFs(2.5mMフィラー、100μMリガンド)とインキュベーションした100μLサンプルからの沈殿mAb質量を例示するグラフである。図4Eは、1M塩または無塩条件下で40μMのmAbと5分間混合した後の共集合IFs(2.5mMフィラー、100μMリガンド)の写真を含む。すべての実験は3重に実行し、およびデータは平均±標準偏差として示す。
図5図5A-5FはmAb沈殿収率の最適化を示す。図5Aおよび5Bは、40μM(0.6mg)、80μM(1.2mg)、および133μM(2mg)の100μLのmAb1を種々のO16濃度にてIFsとインキュベーションした場合のmAb沈殿の収率および質量をそれぞれ例示するグラフである。図5Cは、40μMのmAb1を最適化IFs(2.5mMフィラー、250μMのO16)とインキュベーションした場合の1M塩および無塩条件下でのmAb沈殿収率の比較を例示するグラフである。図5Dは、一定のmAb濃度でリガンド濃度が高くなるときmAb-IFが凝集する提案メカニズムを示す模式図である。低濃度、中濃度、および高濃度のリガンド濃度では、それぞれ状態3、状態1、状態2でのmAbが支配的である。図5Eは、最適化IFs(2.5mMフィラー、250μMのO16)を用いた40μMのmAbの2時間における濁度を示すグラフである。図5Fは、最適化IFs(2.5mMフィラー、250μMのO16)とインキュベーションした40μMのmAb1のmAb沈殿収率に対する結合時間の影響を示すグラフである。すべての実験は3重に実行し、およびデータは平均±標準偏差として示す。
図6図6A-6Fは、清澄化バルク細胞培養収穫物からのmAbの精製(「mAbのCB」と略記する)、および高力価でのmAbsの分離を示す。図6AはPBS溶液中のIFsを用いたmAb精製プロセスの略図である。図6Bは、無塩条件下で2回の逐次沈殿後の40μMおよび80μMの純粋なmAb1のmAb沈殿収率、洗浄ステップでの収率損失、および溶出収率を示すグラフである。図6Cは、無塩条件下でのIF溶液による2回の逐次沈殿後の40μMおよび80μMのmAb1のCBについてのmAb沈殿収率を示すグラフである。図6Dは、凍結乾燥粉体形態において固形IFsを用いる高力価mAb精製プロセスの略図である。図6Eおよび6Fは、無塩条件下で凍結乾燥IFsによる逐次沈殿を用いる21mg/mL(6E)および31mg/mL(6F)の純粋なmAb1についての沈殿収率を示すグラフである。すべての実験は3重に実行し、およびデータは平均±標準偏差として示した。
図7図7は、種々のO16濃度にて100μLのIFsとインキュベーションした後の10μMおよび20μMでの100μLのmAb1についてのmAb沈殿収率を例示するグラフである。200μMのO16を有するIFsは、両方のmAb濃度について最良のmAb沈殿収率を与えた。 定義
【0008】
本技術の理解を促進するために、いくらかの用語および語句を以下に規定する。追加的な定義は詳細な説明を通して記載する。
【0009】
「核酸」、「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド配列」、および「オリゴヌクレオチド」という用語は、ここにおいて互換的に使用され、およびピリミジンおよび/またはプリン塩基、好適にはシトシン、チミン、およびウラシル、ならびにアデニンおよびグアニンのポリマーまたはオリゴマーをそれぞれ指す(Albert L. Lehninger(アルバートL.レニンジャー)、Principles of Biochemistry(生化学の原理)、793-800にて(Worth Pub(ワース・パブ)。1982)参照)。本用語は、任意のデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、またはペプチド核酸成分、および任意のそれらの化学的変異形、例えば、これらの塩基のメチル化、ヒドロキシメチル化、またはグリコシル化形態のようなものを包含する。ポリマーまたはオリゴマーは、組成が不均一であっても均質であってもよく、自然に生じる供給源から分離されてもよく、または人工的にもしくは合成的に生産されてもよい。加えて、核酸は、DNAもしくはRNA、またはそれらの混合物であってよく、およびホモ二本鎖、ヘテロ二本鎖、およびハイブリッド状態を含め、一重鎖または二重鎖の形態で永続的または移行的に存在し得る。いくらかの実施形態において、核酸または核酸配列は、核酸構造の他の種類、例として、DNA/RNAらせん、ペプチド核酸(PNA)、モルホリノ核酸(例は、Braasch(ブラーシュ)およびCorey(コーリー)、Biochemistry(バイオケミストリー)、41(14):4503-4510(2002)および米国特許第5,034,506号明細書参照)、ロックド核酸(LNA;Wahlestedt(ワーレステット)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.(プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステーツ・オブ・アメリカ)、97:5633-5638(2000)参照)、シクロヘキセニル核酸(Wang(ワン)、J. Am. Chem. Soc.(ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサエティー)、122:8595-8602(2000)参照)、および/またはリボザイムなどのようなものを含む。「核酸」および「核酸配列」という用語はまた、非自然ヌクレオチド、修飾ヌクレオチド、および/または自然ヌクレオチドと同じ機能を見せることができる非ヌクレオチドビルディングブロック(例は、「ヌクレオチドアナログ」)を含む鎖を包含し得る。
【0010】
用語「アミノ酸」は、別段の指示がない限り、それらのDおよびL立体異性体のすべてにおいて、それらの構造がそのような立体異性体の形態を許容する場合、自然アミノ酸、非自然アミノ酸、およびアミノ酸アナログを指す。
【0011】
自然アミノ酸には、アラニン(AlaまたはA)、アルギニン(ArgまたはR)、アスパラギン(AsnまたはN)、アスパラギン酸(AspまたはD)、システイン(CysまたはC)、グルタミン(GlnまたはQ)、グルタミン酸(GluまたはE)、グリシン(GlyまたはG)、ヒスチジン(HisまたはH)、イソロイシン(IleまたはI)、ロイシン(LeuまたはL)、リジン(LysまたはK)、メチオニン(MetまたはM)、フェニルアラニン(PheまたはF)、プロリン(ProまたはP)、セリン(SerまたはS)、スレオニン(ThrまたはT)、トリプトファン(TrpまたはW)、チロシン(TyrまたはY)、およびバリン(ValまたはV)が含まれる。
【0012】
非自然アミノ酸には、制限されないが、アゼチジンカルボン酸、2-アミノアジピン酸、3-アミノアジピン酸、ベータ-アラニン、ナフチルアラニン(「naph」)、アミノプロピオン酸、2-アミノ酪酸、4-アミノ酪酸、6-アミノカプロン酸、2-アミノヘプタン酸、2-アミノイソ酪酸、3-アミノイソ酪酸、2-アミノピメリン酸、ターシャリーブチルグリシン(「tBuG」)、2,4-ジアミノイソ酪酸、デスモシン、2,2'-ジアミノピメリン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸、N-エチルグリシン、N-エチルアスパラギン、ホモプロリン(「hPro」または「homoP」)、ヒドロキシリジン、アロヒドロキシリジン、3-ヒドロキシプロリン(「3Hyp」)、4-ヒドロキシプロリン(「4Hyp」)、イソデスモシン、アロイソロイシン、N-メチルアラニン(「MeAla」または「Nime」)、N-メチルグリシンを含むN-アルキルグリシン(「NAG」)、N-メチルイソロイシン、N-メチルペンチルグリシンを含むN-アルキルペンチルグリシン(「NAPG」)、N-メチルバリン、ナフチルアラニン、ノルバリン(「Norval」)、ノルロイシン(「Norleu」)、オクチルグリシン(「OctG」)、オルニチン(「Orn」)、ペンチルグリシン(「pG」または「PGly」)、ピペコリン酸、チオプロリン(「チオP」または「tPro」)、ホモリジン(「hLys」)、ホモアルギニン(「hArg」)、(S)-N-Fmoc-2-(4'-ペンテニル)アラニン、Fmoc-2,2-ビス(4-ペンテニル)グリシンが含まれる。採用され得る他の非自然アミノ酸は、例は、国際特許出願公開WO 2018/106937に開示される。
【0013】
