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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】薄膜多孔質触媒シート
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/052 20210101AFI20240711BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20240711BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240711BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240711BHJP
   C25B 13/02 20060101ALI20240711BHJP
   B01J 37/025 20060101ALI20240711BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20240711BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20240711BHJP
   B01J 35/58 20240101ALI20240711BHJP
   C25B 11/031 20210101ALN20240711BHJP
【FI】
C25B11/052
C25B11/081
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B13/02 301
B01J37/025
B01J37/02 301P
B01J23/46 M
B01J35/58 C
C25B11/031
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501884
(86)(22)【出願日】2022-07-12
(85)【翻訳文提出日】2024-03-11
(86)【国際出願番号】 NL2022050406
(87)【国際公開番号】W WO2023287284
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】2028705
(32)【優先日】2021-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511095850
【氏名又は名称】ネーデルランドセ・オルガニサティ・フォール・トゥーヘパスト-ナトゥールウェテンスハッペライク・オンデルズーク・テーエヌオー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アリレザ・ペジマン・シルヴァニアン
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA11
4G169BA17
4G169BB02A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB06A
4G169BB11A
4G169BB15A
4G169BB18A
4G169BC22A
4G169BC26A
4G169BC50A
4G169BC51A
4G169BC52A
4G169BC54A
4G169BC55A
4G169BC56A
4G169BC58A
4G169BC59A
4G169BC60A
4G169BC74A
4G169BC74B
4G169CB81
4G169DA06
4G169EA01Y
4G169EA04Y
4G169EA09
4G169EA10
4G169EA13
4G169EB15X
4G169EB15Y
4G169EB17X
4G169EB17Y
4G169EC29
4G169FA02
4G169FB03
4G169FB23
4G169FC08
4K011AA11
4K011AA21
4K011AA32
4K011BA07
4K011CA06
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB10
4K021DB11
4K021DB13
4K021DB31
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC03
(57)【要約】
本開示は、特にプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置用の触媒シートに関し、触媒シートは基材シートおよび堆積された触媒材料を含み、基材シートは多孔質かつ導電性である。本発明は、そのような触媒シートを備えた電解装置、水素製造方法および製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートおよび堆積された触媒材料を含む、特にプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置用の触媒シートであって、
前記基材シートが多孔質かつ導電性であり、
前記触媒材料が、前記基材シートの内表面および/または外表面上に薄膜または薄膜パッチとして堆積され、
前記触媒シートは好ましくは自己支持型である、触媒シート。
【請求項2】
透過型電子顕微鏡を用いて測定した前記薄膜および/または薄膜パッチの平均厚さが5nm以下、好ましくは2nm以下である、請求項1に記載の触媒シート。
【請求項3】
100μg/cm以下、好ましくは50μg/cm以下、より好ましくは20μg/cm以下の触媒材料担持量を有する、請求項1または2に記載の触媒シート。
【請求項4】
前記堆積された触媒材料の大部分、好ましくは前記堆積された触媒材料の60重量%以上が、50μm以下の細孔深さで前記基材の内表面上に堆積される、請求項1~3のいずれか一項に記載の触媒シート。
【請求項5】
触媒材料の総量の80重量%以上、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上が、0.10μm~20μmの細孔深さで前記基材シートの内表面上に堆積されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の触媒シート。
【請求項6】
前記基材が金属繊維布からなり、前記触媒材料がイリジウムおよび/または酸化イリジウムを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の触媒シート。
【請求項7】
イオン交換膜(2)と、隣接する触媒層とを含み、
前記触媒層が請求項1~6のいずれか一項に記載の触媒シート(3)として提供され、
好ましくは、多孔質輸送層(4)をさらに含む、電気化学反応器用の膜電極アセンブリ(1)。
【請求項8】
触媒シート(3)が触媒層(5)および多孔質輸送層(6)を含む、請求項7に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項9】
前記触媒シート(3)が膜(2)と直接接触している、請求項7または8に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項10】
アノード、カソード、プロトン交換膜またはアニオン交換膜、前記プロトン交換膜またはアニオン交換膜の各側の触媒層、多孔質輸送層、およびバイポーラプレートを含む、プロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置であって、
前記触媒層の少なくとも1つが、請求項1~6のいずれか一項に記載の触媒シートとして提供され;前記基材シートおよび前記堆積された触媒材料を含み、任意選択で前記多孔質輸送層も前記触媒シートの基材を提供する、プロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置。
【請求項11】
前記基材シートが、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、Cr、V、Mo、ならびにそれらの酸化物、ホウ化物および炭化物から選択される1つ以上を含む、請求項10に記載のプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置。
