(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】粒子の特性評価方法及び特性評価装置
(51)【国際特許分類】
G01N 15/0205 20240101AFI20240711BHJP
【FI】
G01N15/0205
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502028
(86)(22)【出願日】2022-07-18
(85)【翻訳文提出日】2024-03-14
(86)【国際出願番号】 GB2022051852
(87)【国際公開番号】W WO2023285841
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518101646
【氏名又は名称】マルバーン パナリティカル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【氏名又は名称】稲葉 和久
(74)【代理人】
【識別番号】100224616
【氏名又は名称】吉村 志聡
(72)【発明者】
【氏名】マーウィック,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】マジル,マイケル
(57)【要約】
サンプル(8)内の1つ以上の粒子のサイズ及び屈折率を決定するときに使用する、代表的な粒子サイズ及び屈折率データベースを作成する方法が開示される。サンプル(8)内に含まれる1つ以上の粒子のサイズ及び屈折率を決定する方法も開示される。サイズ及び屈折率を決定する方法は、複数のデータ次元を含む粒子の測定の散乱パターンを取得するステップと、プロセッサ(14)を使用して、測定の散乱パターンに関連するデータ次元数を削減して、次元削減された測定データを得るステップと、プロセッサを使用して、次元削減された測定データを、既知のサイズ及び屈折率範囲を有する粒子に対応する基準の散乱パターンの表現と比較するステップと、次元削減された測定データに最もよく対応する基準の散乱パターンの表現に対応する既知のサイズ及び屈折率を、サンプル内に含まれる1つ以上の粒子のサイズ及び屈折率として選択するステップと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル内の1つ以上の粒子のサイズ及び屈折率を決定するときに使用する、代表的な粒子サイズ及び屈折率データベースを作成する方法であって、
既知のサイズ及び屈折率範囲を有する基準粒子セットの基準の散乱パターンを取得するステップであって、前記基準の散乱パターンは複数の関連するデータ次元を含む、前記基準の散乱パターンを取得するステップと、
プロセッサを使用して次元削減を実行し、前記基準の散乱パターンの表現を取得するステップであって、前記表現は、前記基準の散乱パターンよりも少ないデータ次元数を有する、前記基準の散乱パターンの表現を取得するステップと、
前記表現をコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に保存するステップと、
を含み、
前記散乱パターンは、複数の散乱角のそれぞれにおける散乱強度を規定するベクトルを含み、前記散乱角は5度未満の角度を含む、
方法。
【請求項2】
前記表現は固有ベクトルのセットを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固有ベクトルに対して主成分分析を実行して、主成分を取得することを含む、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記主成分分析は、前記基準の散乱パターンを前記固有ベクトルに投影して前記主成分を取得することを含む、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記主成分に関連する基準係数を取得する、
請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記基準係数は、前記基準の散乱パターンを前記主成分に投影することによって取得される、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
サンプル内に含まれる1つ以上の粒子のサイズ及び屈折率を決定する方法であって、
前記粒子の測定の散乱パターンを取得するステップであって、前記測定の散乱パターンは複数のデータ次元を含む、前記測定の散乱パターンを取得するステップと、
プロセッサを使用して、前記測定の散乱パターンに関連するデータ次元数を削減して、次元削減された測定データを取得するステップと、
前記プロセッサを使用して、次元削減された前記測定データを基準の散乱パターンの表現と比較するステップであって、前記基準の散乱パターンは既知のサイズ及び屈折率範囲を有する粒子に対応する、前記測定データを基準の散乱パターンの表現と比較するステップと、
次元削減された前記測定データに最もよく対応する前記基準の散乱パターンの表現に対応する既知のサイズ及び屈折率を、前記サンプル内に含まれる1つ以上の前記粒子のサイズ及び屈折率として選択するステップと、
を含む、
方法。
【請求項8】
次元削減された前記測定データを取得するために前記測定の散乱パターンに関連するデータ次元数を削減することは、前記測定の散乱パターンに関連する係数を計算することを含む、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記測定の散乱パターンに関連する係数を計算するステップは、前記測定の散乱パターンを前記基準の散乱パターンの表現に関連する主成分に投影することを含む、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記比較するステップは、前記測定の散乱パターンに関連する前記係数を、対応する基準係数と比較することを含む、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
1つ以上の前記粒子の屈折率の推定値は、前記測定の散乱パターンに関連する前記係数と比較される前記基準係数の数を削減するために使用される、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記比較するステップは、前記測定の散乱パターンに関連する前記係数と対応する前記基準係数との間の距離を計算することを含む、
請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