用語「ポリペプチド」および「タンパク質」は、ここで互換的に使用し、および任意の長さのアミノ酸の重合体の形態を指し、それらはコード化アミノ酸および非コード化アミノ酸、化学的または生化学的に修飾または誘導体化されたアミノ酸、ならびに修飾されたペプチド骨格を有するポリペプチドを含むことができる。
【0014】
ここで使用するように、用語「ペプチド」は、長さが四から100個までのアミノ酸残基、好ましくは長さで約10より80個までの残基、より好ましくは長さで15より65個までの残基の配列を含み、およびそこで1つのアミノ酸のα-カルボキシル基は、隣接するアミノ酸の主鎖(α-またはβ-)アミノ基にアミド結合によって接合される。ペプチドは、自然アミノ酸、非自然アミノ酸、アミノ酸アナログ、および/または修飾アミノ酸を含み得る。ペプチドは、自然に発生するタンパク質のサブ配列または非自然(合成)配列であり得る。
【0015】
ここで使用する場合、用語「イムノ両親媒性物質(immuno-amphiphiles)」は、「イムノファイバー(immunofibers)」と呼ばれる別個の、安定な超分子ナノ構造に自発的に会合することができる分子を意味する。たいてい、IFsは約2.8ないし約7.5間のpH範囲で会合することができる。しかしながらまた、結合特性もpH依存性である。より一層多く正に荷電するIFsはより一層高いpHの溶液により会合しやすく、および逆に、負に荷電したIFsはより一層低いpHの溶液においてより一層容易に会合する。
【0016】
ここで使用する場合、用語「抗体」は、典型的には2つの同一のポリペプチド鎖の対から構成される免疫グロブリン分子を指し、各対は1つの「軽」(L)鎖および1つの「重」(H)鎖を有する。ヒトの軽鎖はカッパ軽鎖およびラムダ軽鎖として分類される。重鎖は、ミュー、デルタ、ガンマ、アルファ、またはイプシロンとして分類され、およびそれぞれ抗体のアイソタイプをIgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEとして規定する。可変領域および定常領域は軽鎖および重鎖内において、約12個以上のアミノ酸の「J」領域によって接合され、また重鎖は約3個以上のアミノ酸の「D」領域も含む。各重鎖は重鎖可変領域(ここではHCVRまたはVHと略記する)および重鎖定常領域から構成される。重鎖定常領域は3つのドメイン、CH1、CH2およびCH3から構成される。各軽鎖は軽鎖可変領域(ここではLCVRまたはVLと略記する)および軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は1つのドメイン、CLから構成される。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例は、エフェクター細胞)および古典的補体系の第一成分(C1q)を含め、宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。VHおよびVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより一層多く保存される領域により分散される領域に、さらに細分化することができる。各VHおよびVLは3つのCDRsおよび4つのFRsから構成され、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって以下の順序で並ぶ:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。各重鎖/軽鎖対の可変領域(VHおよびVL)はそれぞれ、抗体結合部位を形成する。用語「抗体」は、抗体多量体(抗体の多量体形態)、例えば、モノマー抗体の二量体、三量体、または高次多量体などのようなものの一部分である抗体を包含する。それはまた、非抗体モイエティと連結またはそれに付着し、あるいはさもなければそれと物理的または機能的に関係している抗体も包含する。さらに、用語「抗体」は、抗体を生産する何らの特定の方法によっても制限されない。例えば、それには中でも、組換え抗体、合成抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、二特異性抗体、および多特異性抗体などが含まれる。
【0017】
ここで使用する場合、用語「モノクローナル抗体」は、抗原上の単一のエピトープに対して向けられるBリンパ球の単一クローンによって産生される抗体を指す。モノクローナル抗体は典型的に、Kohler(コーラー)およびMilstein(ミルスタイン)、Eur. J. Immunol.(ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・イムノロジー)、5:511-519(1976)に初めて記載されたように、ハイブリドーマ技術を用いて生産される。モノクローナル抗体はまた、組換えDNA法を用いて生産され(例は、米国特許第4,816,567号明細書参照)、ファージディスプレイ抗体ライブラリーから分離され(例は、Clackson(クラックソン)ら、Nature(ネイチャー)、352:624-628(1991)参照);およびMarks(マークス)ら、J. Mol. Biol.(ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー)、222:581-597(1991)参照)、または完全ヒト免疫グロブリン系を保有するトランスジェニックマウスから生産され得る(例は、Lonberg(ロンバーグ)、Nat. Biotechnol(ネイチャー・バイオテクノロジー):1117-25(2005)、およびLonberg、Handb. Exp. Pharmacol.(ハンドブック・オブ・エクスペリメンタル・ファーマコロジー)、181:69-97(2008)参照)。対照的に、「ポリクローナル」抗体は、動物内の異なるB細胞系列によって分泌される抗体である。ポリクローナル抗体は、同じ抗原上の複数のエピトープを認識する免疫グロブリン分子の集合体である。
【0018】
「Fc領域」、「Fcフラグメント」、または「フラグメント結晶化可能領域」という用語は、ここでは、ヒンジおよび定常重鎖ドメイン(CH2およびCH3)を含むモノクローナル抗体の領域を指すために互換的に使用することができる。Fc領域は、(生得的)免疫細胞上のFc受容体との、または補体系の認識分子であるC1qとのその相互作用を介して、下流のエフェクター機能を媒介する。Fc受容体との相互作用は、感染病原体に応答して、抗体依存性細胞介在性細胞傷害活性(ADCC)および抗体依存性細胞貪食活性(ADCP)などのような広範な免疫調節機能を発揮することができる。
【0019】
「抗体のフラグメント」、「抗体フラグメント」および「抗体の機能的フラグメント」という用語は、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1以上のフラグメントを意味するために、ここで互換的に使用する(概して、Holliger(ホリガー)ら、Nat. Biotech(ネイチャー・バイオテクノロジー):1126-1129(2005)参照)。抗体フラグメントは、例えば、1以上のCDRs、可変領域(またはその部分)、定常領域(またはその部分)、またはそれらの組合せを含むことが望ましい。抗体フラグメントの例には、制限されないが、以下が含まれ、(i)Fabフラグメント、それはVL、VH、CL、およびCH1ドメインからなる一価フラグメントであり、(ii)F(a’)2フラグメント、それはヒンジ領域にてジスルフィド連結によって連結される2つのFabフラグメントを含む二価フラグメントであり、(iii)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント、(iv)Fab’フラグメント、それは穏やかな還元条件を用いるF(ab’)2フラグメントのジスルフィド架橋の破壊に起因し、(v)ジスルフィド安定化Fvフラグメント(dsFv)、および(vi)ドメイン抗体(dsAb)、それは抗原と特異的に結合する抗体単一可変領域ドメイン(VHまたはVL)ポリペプチドである。
【0020】
ここで使用する場合、用語「抗体結合ペプチド」は、抗体、または抗体分子の特定の部分、例えば、Fc部分と高い特異性、例えば、約10-6Mないし約10-10M間のKdを有するなどのようなものにより結合する能力を有するペプチドを意味する。
【0021】