【請求項12】
前記触媒材料がイリジウムおよび/または酸化イリジウムを含む、請求項10または11に記載のプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置。
【請求項13】
前記薄膜または薄膜パッチのそれぞれが、前記基材シートの表面に沿って延び、互いに垂直である長さ方向および幅方向と、前記長さ方向および前記幅方向の両方に垂直である厚さ方向とを有し、
前記薄膜または薄膜パッチの長さおよび幅は、互いに独立して、前記薄膜または薄膜パッチの厚さの少なくとも2倍、好ましくは少なくとも5倍大きい、
請求項10~12のいずれかに記載のプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置。
【請求項14】
前記薄膜または薄膜パッチのそれぞれが、透過型電子顕微鏡を使用して測定した、5nm以下、好ましくは2nm以下の厚さを有する、請求項10~13のいずれかに記載のプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置。
【請求項15】
前記触媒材料の大部分が、細孔深さ>0.10μmで前記基材シートの内表面上に堆積される、請求項10~14のいずれかに記載のプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置。
【請求項16】
触媒材料の総量の80重量%以上、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上が、0.10μm~20μmの細孔深さで前記基材シートの内表面上に堆積される、請求項10~15のいずれかに記載のプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置。
【請求項17】
前記触媒シートが、前記触媒シートの総重量に対して5重量%未満、好ましくは1.0重量%未満のアイオノマーを含み、より好ましくは前記触媒シートはアイオノマーを実質的に含まない、請求項10~16のいずれかに記載のプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置。
【請求項18】
前記触媒シートの総重量に対して95重量%以上、好ましくは97重量%以上、より好ましくは99重量%以上が金属、金属合金、および/または金属酸化物である、請求項10~17のいずれかに記載のプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置。
【請求項19】
前記基材シートの細孔の平均直径が150μm以下、好ましくは50μm以下である、請求項10~18のいずれかに記載のプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置。
【請求項20】
前記基材シートが膜側面および反対側面を有し、前記基材シートが細孔勾配および/または段階的細孔を有し、平均細孔直径は、前記基材シートの前記反対側面よりも前記基材シートの前記膜側面で小さい、請求項10~19のいずれかに記載のプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置。
【請求項21】
前記基材シートが複数の多孔質導電性シートの積層体を含む、請求項10~20のいずれかに記載のプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置。
【請求項22】
前記基材シートが、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、Cr、V、Mo、ならびにそれらの酸化物、窒化物、ホウ化物、および炭化物から選択される1つ以上を含み、
前記基材シートの細孔の平均直径が50μm以下であり、
前記触媒材料がIrおよび/または酸化イリジウムを含む、請求項10~21のいずれかに記載のプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置。
【請求項23】
前記基材シートの表面積がナノ構造化され、および/または粗く、好ましくは5倍以上の表面積増大を有する、請求項10~22のいずれかに記載のプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置。
【請求項24】
前記基材シートの外表面および/または内表面は、その上に前記触媒材料が堆積される導電性コーティング層で少なくとも部分的に覆われ、
前記コーティング層は、好ましくは、強力な金属-担体相互作用を通じてその上に堆積される前記触媒材料の特性に影響を与える材料を含み、
コーティング材料は、好ましくは、TiN、TiB、ZrC、およびアンチモンドープ酸化スズから選択される1つ以上を含む、請求項10~23のいずれかに記載のプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置。
【請求項25】
前記触媒シートが、1mg/cm以下、好ましくは500μg/cm以下、より好ましくは100μg/cm以下、例えば20μg/cm以下の触媒材料担持量を有する、請求項10~24のいずれかに記載のプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置。
【請求項26】
触媒層および隣接する多孔質輸送層が、請求項1に記載の1つの触媒シートとして共に提供される、請求項10~25のいずれかに記載のプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置。
【請求項27】
請求項10~26のいずれか一項以上に記載のプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置で行われる水素製造方法であって、前記プロトン交換膜の各側の前記触媒層に水を供給することと、前記アノードおよび前記カソードの間に電圧を印加することとを含む、方法。
【請求項28】
請求項1~6のいずれか一項に記載の触媒シートの製造方法であって、
-多孔質かつ導電性の基材シートを製造および/または提供するステップと、
-前記基材シートの内表面および/または外表面上に触媒材料の薄膜または薄膜パッチを堆積させるステップと、を含み、
前記触媒シートは、好ましくは請求項7~26のいずれか1つ以上に定義された特徴を有する、方法。
【請求項29】
触媒材料の前記薄膜または薄膜パッチが、原子層堆積、好ましくは空間原子層堆積を使用して堆積される、請求項28に記載の触媒シートの製造方法。
【請求項30】
前記基材シートが金属繊維布であり、
好ましくは、前記基材シートが、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、Cr、V、Mo、ならびにそれらの酸化物、ホウ化物および炭化物から選択される1つ以上を含み、より好ましくはTiを含み、
前記触媒材料はIrまたはその酸化物である、請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
空間原子層堆積が使用される、請求項29または30に記載の方法。
【請求項32】
空間原子層堆積は、前駆体インジェクタヘッドを含む装置内で実行され、
前記前駆体インジェクタヘッドは、前駆体供給部と、使用中に前記前駆体インジェクタヘッドおよび前記基材表面によって境界付けられる堆積空間とを含み、
前記前駆体インジェクタヘッドは、前駆体供給部から前記堆積空間に前駆体ガスを注入して前記基材表面と接触させるように配置され、
前記装置は、堆積空間と基材との間で、前記基材表面の平面内で相対運動するように配置され、
前記装置には、注入された前記前駆体ガスを前記基材表面に隣接する前記堆積空間に閉じ込めるために配置された閉じ込め構造が設けられる、請求項29~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
