(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】環境に優しい船舶推進システム
(51)【国際特許分類】
B63H 21/165 20060101AFI20240711BHJP
B63H 21/12 20060101ALI20240711BHJP
F03G 7/00 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
B63H21/165
B63H21/12
F03G7/00 G
F03G7/00 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501773
(86)(22)【出願日】2022-07-13
(85)【翻訳文提出日】2024-02-26
(86)【国際出願番号】 IB2022056452
(87)【国際公開番号】W WO2023285983
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519181010
【氏名又は名称】ホステットラー、ヨナス
【氏名又は名称原語表記】HOSTETTLER,Jonas
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ホステットラー、ヨナス
(72)【発明者】
【氏名】バッカーズ、ガブリエル
(72)【発明者】
【氏名】アル カバズ、アブドゥル ラーマン
(72)【発明者】
【氏名】ホステットラー、ユルク アンドレ
(57)【要約】
本発明は、環境に優しい船舶推進システムおよび船舶を推進するための対応する方法に関する。環境に優しい船舶推進システムは、浸透チャンバ(1)と、圧力逃しユニット(2)と、脱塩ユニットとを備え、浸透チャンバ(1)は、浸透膜(13)によって互いに分離されている高塩分濃度領域(11)及び低塩分濃度領域(12)を備える。圧力逃しユニット(2)は、船舶を駆動するためのエネルギーを生成するために、高圧ライン(21)を介して浸透チャンバ(1)の高塩分濃度領域(11)に接続されている少なくとも1つの圧力-運動変換器を備える。脱塩ユニットは、一方では塩又は少なくとも高塩分濃度水を、他方では真水又は少なくとも低塩分濃度水を生成するのに適している。真水パイプは、脱塩ユニットを浸透チャンバ(1)の低塩分濃度領域(12)に接続し、塩水供給部(14)は、浸透チャンバ(1)の高塩分濃度領域(11)に対して制御可能に接続されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸透チャンバ(1)と、圧力逃しユニット(2)と、脱塩ユニットと、を備える環境に優しい船舶推進システムであって、
前記浸透チャンバ(1)は、浸透膜(13)によって互いに分離されている高塩分濃度領域(11)及び低塩分濃度領域(12)を備え、
前記圧力逃しユニット(2)は、高圧ライン(21)を介して前記浸透チャンバ(1)の前記高塩分濃度領域(11)に接続されている1つ以上の圧力-運動変換器を備え、
前記脱塩ユニットは、塩水から、一方では塩又は少なくとも高塩分濃度水を、他方では真水又は少なくとも低塩分濃度水を生成するように構成されており、
真水パイプが、前記脱塩ユニットを前記浸透チャンバ(1)の前記低塩分濃度領域(12)に接続し、塩水供給部(14)が、前記浸透チャンバ(1)の前記高塩分濃度領域(11)に対して制御可能に接続されている、環境に優しい船舶推進システム。
【請求項2】
前記浸透膜(13)は、前記低塩分濃度領域(12)側において、連続的な毛細管路(153)を有する多孔質セラミック(15)を備える、請求項1に記載の環境に優しい船舶推進システム。
【請求項3】
前記多孔質セラミック(15)は、前記浸透膜(13)によって被覆されている管の形態であり、前記浸透チャンバ(1)は、前記セラミックの管が通過するタンクの形態であり、前記タンクは、前記高塩分濃度領域(11)を形成し、前記セラミックの管の内部空間が前記低塩分濃度領域(12)を形成する、請求項2に記載の環境に優しい船舶推進システム。
【請求項4】
