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特表2024-526731超微細キュービットの大規模化可能ラマン駆動のための分散光学機器
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】超微細キュービットの大規模化可能ラマン駆動のための分散光学機器
(51)【国際特許分類】
   G02F 3/00 20060101AFI20240711BHJP
   G06E 3/00 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
G02F3/00
G06E3/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501669
(86)(22)【出願日】2022-07-15
(85)【翻訳文提出日】2024-02-16
(86)【国際出願番号】 US2022037325
(87)【国際公開番号】W WO2023080936
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】63/222,791
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507044516
【氏名又は名称】プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ
(71)【出願人】
【識別番号】596060697
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】レビン,ハリー ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ブルブスタイン,ドレフ
(72)【発明者】
【氏名】キースリング コントレラス,アレキサンダー
(72)【発明者】
【氏名】セメギニ,ジュリア
(72)【発明者】
【氏名】エバディ,セパー
(72)【発明者】
【氏名】ワン,タウト
(72)【発明者】
【氏名】オムラン,アーメド
(72)【発明者】
【氏名】ルーキン,ミハイル ディー.
(72)【発明者】
【氏名】グライナー,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ヴュレティック,ヴラダン
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA15
2K102AA21
2K102BA01
2K102BA31
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102EB08
2K102EB16
2K102EB20
(57)【要約】
複数の周波数成分を有する位相変調ビームを生成するように構成されるコヒーレント光源;および分散光学素子を含む、光ビームの振幅を変調するためのデバイス。該分散光学素子は、群遅延分散を有し、かつ位相変調ビームを受信し、光位相シフトを複数の周波数成分のそれぞれに導入し、複数の周波数成分を再度合わせて、それにより振幅変調ビームを生成するように構成され、光位相シフトの値は群遅延分散に従って周波数により非線形に変動する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の周波数成分を有する位相変調ビームを生成するように構成されるコヒーレント光源;
チャープブラッググレーティング(CBG)、チャープブラッグミラー(CBM)またはオーバーカップリングされた光共振器から選択される分散光学素子、ここで分散光学素子は群遅延分散を有し、分散光学素子は、位相変調ビームを受信し、光位相シフトを複数の周波数成分のそれぞれに導入し、複数の周波数成分を再度合わせて、それにより振幅変調ビームを生成するように構成され、光位相シフトの値は群遅延分散に従って周波数により非線形に変動する、
を含む、光ビームの振幅を変調するためのデバイス。
【請求項2】
粒子の源;
閉じ込め領域内に複数の粒子を保持するための複数の閉じ込め領域を生成するように構成される閉じ込めシステム、ここで粒子は第1の量子状態を有する;
振幅変調ビームを生成し、振幅変調ビームを複数の粒子中の少なくとも1つの粒子に方向づけ、それにより第1の量子状態と第2の量子状態の間で少なくとも1つの粒子の遷移状態を駆動するための励起源;および
複数の粒子の状態を決定するための観察システム
を含む、量子コンピューターデバイスであって、
励起源が:
複数の周波数成分を有する位相変調ビームを生成するように構成されるコヒーレント光源;および
分散光学素子、ここで分散光学素子は群遅延分散を有し、分散光学素子は、位相変調ビームを受信し、光位相シフトを複数の周波数成分のそれぞれに導入し、複数の周波数成分を再度合わせて、それにより振幅変調ビームを生成するように構成され、光位相シフトの値は群遅延分散に従って周波数により非線形に変動する、
を含む、量子コンピューターデバイス。
【請求項3】
光学的に分散性の素子で振幅変調ビームを方向づけ、それにより周波数依存的群遅延を増幅するように構成される反射性素子をさらに含む、請求項1または2記載のデバイス。
【請求項4】
コヒーレント光源が、単色性コヒーレント光源および電気光学変調器を含む、請求項1または2記載のデバイス。
【請求項5】
分散光学素子が、光ファイバー、フォトニック結晶ファイバー、チャープブラッググレーティング(CBG)、チャープブラッグミラー(CBM)またはオーバーカップリングされた光共振器から選択される、請求項2記載のデバイス。
【請求項6】
コヒーレント光源が、複数の粒子の少なくとも2つの粒子で振幅変調ビームを方向づけるように構成される、請求項2記載のデバイス。
【請求項7】
コヒーレント光源が、複数の粒子の単一の粒子で振幅変調ビームを方向づけるように構成される、請求項2記載のデバイス。
【請求項8】
複数の周波数成分を有するコヒーレント位相変調光ビームを生成する工程;
位相変調ビームを、チャープブラッググレーティング(CBG)、チャープブラッグミラー(CBM)またはオーバーカップリングされた光共振器から選択される分散光学素子で方向づけて、それにより光位相シフトを複数の周波数成分のそれぞれに導入する工程、ここで分散光学素子は群遅延分散を有し、光位相シフトの値が群遅延分散に従って周波数により非線形に変動する;および
複数の周波数成分を再度合わせて、それにより振幅変調ビームを生成する工程
を含む、光ビームの振幅を変調する方法。
【請求項9】
閉じ込め領域内に複数の粒子を保持する複数の閉じ込め領域を生成する工程、ここで粒子は第1の量子状態を有する;
振幅変調ビームを生成する工程;
複数の粒子の少なくとも1つの粒子で振幅変調ビームを方向づけ、それにより第1の量子状態と第2の量子状態の間で複数の粒子の少なくとも1つの粒子の遷移を駆動する工程;および
複数の粒子の状態を決定する工程
を含む、量子コンピューターデバイスを操作する方法であって、
振幅変調ビームを生成する工程が:
複数の周波数成分を有するコヒーレント位相変調光ビームを生成すること;
分散光学素子で位相変調ビームを方向づけ、それにより光位相シフトを複数の周波数成分のそれぞれに導入すること、ここで分散光学素子は群遅延分散を有し、光位相シフトの値は群遅延分散に従って周波数により非線形に変動する;および
複数の周波数成分を再度合わせて、それにより振幅変調ビームを生成すること
を含む、方法。
【請求項10】
光学的に分散性の素子で振幅変調ビームを方向づけ、それにより周波数依存的群遅延を増幅する工程をさらに含む、請求項8または9記載の方法。
【請求項11】
単色性コヒーレント光ビームを生成する工程;
電気光学変調器で単色性コヒーレント光ビームを方向づける工程;および
単色性コヒーレント光ビームの位相を変調する工程
をさらに含む、請求項8または9記載の方法。
【請求項12】
分散光学素子が、光ファイバー、フォトニック結晶ファイバー、チャープブラッググレーティング(CBG)、チャープブラッグミラー(CBM)またはオーバーカップリングされた光共振器から選択される、請求項9記載の方法。
【請求項13】
振幅変調ビームが複数の粒子の少なくとも2つの粒子で方向づけられる、請求項9記載の方法。
【請求項14】
振幅変調ビームが複数の粒子の単一の粒子で方向づけられる、請求項9記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願についての他所参照
本願は、2021年7月16日に出願された米国仮出願第63/222,791号の利益を主張し、該出願はその全体において参照により本明細書に援用される。
【0002】
連邦政府に支援された研究または開発に関する陳述
本発明は、国立科学基金により授与された1125846および1506284ならびに米国国防省/国防高等研究計画局により授与されたW911NF2010021ならびに米国海軍研究所により授与されたN00014-15-1-2846の下、政府支援によりなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
量子ビット(キュービット)は、量子コンピューターのための基本構築ブロックである。伝統的なコンピューターに情報を記憶するために使用される「古典的ビット」(それぞれのビットは0または1)との類似において、キュービットは、|0>および|1>で標識される2つの別個の状態または2つの状態の任意の量子重ね合わせを占有し得る。いくつかの適用において、単一キュービットは、個々に操作される必要がある。単一キュービット操作の方法を向上することは、量子コンピューターの能力を向上することに重要である。
