IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポールの特許一覧

特表2024-526724エネルギー貯蔵のための硫化カーボンナノ材料電極およびその生産方法
<>
  • 特表-エネルギー貯蔵のための硫化カーボンナノ材料電極およびその生産方法 図1
  • 特表-エネルギー貯蔵のための硫化カーボンナノ材料電極およびその生産方法 図2
  • 特表-エネルギー貯蔵のための硫化カーボンナノ材料電極およびその生産方法 図3
  • 特表-エネルギー貯蔵のための硫化カーボンナノ材料電極およびその生産方法 図4
  • 特表-エネルギー貯蔵のための硫化カーボンナノ材料電極およびその生産方法 図5
  • 特表-エネルギー貯蔵のための硫化カーボンナノ材料電極およびその生産方法 図6
  • 特表-エネルギー貯蔵のための硫化カーボンナノ材料電極およびその生産方法 図7
  • 特表-エネルギー貯蔵のための硫化カーボンナノ材料電極およびその生産方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】エネルギー貯蔵のための硫化カーボンナノ材料電極およびその生産方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/182 20170101AFI20240711BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240711BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240711BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240711BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240711BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240711BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240711BHJP
【FI】
C01B32/182
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
H01M4/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501575
(86)(22)【出願日】2022-07-08
(85)【翻訳文提出日】2024-02-16
(86)【国際出願番号】 SG2022050475
(87)【国際公開番号】W WO2023287353
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】10202107631T
(32)【優先日】2021-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【弁理士】
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【弁理士】
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【弁理士】
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】グラニエロ エチェヴェリガレイ セルジオ
(72)【発明者】
【氏名】ナーヤル ヴィヴェク
(72)【発明者】
【氏名】カストロ ネト アントニオ ヘリオ
【テーマコード(参考)】
4G146
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA15
4G146AB07
4G146AD23
4G146AD25
4G146BA01
4G146CB10
4G146CB13
4G146CB19
4G146CB35
4G146CB37
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA10
5H050HA18
5H050HA19
(57)【要約】
本明細書で開示されるのは、ナノ粒子材料であって、第1の表面、第2の表面、および1または複数のエッジを有するカーボンナノ材料;および前記カーボンナノ材料の前記第1および第2の表面および前記1または複数のエッジ上に硫黄を含み、前記硫黄は、CHNS元素分析および熱重量分析の一方または両方を使用して測定された場合に、組成物の50重量%~99重量%を形成する。また本明細書には、前記材料を使用した電池も開示される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子材料であって:
複数の活性部位を有する、カーボンナノ材料;
および
前記カーボンナノ材料の前記複数の活性部位に結合した、硫黄;
を含み、
ここで、前記硫黄は、CHNS元素分析および熱重量分析の一方または両方を使用して測定された場合、組成物の50重量%~99重量%を形成する、
ナノ粒子材料。
【請求項2】
請求項1に記載されたナノ粒子材料であって、
前記カーボンナノ材料は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレン、グラフェン、酸化グラフェン、ナノグラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、メソポーラスカーボン、カーボン量子ドット、およびグラフェン量子ドットからなる群のうちの1または複数から選択される
ナノ粒子材料。
【請求項3】
請求項2に記載されたナノ粒子材料であって、
前記カーボンナノ材料は、グラフェンおよび/またはカーボンブラックである
ナノ粒子材料。
【請求項4】
請求項3に記載されたナノ粒子材料であって、
前記グラフェンは、グラフェンナノプレートレットの形態であり、および前記カーボンブラックは、ケッチェンブラックの形態である
ナノ粒子材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載されたナノ粒子材料であって、
前記ナノ粒子材料は、前記カーボンナノ材料に結合したハロゲン原子をさらに含んでもよい
ナノ粒子材料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載されたナノ粒子材料であって、
前記ナノ粒子材料は、前記複数の活性部位の第1の部分に結合したハロゲン原子をさらに含む
ナノ粒子材料。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載されたナノ粒子材料であって、
前記ハロゲン原子は、F、Cl、Br、およびIからなる群のうちの1または複数から選択され、
前記ハロゲン原子は、F、Cl、およびBrからなる群のうちの1または複数から選択されてもよい(例えば、前記ハロゲン原子はFである)、
ナノ粒子材料。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載されたナノ粒子材料であって、
前記硫黄は、CHNS元素分析または熱重量分析の一方または両方を使用して測定された場合、前記組成物の50~97重量%を形成する
ナノ粒子材料。
【請求項9】
請求項8に記載されたナノ粒子材料であって、
前記硫黄の含有量は、CHNS元素分析または熱重量分析の一方または両方を使用して測定された場合、前記組成物の70~96重量%である
ナノ粒子材料。
【請求項10】
請求項9に記載されたナノ粒子材料であって、
前記硫黄の含有量は、CHNS元素分析または熱重量分析の一方または両方を使用して測定された場合、前記組成物の85~95重量%、例えば88~94重量%である
ナノ粒子材料。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載されたナノ粒子材料であって、
前記硫黄の少なくとも一部は、前記カーボンナノ材料の前記複数の活性部位の第2の部分に共有結合する
ナノ粒子材料。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載されたナノ粒子材料であって、