前記圧力逃しユニット(2)は、2つのシリンダ(23a,23b)を備え、前記2つのシリンダ(23a,23b)は各々、第1のピストン(24a,24b)を有しており、それら第1のピストンは同じ長手方向軸に沿って配置されており、
-両第1のピストン(24a,24b)は、共に移動することが可能であるとともに互いから常に同じ距離にあるように互いに接続されており、
-各シリンダ(23a,23b)において他方のシリンダ(23a,23b)に面している領域は、前記第1のピストン(24a,24b)と、該シリンダ(23a,23b)の側壁と、該シリンダ(23a,23b)の固定端壁(26)とによって形成されている前方チャンバ(25a,25b)を形成しており、
-各シリンダ(23a,23b)の他方の側には、前記第1のピストン(24a,24b)と、側壁と、第2のピストン(281)の端面とによって画定されている後方チャンバ(27a,27b)があり、
-前記第2のピストン(281)は、接続ロッド(282)によって、前記船舶を推進するために使用されるクランクシャフト(283)に接続されており、
-前記後方チャンバ(27a,27b)は、それらの中に位置する液体の混合を回避するために、前記前方チャンバ(25a,25b)から空間的に分離されている、請求項2に記載の環境に優しい船舶推進システム。
【請求項5】
前記脱塩ユニットは、略円筒形であり複数の噴霧ノズル(321)を備える蒸発チャンバ(32)を備え、前記噴霧ノズル(321)は、前記蒸発チャンバ(32)において渦を発生させることが可能であるように配置されている、請求項1に記載の環境に優しい船舶推進システム。
【請求項6】
前記脱塩ユニットは、複数の噴霧ノズル(321)を有する蒸発チャンバ(32)を備え、噴霧ノズル(321)は、塩水(SW)用の中央塩水路(3211)と、高温空気(HL1)用の第1の同心空気路(3212)と、高温空気(HL2)用の第2の同心空気路(3213)とを有しており、前記中央塩水路(3211)は、前記噴霧ノズル(321)の長手方向中心軸を形成し、前記第1の同心空気路(3212)によって取り囲まれており、前記第1の同心空気路(3212)自体は、前記第2の同心空気路(3212)によって取り囲まれており、それらの同心空気路(3212,3213)は、円錐台形であり、前記噴霧ノズル(321)の前記長手方向中心軸に収束する、請求項1に記載の環境に優しい船舶推進システム。
【請求項7】
前記脱塩ユニットは、蒸発チャンバ(32)と、凝縮チャンバと、加熱器とを備え、前記凝縮チャンバは、前記流入する水蒸気及び凝縮された温かい前記真水の熱エネルギーを前記脱塩ユニットに入る前記塩水に伝達するための熱交換器である、請求項1に記載の環境に優しい船舶推進システム。
【請求項8】
浸透膜(13)によって互いに分離されている高塩分濃度領域(11)及び低塩分濃度領域(12)を備える浸透チャンバ(1)を用いて船舶を推進するための方法であって、
-環境から塩水を吸引して、前記高塩分濃度領域(11)の中に導入する工程と、
-前記浸透膜(13)を通じる浸透によって前記高塩分濃度領域(11)における圧力が増加する工程と、
-前記高塩分濃度領域(11)に掛かっている前記圧力を解放することによって、前記船舶を推進するためのエネルギーを生成する工程と、
-塩水の脱塩によって低塩分濃度水を生成する工程と、
-前記低塩分濃度領域(12)の中に低塩分濃度水を導入する工程と、を備える方法。
【請求項9】
低塩分濃度水は、前記高塩分濃度領域(11)から出てくる前記塩水の脱塩によって生成される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