【発明の概要】
【0004】
発明の概要
一例示的態様において、本発明は、光ビームの振幅を変調するためのデバイスである。該デバイスは、複数の周波数成分を有する位相変調ビームを生成するように構成されるコヒーレント光源;およびチャープブラッググレーティング(chirped Bragg grating)(CBG)、チャープブラッグミラー(chirped Bragg mirror)(CBM)またはオーバーカップリングされた(overcoupled)光共振器から選択される分散光学素子を含む。分散光学素子は、群遅延分散を有し、かつ位相変調ビームを受信して、光位相シフトを複数の周波数成分のそれぞれに導入して、および複数の周波数成分を再度合わせて、それにより振幅変調ビームを生成するように構成され、ここで光位相シフトの値は、群遅延分散に従って周波数により非線形に変動する。
【0005】
別の例示的態様において、本発明は、粒子の源;その中に複数の粒子を保持するための複数の閉じ込め領域を生成するように構成される閉じ込めシステム、ここで該粒子は第1の量子状態を有する;振幅変調ビームを生成し、複数の粒子中の少なくとも1つの粒子で振幅変調ビームを方向づけ、それにより第1の量子状態と第2の量子状態の間で少なくとも1つの粒子の遷移を駆動するための励起源;および複数の粒子の状態を決定するための観察システムを含む、量子コンピューターデバイスである。励起源は、複数の周波数成分を有する位相変調ビームを生成するように構成されるコヒーレント光源および分散光学素子を含む。分散光学素子は、群遅延分散を有し、かつ位相変調ビームを受信して、光位相シフトを複数の周波数成分のそれぞれに導入して、および複数の周波数成分を再度合わせて、それにより振幅変調ビームを生成するように構成され、ここで光位相シフトの値は、群遅延分散に従って周波数により非線形に変動する。
【0006】
別の態様において、本発明は、光ビームの振幅を変調する方法であり、該方法は、複数の周波数成分を有するコヒーレント位相変調光ビームを生成する工程;位相変調ビームを、チャープブラッググレーティング(CBG)、チャープブラッグミラー(CBM)またはオーバーカップリングされた光共振器から選択される分散光学素子で方向づける、ここで分散光学素子は群遅延分散を有する、それにより光位相シフトを複数の周波数成分のそれぞれに導入する工程、ここで光位相シフトの値は群遅延分散に従って周波数により非線形に変動する;および複数の周波数成分を再度合わせて、それにより振幅変調ビームを生成する工程を含む。
【0007】
別の態様において、本発明は、量子コンピューターデバイスを操作する方法である。該方法は、その中に複数の粒子を保持する複数の閉じ込め領域を生成する工程、ここで粒子は第1の量子状態を有する;振幅変調ビームを生成する工程;振幅変調ビームを、複数の粒子の少なくとも1つの粒子で方向づけ、それにより第1の量子状態と第2の量子状態の間の複数の粒子の少なくとも1つの粒子の遷移を駆動する工程;および複数の粒子の状態を決定する工程を含む。振幅変調ビームを生成する工程は:複数の周波数成分を有するコヒーレント位相変調光ビームを生成すること;位相変調ビームを分散光学素子で方向づける、ここで分散光学素子は群遅延分散を有する、それにより光位相シフトを複数の周波数成分のそれぞれに導入すること、ここで光位相シフトの値は、群遅延分散に従って周波数により非線形に変動する;および複数の周波数成分を再度合わせて、それにより振幅変調ビームを生成することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図面の簡単な説明
前述のものは、同様の参照記号が異なる図面を通じて同じ部分を言及する添付の図面に図示されるように、本発明の例示的態様の以下のより具体的な記載から明らかである。図面は必ずしも一定の縮尺でなく、その代り本発明の態様を説明することが強調される。
図1図1は、位相変調定常振幅コヒーレントビームの振幅変調ビームへの変換を図示する概略図であり、得られるビームは、調整可能な期間1/ωqを有する振幅の「うなり(beat)」を示す。
図2A図2Aは、本明細書に記載されるデバイスおよび方法により使用されるΛ型3レベルシステムにおける誘導(stimulated)ラマン遷移の概略図である。
図2B図2Bは、5S1/2基底状態(2つの「クロック」状態|0> = |F = 1; mF = 0>および|1> = |F = 2; mF = 0>を含む)および誘導ラマン遷移を媒介する励起状態5P1/2状態を含む、87Rbについての関連のあるレベル構造を示す概略図である。
図2C図2Cは、本明細書に記載される方法を含む、位相変調を振幅変調に変換するための方法の比較の表にまとめられた結果を示す。
図3A図3Aは、本明細書に開示されるデバイスの光学的な一連の部品を示す概略図である。
図3B図3Bは、振幅変調が分散素子の分散および位相変調深さの両方に依存することを示すプロットである。
図3C図3Cは、均一でない分散に関連する効果を示す、離調の関数としての振幅変調のプロットである。
図3D図3Dは、本明細書に記載される方法に適用される場合のオーバーカップリングされた光共振器およびその作動原理を図示する概略図である。
図4A図4Aは、試料アレイの蛍光発光の画像である。
図4B図4Bは、それぞれの行に対して個々に(上パネル)またはちょうど真ん中の4つの行に対して(下パネル)平均されるラビ振動を示す2つの画像の集合である。
図4C図4Cは、ラマンレーザーからの散乱がT1-型減衰を生じる前に適用され得るパルスの数を測定する結果を示すプロットである。f
図5A図5Aは、ラムゼイ測定の結果を示すプロットであり、ここで原子は、π/2パルスを使用して|0>と|1>の重ね合わせに配置され、最終π/2パルスの前に変動可能な量の時間保持される。
図5B図5Bは、合計256のπ-パルスを有する、XY16-256を使用して動的な脱カップリングシーケンスを示すプロットである。最終π/2パルスは、+x(赤色)または-x(青色)の周囲に適用される。
図6図6は、本開示の態様による量子コンピューター計算のための装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な説明
本発明の例示的態様の説明を以下にする。
【0010】
本開示は、量子コンピューター計算に関する態様を記載する。
【0011】
キュービット
ビットおよびキュービットは、現実の物理系の状態にエンコードされる抽象的な数学的観念である。例えば、古典的ビット(0または1)は、コンデンサが充電されるかもしくは放電されるかまたはスイッチが「オン」であるかもしくは「オフ」であるかにおいてエンコードされ得る。
【0012】
量子ビットは、2つ(またはそれ以上)の別個の量子状態を有する量子系においてエンコードされる。世界的に調査されている多くのかかる物理的な実現がある。1つの例は、真空中で単離される原子、イオンまたは分子などの個々の粒子に基づく。これらの単離された原子、イオンおよび分子は、電子スピン、核スピン、電子軌道および分子回転/振動の異なる方向に対応する多くの別個の量子状態を有する。原則として、キュービットは、原子/イオン/分子の量子状態の任意のペアにエンコードされ得る。実際には、キュービットの重要なパラメーターは、それらの「量子コヒーレンス特性」により記載される。これは本質的に、その情報が消失する前にキュービットの寿命を測定する。これは、古典的ビットと近い類似を有し:0状態で古典的ビットを調製する場合、環境雑音のために、いくらかの時間の後に無作為的に1にはじかれ得る。量子力学的に、同じ誤りが起こり得:|0>はいくらかの特徴的な時間尺度の後に無作為的に|1>にはじかれ得る。しかしながら、キュービットは、さらなる誤りを被ることがあり:例えば、重ね合わせ状態
【数1】
は、無作為的に
【数2】
にはじかれ得る。実際の量子コンピューターにおいて、キュービットは、長いコヒーレンス特性を有する量子状態にエンコードされなければならない。
【0013】
量子コンピューターは一般的に、それぞれがそれ自体の原子/分子/イオン/等にエンコードされる多くのキュービットを含み得る。キュービットを単純に含むことの他に、量子コンピューターは、(1)キュービットを初期化し得、(2)制御された方法でキュービットの状態を操作し得、(3)キュービットの最終状態を読み出し得るはずである。キュービットの操作のことになると、これは通常2つの型に分解され:キュービット操作の1つの型は、いわゆる「単一キュービットゲート」であり、これは個々にキュービットに適用される操作を意味する。例えばこれは、キュービットの状態を、|0>から|1>にはじくかまたは|0>を、重ね合わせ状態
【数3】
にし得る。第2の必要な型のキュービット操作は、「多-キュービットゲート」であり、これはまとめて2つ以上のキュービットに作用し、異なるキュービットをもつれさせるように使用され得る。多-キュービットゲートは、キュービット間の相互作用のいくつかの形態を介して実現される。種々の量子コンピューター計算プラットフォーム(すなわちキュービットの種々の物理的エンコーディング)は、キュービットを記憶している物理的システムに依存する単一キュービットゲートおよび多キュービットゲートの両方について異なる物理的機構に頼る。