コンピュータ読み取り可能な記憶媒体から、又はネットワーク接続を介してサーバコンピュータから前記基準の散乱パターンの前記表現を取得するステップを更に含む、
請求項7から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記測定の散乱パターンを取得するステップは、前記サンプルに対する測定を実行することを含み、オプション的に光回折測定を実行することを含み、
前記測定の散乱パターンは複数の強度値を含み、各前記強度値は照射光の異なる散乱角及び/又は異なる波長に対応する、
請求項7から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1から6のいずれか1項に従属する場合には前記基準の散乱パターンを取得することは、又は、請求項7から14のいずれか1項に従属する場合には前記測定の散乱パターンを取得することは、
前記散乱パターンから非固有的特徴を除去して、差分散乱パターンを得ることを更に含む、
請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
プロセッサを備え、請求項7から15のいずれか一項に記載の方法に従って、前記サンプル内に含まれる前記粒子のサイズ及び屈折率を決定するように構成された、
装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サンプル内の1つ以上の粒子のサイズ及び屈折率を決定するときに使用する、代表的な粒子サイズ及び屈折率データベースを作成する方法に関する。また、本開示は、サンプル内の1つ以上の粒子のサイズ及び屈折率を決定する方法にも関する。また、本開示は、粒子のサイズ及び屈折率を決定するように構成された装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
サンプル中の粒子について、サンプルを照射し、異なる角度に配置された複数の検出器を用いて、粒子によって散乱された光を測定する装置を利用することで特性評価できることが知られている。サンプルの粒子は、通常、測定中に、サンプルセル内で分散媒体によって分散される。分散媒体は通常、空気又は水であり、測定中にサンプルセルを通って流れることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
光散乱と粒子の特性との間の相関関係は、マクスウェル方程式のよく知られたMieソリューションによって表すことができる。より小さな粒子は、より大きな散乱角でより多くの光を散乱させる傾向があり、より大きな粒子は、より小さな散乱角でより多くの光を散乱させる傾向がある。サンプルから所定範囲の角度のそれぞれの散乱光を利用して、例えば、サンプル内の粒子のサイズ分布を決定することができる。通常、これは、測定された散乱強度を、角度の関数として数値変換を行うことによって実現することができる。これには通常、粒子サイズ分布を散乱強度分布に結び付ける散乱行列の逆行列計算が含まれる。
【0004】
散乱行列は粒子の屈折率に依存し、通常、サンプル内に含まれる粒子の屈折率の推定値を使用して散乱行列を決定し、当該散乱行列は実数部と虚数部との両方を有することができる。そのような推定値が利用できない場合は、反転アルゴリズムは粒子の屈折率範囲を試行し、残差の測定に基づいて最適な一致値を決定する。しかしながら、例えば、ユーザによる屈折率の推定が不正確の場合や、アルゴリズムがノイズにより誤った値に設定した場合には、不正確な結果が生成される可能性がある。また、粒子の屈折率の推定値ごとに散乱行列とその逆行列を計算する必要もあるため、計算量が非常に大きい。特に、アルゴリズムが屈折率値の範囲を試行するように構成されている場合、大きな非正方行列が反転されるとき固有的な不正確が生じ得る。
【0005】
本開示の目的は、上述した問題の1つ又は複数を克服又は改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様によれば、サンプル内に含まれる1つ以上の粒子のサイズ及び/又は屈折率を決定するときに使用するための、代表的な粒子サイズ及び屈折率データベースを作成する方法が提供される。
【0007】
この方法は、
既知のサイズ及び屈折率範囲を有する基準粒子セットの基準の散乱パターンを取得するステップであって、当該基準の散乱パターンは複数の関連するデータ次元を含む、前記基準の散乱パターンを取得するステップと、
プロセッサを使用して次元削減を実行し、基準の散乱パターンの表現を取得するステップであって、当該表現は、基準の散乱パターンよりも小さいデータ次元数を有する、前記基準の散乱パターンの表現を取得するステップと、
前記表現をコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に保存するステップと、
を含む。
【0008】
基準の散乱パターンは、複数の異なる散乱角のそれぞれにおける散乱強度を規定するベクトルを含むことができる。各ベクトルは、屈折率及び粒子サイズ、又は粒子サイズ分布の異なる組み合わせを含むことができる。複数の異なる散乱角は、10度未満、5度未満、2度未満、1度未満、及び/又は0.2度未満の少なくとも1つの角度を含んでもよい。複数の異なる散乱角は、70度よりも大きい、80度よりも大きい、90度よりも大きい、110度よりも大きい、及び/又は130度よりも大きい散乱角を含むことができる。90度を超える散乱角は後方散乱光に対応し、90度未満の散乱角は前方散乱光に対応する。一実施形態では、散乱角は0.15度から143.3度の範囲であってもよい。検出器における散乱角は、検出器の質量中心(centroid)における散乱角として規定することができる。少なくとも20の散乱角、又は少なくとも50の散乱角が存在することができる。基準の散乱パターンの次元は、散乱角の数×サンプルの数を含むことができる。各サンプルは、粒子サイズと屈折率との所定の組み合わせに対応することができる。少なくとも25000個のサンプル、少なくとも50000個のサンプル、又は少なくとも100,000個のサンプルが存在することができる。
【0009】
既知の屈折率範囲には複素屈折率(complex refractive indices)を含むことができる。すなわち、粒子の吸収特性を考慮した、実数成分と虚数成分との両方を有する屈折率を含むことができる。あるいは、既知の屈折率範囲は、実屈折率のみを含むこともできる。この方法は、多分散の量(amount of polydispersity)を決定することを含むことができる。
【0010】