請求項28~32のいずれか一項に記載の方法によって得られる、請求項1~6のいずれか一項に記載の触媒シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材シートと触媒材料とを含む触媒シート、特に、例えばプロトン交換膜水電解装置および/またはアニオン交換膜水電解装置用の触媒シートに関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換膜反応器は電気化学反応で広く使用されている。例えば、プロトン交換膜水電解装置やアニオン交換膜水電解装置における水の分解による水素の生成は、電気エネルギーを化学的に貯蔵するための有望な技術として注目されている。
【0003】
イオン交換膜反応器では、典型的には、伝導性イオン交換膜と多孔質輸送層(PTL)との間に触媒層(CL)が配置される。このような触媒層および多孔質輸送層は、イオン交換膜反応器のアノード側、イオン交換膜反応器のカソード側、またはその両方に存在することができる。
【0004】
既知の触媒層は、多くの場合、膜上のコーティングとして提供され、典型的にはイオン伝導性膜上に触媒インクを堆積させることによって触媒コーティングされた膜を与える。触媒インクは、バインダーと混合された触媒ナノ粒子を含む。バインダーは、例えばアイオノマーである。
【0005】
したがって、そのような触媒層は触媒ナノ粒子を含み、触媒ナノ粒子は互いに電気的に接触し、多孔質輸送層(PTL)と電気的に接触し、膜とイオン的に接触する。ナノ粒子を適所に安定化および/または保持するために、アイオノマーが使用されることができ、アイオノマーは、触媒層内でバインダーおよびイオン伝導体の両方として機能し、それによって異なるナノ粒子間およびナノ粒子と多孔質輸送層との間の電気的接触を維持し、ナノ粒子と膜との間のイオン接触も維持する。典型的には、例えばNafion(登録商標)などのパーフルオロスルホン酸(PFSA)系アイオノマーがアイオノマーとして使用される。
【0006】
しかし、イオン伝導体およびバインダーとして使用されるこれらのアイオノマー(例えば、Nafion(登録商標))は、触媒ナノ粒子を覆うか部分的に覆う可能性があり、それによってアクセス可能な触媒表面を減少させる。さらに、アイオノマーおよび/またはバインダーは多孔質触媒層の気孔率を低下させる可能性があり、反応物および生成物の両方の物質移動に悪影響を与える可能性がある。この問題は、アノード側とカソード側の触媒層の両方で発生する可能性がある。
【0007】
別の問題は、触媒の担持量が低いと、触媒層の残りの触媒ナノ粒子とも多孔質輸送層とも接触しない触媒ナノ粒子の孤立した凝集体が形成される可能性があり、これが触媒利用率の減少につながる可能性があることである。
【0008】
さらに、既存の多孔質触媒層では、特に反応器が高電流密度で運転される場合、生成物として形成される可能性のある気泡が、多くの場合触媒表面から反応物を奪うことも困難である。既存の多孔質触媒層の気孔率は、触媒表面からの気泡の迅速な除去を容易にするのには適していない。
【0009】
従来の触媒層の欠点は、アイオノマーまたはバインダーの劣化により、一部の触媒ナノ粒子が物理的に残りの粒子から除去または分離され、反応器の性能の低下につながる可能性があることである。
【0010】
既存の触媒層の別の欠点は、触媒ナノ粒子が長期間安定していないことである。一部の触媒材料の凝集や溶解、オストワルド熟成などの要因により、多孔質触媒層は時間の経過とともに比較的早く失活する傾向がある。
【0011】
さらに、貴金属がイオン交換膜反応器の触媒材料として使用されることが多いため、そのような反応器のコストは非常に高くなる可能性がある。したがって、低い触媒利用率やその他の非効率などの問題を解決することは、技術的な観点からだけではなく経済的な観点からも重要である。特に、例えば化学結合などの形で、電気エネルギーを貯蔵するための非常に重要な方法となる可能性がある水分解による水素生成などの用途で、イオン交換反応器の効率の向上とコストの削減は技術的にも経済的にも非常に大きな影響を及ぼし得る。
【0012】
プロトン交換膜水電解装置が経済的に実行可能な水素製造技術となるためには、少ない触媒担持量を使用して高電流密度で動作できる電解装置を提供することが望ましい。
【0013】
非特許文献1では、プロトン交換膜(PEM)水電解装置のレビューが提供されている。
【0014】
非特許文献2には、膜電極アセンブリ用の多孔質輸送電極が記載されている。アノード触媒層のスプレーコーティングにはIrOインクが使用され、インクには乾燥ベースで2wt.%のNafionが含まれており、焼結チタン繊維基材上に塗布された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】シルバニアン、“Novel components in Proton Exchange Membrane (PEM) Water Electrolyzers (PEMWE): Status, challenges and future needs. A mini review”、Electrochemistry Communications、114、2020、106704
【非特許文献2】ビューラーら、“From Catalyst Coated Membranes to Porous Transport Electrode Based Configurations in PEM Water Electrolyzers”、J.Electrochem.Soc.、166、F1070、2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、既知の触媒層に関する上述の課題の1つ以上を解決する触媒層を提供することである。さらに、本発明の目的は、例えば気孔率、物質輸送、伝導性、利用可能な触媒表面積、触媒利用率などに関する、イオン交換膜反応器のための改善された特性を有する触媒層を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、第1の態様において、基材シートおよび堆積された触媒材料を含む、特にプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置用の触媒シートに関し、基材シートは多孔質かつ導電性であり、触媒材料は、前記基材シートの内表面および/または外表面上に薄膜または薄膜パッチとして堆積される。好ましくは、堆積された触媒材料の大部分、好ましくは堆積された触媒材料の60重量%以上が、50μm以下の細孔深さで基材の内表面上に堆積される。好ましくは、触媒シートは自己支持型であることが好ましい。
【0018】
本発明は、イオン交換膜および隣接する触媒層を含む電気化学反応器用の膜電極アセンブリにも関し、ここで、触媒層は本発明による触媒シートとして提供される。好ましくは、多孔質輸送層をさらに含む。
【0019】
本発明はまた、イオン交換膜水電解装置、特に、アノード、カソード、プロトン交換膜またはアニオン交換膜、プロトン交換膜またはアニオン交換膜の各側の触媒層および多孔質輸送層、ならびに典型的にはバイポーラプレートを含むプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置に関し、ここで、触媒層の少なくとも1つは、本発明による触媒シートとして提供される。
【0020】
本発明はまた、本発明のプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置で実行される水素製造方法にも関し、前記方法は、プロトン交換膜の各側の触媒層に水を供給するステップと、アノードとカソードとの間に電圧を印加するステップとを含む。
【0021】
本発明はまた、本発明による触媒シートの製造方法にも関し、前記方法は多孔質かつ導電性の基材シートを製造および/または提供するステップと、触媒材料の薄膜または薄膜パッチを前記基材シートの内表面および/または外表面上に堆積させるステップとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】イオン交換膜と多孔質輸送層との間に配置された、本発明による触媒シートを概略的に示す図である。
図2】多孔質輸送層を含む本発明による触媒シートを概略的に示す図である。
図3】本発明の例示的な実施形態による膜電極アセンブリを概略的に示す図である。
図4】実施例の1つで使用された基材シートの電子顕微鏡画像を示す図である。