【0014】
単一キュービットゲートおよび多キュービットゲートの両方の性能を向上することは、量子コンピューターの能力を長期間向上することに重要である。特定の型のキュービットエンコーディングにおいて単一キュービットゲートを実行するために使用され得る向上された方法が本明細書に開示される。開示される方法は、中性原子量子コンピューター、イオン系量子コンピューターおよび分子量子コンピューターに使用され得る。この方法は、トラップされたイオンを有するものなどのいくつかの状況において多キュービットゲートを実行するためにも有用であり得る。
【0015】
キュービットの操作
開示される方法は、キュービットが原子、イオンまたは分子の2つの基底状態に近いエネルギー準位にエンコードされる文脈において適用可能である。これの例は、いわゆる「超微細キュービット」である。かかるキュービットは、外側の電子スピンに関して核スピンの相対的な方向により異なる2つの電気的基底状態にエンコードされる。かかる状態のペアは、それらが環境的摂動に対して特に頑強/非感受性であるように選択され得、長いコヒーレンス時間をもたらす。これらの状態は、核スピンと電子スピンの間の相互作用エネルギーである、原子/イオン/分子の超微細相互作用エネルギーによりエネルギーにおいて分割される。キュービットの頑強さは、特に安定である2つの状態の間のエネルギー分割として理解され得-この理由のために、安定なエネルギー分割は優れた周波数参照を形成し得、そのように原子クロックについての基準を形成するので、かかる状態は、「クロック状態」と称される。これらのキュービット状態間の典型的な超微細分割は、1~13GHz周波数範囲にある。
【0016】
かかる「超微細キュービット」上で単一キュービットゲートを実行するために、状態の間にエネルギー分割の正確な周波数でコヒーレントマイクロ波放射を適用することが可能である。しかしながら、このアプローチには2つの欠点がある。第1に、マイクロ波は、隣接するキュービットに影響することなくちょうど1つのキュービットに適用することができない。これは、キュービットが、典型的にちょうど数ミクロン互いから離れる粒子中にエンコードされ、それらの大きな波長のために、かかる小さな規模に対してマイクロ波を集中させる(focus)ことができないためである。第2に、マイクロ波強度は、かなり制限され、そのように、単一キュービットゲートの最大速度が相応じて制限される。
【0017】
代替的なアプローチは、誘導ラマン遷移に基づく。この場合、レーザー場は、原子/イオン/分子に適用される。レーザー場は、基底状態の1つから光学的に励起した状態への光学遷移とほぼ(正確ではないが)共鳴する。レーザーは、キュービットの超微細分割に正確に等しい量だけ周波数において分離される複数の周波数成分を含む。原子/イオン/分子は、1つの周波数成分から光子を吸収し得、異なる周波数成分にコヒーレント的に放射し得、そうすることにおいて、それはその状態を変化する。このアプローチは、量子コンピューターにおいてレーザー場を個々の粒子に集中させる能力の利益を受け;レーザー場は高い強度でも適用され得、かなり速いゲート操作を可能にする。
【0018】
本明細書の以下に開示される方法は、位相変調レーザーを使用して、粒子(原子/イオン/分子)においてラマン遷移を誘導することを可能にする。この方法は、量子コンピューターのこれらの実行のいずれかに適用可能である。
【0019】
中性原子量子コンピューター
中性原子量子コンピューターは、個々の中性原子においてキュービットをエンコードする。中性原子は、真空チャンバー内にトラップされ、トラップレーザーにより浮揚される。最も一般的に、トラップレーザーは、個々の光ピンセットであり、これは焦点で個々の原子をトラップする個々の密に集中されたレーザービームである。代替的に、個々の原子は、ノード/アンチノードの周期的な構造を生じるレーザー光の定常波で形成される「光格子」中にトラップされ得る。中性原子中にキュービットをエンコードするための典型的なアプローチは、2つの基底状態がキュービットから数GHzだけ分割される超微細キュービットアプローチである。本明細書で以下に開示される方法は、中性原子上で単一キュービットゲートを実行することを可能にする。
【0020】
中性原子量子コンピューター中の多キュービットゲートは、高度に励起されたリュードベリ状態である第3の原子状態を使用して実現される。1つの原子がリュードベリ状態に励起される場合、隣接する原子は、リュードベリ状態に励起することが妨げられる。この「条件的」挙動は、制御-NOTゲートなどの多キュービットゲートについての基準を形成する。リュードベリ状態は、多キュービットゲートを媒介するために一時的に使用され、次いで原子は、リュードベリ状態から基底状態準位へと逆に戻されて、それらのコヒーレンスを保存する。
【0021】
トラップされたイオン量子コンピューター
トラップされたイオン量子コンピューターは、イオン化される原子種を使用し、それらが正味の電荷を有することを意味する。ほとんどの場合、多くのイオンは、真空チャンバー内の電極により形成される1つの大きなトラップ電位にトラップされる。イオンは、最小のトラップ電位に引っ張られるが、イオン間のクーロン反発は、それらに、トラップ電位の中央で中心に置かれる結晶構造を形成させる。最も一般的に、イオンは線形の鎖に整列する。光ピンセットを使用することまたはより複雑なチップ上の電極構造を用いて局所的な電場によりイオンを個々にトラップすることなどの、イオンをトラップするための他の方法も可能である。
【0022】
キュービットは、複数の方法でトラップされたイオン中にエンコードされる。1つの一般的なアプローチは、中性原子について記載されるように、基底状態超微細レベルを使用することである。中性原子と同様に、超微細キュービットエンコーディングを有するトラップされたイオンにおいて、単一キュービットゲートは、マイクロ波照射または誘導ラマン遷移を使用し得る。本明細書に記載される新規の方法は、誘導ラマン遷移を実行するための新規の方法を提供する。
【0023】
中性原子におけるものとは異なり、トラップされたイオン超微細キュービットは、多キュービットゲートを実行するために、誘導ラマン遷移に激しく頼る。ここで、2つの重要な概念がある:1つは、誘導ラマン遷移が、イオンの超微細状態を制御する以外にもイオンの運動状態を変化させる(すなわち運動量の追加)ための両方に使用され得るということである。これは、光子の運動量の差がイオンにより吸収されるように、一方向に移動する光子を吸収し、異なる方向で光子を放出することとして理解され得る。しばしば多くのイオンが1つの集合的トラップ電位にトラップされ、それぞれが相互に反発しているので、1つのイオンの運動状態を変化させることは、系内の他のイオンに影響を及ぼし、この機構は多キュービットゲートのための基盤を形成する。本発明は、この目的で誘導ラマン遷移を実行するために適用可能である。
【0024】
分子量子コンピューター
個々の分子に基づく量子コンピューターは、トラップされたイオンおよび中性原子よりも、それらの開発において早い。2つの異なる核スピン状態または2つの異なる回転状態を使用することなど、トラップされた分子内にキュービットをエンコードする多くの方法が調査されている。誘導ラマン遷移は、これらのキュービットエンコーディングにおいて単一キュービットゲートを実行するための有用なツールであり得、そのように、本発明は関連するものであり得る。分子間の多キュービットゲートは、分子を第3の状態(中性原子中のリュードベリ状態に類似)に励起させることにより実現され得、ここでこの第3の状態は、分子の極性特性のために隣接するものと強力な相互作用を発揮する。
【0025】
一般的な量子コンピューター
種々の態様によると、個々の粒子(原子/イオン/分子)は、最初にアレイ内にトラップされて、特定の配置に整列され得る。次に、1つ以上の粒子は、所望の量子状態で調製される。次いで量子回路は、個々のキュービット(単一キュービットゲート)または2つ以上のキュービットの群(多キュービットゲート)に対して作用するキュービット操作のシーケンスにより実行され得る。最終的に、粒子の状態は、量子回路の結果を観察するために読み出され得る。読出しは、典型的に粒子の負荷された位置を検出するための電子増幅CCD(EMCCD)カメラ画像および例えばそれらの最終状態において粒子により放出される蛍光を検出することにより粒子の最終的な状態を読み出すための第2のカメラ画像を含む観察系を使用して達成され得る。
【0026】
ラマン遷移を誘導する新規の方法
上で説明されるように、量子コンピューター計算において、2つの別個の基底状態間でラマン遷移を駆動する必要がある。これらの遷移は、マイクロ波源または光レーザーのいずれかにより駆動され得る。マイクロ波源は、いくつかの欠点を有する。第1に、マイクロ波照射により達成されるラビ周波数は典型的に、数十~数百kHzである。キュービットのかかる遅い操作にはデコヒーレンスの危険がある(約数百ミリ秒の時間)。第2に、マイクロ波照射は、個々のトラップされた原子に集中させることができない。
【0027】