基準の散乱パターンは、シミュレーション(又はモデル化)散乱パターン及び/又は測定の散乱パターン(例えば、既知の粒子サイズ及び屈折率を有する粒子の測定の散乱パターン)を含むことができる。シミュレーションによる基準の散乱パターンは、例えば、ミー散乱に基づいた数値散乱モデルを利用して計算することができる。数値散乱モデルには、測定の散乱パターンを取得する測定装置に関連するパラメータ、例えば、検出器の数及び/又は光の1つ以上の波長及び/又はサンプルを照射するために使用される光の1つ以上の偏光状態等を含むことができる。
【0011】
基準の散乱パターンに関連するデータ次元の(次元削減を実行する前の)数は、基準の散乱パターンを取得する又はシミュレートするために使用される検出器の数及び/又は異なる光の波長に関連することができる。例えば、各基準の散乱パターンに関連するデータ次元数は、光回折/散乱測定装置における検出チャネルの数(例えば、62検出チャネル/データ次元)に対応することができる。一方、基準の散乱パターンの表現の(すなわち、次元削減を実行した後の)データ次元数は少ない。例えば、基準の散乱パターンの表現に関連するデータ次元数は、10以下、又は5未満、例えば、2であり得る。これによって、問題の次元数を大幅に軽減することができ、精度を大きく損なうことなく、実行性の向上及びメモリ使用量の削減を実現することができる。
【0012】
次元削減を実行するステップは、様々な方法、例えば、行列の固有分解、特異値分解、線形判別分析、行列因数分解などを実行すること等で実現することができる。ただし、他の次元削減技術を追加的又は代替的に使用することもできることを理解されたい。特異値分解は、多数の基準の散乱パターン、例えば、106を超える基準の散乱パターンを処理するときに有利な場合がある。
【0013】
基準の散乱パターンの表現(すなわち、基準の散乱パターンについて次元削減したもの)は、固有ベクトルのセットを含むことができる。固有ベクトルに対して主成分分析を実行することで主成分を取得することができる。主成分分析は全ての固有ベクトルに対して実行する必要はなく、主成分分析は固有ベクトルのサブセットに対してのみ実行することができ、そして、その固有ベクトルのサブセットが主成分の計算に利用される。例えば、所定の閾値を下回る対応する固有値を有する固有ベクトルは無視されてもよい。このようにして、情報の大部分を保持するとともに、基準の散乱パターンを表すために必要なデータ次元数を減らすことができる。閾値は、事前に決定されてもよいし、ダイナミック(例えば、固有値の分布を参照して決定されるもの)であってもよい。例えば、最高の固有値を有するn個の固有ベクトルを保持することができ、所定のパーセンタイルを超える固有値を有する固有ベクトルを保持することもできる(その他は破棄される)。
【0014】
主成分は、基準の散乱パターンの表現の一部を形成すると考えることもできる。
【0015】
主成分分析は、基準の散乱パターンを、固有ベクトル(又は固有ベクトルのサブセット)に投影して主成分を取得することを含んでもよい。その後、主成分に関連する基準係数は、例えば、基準の散乱パターンを主成分に投影することによって取得することができる。基準係数は、基準の散乱パターンの表現の一部を形成すると考えることもできる。
【0016】
基準の散乱パターンのそれぞれに関連する固有ベクトルの数及び係数の数は、両方とも、基準の散乱パターンに関連するデータ次元数よりも小さくてもよい。例えば、基準の散乱パターンのそれぞれに関連する係数の数は、10以下であってもよい。これは、全体的な次元削減を達成できるそのような方法の1つである。
【0017】
次元削減は、例えば、人工ニューラルネットワーク上で実装することができる。
【0018】
一実施形態では、基準の散乱パターンを取得することは、基準の散乱パターンのそれぞれから非固有的特徴を除去して基準の差分散乱パターンを取得することを更に含むことができる。このように、基準の差分散乱パターンには、各基準の散乱パターンの固有的(unique)なものに対応する情報のみが含まれる。例えば、基準の散乱パターンの平均を計算し、そこから減算することができる。これにより、基準の散乱パターンが散乱強度から変換され、各基準の散乱パターンに固有的なものだけが残される。
【0019】
基準の散乱パターンは、複数の基準の散乱パターンの組み合わせである共分散行列として考えることができる。例えば、基準の散乱パターンの数は少なくとも20,000であってもよい。いくつかの実施形態では、基準の散乱パターンの数は106より多くてもよい。
【0020】
本開示の第2の態様によれば、サンプル内に含まれる1つ以上の粒子のサイズ及び/又は屈折率を決定する方法が提供される。この方法は、
前記粒子に対して測定の散乱パターンを取得するステップであって、測定の散乱パターンはデータ次元数に対応する、取得ステップと、
プロセッサを使用して測定の散乱パターンに関連するデータ次元数を削減して、次元削減された測定データを取得する、削減ステップと、
プロセッサを使用して、次元削減された測定データを基準の散乱パターンの表現と比較するステップであって、前記基準の散乱パターンは既知のサイズ及び屈折率範囲を有する粒子に対応する、比較ステップと、
次元削減された測定データに最もよく対応する基準の散乱パターンの表現に対応する既知のサイズ及び屈折率を、前記サンプル内に含まれる1つ以上の粒子のサイズ及び屈折率として選択する、選択ステップと、
を含む。
【0021】
測定の散乱パターンに関連するデータ次元数(それに関連するデータ次元数を削減する前のもの)は、測定の散乱パターンを取得するために使用された検出器の数及び/又は異なる光の波長及び/又は使用された光の異なる偏光状態に関連することができる。例えば、測定の散乱パターンに関連するデータ次元数は、光回折/散乱測定装置の検出チャネルの数(例えば、62の検出チャネル)に対応することができる。一方、次元削減された測定データ(すなわち、それに関連するデータ次元数を削減した後のもの)は、より少ないデータ次元数を有する。例えば、次元削減された測定データに関連するデータ次元数は、10以下、又は5未満、例えば、2であってもよい。
【0022】
この方法は、粒子サイズ、屈折率、及び多分散(polydispersity)のうちの少なくとも1つを決定することを含んでもよい。
【0023】
測定の散乱パターンに関連するデータ次元数を削減することは、プロセッサを使用して、測定の散乱パターンに関連する係数を計算することを含むことができる。係数の数は、測定の散乱パターンに関連するデータ次元数よりも少ない。測定の散乱パターンに関連する係数を計算するステップは、測定の散乱パターンを基準の散乱パターンの表現に関連する主成分に投影することを含むことができる。
【0024】