前記複数の活性部位は、表面、エッジ、欠陥(例えば細孔)、および層間からなる群から選択される1または複数の活性部位である
ナノ粒子材料。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載されたナノ粒子材料であって、
前記硫黄の第1の部分は、前記カーボンナノ材料に静電結合(イオン結合/ファンデルワールス結合)し、および前記硫黄の第2の部分は、共有結合する
ナノ粒子材料。
【請求項14】
硫黄電池であって:
請求項1~13のいずれか一項に記載されたナノ粒子材料を含む、カソード;
アノード;
電解質;
および
セパレータ
を含み;
前記アノードは、Liに対して1.4V未満の電気化学的酸化還元電位を有する活性材料を含んでもよい;
硫黄電池。
【請求項15】
請求項14に記載された金属硫黄電池であって、
前記金属硫黄電池は、Si、Li、Na、Mg、Al、Ca、グラファイトからなる群のうちの1または複数から選択される
金属硫黄電池。
【請求項16】
硫黄電池であって:
請求項1~13のいずれか一項に記載されたナノ粒子材料を含む、アノード;
カソード;
電解質;
および
セパレータ
を含み;
前記カソードは、Liに対して2.6Vを超える電気化学的酸化還元電位を有する活性材料を含んでもよい;
硫黄電池。
【請求項17】
請求項16に記載された硫黄電池であって、
硫黄カソードは、LiMn、LiNiMn、LiNiMnCoO、LiCoO、およびLiFePOから選択される群のうちの1または複数から選択される
硫黄電池。
【請求項18】
請求項14~17のいずれか一項に記載された硫黄電池であって、
前記金属硫黄電池の比エネルギー密度は、1~30mg cm-2、例えば1~20mg cm-2の総硫黄質量負荷で、硫黄1キログラム当たり600Wh~3600Whである
硫黄電池。
【請求項19】
請求項18に記載された硫黄電池であって、
前記硫黄電池の前記比エネルギー密度は、2cmの電極面積に対して3.5~7mgの硫黄質量負荷で、0.05Cのカレントレート(current rate)で硫黄1キログラム当たり2210Wh~2883Whであり、
前記硫黄電池の前記比エネルギー密度は、2cmの電極面積に対して3.5mgの硫黄質量負荷で、硫黄1キログラム当たり2257Whであってもよい、
硫黄電池。
【請求項20】
請求項1~13のいずれか一項に記載されたナノ粒子材料を作製する方法であって、
前記方法は、以下の各ステップ:
(a)カーボンナノ材料を供給し、それらを水、非イオン性界面活性剤、および金属チオ硫酸塩を含む溶液中に分散させて、前駆体溶液を形成するステップ;
および
(b)硫酸水溶液を前記前駆体溶液に加え、しばらくの間反応させて、前記ナノ粒子材料を形成するステップ;
を含む
方法。
【請求項21】
請求項20に記載された方法であって、
前記硫酸水溶液は、0.1~1.0M、例えば0.3Mの濃度を有する
方法。
【請求項22】
請求項20または請求項21に記載された方法であって、
前記硫酸水溶液は、前記前駆体溶液と比較して、1:1~1:10、例えば1:2~1:5、例えば3:4~3:5の体積対体積比で供給される
方法。
【請求項23】
請求項20~22のいずれか一項に記載された方法であって、
前記カーボンナノ材料は、非ハロゲン化またはハロゲン化され、
前記ハロゲン化は、F、Br、Cl、またはIのうちの1または複数、例えばF、Br、またはClのうちの1または複数、例えばFを用いてもよい、
方法。
【請求項24】
請求項23に記載された方法であって、
前記ハロゲン化カーボンナノ材料は、以下の各ステップ:
(a)カーボンナノ材料の分散液を水中で音波処理して、カーボンナノ材料懸濁液を形成するステップ;
および
(b)前記分散されたカーボンナノ材料懸濁液を親水性酸の溶液と反応させて、ハロゲン化カーボンナノ材料を形成するステップ;
により形成される
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄電池の分野に関連し、具体的には特性が向上した硫黄修飾カーボンナノ材料の形成および使用に関連する。本発明はまた、硫黄系電池のカソードおよびアノードにおける活性材料としての前記材料の使用、および前記材料の形成方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
本明細書における先行公開文献の記載または考察は、文献が技術水準の一部または技術常識であることを認めるものとして、必ずしも解釈されるべきではない。
【0003】
リチウムイオン電池は、多くの電子機器に一般的に見られる、重要な再充電可能エネルギー貯蔵装置である。スマートフォンおよびラップトップコンピュータなどの携帯機器の所有率および使用率が高いことから、再充電可能電池の需要は非常に成長している。この成長は、ハイブリッドおよび全電池式電気自動車の出現によって加速しており、これらはより高いエネルギー密度およびより低いコストを備えた高度な電池を要求する。お分かりのように、エネルギー密度およびコストは、新たな電池技術が、携帯電子機器、電力網エネルギー貯蔵、および電気輸送機関に関連する市場に参入できるかどうかに影響する、最も重要な要因である。
【0004】
有望なエネルギー貯蔵装置の例として、硫黄電池がある。硫黄電池の中でも、リチウム硫黄(Li-S)電池は最も注目されており、これは(例えばニッケル-マンガン-コバルト、NMCと比べて)低コストのカソード材料を使用し、高い放電容量を提供する。実際、Li-S電池は、従来型リチウムイオン電池(NMC811:グラファイト、730Whkg-1(NMCの))よりも高い理論上のエネルギー密度(S:Li金属、3517.5Whkg-1(Sの))を有し、このことからこの技術は、より多くの携帯用エネルギーに対する成長する需要への潜在的な解決策となる。しかしながら、Li-S電池は、セル内の面積あたりの硫黄負荷が低いこと、カソード材料中の硫黄画分が低いことなど、いくつかの技術的課題があるため、この技術で可能なエネルギー密度をいまだ達成していない。硫黄材料を有するカソードを含むセルの別の重大な欠点は、カソードからセルの残りの部分へのポリスルフィドの溶解および拡散であり、これは高い自己放電率および容量損失などの問題に、しばしばつながる。
【0005】
以上のことから、硫黄電池技術に関連する1または複数の上記問題を解決するために、新たな電極材料を開発する必要性が残る。さらに重要なことに、そのような材料は、高いエネルギー密度、カレントレート(current rate)、およびサイクル安定性を提供する必要がある。加えて、これらの材料の調製は、規模を拡大できねばならない。
【発明の概要】
【0006】
本発明の態様および実施形態は、以下の番号付けされた条項を参照して説明される。
【0007】
1. ナノ粒子材料であって:
複数の活性部位を有する、カーボンナノ材料;
および
前記カーボンナノ材料の前記複数の活性部位に結合した、硫黄;
を含み、
ここで、前記硫黄は、CHNS元素分析および熱重量分析の一方または両方を使用して測定された場合、組成物の50重量%~99重量%を形成する。
【0008】
2. 条項1に記載されたナノ粒子材料であって、
前記カーボンナノ材料は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレン、グラフェン、酸化グラフェン、ナノグラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、メソポーラスカーボン、カーボン量子ドット、およびグラフェン量子ドットからなる群のうちの1または複数から選択される。
【0009】
3. 条項2に記載されたナノ粒子材料であって、
前記カーボンナノ材料は、グラフェンおよび/またはカーボンブラックである。
【0010】
4. 条項3に記載されたナノ粒子材料であって、
前記グラフェンは、グラフェンナノプレートレットの形態であり、および前記カーボンブラックは、ケッチェンブラックの形態である。
【0011】
5. 条項1~4のいずれか一項に記載されたナノ粒子材料であって、
前記ナノ粒子材料は、前記カーボンナノ材料に結合したハロゲン原子をさらに含んでもよい。
【0012】
6. 条項1~5のいずれか一項に記載されたナノ粒子材料であって、
前記ナノ粒子材料は、前記複数の活性部位の第1の部分に結合したハロゲン原子をさらに含んでもよい。