光レーザーを使用してラマン遷移を駆動することは利点を提供する。マイクロ波照射により達成可能なものよりもかなり高いラビ周波数が到達され得る(MHz規模)。そのため、光学的操作は速く(1μs未満の時間)、これは、キュービットデコヒーレンス時間の影響も軽減する(約数百ミリ秒)。遷移を駆動するために光レーザーを使用することも、それぞれのトラップされた原子を個々に処理することを可能にする。しかしながら、かかるラマン遷移を駆動することは、その振幅が非常に高い周波数(例えば87Rbの「クロック周波数」、6,834,682,610.904Hz)で変調されるビームを必要とする。レーザーにおいてかかる高周波数振幅変調(AM)を達成することは難題である。ラマン遷移を駆動するために周波数成分のペアが合わされるモードロック周波数コムレーザーが使用され得るが、周波数オフセットは、超微細周波数へと能動的に安定化されなければならない。さらに別のアプローチは、超微細周波数で低雑音側波帯を作製するために単一のレーザーの位相変調に基づく。実験的に都合がよいが、このアプローチは、側波帯ペアの間で破壊的干渉を抑制するためにさらなる干渉計フィルタリングを必要とし、能動的な安定化および光学動力の消失の両方を必要とする。
【0028】
ラマン遷移を駆動するための新規の方法がここで発見された。この方法は、コヒーレントビームを位相変調し、その後コヒーレントビームを高度に分散性の光学素子に方向づけることに基づく。分散素子、例えばチャープブラッググレーティング(CBG)は、位相変調側波帯の相対的な位相を変化させ、破壊的干渉を構築的干渉に変換して振幅変調を生じる。チャープブラッグミラー、オーバーカップリングされた光共振器またはフォトニック集積回路などの他の分散素子も潜在的に適切である。新規の方法は、位相変調から振幅変調への高効率変換を提供し、高い光学動力への大規模化を可能にし、受動的に安定である。
【0029】
新規の方法を、誘導ラマン遷移を駆動するためのレーザーシステムを図示する高レベルな概略図である図1に図示する。見られ得るように、一定振幅コヒーレントビームは、(例えば電気光学変調器(EOM)により)位相変調され、高度に分散性の素子で方向づけられ(「PM~AM」)、ここで、調節可能な周期1/ωqを有する振幅の「うなり」を有する得られるビームが出現し、式中ωqは誘導される超微細遷移に対応する角周波数である。
【0030】
図1に示されるように、レーザー源は、電気光学変調器(EOM)により位相変調され、スペクトルE(ω)に側波帯を導入し(上の挿入図)、一定の強度I(t)を維持する(左下の挿入図)。光学システム「PM~AM」は、位相変調(PM)を振幅変調(AM)に変換し、ここで得られるビームは、調節可能な周期1/ωqを有する振幅の「うなり」を示す(右下の挿入図)。得られる振幅変調光は、原子を照射し、単一キュービットゲートのために誘導ラマン遷移を駆動する。
【0031】
したがって、第1の例示的態様において、本発明は、複数の周波数成分を有する位相変調ビームを生じるように構成されるコヒーレント光源;チャープブラッググレーティング(CBG)、チャープブラッグミラー(CBM)またはオーバーカップリングされた光共振器から選択される分散光学素子を含む、光ビームの振幅を変調するためのデバイスである。第1の例示的態様の第1の局面において、分散光学素子は、群遅延分散を有し、分散光学素子は、位相変調ビームを受信し、光位相シフトの値が群遅延分散に従って周波数により非線形に変動するように光位相シフトを複数の周波数成分のそれぞれに導入し、複数の周波数成分を再度合わせて、それにより振幅変調ビームを生じるように構成される。
【0032】
第2の例示的態様において、本発明は、粒子の源;その中に複数の粒子を保持するための複数の閉じ込め領域を生じるように構成される閉じ込めシステム、ここで粒子は第1の量子状態を有する;振幅変調ビームを生成して、振幅変調ビームを複数の粒子中の少なくとも1つの粒子で方向づけ、それにより第1の量子状態と第2の量子状態の間で少なくとも1つの粒子の遷移を駆動するための励起源;および複数の粒子の状態を決定するための観察システムを含む量子コンピューターデバイスである。
【0033】
第2の例示的態様の第1の局面において、励起源は、複数の周波数成分を有する位相変調ビームを生じるように構成されるコヒーレント光源;および分散光学素子を含む。分散光学素子は群遅延分散を有する。分散光学素子は、位相変調ビームを受信し、光位相シフトの値が群遅延分散に従って周波数により非線形に変動するように複数の周波数成分のそれぞれに光位相シフトを導入し、複数の周波数成分を再度合わせて、それにより振幅変調ビームを生成するように構成される。
【0034】
第2の例示的態様の一局面において、分散光学素子は、光ファイバー、フォトニック結晶ファイバー、チャープブラッググレーティング(CBG)、チャープブラッグミラー(CBM)またはオーバーカップリングされた光共振器から選択される。
【0035】
本明細書で使用する場合、用語「粒子」は、原子、イオンまたは適切な分子などのキュービットをエンコードするために使用され得る任意の物体をいう。
【0036】
上に列挙された分散光学素子のいずれかは動作帯域幅を有すること、および分散素子の具体例は、この帯域幅の中心が光源の波長とほぼ一致するように選択されることが理解される。
【0037】
第1または第2の例示的態様の第2の局面において、デバイスは、振幅変調ビームを光学的に分散性の素子で方向づけ、それにより周波数依存的群遅延を増幅するように構成される反射素子をさらに含む。第2の局面の特徴および例示的特徴の残りは、第1および第2の例示的態様の第1の局面に関して上述されるとおりである。
【0038】
第1または第2の例示的態様の第3の局面において、コヒーレント光源は、単色性コヒーレント光源および電気光学変調器を含む。第3の局面の特徴および例示的特徴の残りは、第1および第2の例示的態様の第1~第2の局面に関して上述されるとおりである。
【0039】
第2の例示的態様の第4の局面において、コヒーレント光源は、複数の粒子の少なくとも2つの粒子で振幅変調ビームを方向づけるように構成される。第2の例示的態様の第4の局面の特徴および例示的特徴の残りは、第2の例示的態様の第1~第3の局面に関して上述されるとおりである。
【0040】
第2の例示的態様の第5の局面において、コヒーレント光源は、複数の粒子の単一の粒子で振幅変調ビームを方向づけるように構成される。第2の例示的態様の第5の局面の特徴および例示的特徴の残りは、第2の例示的態様の第1~第4の局面に関して上述されるとおりである。
【0041】
第3の例示的態様において、本発明は、光ビームの振幅を変調する方法である。該方法は、複数の周波数成分を有するコヒーレント位相変調光ビームを生成する工程;チャープブラッググレーティング(CBG)、チャープブラッグミラー(CBM)またはオーバーカップリングされた光共振器から選択される分散光学素子で位相変調ビームを方向づける工程および複数の周波数成分を再度合わせて、それにより振幅変調ビームを生成する工程を含む。第3の例示的態様の第1の局面において、分散光学素子は、群遅延分散を有し、それにより光位相シフトの値が群遅延分散に従って周波数により非線形に変動するように光位相シフトを複数の周波数成分のそれぞれに導入する。
【0042】
第4の例示的態様において、本発明は、量子コンピューターデバイスを作動する方法である。該方法は、その中に複数の粒子を保持する複数の閉じ込め領域を生成する工程、ここで粒子は第1の量子状態を有する;振幅変調ビームを生成する工程;複数の粒子の少なくとも1つの粒子で振幅変調ビームを方向づけ、それにより第1の量子状態と第2の量子状態の間で複数の粒子の少なくとも1つの粒子の遷移を駆動する工程;および複数の粒子の状態を決定する工程を含む。第4の例示的態様の第1の局面において、振幅変調ビームを生成する工程は、複数の周波数成分を有するコヒーレント位相変調光ビームを生成すること;分散光学素子で位相変調ビームを方向づけること、および複数の周波数成分を再度合わせて、それにより振幅変調ビームを生成することを含む。分散光学素子は、群遅延分散を有し、それにより、光位相シフトの値が群遅延分散に従って周波数により非線形に変動するように光位相シフトを複数の周波数成分のそれぞれに導入する。
【0043】
第4の例示的態様の一局面において、分散光学素子は、光ファイバー、フォトニック結晶ファイバー、チャープブラッググレーティング(CBG)、チャープブラッグミラー(CBM)またはオーバーカップリングされた光共振器から選択される。第4の例示的態様の特徴および例示的特徴の残りは、上述されるとおりである。
【0044】
第3または第4の例示的態様のいずれかの第2の局面において、該方法は、光学的に分散性の素子で振幅変調ビームを方向づけ、それにより周波数依存的群遅延を増幅する工程をさらに含む。第3または第4の例示的態様のいずれかの第2の局面の特徴および例示的特徴の残りは、第3および第4の例示的態様の第1の局面に関して上述されるとおりである。
【0045】
第3または第4の例示的態様のいずれかの第3の局面において、該方法は、単色性コヒーレント光ビームを生成する工程;単色性コヒーレント光ビームを電気光学変調器で方向づける工程;および単色性コヒーレント光ビームの位相を変調する工程をさらに含む。第3および第4の例示的態様の第3の局面の特徴および例示的特徴の残りは、これらの態様の第1~第2の局面に関して上述されるとおりである。
【0046】
第4の例示的態様の第4の局面において、振幅変調ビームは、複数の粒子の少なくとも2つの粒子で方向づけられる。第4の例示的態様の第4の局面の特徴および例示的特徴の残りは、第4の態様の第1~第3の局面に関して上述されるとおりである。
【0047】
第4の例示的態様の第5の局面において、振幅変調ビームは、複数の粒子の単一の粒子で方向づけられる。第4の例示的態様の第5の局面の特徴および例示的特徴の残りは、第4の態様の第1~第4の局面に関して上述されるとおりである。