比較ステップは、測定の散乱パターンに関連する係数を、基準の散乱パターンに関連する対応する基準係数と比較することを含むことができる。これに関して、サンプル内に含まれる1つ以上の粒子のサイズ及び屈折率として選択することは、測定の散乱パターンに関連する係数に最も近接に対応する関連する基準係数を有する基準の散乱パターンに対応する既知のサイズ及び屈折率を選択することを含むことができる。
【0025】
いくつかの実施形態では、粒子屈折率の推定値を使用して、測定の散乱パターンに関連する係数と比較される基準係数の数を減らすことができる。1つ以上の粒子の屈折率の推定値は、ユーザによって提供されるか、又は光回折装置によって決定することができる。そして、推定値の許容範囲内の屈折率を有する基準の散乱パターンに関連する基準係数は、比較のために選択することができる。許容範囲は、RI推定値のパーセンテージ又は推定値からの絶対値オフセット(例えば、%の差又は±許容誤差の絶対値)とすることができる。同じ光回折装置を使用して、RI推定値を決定し、続いて光回折分析によって粒子サイズ又は粒子サイズの分布を決定することができる。
【0026】
次元削減された測定データに最も近接に対応する基準の散乱パターンの表現に対応する既知のサイズ及び屈折率を、サンプル内に含まれる1つ以上の粒子のサイズ及び屈折率として選択するステップは、サンプル中の粒子の粒子サイズ及び屈折率の特定を必要としないことができることを理解されたい。選択ステップは、単に所定のサイズ及び/又は屈折率範囲内の粒子の存在を識別することを含むことができる。これは、環境モニタリング又は制御応用などにおいて、特定のサイズ又は屈折率の粒子の存在を検出しようとする光散乱の応用に役立つ場合がある。このような場合、光散乱測定の係数セットと基準係数との間の最小距離を規定することができる。この最小距離よりも近い係数セット内の測定値は、検索の焦点に当たる粒子の存在を示す。これに関して、正確な粒子サイズ及び/又は屈折率を識別する必要がなく、単に所定のサイズ及び/又は屈折率範囲内の粒子の存在を識別することで十分であり得る。
【0027】
基準の散乱パターンは、シミュレーションによる(又はモデル化)散乱パターン及び/又は測定の散乱パターン(例えば、既知の粒子サイズ及び屈折率を有する粒子の測定の散乱パターン)を含むことができる。シミュレーションによる基準の散乱パターンは、例えば、ミー散乱に基づいた数値散乱モデルを使用して計算することができる。数値散乱モデルは、測定の散乱パターンを取得する測定装置に関連するパラメータ、例えば、検出器の数及び/又はサンプルを照射するために使用される光の波長等を含むことができる。基準の散乱パターンに関連する係数は、第1の態様で説明したように、基準の散乱パターンの主成分分析を利用して決定することができる。
【0028】
基準の散乱パターンに関連するデータ次元の(次元削減を実行する前の)数は、基準の散乱パターンを取得する又はシミュレートするために使用される検出器の数及び/又は異なる光の波長及び/又は偏光状態に関連することができる。例えば、各基準の散乱パターンに関連するデータ次元数は、光回折/散乱測定装置における検出チャネルの数(例えば、62検出チャネル/データ次元)に対応することができる。一方、基準の散乱パターンの表現(すなわち、次元削減を実行した後)のデータ次元数は少なくなる。例えば、基準の散乱パターンの表現に関連するデータ次元数は、10以下、又は5未満、例えば、2であり得る。これによって、問題の次元数を大幅に軽減することができ、精度を大きく損なうことなく、実行性の向上及びメモリ使用量の削減を実現することができる。
【0029】
散乱パターン(基準及び/又は測定)のそれぞれは、複数の強度値を含んでもよく、各強度値は、照射光の異なる散乱角及び/又は異なる波長に対応する。各検出器は、異なる散乱角範囲で散乱された光を受け取ることができる。したがって、検出器の散乱角は、検出器によって検出される平均散乱角に対応することができる。各強度値は、経時的に測定された強度の平均値に対応することができる。各検出器は、検出チャネルの数が検出器の数と等しくなるように検出チャネルに対応してもよく、物理的な検出器のサブセットのみを選ぶことで有効な検出チャネル数を提供することもできる。
【0030】
有利なことに、この方法はサンプル内に含まれる粒子のサイズ及び屈折率の両方を決定するため、サンプル内に含まれる粒子の屈折率を推測又は推定する必要がない。例えば、散乱行列の逆行列を使用する既知の方法では、ユーザが粒子の屈折率の推定値を入力することが求められる。この推定値が十分に不正確である場合、粒子サイズが不正確に決定されることとなり得る。第2の態様による方法を使用すると、そのような不正確さが生じる可能性が低くなる。
【0031】
別の利点は、第2の態様による方法は、問題の次元数を大幅に軽減し、精度を大きく損なうことなく実行性の向上及びメモリ使用量の削減を実現できることである。これは、一実施形態において、次元削減された測定データに関連する係数の数が、測定の散乱パターンのデータ次元(例えば、検出チャネル)の数よりも小さいため達成される。例えば、測定の散乱パターンに関連するデータ次元数は、検出チャネルの数に対応することができる(例えば、62検出チャネル/データ次元)。しかし、比較ステップで使用される係数の数は、測定の散乱パターン及び基準の散乱パターンに対して、10以下、又は5未満、例えば、2であってもよい。
【0032】
更なる利点は、この方法は散乱行列の逆行列の計算に依存せず、その代わり、測定の散乱パターンと基準の散乱パターンとをより直接に、例えば、一実施形態では、それらに関連する係数を通じて比較することである。これにより、例えば、散乱行列に逆行列が存在しないか、逆行列が不適切な場合に生じ得る問題が解決することができる。基本的に、この方法では、測定の散乱パターンにおいて構造を探し、それを既知の/基準の散乱パターン内の構造と比較し、リターン削減によりデータの次元数を削減できることを認識するとともに、粒子サイズ及び屈折率を適切に決定するために十分な情報を保持する。
【0033】
更なる利点は、この方法では、毎回個別の反転を必要とする異なる屈折率値の繰り返し試行を必要としないことである。これにより、実行性を更に向上させることができる。
【0034】
測定の散乱パターンを取得するステップは、サンプルに対する測定、例えば、光回折/散乱測定を実行することを含むことができる。或いは、それは、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体から測定の散乱パターンを読み込むこと、又は、例えば、データ通信リンクを介して測定装置から測定の散乱パターンを受信することを含んでもよい。