【0013】
7. 条項5または条項6に記載されたナノ粒子材料であって、
前記ハロゲン原子は、F、Cl、Br、およびIからなる群のうちの1または複数から選択され、
前記ハロゲン原子は、F、Cl、およびBrからなる群のうちの1または複数から選択されてもよい(例えば、前記ハロゲン原子はFである)。
【0014】
8. 条項1~7のいずれか一項に記載されたナノ粒子材料であって、
前記硫黄は、CHNS元素分析または熱重量分析の一方または両方を使用して測定された場合、前記組成物の50~97重量%を形成する。
【0015】
9. 条項8に記載されたナノ粒子材料であって、
前記硫黄の含有量は、CHNS元素分析または熱重量分析の一方または両方を使用して測定された場合、前記組成物の70~96重量%である。
【0016】
10. 条項9に記載されたナノ粒子材料であって、
前記硫黄の含有量は、CHNS元素分析または熱重量分析の一方または両方を使用して測定された場合、前記組成物の85~95重量%、例えば88~94重量%である。
【0017】
11. 条項1~10のいずれか一項に記載されたナノ粒子材料であって、
前記硫黄の少なくとも一部は、前記カーボンナノ材料の前記複数の活性部位の第2の部分に共有結合する。
【0018】
12. 条項1~11のいずれか一項に記載されたナノ粒子材料であって、
前記複数の活性部位は、表面、エッジ、欠陥(例えば細孔)、および層間からなる群から選択される1または複数の活性部位である。
【0019】
13. 条項1~12のいずれか一項に記載されたナノ粒子材料であって、
前記硫黄の第1の部分は、前記カーボンナノ材料に静電結合(イオン結合/ファンデルワールス結合)し、および前記硫黄の第2の部分は、共有結合する。
【0020】
14. 硫黄電池であって:
条項1~13のいずれか一項に記載されたナノ粒子材料を含む、カソード;
アノード;
電解質;および
セパレータを含み;
前記アノードは、Liに対して1.4V未満の電気化学的酸化還元電位を有する活性材料を含んでもよい。
【0021】
15. 条項14に記載された硫黄電池であって、
前記アノードは、Si、Li、Na、Mg、Al、Ca、グラファイトからなる群のうちの1または複数から選択されてもよい。
【0022】
16. 硫黄電池であって:
条項1~13のいずれか一項に記載されたナノ粒子材料を含む、アノード;
カソード;
電解質;および
セパレータを含み;
前記カソードは、Liに対して2.6Vを超える電気化学的酸化還元電位を有する活性材料を含んでもよい。
【0023】
17. 条項16に記載された硫黄電池であって、
前記カソードは、LiMn、LiNiMn、LiNiMnCoO、LiCoO、LiFePOから選択される。
【0024】
18. 条項14~17のいずれか一項に記載された硫黄電池であって、
前記硫黄電池の比エネルギー密度は、1~30mg cm-2(例えば1~20mg cm-2)の総硫黄質量負荷で、硫黄1キログラム当たり600Wh~3600Whである。
【0025】
19. 条項18に記載された硫黄電池であって、
前記硫黄電池の前記比エネルギー密度は、2cmの電極面積に対して3.5~7mgの硫黄質量負荷で、0.05Cのカレントレートで硫黄1キログラム当たり2210Wh~2883Whであり、
前記硫黄電池の前記比エネルギー密度は、3.5mgの硫黄質量負荷で、硫黄1キログラム当たり2257Whであってもよい。
【0026】
20. 条項1~13のいずれか一項に記載されたナノ粒子材料を作製する方法であって、
前記方法は、以下の各ステップ:
(a)カーボンナノ材料を供給し、それらを水、非イオン性界面活性剤、および金属チオ硫酸塩を含む溶液中に分散させて、前駆体溶液を形成するステップ;および
(b)硫酸水溶液を前記前駆体溶液に加え、しばらくの間反応させて、前記ナノ粒子材料を形成するステップ;
を含む。
【0027】
21. 条項20に記載された方法であって、
前記硫酸水溶液は、0.1~1.0M、例えば0.3Mの濃度を有する。
【0028】
22. 条項20または条項21に記載された方法であって、
前記硫酸水溶液は、前記前駆体溶液と比較して、1:1~1:10、例えば1:2~1:5、例えば3:4~3:5の体積対体積比で供給される。
【0029】
23. 条項20~22のいずれか一項に記載された方法であって、
前記カーボンナノ材料は、非ハロゲン化またはハロゲン化され、
前記ハロゲン化は、F、Br、Cl、またはIのうちの1または複数、例えばF、Br、またはClのうちの1または複数、例えばFを用いてもよい。
【0030】
24. 条項23に記載された方法であって、
前記ハロゲン化カーボンナノ材料は、以下の各ステップ:
(a)カーボンナノ材料の分散液を水中で音波処理して、カーボンナノ材料懸濁液を形成するステップ;および
(b)前記分散されたカーボンナノ材料懸濁液を親水性酸の溶液と反応させて、ハロゲン化カーボンナノ材料を形成するステップ;
により形成される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】S-F-GNP、F-GNP、および未処理GNPの、TGA分析を示す。
図2】以下のTEM画像を示す:(a)受領時の(as-received)GNP(スケールバー200nm);本発明の(b)F-GNP、(c)S-F-GNP、および(d)S-GNP(スケールバー100nm)。
図3】以下のXPSスペクトルおよびデコンボリューションピークを示す:(a)F-GNP試料は、C1sおよびF1s領域でのハロゲン化を示す;および(b)S-F-GNP試料は、S2pおよびC1s領域での硫化を示す。詳細およびデータは、表4および5。
図4】様々なカレントレートでの比放電容量を示す(カソードは7mgの硫黄負荷を有する)。
図5】合成時の(as-synthesised)材料についての、0.3Cレートでの85サイクルにわたる比放電容量およびクーロン効率を示す(カソードは7mgの硫黄負荷を有する)。
図6】S-F-GNPおよびS-GNPについての、0.3Cレートでの85サイクルにわたる比放電容量およびクーロン効率を示す(カソードは7mgおよび3.5mgの硫黄負荷を有する)。
図7】S-F-GNPおよびS-GNPについての、0.3Cレートでの200サイクルにわたる比放電容量およびクーロン効率を示す(カソードは3.5mgの硫黄負荷を有する)。
図8】合成時のS-GNPについての、0.05Cレートでの50サイクルにわたる比放電容量を示す(カソードは3.5mgの硫黄負荷を有する)。
【発明を実施するための形態】
【0032】
驚くべきことに、硫黄修飾カーボンナノ材料は、上記で特定された問題の一部または全部に対処しうることが見出された。従って本発明の第1の態様において、ナノ粒子材料であって:
複数の活性部位を有する、カーボンナノ材料;および
前記カーボンナノ材料の前記複数の活性部位に結合した、硫黄を含み;
ここで、前記硫黄は、CHNS元素分析および熱重量分析の一方または両方を使用して測定された場合、組成物の50重量%~99重量%を形成する、
ナノ粒子材料が提供される。
【0033】
本明細書において使用される場合、「カーボンナノ材料(carbon nanomaterial)」という用語は、適切な大きさの範囲を有する任意の適切な材料を指しうる。例えば、本明細書で開示されうる発明のある実施形態において、カーボンナノ材料は、1~1000nm、例えば100~400nm、例えば1~100nmの平均流体力学的直径を有しうる。本明細書で言及されうる発明のより具体的な実施形態において、「カーボンナノ材料」という用語は、参照により本明細書に組み込まれる、規格「ISO/TS 80004-3:2020(en)ナノテクノロジー-用語集-第3部:カーボンナノ物体」の下で定義される「カーボンナノ物体(carbon nano-object)」を指しうる。
【0034】