【実施例
【0048】
例示
振幅変調および誘導ラマン遷移
第1に、誘導ラマン遷移は、両方の超微細キュービット状態を励起状態にカップリングする一般的な駆動場について分析される。駆動場が、超微細周波数ωq=2π*6.836GHzと同等かまたはそれより大きいが、励起状態Δからの離調と比較して小さいいくつかの帯域幅、例えば離調Δ=2π*100GHzについて2π*28GHzの帯域幅を有すると仮定する。この設定におけるラマンラビ周波数を評価するための規範的なアプローチは、周波数差ωqを有する駆動場における周波数成分のそれぞれのペアを考慮することであるが、同等の解釈は、その電場スペクトルを考慮することなく、光検出器で測定される場合にレーザー場の振幅変調のみを考慮することであると理解されるはずである。この解釈は、ラマンレーザーシステムの理解を簡単にし、種々のアプローチを比較するための簡単な方法を提供する。
【0049】
2つの基底準位|0>および|1>のそれぞれが相互の励起状態|2>にカップリングされる、第1の3準位Λシステム(下記の図2A参照)を考慮する。
【0050】
単一光子ラビ周波数Ω(t)を有する同じ一般的なレーザー場により駆動される両方のカップリングを採用する。このシステムは、励起状態|2>についての回転枠において与えられる以下のハミルトニアン:
【数4】
により記載される。
【0051】
駆動レーザー場の中間離調ΔがΩ(t)およびレーザー帯域幅と比較して大きい場合、励起状態は、断熱的に排除され得、有効カップリング
【数5】
を有する状態|0>および|1>についての有効2準位ハミルトニアン:
【数6】
が得られる。
【0052】
式からのハミルトニアンは、分割ωqおよび時間依存カップリング
【数7】
を有する2準位系(TLS)を記載することに注意。この記載から、レーザー場の強度は、2つのキュービット状態をカップリングする有効場を生じることが明らかであり;そのため、キュービット周波数でのレーザー場の振幅変調は、マイクロ波を直接的に使用するスピン遷移の共鳴駆動と類似するキュービット遷移を駆動する。興味深いことに、実際の原子(すなわち下記の図2Bに示される87Rbについてのレベル構造)において、レーザー強度に比例する「有効」は、ベクトル光シフトに関連する架空の磁場である。具体的に、非共鳴レーザー場は、
【数8】
による与えられる架空の磁場として作用するベクトル光シフトを誘導し、式中
【数9】
はレーザー場の偏光ベクトルである。円偏光する光、すなわち
【数10】
について、得られる架空の場は、
【数11】
に沿って方向づけられる。そのため非共鳴レーザーは、
【数12】
軸に沿って有効な磁場を導入し、これはπ偏光スピン遷移をカップリングし、そのためレーザー振幅変調は、π偏光マイクロ波放射と同等である。
【0053】
この解釈と、周波数成分のペアにわたり合計する標準的な公式化の間のつながりは、規則的に間隔を空けられた周波数成分を有する場を考慮することにより明確に示され、
【数13】
であるように標準化された構成要素振幅を有する
【数14】
により記載される。かかる場について、強度は、振幅ペアの合計に従って間隔を空ける側波帯の全ての(at all)調和振動を変調する:
【数15】
【0054】
項eqt(構成要素の間隔がω=ωqである場合にk=1に対応する)により駆動されるキュービット周波数での強度変調は、多くの寄与する構成要素のペアと合わされるラマンラビ周波数についての通常の表現により与えられる:
【数16】
【0055】
重要なことに、固定された量の合計動力(|Ω0|2を特徴とする)を有する場について、振幅変調の量は、周波数成分およびそれらの相対的な位相中で動力がどのように分配されるかにより決定される。これは、振幅変調効率
【数17】
内に囲まれ得る。より高い振幅変調効率を有するレーザー場は、(平均光学動力により与えられる)中間状態|2>からの光散乱に対するラマンラビ周波数(振幅変調により与えられる)のより高い比を有する。振幅変調効率は、ηAM<1だけ上に境界を定められ、ここでこの境界は、モードロック周波数コムレーザーにおけるように、より多くの側波帯中で動力が分配される場合に接近される。一方で、2つの周波数成分への動力分割を有する規範的公式化は、効率ηAM=1/2を有する。ここで表される量ηAMは、ラマンレーザーシステムを生成するための種々のアプローチを比較するための都合のよい測定基準を提供する。
【0056】
図2A~2Cには、ラマン遷移を駆動するための振幅変調が図示される。図2Aは、キュービット状態|0>および|1>(周波数ωqにより分割)ならびに中間励起状態|2>を有する、Λ型3準位系における誘導ラマン遷移の概略図である。レーザー場は、ラビ周波数Ω(t)を特徴とする時間依存的カップリングにより|0>および|1>の両方を|2>にカップリングする。励起状態の断熱的排除は、基底状態|0>および|1>の間で有効なラマンカップリングを生じる。
【0057】
図2Bは、5S1/2基底状態(2つの「クロック」状態|0> = |F = 1; mF = 0>および|1> = |F = 2; mF = 0>を含む)および誘導ラマン遷移を媒介する励起状態5P1/2状態を含む、87Rbについての関連するレベル構造を示す概略図である。5P3/2などの他の励起状態は示されず、該プロセスには参加しない。レーザー場は、両方のキュービット状態|0>および|1>を、|F=2, mF=1>および|F=1,mF=1>状態である5P1/2内の2つの特定の励起準位にカップリングするために時間依存的ラビ周波数Ω(t)により偏光されるσ+である。レーザー場は、励起状態からΔだけ離調され;Δは典型的に約100GHzであり;それは、超微細周波数6.8GHzよりもかなり大きいが、5P1/2と5P3/2の間の7THzエネルギーギャップよりもかなり小さくあるべきである。
【0058】
レーザー振幅変調はラマン駆動に必要であるが、高周波数レーザー変調のほとんどのアクセス可能な形態は、電気光学機器を使用する位相変調である。シヌソイド位相変調を考慮することにより、位相変調単独はラマン遷移を駆動するには不十分であることが理解され得、これは、Jacobi-Anger展開:
【数18】
により周波数側波帯を生じ、式中Jnは第1の種類のベッセル関数であり、βは変調深さであり、ωは変調周波数である。レーザー強度は一定である(|Ω(t)|2=|Ω0|2)ため、位相変調されたレーザーは、超微細キュービットを共鳴的に駆動できない。これは、隣接する側波帯のペアの間の破壊的干渉としても理解され得る:
【数19】
【0059】
位相変調されたレーザーの側波帯スペクトルを改変して振幅変調を生成するためのいくつかの方法がある。これらの方法は、ギガヘルツ規模の分離のみを有する周波数成分に対して選択的に作用するので、主に自然に干渉計使用法(interferometric)である。例えば、1つのアプローチは、キャリア(n=0)スペクトル構成成分をフィルター除去(filter out)するためにファブリー-ペロー空洞を使用することである。別の方法は、全ての奇数の次数の側波帯をフィルター除去するためにマッハ-ツェンダー干渉計を使用することである。さらに別のアプローチは、干渉計の1つのアームで位相変調が生じるマッハ-ツェンダー強度変調器である。これらのアプローチは本質的に非効率であり、それらは、構成成分をフィルター除去することによりレーザー光のいくつかの部分を廃棄し、それらは波長規模上の経路長さ変動に対して感受性である。(これらの系のいくつかのファイバー系のバージョンは、より頑強であり得るが、それらは低い光学動力に制限される。)コヒーレンス測定基準は、それぞれのアプローチについて非共鳴散乱速度に対する達成可能なラビ周波数を比較するように定義され、それらは同じ初期光学動力で開始すると仮定される(図2C参照)。
【0060】
図2Cは、本明細書に記載される方法を含む、位相変調を振幅変調に変換するための方法の比較の表にまとめられた結果を示す。分散性アプローチは、より高い忠実度操作のためのその見込みを示すより高いコヒーレンス測定基準を有し、それが他のアプローチよりも受動的に安定であるような方法で非干渉計使用法であるように示される。
【0061】
分散性光学機器による位相変調の振幅変調への変換
位相変調スペクトルから特定のスペクトル構成成分をフィルター除去することよりもむしろ、分散性光学機器を使用してこれらのスペクトル構成成分の相対的位相を変化させるアプローチがここで考慮される。特に、
【数20】
と定義される非ゼロ群遅延分散(GDD)を有する分散素子が考慮される。この素子は、それらの周波数において二次である位相シフトを周波数成分に付与し;すなわち、光位相シフトの値は、群遅延分散に従って周波数により非線形に(例えば二次的に)変化し、分散素子は、
【数21】
の形態の改変された電場を生じ、式中α=GDD・ω2/2は、側波帯指数の関数としての位相曲率を記載する。得られる振幅変調効率は、単純に位相変調深さβおよびベッセル関数同一性に従う分散曲率αに依存する:
【数22】
【0062】
最適なβsinα=0.92ラドについて、効率は、J1(2βsinα)=0.582で最大化され、標準的な2色性駆動(ηAM=1/2)の効率を超える。しかしながら、実際には電気光学位相変調深さは、
【数23】
に制限され、妥当な効率を達成するために
【数24】
を必要とし;これは、
【数25】
