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特表2024-526736位置選択的ジメチル化によるタンパク質N末端のデノボ配列決定
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】位置選択的ジメチル化によるタンパク質N末端のデノボ配列決定
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20240711BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20240711BHJP
   C07K 1/16 20060101ALI20240711BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20240711BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240711BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20240711BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20240711BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
G01N27/62 V ZNA
C12Q1/37
C07K1/16
G01N33/68
G01N33/50 U
G01N30/88 J
G01N30/06 E
G01N30/72 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501684
(86)(22)【出願日】2022-07-12
(85)【翻訳文提出日】2024-02-20
(86)【国際出願番号】 US2022036876
(87)【国際公開番号】W WO2023287828
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】63/221,454
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】フォン ユー
(72)【発明者】
【氏名】ワン シュンハイ
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041EA04
2G041FA12
2G041FA13
2G041GA09
2G041HA01
2G041JA02
2G041JA04
2G045AA34
2G045BB35
2G045DA36
2G045FA34
2G045FA36
2G045FB06
4B063QA13
4B063QQ79
4B063QR16
4B063QS17
4B063QS28
4B063QX04
4H045AA20
4H045EA50
4H045FA15
4H045FA51
4H045FA65
4H045GA21
(57)【要約】
本発明は、概して、タンパク質のアミノ酸配列を決定する方法に関する。特に、本発明は、N末端ペプチドのシグナルを強化しかつN末端ペプチド及び対応するbイオンのシグナルをシフトさせ、それによってN末端ペプチドの配列の決定を容易にするための、位置選択的ジメチル化及び液体クロマトグラフィー-質量分析の使用に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
関心対象のタンパク質のN末端ドメインのアミノ酸配列を決定するための方法であって、
(a)ジメチル化混合物を形成するために、関心対象のタンパク質を含む試料を少なくとも1つのジメチル化試薬に接触させることと、
(b)クエンチされた混合物を形成するために、前記ジメチル化混合物を少なくとも1つのクエンチ試薬に接触させることと、
(c)前記クエンチされた混合物を液体クロマトグラフィー-質量分析に供することであって、前記分析が、少なくとも1つのジメチル化アミノ酸残基をイオン化して少なくとも1つのインモニウムイオンを形成させる、ことと、
(d)前記少なくとも1つのインモニウムイオンの存在に基づいて、少なくとも1つのN末端ペプチドを同定することと、
(e)前記関心対象のタンパク質のN末端ドメインのアミノ酸配列を決定するために、(d)の前記少なくとも1つのN末端ペプチドの質量スペクトルを、非ジメチル化対照試料の対応する少なくとも1つのN末端ペプチドの質量スペクトルと比較することと
を含み、(a)の前記少なくとも1つのジメチル化試薬が、N末端α-アミンのジメチル化を優先的にもたらす条件下で接触される、方法。
【請求項2】
前記関心対象のタンパク質が、抗体、二重特異性抗体、モノクローナル抗体、融合タンパク質、抗体-薬物コンジュゲート、抗体断片、又はタンパク質医薬品である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのジメチル化試薬が、HCHO、NaBHCN、これらの重同位体、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ジメチル化混合物が、3未満のpHを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ジメチル化混合物が、酢酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ジメチル化混合物が、約20℃~約37℃の温度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ジメチル化混合物が、約5分間~約1時間インキュベートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記クエンチ試薬が、NH、NHOH、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記クエンチされた混合物が、約20℃~約37℃の温度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記クエンチされた混合物が、約5分間~約1時間インキュベートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記試料及び/又は前記クエンチされた混合物を少なくとも1つの消化酵素と接触させることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの消化酵素が、トリプシン、キモトリプシン、LysC、LysN、AspN、GluC、ArgC、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記液体クロマトグラフィーが、逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、又はこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記液体クロマトグラフィーシステムが、前記質量分析計に結合されている、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記質量分析計が、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又は三連四重極質量分析計である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記質量分析計が、多重反応モニタリング又は並列反応モニタリングを実行することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記試料及び/又は前記クエンチされた混合物を、少なくとも1つのアルキル化剤に接触させることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記アルキル化剤が、ヨードアセトアミドである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記試料及び/又は前記クエンチされた混合物を少なくとも1つの還元剤に接触させることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記還元剤が、ジチオスレイトールである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記試料を少なくとも1つの変性剤に接触させることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記変性剤が、尿素である、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる、2021年7月13日に出願された米国仮特許出願第63/221,454号の優先権及び利益を主張する。
【0002】
分野
本発明は、概して、タンパク質のデノボ配列決定のための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
タンパク質治療薬は、多くの疾患の治療及び診断において重要な役割を果たす。タンパク質治療薬の完全性及び品質を保証するためには、タンパク質配列及び他の構造特性を決定及び確認する必要がある。治療用タンパク質を配列決定するための一般的な方法は、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)の使用を伴う。しかしながら、LC-MS法は、低イオン化効率、イオン抑制、及びN末端アミンのブロックを含む、タンパク質N末端ドメインの信頼性の高い配列決定を妨げる制限を有する。
【0004】
特にプロテオミクス用途のために、N末端同定を補助するための様々な方法が開発されている。典型的には、それらは、アミン基の化学修飾、及びN末端ペプチドを濃縮するための正の選択又は負の選択のいずれかを伴う。そのような方法の1つは、N末端の同定を補助するための、タンパク質N末端残基のジメチル化反応を伴う。しかしながら、これらの方法は、一般に、プロテオミクス解析におけるタンパク質の同定に適用され、精製されたタンパク質のデノボ配列決定には適用されない。したがって、精製されたタンパク質のデノボ配列決定のための簡単でかつ信頼性の高い方法に対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0005】