適切なカーボンナノ材料の例には、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレン、グラフェン、酸化グラフェン、ナノグラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、メソポーラスカーボン、カーボン量子ドット、グラフェン量子ドット、およびこれらの組合せを含むが、これらに限定されない。本明細書で言及されうる具体的な実施形態において、カーボンナノ材料は、グラフェンおよび/またはカーボンブラックでありうる。これらの材料は、規格「ISO/TS 80004-3:2020(en)ナノテクノロジー-用語集-第3部:カーボンナノ物体」において、定義された通りでありうる。本明細書で言及されうる具体例において、グラフェンは、グラフェンナノプレートレットの形態であってもよく、カーボンブラックは、ケッチェンブラックの形態であってもよい。本明細書において使用されるグラフェンナノプレートレットは、規格ISO/TS 80004-13:2017の定義を取ってもよい。適切なグラフェンナノプレートレットは、市場で入手しうる。
【0035】
本明細書で言及されうる発明のある実施形態において、ナノ粒子材料は、カーボンナノ材料に結合したハロゲン原子をさらに含みうる。ハロゲン原子は、カーボンナノ材料の活性部位に結合しうる。カーボンナノ材料の活性部位の例には、表面、エッジ、欠陥(例えば細孔)、および層間を含みうるが、これらに限定されない。
【0036】
理論に拘束されることを望むものではないが、ハロゲン化グラフェンにおける硫黄の核生成は、主に(これに限定されないが)カーボンナノ材料の構造上の炭素活性部位に結合したハロゲン原子の存在によって、改善されうると考えられる。それは主に(それだけではないが)、イオン交換反応としても知られる求核置換反応を通して起こりうる。最終材料では、硫黄が添加されたカーボンナノ材料の構造が得られる。このように、ハロゲン化カーボンナノ材料中の大部分のハロゲン原子は、硫黄により置換されうる。にもかかわらず、最終生産物中にハロゲン原子の痕跡(例えば原子濃度で1%未満)が残りうる。このように、カーボンナノ材料の活性部位の一部は、本明細書で言及される生産物においてハロゲン原子により占有されたままでありうる。
【0037】
注目すべきは、本明細書において使用される全ての事前ハロゲン化グラフェン出発材料上で検出される硫黄含有量は、対応する非ハロゲン化グラフェン出発材料よりも、約1.5~5.3重量%高くなることである。
【0038】
任意の適切なハロゲンが、本明細書において使用されうる。例えばハロゲン原子は、F、Cl、Br、およびIからなる群のうちの1または複数から選択されてもよく、ハロゲン原子は、F、Cl、およびBrからなる群のうちの1または複数から選択されてもよい(例えば、ハロゲン原子はFでありうる)。
【0039】
本明細書で開示されるナノ粒子材料において、任意の適切な量の硫黄が存在しうる。例えば硫黄は、CHNS元素分析または熱重量分析の一方または両方を使用して測定された場合、組成物の50~97重量%を形成しうる。本明細書で言及されうる発明の具体的な実施形態において、硫黄含有量は、CHNS元素分析または熱重量分析の一方または両方を用いて測定された場合、組成物の70~96重量%、例えば85~95重量%、例えば88~94重量%でありうる。
【0040】
本明細書で言及されうる発明の実施形態において、硫黄の少なくとも一部は、カーボンナノ材料の表面に共有結合しうる。すなわち、硫黄の少なくとも一部は、カーボンナノ材料の活性部位に共有結合しうる。
【0041】
お分かりのように、本明細書で言及されうる発明の特定の実施形態において、本明細書で開示されるカーボンナノ材料は、1または複数の表面、1または複数のエッジ、1または複数の欠陥(例えば細孔)、および1または複数の層間を有してもよく、硫黄の少なくとも一部が、前記1または複数のエッジ、1または複数の欠陥、および1または複数の層間に共有結合しうる。お分かりのように、1または複数の表面、1または複数のエッジ、1または複数の欠陥、および1または複数の層間は全て、活性部位(すなわち、硫黄および/またはハロゲン原子が結合(例えば共有結合)しうる部位)として、まとめて定義されうる。これらの活性部位のうちのどれが存在するかは、利用されるカーボンナノ材料の形態に依存することが、さらに理解されよう。
【0042】
お分かりのように、硫黄の一部はカーボンナノ材料に静電結合してもよく、一方硫黄のさらなる一部は共有結合してもよい。従って、本明細書で言及されうる発明の実施形態において、カーボンナノ材料に静電結合(イオン結合/ファンデルワールス結合)する硫黄の第1の部分と、前記ナノ材料に共有結合する硫黄の第2の部分とが、提供されうる。第1の部分と第2の部分の任意の適切な比が想定される。
【0043】
本明細書で言及されうる具体例において、カーボンナノ材料がグラフェンナノプレートレットの形態である場合、ナノ粒子材料は、1m-1~10m-1、例えば2m-1~8m-1、例えば3m-1~6m-1、例えば4.7m-1のBET表面積を有しうる。追加のまたは代替の実施形態において、ナノ粒子材料は、1m-1~100m-1、例えば2m-1~50m-1、例えば3m-1~10m-1、例えば4.7m-1のBET表面積を有しうる。注目すべきは、最終的に得られるBET表面積は、出発材料に依存して大きく変化しうるため、これらの値は、本明細書で開示される方法を使用して得られうるBET表面積の範囲を、いかなる意味においても制限するものと考えるべきではないことである。
【0044】
本明細書において開示される材料は、驚くべきことに、硫黄電池システムにおいて優れた活性材料として作用することが見出された。これは、カソード活性材料として、またはアノード活性材料としてでありうる。
【0045】
本明細書において開示される硫黄電池は、任意の適切な比エネルギー密度を示しうる。具体的には、本明細書において開示される硫黄電池は、1~30mg cm-2(例えば1~20mg cm-2)の硫黄質量負荷で、硫黄1キログラム当たり600Wh~3600Whの比エネルギー密度を有しうる。例えば、本明細書において開示される硫黄電池は、1~20mg cm-2の硫黄質量負荷で、硫黄1キログラム当たり2000Wh~2900Whの比エネルギー密度を有しうる。
【0046】
本明細書において開示される硫黄電池は、優れた比エネルギー密度を有しうる。例えば、本明細書において開示される硫黄電池の比エネルギー密度は、2cmの電極面積に対して3.5~7mgの硫黄質量負荷で、0.05Cのカレントレートで硫黄1キログラム当たり2210Wh~2883Whであってもよく、硫黄電池の比エネルギー密度は、3.5mgの硫黄質量負荷で、硫黄1キログラム当たり2257Whであってもよい。
【0047】
[カソードとしてのナノ粒子材料]
従って本発明のさらなる態様において、硫黄電池であって:
本明細書において前述のナノ粒子材料を含む、カソード;
アノード;
電解質;および
セパレータを含む、硫黄電池が提供される。本発明のこの態様において、本明細書において開示されるナノ粒子材料は、カソード活性材料の少なくとも一部として機能する。アノードには、任意の適合する活性材料が使用されうる。例えばアノードは、Liに対して1.4V未満の電気化学的酸化還元電位を有する活性材料を含みうる。本明細書において記載されるナノ粒子材料がカソード活性材料の少なくとも一部として使用される硫黄電池の例には、Li、Na、Mg、Al、Ca、グラファイトおよびそれらの合金を使用する電池を含みうるが、これらに限定されない。
【0048】
本発明のカソードは、その上に活性材料の層を有する集電体を含んでもよく、この層はまた、活性材料に加えて、バインダーおよび導電性材料(必要な場合)のうちの少なくとも1つをも含む。
【0049】
集電体は、例えばアルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、ニオブ、炭素などを含む、任意の適切なカソード用電気伝導体でありうる。単一のカソードが、複数の上記ナノ粒子材料を組み合わせて含むことも可能である。上記活性材料が組み合わせて使用される場合、任意の適切な重量比が使用されうる。例えば、単一のカソードにおける2つの活性材料の重量比は、1:100~100:1、例えば1:50~50:1、例えば1:1の範囲でありうる。追加のまたは代替の実施形態において、電池は複数のカソードを含みうる。電池が複数のカソード(例えば2~10、例えば2~5のカソード)を含む場合、活性材料は、上記のものから選択されてもよく、各カソードは、独立して1つのカソード活性材料のみを含むか、または上述のように2以上の活性材料の組合せを含んでもよい。