ここで使用する場合、用語「サンプル」は、本発明のイムノファイバーを用いて結合することができる興味ある抗体または興味あるFc領域含有タンパク質(例は、Fc融合タンパク質)を含む任意のサンプル、溶液、流体、または混合物を意味する。いくらかの実施形態において、サンプルは生物学的サンプルであることができる。例えば、サンプルには、例えば、細胞培養物、細胞溶解物、および/または清澄化バルク(例は、清澄化細胞培養上清)が含まれる。サンプルは随意に、興味ある抗体またはFc領域含有タンパク質を発現する宿主細胞または有機体から生産される(自然または組換えのいずれでも)。例えば、細胞培養における細胞は、興味ある抗体またはFc融合タンパク質をコードする核酸を含む発現構築物によりトランスフェクトされた宿主細胞を含む。これらの宿主細胞は、細菌細胞、真菌細胞、昆虫細胞、または好ましくは培養において増殖した動物細胞であることができる。ここで使用する場合、「生物学的サンプル」および「生物学的流体」という用語は、生きている、またはかつて生きていた患者もしくは哺乳動物から、または培養細胞からの任意の量の物質を指す。そのような物質には、制限されないが、血液、血清、血しょう、尿、細胞、器官、組織、骨、骨髄、リンパ、リンパ節、滑膜組織、軟骨細胞、滑膜マクロファージ、内皮細胞、皮膚、細胞培養物、細胞溶解物、および清澄化バルク(例は、清澄化細胞培養上清)が含まれる。
【0022】
「モノマー」、「モノマーサブユニット」および「モノマー単位」という用語は、ここでは互換的に使用され、およびポリマーまたはオリゴマーの基本構造単位の1つを指す。「オリゴマー」は、約1から約30個までのモノマーをもつ分子である。オリゴマーのアーキテクチャーは、例は、線状、分岐状、またはフォーク状であることができる。オリゴマーはポリマーの一種である。用語「ポリマー」は、ここで使用される場合、多数のモノマー(例は、数百または数千)から構成される大きな分子、または高分子を含む物質または材料を指す。
詳細な説明
【0023】
本開示は、少なくとも部分的には、モノクローナル抗体(mAbs)のアフィニティー沈殿および精製のために合理的に設計されたフィラー分子およびリガンド分子を共集合することによる超分子イムノファイバー(IF)システムの構築を前提としている。いくらかの実施形態では、リガンド分子は、ほとんどの哺乳動物種からの免疫グロブリンG(IgG)のFc部分にpH特異的な様式において結合するプロテインA模倣ペプチドを含む。追加的に、プロテインA模倣ペプチドの柔軟性およびアクセス性を高めるために、一連のリンカーをリガンド設計中に組み込み得る。モノクローナル抗体、特にIgG上の二重Fc結合部位、およびここで提供されるイムノファイバーの多価性を考慮すると、結果として生じる多価mAb-IF結合の増強は、大きな複合体へのIF架橋をもたらし、および低塩または無塩条件下でのモノクローナル抗体の沈殿を促進する可能性がある。
【0024】
この点に関して、本開示は、生理学的条件下でイムノファイバー(IFs)に自己集合する能力を有する1つ以上のフィラー分子および1つ以上のリガンド分子を含むシステムを提供する。「フィラー」または「フィラー分子」という用語は、ここで使用する場合、組成物の特定の特性を改善することができる組成物に添加される分子、粒子、または化合物を指す。本開示の関連において、1つ以上のフィラー分子は共集合イムノファイバーにおいてリガンド分子の分布を調節するように設計される。用語「リガンド」または「リガンド分子」は、ここで使用する場合、生物学的効果を生成するために生体分子と複合体を形成する物質を指す。いくらかの実施形態において、リガンドは標的タンパク質(例は、受容体)上の部位に結合することによってシグナルを生成する。あるいはまた、リガンドは、核酸分子、例えば、DNA二重らせんなどのようなものに結合する小分子、イオン、またはタンパク質であってもよい。他のタイプのリガンドには、制限されないが、ステロイドホルモン、増殖因子、神経伝達物質、および他のペプチドが含まれる。
【0025】
いくらかの実施形態において、各々の1つ以上のフィラー分子および各々の1つ以上のリガンド分子は、アミノ酸配列にコンジュゲーションした線状炭化水素鎖を含む。「炭化水素」は全体的に水素および炭素からなる有機化合物であることが認められる。線状炭化水素鎖は任意の適切な長さであり得る。いくらかの実施形態では、線状炭化水素鎖は、1から24個までの炭素原子、例えば、1より16個までの炭素原子、1より14個までの炭素原子、1より12個までの炭素原子、1より10個までの炭素原子、1より8個までの炭素原子、1より6個までの炭素原子、または1より4個までの炭素原子を含む。いくらかの実施形態においては、線状炭化水素鎖は、10-15個の炭素原子(例は、10、11、12、13、14、または15個の炭素原子)を含む。理想的には、線状炭化水素鎖は12個の炭素原子を含む。当技術における通常の技能の者であれば、水溶液中での溶解性を維持するために、線状炭化水素鎖に含まれる炭素数には上限があることを認めるであろう。
【0026】
各々の1つ以上のフィラー分子のおよび各々の1つ以上のリガンド分子はまた、線状炭化水素鎖にコンジュゲーションしたアミノ酸配列を含む。1つ以上のフィラー分子において存在するアミノ酸配列は、1つ以上のリガンド分子において存在するアミノ酸配列と同じまたは異なり得る。理想的には、フィラー分子およびリガンド分子に存在するアミノ酸配列は、共集合中に分子間の相互作用を促進するように設計される。アミノ酸配列は任意の適切な長さであり得る。いくらかの実施形態において、フィラー分子および/またはリガンド分子に存在するアミノ酸配列は、1-20個のアミノ酸、例えば、1-5個のアミノ酸、5-10個のアミノ酸、1-10個のアミノ酸、10-15個のアミノ酸、または15-20個のアミノ酸などのようなものを含む。例えば、各々の1つ以上のフィラー分子は、2-5個のアミノ酸(例は、2、3、4、または5個のアミノ酸)、およびいくらかの態様では、4個のアミノ酸のアミノ酸配列を含む。同様に、各々の1つ以上のリガンド分子は、2-5個のアミノ酸(例は、2、3、4、または5個のアミノ酸)、およびいくらかの態様では、4個のアミノ酸のアミノ酸配列を含む。1つ以上のフィラー分子および/または1つ以上のリガンド分子における包括のための模範的なアミノ酸配列は、VVXX(配列番号2、「X」は任意のアミノ酸を示す)を含む。いくらかの実施形態において、各々の1つ以上のフィラー分子は、アミノ酸配列VVEE(配列番号3)を含み、および各々の1つ以上のリガンド分子は、アミノ酸配列VVKK(配列番号4)を含む。しかしながら、本開示は、これらの特定のアミノ酸配列に制限されない。
【0027】
線状炭化水素鎖およびアミノ酸配列に加えて、各々の1つ以上のリガンド分子は、リンカーと、リンカーにコンジュゲーションした黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)プロテインAのZ33ペプチドまたはその抗体結合フラグメントとをさらに含む。「リンカー」は、ある化合物を別の化合物(例は、細胞結合剤、例えば、ペプチドリガンドまたは抗体などのようなもの)に安定に共有結合様式で連結する能力がある任意の化学的モイエティである。リンカーは、酸誘導切断、光誘導切断、ペプチダーゼ誘導切断、エステラーゼ誘導切断、および/またはジスルフィド結合切断に対して感受性であるか、または実質抵抗性であることができる。いくらかの実施形態において、リンカーは、遊離アミノ基、カルボキシル基またはジスルフィド基を有する側鎖を伴う任意のアミノ酸であることができる。本発明の1つ以上のフィラー分子および/または1つ以上のリガンド分子におけるアミノ酸リンカーとして有用な模範的なアミノ酸には、リジン(K)、グルタミン酸(E)、アルギニン(R)およびシステイン(C)が含まれる。他の適切なリンカーは当技術においてよく知られ、および例えば、ジスルフィド基、チオエーテル基、酸不安定性基、光不安定性基、ペプチダーゼ不安定性基、およびエステラーゼ不安定性基が含まれる。リンカーはまた、ここに記載され、および当技術で知られるように、荷電リンカーおよびそれらの親水性形態も含む。いくらかの実施形態において、リンカーは、切断可能なリンカー、切断可能でないリンカー、親水性リンカー、およびジカルボン酸ベースのリンカーであり得る。
【0028】