図1に示すように、タンパク質のN末端のデノボ配列決定のための方法が開発されている。この方法は、N末端アミンが優先的にジメチル化されるように、試料中のタンパク質を位置選択的ジメチル化反応に供することを含む。次いで、ジメチル化反応は、クエンチ試薬でクエンチされ得る。タンパク質を酵素的に消化し、LC-MS分析に供することができる。ジメチル化N末端残基は、より大きなシグナル強度及び特徴的な保持時間シフト並びに質量シフトを提供するインモニウムイオンを形成し、N末端ペプチド及びN末端残基の容易な同定を可能にする。次いで、この同定を使用して、タンパク質のN末端配列を決定することができる。
【0006】
本開示は、関心対象のタンパク質のN末端ドメインのアミノ酸配列を決定するための方法を提供する。いくつかの例示的な実施形態では、方法は、(a)ジメチル化混合物を形成するために、関心対象のタンパク質を含む試料を少なくとも1つのジメチル化試薬に接触させることと、(b)クエンチされた混合物を形成するために、前記ジメチル化混合物を少なくとも1つのクエンチ試薬に接触させることと、(c)前記クエンチされた混合物を液体クロマトグラフィー-質量分析に供することであって、前記分析が、少なくとも1つのジメチル化アミノ酸残基をイオン化して少なくとも1つのインモニウムイオンを形成させる、ことと、(d)前記少なくとも1つのインモニウムイオンの存在に基づいて、少なくとも1つのN末端ペプチドを同定することと、(e)前記関心対象のタンパク質のN末端ドメインのアミノ酸配列を決定するために、(d)の前記少なくとも1つのN末端ペプチドの質量スペクトルを、非ジメチル化対照試料の対応する少なくとも1つのN末端ペプチドの質量スペクトルと比較することと、を含み、(a)の前記少なくとも1つのジメチル化試薬は、N末端αアミンのジメチル化を優先的にもたらす条件下で接触される。
【0007】
一態様では、前記関心対象のタンパク質は、抗体、二重特異性抗体、モノクローナル抗体、融合タンパク質、抗体-薬物コンジュゲート、抗体断片、又はタンパク質医薬品である。
【0008】
一態様では、前記少なくとも1つのジメチル化試薬は、HCHO、NaBHCN、これらの重同位体、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。別の態様では、前記ジメチル化混合物は、3未満のpHを有する。更に別の態様では、前記ジメチル化混合物は、酢酸を含む。更なる態様では、前記ジメチル化混合物は、約20℃~約37℃の温度を有する。更に別の態様では、前記ジメチル化混合物は、約5分間~約1時間インキュベートされる。
【0009】
一態様では、前記クエンチ試薬は、NH、NHOH、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。別の態様では、前記クエンチされた混合物は、約20℃~約37℃の温度を有する。更に別の態様では、前記クエンチされた混合物は、約5分間~約1時間インキュベートされる。
【0010】
一態様では、方法は、前記試料及び/又は前記クエンチされた混合物を少なくとも1つの消化酵素に接触させることを更に含む。特定の態様では、前記少なくとも1つの消化酵素は、トリプシン、キモトリプシン、LysC、LysN、AspN、GluC、ArgC、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0011】
一態様では、前記液体クロマトグラフィーは、逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、又はこれらの組み合わせを含む。別の態様では、前記液体クロマトグラフィーシステムは、前記質量分析計に結合されている。
【0012】
一態様では、前記質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又は三連四重極質量分析計である。別の態様では、前記質量分析計は、多重反応モニタリング又は並列反応モニタリングを実行することができる。
【0013】
一態様では、方法は、前記試料及び/又は前記クエンチされた混合物を少なくとも1つのアルキル化剤に接触させることを更に含む。特定の態様では、前記アルキル化剤は、ヨードアセトアミドである。
【0014】
一態様では、方法は、前記試料及び/又は前記クエンチされた混合物を少なくとも1つの還元剤に接触させることを更に含む。特定の態様では、前記還元剤は、ジチオスレイトールである。
【0015】
一態様では、方法は、前記試料を少なくとも1つの変性剤に接触させることを更に含む。特定の態様では、前記変性剤は、尿素である。
【0016】
本発明のこれら及び他の態様は、以下の説明及び添付の図面と併せて考慮すると、よりよく理解(appreciated)及び理解(understood)されるであろう。以下の説明は、様々な実施形態及びその多くの特定の詳細を示すが、例示として与えられるものであり、限定するものではない。本発明の範囲内で、多くの置換、修正、追加、又は再配置を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】例示的な実施形態による、N末端分析の最先端技術及び本発明の方法によって満たされる必要性を示す。
図2】例示的な実施形態による、タンパク質分析に影響を及ぼす潜在的なN末端修飾及びC末端修飾を示す。
図3】例示的な実施形態による、質量スペクトルにおける衝突誘起解離(CID)によって生成されるインモニウムイオンの構造及び前記イオンの増幅されたシグナルを示す。
図4】例示的な実施形態による、非位置選択的ジメチル化プロトコルを示す。
図5】例示的な実施形態による、非位置選択的ジメチル化を使用するタンパク質の配列カバレッジを示す。
図6】例示的な実施形態による、ジメチル化セリンインモニウムイオンを含む質量スペクトルを示す。
図7】例示的な実施形態による、位置選択的ジメチル化プロトコルを示す。
図8】例示的な実施形態による、位置選択的ジメチル化を使用するタンパク質の配列カバレッジを示す。
図9】例示的な実施形態による、分子量カットオフ(MWCO)法又はワンポット法を使用する位置選択的ジメチル化法の全イオンクロマトグラム(TIC)の比較を示す。
図10】例示的な実施形態による、位置選択的ジメチル化法の、試験された、及び最適化されたパラメータを示す。
図11A】例示的な実施形態による、メジャー切断種を含む、融合タンパク質Ab1の構造を示す。
図11B】例示的な実施形態による、メジャー切断部位を含む、Ab1のアミノ酸配列を示す。
図11C】例示的な実施形態による、メジャー切断部位が同定されたYインモニウムイオンを有する、位置選択的ジメチル化を使用して分析されるAb1の質量スペクトルを示す。
図11D】例示的な実施形態による、メジャー切断部位が同定されたDインモニウムイオンを有する、位置選択的ジメチル化を使用して分析されるAb1の質量スペクトルを示す。
図11E】例示的な実施形態による、メジャー切断部位が同定されたTインモニウムイオンを有する、位置選択的ジメチル化を使用して分析されるAb1の質量スペクトルを示す。
図12】例示的な実施形態による、NISTmAb及び対応する質量スペクトルの位置選択的ジメチル化のプロトコルを示す。
図13A】例示的な実施形態による、FabRICATOR(登録商標)のSEC-MS TICを示す。
図13B】例示的な実施形態による、IdeSの配列を示す。
図13C】例示的な実施形態による、示される未知のN末端配列を有するFabRICATOR(登録商標)のインタクトな質量スペクトルを示す。
図13D】例示的な実施形態による、FabRICATOR(登録商標)の質量スペクトルを示す。
図14A】例示的な実施形態による、対照及びジメチル化FabRICATOR(登録商標)N末端ペプチド1のクロマトグラムを示す。
図14B】例示的な実施形態による、対照及びジメチル化FabRICATOR(登録商標)N末端ペプチド1のMSスペクトルを示す。
図14C】例示的な実施形態による、対照及びジメチル化FabRICATOR(登録商標)N末端ペプチド1のMS/MSスペクトルを示す。
図15A】例示的な実施形態による、対照及びジメチル化FabRICATOR(登録商標)N末端ペプチド2のクロマトグラムを示す。
図15B】例示的な実施形態による、対照及びジメチル化FabRICATOR(登録商標)N末端ペプチド2のMSスペクトルを示す。
図15C】例示的な実施形態による、対照及びジメチル化FabRICATOR(登録商標)N末端ペプチド2のMS/MSスペクトルを示す。
図16A】例示的な実施形態による、対照及びジメチル化FabRICATOR(登録商標)N末端ペプチド3のクロマトグラムを示す。
図16B】例示的な実施形態による、対照及びジメチル化FabRICATOR(登録商標)N末端ペプチド3のMSスペクトルを示す。
図16C】例示的な実施形態による、対照及びジメチル化FabRICATOR(登録商標)N末端ペプチド3のMS/MSスペクトルを示す。
図17A】例示的な実施形態による、対照及びジメチル化FabRICATOR(登録商標)N末端ペプチド4のクロマトグラムを示す。
図17B】例示的な実施形態による、対照及びジメチル化FabRICATOR(登録商標)N末端ペプチド4のMSスペクトルを示す。
図17C】例示的な実施形態による、対照及びジメチル化FabRICATOR(登録商標)N末端ペプチド4のMS/MSスペクトルを示す。
図18A】例示的な実施形態による、対照及びジメチル化FabRICATOR(登録商標)N末端ペプチド5のクロマトグラムを示す。
図18B】例示的な実施形態による、対照及びジメチル化FabRICATOR(登録商標)N末端ペプチド5のMSスペクトルを示す。
図18C】例示的な実施形態による、対照及びジメチル化FabRICATOR(登録商標)N末端ペプチド5のMS/MSスペクトルを示す。
図19A】例示的な実施形態による、対照及びジメチル化FabRICATOR(登録商標)N末端ペプチド6のクロマトグラムを示す。