の非常に大きな分散に相当する。比較のために、典型的な光ファイバーにおける分散は4×104fs2/メートルである。超高分散チャープブラッグミラー(徐々に変化するブラッグ層厚さを有するミラー)さえ、単一の反射から1300fs2までを提供するのみである。
【0063】
最近、体積測定ブラッググレーティングに基づく新規の光学素子は、新たなレベルの周波数選択性および分散制御を可能にした。これらの結晶は、約1cmの長さスケールにわたりそれらの屈折率において弱い変調を有する。指標変調波長が深さの関数として変化するデバイスは、高度に分散性の特性を有する。GDD=4×108fs2を有するチャープ体積測定ブラッググレーティング(OptiGrate, CBG-795-95)を実験に使用した。グレーティングから2回反射することは、分散効果を8×108fs2のGDDまで2倍にし、そのために容易に接近可能な位相変調深さβ~1.3ラドを有する最適な振幅変調効率を可能にする。さらに、分散素子は、構成成分をフィルター除去することにより光学動力を無駄にせず、それは受動的に安定であり:最終的に、それは位相変調を振幅変調に受動的に変換する素子として働き、そのため有効なラマンラビ周波数(位相、振幅および周波数)は、位相変調器のマイクロ波源から受け継がれる。
【0064】
図3Aおよび3Bは、チャープブラッググレーティングを使用する、本明細書においてラマンレーザーシステムとも称されるラマン遷移を駆動するためのレーザーシステムを図示する。
【0065】
図3Aは、チャープブラッググレーティング(CBG)112を使用するデバイス100の概略図である。レーザー源102(例えば795nmで1ワットの動力を有するToptica TA Pro)は、電気光学変調器(EOM)104に方向づけられ、マイクロ波源106(ここで6.8GHz)に従い位相変調を生じる。位相変調された光は、水平に偏光され、偏光ビームスプリッター(PBS)108を通り、分散素子110に方向づけられる。示される態様において、分散素子110は、CBG 112を含む。分散素子110は、それが軸114の周りに回転し得るように積載される。かかる回転は、波長選択性を同調させることを可能にする。
【0066】
位相変調ビームの構成的周波数成分は、分散素子上で空間的に分離される(ここでCBG内の異なる深さの反射のため)。全ての周波数成分は、ミラー116により反射され、次いで最終ミラー117により逆反射され、それらは、CBG 112を通るそれらの経路をたどり直し、同じ空間モードに戻って合流するが、それぞれは異なる位相シフトを有する。この逆反射経路上で、レーザーは、4分の1波長板(QWP)118を2回通過し、CBGからの2回目の反射後、レーザー場はここで垂直に偏光され、PBS 108から下方に反射する。この点で、全てのスペクトル構成成分は、ここでこのビームを振幅変調させる位相シフトを有する以外は同じ空間モードに再度合わされる。光は、原子にカップリングされ、原子にもたらされるファイバーである。レーザーの小さな部分はもぎ取られ、レーザーの側波帯スペクトルを測定するための光検出器(PD)122および高速光検出器を含む走査ファブリー-ペロー120などの診断設備で測定される。
【0067】
図3Aに示される態様100において、CBG 112およびミラー116は、その旋回軸(軸114)がCBG 112の入り口ファセットに整列される回転台109上に積載される。
【0068】
図3Bは、振幅変調が、CBGの分散および位相変調深さの両方に依存することを示す。これは、分散素子が実際に、予想されるものと同様にほぼ分散性であることを検証するために使用され、診断法として使用される。
【0069】
図3Cは、均一でない分散に関連する効果を示す離調(緑色曲線)の関数としての振幅変調のプロットである。理想的なデバイスは、その全体の帯域幅にわたり一定の性能を有するが、示される曲線は、安定である操作周波数ウインドウにおいて十分に平坦である。図3Aに示されるデバイス100におけるCBGの全体的な反射性は、灰色で示され、デバイスの全50GHz帯域幅にわたり約85%でほぼ一定であり、設計されるような低い光学動力の消失を示す。
【0070】
上の記載はチャープブラッググレーティングについて言及したが、当業者は、他の分散素子を使用し得ることを理解する。例としては、光ファイバー、フォトニック結晶ファイバー、チャープブラッグミラー(CBM)またはオーバーカップリングされた光共振器が挙げられる。
【0071】
オーバーカップリングされた光共振器は、図3Dに具体的に図示される。示されるように、オーバーカップリングされた光共振器は、長さLを有する空洞を取り囲む十分に反射性の1つと部分的に反射性の1つの2つのミラーを含む(上パネル)。位相変調された入力光の中心の周波数(左下パネル)に依存して、長さLは、その位相がシフトされる側波帯についての共鳴条件に適合するように調整され得る(左下パネルにおいて負の電場を有する側波帯)。オーバーカップリングされた共振器の出力を右下パネルに示す。見られ得るように、所望の側波帯の位相はπだけシフトした。
【0072】
ラマンレーザー設定
ラマンレーザーシステム(図3Aに示される)は、795nmで1.5Wまでのファイバーカップリング光学動力を出力する先細りした振幅機システムから供給された(Toptica TA Pro)。この光は、Qubigからの自由空間共鳴電気光学変調器(EOM)により位相変調される。EOMは、6.8~GHzマイクロ波源により駆動され、これは任意の波長生成器(Spectrum Instrumentation)によりIQ変調されて、位相変調信号の任意の周波数、位相および振幅制御を達成する局所発振器(Stanford Research Systems, SG384)からなる。本明細書で使用する場合、「I」は「同相(in-phase)をいい、「Q」は「直角位相」をいう。IQ-変調は、入力信号の周波数、位相または振幅を変調するために使用され得る標準的な種類の変調である。
【0073】
次いでレーザーは、チャープブラッググレーティングから2回反射されて複数の周波数成分を再度合わせ、それにより位相変調を振幅変調に変換し、出力は、音響光学変調器(AOM)によりゲート制御され(gated)、単一モードファイバーにカップリングされた。位相変調深さβは、走査ファブリー-ペロー空洞にもぎ取ることにより測定され、得られた振幅変調は、高速光検出器(PD)で特徴付けられた。
【0074】
CBGの操作帯域幅は50GHzであり;3°の標的の入射角の周りのCBGの角度同調はレーザー周波数に対するこの帯域幅のシフトを可能にした。CBGはその帯域幅内に名目上は均一な分散を有するが、実際には分散はその有限の帯域幅内で振動することが見出され;この理由のために、入射角の微細な制御を有することおよび角度を同調しながら得られた振幅変調をモニタリングすることは有用である。
【0075】
CBGからの第1の反射の後の光の適切な逆反射は、CBG角を同調しながらその後の整列が正確なままであることを確実にするために重要である。これは、レーザー光の異なるスペクトル構成成分がCBG内の異なる深さに浸透し、そのために空間的に分離するという事実によりさらに複雑化され;ビーム空間モードを保存することは、これらの異なるスペクトル構成成分が逆反射およびCBGの第2の通過後に適切に再度合わさることを必要とする。ここで使用されるアプローチは、CBGおよびもぎ取りミラーの両方を同じ回転台上に積載することであり、ここでCBGの中心は、回転台の起点にある。最終逆反射ミラーは、ある位置に一旦整列されて固定され;次いで適切な整列、逆反射は、全ての回転台角度および整列について満足され、設定の残りは変わらないままである。
【0076】
振幅変調を最大化するためにCBG角を最適化した後(高速フォトダイオードで測定される場合)、振幅変調の位相変調深さに対する依存性は、式からの予想されるベッセル関数の関係を確認するためおよび分散係数を抽出するために実験的に測定された(図3B)。最終的に、十分な変調深さで、振幅変調は、自由に流れるレーザーのドリフトまたはCBGの角度に対する感度を評価するために、レーザー周波数がCBGの帯域幅を通過して走査されるように測定された(図3C)。
【0077】
中性原子アレイ上のラマンレーザーシステムのベンチマーク
ハイパワーラマンレーザーシステムを、600の光ピンセットのアレイ内に二次元でランダムに負荷され、100μm×200μm長方形内に整列された中性87Rb原子に対して試験した(図4A)。光ピンセットは、線形に偏光され、809nmの波長を有した。電子増幅CCD(EMCCD)カメラで原子を画像化し、それらの負荷された位置を検出し、D2遷移F=2→F'=3で光子を循環させることによりF=2(すなわち|1>状態)中の原子を押し出した後に、それらの最終状態(すなわち|0>状態)を第2の蛍光画像により読み出した。負荷および画像化の間に、ピンセットは14MHzのトラップ深さを有した。ラマン駆動の間に、トラップ深さは5MHzまで低下し、8.5-Gの磁場が適用された。
【0078】
ラマンレーザーは、側方から原子面を照射し、原子に対して円筒状に集中され、細い軸および高い軸のそれぞれに40μmおよび560μmのくびれ(waist)を有する楕円形のビームを生じ、原子上で150mWの総平均光学動力を有した。大きな垂直の広がりは、より複雑なビーム形状化技術なしで、原子にわたり均質性を確実にする。レーザーは、偏光され、795nmの遷移の100GHz青色離調を5P1/2励起状態に同調されたσ+である。EOM駆動周波数を同調することにより、ラマンレーザーは、基底状態超微細マニホールドにおいてπ偏光スピン遷移を共鳴的に駆動し得る。ラマン補助光ポンピングを使用して、|0>=|F=1,mF=0>で原子を調製した。続いて、EOM駆動周波数は、クロック周波数(すなわちωq/2π=6.83GHz)により共鳴に同調され、原子は|0>から|1>=|F=2,mF=0>にカップリングされた。