いくらかの実施形態において、リンカーは、1つ以上のポリ(エチレングリコール)(PEG)分子または1つ以上のオリゴ(エチレングリコール)(OEG)分子を含む親水性リンカーである。別段の指示がない限り、「PEGオリゴマー」またはオリゴエチレングリコール(OEG)は、モノマーサブユニットのすべてがエチレンオキシドサブユニットであるものである。典型的には、実質すべて、またはすべてのモノマーサブユニットがエチレンオキシドサブユニットであるが、オリゴマーは、例は、コンジュゲーションのために、別個の末端キャッピングモイエティまたは官能基を含んでもよい。典型的には、本開示において使用するためのPEGオリゴマーは、末端酸素(複数形)が、例は、合成変換の間に置換されたか否かに依存し、以下の構造:「-(CH2CH2O)n-」または「-(CH2CH2O)n-1-CH2CH2-」の2つのうちの1つを含む。いくらかの実施形態において、変数(n)は1から30までに及び、ならびに末端基および全体的なPEGまたはOEGのアーキテクチャー(architecture)は変動することができる。
【0029】
PEG化(PEGylation)はそれを通してポリエチレングリコール鎖をタンパク質(例は、治療用タンパク質)、ペプチド、アプタマー、酵素、小分子薬物、抗体、および他の分子にコンジュゲーションさせるプロセスである。PEG化プロセスを通して、コンジュゲーションされたタンパク質の分子量が増加し、抑制された分解、生体内での向上した安定性が結果として生じる。PEG化はまた、それがコンジュゲーションするタンパク質の免疫原性を低下させる。PEGおよびOEGリンカーならびに関連するコンジュゲーション方法は、例は、米国特許第6,716,821号;米国特許第9,388,104号;米国特許出願公開第2009/0285780号;およびHarris(ハリス), J.M.およびChess(チェス), R.B.、Nature Reviews Drug Discovery(ネイチャー・レビューズ・ドラッグ・ディスカバリー),2:214-221(2003)に記載されている。
【0030】
リンカーは、任意の適切な数のPEGまたはOEG分子、単位、またはモノマーから構成され得る。いくらかの実施形態において、リンカーは、2-50(例は、5、10、15、20、25、30、35、40、または45)個のPEGまたはOEG分子を含む。他の実施形態において、リンカーは、10-20(例は、10、11、13、14、15、16、17、18、19、または20)個のPEGまたはOEG分子、または30-40(例は、31、32、33、34、35、36、37、38、39、または40)個のPEGまたはOEG分子を含む。例えば、リンカーは、16個のOEGまたはPEG分子、あるいは36個のOEGまたはPEG分子を含んでよい。
【0031】
ここで開示するリガンド分子は、リンカーにコンジュゲーションした黄色ブドウ球菌プロテインAのZ33ペプチド、またはその抗体結合フラグメントをさらに含む。ブドウ球菌性(Staphylococcal)プロテインA(SPA)は、黄色ブドウ球菌の細胞壁において最初に見出されたタンパク質である。SPAは5つの相同ドメインから構成され、それは3つのヘリックスバンドルに折り畳まれている。プロテインAは、ヒトを含め、ほとんどの哺乳動物種からの免疫グロブリンG(IgG)のFc部分に対するその特異的結合により、免疫学において重要な役割を果たしている。プロテインAの広範な構造および生化学的研究が行われてきた。プロテインAのZ-58ドメインは、アフィニティークロマトグラフィーおよびアフィニティー沈殿に広く使われた最初のプロテインAドメインであった。分子の機能を大きく変えることなく最小化された結合ドメインZ-33が後に開発された。Z33ペプチドは、アミノ酸配列FNMQQQRRFYEALHDPNLNEEQRNAKIKSIRDD(配列番号1)を有するプロテインA模倣物であり、および2つのα-ヘリックスのモチーフを含む。本開示はまた、Z33ペプチドの任意の抗原結合フラグメント、または配列番号1と少なくとも95%(例は、95%、96%、97%、98%、または99%)同一であるアミノ酸配列を有するペプチドを含むリガンド分子を包含する。核酸および/またはアミノ酸の同一性の程度は、当技術において知られる任意の方法、例えば、BLAST配列データベースなどのようなものを用いて決定することができる。
【0032】
本開示は、抗体またはFc融合タンパク質を精製するための方法をさらに提供し、それは(a)上記のシステムを生理学的pHでの水溶液に溶解すること、および夜通し熟成させることであり、それによって1つ以上のフィラー分子および1つ以上のリガンド分子がイムノファイバー(IFs)に自己集合すること;(b)IFsがFc領域に結合して溶液においてイムノファイバー-タンパク質複合体を形成する条件下でFc領域を含むタンパク質が含まれるサンプルをIFsと混合すること;(c)塩の添加および/または遠心分離によって溶液からイムノファイバー-タンパク質複合体を分離すること;および(d)Fc領域を含むタンパク質をIFsから解離させることを含む。Fc領域を含む任意の適切なタンパク質は、ここに開示される方法を用いて精製され得る。例えば、Fc領域を含むタンパク質は、抗体、例えば、モノクローナル抗体などのようなものであってもよい。他の実施形態では、Fc領域含有タンパク質はFc融合タンパク質であってもよい。「Fc融合タンパク質」は、抗体の結晶化可能なフラグメント(Fc)ドメインを別の生物学的に活性なタンパク質ドメインまたはペプチドと、独特な構造-機能特性および場合によっては治療可能性を有する分子を生成するために接合させる生物工学的ポリペプチドである。ガンマ免疫グロブリン(IgG)アイソタイプは、有利な特徴、例えば、エフェクター機能の動員および血しょうにおける半減期の増加などのようなもののため、Fc融合タンパク質を生成するための基礎としてしばしば使用される。いくらかの実施形態において、ここに記載のシステムは、フィラーおよびリガンド分子の設計中にカスタマイズされた結合対を組み込むことによって、Fc領域を構成しない他のタンパク質およびFc領域を捕捉および精製するために使用され得る。
【0033】
「生理的」または「生理学的」pHは、ヒト細胞(例は、インビボでのヒト細胞)において典型的に生じるpHである。これに関して、人体の生理的pHは7.35ないし7.45間に及び、7.40にて平均的な生理的pHを有する。フィラー分子およびリガンド分子が適したpHで水溶液に溶解されると、溶解システムは、1つ以上のフィラー分子および1つ以上のリガンド分子がイムノファイバー(IFs)に自己集合するのに十分な時間、インキュベーションまたは「熟成」される。溶液におけるフィラー分子およびリガンド分子のインキュベーションまたは「熟成」は、任意の適切な期間であってよい。いくらかの実施形態において、溶解システムは、少なくとも2時間、しかし48時間以下で熟成される。例えば、溶解システムは、2-8時間、8-12時間、12-16時間、16-20時間、20-24時間、24-36時間、または36-48時間インキュベーションまたは熟成され得る。いくらかの実施形態において、溶解システムは夜通し熟成される(例は、約6、7、8、9、10、11、または12時間)。
【0034】
十分な熟成期間およびIFsの形成後、開示された方法は、抗体またはFc融合タンパク質を含むサンプルをIFsと、混合によってIFsがタンパク質(例は、抗体またはFc融合タンパク質)のFc領域に結合して溶液においてイムノファイバー-タンパク質複合体を形成する条件下で混合することを含む。親和性ベース(affinity-based)の抗体精製法に適切な条件は当技術で知られており、および開示した方法に採用することができる。例えば、プロテインAベースの精製に適切な試薬および条件は当技術において知られ、および本開示の関連において使用され得る(例は、Proteus Protein A Antibody Purification Handbook(プロテウス・プロテインA抗体精製ハンドブック)、Bio-Rad(バイオ-ラッド)(2016);およびFishman(フィッシュマン), J.B.、およびBerg(バーグ), E.A.、Cold Spring Harb Protoc(コールド・スプリング・ハーバー・プロトコルズ); doi:10.1101/pdb.prot099143参照)。次いで、形成された複合体は、例えば、塩誘導沈殿および遠心分離を含む多くの既知の分離手段によって、未結合のイムノファイバーおよびFc領域含有タンパク質(例は、抗体またはFc融合タンパク質)ならびにサンプル中の他の成分から分離することができる。分離された複合体は次いで、酸性pHにて別の溶液中に導入することができ、そこでイムノファイバーはFc領域含有タンパク質(例は、抗体またはFc融合タンパク質)とのそれらの結合親和性(binding affinity)を失う。
【0035】
