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特表2024-526735免疫沈降及びネイティブSCX-MS検出を使用する、治療用抗体及び関連生成物のバイオアナリシス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】免疫沈降及びネイティブSCX-MS検出を使用する、治療用抗体及び関連生成物のバイオアナリシス
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240711BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20240711BHJP
   G01N 33/544 20060101ALI20240711BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240711BHJP
   C07K 16/42 20060101ALN20240711BHJP
【FI】
G01N33/53 N
G01N33/543 541A
G01N33/544 Z
G01N27/62 G
G01N27/62 X
C07K16/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501677
(86)(22)【出願日】2022-07-12
(85)【翻訳文提出日】2024-02-20
(86)【国際出願番号】 US2022036873
(87)【国際公開番号】W WO2023287826
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】63/221,439
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ユエティエン
(72)【発明者】
【氏名】ワン シュンハイ
【テーマコード(参考)】
2G041
4H045
【Fターム(参考)】
2G041DA05
2G041EA04
2G041FA10
2G041FA12
2G041GA01
2G041GA10
2G041HA01
4H045AA50
4H045BA60
4H045BA61
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA50
4H045FA71
(57)【要約】
本発明は、概して、抗体及び関連生成物を特徴付ける方法に関する。特に、本発明は、試料中の抗体及び関連生成物を特異的かつ高感度で検出及び定量化するための、免疫沈降及びネイティブ強陽イオン交換クロマトグラフィー-質量分析法の使用に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体を特徴付けるための方法であって、
(a)前記抗体を固相基体上に固定化することと、
(b)前記抗体の非結合断片を産生するために、前記固定化された抗体を消化酵素に接触させることと、
(c)前記抗体断片を溶出することと、
(d)前記抗体を特徴付けるために、前記溶出液をネイティブSCX-MS分析に供することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記抗体が、モノクローナル抗体又は二重特異性抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固定化するステップが、前記抗体を含む試料を、前記抗体に結合することができる固相基体に接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記固相基体が、ビーズを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ビーズが、アガロースビーズ又は磁気ビーズである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記結合することが、前記固相基体に接着した抗体によって行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記抗体が、抗Fc抗体である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体を固定化した後、前記固相基体を洗浄するステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記消化酵素が、IdeS又はそのバリアントである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記抗体断片が、Fab断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記溶出することが、前記固相基体及び前記抗体断片を遠心分離するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記SCXシステムが、質量分析計に結合されている、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又は三連四重極質量分析計である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
抗体の前記特徴付けが、抗体の定量化を含み、任意選択的に、前記定量化が、内部標準に対して正規化される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記試料が、血清試料である、請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年7月13日に出願された米国仮特許出願第63/221,439号の優先権及び利益を主張し、これは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本発明は、概して、抗体及び関連生成物を特徴付けるための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
治療用ペプチド又はタンパク質は、産生のために細胞培養懸濁液中で発現される。続いて、ペプチド又はタンパク質を精製して、プロセス関連不純物を除去する。精製された治療用ペプチド又はタンパク質の製品品質特性は、薬物動態に関連性のある、それらの関連する安全性、有効性、及び保存期間プロファイルの維持を確実にするように、広範囲に特徴付けられる。
【0004】
治療用ペプチド又はタンパク質の変化は、産生プロセス及び/又は精製プロセス中及び後の任意の時点で生じ得る。治療用ペプチド又はタンパク質は、様々な翻訳後修飾、タンパク質分解、酵素修飾、及び化学修飾により、不均一になる可能性がある。バイオ医薬品の生物物理学的特徴へのこれらの変化は、関連する安全性、有効性、及び保存期間に影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
治療用ペプチド又はタンパク質の他の重要な特徴には、インビボでの存在量及び療法のタイミングを決定する薬物動態及び薬力学などの特性が含まれる。インビボでの治療薬の処理を理解することは、その治療薬がどのように最良に産生され、送達されるかを決定するために、例えば、投与経路、投薬、並びに治療効果及び有害作用を決定するために不可欠であり得る。
【0006】
多くの場合、検出を複雑にする血清などの複雑なマトリックスの文脈において、治療用ペプチド又はタンパク質のこれらの特徴を正確かつ効率的に評価するには、高スループット、高感度、及び高特異性の技術が必要である。治療用ペプチド及びタンパク質並びにそれらの主要な特徴の正確な特徴付け及び定量化を達成するための方法及びシステムに対する必要性が存在することが、理解されるであろう。
【発明の概要】
【0007】
概要
抗体及び関連生成物の検出及び定量化のためのネイティブSCX-MS法が開発されている。抗ヒトFc抗体でコーティングされたアガロースビーズを用いた免疫沈降を使用して、試料中のヒト抗体をプルダウンすることができる。消化酵素IdeS又はそのバリアントを使用して、固定化された抗体を切断し、溶出及び回収され得るFab断片を産生することができる。次いで、この断片を、感度が高く堅牢な定量化のために、ネイティブSCX-MS分析に供することができる。実施例で実証されるように、本発明の方法は、低濃度であっても、純粋な溶液又は血清中であっても、抗体を効率的かつ正確に定量化することが示された。
【0008】
本開示は、抗体の特徴付けのための方法を提供する。一部の例示的な実施形態では、本方法は、(a)当該抗体を固相基体上に固定化することと、(b)当該抗体の非結合断片を産生するために、当該固定化された抗体を消化酵素に接触させることと、(c)当該抗体断片を溶出することと、(d)当該抗体を特徴付けるために、当該溶出液をネイティブSCX-MS分析に供することとを含む。
【0009】
一態様では、当該抗体は、モノクローナル抗体又は二重特異性抗体である。
【0010】
一態様では、当該固定化するステップは、当該抗体を含む試料を、当該抗体に結合することができる固相基体に接触させることを含む。特定の態様では、当該試料は、血清試料である。
【0011】
一態様では、当該固相基体は、ビーズを含む。特定の態様では、当該ビーズは、アガロースビーズ又は磁気ビーズである。
【0012】
特定の態様では、当該固相基体の当該結合は、当該固相基体に接着した抗体によって行われる。更なる特定の態様では、当該抗体は、抗Fc抗体である。
【0013】
一態様では、本方法は、当該抗体を固定化した後、当該固相基体を洗浄するステップを更に含む。
【0014】
一態様では、当該消化酵素は、IdeS又はそのバリアントである。別の態様では、当該抗体断片は、Fab断片である。