【0050】
本明細書において記載されるナノ粒子材料をカソード活性材料として使用して、カソードが形成される場合、Liに対して3V~0.8Vの間の電気化学的酸化還元電位を有する他の活性材料が、ナノ粒子材料と組み合わせて使用されうる。他の活性材料には、MnO、TiNb、Ti、LiTi12、V、FeS、MoS、NiS、Nb、NbS、およびLiNbOを含むが、これらに限定されない。
【0051】
バインダーは、活性材料粒子の互いおよび集電体との結合特性を改善する。バインダーは、非水系バインダー、水系バインダー、またはそれらの組合せでありうる。バインダーは、集電体上で活性材料と導電性材料とを結合し、一斉に(または同時に)電気化学的劣化がなければ、特に限定されない。
【0052】
本明細書において言及されうる非水性バインダーには、ポリ塩化ビニル、カルボキシル化ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、エチレンオキシド含有ポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミドイミド、ポリイミド、またはそれらの組合せを含むが、これらに限定されない。
【0053】
本明細書において言及されうる水性バインダーは、天然、改質、または合成材料のいずれであってもよく、ゴム系、ポリマー樹脂、または多糖バインダーを含むが、これらに限定されない。ゴム系バインダーは、スチレン-ブタジエンゴム、アクリル化スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、およびそれらの組合せから選択されうる。ポリマー樹脂バインダーは、エチレンプロピレン共重合体、エピクロロヒドリン、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、エチレンプロピレンジエン共重合体、ポリビニルピリジン、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール、およびそれらの組合せから選択されうる。
【0054】
多糖バインダーは、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、またはそれらのアルカリ金属塩、トラガカントガム、アラビアガム、ゲランガム、キサンタンガム、グアーガム、カラヤガム、キトサン、アルギン酸ナトリウム、シクロデキストリン、デンプン、およびそれらの組合せから選択されうる。アルカリ金属は、Na、K、またはLiでありうる。そのようなセルロース系化合物は、活性材料100重量部を基準として、約0.1重量部~約20重量部の量で含まれうる。本明細書において言及されうる好ましいバインダーは、カルボキシルメチルセルロースのナトリウム塩、アラビアガム、ポリビニルアルコール、またはそれらの組合せである。
【0055】
導電性材料は、電極の電気伝導率を改善する。化学変化を引き起こさない限り、導電性材料として任意の導電性材料が使用されてもよく、その例は、天然グラファイト、人造グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー、グラフェン、および/または炭素系材料の類;銅、ニッケル、アルミニウム、銀、ニオブ、および/または金属粉または金属繊維の類および/または金属系材料の類;ポリフェニレン誘導体および/または導電性ポリマーの類;および/またはそれらの混合物でありうる。
【0056】
本発明のナノ粒子材料を使用するカソードは、以下の方法を使用して製造されうる。まず、活性材料、導電性材料、およびバインダーが、所望の比(例えば、活性材料:導電性材料:バインダーの比が、50:40:10~96:2:2であり、言及されうる具体的な比には、70:20:10および80:10:10を含むが、これらに限定されない)で混合され、水溶液および/または有機溶媒(N-メチル-2-ピロリドンなど)中に分散されて、スラリーを形成する。追加的または代替的に、カソード中の活性物質の量は50~96重量%であってもよく、導電性材料(例えば導電性カーボンブラック)の量は2~40重量%であってもよく、およびバインダーの量は2~10重量%であってもよい。続いて、スラリーは集電体上にコーティングされ、その後乾燥して、活性材料層を形成する。ここで、コーティング方法は特に限定されず、例えば、テープキャスティングコーティング方法(例えばナイフコーティング)、グラビアコーティング方法などでありうる。その後、活性材料層は、圧縮機(ロールプレスなど)を使用して所望の厚さまで圧縮され、電極を製造する。活性材料層の厚さは特に限定されず、硫黄電池用電極に適用可能な任意の適切な厚さでありうる。活性材料負荷は、1~30mg cm-2であってもよく、例えば活性材料負荷は、1~20mg cm-2、例えば1~6mg cm-2であってもよい。
【0057】
上述したカソード用のアノード活性材料には、アルカリまたはアルカリ土類金属、金属酸化物、金属硫化物、それらの合金、または炭素系材料、ケイ素系材料、スズ系材料、アンチモン系材料、鉛系材料などとのそれらの組成物を含んでもよく、それらは単独でまたは2以上の混合物として利用されうる。リチウム金属酸化物は、例えばLiTi12、LiTi13、またはLiTiなどの酸化チタン化合物でありうる。ナトリウム金属酸化物は、例えばNaTiまたはNaTi13などの酸化チタン化合物でありうる。適するものとして本明細書において言及されうる他の金属酸化物には、TiO、Fe、Nb、MoOを含むが、これらに限定されない。アノードは、本明細書において前述したのと同じように形成されうる。アノードは、バインダーと導電性添加剤とをさらに含みうる。
【0058】
硫黄電池はまた、セパレータをも含む。セパレータは特に限定されず、硫黄電池に利用される任意の適切なセパレータでありうる。例えば、非導電性多孔質層または不織布が、単独でまたは混合物として(例えば、積層構造で)利用されうる。
【0059】
セパレータの材料は、例えば、ガラス繊維、不織布、またはポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ペルフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン共重合体、フッ化ビニリデン-プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体などを含みうる。ポリオレフィン系樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレンなどでありうる;ポリエステル系樹脂は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどでありうる。
【0060】
セパレータは、基板の少なくとも片面上に形成された無機または有機フィラーを含む、コーティング層を含みうる。無機フィラーには、Al、Mg(OH)、SiOなどを含みうる。有機フィラーには、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン、酸化グラフェン、ナノグラファイト、カーボンブラック、メソポーラスカーボンなどのような、炭素系材料を含みうる。コーティング層は、電極とセパレータとの間の直接接触を抑制し、高温での保管中の電極表面上での電解質の酸化および分解を抑制し、電解質の分解物である気体の発生を抑止しうる。本明細書において言及されうる適切なセパレータは、三層ポリプロピレンセパレータである。
【0061】
本発明の態様および実施形態において、それが技術的に賢明な選択であれば、上記セパレータのいずれも使用されうることが理解されよう。
【0062】