塩又は高塩分濃度水が、塩水の脱塩によって生成され、前記塩又は高塩分濃度水は、前記高塩分濃度領域(11)に入る前記塩水と混合される、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載の環境に優しい船舶推進システム、及び請求項8に記載の船舶を推進するための対応する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の船舶推進システムは、通常では化石燃料によって動力が供給される大型エンジンからなる。CO2排出量を削減する努力の一環として、より環境に優しく持続可能なエネルギー源が現在使用されている。船舶の推進を保証するか、それに寄与するために、風又は太陽エネルギーを使用するいくつかのアプローチがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、代替の持続可能な供給源から船舶の推進システムへのエネルギーを得る、環境に優しい船舶推進システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的は、請求項1の特徴を有する環境に優しい船舶推進システム、及び請求項8の特徴を有する船舶を推進するための対応する方法によって達成される。さらなる特徴及び実施形態例は、従属請求項において言及され、それらの利点は、以下の説明において説明される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図2b】セラミックを備える浸透膜の実施形態を示す図。
【
図5】船舶推進システムの一実施形態の機能の概要を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0006】
図面は、以下の説明において説明される可能な実施形態例を表している。
本発明のコアは、塩水と真水(すなわち、塩を含まない水)との間の浸透からエネルギーを得る船舶推進システムである。海上において稼働する貨物船及びタンカーは、自由に使える無制限の量の水及び塩を有しており、これらは、環境に優しい手法において船舶を推進するために使用されることが可能である。
【0007】
本発明の最も単純な実施形態では、船舶推進システムは、浸透チャンバ1と、圧力逃しユニット2と、脱塩ユニットとを備える。
浸透チャンバ1は、高塩分濃度領域11と、低塩分濃度領域12とを備え、それらは浸透膜13によって互いに分離されている(
図1a)。高塩分濃度領域11及び低塩分濃度領域12は、液体(特に水)を受け入れるのに適当であり、高塩分濃度領域11における塩分濃度は、低塩分濃度領域12における塩分濃度よりも高い。浸透膜13は、好ましくはポリマー製であり、高塩分濃度領域11と低塩分濃度領域12との間において水を通過させるが、水に溶解した塩イオンを通過させない気孔を有する。高塩分濃度領域11及び低塩分濃度領域12における塩分濃度が異なるので、低塩分濃度領域12から高塩分濃度領域11への水の自発的な流れが、浸透原理に従って浸透膜13を通して生じる。このプロセスは、50MPaまでの過剰圧力を高塩分濃度領域11にもたらすことが可能であり、これは船舶を推進するために使用される。
【0008】
本発明の好ましい変形実施形態では、浸透膜13は、低塩分濃度領域12側に多孔質セラミック15を備えている(
図1b)。有利には、浸透膜13は、多孔質セラミック15上にコーティングを塗布することによって作製される。多孔質セラミックは、2つの必須の機能を果たす。第1に、その剛性及び機械的強度により、セラミック15は、高塩分濃度領域11に掛かっている高圧に耐え、浸透膜13のための支持構造として機能する。第2に、セラミック15によって、低塩分濃度領域12から高塩分濃度領域11への水の通過が促進される。この目的のために、セラミック15は、連続的な毛細管路153を有しており、水が毛細管力及びファンデルワールス力によって浸透し、低塩分濃度領域12から浸透膜13へ輸送される。これにより、低塩分濃度領域12に面しているセラミック15の表面上において水の吸引効果が生じ、セラミック15と浸透膜13との間の境界面において水圧が増加し、これにより、高塩分濃度領域11の中への水の通過が促進される。セラミック15の気孔率は、セラミック層15の厚さにわたって均一であってセラミック層15の両側において開口する単純な毛細管路153を備えてもよく、変化してもよい。例えば、セラミック層15において低塩分濃度領域12に面している側から浸透膜13との境界面まで延在している各毛細管路は、1つ以上の分岐を有してよい。分岐している毛細管路153によって、浸透膜13に対する境界面において生じる毛細管力及び水圧が増加し、したがって、高塩分濃度領域11への水の通過が促進される。したがって、セラミック層153は、毛細管路153の密度がより低い第1の領域151と、毛細管路153の密度がより高い第2の領域152とを有することが可能である。酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、又は両方の混合物は、適当なセラミック材料の例であり、耐腐食性であるという金属を超える利点を有する。