図19B】例示的な実施形態による、対照及びジメチル化FabRICATOR(登録商標)N末端ペプチド6のMSスペクトルを示す。
図19C】例示的な実施形態による、対照及びジメチル化FabRICATOR(登録商標)N末端ペプチド6のMS/MSスペクトルを示す。
図20A】例示的な実施形態による、位置選択的ジメチル化を使用して同定されたメジャーFabRICATOR(登録商標)N末端配列のアラインメントを示す。
図20B】例示的な実施形態による、位置選択的ジメチル化及び対応するMS/MSスペクトルを使用して同定されたマイナーFabRICATOR(登録商標)N末端配列を示す。
図20C】例示的な実施形態による、位置選択的ジメチル化を使用して同定されたメジャーN末端配列及びマイナーN末端配列で完成したFabRICATOR(登録商標)配列を示す。
図20D】例示的な実施形態による、位置選択的ジメチル化を使用して同定されたN末端配列を検証するFabRICATOR(登録商標)のインタクトな質量スペクトルを示す。
図20E】例示的な実施形態による、対照の非ジメチル化試料におけるFabRICATOR(登録商標)の配列カバレッジを示す。
図20F】例示的な実施形態による、位置選択的ジメチル化試料におけるFabRICATOR(登録商標)の配列カバレッジを示す。
図21図21Aは、例示的な実施形態による、位置選択的ジメチル化のための最適化された条件を示す。図21Bは、例示的な実施形態による、インモニウムイオントリガMS/MSデータ取得のための方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
タンパク質治療薬、特にモノクローナル抗体は、多くの疾患の治療及び診断において重要な役割を果たす。不十分な治療用タンパク質の質は、患者における望ましくない免疫原性応答、薬物の効力の喪失、又は副作用を引き起こす可能性がある。タンパク質治療薬の完全性及び品質を確保するためには、タンパク質配列及び他の構造特性を決定及び確認する必要がある。
【0019】
配列決定を含む治療用タンパク質の分析のための一般的な方法は、液体クロマトグラフィー-質量分析の使用を含む。ペプチド配列は、選択された分子イオンの衝突誘起解離(CID)又はソース後分解(PSD)から得られるMS/MS断片の分析からアサインされ得る。しかしながら、タンパク質のN末端ペプチドの同定は、独自の課題を提示する。CID質量スペクトルで観察されるbイオンは、典型的には、プロトン化されたオキサロゾン分子の環化によって安定した構造を形成する。しかしながら、この環化は、N末端ペプチドのN末端残基を含むbイオンについては不可能であり、そのため、質量分析においてbイオンは省略され、従来の方法でタンパク質のN末端残基を決定することが不可能になる(Hsu et al.,2005,J Proteome Res,4:101-108)。
【0020】
特にプロテオミクス用途のために、N末端同定を補助するためにいくつかの方法が開発されている。典型的には、それらは、アミン基の化学修飾、及びN末端ペプチドを濃縮するための正の選択又は負の選択のいずれかを伴う(Niedermaier et al.,2019,Biochim Biophys Acta Proteom,1867(12):140138)。特定の方法は、N末端α-アミン基及びリジンε-アミン基のジメチル化を引き起こすためにホルムアルデヒドを使用することを含む(Hsu et al.)。図3に示されるように、ジメチル化されたN末端残基は、イオン化されるとインモニウムイオンを形成し、それにより、そのイオン化効率及びMSで検出可能なシグナルを強化する。N末端ジメチル化はまた、N末端残基を含むN末端ペプチド及びbイオンを容易に同定することを可能にする、予測可能な質量シフトを引き起こす。
【0021】
プロテオミクスのためのジメチル化技術は、例えば、TAILS技術又はDiLeu cPILOT技術を用いて更に最適化されている(Marino et al.,2015,ACS Chem Biol,10:1754-1764、Frost et al.,2018,Anal Chem,90:10664-10669)。Frostらは、ジメチル化反応を改変するための酸性条件の使用を実証した:低pHで反応を実行することにより、N末端α-アミン基(より低いpKaを有する)は優先的に反応するが、リジン側鎖ε-アミン基(より高いpKaを有する)が優先的に未修飾のままである。軽同位体及び重同位体ジメチル化試薬を使用して、対照的な質量のジメチル化試料を作製した。この方法をリジンの等圧タグ付けと組み合わせて、複雑な試料の24プレックスプロテオミクス分析を実行し、試料中のタンパク質を同定した。しかしながら、この方法及び他の記載されているN末端標識方法は、典型的には、プロテオミクスでの使用に限定されており、例えば、薬物開発のための治療用タンパク質を特徴付けるために必要とされるように、精製されたタンパク質のデノボ配列決定には適用されていない。
【0022】
より最近では、ブロックされていないN末端残基を蛍光標識することによって、精製されたタンパク質のデノボN末端配列決定のための方法が開発された(Vecchi et al.,2019,Anal Chem,91:13591-13600)。この方法は、オンライン蛍光検出器の使用を必要とし、例えばピログルタミン酸により大部分がブロックされていたN末端は標識することができなかった。Vecchiらは、pyroQ残基を除去するピログルタミン酸アミノペプチダーゼ(PGAP)で消化された試料を未消化試料と比較する第2の実験トラックを追加することによって、この問題を回避しようとした。標識プロセスがN末端ペプチドを十分に同定することができないというこの回避策は、更なる複雑さを与え、かつpyroQ以外の任意のN末端修飾、例えば、図2に示される修飾を説明することができない。
【0023】
上記及び図1に例示されるように、特に困難なN末端ドメインについて、精製されたタンパク質のデノボ配列決定のための単純で感受性の高い方法が必要である。本開示は、タンパク質のN末端ドメインの標識、同定、及びデノボ配列決定の新規方法を説明する。
【0024】
別段記載されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、この発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載される方法及び材料と同様又は同等の任意の方法及び材料は、実施又は試験において使用され得るが、特定の方法及び材料が、これより記載される。
【0025】
「a(1つの)」という用語は、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきであり、「約」及び「およそ」という用語は、当業者によって理解されるように標準的な変動を可能にすると理解されるべきであり、範囲が提供される場合、端点が含まれる。本明細書で使用される場合、「含む(include)」、「含む(includes)」、及び「含む(including)」という用語は、非限定的であることを意味し、それぞれ「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含む(comprising)」を意味すると理解される。
【0026】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」又は「関心対象のタンパク質」という用語は、共有結合アミド結合を有する任意のアミノ酸ポリマーを含むことができる。タンパク質は、当該技術分野で一般に「ポリペプチド」として知られている1つ以上のアミノ酸ポリマー鎖を含む。「ポリペプチド」は、アミノ酸残基、関連する天然に存在する構造バリアント、及びペプチド結合を介して連結されたその合成された非天然に存在する類似体から構成されるポリマーを指す。「合成ペプチド又はポリペプチド」とは、天然に存在しないペプチド又はポリペプチドを指す。合成ペプチド又はポリペプチドは、例えば、自動ポリペプチド合成装置を使用して合成することができる。様々な固相ペプチド合成法が当業者に知られている。タンパク質は、単一の機能性生体分子を形成するために1つ又は複数のポリペプチドを含み得る。別の例示的な態様では、タンパク質は、抗体フラグメント、ナノボディ、組換え抗体キメラ、サイトカイン、ケモカイン、ペプチドホルモンなどを含むことができる。関心対象のタンパク質は、生物治療用タンパク質、研究又は治療に使用される組換えタンパク質、トラップタンパク質及び他のキメラ受容体Fc融合タンパク質、キメラタンパク質、抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、及び二重特異性抗体のいずれかを含み得る。タンパク質は、昆虫バキュロウイルス系、酵母系(例えば、ピキア(Pichia)属種)、及び哺乳動物系(例えば、CHO細胞及びCHO-K1細胞のようなCHO誘導体)などの組換え細胞ベースの産生系を使用して産生され得る。生物治療用タンパク質及びその生産について論じた最近の総説については、Ghaderi et al.“Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation”(Darius Ghaderi et al.,Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation,28 BIOTECHNOLOGY AND GENETIC ENGINEERING REVIEWS 147-176(2012)、その教示全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。いくつかの例示的な実施形態では、タンパク質は、修飾、付加物、及び他の共有結合された部分を含む。これらの修飾物、付加物及び部分には、例えば、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、グリカン(例えば、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、ニューラミン酸、N-アセチルグルコサミン、フコース、マンノース、及び他の単糖)、PEG、ポリヒスチジン、FLAGタグ、マルトース結合タンパク質(MBP)、キチン結合タンパク質(CBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)myc-エピトープ、蛍光標識及び他の染料などが含まれる。タンパク質は組成と溶解度に基づいて分類できるため、球状タンパク質、繊維状タンパク質などの単純タンパク質、核タンパク質、糖タンパク質、ムコタンパク質、色素タンパク質、リンタンパク質、金属タンパク質、リポタンパク質などの複合タンパク質、及び一次派生タンパク質、二次派生タンパク質などの派生タンパク質を含む。