硫黄電池において、任意の適切な電解質が使用されうる。適切な電解質材料の例には、ジメトキシエタンおよびジオキソラン中のLiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)を含むが、これらに限定されない。電解質は、様々な有機溶媒または混合溶媒中に、またはポリマー系の準固体および固体電解質中に、またはイオン液体中に、可溶性アルカリまたはアルカリ土類金属イオン塩の任意の組合せを含有しうる。溶液のモル濃度は、0.1~15.0Mで変動しうる。塩は、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)、LiFSI(リチウムビス(フルオロメタンスルホニル)イミド)、LiOTf(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)、LiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)、NaTFSI(ナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)、NaFSI(ナトリウムビス(フルオロメタンスルホニル)イミド)、NaOTf(トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム)、NaPF(ヘキサフルオロリン酸ナトリウム)から取られうる。溶媒は、ジグリム、モノグリム、テトラグリム、ジメチルスルホキシド、ジオキソラン、N-メチル-2-ピロリドン、水、スルホン、およびイオン液体のうちの、1または複数から選択されうる。
【0063】
電解質は、例えば負極SEI(固体電解質界面)形成剤または正極CEI(カソード電解質界面)形成剤、界面活性剤などの、様々な適切な添加剤をさらに含みうる。そのような添加剤は、例えば、無水コハク酸、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム、ビス(オキサラト)ホウ酸ナトリウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、ジニトリル化合物、プロパンスルトン、ブタンスルトン、プロペンスルトン、3-スルホレン、フッ素化アリルエーテル、フッ素化アクリレート、炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレン、および炭酸フルオロエチレンなどの炭酸塩、などでありうる。添加剤の濃度は、一般的な硫黄電池において利用される任意の適切な濃度でありうる。電解質中に含まれうる添加剤には、例えば硝酸リチウム、ニオブ酸リチウム、炭酸フルオロエチレン(FEC)、炭酸ビニレン(VC)、炭酸ビニルエチレン(VEC)、ビフェニル、アジポニトリル、およびそれらの組合せがある。上記添加剤は、任意の適切な重量比で存在しうる。
【0064】
硫黄電池では、正極と負極との間にセパレータを配置してセル構造を製造し、セル構造を所望の形状、例えば、円柱、角柱、薄板形状、ボタン形状などを有するように加工して、同じ形状を有する容器内に挿入しうる。その後、電解質が容器内に注入され、セパレータおよび電極の細孔に含浸されることにより、再充電可能硫黄電池が結果として得られる。
【0065】
[アノードとしてのナノ粒子材料]
従って本発明のなおさらなる態様において、硫黄電池であって:
カソード;
本明細書において前述のナノ粒子材料を含む、アノード;
電解質;および
セパレータを含む、硫黄電池が提供される。本発明のこの態様において、本明細書において開示されるナノ粒子材料は、アノード活性材料の少なくとも一部として機能する。カソードには、任意の適合する活性材料が使用されうる。例えばカソードは、Liに対して2.6Vを超える電気化学的酸化還元電位を有する活性材料を含みうる。本明細書において記載されるナノ粒子材料がカソード活性材料の少なくとも一部として使用される硫黄電池の例には、LiMn、LiNiMn、LiNiMnCoO、LiCoO、LiFePO、およびそれらの組合せを含みうるが、これらに限定されない。
【0066】
本明細書において記載されるナノ粒子材料を負極活性材料として使用して、アノードが形成される場合、Liに対して2.2V~0Vの間の電気化学的酸化還元電位を有する他の活性材料が、ナノ粒子材料と組み合わせて使用されうる。他の活性材料には、グラファイト系材料、ケイ素系材料、TiO、TiNb、LiTi12、FeS、MoS、NbS、およびLiNbOを含むが、これらに限定されない。
【0067】
上記負極活性材料は、個別に使用されうることが理解されよう。すなわち、アノードは、上記負極活性材料のうちの1つのみを含みうる。しかしながら、単一のアノードが、複数の上記材料を組み合わせて含むことも可能である。上記活性材料が組み合わせて使用される場合、任意の適切な重量比が使用されうる。例えば、単一のアノードにおける2つの活性材料の重量比は、1:100~100:1、例えば1:50~50:1、例えば1:1の範囲でありうる。追加のまたは代替の実施形態において、電池は複数のアノードを含みうる。電池が複数のアノード(例えば2~10、例えば2~5のアノード)を含む場合、活性材料は、上記のものから選択されてもよく、各アノードは、独立して1つのアノード活性材料のみを含むか、または上述のように2以上の活性材料の組合せを含んでもよい。
【0068】
バインダーおよび導電性材料(もしあれば)は特に限定されず、カソードと同じバインダーおよび導電性材料でありうる。負極活性材料、バインダー、および導電性材料の重量比は、特に限定されない。
【0069】
アノードは、以下のように製造されうる。負極活性材料、導電性添加剤(必要な場合)およびバインダーが、所望の比で混合され、混合物が適切な溶媒(例えば水など)中に分散されて、スラリーを調製する。その後、スラリーが集電体上に適用され、乾燥して負極活性材料層を形成する。その後、負極活性材料層は、圧縮機を利用して所望の厚さを有するように圧縮され、それによりアノードを製造する。ここで、負極活性材料層は、特に限定されない厚さを有するが、硫黄電池用の負極活性材料層が有しうる任意の適切な厚さを有しうる。
【0070】
セパレータ、セル構成、セル構造、および電解質は、本明細書において開示されるナノ粒子材料を使用して上述したカソードと、同じセパレータ、セル構成、セル構造、および電解質でありうる。
【0071】
以降、本発明の実施形態が、以下の実施例を参照してより詳細に説明される。しかしながら、本開示はこれに限定されない。さらに、本開示に記載されていないことは、この分野の知識を有する者であれば十分に理解できることであり、本明細書では説明しない。
【0072】
本発明のさらなる態様において、本明細書で開示されるナノ粒子材料を作製する方法が提供され、前記方法は、以下の各ステップ:
(a)カーボンナノ材料を供給し、それらを水、非イオン性界面活性剤、および金属チオ硫酸塩を含む溶液中に分散させて、前駆体溶液を形成するステップ;および
(b)硫酸水溶液を前記前駆体溶液に加え、しばらくの間反応させて、前記ナノ粒子材料を形成するステップ;
を含む。
【0073】
硫酸水溶液は、本明細書で開示される方法において、任意の適切な濃度を有しうる。例えば、硫酸水溶液は、0.1~1.0M、例えば0.3Mの濃度を有しうる。前駆体溶液と比較して、任意の適切な量の硫酸水溶液が使用されうる。例えば、硫酸水溶液は、前駆体溶液と比較して、1:1~1:10、例えば3:4~1:5、例えば3:5の体積対体積比で提供されうる。お分かりのように、他の適切な比もまた存在してもよく、本発明の範囲から除外されない。
【0074】
カーボンナノ材料は、非ハロゲン化されてもよく、またはハロゲン化されてもよい。上述のように、ハロゲン化カーボンナノ材料は、非ハロゲン化された同等のカーボンナノ材料よりも多量の硫黄を、カーボンナノ材料に付着させうる。上記方法において使用されうるハロゲン化カーボンナノ材料には、F、Br、ClまたはIのうちの1または複数、例えばF、BrまたはClのうちの1または複数、例えばFによってハロゲン化されたものを含む。
【0075】
ハロゲン化カーボンナノ材料は、任意の適切な方法論によって形成されうる。例えば、ハロゲン化カーボンナノ材料は、以下の各ステップ:
(a)カーボンナノ材料の分散液を水中で音波処理して、カーボンナノ材料懸濁液を形成するステップ;および
(b)前記分散されたカーボンナノ材料懸濁液を親水性酸の溶液と反応させて、ハロゲン化カーボンナノ材料を形成するステップ;
により形成されうる。
【0076】
本発明のさらなる態様および実施形態が、以下の非限定的な実施例を参照して考察される。
【実施例
【0077】
[材料および方法]
[材料]