【0009】
好ましくは、セラミック15は、浸透膜によって被覆された管の形態であり、浸透チャンバ1は、セラミック管が通過するタンクの形態である(
図2a-b)。この実施形態では、タンクは高塩分濃度領域11を形成し、セラミック管の内部空間が低塩分濃度領域12を形成する。浸透膜13を通る体積流量を増加させるために、したがって浸透チャンバ1の性能を向上させるために、浸透膜13及び/又はセラミック15の領域、すなわち高塩分濃度領域11と低塩分濃度領域12との間の接触領域を増加させることが可能である。本発明の有利な実施形態では、浸透膜13及び/又はセラミック15は、所与の空間においてその表面積を最大化する幾何形状を有する。可能な実施形態では、浸透膜13及びセラミック15は平坦ではなく、多数の隆起及び窪みを有し、例えば、セラミック管15は、波形の外面を有することが可能である(
図2b)。
【0010】
圧力逃しユニット2は、高塩分濃度領域11に掛かっている過剰圧力を、例えば船舶のプロペラを用いて船舶を駆動するための機械エネルギーに変換するように構成されており、この目的のために少なくとも1つの圧力-運動変換器(例えばピストン)を有する。高圧ライン21が、加圧された水を浸透チャンバ1の高塩分濃度領域11から圧力逃しユニット2の圧力-運動変換器まで導く。圧力逃しユニット2を通過した後、使用された水が、塩水供給ライン31を介して脱塩ユニットに完全に又は部分的に導かれる。脱塩ユニットに導かれない残りの水を、ドレイン22を通して環境に放出することが可能である。この残りの水は添加剤又は化学汚染物質を含んでいない単なる塩水であるので、これによって汚染問題は引き起こされない。
【0011】
本発明の可能な実施形態では、圧力逃しユニット2は、2つのシリンダ23a,23bを有しており、2つのシリンダ23a,23bは各々、第1のピストン24a,24bを備え、それら第1のピストンは同じ長手方向軸に沿って配置されている(
図3a)。両第1のピストン24a,24bは、例えば1つ以上のロッド241によって互いに接続され、その結果、両第1のピストン24a,24bは共に移動し、常に互いから同じ距離にある。各シリンダにおいて他方のシリンダ23a,23bに面している領域は、前方チャンバ25a,25bを形成し、前方チャンバ25a,25bは、第1のピストン24a,24bと、シリンダ23a,23bの側壁と、シリンダ23a,23bの固定端壁26とによって画定されている。各前方チャンバ25a,25bの内部体積は、第1のピストン24a,24bがシリンダ23a,23bの端壁26に向かって移動すると減少し、第1のピストン24a,24bがシリンダ23a,23bの端壁26から離れると増加する。各シリンダ23a,23bの他方の側において、液体(例えば水又は油)を収容する後方チャンバ27a,27bがある。各後方チャンバ27a,27bは、第1のピストン24a,24bと、側壁と、第2のピストン281の端面とによって画定されている。後方チャンバ27a,27bの両方に対して単一の第2のピストン281が提供されており、第2のピストン281の一端が第1の前方チャンバ27aに面しており、第2のピストン281の他端が第2の前方チャンバ27aに面している。各第1のピストン24a,24bと第2のピストン281との間の各後方チャンバ27a,27bの内部体積が一定であるので、2つの後方チャンバ27a,27bの一端における第1のピストン24a,24bの運動によって、後方チャンバ27a,27bの他端における第2のピストン281の対応する運動が引き起こされる。この第2のピストン281は、接続ロッド282によって、船舶を推進するために使用されているクランクシャフト283に接続されている。後方チャンバ27a,27bは、好ましくは、前方チャンバ25a,25bから空間的に分離されており、例えば、ピストン24aが、2つのピストン部24a,24a’からなり、ピストン24bが、2つのピストン部24b,24b’からなり、それらは1つ以上のロッドによって互いに接続されている(