【0027】
いくつかの例示的な実施形態では、関心対象のタンパク質は、組換えタンパク質、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、融合タンパク質、scFv、及びこれらの組み合わせであり得る。
【0028】
本明細書で使用される場合、「組換えタンパク質」という用語は、適切な宿主細胞に導入された組換え発現ベクターに担持される遺伝子の転写及び翻訳の結果として生成されるタンパク質を指す。ある特定の例示的な実施形態では、組換えタンパク質は、抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、又は完全ヒト抗体であり得る。特定の例示的な実施形態では、組換えタンパク質は、IgG、IgM、IgA1、IgA2、IgD、又はIgEからなる群から選択されるアイソタイプの抗体であり得る。ある特定の例示的な実施形態では、抗体分子は、完全長抗体(例えば、IgG1)であるか、又は代替的に、抗体は、断片(例えば、Fc断片又はFab断片)であり得る。
【0029】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互接続された4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子、並びにその多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVR又はVHと略す)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、CH1、CH2、及びCH3の3つのドメインを含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVR又はVLと略す)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域と散在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域に更に細分できる。各VH及びVLは、3つのCDRと4つのFRで構成され、アミノ末端からカルボキシ末端に向かってFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4の順序で配置される。本発明の異なる実施形態では、抗big-ET-1抗体(又はその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であり得、又は天然若しくは人工的に修飾され得る。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義することができる。本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、完全な抗体分子の抗原結合断片も含む。本明細書で使用される場合、抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」などの用語は、任意の天然に存在する、酵素的に入手可能な、合成の、又は、遺伝子操作された、(抗原に特異的に結合して複合体を形成する)ポリペプチド若しくは糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合断片は、例えば、タンパク質分解消化技術、又は抗体可変ドメイン及び任意選択により定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を伴う組換え遺伝子工学技術などの任意の適切な標準技術を使用して完全な抗体分子から誘導され得る。このようなDNAは既知であり、かつ/又は、例えば、商業的供給元、DNAライブラリ(例えば、ファージ抗体ライブラリを含む)から容易に入手可能であり、又は合成することができる。DNAは、化学的又は分子生物学技術を使用して配列決定及び操作され、例えば、1つ以上の可変ドメイン及び/又は定常ドメインを適切な配置に配置したり、コドンを導入したり、システイン残基を作成したり、アミノ酸を修飾、追加又は削除したりすることができる。
【0030】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」は、例えば、抗体の抗原結合領域又は可変領域などの、インタクトな抗体の一部を含む。抗体断片の例としては、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2(又は「Fab」)断片、scFv断片、Fv断片、dsFvダイアボディ、dAb断片、Fd’断片、Fd断片、及び分離された相補性決定領域(CDR)領域、並びに抗体断片から形成されるトリアボディ、テトラボディ、線状抗体、一本鎖抗体分子、及び多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。Fv断片は、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域の組み合わせであり、ScFvタンパク質は、免疫グロブリンの軽鎖と重鎖の可変領域がペプチドリンカーによって接続される組換え一本鎖ポリペプチド分子である。いくつかの例示的な実施形態では、抗体断片は、親抗体と同じ抗原に結合する断片である親抗体の十分なアミノ酸配列を含み、いくつかの例示的な実施形態では、断片は、親抗体と同等の親和性で抗原に結合する、及び/又は抗原への結合に関して親抗体と競合する。抗体断片は、任意の手段によって産生され得る。例えば、抗体断片は、インタクトな抗体の断片化によって酵素的又は化学的に生成することができる、及び/又は部分的な抗体配列をコードする遺伝子から組換え的に生成することができる。いくつかの例示的な実施形態では、抗体断片は、消化酵素IdeS又はそのバリアントを用いた消化によって産生され得る。代替的に、又は追加的に、抗体断片は、全体又は部分的に、合成的に生成され得る。抗体断片は、任意選択により、一本鎖抗体断片を含み得る。代替的、又は追加的に、抗体断片は、例えば、ジスルフィド結合によって一緒に連結された複数の鎖を含み得る。抗体断片は、任意選択的に、多分子複合体を含み得る。機能的抗体断片は、典型的には少なくとも約50個のアミノ酸を含み、より典型的には少なくとも約200個のアミノ酸を含む。
【0031】
「二重特異性抗体」という用語は、2つ以上のエピトープに選択的に結合できる抗体を含む。二重特異性抗体は、一般に、2つの異なる分子(例えば、抗原)上又は同じ分子上(例えば、同じ抗原上)のいずれかで、各重鎖が異なるエピトープに特異的に結合する2つの異なる重鎖を含む。二重特異性抗体が2つの異なるエピトープ(第1のエピトープ及び第2のエピトープ)に選択的に結合できる場合、第1のエピトープに対する第1の重鎖の親和性は一般に、第2のエピトープに対する第1の重鎖の親和性よりも少なくとも1~2桁又は3桁若しくは4桁低くなり、また、その逆も同様である。二重特異性抗体によって認識されるエピトープは、同じ標的上に存在することも、異なる標的上に存在することもできる(例えば、同じタンパク質上又は異なるタンパク質上)。二重特異性抗体は、例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖を組み合わせることによって作製することができる。例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖可変配列をコードする核酸配列は、異なる重鎖定常領域をコードする核酸配列に融合することができ、そのような配列は免疫グロブリン軽鎖を発現する細胞内で発現させることができる。
【0032】
典型的な二重特異性抗体は、それぞれ3つの重鎖CDR、次いでCH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン及びCH3ドメインを有する2つの重鎖と、抗原結合特異性を与えないが各重鎖と会合することができる、又は各重鎖と会合することができ、重鎖抗原結合領域によって結合される1つ以上のエピトープと結合することができる、又は各重鎖に会合することができ、1つ若しくは両方の重鎖を1つ若しくは両方のエピトープに結合させることができる、免疫グロブリン軽鎖とを有する。BsAbは、Fc領域を持つもの(IgG様)とFc領域を欠くものの2つの主要なクラスに分類でき、後者は通常、Fcを含むIgG及びIgG様二重特異性分子よりも小さい。IgG様bsAbは、トリオマブ、knobs into holes IgG(kih IgG)、crossMab、orth-Fab IgG、二重可変ドメインIg(DVD-Ig)、ツー・イン・ワン若しくは二重作用Fab(DAF)、IgG一本鎖Fv(IgG-scFv)、又はκλボディなどの様々なフォーマットを有することができるが、これらに限定されない。非IgG様の異なるフォーマットには、タンデムscFv、ダイアボディフォーマット、一本鎖ダイアボディ、タンデムダイアボディ(TandAb)、二重親和性リターゲティング分子(DART)、DART-Fc、ナノボディ、又はドックアンドロック(DNL)法によって産生される抗体(Gaowei Fan,Zujian Wang&Mingju Hao,Bispecific antibodies and their applications,8 JOURNAL OF HEMATOLOGY & ONCOLOGY 130、Dafne Mueller & Roland E. Kontermann,Bispecific Antibodies,HANDBOOK OF THERAPEUTIC ANTIBODIES 265-310(2014)、その全体の教示が本明細書に組み込まれる)が含まれる。bsAbの産生方法は、2つの異なるハイブリドーマ細胞株の体細胞融合、化学架橋剤を含む化学コンジュゲーション、及び組換えDNA技術を利用する遺伝的アプローチに基づくクアドローマ技術に限定されない。bsAbの例としては、参照により本明細書に組み込まれる以下の特許出願に開示されるものが挙げられる:2010年6月25日に出願された米国特許出願第12/823838号、2012年6月5日に出願された米国特許出願第13/488628号、2013年9月19日に出願された米国特許出願第14/031075号、2015年7月24日に出願された米国特許出願第14/808171号、2017年9月22日に出願された米国特許出願第15/713574号、2017年9月22日に出願された米国特許出願第15/713569号、2016年12月21日に出願された米国特許出願第15/386453号、2016年12月21日に出願された米国特許出願第15/386443号、2016年7月29日に出願された米国特許出願第15/22343号及び2017年11月15日に出願された米国特許出願第15/814095号。