図5】実施例の1つで製造された触媒シートの写真を示す図である。
図6】電位の増減を2000サイクル行う加速ストレス試験の結果を示す図である。
図7】様々な電流密度での比電力密度のプロットを示す図である。
図8】分極曲線を示す図である。
図9】触媒シートの断面SEM画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図面に示される実施形態はいずれも例にすぎず、本発明を限定するものではない。
【0024】
本発明は、一態様において、基材シートとして多孔質導電性シートを含む触媒シートを使用し、触媒活性材料を担体の内表面および/または外表面上に薄膜または薄膜パッチとして堆積させるという賢明な洞察に基づく。
【0025】
本明細書で使用される場合、また当技術分野で一般的であるように、多孔質基材シートの外表面とは、基材シートの最大の細孔に適合するには大きすぎる最短寸法を有する物質がアクセスできる基材シートの表面を指す。内表面とは、多孔質基材シートの細孔に適合するのに十分小さい物質(物体または気体など)のみがアクセスできる多孔質基材シートの表面を指す。
【0026】
これにより、触媒材料の電気化学的に活性な表面積(ECA)の利用が改善されるという利点がもたらされる。さらに、向上した触媒の安定性が得られる。
【0027】
水の電気分解や他の電気化学プロセスでは、貴金属を含む高価な触媒の使用が必要なため、このようなプロセス用の触媒材料を効率的に使用することが非常に重要である。特定の触媒材料がどの程度効率的に使用されるかは、様々な異なるパラメータによって記述できる。これらのパラメータのうちの1つは触媒担持量である。膜反応器中の触媒担持量は、通常、膜の幾何学的表面積に対する触媒重量で表される。電気化学反応器の性能に悪影響を与えることなく、電気化学セル内の触媒担持量を低くすることができれば、触媒材料はより効率的に使用される。触媒材料が効率的に使用されているかどうかを記述するために使用できる別のパラメータは、触媒利用率である。
【0028】
本明細書で使用される場合、触媒利用率は、触媒材料の全表面積に対する、触媒作用を行うために利用可能な触媒材料の表面積の量を指す。触媒利用率に影響する可能性のある要因には、露出し反応物がアクセスできる触媒表面の量だけでなく、物質移動、すなわち反応物が触媒表面に到達する速さや、生成物が形成された後に触媒表面から離れる速さも含まれる。触媒材料の効率的な使用に寄与する別の要因は、触媒性能である。回転頻度としても知られる触媒性能は、触媒材料の活性サイトによって単位時間当たりに生成物に変換できる反応物の量を指す。反応物、生成物および触媒材料の化学的性質、触媒材料の表面、反応機構、温度や圧力などの反応条件など、多くの要因が触媒性能に関与する。
【0029】
貴金属などの希少で高価な触媒材料を電気化学反応器で効率的に使用するには、電気化学反応器の性能にあまり影響を与えることなく、理想的には触媒担持量が低減されるにもかかわらず電気化学反応器の性能を向上させさえしながら、触媒担持量を減らすことが望ましい。
【0030】
電気化学セルでは、触媒が電極と電気的に接触していることが重要である。触媒が複数の個別の触媒片を含む場合、これらの個別の触媒片が互いに、かつ電極と電気的に接触していることが重要である。
【0031】
本発明においては、触媒材料が導電性基材シートの内表面および/または外表面上に薄膜または薄膜パッチとして堆積された触媒シートを提供することにより、担体上に堆積された触媒材料はすべて、相互に電気的に接触し、基材シートが電極と電気的に接触している場合には、電極とも電気的に接触する。これは、触媒材料がナノ粒子として提供されることが多く、個別の触媒ナノ粒子間の電気的接触は、バインダーおよび/またはアイオノマーによって適所に保持される粒子の直接の物理的接触を通じて提供される、当技術分野で知られている電気化学セルに利点をもたらす。このような系は、導電性基材シート上に堆積された触媒よりも制御がはるかに困難である。例えば、特に触媒担持量が低い場合、一部のナノ粒子が残りのナノ粒子から孤立し、電極と電気的に接触しないことが発生する可能性がある。このような孤立が発生すると、これは触媒利用率に悪影響を及ぼす。
【0032】
効率的な物質移動、すなわち触媒表面に向かう流体の移動、および触媒表面から遠ざかる流体の移動は、利用可能な触媒材料を効果的に利用するために非常に重要である。多孔質基材シートの特性は、良好な物質移動が達成できるように選択されることができる。最適化できるパラメータには、空隙率ε(気孔率とも呼ばれることがある)、曲路率τ、および多孔質基材シートの細孔の細孔サイズが含まれる。
【0033】
好ましくは、触媒シートは自己支持型である。イオン交換膜反応器内の既知の触媒層は、膜上の触媒コーティングとして適用されることが多い。このような触媒コーティングされた膜は、典型的には、触媒材料およびバインダーまたはイオン伝導性アイオノマーを含む触媒インクを膜上に堆積させることによって製造される。薄膜または薄膜パッチがその上に堆積された自己支持型基材シートを提供することにより、膜電極アセンブリの組み立ておよび/または既存の膜反応器における触媒シートの交換が容易になる可能性がある。また、触媒シートの製造が、膜電極アセンブリの組み立てとは異なる場所または異なる者によって行われることも可能になる。
【0034】
その上に触媒材料の薄膜または薄膜パッチが堆積される基材シートを提供することにより、その上に触媒材料が印刷された膜よりも再現性が高く品質が安定した触媒シートが得られる可能性がある。
【0035】
また、本明細書では、イオン交換膜および隣接する触媒層を含む電気化学反応器用の膜電極アセンブリが提供され、触媒層は本明細書に記載の触媒シートとして提供される。
【0036】
膜電極アセンブリおよび/またはプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置などのイオン交換膜反応器において、触媒シートは、好ましくはイオン交換膜に直接隣接して配置される。実施形態では、触媒シートは膜側面および反対側面を有する。触媒シートが膜側面を有する場合、触媒が膜電極アセンブリ内または電気化学反応器内に配置される際この膜側面が膜に面することが好ましい。
【0037】
図1は、本発明の例示的な実施形態による膜電極アセンブリの概略図を示しており、膜電極アセンブリ(1)は、イオン交換膜(2)、触媒シート(3)、および多孔質輸送層(4)を含む。触媒シート(3)は膜側面(3a)と反対側面(3b)を有する。
【0038】
イオン交換膜反応器で使用される膜電極アセンブリにおいて、本発明による触媒シートは、イオン交換膜の片面または両面に配置され得る。電気化学反応器では、膜は通常、アノード側およびカソード側を有する。本発明による触媒シートは、イオン交換膜のアノード側、膜のカソード側、または膜の両側に配置することができる。本発明による触媒シートがイオン交換膜のアノード側およびカソード側の両方に配置される場合、アノード側で触媒される必要がある反応は、通常、カソード側で触媒される必要がある反応とは異なるため、触媒材料は通常、2つの触媒シートで異なることになる。これについては、以下の図3でさらに例示する。特に好ましいのは、触媒シートがアノード側に配置されることであり、とりわけ特に金属布基材およびIr触媒を備える触媒シートである。
【0039】
好ましくは、基材シートは自己支持型である。これは特に、シートを個別のシートとして扱うことができることを意味する。
【0040】
基材シートは導電性であるべきであるので、基材は、好ましくは金属を含む。基材シートに特に適した材料には、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、Cr、V、Mo、ならびに酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、およびそれらの組み合わせから選択される1つ以上が含まれる。他の適切な金属に比べて密度が低く、コストが低いため、基材シートは、好ましくはTiを含む。これらの材料および好ましいものは、アノード側で使用される触媒に特に当てはまる。
【0041】