【0015】
一態様では、当該溶出することは、当該固相基体及び抗体断片を遠心分離するステップを含む。
【0016】
一態様では、当該SCXシステムは、当該質量分析計に結合されている。別の態様では、当該質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又は三連四重極質量分析計である。
【0017】
一態様では、抗体の当該特徴付けは、抗体の定量化を含み、任意選択的に、当該定量化は、内部標準に対して正規化される。
【0018】
本発明のこれら及び他の態様は、以下の説明及び添付の図面と併せて考慮すると、よりよく評価され、理解されるであろう。以下の説明は、様々な実施形態及びその多数の具体的詳細を示すが、限定ではなく、例証として与えられる。本発明の範囲内で、多くの置換、修正、追加、又は再配置を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】例示的な実施形態による本発明の方法のワークフローを例示する。
図2】例示的な実施形態による、抗体の分離のためのSCX-MS全イオンクロマトグラム(TIC)における異なるSCXカラムの性能の比較を示す。
図3A】例示的な実施形態による、一連の異なる抗体のSCX-MS TICを示す。
図3B】例示的な実施形態による、様々な濃度でのmAb1の質量スペクトルを示す。
図3C】例示的な実施形態による、様々な濃度でのmAb2の質量スペクトルを示す。
図4A】例示的な実施形態による、mAb1 Fab及び内部標準mAb2 FabのSCX-MS TICを示す。
図4B】例示的な実施形態による、内部標準と比較して、純粋な溶液中で20pg~20ngの測定されたmAb1濃度の線形性を示す。
図4C】例示的な実施形態による、内部標準と比較して、純粋な溶液中で20ng~2μgの測定されたmAb1濃度の線形性を示す。
図4D】例示的な実施形態による、純粋な溶液中で20pg~2μgの濃度でのmAb1の質量スペクトルを示す。
図5A】例示的な実施形態による、内部標準に対して正規化した場合の、血清中の測定されたmAb1濃度の線形性を示す。
図5B】例示的な実施形態による、血清中の低濃度での測定されたmAb1濃度の線形性を例示する、図5Aからの挿入図を示す。
図5C】例示的な実施形態による、血清中の低濃度での測定されたmAb1濃度の線形性を例示する、図5Bからの挿入図を示す。
図6A】例示的な実施形態による、内部標準に対して正規化しない場合の、血清中の測定されたmAb1濃度の線形性を示す。
図6B】例示的な実施形態による、血清中の低濃度での測定されたmAb1濃度の線形性を例示する、図6Aからの挿入を示す。
図6C】例示的な実施形態による、血清中の低濃度での測定されたmAb1濃度の線形性を例示する、図6Bからの挿入図を示す。
図7A】例示的な実施形態による、質量スペクトルにおける、血清中のmAb1の検出限界(LOD)を示す。
図7B】例示的な実施形態による、質量スペクトルにおける、血清中のmAb1の定量限界(LOQ)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明
治療用ペプチド又はタンパク質は、様々な翻訳後修飾(PTM)、タンパク質分解、酵素修飾、及び化学的修飾により不均一になり得、これは、ペプチド又はタンパク質の産生及び精製中及びその後の任意の時点で導入され得る。異種バリアントの特定及び特徴付けは、バイオ医薬品の生物物理学的特徴の品質特性を制御するために重要である。モノクローナル抗体又は抗体-薬物コンジュゲートの産生などの治療用ペプチド又はタンパク質の産生及び精製を制御及びモニタリングするための高速高感度ハイスループットの分析方法が、バイオ医薬品産業において必要とされている。
【0021】
投与後のインビボでの治療用ペプチド又はタンパク質のプロセシングは、治療薬の有効性及び安全性などの特徴を更に決定する。ペプチド又はタンパク質の薬物動態(PK)及び薬力学(PD)などの特性は、投与後にのみ明らかになる可能性がある。加えて、治療用ペプチド又はタンパク質への修飾は、インビボで行われ続けてもよく、その結果、製造中に予測不可能であり得る生体内変換生成物がもたらされる。したがって、治療薬の重要な特性を完全に理解するために、生体試料を分析することができ、これは、目的のタンパク質又はペプチドの高感度かつ特異的な特徴付け及び定量化に対する複雑性及び課題の増加を提示する。
【0022】
エレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI MS)ベースのインタクトなタンパク質分析は、開発中の治療用タンパク質の特徴付けに不可欠なツールとなっている。最も一般的には、MSは、変性条件下で逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)と結合されている。しかしながら、本方法の感度、及び結果として得られる広範囲の分析物の電荷状態を有する複雑な試料によって生成されるシグナル対ノイズ比には限界があり、低存在量の抗体の正確な定量化には信頼性が低くなる可能性がある。
【0023】
最近、ESI MSにオンラインで結合されたネイティブイオン交換クロマトグラフィーを含むLC-MSシステムが記載されている(Yan et al.,2020,J Am Soc Mass Spectrom,31:2171-2179)。ネイティブ強陽イオン交換クロマトグラフィー(SCX)-MSの使用は、従来の変性RPLC-MSと比較して、治療用抗体の分析に多くの利点を提供する。ネイティブSCX-MSは、RPLCと比較して、高い感度及び広いダイナミックレンジ、及び、例えば、血清試料中の血清タンパク質などのマトリックスから標的分析物を分離する優れた能力を実証し得る。ネイティブSCX-MSプロファイルはまた、優れたMS空間分解能を特徴とし得、タンパク質バリアント又は生体内変換生成物の検出が容易になる。
【0024】
上記のように、試料中の治療用タンパク質及びペプチド、例えば、治療用抗体を特徴付け及び定量化するための高感度の方法に対する必要性が存在する。本開示は、治療用抗体の開発に好適な、抗体を特徴付けるための新規のネイティブSCX-MS方法を説明する。
【0025】
別段記載されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書中に記載されるものと類似又は等価な任意の方法及び材料が、実施又は試験において使用され得るが、特定の方法及び材料がここで記載される。
【0026】
「a」という用語は、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきであり、「約」及び「およそ」という用語は、当業者によって理解されるように標準的な変動を可能にすると理解されるべきであり、範囲が提供される場合、端点が含まれる。本明細書で使用される場合、それぞれ、「含む(include)」、「含む(includes)」、及び「含む(including)」という用語は、非限定的であることを意味し、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含む(comprising)」を意味すると理解される。
【0027】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」又は「目的のタンパク質」という用語は、共有結合したアミド結合を有する任意のアミノ酸ポリマーを含み得る。タンパク質は、当技術分野で概して「ポリペプチド」として知られている1つ以上のアミノ酸ポリマー鎖を含む。「ポリペプチド」とは、ペプチド結合を介して連結された、アミノ酸残基、関連する天然に存在する構造バリアント、及びその合成の天然に存在しない類似体から構成されるポリマーを指す。「合成ペプチド又はポリペプチド」は、天然に存在しないペプチド又はポリペプチドを指す。合成ペプチド又はポリペプチドは、例えば、自動ポリペプチド合成装置を使用して合成することができる。様々な固相ペプチド合成法が当業者に知られている。タンパク質は、単一の機能性生体分子を形成するために1つ又は複数のポリペプチドを含み得る。別の例示的な態様では、タンパク質は、抗体断片、ナノボディ、組換え抗体キメラ、サイトカイン、ケモカイン、ペプチドホルモンなどを含むことができる。目的のタンパク質は、生物学的治療用タンパク質、研究又は治療において使用される組換えタンパク質、捕捉タンパク質及び他のキメラ受容体Fc融合タンパク質、キメラタンパク質、抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、並びに二重特異性抗体のいずれかを含むことができる。タンパク質は、昆虫バキュロウイルス系、酵母系(例えば、ピチア属(Pichia)の種)、及び哺乳動物系(例えば、CHO細胞及びCHO-K1細胞のようなCHO誘導体)のような、組換え細胞ベースの産生系を使用して産生され得る。生物学的治療用タンパク質及びそれらの産生を考察する最近の総説については、Ghaderi et al.,“Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation”(Darius Ghaderi et al.,Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation,28 BIOTECHNOLOGY AND GENETIC ENGINEERING REVIEWS 147-176(2012)、その教示全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。一部の例示的な実施形態では、タンパク質は、修飾、付加物、及び他の共有結合部分を含む。これらの修飾、付加物及び部分としては、例えば、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、グリカン(例えば、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、ノイラミン酸、N-アセチルグルコサミン、フコース、マンノース、及び他の単糖)、PEG、ポリヒスチジン、FLAGtag、マルトース結合タンパク質(MBP)、キチン結合タンパク質(CBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)myc-エピトープ、蛍光標識及び他の色素などが挙げられる。タンパク質は、組成及び溶解度に基づいて分類することができ、したがって、球状タンパク質及び繊維状タンパク質などの単純タンパク質と、核タンパク質、糖タンパク質、ムコタンパク質、色素タンパク質、リンタンパク質、金属タンパク質、及びリポタンパク質などのコンジュゲートされたタンパク質と、一次由来タンパク質及び二次由来タンパク質などの由来タンパク質とを含むことができる。