【0035】
測定の散乱パターンに関連する係数を計算するステップは、測定の散乱パターンを基準の散乱パターンの表現に関連する主成分に投影することを含むことができる。主成分は、予め基準の散乱パターンの次元削減、固有ベクトルの取得、及び主成分分析してその主成分の取得(例えば、第1の態様で開示された代表的な粒子サイズ及び屈折率データベースから情報を取得することによって取得する)によって得ることができる。或いは、この方法は、基準の散乱パターンの次元削減、固有ベクトルの取得、及び主成分分析してその主成分の取得(例えば、第1の態様で開示された代表的な粒子サイズ及び屈折率データベースから情報を取得することによって取得する)を含んでもよい。
【0036】
比較ステップは、測定の散乱パターンに関連する係数と対応する基準係数との間の距離を計算するステップを含んでもよい。
【0037】
様々な距離行列、例えば、ユークリッド距離(Euclidean distance)を使用することができる。例えば、測定の散乱パターンと各基準の散乱パターンとを表すために2つの係数のみが使用される場合、これらはそれぞれ2次元平面内の点として表すことができる。距離は、測定の散乱パターンに対応する点と、様々な基準の散乱パターンに対応する点との間のユークリッド距離として取得され、それぞれの距離はそれらを結ぶ線分の長さである。最近傍アプローチ(nearest neighbour approach)を使用して、測定の散乱パターンに最も近い基準の散乱パターンを識別することができる。
【0038】
各散乱パターンの係数が最小距離を持って離れているとき、基準の散乱パターンに対応する既知の粒子サイズおよび屈折率が、サンプル内に含まれる粒子の粒子サイズ及び屈折率として選択することができる。このようにして、この方法は、測定の散乱パターンの係数と、セット内の各基準の散乱パターンの係数との間の最小ユークリッド距離を探す。
【0039】
この方法は、コンピュータ可読記憶媒体から、又はネットワーク接続を介してサーバコンピュータから基準の散乱パターンの表現を取得するステップを更に含んでもよい。この表現は、基準の散乱パターンに関連する主成分及び/又は係数を含むことができることを理解されたい。基準の散乱パターンの表現は、第1の態様で開示された方法に従って作成されたデータベースを含むことができる。
【0040】
測定の散乱パターンを取得することは、測定の散乱パターンから非固有的(non-unique)な特徴を除去して、測定の差分散乱パターンを取得することを更に含むことができる。このようにして、測定の差分散乱パターンには、測定の散乱パターンの固有的(unique)なものに対応する情報のみが含まれる。例えば、基準の散乱パターンの平均を計算し、測定の散乱パターンから基準の散乱パターンの平均を差し引くことができる。平均散乱パターンは、全ての基準の散乱パターンの平均から導出することができる。測定の差分散乱パターンは、測定の散乱パターンに関連する係数を計算するために使用することができ、そして、測定の差分散乱パターンに関連する係数として呼ばれることもある。
【0041】
いくつかの実施形態では、測定の散乱パターンを取得するステップは、サンプルに対する測定、オプション的に光回折測定を実行することを含んでもよい。ここで、測定の散乱パターンは複数の強度値を含み、各強度値は照射光の異なる散乱角及び/又は異なる波長に対応する。
【0042】
実施形態では、粒子のサイズ及び/又は屈折率を取得する方法は、適応可能な回折測定(adaptive diffraction measurement)の一部として利用することができる。ここで、複数の光回折分析が同じサンプルに対して実行されて、サンプルの時間ベースの粒子サイズ及び/又は粒子サイズ分布が報告される。
【0043】
本開示の第3の態様によれば、プロセッサを備え、第2の態様の方法に従ってサンプル内に含まれる粒子のサイズ及び屈折率を決定するように構成された装置が提供される。
【0044】
この装置は更に、代表的な粒子サイズ及び屈折率データベース、例えば、第1の態様の方法に従って作成されたものへのアクセスを取得するように構成することができる。
【0045】
この装置は、サンプルを保持するためのサンプルホルダーと、サンプルを照射するための光ビームを生成するように配置された光源と、測定の散乱パターンを測定するために、照射光ビームに対して異なる角度で粒子から散乱された散乱光を検出するように配置された複数の検出器と、を更に備えることができる。
【0046】
本開示の第4の態様によれば、第1及び/又は第2の態様による方法を実行するようにコンピュータを構成するための命令を含む機械読み取り可能な非一時的記憶媒体が提供される。
【0047】
任意の態様の特徴(オプション的な特徴を含む)は、必要に応じて、他の任意の態様の特徴と組み合わせることができる。
【0048】
例示的な実施形態は、単なる例として、図面を参照して説明される。
【0049】
図は概略的なものであり、一定の縮尺で描かれていないことに留意されたい。これらの図の部分の相対的な寸法及び比率は、図面を明確にする便宜上、誇張又は縮小して示されている。一般に、変更され、異なる実施形態において、対応する又は類似の特徴を指すために同じ参照符号が使用される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図2A】水中のポリスチレンラテックス粒子のシミュレーションデータを使用した粒子サイズ及び実屈折率の測定結果を示すグラフ
【
図2B】水中のポリスチレンラテックス粒子のシミュレーションデータを使用した粒子サイズ及び実屈折率の結果を示すグラフ
【
図3A】ラテックス粒子のシミュレーションデータを使用した粒子サイズの結果を示すグラフ
【
図3B】ラテックス粒子のシミュレーションデータを使用した複素屈折率の結果を示すグラフ
【
図4A】金粒子のシミュレーションデータを使用した粒子サイズの結果を示すグラフ
【
図4B】金粒子のシミュレーションデータを使用した複素屈折率の結果を示すグラフ
【
図5A】銀粒子のシミュレーションデータを使用した粒子サイズの結果を示すグラフ
【
図5B】銀粒子のシミュレーションデータを使用した複素屈折率の結果を示すグラフ
【
図6】ノイズのあるデータを使用した粒子サイズの結果を示すグラフ
【
図6A】ラテックス粒子のシミュレーションデータを使用した粒子サイズ、屈折率、及び多分散の結果を示すグラフ
【
図6B】ラテックス粒子のシミュレーションデータを使用した粒子サイズ、屈折率、及び多分散の結果を示すグラフ
【
図7】本開示による、サンプル内に含まれる1つ以上の粒子のサイズ及び屈折率を決定する方法に対応するフローチャート