【0033】
本明細書で使用される場合、「多重特異性抗体」は、少なくとも2つの異なる抗原に対する結合特異性を有する抗体を指す。かかる分子は、通常、2つの抗原(すなわち、二重特異性抗体、bsAb)のみに結合するが、三重特異性抗体及びKIH三重特異性などの追加の特異性を有する抗体も、本明細書に開示されるシステム及び方法によって対処することができる。
【0034】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、ハイブリドーマ技術によって産生される抗体に限定されない。モノクローナル抗体は、当技術分野で利用可能な又は公知の任意の手段によって、任意の真核生物、原核生物、又はファージクローンを含む単一クローンに由来することができる。本開示で有用なモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、及びファージディスプレイ技術、又はこれらの組み合わせの使用を含む、当技術分野で公知の広範な技術を使用して調製することができる。
【0035】
いくつかの例示的な実施形態では、関心対象のタンパク質は、哺乳動物細胞から産生され得る。哺乳動物細胞は、ヒト由来又は非ヒト由来のものであり得、初代上皮細胞(例えば、ケラチノサイト、子宮頸上皮細胞、気管支上皮細胞、気管上皮細胞、腎臓上皮細胞及び網膜上皮細胞)、確立された細胞株及びこれらの株(例えば、293胚性腎臓細胞、BHK細胞、HeLa子宮頸上皮細胞及びPER-C6網膜細胞、MDBK(NBL-1)細胞、911細胞、CRFK細胞、MDCK細胞、CHO細胞、BeWo細胞、Chang細胞、デトロイト562細胞、HeLa 229細胞、HeLa S3細胞、Hep-2細胞、KB細胞、LSI80細胞、LS174T細胞、NCI-H-548細胞、RPMI2650細胞、SW-13細胞、T24細胞、WI-28 VA13、2RA細胞、WISH細胞、BS-C-I細胞、LLC-MK2細胞、クローンM-3細胞、1-10細胞、RAG細胞、TCMK-1細胞、Y-l細胞、LLC-PKi細胞、PK(15)細胞、GHi細胞、GH3細胞、L2細胞、LLC-RC256細胞、MHiCi細胞、XC細胞、MDOK細胞、VSW細胞、及びTH-I、B1細胞、BSC-1細胞、RAf細胞、RK-細胞、PK-15細胞又はこれらの誘導体)、任意の組織又は器官からの線維芽細胞(心臓、肝臓、腎臓、結腸、腸、食道、胃、神経組織(脳、脊髄)、肺、血管組織(動脈、静脈、毛細血管)、リンパ組織(リンパ腺、アデノイド、扁桃、骨髄、及び血液を含むがこれらに限定さない)、脾臓、及び線維芽細胞及び線維芽細胞様細胞株(例えば、CHO細胞、TRG-2細胞、IMR-33細胞、Don細胞、GHK-21細胞、シトルリン血症細胞、デンプシー細胞、デトロイト551細胞、デトロイト510細胞、デトロイト525細胞、デトロイト529細胞、デトロイト532細胞、デトロイト539細胞、デトロイト548細胞、デトロイト573細胞、HEL299細胞、IMR-90細胞、MRC-5細胞、WI-38細胞、WI-26細胞、Midi細胞、CHO細胞、CV-1細胞、COS-1細胞、COS-3細胞、COS-7細胞、Vero細胞、DBS-FrhL-2細胞、BALB/3T3細胞、F9細胞、SV-T2細胞、M-MSV-BALB/3T3細胞、K-BALB細胞、BLO-11細胞、NOR-10細胞、C3H/IOTI/2細胞、HSDMiC3細胞、KLN205細胞、マッコイ細胞、マウスL細胞、株2071(マウスL)細胞、L-M株(マウスL)細胞、L-MTK’(マウスL)細胞、NCTCクローン2472及び2555、SCC-PSA1細胞、Swiss/3T3細胞、インディアンマンジャック細胞、SIRC細胞、Cn細胞、及びジェンセン細胞、Sp2/0、NS0、NS1細胞又はその誘導体)を含み得る。
【0036】
本明細書で使用される場合、「試料」は、細胞培養流体(CCF)、収穫された細胞培養流体(HCCF)、下流処理の任意のステップ、原薬(DS)、又は最終配合産物を含む医薬品(DP)などのバイオプロセスの任意のステップから得ることができる。いくつかの他の特定の例示的な実施形態では、試料は、浄化、クロマトグラフィー産生、ウイルス不活性化、又は濾過の下流プロセスの任意のステップから選択することができる。いくつかの特定の例示的な実施形態では、医薬品は、クリニック、出荷、保管、又は取り扱いにおける製造された医薬品から選択することができる。
【0037】
いくつかの例示的な実施形態では、関心対象のタンパク質は、例えば、アルキル化、還元、変性、及び/又は消化によって調製され得る。
【0038】
本明細書で使用される場合、「タンパク質アルキル化剤」という用語は、タンパク質中の特定の遊離アミノ酸残基をアルキル化するために使用される剤を指す。タンパク質アルキル化剤の非限定的な例は、ヨードアセトアミド(IAA)、クロロアセトアミド(CAA)、アクリルアミド(AA)、N-エチルマレイミド(NEM)、メチルメタンチオスルホネート(MMTS)、及び4-ビニルピリジン又はこれらの組み合わせである。例示的な実施形態では、ヨードアセトアミドをアルキル化剤として使用する。
【0039】
本明細書で使用される場合、「タンパク質変性」は、分子の三次元形状が、その天然状態から変化するプロセスを指すことができる。タンパク質変性は、タンパク質変性剤を使用して行うことができる。タンパク質変性剤の非限定的な例としては、熱、高pH又は低pH、DTT(以下を参照されたい)のような還元剤、又はカオトロピック剤への曝露が挙げられる。いくつかのカオトロピック剤は、タンパク質変性剤として使用することができる。カオトロピックな溶質は、水素結合、ファンデルワールス力、及び疎水性効果などの非共有結合力によって媒介される分子内相互作用を妨げることによって、系のエントロピーを増加させる。カオトロピック剤の非限定的な例としては、ブタノール、エタノール、塩化グアニジニウム、過塩素酸リチウム、酢酸リチウム、塩化マグネシウム、フェノール、プロパノール、ドデシル硫酸ナトリウム、チオ尿素、N-ラウロイルサルコシン、尿素、及びこれらの塩が挙げられる。例示的な実施形態では、尿素を変性剤として使用する。
【0040】
本明細書で使用される場合、「タンパク質還元剤」という用語は、タンパク質中のジスルフィド架橋の還元に使用される剤を指す。タンパク質を還元するために使用されるタンパク質還元剤の非限定的な例は、ジチオスレイトール(DTT)、β-メルカプトエタノール、エルマン試薬、ヒドロキシルアミン塩酸塩、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP-HCl)、又はこれらの組み合わせである。例示的な実施形態では、DTTを、還元剤として使用する。
【0041】
本明細書で使用される場合、「消化」という用語は、タンパク質の1つ以上のペプチド結合の加水分解を指す。適切な加水分解剤を使用して試料中のタンパク質の消化、例えば、酵素消化又は非酵素消化を行うには、いくつかのアプローチがある。
【0042】
本明細書で使用される場合、「消化酵素」という用語は、タンパク質の消化を実行することができる多数の異なる剤のうちの任意のものを指す。酵素消化を行うことができる加水分解剤の非限定的な例としては、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus Saitoi)由来のプロテアーゼ、エラスターゼ、サブチリシン、プロテアーゼXIII、ペプシン、トリプシン、Tryp-N、キモトリプシン、アスペルギロペプシンI、LysNプロテアーゼ(Lys-N)、LysCエンドプロテイナーゼ(Lys-C)、エンドプロテイナーゼAsp-N(Asp-N)、エンドプロテイナーゼArg-C(Arg-C)、エンドプロテイナーゼGlu-C(Glu-C)又は外膜タンパク質T(OmpT)、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)の免疫グロブリン分解酵素(IdeS)、サーモリシン、パパイン、プロナーゼ、V8プロテアーゼ又はこれらの生物活性断片若しくはホモログ、又はこれらの組み合わせが挙げられる。タンパク質消化のための利用可能な技術について考察している最近の概説については、Switazar et al.、“Protein Digestion:An Overview of the Available Techniques and Recent Developments”(Linda Switzar,Martin Giera & Wilfried M. A. Niessen,Protein Digestion:An Overview of the Available Techniques and Recent Developments,12 JOURNAL OF PROTEOME RESEARCH 1067-1077(2013))を参照されたい。例示的な実施形態では、トリプシン及びLysCを消化酵素として使用する。
【0043】