【0028】
一部の例示的な実施形態では、目的のタンパク質は、組換えタンパク質、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、融合タンパク質、scFv及びそれらの組み合わせであり得る。
【0029】
本明細書で使用される場合、「組換えタンパク質」という用語は、好適な宿主細胞に導入されている組換え発現ベクターに担持される遺伝子の転写及び翻訳の結果として産生されたタンパク質を指す。特定の例示的な実施形態では、組換えタンパク質は、抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、又は完全ヒト抗体であり得る。特定の例示的な実施形態では、組換えタンパク質は、IgG、IgM、IgA1、IgA2、IgD、又はIgEからなる群から選択されるアイソタイプの抗体であり得る。特定の例示的な実施形態では、抗体分子は、全長抗体(例えば、IgG1)であるか、又は代替的に、抗体は、断片(例えば、Fc断片又はFab断片)であり得る。
【0030】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互接続された4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子、並びにその多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVR又はVHと略す)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2及びCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVR又はVLと略す)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存された領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域に更に細分することができる。各VH及びVLは、アミノ末端からカルボキシ末端へ以下の順序で配置された、3つのCDR及び4つのFRで構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4。本発明の異なる実施形態では、抗big-ET-1抗体(又はその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であり得、又は天然若しくは人工的に修飾され得る。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義され得る。本明細書で使用される「抗体」という用語はまた、完全抗体分子の抗原結合断片も含む。抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」などの用語は、本明細書で使用される場合、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然に存在する、酵素的に得ることができる、合成の、又は遺伝子操作されたポリペプチド又は糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合断片は、例えば、タンパク質分解消化又は抗体可変ドメイン及び任意選択的に定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を含む組換え遺伝子操作技術などの任意の好適な標準技術を使用して、完全抗体分子から得ることができる。かかるDNAは既知であり、かつ/又は、例えば、商業的供給源、DNAライブラリ(例えば、ファージ-抗体ライブラリを含む)から容易に入手可能であり、又は合成することができる。DNAを配列決定し、化学的に又は分子生物学技術を使用することによって操作して、例えば、1つ以上の可変及び/若しくは定常ドメインを好適な立体配置に配置するか、又はコドンを導入する、システイン残基を作製する、アミノ酸を修飾する、付加する、若しくは欠失させることなどができる。
【0031】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」は、例えば、抗体の抗原結合領域又は可変領域などの、インタクトな抗体の一部分を含む。抗体断片の例としては、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2(又は「Fab」)断片、scFv断片、Fv断片、dsFvダイアボディ、dAb断片、Fd’断片、Fd断片、及び単離された相補性決定領域(CDR)領域、並びにトリアボディ、テトラボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子、及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。Fv断片は、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域の組み合わせであり、ScFvタンパク質は、免疫グロブリンの軽鎖と重鎖の可変領域がペプチドリンカーによって接続される組換え一本鎖ポリペプチド分子である。一部の例示的な実施形態では、抗体断片は、親抗体と同じ抗原に結合する断片である親抗体の十分なアミノ酸配列を含み、一部の例示的な実施形態では、断片は、親抗体の親和性に匹敵する親和性で抗原に結合し、かつ/又は抗原への結合について親抗体と競合する。抗体断片は、任意の手段によって産生され得る。例えば、抗体断片は、インタクトな抗体の断片化によって酵素的若しくは化学的に産生されてもよく、かつ/又は部分的な抗体配列をコードする遺伝子から組換えによって産生されてもよい。一部の例示的な実施形態では、抗体断片は、消化酵素IdeS又はそのバリアントによる消化によって産生され得る。代替的に、又は追加的に、抗体断片は、全体又は部分的に合成的に産生され得る。抗体断片は、任意選択的に、単鎖抗体断片を含み得る。代替的に、又は追加的に、抗体断片は、例えば、ジスルフィド結合によって一緒に連結される複数の鎖を含み得る。抗体断片は、任意選択的に、多分子複合体を含み得る。機能的抗体断片は、典型的には、少なくとも約50個のアミノ酸を含み、より典型的には、少なくとも約200個のアミノ酸を含む。
【0032】
「二重特異性抗体」という用語は、2つ以上のエピトープに選択的に結合することができる抗体を含む。二重特異性抗体は、概して、2つの異なる重鎖を含み、各重鎖は、2つの異なる分子(例えば、抗原)上又は同じ分子上(例えば、同じ抗原上)のいずれかの異なるエピトープに特異的に結合する。二重特異性抗体が2つの異なるエピトープ(第1のエピトープ及び第2のエピトープ)に選択的に結合することができる場合、第1のエピトープに対する第1の重鎖の親和性は、概して、第2のエピトープに対する第1の重鎖の親和性よりも少なくとも1~2桁又は3桁又は4桁低く、逆もまた同様である。二重特異性抗体によって認識されるエピトープは、同じ又は異なる標的上(例えば、同じ又は異なるタンパク質上)に存在し得る。二重特異性抗体は、例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖を組み合わせることによって作製することができる。例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖可変配列をコードする核酸配列は、異なる重鎖定常領域をコードする核酸配列に融合され得、かかる配列は、免疫グロブリン軽鎖を発現する細胞において発現され得る。
【0033】