図3b)。これは、流体クリープを制御することが可能である(すなわち、作動油と塩水との混合を回避する)ように作動油を使用するときに特に有利である。2つのピストン部24aと24a’との間、及び24bと24b’との間には、それぞれ、空間的に分離された中間チャンバ241a,241bがあり、それぞれ、ピストン部24a,24a’、及び24b,24b’の運動を妨げないように、流体(例えば空気)が自由に流入及び流出することが可能である。
【0012】
各前方チャンバは、1つ以上の入口231と、1つ以上の出口232とを有しており、入口231は、高圧ライン21に対して接続されており、出口232は、塩水供給ライン31及び随意でドレイン22に接続されている。高圧ライン21の加圧水は、入口制御部により、入口231を開放又は封止することによって、一方のシリンダ23aの前方チャンバ25a、又は他方のシリンダ23bの前方チャンバ25bのいずれか一方に案内される。これは、例えば、2つの位置、すなわち、一方のシリンダ23aの入口231が密閉され、他方のシリンダ23bの入口231が開放される第1の位置と、一方のシリンダ23aの入口231が開放され、他方のシリンダ23bの入口231が密閉される第2の位置との間において移動可能な吸気弁293によって達成することが可能である。同じことが出口232にも当てはまり、出口制御部が、一方のシリンダ23a又は他方のシリンダ23bの出口232を開放又は密封することによって、前方チャンバ25a,25bのうちのいずれか一方からの水の流出が可能になる。これは、例えば、入口弁293と同様に機能する出口弁292によって達成することが可能である。一方の前方チャンバ25a,25bの入口231が開放されているとき、同じ一方の前方チャンバ25a,25bの出口232が常に密封されていることが重要である。次いで、高圧ライン21の加圧水は、係る前方チャンバ25a,25bに流れ込み、対応する第1のピストン24a,24bをシリンダ23a,23bの端壁26から離れるように押す。第1のピストン24a,24bの係る運動は、後方チャンバ27a,27bに位置する液体によって、第2のピストン281に伝達され、次いで、接続ロッド282に伝達される。第1のピストン24a,24bの両方は、互いに接続されているので、他方のシリンダ23a,23bの第1のピストン24a,24bは、シリンダの端壁26に向かって同時に移動し、対応する前方チャンバ25a,25bにおける水は、塩水パイプ31を通過し、随意でまた、ドレイン22を通ってそこから押し出されもする。各前方チャンバ25a,25bは、次のサイクルにおいて圧力ライン21からの加圧水で再び満たされる前に空にされる。次のサイクルの開始時に、入口弁及び出口弁292,293の位置が切り替えられる。
【0013】
浸透は遅いプロセスであるので、圧力逃しユニット2の特定の設計によっては、第1のピストン24a,24bの運動が船舶の直接推進には遅すぎる可能性がある。これを改善するために、第2のピストン281は、有利には、2つの第1のピストンよりも小さな直径を有しており、それにより、より大きな第1のピストン24a,24bが運動すると、より小さな第2のピストン281はより速く運動する。これに加えて、又はこれに代えて、圧力-運動変換器を加速するために、いくつかの浸透チャンバを圧力-運動変換器に接続することが可能でもある。
【0014】
本発明による船舶推進システムは、単一の浸透チャンバ1又はいくつかの浸透チャンバ1を備えることが可能である。各浸透チャンバ1は、比較的小さいことが可能であり、例えば100リットルの体積を有しており、いくつかの浸透チャンバ1を並列接続又は直列接続によって組み合わせて、所望の圧力及び速度を得ることが可能である。船舶推進システムはまた、単一又は複数の圧力逃しユニット2を備えることが可能でもあり、全ての圧力逃しユニット2が単一の浸透チャンバ1に対して接続されるか、各圧力逃しユニット2がそれ自体の別個の浸透チャンバ1に対して接続されるか、又はいくつかの浸透チャンバ1が圧力-運動変換器に対して接続されている。