【0079】
キュービットアレイは全体的に駆動され、ラビ振動は周波数Ωeff=1.95MHzを有するアレイにわたり測定された。ラビ振動は、アレイのそれぞれの行について個々に測定され(図4B、上パネル)、真ん中の4つの行に対して平均された(図4B、下パネル)。ラビ振動は、アレイにわたる不均等さおよび小さい(≦1%)動力揺らぎのために減衰する。
【0080】
図4A~4Cは、光ピンセットアレイ中の87Rb原子のラマン駆動を図示する。図4Aは、20x30光ピンセットアレイに個々に負荷される約300の原子の試料蛍光画像を示す。ラマンレーザーは全体的にアレイを照射する。
【0081】
図4Bは、キュービット状態の間の特徴的なラビ振動を示す2つの画像の集合である。原子は|0> = |F=1, mF=0>において初期化され、これらのプロット内のそれぞれの時点tについて、ラマンレーザーは、特定の持続時間に適用され、その後、原子が|1> = |F=2, mF=0>に遷移される確率を測定する。それぞれの実験は数回行い、結果を一緒に平均して、長さtのレーザーパルスの後の遷移の確率を測定する。上のプロットにおいて、系のそれぞれの行内の原子は、同じように処理し、ピンセットアレイのそれぞれの行の振動は、このヒートマップのそれぞれの行として別々にプロットする(F=2への遷移の確率を示す色により)。下のプロットにおいて、真ん中の4つの行の原子は同じように処理し、一緒に平均し、アレイの真ん中の原子についての「典型的な」ラビ振動性能を特徴づける。測定されたラビ周波数は1.95MHzである。減衰は主に、系にわたる不均質な平均により生じる。
【0082】
図4Cは、ラマンレーザーからの散乱がT1型減衰を引き起こす前にどのくらい多くのパルスが適用され得るかを測定するためのCar-Purcell-Meiboom-Gill (CPMG)パルス列の使用を示す。最終π/2パルスが+x(赤色)または-x(青色)に沿って適用される2つの測定を比較する。光子散乱のためのπパルス当たりの誤りの確率をこのプロットから抽出する。
【0083】
超微細キュービットによるラマン操作について、ラマンラビ周波数(
【数26】
)と非コヒーレント散乱プロセス(
【数27】
)の間に基本的な折り合いがある。所定の標的ラビ周波数について、より高い光学動力は、より大きな中間離調で働くことを可能にし、散乱速度に対するラビ周波数の比を増加させる(図2Cにおいて表にまとめられたコヒーレンス測定基準に比例する)。AM-変調システムについてのこのコヒーレンス制限を評価するために、(π/2)xパルス、次いで一連のπyパルスを適用し(図4C);このいわゆるCPMGシーケンスは、観察されたラビコヒーレンス時間を制限するパルス誤較正(miscalibration)に対して頑強である。πyパルスの総数を変化させることにより、散乱からの、7852±76パルスの特徴的な1/eスケールを有するT1型減衰が観察される。この減衰定数は、0.999873(1)の散乱限定πパルス忠実度上でより低い境界を設定する。
【0084】
該システムにおいて高いラビ周波数および多くの可能な操作が確立されると、アレイにわたりコヒーレンスを保存することにおけるその有用性は、量子情報処理プロトコルにおける実際の使用のために調査された。第1に、ピンセットにおけるコヒーレンスは、ピンセット中の有限の原子温度および小さな示差的な光シフトにより制限されるラムゼイ
【数28】
を測定することによりベンチマークで試験された(図5A)。一連のπパルスを適用することにより、原子キュービットは、ピンセット示差的光シフトなどの雑音源から動的に脱カップリングされ、コヒーレンス時間をT2=303(13)msまで延長し、数百のキュービットにわたる秒時間尺度のコヒーレンスを示した(図5B)。πパルスは、XY16-256パルスシーケンス(軸の周囲に適用されるπパルスのシーケンス:合計256パルスについてループにされる+x、+y、+x、+y、+y、+x、+y、+xおよび次いで-x、-y、-x、-y、-y、-x、-y、-x)に従って適用され、これは一般的な最初の重ね合わせ状態についてのパルス不完全性に対して頑強である。可変時間のパルス列の後のキュービットコヒーレンスは、残存のパルス不完全さ、残存の位相のずれ(例えば速い磁場雑音またはピンセット光シフト上の雑音)および光ピンセットからの非共鳴散乱に関連する約0.5秒のT1時間により現在制限される。コヒーレンスは、より多くのπパルスを適用することおよびさらなる離調した光ピンセットを使用することによりさらに向上され得る(T1は、好ましい1/Δ3スケーリングを示す)。
【0085】
最新のリュードベリ系もつれ操はミリ秒以下の時間尺度であり、ラマン系単一キュービット回転もミリ秒以下の時間尺度であるので、秒の尺度の量子コヒーレンスは、数百のキュービットを有する多様な深い量子回路を可能にする。さらに、示された動的な脱カップリングシーケンスと一緒になって、このシステムは、コヒーレンスを保存しながら、原子アレイの動的な再構成を含む量子アルゴリズムについての新規のアプローチを支持するはずである。
【0086】
図5Aおよび5Bを参照すると、光ピンセット中の原子の使用されていないコヒーレンスが図示される。
【0087】
図5Aは、ラムゼイ測定の結果を示すプロットである。本明細書で使用する場合、ラムゼイ測定において、原子は、初期状態に戻る前に、可変の時間に重ね合わせ状態に配置される。保持時間の間にレーザー離調は、離調と等しい周波数を有するフリンジ(fringe)を生じる。本明細書に記載される実験において、原子は、π/2パルスを使用して|0>および|1>の重ね合わせに配置され、最終π/2パルスの前に可変量の時間、保持される。|0>と|1>の間の相対的位相は、5kHz周波数が局所振動子に付加される6.8GHz局所振動子に対して測定される。測定結果は、ガウス減衰エンベロープを有する5kHz振動を示し、ここで減衰エンベロープは原子の1つの重要なコヒーレンス測定基準(T2*)を特徴づける。原子は、キュービット遷移上で異なる平均示差的光シフトを有する、ピンセット内のいくつかの振動性のレベルを占有するので、測定は減衰を示し、脱位相化を生じる。
【0088】
図5Bは、合計256πパルスを有する、XY16-256を使用する動的な脱カップリングシーケンスを示す。最終π/2パルスを+x(赤色)または-x(青色)の周囲に適用する。これらの2つの曲線は、適合されたT2=303(13)msと共に収束する。
【0089】
誘導ラマン遷移は、中性原子およびトラップされたイオンを用いる量子コンピューター計算についてのツールボックスにおける重要な成分である。ラマン遷移を駆動するためにいくつかのスキームが以前に使用されていたが、分散性アプローチはいくつかの利点を提供する。最初におよび最も重要なこととして、該システムは、受動的に安定であり、EOMを、レーザー場の得られる振幅変調に駆動するマイクロ波信号を忠実にマッピングする。対照的に、他のスキームは、干渉計の能動的な安定化、モードロックレーザーの反復速度の能動的な固定(locking)または2つのコムの間の周波数オフセットの安定化のいずれかを必要とする。分散性のアプローチは、位相変調器を使用する他のアプローチと比較して、光学動力のその使用においてさらにより有効である。効率はモードロックレーザーのものよりもさらに低いが、実験的な簡易さ、安定性および低コストは、それを魅力的な代替物にする。
【0090】
この分散性アプローチは、誘導ラマン遷移が、ラマン側波帯冷却またはトラップされたイオンシステムにおけるもつれゲートのためなどの、原子スピンを運動にカップリングするために使用される適用についてさらに使用され得る。モードロックレーザーを用いるアプローチに類似して、振幅変調は、キュービット遷移から離れて同調され、光は2つの非共伝播光学経路に分割され、全体的な周波数シフトが2つの経路の1つに付加される。
【0091】
最終的に、局所的なアドレス処理(addressing)光学機器は、振幅変調レーザーをアレイ内の個々の原子へと外側にカップリングする(outcouple)ために使用され得る。空間光変調器などのデバイスは、遅い切り換えにもかかわらず、いくつかのトラップを並行に照射するために使用され得る。代替的に、音響光学または電気光学変調器アレイは、個々のトラップ上のラマン光の速い切り換えを可能にし得た。これらの操作は、柔軟な量子回路を実現するために、リュードベリ相互作用に基づく多キュービットゲートと一体化され得る。
【0092】
光ピンセットを使用した粒子のアレイの形成