典型的な二重特異性抗体は、各々3つの重鎖CDR、次いでCH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン及びCH3ドメインを持つ2つの重鎖と、抗原結合特異性を与えないが各重鎖と会合することができる、又は各重鎖と会合することができ、重鎖抗原結合領域によって結合される1つ以上のエピトープと結合することができる、又は各重鎖に会合することができ、1つ若しくは両方の重鎖を1つ若しくは両方のエピトープに結合させることができる、免疫グロブリン軽鎖とを有する。bsAbは、Fc領域を有するもの(IgG様)及びFc領域を欠くものの2つの主要なクラスに分けることができ、後者は通常、Fcを含むIgG及びIgG様二重特異性分子よりも小さい。IgG様bsAbは、トリオマブ、ノブイントゥホールIgG(kih IgG)、crossMab、orth-Fab IgG、二重可変ドメインIg(DVD-Ig)、ツーインワン若しくはデュアルアクションFab(DAF)、IgG-一本鎖Fv(IgG-scFv)、又はκλボディなどであるがこれらに限定されない、異なる形式を有し得る。非IgG様の異なるフォーマットは、タンデムscFv、ダイアボディフォーマット、一本鎖ダイアボディ、タンデムダイアボディ(TandAb)、二重アフィニティーリターゲティング分子(DART)、DART-Fc、ナノボディ、又はドック・アンド・ロック(DNL)法によって産生される抗体を含む(Gaowei Fan,Zujian Wang & Mingju Hao,Bispecific antibodies and their applications,8 JOURNAL OF HEMATOLOGY & ONCOLOGY 130;Dafne Muller & Roland E.Kontermann,Bispecific Antibodies,HANDBOOK OF THERAPEUTIC ANTIBODIES 265-310(2014)、その教示全体が本明細書に組み込まれる)。bsAbを産生する方法は、2つの異なるハイブリドーマ細胞株の体細胞融合に基づくクアドローマ技術、化学的架橋剤を含む化学的結合、及び組換えDNA技術を利用する遺伝学的アプローチに限定されない。bsAbの例としては、参照により本明細書に組み込まれる、以下の特許出願、すなわち2010年6月25日に出願された米国特許出願第12/823838号、2012年6月5日に出願された米国特許出願第13/488628号、2013年9月19日に出願された米国特許出願第14/031075号、2015年7月24日に出願された米国特許出願第14/808171号、2017年9月22日に出願された米国特許出願第15/713574号、2017年9月22日に出願された米国特許出願第15/713569号、2016年12月21日に出願された米国特許出願第15/386453号、2016年12月21日に出願された米国特許出願第15/386443号、2016年7月29日に出願された米国特許出願第15/22343号、及び2017年11月15日に出願された米国特許出願第15814095号に開示されているものが挙げられる。
【0034】
本明細書で使用される場合、「多重特異性抗体」は、少なくとも2つの異なる抗原に対する結合特異性を有する抗体を指す。かかる分子は、通常、2つの抗原のみに結合する(すなわち、二重特異性抗体、bsAb)が、三重特異性抗体及びKIH三重特異性などの更なる特異性を有する抗体もまた、本明細書に開示されるシステム及び方法によって対処することができる。
【0035】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、ハイブリドーマ技術によって産生される抗体に限定されない。モノクローナル抗体は、当技術分野において利用可能な又は既知の任意の手段によって、任意の真核生物、原核生物、又はファージクローンを含む単一のクローンから得ることができる。本開示で有用なモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、及びファージディスプレイ技術、又はそれらの組み合わせの使用を含む、当技術分野で既知の多種多様な技術を使用して調製することができる。
【0036】
一部の例示的な実施形態では、目的のタンパク質は、哺乳動物細胞から産生され得る。哺乳動物細胞は、ヒト起源又は非ヒト起源であり得、初代上皮細胞(例えば、ケラチノサイト、子宮頸部上皮細胞、気管支上皮細胞、気管上皮細胞、腎臓上皮細胞及び網膜上皮細胞)、樹立細胞株及びそれらの株(例えば、293胎児腎細胞、BHK細胞、HeLa子宮頸部上皮細胞及びPER-C6網膜細胞、MDBK(NBL-1)細胞、911細胞、CRFK細胞、MDCK細胞、CHO細胞、BeWo細胞、Chang細胞、Detroit562細胞、HeLa229細胞、HeLa S3細胞、Hep-2細胞、KB細胞、LSI80細胞、LS174T細胞、NCI-H-548細胞、RPMI2650細胞、SW-13細胞、T24細胞、WI-28VA13、2RA細胞、WISH細胞、BS-C-I細胞、LLC-MK2細胞、クローンM-3細胞、1-10細胞、RAG細胞、TCMK-1細胞、Y-l細胞、LLC-PKi細胞、PK(15)細胞、GHi細胞、GH3細胞、L2細胞、LLC-RC256細胞、MHiCi細胞、XC細胞、MDOK細胞、VSW細胞、及びTH-I、B1細胞、BSC-1細胞、RAf細胞、RK-細胞、PK-15細胞又はその誘導体)、任意の組織又は器官(心臓、肝臓、腎臓、結腸、腸、食道、胃、神経組織(脳、脊髄)、肺、血管組織(動脈、静脈、毛細血管)、リンパ組織(リンパ腺、アデノイド、扁桃、骨髄、及び血液)、脾臓を含むが、これらに限定されない)由来の線維芽細胞、並びに線維芽細胞及び線維芽細胞様細胞株(例えば、CHO細胞、TRG-2細胞、IMR-33細胞、Don細胞、GHK-21細胞、シトルリン血症細胞、Dempsey細胞、Detroit551細胞、Detroit510細胞、Detroit525細胞、Detroit529細胞、Detroit532細胞、Detroit539細胞、Detroit548細胞、Detroit573細胞、HEL299細胞、IMR-90細胞、MRC-5細胞、WI-38細胞、WI-26細胞、ミディ細胞、CHO細胞、CV-1細胞、COS-1細胞、COS-3細胞、COS-7細胞、Vero細胞、DBS-FrhL-2細胞、BALB/3T3細胞、F9細胞、SV-T2細胞、M-MSV-BALB/3T3細胞、K-BALB細胞、BLO-11細胞、NOR-10細胞、C3H/IOTI/2細胞、HSDMiC3細胞、KLN205細胞、McCoy細胞、マウスL細胞、株2071(マウスL)細胞、L-M株(マウスL)細胞、L-MTK’(マウスL)細胞、NCTCクローン2472及び2555、SCC-PSA1細胞、Swiss/3T3細胞、ホエジカ細胞、SIRC細胞、Cn細胞、及びジェンセン細胞、Sp2/0、NS0、NS1細胞又はその誘導体)を含み得る。
【0037】
本明細書で使用される場合、「試料」は、細胞培養流体(CCF)、採取された細胞培養流体(HCCF)、下流処理における任意のステップ、原薬(DS)、又は最終製剤化製品を含む医薬品(DP)などのバイオプロセスの任意のステップから得ることができる。一部の他の特定の例示的な実施形態では、試料は、清澄化、クロマトグラフィー生成、ウイルス不活性化、又は濾過の下流プロセスの任意のステップから選択され得る。一部の特定の例示的な実施形態では、医薬品は、診療所、出荷、保管、又は取り扱い時に、既製の医薬品から選択することができる。
【0038】
試料はまた、治療用ペプチド又はタンパク質の投与の前及び/又は後に対象から採取され得、その場合、それは、「生体試料」又は「PK試料」であり得る。生体試料は、例えば、組織試料、血液試料、血清試料、唾液試料、又は尿試料であってもよい。例示的な実施形態では、投与後の目的のタンパク質を特徴付け及び/又は定量化するために、対象から血清試料が採取される。一部の例示的な実施形態では、生体試料は、マウスから採取される。
【0039】
本明細書で使用される場合、「不純物」という用語は、タンパク質バイオ医薬品に存在するあらゆる望ましくないタンパク質を挙げることができる。不純物には、プロセス及び生成物関連不純物が含まれ得る。不純物は更に、既知の構造を有するか、部分的に特徴付けられるか、又は未特定であり得る。プロセス関連不純物は、製造プロセスから誘導することができ、3つの主要なカテゴリー:細胞基材由来、細胞培養由来、及び下流由来を含むことができる。細胞基材由来の不純物は、宿主生物由来のタンパク質、及び核酸(宿主細胞のゲノム、ベクター、又は全DNA)を含むが、これらに限定されない。細胞培養由来の不純物は、誘導物質、抗生物質、血清、及び他の培地成分を含むが、これらに限定されない。下流由来不純物としては、酵素、化学的及び生化学的処理試薬(例えば、臭化シアン、グアニジン、酸化剤及び還元剤)、無機塩(例えば、重金属、ヒ素、非金属イオン)、溶媒、担体、リガンド(例えば、モノクローナル抗体)、並びに他の浸出性物が挙げられるが、これらに限定されない。生成物関連不純物(例えば、前駆体、特定の分解生成物)は、活性、有効性、及び安全性に関して所望の生成物のものと同等の特性を有しない、製造及び/又は保存中に生じる分子バリアントであり得る。そのようなバリアントは、修飾のタイプを特定するために、単離及び特徴付けにおけるかなりの努力を必要とし得る。生成物関連不純物には、切断形態、修飾形態、及び凝集体が含まれ得る。切断形態は、ペプチド結合の切断を触媒する加水分解酵素又は化学物質によって形成される。修飾形態としては、脱アミド化、異性化、ミスマッチS-S連結、酸化、又は改変共役形態(例えば、グリコシル化、リン酸化)が挙げられるが、これらに限定されない。修飾形態はまた、任意の翻訳後修飾形態を含み得る。凝集体には、所望の生成物の二量体及びより高い倍数体が含まれる。(Q6B Specifications:Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products,ICH August 1999,U.S.Dept.of Health and Humans Services)。
【0040】