適切な多孔質基材シートは、例えば、繊維を安定化するために一緒に織られ、焼結された金属(Tiなど)の繊維を特に含むことができる。このような基材の一例が実施例1で使用される。他の場合には、基材シートは、多孔質シートを形成するために一緒に焼結されたミクロンサイズの金属粒子(Tiなど)を含む。
【0042】
好ましい実施形態では、基材シートは、金属繊維布、例えば、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、Cr、Mo、V、並びに酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、およびそれらの組み合わせの群から選択される1つ以上の金属の繊維製の布からなり、より好ましくは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、Cr、MoおよびVの群から選択される1つ以上の金属の繊維製の布からなる。非常に好ましくは、基材シートはTi繊維布からなる。
【0043】
好ましくは、布の繊維、特に金属繊維は、好ましくは前記金属繊維の場合、5μm~100μm、より好ましくは10μm~50μmの範囲の直径を有する。例えば、繊維布は、10体積%~80体積%、例えば40体積%~70体積%の範囲の空隙率を有する。空隙率は、例えば、走査型電子顕微鏡法(SEM)などの電子顕微鏡法を使用して測定することができる。
【0044】
例えば触媒シートが燃料電池において使用される場合に、他の伝導性材料、特にカーボンの布が使用されることができるが、水電解装置で使用される、燃料電池で使用される低電圧と比較して高い電圧でカーボンが急速に劣化するため、カーボンクロスは水電解装置での使用にはあまり好ましくない。
【0045】
特に適切な多孔質基材シートは、Bekaert社から入手できるBekipor(登録商標)材料、またはToho Titanium社から入手できるWEBTi(登録商標)材料である。例えば、基材シートとして、約22μmの直径、56%の気孔率および500g/mの重量を有するTi繊維製の布であるBekipor(登録商標)ST 2 GDL 10-0,25を使用すると、実施例に示すように、優れた結果が得られた。
【0046】
触媒される必要がある反応に応じて、多種多様な触媒材料を堆積させることができる。触媒ナノ粒子の堆積とは反対に、本発明において、触媒材料は多孔質基材シートの内表面および/または外表面上に薄膜または薄膜パッチとして堆積される。
【0047】
触媒材料は、1つ以上の金属および/または金属酸化物を含んでもよい。好ましくは、触媒材料は、1つ以上の遷移金属(すなわち、第3族~第12族金属)および/またはそれらの酸化物を含む。
【0048】
水の電気分解中にアノード側で水素を電気化学的に生成するために触媒シートが使用される好ましい実施形態では、触媒材料は、好ましくはRu、Rh、Pd、Os、Ir、Ptおよびそれらの酸化物の群から選択される1つ以上を含む。
【0049】
アノード側で使用される触媒シート用に、触媒がIrおよび/または酸化イリジウムを含む場合、水の電気分解について特に良好な結果が得られた。
【0050】
電気触媒作用において、触媒材料は、従来、既知のプロセスおよび装置においてナノ粒子の形態であることが多い。ナノ粒子、例えば球状または回転楕円体のナノ粒子は、表面対体積比が高いため、触媒材料をナノ粒子の形態で提供することが良いと考えられることが多い。非常に有利なことに、触媒活性材料を基材シート上の薄膜または薄膜パッチとして提供することによって、触媒の改善された安定性が得られることが見出された。理論によって束縛されるものではないが、ナノ粒子の表面が極端に湾曲し、高い表面エネルギーをもたらす領域を典型的に含むナノ粒子と比較して、この形態の触媒材料は溶解、焼結、凝集、合体およびオストワルド熟成などのプロセスの影響を受けにくい可能性がある。
【0051】
ナノ粒子とは対照的に、薄膜または薄膜パッチはそれぞれ、基材シートの表面に沿って延在し互いに直交する長さ方向および幅方向と、長さ方向および幅方向の両方に垂直な厚さ方向とを有してもよく、ここで、薄膜または薄膜パッチの長さおよび幅は、互いに独立して、薄膜または薄膜パッチの厚さより少なくとも2倍、好ましくは少なくとも5倍大きい。したがって、薄膜または薄膜パッチは、少なくとも2、より好ましくは少なくとも5のアスペクト比を有する。
【0052】
好ましくは、薄膜および/または薄膜パッチの平均厚さは、10nm以下、例えば5nm以下である。より好ましくは、薄膜または薄膜パッチは、好ましくはそれぞれ5nm以下、さらにより好ましくは2nm以下の厚さを有する。これは、効率的な触媒の使用に貢献する。
【0053】
薄膜または薄膜パッチの長さ方向および幅方向の寸法、ならびに厚さは、さまざまな方法を使用して測定できる。例えば、平らな表面では、エリプソメトリを使用してこれらの寸法と厚さを特徴付けることができる。薄膜または薄膜パッチの寸法および厚さを特徴付ける他の適切な方法には、高解像度走査型電極顕微鏡法(HR-SEM)および透過型電子顕微鏡法(TEM)が含まれる。電子顕微鏡技術は、薄膜パッチが基材シートの内部表面領域などの平坦でない表面に堆積される場合に、薄膜パッチを特徴付けるのに特に適している。
【0054】
本明細書で使用される場合、細孔深さは、触媒シートの膜側面から一定の距離にある触媒シートの細孔内の位置を指し、前記距離は、触媒シートの膜側の面に直交する方向に沿って測定される。触媒材料の薄膜または薄膜パッチが触媒シートの膜側の外表面に堆積されている場合、触媒材料が膜と直接接触すると、触媒表面の活性サイトがブロックされ、触媒利用率が低下する可能性がある。したがって、触媒を膜側の触媒シートの外表面の非常に近くに堆積させるが、膜と直接接触する外表面上の触媒の量を最小限に抑えることが好ましい。
【0055】
したがって、触媒材料の大部分、例えば触媒材料の少なくとも60重量%が、0.10μmを超える細孔深さで基材シートの内表面上に堆積されることが好ましい。
【0056】
一方、触媒材料が高すぎる細孔深さで堆積される、すなわちイオン交換膜から遠すぎるとき、このこともまた電気化学反応器の性能に悪影響を与える可能性がある。性能への悪影響は、触媒材料が膜からより離れると、触媒材料から膜へのプロトン輸送(または、アニオン交換膜の場合はアニオン輸送)がますます困難になるという事実によって引き起こされる。したがって、実施形態では、触媒材料の大部分、例えば触媒材料の少なくとも60重量%は、50μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、さらにより好ましくは10μm以下、例えば5μm以下の細孔深さで堆積される。好ましい実施形態では、触媒材料の総量の80重量%以上、好ましくは90重量%以上が、20μm以下の細孔深さで基材シートの内表面上に堆積される。さらにより好ましくは、触媒材料の総量の80重量%以上、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上が、基材シートの内表面上に0.10μm~20μmの細孔深さで堆積される。
【0057】
イオン交換膜反応器で使用される当技術分野で知られている膜電極アセンブリでは、触媒層は、典型的には、触媒インクとして膜上に塗布される。触媒層の反対側には、典型的には、反応物を触媒層に向かって輸送し、生成物を触媒層から遠くへ輸送するよう機能する多孔質輸送層がある。本発明による触媒シートは、図1に概略的に示すように、当技術分野で知られているイオン交換膜反応器と同じ方法で膜と多孔質輸送層との間に配置されることもできる。
【0058】
したがって、本発明は、イオン交換膜、本開示で提供される触媒シート、および多孔質輸送層の積層アセンブリにも関し、イオン交換膜、触媒シート、および多孔質輸送層がこの順序で積層される。
【0059】
代替的に、または追加で、本発明による触媒シートは、多孔質輸送層を含んでもよい。本発明による触媒シートが多孔質輸送層も含む場合、触媒シートは触媒層および多孔質輸送層を含む。
【0060】
図2は、イオン交換膜(2)および触媒シート(3)を含む膜電極アセンブリ(1)の概略図を示す。触媒シートは、触媒層(5)および多孔質輸送層(6)を含む。
【0061】