【
図8】本開示による、サンプル内に含まれる1つ以上の粒子のサイズ及び屈折率を決定する際に使用する、代表的な粒子サイズ及び屈折率データベースを作成する方法に対応するフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0051】
図1は粒子特性評価装置10の概略図を示している。この装置は、サンプル8内に含まれる粒子のサイズ及び屈折率を測定するのに適している。装置10は、サンプルホルダー又はサンプルセル6を照射するための光ビーム4を生成するための光源2を備える。いくつかの実施形態では、サンプルホルダーは、液滴ベースの分析のためにサンプル液滴を支持するように構成することができる。他の実施形態では、サンプルホルダーはキュベット(cuvette)又はフローセル(flow cell)を含んでもよい。
【0052】
サンプルセル6は、そのサイズ及び/又は屈折率が測定されるべき1つ以上の粒子を含むサンプル8を含む。装置10は、サンプルセル6内のサンプル8から異なる角度で散乱された光を検出するための複数の検出器12を更に備える。検出器12は、サンプル8内に含まれる粒子のサイズ及び/又は屈折率の推定値を決定するために、検出器の出力を処理するプロセッサ14に接続されている。光源2は、レーザ、例えば、ヘリウムネオンレーザ、又はLED(例えば、青色LED)であってもよい。装置10は、更なる構成要素、例えば、ミラー及び集束光学系などを備えることができる。これらは
図1の概略図では省略されている。
【0053】
一実施形態によれば、装置10のプロセッサ14は、検出器12の次元削減されたデータ出力を分析することによって、サンプル8内に含まれる粒子のサイズ及び/又は屈折率を決定するように構成されている。測定されるサンプルのこの次元削減は、主成分分析(PCA)を使用して実現される。この方法では、散乱行列の逆変換を実行する必要はない。代わりに、この技術は測定データの構造を効果的に探し、それを既知の基準散乱データ(キャリブレーション散乱データとも呼ばれる)の構造と比較する。
【0054】
これについて、第1の態様で示すように、(基準の散乱パターン又はキャリブレーション散乱パターンを使用する)代表的な粒子サイズ及び屈折率データベースの準備の代表例をより詳細に説明する。当該データベースは、未知のサンプルの粒子サイズ及び屈折率の決定の使用ごとに準備する必要はなく、単に以前のデータベースを前記決定のリソースとして使用することができることを理解されたい。
【0055】
基準の散乱パターンセットは、例えば、装置のモデルに基づいてそれらを計算することによって、又は既知の特性の粒子からそれらを測定することによって提供される。これらの基準の散乱パターンは、既知のサイズ及び屈折率範囲を有する粒子セットに対応する。基準の散乱パターンセットは、その各列が基準の散乱パターンの1つに対応する散乱行列Aを効果的に構成する。各列の行の数は、装置10内の検出器12の数、すなわち、異なる測定結果/変数又はチャネルの数に対応する。例えば、装置10が合計62個の検出器(検出チャネル)を有する場合、各基準の散乱パターンは長さ62を有するベクトルによって表される。更に、装置10の光源2は、2つ以上の異なる波長でサンプル8を照射するように構成されてもよい。この場合、散乱パターンは効果的に2つ以上の連結ベクトル(concatenated vectors)で形成される。例えば、サンプル8を照射するために赤色光と青色光との両方が使用され、装置10が合計62個の検出器を有する場合、各散乱パターンは、長さ124を有するベクトルによって表すことができる。いくつかの実施形態では、検出器のサブセットのみが、異なる波長のそれぞれに使用される。例えば、検出器のフルセットからのデータは、赤色照射下での測定に保持され、一部の検出器(例えば、大きい散乱角検出器)からのデータは、青色照射下での測定に保持されることができる。
【0056】
一例によれば、散乱行列は、10nmと100μmとの間の対数間隔のサイズを有する200個の粒子について計算された。200個の粒子サイズのそれぞれについて、1.5と2.5との間の範囲の屈折率も考慮された。例示的な例として、サンプルの照射に1つの波長のみが使用され、装置に合計62個の検出器であり、合計104の粒子サイズ及び屈折率の組み合わせが考慮された場合には、散乱行列Aは、62×104の行列となる。
【0057】
散乱行列Aが決定されると、行列内の全ての散乱分布の平均も行ごとに計算することができる。散乱行列の各行の平均は、参照セット内の全ての粒子サイズ及び屈折率について、対応する検出器/チャネルによって記録された平均強度に対応する。各行の平均を除去することにより、散乱パターンは散乱強度から変換され、与えられた各散乱パターンに固有的なものだけが残される。その結果、差分散乱パターンDの行列が得られ、その各行iは次のように与えられる。
【0058】
【0059】
ここで、μiは検出器iの平均強度である。差分散乱パターンは、次の式による共分散行列の計算に使用される。
【0060】
【0061】
ここで、i及びjは、行列内の所定の散乱パターンに対応するインデックスである。それぞれの基準パターンから平均散乱パターンを除去する必要はないが、これは問題の次元数を低減する1つの方法であることを理解されたい。
【0062】
共分散行列の固有ベクトル及び固有値が計算される。固有ベクトルは、主成分分析が実行されるベースであり、主成分分析によって主成分(PCs)が生成される。固有値は、各固有ベクトルによって表される分散を表す。一般に、最大固有値を有する固有ベクトルに対応する固有ベクトルのサブセットのみが考慮され、より小さな固有値を有する固有ベクトルは破棄される。差分散乱パターンのそれぞれが固有ベクトルに投影されて主成分が得られる。これらの主成分は、データ内で最も大きい分散を有する方向である。これにより、次の式で与えられる基準セットの主成分行列Pが生成される。
【0063】
【0064】
ここで、x[i]は共分散行列の固有ベクトルである。上述したように、一般に、最大固有値を有する固有ベクトルに対応する固有ベクトルのサブセットのみが使用されることを理解されたい。例えば、装置に62個の検出器がある場合、共分散行列は62×62行列となり、62個の固有ベクトル及び対応する固有値を有する。しかし、主成分分析によると、サブセットは、例えば、これらの固有ベクトルのうちの10個が主成分行列Pを取得して計算するために使用され、このとき、式(3)のインデックスiは1から62ではなく、1から10のみとなる。サブセット内で選択された固有ベクトルは、一般に最大固有値を有するベクトルに対応する。つまり、データ内で最も大きい分散を有する方向を表す。これにより、散乱パターンに関連する情報の大部分を保持しながら、問題の次元数が削減される。行列Pは、最も大きい変動を有する主成分を表す。PCAの利点は、最大分散の方向を特定することによって、より少ない次元数でデータを表現できることである。主成分行列Pが計算された後、差分散乱パターンのそれぞれが主成分に投影され、基準係数が得られる。