本明細書で使用される場合、「翻訳後修飾」又は「PTM」という一般的な用語は、ポリペプチドがリボソーム合成中(翻訳時修飾)又はその後(翻訳後修飾)のいずれかで受ける共有結合修飾を指す。PTMは概して、特定の酵素又は酵素経路によって導入される。多くは、タンパク質骨格内の特定の特徴的なタンパク質配列(シグネチャー配列)の部位で起こる。数百のPTMが記録されており、これらの修飾は、タンパク質の構造又は機能の何らかの側面に常に影響を及ぼす(Walsh,G.“Proteins”(2014)second edition,published by Wiley and Sons,Ltd.,ISBN:9780470669853)。様々な翻訳後修飾としては、切断、N末端伸長、タンパク質分解、N末端のアシル化、ビオチン化(ビオチンによるリジン残基のアシル化)、C末端のアミド化、グリコシル化、ヨウ素化、補欠分子族の共有結合、アセチル化(通常、タンパク質のN末端でのアセチル基の付加)、アルキル化(通常、リジン又はアルギニン残基でのアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル)の付加)、メチル化、アデニル化、ADP-リボシル化、ポリペプチド鎖内又はポリペプチド鎖間の共有結合架橋、スルホン化、プレニル化、ビタミンC依存性修飾(プロリン及びリジンのヒドロキシル化並びにカルボキシ末端のアミド化)、ビタミンK依存性修飾(ビタミンKは、γ-カルボキシグルタメート(グルタミン酸残基)の形成をもたらすグルタミン酸残基のカルボキシル化における補因子である)、グルタミル化(グルタミン酸残基の共有結合)、グリシル化(共有結合グリシン残基)、グリコシル化(アスパラギン、ヒドロキシリシン、セリン、又はスレオニンのいずれかにグリコシル基を付加し、糖タンパク質をもたらす)、イソプレニル化(ファルネソール及びゲラニルゲラニオールなどのイソプレノイド基の付加)、リポイル化(リポ酸官能基の付加)、ホスホパンテテイニル化(脂肪酸、ポリケチド、非リボソームペプチド、及びロイシンの生合成などにおけるコエンザイムAからの4’-ホスホパンテテイニル部分の付加)、リン酸化(通常はセリン、チロシン、スレオニン、又はヒスチジンへのリン酸基の付加)、及び硫酸化(通常はチロシン残基への硫酸基の付加)が挙げられるが、これらに限定されない。アミノ酸の化学的性質を変化させる翻訳後修飾としては、シトルリン化(脱イミノ化によるアルギニンからシトルリンへの変換)、及び脱アミド化(グルタミンからグルタミン酸への又はアスパラギンからアスパラギン酸への変換)が挙げられるが、これらに限定されない。構造変化を伴う翻訳後修飾としては、ジスルフィド架橋の形成(2つのシステインアミノ酸の共有結合)及びタンパク質切断(ペプチド結合でのタンパク質の切断)が挙げられるが、これらに限定されない。特定の翻訳後修飾は、ISG化(ISG15タンパク質(インターフェロン活性化遺伝子)への共有結合)、SUMO化(SUMOタンパク質(低分子ユビキチン関連修飾因子)への共有結合)、及びユビキチン化(タンパク質へのユビキチンの共有結合)などの他のタンパク質又はペプチドの付加を伴う。UniProtによって精選されたPTMのより詳細な統制語彙については、欧州バイオインフォマティクス研究所タンパク質情報リソース、SIBスイスバイオインフォマティクス研究所、欧州バイオインフォマティクス研究所Drs-ドロソマイシン前駆体-Drosophila melanogaster(ショウジョウバエ)-Drs遺伝子及びタンパク質、http://www.uniprot.org/docs/ptmlist(最終訪問日:2019年1月15日)を参照されたい。
【0041】
治療用ペプチド又はタンパク質の翻訳後修飾、電荷バリアント、又はサイズバリアントは、治療用ペプチド又はタンパク質の産生、製造、保管、送達、又は投与中の任意の時点で生じ得る。ペプチド又はタンパク質に対する追加の修飾は、「生体内変換」と称されるプロセスにおいて、対象に投与された後にインビボで生じ得る。生体内変換生成物は、投与前治療薬と比較して、修飾された特性を有し得る。生体内変換は、しばしば治療薬のサイズの縮小をもたらすため、より小さい分析物に対してより高い感度を有する検出方法が好まれる場合がある。一部の例示的な実施形態では、本発明の方法は、目的のタンパク質の生体内変換生成物に対する感度の高さを特徴とする。
【0042】
一部の例示的な実施形態では、目的のタンパク質を特徴付け及び/又は定量化するための方法は、任意選択的に、免疫沈降(IP)を使用して試料マトリックス中の目的のタンパク質を富化することを含み得る。本明細書で使用される場合、「免疫沈殿」という用語は、その特定のタンパク質に特異的に結合する抗体を使用して、タンパク質抗原を溶液から沈殿させるプロセスを含み得る。免疫沈降は、標的タンパク質の抗体が固相基体上に固定化される直接的なものであってもよく、又は遊離抗体がタンパク質混合物に添加され、その後、例えば、タンパク質A/Gビーズで捕捉される間接的なものであってもよい。
【0043】
一部の例示的な実施形態では、固相基体は、ビーズ、例えば、アガロースビーズ又は磁気ビーズであってもよい。抗体への接着を容易にするために、ビーズをストレプトアビジンでコーティングしてもよい。次いで、ビオチン化「捕捉」抗体をストレプトアビジンでコーティングされたビーズに接触させ、ビーズに接着させ、接着した抗体の抗原に結合することができる「免疫沈降ビーズ」を形成させてもよい。一部の例示的な実施形態では、接着した捕捉抗体は、抗Fc抗体であってもよく、具体的には、抗ヒトFc抗体であり得る。
【0044】
抗ヒトFc抗体は、例えば、治療用抗体などの任意のヒト抗体のFcドメインに優先的に結合し、したがって、試料から治療用抗体を免疫沈降又は「プルダウン」するために使用することができ、分析のために濃縮することを可能にする。治療用抗体の免疫沈降後、消化酵素を免疫沈降混合物に接触させて、治療用抗体を切断し、抗体断片を放出させ、これは次いで、更なる分析のために溶出され得る。例示的な実施形態では、IdeS又はそのバリアントは、消化酵素として使用される。IdeS切断は、Fc断片及びFab断片の2つの抗体断片を産生する。治療用抗体のFcドメインが抗ヒトFc捕捉抗体に結合する場合、IdeSによる切断は、非結合Fab断片の放出をもたらし、次いで、更なる分析のために溶出することができる。例示的な実施形態では、溶出されたFab断片は、液体クロマトグラフィー-質量分析法分析、特にネイティブSCX-MSに供される。
【0045】
本明細書で使用される場合、「消化」という用語とは、タンパク質の1つ以上のペプチド結合の加水分解を指す。適切な加水分解剤を使用して試料中のタンパク質の消化を行うための複数のアプローチ(例えば、酵素的消化又は非酵素的消化)が存在する。
【0046】
本明細書で使用される場合、「消化酵素」という用語は、タンパク質の消化を行うことができる多数の異なる薬剤のいずれかを指す。酵素消化を行うことができる加水分解剤の非限定的な例としては、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus Saitoi)由来のプロテアーゼ、エラスターゼ、サブチリシン、プロテアーゼXIII、ペプシン、トリプシン、Tryp-N、キモトリプシン、アスペルギロペプシンI、LysNプロテアーゼ(Lys-N)、LysCエンドプロテイナーゼ(Lys-C)、エンドプロテイナーゼAsp-N(Asp-N)、エンドプロテイナーゼArg-C(Arg-C)、エンドプロテイナーゼGlu-C(Glu-C)若しくは外膜タンパク質T(OmpT)、ストレプトコッカスピオゲネスの免疫グロブリン分解酵素(IdeS)、サーモリシン、パパイン、プロナーゼ、V8プロテアーゼ又はそれらの生物学的に活性な断片若しくはホモログ又はそれらの組み合わせが挙げられる。タンパク消化のための利用可能な技術を考察する最近の総説については、Switazar et al.,“Protein Digestion:An Overview of the Available Techniques and Recent Developments”(Linda Switzar,Martin Giera&Wilfried M.A.Niessen,Protein Digestion:An Overview of the Available Techniques and Recent Developments,12 JOURNAL OF PROTEOME RESEARCH 1067-1077(2013))を参照されたい。
【0047】
一部の例示的な実施形態では、IdeS又はそのバリアントは、ヒンジ領域の下で抗体を切断し、Fc断片及びFab断片を産生するために使用される。サイズの減少は、LC-MSを使用する分析物の特徴付け及び検出の感度及び特異性を向上させる可能性があるため、分析物の消化は有利である可能性がある。この目的のために使用される場合、Fc断片を分離し、分析のためにFab断片を保持する消化が好ましい場合がある。これは、抗体の相補性決定領域(CDR)などの目的の可変領域がFab断片に含まれているが、Fc断片は抗体間で比較的均一であり得るため、関連性の低い情報が提供される可能性があるためである。加えて、IdeS消化は効率が高く、分析物の高い回収率を可能にする。消化プロセス及び溶出プロセスは、ネイティブLC-MSシステムへの単純な結合を可能にするネイティブ条件下で行われ得る。
【0048】
IdeS又はそのバリアントは、市販されており、例えば、FabRICATOR(登録商標)又はFabRICATOR Z(登録商標)として市販され得る。
【0049】
本明細書で使用される場合、「液体クロマトグラフィー」という用語は、液体によって運ばれる生物学的/化学的混合物が、静止した液相又は固相を通って流れる(又は流れ込む)際の成分の分布の差の結果として、成分に分離することができるプロセスを指す。液体クロマトグラフィーの非限定的例は、逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー、又は混合モードクロマトグラフィーを含む。
【0050】
一部の例示的な実施形態では、目的のタンパク質を特徴付け及び/又は定量化するための方法は、強陽イオン交換(SCX)クロマトグラフィーの使用を含むことができる。陽イオン交換クロマトグラフィーは、正に荷電した分析物を捕捉するために、負に荷電した官能基を提示する固定相を使用するイオン交換クロマトグラフィーのサブセットである。分析物をpIの順で放出及び溶出するために、クロマトグラフィー緩衝液のpHを徐々に調整することができる。