触媒シートの厚さは、例えば2μm~50μm、好ましくは5μm~30μm、例えば10μm~20μmの範囲内である。触媒シートが多孔質輸送層を含む場合、触媒シートの厚さは、例えば50μm~1mm、好ましくは100μm~500μm、例えば150μm~250μmの範囲内である。
【0062】
触媒層および多孔質輸送層を含む触媒シートの例は、触媒材料の大部分が50μm以下の細孔深さでその上に堆積された上述の触媒シートである。その場合、触媒材料の大部分が堆積される触媒シートの層は触媒層と呼ばれ、一方、触媒シートの残りは多孔質輸送層と呼ばれる。
【0063】
触媒シートが薄い場合、例えば50μm以下の場合、より高い機械的堅牢性を提供するために、その上に触媒材料が堆積されていない別の基材シートの上に触媒シートを積層することが有利な場合がある。この他の基材シートは、多孔質輸送層(PTL)として有利に機能する。
【0064】
一実施形態において、本発明は、厚さが50μm以下であり、第2の基材シート上に積層された第1の基材シートを含み、第2の基材シートは、例えば、多孔質輸送層である、本明細書に記載の触媒シートを含む積層体を提供する。
【0065】
本発明による触媒材料は導電性基材シート上に堆積されるので、アイオノマーバインダーなどの導電性バインダーの使用は必要ない。したがって、バインダーは触媒の表面へのアクセスを妨げ、それによって触媒利用率を低下させる可能性があるため、触媒シートは、好ましくは触媒シートの総重量に対して5重量%未満、より好ましくは1.0重量%未満のバインダーを含む。最も好ましくは、触媒シートはアイオノマーおよび/または他のバインダーを実質的に含まない。
【0066】
多孔質基材シートおよび触媒材料は、好ましくは、1つ以上の金属、金属酸化物、および/または基材シートの場合には金属炭化物、金属窒化物、および金属ホウ化物を含むため、また、バインダーなどの他の材料の存在が触媒利用率に悪影響を与える可能性があるため、触媒シートは金属および金属ベースの化合物の含有量が高いことが好ましい。好ましくは、触媒シートは、1つ以上の金属、金属合金、および/またはそれらの酸化物、炭化物、窒化物、およびホウ化物を95重量%以上、より好ましくは97重量%以上、例えば99重量%以上含む。
【0067】
基材シートの細孔の直径は、50μm以下から約150μmまでの範囲で変化することができる。実施形態において、基材シートの細孔の平均直径は50μm以下、好ましくは0.5μm~15μm、例えば1μm~10μmである。基材シートの最小の細孔は、平均細孔直径が小さすぎない限り、1μm未満、さらには0.5μm未満の細孔直径を有してもよい。しかし、平均細孔直径が小さすぎると、物質輸送抵抗の問題が発生する可能性がある。平均細孔直径は、例えば、走査型電子顕微鏡法(SEM)などの電子顕微鏡法を使用して測定することができる。
【0068】
好ましい実施形態では、基材シートは、細孔勾配および/または段階的細孔を有してもよい。
【0069】
特に、触媒材料に向かう物質移動および触媒材料から遠ざかる物質移動を促進するために、好ましい実施形態において膜側面および反対側面を有する基材シートは、細孔勾配および/または段階的細孔を示し、平均細孔直径は基材シートの反対側面よりも基材シートの膜側面でより小さい。
【0070】
有利には、このような段階的細孔を有する基材シートは、複数の多孔質導電性シートの積層体を提供することによって製造することができ、積層体の膜側の多孔質導電性シートは、積層体の反対側の導電性シートの平均細孔直径よりも小さい平均細孔直径を有する。
【0071】
特定の実施形態では、基材シートは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、Cr、V、Mo、およびそれらの酸化物から選択される1つ以上を含み、基材シートの細孔の平均直径は50μm以下であり、触媒材料はIrおよび/または酸化イリジウムを含む。
【0072】
基材シートの表面積はナノ構造化されてもよく、その結果、その上に触媒材料を堆積させることができる、より大きな表面積が得られる。ナノ構造化は、2μm以下、例えば1μm以下の高さの差、および平均直径が20nm~100nmの高い領域を含んでもよい。したがって、ナノ構造化は、基材シートの有利な粗さを提供することができる。好ましくは、基材シートのナノ構造化表面積は、5倍以上、より好ましくは10倍以上、例えば5倍~100倍の表面積増大を有する。5倍~100倍の表面積増大とは、基材シートのナノ構造化表面積が基材シートの幾何学的面積よりも5倍~100倍大きいことを意味する。
【0073】
ナノ構造化はさまざまな方法で実現できる。ナノ構造化を提供する1つの例示的な方法は、強塩基性溶液、例えば5M NaOHを使用して、例えば100℃~200℃、例えば140℃~180℃で、例えば少なくとも30分間または少なくとも60分間、基材シート、例えばTi繊維布をエッチングすることである。実験では、この結果、長さ約1μmの毛髪状のウィスカーのナノ構造が生成され、特に、基材としてTi繊維布を用いる場合、基材の表面が非常に粗くなることが見出された。
【0074】
実施形態において、基材シートの外表面および/または内表面は、その上に触媒材料が堆積されるコーティング層で少なくとも部分的に、例えば部分的または全体的に覆われる。コーティング層は導電性であることが好ましい。コーティング層は、好ましくは、強力な金属-担体相互作用を通じてその上に堆積される触媒材料の特性に影響を与える材料を含む。コーティング材料は、TiN、TiB、ZrC、およびアンチモンドープ酸化スズから選択される1つ以上を含むことが好ましい。このようなコーティングは、耐久性だけでなく触媒活性や回転頻度にもプラスの影響を与える可能性がある。
【0075】
既知のイオン交換膜反応器には、典型的には、高価な触媒が多く担持されている。プロトン交換膜水電解装置のアノード側の触媒材料の典型的な担持量は、例えば2mg Ir/cmである。本発明による触媒シートを使用すると、触媒利用率が向上するため、少ない触媒担持量で所望の性能を達成することが可能である。
【0076】
好ましくは、触媒シートは、1000μg/cm以下、より好ましくは500μg/cm以下の触媒材料担持量を有する。触媒シートは、100μg/cm以下、例えば50μg/cm以下、または20μg/cm以下の触媒材料負荷でも所望の活性を提供することができる。例えば、触媒材料の担持量は、1μg/cm~100μg/cm、または5μg/cm~20μg/cm、または1μg/cm~10μg/cmと低くすることができる。1.0μg/cm未満、例えば0.1μg/cm~1.0μg/cmの触媒材料担持量でも活性な触媒シートを提供することも可能であるかもしれない。本明細書に記載された触媒材料担持量は、膜の幾何学的面積当たりの触媒重量として表され、例えば、誘導結合プラズマ質量分析法(ICPMS)を使用して測定することができる。上述のように、触媒材料は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、Cr、V、Mo、およびそれらの酸化物から選択される1つ以上を含んでもよい。本明細書で使用する場合、触媒が金属酸化物または別の金属化合物(例えば酸化イリジウム)を含む場合には、触媒材料担持量は1cm当たりの金属(例えばイリジウム)の量を指す。
【0077】
好ましくは、触媒シートは膜と直接接触している。基材シートは導電性であるため、触媒シートと膜との間の直接接触により良好な電気的接触がもたらされ、したがって、堆積された触媒材料自体が膜と直接接触していない場合でも、堆積された触媒および膜からプロトンまたはアニオンが効率的に輸送される。一方、接着剤などの別の層が触媒シートと膜との間に存在すると、イオン輸送が悪影響を受けることになる。触媒シートと膜との間の直接接触は、例えば触媒シートを膜上にホットプレスすることによって達成することができる。
【0078】
本発明の別の態様は、アノード、カソード、プロトン交換膜、前記プロトン交換膜の各側にある触媒層、多孔質輸送層、およびバイポーラプレートを含むプロトン交換膜水電解装置であり、触媒層のうちの少なくとも1つは、本明細書に記載された触媒シートとして提供される。
【0079】