市販のグラフェンナノプレートレット(規格ISO/TS 80004-13:2017)が、本研究で使用された。フッ化水素酸(HF)、臭化水素酸(HBr)、塩酸(HCl)、ポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル(t-Oct-C-(OCHCHOH、x=9~10)、およびチオ硫酸ナトリウム(Na)は、Sigma-Aldrichから購入された。全ての材料および化学物質は、特に断りのない限り、さらに精製することなく使用された。
【0078】
[特性評価]
・ 誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS) - 5mgの粉末材料が使用され、マイクロ波、逆王水により、180℃で15分間消化され、以下の元素の含有量が分析された:Na、Mg、K、Ca、Fe、Ti、Cu、Al、およびSi。
・ 元素分析(CHNS) - 1mgの粉末材料が使用され、Vが燃焼を助けるために、るつぼに加えられた(Thermo Scientific、FlashSmart Elemental CHNS)。
・ 熱重量分析(TGA) - Alるつぼ中の10mgの粉末材料が使用され、加熱速度は合成空気雰囲気下で毎分20℃であった。(Netzsch、STA model F3)。
・ 透過型電子顕微鏡(TEM) - ニッケル担持ホーリーカーボンフィルム(300メッシュ)が使用され、水懸濁液中の材料がグリッド上にドロップキャストされた(Jeol、JEM-3010)。
・ X線光電子分光(XPS) - 1mg~5mgの粉末材料が使用され、以下を使用して、受領時および合成時の材料の組成を評価した:モノAlターゲット(Kα線)、1486.71eV光子、5mA、15kV(75W)、0.05eVのステップ(<15eVの範囲の場合)、0.1eVのステップ(>20eVの範囲の場合)、ドウェル時間(dwell time)100~400ms(Kratos Analytical、Axis Ultra XPS)。異なる光放出電子に関連するバンドを同定および定量化するために、実験C1s、S2P、およびF1s信号のデコンボリューションに基づくデータ分析およびフィッティング法が、CasaXPSソフトウェアを用いて、Shirleyバックグラウンド除去法の後に行われ、対称的な擬似フォークト関数(Pseudo-Voigt function)(50%ガウス関数および50%ローレンツ関数)を使用して、全てのピーク信号にフィットさせた。
・ Brunauer-Emmett-Teller(BET)分析 - 手順はISO 9277:210「ガス吸着による固体の比表面積の測定-BET法」に準拠し、300mgの粉末状の材料が使用された(Micromeritics、model ASAP2420MP)。
・ 電気化学試験 - コイン電池CR2032(カソード組成は、活性材料80重量%、導電性カーボン10重量%、およびバインダー10重量%;セルガード2325セパレータ;電解質組成は、1,2-ジメトキシエタン:1,2-ジオキソラン(1:1 v/v)中の1Mリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド;および電解質体積50uL)が、室温で、Galvanostatic cycler (Neware、model BTS 4000)を使用して、放電カット電圧1.4V、充電終止電圧2.6Vで、試験された。
【0079】
[本発明の硫化グラフェンナノプレートレット(S-GNP)および硫化ハロゲン化グラフェンナノプレートレットS-h-GNP(ここで「h」は、表示通りにハロゲンF、Br、またはClを表す)の調製]
本発明の硫化グラフェンナノプレートレット(S-GNP)の調製は、酸性溶液中での湿式化学法により行われ、硫黄がグラフェン上に直接核生成された。前ステップとして、硫黄の核生成を改善するために、酸を用いた化学エッチングによってハロゲン化グラフェンナノプレートレット(h-GNP)が調製され、次いでハロゲンを硫黄により求核置換する(S-h-GNP)。
【0080】
ハロゲン化グラフェンナノプレートレット(h-GNP)の調製
典型的な反応では、グラフェンナノプレートレット(GNP)は、音波処理(37Hz、2時間、23℃)によって、脱イオン水中に(0.4g L-1の濃度になるように)分散された。グラフェンを分散させるには、加工中の音波処理ステップが重要である。GNP/水懸濁液(1L)が、フッ化水素酸(HF)、塩酸(HCl)、または臭化水素酸(HBr)溶液(174mL、0.1M)中に加えられた。混合物は、2時間攪拌され、その後真空濾過された(孔径0.22μm)。得られた粉末は、脱イオン水を用いて洗浄され、中性pHになるまで過剰の酸を除去した。最終材料(粉末)が回収され、50℃未満の温度下でオーブン中で乾燥され、ハロゲン化グラフェンナノプレートレット(「h-GNP」と表記)を得た。
【0081】
グラフェンをHF、HBr、またはHClを用いて化学処理すると、F、Cl、またはBrのCへの結合(共有結合性、半イオン性、および/またはイオン性)が促進され、フルオロ-、クロロ-、ブロモ-グラフェンナノプレートレットを生成する。ここで提案されるハロゲン化グラフェンを得る方法は、規模拡張可能であり、他の技術、例えばプラズマ下での化学蒸着、および雰囲気制御された炉/オーブン中での熱処理よりも、安価である。
【0082】
本発明の硫化グラフェン(S-GNP)および硫化ハロゲン化グラフェンナノプレートレット(S-h-GNP)の調製
水懸濁液中での硫酸とチオ硫酸ナトリウムとの間の理想的な平衡反応により、等モル量の硫黄が生成される。カーボン系ナノ材料(例えばグラフェン)を反応に加えることにより、炭素構造は、化学的および物理的相互作用によって、生成された硫黄のホストとして機能する。
【0083】
一例として、典型的な反応では、1.2% v/vのポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテルを脱イオン水に加えることにより、非イオン性界面活性剤/水溶液が、まず調製された。チオ硫酸ナトリウムは、0.3Mの濃度になるように溶液に加えられ、溶解するまで攪拌された。0.4g L-1のGNPまたはh-GNPが、音波処理(37Hz、2時間、23℃)により、上記溶液中に分散された。硫酸(0.3M)は、37.5% v/vになるように懸濁液に攪拌下で滴下して加えられ、24時間攪拌下に保たれた。懸濁液は濾過され(孔径0.22μm)、固体材料は脱イオン水を用いて中性pHまで洗浄された。固体材料は回収され、50℃未満の温度でオーブン中で乾燥された。洗浄および乾燥には別の方法が使用されうる;例えば、洗浄は濾過の代わりに透析膜を使用して行われ、乾燥は凍結乾燥または噴霧乾燥法を使用して行われうる。
【0084】
硫黄の含浸は、不均一結晶成長メカニズムに従って、硫黄原子または硫黄酸化物のグラフェン上でのインターカレーションおよび核生成によって起こりうるが、これらに限定されない;さらに、硫黄の分子は、表面、欠陥ゾーン(例えば細孔)、およびグラフェンまたはハロゲン化グラフェンのエッジ(すなわち、カーボンナノ材料(またはハロゲン化カーボンナノ材料)のエッジ)上で、成長する。
【0085】
ハロゲン化グラフェンにおける硫黄の核生成は、主に(これに限定されないが)グラフェン構造上の炭素活性部位に結合したハロゲン原子の存在によって、改善されうる。それは主に(これに限定されないが)、イオン交換反応としても知られる求核置換反応によって起こる。最終材料では、硫黄が添加されたグラフェン炭素構造が得られる。
【0086】
[受領時のGNP、および合成時のS-GNPおよびS-h-GNPの、ICP-MS、CHNS元素分析、熱重量分析(TGA)、Brunauer-Emmett-Teller(BET)分析、透過型電子顕微鏡(TEM)画像、およびX線光電子分光(XPS)による、特性評価]
受領時のGNPにおいて、低レベルの汚染がICP-MSにより検出された(表1)。酸処理は、市販のグラフェンを生成するために使用される加工または原材料から残留しうる全ての有機または金属不純物(表1、F-GNP、Cl-GNP、Br-GNP、およびS-GNPの結果)を除去し、グラフェンを精製するのに役立つ。HFおよびHClは、酸処理中に使用されるガラス容器のシリカと反応するため、これらの試料ではSi含有量の増加が検出された。にもかかわらず、HS処理により全ての残留汚染が除去される。