中性原子の光学トラップ(optical trapping)は、真空中の原子を単離するための強力な技術である。原子は偏光性であり、光ビームの振動する電場は、原子中の振動する電気双極子モーメントを誘導する。光振動期間にわたり平均される誘導される双極子からの原子内の関連のあるエネルギーシフトは、ACスタークシフトと称される。原子共鳴遷移から離調される(すなわち波長においてずれる(offset))光により誘導されるACスタークシフトに基づいて、原子は、共鳴周波数未満の光に引きつけられるので、(離調される赤色、すなわちより長い波長トラップ光について)局所的な強度極大でトラップされる。ACスタークシフトは、光の強度に比例する。したがって、強度の場の形状は、関連する原子トラップの形状である。光ピンセットは、レーザーをミクロン規模のくびれ部分に焦点を当てることによりこの原理を利用し、ここで個々の原子は該焦点でトラップされる。光ピンセットの二次元(2D)アレイは、例えばコンピューター生成ホログラムをレーザー場の波面に与える空間光変調器(SLM)に照射することにより生成される。光ピンセットの2Dアレイは、磁気-光学トラップ(MOT)内のレーザー冷却原子のクラウドと重複する。ぴったりと焦点を当てられた光ピンセットは、単一の原子がMOTから負荷される「衝突ブロッケード」領域において作動し、原子のペアは、光補助衝突のために排出されて、ピンセットに最大で1個の原子が負荷されることが確実にされるが、負荷は見込みであるので、トラップには約50~60%の確率で単一の原子が負荷される。
【0093】
決定論的原子アレイを調製するために、リアルタイムフィードバック手順により、ランダムに負荷された原子を同定し、それらを予めプログラムされた幾何学構造に再配置する。原子再配置は、ピンセット中で原子を移動させることを必要とし、これは、例えば音響-光学デフレクター(AOD)を使用して、AOD結晶に適用される音響波形の周波数により制御される調整可能な角度だけレーザービームを偏向させることにより、加熱を最小化するように円滑に進められ得る。音響周波数の動的調整(dynamic tuning)は、光ピンセットの円滑な動きに変換される。多周波数音響波は、レーザー偏向のアレイを生成し、これは、顕微鏡対物レンズを通して焦点を合わせた後、音響波形により両方が制御される調整可能な位置および振幅を有する光ピンセットのアレイを形成する。SLMピンセットアレイの頂部にかぶせられる動的に移動するピンセットのさらなるセットを使用することにより、原子は再配置される。
【0094】
例示的ハードウェア
光ピンセットアレイは、個々の粒子で構成される大規模なシステムを構築するための強力かつ柔軟な方法を構成する。それぞれの光ピンセットは、限定されないが量子テクノロジーにおける適用のための個々の中性原子および分子を含む単一の粒子をトラップする。個々の粒子をかかるピンセットアレイに負荷することは推計学的なプロセスであり、ここで該システム中のそれぞれのピンセットは、多くの中性原子ピンセット実行の場合に、有限の確率p<1、例えばp~0.5で、単一の粒子を充填される。この無作為な負荷を補うために、どのピンセットが負荷されるかを測定し、次いで負荷された粒子をプログラム可能な幾何学構造に分類することにより、リアルタイムフィードバックが得られ得る。これは、1つの粒子を一度にまたは並行して移動させることにより実行され得る。
【0095】
並行する分類は、2つの音響-光学デフレクター(AOD)を使用して、既存の粒子トラップ構造から粒子を拾い上げ得る複数のピンセットを生成し、それらを同時に移動させ、それらをどこか他の場所に解放することにより達成され得る。これは、単一トラップ構造(例えばピンセットアレイ)内で周囲に粒子を移動させることまたは1つのトラップシステムから別のシステムへと(例えば1つのピンセットアレイと別の型の光学/磁気トラップの間で)粒子を輸送および分類することを含み得る。この分類は、柔軟であり、それぞれの粒子のプログラムされた配置を可能にする。それぞれの移動可能なトラップはAODにより形成され、その位置は、AODについての無線周波数(RF)駆動場の周波数成分により動的に制御される。AODのRF駆動は、リアルタイムで制御され得、周波数成分の任意の組み合わせを含み得るので、AODのRF駆動場内の周波数成分の数、大きさおよび分布を変化させることにより、トラップの任意のグリッド(任意に配置されるトラップの線など)を生成し、グリッドの行または列を移動させ、グリッドの行および列を追加または除去することが可能である。
【0096】
例示的な態様において、光ピンセットアレイは、ピンセットの柔軟な配置をプログラム的に生成し得るシリコン空間光変調器(SLM)上の液晶を使用して生成される。これらのピンセットは、所定の実験的シーケンスについて空間内に固定され、個々の原子を推計学的に負荷されるので、それぞれのピンセットは、p~0.5の確率で負荷される。負荷された原子の蛍光画像を撮影して、どのピンセットが負荷され、どれが空なのかをリアルタイムに同定する。
【0097】
どのピンセットが負荷されるかを検出した後、光ピンセットアレイと重複する移動可能なピンセットは、原子を、それらの開始位置から動的に再配置して、ほぼ単一の充填でトラップの標的配置を充填し得る。移動可能なピンセットは、交差したAODのペアを用いて生成される。これらのAODを使用して、1つの原子を同時に移動させて標的配置を充填するかまたは多くの原子を並行に移動させる単一の移動可能なトラップを生成し得る。
【0098】
図6を参照すると、本開示の態様による量子コンピューター計算のための装置600の概略図が提供される。図6に示されるように、光源602(例えばコヒーレント光源、いくつかの例示的態様において-単色光源)により生成されたビームを使用して、SLM 604は、トラップビームのアレイ(すなわちピンセットアレイ)を形成し、これは、図6に示される例示的な態様において、要素606a、606c、606dおよび高い開口数(NA)の対物レンズ606eを含む光学的な一連の部品(train)により、真空チャンバー610内で、トラップ面608上に画像化される。他の適切な光学的な一連の部品は、当業者に容易に理解されるように使用され得る。光源612(例えばコヒーレント光源;いくつかの例示的な態様において-単色光源)により生成されるビームを使用して、音波伝達の平行でない方向(例えば直交する方向)を有する一対のAOD 614および616は、動的に移動可能な分類ビームを生成する。図6に示されるもの(要素617、606b、606c、606dおよび606e)などの光学的な一連の部品を使用して、分類ビームは、トラップビームと重複される。他の光学的な一連の部品を使用して同じ結果を達成し得ることが理解される。例えば源602および612は単一の源であり得、トラップビームおよび分類ビームはビームスプリッターにより生成される。
【0099】
ステアリングビームの動的な移動は、直列に配置された2つの平行でないAOD 614、616を使用して達成される。図6に示される例示的な態様において、1つのAODは、「行」(「水平」-‘X'AOD)の方向を画定し、他のAODは「列」(「垂直」-‘Y'AOD)の方向を画定する。それぞれのAODは、原子が負荷される位置の画像を解析した後にフィードバックルーティンを処理するコンピューター622によりリアルタイムで生成される、任意の波形ジェネレータ620由来の任意のRF波形により駆動される。それぞれのAODが単一の周波数成分で駆動される場合、単一のステアリングビーム(「AODトラップ」)は、SLMトラップアレイと同じ面608で生成される。X AOD駆動の周波数はAODトラップの水平位置を決定し、Y AOD駆動の周波数は垂直な位置を決定し;この方法において、単一のAODトラップは、任意のSLMトラップと重複するように進められ得る。
【0100】
図6において、レーザー602は、光のビームをSLM 604に照射する。SLM 604は、ビームのパターン(「トラップビーム」または「ピンセットアレイ」)を生成するように、コンピューター622により制御され得る。ビームのパターンは、レンズ606aにより焦点を合わされ、ミラー606bを通過し、ミラー606d上のレンズ606cにより平行にされる。反射光は対物レンズ606eを通過して、トラップ面608上の真空チャンバー610中の光ピンセットアレイの焦点を合わせる。光ピンセットアレイのレーザー光は対物レンズ624aを通過し続け、二色性ミラー624bを通過し、電荷結合素子(CCD)カメラ624cにより検出される。
【0101】
真空チャンバー610は、さらなる光源(示されない)により照射され得る。トラップ面上にトラップされた原子からの蛍光も対物レンズ624aを通過するが、二色性ミラー624bにより、電子増幅CCD(EMCCD)カメラ624dへと反射される。
【0102】
この例において、レーザー612は、光のビームをAOD 614、616に方向づける。AOD 614、616は、任意波ジェネレータ(AWG)620により駆動され、次いでこれはコンピューター622により制御される。交差AOD 614、616は、上述のように1つ以上のビームを放出し、これは焦点レンズ617に方向づけられる。次いでビームは、光ピンセットアレイに関して上述されるように同じ光学的な一連の部品606b・・・606eに進入し、トラップ面608上に焦点を当てる。
【0103】
代替的な光学的な一連の部品を使用して、本明細書に記載される使用に適した光ピンセットアレイを作製し得ることが理解される。
【0104】
本明細書に引用される全ての特許、公開出願および参照文献の教示は、それらの全体において参照により援用される。
【0105】
本発明は、その例示的態様に関して特に示され、記載されているが、添付の特許請求の範囲に包含される発明の範囲を逸脱することなく、形態および詳細における種々の変更が本発明においてなされ得ることが当業者に理解される。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
【国際調査報告】