同様に、アノード、カソード、アニオン交換膜、前記アニオン交換膜の各側にある触媒層および多孔質輸送層、ならびにバイポーラプレートを含むアニオン交換膜水電解装置も提供され、触媒層のうちの少なくとも1つは、本明細書に記載された触媒シートとして提供される。
【0080】
プロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置を表すために使用できる別の用語は、イオン交換膜水電解装置である。
【0081】
イオン交換膜の各側にあるバイポーラプレートは、典型的に電解装置に存在し、反応物および生成物を触媒材料へ、および触媒材料から輸送するのに役立つ。
【0082】
イオン交換膜の反対側の触媒層は、それぞれ、電解装置のアノードまたはカソードとして機能し得る。
【0083】
触媒シートに関連したすべての好ましいものおよび詳細な特徴の議論は、プロトン交換膜水電解装置およびアニオン交換膜水電解装置にも適用される。ここでいう触媒シートとは、
【0084】
触媒シートが多孔質輸送層を含む場合、本明細書に記載されるプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置の触媒層および隣接する多孔質輸送層は、本発明による1つの触媒シートとして共に提供され得る。
【0085】
本発明による水素製造方法では、本明細書に記載のプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置において水素を製造することができ、水素製造方法は、イオン交換膜の各側の触媒層に水を供給すること、およびアノードとカソードの間に電圧を印加することを含む。本明細書に記載の触媒シートは、本開示に記載のすべての好ましいものおよび詳細な特徴を備え、好ましくはそのような水素製造方法に使用される。
【0086】
図3は、本発明の例示的な実施形態による膜電極アセンブリの概略図を示しており、膜電極アセンブリ(1)は、イオン交換膜(2)、膜(2)の各側の触媒シート(3)、および多孔質輸送層(4)を含む。触媒シート(3)は膜側面(3a)と反対側面(3b)を有する。各多孔質輸送層(4)に隣接して、典型的にはバイポーラプレート(5)が設けられ、反応物および生成物を触媒材料へ、または触媒材料から輸送するのに役立つ。
【0087】
膜の一方の側に本発明による触媒シートを有し、膜の他方の側に異なる種類の触媒層を有する膜電極アセンブリを提供することも可能である。
【0088】
本発明による触媒シートを使用することにより、低い触媒材料担持量を使用しながら、高電流密度で動作できるプロトン交換膜水電解装置および/またはアニオン交換膜水電解装置を得ることができる。好ましくは、本発明による電解装置は、0.5A/cm以上、好ましくは0.8A/cm以上、より好ましくは1.0A/cm以上、例えば1.2A/cm、さらには1.5A/cm以上の電流密度で動作することができる。得られる電流密度は、5.0A/cm、例えば0.5A/cm~4.0A/cm、または0.8A/cm~3.0A/cm、または1A/cm~2.5A/cmに達してもよい。
【0089】
好ましくは、これらの電流密度は、上で特定した触媒材料担持量を有する触媒シートを使用して得られる。実施形態では、プロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置は、50μg/cm以下の触媒材料担持量を使用して0.5A/cm以上の電流密度で動作することができる。より好ましくは、プロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置は、20μg/cm以下の触媒材料担持量を使用して0.7A/cm以上の電流密度で、または15μg/cm以下の触媒材料担持量を使用して1.0A/cm以上で、例えば5.0μg/cm~15μg/cmの触媒材料担持量を使用して1.0A/cm~3.0A/cmで動作することができる。
【0090】
触媒材料がどの程度効率的に使用されるかを記述するために使用できる別のパラメータは、触媒シートの比出力密度であり、これは、例えば、電解装置が特定の出力で動作するために必要な触媒材料の重量として定義できる。好ましくは、プロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置は、キロワット当たり触媒0.010グラム(gcat)以下、より好ましくは0.008gcat/kW以下、さらにより好ましくは0.005gcat/kW以下の比出力密度を有する。
【0091】
また、触媒シート、好ましくは本明細書に記載の触媒シートの製造方法であって、
-多孔質かつ導電性の基材シートを製造および/または提供するステップと、
-前記基材シートの内表面および/または外表面上に触媒材料の薄膜または薄膜パッチを堆積させるステップと、を含む方法も提供される。触媒シートに関して論じたすべての好ましいものおよび詳細な特徴は、前記製造方法で製造された触媒にも適用される。触媒シートは、本明細書に記載の水素製造方法に使用されることが好ましく、本明細書に記載のプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置に組み込まれることが好ましい。
【0092】
前記基材シートの内表面および/または外表面上に触媒材料の薄膜または薄膜パッチを堆積させる方法は当業者に知られており、湿式化学堆積法、化学蒸着法、電着、原子層堆積法などが含まれる。
【0093】
触媒材料の薄膜または薄膜パッチを堆積させるのに特に適した堆積方法は、原子層堆積(ALD)である。ALDを使用すると、均一な厚さの非常に薄くよく定義された層を堆積させることができる。
【0094】
例えば、ALDには、有機金属前駆体および共反応物の空間的および/または時間的分離堆積が含まれる。ALDのいくつかの実施形態では、前駆体種および共反応種は、基材シートを含む加熱反応ゾーンに順次輸送され、その結果、時間的に分離された2つの半反応ステップが生じる。
【0095】
ALDは、例えば、基材シートが金属繊維布である実施形態で使用され、好ましくは基材シートがTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、Cr、V、Mo、ならびにそれらの酸化物、ホウ化物および炭化物から選択される1つ以上を含み、より好ましくはTi繊維を含み、触媒材料はIrまたは酸化イリジウムである。特に、空間ALDを使用することができる。
【0096】
特に優れた結果は、原子層堆積の特別なバージョンである空間ALD(sALD)を使用して得られている。他の種類のALDもまた使用することができる。
【0097】
例えば、しかし制限なく使用できる空間原子層堆積のための装置および方法は、欧州特許出願公開第2159304号明細書に記載されており、その全体が本明細書に組み込まれる。例えば、空間ALDでは、有機金属前駆体および共反応物質種が、空間的に分離された第1および第2の加熱反応ゾーンに同時に輸送され、基材シートが第1の堆積ゾーンから第2の堆積ゾーンに移動し、その結果、空間的に分離された2つの半反応ステップが生じる。第1および第2の反応ゾーンは、例えば、ガスシールドが供給されるシールドゾーンによって離間される。
【0098】
空間原子層堆積のための装置は、例えば前駆体インジェクタヘッドを含み、前駆体インジェクタヘッドは、前駆体供給部と、使用時に前駆体インジェクタヘッドおよび基材表面によって境界付けられる堆積空間とを含み、前駆体インジェクタヘッドは、前駆体ガスを前駆体供給部から堆積空間に注入して基材表面と接触させるように配置され、装置は基材表面の平面内で堆積空間と基材との間で相対運動するように配置され、装置には注入された前駆体ガスを基材表面に隣接する堆積空間に閉じ込めるように配置された閉じ込め構造が設けられる。例えば、前駆体インジェクタヘッドは、前駆体インジェクタヘッドと基材表面との間、および/または前駆体インジェクタヘッドと基材に機械的に取り付けられた基材ホルダとの間にガスを注入するためのガスインジェクタを含み、したがって、ガスは、ガスベアリング層を形成する。
【0099】
例えば、ガスインジェクタは、ガスベアリング層を生成するために、前駆体供給部とは別のベアリングガスインジェクタによって形成され、前駆体インジェクタヘッドには突出部分が設けられ、使用中、ガスベアリング層は、突出部分と基材との間、および/または突出部分と基材ホルダの表面との間に形成され、注入された前駆体ガスを、基材表面に隣接する堆積空間に閉じ込めるために装置に設けられた閉じ込め構造を形成する。