【0051】
陽イオン交換クロマトグラフィーは、「陽イオン交換クロマトグラフィー材料」を使用する。陽イオン交換クロマトグラフィーは、使用される陽イオン交換クロマトグラフィー材料に応じて、例えば、強陽イオン交換(SCX)又は弱陽イオン交換に更に細分することができる。スルホン酸基(S)を有する陽イオン交換クロマトグラフィー材料は、強陽イオン交換体に使用されてもよく、一方、カルボキシメチル基(CM)を有する陽イオン交換クロマトグラフィー材料は、弱陽イオン交換体に使用されてもよい。強陽イオン交換体としては、例えば、硫酸メチルの官能基を使用するSOURCE S、及びスルホプロピルの官能基を使用するSPセファロースが挙げられる。弱陽イオン交換体としては、例えば、カルボキシメチルの官能基を使用するCMセルロースが挙げられる。SCXは、強陽イオン交換体の電荷を失うことなく、より広範囲のpH緩衝液が使用することができ、広いpI範囲を有する分析物の効果的な分離を可能になるため、好ましい場合がある。
【0052】
陽イオン交換クロマトグラフィー材料は、Bio-Rex、Macro-Prep CM(BioRad Laboratories,Hercules、Calif.,USAから入手可能)、弱陽イオン交換体WCX2(Ciphergen、Fremont,Calif.,USAから入手可能)、Dowex MAC-3(Dow化学企業、Midland,Mich.,USAから入手可能)、Mustang C(Pall Corporation、East Hills,N.Y.,USAから入手可能)、セルロースCM-23、CM-32、CM-52、hyper-D、及びpartisphere(Whatman plc、Brentford,UKから入手可能)、Amberlite IRC76、IRC747、IRC748、GT73(Tosoh Bioscience GmbH、Stuttgart,Germanyから入手可能)、CM1500、CM3000(BioChrom Labs、Terre Haute,Ind.、USAから入手可能)、並びにCM-Sepharose Fast Flow(GE Healthcare、Life Sciences、Germanyから入手可能)などの異なる名前で、多くの会社から入手可能である。加えて、市販の陽イオン交換樹脂としては、カルボキシメチルセルロース、Bakerbond ABX、アガロースに固定化されたスルホプロピル(SP)(例えば、GE Healthcare-Amersham Biosciences Europe GmbH、Freiburg,Germanyから入手可能なSP-Sepharose Fast Flow又はSP-Sepharose High Performance、)及びアガロース上に固定化されたスルホニル(例えば、GE Healthcare、Life Sciences、Germanyから入手可能なS-Sepharose Fast Flow)が更に挙げられる。
【0053】
陽イオン交換クロマトグラフィー材料には、イオン交換及び疎水性相互作用技術の組み合わせを行う混合モードクロマトグラフィー材料(例えば、Capto adhere、Capto MMC、MEP HyperCell、Eshmuno HCXなど)、陰イオン交換及び陽イオン交換技術の組み合わせを行う混合モードクロマトグラフィー材料(例えば、ヒドロキシアパタイト、セラミックヒドロキシアパタイトなど)などが含まれる。本発明における陽イオン交換クロマトグラフィーに使用され得る陽イオン交換クロマトグラフィー材料としては、上に記載される全ての市販の陽イオン交換クロマトグラフィー材料が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
変性RPLC-MSは、治療用タンパク質の特徴付けにおける従来の技術であるが、ネイティブSCX-MSは、本明細書に記載されるような分析上の利点を提供することができる。例えば、ネイティブSCX-MSは、検出の改善された感度及び特異性を提供することができる。RPLC及びSCXの検出限界が同等である場合、SCXは、優れたデータ品質及びより高いシグナル対ノイズ比を提供することができる。SCXは、標的分析物をマトリックスタンパク質(例えば、血清試料中の血清タンパク質)から分離する改善された能力を有し得、加えて、目的のタンパク質の生体内変換生成物を分離する改善された能力を有し得る。したがって、本発明の方法の好ましいクロマトグラフィーは、ネイティブSCXであり、本明細書において、ネイティブSCXを使用して目的のタンパク質を特徴付け及び/又は定量化する新規の方法が開示される。
【0055】
本明細書で使用される場合、「質量分析計」という用語は、特定の分子種を認識し、その正確な質量を測定することができるデバイスを含む。この用語は、ポリペプチド又はペプチドが特徴付けられ得る任意の分子検出器を含むことを意味する。質量分析計は、3つの主要部分、すなわち、イオン源、質量分析器、及び検出器を含むことができる。イオン源の役割は、気相イオンを生成することである。分析物原子、分子、又はクラスタは、気相に移行され、同時に(エレクトロスプレーイオン化におけるように)、又は別個のプロセスを通してイオン化されることができる。イオン源の選択は用途に依存する。一部の例示的な実施形態では、質量分析計は、タンデム質量分析計であり得る。本明細書で使用される場合、「タンデム質量分析法」という用語は、試料分子についての構造情報が、質量選択及び質量分離の複数の段階を使用することによって得られる技術を含む。必要条件は、第1の質量選択ステップの後に断片が予測可能かつ制御可能な方式で形成されるように、試料分子が気相に変換され、イオン化されることである。多段階MS/MS、又はMSは、意味のある情報を得ることができるか、又は断片イオンシグナルが検出可能である限り、最初に前駆体イオン(MS)を選択及び単離すること、それを断片化すること、一次断片イオン(MS)を単離すること、それを断片化すること、二次断片(MS)を単離することなどによって行われ得る。タンデムMSは、広範な分析器の組み合わせを用いて正常に行われている。特定の用途のためにどの分析器を組み合わせるかは、感度、選択性、及び速度だけでなく、サイズ、コスト、及び利用可能性などの多くの異なる要因によって決定することができる。タンデムMS法の2つの主要なカテゴリーは、タンデムインスペース及びタンデムインタイムであるが、タンデムインタイム分析器がスペース内で又はタンデムインスペース分析器と連結されるハイブリッドも存在する。タンデムインスペース質量分析計は、イオン源と、前駆体イオン活性化デバイスと、少なくとも2つの非捕捉質量分析器とを備える。特定のm/z分離関数は、機器の1つのセクションにおいてイオンが選択され、中間領域において解離され、次いで、産生イオンがm/z分離及びデータ取得のために別の分析器に送られるように設計され得る。時間的に相前後して、イオン源で産生された質量分析計イオンは、同じ物理的デバイスで捕捉、単離、断片化、及びm/z分離することができる。質量分析計によって特定されたペプチドは、インタクトなタンパク質及びそれらの翻訳後修飾の代理代表として使用され得る。それらは、実験的及び理論的MS/MSデータを相関させることによって、タンパク質特徴付けのために使用することができ、後者は、タンパク質配列データベース内の可能なペプチドから生成される。特徴付けとしては、限定されるものではないが、タンパク質断片のアミノ酸の配列決定、タンパク質配列決定の決定、タンパク質デノボ配列決定の決定、翻訳後修飾の位置決定、又は翻訳後修飾の特定、又は比較可能性分析、あるいはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0056】
一部の例示的な態様では、質量分析計は、ナノエレクトロスプレー又はナノスプレーを使用して動作することができる。
【0057】
本明細書で使用される「ナノエレクトロスプレー」又は「ナノスプレー」という用語は、多くの場合、外部溶媒送達を使用しない、非常に低い溶媒流量、典型的には、数百ナノリットル/分以下の試料溶液におけるエレクトロスプレーイオン化を指す。ナノエレクトロスプレーを形成するエレクトロスプレー注入セットアップは、静的ナノエレクトロスプレーエミッタ又は動的ナノエレクトロスプレーエミッタを使用することができる。静的ナノエレクトロスプレーエミッタは、長期間にわたって少量の試料(分析物)溶液の連続分析を行う。動的ナノエレクトロスプレーエミッタは、キャピラリーカラム及び溶媒送達システムを使用して、質量分析計による分析の前に混合物に対してクロマトグラフィー分離を行う。
【0058】
一部の例示的な実施形態では、SCX-MSは、ネイティブ条件下で行われ得る。
【0059】
本明細書で使用される場合、「ネイティブ条件」という用語は、分析物中の非共有結合性相互作用を保存する条件下で質量分析法を行うことを含み得る。ネイティブ質量分析法は、ネイティブ又はほぼネイティブの状態のインタクトな生体分子の構造を研究するためのアプローチである。「ネイティブ」という用語は、イオン化を受ける前の溶液中の分析物の生物学的状態を指す。生物学的分析物を含む溶液のpH及びイオン強度などのいくつかのパラメータは、溶液中の生物学的分析物のネイティブのフォールディング状態を維持するように制御することができる。一般に、ネイティブ質量分析法は、エレクトロスプレーイオン化に基づいており、生物学的分析物は、非変性溶媒からスプレーされる。非共有、ネイティブスプレー、エレクトロスプレーイオン化、非変性、巨大分子、又は超分子質量分析などの他の用語は、ネイティブ質量分析法を記述することによっても使用することができる。例示的な実施形態では、ネイティブMSは、非ネイティブMSと比較してより良い空間分解能を可能にし、治療用タンパク質の生体内変換生成物の検出を改善する。ネイティブMSについての詳細な総説については、総説Elisabetta Boeri Erba&Carlo Pe-tosa,The emerging role of native mass spectrometry in characterizing the structure and dynamics of macromolecular complexes,24 PROTEIN SCIENCE1176-1192(2015)を参照されたい。