本明細書で使用される場合、「液体クロマトグラフィー」という用語は、液体によって運ばれる生物学的/化学的混合物が、静止した液相又は固相を通って流れる(又は流れ込む)際の成分の分布の差の結果として、成分に分離できるプロセスを指す。液体クロマトグラフィーの非限定的な例は、逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー、又は混合モードクロマトグラフィーを含む。
【0044】
本明細書で使用される場合、「質量分析計」という用語は、特定の分子種を同定し、その正確な質量を測定できる装置を含む。当該用語は、ポリペプチド又はペプチドを特性評価することができる任意の分子検出器を含むことを意味する。質量分析計は、イオン源、質量分析器、及び検出器という3つの主要な部分を含む。イオン源の役割は、気相のイオンを生成することである。検体の原子、分子、クラスターは気相に移送され、同時に(エレクトロスプレーイオン化のように)又は別のプロセスを通じてイオン化される。イオン源の選択は、用途によって異なる。いくつかの例示的な実施形態では、質量分析計は、タンデム質量分析計であり得る。本明細書で使用される場合、「タンデム質量分析」という用語は、複数段階の質量選択及び質量分離を使用して試料分子の構造情報を取得する技術を含む。前提条件は、最初の質量選択ステップの後に、予測可能かつ制御可能な方法で断片が形成されるように、試料分子が気相に移送されてイオン化されることである。多段階MS/MS又はMSは、有意義な情報が得られるか又はフラグメントイオンシグナルが検出可能である限り、前駆体イオンを先ず選択して分離すること(MS)、それを断片化すること、一次フラグメントイオンを分離すること(MS)、それを断片化すること、二次フラグメントを分離すること(MS)などによって、実行することができる。タンデムMSは、様々な分析器の組み合わせで成功裏に実行される。特定の用途のために組み合わせる分析器は、感度、選択性、及び速度だけでなく、サイズ、コスト、及び可用性など、多くの異なる要因によって決定することができる。タンデムMS法の2つの主要なカテゴリは、空間的タンデム及び時間的タンデムであるが、時間的タンデム分析器が空間内で結合されている又は空間的タンデム分析器と結合されている、ハイブリッドも存在する。空間的タンデム質量分析計は、イオン源、前駆体イオン活性化装置、及び少なくとも2つの非トラップ型質量分析器を含む。特定のm/z分離機能は、機器の1つのセクションでイオンが選択され、中間領域で解離され、生成イオンが次いでm/z分離とデータ収集のために別の分析器に移送されるように設計できる。時間的タンデムでは、イオン源で生成された質量分析計イオンを同じ物理装置内で捕捉、分離、断片化し、m/z分離することができる。質量分析計によって同定されたペプチドは、インタクトなタンパク質及びこれらの翻訳後修飾を代表する代理として使用することができる。これらは、実験的及び理論的MS/MSデータを相関させることによって、タンパク質の特性評価に使用することができ、後者は、タンパク質配列データベース内の可能なペプチドから生成される。特性評価には、タンパク質断片のアミノ酸の配列決定、タンパク質配列決定の決定、タンパク質のデノボ配列決定の決定、翻訳後修飾の位置特定、又は翻訳後修飾の同定、又は比較可能性分析、又はこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0045】
いくつかの例示的な態様では、質量分析計は、ナノエレクトロスプレー又はナノスプレーを使用して動作することができる。
【0046】
本明細書で使用される場合、「ナノエレクトロスプレー」又は「ナノスプレー」という用語は、多くの場合、外部の溶媒送達を使用せずに、典型的には試料溶液が1分当たり数百ナノリットル以下の非常に低い溶媒流速でのエレクトロスプレーイオン化を指す。ナノエレクトロスプレーを形成するエレクトロスプレー注入設定は、静的ナノエレクトロスプレーエミッタ又は動的ナノエレクトロスプレーエミッタを使用することができる。静的ナノエレクトロスプレーエミッタは、長期間にわたって小さな試料(分析物)溶液体積の連続分析を実行する。動的ナノエレクトロスプレーエミッタは、質量分析計による分析の前に、キャピラリーカラム及び溶媒送達システムを使用して混合物のクロマトグラフィー分離を実行する。
【0047】
いくつかの例示的な態様では、質量分析計は、タンデム質量分析計とすることができる。
【0048】
本明細書で使用される場合、「タンデム質量分析」という用語は、複数段階の質量選択と質量分離を使用して試料分子の構造情報を取得する技術を含む。前提条件は、試料分子を気相に移してインタクトにイオン化することができること、及び最初の質量選択ステップの後に、ある予測可能かつ制御可能な方法で試料分子が崩壊するように誘導することができることである。多段階MS/MS又はMSは、有意義な情報が得られるか又はフラグメントイオンシグナルが検出可能である限り、前駆体イオンを先ず選択して分離すること(MS)、それを断片化すること、一次フラグメントイオンを分離すること(MS)、それを断片化すること、二次フラグメントを分離すること(MS)などによって、実行することができる。タンデムMSは、様々な分析器の組み合わせで成功裏に実行される。ある特定の用途にどの分析器を組み合わせるかは、感度、選択性、速度だけでなく、サイズ、コスト、可用性など、様々な要因によって決まる。タンデムMS法の2つの主要なカテゴリは、空間的タンデムと時間的タンデムであるが、時間的タンデム分析器が空間内で結合されている又は空間的タンデム分析器と結合されている、ハイブリッドも存在する。空間的タンデム質量分析計は、イオン源、前駆体イオン活性化装置、及び少なくとも2つの非トラップ型質量分析器を含む。特定のm/z分離機能は、機器の1つのセクションでイオンが選択され、中間領域で解離され、生成イオンがm/z分離とデータ収集のために別の分析器に移送されるように設計できる。時間的タンデムでは、イオン源で生成された質量分析計イオンを同じ物理装置内で捕捉、分離、断片化し、m/z分離することができる。
【0049】
質量分析計によって同定されたペプチドは、インタクトなタンパク質及びこれらの翻訳後修飾を代表する代理として使用することができる。これらは、実験的及び理論的MS/MSデータを相関させることによって、タンパク質の特性評価に使用することができ、後者は、タンパク質配列データベース内の可能なペプチドから生成される。特性評価には、タンパク質断片のアミノ酸の配列決定、タンパク質の配列決定の決定、タンパク質デノボ配列決定の決定、翻訳後修飾の位置特定、又は翻訳後修飾の同定、若しくは比較可能性分析、又はこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0050】
本明細書で使用される場合、「データベース」という用語は、試料中に、例えば、FASTA形式のファイルの形態で存在し得るタンパク質配列のコンパイルされた集合を指す。関連するタンパク質配列は、研究されている種のcDNA配列に由来し得る。関連するタンパク質配列を検索するために使用され得る公開データベースには、例えば、Uniprot又はSwiss-protによってホストされるデータベースが含まれる。データベースは、本明細書で「バイオインフォマティクスツール」と呼ばれるものを使用して検索され得る。バイオインフォマティクスツールは、データベース(複数可)内の全ての可能な配列に対して未解釈のMS/MSスペクトルを検索し、解釈された(注釈付き)MS/MSスペクトルを出力として提供する能力を提供する。このようなツールの非限定的な例は、Mascot(www.matrixscience.com)、Spectrum Mill(www.chem.agilent.com)、PLGS(www.waters.com)、PEAKS(www.bioinformaticssolutions.com)、Proteinpilot(download.appliedbiosystems.com//proteinpilot)、Phenyx(www.phenyx-ms.com)、Sorcerer(www.sagenresearch.com)、OMSSA(www.pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/omssa/)、X!Tandem(www.thegpm.org/TANDEM/)、Protein Prospector(prospector.ucsf.edu/prospector/mshome.htm)、Byonic(www.proteinmetrics.com/products/byonic)又はSequest(fields.scripps.edu/sequest)である。
【0051】
いくつかの例示的な実施形態では、質量分析計は、液体クロマトグラフィーシステムに結合されている。
【0052】
いくつかの例示的な実施形態では、質量分析計は、液体クロマトグラフィー-多重反応モニタリングシステムに結合され得る。より一般的には、質量分析計は、連続反応モニタリング(CRM)及び並列反応モニタリング(PRM)を含む、選択された反応モニタリング(SRM)によって分析することが可能であり得る。
【0053】
本明細書で使用される場合、「多重反応モニタリング」又は「MRM」は、高感度、特異性、及び広いダイナミックレンジを有する複雑なマトリックス内の小分子、ペプチド、及びタンパク質を正確に定量することができる質量分析ベースの技術を指す(Paola Picotti & Ruedi Aebersold,Selected reaction monitoring-based proteomics:workflows,potential,pitfalls and future directions,9 NATURE METHODS 555-566(2012))。MRMは、典型的には三連四重極質量分析計で実行され得、ここで、選択された小分子/ペプチドに対応する前駆体イオンが第1の四重極で選択され、前駆体イオンのフラグメントイオンが、モニタリングのために第3の四重極内で選択される(Yong Seok Choi et al.,Targeted human cerebrospinal fluid proteomics for the validation of multiple Alzheimers disease biomarker candidates,930 JOURNAL OF CHROMATOGRAPHY B 129-135(2013))。