次に、抗体またはFc融合タンパク質は、ろ過、例えば、透析ろ過、精密ろ過、または他の手段などのようなものによってイムノファイバーから解離させることができる。いくらかの実施形態では、抗体またはFc融合タンパク質は、pHを溶出条件(例は、pH2.5-4.0)に下げ、およびろ過または精密ろ過することによって、IFsから解離される。他の実施形態では、抗体またはFc融合タンパク質は、逐次沈殿(sequential precipitation)を用いてIFsから解離させ得る。この点に関して、Fc領域含有タンパク質(例は、抗体またはFc融合タンパク質)を含むサンプルを第一のIF溶液(上記のように調製)と混合し、任意の適切な量の時間(例は、2、3、4、5、または6時間)熟成またはインキュベーションし、および遠心分離(例は、10,000-20,000rpmにて)してもよい。結果として生じる上清は、Fc領域含有タンパク質と複合化したイムノファイバーを含み、次いで第二のIF溶液(上記のように調製)と混合し、任意の適切な量の時間(例は、2、3、4、5、または6時間)熟成またはインキュベーションし、および第二の遠心分離(例は、10,000-20,000rpmにて)を行ってもよい。前述のプロセスは、Fc領域含有タンパク質(例は、抗体またはFc融合タンパク質)の望ましい収量に達するまで、任意の回数繰り返してよく、および次いで、最終沈殿物を洗浄し、および溶出緩衝剤において再懸濁する。いくらかの実施形態では、溶出した抗体またはFc融合タンパク質は膜分離法を用いて十分に回収し得る。
【0036】
ここに記載のシステムおよび方法は、当技術において知られる他のタンパク質精製法、特に、樹脂容量の制限および高い製造コストのために捕捉ステップが主要な下流の支障の1つであるプロテインAクロマトグラフィー法と比較して、いくつかの利点を有する。実際、ここに記載のIFシステムおよび方法は、モノクローナル抗体の高処理量精製、取扱いの容易さ、およびコストの低減を提供する。加えて、開示したシステムおよび方法は、抗体-IF結合および凝集が30分以内に完了できるという点で、タンパク質の迅速な精製を可能にする。
【0037】
以下の例は、本発明をさらに説明するが、もちろん、いかなる方法であってもその範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0038】
例に記載した実験では、以下の材料および方法を使用した。
【0039】
材料.すべてのFmocアミノ酸および樹脂は、Advanced Automated Peptide Protein Technologies(アドバンスト・オートメイティド・ペプチド・プロテイン・テクノロジーズ)(AAPPTEC、Louisville(ルイヴィル)、KY(ケンタッキー州)、USA)から入手した。純粋なmAb1、ならびに清澄化チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞培養収穫物中のmAb1、およびmAb2は、Bristol-Myers Squibb(ブリストル-マイヤーズ・スクイブ)(Devens(デベンズ)、MA(マサチューセッツ州)、USA)から入手した。細胞培養物は深層ろ過を用いて清澄化した。Fmoc-N-アミド-O(P)EGn-酸は、PurePEG(ピュアPEG)(San Diego(サンディエゴ)、CA(カリフォルニア州)、USA)およびBroadPharm(ブロードファーム)(San Diego、CA、USA)から購入した。ラウリン酸(C12)はMilliporeSigma(ミリポアシグマ)(St. Louis(セントルイス)、MO(ミズーリ州)、USA)から入手した。別段の指定がない限り、他のすべての試薬はVWR(Radnor(ラドナー)、PA(ペンシルバニア州)、USA)から入手し、およびさらに精製することなく、受け取ったまま使用した。
【0040】
分子合成.フィラー分子およびリガンド分子は、先に記載した方法を用いて合成した。簡単には、C12-VVEEおよびC12-VVKKO(P)EGnGGZ33(n=4、8、12、16、36、45)は、標準的な9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)固相合成プロトコルを用いて、Liberty Blue(リバティ・ブルー)自動マイクロ波ペプチド合成機(CEM Corporation(CEMコーポレーション)、Matthews(マシューズ)、NC(ノースカロライナ州)、USA)で合成した。粗生成物は、トリフルオロ酢酸(TFA)/トリイソプロピルシラン(TIS)/H2Oを92.5:5:2.5の割合で2.5時間混合したものを用いて固体支持体から切断した。過剰のTFAを蒸発により除去し、および粗生成物を沈殿させるために氷冷ジエチルエーテルを加え、次いで遠心分離した。粗生成物は、220nmにてペプチドセグメントの吸光度をモニターしたVarian ProStar Model 325(バリアン・プロスター・モデル325)分取HPLC(Agilent Technologies(アジレント・テクノロジーズ)、Santa Clara(サンタ・クララ)、CA、USA)上で25℃にてVarian Polymeric Column(バリアン・ポリメリック・カラム)(PLRP-S、100Å、10μm、150×25mm)を用い、分取RP-HPLCによって精製した。収集した画分をMALDI-TOF(BrukerAutoflex III MALDI-TOF instrument(ブルカーオートフレックスIII MALDI-TOFインスツルメンツ)、Billerica(ビルリカ)、MA、USA)によって分析し、および次いで生成物を含む画分を凍結乾燥し(LABCONCOTM FreeZone(LABCONCOTMフリーゾーン、「TM」は米国等でのトレードマーク表示)-105℃、4.5L凍結乾燥機、Kansas City(カンザスシティー)、MO、USA)、および-30℃で貯蔵した。
【0041】
CMC測定.PBSにおけるリガンド分子のCMCsは、超分子集合体の疎水性ドメインに分配されると蛍光強度および発光波長の変化(ブルーシフト)を起こす疎水性色素であるナイルレッドを用いて決定した。初めにナイルレッドをアセトンに20μMで溶解し、および10μlのアリコートをいくつかの遠心チューブ中に負荷した。室温下でアセトンを蒸発させた後、PBS中の500μlの新鮮なリガンド溶液を様々な濃度にて乾燥ナイルレッドを含む遠心チューブ中に加え、および集合体について夜通し熟成させた。次にナイルレッドの蛍光スペクトルは、励起波長を560nmに固定したFluorolog(フルオロログ)蛍光光度計(Jobin Yvon(ジョバン・イボン)、Edison(エジソン)、NJ(ニュージャージー州)、USA)でモニターし;発光スペクトルは580-720nmでモニターした。次に、635nmでの発光強度(疎水性環境におけるナイルレッドの発光極大)と660nmの発光強度(水性環境におけるナイルレッドの発光極大)との比は、遷移曲線を得るために試験濃度に対してプロットし、および2つのフィッティングラインの交差によってCMC値を決定した。
【0042】
自己集合、共集合、およびTEMイメージング.自己集合のために、フィラー分子またはリガンド分子をそれぞれ最終濃度が2.5mMまたは400μMになるようにPBS(20mMリン酸ナトリウム、150mM塩化ナトリウム、pH7.4)に溶解し、および室温で24時間熟成させた。共集合IFsを構築するため、フィラー分子およびリガンド分子は、合成および精製プロセスで形成される可能性のある任意の既存のナノ構造を除去するためにヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)で前処理した。HFIPを蒸発後、フィラーおよびリガンド分子は望ましい濃度になるようにPBS(20mMリン酸ナトリウム、150mM塩化ナトリウム、pH7.4)に溶解し、および室温で24時間熟成させた。その後、各サンプル溶液のストック10μlは、400スクエアメッシュを有する炭素膜コート銅グリッド(Electron Microscopy Sciences(エレクトロン・マイクロスコピー・サイエンシーズ)、Hatfield(ハットフィールド)、PA、USA)上にスポットし、過剰分はグリッド上にサンプルの薄膜を残すためにろ紙で取り除いた。サンプルを5分間乾燥させた後、10μlの2%酢酸ウラニルをサンプルグリッドに加え、および30秒後に過剰分を除去した。すべてのサンプルは、イメージング前に少なくとも3時間乾燥させた。明視野TEMイメージングはFEI Tecnai 12 TWIN Transmission Electron Microscope(FEIテクナイ12 TWIN透過型電子顕微鏡)で実行し、およびすべてのTEM画像はSIS Megaview III(SISメガビューIII)広角CCDカメラに必要であった。