【0100】
空間原子層堆積のための他の種類の装置も使用することができる。
【0101】
空間ALDの方法は、例えば、前駆体インジェクタヘッドを含む装置を使用する基材の表面上の原子層堆積の方法であり、前駆体インジェクタヘッドは前駆体供給部と堆積空間とを含み、使用中の堆積空間は前駆体インジェクタヘッドと基材表面とによって境界付けられており、方法は:a)基材表面と接触させるために、前駆体供給部から堆積空間に前駆体ガスを注入するステップと;b)基材表面の平面内で堆積空間と基材との間の相対運動を確立するステップと;c)注入された前駆体ガスを基材表面に隣接する堆積空間に閉じ込めて、使用時に前駆体インジェクタヘッドおよび基材表面によって境界が定められる堆積空間を提供するステップと、を含む。好ましくは、装置は反応空間を含み、方法は以下のステップを含む:d)基材表面の少なくとも一部上に原子層を得るために基材表面の少なくとも一部上に前駆体ガスを堆積した後、前駆体を反応ガスと反応させるために反応空間内に反応ガス、プラズマ、レーザー生成放射線、および紫外線のうちの少なくとも1つを提供するステップ。
【0102】
薄膜または薄膜パッチの堆積の厚さや深さなどの因子を適切に制御するために最適化できるパラメータには、それぞれの前駆体の投与量、滞留時間、温度、表面の前処理などが含まれる。
【0103】
任意選択で、空間原子層堆積を使用して、多孔質基材シートへの触媒堆積の浸透深さを微調整できる。
【0104】
空間原子層堆積で使用される堆積空間に対する基材の移動により、堆積された薄膜および/または薄膜パッチの多孔質基材への浸透深さは、従来の原子層堆積技術と比較して大幅に低減することができる。理論に束縛されるものではないが、堆積中の基材の相対運動により、前駆体分子が基材シートの内表面に衝突する可能性が高くなり、それによって多孔質基材シートのより深くへの前駆体の拡散が防止される。これは、基材への拡散深さを最小化し、微調整できることを意味する。浸透深さは、特に、基材が堆積空間に対して相対的に移動する速度を制御することによって、またガス流およびキャリアガスの圧力によって微調整することができる。所望の速度および設定は、例えば基材の種類、基材の気孔率、細孔サイズ、および曲路率に依存する可能性がある。
【0105】
触媒材料の大部分が触媒シートの膜側面近くに堆積すると、膜への、および膜からのプロトンまたはアニオンの輸送がより効率的に行われるため、触媒材料がより効率的に使用され、したがって触媒材料のより少ない担持量で良好な性能を達成できる。
【0106】
本明細書に記載の方法では、堆積する触媒材料の好ましい細孔深さは、触媒シートについて上述したものと同じである。
【0107】
また、本明細書に記載の方法によって得られる、本明細書に記載の触媒シートも提供される。
【0108】
この明細書では、「典型的な」および/または「典型的に」という用語は、頻繁に使用されるが、本発明にとって必須ではない特徴を示すために使用される。
【0109】
本明細書において上述したように、本発明は触媒シート、特にプロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置用の触媒シートに関し、基材シートおよび堆積された触媒材料を含み、基材シートは多孔質かつ導電性である;本発明は、そのような触媒シートを含む電解装置、水素製造方法および製造方法に関する。
【0110】
プロトン交換膜水電解装置またはアニオン交換膜水電解装置について、特に特許請求の範囲において特定されるすべての好ましいものおよび特徴は、触媒シート自体にも等しく適用される。
【0111】

ここで、以下の非限定的な例によって本発明をさらに説明する。これらの例は本発明を限定するものではなく、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0112】
例1
本発明による触媒シートは、約5nm厚の酸化イリジウムのパッチを空間ALDを使用して多孔質基材シート上に堆積させて調製された。Ir前駆体として、1-エチルシクロペンタジエニル-1,3-シクロヘキサジエンイリジウム(I)、99%(99.9%-Ir)を使用した。多孔質基材シートは、約22μmの直径、56%の気孔率および500g/mの重量を有するTi繊維の布であるBekipor(登録商標)ST 2 GDL 10-0,25であった。触媒担持量は、ICP-MSを使用して測定され、約11μgIr/cmであった。
【0113】
図4は、例1で使用した基材シートの電子顕微鏡画像を示す。
【0114】
図5は、例2の試験後の例1で調整された触媒シートの写真(右)およびカソード触媒層が見える透明膜(左)を示す。カソードの活性領域上の平行線は、水を触媒層に運び、触媒層から気泡を取り除く流れ場からの痕跡である。
【0115】
例2
例1で調製した触媒シートをアノード側に含む膜電極アセンブリを水の電気分解に使用した。膜は厚さ127μmのNafion(登録商標)115であった。カソード電極は、テキサスのFuel Cells Etcから入手した、0.5mg/cmの担持量でVulcanカーボン上に支持されたPtナノ粒子を有する市販のガス拡散電極であった(製品番号W1S1010)。
【0116】
性能を、アノード触媒層がIr black(Alfa Aesar)2±0.1mgIr/cmおよび23重量%のNafion(登録商標)1100であった参照膜電極アセンブリと比較した。
【0117】
図6は、例1の触媒シートの触媒担持量が、参照触媒層の触媒担持量よりもほぼ200倍低いことを特に考慮すると、例1で調製された未使用の触媒シート(TFPC)が、参照触媒層を有する膜電極アセンブリと比較して非常に良好な性能を示すことを示している。
【0118】
例1で調製した薄膜多孔質触媒層を含む膜電極アセンブリおよび参照膜電極アセンブリを、電位の増減を2000サイクル行う加速ストレス試験で試験した。そのサイクルを図6の左下に示す。図6から、例1の薄膜多孔質触媒層を有するアセンブリは2000サイクル後にほとんど劣化を示さないのに対し、参照アセンブリは顕著な劣化を示すことがわかる。
【0119】
図7は、例1の本発明の触媒シートを有する膜電極アセンブリ(MEA)(丸)および参照MEA(四角)について、いずれも2000サイクルの加速ストレス試験後の、異なる電流密度における比出力密度のプロットを示す。参照MEAは、表面積増大係数(SEF)400~600/cmを有するナノ粒子(Ir-black)に基づく2mg-Ir/cmで動作する。本発明の触媒シートは、0.01mg-Ir/cm(すなわち、参照MEAよりも200倍低い触媒担持量)および約0.5またはそれより小さいSEFで動作する。例1に従って作製された膜電極アセンブリを使用すると、参照電極と比較してはるかに低い比出力密度(gcat/kWでのより低い値)で、高い電流密度に達することが可能であり、0.01gcat/kW未満の値さえ本発明のMEAで達成され、それにより目標を超えることがわかる。
【0120】
図8は、図7と同じサンプルのIV(分極)曲線を示す(本発明:丸、参照:四角)。どちらも活性領域は10cmである。
【0121】
例3
本発明による触媒シートを通じたIr分布を、高解像度SEMおよびEDXを使用して調査した。厚さ250μmの市販の金属布基材(Bekipor(登録商標))上に、sALDを使用して厚いIrO層(30nm)を堆積させた。Irを検出できるようにするために、厚いIrO層が使用された。図9は断面SEM像を示す。
【0122】
厚さ26および28nmのIr含有層が、図9のドットの位置1および1.2の高解像度拡大で観察され、中間の厚さ(位置2.1および1.3)では厚さ9および13nmのIr含有層が観察され、より深いスポット(位置3、3.1および2.3)ではIr含有層は観察されなかった。
【符号の説明】
【0123】
1 膜電極アセンブリ
2 イオン交換膜
3 触媒シート
3a 膜側面
3b 反対側面
4 多孔質輸送層
5 触媒層
5 バイポーラプレート
6 多孔質輸送層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】