【0054】
いくつかの態様では、本出願の方法又はシステムにおける質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又は三連四重極質量分析計であり得、質量分析計は、液体クロマトグラフィーシステムに接続され得、質量分析計は、LC-MS(液体クロマトグラフィー-質量分析)又はLC-MRM-MS(液体クロマトグラフィー-多重反応モニタリング-質量分析)分析を実行することができる。
【0055】
本明細書で使用される場合、「質量分析器」という用語は、質量に応じて種、つまり原子、分子、又はクラスターを分離できる装置を含む。使用され得る質量分析計の非限定的な例は、飛行時間型(TOF)、磁気/電気セクタ、四重極質量フィルタ(Q)、四重極イオントラップ(QIT)、オービトラップ、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)及びまた加速器質量分析(AMS)の技術である。
【0056】
本発明は、前述の関心対象のタンパク質(複数可)、抗体(複数可)、試料(複数可)、液体クロマトグラフィー方法(複数可)又はシステム(複数可)、質量分析計(複数可)、アルキル化剤(複数可)、還元剤(複数可)、消化酵素(複数可)、データベース(複数可)、又はバイオインフォマティクスツール(複数可)のいずれにも限定されず、関心対象の任意のタンパク質(複数可)、抗体(複数可)、試料(複数可)、液体クロマトグラフィー方法(複数可)又はシステム(複数可)、質量分析計(複数可)、アルキル化剤(複数可)、還元剤(複数可)、消化酵素(複数可)、データベース(複数可)、又はバイオインフォマティクスツール(複数可)は、任意の適切な手段によって選択することができることが理解される。
【0057】
前述の説明は、以下の実施例を参照することにより完全に理解されるであろう。しかし、それらは本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0058】
位置選択的ワンポットジメチル化プロトコル。位置選択的ワンポットジメチル化のためのプロトコルが本明細書に記載される。100μgの精製タンパク質を得た。タンパク質を、10μL(10μg/μL)の8Mの尿素中で、50℃で10分間変性させた。試料を冷却した。5%の酢酸、300mMのHCHO及び120mMのNaBHCNを含有する、2.5μLの8Mの尿素を含むジメチル化反応混合物を添加し、反応を37℃で15分間進めた。2.5%のNHOHを含有する2.5μLの8Mの尿素を添加してジメチル化反応をクエンチし、37℃で15分間インキュベートした。
【0059】
次いで、20mMのジチオスレイトール(DTT)を含む0.4MのTris pH7.5中の2.5μLの8Mの尿素を添加することによってタンパク質を還元し、37℃で15分間インキュベートした。タンパク質をアルキル化し、2.5μLの125mMのヨードアセトアミド(IAA)及び2μLの0.5μg/μLのrLys-C(基質対酵素比100)を添加することによって消化し、37℃で15分間、暗所でインキュベートした。その後、160μLの0.1MのTris pH7.5を添加して試料を希釈し、10μLの0.5μg/μLのトリプシン(基質対酵素比20)を添加して更なる消化を行い、37℃で2時間インキュベートした。3.5μLの5.75mU/μLのPNGase Fを各試料に添加し(基質対酵素比5、重量比)、37℃で1時間インキュベートした。最後に、LC-MS分析の前に、2μLの10%ギ酸(FA)を添加して消化を停止した。
【0060】
更に最適化されたプロトコル。位置選択的ワンポットジメチル化のための更なる最適化プロトコルが開発された。200μgの精製タンパク質を得た。タンパク質を変性させ、37℃で30分間、5mMのDTTを用いて20μL(10μg/μL)の8Mの尿素中で還元した。125mMのIAAを含有する2.5μLの8Mの尿素を添加することによってタンパク質をアルキル化し、37℃で15分間、暗所でインキュベートした。10%の酢酸、600mMのHCHO及び240mMのNaBHCNを含有する、2.5μLの8Mの尿素を含むジメチル化反応混合物を添加し、反応を37℃で30分間進めた。2.5%のNHOHを含有する5μLの8Mの尿素を添加してジメチル化反応をクエンチし、37℃で30分間インキュベートした。
【0061】
340μLの0.1MのTris pH7.5を添加して試料を希釈し、20μLの0.5μg/μLのトリプシン(基質対酵素比20)を添加して消化し、37℃で2時間インキュベートした。各試料に5.75mU/μLの7μLのPNGase Fを添加し(基質対酵素比5、重量比)、37℃で1時間インキュベートした。最後に、LC-MS分析の前に、4μLの10%のFAを添加して消化を停止した。
【0062】
実施例1.非位置選択的分子量カットオフ法
ジメチル化試料調製物及びLC-MS分析を使用して、精製タンパク質のデノボ配列決定のための新しい方法を開発した。この方法の条件を最適化するために、様々なアプローチを試験し、比較した。初期アプローチは、図4に示されるように試験した。このアプローチでは、インタクトなタンパク質をジメチル化試薬で非位置選択的に処理し、N末端α-アミン基及びリジン側鎖のε-アミン基のジメチル化をもたらし、次いでジメチル化試薬を分子量カットオフ(MWCO)フィルタとのバッファー交換によって除去する。
【0063】
具体的には、試料を尿素で変性させ、HCHO及びNaBHCNでインキュベートして、アミン基をジメチル化する。試料を30K MWCOフィルタとのバッファー交換に供して、ジメチル化試薬を除去する。次いで、試料を、ジチオスレイトール(DTT)を使用したシステイン還元、及びヨードアセトアミド(IAA)とのアルキル化に供する。タンパク質をrLys-C及びトリプシンで酵素消化に供し、最終的にLC-MS分析に供する。
【0064】
既知のタンパク質配列について、この方法を使用した例示的な結果を図5に示す。95%を超える収率が、例示的なタンパク質配列のN末端セリン(S)のジメチル化について達成された。78%のシーケンスカバレッジを達成した。図6の質量スペクトルに示すように、高エネルギーCトラップ解離(HCD)断片化後に、強化されたジメチル化インモニウムイオンが明確に観察された。
【0065】
この方法の潜在的な欠点には、リジンのεアミンの非特異的修飾が酵素消化を妨げる可能性があり、それにより、より長い配列の生成及びより低いシーケンスカバレッジをもたらすことが含まれた。更に、MWCOによるバッファー交換は、この方法を行うためのかなりの時間を上乗せしかつ試料損失を引き起こし、これが潜在的に、全イオンクロマトグラム(TIC)におけるより低いシグナルにつながる。
【0066】
実施例2.位置選択的分子量カットオフ法
タンパク質のN末端の検出及びアシスト分析を改善するために、実施例1に記載の方法を更に改変した。アミンの非位置選択的ジメチル化を使用する代わりに、図7に示されるように、位置選択的ジメチル化を使用した。N末端のα-アミン基とリジン側鎖のε-アミン基とのpKaの比較における違い(それぞれ約8及び10)により、それぞれが、異なるpHで優先的に化学反応する。したがって、特に3未満のpHを達成するために、1%酢酸の添加を使用してジメチル化反応のpHを制御することによって、N末端アミンを優先的にジメチル化することができる一方で、リジンは比較的修飾されていないままである。
【0067】
既知のタンパク質配列についてこの方法を使用した例示的な結果を図8に示す。分析は、N末端ジメチル化については99%超の収率が達成されたがリジン及び内部ペプチドのε-アミンでは0.1%未満のジメチル化が観察されたことを示した。したがって、位置選択的ジメチル化は、N末端ペプチドの検出におけるかなりの改善を可能にした。
【0068】
実施例3.位置選択的ワンポット法
LC-MSで達成可能なシグナルを増加させ、N末端ペプチドの同定及び配列決定を更に改善するために、実施例2の方法を更に改変した。MWCOステップとのバッファー交換を、更なるジメチル化反応を防止するためにジメチル化ステップの後に混合物にNHOHを添加することを使用するクエンチステップに置き換えた。バッファー交換ステップの省略は、試料の損失を低減し、したがってより高いシグナル強度を可能にした。
【0069】
実施例2のMWCO法と比較した、この方法を使用した例示的な結果を図9に示す。前述の方法と同様に、N末端ジメチル化に対して高い収率が達成され、リジン及び内部ペプチドのε-アミンにおいて0.1%未満のジメチル化が観察された。しかしながら、このワンポット法は、MWCO法と比較してTICシグナルの劇的な改善を示し、N末端ペプチドのより効果的な検出及び配列決定を可能にした。
【0070】
これら及び他のパラメータは、図10に示され、上記の「位置選択的ワンポットジメチル化プロトコル」の下で詳細に説明されるように、本発明の方法のために最適化された。将来の実験のために選択された最適なパラメータには、タンパク質を最初に変性させるための8Mの尿素の使用が含まれた。ジメチル化反応について、選択された最適なパラメータには、1%の酢酸、60mMのHCHO、24mMのNaBHCN、15分間の反応時間、及び37℃の反応温度の使用が含まれた。クエンチプロセスのために、選択された最適なパラメータには、37℃で15分間のNHOHの使用が含まれた。最後に、DTTを還元剤として、ヨードアセトアミドをアルキル化剤として選択した。
【0071】
実施例4.既知のタンパク質配列を用いた位置選択的ジメチル化の方法検証
本発明の方法の使用を検証するために、既知の配列を有するタンパク質を、位置選択的ジメチル化を使用してデノボN末端配列決定に供した。図11Aは、抗体融合タンパク質Ab1の構造を示す。Ab1は、多くの切断種を特徴とし、N末端の不均一性をもたらす。図11Bは、例えば、10M/11Y、90T/91N、及び99N/100Tにおける主要な切断部位を示す矢印を含む、Ab1の配列を示す。
【0072】