【0043】
CD分光法.自己集合リガンド分子のCDスペクトルは、Jasco(ジャスコ)J-710分光光度計(JASCO、Easton(イーストン)、MD(メリーランド州)、USA)上で1mmパス長の石英UV-vis吸収セル(ThermoFisher Scientific(サーモフィッシャー・サイエンティフィック)、Pittsburgh(ピッツバーグ)、PA、USA)を用いて25℃で収集した。溶媒のバックグラウンドスペクトルを取得し、サンプルのスペクトルから差し引いた。収集されたデータは3回のスキャンから平均化し、およびリガンド濃度に関して正規化した。
【0044】
ITC実験.ITC実験は高精度VP-ITC滴定カロリメーターシステム(Microcal Inc.(マイクロキャル社))を使用して実行した。40μMのリガンド溶液はPBS(pH7.4)中100μMのmAb1により25℃にて滴定した。各注入後に発生した熱は、熱量測定シグナルの積分から求めた。リガンド分子およびmAb1間の結合に伴う熱は希釈熱を差し引いて求めた。データの解析はMicroCal Origin(マイクロキャル・オリジン)パッケージを用いて実行した。
【0045】
mAb沈殿実験.沈殿実験の1日前に、望ましいフィラー濃度およびリガンド濃度のIFストック溶液を調製した。実験グループでは、濃縮溶液からの純粋なmAb1(448μM、64.5g/L)は望ましい最終濃度になるように100μLのIF溶液に添加し、および室温で30分間インキュベーションした。その後、溶液を15000rpmで15分間遠心した。1M塩グループの場合、硫酸アンモニウムを最終濃度1MになるようにmAb-IF混合液に添加し、および遠心前にさらに30分間インキュベーションした。上清を取り出し、およびタンパク質濃度を定めるためにProA-HPLC(POROSTM A 20μmのColumn(カラム)、Stainless Steel(ステンレス鋼)、2.1×30mm、0.1mL)で分析した。各種の沈殿量は添加量から上清中の量を差し引いて算出した。沈殿収率は添加量を沈殿量で割って算出した。
【0046】
IF溶液を用いた逐次沈殿およびmAb溶出.沈殿実験の1日前に、3種類のIFストック溶液、IF1(2.5mMフィラー、250μMのO16)、IF2(2.5mMフィラー、750μMのO16)、およびIF3(2.5mMフィラー、200μMのO16)を調製した。濃縮溶液からの純粋なmAb1(448μM、64.5g/L)を100uLのIF1および100uLのIF2に、それぞれ40μMおよび80μMの望ましい最終濃度にするために添加した。4時間のインキュベーション後、サンプルを15000rpmで15分間遠心し、および上清を100uLのIF3に移し、さらに別の4時間のインキュベーションとその後の遠心を行った。次いで、2回の沈殿ステップからの沈殿物を洗浄し、および再懸濁するために200μLのPBSおよび400μLの溶出バッファー(40mM酢酸ナトリウム、pH3.7)を用いた。各沈殿ステップ、洗浄ステップ、および溶出ステップからの上清は、mAb濃度を定めるためにProA-HPLC(POROSTM A 20μmのColumn、Stainless Steel、2.1×30mm、0.1mL)で分析した。
【0047】
清澄化細胞培養収穫物からのmAb1の精製.清澄化バルク状態でのmAb1は、40μMまたは80μMの濃度で最適化IFs(100μL)と共に30分間インキュベーションした。同じ手順は、mAb1を沈殿させ、および遠心してペレットを得るために実行した。次いでペレットをPBS(400μL、40mM酢酸ナトリウム、pH3.7)において懸濁し、および透析チューブ(Pur-A-Lyzer Maxi、50kDaカットオフ分子量、Sigma-Aldrich(シグマ-アルドリッチ)、St. Louis、MO、USA)に移した。次いで再懸濁した溶液は、pH3.7での40mM酢酸ナトリウム(1L)に対して、透析バッファーを3回交換しながら24時間透析した。タンパク質、フィラー、およびリガンドの濃度はProA-HPLCおよびRP-UPLCによって定めた。
【0048】
凍結乾燥IFsを用いた高mAb力価の逐次沈殿.6つの凍結乾燥IFストック粉体(IF4-IF9)は、100μLに溶解したとき、フィラーおよびO16濃度がそれぞれ2.5mMおよび400μMになるように調製した。沈殿実験の1日前に、凍結乾燥したIF粉体を調製した。IFsは凍結乾燥の前に24時間水中で共集合させた。146μM、21g/L)または(215μM、31g/L)いずれもの濃縮ストック溶液からの純粋なmAb1を凍結乾燥IF4に添加した。1時間のインキュベーション後、サンプルを15000rpmで15分間遠心した。遠心後、上清の容量を測定し、および最終上清容量が100μLになるまで新鮮PBSを加えた。次いで最初の沈殿ステップ後の100μLの上清を次の凍結乾燥IFストック粉体(IF5)に加え、および別の1時間インキュベーションした。このインキュベーション、遠心分離、および上清交換のステップを6つの凍結乾燥IFs(IF4-IF9)のすべてがmAb沈殿に使用されるまで繰り返した。1回目、3回目、および6回目の沈殿ステップ後の上清は、沈殿ステップを通して残存したmAbsの累積量を測定するために、ProA-HPLCを用いて分析した。
実施例1
【0049】
この例はここに開示したシステムの分子設計および特徴を説明する。
【0050】
フィラー分子およびリガンド分子の共集合によってイムノファイバーシステムを形成した。フィラー分子のC12-VVEEは、共集合したIFs中のリガンド分子の分布を調節するように設計した(図1A)。Z33ペプチドは、2ヘリックスモチーフを持ち、特異的なモノクローナル抗体捕捉のためにリガンド分子のC12-VVKK[Linker(リンカー)]Z33のC末端上にコンジュゲーションしている(図1A)。以前のリガンド設計(G2)では、IF表面とZ33の間に二重のグリシン(GG)セグメントをリンカーとして挿入した。Z33の柔軟性とアクセシビリティをさらに向上させるために、表1にまとめたように、さまざまなOEG(またはPEG)リンカー(n=4、8、12、16、36、45)を有する一連のリガンド分子、O4、O8、O12、O16、O36、およびP2000を設計した。
【表1】
【0051】
図1Bに示すように、OEG(またはPEG)の長さが長くなるにつれて、Z33ペプチドはIF表面からさらに遠ざかるように伸長すると期待された。OEG(またはPEG)リンカーを組み込むことで、IFsの半径方向の立体障害がさらに減少し、および両方のFc結合部位についてmAb-IF相互作用が改善されると仮定した。フィラー分子およびリガンド分子は自動固相ペプチド合成(SPPS)法を用いて合成した。
【0052】
図1Cは、水溶液中でフィラーおよびリガンド分子が自発的に共集合するプロセスを例示し、IF表面上にZ33が表示された糸状IFsが形成される。mAbsを添加すると、IF溶液において4つの可能な状態のmAbsが存在した。状態1と2は、それぞれ2つの異なるIFsまたは同じIFの2つのリガンドに結合したmAbの2つのFc部分を表す。状態3では、mAbの1つのFc部分のみがIFs上の1つのリガンドと結合している。リガンドモノマーと共集合構造の間の平衡を考えると、状態4では、mAbsは、IFsにおいて集合したものではなく、溶液においてゼロ、1つ、または2つのモノマーリガンドと結合している可能性もあった。mAbの結合および沈殿は2つの別々のプロセスを表す。以前の結果では、1Mの塩はmAb1を直接沈殿させることはできなかったが、それは強い電荷スクリーニング剤としてほとんどすべてのIFsを沈殿させように機能し、および従ってIFsに結合しているmAbsを沈殿させる(状態1-3)。しかしながら、無塩条件下では、IFsへの結合はmAbsが沈殿するのに十分でないかもしれない。無塩条件下でのmAbsの沈殿の鍵は、架橋したmAb-IF複合体の形成にあると考えられ、それは状態1でのmAbsによって主に誘発される。
実施例2
【0053】
この例は、ここに開示したシステムおよび方法を用いて生産されたイムノファイバーの分子集合体および特徴について説明する。
【0054】