【0015】
脱塩ユニットは、塩及び水を分離するのに適しており、それによって、一方では塩又は少なくとも高塩分濃度水が、他方では真水又は少なくとも低塩分濃度水が得られる。塩水供給ライン31は、圧力逃しユニット2によって使用される塩水を脱塩ユニットに向ける。これに加えて、又はこれに代えて、塩水(すなわち、船舶が海上で航行している場合は海水)をまた、環境から脱塩ユニットに直接導くことが可能でもある。塩水は、蒸留及び/又は電気透析によって脱塩ユニットへと脱塩される。
【0016】
蒸留を伴う脱塩ユニットの実施形態では、脱塩ユニットは、蒸発チャンバ32と、凝縮チャンバと、蒸発に必要な熱エネルギーを塩水に提供する加熱器とを備える。塩水は、太陽エネルギーを用いて加熱することによって、例えば、温水ソーラーコレクタ(太陽集熱器)又は熱交換器を直接通過させることによって加熱され、この場合では、別の適当な熱伝達流体がソーラーコレクタを通過させられる。加熱は、また、電気的であってもよく、光太陽電池又は風力タービンからの電気エネルギーを用いて動作されてもよい。典型的な貨物船及びタンカーは、数百メートルの長さ及び数十メートルの幅であり、ソーラーパネル及び太陽電池に利用可能な相当な空間を残している。風力タービンは、天候が十分な太陽エネルギーを生成するには曇りすぎているときに特に有益である。塩水のより良好な蒸発のために、脱塩ユニットはまた、蒸発チャンバ32において噴霧ノズル321を有しもする。それらは、加熱された塩水を小さな液滴に噴霧し、それにより、塩水と脱塩ユニットの内部雰囲気との間の接触面積が増加し、したがって塩水の蒸発が促進される。蒸発した水は次に蒸発チャンバ32から凝縮チャンバまで導かれ、真水として凝縮され、このとき、全ての不揮発性要素(塩など)は、蒸発チャンバ32の底上に蓄積する。有利には、蒸発チャンバ32の内壁は、可能な限り滑らかであり、塩の結晶がほとんど付着しない材料からなるか、そのような材料によって被覆されている。これにより、蒸発チャンバ32の内壁上における過剰な結晶形成が回避され、塩の全てが蒸発チャンバ32の底に落下して、そこで容易に収集されることが可能であることが確実になる。適当な材料は、例えば、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)又はチタンによって被覆されている高性能セラミックである。塩水の蒸留によって、一方では塩が、他方では真水が生成されている。
【0017】
凝縮チャンバが熱交換器として設計され、流入する水蒸気及び温かい凝縮された真水の熱エネルギーが(水蒸気が100℃未満に低下するとすぐに)、脱塩ユニットに入る塩水に伝達される場合、特に有利である。脱塩ユニットに入る塩水を加熱するためのエネルギーが、脱塩ユニットを出る水から大部分は得られるので、凝縮チャンバを熱交換器として設計することによって、相当なエネルギー節約が可能になる。次いで、生成された真水は、真水パイプを介して浸透チャンバ1の低塩分濃度領域12の中に供給され、浸透によって自発的に高塩分濃度領域11の中に戻る。
【0018】
有利な実施形態では、蒸発チャンバ32は、実質的に円筒形であり、複数の噴霧ノズル321を備え、噴霧ノズル321は、蒸発チャンバ32において渦を発生させるように配置されている(
図4a)。例えば、複数の噴霧ノズル321を蒸発チャンバ32の内壁上に配置し、半径方向と接線方向との間の角度(例えば半径方向に対して45°)において位置合わせすることが可能である。蒸発チャンバ32において発生した渦により、落下する塩の結晶Sは蒸発チャンバ32の中央領域に限定され、その内壁上に堆積しない。これによってまた、内部の雰囲気及び液滴が絶えず循環することが確実にもなり、塩水の蒸発が改善される。また、噴霧ノズル321が、塩水SW用の中心塩水路3211と、高温空気HL1用の第1の同心空気路3212と、高温空気HL2用の第2の同心空気路3213とを備える場合、特に有利である。中央塩水路3211は、噴霧ノズル321の長手方向中心軸を形成し、第1の同心空気路3212によって取り囲まれ、第1の同心空気路3212自体は、第2の同心空気路3212によって取り囲まれている。