Ab1を、位置選択的ジメチル化によってデノボN末端配列決定に供し、切断によって産生されるN末端を、本発明の方法を使用して成功裏に検出した。図11Cは、10M/11Y切断タンパク質に由来するYインモニウムイオンの検出を示す。図11Dは、90T/91Nの切断に由来するDインモニウムイオンの検出を示す。図11Eは、99N/100Tの切断に由来するTインモニウムイオンの検出を示す。
【0073】
特に、99N/100Tは、非特異的トリプシン切断部位でもある。ジメチル化反応が起こり、次いで消化前にクエンチされるため、消化前に存在するN末端アミンのみがジメチル化され、インモニウムイオンを生成し、実験的な消化と比較してインビボ切断に由来したものと同じアミノ酸配列を有するペプチド断片の区別を可能にする。
【0074】
本発明の方法は、既知の配列を有する別のタンパク質であるモノクローナル抗体標準NISTmAbを使用して更に検証された。NISTmAb重鎖(HC)のN末端の約99%がピログルタミン酸(pyroQ)によってブロックされ、ジメチル化反応中の関与を妨げる。pyroQ又は多くの他の修飾のいずれかによるN末端のブロックは、遊離N末端アミンの修飾に依存する技術にとって一般的な課題である。しかしながら、本発明の方法は、N末端の大部分がブロックされていても、N末端ペプチドが同定され得るほどの高い感度を実証する。例示的な方法及びNISTmAbの分析の結果を図12に示し、ブロックされたN末端にもかかわらず、重鎖のQインモニウムイオン及び軽鎖のDインモニウムイオンの同定に成功したことを示す。
【0075】
実施例5.未知のタンパク質N末端デノボ配列決定のケーススタディ
本発明の方法は、未知のタンパク質N末端のデノボ配列決定のために使用され、実際の応用におけるその有用性を実証した。
【0076】
ストレプトコッカス・ピオゲネスに由来するIdeSプロテアーゼは、抗体治療薬の開発における貴重なツールである(米国公開第2007/0237784A1号)。IdeSは、ヒンジ領域の下でIgG抗体を特異的に切断し、2つのFc/2断片及び1つのF(ab’)(又はFab)断片を生成する。Hisタグを特徴とするIdeSの組換え修飾形態は、FabRICATOR(登録商標)の名称でGenovisから市販されている。
【0077】
FabRICATOR(登録商標)のインタクトなSEC-MS分析からのTICが図13Aに示され、主な単量体種に加えて、FabRICATOR(登録商標)が三量体、二量体、及び特性評価されていない切断種を含むことを実証する。Genovisは、FabRICATOR(登録商標)が37,725Daの分子量を有すると説明する。対照的に、図13Bに示されるように、当初公開されたIdeS配列の予測される質量は、36,644.5Daである。これは、IdeSと比較して、FabRICATOR(登録商標)が追加の未開示のアミノ酸を含み、その切断が、SEC-MSによって見られる切断種を生じさせる可能性があることを示唆する。FabRICATOR(登録商標)のインタクトな質量分析及びペプチドマッピング分析からの質量スペクトルをそれぞれ図13C及び図13Dに示す。従来の質量分析方法では、FabRICATOR(登録商標)のN末端配列を同定することができなかった。DSFSANQEIRである、開示されたIdeS N末端配列の以前は未開示の潜在的N末端配列を示す。
【0078】
未知のN末端配列のデノボ配列決定を行うために、対照試料及びジメチル化試料を並行して調製した。各出発試料中のFabRICATOR(登録商標)の総量は、10μg(0.05μg/μL)であった。両方の試料を調製し、対照試料にはジメチル化試薬を添加しなかったことを除いて上述の位置選択的ジメチル化法を使用して、分析した。各試料中のタンパク質のクロマトグラム注入量は、2μg/40μLであった。N末端配列の各ピーク対を手作業で同定した。ジメチル化ペプチドは、わずかに増加したLC保持時間及び28Daの質量増加を有することによって、区別可能であった。デノボ配列決定のために、対照試料 対 ジメチル化試料からの各bイオンは、ジメチル化されたN末端残基による28Daによって分離された一方、各yイオンは同じ正確な質量を有し、これによりb及びyイオンの容易な同定を可能にし、したがって、明確で効率的な配列決定が可能になった。次いで、結果を、インタクトなMSを含む追加の技術を使用して交差検証した。
【0079】
図14Aは、対照ペプチド及びジメチル化(DiMe)ペプチドを比較した、FabRICATOR(登録商標)N末端ペプチド1のクロマトグラムを示す。ジメチル化ペプチドは、増加した保持時間を示す。図14Bは、対応する質量スペクトルを示し、ジメチル化N末端ペプチドが28Daの予測される質量シフトを有することを示す。図14Cは、対照試料からのFabRICATOR(登録商標)N末端ペプチド1のMS/MSスペクトルを示す。配列中の第1のアミノ酸の同一性は、ここでは区別できず、したがって、配列決定は、従来のLC-MS/MSを使用しては不可能である。対照的に、図14Dは、ジメチル化試料からの対応するスペクトルを示す。ここで、ジメチル化G残基は、配列中の最初のアミノ酸として明確に可視である。図14C及び14Dのスペクトルを比較することによって、bイオンの同一性は、ジメチル化試料中に質量シフトを有しないyイオンと比較して、28Daの質量シフトを有することに基づいて明確に区別可能である。これはまた、各スペクトルの下のbイオン及びyイオンの表に示される。本発明の方法を使用して、FabRICATOR(登録商標)N末端ペプチド1は、GQQMGRの配列を有するものとして同定された。
【0080】
追加のFabRICATOR(登録商標)N末端ペプチドについて、同じプロセスを繰り返した。図15A~Cに示すように、N末端ペプチド2を配列決定し、GGQQMGRとして同定した。図16A~Cに示すように、N末端ペプチド3を配列決定し、SMTGGQQMGRとして同定した。図17A~Cに示すように、N末端ペプチド4を配列決定し、ASMTGGQQMGRとして同定した。図18A~Cに示すように、N末端ペプチド5を配列決定し、DPL(I)ADSFSANQEIRとして同定した。図19A~Cに示すように、N末端ペプチド6を配列決定し、RPDL(I)ADSFSANQEIRとして同定した。全ての場合において、本発明の方法は、N末端ペプチド及びN末端アミノ酸残基の効率的な標識及び同定を可能にし、これにより、bイオンの同定及びその後のアミノ酸配列決定が可能になった。
【0081】
FabRICATOR(登録商標)N末端の配列決定の結果を図20Aに要約し、これは、本明細書で特定されるメジャーN末端配列と、開示されるIdeS N末端配列に対するその相対位置とを示す。N末端配列であるMASMTGGQQMGは、T7遺伝子のT7メジャーキャプシドタンパク質に由来するT7エピトープタグとして同定された。T7タグは、一般に、免疫化学的方法を使用してタンパク質の分析を容易にするために、関心対象のタンパク質のN末端又はC末端上に操作される。更に、この方法を使用して特定されるマイナーN末端配列を図20Bに示す。
【0082】
本明細書で発見されたメジャー又はマイナーN末端配列を含むFabRICATOR(登録商標)の完全な配列を図20Cに示す。メジャーN末端配列を有する完全なFabRICATOR(登録商標)配列は、開示されるFabRICATOR(登録商標)分子量37,725Daに対応する、37,725.4Daの予測分子量を有する。同定されたN末端配列は、図20Dに示される例示的な質量スペクトルを用いて、インタクトな質量分析の使用によって更に検証された。本明細書で特定されるN末端配列を含むバリアントに対応する総質量を有するFabRICATOR(登録商標)の様々な種に注釈を付けている。
【0083】
前記分析からのFabRICATOR(登録商標)のシーケンスカバレッジは、対照試料(図20E)とジメチル化試料(図20F)との比較によって見ることができる。ジメチル化により、対照と比較したN末端ペプチドの優れた同定、及びN末端T7タグにおける共通の切断部位の明確な境界が可能になり、実施例4に示されるような切断部位の検出における本発明の方法の有効性が再現された。
【0084】
本明細書に開示される方法は、従来のペプチドマッピングプロトコルに追加されたときに、最小限の追加時間(約30分間)又は最小の困難度で、デノボN末端配列決定のための効率的な技術を提供する。位置選択的ワンポットジメチル化を使用した配列決定は、N末端ペプチドのシグナル強度を有意に改善し、高い標識効率を示し、切断部位の同定を可能にし、インビボ切断部位と酵素消化部位との間で区別された、主にブロックされたN末端の配列決定さえ可能にし、インタクトな質量分析結果と一致する未知のN末端を正確に配列決定することが示された。
【0085】
本明細書における方法の更なる最適化が企図される。例えば、還元及びアルキル化ステップの後に位置選択的ジメチル化を使用することによって、標識効率を更に向上させた。例示的な実験パラメータを図21Aに示し(図10と比較)、99.1%の実証された標識効率を有する。このプロトコルは、上記の「更なる最適化プロトコル」の下で詳細に説明されている。
【0086】
追加の最適化方法は、インモニウムイオンによってトリガされるMS/MSデータ取得である。HCD-MS/MSで生成されたインモニウムイオンは、N末端配列を同定し、それに応じて断片化技術を調整するために、機器によってリアルタイムで同定され得る。インモニウムイオンによってトリガされるMS/MSデータ取得は、データ分析を簡素化することができる。インモニウムイオンの自動同定の例示的な概略図を図21Bに示す。
【0087】
特定の試薬、分析物、及び方法パラメータが上記の実施例として記載されているが、本発明の方法は、これらの実施例に限定されず、当業者によって決定されるように、様々な試薬、分析物、又は方法パラメータを使用して適用され得ることを理解されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図12
図13A
図13B
図13C
図13D
図14A
図14B
図14C
図15A
図15B
図15C
図16A
図16B
図16C
図17A
図17B
図17C
図18A
図18B
図18C
図19A
図19B
図19C
図20A
図20B
図20C
図20D
図20E
図20F
図21
【国際調査報告】