共集合したIFsにおけるフィラー分子およびリガンド分子の挙動を評価するために、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、pH7.4においてそれらの自己集合特性をまず調べた。図2Aに示すように、フィラー分子は直径7.4±0.6nmを有する糸状構造に自己集合することが可能であった。OEG(またはPEG)リンカーを用いた場合、リガンド分子の臨界ミセル濃度(CMCs)は以前のG2リガンドよりも比較的高く、5.1から10.5μMまでに及んだ(表1)。代表的な透過型電子顕微鏡(TEM)像から、各々のリガンド分子はそれぞれ、直径11.1±0.9nm(O4)、12.6±1.2nm(O8)、13.6±1.2nm(O12)、14.9±1.3nm(O16)、18.5±1.8nm(O36)、および19.3±2.0nm(P2000)の糸状構造に自己集合できることが明らかになった(図2B-2G)。期待されたように、IFの直径はリンカーの長さが長くなるにつれて大きくなった。自己集合リガンド分子内の分子パッキングについての見識を得るために、新しく設計した各々のリガンド分子について円偏光二色性(CD)スペクトルを収集した。208nmと222nm付近の負のピークは、元のZ33ペプチドで示したように、すべての自己集合リガンド分子におけるαヘリックス二次構造の保存を示唆する(図2H)。等温滴定カロリメトリー(ITC)は、モノクローナルヒトIgG1(144kDa、「mAb1」と略記)とリガンド分子O4-O16の間の結合親和性を定めるために用いた。解離定数Kdは50nMおよび70nM間に及び、遊離のZ33ペプチドについての報告値(26nM)と同様であり、リガンド分子内でのOEGリンカーのコンジュゲーションがそれらのmAb結合親和性を大きく損なうことはないことが示された(図3A-3D)。
実施例3
【0055】
この例はリンカーの長さおよびリガンドの選定が抗体の収率に与える影響を実証する。
【0056】
リガンドの性能を比較するために、前述した同様の方法を使用して、100μMのリガンド分子を100μLのPBS(pH7.4)中で2.5mMのフィラー分子と個々に共集合させた。2.5mM(溶解度限界)のフィラー分子が最良のmAb沈殿結果をもたらすことが見出され、およびここに記載の実験で一貫して使用した。次いで、ストック溶液からの純粋なmAb1を終濃度20μMに達するように異なるIF溶液に添加し、および室温にて30分間インキュベーションした。mAb沈殿収量に対する塩の影響を調査するために、各共集合したIFシステムについて2つの並行実験を実行し:1つは1M塩を伴い、およびもう1つは塩を伴わない(図4A)。遠心分離後、残存するmAb濃度を定め、およびmAb沈殿収量を算出するために、上清をProA-HPLCによって分析した。1M塩を用い、リガンド設計においてGGリンカーをO(P)EGリンカーに置き換えるとき、mAb沈殿収率は65%から88%よりも高くにまで大幅な改善を示した。特に、O4-O36について95%を超えるmAb沈殿収率が得られた。1M塩条件下ではIF沈殿効率に対する偏りがないため、G2からOEG(またはPEG)リンカーを有する新しいリガンド分子までのこのmAb沈殿収量の増加は特にリンカーの長さおよび柔軟性の増加の結果としてmAb結合効率において著しい改善を招く。P2000についてmAb沈殿収率でのわずかな低下が見られたが、おそらくmAb捕捉のためのZ33ペプチドの接近性を害する長いPEG鎖の絡み合いによるであろう。
【0057】
塩のない条件下では、mAbの沈殿収率は塩グループよりも概して低かったが、一方でOEGリンカー長の増加に伴って上昇傾向が観察された。塩グループとは異なり、塩なし条件下でのmAb沈殿収率は、mAb結合効率とmAb-IF複合体の沈殿効率の組合せによって決定した。塩グループデータセットによって指し示されるように、O4からO36まで、mAb結合効率に明らかな違いはなかった。無塩条件下でのmAb沈殿収率における増加は、mAb沈殿効率における向上を表し、おそらくIFs間の改善された架橋によって引き起こされる。さらに重要なことに、1M塩および塩なしグループの間の収率の差は、リンカーの長さが増加するにつれて徐々に減少し、O36についての収率の差異が10%未満に導かれた。これは、OEGまたは(PEG)リンカーを使用することによって達成される改善されたmAb-IF相互作用がmAb沈殿への塩の寄与を潜在的に置き換えることができたという点で、mAb沈殿にとって非常に有望であると考えられた。
【0058】
上記観察結果を確認し、およびこのIFシステムについてのmAb結合能力を予備的に理解するために、より一層高いmAb1濃度(40μM)により実験を繰り返した。図4Bに示すように、同様の収率傾向が観察され、O4-O36についての1M塩グループでのわずかな上昇傾向を除いて、OEGリンカー長の増加に伴うmAb結合効率の向上が指し示された。20から40μMまでのmAbへのmAb沈殿収量での一貫した低下にも関わらず、100μLサンプルについての沈殿mAb質量(20μM:0.3mg、40μM:0.6mg)は、実際には40μMのmAbsと同等かまたはそれよりも高く(図4C-4D)、IF表面上に表示されたZ33ペプチドは20μMのmAb1によって完全には飽和されておらず、およびより一層多くのmAbsが添加された場合には潜在的にさらに利用することができたことが示された。
【0059】
mAb沈殿収率の違いはまた、IF溶液の濁りによっても明らかにすることができる。O12、O16、O36、およびP2000のIF溶液はmAb添加後5分以内に濁り、それは最初の3つのIFシステムでは見られなかった。図4Eは、1M塩条件下または塩なし条件下で40μMのmAb1と5分間混合した後のO4~O16のIFsのサンプルバイアルを示す。たいてい、塩グループの濁りは塩なしグループよりも相対的に高く、塩グループについてより一層高いmAb沈殿収率が示唆された。その一方、図4Bに示す収率傾向に従って、濁りはO4からO16まで増加した。
【0060】
これらの結果は、リンカー長の増加が、リガンド分子のmAb結合効率ならびにmAb-IF複合体の沈殿効率を同時に改善できることを実証する。O36はすべての条件において最良のmAb沈殿収率を示したが、O16が合成収率および材料コストの観点からはより望ましく、およびその後の実験に選定した。
実施例4
【0061】
この例は、ここに開示する方法を使用して塩のない条件下でのモノクローナル抗体沈殿の最適化について説明する。
【0062】
以前の研究では、リガンド:mAbのモル比がmAbの沈殿収率において最も重要な役割を果たすことが示された。無塩条件下でのmAb沈殿収率を最適化し、およびO16のIFシステムが高濃度のmAbに効率的に適用できるかどうかを調査するために、mAb1を40μM(6mg/ml)、80μM(12mg/ml)、133μM(20mg/ml)の3つの濃度にて、100μLのPBSにおいて様々な濃度で2.5mMのフィラー分子およびO16リガンド分子によって形成されたIFsとインキュベーションした。図5Aおよび5Bは、それぞれmAbの沈殿収率および質量対O16濃度のプロットを示し、および3つのmAb濃度すべてについて、リガンド:mAbモル比が6:1ないし9:1間で最適点が観察された。最適なO16濃度にて、40および80μMのmAbについてのmAb沈殿収率は約85%であったが、133μMのmAbでは約65%のmAbが沈殿するに過ぎず、高mAb濃度についてスケールアップするときIF性能での低下が示された。最適なO16濃度でmAb沈殿収率が100%に達しなかった理由をより一層良く理解するために、1M塩条件および塩なし条件の両方の下で、最適なIFs(2.5mMフィラー、250μMのO16)により40μMのmAbについて並行実験を行った(図5C)。1M塩が存在するとき99%を超えるmAb1が沈殿し、IFs上へのmAb1の完全な捕捉が指し示された。しかしながら、塩なしグループでは88%のmAb1が沈殿するにすぎず、それは限られたIF架橋によって生じ得る不十分なIF沈殿に起因した。
【0063】
図5Aおよび5Bにおいて観察されたmAb沈殿収率についての傾向を理解するには、低、中、および高リガンド濃度のそれぞれで状態3、状態1、および状態2がおそらく優勢であろう(図5D)。低リガンド濃度では、すべてのリガンドは過剰なmAbsによって飽和され、2番目のFc部位の結合がほとんど残らない(状態3)。初期収率の増加は、リガンド濃度が増加するので、IF架橋のためのデュアルサイトmAb結合での増加に起因することができた(状態1)。最適な動作点の後、リガンド濃度がさらに増加すると、収率の低下が生じ、それは架橋効率の低下によって引き起こされる可能性があり、それは同じIFからの2つのZ33に結合するmAbsについての機会(状態2)がIFs表面上でのO16リガンドの低下した間隔を伴ってはるかに高くなるからであろう。