同心空気路3212,3213は円錐台形であり、噴霧ノズル321の長手方向中心軸に収束しており、噴霧ノズル321の前において中央塩水路3211から出る塩水SWは、まず第1に、第1の同心空気路3212から出る高温空気流HL1と交差し、次いで第2の同心空気路3212から出る高温空気流HL2と交差する。塩水SWは、高温空気の噴霧セルVZにおいて高温空気流HL1,HL2によって取り囲まれ、それにより、塩水SWが噴霧ノズル321から出た直後の塩水SWの迅速な蒸発と、水W及び塩Zの迅速な分離とが確実になる。特に効率的な蒸発は、塩水路3211の前又は塩水路3211における塩水SWが90℃より高い温度に加熱され、同心空気路3211,3212における高温空気HL1,HL2が108℃より高い温度に加熱されるときに達成され、第2の同心空気路3212における空気の温度は、第1の同心空気路3211における空気の温度より高い。
【0019】
蒸留を用いる脱塩ユニットの特定の実施形態では、塩水の蒸発によって蒸発チャンバ32において生じる過剰蒸気圧が、電気を発生させるために使用される。この目的のために、例えば蒸発チャンバ32と凝縮チャンバ33との間に配置されている少なくとも1つの蒸気タービン6が提供されている。さらに、蒸発チャンバ32において生成される蒸気の一部はまた、凝縮チャンバ33に直接到達することが可能でもあり、蒸気水の残りの部分は、蒸気タービン6に導かれ、次いで環境に放出されることが可能である。
【0020】
電気透析を用いる脱塩ユニットの実施形態では、脱塩ユニットは、光太陽電池からの太陽エネルギーで動作する電気透析セパレータを有する。電気透析セパレータは、塩と水とを完全に分離することが可能ではなく、したがって、流入する塩水から、一方では高塩分濃度水を生成し、他方では低塩分濃度水を生成する。次いで、生成される低塩分濃度水は、真水パイプを介して浸透チャンバ1の低塩分濃度領域12の中に送られ、そこから浸透を介して自発的に高塩分濃度領域11に送られる。脱塩ユニットは、必ずしも塩イオンを完全に含まない真水を生成する必要はない。浸透の唯一の決定的な因子は、低塩分濃度水の塩分濃度が、高塩分濃度範囲11における水の塩分濃度よりも著しく低いことである。しかしながら、実験によって、低塩分濃度水を使用する場合、塩イオンによって浸透膜が遮断されるリスクがあることが示されている。
【0021】
脱塩ユニットの好ましい実施形態では、電気透析セパレータは単独では使用されず、むしろ、例えば蒸発チャンバ32の前において切り替えられ、塩及び水の予備的な部分分離に役立つ。
【0022】
塩水は、環境から抽出され(すなわち、船舶が海上を移動しているとき、海水)、塩水供給部14を通って浸透チャンバ1の高塩分濃度領域11に入る。船舶の推進を制御するために、塩水供給部14は、高塩分濃度領域11に対して制御可能に接続されており、多かれ少なかれ開閉されることが可能である。浸透チャンバ1における塩水の最適な混合のために、塩水が浸透チャンバ1のいくつかの側に導入される場合、すなわち塩水供給部14が浸透チャンバ1における様々な点においていくつかの出口を有することが可能である場合、有利である。加圧ユニット4が、塩水を高塩分濃度領域11の中に注入するために提供される場合もまた有利であり、加圧ユニット4は、環境から塩水を吸い込み、それを高塩分濃度領域11に掛かっている同じ圧力下に置く。加圧ユニット4は、高塩分濃度領域11から出る水の圧力エネルギーの一部が、高塩分濃度領域11に入る塩水を加圧するために再利用されるように、圧力逃しユニット2に対して機械的に接続される場合、特に有利である。
【0023】
圧力逃しユニット2のグロス電力L
bruttoは、圧力Dと高塩分濃度領域11から出る水の体積流量V
3との積に比例する(L
brutto∝D・V
3)。このグロス電力L
bruttoから、加圧電力L
DBAが消費され、加圧電力L
DBAは、高塩分濃度領域11の中に注入される塩水の圧力Dと体積流量V
1との積に比例する(L
DBA∝D・V
1)。船舶を推進するために利用可能な圧力逃しユニット2の残りの正味電力L
nettoは、それゆえに、L
netto=L