【0060】
一部の例示的な実施形態では、SCX-MSは、ネイティブ条件下で行われ得る。目的のペプチド又はタンパク質は、例えば、アルキル化、還元、変性、及び/又は消化によって調製され得る。
【0061】
本明細書で使用される場合、「タンパク質アルキル化剤」という用語とは、タンパク質中の特定の遊離アミノ酸残基をアルキル化するために使用される薬剤を指す。タンパク質アルキル化剤の非限定的な例は、ヨードアセトアミド(IOA)、クロロアセトアミド(CAA)、アクリルアミド(AA)、N-エチルマレイミド(NEM)、メタンチオスルホン酸メチル(MMTS)、及び4-ビニルピリジン、又はそれらの組み合わせである。
【0062】
本明細書で使用される場合、「タンパク質変性」は、分子の三次元形状がその天然状態から変化するプロセスを指し得る。タンパク質の変性は、タンパク質変性剤を使用して行うことができる。タンパク質変性剤の非限定的な例としては、熱、高pH若しくは低pH、DTTのような還元剤(以下を参照のこと)、又はカオトロピック剤への曝露が挙げられる。複数のカオトロピック剤をタンパク質変性剤として使用することができる。カオトロピック溶質は、水素結合、ファンデルワールス力、及び疎水性効果などの非共有結合力によって媒介される分子内相互作用を妨害することによって、系のエントロピーを増加させる。カオトロピック剤の非限定的な例としては、ブタノール、エタノール、塩化グアニジニウム、過塩素酸リチウム、酢酸リチウム、塩化マグネシウム、フェノール、プロパノール、ドデシル硫酸ナトリウム、チオ尿素、N-ラウロイルサルコシン、尿素、及びそれらの塩が挙げられる。
【0063】
本明細書で使用される場合、「タンパク質還元剤」という用語とは、タンパク質中のジスルフィド架橋の還元のために使用される薬剤を指す。タンパク質を還元するために使用されるタンパク質還元剤の非限定的な例は、ジチオスレイトール(DTT)、β-メルカプトエタノール、エルマン試薬、ヒドロキシルアミン塩酸塩、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP-HCl)、又はそれらの組み合わせである。
【0064】
一部の例示的な態様では、質量分析計は、タンデム質量分析計であり得る。
【0065】
本明細書で使用される場合、「タンデム質量分析法」という用語は、試料分子についての構造情報が複数段階の質量選択及び質量分離を使用することによって得られる技術を含む。必要条件は、試料分子が気相に移行され得、インタクトなままイオン化され得ること、及びこれらの分子が、第1の質量選択ステップ後に、いくらかの予測可能かつ制御可能な方式でばらばらになるように誘導され得ることである。多段階MS/MS、又はMSは、意味のある情報を得ることができるか、又は断片イオンシグナルが検出可能である限り、最初に前駆体イオン(MS)を選択及び単離すること、それを断片化すること、一次断片イオン(MS)を単離すること、それを断片化すること、二次断片(MS)を単離することなどによって行われ得る。タンデムMSは、広範な分析器の組み合わせを用いて正常に行われている。特定の用途のためにどの分析器を組み合わせるかは、感度、選択性、及び速度だけでなく、サイズ、コスト、及び利用可能性などの多くの異なる要因によって決定することができる。タンデムMS法の2つの主要なカテゴリーは、タンデムインスペース及びタンデムインタイムであるが、タンデムインタイム分析器がスペース内で又はタンデムインスペース分析器と連結されるハイブリッドも存在する。タンデムインスペース質量分析計は、イオン源と、前駆体イオン活性化デバイスと、少なくとも2つの非捕捉質量分析器とを備える。特定のm/z分離関数は、機器の1つのセクションにおいてイオンが選択され、中間領域において解離され、次いで、産生イオンがm/z分離及びデータ取得のために別の分析器に送られるように設計され得る。時間的に相前後して、イオン源で産生された質量分析計イオンは、同じ物理的デバイスで捕捉、単離、断片化、及びm/z分離することができる。
【0066】
質量分析計によって特定されたペプチドは、インタクトなタンパク質及びそれらの翻訳後修飾の代理代表として使用され得る。それらは、実験的及び理論的MS/MSデータを相関させることによって、タンパク質特徴付けのために使用することができ、後者は、タンパク質配列データベース内の可能なペプチドから生成される。特徴付けとしては、限定されるものではないが、タンパク質断片のアミノ酸の配列決定、タンパク質配列決定の決定、タンパク質デノボ配列決定の決定、翻訳後修飾の位置決定、又は翻訳後修飾の特定、又は比較可能性分析、あるいはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0067】
本明細書で使用される場合、「データベース」という用語は、例えば、FASTA形式のファイルの形態で、試料中に存在する可能性があるタンパク質配列の編集されたコレクションを指す。関連するタンパク質配列は、研究される種のcDNA配列に由来し得る。関連するタンパク質配列を検索するために使用され得る公的データベースは、例えば、Uniprot又はSwiss-protによってホストされるデータベースを含んでいた。データベースは、本明細書で「バイオインフォマティクスツール」と称されるものを使用して検索することができる。バイオインフォマティクスツールは、データベース中の全ての可能な配列に対して解釈されていないMS/MSスペクトルを検索する能力を提供し、出力として解釈された(アノテーションされた)MS/MSスペクトルを提供する。かかるツールの非限定的な例は、Mascot(www.matrixscience.com)、Spectrum Mill(www.chem.agilent.com)、PLGS(www.waters.com)、PEAKS(www.bioinformaticssolutions.com)、Proteinpilot(download.appliedbiosystems.com//proteinpilot)、Phenyx(www.phenyx-ms.com)、Sorcerer(www.sagenresearch.com)、OMSSA(www.pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/omssa/)、X!Tandem(www.thegpm.org/TANDEM/)、Protein Prospector(prospector.ucsf.edu/prospector/mshome.htm)、Byonic(www.proteinmetrics.com/products/byonic)又はSequest(fields.scripps.edu/sequest)である。
【0068】
一部の例示的な実施形態では、質量分析計は、クロマトグラフィーシステム、例えば、SCXに結合されている。
【0069】
一部の例示的な実施形態では、質量分析計は、液体クロマトグラフィー多重反応モニタリングシステムに結合され得る。より一般的には、質量分析計は、連続反応モニタリング(CRM)及び並列反応モニタリング(PRM)を含む、選択反応モニタリング(SRM)によって分析することが可能であり得る。
【0070】
本明細書で使用される場合、「多重反応モニタリング」又は「MRM」は、高感度、高特異性、及び広いダイナミックレンジを有する複雑なマトリックス内の小分子、ペプチド、及びタンパク質を正確に定量化することができる質量分析法ベースの技術を指す(Paola Picotti & Ruedi Aebersold,Selected reaction monitoring-based proteomics:workflows,potential,pitfalls and future directions,9 NATURE METHODS 555-566(2012))。MRMは、典型的には、三連四重極質量分析計を用いて行われ得、ここで、選択された小分子/ペプチドに対応する前駆体イオンが第1の四重極で選択され、かつ前駆体イオンの断片イオンが第3の四重極で監視するために選択された(Yong Seok Choi et al.,Targeted human cerebrospinal fluid proteomics for the validation of multiple Alzheimers disease biomarker candidates,930 JOURNAL OF CHROMATOGRAPHY B 129-135(2013))。
【0071】
いくつかの態様では、本出願の方法又はシステムにおける質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又はトリプル四重極質量分析計であり得、質量分析計は、液体クロマトグラフィーシステムに接続され得、質量分析計は、LC-MS(液体クロマトグラフィー-質量分析法)又はLC-MRM-MS(液体クロマトグラフィー-多重反応モニタリング-質量分析法)分析を行うことができる。
【0072】