【0087】
【0088】
本発明の合成時の材料の硫黄含有量を評価するために、元素分析および熱重量分析が行われた。表2に示されるように、元素分析(CHNS)は91.6%の平均硫黄含有量を示した。この結果はTGA分析によっても確認され、91.6重量%の平均硫黄含有量を示した(表3)。全てのハロゲン化グラフェンで検出された硫黄含有量は、非ハロゲン化グラフェンよりも約1.5~5.3重量%高い。
【0089】
加えて、全ての酸処理は、表2に示されるように、S-GNP、F-GNP、Br-BNP、およびCl-GNPの熱安定性(図1に示される、TGAにより検出された開始点、およびF-GNPの例)を、非酸処理GNPと比較して、それぞれ70℃、65℃、76℃、および72℃を超えるまでに増加させた。

【0090】
【0091】
【0092】
BETにより決定したところ、S-F-GNPの表面積は、GNPおよびF-GNPと比較して95%を超えて減少し(表4)、このことはグラフェンの積層構造(層間)、細孔、および欠陥が硫黄で満たされたことを示唆する。また、GNPがHFで処理された後に、表面積の有意な増加が検出されなかったことも、観察された。さらに、受領時のGNP(図2a)および合成時の材料(図2b~dのF-GNP、F-S-GNP、およびS-GNPの例参照)のTEM画像を比較して、多孔率または欠陥の増加は認められなかった。付着した汚染物質がグラフェンの基底面から酸処理によって除去されると、グラフェン構造に細孔を生じうることから、この観察は報告されている研究とは異なる。しかしながら、上記(表1)に示したように、本研究において使用された市販のグラフェンは、低レベルの汚染物質を示す。従って、表面積または構造に有意な変化は観察されなかった。
【0093】
【0094】
XPSにより得られたピークのデコンボリューションは、受領時(GNP)および合成時の各材料に存在する化学結合を示し(表5)、グラフェンの炭素構造に結合した、F-GNP(図3a、および表6の例参照)、Cl-GNP、およびBr-GNPでのハロゲンの存在、および、S-GNP、S-F-GNP(図3b)、S-Cl-GNP、およびS-Br-GNPでの硫黄の存在を確認する(詳細は表5および表6)。全ての試料について、グラファイト状炭素(C-C sp2)は284.2±0.2eVで、脂肪族炭素(主にC-C sp3)は285.2±0.3eVで、エポキシ基(C-O-C)は286.3±0.3eVで、カルボニル基(C=O)は287.4±0.3eVで、カルボキシル基(-COOH)は288.9±0.3eVで、およびプラズモン/シェイクアップ寄与(二次ピークπ-π)は290.3±0.4eVで見られた。合成時のハロゲン化材料については、ハロゲンおよび炭素結合を有する化学種が、GNPからの信号と混合して見られた。材料F-GNPについては、C-CおよびC-Fイオン性基からの信号は285.3±0.2eVで、C=OおよびC-F半イオン性は287.8±0.3eVで、π-πおよびC-F共有結合性は290.7±0.4eVで混合して見られ;Cl-GNP材料については、C-OおよびC-Clからの信号は286.6±0.4eVで見られ;および、Br-GNPについては、C-OおよびC-Brからの信号は286.2±0.3eVで見られた。
【0095】
S2p領域では(詳細は表6)、163.7±0.2eVと164.9±0.2eVを中心とする2つのピークがフィッティングされ、それぞれS2p3/2とS2p1/2に割り当てられた。S2p3/2およびS2p1/2の結合配置は、GNPの構造におけるC=SおよびC=S結合の形成に起因しうる。硫黄酸化物種(-C-SO-C-結合)に関連する別のピークが、168.8±0.2eVで検出された。

【0096】


【0097】
【0098】
【0099】
[硫黄電池の性能]
本発明のS-GNPおよびS-h-GNPは、異なる電気化学エネルギー貯蔵装置のためのカソードおよびアノード活性材料の両方として、例えば、Liに対して1.4V未満の電気化学的酸化還元電位を有する任意の活性アノード材料(例えば、Si、Li、Na、Mg、Al、Ca、およびグラファイト)に対するカソードとして;およびLiに対して2.6Vを超える電気化学的酸化還元電位を有する任意の活性カソード材料(例えば、LiMnおよびLiCoO)に対するアノードとして使用されうる;両シナリオにおいて、カソードまたはアノードとして、電池は有機、イオン性、水系、準固体、または固体電解質を使用しうる。
【0100】
一例として、S-GNPおよびS-h-GNPの、アノードとしてのLi金属に対するカソードにおける活性材料としての性能を、我々は示す。Li金属は、対極および参照電極として機能する。セルの構成は、合成時の材料の性能を技術文献と比較するために、可能な限り標準的に保たれ、すなわちセルは、容量、レート能力、サイクル寿命などを改善するように最適化または構成されたりはせず、これはまた、例えばカソードの組成、電解質の組成、添加剤、電解質/硫黄比、中間層などの多くの要因にも依存する。
【0101】
図4は、異なるカレントレート下での比放電容量を示す。S-F-GNPは、0.05Cで1167mAh g -1の、より高い最初の放電容量を示す。S-Cl-GNP、S-Br-GNP、S-GNPは、0.05Cで~1045mAh g -1の同様の最初の放電容量を有する。S-F-GNPおよびS-GNPは、より低い容量(0.1Cで~802mAh g -1、0.2Cで~756mAh g -1、および0.3Cで~736mAh g -1)を示したS-Cl-GNPおよびS-Br-GNPと比較して、評価された様々なレートにわたって、より高い容量(0.1Cで~886mAh g -1、0.2Cで~809mAh g -1、および0.3Cで~762mAh g -1)を示す。
【0102】
図5は、85サイクルにわたる0.3Cでの比放電容量およびクーロン効率を示す。S-F-GNP、S-Cl-GNP、およびS-GNPは、カレントレート試験後に770mAh g -1を超える初期容量を示した(図4)一方、S-Br-GNPは、712mAh g -1のより低い容量を示した。合成された全ての材料の中で、S-F-GNPは85サイクルにわたり76%の最も高い容量維持率を示し、S-GNPが68%で続いた。S-Cl-GNPおよびS-Br-GNPは、47%未満の容量維持率を示した。合成時の材料の平均クーロン効率は、89.5%±3を超える。
【0103】
S-F-GNPおよびS-GNPは、全ての合成時の材料の中で全体的に最も優れた電気化学的性能を示した。従って、これらの材料について、様々な活性材料質量負荷でさらなる研究が行われた。図6は、7mgおよび3.5mgの硫黄質量負荷を有するS-F-GNPおよびS-GNPの、0.3Cでのサイクル安定性を示す。
【0104】
ハロゲン化または質量負荷に関係なく、材料は同等の初期容量およびクーロン効率を示し(図6)、カレントレート試験後に、平均容量は757mAh g -1、平均クーロン効率は88%±2.25であった。85サイクル終了時点で、7mgを有するS-F-GNPおよびS-GNPは、それぞれ76%および68%の容量維持率を示し、一方3.5mgを有するS-F-GNPおよびS-GNPは、それぞれ97%および90%の容量維持率を示す。
【0105】
図7は、3.5mgの硫黄質量負荷を有するS-F-GNPおよびS-GNPの、0.3Cで200サイクルの間の、サイクル安定性を示す。S-F-GNPおよびS-GNPは、カレントレート試験後に、それぞれ713.3mAh g -1および742.2mAh g -1の比放電容量を示し(図示せず)、200サイクル後の容量維持率は、それぞれ78.9%および67.9%である。S-F-GNPおよびS-GNPの、200サイクルにわたる平均クーロン効率は、それぞれ90.7%および85.7%である。
【0106】
図8は、3.5mgの硫黄負荷を有する合成時のS-GNPの、0.05Cレートで50サイクルの間の、比放電容量を示す。これらの条件で、S-GNPは1341mAh g -1の最初の比放電容量を与えたが、15サイクル後にセルは安定に達し、1085mAh g -1の比放電容量を送達し、50サイクル後の容量維持率は94.5%である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】