brutto-L
DBA、すなわち、L
netto∝D(V
3-V
1)である。高塩分濃度領域11から出る水の体積流量V
3は、高塩分濃度領域11の中に注入された塩水の体積流量V
1と、浸透膜13を通じて自発的に浸透する低塩分濃度領域12の真水の体積流量V
2との和である(V
3=V
1+V
2)。圧力逃しユニット2の正味電力L
nettoはしたがって、圧力Dと浸透膜13に浸透する真水の体積流量V
2との積に比例する。すなわち、L
netto∝D(V
3-V
1)∝D・V
2である。浸透原理によれば、浸透チャンバ1の高塩分濃度領域11における圧力Dと、浸透膜13を通じる体積流量V
2との両方は、高塩分濃度領域11における水の塩分濃度と、低塩分濃度領域12における水の塩分濃度との間の差の増加関数である。圧力逃しユニット2の最適な性能のために、高塩分濃度領域11における水の塩分濃度は、可能な限り高くあるものであり、低塩分濃度領域12における水の塩分濃度は、可能な限り低くあるものである。真水(塩分濃度ゼロ)が脱塩ユニットから浸透チャンバ1の低塩分濃度領域12の中に入る場合、真水の塩分濃度がさらに低減されることはない。しかしながら、高塩分濃度領域11における水の塩分濃度は、極端な場合には飽和まで増加させることが可能である。本発明の有利な実施形態では、高塩分濃度領域11の中に注入される塩水の塩分濃度は、脱塩ユニットによって生成される塩又は高塩分濃度水によってさらに増加される。この目的のために、塩再利用ユニットが提供されており、それは、蒸発チャンバ32からの塩又は電気透析セパレータからの高塩分濃度水を収集し、塩供給部51を介して塩混合器52に輸送する。塩混合器52は、塩又は高塩分濃度水を、浸透チャンバ1の高塩分濃度領域11に既にあるか、高塩分濃度領域11の中に注入される水に加えるために使用される(
図2a)。塩混合器52はまた、例えば塩水供給部14に配置することが可能でもある。過飽和塩水の形態、すなわち固体塩結晶を含有している塩水の形態において塩が導入される場合、有利である。
【0024】
本発明によれば、船舶の推進力は、塩又は高塩分濃度水、及び真水又は低塩分濃度水を燃料として消費する浸透チャンバによって生成される。塩又は高塩分濃度水、及び真水又は低塩分濃度水の供給は、周囲領域からの太陽エネルギーを使用して絶えず更新される。しかしながら、これは晴れた時間を想定している。船舶を始動させるために、及び太陽のない長期間(例えば夜間)のために、したがって、補助エネルギー源が利用可能である場合、有利である。本発明による船舶推進システムが、水素から駆動力を発生させることが可能である水素推進システムをまた備えもする場合、特に有利である。このために必要な水素は、水素タンクに貯蔵されている。水の電気分解によって水素を生成することが可能である水素発生器がまた、存在もする場合が好ましい。水素は、晴れている間に光太陽電池からの太陽エネルギーを使用して生成され、後の消費のために水素タンクに貯蔵されることが可能である。
【0025】
図5は、説明されている船舶推進システムの最も重要な特徴を要約したものである。すなわち、
a)例えば船舶の排水量を利用することによる海水の浸入
b)流入する海水への塩の任意の添加
c)浸透チャンバ1の高塩分濃度領域11の中への注入のための加圧
d)浸透チャンバにおける浸透
e)圧力-運動変換器2によって水圧を運動に変換
f)船舶推進
g)加熱器(好ましくは熱交換器)によって塩水を加熱
h)蒸発チャンバ32の中への塩水の蒸発
i)凝縮チャンバにおける水蒸気の冷却及び凝縮
j)真水を収集し、真水を浸透チャンバ1の低塩分濃度領域12の中に導入
k)塩の生成
l)塩の貯蔵
m)過剰な塩を海の中に戻す
n)過剰な蒸気圧を蒸発チャンバ32から蒸気タービンに導く
o)蒸気タービンによる電気エネルギーの生成
p)煙突を通して蒸気を排出
q)太陽電池又は風力タービンによる電気エネルギーの生成、又はソーラーコレクタによる熱の生成
r)加熱
s)太陽電池又は風力タービンからの余剰電気を使用して真水を電気分解
t)真水の電気分解による酸素の生成
u)真水の電気分解による水素の生成
v)電力不足を補うために電気を生成する燃料電池。
【国際調査報告】