【0064】
凝集の動態についての理解を深めるために、40μMのmAb1および最適化されたIFs(2.5mMフィラー、250μMのO16)の混合物の濁度を350nmでの吸光度により24時間監視した。図5Eに示すように、濁度は時間とともに増加し、および30分以内に安定水準に達し、急速な初期凝集が示唆された。溶液の濁度をmAb沈殿収率と相関付けるために、上清を30分、2時間、および24時間分析した(図5F)。濁度研究と一致して、mAb-IFの結合と凝集は30分以内にほぼ完了し、83%という高い沈殿収率に達することができた。2時間(88%)および24時間(92%)で収率のわずかな増加が見られたが、低感度の濁度研究によっては明らかにされず、それはmAb沈殿プロセスの時間効率を犠牲にした。
実施例5
【0065】
この例はモノクローナル抗体の逐次沈殿および溶出を説明する。
【0066】
mAbの沈殿収率をさらに改善するために、残りのmAbが沈殿するように2段階の逐次沈殿を行った。図6Aに描くように、最初の沈殿ステップからの上清を新鮮なIF溶液中に加えた。次いで、2つの沈殿ステップからの沈殿物における非特異的に結合した不純物を除去するために、PBSを用いて洗浄ステップを行った。沈殿したmAbsを再懸濁させるために、溶出緩衝液(40mM酢酸ナトリウム、pH3.7)を加えてmAb-IF複合体を解離した。
【0067】
概念の証明として、40μMおよび80μMでの純粋なmAb1により逐次沈殿を行った。最初の沈殿について、40μM(6mg/mL)および80μM(12mg/mL)のmAb1はそれぞれ250μMおよび750μMのO16が含まれるIFとインキュベーションし、最適化条件は図5Aによって指し示した。両方のグループについて82%を超えるmAb1が沈殿したが、8~20μMのmAb1が上清において残った(図6B)。図7に示す別のO16濃度最適化セットに基づいて、200μMのO16を含むIFsは第2の沈殿ステップのために使用した。最終的に、両方のmAb濃度で97%を超える最終沈殿収率および~88%の溶出収率が達成され、洗浄ステップ中の収量損失はほとんどなかった(図6B)。溶出したmAbsを十分に回収するには、mAb1(約144kDa)および解離したIFs(モノマーサイズ<6kDa)を分離するために、50kDaカットオフ膜を使用した膜分離ステップを行う(図6A)。次に、溶解したIFsを用いたこの逐次沈殿は、40μMおよび80μMでの清澄細胞培養採取物からのmAb1の分離に適用し、そこでそれぞれのmAb力価について86%および90%を超えるmAb1沈殿収率が達成された(図6C)。
【0068】
20mg/mLを超えるmAb力価にて高いmAb沈殿収量を達成するために、21mg/mLまたは31mg/mLの純粋なmAbのいずれか100μLと混合した2.5mMフィラーおよび400μMのO16を含有する新鮮な凍結乾燥IFsを用いて逐次沈殿を行った。遠心分離の前に、mAbsを凍結乾燥IFsと1時間インキュベーションした。遠心分離ステップの後、まだmAbsを含む上清を測定し、および100μLの最終容量に達するまで新鮮なPBSを加えた。合計6つの沈殿ステップが完了するまで、同じ濃度にて新たに調製した凍結乾燥IFsにより沈殿ステップを繰り返した(図6D)。第1、第3、および第6の沈殿ステップ後の上清は、沈殿プロセス全体で残留するmAbsの累積量を測定するためにProA-HPLCを使用して分析した。図6Eおよび6Fに示すように、ほぼすべてのmAbsが6回のインキュベーションおよび遠心分離ステップ後に沈殿し、収率は21mg/mLおよび31mg/mLのmAb力価についてそれぞれ96%および98%に達した。さらに、わずか3回の沈殿ステップの後、mAbの沈殿収率は20%前後から80%までに大幅に増加し、より多くのタンパク質が連続する各沈殿ステップにより捕捉および分離されるため、最適なリガンド:タンパク質比がプロセスの早い段階で達成されることが指し示された。
【0069】
上記の例は、OEG(またはPEG)リンカーを含む一連の超分子IFシステムの設計および構築を例示し、およびIFの生物活性に対するIFsの半径方向におけるエピトープトポグラフィーの影響を実証する。記載された結果は、OEG16へのリンカーの長さを増加させると、塩のない条件下でモノクローナル結合および沈殿効率を同時に改善することができることを明らかにした。しかしながら、余りに長いリンカーは結果として生じる超分子ポリマーの機能への悪影響を示す。重要なことには、無塩条件下でのmAb沈殿収率は、望ましいモノクローナル抗体結合状態に到達させるためにリガンド濃度を調整することによって効率的に最適化し得る。より一層良好なエピトープ提示のためにリンカーを工学的に作り出すことでの戦略は、特定の分子認識および標的化した薬物デリバリーのための超分子ポリマーの設計に重要な光を当てる。ここに記載の超分子IFシステムは、モノクローナル抗体精製のための効率的な代替手段として機能し、およびカスタマイズされた結合対をそのシステム設計中に組み込むことによって興味ある他の分子の捕捉および精製に適用し得る。
参考文献
【0070】
ここに引用する刊行物、特許出願、および特許を含め、すべての参考文献は、まるで各参考文献が参照によって組み込まれることが個別および具体的に指し示され、およびその全体がここに記載されるかのように同じ程度に、参照によってここに組み込まれる。
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【0071】
本発明を説明する関連において(特に次の請求の範囲の関連において)、用語「a(不定冠詞、ある、1つの)」および「an(母音の前の不定冠詞)」、「the(定冠詞、その)」および「少なくとも1つ」および類似の指示対象の使用は、ここで別途指示するか、または文脈と明らかに矛盾しない限り、単数形と複数形の両方をカバーするように解釈される。1つ以上の項目のリストに続いて「少なくとも1つ」という用語を使用する場合(例えば、「AおよびBの少なくとも1つ」)は、リストされた項目(AまたはB)、またはここに別段の指示がない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、リストされた項目(AおよびB)の2つ以上の任意の組合せから選ばれる1つの項目を意味すると解釈される。「comprising(含む、構成要素として持つ)」、「having(持つ、有する)」、「including(含む、全体の一部・成分として含む)」、および「containing(含有する、一定の枠内に含む)」という用語は、特に断りのない限り、開放型の用語として解釈される(即ち、「含むが、制限されない」を意味する)。ここにおける値の範囲の復唱は、ここに別段の指示がない限り、その範囲内にあるそれぞれの個別の値を個々に参照する簡略的な方法として機能することを単に意図しており、および個別の各値はあたかもそれがここに個々に復唱されているかのように本明細に組み込まれる。ここに記載されるすべての方法は、ここに別段の指示がなく、または別のように文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実行することができる。ここで提供されるあらゆる例、または模範的な言い回し(例は、「などのような」)の使用は、単に本発明をより良く理解することを目的としており、および別段の請求がない限り、本発明の範囲に制限を課すものではない。本明細におけるいかなる文言も、請求されていない要素が本発明の実践に必須であるとして示すと解釈されるべきではない。
【0072】
ここでは、本発明を実施するために本発明者に知られる最良のモードを含め、この発明の好ましい実施形態について説明する。それらの好ましい実施形態の変形は、前述の説明を読めば当技術における通常の熟練者には明らかになり得る。本発明者は熟練した者がそのような変形を必要に応じて採用することを期待し、および本発明がここに具体的に記載されている以外の方法で実践されることを予定する。したがって、この発明は、適用される法律によって認められるように、ここに添付する請求の範囲に記載された主題のすべての修飾および等価物を含む。さらに、ここに別なように指し示されないかまたは文脈と明らかに矛盾しない限り、上述の要素の任意の組合せがそれらのすべての可能な変形において本発明によって包含される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2024526704000001.xml
【国際調査報告】