【0065】
基準の散乱パターン、固有ベクトル、主成分及び係数の取得を含む上述のステップは、代表的な粒子サイズ及び屈折率データベースの準備を効果的に構成することができるが、これらは、未知のサンプルを分析する度に実行する必要がないことを理解されたい。同様に、基準の散乱パターン、固有ベクトル、主成分及び係数の取得を含む当該手順は、未知のサンプルの粒子サイズ及び屈折率を決定するための装置を使用する度に実行する必要のない装置キャリブレーション手順として考えることもできる。実際に、代表的な粒子サイズ及び屈折率データベースの作成、又は装置のキャリブレーションは、装置のメーカーによって一元的に実行することができる。エンドユーザ装置は、単に主成分などの基準の散乱パターン、主成分への基準の散乱パターンの投影に対応する係数の行列、並びにそれらに関連する既知の粒子サイズ、屈折率、及び平均強度μiのデータベース、又はその表現の構成要素、又はサブセットを読み込むことができる。メーカーは、例えば、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体又はインターネットを通じて定期的にアップデートを配布することができる。そして、エンドユーザ装置は、基準の散乱パターンのフルセットを受信又は処理する必要がなくなり、これによって、エンドユーザ装置におけるメモリ及び処理の負荷が軽減される。
【0066】
次に、サンプル内に含まれる1つ以上の粒子のサイズ及び屈折率を決定する例示的な方法をより詳細に説明する。例えば、装置10を使用して測定される未知のサンプルの散乱パターンが取得され、その結果、測定の散乱パターンbが得られる。当該測定の散乱パターンも同じ主成分に投影され、その結果、測定の散乱パターン内の各主成分の割合を表す一連の係数が得られる。いくつかの実施形態では、式(1)を参照して前述した同じ平均ベクトルμiが、主成分に投影する前に、測定の散乱パターンから減算される。測定の散乱パターンの係数は、基準の散乱パターンについて取得された一連の係数と比較することができる。距離測定を評価することで、どの基準の散乱パターンが測定の散乱パターンに最も近いかを決定することができる。例えば、測定の散乱パターン係数と基準の散乱パターンのそれぞれについて得られた係数との間のユークリッド距離(Euclidean distance)を評価することができる。この距離を最小となる基準の散乱パターンが特定され、それに対応する粒子サイズ及び屈折率のペアが、サンプル中の未知の粒子の決定されたサイズ及び屈折率として選択される。この方法は、所定のサイズ又は屈折率の粒子の存在を検出しようとする光散乱の応用、例えば、環境監視又は制御応用などにも使用することができる。このような場合、光散乱測定の係数セットと基準行列の係数との間の最小距離を規定することができる。当該最小距離よりも近い係数セット内の測定値は、検索の焦点にあたる粒子の存在を示す。この点に関して、正確な粒子サイズ及び/又は屈折率の特定は必要ではなく、単に所定のサイズ及び/又は屈折率範囲内の粒子の存在を特定するだけで十分であり得る。決定された係数に基づいて最も近い散乱パターンを決定するための他のアプローチが使用されてもよいことも理解されるべきである。
【0067】
この方法は、粒子サイズ及び粒子の屈折率の実数成分を決定するために、水中のポリスチレンラテックス(polystyrene latex)粒子のシミュレーションデータを用いてテストされた。2つのテストデータセットを使用した。第1のセットは、ナノメートルスケールの粒子であって、粒子サイズが10nmから1000nmの範囲で、10nmの間隔であった。第1のセットの結果を
図2Aに示す。第2のセットは、ミクロンスケールの粒子であって、粒子サイズが1μmから100μmの範囲で、1μmの間隔であった。第2のセットの結果を
図2Bに示す。62個の検出チャネルに対応する合計62個の固有ベクトルのうち、10個の最大固有値を有する10個の固有ベクトルのみがシミュレーションに使用された。ナノメートルサイズの粒子の平均分類誤差は、サイズと屈折率との両方について2%未満であり、本開示による方法でこれらの粒子を正確に分類できることが実証された。より大きな粒子の場合、粒子のサイズについては同様な誤差が生じる。ただし、屈折率の変動は更に大きくなる。
【0068】
この方法はまた、粒子サイズと、屈折率の実数成分及び屈折率の虚数成分とを同時に特性評価するシミュレーションデータを用いてテストされた。屈折率の実数成分及び屈折率の虚数成分によって、完全な複素屈折率が決定される。このシミュレーションでは、散乱行列には、10nmから5μmの対数間隔の200個の粒子サイズと、0.1から3までの線形間隔の291個の屈折率の実数成分と、0から5までの線形間隔の25個の屈折率の複素成分と、に対応する合計1,455,000の基準の散乱パターンが含まれていた。ただし、他の数の基準の散乱パターンを用いてもよいことを理解されたい。主成分を決定するための共分散行列の固有分解は、散乱行列に含まれるデータ量とそれに関連する必要なメモリのため、十分なリソースが利用可能な場合には可能であるが、これほど大きな散乱行列では不便な場合がある。したがって、この例では、共分散行列の固有分解の代わりに、散乱行列の特異値分解を使用して固有ベクトルを決定し、続いて主成分を決定した。主成分が得られたら、それらを使用してナノメートルスケールの粒子の特性評価を行った。
【0069】
図3A及び
図3Bは、10nmから1000nmまでのサイズを有するラテックス粒子の特性評価の結果を示す。
図4A及び
図4Bは、同じ範囲のサイズを有する金粒子の特性評価の結果を示し、
図5A及び
図5Bは、同じ範囲のサイズを有する銀粒子の特性評価の結果を示す。
図3B、
図4B、及び
図5Bにおいて、符号310、410、及び510で示すデータはそれぞれ屈折率の虚数成分を表し、符号320、420、及び520で示すデータはそれぞれ屈折率の実数成分を表す。これらの図は、一部の外れ値を除けば、サイズの特性評価が正確であることを示している。ラテックス屈折率についても同様である。金及び銀の屈折率の誤差は大きくなるが、特性評価は依然として許容範囲内で正確である。
【0070】