本明細書で使用される場合、「質量分析器」という用語は、質量に応じて種、つまり原子、分子、又はクラスタを分離することができるデバイスを含む。用いられ得る質量分析計の非限定的例は、飛行時間型(TOF)、磁場/電場セクタ、四重極質量フィルタ(Q)、四重極イオントラップ(QIT)、オービトラップ、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)及びまた加速器質量分析法(AMS)の技術である。
【0073】
本発明は、前述の目的のタンパク質(複数可)、抗体(複数可)、抗体断片(複数可)、試料(複数可)、不純物(複数可)、PTM(複数可)、免疫沈降法(複数可)、液体クロマトグラフィー法(複数可)又はシステム(複数可)、質量分析計(複数可)、アルキル化剤(複数可)、還元剤(複数可)、消化酵素(複数可)、データベース(複数可)、又はバイオインフォマティクスツール(複数可)のいずれにも限定されず、目的のタンパク質(複数可)、抗体(複数可)、抗体断片(複数可)、試料(複数可)、不純物(複数可)、PTM(複数可)、免疫沈降法(複数可)、液体クロマトグラフィー法(複数可)又はシステム(複数可)、質量分析計(複数可)、アルキル化剤(複数可)、還元剤(複数可)、消化酵素(複数可)、データベース(複数可)、又はバイオインフォマティクスツール(複数可)は、任意の好適な手段によって選択され得ることが理解される。
【0074】
本発明は、以下の実施例を参照することにより完全に理解されるであろう。しかしながら、それらは本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0075】
本発明の方法の例示的な実施形態を、図1に例示する。示される第1の成分は、ストレプトアビジン部分とコンジュゲートされたアガロースビーズを含有するカートリッジである。次いで、ビオチン化抗ヒトFc抗体をカートリッジに添加し、ストレプトアビジンビーズに結合させて、免疫沈降ビーズを産生する。ビオチン化抗ヒトFcは、産生又は市販され得る。例示的なビオチン-ストレプトアビジン反応は、ほぼ室温で約15分間インキュベートすることを含む。次いで、分析物を含む試料をカートリッジに添加し、インキュベートして、分析物を免疫沈降又は「プルダウン」する。例示的な免疫沈降プロセスは、ほぼ室温で約1時間インキュベートすることを含む。例示される実施例は、目的のタンパク質及び分析物としての三重特異性抗体を含む薬物動態研究からの試料であるが、本発明の方法は、この実施例に限定されず、任意の抗体又は抗体関連タンパク質を含む任意の適切な試料に適用され得る。
【0076】
次いで、試料を洗浄して、非特異的に結合した成分を除去する。例示的な洗浄するステップは、カートリッジを、6カートリッジ体積のHBS-EP緩衝液(Cytiva)で洗浄し、続いて、6カートリッジ体積のTris-HCl(10mM、pH7.5)で洗浄することを含む。次いで、消化酵素、例えば、IdeS又はそのバリアントをカートリッジに添加し、インキュベートし、これにより、結合した分析物の切断、例えば、抗体のFab断片からのFc断片の分離がもたらされる。例示的な消化ステップは、分析物1μg当たり40単位のIdeSタンパク質FabRICATOR(登録商標)(Genovis)、又は1単位の消化酵素を添加し、約37℃で約30分間~約1時間インキュベートすることを含む。カートリッジを遠心分離(「スピンダウン」)し、遊離Fab断片を溶出し、溶出液を回収して、その後のネイティブSCX-MS分析を行う。
【0077】
ネイティブSCX-MS分析のための例示的な方法は、Yan et al.,2020,J Am Soc Mass Spectrom,31:2171-2179(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。例示的な実施形態では、SCX-MSの条件は、以下のとおりである。SCXカラムは、YMC BioPro IEX SF 4.6×50mm、5μmである。カラム温度は45℃である。移動相A(MPA)は、10mMの酢酸アンモニウムを含み、移動相B(MPB)は、300mMの酢酸アンモニウムを含む。流量は0.4mL/分である。勾配は、以下のとおりである。0~1分間:100%MPA;1~9分間:100%MPA~100%MPB;9~10.5分間:100%MPB;10.5~10.6分間:100%MPB~100%MPA;及び10.6~15分間:100%MPA。
【0078】
MS分解能を、12,500(UHMR)に設定する。キャピラリースプレー電圧を、3.0kVに設定する。キャピラリー温度を、350℃に設定する。SレンズRFレベルを、200に設定する。インソース断片化エネルギーを、100に設定する。HCDトラッピングガス圧力を、3に設定する。質量スペクトルを、2000~15,000のm/z範囲ウィンドウで取得する。
【0079】
実施例1.SCXカラムの選択
複数のSCXカラムの性能を比較して、本発明の方法を最適化した。上記のようにFab断片を調製し、ネイティブSCX-MS分析に供した。Bioresolve SCX 2.1×50mmを、YMC SCX 4.6×50mmと比較した。図2に、各カラムのSCX-MS全イオンクロマトグラム(TIC)を示し、各実験の対応する流量及び温度を示す。この方法の実証された感度に基づいて、YMC SCX 4.6×50mmを、10~300mMの酢酸アンモニウム緩衝液の8分間の勾配を使用して、更なる実験に使用した。
【0080】
実施例2.純粋な溶液中の検出限界及び定量限界の確立
本発明のネイティブSCX-MS法を、純粋な溶液中のFab断片に対して試験して、検出限界(LOD)を確立した。純粋な溶液は、10mMのTris-HCl緩衝液(pH7.5)中に抗体分析物及び内部標準抗体(300pg/μL、又はカラム上600pg)を含んだ。図3Aに示されるように、高pIから低pIの範囲の一連の抗体を分析物として試験した。試験した抗体のpI範囲は、6.28~8.15であった。試験した試料量は、カラム上で20pg~2μgの範囲であり、濃度は10pg/μL~1μg/μLの範囲であった。
【0081】
Ab9を除き、各々0.2mL/分の流速で、各試料について15分間のSCX実行を行った。試験した抗体には、様々な治療用抗体を表すIgG1抗体及びIgG4抗体、並びにmAb及びbsAbが含まれた。本発明の方法は、各抗体を高感度で、効果的に分離及び分析することができた。図3B及び3Cに、20pg~20ngの範囲の濃度の2つの例示的な抗体からの質量スペクトルを示す。これらの条件下では、本発明の方法を使用してFab断片の絶対LODが、20pgであると決定された。
【0082】
図4に示されるように、純粋な溶液中のLOD及び定量限界(LOQ)を更に評価した。図4AのTICに示されるように、mAb2のFab断片を内部標準として使用して、mAb1のFab断片をネイティブSCX-MSを使用して分析した。図4Bは、20pg~20ngの範囲の濃度で、本発明の方法によって測定された、内部標準に対して正規化された強度と比較した実際の濃度のmAb1の比較を示す。実際の濃度に対する測定された濃度は、0.9954の加重Rとの線形関係を示し、低濃度の分析物を正確かつ高感度で定量化する本発明の方法の能力を実証する。図4Cは、20ng~2μgの範囲の濃度で行われた同じ比較を示しており、このより高い濃度範囲でも強い線形関係が実証される。図4Dに、20pg~2μgの例示的な質量スペクトルを示し、本発明の方法の感度及び特異性を更に例示する。
【0083】
実施例3.血清中の検出限界及び定量化限界の確立
本発明の方法の堅牢性は、マウス血清試料からの分析物を使用して更に実証された。血清中の目的のタンパク質の分析には、生体内変換による目的のタンパク質の不均一性、及び高濃度の血清タンパク質などの複雑なマトリックスによる干渉を含む、多くの追加の課題が存在する。
【0084】
mAb1のFab断片を前述のように調製し、ネイティブSCX-MS分析に供した。図5Aに、実際の濃度の抗体に対する応答比(内部標準に対して正規化された、測定された分析物の強度)の線形性を示す。図5B及び図5Cは更なる挿入図を示し、低濃度でも応答の線形性を実証する。これらの結果は、血清中で低濃度であっても、抗体の定量化における本発明の方法の感度及び有効性を実証する。
【0085】
図6Aに示されるように、本発明の方法の安定性は、内部標準に対して正規化しなくても、抗体濃度と比較して測定された強度の線形性をプロットすることによって更に実証された。図6B及び図6Cは更なる挿入図を示し、内部標準に対して正規化しなくても、血清中の低濃度で測定された強度の線形性を実証する。
【0086】
図7に、血清中及び純粋な溶液中のmAb1 FabのLOD及びLOQを示す質量スペクトルを例示する。図7Aに示されるように、血清中で0.025μg/mLもの低いLODが決定され、これは、SCXカラム上で50pgに相当する。図7Bに示されるように、血清中で0.05μg/mLもの低いLOQが決定され、これは、SCXカラム上で100pgに相当する。シグナル対ノイズ(S/N)比が5であることは、LOQを確立するための妥当な基準として示される。血清試料から検出されたmAb1 Fabの絶対強度は、純粋な溶液で検出されたものよりも高く、血清試料の感度の限界が、共IPされた血清タンパク質からのノイズによるものであることを示唆している。
【0087】
本明細書に開示される実施例に加えて、当業者に知られているであろうより好ましい条件下で本発明の方法を使用すると、例えば、より遅い溶出時間を有する抗体を使用すると、又はIP中により多くの洗浄量を使用すると、更に低いLOD及びLOQが可能である。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
【国際調査報告】