実際に測定の散乱パターンはノイズを含む可能性があるが、散乱行列を形成する基準パターンは通常、測定された量ではなく事前に計算されるため、ノイズが含まれていないことが理解されるべきである。したがって、測定されたデータ内のノイズを考慮することが有利である。この目的を達成するために、現実的なノイズの多いデータで本方法の有効性を実証するために、リーブワンアウト(leave-one-out)相互検証を実行した。60nmから9μmの範囲の8つのサイズを有するラテックス粒子測定に対応するデータセットが得られた。データセットには、各粒子サイズで200の散乱パターンが含まれていた。各散乱パターンについて、セット内の他の全ての散乱パターンを用いて参照/トレーニング行列が作成され、残りの散乱パターンが、サイズ及び屈折率を決定されるべき粒子に対応する測定の散乱パターンとして効果的に機能する。次に、主成分分析を含む本開示の方法を実行して、8つのサイズカテゴリのそれぞれに含まれると予測されたデータセット内の各粒子サイズの散乱パターンのパーセンテージを特定した。結果は
図6に示されており、本開示の方法を用いて測定データの特性評価をすることが可能であることを示している。
【0071】
いくつかの実施形態では、この方法は、多分散、すなわち、複数の粒子を含むサンプル中の粒子サイズの分散を包含するように拡張することができる。散乱行列は、粒子サイズ、屈折率の実数成分、及び粒子サイズ分布の多分散を同時に特性評価するように取得することができる。多分散は、粒子サイズの対数正規確率分布の標準偏差として特性評価された。このシミュレーションでは、散乱行列は、125,000の基準の散乱パターンを含み、これらの基準の散乱パターンは、10nmから1μmの対数間隔の250個の粒子サイズと、1.5から2.5までの線形間隔の50個の屈折率の実数成分と、10%から100%の線形間隔の10個の(多分散に対応する)標準偏差とに対応する。なお、他の数の基準の散乱パターンが使用されてもよいことを理解されたい。
【0072】
図6A及び
図6Bは、10nmから1000nmのサイズを有するラテックス粒子、及び標準偏差の範囲での多分散対数正規粒径分布の特性評価の結果を示す。これらの図は、いくつかの外れ値を除けば、サンプルのサイズ、屈折率、及び多分散の特性評価が許容範囲内で正確であることを示している。これは、本技術が粒子の大規模集合の特性評価に適用できることを実証した。
【0073】
図7は、一実施形態による、サンプル内に含まれる粒子のサイズ及び屈折率を決定する方法に対応するフローチャートである。
【0074】
ステップS1は、前記粒子について測定の散乱パターンを取得することを含み、測定の散乱パターンは、データ次元(例えば検出チャネルなど)の数に対応する。
【0075】
ステップS2は、プロセッサを使用して、測定の散乱パターンに関連するデータ次元数を削減することを含む。
【0076】
ステップS3は、プロセッサを使用して、次元削減された測定データを基準の散乱パターンの表現と比較することを含み、前記基準の散乱パターンは、既知のサイズ及び屈折率範囲を有する粒子に対応する。
【0077】
ステップS4は、次元削減された測定データに最もよく対応する基準の散乱パターンの表現に対応する既知のサイズ及び屈折率を、サンプル内に含まれる1つ以上の粒子のサイズ及び屈折率として選択することを含む。
【0078】
図8は、一実施形態による、サンプル内の1つ以上の粒子のサイズ及び屈折率を決定するときに使用する、代表的な粒子サイズ及び屈折率データベースを準備する方法に対応するフローチャートである。当該データベースは、サンプル内に含まれる粒子のサイズ及び屈折率を決定するために使用される装置によってアクセスすることができ、また、前記装置をキャリブレーションするときに使用されると考えることもできる。
【0079】
ステップS10は、既知のサイズ及び屈折率範囲を有する粒子セットについて基準の散乱パターンを取得することを含み、基準の散乱パターンは複数の関連するデータ次元を含む。基準パターンは、シミュレート又は測定されてもよく、例えば、装置を使用して(例えば、装置の検出チャネルの数に対応するデータ次元数で)得られる散乱パターンをシミュレーションしてもよい。
【0080】
ステップS11は、プロセッサを使用して次元削減を実行して基準の散乱パターンの表現を取得することを含み、この表現は基準の散乱パターンよりも少ないデータ次元数を有する。
【0081】
ステップS12は、サンプル内の1つ以上の粒子のサイズ及び屈折率を決定するときに、ユーザがアクセスできるコンピュータ可読記憶媒体に表現を保存することを含む。
【0082】
ISO13320は、レーザ回折粒子サイズ分析の国際標準を規定している。当該文献の付録Fでは屈折率について説明しており、これがレーザ回折による粒子サイズ分析における重要な問題であると指摘している。
【0083】
光散乱分析によって決定される粒子サイズ及び粒子サイズ分布は、これらに限定されないが、自動車製造、食品、医薬品、航空、塗料、その他あらゆる製造業を含む業界に幅広く応用される。応用例としては、品質管理プロセスにおける不合格基準としてのパラメータの使用、測定された粒子特性がプロセスの実行状況の評価として使用される継続監視プロセス、又は、システムを最適化するために入力が変化するにつれて反復されるプロセスの出力としての使用等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0084】
添付の特許請求の範囲は、特徴の所定の組み合わせを対象としているが、本発明の開示の範囲には、本明細書に明示的又は黙示的に開示される新規な特徴又は特徴の新規な組み合わせ、又はその一般化も含まれることを理解されたい。これは、いずれかの請求項において現在請求されているものと同じ発明に関するものであるか否かには関係なく、そして、それが本発明の対処する技術的課題の一部又は全てと同様な課題を軽減するか否かにも関係しない。
【0085】
別個の実施形態の文脈で説明される特徴は、1つの実施形態で組み合わせて提供されてもよい。逆に、簡潔にするために1つの実施形態に関連して説明される様々な特徴は、別個に、又は任意の適切なサブコンビネーションで提供されてもよい。出願人は、本出願又は本出願から派生する更なる出願の審査中に、これら特徴及び/又はこれら特徴の組み合わせについて新しい請求項を構成する場合があることを理解されたい。
【0086】
完全性を期すために、「含む」という用語は他の要素又はステップを排除するものではなく、用語「a」又は「an」は複数を排除するものではなく、特許請求の範囲の参照符号は、特許請求の範囲を限定するものとして解釈されないことも理解されるべきである。
【国際調査報告】